本発明はLED(発光ダイオード)、LD(レーザダイオード)等の発光素子、あるいは太陽電池、光センサー等の受光素子に使用される窒化物半導体(InXAlYGa1−X−YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)よりなる素子と、その製造方法に関する。
窒化物半導体は高輝度青色LED、純緑色LEDの材料として、フルカラーLEDディスプレイ、交通信号等で最近実用化されたばかりである。また、本出願人は、最近この材料を用いてパルス電流において、室温での410nmのレーザ発振を発表した(例えば、Jpn.J.Appl.Phys. Vol35 (1996) pp.L74-76)。
図1に発表したレーザ素子の構造を示す。このレーザ素子はサファイア基板の上にGaNバッファ層、n−GaN、n−In0.1Ga0.9N、n−Al0.15Ga0.85N、n−GaN、InGaNよりなる多重量子井戸構造(MQW)の活性層、p−Al0.2Ga0.8N、p−GaN、p−Al0.15Ga0.85N、p−GaNが順に積層されてなる電極ストライプ型のレーザ素子であり。最上層のp型GaNにはストライプ状のp電極、エッチングにより露出されたバッファ層の上のn−GaNには同じくストライプ状のn電極が形成されている。このレーザ素子はパルス電流(パルス幅2μs、パルス周期2ms)において、閾値電流610mA、閾値電流密度8.7kA/cm2、閾値電圧21Vと、閾値での電流、電圧がかなり高い。室温連続発振させるためには、この閾値電流が下がるような、さらに発光効率の高い素子を実現する必要がある。
ところで、窒化物半導体よりなるLED素子については、例えば我々が先に提案した特開平6−268259号公報のようなダブルへテロ構造が知られ、実用化されているが、その他、例えば特開平7−312445公報に示されるようなダブルへテロ構造の発光素子も示されている。この公報ではその実施例に基板の上に高キャリア濃度のn+層を成長させ、その上に低キャリア濃度のn−層を成長させ、その上に活性層を成長させることが開示されている。つまり、基板側からn+、n−、活性層の順にすることが示されている。このようにダブルへテロ構造の半導体発光素子では、キャリア濃度がn+、n−、活性層、p−、p+、若しくはp+、p−、活性層、n−、n+の順となるように、半導体層を積層すると、活性層へのキャリアの注入効率が向上し発光効率が向上することが知られている。キャリア濃度はドナー、アクセプターとなるドーパントのドープ量を変えることにより調整できることも知られている。
このように窒化物半導体ではLEDが実用化域に入っており、益々の光度向上、長寿命が望まれ、LDでは早期室温での連続発振が望まれている。そのためには素子自体の構造を改良して、窒化物半導体よりなるデバイス自体を向上させる必要がある。そのためには最も過酷な条件で使用されるレーザ素子の閾値を低下させて、レーザ素子を連続発振させることが、最もわかりやすい。従って本発明の目的とするところは、主として窒化物半導体よりなるレーザ素子の閾値を低下させて室温で長時間連続発振させることにより、信頼性が高く、効率に優れた窒化物半導体素子を実現することにある。これを実現することにより、同時にLEDの発光効率を向上させ、太陽電池、光センサー等の受光素子の効率も向上させることができる。そのために本発明では、新規な窒化物半導体素子の構造と、製造方法とを提供する。
まず本発明の窒化物半導体素子は2種類の態様からなり、その第1の態様は、少なくともインジウムを含む窒化物半導体よりなる活性層に接して、n型ドーパントがドープされた第1のn型窒化物半導体層(以下、第1のn型層という。)が形成されており、その第1のn型窒化物半導体層よりも活性層から離れた位置に、n型ドーパントが第1のn型窒化物半導体層よりも少量でドープされた第2のn型窒化物半導体層(以下、第2のn型層という。)が形成されていることを特徴とする。なお、第2のn型層は第1のn型層に接して形成されていなくてもよいが、接して形成されている方が望ましい。
第1の態様では、第1のn型層の膜厚が50オングストローム以下であることを特徴とする。第1のn型層の好ましい膜厚は40オングストローム以下、さらに好ましくは30オングストローム以下、最も好ましくは20オングストローム以下に調整する。下限は特に限定せず1原子層以上であればよい。50オングストロームより厚い膜厚で成長させると、活性層の結晶性が悪くなって素子の出力が低下する傾向にある。なお、この場合の第1の窒化物半導体層は非常に膜厚が薄いため、必ずしも均一な膜厚で形成されているものではなく、同一層内において膜厚の不均一、膜の形成されていない部分があってもよい。
第1の態様では、活性層には第1のn型層、及び第2のn型層と同一種類のn型ドーパントがドープされていることを特徴とする。同一種類のn型ドーパントがドープされていると、n型ドーパントが半導体素子中で拡散されても、他の素子のキャリア濃度等の特性に影響を及ぼすことがない。n型ドーパントとしては、Si、Ge、Sn等が挙げられるが、特に好ましくはSiを用いる。
一方、第2の態様は、少なくともインジウムを含む窒化物半導体層よりなる活性層に接して、n型ドーパントよりなるメタル層が形成されており、そのメタル層よりも活性層から離れた位置にn型ドーパントがドープされた第2のn型層が形成されていることを特徴とする。なお、メタル層は第2のn型層に接して形成されていなくてもよいが、接して形成されている方が望ましい。
第2の態様では、メタル層の厚さが30オングストローム以下であることを特徴とする。メタル層の場合、第1の態様よりも薄く形成することが望ましく、さらに好ましくは20オングストローム以下、最も好ましくは10オングストローム以下で形成する。第1の下限値も特に限定しないが1原子層以上であればよい。30オングストロームよりも厚く成長させると、同じく素子の出力が低下する傾向にある。この場合も第1の態様と同じくメタル層は非常に膜厚が薄いため、同一層内において膜厚の不均一、メタル層が形成されていない部分があってもよい。
また第2の態様において、活性層にはメタル層、及び第2のn型層と同一種類のn型ドーパントがドープされていることを特徴とする。n型ドーパントは第1の態様と同じく、Si、Ge、Sn等が挙げられるが、特に好ましくはSiを用いる。
本発明の第1の態様、及び第2の態様において、活性層が量子井戸構造、若しくは量子ドット構造を有することを特徴とする。なお量子井戸構造とは膜厚の薄い井戸層よりなる単一量子井戸、若しくは井戸層と膜厚の薄い障壁層とが積層されてなる多重量子井戸構造の活性層を指し、活性層はこの量子井戸構造の量子効果により発光する。また量子ドット構造とは、活性層の膜厚の薄い井戸層及び/又は障壁層の一部が相分離してインジウムの多いインジウムリッチ領域と、インジウムの少ないインジウムプアー領域とを形成しており、インジウムリッチ領域とインジウムプアー領域とが平面上で規則的に並んだような状態になって量子箱を形成している状態を指す。あるいは井戸層の厚さが面内で不均一であり、面内方向においてキャリアが閉じこめられるようになっているものも、ここでは含んで量子ドット若しくは量子箱という
第1の態様及び第2の態様では、n型ドーパントがSiよりなることをことを特徴とする。このSiドーパントは窒化物半導体成長時にSiの有機金属化合物により供給されることが望ましい。
本発明の製造方法は同じく2種類の態様からなり、第1の態様は、有機金属気相成長法により窒化物半導体を成長させる方法において、n型ドーパントをドープした第2のn型層を成長させた後、n型ドーパントを第2のn型層よりも多くドープして第1のn型層を成長させ、その第1のn型層に接して、少なくともインジウムを含む活性層を成長させることを特徴とする。
また本発明の製造方法の第2の態様は、有機金属気相成長法により窒化物半導体を成長させる方法において、n型ドーパントをドープした第2のn型層を成長させた後、原料ガスにn型ドーパントの有機金属化合物を用い、n型ドーパントよりなるメタル層を成長させ、そのメタル層に接して、少なくともインジウムを含む活性層を成長させることを特徴とする。
以上説明したように、本発明の窒化物半導体素子は活性層に接して、n型ドーパントの濃度の大きい第1のn型層、またはメタル層を成長させることにより素子の出力が格段に向上する。特に第1のn型層、メタル層が1原子〜数原子層の膜厚の際に顕著な効果が現れる。これは第1のn型層、メタル層により、その上に成長させるインジウムを含む活性層が量子ドット構造、量子箱構造になりやすいためと推察される。従って、高出力で、長寿命なレーザ素子を実現できる。レーザ素子が改善されたことにより、レーザ素子よりも緩やかな条件で使用されるLED素子はさらに信頼性もよくなる。そして本発明の発光デバイスが実現されたことにより、DVDはもちろんのこと、フルカラーLEDディスプレイ等の応用デバイスに利用でき、その産業上の利用価値は非常に大きい。
図2は、本発明の第1の態様の窒化物半導体素子の活性層付近の構造を模式的に示す断面図である。この図ではn型ドーパントの濃度の小さい第2のn型層の上に、n型ドーパント濃度の大きい第1のn型層が形成され、その第1のn型層の上に活性層が接して形成されている。つまり従来のn+、n−、活性層の順に積層する構造とは逆の構造となっている。さらに、活性層の上にはp型層が積層されている。
第1のn型層のn型ドーパント濃度は1×1018/cm3以上、さらに好ましくは1×1019/cm3以上、最も好ましくは1×1020/cm3以上に調整する。極端な例では第2の態様のようにn型ドーパントのみのメタル層としてもよい。一方、第2のn型層のドーパント濃度は第1のn型層よりも少なければ良く、特に限定されるものではない。また、第1の窒化物半導体層、及び第2の窒化物半導体層の組成は特に限定するものではないがGaN、InGaN、またはAlGaN等の二元混晶、若しくは三元混晶の窒化物半導体を成長させることが望ましい。
この図に示すように本発明の第1の態様によると、n型ドーパント濃度の小さい第2の窒化物半導体層の上に、n型ドーパント濃度が極端に大きい第1の窒化物半導体層を成長させると結晶性が悪くなる傾向にある。しかも第1の窒化物半導体層を膜厚を非常に薄く成長させることにより、膜厚の不均一が生じる。つまり、第1の窒化物半導体層の膜厚の厚いところと、薄いところとでは、結晶の性質が異なってくるために、その第1の窒化物半導体層の上に活性層を成長させると、活性層が選択成長されたような形となる。活性層が選択成長されることにより、活性層自体が量子箱、量子ドットとなり、出力が大幅に向上する。つまり、井戸層に注入されたキャリアは井戸層の厚さが面内で不均一であり、面内方向でもクラッド層のバンドギャップ差により、キャリアが閉じこめられたような形となり量子箱、若しくは量子ドット構造と同一となる。しかも、活性層はInを含む窒化物半導体よりなる。例えばInGaN層は量子構造となるような薄い膜厚で成長させると、In含有率が全体的に不均一となり、Inの多い多いインジウムリッチ領域と、Inの少ないインジウムプアー領域とを形成する傾向にある。このため、面内方向で膜厚不均一な状態でインジウムを含む窒化物半導体を成長させると、Inの組成分離も起きやすくなり、In組成分離による量子ドットと、井戸層の面内方向の厚さ不均一によるドット形成の両方が作用した量子ドット、量子箱ができやすくなる。このため本発明の素子の活性層はIn組成分離による量子ドットと、井戸層の面内不均一による量子ドットとの2種類の量子ドットの効果により非常に出力の高い素子が実現できる。
インジウムリッチ領域に電子キャリアと正孔キャリアとが局在しエキシトンに基づく発光又はバイエキシトンに基づく発光をする。即ちインジウムリッチ領域は量子ドット又は量子箱を構成する。この第1のn型層を形成することによりInGaN活性層がこのような量子ドット若しくは量子箱を構成しやすくなるために、出力が大幅に向上すると推察される。従って、活性層を単一量子井戸構造(SQW:Single quantum well)、多重量子井戸構造(MQW:Multi quantum well)のような量子井戸構造で構成する場合、少なくともIn含む窒化物半導体よりなる井戸層を有することが必要であり、単一井戸層の好ましい膜厚は70オングストローム以下、さらに好ましくは50オングストローム以下の膜厚に調整する。MQWの場合、障壁層は井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きい窒化物半導体層で構成し、膜厚は150オングストローム以下、さらに好ましくは100オングストローム以下に調整する。
また、図3も、本発明の第2の態様の窒化物半導体素子の活性層付近の構造を模式的に示す断面図である。図2は図3に比べて、活性層付近の構造をさらに模式的に示している。第2の態様の場合、第2のn型層の上に成長されるのがn型ドーパントのみよりなるメタル層であるので、結晶性の相違は第1の態様に比べてさらに顕著である。つまり窒化物半導体層の上にSi、Ge等のメタル層を成長させると、明らかな格子不整合により、均一な膜厚で成長させることが難しい。しかも、30オングストローム以下、最も好ましくは10オングストローム以下という膜厚で成長させると、メタル層の中に無数の穴があいたような状態となる。そのメタル層の上にInGaNよりなる活性層を成長させると、InGaNの下地にあるSi層と第2のn型層とでは結晶の成長状態がより選択的になる。つまり量子ドットの形成が起こる。さらにまたInGaNを例として成長すると、このドット形成に加えてIn組成分離も起こり、両効果による量子ドットが形成される。第1の態様と同じくInGaN活性層が組成不均一となりインジウム領域と、インジウムプアー領域とが構成されることにより、量子箱、量子ドットが形成されて高出力な素子が得られる。このような量子ドット、量子箱のサイズは好ましくは10オングストローム〜100オングストローム、さらに好ましくは20〜60オングストロームである。
このような活性層に第1のn型層、メタル層、第2のn型層と同一のn型ドーパントをドープすると、レーザ素子では閾値電流がさらに低下する。即ち、少なくとも一つの井戸層を有する活性層の面内において、インジウム組成、あるいは井戸層の面内の厚さ方向が不均一であることは、単一井戸層の面方向においてバンドギャップの異なるInGaN領域(インジウムリッチ領域、インジウムプア領域)が存在し、さらに面内方向においての厚さの不均一により起こる横方向のキャリアの閉じこめが存在することを意味する。従って伝導体に存在する電子は一旦インジウムリッチ領域、または井戸層の厚さが厚い領域に落ち、そこから価電子帯に存在する正孔と再結合することによりhνのエネルギーを放出する。言い換えると、電子キャリアと正孔キャリアとが井戸層のインジウムリッチ領域、または井戸層の厚さが厚い領域に局在化して、局在エキシトンを形成し、レーザの閾値を低下させる助けとなると共に出力を向上させる。このような井戸層を有する活性層に、n型ドーパントをドープすると、伝導帯と価電子帯との間に、さらに不純物レベルのエネルギー準位が形成される。そのため電子キャリアはより深い不純物レベルのエネルギー準位に落ち、そこで電子キャリアと正孔キャリアとが再結合してより小さなエネルギーhν’を放出する。このことは電子キャリアがよりいっそう局在化し、このいっそう局在化して形成されたエキシトンの効果により窒化物半導体素子、特にレーザ素子の閾値が低下するものと推測される。さらにメタル層、第2のn型層も同じドーパントであるのでドーパントが互いの層間で拡散しても、悪影響を及ぼすことがない。
また、本発明の製造方法の態様ではメタル層成長時に、n型ドーパントの有機金属化合物を用いる。メタル層の成長温度は300℃以上、900℃以下、さらに好ましくは400℃〜800℃の温度で成長させる。メタル層成長時にドーパントとして有機金属化合物ガスを用いると、素子の出力が向上する。この原因はよくわからないが、Si有機化合物ガスの一部が例えばSiC、若しくはSiNに変化して、メタル層と共に形成されていることにより、活性層に何らかの好影響を及ぼしているものと推察される。また第1の態様においても第1のn型層成長時にn型ドーパントガスにSiの有機金属化合物を用いることは非常に好ましい。なお、第2のn型層、活性層にn型ドーパントをドープする場合、n型ドーパント源は有機金属化合物ガスを用いてもよいが、n型不純物の水素化物、ハロゲン化物を用いることもできる。
以下、本発明を図面を参照しながら実施例で詳説する。
(第1の態様)
図4は本発明の一実施例によるレーザ素子の構造を示す模式的な断面図であり、レーザ光の共振方向に対して垂直な方向で素子を切断した際の図を示している。
サファイア(C面)よりなる基板1を反応容器内にセットし、容器内を水素で十分置換した後、水素を流しながら、基板の温度を1050℃まで上昇させ、基板のクリーニングを行う。基板1にはサファイアC面の他、R面、A面を主面とするサファイア、その他、スピネル(MgA12O4)のような絶縁性の基板を用いた場合、得られるレーザ素子は同一面側にn電極と、p電極が形成された構造となるが、絶縁性基板の他、SiC(6H、4H、3Cを含む)、ZnS、ZnO、GaAs、GaN等の半導体基板を用い、同一面側にある窒化物半導体層にn電極と、p電極を設ける構造とすることもできる。
続いて、温度を510℃まで下げ、キャリアガスに水素、原料ガスにアンモニアとTMG(トリメチルガリウム)とを用い、基板1上にGaNよりなるバッファ層2を約200オングストロームの膜厚で成長させる。バッファ層はAlN、GaN、AlGaN等が、900℃以下の温度で、膜厚数十オングストローム〜数百オングストロームで形成できる。このバッファ層は基板と窒化物半導体との格子定数不正を緩和するために形成されるが、窒化物半導体の成長方法、基板の種類等によっては省略することも可能である。
バッファ層2成長後、TMGのみ止めて、温度を1030℃まで上昇させる。1030℃になったら、同じく原料ガスにTMG、アンモニアガス、ドーパントガスにシランガスを用い、n型コンタクト層3として、Siを8×1018/cm3ドープしたSiドープn型GaN層を5μmの膜厚で成長させる。n型コンタクト層はInXAlYGa1−X−YN(0≦X、0≦Y、X+Y≦1)で構成することができ、特にGaN、InGaN、その中でもSi若しくはGeをドープしたGaNで構成することにより、キャリア濃度の高いn型層が得られ、またn電極と好ましいオーミック接触が得られる。n電極の材料としてはAl、Ti、W、Cu、Zn、Sn、In等の金属若しくは合金が好ましいオーミックが得られる。
次に、温度を800℃にして、原料ガスにTMG、TMI(トリメチルインジウム)、アンモニア、不純物ガスにシランガスを用い、Siを8×1018/cm3ドープしたSiドープIn0.1Ga0.9Nよりなるクラック防止層4を500オングストロームの膜厚で成長させる。このクラック防止層4はInを含むn型の窒化物半導体、好ましくはInGaNで成長させることにより、次に成長させるAlを含むn型クラッド層5を厚膜で成長させることが可能となり、非常に好ましい。LDの場合は、光閉じ込め層となる層を、好ましくは0.1μm以上の膜厚で成長させる必要がある。従来ではGaN、AlGaN層の上に直接、厚膜のAlGaNを成長させると、後から成長させたAlGaNにクラックが入るので素子作製が困難であったが、このクラック防止層4が、次に成長させるAlを含むn型クラッド層5にクラックが入るのを防止することができる。なおこのクラック防止層は100オングストローム以上、0.5μm以下の膜厚で成長させることが好ましい。100オングストロームよりも薄いと前記のようにクラック防止として作用しにくく、0.5μmよりも厚いと、結晶自体が黒変する傾向にある。なお、このクラック防止層4は成長方法、成長装置等の条件によっては省略することもできるがLDを作製する場合には成長させる方が望ましい。
次に温度を1030℃にして、原料ガスにTMA(トリメチルアルミニウム)、TMG、NH3、SiH4を用い、Siを8×1018/cm3ドープしたSiドープn型Al0.2Ga0.8Nよりなるn型クラッド層5を0.5μmの膜厚で成長させる。この第1のn型クラッド層5はキャリア閉じ込め層、及び光閉じ込め層として作用し、上記のようにAlを含む窒化物半導体、好ましくはAlGaNを成長させることが望ましく、100オングストローム以上、2μm以下、さらに好ましくは500オングストローム以上、1μm以下で成長させることにより、結晶性の良いキャリア閉じ込め層が形成できる。
続いて、1030℃でSiを8×1018/cm3ドープしたSiドープn型GaNよりなるn型光ガイド層6を0.2μmの膜厚で成長させる。このn型光ガイド層6は、活性層の光ガイド層として作用し、GaN、InGaNを成長させることが望ましく、通常100オングストローム〜5μm、さらに好ましくは200オングストローム〜1μmの膜厚で成長させることが望ましい。
次に温度を800℃にして、ドーパントガスをシランガスからテトラエチルシラン(TESi)ガスに切り替え、Siを1×1021/cm3ドープしたSiドープGaN層よりなる第1のn型層7を10オングストロームの膜厚で成長させる。原料ガスにはテトラエチルシランの他、メチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシラン等の有機金属Siガスを用いることができる。またSiの他、Ge源として、テトラエチルゲルマン、テトラメチルゲルマン等のGe有機金属化合物、Sn源としてテトラメチルスズ、テトラエチルスズ、ジエチルスズ等のSn有機金属化合物を用いることができる。n型ドーパントとしては好ましくはSi、Ge、最も好ましくはSiを用いる。なぜならGe、Snを第1のn型層7に多量にドープすると、その第1のn型層の上に活性層が成長しにくくなる傾向にあるからである。
なお、本発明では第1のn型層よりもn型ドーパントの濃度が小さい第2のn型層とは、第1のn型層と基板との間に形成されたn型ドーパントを含む層の内の少なくとも一種を指し、例えば、n型コンタクト3、n型クラック防止層4、n型クラッド層6、n型光ガイド層7の内の少なくとも一種の層を指す。
次に、原料ガスにTMG、TMI、アンモニア、シランガスを用いて活性層8を成長させる。活性層8は温度を800℃に保持して、まずSiを8×1018/cm3でドープしたIn0.2Ga0.8Nよりなる井戸層を25オングストロームの膜厚で成長させる。次にTMIのモル比を変化させるのみで同一温度で、Siを8×1018/cm3ドープしたIn0.01Ga0.95Nよりなる障壁層を50オングストロームの膜厚で成長させる。この操作を2回繰り返し、最後に井戸層を積層した多重量子井戸構造の活性層8を成長させる。活性層のn型ドーパントは本実施例のように井戸層、障壁層両方にドープしても良く、またいずれか一方にドープしてもよい。
次に、温度を1050℃に上げ、TMG、TMA、NH3、Cp2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用い、活性層よりもバンドギャップエネルギーが大きい、Mgドープp型Al0.1Ga0.9Nよりなるp型キャップ層9を300オングストロームの膜厚で成長させる。この第1のp型キャップ層9はp型としたが、膜厚が薄いため、n型不純物をドープしてキャリアが補償されたi型としても良く、最も好ましくはp型とする。p型キャップ層9の膜厚は0.1μm以下、さらに好ましくは500オングストローム以下、最も好ましくは300オングストローム以下に調整する。0.1μmより厚い膜厚で成長させると、p型キャップ層9中にクラックが入りやすくなり、結晶性の良い窒化物半導体層が成長しにくいからである。またキャリアがこのエネルギーバリアをトンネル効果により通過できなくなる。また、Alの組成比が大きいAlGaN程薄く形成するとLD素子は発振しやすくなる。例えば、Y値が0.2以上のAlYGa1−YNであれば500オングストローム以下に調整することが望ましい。p型キャップ層9の膜厚の下限は特に限定しないが、10オングストローム以上の膜厚で形成することが望ましい。
続いて1050℃で、バンドギャップエネルギーがp型キャップ層9よりも小さい、Mgドープp型GaNよりなるp型光ガイド層10を0.2μmの膜厚で成長させる。この層は、活性層の光ガイド層として作用し、n型光ガイド層6と同じくGaN、InGaNで成長させることが望ましい。また、この層はp型クラッド層11を成長させる際のバッファ層としても作用し、100オングストローム〜5μm、さらに好ましくは200オングストローム〜1μmの膜厚で成長させることにより、好ましい光ガイド層として作用する。
続いて1050℃で、バンドギャップエネルギーがp型光ガイド層10よりも大きい、Mgドープp型Al0.2Ga0.8Nよりなるp型クラッド層11を0.5μmの膜厚で成長させる。この層はn型クラッド層5と同じく、キャリア閉じ込め層、及び光閉じ込め層として作用し、Alを含む窒化物半導体、好ましくはAlGaNを成長させることが望ましく、100オングストローム以上、2μm以下、さらに好ましくは500オングストローム以上、1μm以下で成長させることにより、結晶性の良いキャリア閉じ込め層が形成できる。
本実施例のようにInGaNよりなる井戸層を有する活性層8の場合、その活性層8に接して、膜厚0.1μm以下のAlを含むp型キャップ層9を設け、そのp型キャップ層9よりも活性層から離れた位置に、p型キャップ層9よりもバッドギャップエネルギーが小さいp型光ガイド層10を設け、そのp型光ガイド層10よりも活性層から離れた位置に、p型光ガイド層10よりもバンドギャップが大きいAlを含む窒化物半導体よりなるp型クラッド層11を設けることは非常に好ましい。しかもp型キャップ層9の膜厚を0.1μm以下と薄く設定してあるため、キャリアのバリアとして作用することはなく、p層から注入された正孔が、トンネル効果によりp型キャップ層9を通り抜けることができて、活性層で効率よく再結合し、LDの出力が向上する。つまり、注入されたキャリアは、p型キャップ層9のバンドギャップエネルギーが大きいため、半導体素子の温度が上昇しても、あるいは注入電流密度が増えても、キャリアは活性層をオーバーフローせず、p型キャップ層9で阻止されるため、キャリアが活性層に貯まり、効率よく発光することが可能となる。従って、半導体素子が温度上昇しても発光効率が低下することが少ないので、閾値電流の低いLDを実現することができる。なお、本発明においては、LDを作成する場合に活性層8から上の層は、窒化物半導体で発振しやすい最も好ましい構成を示したが、本発明では活性層から上のp型層の構成は特に規定するものではない。
最後に、p型クラッド層11の上に、1050℃でMgドープp型GaNよりなるp型コンタクト層12を0.5μmの膜厚で成長させる。p型コンタクト層12はp型のInXAlYGa1−X−YN(0≦X、0≦Y、X+Y≦1)で構成することができ、好ましくはMgをドープしたGaNとすれば、p電極21と最も好ましいオーミック接触が得られる。なお、p型コンタクト層と好ましいオーミックが得られるp電極の材料としては、例えばNi、Pd、Ni/Au等を挙げることができる。
反応終了後、温度を室温まで下げ、さらに窒素雰囲気中、ウェーハを反応容器内において、700℃でアニーリングを行い、p型層をさらに低抵抗化する。
アニーリング後、ウェーハを反応容器から取り出し、図4に示すように、RIE装置でにより最上層のp型コンタクト層12と、p型クラッド層11とをエッチングして、4μmのストライプ幅を有するリッジ形状とする。このように、活性層よりも上部にあるp型層をストライプ状のリッジ形状とすることにより、活性層の発光がストライプリッジの下に集中するようになって閾値が低下する。特に活性層よりも上にあるAlを含むp型窒化物半導体層以上の層をリッジ形状とすることが好ましい。リッジ形成後、リッジ表面にマスクを形成し、図4に示すように、ストライプ状のリッジに対して左右対称にして、n型コンタクト層3の表面を露出させる。
次にp型コンタクト層12の表面にNiとAuよりなるp電極21をストライプ状に形成する。一方、TiとAlよりなるn電極22をストライプ状のn型コンタクト層3のほぼ全面に形成する。なおほぼ全面とは80%以上の面積をいう。
次に、図4に示すように、n電極22とp電極21との間に露出した窒化物半導体層の表面にSiO2よりなる絶縁膜30を形成し、この絶縁膜30を介してp電極21と電気的に接続したパッド電極23を形成する。このパッド電極23は実質的なp電極21の表面積を広げて、p電極側をワイヤーボンディングできるようにする作用がある。
以上のようにして、n電極とp電極とを形成したウェーハを研磨装置に移送し、ダイヤモンド研磨剤を用いて、窒化物半導体を形成していない側のサファイア基板1をラッピングし、基板の厚さを50μmとする。ラッピング後、さらに細かい研磨剤で1μmポリシングして基板表面を鏡面状とする。
基板研磨後、研磨面側をスクライブして、ストライプ状の電極に垂直な方向でバー状に劈開し、劈開面に共振器を作製する。なお劈開面はサファイア基板の上に成長した窒化物半導体面の
面とする。外1面とは窒化物半導体を正六角柱の六方晶系で近似した場合に、その六角柱の側面に相当する四角形の面(M面)に相当する面である。この他、RIE等のドライエッチング手段により端面をエッチングして共振器を作製することもできる。またこの他、劈開面を鏡面研磨して作成することも可能である。
劈開後、共振器面にSiO2とTiO2よりなる誘電体多層膜を形成し、最後にp電極に平行な方向で、バーを切断してレーザチップとした。次にチップをフェースアップ(基板とヒートシンクとが対向した状態)でヒートシンクに設置し、それぞれの電極をワイヤーボンディングして、室温でレーザ発振を試みたところ、室温において、閾値電流密度1.5kA/cm2、閾値電圧6Vで、発振波長405nmの連続発振が確認され、なんと20時間の連続発振を確認した。
実施例1において第1のn型層7を成長させる際に、膜厚を20オングストロームとする他は同様にしてレーザ素子を得たところ、同じく、閾値電流密度1.5kA/cm2、閾値電圧6V、発振波長405nmにおいて、15時間の連続発振を確認した。
実施例1において第1のn型層7を成長させる際に、膜厚を40オングストロームとする他は同様にしてレーザ素子を得たところ、同じく、閾値電流密度1.5kA/cm2、閾値電圧6V、発振波長405nmにおいて、10時間の連続発振を確認した。
実施例1において第1のn型層7を成長させる際に、膜厚を50オングストロームとする他は同様にしてレーザ素子を得たところ、同じく、閾値電流密度1.5kA/cm2、閾値電圧6V、発振波長405nmにおいて、1時間の連続発振を確認した。
実施例1において第1のn型層7を成長させる際に、Si濃度を1×1020/cm3とする他は同様にしてレーザ素子を得たところ、実施例1の素子とほぼ同等の特性を示すレーザ素子を得た。
実施例1において第1のn型層7を成長させる際に、原料ガスにTMIを加えSi濃度が1×1021/cm3のIn0.05Ga0.95Nを10オングストロームの膜厚で成長させる他は同様にしてレーザ素子を得たところ、実施例1とほぼ同等の特性を示すレーザ素子を得た。
(第2の態様)
第2の態様も同様に図4を参照して説明する。なお第2の態様では図4の符号7’をメタル層と読み替えるものとする。
実施例1において、第1のn型層7を成長させる際にTMGをストップし、テトラエチルシランガス、アンモニアをH2キャリアガスと共に流して、Siよりなるメタル層7’を5オングストロームの膜厚で成長させる他は実施例1と同様にしてレーザ素子を得たところ、実施例1と同様に、閾値電流密度1.5kA/cm2、閾値電圧6V、発振波長405nmにおいて、20時間の連続発振を示した。
実施例7において、第1のn型層7を成長させる際に、Siよりなるメタル層7’の膜厚を10オングストロームとする他は、同様にしてレーザ素子を得たところ、閾値電流密度1.5kA/cm2、閾値電圧6V、発振波長405nmにおいて、15時間の連続発振を示した。
実施例7において、第1のn型層7を成長させる際に、Siよりなるメタル層7’の膜厚を20オングストロームとする他は、同様にしてレーザ素子を得たところ、閾値電流密度1.5kA/cm2、閾値電圧6V、発振波長405nmにおいて、10時間の連続発振を示した。
実施例7において、第1のn型層7を成長させる際に、Siよりなるメタル層7’の膜厚を30オングストロームとする他は、同様にしてレーザ素子を得たところ、閾値電流密度1.5kA/cm2、閾値電圧6V、発振波長405nmにおいて、1時間の連続発振を示した。
図5は本発明の一実施例によるLED素子の構造を示す模式的な断面図である。以下、この図面を元に実施例11以下を説明する。
実施例1と同様にして、サファイア基板1をクリーニングした後、サファイア基板1の上にGaNよりなるバッファ層を200オングストローム、Si濃度8×1018/cm3のn型GaN層を5μmの膜厚で成長させる。
次に温度を800℃にして、実施例1と同様に、ドーパントガスをシランガスからテトラエチルシラン(TESi)ガスに切り替え、Siを1×1021/cm3ドープしたSiドープGaN層よりなる第1のn型層7を10オングストロームの膜厚で成長させる。
次に、原料ガスにTMG、TMI、アンモニア、シランガスを用い、Siを8×1018/cm3ドープしたIn0.2Ga0.8N(平均組成)よりなる井戸層を30オングストロームの膜厚で成長させ、SQW構造の活性層8を作製する。
次に温度を1050℃に上げ、Mgドープp型Al0.2Ga0.8Nよりなるp型クラッド層11を0.5μmの膜厚で成長させ、そのp型クラッド層の上に、Mgドープp型GaNよりなるp型コンタクト層12を0.5μmの膜厚で成長させる。
反応終了後、温度を室温まで下げ、さらに窒素雰囲気中、ウェーハを反応容器内において、700℃でアニーリングを行い、p型層をさらに低抵抗化する。
アニーリング後、ウェーハを反応容器から取り出し、図5に示すように、RIE装置でにより最上層のp型コンタクト層12側からエッチングを行い、n電極22を形成すべきn型コンタクト層3の表面を露出させる。
次に、p型コンタクト層12のほぼ全面にNiとAuよりなる透明なp電極21’を形成し、そのp電極21の上にボンディング用のパッド電極23を2μmの膜厚で形成する。一方、露出したn型コンタクト層3の表面にはTiとAlよりなるn電極22を形成する。
次に、図4に示すように、n電極22とパッド電極23との間に露出した窒化物半導体層、およびp電極21’の表面にSiO2よりなる絶縁膜30を形成する。
以上のようにして、n電極とp電極とを形成したウェーハを研磨装置に移送し、ダイヤモンド研磨剤を用いて、窒化物半導体を形成していない側のサファイア基板1をラッピングし、基板の厚さを90μmとして、サファイア基板側をスクライブして350μm角のLEDチップとする。このLEDチップを順方向電流(If)20mA、順方向電圧(Vf)3.5Vにて発光させたところ、発光波長450nm、出力10mWが得られ、第1のn型層7を設けていないLED素子に比較して、出力は2〜2.5倍に向上した。
実施例11において、第1のn型層7を成長させる際にTMGをストップし、テトラエチルシランガス、アンモニアガスをH2キャリアガスと共に流して、Siよりなるメタル層7’を5オングストロームの膜厚で成長させる他は実施例11と同様にしてLED素子を得たところ、実施例11とほぼ同等の特性を示すLED素子が得られた。
本発明はLED(発光ダイオード)、LD(レーザダイオード)等の発光素子、あるいは太陽電池、光センサー等の受光素子に使用される窒化物半導体(InXAlYGa1−X−YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)よりなる素子と、その製造方法に関する。
従来のレーザ素子の一構造を示す模式断面図。
本発明の第1の態様による窒化物半導体素子の活性層付近の構造を示す模式断面図。
本発明の第2の態様による窒化物半導体素子の活性層付近の構造を示す模式断面図。
本発明の一実施例によるレーザ素子の構造を示す模式断面図。
本発明の一実施例によるLED素子の構造を示す模式断面図。
符号の説明
1・・・サファイア基板
2・・・バッファ層
3・・・n型コンタクト層
4・・・クラック防止層
5・・・n型クラッド層
6・・・n型光ガイド層
7、7’・・・第1のn型層
8・・・活性層
9・・・p型キャップ層
10・・・p型光ガイド層
11・・・p型クラッド層
12・・・p型コンタクト層
21、21’・・・p電極
22・・・n電極
23・・・パッド電極
30・・・絶縁膜