しかしながら、図17に示す上記従来の圧力転写による研磨方法が行われた場合、研磨領域51の外周に欠陥領域52が発生する。例えば図17に示すように、研磨領域51の断面を見たときに、完全研磨領域51すなわち所望の精度で研磨できる領域51と、その両端に欠陥領域52が存在する。単位加工痕53の重ね合わせによって研磨領域51が形成されるので、その重ね合わせが不完全になる両端に単位加工痕53の幅に概略相当する幅を持つ欠陥領域52が形成される。
光学素子成形用金型50において、この欠陥幅52以上の有効域外の幅を光学素子に設定する必要がある。一般に、光学素子成形用金型50の有効域外の幅と、成形される光学素子の有効域外の幅とは、略同等とされている。ここで、光学素子を形成する材料を削減してコストダウンを行うために、有効域外の幅、特に副走査方向の有効域外の幅を小さくすることが望まれる。しかし、この有効域外の幅は、成形技術からの制約も考慮して決める必要がある。光学素子が成形されるときに、光学素子の端の方に成形転写のエラーがどうしても発生する。その幅は、片側で0.7〜1mm程度であるため、有効域外の幅も片側で1mm程度に設定されることが望ましい。従って、研磨による欠陥幅52も片側で1mm以下にすることが望まれている。従来のものは、成形転写のエラーの幅よりも、研磨による欠陥幅52の方が大きいため、研磨欠陥幅52により、光学素子の有効域外の幅が決定されており、その分の光学素子を形成する材料が多く使用されていたため、コストアップの原因となっていた。
また、図18に示す上記従来の自由曲面を有する金型の加工方法及び自由曲面を有した金型(特許文献1、特開2001−79742号公報)においては、金型面内に欠陥領域いわゆる有効域外は、発生されないものとされるが、まず、金型の曲面の延長面上に精度良く合うように案内部材66を形成する手間がかかるという問題があった。
また、案内部材66の材料は、何れの材料のものが選ばれてもよいというわけではない。例えば、その材料の切粉が研摩工具68に付着した場合、その切粉が本来の金型材料と異なるときには、研磨精度に悪影響を及ぼし、研磨精度が劣化されるということが懸念されていた。
さらに、金型の曲面と案内部材66との研磨量の差によって段差が生じて、その段差部のエッジに研磨工具68が接触すると、工具68に急激な負荷が加えられる。このことから、工具68にチッピングが発生されたり、工具68に傷が付けられたりされるというようなことが懸念される。このように、工具68は、ダメージを受けやすい。
また、金型エッジを研磨することにより、バリ等の大きな切粉が工具68の表面に付着する可能性が高い。このようにダメージを受けた工具68や、大きな切粉が付着した工具68で金型を加工すると、加工面に傷やスクラッチが発生したり、所望の形状精度が得られたりされないという不具合が生じる。
このようなことから、案内部材66の材料は、金型と同一の材料が望ましいが、そのような場合でも、加工面積が増え、それにより加工時間が長くなり、工具68の損耗が激しくなるといったことが懸念される。
さらに、金型駒部材62と、案内部材66とを繋ぐ「やとい部」の分の材料が余計に必要となるなどのコスト的なデメリットが発生する。特に自由曲面63や非球面形状などの複雑な形状となると、「やとい部」の製作は、非常に困難なものとされてしまう。
また、図19に示す上記従来の研磨方法(特許文献2、特開2002−66888号公報)においては、予め研磨軌跡70Aに基づいてレンズ71の外周部71aの研磨除去形状の誤差を予測し、これを補正する方法が開示されているが、予測した誤差を補正するために、想定した研磨工具72よりも、かなり小さい研磨工具72が用いられていなければ、その誤差を完全に補正するということは困難なこととされる。特に、図19(b)に示される研磨欠陥を補正することは、いっそう困難なものと推測される。ここでは、対象とする研磨欠陥幅70w(図19(a))いわゆる有効域外の幅は、片側で3mmとされている。
また、図20に示す上記従来の研磨工具の製造方法、研磨加工方法、研磨工具及び光学素子またはその金型(特許文献3、特開2001−138196号公報)においては、欠陥領域80f(図20(b)),80p(図20(c))いわゆる有効域外を小さくするために、研磨工具部82(図20(a))の半径を小さくすることが記載されているが、研磨工具部82の半径を小さくさせて工具接触面を小さなものとさせると、単位加工痕の重ね合わせを密にさせる必要がある。このため、ツールパスが長くなり、研磨にかけられる時間は、長時間とされることが懸念されていた。このことから、必要以上に研磨工具81(図20(a))の半径を小さくするということは、得策といえない。また、加工面の曲率が0.01/mm以上、つまり凹面で半径100mm以下であるときに、欠陥幅80f,80pを片側で1mm以下とさせることは、比較的困難なこととされる。
本発明は、以上の問題点を鑑みて、光学素子成形用金型の有効域外の幅を例えば片側で1mm以下に低減化させることで、成形される光学素子の有効域外の幅を低減化させ、成形材料の使用量を削減化させると共に、研磨時間が極端に長時間とならないようにさせて、加工時間を短縮させ、その分の電力等のエネルギーを削減化させることで、低コスト化を図った研磨方法、光学素子成形用金型、光学素子、ならびに画像形成装置を提供することをその目的とする。
上記目的を達成するために、請求項1に記載の本発明は、球体または球体の一部の形状をした研磨工具と、該研磨工具が接する光学素子成形用金型の加工面との間に、荷重を発生させて該光学素子成形用金型を研磨する研磨方法において、前記加工面が凹面とされたときの該凹面の曲率を正、該加工面が凸面とされたときの該凸面の曲率を負としたときに、該前記加工面の副走査方向の最大曲率における最大除去深さでの研磨によって発生する欠陥幅と、前記研磨工具の径との関係を、前記光学素子成形用金型の研磨前に取得して、該副走査方向の許容される欠陥幅以下になるように、該研磨工具の該径を決定することを特徴とする研磨方法である。この構成によれば、研磨工具の径は、研磨による加工痕の幅と相関があり、加工痕の幅は、曲率が大きくなると大きくなり、また、除去深さが大きくなると大きくなることから、加工面の最大曲率における最大除去深さにおいての研磨工具の径と、欠陥幅との関係から、研磨工具の径を決定すると、所望の有効域外の幅以下で光学素子成形用金型が研磨される。
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の研磨方法において、研磨によって発生する前記欠陥幅と、前記研磨工具の前記径との関係を、前記光学素子成形用金型の研磨前に取得する方法として、前記加工面の前記副走査方向の前記最大曲率以上における前記最大除去深さ以上で研磨を行う予備実験から取得することを特徴とする研磨方法である。この構成によれば、光学素子成形用金型の研磨前に予備実験を実施することから、研磨によって発生する欠陥幅と、研磨工具の径との関係は、正確に取得されると共に、その対象を加工面の最大曲率における最大除去深さについての実験に絞ることができ、効率的である。また、必ずしも光学素子成形用金型加工面の最大曲率と等しい実験用ワークピースを用意する必要はなく、その最大曲率以上の曲率を持つ面で、光学素子成形用金型における最大除去深さ以上の研磨を行う予備実験から、研磨によって発生する欠陥幅と、研磨工具の径との関係を決定することで、度々、実験用ワークピースを用意する手間が省け、材料費の節減になる。
請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の研磨方法において、前記光学素子成形用金型の前記加工面に、研磨によって発生する前記副走査方向の前記欠陥幅を、やといを使用せずに片側で1mm以下とさせることを特徴とする研磨方法である。この構成によれば、やといを使用しないで有効域外の幅いわゆる欠陥幅を低減させることができるので、光学素子成形用金型の材料の量および材料費が削減される。また、副走査方向の欠陥幅が片側で1mm以下とされることにより、光学素子の成形転写のエラー部が発生する幅と、研磨による欠陥幅とが略同等となり、光学素子成形用金型の有効域外の幅は、片側で1mm以下に低減化される。
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の研磨方法において、球体または球体の一部の形状をした前記研磨工具の半径は、4mm以上12mm以下とされ、且つ該研磨工具の工具材料のヤング率は、100MPa以上とされていることを特徴とする研磨方法である。この構成によれば、球体または球体の一部の形状をした研磨工具の半径が4mm以上12mm以下とされ、且つ工具材料のヤング率が100MPa以上の研磨工具を用いて研磨を行うから、研磨による欠陥幅を1mm以下にすることができる。光学素子成形用金型の副走査方向に沿った有効域外の幅いわゆる欠陥幅は、光学素子成形用金型の副走査方向の両端部において、各々1mm以下となる。このような数値となるように、光学素子成形用金型を研磨する。研磨工具の半径が12mm以下という小さい数値に設定されてあれば、光学素子成形用金型と、研磨工具、工具軸、スピンドル軸などとの干渉が防止される。また、研磨工具の半径が4mm以上という大きい数値に設定されてあれば、研磨工具の半径が小さくなり過ぎて、ツールパスの増加によって研磨時間が長時間になるということは防止される。
請求項5に記載の本発明は、請求項3又は4に記載の研磨方法において、前記光学素子成形用金型の前記加工面の前記副走査方向の曲率は、−0.05/mm〜0.05/mmとされていることを特徴とする研磨方法である。この構成によれば、光学素子成形用金型の加工面の副走査方向の曲率を−0.05/mm〜0.05/mmとすることで、通常使用される光学素子成形用金型の曲率の範囲を網羅し、必要な光学性能を実現できる光学素子を成形することが可能となる。また、研磨による欠陥幅を1mm以下にすることが可能な光学素子成形用金型が提供される。
請求項6に記載の本発明は、請求項1〜5の何れか1項に記載の研磨方法において、研磨中に、前記研磨工具は、前記光学素子成形用金型のエッジ部に接触しないことを特徴とする研磨方法である。この構成によれば、エッジ部によって研磨工具がダメージを受けるということは防止される。また、エッジ部を研磨することによってバリ等の大きな切粉が工具表面に付着し、大きな切粉により、加工面にスクラッチが発生されたり、除去深さ精度が劣化されたりするといったことは防止される。
請求項7に記載の本発明は、請求項1〜6の何れか1項に記載の研磨方法において、前記光学素子成形用金型の主走査方向に対し、前記研磨工具の工具軸が角度をなすことを特徴とする研磨方法である。この構成によれば、工具軸と、光学素子成形用金型との干渉が防止される。特に、主走査方向に沿った加工面形状が凹面とされた光学素子成形用金型と、工具軸との干渉が防止される。
請求項8に記載の本発明は、請求項7に記載の研磨方法において、前記光学素子成形用金型の前記主走査方向に対する前記工具軸のなす前記角度は、前記研磨工具と、該光学素子成形用金型とが互いに干渉しない範囲の角度とされ、且つ小さい角度とされていることを特徴とする研磨方法である。この構成によれば、球体または球体の一部の形状をした研磨工具による加工痕の副走査方向の長さは、短いものとなり、副走査方向の研磨による欠陥幅は、小さいものとなる。
請求項9に記載の本発明は、請求項1に記載の研磨方法において、前記光学素子成形用金型の前記加工面における前記副走査方向の有効域外で前記研磨工具を切り返すときのツールパスの位置は、該有効域外の該副走査方向の幅中央よりも外側とされていることを特徴とする研磨方法である。この構成によれば、加工面の副走査方向の形状が凹面とされたものにおいては、有効域外の研磨欠陥内側部の幅は、除去深さが大きくなると共に増加する。このことから、副走査方向の有効域外で研磨工具が切り返すときのツールパスの位置は、有効域外の副走査方向の幅中央よりも外側とさせることで、所望の有効域外の幅以下で光学素子成形用金型を研磨することができる。
請求項10に記載の本発明は、請求項1〜9の何れか1項に記載の研磨方法により研磨加工が行われたことを特徴とする光学素子成形用金型である。この構成によれば、有効域内が高精度に仕上げられた光学素子成形用金型の提供が可能とされる。
請求項11に記載の本発明は、請求項10に記載の光学素子成形用金型が用いられて形成されたことを特徴とする光学素子である。この構成によれば、レンズなどの光学素子材料の量と、材料費とが削減された光学素子の形成が可能となる。
請求項12に記載の本発明は、請求項11に記載の光学素子が搭載されたことを特徴とする画像形成装置である。この構成によれば、レンズなどの光学素子材料の量と、材料費とを削減化した光学素子が画像形成装置に搭載されるから、低コストで環境負荷の小さい画像形成装置が提供されることとなる。
請求項1に記載の本発明によれば、研磨工具の径は、研磨による加工痕の幅と相関があり、加工痕の幅は、曲率が大きくなると大きくなり、また、除去深さが大きくなると大きくなることから、加工面の最大曲率における最大除去深さにおいての研磨工具の径と、欠陥幅との関係から、研磨工具の径を決定すると、所望の有効域外の幅以下で光学素子成形用金型を研磨できる。
請求項2に記載の本発明によれば、光学素子成形用金型の研磨前に予備実験を実施することから、研磨によって発生する欠陥幅と、研磨工具の径との関係を、正確に取得することができると共に、その対象を加工面の最大曲率における最大除去深さについての実験に絞ることができ、効率的である。また、必ずしも光学素子成形用金型加工面の最大曲率と等しい実験用ワークピースを用意する必要はなく、その最大曲率以上の曲率を持つ面で、光学素子成形用金型における最大除去深さ以上の研磨を行う予備実験から、研磨によって発生する欠陥幅と、研磨工具の径との関係を決定することで、度々、実験用ワークピースを用意する手間が省け、材料費を節減させることができる。
請求項3に記載の本発明によれば、やといを使用しないで有効域外の幅いわゆる欠陥幅を低減させることができるので、光学素子成形用金型の材料の量および材料費を削減することができる。また、副走査方向の欠陥幅が片側で1mm以下とされることにより、光学素子の成形転写のエラー部が発生する幅と、研磨による欠陥幅とが略同等となり、光学素子成形用金型の有効域外の幅を片側で1mm以下に低減化させることが可能となる。
請求項4に記載の本発明によれば、球体または球体の一部の形状をした研磨工具の半径が4mm以上12mm以下とされ、且つ工具材料のヤング率が100MPa以上の研磨工具を用いて研磨を行うと、研磨による欠陥幅を1mm以下にすることができる。光学素子成形用金型の副走査方向に沿った有効域外の幅いわゆる欠陥幅は、光学素子成形用金型の副走査方向の両端部において、各々1mm以下となる。このような数値となるように、光学素子成形用金型を研磨することができる。研磨工具の半径が12mm以下という小さい数値に設定されてあれば、光学素子成形用金型と、研磨工具、工具軸、スピンドル軸などとの干渉を防止することができる。また、研磨工具の半径が4mm以上という大きい数値に設定されてあれば、研磨工具の半径が小さくなり過ぎて、ツールパスの増加によって研磨時間が長時間になるということを防止することができる。
請求項5に記載の本発明によれば、光学素子成形用金型の加工面の副走査方向の曲率を−0.05/mm〜0.05/mmとすることで、通常使用される光学素子成形用金型の曲率の範囲を網羅し、必要な光学性能を実現できる光学素子を成形することが可能となる。また、研磨による欠陥幅を1mm以下にすることが可能な光学素子成形用金型を提供することができる。
請求項6に記載の本発明によれば、エッジ部によって研磨工具がダメージを受けるということを防止することができる。また、エッジ部を研磨することによってバリ等の大きな切粉が工具表面に付着し、大きな切粉により、加工面にスクラッチが発生されたり、除去深さ精度が劣化されたりするといったことを防止できる。
請求項7に記載の本発明によれば、工具軸と、光学素子成形用金型との干渉を防ぐことができる。特に、主走査方向に沿った加工面形状が凹面とされた光学素子成形用金型と、工具軸との干渉を防止することができる。
請求項8に記載の本発明によれば、球体または球体の一部の形状をした研磨工具による加工痕の副走査方向の長さを短くすることができ、副走査方向の研磨による欠陥幅を小さくすることができる。
請求項9に記載の本発明によれば、加工面の副走査方向の形状が凹面とされたものにおいては、有効域外の研磨欠陥内側部の幅は、除去深さが大きくなると共に増加する。このことから、副走査方向の有効域外で研磨工具が切り返すときのツールパスの位置は、有効域外の副走査方向の幅中央よりも外側とさせることで、所望の有効域外の幅以下で光学素子成形用金型を研磨できる。
請求項10に記載の本発明によれば、有効域内が高精度に仕上げられた光学素子成形用金型を提供することができる。
請求項11に記載の本発明によれば、レンズなどの光学素子材料の量と、材料費とを削減させた光学素子を形成することできる。
請求項12に記載の本発明によれば、レンズなどの光学素子材料の量と、材料費とを削減化した光学素子が画像形成装置に搭載されるから、低コストで環境負荷の小さい画像形成装置を提供することができる。
以下、本発明に係る研磨方法、光学素子成形用金型、光学素子、ならびに画像形成装置の実施形態を図面を参照して説明する。研磨が行われるときの加工装置の一例として、図1に示す研磨装置9が用いられた。回転する球体または球体の一部からなる形状の研磨工作治具1が、直動スライド3を兼ねたスピンドルに取り付けられている。荷重発生機構部5により直動スライド3に所定の荷重が与えられ、その荷重が研磨工具1に伝達されて、工具1と、工作物7の加工面7aとの間に荷重が発生する。
発生された荷重は、荷重センサ4によって検知される。その荷重が所定の荷重となるように、制御部(図示せず)から荷重発生機構部5へ信号などの指令が出される。不図示の制御部として、例えばパソコン(図示せず)などが挙げられる。
前記工具1は、前記直動スライド3に設けられた工具軸2に、回動可能に装着されている。また、前記荷重発生機構部5は、前記直動スライド3、前記荷重センサ4などを備えるものとして構成されている。荷重発生機構部5は、これを支えるコラム6に装備されている。
工作物7に研磨加工が行われるときに、工作物7は、X軸、Y軸、Z軸、及び、X軸、Y軸と平行な回転軸である他の軸(図示せず)や、別の軸(図示せず)に沿って動かされる。この動きにより、工作物7の加工面7aの法線は、工具荷重負荷方向と一致される。このように、研磨装置9は、法線制御が可能なものとされている。工作物7は、これをX軸、Y軸、Z軸に沿って移動可能な3軸直動テーブル8上に固定される。工作物7として、光学素子成形用金型7が用いられている。工作物7の加工面7aが研磨されることにより、光学素子成形用金型7の加工面7aが仕上げられる。
図2は、工作物の被加工面を示す説明図である。図2に示すように、所望の設計形状7dと、被加工面7bの研磨前の形状測定結果7cとに、誤差が見られる。その誤差から各加工点における除去量または除去深さを決定する。対象とする工作物7の被加工面7bを加工する前に、この被加工面7bと同じ形状をした材料を加工することにより、除去量または除去深さと、加工条件との関係を事前につかんでおく必要がある。この関係について次式(1)で示すようなプレストンの経験則が知られている。
δ=k×P×V×t …(1)
(δ;除去量,k;比例定数,P;圧力,V;工具と加工点の相対速度(工具周速),t;滞留時間)
これにより、各加工点における除去量または除去深さに対して加工条件を決めることができる。ここでは、δは、除去深さ、Pは、荷重と考えても差し支えない。一般的に、比例定数kは、工作物の材質や、研磨工具により決まる定数とされている。
図3(a)は、光学素子成形用金型を示す平面図であり、光学素子成形用金型の加工面を真上から見た状態を示すものである。図3(b)は、研磨工具が用いられて光学素子成形用金型に研磨加工が行われている状態を示す説明図である。
光学素子成形用金型10の長手方向が、光学素子成形用金型10もしくは研磨工作治具1Bの主走査方向Xとされ、主走査方向Xに直交し且つ光学素子成形用金型10の加工面10aもしくは被加工面10bに略沿った方向が、光学素子成形用金型10もしくは研磨工作治具1Bの副走査方向Yとされる。光学素子成形用金型10に研磨加工が行われる前の面状態が被加工面10bとされ、光学素子成形用金型10に研磨加工が行われた後の面状態が加工面10aとされる。光学素子成形用金型10の加工面10aは、光学素子が精度よく形成されるための成形転写面10aとされる。
研磨加工が行われるときに、ツールパスTPは,副走査方向Yに送り、主走査方向Xにピックするという動作とされている。加工面10aには、金型10が用いられて成形される光学素子の有効域に対応した有効域10eと、金型10が用いられて成形される光学素子の有効域外に対応した有効域外10fとが存在する。光学素子の副走査方向Yの幅を低減させるために、光学素子成形用金型10において、有効域外10fの副走査方向Yの幅10wを低減させることが望まれる。そのため、研磨によって発生する欠陥の副走査方向Yの幅10wを、許容される有効域外10fの副走査方向Yの幅10w以下のものとさせる。
研磨加工が行われるときに、光学素子成形用金型10に形成される有効域外10fの欠陥幅10wを小さくさせるために、図5(a)(b)に示す研磨工作治具1A,1Bの研磨工具1e,1fの半径1rを小さく設定することが有効である。研磨工具1e,1fの半径1rとは、球体状をしたものの半径1rを意味する。この半径1rを倍にした数値が工具径1sとされる。図5(a)に示すように、研磨工作治具1Aは、球体形状の研磨工具1eと、この研磨工具1eに回動可能に装着された工具軸2とを備えるものとして構成されている。また、図5(b)に示すように、研磨工作治具1Bは、球体の一部をした形状いわゆる異形球状の研磨工具1fと、この研磨工具1fに回動可能に装着された工具軸2とを備えるものとして構成されている。
研磨工具の工具半径を変化させて、平面を加工したときの欠陥幅の調査結果を図4に示す。研磨工具の工具半径は、多くの単位加工痕によって形成された欠陥幅と相関関係にある。例えば、光学素子成形用金型に許容される有効域外の副走査方向の幅が、片側で0.8mmとする。この場合、図4より、研磨による欠陥幅が前記幅数値(0.8mm)の範囲内に入るようにするためには、工具半径を20mm以下にすればよい。研磨加工によって発生する欠陥幅を片側で1mm以下に加工可能な研磨工具を選定すれば、光学素子成形用金型の加工面における有効域外の幅を片側で1mm以下にすることができる。このように、工具半径を小さくしていくと、欠陥幅は小さくなる。従って、工具半径が小さく設定された研磨工具を用いて、光学素子成形用金型の加工面に研磨加工を行う場合、「やとい」を使用する必要はない。
「やとい」を使用しないで、光学素子成形用金型10の有効域外10fの幅10wいわゆる欠陥幅10wを低減させることができるので、光学素子成形用金型10の材料の量および材料費を削減することができる。また、副走査方向Yの欠陥幅10wが片側で1mm以下とされることにより、光学素子の成形転写のエラー部が発生する幅と、研磨による光学素子成形用金型10の加工面10aの欠陥幅10wとが略同等となり、光学素子成形用金型10の有効域外10fの幅10wを、片側で1mm以下に低減化させることが可能となる。
工具半径(図4)を小さくしていくと、研磨工具1f(図3(b))により光学素子成形用金型10の加工面10aに残される単位加工痕が小さくなる。例えば図17を用いて詳しく説明すると、欠陥幅52が小さくされた光学素子成形用金型50を形成するために、研磨加工に用いられる研磨工具の工具半径を小さくすると、研磨工具により光学素子成形用金型50の加工面50aに残される単位加工痕53も小さくなる。単位加工痕53の重ね合せにより研磨面50aが形成されることから、単位加工痕53が小さくなると、それだけ多くの単位加工痕53を重ね合わせる必要が生じる。
図3に示す光学素子成形用金型(10)の有効域外(10f)の幅(10w)を狭めるためには、光学素子成形用金型(10)の研磨加工が行われるときに、単位加工痕(53)(図17)を小さくしなければならないので、ピック量(Px)(図3)を小さくし、光学素子成形用金型(10)の加工面(10a)における研磨工具(1f)(図3(b))の滞留時間を増加させて、単位加工痕の重ね合わせを多いものとさせる必要がある。
ピック量(Px)が小さくなるということは、例えば図3に示すツールパス(TP)が長くなることになり、さらに滞留時間も増加させるということになると、それだけ研磨時間が増加することになり、研磨加工に時間がかかる。このようなことから、ピック量(Px)を必要以上に小さくさせたり、光学素子成形用金型(10)の加工面(10a)における研磨工具(1f)の滞留時間を必要以上に増加させたりするということは、好ましいこととされない。
例えば図6に示すように、前記単位加工痕が小さくなって、ピック量が0.10mmから0.05mmとなると、研磨時間は、略2倍もかかることになる。研磨工程にかけられる時間が多くなると、光学素子成形用金型10を効率よく製造することができず、光学素子成形用金型10(図3)を製造するための電力費、人件費などがかかり、省エネルギー化され難いことから、光学素子成形用金型10の低コスト化を図ることは、困難なこととされる。また、これに伴って、光学素子成形用金型10が用いられて製造される光学素子の低コスト化も図られ難くなる。そのため、単位加工痕を必要以上に小さくさせないことが望ましい。このようなことから、研磨欠陥の副走査方向Yの幅10wは、目安として前記0.8mmとして設定された有効域外の幅10wの略1/2以上すなわち目安として0.4mm以上を確保させることが好ましい。
光学素子として、例えば平面だけの光学素子も挙げられるが、一般に、殆どの光学素子は、曲面状のものとして形成されている。レンズなどの曲面を有する光学素子を形成するために、例えば光学素子成形用金型20(図12)の成形転写面20aも、曲面形状に形成されている。近年、光学素子に高度な光学性能を要求されるために、この成形転写面20aは、自由曲面として形成されるようになりつつある。
光学素子成形用金型20(図12,図13)の研磨加工工程において、多くの単位加工痕によって形成された欠陥幅20v,20w(図13)は、光学素子成形用金型20の成形転写面20aの加工面曲率が大きくなると、大きなものとなる。その測定結果の一例を図7に示す。
図7は、加工面曲率と研磨欠陥幅との関係を示す図である。図7における測定結果は、研磨工具の工具半径が11.5mmのものを使用したときの結果とされている。ここでは、光学素子成形用金型の加工面が凹面とされたとき、凹面の曲率を正とする。また、光学素子成形用金型の加工面が凸面とされたとき、凸面の曲率を負とする。凸面よりも、凹面のほうが、欠陥幅は、大とされている。また、凹面のなかでも、曲率が大きいもののほうの欠陥幅が、大とされている。
また、図8に示すように、凹面における除去深さと、欠陥幅との関係は、除去深さが大きいと、欠陥幅が大きくなる。特に加工面が凹面においてこのような傾向が強い。図8は、加工面曲率が0.025/mmすなわち曲率半径40mmの凹面において、研磨工具の工具半径が10.5mmのものが用いられたときの除去深さと欠陥幅との関係を示すものとされている。図7および図8に示すように、加工面曲率と、除去深さとは、欠陥幅と相関があるものとされる。
対象とする光学素子成形用金型において、加工面の副走査方向の最大曲率および最大除去深さに対して、所望の欠陥幅になるように研磨工具径を決定する。即ち、加工面の副走査方向の最大曲率における最大除去深さでの、欠陥幅と研磨工具径との関係を、光学素子成形用金型の研磨前に取得して、研磨工具径を決定する。このような研磨工具が用いられることにより、所望の有効域外の幅以下で光学素子成形用金型を研磨できる。
これら関係が既に取得済みとされる場合においては、取得済みのデータを利用する。これら関係が未取得の場合には、予備実験として、光学素子成形用金型の加工面における副走査方向の最大曲率に相当するテストピース(図示せず)を用意して、最大除去深さの研磨を行うことによってデータを取得する。
量産用の光学素子成形用金型の研磨前に予備実験を実施することから、研磨によって発生する欠陥幅と、研磨工具の径との関係を、正確に取得することができると共に、その対象を加工面の最大曲率における最大除去深さについての実験に絞ることができ、効率的である。
例えば、図12に示す光学素子成形金型20の曲面状の成形転写面20aが仕上げられるときに、研磨工作治具が用いられて表面仕上加工が行われるが、そのときに用いられる研磨工作治具の球体または球体の一部の形状をした研磨工具の工具径の定め方について説明する。光学素子成形金型20の加工面曲率が自由曲面の場合とされていても、その近似曲率を求め、その最大曲率に対して工具径を決定する。
光学素子成形金型20(図13)の副走査方向Yの欠陥幅20wについて検討するときには、被加工面20bの副走査方向Yの近似曲率を求め、図7に基づき、研磨欠陥幅を決定する。近似曲率を求めるための近似線が、加工面20a(図12,図13)から大きくずらされるときには、研磨欠陥が生じる部分すなわち光学素子成形用金型20の副走査方向Yにおける端部20hの部分的な曲率を求め、その最大曲率に対して研磨工具の工具半径を決定する。
最大除去深さが明らかに副走査方向Yにおける端部20hとされない場合、すなわち最大除去深さが研磨による欠陥が生じる部分とされない場合においても、副走査方向Yにおける端部20hにおける最大除去深さから研磨工具の工具半径を決定する。
研磨加工が行われるときの光学素子成形金型20の被加工面20bにおける最大除去深さの定め方について説明すると、光学素子成形金型20の研磨加工前の被加工面20bを計測し、その計測値の誤差から研磨工程で補正する最大量に応じて、光学素子成形金型20の被加工面20bの最大除去深さを決定する。
また、必ずしも光学素子成形用金型20の被加工面20bの最大曲率と等しい実験用ワークピース(図示せず)を用意する必要はなく、その最大曲率以上の曲率を持つ面の研磨を行う予備実験から、研磨によって発生する欠陥幅と、研磨工具の径との関係を決定することも可能とされる。そのようにすれば、度々、実験用ワークピースを用意する手間が省け、材料費を節減させることができる。
例えば、光学素子成形用金型20の加工面20aの最大曲率と、最大除去深さとに対し、少なくとも一方が大きい条件で予備実験を行えば、実際の光学素子成形用金型20を研磨するときの欠陥幅20v(図12,図13),20w(図13)は、予備実験結果で得られた欠陥幅よりも小さいものとなる。このようなものから、研磨工具径を決定することも可能とされる。
研磨加工を行うときに、選定された研磨工具を使用することで、金型20(図12,図13)が用いられて成形される光学素子30(図11(a))の有効域30eに対応した有効域20e(図13)と、金型20が用いられて成形される光学素子30(図11(a))の有効域外30fに対応した有効域外20f(図13)とを加工面20aに備える光学素子成形用金型20が、効率よく形成される。
図12に示すように、光学素子成形用金型20の形状が、主走査方向Xに沿って凹形状の成形転写面20aとされている場合、図13に示すように、主走査方向Xに対し、研磨工作治具1Cの工具軸2に角度2aを持たせて研磨することにより、工具軸2と、光学素子成形用金型20との干渉を防止させている。
また、図14に示すように、球体の一部の形状をした研磨工具1gを備える研磨工作治具1Cにより、加工面に残された単位加工痕1tすなわち研磨痕1tは、工具軸方向uに沿って細長い形状のものとされている。このことから、副走査方向Y(図13)の研磨欠陥幅20wを小さくさせるためには、主走査方向Xに対する研磨工作治具1Cの工具軸2の角度2aを小さく設定するとよい(図13,図14)。これにより、図14(a)〜(c)に示すように、球体の一部の形状をした研磨工具1gによる研磨痕1tの副走査方向Yの長さを短くすることができる。
但し、前記角度2aは、光学素子成形用金型20(図13)と、研磨工作治具1Cの工具軸2やその他の研磨工作治具周りのもの(図示せず)とが干渉しない範囲に設定されることが必須とされる。図13,図14に示すように、研磨工作治具1Cは、球体の一部の形状をした研磨工具1gいわゆる特殊な異形球状の研磨工具1gと、この研磨工具1gに回動可能に装着された工具軸2とを備えるものとして構成されている。
研磨工作治具1Cを構成する研磨工具1gの径1sを決定するために、光学素子成形用金型20を想定した予備実験を行う。その実験結果から、研磨工作治具1Cを構成する研磨工具1gの工具径1sを決定する。
光学素子成形用金型20の加工面20aの最大曲率と最大除去深さとに対する研磨工具径1sの関係を求める。例えば、最大曲率が0.05/mm、最大除去深さが700nmとされる光学素子成形用金型20の研磨加工において、副走査方向Yの有効域外20fの欠陥幅20wが1mmとされるときには、図9に示す予備実験結果から、研磨工作治具1C(図13,図14)における研磨工具1gの工具半径1rは、12mm以下(図9)と選定される。また、欠陥幅20w(図13)が、有効域外20fの幅寸法とされた前記1mmの略1/2以上すなわち0.5mm以上とされるように、研磨工作治具1Cを構成する研磨工具1gの工具半径1rは、4mm以上(図9)と選定される。
このようにして、4mm以上12mm以下の範囲内の工具半径が定められる。前記数値の範囲内の工具半径1r(図14)とされた研磨工具1gを備える研磨工作治具1Cが選定される。研磨工具1gの工具半径1rが12mm以下という小さい数値に設定されてあれば、光学素子成形用金型20(図13)と、研磨工具1g、工具軸2、スピンドル軸などとの不用意な干渉を防止することができる。但し、工具径が小さくなり過ぎると、研磨工作治具(1C)の工具軸(2)と、光学素子成形用金型(20)の加工面(20a)との干渉が問題となることがある。その場合は、工具軸2と、加工面20aとの干渉が発生されない程度の大きさの寸法に、工具径1s(図14)を設定することが好ましい。また、研磨工具1gの半径1rが4mm以上という大きい数値に設定されてあれば、研磨工具1gの半径1rが小さくなり過ぎて、ツールパスの増加によって研磨時間が長時間になるということを防止することができる。
なお、過去の実加工の実績から、例えば図14に示す研磨工作治具1Cの研磨工具1gの工具径1sを決定することができれば、予備実験を行わなくてもよい。過去の実加工の実績がある場合、予備実験を省略することは、可能とされる。予備実験を省略することで、実験用ワークピースを用意する手間が省け、材料費の節減になる。
光学素子成形用金型20の加工面20aの副走査方向Yの曲率は、−0.05/mm〜0.05/mmの範囲内に定められるとよい。このような曲率の範囲は、通常使用される光学素子成形用金型の曲率の範囲をほぼ網羅するものとされる。従って、研磨による欠陥幅を1mm以下にすることが可能な光学素子成形用金型20を市場に提供することができる。また、このような光学素子成形用金型20が用いられて成形された光学素子30(図11(a))は、通常、必要な光学性能を実現することが可能なものとされる。
研磨工作治具1C(図14)を構成する研磨工具1gは、研磨中に球形状を概略維持することが必要なものとされている。図10は、工具材料のヤング率と欠陥幅との関係を示す図である。図10は、光学素子成形用金型20(図12,図13)の加工面20aの曲率が、0.05/mmのもので測定された結果とされている。図10に示す工具材料のヤング率と欠陥幅との関係から、球体または球体の一部の形状をした研磨工具の工具材料のヤング率は、約100MPa[1.00E+08(Pa)]以上とされることが好ましい。
このようなヤング率とされる工具材料は、例えばウレタン樹脂などの合成樹脂材料に木などの微細粉が混ぜ合わせられて固められることで形成される。研磨工作治具1A(図5(a))を構成する球状の研磨工具1eは、木からなる微細粉がウレタン樹脂に混ぜ合わせられ、このような工具材料が球体形状に固められることで形成されている。また、研磨工作治具1B(図5(b))を構成する球体の一部の形状をした研磨工具1fも、同じく木からなる微細粉がウレタン樹脂に混ぜ合わせられ、このような工具材料が球体の一部の形状に固められることで形成されている。また、研磨工作治具1C(図14)を構成する球体の一部の形状をした研磨工具1gも、同じく木からなる微細粉がウレタン樹脂に混ぜ合わせられ、このような工具材料が球体の一部の形状に固められることで形成されている。このような工具材料は、ヤング率が、160MPa[1.60E+08(Pa)]のものとされている。
例えば、ヤング率で約100MPa[1.00E+08(Pa)]よりも小さい工具材料が用いられて、研磨工作治具(1C)(図14)の研磨工具(1g)が形成された場合、研磨加工が行われるときに、研磨工作治具(1C)の研磨工具(1g)は、球形状を概略維持できずにつぶれた状態となる。このため、研磨工作治具(1C)(図13)の研磨工具(1g)と、加工面(20a)との接触幅(20v,20w)すなわち欠陥幅(20v,20w)は、極端に増加される。このように、研磨工作治具を構成する球体または球体の一部の材料のヤング率が、約100MPa[1.00E+08(Pa)]未満とされ(図10)、このような研磨工作治具が用いられて研磨が行われた場合、光学素子成形用金型(20)(図13)の加工面(20a)の欠陥幅(20v,20w)は、1mm以内に収められなくなる(図10)。
しかしながら、上記研磨工具1e,1f,1gの工具半径1rが、4mm以上12mm以下とされ、且つ、上記研磨工具1e,1f,1gの工具材料のヤング率が、100MPa[1.00E+08(Pa)]以上とされてあれば、研磨による欠陥幅を1mm以下にすることができる(図4,図9,図10)。光学素子成形用金型の副走査方向に沿った有効域外の幅いわゆる欠陥幅は、光学素子成形用金型の副走査方向の両端部において、各々1mm以下となる。このような数値となるように、光学素子成形用金型を研磨することができる。
光学素子成形用金型20(図12,図13)で成形される光学素子は、図11(a)に示す断面形状のレンズ30とされる。このレンズ30は、有効域30eと、この有効域30eの外側に位置する有効域外30fとを備えるものとして形成されている。また、図11(b)に示すように、光学素子40の本体41にリブ45が設けられ、リブ45により強度を補う光学素子40いわゆるレンズ40も使用可能とされる。このレンズ40は、有効域40eと、この有効域40eの外側に位置する有効域外40fとを備えるものとして形成されている。レンズ40の有効域外40fに、レンズ40の強度を向上させるリブ45が設けられている。
これらのレンズ30,40には、端の方に成形転写のエラー部30f,40fが形成されている。その幅30w,40wは、片側で0.7〜1mm程度とされている。このようなことから、例えば光学素子成形用金型20(図13)の有効域外20fの幅20v,20wも、片側で0.7〜1mm程度に設定されることが望ましい。
また、レンズ40(図11(b))の端にリブ45が形成され、リブ45の存在により、レンズ40に形状測定不可能な領域が存在する。このような領域の幅は、1mm以下になる。このことから、レンズ40を形成するための光学素子成形用金型の有効域外の幅は、1mm以下とした。
研磨工作治具1C(図13)が用いられて光学素子成形用金型20に研磨加工が行われるときの研磨工作治具1Cのツールパスについて説明する。図13に示す光学素子成形用金型20における研磨工作治具1Cのツールパスは、図3(b)に示す上記光学素子成形用金型10上における上記研磨工作治具1BのツールパスTPと略同じ動作のものとされる。研磨加工が行われているときに、研磨工作治具1C(図13)の研磨工具1gが、光学素子成形用金型20のエッジ部20hに接触しないように、研磨工作治具1Cのツールパスを設定する。
このようにすることで、研磨工具1gが光学素子成形用金型20のエッジ部20hに接触して、研磨工具1gがダメージを受けるということを防止することができる。また、光学素子成形用金型20のエッジ部20hが研磨されることにより、バリ等の大きな切粉が研磨工作治具1Cの研磨工具1gの表面に付着し、大きな切粉により、加工面20aにスクラッチが発生されたり、加工面20aにおける除去深さ精度が劣化されたりするといった不具合の発生を防止できる。
図15は、光学素子成形用金型の研磨領域の縦断面を示す説明図である。研磨領域25dには有効域25eが形成され、有効域25eの外側に有効域外25fが形成されている。図15に示す光学素子成形用金型25における研磨工作治具1Cのツールパスは、図3(b)に示す上記光学素子成形用金型10における上記研磨工作治具1BのツールパスTPと略同じ動作のものとされている。
また、図16は、凹面における除去深さと研磨欠陥内側部の幅および研磨欠陥外側部の幅を示す図である。副走査方向Y(図15)のツールパスの折返し位置いわゆるツールパスの切返し位置に対し、研磨領域25dの有効域外25fにおける研磨欠陥外側部25mの除去深さと、研磨欠陥内側部25nの除去深さとを比較すると、図16に示すように、除去深さが大きくなると、研磨欠陥内側部の幅が広くなる。このような傾向は、加工面の副走査方向の形状が凹面の場合に顕著に見られる。このようなことから、副走査方向Y(図15)の研磨領域25dの有効域外25fで、研磨工作治具1Cの研磨工具1gが折り返されるときのツールパスの位置は、有効域外25fの副走査方向Yの幅中央よりも外側とされるように設定する。これにより、所望の有効域外25fの幅以下で光学素子成形用金型を研磨することができる。
対象とする光学素子成形用金型25の加工面の最大曲率および最大除去深さに対して、所望の欠陥幅になるように研磨工具径を決定するためのデータを取るときに、研磨領域25dの有効域外25fにおける研磨欠陥内側部25nの幅と、研磨欠陥外側部25mの幅との関係を求める(図16)。その結果に基づいて、光学素子成形用金型25(図15)に対する研磨工作治具1Cのツールパスの折返し位置を決定する。また、これにより、副走査方向Yに沿った研磨工作治具1Cの研磨工具1gのNC走査幅3wが決定される。
以下、レンズ30(図11(a))を製造するための光学素子成形用金型20(図12,13)の研磨方法と、レンズ30(図11(a))が搭載された画像形成装置(図示せず)とについて具体的に説明する。
図14に示す上記研磨工作治具1Cを用いて、副走査方向Y(図13)の最大曲率が0.02/mmとされる光学素子成形用金型20の研磨加工を行った。光学素子成形用金型20の有効域外10fの副走査方向Yの幅20wは、1mmとされる。
研磨加工を行う前に、光学素子成形用金型20の形状を測定し、光学素子成形用金型20の理想形状からの誤差から、各加工点における除去深さを決定する。光学素子成形用金型20の副走査方向Yの端部20hにおいて、最大除去深さは、700nmとされた。例えば、図8,図16を用いて、除去深さを推察し決定してもよい。研磨条件は、荷重が3N(300gf)、工具回転数が100rpmとされた。また、研磨加工が行われるときに用いられる砥粒として、0.5μm径のダイヤモンドが用いられた。
前記最大除去深さと、前記各研磨条件と、前もってデータとして取得されていた比例定数とが定められたことにより、上記プレストンの経験則の式(1)を用いて、各加工点における滞留時間が決定される。前記各データは、例えば研磨装置9(図1)の制御装置(図示せず)に入力される。
図1に示す光学素子成形用金型7に代えて、図12および図13に示す光学素子成形用金型20が、研磨装置9(図1)の3軸直動テーブル8に装備される。また、図1に示す工具1に代えて、研磨工作治具1C(図13,図14)が、研磨装置9(図1)の直動スライド3を兼ねたスピンドルに取り付けられる。
研磨工作治具1C(図13)の工具軸2と、光学素子成形用金型20の主走査方向Xとのなす角度2aは、30度に設定した。光学素子成形用金型20の主走査方向Xに対し、30度の角度2aに研磨工作治具1C(図13)の工具軸2が設定されてあれば、研磨工作治具と、光学素子成形用金型20とが、干渉するということはない。
次に、曲率0.02/mmとされる光学素子成形用金型20の被加工面20bにおいて、700nmの除去深さの研磨を行うときに、研磨工作治具1Cを構成する研磨工具1gの工具半径1r(図14)と、欠陥幅20v,20w(図13)との関係は、図9に示したものから選定可能とされる。
光学素子成形用金型の欠陥幅を1mm以下とさせるために、図9に基づき、工具半径が12mmとされるものを選定した。工具半径1rが12mmとされるときの欠陥幅は、0.95mm程度とされる。工具半径が12mmのものを選定することにより、光学素子成形用金型20(図13)に許容される有効域外20fの幅20wは、約0.95mmとされ、光学素子成形用金型20の有効域外20fの幅20wは、1mm以下となる。また、図9に基づき、工具半径が12mmのものを選定することで、欠陥幅は、0.95mm程度とされ、光学素子成形用金型20(図13)の有効域外20fの幅20wは、前記1mmの略1/2以上すなわち0.5mm以上の数値に設定される。
このようにして、光学素子成形用金型20の研磨加工を実施した。必要以上に研磨時間を費やさずに光学素子成形用金型20の研磨加工工程が終了された。上記各設定を行ってから研磨加工を行うことで、有効域20e内が高精度に仕上げられた光学素子成形用金型20を提供することが可能となる。
この光学素子成形用金型20を使用して成形したプラスチックレンズ30(図11(a))は、fθレンズとしてレーザービームプリンタ(LBP)などのプリンタ(図示せず)いわゆる印字装置(図示せず)に搭載されて使用される。このように作成されたプラスチックレンズは、例えば、複写機、LBPなどの画像形成装置に装備される。レンズ材料の量と、材料費とを削減化したプラスチックレンズ30が、前記画像形成装置に搭載されるから、低コストで環境負荷の小さい画像形成装置が提供される。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、図示されたものに限られることなく、各種の光学素子成形用金型、光学素子、画像形成装置に適用可能とされる。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。