しかしながら、特許文献1のショットキー接合を用いて電流狭窄を行う半導体レーザ素子では、一般的なリッジ埋め込み構造の半導体レーザ素子で実現されているような低閾値電流(例えば30mA以下)、高出力(例えば150mWを超える出力)動作を行うことができなかった。また、さまざまな用途に合わせて要求される光学特性仕様に合わせた素子設計をすることが困難であった。さらに、ショットキー接合部の信頼性に乏しく、長期信頼性を実現できていなかった。
低閾値電流、高出力動作を実現できていなかった原因としては、ショットキー接合部分の電流狭窄性が不十分であり、特に微細ストライプ構造としたときの漏れ電流を十分に低減できなかったことが挙げられる。
また、低素子抵抗と電流狭窄性を両立できる構成が開示されておらず、結果として素子抵抗が上昇し、このことも高出力動作を妨げる一因であった。
また、電流狭窄性を確保するためには、価電子帯のエネルギ不連続(障壁)ΔEVの大きい(GaAsに格子整合するような)InGaPや高混晶のAlGaAsに材料系をクラッド層に使用せざるを得ず、クラッド層の屈折率を変更する余地が小さかった。そのため光学特性を設計する際の自由度が制限されていた。さらに、ブレークダウンに強いショットキー接合の構成が開示されておらず、長期信頼性に欠けたものしかなかった。
その他にも、上述の特許文献1の半導体レーザ素子およびその製造方法では、途中までエッチングで除去したp-InGaPクラッド層の層厚が変動することにより、レーザ素子の光学特性に大きく影響を与え、水平方向のファーフィールド・パターン(FFP)がばらついたり、横モードの安定性が悪くなったりするという問題があった。さらに、InGaP層厚が変動することにより、その上に作成したショットキー接合特性も変動し、電流狭窄が十分に行えない場合がある。また、格子整合条件のInGaP層の屈折率は一意に決定されるので、光学設計の際、InGaP膜厚を変更することでしか調整ができず、その自由度が小さい。さらに、InGaPをpクラッド側に用いることによりΔEvが大きくなり、活性層へのホールの注入効率が制限される等の問題がある。
そこで、本発明の課題は、低閾値電流・高出力動作が可能な上、長期の信頼性を有しており、さらに光学特性設計の自由度に富み、かつ安定した光学特性と製造工程の簡略化によるコスト低減とを両立した半導体レーザ素子を提供することにある。
さらに、本発明は、上記半導体レーザ素子を用いた光ディスク装置および光伝送システムを提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の半導体レーザ素子は、
第1導電型の半導体基板上に順に積層された第1導電型の下クラッド層、活性層、第2導電型の第一上クラッド層、および第2導電型の第二上クラッド層を備えるとともに、上記第二上クラッド層上に形成されたストライプ状のリッジ構造をなす第2導電型の第三上クラッド層と、上記リッジ構造の頂部に形成された第2導電型のコンタクト層とを備え、
上記第二上クラッド層の第2導電型のドーピング濃度が、上記第一上クラッド層および第三上クラッド層の第2導電型のドーピング濃度よりも低く、1×1017cm-3以下であり、
上記第一上クラッド層と第二上クラッド層の層厚の総和が0.3μm以上1.5μm以下であり、
上記コンタクト層との間でオーミック接合をなす一方、上記第二上クラッド層との間でショットキー接合をなす電極層を備えたことを特徴とする。
ここで、「第1導電型」とはn型とp型のうち一方の導電型を指し、「第2導電型」とはn型とp型のうち他方の導電型を指す。
本発明の半導体レーザ素子は、特許文献1の半導体レーザ素子と同様に、製造段階で結晶成長工程を1度で済ませることができる。したがって、一般的なリッジ埋め込み構造の半導体レーザ素子に比して、大幅に製造工程が削減され、低コストで作製される。
本発明の半導体レーザ素子の電極層と基板との間に電流を流すと、上記リッジ構造の側方のショットキー接合では電流が遮断され、上記リッジ構造の頂部のオーミック接合を通してのみ電流が流れる。これにより、電流狭窄が行われる。
ここで、本発明の半導体レーザ素子では、上記第二上クラッド層の第2導電型のドーピング濃度が、上記第一上クラッド層および第三上クラッド層の第2導電型のドーピング濃度よりも低く、1×1017cm-3以下であり、かつ、上記第一上クラッド層と第二上クラッド層の層厚の総和が0.3μm以上1.5μm以下になっている。これにより、電流狭窄性と信頼性に優れ、低消費電力(低閾値電流)で高出力動作が可能になる(後にデータを示して詳述する。)。また、リッジ形状に加工しない第一および第二上クラッド層部分をドーピング濃度が異なる2層構造としているので、光学特性の設計自由度が大きくなる。
なお、上記半導体基板の、上記各層が積層された面とは反対側の面に、この面とオーミック接合をなす別の電極層が設けられるのが望ましい。これにより、上記二つの電極層間で上記活性層を通して容易に通電が行われ、レーザ発振が実現される。
一実施形態の半導体レーザ素子は、
上記第二上クラッド層と電極層との間に、上記第三上クラッド層およびコンタクト層に対して選択的にエッチング可能な材料からなる第2導電型の半導体層を備え、
上記第2導電型の半導体層は、上記第一上クラッド層および第三上クラッド層よりも第2導電型のドーピング濃度が低く、上記第二上クラッド層に代わって上記電極層との間でショットキー接合をなしていることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、製造段階における上記第三上クラッド層およびコンタクト層をリッジ形状に加工する工程で、上記第2導電型の半導体層がエッチングストップ層として働く。これにより、製造工程の制御性が良くなる。例えば、上記第一上クラッド層と第二上クラッド層の層厚の総和が精度良く設定される。この結果、半導体レーザ素子の特性が安定し製造歩留りが向上する効果がある。しかも、上記第2導電型の半導体層は、上記第一上クラッド層および第三上クラッド層よりも第2導電型のドーピング濃度が低く、上記第二上クラッド層に代わって上記電極層との間でショットキー接合をなしているので、上述の電流狭窄性が損なわれることがない。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記リッジ構造は順メサ形状の断面を有し、上記電極層は、上記リッジ構造の頂部および側面並びに上記第二上クラッド層の上面を連なって被覆していることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記電極層は、上記リッジ構造の頂部および側面並びに上記第二上クラッド層の上面を連なって被覆しているので、上記リッジ構造の頂部に形成されたコンタクト層からの電極引き出しが容易になる。これにより、製造工程を簡略化できるため、プロセスコストを低減し、製造歩留りを向上させることができる。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記電極層のうち、上記第二上クラッド層との間でショットキー接合をなす部分のみに、外部回路との電気的接続を得るための金属ワイヤがボンディングされていることを特徴とする。
ここで「外部回路」とは、この半導体レーザ素子の外部に存する回路、例えばこの半導体レーザ素子に電流を供給するための電源回路を指す。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、金属ワイヤがボンディングされているのは、上記電極層のうち、上記第二上クラッド層との間でショットキー接合をなす部分のみであるから、金属ワイヤのボンディング工程で上記リッジ構造およびその積層構造がボンディングによって損傷を受けることがない。したがって、素子の製造歩留りが向上する効果がある。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記第1導電型の半導体基板はn型にドーピングされたGaAsであり、上記第一上クラッド層、第二上クラッド層、第三上クラッド層、コンタクト層および半導体層の第2導電型のドーパントがそれぞれ炭素またはマグネシウムであることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、第2導電型のドーパントとしてC(炭素)またはMg(マグネシウム)を用いることで、そのドーピングプロファイルの制御性と安定性が良くなる。したがって、製造歩留りと素子信頼性を両立した半導体レーザ素子を提供することができる。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記基板をなす結晶材料がGaAsであり、上記第一上クラッド層、第二上クラッド層および第三上クラッド層をなす結晶材料がAlGaAsであることを特徴とする。
ここで「結晶材料」とは、ドーパントを除いた本来の結晶をなす材料を意味する。
この一実施形態の半導体レーザ素子は、基板をなす結晶材料としてGaAsを用い、さらに上記第一上クラッド層、第二上クラッド層および第三上クラッド層をなす結晶材料としてAlGaAsを用いることで、光学特性の設計自由度が大きく、かつ電流狭窄性に優れたものとなる。
一実施形態の半導体レーザ素子は、上記第一上クラッド層および第二上クラッド層をなす結晶材料がAlxGa1-xAsであり、そのAlの混晶比xは0.4≦x≦0.55であることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子は、上記第一上クラッド層および第二上クラッド層をなすAlxGa1-xAsのAl混晶比xが0.4以上0.55以下であるから、光学特性と電流狭窄性を両立した良好なものとなる。
一実施形態の半導体レーザ素子は、上記第二上クラッド層の厚みが0.1μm以上0.4μm以下であることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記第二上クラッド層の厚みが0.1μm以上0.4μm以下であるから、電流狭窄性を最大にできる。
一実施形態の半導体レーザ素子は、上記第二上クラッド層の第2導電型のドーピング濃度が1×1016cm-3以上1×1017cm-3以下であることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記第二上クラッド層の第2導電型のドーピング濃度が1×1016cm-3以上1×1017cm-3以下であるから、素子抵抗と電流狭窄性とを適切にバランスさせることができる。
一実施形態の半導体レーザ素子は、上記第一上クラッド層の厚みが0.2μm以上1.1μm以下であることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記第一上クラッド層の厚みが0.2μm以上1.1μm以下であるから、上記電極層への光漏れを抑制でき、かつ半導体レーザ素子に要求される光学特性に合わせた素子の構造設計が可能となる。
一実施形態の半導体レーザ素子は、上記第一上クラッド層の第2導電型のドーピング濃度が1×1017cm-3以上であることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記第一上クラッド層の第2導電型のドーピング濃度が1×1017cm-3以上であるから、素子抵抗の上昇を抑え、低消費電力化が可能になる。
一実施形態の半導体レーザ素子は、上記第2導電型の半導体層をなす結晶材料がPを含むことを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記第2導電型の半導体層をなす結晶材料がPを含むので、上記第2導電型の半導体層と上記第二上クラッド層や第三上クラッド層との間に良好なエッチング選択性を持たせることができる。これにより、製造工程上の制御性を改善し、歩留りを向上させることができる。
一実施形態の半導体レーザ素子は、上記第2導電型の半導体層をなす結晶材料がIn1-xGaxAs1-yPyであり、そのP組成比yは0.4≦y≦0.7であることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記第2導電型の半導体層をなす結晶材料がIn1-xGaxAs1-yPyであり、そのP組成比yは0.4≦y≦0.7であるから、正孔注入に対する注入効率を向上させ、閾値電流を下げることができる。これと共に、上記半導体層を良好なエッチング選択性を有するエッチングストップ層として使用することができる。さらに、このようなInGaAsP半導体層を低ドーピングの第二上クラッド層上に設けることにより、Alの酸化に起因するような準位の発生を抑制し、長期の信頼性を向上させることができる。
一実施形態の半導体レーザ素子は、上記第2導電型の半導体層をなす結晶材料がInGaAsPであり、その厚みが50Å以上であり、その第2導電型のドーピング濃度が1×1016cm-3以上1×1017cm-3以下であることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、InGaAsPを結晶材料とする上記第2導電型の半導体層の厚みが50Å以上であるから、表面保護層として十分な効果を有し、GaAs、AlGaAsに対してのエッチング選択性も十分である。また、その第2導電型のドーピング濃度が1×1016cm-3以上1×1017cm-3以下であるから、その電流狭窄性を最大にすることができる。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記電極層はPt層を最下層として有し、上記Pt層の厚みが30Å以上400Å以下であることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記電極層はPt層を最下層として有し、上記Pt層の厚みが30Å以上400Å以下であるから、この電極層が上記第二上クラッド層となすショットキー接合がより安定になり、かつこの電極層が上記コンタクト層となすオーミック接合の抵抗が低減される効果がある。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記リッジ構造の両側に沿って、上記リッジ構造の側面と上記第二上クラッド層の上面と上記電極層とで囲まれた位置に、ストライプ状に絶縁体が設けられていることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記リッジ構造の両側に沿って、上記リッジ構造の側面と上記第二上クラッド層の上面と上記電極層とで囲まれた位置に、ストライプ状に絶縁体が設けられているので、上記リッジ構造の近傍で上クラッド層からの光漏れが光学設計上避けられない場合であっても、上記電極層での光吸収による損失を防止でき、低消費電力動作が可能となる。
また、上記第二上クラッド層と電極層との間に、上記第三上クラッド層およびコンタクト層に対して選択的にエッチング可能な材料からなる上記第2導電型の半導体層を備える場合は、上記リッジ構造の両側に沿って、上記リッジ構造の側面と上記第2導電型の半導体層の上面と上記電極層とで囲まれた位置に、ストライプ状に絶縁体が設けられるのが望ましい。この場合も同様に、上記リッジ構造の近傍で上クラッド層(および上記第2導電型の半導体層)からの光漏れが光学設計上避けられない場合であっても、上記電極層での光吸収による損失を防止でき、低消費電力動作が可能となる。
なお、上記絶縁体の材料としては、酸化シリコン膜や窒化シリコン膜、あるいはポリイミドなどが挙げられる。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記リッジ構造の両脇に、上記リッジ構造の最上部よりも最上部が高いストライプ状構造体を有することを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記リッジ構造の最上部よりも最上部が高いストライプ状構造体がリッジ構造の両脇に形成され、そのストライプ状構造体がリッジ構造に対する保護構造体として作用するため、リッジ構造の破損を防止し、歩留りを向上させることができる。特に、半導体レーザ素子製造の後半工程において、チップ状態の半導体レーザ素子をハンドリングしたり、リッジ構造側に設けられた電極をステムや放熱体にダイボンドするいわゆるジャンクションダウン型の実装を行う際にも、リッジ構造が破損したりすることを防止する効果がある。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記ストライプ状構造体の最上部側が実装面であることを特徴とする。
ここで、実装面とは、半導体レーザ素子を実装するステムや放熱体に対して、半導体レーザチップが接触する面のことを指す。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記ストライプ状構造体の少なくとも表面が導電体であって、その最上部側が実装面となっているために、上記半導体レーザ素子を上記ジャンクションダウン型実装する際にも上記ストライプ状構造体が上記リッジ構造を保護し、リッジ構造の破損を防止することができる。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記ストライプ状構造体は、上記第二上クラッド層上に順に積層された第三上クラッド層とコンタクト層および第2導電型のドーピング濃度が1×1017cm-3以下の電流遮断層を有し、上記電極層が上記ストライプ状構造体を被覆しており、上記電極層は、上記ストライプ状構造体の電流遮断層との間にショットキー接合をなすことを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記ストライプ状構造体の頂部であって上記電極層と接する半導体層のドーピング濃度を1×1017cm-3以下とすることによって、別途絶縁体等を設けることなく、一貫した結晶成長工程によって、上記電極層と上記ストライプ状構造体との界面で電流を遮断できる構造を作成可能となる。したがって、半導体レーザ素子のリッジ構造に対して良好なオーミック接合を実現する一方、ショットキー接合による電流狭窄が可能で、かつジャンクションダウン型実装時のリッジ構造の破損防止に効果のあるストライプ状構造体が低コストで形成可能となる。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記ストライプ状構造体は、上記電極層上に形成された導電体であることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記ストライプ状構造体は、上記電極層上に形成され、かつ導電体であることにより、ステムや放熱体と電極層との導通をとりつつ、リッジ構造の破損を防止する構成とすることができる。このとき、活性層で発生した熱をより効率的に外部に放出できる効果もある。さらに、電流遮断を行うための絶縁体膜やドーピング濃度が1×1017cm-3以下の半導体層を形成する必要がないため、製造工程がより簡略化でき、歩留りがよく製造コストの安い半導体レーザ装置を提供することが可能となる。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記導電体が金または金を含む合金であることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記導電体が金または金を含む合金であることにより、低い電極抵抗と良好な放熱特性を両立し、かつ上述したジャンクションダウン型実装が容易なストライプ状構造体の構成を提供することが可能となる。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記ストライプ状構造体は、リッジ構造と同一の半導体層群の表面に絶縁体膜が形成され、さらにその上に、上記リッジ構造の頂部とオーミック接合をなす一方、上記第二上クラッド層とショットキー接合をなす電極層が形成されていることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記ストライプ状構造体と上記電極層との界面に絶縁体膜が挿入されているために、上記ストライプ状構造体を介して上記電極層から下地半導体層へ電流が流れることがない。したがって、余分なリーク電流を生じさせることがなく、低い閾値電流値を有する半導体レーザ素子を提供することができる。
一実施形態の半導体レーザ素子では、上記絶縁体膜が、酸化シリコン膜または窒化シリコン膜であることを特徴とする。
この一実施形態の半導体レーザ素子では、上記絶縁体膜として酸化シリコン(SiO2)膜または窒化シリコン(SiNx)膜を使用することにより、絶縁体膜が成膜しやすく、加工が容易であり、さらに十分な電流狭窄性を有する絶縁体膜を形成することが可能となる。よって、余分なリーク電流を生じさせることがなく、低い閾値電流値を有する半導体レーザ素子をより安価に歩留りよく提供することができるようになる。
本発明の光ディスク装置は、本発明の半導体レーザ素子を備えたことを特徴とする。
既述のように、本発明の半導体レーザ素子は低閾値電流・高出力動作が可能であるから、本発明の光ディスク装置によれば、従来の光ディスク装置に比べて、低消費電力で高速なデータ書き込みが可能になる。また、本発明の光ディスク装置は、より安価に構成される。
本発明の光伝送システムは、本発明の半導体レーザ素子を備えたことを特徴とする。
既述のように、本発明の半導体レーザ素子は低閾値電流・高出力動作が可能であるから、本発明の光伝送システムによれば、従来の光伝送システムに比べて、低消費電力で高速なデータ伝送が可能となる。また、本発明の光伝送システムは、より安価に構成される。
本発明の半導体レーザ素子は、低閾値電流・高出力動作が可能な上、長期の信頼性を有しており、さらに光学特性設計の自由度に富み、かつ安定した光学特性と製造工程の簡略化によるコスト低減とを両立できる。
また、本発明の光ディスク装置は、従来の光ディスク装置に比べて、低消費電力で高速なデータ書き込みができる上、より安価に構成される。
また、本発明の光伝送システムは、従来の光伝送システムに比べて、低消費電力で高速なデータ伝送ができる上、より安価に構成される。
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
なお、以下の説明では、「n-」は第1導電型としてのn型を表し、「p-」は第2導電型としてのp型を表す。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態の、光ディスク用(発振波長780nm)の半導体レーザ素子の構造を示したものである。
この半導体レーザ素子は、n-GaAs基板101上に、n-GaAsバッファ層102、n-Al0.453Ga0.547As第一下クラッド層103、n-Al0.5Ga0.5As第二下クラッド層104、Al0.4278Ga0.5722As下ガイド層105、多重歪量子井戸活性層106、Al0.4278Ga0.5722As上ガイド層107、p-Al0.4885Ga0.5115As第一上クラッド層108、およびp-Al0.4885Ga0.5115As第二上クラッド層109が順次積層されている。この第二上クラッド層109上に、順メサストライプ形状のリッジ構造130をなすように、p-GaAsエッチングストップ層110、p-Al0.4885Ga0.5115As第三上クラッド層111、p-GaAsコンタクト層112およびp+-GaAsコンタクト層113が設けられている。さらに、リッジ構造130の頂部と側面部および第二上クラッド層109の上面を連なって被覆する態様で、電極層としてPt/Ti/Pt/Auの順に積層して形成された多層金属薄膜からなるp側電極114が設けられている。なお、114a,114b,114cがそれぞれ、上記リッジ構造130の頂部、側面部、第二上クラッド層109の上面を被覆する部分(これを適宜「電極部分」と呼ぶ。)を表している。電極部分114aとリッジ構造130の頂部(コンタクト層113)とはオーミック接合をなす一方、電極部分114cと第二上クラッド層109の上面とはショットキー接合をなしている。また、基板101の裏面には、別の電極層として、AuGe/Ni/Auの多層金属薄膜からなるn側電極115が形成されている。さらに、p側電極114のうちの第二上クラッド109上に形成された部分114cに対して、外部回路との電気的接続を行うためのAuワイヤ116がボンディングされている。
この半導体レーザ素子は、次のようにして作製される。
まず図2に示すように、n-GaAs基板101の(100)面上にn-GaAsバッファ層102(層厚:0.5μm、Siドーピング濃度:8×1017cm-3)、n-Al0.453Ga0.547As第一下クラッド層103(層厚:3.0μm、Siドーピング濃度:5×1017cm-3)、n-Al0.5Ga0.5As第二下クラッド層104(層厚:0.24μm、Siドーピング濃度:5×1017cm-3)、Al0.4278Ga0.5722As下ガイド層105(層厚0.1μm)、多重歪量子井戸活性層106、Al0.4278Ga0.5722As上ガイド層107(層厚:0.1μm)、p-Al0.4885Ga0.5115As第一上クラッド層108(層厚:0.2μm、Znドーピング濃度:1×1018cm-3)、p-Al0.4885Ga0.5115As第二上クラッド層109(層厚:0.1μm、Znドーピング濃度:1×1017cm-3)、p-GaAsエッチングストップ層110(層厚30Å、Znドーピング濃度:2×1018cm-3)、p-Al0.4885Ga0.5115As第三上クラッド層111(層厚1.28μm、Znドーピング濃度:2.7×1018cm-3)、p-GaAsコンタクト層112(層厚:0.2μm、Znドーピング濃度:3.3×1018cm-3)、p+-GaAsコンタクト層113(層厚:0.3μm、Znドーピング濃度:1×1021cm-3)を順次、MOCVD法(有機金属化学気相成長法)にて結晶成長させる。上記多重歪量子井戸活性層106は、In0.2655Ga0.7345As0.5914P0.4086圧縮歪量子井戸層(歪0.47%、層厚50Å、2層)とIn0.126Ga0.874As0.4071P0.5929障壁層(歪−1.2%、基板側から層厚90Å・50Å・90Åの3層であり、基板に最も近いものがn側障壁層、最も遠いものがp側障壁層となる)を交互に配置して形成されている。
次に、リッジ構造130を形成すべき領域118a(図1参照)上に、図2中に示すようにレジストマスク117(マスク幅3.5μm)をフォトリソグラフィ工程により作製する。このレジストマスク117は、形成すべきリッジ構造130が延びる方向に対応して、<0−11>方向にストライプ状に延びるように形成される。
次に、図3に示すように、半導体層113,112,111,110のうちの上記レジストマスク117の両側に相当する部分をエッチングにより除去して、レジストマスク117の直下に、順メサストライプ状のリッジ構造130を形成する。このエッチングは、硫酸と過酸化水素水の混合水溶液およびフッ酸を用い二段階で行い、エッチングストップ層110直上まで行う。GaAsはフッ酸によるエッチングレートが非常に遅いということを利用し、エッチング面の平坦化およびメサストライプの幅制御を可能にしている。最後に、アンモニアと過酸化水素水の混合水溶液でp-GaAsエッチングストップ層110を除去しつつ、GaAsコンタクト層112および113のオーバーハング部分をとる。エッチングの深さは1.78μm、リッジ構造130の最下部の幅は約3.2μmである。エッチング終了後、上記レジストマスク117を除去する。
続いて、図4に示すように、電子ビーム蒸着法を用いて、p側電極114としてPt(層厚:200Å)/Ti(層厚:500Å)/Pt(層厚:500Å)/Au(層厚:4000Å)の順に金属薄膜を積層形成する。
その後、図1に示したように、基板101を裏面側から所望の厚み(ここでは、約100μm)にまで、ラッピング法により研削する。そして、裏面側から抵抗加熱蒸着法を用いて、n側電極115としてAuGe合金(Au88%とGe12%との合金、層厚:1000Å)、Ni(層厚:150Å)、Au(層厚:3000Å)を積層形成する。その後、N2雰囲気中で、390℃1分間加熱して、p側電極114とn側電極115との両方の材料のためのアロイ処理を行う。この基板101を、所望の共振器長(ここでは、800μm)を有する複数のバーに分割した後、上記バーに端面コーティングを行い、さらに上記バーをチップ(800μm×250μm)に分割する。分割後のチップを、In糊剤を用いてステム(図示せず)上に固着する。そして、p側電極114のうちの第二上クラッド層109に接する部分(リッジ構造130の側方に相当する領域118b)上に、外部回路との電気的接続を行うためのAuワイヤ116をボンディングする。これで、半導体レーザ素子が完成する。
このようにして作製された半導体レーザ素子のp側電極114とn側電極115との間に電流を流すと、リッジ構造130の側方のショットキー接合では電流が遮断され、リッジ構造130の頂部のオーミック接合を通してのみ電流が流れる。これにより、電流狭窄が行われる。
図5は、このようにして作製された光ディスク用途の半導体レーザ素子(発振波長780nm)の電流−光出力特性を示している。本素子の場合、レーザ発振閾値電流Ith=27.3mA、スロープ効率SE=0.93W/A、光出力80mW時の動作電流は112mAであった(周囲温度25℃のとき)。この値は、従来のショットキー接合を使用した電流狭窄による半導体レーザでは成し得なかったものであり、合計3回の結晶成長を必要とするリッジ埋め込み構造を有する半導体レーザ素子と遜色の無いものである。また、光学特性としては、縦方向放射角17.5度、横方向放射角9度でキンクフリーを実現した。さらに、70℃、260mWパルスの信頼性試験において3000時間以上の安定動作を確認できた。
従来例では、ショットキー接合直下の上クラッド層が均一なドーピング濃度を持つ1層であったが、この第1実施形態の半導体レーザ素子においては、上クラッド層内のドーピング濃度に高低をつけ、リッジ構造130の側方に相当する領域では、ショットキー接合をなすドーピング濃度が低い第二上クラッド層109と、その直下で活性層106側に配されたドーピング濃度の高い第一上クラッド層108との2層構成とした。このことにより、ショットキー接合部の電流狭窄性が大幅に向上し、かつ必要以上の素子抵抗の上昇を抑えることができた。
このような構成は、発明者による次のような検討によって導かれた。すなわち、発明者の検討によると、ショットキー接合を形成するための上クラッド層は、光学特性の設計上(屈折率)の都合と、電流狭窄性の兼ね合いから、そのAl混晶比は、0.4以上0.55以下が好ましいことが分かった。また、そのドーピング濃度は、1×1017cm-3程度より小さくなると、急激に電流狭窄性が向上し、また通電時の安定性も良くなることも判明した。図6に、ショットキー接合直下の上クラッド層のドーピング濃度を1×1017cm-3と1×1018cm-3で作り比べた時の、電流狭窄性および通電安定性の比較グラフを示す。この第1実施形態の半導体レーザ素子において、発振動作時の電圧は+2V前後(この例では2.17V)であったが、その時のリーク電流は、図6から分かるように、1×1017cm-3ドーピングの上クラッド層の場合、2×10-4A程度であり、複数回(この例では5回)通電しても、リーク電流値に変化はなかった。一方、1×1018cm-3ドーピングの上クラッド層では、+2Vにおける初期(通電1回目)のリーク電流値は17乗ドーピング時の約100倍であり、通電を重ねると(通電2回目)、さらに10倍以上増大してしまった。以上のように、上クラッド層のドーピング濃度は、1×1017cm-3以下が望ましい。しかしながら、上クラッド層の混晶比が0.4〜0.55程度の時に、その層全部を1×1017cm-3以下の低ドーピング状態とすると、上クラッド層の抵抗が増し素子特性が悪化してしまう。さらに検討を続けた結果、上クラッド層のショットキー接合を形成する側(第二上クラッド層109)のドーピング濃度を1×1017cm-3以下とし、かつそのドーピングが成された領域の膜厚を0.1μm以上0.4μm以下とすれば、上クラッド層の残りの活性層106側の領域(第一上クラッド層108)のドーピング濃度を1×1018cm-3程度に高めてもその電流狭窄性が保たれることを見出した。逆に、1×1017cm-3以下のドーピング濃度である第二上クラッド層の層厚は、最大でも0.4μmあれば十分であり、これ以上厚くすると素子抵抗の上昇が無視できなくなる。このように上クラッド層のショットキー接合形成側(第二上クラッド層109)をドーピング濃度が1×1017cm-3以下、かつ、その膜厚が0.1μm以上0.4μm以下である構成とすることで、その層(第二上クラッド層109)よりも活性層106側(第一上クラッド層108)、およびその層(第二上クラッド層109)よりもコンタクト層側(エッチングストップ層110および第三上クラッド層111)の材料選択上の制限が無くなり、光学設計の自由度が大幅に増した。さらに、必要以上の素子抵抗の上昇を抑制し、素子特性の悪化を防ぐことができた。なお、p側電極側への光漏れ防止を含めた光学設計の制約から、第一上クラッド層108と第二上クラッド層109の層厚の総和は、0.3μm以上必要である。これ以下の層厚しかない場合、光を十分に活性層内に閉じ込めることができない。また、第一上クラッド層108と第二上クラッド層109の層厚の総和の最大は、1.5μmあれば十分であり、より好ましくは1.0μm以下であればよい。これ以上厚くなると、第一上クラッド層108のドーピング濃度を高めたことによる素子抵抗低減の効果が小さくなり、素子特性の低下を招く。
高出力特性が要求される光ディスク用途では、動作時の電流・電圧が大きくなる傾向にあり信頼性的により厳しい状態となる。そこで、動作時の電流・電圧を低減すべく、電流狭窄性をより高めるために第二上クラッド層109のAl混晶比を0.45以上にすることが好ましい。これは、混晶比を高めることで価電子帯のエネルギ不連続ΔEvを大きくして電流狭窄性を向上させることに対応する。しかしながら、Al混晶比が大きすぎると、Alの酸化に起因する劣化が発生しやすくなるため、その混晶比は0.5を上限とした方がよい。また、同じく電流狭窄性を高めるため、第二上クラッド層109のドーピング濃度は1×1016cm-3程度まで低めても良い。これ以上低くすると、低ドーピング濃度の領域の抵抗が非常に高くなって、それによる動作時の発熱が信頼性に悪い影響を与える。また、上述したように第二上クラッド層109の厚みは最大でも0.4μm程度あれば十分で、それ以上は電流狭窄性向上に対して効果が無いことも分かった。
さらに、この第1実施形態では、p側電極114の最下層としてPt層を用いたことにより、安定したショットキー接合の実現を果すことに成功した。Pt層を用いることで、活性なAlGaAs表面に対するショットキー接合が安定になり、動作中の突発的なブレークダウン(ショットキーバリアの破壊)が抑制された。半導体上に形成されたPt材料は400℃前後の熱処理によってその膜厚の2倍程度の深さまで熱拡散することが知られている。この第1実施形態においては、その程度の熱処理を受けても第二上クラッド層109を突き抜けないような厚みにPtを蒸着した後、裏面側のAuGe/Ni電極と同時にアロイ処理(熱処理)を行った。このPt最下層の厚みは、ショットキー接合を安定に形成する観点、および後述するエッチングストップ層110を除去しない場合において、エッチングストップ層110を突き抜けて第二上クラッド層109にまで確実に拡散させるという観点から30Å以上であるのが望ましく、また、上述の熱処理を受けても第二上クラッド層109を突き抜けないという観点から400Å以下であるのが望ましい。
最下層としてPt層を用いた効果は、高出力動作時の信頼性向上に特に顕著である。このPt最下層の上には、よく知られているTi/Pt/Auの組合せを積層してp側電極114を構成した。アロイ後のp側電極114、n側電極115のコンタクト抵抗は、別途TLM法(Transmission Line Modeling;伝送線行列法)による評価で、それぞれ5×10-7Ωcm2、1×10-7Ωcm2と非常に良好であった。
また、この第1実施形態においては、第二上クラッド層109上のGaAsからなるエッチングストップ層110をp側電極114蒸着前にエッチングにより除去しているが、Ptの拡散を用いたショットキー接合を利用する場合、必ずしもエッチングストップ層110を除去する必要は無い。その場合、エッチングストップ層110の膜厚を勘案して、Pt蒸着時にPtの層厚を、Ptがエッチングストップ層110内を拡散して第二上クラッド層109まで到達するような値に設定する。すなわち、Ptの層厚をエッチングストップ層110の層厚の少なくとも半分以上の値に設定する。さらに、その際にはGaAsエッチングストップ層110のドーピング濃度は、1×1017cm-3程度以下にした方が良い。しかし、この第1実施形態では、GaAsエッチングストップ層110を除去する工程で、同時にGaAsからなるコンタクト層112および113のひさしを取り去り、オーバーハングの無い順メサストライプ構造のリッジ構造130を被覆するようにp側電極114を形成しているので、極めて厚膜の電極構造とせずとも、また、段差解消のための何らかの埋め込み処理工程を追加せずとも、p側電極114の各部分114a,114b,114cを連なった状態に形成できる。つまり、リッジ構造130の頂部とオーミック接合をなす電極部分114aと、第二上クラッド層109の上面とショットキー接合をなす電極部分114cとの間で、電極材料の段切れの発生を無くした。その結果、別途段切れ防止用の対策を行うことなくストライプ直上を避けて、ショットキー接合をなす電極部分114c上のみにワイヤボンディングすることを可能とした。この第1実施形態のような順メサストライプ構造を用いることで、厚い電極を形成せず、トータル0.5μm程度以下の膜厚の電極を形成しても段切れによる不良を起こさないので、蒸着時の金属材料の消費量を低減できるという効果がある。また、この第1実施形態の構成では、ストライプ構造のリッジ構造130から活性層106が近く、またストライプ幅が微小であるためオーミック接合をなす電極部分114a上にワイヤをボンディングすることが困難であるが、ショットキー接合をなす電極部分114c上にボンディングすることで外部回路との電気的接続を可能にした。しかも、この第1実施形態のような第二上クラッド層109の構成とすれば、ワイヤボンディング時の熱や超音波による衝撃に対しても電流狭窄性は保たれることが分かった。なお、電極部分114cの直下(半導体層との界面)に、SiN膜などからなる絶縁体膜を挿入すれば当然ながら十分な電流狭窄が得られるが、製造工程が増えてコストアップ要因となるし、絶縁体膜と電極材料との密着性が良くないためワイヤボンディング時に電極剥がれが生じる場合がある。この第1実施形態のような構成とすることで、絶縁体膜を形成せずとも十分に電流狭窄でき、かつ絶縁体膜に起因する電極剥がれの発生を抑制できるため、より低コスト、高歩留りで製造できる半導体レーザ素子を提供することができる。
この第1実施形態のように、第一上クラッド層108の厚みを0.2μm、第二上クラッド層109の厚みを0.1μm、第一上クラッド層108のドーピング濃度を1×1018cm-3、第二上クラッド層のドーピング濃度を1×1017cm-3とし、第三上クラッド層111の厚みを1.28μm、そのストライプ幅を3.2μmとすれば、p側電極114への光漏れ、換言するとp側電極114での光の吸収による損失(ロス)は、無視できるほど小さくなる。そのため、図5中に示したように、良好なスロープ効率SEを実現できている。第一上クラッド層108と第二上クラッド層109の層厚の総和(これを適宜「トータル層厚」と呼ぶ。)が厚いほどp側電極114への光漏れは抑えられるが、前述したように少なくとも0.3μm以上あれば、実用上問題ないレベルとなることが検討の結果分かった。第一上クラッド層108と第二上クラッド層109のトータル層厚を厚くしていくと、そのままでは注入される電流の広がりが無視できなくなる。この第1実施形態のように、第二上クラッド層109のドーピング濃度を低くすることで、第二上クラッド層109内での電流広がりが抑えられ、第一上クラッド層108のドーピング濃度を1×1017cm-3以上、より望ましくは5×1017cm-3以上とすることで、必要以上の素子抵抗の上昇を防ぐことができる。この結果として第一上クラッド層108と第二上クラッド層109のトータル層厚を従来例のものより厚くしても、発振閾値電流を低く保つことができた。
なお、一般的に言って、図25(b)に示すように、活性層803、上クラッド層804、リッジ構造808が設けられ、活性層803のうちのリッジ構造808直下に相当する部分803aがレーザ発振する場合、レーザ光の分布840がリッジ構造808の側面と上クラッド層804の上面とが作るコーナを越えて広がる場合がある(その部分を領域Aで示す。)。そして、要求される光学特性によっては、半導体積層構造(組成・層厚)の設計による調整だけでは、リッジ構造808の近傍で上クラッド層804から、それらの上に被覆されるp側電極への光漏れが無視できなくなる場合がある。その際には、リッジ構造808の両側に沿ってストライプ状に、図25(a)に示すようにSiO2、SiNxやポリイミド等の絶縁体809を形成することで、p側電極による吸収を抑制することができる。
〔第2実施形態〕
図7は、本発明の第2実施形態の半導体レーザ素子の構造を示したものであり、第1実施形態の半導体レーザ素子をp側電極による吸収を抑制するように改変された例を示す断面模式図である。図7に示す半導体レーザ素子では、順メサストライプ状のリッジ構造130の両側に沿ってストライプ状に、絶縁体としてのSiN膜(厚さ:1500Å)119,119が設けられている。SiN膜119は、第三上クラッド層111の側面、GaAsエッチストップ層110の側面、および第二上クラッド層109の上面の一部(リッジ構造脇3μm)を被覆するように形成され、その上を被覆するようにp側電極114が形成されている。つまり、SiN膜119は、リッジ構造130の側面と第二上クラッド層109の上面とp側電極114とで囲まれた位置に設けられている。
この半導体レーザ素子の製造工程では、図3で説明したリッジ構造130を形成し、レジストマスク117を除去した後、基板表面全面に対して、プラズマCVD(プラズマ化学気相堆積法)を用いて、Si3N4膜119を成膜する。続いて、レジストを用いたフォトリソグラフィ法にて不要なSiN膜をバッファードHF(ふっ酸)にてエッチング除去する。その後、p側電極114としてPt/Ti/Pt/Auを電子ビーム蒸着法により形成することで、図7に示す構成を得る。電極114への光漏れの程度により、SiN膜119の膜厚および第二上クラッド層109上の幅は変更されうるが、一般的な光学特性に対しては、SiN膜119の膜厚としては500Å〜5000Å程度、幅としては、1μm以上あれば十分である。この図7の例では、SiN膜のエッチングのしやすさと、サイドエッチングによる幅の細りを考慮して、厚みを1500Å、幅については余裕を見て10μmとした。また、外部回路との電気的接続のためのAuワイヤ116は、ショットキー接合をなす電極部分114c上のみで、SiN膜119が存在しない領域にボンディングされている。したがって、半導体・電極層界面にSiN膜のような絶縁体が挿入されることによる電極材料の密着性の低下に起因するワイヤボンディング時の電極剥がれの問題は生じない。
〔第3実施形態〕
図8は、本発明の第3実施形態の半導体レーザ素子の構造を示したものであり、第1実施形態の半導体レーザ素子の改変例を示す断面模式図である。この第3実施形態においては、リッジ構造130の両脇にストライプ状構造体131が形成されている点が第1実施形態とは異なっており、リッジ構造130側のp側電極のうちのストライプ状構造体131上の領域を実装面としてダイボンドするジャンクションダウン型の実装を行っているという特徴がある。
以下、特にこのリッジ構造の両脇に形成されたストライプ状構造体の構成および製造方法について説明し、第1実施形態と共通の構成要素については説明を省略する。
この第3実施形態の半導体レーザ素子は、第1実施形態と同じくn-GaAs基板101上に、n-GaAsバッファ層102、n-Al0.453Ga0.547As第一下クラッド層103、n-Al0.5Ga0.5As第二下クラッド層104、Al0.4278Ga0.5722As下ガイド層105、多重歪量子井戸活性層106、Al0.4278Ga0.5722As上ガイド層107、p-Al0.4885Ga0.5115As第一上クラッド層108、およびp-Al0.4885Ga0.5115As第二上クラッド層109が順次積層されている。この第二上クラッド層109のリッジ構造形成領域118a上に、順メサストライプ形状のリッジ構造130をなすように、p-GaAsエッチングストップ層110、p-Al0.4885Ga0.5115As第三上クラッド層111、p-GaAsコンタクト層112およびp+-GaAsコンタクト層113が設けられている。一方、上記リッジ構造130の両脇の第二上クラッド層109のストライプ状構造体形成領域118c上に、ストライプ状構造体131をなすように、p-GaAsエッチングストップ層110、p-Al0.4885Ga0.5115As第三上クラッド層111、p-GaAsコンタクト層112、p+-GaAsコンタクト層113に加えて、p-Al0.5Ga0.5As電流遮断層120が設けられている。さらに、リッジ構造130の頂部、側面部、第二上クラッド層109の上面(メサストライプ外領域118b)およびストライプ状構造体131の表面を連なって被覆する態様で、電極層の一例としてPt/Ti/Pt/Auの順に積層して形成された多層金属薄膜からなるp側電極114が設けられている。p側電極114とリッジ構造130の頂部(コンタクト層113)とはオーミック接合をなす一方、p側電極114と第二上クラッド層109の上面およびストライプ状構造体131の最上層である電流遮断層120とはショットキー接合をなしている。また、基板101の裏面には、別の電極層として、AuGe/Ni/Auの多層金属薄膜からなるn側電極115が形成されている。
この半導体レーザ素子は、次のようにして作製される。
まず、n-GaAs基板101の(100)面上に、n-GaAsバッファ層102、n-Al0.453Ga0.547As第一下クラッド層103、n-Al0.5Ga0.5As第二下クラッド層104、Al0.4278Ga0.5722As下ガイド層105、多重歪量子井戸活性層106、Al0.4278Ga0.5722As上ガイド層107、p-Al0.4885Ga0.5115As第一上クラッド層108、p-Al0.4885Ga0.5115As第二上クラッド層109、p-GaAsエッチングストップ層110、p-Al0.4885Ga0.5115As第三上クラッド層111、p-GaAsコンタクト層112、p+-GaAsコンタクト層113、p-Al0.5Ga0.5As電流遮断層120(層厚0.3μm、Znドーピング濃度:1×1017cm-3)を順次、MOCVD法にて結晶成長させる。
次に、ストライプ状構造体131を形成すべき領域上に、エッチング用のレジストマスクを作成し、HFを用いてそれ以外の領域のp-Al0.5Ga0.5As電流遮断層120をエッチングにより除去した後、レジストマスクを剥離する。
次に、リッジ構造130およびストライプ状構造体131を形成すべき領域上に、エッチングマスクとしてのレジストマスクをフォトリソグラフィ工程により作製する。このレジストマスクは、形成すべきリッジ構造130およびストライプ状構造体131が延びる方向に対応して、<0−11>方向にストライプ状に延びるように形成される。
次に、半導体層113,112,111および110のうちのレジストマスクの側方に相当する部分をエッチングして除去し、p-Al0.4885Ga0.5115As第二上クラッド層109を露出させる。
p側電極114の形成工程以降は、上述した第1実施形態の製造方法と同一である。
この第3実施形態の半導体レーザ素子は、p側電極114のうちのストライプ状構造体131の最上部側の領域の面をステムに対して実装するジャンクションダウン型の実装を行っている。
この半導体レーザ素子においては、上述のようにレーザ発振が起こる活性層106に近いリッジ構造130側のp側電極114をステムにダイボンドするジャンクションダウン型実装を行っているため、活性層106で発生した熱を放熱させやすく、以って素子信頼性を向上させることができる。この時、この第3実施形態においては、リッジ構造130よりも電流遮断層120の分だけその最上部が高いストライプ状構造体131をリッジ構造130の両脇に設けた構成としているために、ジャンクションダウン型実装を行った際にもリッジ構造130に余分な応力がかからず、リッジ構造130は破損することがない。リッジ構造130の最上部とストライプ状構造体131の最上部の高さの差は0.1μm以上あれば、十分なリッジ構造保護の効果があり、プロセスばらつきなどの変動要因を考えても0.25μm以上であれば十分である。
また、一連の結晶成長工程として、コンタクト層113に引き続いて電流遮断層120を形成する構成としたため、別途電流遮断用の絶縁体膜等を形成する工程を行う場合に比べて、製造工程を簡略化することができる。上記電流遮断層120としては、その不純物ドーピング濃度が1×1017cm-3以下となるように形成することによって、その上に直接p側電極114を設けても、界面に形成されるショットキーバリアのために十分な電流遮断を実現することができる。
電流遮断層として上記第3実施形態においてはAlGaAsを用いた例を示したが、その他にInGaPやInGaAsPを好適に使用することができる。これらを用いた場合もそのドーピング濃度は1×1017cm-3以下とすることによって、十分な電流遮断を実現することが可能となる。また、電流遮断層の膜厚としては、ショットキーバリアの観点からは少なくとも0.1μm以上必要である。また、リッジ構造に対する高さの差を出すためにも0.1μm以上あることが好ましい。ショットキーバリア性およびリッジ構造保護の面からは膜厚の上限はないが、結晶成長の時間や材料消費の面からは0.3μmから0.4μm程度を上限とした方が経済的である。
上記第3実施形態においては、リッジ構造130の最上部よりも最上部が高いストライプ状構造体131上にp側電極114が形成されているために、上述のジャンクションダウン型実装の際、ステムや放熱体の導電体に対して、上記ストライプ状構造体131上のp側電極114との間で電気的な導通を取る構成となり、レーザ発振に必要な電流注入を容易に行うことができる。
これらのことによって、放熱性が良く素子信頼性を向上させることのできるジャンクション型実装をリッジ構造を破損させることなく実現でき、かつ安価な製造コストで製造可能な半導体レーザ装置とその製造方法を提供することができるようになる。
上述した第1〜第3実施形態においては、レーザ発振の波長は780nmとしたが、これに限るものではないことは当然である。本発明は、例えば、DVD用に用いられる波長650nmのInGaAlP/GaAs系半導体レーザ素子(第4実施形態)や、405nm帯の材料であるInGaN/GaN系材料を用いた半導体レーザ素子にも適用しうる。また、材料系の異なる半導体層間の界面、すなわち上ガイド層−障壁層の間、下ガイド層−障壁層の間に、たとえばGaAsからなる界面保護層を設けてもよい。
〔第4実施形態〕
図9は、本発明の第4実施形態の半導体レーザ素子の構造を示したものである。
この半導体レーザ素子は、n-GaAs基板201上に、n-In0.5(Ga0.3Al0.7)0.5P下クラッド層202、In0.5(Ga0.5Al0.5)0.5P光ガイド層203、多重量子井戸活性層204、In0.5(Ga0.5Al0.5)0.5P光ガイド層205、p-In0.5(Ga0.3Al0.7)0.5P第一上クラッド層206、第一上クラッド層206に比べて第二導電型のドーピング濃度を低めたp-In0.5Ga0.3Al0.7P0.5第二上クラッド層207、第2導電型の半導体層としてのp-In0.5Ga0.5Pエッチングストップ層208が順次積層されている。このp-InGaPエッチングストップ層208のリッジ構造形成領域218a上に、順メサストライプ状のリッジ構造230をなすように、p-In0.5(Ga0.3Al0.7)0.5P第三上クラッド層209、p-In0.5Ga0.5P中間バンドギャップ層210およびp-GaAsコンタクト層211が設けられている。さらに、リッジ構造230の頂部、側面部およびp-In0.5Ga0.5Pエッチングストップ層208の上面(メサストライプ外領域218b)を連なって被覆する態様で、電極層としてTi/Pt/Auの順に積層して形成された多層金属薄膜からなるp側電極212が設けられている。なお、212a,212b,212cがそれぞれ、リッジ構造230の頂部、側面部、エッチングストップ層208の上面を被覆する部分(これを適宜「電極部分」と呼ぶ。)を表している。電極部分212aとリッジ構造230の頂部(コンタクト層211)とはオーミック接合をなす一方、電極部分212cとエッチングストップ層208とはショットキー接合をなしている。n-GaAs基板201の裏面側には、別の電極層として、AuGe/Ni/Auを順次積層してなるn側電極213が形成されている。さらに、p側電極212のうちのp-InGaPエッチングストップ層208上に形成された電極部分212cに対して、外部回路との電気的接続を行うためのAuワイヤ214がボンディングされている。
この半導体レーザ素子は、次のようにして作製される。
まず、図10Aに示すように、n-GaAs基板201上に、n-In0.5(Ga0.3Al0.7)0.5P下クラッド層202(層厚:1μm、Siドーピング濃度:5×1017cm-3)、In0.5(Ga0.5Al0.5)0.5P光ガイド層203(層厚:50nm)、多重量子井戸活性層204、In0.5(Ga0.5Al0.5)0.5P光ガイド層205(層厚:50nm)、p-In0.5Ga0.3Al0.7P0.5第一上クラッド層206(層厚:0.3μm、Beドーピング濃度:1×1018cm-3)、p-In0.5(Ga0.3Al0.7)0.5P第二上クラッド層207(層厚:0.1μm、Beドーピング濃度:1×1017cm-3)、p-In0.5Ga0.5Pエッチングストップ層208(層厚:50Å、Beドーピング濃度:1×1017cm-3)、p-In0.5(Ga0.3Al0.7)0.5P第三上クラッド層209(層厚:0.5μm、Beドーピング濃度:1.5×1018cm-3)、p-In0.5Ga0.5P中間バンドギャップ層210(層厚:50Å、Beドーピング濃度:2×1018cm-3)およびp-GaAsコンタクト層211(層厚:0.3μm、Beドーピング濃度:1×1019cm-3)をMBE法(分子線エピタキシ法)にて順次積層成長する。
なお、上記多重量子井戸活性層204は、厚さ30ÅのIn0.5Ga0.5P井戸層を3層、厚さ40ÅのIn0.5Ga0.5Al0.5P0.5障壁層を4層積層した多重量子井戸構造である。
次に、リッジ構造230(図9参照)を形成すべきリッジ構造形成領域218a上に、図10Bに示すように、ストライプ状のレジストマスク215を形成する。そして、半導体層211,210,209のうちの上記レジストマスク215の両側に相当する部分をエッチングにより除去して、レジストマスク215の直下に、順メサストライプ状のリッジ構造230を形成する。エッチング終了後、図10Cに示すように、レジストマスク215を除去する。
続いて、図10Dに示すように、電子ビーム蒸着法を用いて、p側電極212としてTi(層厚:500Å)/Pt(層厚:500Å)/Au(層厚:3000Å)の順に金属薄膜を積層形成する。
その後、図9に示したように、基板201を裏面側から約100μmの厚みにまでエッチングにより薄くする。そして、裏面側から抵抗加熱蒸着法を用いて、AuGe(層厚:1500Å)/Ni(層厚:150Å)/Au(層厚:3000Å)からなるn側電極213を積層形成した後、アロイ処理を行う。この後、第1実施形態におけるのと同様に、所望のチップサイズに分割後、分割後のチップをステムにマウントし、Auワイヤ214をボンディングする。これで、半導体レーザ素子が完成する。
この第4実施形態の半導体レーザ素子においても、第1実施形態の半導体レーザ素子と同様に、従来のリッジ埋め込み構造に匹敵する初期特性を示した。また、70℃、60mWの信頼性試験において1000時間以上の安定動作を確認できた。
この第4実施形態では、第1実施形態とは異なり、p-In0.5Ga0.5Pエッチングストップ層208のうちのリッジ構造230の両側に相当する部分を除去せず、その上にp側電極212を形成している。この第4実施形態における層構造では、In0.5Ga0.5Pエッチングストップ層208上よりもp-In0.5Ga0.3Al0.7P0.5第二上クラッド層207(層厚:0.1μm、Beドーピング濃度:1×1017cm-3)上に直接p側電極212を形成した方がより電流狭窄性は増す。しかし、In0.5Ga0.5Pエッチングストップ層208がなすショットキー接合による電流狭窄性で実用上十分であるから、この第4実施形態のように、エッチングストップ層208を部分的に除去する工程を省略することによって、さらにコスト低減が可能となる。
〔第5実施形態〕
図11は、本発明の第5実施形態の半導体レーザ素子の構造を示したものであり、上述したジャンクションダウン型実装として好適な第4実施形態の半導体レーザ素子の改変例を示す断面模式図である。
図11に示した半導体レーザ素子においては、上述した第4実施形態の半導体レーザ素子の構造に加えて、リッジ構造230の両脇に金メッキ法によって形成された導電体からなるストライプ状構造体232を備えていることを特徴とする。なお、図11において、218aはリッジ構造形成領域、218bはメサストライプ外領域、218cはストライプ状構造体形成領域である。
この第5実施形態の半導体レーザ素子の製造方法は、第4実施形態の半導体レーザ素子のp側電極212を形成工程までは同一である。その後、基板エッチング工程に先立ってストライプ状構造体232の形成領域以外をフォトレジストによりマスクし、上記p側電極212を給電メタルとして使用した金の電解メッキ法により、リッジ構造230の最上部よりも最上部が高いストライプ状構造体232を形成する。このとき、ストライプ状構造体232の高さを1.5μmとし、上記ストライプ状構造体232の最上部がリッジ構造230の最上部の高さ(0.805μm)よりも高くなるようにしている。メッキが終了した後、上記フォトレジストは除去する。
その後、基板エッチング、n側電極蒸着・アロイを行い、所望のチップサイズに分割する。
この第5実施形態の以下の製造工程は、上述の第4実施形態とは異なりチップ状態の半導体レーザ素子に対してワイヤボンディングは行わず、代わって上記ストライプ状構造体232の最上部側をステムに対する実装面としたジャンクションダウン型の実装を行った。
この半導体レーザ素子においても、上述のようにレーザ発振が起こる活性層204側に形成された導電体からなるストライプ状構造体232をステムにダイボンドするジャンクションダウン型実装を行っているため、活性層204で発生した熱を放熱させやすく、以って素子信頼性を向上させることができる。この時、上記ストライプ状構造体232は、リッジ構造230の最上部よりもその最上部が高くなるよう形成したために、ジャンクションダウン型実装を行った際にもリッジ構造230に余分な応力がかからず、リッジ構造230は破損することがない。
さらに、この第5実施形態の半導体レーザ素子においては、活性層204からステムあるいは放熱体の間の放熱経路に形成されるストライプ状構造体232が熱伝導に優れた導電体からなるため、特に放熱性がよく、信頼性を向上させる効果が大きい。
また、この第5実施形態の構成によれば、上述した第3実施形態における電流遮断層やあるいはそれに代わる絶縁体を形成する工程が不要となるという効果もある。
上記第5実施形態の半導体レーザ素子においては、ストライプ状構造体232を金メッキを用いて形成する構成としたが、もちろんそれに限られるものではない。ステムや放熱体への電気的導通および放熱の観点からは導電体であればよい。
しかし、酸化しにくく、他の金属との接触抵抗を低くできるという点から、金または金を含んだ合金であることが好ましい。金または金を含んだ合金をストライプ状構造体の材料として用いる場合、その柔らかいという材料特性から実装時、変形により高さが減じやすく、リッジ構造に対する高さの差は0.5μm程度以上とった方がよい。
また、この第5実施形態においてはリッジ構造230の両脇に導電体からなるストライプ状構造体232を形成することで、良好な歩留りと放熱性を有するジャンクションダウン型実装を実現したが、第3実施形態で用いた構成を代わりに使用することも可能であることは言うまでもない。
〔第6実施形態〕
図12は、本発明の第6実施形態の半導体レーザ素子の構造を示したものである。
この半導体レーザ素子は、n-GaAs基板301上に、n-GaAsバッファ層302、n-Al0.5Ga0.5As第一下クラッド層303、n-Al0.422Ga0.578As第二下クラッド層304、Al0.25Ga0.75As下ガイド層305、多重歪量子井戸活性層306、Al0.25Ga0.75As第一上ガイド層307、p-Al0.4Ga0.6As第二上ガイド層308、p-Al0.456Ga0.544As第一上クラッド層309、p-Al0.456Ga0.544As第二上クラッド層310、p-In0.1568Ga0.8432As0.4P0.6半導体層311が順次積層されている。この半導体層311上に、順メサストライプ形状のリッジ構造330をなすように、p-Al0.5Ga0.5As第三上クラッド層312、p-GaAsコンタクト層313およびp+-GaAsコンタクト層314が設けられている。さらに、リッジ構造330の頂部、側面部および半導体層311の上面を連なって被覆する態様で、電極層としてTi/Pt/Auの順に積層して形成された多層金属薄膜からなるp側電極315が設けられている。なお、315a,315b,315cがそれぞれ、リッジ構造330の頂部、側面部、半導体層311の上面を被覆する部分(これを適宜「電極部分」と呼ぶ。)を表している。電極部分315aとリッジ構造330の頂部(コンタクト層314)とはオーミック接合をなす一方、電極部分315cと半導体層311の上面とはショットキー接合をなしている。また、基板301の裏面には、別の電極層として、AuGe/Ni/Auの多層金属薄膜からなるn側電極316が形成されている。さらに、p側電極315のうちの半導体層311上に形成された部分315cに対して、外部回路との電気的接続を行うためのAuワイヤ317がボンディングされている。
この半導体レーザ素子は、次のようにして作製される。
まず図13に示すように、n-GaAs基板301の(100)面上に、n-GaAsバッファ層302(層厚:0.5μm、Siドーピング濃度:7.2×1017cm-3)、n-Al0.5Ga0.5As第一下クラッド層303(層厚:2μm、Siドーピング濃度:5.4×1017cm-3)、n-Al0.422Ga0.578As第二下クラッド層304(層厚:0.1μm、Siドーピング濃度:5.4×1017cm-3)、Al0.25Ga0.75As下ガイド層305(層厚:30Å)、多重歪量子井戸活性層306、Al0.25Ga0.75As第一上ガイド層307(層厚:30Å)、p-Al0.4Ga0.6As第二上ガイド層308(層厚:0.1μm、Cドーピング濃度:1.35×1018cm-3)、p-Al0.456Ga0.544As第一上クラッド層309(層厚:0.4μm、Cドーピング濃度:1.35×1018cm-3)、p-Al0.456Ga0.544As第二上クラッド層310(層厚:0.1μm、Cドーピング濃度:1×1017cm-3)、p-In0.1568Ga0.8432As0.4P0.6半導体層311(層厚:150Å、Cドーピング濃度:1×1017cm-3)、p-Al0.4885Ga0.5115As第三上クラッド層312(層厚1.28μm、Cドーピング濃度:2.4×1018cm-3)、p-GaAsコンタクト層313(層厚:0.2μm、Cドーピング濃度:3×1018cm-3)、p+-GaAsコンタクト層314(層厚:0.3μm、Cドーピング濃度:1×1020cm-3)を順次、MOCVD法にて結晶成長させる。上記多重歪量子井戸活性層306は、In0.1001Ga0.8999As圧縮歪量子井戸層(歪0.7%、層厚:46Å、2層)とIn0.238Ga0.762As0.5463P0.4537障壁層(歪0.1%、バンドギャップEg≒1.60eV、基板側から層厚:215Å、79Å、215Åの3層であり、基板301に最も近いものが、n側障壁層、最も遠いものがp側障壁層となる)を交互に配置して形成されている。
次に、リッジ構造330を形成すべきリッジ構造形成領域319a(図12参照)上に、図13中に示すようにレジストマスク318(マスク幅4.5μm)をフォトリソグラフィ工程により作製する。このレジストマスク318は、形成すべきリッジ構造330が延びる方向に対応して、<0−11>方向にストライプ状に延びるように形成される。
次に図14に示すように、半導体層314,313,312のうちの上記レジストマスク318の両側に相当する部分をエッチングにより除去して、レジストマスク318の直下に、順メサストライプ状のリッジ構造330を形成する。このエッチングは硫酸と過酸化水素水の混合水溶液でp-InGaAsP半導体層311が露出するまで行い、フッ酸およびアンモニアと過酸化水素水の混合水溶液でGaAsコンタクト層313および314がp-AlGaAs第三上クラッド層312に対してオーバーハング形状にならないような順メサの形状に整える。エッチングの深さは1.78μm、リッジ構造330の最下部の幅は約3.5μmである。エッチング終了後、上記レジストマスク318を除去する。
続いて図15に示すように、電子ビーム蒸着法を用いて、p側電極315としてTi(層厚:1000Å)/Pt(層厚:500Å)/Au(層厚:4000Å)の順に金属薄膜を積層形成する。
その後、図12に示したように、基板301を裏面側から所望の厚み(ここでは、約100μm)にまで、ラッピング法により研削する。そして、裏面側から抵抗加熱蒸着法を用いて、n側電極316としてAuGe合金(Au88%とGe12%との合金、層厚:1000Å)、Ni(層厚:150Å)、Au(層厚:3000Å)を積層形成する。その後、N2雰囲気中で、390℃1分間加熱して、アロイ処理を行う。この基板301を、所望の共振器長(ここでは、500μm)を有する複数のバーに分割した後、上記バーに端面コーティングを行い、さらに上記バーをチップ(500μm×200μm)に分割する。このチップに分割する際、リッジ構造330がチップ中央から所定距離だけずれた(オフセットさせ)配置にして、後のワイヤボンディングのための領域319bを確保する。この例では、リッジ構造330の位置をチップ端から約50μm(反対側のワイヤボンディング領域319bの幅は約150μm)とした。分割後のチップを、In糊剤を用いてステム(図示せず)上に固着する。そして、p側電極315のうちの半導体層311に接する部分(リッジ構造330の側方に相当する領域319b)上に、外部回路との電気的接続を行うためのAuワイヤ317をボンディングする。これで、半導体レーザ素子が完成する。
この第6実施形態の半導体レーザ素子は、波長890nmの赤外線通信用半導体レーザ素子である。第1実施形態におけるのと同様の構成については説明を省略し、相違点について以下に述べる。
この第6実施形態では、第二上クラッド層310とp側電極315との間に半導体層311として、V族元素中のP組成比が60%であるようなInGaAsP(層厚150Å、Cドーピング濃度:1×1017cm-3)を設けている。そして、第二上クラッド層310を露出させずに、そのInGaAsP半導体層311がp側電極315との間でショットキー接合をなす構成としている。この構成によれば、InGaAsP材料からなる半導体層311が第二上クラッド層310を被覆し、表面保護層として働いて、次に述べるような3つの新しい効果が出た。
まず一つは、長期信頼性試験時におけるショットキーバリアの破壊に起因する素子寿命が延びたことである。これは、AlGaAs層直上にショットキー電極を設けた場合(第1実施形態に相当)と比較して考えると分かりやすい。AlGaAs層直上にショットキー電極を設けた場合、非常に薄いAlの自然酸化膜を介したMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)構造が作られる。このMOS構造はシリコンデバイスにおけるSiO2を用いたMOS構造とは比較にならないほど不安定であり、その理由としてAl自然酸化膜が均質に形成されにくく、SiO2に比べて障壁として強固ではないことが挙げられる。それに対し、AlGaAs層の表面に、AlGaAsよりも安定で自然酸化膜が形成されにくく、フェルミ準位のピニングが生じにくいInGaAsP層を設けた場合(第6実施形態に相当)、キャリアの表面再結合が抑制され無効電流を抑制することができる。この結果、動作電流の低減と信頼性の向上の両立を図ることができ、ショットキーバリアの安定性が大幅に向上した。図16は、InGaAsP材料からなる半導体層311を設けた場合(図16中に「1×1017層+InGaAsP保護層」と表す)と設けなかった場合(図16中に「1×1017層剥き出し」と表す)の、電流狭窄性および通電安定性の違いを比較したグラフを示す。図16から明白なように、電流狭窄性については、InGaAsP半導体層311を設けた場合、+3V程度まで印加してもほとんどリーク電流は見られず、10-6Aのオーダに留まった。これはInGaAsP半導体層を設けなかった場合の約100分の1である(なお、図16は、図6と比較すると非常に微小な領域のリーク電流を見ていることに注意。)。一方、通電安定性についても、InGaAsP半導体層311を設けた場合は初期特性(通電1回目)と複数回通電時(この例では通電9回目)の特性がほぼ重なっており、ほとんど変化が見られなかった。これに対して、InGaAsP半導体層311を設けなかった場合は、図16の縦軸のスケールで細かく比較すると、少しではあるがリーク電流が増大していることが分かる。
このように、安定性が向上したことを受け、この第6実施形態では、p側電極315として一般的に良く知られているTi/Pt/Auを使用したが、十分な電流狭窄性と長期信頼性を実現できた。Ti/Pt/Auを用いた場合のコンタクト抵抗は、第1実施形態と同様のTLM法を用いた評価によると、7×10-7cm-3であり、Pt層を最下層とした第1実施形態とほぼ同程度の値になった。ただし、Ti層を最下層としたこの第6実施形態の方が電極材料の密着性が若干良く、それに伴いワイヤボンディング時の電極剥がれによる不良がさらに減るという効果があった。
第二に、リッジ構造330を形成する工程で、半導体層311よりも上層の半導体層314,313,312(Pを含まないGaAs、AlGaAs、さらに本実施形態では使用しなかったが、例えばInGaAs)をエッチングする際、結晶材料としてPを含むInGaAsP半導体層311に対する選択エッチングとなるので、エッチャント選択の自由度が増し、より容易にオーバーハングの無い順メサ形状を実現できた。その結果、p側電極315の段切れ(導通不良)に起因する歩留り低下の問題を解消できた。
第三に、この第6実施形態におけるInGaAsP半導体層311と同様のエッチング特性を有するInGaP材料との比較になるが、InGaAsP材料を用いた場合、InGaPを用いた時に比べて、GaAs基板301に対するΔEvの差|ΔEv|を小さくできるため、量子井戸活性層306へのホールの注入効率を大幅に改善できる。このことにより、この第6実施形態では、第二上クラッド層上の半導体層材料としてInGaPを用いた場合(それ以外は第6実施形態におけるのと同じ構成とする。)に比べて、抵抗の改善と閾値電流の低減による低消費電力動作が可能になった。この時、上記In1-xGaxAs1-yPy材料におけるP組成比yは、0.4≦y≦0.7とすることが望ましい。P組成比を上記範囲内に設定することによってホールの注入効率を高く保ちつつ、上記InGaAsP半導体層を良好なエッチング選択性を有するエッチングストップ層として使用することができるようになる。さらに、InGaAsP半導体層はその厚みを50Å以上とすることによって、AlGaAsからなる第二上クラッド層の表面保護層として十分な効果を発揮できるようになり、かつそのドーピング濃度を1×1017cm-3以下とすることによって電流狭窄性をより向上させることができた。なお、不要な素子抵抗の増大を防ぐため、InGaAsP半導体層のドーピング濃度の下限は1×1016cm-3以上とした方がよい。また、第1実施形態で使用したGaAs材料(Eg=1.4eV)と比較すると、半導体層311のInGaAsP材料(この第6実施形態では、Eg=1.9eV)はそれよりも大きなバンドギャップEgを持つことから、半導体レーザ素子の発振波長をより短波長化しても光吸収成分とならない。したがって、700nm以下で発振するような半導体レーザ素子において、閾値電流を上昇させる要因を排除できるというメリットがある。
また、この第6実施形態の半導体レーザ素子では、p型ドーパントとしてC(炭素)を用いた。このことにより、次の2つの利点が生ずる。まず、エピ成長時のドーパントの拡散が少ないため、電流狭窄性と低コンタクト抵抗を両立する構造が制御性よく安定に作製できるという利点が生ずる。これにより製造歩留りを向上させることができた。仮にZnをp型ドーパントとして使用する場合、成長時のドーパント拡散のために、各層のドーピング濃度が他の層のドーピング濃度にも影響を与える。このため、エピ成長後のドーピング状態を考慮して成長中のドーピングを制御する必要があり、電流狭窄性を低下させずに低コンタクト抵抗を実現するためには、条件出しが煩雑になることがあった。それに対して、Cをp型ドーパントとして用いることでドーパント拡散を抑制できた結果、成長時のドーピングプロファイルがそのまま維持され、より容易に設計した構造を実現することができた。また、Cドープにしたことによりp側コンタクト層のドーピング濃度を1×1021cm-3から1×1020cm-3まで低下させても前述のように十分低いコンタクト抵抗が得られた。もう一つの利点は、半導体レーザ素子動作時のドーパントの拡散も防止できるため、素子の信頼性が向上したことである。上述のCドープと全く同様の効果がMg(マグネシウム)をp型ドーパントとして用いた場合にも得られる。
図17は、この第6実施形態の半導体レーザ素子の電流−光出力特性を示している。本素子の場合、レーザ発振閾値電流Ith=10.0mA、スロープ効率SE=0.83W/A、光出力50mW時の動作電流は69mAであった(周囲温度25℃のとき)。また、COD(端面破壊)レベルは、200mW以上であった。このように、リッジ埋め込み構造の半導体レーザ素子と遜色の無い低閾値、高出力レーザが実現できた。さらに、この第6実施形態の半導体レーザ素子を用いた70℃、120mWの信頼性試験において、5000時間以上の安定動作を確認でき、赤外線通信用途として十分な信頼性を有することが分かった。
〔第7実施形態〕
図18は、本発明の第7実施形態の半導体レーザ素子の構造を示したものであり、第6実施形態の半導体レーザ素子の改変例を示す断面模式図である。この第7実施形態の半導体レーザ素子は、p側電極315への光漏れが生じる際に、図7の第3実施形態と同様に好適に改変された半導体レーザ素子の構成例である。
図18に示す半導体レーザ素子は、上述の順メサストライプ状のリッジ構造330に代えて、逆メサストライプ状のリッジ構造330′を備えている。このリッジ構造330′の両側に沿ってストライプ状に、絶縁体としてのポリイミド樹脂320,320が設けられている。ポリイミド樹脂320は、リッジ構造330′の側面とp型半導体層311の上面とp側電極315とで囲まれた位置にある。
逆メサ形状のリッジ構造330′を用いることで、p側電極315から活性層306へ注入される電流の広がりが順メサリッジに比べて抑えられるので発振閾値電流低減が期待できる。しかし、逆メサ形状のリッジ構造330′を被覆するようにp側電極315を形成した場合、逆メサ形状に起因するオーバーハングにより、リッジ構造330′の頂部と半導体層311の上面との間でp側電極315が段切れしてしまう。また、リッジ構造330′の底部の幅が狭い分、リッジストライプ構造近傍において半導体層311の外への光漏れが起こりやすい。そこで、この例では、リッジ構造330′の両側に沿ってストライプ状に、絶縁体としてのポリイミド樹脂320,320が設けられている。ポリイミド樹脂320は、図18中に示すようにリッジ構造330′の頂部にあるp+-GaAsコンタクト層314とp-InGaAsP半導体層311の上面とをなだらかに連続させている。したがって、それらの上に形成されたp側電極315は段切れすることが無い。さらに、リッジ構造330′の両側にポリイミド樹脂320,320を埋め込んだことにより、電極315への光漏れが無くなる。したがって、吸収によるロスに起因する閾値電流の上昇やスロープ効率の低下もなかった。
この半導体レーザ素子の製造工程では、図13で説明したフォトリソグラフィ工程でレジストマスクを<011>方向にストライプ状に設けることによって、リッジ構造330′を<011>方向にストライプ状に延びるように形成する。すると、エッチング後にリッジ構造330′は、図18中に示すように逆メサ形状となる。逆メサ形状のリッジ構造330′形成後に、ポジ型の感光性ポリイミド前駆体をスピン塗布法にて、基板上に厚さ約2μmに塗布し、80℃30分のプリベーク後、マスクを使ったフォトリソグラフィ法を用いて、リッジ構造脇5μmの領域にポリイミドパターンを形成する。その後、300℃30分+350℃30分のポストベークを加えてイミド化させる。その時、ポリイミド樹脂320,320の厚みは塗布時より約10%減少し、ほぼリッジ構造330′の高さと等しくなるとともに角が丸まり、図18中に示すようななだらかな断面形状を持つに至る。その後、電子ビーム蒸着法を用いて、Ti/Pt/Auを蒸着してp側電極315を形成することにより、図18に示す構造を得る。
また、外部回路との電気的接続のためのAuワイヤ317は、図12に示した第6実施形態と同様にショットキー接合をなす電極部分上のみで、ポリイミド樹脂320が存在しない領域にボンディングされている。これにより、ボンディング時の電極剥がれの問題を回避している。
もちろん、p側電極315は、上述したTi/Pt/Au系材料や第1〜第3実施形態のPt/Ti/Pt/Au系材料に限定されるものではなく、半導体層のドーピング濃度に応じてオーミック接合からショットキー接合へその接触抵抗が変化するものであれば何でも良い。例えば、PdやAl、あるいはCrやMoなどを使用することができる。
〔第8実施形態〕
図19は、本発明の第8実施形態の半導体レーザ素子の構造を示したものであり、上記第6実施形態の半導体レーザ素子をジャンクションダウン型実装する場合に好適な改変例を示したものである。なお、図19において、319aはリッジ構造形成領域、319bはメサストライプ外領域、319cはストライプ状構造体形成領域である。
この第8実施形態の半導体レーザ素子は、リッジ構造330と同一の半導体層(p-Al0.5Ga0.5As第三上クラッド層312、p-GaAsコンタクト層313およびp+-GaAsコンタクト層314)を有し、その表面に窒化シリコン(SiNx)からなる絶縁体膜321が2000Åの厚みで形成されたストライプ状構造体333をリッジ構造330の両脇に形成した構成となっている。このストライプ状構造体333は、リッジ構造330と比較して絶縁体膜321が形成されている分、そのストライプ状構造体333の最上部が高い。さらに、リッジ構造330上とストライプ状構造体333上および半導体層311の露出領域上にp側電極315が設けられている。
ジャンクションダウン型実装の際には、上記ストライプ状構造体333の最上部側の面を実装面とし、ワイヤボンディングを行う代わりにサブマウントと呼ばれる放熱体にダイボンドする形態とした。このサブマウント上にジャンクションダウン型実装されたチップをステムにさらにマウントすることでこの第8実施形態の半導体レーザ素子が完成する。リッジ構造330の最上部よりその最上部が高いストライプ状構造体333をリッジ構造330の両脇に設けていることによって、リッジ構造330の破損を防止することができる。
上記第8実施形態では、ストライプ状構造体333を構成する半導体層とp側電極315との界面に絶縁体膜321が挿入されているために、p側電極315からストライプ状構造体333を介して活性層306側へ電流が流れることがない。したがって、余分なリーク電流を生じさせることがなく、よって低い閾値電流値を有し、リッジ構造330が破損することなくジャンクションダウン型実装を行うことのできる半導体レーザ素子を提供することが可能となる。
この場合、当然ながら第3実施形態で説明したような半導体層からなる電流遮断層は形成する必要がない。
また、この第8実施形態では、絶縁体膜321として窒化シリコン膜を使用したが、これに代わるものとして酸化シリコン膜も好適に使用できる。有機系の絶縁体膜材料に対して、これらの絶縁体膜は比較的簡単に形成でき、膜形成後の加工も容易で、かつ、信頼性に優れるという利点がある。
また、ストライプ状構造体上に形成する絶縁体膜の厚みは、リッジ構造との高さの差を確保するため、少なくとも1000Å以上が好ましい。しかし、膜形成時間や厚膜化したときの応力発生の兼ね合いもあり、その上限は2500Å以下とした方がよい。この第8実施形態では厚さは2000Åとしたが、電流リークに対する絶縁性やジャンクションダウン型実装時のリッジ構造保護性は十分であった。
なお、この第8実施形態においては、リッジ構造脇にワイヤボンディングを行わないため、第6実施形態の半導体レーザ素子の例のようにリッジ構造をオフセットさせる必要はなく、逆にリッジ構造両脇の2つのストライプ状構造体それぞれに対して実装時に均等に力が加わるよう、チップの中央にリッジ構造が形成されているほうが好ましい。
また、これまで上述してきたそれぞれの実施形態の構成要素は相互に入れ替えられることは当然である。
〔第9実施形態〕
図20は、本発明にかかる光ディスク装置400の構造の一例を示したものである。これは光ディスク401にデータを書き込んだり、書き込まれたデータを再生したりするためのものであり、その際用いられる発光素子として、先に説明した第1〜第3実施形態の半導体レーザ素子(波長780nm帯)402を備えている。
この光ディスク装置についてさらに詳しく説明する。書き込みの際は、半導体レーザ素子402から出射された信号光がコリメートレンズ403により平行光とされ、ビームスプリッタ404を透過しλ/4偏光板405で偏光状態が調節された後、対物レンズ406で集光されて光ディスク401に照射される。読み出し時には、データ信号がのっていないレーザ光が書き込み時と同じ経路をたどって光ディスク401に照射される。このレーザ光がデータの記録された光ディスク401の表面で反射され、レーザ光照射用対物レンズ406、λ/4偏光板405を経た後、ビームスプリッタ404で反射されて90°角度を変えた後、受光素子用対物レンズ407で集光され、信号検出用受光素子408に入射する。信号検出用受光素子408内で入射したレーザ光の強弱によって記録されたデータ信号が電気信号に変換され、信号光再生回路409において元の信号に再生される。
この第9実施形態の光ディスク装置では、従来よりも高い光出力で動作する半導体レーザ素子402を用いているため、ディスクの回転数を従来より高速化してもデータの読み書きが可能となった。従って、特に書き込み時に問題となっていたディスクへのアクセス時間が従来の半導体レーザ素子を用いた装置よりも格段に短くなった。また、半導体レーザ素子402が従来よりも低いコストで作製可能であるから、より快適に操作できる光ディスク装置を安価に提供することができた。
なお、ここでは第1〜第3実施形態の半導体レーザ素子402を記録再生型の光ディスク装置に適用した例について説明したが、同じ波長780nm帯を用いる光ディスク記録装置、光ディスク再生装置や、他の波長帯(例えば、第4または第5実施形態の半導体レーザ素子を用いた650nm帯)の光ディスク装置にも適用可能であることはいうまでもない。
〔第10実施形態〕
図21は、本発明の第10実施形態の光伝送システムに使用される光伝送モジュール500を示す断面図である。また、図22は光源の部分を示す斜視図である。この第10実施形態では、光源として第6または第7実施形態で説明した発振波長890nmのInGaAs系半導体レーザ素子(レーザチップ)501を、また受光素子502としてシリコン(Si)のpinフォトダイオードを用いている。詳しくは後述するが、通信を行う双方の側(例えば、端末とサーバ)にそれぞれ同じ光伝送モジュール500を備えることにより、双方の光伝送モジュール500間で光信号を送受信する光伝送システムが構成される。
図21において、回路基板506上には、半導体レーザ駆動用の正負両電極のパターンが形成され、図示のとおり、レーザチップを搭載する部分には深さ300μmの凹部506aが設けられている。この凹部506aに、レーザチップ501を搭載したレーザマウント(マウント材)510をはんだで固定する。レーザマウント510の正電極512の平坦部513は、回路基板506上のレーザ駆動用正電極部(図示せず)とワイヤ507aによって電気的に接続される。凹部506aはレーザ光の放射を妨げない程度の深さとなっており、また、面の粗さが放射角に影響を与えないようにされている。
受光素子502は、やはり回路基板506に実装され、ワイヤ507bにより電気信号が取り出される。この他に、回路基板506上にレーザ駆動用/受信信号処理用のIC回路508が実装されている。
次いで、はんだで凹部506aに固定されたレーザマウント510を搭載した部分に液状のシリコン樹脂509を適量滴下する。シリコン樹脂509中には、光を拡散させるフィラーが混入されている。シリコン樹脂509は表面張力のために凹部506a内に留まり、レーザマウント510を覆い凹部506aに固定する。この第10実施形態では、回路基板506上に凹部506aを設け、レーザマウント510を実装したが、上述のように、シリコン樹脂509は表面張力のためにレーザチップ表面およびその近傍に留まるので、凹部506aは必ずしも設ける必要はない。
この後、80℃で約5分間加熱して、ゼリー状になるまで硬化させる。次いで、透明なエポキシ樹脂モールド503により被覆する。レーザチップ501の上方には、放射角制御のためのレンズ部504が、また、受光素子502の上方には信号光を集光するためのレンズ部505がそれぞれ一体的にモールドレンズとして形成される。
次に、レーザマウント510について、図22を用いて説明する。図22に示すように、L字型のヒートシンク511にレーザ素子501がIn糊剤を用いてダイボンドされている。レーザチップ501は、第6または第7実施形態で説明したInGaAs系の半導体レーザ素子であり、そのチップ下面501bには高反射膜がコーティングされており、一方、レーザチップ上面501aには低反射膜がコーティングされている。これらの反射膜は、レーザチップ端面の保護も兼ねている。
ヒートシンク511の基部511bには正電極512が、ヒートシンク511と導通しないように絶縁物により固着されている。この正電極512とレーザチップ501の表面のショットキー接合部上に設けられた電極領域501cとは、金ワイヤ507cによって接続されている。上述のように、このレーザマウント510を、図21の回路基板506の負電極(図示せず)にはんだ固定して、正電極512の上部の平坦部513と回路基板506の正電極部(図示せず)とをワイヤ507aで接続する。このような配線の形成により、レーザビーム514を発振により得ることができる光伝送モジュール500が完成する。
この第10実施形態の光伝送モジュール500は、前述の低コストで製造できる1回成長タイプの半導体レーザ素子を使用しているため、そのモジュール単価を従来に比べて大幅に低く抑えることができる。
なお、光伝送モジュール500の光源(レーザチップ)としては、上述した第6または第7実施形態の半導体レーザ素子だけでなく、第8実施形態の半導体レーザ素子を使用することもできる。その場合、レーザチップ501はヒートシンク511に対してジャンクションダウン型実装されるので、回路基板506上の正負両電極のパターンを変更し、上記実施形態の場合とは正電極と負電極が逆につながるような構成とすればよい。
第8実施形態の半導体レーザ素子を使用することで、レーザ発振時の発熱がより効果的に放熱できるようになるため、さらに信頼性に優れた光伝送モジュールを実現することができる。
上述したように、通信を行う双方の側にそれぞれ同じ光伝送モジュール500を備えることにより、双方の光伝送モジュール500間で光信号を送受信する光伝送システムが構成される。図23は、この光伝送モジュール500を用いた光伝送システムの構成例を示している。この光伝送システムは、部屋の天井に設置された基地局616に上記光伝送モジュール500を備えるとともに、パーソナルコンピュータ615に上記と同じ光伝送モジュール(区別のために符号600で表す。)を備えている。パーソナルコンピュータ615側の光伝送モジュール600の光源から情報を持って発した光信号は、基地局616側の光伝送モジュール500の受光素子によって受信される。また、基地局616側の光伝送モジュール500の光源から発した光信号は、パーソナルコンピュータ615側の光伝送モジュール600の受光素子によって受信される。このようにして、光(赤外線)によるデータ通信を実現することができる。
尚、本発明の半導体レーザ装置、光ディスク装置および光伝送システムは、上述の図示例にのみ限定されるものではない。たとえば井戸層・障壁層の層厚や層数など、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。