現在、X線検査装置は、工業製品の製造ラインなどに組み込まれ、加工、組立後の部品や完成製品の精度や欠陥の有無などを検査している。これらのX線検査において、X線検査装置に使用されるX線発生装置のX線源の微細化は検査精度の向上に寄与する。このX線源の微細化のため、最近ではX線発生装置としてマイクロフォーカス(微小焦点)を有する固定陽極型X線管を内挿した装置が使用されている。
図8に、X線検査装置の一例を示す。図8はマイクロフォーカスX線発生装置を用いたX線検査装置の一例の概略構成図である。図8において、X線検査装置200はX線発生装置202と、X線検出装置204と、被検体206を任意の位置に移動可能な台座208と、これらを収納するX線遮蔽ボックス210と、X線制御システム212と、X線検出装置204により得られる画像データを出力するモニタ装置214などで構成される。
図8において、従来のX線検査装置200では、X線発生装置202には主に固定陽極型X線管が使用されている。高精度な画像を必要とする場合にはマイクロフォーカスX線管が用いられている。固定陽極型X線管が用いられる理由は、外形が小型で、価格が比較的安価なためである。
X線検出装置204は、X線増倍管と撮像管の組合せなどから成る。X線発生装置202から放出されたX線216が台座208の上に載置された被検体206に照射される。被検体206を透過したX線216は被検体206の投影X線像を形成し、X線検出装置204のX線増倍管に受光される。X線検出装置204に受光された投影X線像はX線増倍管で像幅された後、撮像管において被検体206を投影し拡大した電気的画像に変換される。X線検出装置202の撮像管から出力された電気的画像はモニタ装置214によって可視像に変換され、その画面上で被検体206の精度や欠陥の有無などが検査される。
台座208は、被検体206を載置する台で、被検体206を水平方向(前後、左右方向)及び垂直方向(上下方向)に移動することができる。X線遮蔽ボックス210は内壁に鉛板などから成るX線シールド層が設けられており、この中にX線発生装置202、台座208、被検体206、X線検出装置204などが収納される。X線制御システム212はX線発生装置202、台座208、X線検出装置204、モニタ装置214などの動作を制御する。
図9では、従来のX線検査装置のX線発生装置として使用される固定陽極型X線発生装置の一例について説明する。図9には、固定陽極型X線発生装置に内挿されるX線管のみを示している。固定陽極X線管220は、主として絶縁物から成る外囲器222内に陰極224と陽極226が対向して配置され、それぞれ外囲器222に絶縁支持され、真空気密に封入されている。陰極224は熱電子を放出するフィラメント228と熱電子を集束して陽極226のターゲット232上に焦点234を形成するための集束電極(図示せず)などを有する。陽極226はX線源となる焦点234が形成されるターゲット232と、ターゲット232が埋め込まれた陽極棒236などから成る。固定陽極型X線発生装置には、固定陽極X線管の他に、X線管に高電圧を供給する高電圧電源やX線管のフィラメント加熱電圧を供給するフィラメント加熱電源などが含まれる。
X線管220には高電圧電源から高電圧(100kV程度)のX線管電圧が、フィラメント加熱電源から低電圧(10V程度)のフィラメント加熱電圧が、それぞれ印加される。これらの電圧印加により、フィラメント228はフィラメント加熱電圧によって加熱されて熱電子を放出し、この熱電子は陰極224と陽極226との間に印加されたX線管電圧によって加速されるとともに集束されて電子ビーム230を形成する。この電子ビーム230は陽極226のターゲット232に衝突し、この衝突面に形成される焦点234からX線216が放射される。ここで、電子ビーム230の衝突エネルギーは、X線管電圧と電子ビーム230の電流値(X線管電流)の積で表されるが、このエネルギーのうちX線216に変換されるエネルギーは1%に満たず、99%以上は熱エネルギーに変換される。このため、X線管220への入力、特にX線管電流は、上記の焦点234の温度によって制限される。
図8に示したようなX線検査装置200を用いて被検体206のX線検査を行う場合、被検体206の形状や内部構造などを観察することが多いが、X線216の線量を多くして撮影を行えば短い撮影時間で鮮明なX線画像を得ることができる。しかし、X線216の線量は、X線管電圧を同じにした場合X線管電流に比例するため、大線量のX線216を確保するためにはX線管電流を増加させて大電流とする必要がある。しかし、X線管電流は、これは上記の如く、焦点234の温度により制限され、短時間の撮影では、必要な線量を確保できない場合が多い。このような場合には、撮影時間を長くして、画像の積算を行い鮮明な画像を得ている。
また、近年半導体部品の検査にX線検査装置が多数導入されるようになり、X線検査装置はより微細な部品の検査にも対応する必要が出てきている。例えば、半導体チップ内部の電極を接続するボンディングワイヤや半導体基板上の半田ボールなどの微細部分の観察、検査などでは、高解像度のX線画像を得るためには、数μm〜10μm程度の微小焦点が必要となる。
現状でも、このような微小焦点を有するマイクロフォーカスX線発生装置は固定陽極型のもので実用化されているので、高解像度のX線画像を得ることはできる。しかし、固定陽極型のマイクロフォーカスX線発生装置では、焦点が微小であることにより、X線管電流を非常に小さい値に制限しても焦点の温度が著しく上昇するため、少量のX線量しか得られず、検査に長時間を要している。
X線の線量を確保し、検査時間を短縮するためのX線発生装置での改良案がいくつか提案されている。その一つは特許文献1で、固定陽極型のマイクロフォーカスX線発生装置に代えて回転陽極を有するマイクロフォーカスX線発生装置を提案するもので、X線管の陽極を回転陽極にすることにより、許容されるX線管電流を増加させ、被検体に照射するX線量を増加させて、検査時間の短縮を図っている。
二つ目のものは特許文献2で、動圧式すべり軸受による回転陽極を利用したマイクロフォーカスX線管が開示されている。特許文献2では、回転陽極のターゲットの焦点面の回転振れを低減するために動圧式すべり軸受による回転陽極を用い、またターゲットの焦点面の加工をターゲットと回転体とを結合した状態で行うことで、回転中のマイクロフォーカスの焦点寸法の増大を抑止しようとしている。
特開2001−273860号公報
特開2000−173517号公報
特許文献1には、X線管装置に内挿される回転陽極X線管の陰極で発生した熱電子を集束して細い電子ビームとし、回転陽極のターゲットの焦点面に衝突させてマイクロフォーカスを得る技術が開示されているが、マイクロフォーカスの寸法が数十μm程度以下になると、回転陽極のターゲットの焦点面の回転振れがマイクロフォーカスの寸法に対し同等または大きいレベルにあるため、見かけの焦点寸法が大きくなってしまうという問題がある。
また、特許文献2には、X線発生装置に内挿される回転陽極X線管の回転陽極の軸受として動圧式のすべり軸受を使用し、回転陽極のターゲットと回転体とを結合した状態でターゲットの焦点面の仕上加工を行うことにより、ターゲットの焦点面の回転振れを抑制する方法が開示されている。しかし、回転陽極の軸受として動圧式のすべり軸受を利用した場合、X線管の価格は高価なものとなる。更に、動圧式のすべり軸受の主な動作流体である液体金属は大気中では表面が酸化し、軸受機能が劣化してしまうため、大気中で動圧式のすべり軸受を組み込んだ回転陽極を回転してターゲットの焦点面の加工は困難である。このため、大気中で回転してターゲットの焦点面の加工を行うことはできず、真空中などで加工を行う特別の加工設備が必要になるなどの問題もある。
本発明は、上記の問題点を解決するもので、マイクロフォーカスの見かけの焦点寸法の増大を抑制することができ、かつ安価なX線発生装置及びそれを用いたX線検査装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明のX線発生装置は、熱電子を放出して細い電子ビームに集束する陰極と、前記電子ビームが衝突してX線を発生する円盤状のターゲット、該ターゲットを支持するロータ、該ロータを支持する回転軸、該回転軸を回転自在に支持し、内輪、転動体、外輪から成る軸受及び該軸受を保持する固定部を有する回転陽極と、前記陰極及び前記回転陽極を真空気密に内包し、絶縁支持する外囲器とから構成され、前記細い電子ビームにより微小焦点を得る回転陽極型マイクロフォーカスX線管(以下、X線管と略称する)と、該X線管の回転陽極を回転させるステータと、前記X線管を絶縁する絶縁油と、前記X線管、前記ステータ、前記絶縁油を内包する容器とを少なくとも有するX線発生装置において、前記X線管の回転陽極を組み立てた後に、前記ターゲットの回転ぶれを小さくするために、前記回転陽極を回転させながら、前記電子ビームが衝突する面(焦点面)に加工を施したものである(請求項1)。
また、本発明のX線発生装置は、前記X線管の回転陽極のターゲットの焦点面の回転ぶれを測定しながら、焦点面の加工を行うものである。
また、本発明のX線発生装置は、前記X線管の回転陽極のロータの外周にステータを配設し、該ステータを付勢することにより前記回転陽極を回転させて、焦点面の加工を行うものである。
また、本発明のX線発生装置は、前記X線管の回転陽極のターゲットの焦点面の加工を研磨機により行うものである。
また、本発明のX線管発生装置は、前記X線管の回転陽極のターゲットの焦点面の加工を、前記回転陽極を前記X線管の実用回転数またはそれに近い回転数にて回転しながら行うものである。
また、本発明のX線発生装置は、前記X線管の回転陽極の回転中に、実効焦点の長さ寸法が前記電子ビームの直径とほぼ同等になるように、前記回転陽極のターゲットの焦点面に加工を施すものである。
また、本発明のX線発生装置は、前記X線管の回転陽極のターゲットの焦点面と前記電子ビームの進行方向とが作る角度(以下、電子ビーム角度という)が50度以上60度未満である場合に、前記ターゲットの焦点面の回転ぶれが前記電子ビームの直径の10%以下になるように前記焦点面の加工を行うものである。
また、本発明のX線発生装置は、前記X線管の電子ビーム角度が60度以上70度未満である場合に、前記ターゲットの焦点面の回転ぶれが前記電子ビームの直径の40%以下になるように前記焦点面の加工を行うものである。
また、本発明のX線発生装置は、前記X線管の電子ビーム角度が70度以上80度未満である場合に、前記ターゲットの焦点面の回転ぶれが前記電子ビームの直径の60%以下になるように前記焦点面の加工を行うものである。
また、本発明のX線発生装置は、前記X線管に高電圧を供給する高電圧電源と、前記X線管の電子ビームを制御する電子ビーム制御電源と、前記ステータを付勢するためのステータ電源を、前記容器内に内包するものである。
本発明のX線検査装置は、被検体にX線を照射するX線発生装置と、被検体を載置して被検体を水平方向及び上下方向に移動できる台座と、被検体を間にしてX線発生装置と対向して配置され、被検体を透過したX線を検知するX線検出装置と、前記X線発生装置、前記台座、前記X線検出装置を収納し、外部へのX線の漏洩を防止するX線遮蔽ボックスと、前記X線検出装置によって得られた情報に基づいて被検体のX線投影像を画像として出力するモニタ装置と、これらの装置を制御するX線制御装置から構成されるX線検査装置において、前記X線発生装置として本発明のX線発生装置を使用している。(請求項2)。
本発明のX線発生装置では、X線管の回転陽極のターゲットの焦点面を、回転陽極の組立後に、回転陽極を回転させながら加工しているので、X線管完成品としても、回転使用時のマイクロフォーカスの実効焦点の寸法は規格範囲内に維持され、これを使用したX線撮影やX線検査において、高解像度のX線画像が得られる。また、X線管が回転陽極型であるので、固定陽極型のものに比べ大きなX線管入力の印加が可能となり、大線量のX線を確保でき、X線撮影やX線検査の時間短縮を図ることができる。これらの機能は、半導体部品などの微細な部品の検査に有効に活用することができる。また、本発明のX線発生装置では、X線管の回転陽極の軸受に転動体と内輪と外輪とから構成される軸受を使用しているので、価格も安価に製造することができる。
また、本発明のX線発生装置では、X線管の回転陽極のターゲットの焦点面の加工において、ターゲットを回転し、その焦点面の回転ぶれを変位センサなどで測定しながら加工を行っているので、焦点面の回転ぶれに関し、加工精度や加工での必要な修正量が即時に把握することができ、焦点面の加工を高精度で行うことができる。
また、本発明のX線発生装置では、X線管の回転陽極のターゲットの焦点面の加工に際して、回転陽極のロータの外周にステータを配設し、外部のステータ電源より付勢することにしているので、回転陽極を大気中にて容易に回転することが可能であり、また回転陽極の回転数も必要に応じて変化させることも可能である。
また、本発明のX線発生装置では、X線管の回転陽極のターゲットの焦点面の加工に研磨機を使用しているので、焦点面をμmオーダーでの研磨加工が可能であり、焦点面の回転ぶれも同程度の精度で加工することができる。
また、本発明のX線発生装置では、X線管の回転陽極のターゲットの焦点面の加工に際して、回転陽極をX線管の実用回転数またはそれに近い回転数で回転しているので、X線管の実用時のターゲットの焦点面の回転ぶれも焦点面加工時のものとほぼ同程度に維持され、この結果X線管の実効焦点の寸法も規格範囲内に維持することができる。
また、本発明のX線発生装置では、X線管の回転陽極のターゲットの焦点面の加工において、X線管の回転陽極の回転中に、実効焦点の長さ寸法が電子ビームの直径とほぼ同等なレベルになるように焦点面の回転ぶれを低減させているので、X線管の実用時に実効焦点の幅寸法と長さ寸法は同程度となり、X線撮影またはX線検査などにおいて、焦点の幅寸法及び長さ寸法の両方向においてバランスのとれた高解像度のX線画像が得られる。
また、本発明のX線発生装置では、X線管の回転陽極のターゲットの焦点面の加工において、X線管の電子ビーム角度が50度以上60度未満の場合に、ターゲットの焦点面の回転ぶれが電子ビームの直径の10%以下になるようにしているので、この場合の回転中の実効焦点の長さ寸法は電子ビームの直径にほぼ等しい幅寸法と同程度となり、X線撮影などにおいて焦点の幅寸法および長さ寸法の両方向においてバランスのとれたX線画像が得られる。
また、本発明のX線発生装置では、X線管の回転陽極のターゲットの焦点面の加工において、X線管の電子ビーム角度が60度以上70度未満の場合に、ターゲットの焦点面の回転ぶれが電子ビームの直径の40%以下になるようにしているので、この場合の回転中の実効焦点の長さ寸法は電子ビームの直径にほぼ等しい幅寸法と同程度となり、X線撮影などにおいて焦点の幅寸法および長さ寸法の両方向においてバランスのとれたX線画像が得られる。
また、本発明のX線発生装置では、X線管の回転陽極のターゲットの焦点面の加工において、X線管の電子ビーム角度が70度以上80度未満の場合に、ターゲットの焦点面の回転ぶれが電子ビームの直径の60%以下になるようにしているので、この場合の回転中の実効焦点の長さ寸法は電子ビームの直径にほぼ等しい幅寸法と同程度となり、X線撮影などにおいて焦点の幅寸法および長さ寸法の両方向においてバランスのとれたX線画像が得られる。
また、本発明のX線発生装置では、X線管に高電圧を供給する高電圧電源と、X線管の電子ビームを制御する電子ビーム制御電源と、ステータを付勢するためのステータ電源を、容器内に内包しているので、X線発生装置に商用周波数の低電圧を導入するのみで、X線管からのX線放射が可能となり、X線発生装置の取り扱いが非常に簡単になる。
本発明のX線検査装置は、被検体にX線を照射する上記の本発明のX線発生装置と、被検体を載置して被検体を水平方向及び上下方向に移動できる台座と、被検体を透過したX線を検知するX線検出装置と、これらを収納するX線遮蔽ボックスと、X線検出装置によって得られた情報に基づいて被検体のX線投影像を画像として出力するモニタ装置と、これらの装置を制御するX線制御装置から構成されるので、これを使用したX線検査などにおいて、高解像度のX線画像が得られるとともに、大線量のX線の確保によりX線検査時間の短縮を図ることができる。
以下、本発明の係るX線発生装置及びそれを用いたX線検査装置を実施するための最良の形態について添付図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係るX線発生装置の一実施例に内挿される回転陽極型マイクロフォーカスX線管の概略構成図を示したものである。図1において、本実施例の回転陽極型マイクロフォーカスX線管(以下、X線管と略称する)10は、X線管中心軸100の方向(図示の上下方向、以下、管軸方向と略称する)に配設された回転陽極12と、管軸方向にほぼ直交する方向(図示の水平方向)に回転陽極12の先端部に対向して配設された陰極14と、回転陽極12と陰極14を絶縁支持し、真空気密に内包する外囲器16とから構成される。
陰極14は熱電子を発生するカソード14aと、発生した熱電子を集束してマイクロフォーカスを形成するための微小な電子ビーム18とする電子集束系14bと、カソード14a及び電子集束系14bを絶縁支持し、両者に給電するためのリードを備えたステム14cなどから構成する。カソード14aにはコイル状フィラメント、酸化物カソード、含浸型カソードなどが用いられる。電子集束系14bは集束溝を有する集束電極や複数のグリッド電極から成る静電方式電子レンズなどが用いられる。ステム14cは大部分がガラスやセラミックなどの絶縁物から成り、この絶縁物に給電用リードが埋め込まれている。このステム14cは電子集束系14bを支持する部分と外囲器16と接続する部分を有する。給電用リードには外部電源から陰極側の高電圧と、カソード14aを加熱するための電圧などが供給される。
回転陽極12は、陰極14からの電子ビーム18が衝突してX線20を発生させるターゲット22と、ターゲット22を支持するロータ24と、ロータ24を支持する回転軸26と、回転軸26を回転自在に支持する軸受28と、軸受28の外周を固定して支持する固定部30などから構成される。ターゲット22は傘型の円盤状をしており、タングステンまたはタングステン合金などの高融点で高原子番号の金属材料から成る。ターゲット22の傾斜面22aに陰極14からの電子ビーム18が衝突して、焦点32を形成し、焦点32からX線20を発生する。以下、この傾斜面22aを焦点面とも言う。ターゲット22は傘型円盤の中心部でロータ24と結合されている。ロータ24は、ターゲット22と結合する細軸部24aと、X線管10の外部に配設されるステータから回転磁界を受けて回転駆動力を発生する大径円筒部24bと、両者を結合する接続部24cを有する。ロータ24の細軸部24aはモリブデンなどの高融点、高強度の金属材料から成り、大径円筒部24bは銅などの高導電性の金属材料から成り、接続部24cはモリブデンやステンレス鋼などの高強度の金属材料から成り、三者の結合はろう付けなどで行われている。回転軸26は、ロータ24の接続部24cと締結されるフランジ部26aと、軸受28に支持される細径部26bを有し、高強度の鋼材などから成る。
軸受28は2個使用されており、回転軸26の細径部26bを2箇所で支持している。軸受28には通常ボールベアリングなどが使用されており、内輪と、ボールなどから成る転動体と、外輪とから構成され、高強度の鋼材から成る。転動体の表面と、内輪及び外輪の転走面には潤滑剤が付着される。潤滑剤としては、真空中で使用されることを考慮して、銀、鉛などの軟質金属や二硫化モリブデンなどの劈開性のある化合物などが使用される。また、軸受28の内輪は回転軸26の細径部26bの外周に転動体の転走面を設けて省略される場合もある。しかし、このような場合には、回転軸26に設けられた転動体の転走面が、機能的に軸受28の内輪に相当するので、本発明では、これも軸受28の内輪と見做すことにする。
固定部30は軸受28を支持する軸箱部30aと、回転陽極12全体の支持部となる陽極端30bを有し、銅やステンレス鋼などの金属材料から成る。軸箱部30aは有底の円筒形状をしており、その中空部に回転軸26の細径部26bと軸受28を収納し、その内周に軸受28の外輪を固定して、軸受28を支持する。軸箱部30aの外周にはロータ24の大径円筒部24bがかぶさっている。陽極端30bは円柱状をしており、外囲器16の陽極側に接続される。
外囲器16は大部分がガラスやセラミックなどの絶縁物から成る。外囲器16では回転陽極12のターゲット22の周囲を囲む部分の外径が最も大きくなっている。以下、この部分を大径部34と言う。外囲器16は大径部34と陽極絶縁部36と陰極絶縁部38とから成る。大径部34と同軸に、回転陽極16の固定部30に結合される陽極絶縁部36が接続され、大径部34の外周に、陰極14に結合される陰極絶縁部38が接続されている。陽極絶縁部36は、回転陽極16を絶縁支持するとともに、回転陽極16のロータ24とその外周に配設されるステータ(図示せず)との間の絶縁をする。陰極絶縁部38は、大径部34と直交する方向に配置され、陰極14の電子集束系14bの先端が回転陽極16のターゲット22の焦点面22aに対向するように接続される。大径部34の端面で、回転陽極16のターゲット22に対向する端面34aはほぼ平面状をしており、この端面34aのターゲット22の焦点32に近い位置にX線放射窓40が設けられている。X線放射窓40はベリリウムなどのX線を良く透す材料が用いられ、窓枠などに支持されて端面34aに接続される。また、図示においては、外囲器18の大径部34を他の部分と同じ材料で示したが、この大径部34については銅やステンレス鋼などの金属材料としてもよい。この場合には、大径部34と陽極絶縁部36及び陰極絶縁部38との間の接続はガラスやセラミックなどとなじみのよい金属材料を両者の間に介在させて行われる。大径部34に金属材料を用いた場合には、X線管としての耐熱性が向上すると共にX線放射窓40の取付けが容易になるなどの利点が得られる。
本実施例のX線管10では、陽極として回転陽極構造を採用しているので、従来の固定陽極構造のものに比べ、許容負荷を大幅に増加することができ、大きなX線管電流を流すことができるので、X線検査などに使用した際に、マイクロフォーカスにもかかわらず、従来に比べ多量のX線を放射することができ、短時間で高解像度のX線撮影が可能となる。また、回転陽極の軸受としてボールなどから成る転動体を使用した軸受を採用し、特殊な構造の軸受としていないので、従来の回転陽極X線管と同様安価な価格で製造することができる。
次に、図2、図3を用いて、X線管のターゲットの焦点面加工について説明する。図2に回転陽極X線管の製造工程のフローチャートの一例を、図3にターゲットの焦点面加工作業及び焦点面加工装置を説明するための概略図を示す。図2は本発明に係る回転陽極X線管の製造工程の大略を示している。この製造工程において、ステップCの陽極部組立の後に行われるステップDの焦点面加工が重要な工程である。先ず、図1を参照しながら、図2によりX線管の製造工程について説明する。図2において、X線管の部品が製造工程に入ると、ステップAの部品洗浄、処理の工程で、部品毎に汚れなどの洗浄や脱ガス処理などが行われる。ステップBの陰極部組立の工程では、電子集束系14bの組立やステム14cへの取付けなどが行われる。ステップCの陽極部組立の工程では、ターゲット22とロータ24の結合、回転軸26への軸受28の取付け、回転軸26と軸受28の固定部30への取付け、ロータ24と回転軸26の結合などが行われる。軸受28への潤滑剤の付着は通常回転軸26への取付けの前に行われる。
ステップDの外囲器部分組立の工程では、外囲器16に関してステップFの管球封止の工程の準備のための作業を行う。本実施例では、外囲器16の大径部34の端面34aへのX線放射窓40の取付けや大径部34の側面への陰極絶縁部38の取付けなどが行われる。後者の作業については、ステップFの管球封止の工程で行われる場合もある。
ステップEの焦点面加工の工程では、ステップCで組み立てた回転陽極12のターゲット22の焦点面22aを研磨加工する。以下、図3を用いて詳細に説明する。図3において、ターゲット22の焦点面22aを研磨加工するために、回転陽極12を支持する支持台42と、回転陽極12を回転させるためのステータ44と、研磨機46と、変位センサ48と、研磨機制御回路50などが配設されている。ステータ44は支持台42に支持され、回転陽極12のロータ24の外周に配設されている。ステータ44には外部のステータ駆動電源(図示せず)から電力が供給される。回転陽極12はターゲット22が上方位置になるようにして、固定部30が支持台42に固定される。研磨機46は砥石46aとスピンドル部46bとモータ部46cから構成され、モータ部46cは研磨機制御回路50から電力供給を受けて砥石46aを取り付けたスピンドル部46bを回転させる。砥石46aは円板状をしており、この回転する円板状砥石46aの上面をターゲット22の焦点面22a接触させることにより、ターゲット22の焦点面22の研磨加工が行われる。本実施例では、研磨機46は市販品が使用されている。変位センサ48はターゲット22の焦点面22aの回転ぶれを測定するもので、本実施例ではレーザ変位計が用いられている。他に、静電容量型変位センサ、超音波型変位センサなどを使用してもよい。変位センサ48の測定結果は研磨機制御回路50に送られる。研磨機制御回路50は変位センサ48の測定結果に基づいて、研磨機46の研磨面の回転動作などを制御する。
次に、ターゲット22の焦点面加工の手順について説明する。先ず、焦点面加工作業における回転陽極12のターゲット22の焦点面22aの回転ぶれの目標値が設定され、研磨機制御回路50に入力される。例えば10μmのマイクロフォーカスX線管で、1〜数μmの目標値が設定される。次に、ステータ44を取り付けた支持台42に回転陽極12を取り付ける。このとき、ターゲット22を上側にする。次に、ターゲット22の焦点面22aに研磨機46の研磨面46aと変位センサ48を図示の如く近接させて配置する。次に、ステータ駆動電源からの回転駆動電圧をステータ44に印加して、回転陽極12を回転させる。回転陽極12の回転速度はX線管使用時の回転速度とほぼ同じにする。次に、研磨機46の砥石46aを回転させて、ターゲット22の焦点面22aに押しあて焦点面22aの加工を行う。砥石46aの送りは手動で制御する。これと同時に変位センサ48を動作させて、焦点面22aの回転ぶれを測定する。回転ぶれの測定結果は逐次研磨制御回路50に送られる。研磨機制御回路50では回転ぶれの測定値と上記目標値との比較が行われ、回転ぶれの測定値が目標値より大きい場合には研磨機46による焦点面加工を継続し、測定値が目標値より小さくなった時点で研磨機46の動作を停止し、研磨くずの除去、汚れの除去などを行って、焦点面加工を終了させる。
次に、ステップFの管球封止の工程では、先ず、回転陽極12の固定部30と外囲器16の陽極絶縁部36の一端とを接続した後、外囲器16の大径部34と陽極絶縁部36の他端とを接続する。次に、陰極14のステム14cと外囲器16の陰極絶縁部38の一端とを接続した後、外囲器16の大径部34の側面に陰極絶縁部38の他端を接続する。このとき、陰極14の先端と回転陽極12のターゲット22の間隔及び両者の配置を調整する。次に、ステップGの排気の工程では、回転陽極12、陰極14及び外囲器16を加熱して、両電極及び外囲器16の内壁からの脱ガスを行う。次に、ステップFのエージングの工程では、X線管にその動作条件または類似の条件の高電圧負荷を印加して慣らし運転をする。次に、ステップIのX線管検査の工程では、実効焦点寸法の測定、その他X線管の性能確認のための検査を行う。
以上説明した如く、本実施例のX線管10では、回転陽極12の組み立て後に、ターゲット22の焦点面22aの回転ぶれを低減するために、回転陽極12を回転させながら、かつ回転ぶれを測定しながら、ターゲット22の焦点面22aの加工を行っているので、焦点面22aの回転ぶれを数μm以下におさえることができる。その結果、X線管10のマイクロフォーカスの実効焦点の寸法は、回転陽極12を回転させた状態においても規格範囲内に維持され、これを使用したX線撮影やX線検査において、高解像度のX線画像が得られる。また、回転陽極12の軸受28として、ボールなどから成る転動体を用いた従来型のものを使用しているため、ターゲット22の焦点面22aの加工を大気中で行うことができるので、この焦点面の加工のための特別な装置を必要とせず、設備の費用も安価となり、加工作業も容易に行うことができる。
図4は本発明に係るX線発生装置の一実施例の概略構成図を示したものである。図4において、X線発生装置60は図1に示したマイクロフォーカスX線管10に高電圧を供給する高電圧電源62と、X線管10の陰極14より放出される電子ビーム18を制御する電子ビーム制御装置64と、X線管10の回転陽極12を回転駆動するステータ66と、このステータ66に駆動電力を供給するステータ電源68と、X線管10の陽極部及びステータ66を支持する陽極部支持体70と、X線管10や高電圧電源62などを絶縁し、冷却する絶縁油72と、これらのものを収容する容器74などから構成される。
容器74は直方体状または円筒状で、鋼板などから成り、油密構造に作られている。容器74の内側にはX線漏洩を防止するために鉛板76が張ってある。X線管10はその外囲器16の大径部34の端面34aが容器74の内壁に、回転陽極12の固定部30が陽極部支持体70にそれぞれ支持されている。このとき、X線管10のX線放射窓40は容器74の壁面に設けた穴78から外部に露出するように位置合わせされている。高電圧電源62、電子ビーム制御装置64、ステータ電源68には容器60の外部から低電圧が供給される。高電圧電源62は100kV前後の高電圧を発生し、X線管10の回転陽極12に正の高電圧を、陰極14に負の高電圧を供給する。電子ビーム制御装置64はX線管10の陰極14のカソード14aの加熱電圧や電子集束系14bにて電子集束電界を形成するのに必要な電圧を生成し、これを負の高電位にして陰極14に供給する。ステータ電源68はステータ66に回転駆動のための電圧として2相または3相の低電圧を供給する。また、X線管10は容器74内において通常回転陽極12のターゲット22が上側になるように配置される。
本実施例のX線発生装置では、X線管10とともに、高電圧電源62と、電子ビーム制御装置64と、ステータ電源68とを、容器74内に内包しているので、X線発生装置60に商用周波数の低電圧を導入するのみで、X線管10からのX線放射が可能となり、X線発生装置60の取り扱いが非常に簡単になる。また、本実施例では、高電圧電源62、電子ビーム制御装置64、ステータ電源68を容器74内に配設したが、これらのものは容器74の外に、それぞれ独立して設けられる場合もある。その場合には、容器74の壁面などに高電圧導入部を設ける必要がある。
図5は、本発明に係るX線検査装置の一実施例の概略構成図を示したものである。図5において、X線検査装置80は、図4に示したX線発生装置60と、被検体82を載置する台座84と、X線発生装置60から放射され、被検体82を透過したX線20を受光するX線検出装置86と、X線発生装置60、被検体82、台座84、X線検出装置86などを収納するX線遮蔽ボックス88と、X線検出装置86の出力情報に基づいて作成した被検体82のX線画像を表示するモニタ装置90と、X線発生装置60、台座84、X線検出装置86、モニタ装置90などの動作を制御するX線制御システム92などから構成される。
本実施例において、X線発生装置60には上記の如く焦点寸法が微小で、回転ぶれの小さい回転陽極型のマイクロフォーカスX線管10が使用されている。また、このX線発生装置60ではX線管10は回転陽極12のターゲット22が上側になるように配置され、使用中の回転ぶれが小さい状態で使用されている。X線検出装置86は、従来装置と同様、X線増倍管と撮像管の組合せなどから成る。本実施例では、X線検出装置86は被検体82の上方に配設されている。X線発生装置60から放射されたX線20は台座84に載置された被検体82に照射される。この台座84は水平方向又は垂直方向に移動可能で、被検体82を任意の位置に移動できるように構成されている。被検体82を透過したX線20は被検体82の投影X線像を形成し、X線検出装置86のX線増倍管に受光される。X線検出装置86に受光された投影X線像はX線増倍管で増幅された後、撮像管において被検体82を投影し拡大した電気的画像に変換される。X線検出装置86の撮像管から出力された電気的画像はモニタ装置90によって可視像に変換され、その画面にマイクロフォーカスX線管10による被検体82の高精細なX線像が表示される。検査者はモニタ装置90の画面上で被検体82の精度や欠陥の有無などを検査する。
X線制御システム92は、X線発生装置60についてはX線照射時のX線量や照射時間及びステータへの入力などの制御を行い、台座84については被検体82がX線20の照射野内で適正な位置に配列されるように水平方向及び垂直方向の移動距離などの制御を行い、X線検出装置86についてはその出力から被検体82のX線像の形成などの制御を行い、モニタ装置90については画面上での検査のための制御を行っている。
次に、本発明では、適正な寸法のマイクロフォーカスを得るために、X線管10の回転陽極12のターゲット22の焦点面22aを加工するにあたり、電子ビーム18の方向とターゲット22の焦点面22aとが作る角度に応じて、焦点面22aの回転ぶれの許容範囲を変えることにした。以下、図6と図1を用いて、その詳細について説明する。図1において、X線管10の陰極14からの電子ビーム18が回転陽極12のターゲット22の焦点面22aに衝突すると、焦点面22aの焦点(X線源)32においてX線20が発生し、そのX線20は外囲器16に取り付けたX線放射窓40から取り出して利用される。このとき、電子ビーム18の直径をD、電子ビーム18とターゲット22の焦点面22aとが作る角度(以下、電子ビーム角度という)をθとすると、マイクロフォーカスのターゲット22上の実焦点の幅寸法Fw及び長さ寸法Flは式(1)、式(2)により、また回転陽極12を静止させたときのX線放射窓40の方向から見た実効焦点の幅寸法fw及び長さ寸法flは式(3)、式(4)により、それぞれ表される。
しかし、X線管10の回転陽極12を回転駆動させたときには、ターゲット22の回転ぶれが発生するため、この回転ぶれにより見かけの焦点寸法は大きくなる。このターゲット22の回転ぶれは主に軸受28のすきまやターゲット22のアンバランスなどによって生じる。例えば、従来の一般的な回転陽極X線管での回転によるターゲットの回転ぶれは、回転陽極の回転軸方向(実効焦点の長さ寸法方向)では最大で約100μm程度、回転軸に直交する方向(実効焦点の幅寸法方向)では最大で約50μm程度生じるが、回転陽極の中心軸方向を床に対して垂直方向に配置した場合には、回転軸方向の回転ぶれは回転軸に直交する方向のものと同程度またはそれ以下に減少する。
ターゲットの回転ぶれによる実効焦点寸法の変動は、幅寸法に対しては影響は小さいが、長さ寸法に対しては大きく影響する。すなわち、実効焦点の幅寸法はターゲットの回転ぶれがあってもほとんど変化しないが、長さ寸法についてはターゲットの回転ぶれと同量または電子ビーム角度θで補正した量の変化をする。回転ぶれによる実効焦点の長さ寸法の変化の状況について図6を用いて説明する。図6は実効焦点の長さ寸法の回転ぶれによる変化を説明するための図で、図6(a)は電子ビーム18が回転陽極の中心軸100と直交する方向から入射する場合のもの、図6(b)は電子ビーム18が回転陽極の中心軸100と同じ方向から入射する場合のものである。
図6(a)の場合には、電子ビーム18が回転陽極の中心軸100と直交する方向(図示の右側方向)からターゲット22に入射し、その焦点面22aの焦点32に衝突してX線20を発生し、X線20は回転陽極の中心軸100と同じ方向(図示の上方向)に取り出される。ターゲット22は静止時は実線で示した状態にあり、回転時には2本の破線で示したターゲット22の輪郭線の範囲で振動する。電子ビーム18の直径をD、電子ビーム角度をθ、ターゲット22の振動すなわち回転ぶれの大きさをBとすると、X線取り出し方向から見た回転ぶれも含めた実効焦点の長さ寸法flaは式(5)で表わされる。
この場合には、ターゲット22の回転ぶれBがそのまま実効焦点の長さ寸法flaの増加分として現われる。
図6(b)の場合には、電子ビーム18が回転陽極の中心軸100と同じ方向(図示の上方向)からターゲット22に入射し、その焦点面22aの焦点32に衝突してX線20を発生し、X線20は回転陽極の中心軸100と直交する方向(図示の右方向)に取り出される。電子ビーム18の直径、電子ビーム角度、ターゲットの回転ぶれ、その他の条件を図6(a)の場合と同じとしたとき、X線取り出し方向から見た回転ぶれも含めた実効焦点の長さ寸法flbは式(6)で表わされる。
ここで、実効焦点の長さ寸法の増加分をbとした。式(6)において、実効焦点の長さ寸法の増加分bはターゲット22の回転ぶれBそのままではなく、回転ぶれBに1/tanθを乗じた分となっている。従って、tanθが1より大きい場合には回転ぶれBより小さくなり、tanθが1より小さい場合には回転ぶれBより大きくなる。
以下の説明では、図6(a)の場合に絞って論述する。
例えば、従来の一般的な回転陽極X線管ではその実効焦点の寸法は最小でも0.1mm(幅寸法0.1mm×長さ寸法 0.1mm )程度であった。また、回転陽極の回転によるターゲット22の回転ぶれBの大きさは最大でも約50μm程度である。このため、回転ぶれも含めた見かけの実効焦点の長さ寸法は約0.15mmとなる。医療用途のX線管の場合、0.1mm焦点のものでは、焦点寸法は+50%まで許容される。このため、一般的な焦点寸法ではターゲットの回転ぶれによる見かけの実効焦点の長さ寸法の拡大は殆んど問題とはならない。
しかし、微小焦点を必要するマイクロフォーカスX線管の場合には、上記の回転ぶれの影響は無視できなくなってくる。例えば、10μm(幅寸法10μm×長さ寸法10μm)の微小焦点を必要とする場合には、ターゲットの回転ぶれが50μmであると、見かけの実効焦点の長さ寸法を50μm以下にすることは不可能となる。このため、本発明では、前述の如く、X線管の回転陽極を組み立てた後に、ターゲットを回転させながら、ターゲットの焦点面の研磨加工を実施し、ターゲットの焦点面の回転ぶれを数μm以下にしている。
ターゲット22の焦点面22aの加工を行う場合、例えば研磨加工を採用した場合には、その研磨量はターゲット22の焦点面22aの回転ぶれの許容値に基づいて決定することができる。式(5)において、実効焦点の長さ寸法の目標値をflao,電子ビームの直径(実効焦点の幅寸法にほぼ対応)をD、ターゲット22の焦点面22aの回転ぶれの許容値をBpraとすると、式(7)の如くなる。
従って、ターゲット22の焦点面22aの回転ぶれの許容値Bpraは式(8)で表わされる。
実効焦点の幅寸法fwaは電子ビーム18の直径Dとほぼ等しく、この電子ビーム18の直径Dによって決まるため、通常目標とする実効焦点の長さ寸法flaoは電子ビーム18の直径Dと等しい値にする場合が多い。ここでも、flao=Dとすると、式(8)は式(9)の如くなる。
式(9)において、電子ビーム角度θを0°<θ<45°にとると、ターゲット22の回転ぶれの許容値Bpraは負の値となる。この電子ビーム角度θの範囲では、ターゲット22の焦点面22aの研磨加工を行っても実効焦点の長さ寸法を目標値flaoにできないことを示している。このことから、電子ビーム角度θは45°以上にする必要がある。
また、X線検査装置80では、検査可能な被検体82の大きさも装置性能の一つの項目となる。図1において、X線管10のターゲット22の焦点32で発生したX線18は、焦点32を頂点としてほぼ円錐状に放射される。この円錐はX線錐20とも呼ばれ、X線錐20の底辺はX線照射野20aと呼ばれる。以下では、特にX線検出装置などが配置される位置におけるX線錐20の底辺をX線照射野20aと呼ぶことにする。このX線照射野20aの大きさが検査可能な被検体82の大きさと関係付けられ、X線照射野20aが大きくなれば検査可能な被検体82の大きさも大きくなる。焦点32からX線検出装置までの距離(以下、焦点−検出器間距離または略してF−D距離と呼ぶ)lの位置では、X線照射野20aの直径Lは、電子ビーム角度θを利用して式(10)で表わされる。
式(10)から明らかなように、X線照射野20aの直径LはF−D距離lに比例し、電子ビーム角度θの正接tanθに反比例する。X線20を利用した撮影または検査では、このX線照射野20aの大きさにより被検体82の寸法が制限される。また、F−D距離lはX線管10の構造や撮影または検査に必要な倍率(被検体のX線透影像を何倍に拡大するかという拡大率)に決定されるため、X線照射野の観点からは電子ビーム角度θは可能な限り小さくしたほうが有利である。
しかし、実効焦点の長さ寸法flaが一定の場合、X線管10が放射するX線量の観点からは、電子ビーム角度θは大きい方が許容負荷、すなわち同じX線管電圧でX線管電流を大きくすることができ、その結果X線20の線量を多くすることができるので有利である。
先に述べた如く、X線管電圧とX線管電流の積により与えられるX線管10の入力エネルギー、すなわちX線管10の負荷量は焦点32の温度によって制限される。この焦点32の温度はX線管10の入力エネルギー以外にターゲット22の焦点面22a上の実焦点寸法によって異なる。これは、X線管電圧、X線管電流及び実効焦点の面積(幅×長さ)が同一の条件では、ターゲット22の焦点面22a上の実焦点に入力される単位面積あたりの負荷量は実焦点の面積により変化するためである。ターゲット22の焦点面22a上の実焦点の面積をSr、実効焦点の面積をSとすると、両者の間には式(11)の関係がある。
式(11)から実効焦点の面積Sが一定の場合には、実焦点の面積Srは電子ビーム角度θの余弦に反比例して変化し、電子ビーム角度θが大きいほど実焦点の面積Srは大きくなる。その結果、X線管10の負荷量は電子ビーム角度θが大きいほど大きくすることができ、X線管10の負荷量のうちのX線管電流に比例するX線量も電子ビーム角度θが大きいほど大きくすることができる。
以上で述べてきた如く、X線照射野の大きさとX線量とは、電子ビーム角度θに関してトレードオフの関係にある。図7にX線照射野とX線量の電子ビーム角度による変化を示す。図7において、横軸には電子ビーム角度θ(単位:度)を示し、縦軸にはX線照射野の直径LとX線量(単位:%)を示した。X線照射野の直径Lは電子ビーム角度θの増加につれて減少しているのに対し、X線量は電子ビーム角度θの増加とともに増加している。図7のX線照射野とX線量の関係から見ると、通常電子ビーム角度θは60°〜70°程度にするのが最良である。
ここで、電子ビーム角度θとターゲット22の焦点面22aの回転ぶれの許容値Bpraとの関係を示す式(8)を再掲し、電子ビーム角度θと回転ぶれの許容値Bpraとの関係を調べてみることにする。
Bpra=flao−D/tanθ (8)
ここでも、実効焦点の長さ寸法の目標値flaoを電子ビーム18の直径Dと等しいとすると、式(9)と同じ式となる。
Bpra=D−D/tanθ (9)
X線照射野の大きさとX線量を考慮した場合には、電子ビーム角度θは60°〜70°程度が最良値であるが、その周辺の角度として45°〜90°の範囲の電子ビーム角度θについての回転ぶれの許容値Bpraを式(9)にて評価してみる。しかし、式(9)では電子ビーム角度θが45°のときはBpr=0となり、また、80°〜90°の範囲ではX線照射野が極端に減少するので、以下では、電子ビーム角度θが50°〜80°の範囲について評価することにする。
式(9)において、電子ビーム角度θを50°、70°、80°とすると、ターゲット22の回転ぶれの許容値Bpraはそれぞれ式(12)、式(13)、式(14)、式(15)の如くなる。
いずれの場合も回転ぶれの許容値Bpraは正の値であり、電子ビーム角度θが50°から80°の範囲では実効焦点の長さ寸法の目標値flao(=D)を達成できる可能性はある。
また、X線管10の実効焦点の長さ寸法の目標値flaoを例えば10μmのマイクロフォーカスとした場合には、上記の式(12)〜式(15)の回転ぶれの許容値BpraはそれぞれBpra(50°)=1.6μm、Bpra(60°)=4.2μm、Bpra(70°)=6.4μm、Bpra(80°)=8.2μmとなる。Bpra(50°)の値は達成の可能性が少し厳しい値であるが、Bpra(60°)以降の値は余裕のある値となっている。
以上のことから、電子ビーム角度θが45°を越えれば、ターゲット22の回転ぶれの許容値Bpraは正の値となり、回転ぶれの許容値Bpraは電子ビーム角度θの増加につれて増加するので、電子ビーム角度θが50°≦θ<60°の範囲では式(12)を、60°≦θ<70°の範囲では式(13)を、70≦θ≦80°の範囲では式(14)を満足していれば、実効焦点の長さ寸法flaをその目標値flao以下に収めることができる。
なお、電子ビーム18とターゲット22の焦点面22a及びX線20の放射方向との関係が図6(b)に示す関係にある場合には、見かけの実効焦点の長さ寸法flbとターゲット22の回転ぶれBとの関係は式(6)に示す関係にある。式(6)において、実効焦点の長さ寸法の目標値をflbo、ターゲット22の回転ぶれの許容値をBprbとすると式(16)の如くなる。
ここで、図6(a)の場合と同様に、実効焦点の長さ寸法の目標値flboが電子ビーム18の直径Dに等しいものとすると、回転ぶれの許容値Bprbは式(17)で表わされる。
式(17)から分かるように、この場合の回転ぶれの許容値Bprbは図6(a)の場合の回転ぶれの許容値Bpraに電子ビーム角度θの正接tanθを乗じた値となっている。前述の如く、電子ビーム角度θは45°より大きい角度としているため、電子ビーム角度θの正接tanθは1より大きくなり、この場合の回転ぶれの許容値Bprbは図6(a)の場合の回転ぶれの許容値Bpraより大きくなる。このため、ターゲット22の回転ぶれが式(9)、式(12)〜式(15)により求められた許容値Bpraを満足していれば、実効焦点の長さ寸法flbを目標値flbo(例えば10μm)以下に収めることができる。
以上のことから、本実施例において、ターゲット22の焦点面22aの加工を行う場合、回転ぶれの許容値Bpraとしては、式(12)〜式(14)における小数点以下2桁目を切り捨てることにより若干の余裕をとって、電子ビーム角度θが50°≦θ<60の範囲では電子ビーム18の直径Dの10%、電子ビーム角度θが60°≦θ<70°の範囲では電子ビーム18の直径Dの40%、電子ビーム角度θが70°≦θ<80°の範囲では電子ビーム18の直径Dの60%とするのが適当である。ターゲット22の焦点面22aの加工において、回転ぶれを上記の許容値Bpra内に収めることにより、マイクロフォーカスX線管の実効焦点の長さ寸法を幅寸法と同レベルの寸法にすることができる。
その結果、このX線管を用いたX線検査においては、マイクロフォーカスにより高解度のX線撮影が可能になるとともに、焦点の幅寸法および長さ寸法の両方向において、バランスのとれたX線撮影が可能となり、半導体部品などの微細な部品のX線検査に有効に活用することができる。
10・・・マイクロフォーカスX線管(X線管)、12・・・回転陽極、14・・・陰極、16・・・外囲器、18・・・電子ビーム、20・・・X線、22・・・ターゲット、22a・・・焦点面(傾斜面)、24・・・ロータ、26・・・回転軸、28・・・軸受、30・・・固定部、32・・・焦点、34・・・大径部、34a・・・端面、36・・・陽極絶縁部、38・・・陰極絶縁部、40・・・X線放射窓、42・・・支持台、44、66・・・ステータ、46・・・研磨機、48・・・変位センサ、50・・・研磨機制御回路、60・・・X線発生装置、62・・・高電圧電源、64・・・電子ビーム制御装置、68・・・ステータ電源、70・・・陽極部支持体、72・・・絶縁油、74・・・容器、76・・・鉛板、78・・・穴、80・・・X線検査装置、82・・・被検体、84・・・台座、86・・・X線検出装置、88・・・X線遮蔽ボックス、90・・・モニタ装置、92・・・X線制御システム100・・・中心軸