JP2005162817A - ポリエステル樹脂及びそれよりなるポリエステル繊維 - Google Patents

ポリエステル樹脂及びそれよりなるポリエステル繊維 Download PDF

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Abstract

【課題】 カチオン染料に対する染色性が良好であり、かつ難燃性や耐光性が要求される用途へも適用できる繊維に好適なポリエステル樹脂、及びそのようなポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】 ポリエステルを構成する繰り返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であり、スルホン酸塩基含有成分がポリエステルの全酸成分に対して0.5〜5モル%、及び特定の有機リン化合物がポリエステル中のリン原子の含有量として5000〜15000ppmとなるよう共重合されており、ジエチレングリコールの含有量が5モル%以下のポリエステルであって、かつ、窒素雰囲気下、10℃/分で昇温したときの熱質量変化開始温度が410℃以上であることを特徴とするポリエステル樹脂。また、少なくとも繊維の表面層が上記のポリエステル樹脂で形成されている繊維も好ましい。
【選択図】 なし

Description

本発明は、カチオン染料に対する染色性に優れ、かつ難燃性と耐光性も良好な繊維を操業性よく得ることができるポリエステル樹脂と、そのポリエステル樹脂からなる繊維に関するものである。
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す。)は、その優れた機械的特性及び化学的特性のため、 衣料用、産業用等の繊維のほか、磁気テープ用、コンデンサー用等のフィルムあるいはボトル等の成形物用として広く用いられている。
しかし、ポリエステルは衣料用繊維としては染色性が良好とは言えず、また、分散染料による染色が一般的であるため、染色物の鮮明さが劣るなどの欠点を有している。
従来、このような欠点を補うための改質ポリエステルとして、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などに代表されるスルホン酸塩基含有成分を共重合した、塩基性染料に可染性のポリエステル(以下、スルホン酸塩基共重合ポリエステルと略す。)が公知である(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、これらのスルホン酸塩基共重合ポリエステルは、通常のポリエステルよりも溶融粘度が高く、燃焼時の溶融落下が起き難いために、延焼しやすいという欠点を有しており、難燃性が要求される分野での使用が制限されるという問題がある。
このような問題を解決するものとして、特許文献2では、特定の含リンジカルボン酸化合物とスルホン酸塩基含有成分を含有するポリエステル繊維が提案されている。しかし、特にスルホン酸塩基含有成分を共重合する際には、その酸触媒作用によって、重合反応過程でジエチレングリコールの生成が促進され、得られるポリエステル中のジエチレングリコール含有量が高くなる。したがって、得られたポリエステル繊維は耐光性に問題が生じるおそれがあり、用途が制限されるという問題があった。
特公昭34−10497号公報 特開平7−109621号公報
本発明は、上記の問題を解決し、カチオン染料に対する染色性が良好であり、かつ、難燃性や耐光性が要求される用途にも適用できる繊維を操業性よく得ることができるポリエステル樹脂と、そのポリエステル樹脂からなる繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
上記の課題を解決するために、本発明は、次の構成を有するものである。
(1)ポリエステルを構成する繰り返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であり、スルホン酸塩基含有成分がポリエステルの全酸成分に対して0.5〜5モル%、及び下記一般式〔1〕で示される有機リン化合物がポリエステル中のリン原子の含有量として5000〜15000ppmとなるよう共重合されており、ジエチレングリコールの含有量が5モル%以下のポリエステルであって、かつ、窒素雰囲気下、10℃/分で昇温したときの熱質量変化開始温度が410℃以上であることを特徴とするポリエステル樹脂。
Figure 2005162817
(2)有機リン化合物は、下記式(a)〜(c)で示される化合物から選択されるものであることを特徴とする上記(1)記載のポリエステル樹脂。
Figure 2005162817
(3)ヒンダードフェノール系及び/又はリン系抗酸化剤がポリエステルに対して0.05〜1.0質量%となるように添加されていることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のポリエステル樹脂。
(4)少なくとも繊維の表面層が上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリエステル樹脂で形成されていることを特徴とするポリエステル繊維。
本発明のポリエステル樹脂を用いることにより、カチオン染料での染色性が良好で、難燃性と耐光性にも優れたポリエステル繊維を操業性よく得ることが可能になる。また、得られたポリエステル繊維は、優れた性能を有する繊維構造物として、インテリア用品等幅広い用途に適用できるものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステルを構成する繰り返し単位の80モル%、好ましくは90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることが必要である。エチレンテレフタレート単位が80モル%未満になると、ポリエステルに特有の良好な物性が低下する。
このポリエステル樹脂においては、スルホン酸塩基含有成分が全酸成分に対して0.5〜5モル%共重合されていることが必要である。スルホン酸塩基含有成分の共重合量が0.5モル%未満になると、十分な染色性能が得られず、ポリエステル樹脂から得られる繊維がカチオン染料に可染性のものとはならない。一方、5モル%を超えると、ポリエステル樹脂の溶融粘度が高くなるため、重合度を十分に上げることが困難となる。その結果、紡糸操業性が悪くなったり、糸強度等が低下するので好ましくない。
上記のスルホン酸塩基含有成分は、ポリエステルと反応する官能基を有するスルホン酸塩基含有成分であれば特に限定されるものではないが、例としては、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、5-リチウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホテレフタル酸などが挙げられる。このうち、特に5-ナトリウムスルホイソフタル酸は、カチオン染料による発色性と紡糸性が良好であり、好適である。
また、本発明のポリエステル樹脂には、前記一般式〔1〕で表される有機リン化合物が、ポリエステル樹脂中のリン原子含有量で5000〜15000ppm、好ましくは6000〜10000ppmとなるよう共重合されていることが必要である。
有機リン化合物の共重合量が、リン原子の含有量として5000ppm未満になると、十分な難燃性能が得られない。一方、15000ppmを超えると、ポリエステルの重合性が悪くなるため、重合度を十分に上げることが困難となる。その結果、紡糸性が悪くなったり、繊維としたときの強度等が不足するので好ましくない。
前記の一般式〔1〕で表される有機リン化合物の具体例としては、前記式(a)〜(c)で示される化合物が挙げられる。
これらのなかでも、有機リン化合物の安定性、リン原子含有率の高さ、繊維製造工程での有機リン化合物の揮発、飛散の少なさ、繊維物性への影響等を総合的に判断すると、式(a)で示される化合物である、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドのイタコン酸付加体 (以下、HCA-IAと略す。)が好ましい。
上記のような有機リン化合物をポリエステルに共重合する方法としては、ポリエステルを製造する際に有機リン化合物をそのまま反応系に添加して反応させる方法が工業的に好ましいが、有機リン化合物をエチレングリコール、メタノール等と反応させてエステル体の形にしてから反応系に添加してもよい。
本発明のポリエステル樹脂は、ジエチレングリコール(以下、DEGと略す。)の含有量が5モル%以下であることが必要である。ポリエステル樹脂中のDEG含有量が5モル%を超えると、この樹脂を加工して得られる繊維は耐光性が劣るものとなり、染色物が色あせするといった現象が起こりやすくなるため好ましくない。
一般に、ポリエステル樹脂中のDEG含有量は、スルホン酸塩基含有成分の共重合割合が増すに従い、その酸触媒作用によって増加する傾向にある。また、有機リン化合物の共重合割合が増すと、ポリエステル樹脂の重合性が低下し、目標粘度に達するまでの反応時間が長くなるため、DEG含有量は高くなる傾向にある。
このDEG含有量は、スルホン酸塩基含有成分や有機リン化合物の添加時期、添加後の反応条件により制御することが可能であり、5モル%以下とするためには、PETオリゴマーを重合反応缶に移送し、必要に応じて5〜15質量%のエチレングリコール(以下、EGと略す。)を加えて解重合を行なった後、250℃以下の温度条件下でこれらの化合物を添加し、その後15分以内に減圧を開始して重縮合反応を開始することが好ましい。
本発明のポリエステル樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記以外に少量の共重合成分が含まれていてもよい。このような共重合成分の例としては、イソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分、1,3-プロピレングリコール、1,4ーシクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、ポリエチレングリコール等のグリコール成分、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸成分が挙げられる。
また、本発明のポリエステル樹脂には、ヒンダードフェノール系及び/又はリン系抗酸化剤がポリエステルに対して0.05〜1.0質量%、特に0.07〜0.7質量%となるように添加されていることが好ましい。抗酸化剤の添加量がポリエステルに対して0.05質量%未満になると、ポリエステルの熱劣化を抑制する効果が下がる傾向にあり、溶融紡糸時にパック圧の上昇や糸切れの原因となりやすいので好ましくない。一方、1.0質量%を超えると、重縮合反応速度の低下やポリエステルの着色の原因となりやすいので好ましくない。
ヒンダードフェノール系抗酸化剤の例としては、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。
また、リン系抗酸化剤の例としては、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスルトール-ジホスファイト、ビス(3-メチル-1,5-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジフェニルホスファイトなどのホスファイト系抗酸化剤とジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウムなどのホスホン酸エステル系抗酸化剤が挙げられる。
上記のリン系抗酸化剤のうち、ホスファイト系抗酸化剤は、ヒンダードフェノール系抗酸化剤と併用することが好ましい。ホスホン酸エステル系抗酸化剤は、単独で使用してもよく、また、ヒンダードフェノール系抗酸化剤と併用してもポリエステルの熱劣化を抑制する効果を発揮する。
さらに、本発明のポリエステル樹脂は、窒素雰囲気下、10℃/分で昇温したときの熱質量変化開始温度が410℃以上である必要があり、その上限は416℃程度である。熱質量変化開始温度とは、ポリエステルを加熱していくと熱分解などによって質量が段階的に減少するが、その変化が始まる温度を示し、JIS K 7120に準じて求めるものである。この温度が410℃未満になると、ポリエステル樹脂が熱分解を起こしやすく、そのため溶融紡糸時に異物等の発生が多くなり、パック圧の上昇や糸切れの原因となる。また、重合反応缶や紡糸ラインのデッドスペースにポリエステル樹脂が残ったまま高温にさらされた場合、短期間で樹脂が熱劣化して炭化し、次バッチの生産時に炭化物がポリマー中に異物として混入し、フィルター詰まりの原因となったり、紡糸ラインが閉塞するといったトラブルが発生し、操業性が著しく低下する。
ポリエステル樹脂の熱質量変化開始温度を410℃以上とするには、例えば、前記したように、ヒンダードフェノール系及び/又はリン系抗酸化剤をポリエステルに対して好ましくは0.05〜1.0質量%添加すればよい。また、スルホン酸塩基含有成分の共重合量を全酸成分に対して0.5〜5モル%の範囲内で少なくすることも好ましい。
次に、本発明のポリエステル繊維は、少なくとも上記した本発明のポリエステル樹脂が繊維の表面層を形成するように溶融紡糸して得られる繊維である。すなわち、本発明のポリエステル繊維は、その全てが本発明のポリエステル樹脂で形成されていてもよいが、少なくとも繊維の表面層が本発明のポリエステル樹脂で形成されていれば、繊維にカチオン染料に対する可染性、難燃性、耐光性等の性能を付与することができる。
したがって、繊維の表面層が本発明のポリエステル樹脂で形成されていれば、他のポリマーとの複合繊維としてもよく、例えば、芯鞘構造とし、その鞘部が本発明のポリエステル樹脂で形成されている繊維は、本発明のポリエステル繊維に含まれる。
また、ポリエステル繊維の形態は、長繊維としても短繊維としてもよく、必要に応じて、捲縮加工、仮撚加工、薬液による処理等の後加工を施して用いることもできる。
本発明のポリエステル樹脂とポリエステル繊維は、例えば次のような方法により製造することができる。
まず、温度230〜250℃で窒素ガス制圧下、ビス-(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート及び/又はその低重合体(以下、PETオリゴマーと略称する。)の存在するエステル化反応槽に、グリコール成分/酸成分のモル比1.1〜2.0のEGとテレフタル酸(以下、TPAと略す。)のスラリーを添加し、滞留時間7〜8時間でエステル化反応物を連続的に得る。
次に、このPETオリゴマーを重合反応缶に移送し、必要に応じて5〜15質量%のEGを加えて解重合を行う。これに、スルホン酸塩基含有成分、有機リン化合物、ヒンダードフェノール系及び/又はリン系抗酸化剤を所定量添加し、その後15分以内に重縮合反応を開始し、反応開始後に重合反応缶の温度を260〜280℃に昇温する。重縮合反応は、0.01〜13.3hPaの減圧下にて、所定の極限粘度となるまで行う。
重縮合反応は、通常、触媒の存在下に行われ、触媒としては従来一般に用いられているアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、コバルト等の金属化合物が好ましく用いられるが、中でもゲルマニウム化合物は、得られたポリエステル樹脂が明度の高いものとなるため好適である。
また、スルホン酸塩基含有成分の添加と同時か、あるいはそれ以前にアルカリ金属化合物を添加すると、耐熱性を低下させるDEGの副生を抑制することが可能になる。アルカリ金属化合物の例としては、水酸化物、有機カルボン酸塩、アルコラート、無機弱酸塩などがあり、具体的にはナトリウム、カリウム、リチウムの水酸化物、蟻酸塩、酢酸塩等の脂肪族カルボン酸塩、メチラート、エチラート、ブチラート、炭酸塩、重炭酸塩、ホウ酸塩などを挙げることができる。中でも、リチウム塩は、DEG副生の抑制と同時に、ポリエステル樹脂の耐熱性を向上させる効果も有しており、好適である。
上記アルカリ金属化合物の添加量は、ポリエステル中に不溶の成分を生じさせないために、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して5×10−3モル以下とするのが好ましい。
なお、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、コバルト化合物、蛍光剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような顔料、酸化セリウムのような耐光剤等の添加物を含有させてもよい。
次に、得られたポリエステル樹脂を常法により乾燥し、通常の溶融紡糸機台に供給してポリエステルの融点より20℃以上高い温度で溶融紡糸し、1000〜4000m/分の速度で、未延伸糸又は半未延伸糸としていったん捲き取るか、あるいは、捲き取ることなく、引き続いて1.5〜3.5倍に延伸し、80〜180℃で熱処理を行い、目的の繊維を得る。
本発明のポリエステル樹脂は、スルホン酸塩基含有成分が共重合されており、繊維とした場合、カチオン染料に対して良好な染色性を示す。一般に、スルホン酸塩基共重合ポリエステルは、通常のポリエステルよりも溶融粘度が高いため、燃焼しやすいという欠点を有している。しかし、本発明のポリエステル樹脂は特定の有機リン化合物を含有しており、これが燃焼時にポリエステルの熱分解を促進して溶融落下を助長するため、優れた難燃性を示す。また、反応条件を適切に選択することにより、ポリエステル樹脂中のDEG含有量を抑制して耐光性に優れたものとすることができる。
さらに、窒素雰囲気下、10℃/分で昇温したときの熱質量変化開始温度を410℃以上とすることにより、本発明のポリエステル樹脂を用いて優れた性能を有するポリエステル繊維を操業性よく、安定して生産することが可能となる。
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、実施例及び比較例中の特性値の測定法は、以下のとおりに行った。
(a)極限粘度(〔η〕)
フェノールとテトラクロロエタンとの等質量混合物を溶媒とし、温度20℃で測定した。
(b)リン原子含有量
リガク社製蛍光X線スぺクトロメーター3270型を用いて、蛍光X線法により定量した。
(c)DEG含有量(D%)
ポリエステルをアルカリ加水分解後、ガスクロマトグラフ法によりEGとDEGのモル数を定量し、次式により算出する。
D%=〔DEGのモル数/(EGのモル数+DEGのモル数)〕×100
(d)熱質量変化開始温度
セイコー電子社製示差熱質量同時測定装置TG/DTA220を用い、ペレットを乾燥(130℃、減圧下12時間)した後、約2mgとなるようにカットし、カットしたペレット8〜10mgを直径5mmのオープンサンプルパンに入れ、これを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で600℃まで昇温したときの熱質量曲線を測定し、JIS K 7120に従って熱質量変化開始温度を求めた。
(e)パック圧評価
常法によりポリエステルをペレット化して乾燥した後、通常の溶融紡糸装置を用いて、紡糸温度300℃、吐出量39.6g/分で、ノズルパック内に装着された直径100mm、目開き2000#のフィルターにより濾過し、直径0.25mm、L/D=2の孔を36個有するノズルから紡出して3200m/分の速度で半未延伸糸を捲き取る。この条件で7日間の操業を行い、パック圧の上昇具合を観察し、昇圧速度200kPa/日以下を合格とした。
(f)糸強度
(e)で得た半未延伸糸を延伸機に供給し、80℃で予熱した後、温度150℃のヒートプレートに接触させながら1.5倍に延伸、熱処理して捲き取り83dtex/36Fのフィラメントヤーンを得る。このフィラメントヤーンを50cmの試料とし、オリエンティック社製テンシロンRTC-1210型を用いて50cm/分の速度にて引張試験を行い、そのストレス−ストレイン曲線から求めた。糸強度3.0cN/dtex以上を合格とした。
(g)繊維の染色性
(f)のフィラメントヤーンを筒編みし、60℃で20分の精錬を行った後、下記の条件下で130℃で60分染色して風乾した。次に小型ピンランラーを用いて150℃で1分の熱セットを行った後、4枚重ねのサンプル片を作成し、そのサンプルの色調L値をミノルタ社製色彩色差計CR-100型で測定した。
L値が低いほど繊維が濃色に染色されていることを示し、40以下を合格とした。
染料 アストラゾンブルー 0.5%owf
均染剤 酢酸 0.2mL/L
酢酸ナトリウム 0.2g/L
浴比 1:50
(h)難燃性
JIS K 7201に準拠してLOI値(限界酸素指数)を測定し、28以上のものを合格とした。
(i)耐光性
JIS L 0841に準拠して染色耐光堅牢度を測定し、4級以上のものを合格とした。
(実施例1)
PETオリゴマーの存在するエステル化反応缶にTPAとEGとのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.1MPaG、滞留時間8時間の条件で、エステル化反応を行い、反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。
このPETオリゴマー47.3kgを重縮合反応缶に移送した後、EG5.4kgを添加して40分間解重合を行う。重縮合反応缶内の温度が240℃の時点で、HCA-IAの濃度が63質量%に調製されたEG溶液7.4kg(HCA-IAがポリエステルの全酸成分に対して4.3モル%となる量に相当する)、二酸化チタンの濃度が30質量%に調製されたEGスラリー0.6kg(二酸化チタンが生成するポリマーに対し0.4質量%となる量に相当する)、二酸化ゲルマニウムの濃度が1質量%に調製されたEG溶液0.7kg(二酸化ゲルマニウムがポリエステルの全酸成分1モルに対して2.5×10−4モルとなる量に相当する)、ヒンダードフェノール系抗酸化剤(イルガノックス245:チバスペシャリティケミカルズ社製)の濃度が20質量%に調製されたEGスラリー0.7kg(イルガノックス245が生成するポリマーに対し0.3質量%となる量に相当する)、ホスファイト系抗酸化剤(アデカスタブPEP-36:旭電化工業社製)の濃度が20質量%に調製されたEGスラリー0.3kg(アデカスタブPEP-36が生成するポリマーに対し0.1質量%となる量に相当する)、酢酸リチウムの濃度が5質量%に調製されたEG溶液0.8kg(酢酸リチウムがポリエステルの全酸成分に対して1.5×10−3モルとなる量に相当する)、及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸のEGエステル(以下、SIPGと略す。)の濃度が35質量%に調製されたEG溶液3.6kg(SIPGがポリエステルの全酸成分に対して1.5モル%となる量に相当する)をそれぞれ添加した。
その5分後に減圧を開始し、60分後に1.2hPa以下とした。反応缶内の温度は減圧開始後30分間で275℃まで昇温させた。この条件で、攪拌しながら3時間重縮合反応を行った後、常法により払い出してペレット化した。
次に、このポリエステル樹脂ペレットを常法により乾燥した後、通常の溶融紡糸装置を用いて紡糸温度295℃で溶融紡糸し、3200m/分の速度で半未延伸糸を捲き取った。この半未延伸糸を延伸機に供給し、80℃で予熱した後、温度150℃のヒートプレートに接触させながら1.5倍に延伸、熱処理して捲き取ることにより、83dtex/36Fのポリエステルフィラメントヤーンを得た。
(実施例2〜6、比較例1〜6)
スルホン酸塩基含有成分の種類及び共重合量、有機リン化合物の種類及び共重合量、抗酸化剤の種類及び添加量を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様に行った。
(比較例7)
実施例1と同様にしてエステル化させたPETオリゴマー46.2kgを重縮合反応缶に移送した後、EG5.3kgを添加して40分間解重合を行う。重縮合反応缶内の温度が240℃の時点で、HCA-IAの濃度が63質量%に調製されたEG溶液8.1kg(HCA-IAがポリエステルの全酸成分に対して4.5モル%となる量に相当する)、二酸化チタンの濃度が30質量%に調製されたEGスラリー0.7kg(二酸化チタンが生成するポリマーに対し0.4質量%となる量に相当する)、二酸化ゲルマニウムの濃度が1質量%に調製されたEG溶液0.7kg(二酸化ゲルマニウムがポリエステルの全酸成分1モルに対して2.5×10−4モルとなる量に相当する)、イルガノックス245の濃度が20質量%に調製されたEGスラリー1.5kg(イルガノックス245が生成するポリマーに対し0.6質量%となる量に相当する)、アデカスタブPEP-36の濃度が20質量%に調製されたEGスラリー0.5kg(アデカスタブPEP-36が生成するポリマーに対し0.2質量%となる量に相当する)、酢酸リチウムの濃度が5質量%に調製されたEG溶液0.8kg(酢酸リチウムがポリエステルの全酸成分に対して1.5×10−3モルとなる量に相当する)、及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸のEGエステル(以下、SIPGと略す。)の濃度が35質量%に調製されたEG溶液8.4kg(SIPGがポリエステルの全酸成分に対して3.5モル%となる量に相当する)をそれぞれ添加した。
その25分後に減圧を開始し、60分後に1.2hPa以下とした。反応缶内の温度は減圧開始後30分間で275℃まで昇温させた。この条件で、攪拌しながら3時間重縮合反応を行った後、常法により払い出してペレット化した。
次に、このポリエステル樹脂ペレットを常法により乾燥した後、実施例1と同様の方法で紡糸、延伸を行い、83dtex/36Fのフィラメントヤーンを得た。
実施例1〜6及び比較例1〜7で得られたポリエステル樹脂組成物の各特性値と、フィラメントヤーンの各物性、評価結果を表1にまとめて示す。
Figure 2005162817
表1から明らかなように、実施例1〜6では、繊維化するのに適した極限粘度を有し、DEG含有量も低いポリエステル樹脂が得られた。これらのポリエステル樹脂の熱質量変化開始温度を測定した所、いずれも410℃以上であった。その結果、パック圧試験の結果も良好で、染色性、難燃性及び耐光性の良好な繊維を操業性よく得ることができた。
一方、比較例1では、SIPGの共重合量が少なすぎたため、得られた繊維は染色性に劣るものであった。
比較例2では、SIPGの共重合量が多すぎたため、ポリエステルの溶融粘性が高くなり、繊維化するのに十分な極限粘度を有する樹脂が得られず、そのため紡糸時に糸切れが多発し、繊維を得ることができなかった。
比較例3では、HCA-IAの共重合量が少なすぎたため、ポリエステル樹脂中のリン含有量が少ないものとなり、得られた繊維のLOI値は目標値に達せず、難燃性に劣るものであった。
比較例4では、HCA-IAの共重合量が多すぎたため、ポリエステルの重合性が悪くなり、繊維化するのに十分な極限粘度を有する樹脂が得られず、そのため紡糸時に糸切れが多発し、繊維を得ることができなかった。
比較例5では、抗酸化剤の添加量が少なすぎたため、ポリエステル樹脂の熱質量変化開始温度が低く、耐熱性に劣るものであり、パック圧の上昇速度が速かった。
比較例6では、SIPGやHCA-IA添加から重縮合反応開始までの時間が長く、反応開始温度が高くなったため、ポリエステル樹脂中のDEG含有量が高くなり、得られた繊維の耐光性は不十分なものとなった。

Claims (4)

  1. ポリエステルを構成する繰り返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であり、スルホン酸塩基含有成分がポリエステルの全酸成分に対して0.5〜5モル%、及び下記一般式〔1〕で示される有機リン化合物がポリエステル中のリン原子の含有量として5000〜15000ppmとなるよう共重合されており、ジエチレングリコールの含有量が5モル%以下のポリエステルであって、かつ、窒素雰囲気下、10℃/分で昇温したときの熱質量変化開始温度が410℃以上であることを特徴とするポリエステル樹脂。
    Figure 2005162817
  2. 有機リン化合物は、下記式(a)〜(c)で示される化合物から選択されるものであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂。
    Figure 2005162817
  3. ヒンダードフェノール系及び/又はリン系抗酸化剤がポリエステルに対して0.05〜1.0質量%となるように添加されていることを特徴とする請求項1又は2記載のポリエステル樹脂。
  4. 少なくとも繊維の表面層が請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂で形成されていることを特徴とするポリエステル繊維。
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