以下、図面に基づいてこの発明のいくつかの実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。なお、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる蒸発燃料処理装置の概要を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態の装置は、燃料タンク10、キャニスタ20、ポンプモジュール36を有して構成されている。
燃料タンク10の内部には、タンク温度センサ16が配置されている。タンク温度センサ16によれば、燃料タンク10内のガスの温度、つまり、燃料ベーパの温度を検出することができる。また、燃料タンク10には、タンク内圧Ptnkを検出するためのタンク内圧センサ11、燃料の液面高さを検出するための液面センサ14が設けられている。
燃料タンク10には、ベーパ通路18を介してキャニスタ20が連通している。ベーパ通路18にはVSVバルブ56が設けられている。また、燃料タンク10には、ポンプ通路38を介してポンプモジュール36が連通している。キャニスタ20の内部には、燃料タンク10から流入してくる燃料ベーパを吸着するための活性炭30が充填されている。また、キャニスタ20には、ベーパ通路18と接続されるベーパポート22、ポンプ通路38と接続されるポンプ側ポート24、および後述するパージ通路26に連通するパージポート28が設けられている。図1に示すように、ベーパポート22とパージポート28とは、活性炭30に対して同じ側に設けられている。一方、ポンプ側ポート24は、活性炭30を挟んで、それらのポート22,28の反対側に設けられている。
パージ通路26は、内燃機関の吸気通路(不図示)に連通する通路である。パージ通路26の途中には、その導通状態を制御するためのパージVSV32が設けられている。内燃機関の運転中は、内燃機関の吸気負圧がパージ通路26の内部に導かれる。また、内燃機関の運転中は、ポンプ側ポート24が大気へ開放される。この状態でパージVSV32が開かれると、その吸気負圧がキャニスタ20のパージポート28にまで到達し、その結果、ポンプ側ポート24からパージポート28へ向かう空気の流れが生ずる。このような空気の流れが生ずると、活性炭30に吸着されている燃料に脱離が生ずる。従って、内燃機関の運転中にパージVSV32を適当に開くことにより、キャニスタ20に吸着されている燃料を適当に内燃機関にパージさせることができる。
キャニスタ20の内部には、パージポート28の近傍にキャニスタ温度センサ34が配置されている。また、ポンプ側ポート24の近傍にはキャニスタ温度センサ35が配置されている。キャニスタ温度センサ34,35によれば、パージポート28、およびポンプ側ポート24の近傍において、キャニスタ20の内部温度を測定することができる。
図1に示すように、本実施形態の蒸発燃料処理装置は、ECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40には、上述したタンク内圧センサ11、液面センサ14、タンク温度センサ16、キャニスタ温度センサ34,35、ポンプモジュール36(圧力計44)などの出力信号が供給されている。
ECU40の制御によりVSVバルブ56が適切なタイミングで開かれると、燃料タンク10内の燃料ベーパがキャニスタ20へ送られる。キャニスタ20へ送られた燃料ベーパは活性炭30に吸着される。
また、ECU40の制御により、パージVSV32が適切なタイミングで開かれると、キャニスタ20内に吸着されている燃料ペーパが内燃機関の吸気通路にパージされる。これにより、燃料ベーパを外部に放出させることなく、キャニスタ20の燃料吸着能力が回復される。
図2は、ポンプモジュール36の構成を示す模式図である。ポンプモジュール36は、ポンプ42、圧力計44、切換弁46、オリフィス48を有して構成されている。ポンプ42と切換弁46は通路50によって接続され、切換弁46には通路51及び通路52が接続されている。通路51はポンプ通路38と接続されており、通路52にはオリフィス48が設けられている。また、ポンプ42の切換弁46と反対側には通路54が接続されている。通路54は大気に開放された大気ポートである。
切換弁46は、通路51と通路52のいずれか一方を通路50と接続する弁として機能する。ポンプ42は、その作動により切換弁46から通路54に向かう流れを発生させる。これにより、ポンプ42よりも切換弁46側の領域に負圧が付与される。圧力計44はこのときの通路50における圧力を測定する。オリフィス48は、漏れ判定に使用するリファレンス圧PREFを測定するために設けられた基準孔(例えばφ0.5mm)である。
以上のように構成された本実施形態の蒸発燃料処理装置において、蒸発燃料経路の漏れ判定(リーク診断)を行う方法を以下に説明する。漏れ判定を行う際には、VSVバルブ56を開き、ポンプモジュール36によって燃料タンク10、キャニスタ20を含む蒸発燃料経路に負圧を付与し、圧力計44で検出された圧力に基づいて漏れ判定を行う。
漏れ判定の際には、最初にリファレンス圧PREFを測定する。リファレンス圧PREFを測定する際には、通路52と通路50が接続されるように切換弁46の状態を設定してポンプ42を作動させる。これにより、オリフィス48から通路54へ向かう流れが発生し、通路52に負圧が付与される。この状態で圧力計44により通路50の圧力を測定することで、φ0.5mmのオリフィス48に対応したリファレンス圧PREFを検出することができる。
燃料タンク10、キャニスタ20を含む蒸発燃料経路の漏れ判定を行う際には、通路51と通路50が接続されるように切換弁46の状態を設定する。そして、VSVバルブ56を開き、パージVSV32を閉じ、ポンプ42を作動させる。これにより、ポンプ通路38から通路54へ向かう流れが発生し、燃料タンク10、キャニスタ20、ベーパ通路18、パージ通路26、ポンプ通路38、を含む経路に負圧が付与される。そして、このときの圧力P実測値を圧力計44で測定する。その後、測定したP実測値とリファレンス圧PREFを比較し、比較の結果に基づいて蒸発燃料経路の漏れ判定を行う。原則的には、測定した圧力P実測値がφ0.5mmのオリフィス48に対応したリファレンス圧PREFよりも大きい場合、蒸発燃料経路に付与した負圧がφ0.5mmより大きな漏れ孔から外部に漏れていると判断できる。従って、P実測値>PREFの場合、蒸発燃料経路にφ0.5mmより大きな漏れ孔が生じていると判定することができる。
しかし、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着状態によっては、正確な漏れ判定に支障が生じる場合がある。キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和している場合、燃料タンク10からキャニスタ20に流れた燃料ベーパはキャニスタ20に吸着されることなくポンプモジュール36へ流れる。この場合、圧力計44で測定されたP実測値には燃料ベーパの蒸気圧分が含まれてしまう。一方、PREFを測定する際に燃料ベーパの蒸気圧分が含まれることはない。従って、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和している場合、P実測値は燃料ベーパの蒸気分圧分だけPREFよりも大きくなり、P実測値とPREFの比較の結果から蒸発燃料経路の漏れ判定を精度良く行うことは困難である。
図3は、燃料ベーパの蒸気圧がP実測値に与える影響を説明するための模式図であって、図1に示す構成において、ポンプモジュール36から燃料タンク10、キャニスタ20を含む蒸発燃料経路に負圧を付与した場合の、各部における空気、燃料ベーパの流量を示している。
図3に示すように、燃料タンクに漏れ孔58が生じている場合、蒸発燃料経路に負圧を付与すると、漏れ孔58から燃料タンク10内に空気が流入する。このときの漏れ孔58からの流入量をQHOLEとする。また、ポンプモジュール36の通路54から排出される流量(ポンプ排出量)をQPUMPとする。
燃料タンク10内に燃料が存在しない場合、蒸発燃料経路へ流入する流量は漏れ孔58からの流入量QHOLEのみである。また、蒸発燃料経路から流出する流量はポンプ排出量QPUMPのみである。従って、以下の(1)式の関係が成立する。
QPUMP=QHOLE ・・・(1)
ここで、漏れ孔の大きさがオリフィス48の大きさと等しい場合、QHOLEはリファレンス圧PREFを測定する際にオリフィス48を通過する空気の流量と等しくなる。この場合、QPUMPに燃料ベーパの流量が含まれることがないため、
従って、燃料タンク10内に燃料が存在しない場合は、リファレンス圧PREFとP実測値を比較することで、漏れ孔がφ0.5mm以上であるか否かを正確に判別することができる。
燃料タンク10内に燃料が存在する場合、燃料の蒸発により燃料タンク10内に燃料ベーパが発生している。この場合、ポンプモジュール36によって蒸発燃料経路に負圧を与えると、漏れ孔58から流入した空気と燃料タンク10内で発生した燃料ベーパの双方がキャニスタ20へ流れる。燃料ベーパの発生量、すなわち、燃料タンク10からキャニスタ20へ流れる燃料ベーパの流量をQVAPとし、燃料タンク10からキャニスタ20へ流れる空気および燃料ベーパの総流量をQOUTとすると、以下の(2)式の関係が成立する。
QOUT=QHOLE+QVAP ・・・(2)
なお、燃料タンク10内で燃料ベーパの分圧が飽和蒸気圧に達していると、これ以上燃料ベーパは蒸発しないが、ポンプモジュール36によって燃料タンク10内の燃料ベーパが吸い出されると、燃料タンク10から排出された流量QVAPに相当する燃料ベーパが燃料タンク10内で蒸発する。
キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和している場合、燃料ベーパはキャニスタ20に吸着されないため、燃料タンク10からキャニスタ20へ送られた空気および燃料ベーパの総流量QOUTがそのままポンプモジュール36に流れる。従って、以下の(3)式の関係が成立する。
QPUMP=QOUT=QHOLE+QVAP ・・・(3)
この場合、燃料タンク10内に燃料が存在しない(1)式の場合と比較すると、燃料ベーパの流量分(QVAP)だけ、流入量QHOLEよりもポンプ排出量QPUMPの方が大きくなる。従って、漏れ孔58の大きさが同じであっても、燃料ベーパの流量QVAPに対応した燃料ベーパの蒸気圧分だけ燃料タンク10内の圧力がより高くなる。
このように、燃料タンク10内に燃料が存在し、かつキャニスタ20が飽和している場合、圧力計44で測定される圧力P実測値は燃料が存在しない場合に比べて燃料ベーパの蒸気分圧分だけ高くなる。従って、リファレンス圧PREFとP実測値を比較するのみでは、漏れ孔58の大きさを正確に判定することはできない。
一方、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和していない場合、燃料タンク10からキャニスタ20へ送られた燃料ベーパはキャニスタ20に吸着される。この場合、燃料タンク10内で発生した燃料ベーパの全てがキャニスタ20に吸着されるため、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着量をQCANIとすると、QCANI=QVAPの関係が成立する。そして、燃料タンク10からキャニスタ20へ送られた空気および燃料ベーパの総流量QOUTから吸着量QCANIを減算した値がポンプモジュール36に流れる。従って、以下の(4)式の関係が成立する。
QPUMP=QOUT−QCANI=QHOLE ・・・(4)
この場合、(1)式の場合と同様に、漏れ孔58からの流入量QHOLEはポンプ排出量QPUMPと等しくなる。従って、燃料ベーパの蒸気分圧が圧力計44で測定される圧力P実測値に影響を与えることはなく、(1)式の場合と同様に、リファレンス圧PREFとP実測値を比較することで、漏れ孔がφ0.5mm以上であるか否かを正確に判別することができる。
以上の観点から、本実施形態では、キャニスタ20の燃料ベーパの吸着能力が飽和していない場合にのみ蒸発燃料経路の漏れ判定を行い、キャニスタ20の燃料ベーパの吸着能力が飽和している場合は、漏れ判定を行わないようにしている。
これにより、燃料タンク10内で発生した燃料ベーパの圧力がP実測値に与える影響を排除することができ、蒸発燃料経路の漏れ判定を高精度に行うことが可能となる。また、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和している場合は漏れ判定を行わないため、ポンプモジュール36により蒸発燃料経路に負圧が付与されることはない。従って、燃料ベーパが飽和状態のキャニスタ20を通過して通路54から外気中に放出されてしまうことを確実に抑止することができる。
図4は、本実施形態の蒸発燃料処理装置における処理の手順を示すフローチャートである。先ず、ステップS1では、現時点におけるキャニスタ20の燃料ベーパ吸着量msを取得する。次のステップS2では、ステップS1で取得した吸着量msと所定のしきい値Mmaxを比較し、Mmax>msであるか否かを判定する。ここで、しきい値Mmaxは、キャニスタ20の燃料ベーパの吸着能力が飽和している場合に、キャニスタ20が吸着している燃料ベーパの吸着量である。
ステップS2でMmax>Mの場合はステップS3へ進む。この場合、現時点でのキャニスタ20の燃料ベーパ吸着量msがしきい値Mmaxより小さいため、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力は飽和していないと判断できる。従って、以降のステップで蒸発燃料経路の漏れ判定を実施する。すなわち、ステップS3ではポンプ42を作動させ、次のステップS4では、ポンプ42による負圧が、オリフィス48の設けられた通路52側へ付与されるように切換弁46の状態を設定して、リファレンス圧PREFを検出する。
次のステップS5では、VSVバルブ56を開き、パージVSV32を閉じる。次のステップS6では、ポンプ42による負圧がポンプ通路38側へ付与されるように切換弁46の状態を設定して、燃料タンク10内、キャニスタ20、ベーパ通路18、パージ通路26、ベーパポート22、パージポート28を含む蒸発燃料経路へ負圧を付与する。次のステップS7では、蒸発燃料経路に負圧を付与した状態で圧力計44により圧力P実測値を測定する。ステップS6で負圧を付与すると、ポンプモジュール36により蒸発燃料経路の燃料ベーパ、空気が排出され、圧力計44で測定される圧力P実測値は低下していく。ステップS7では、P実測値が低下して定常状態となった圧力測定を行う。
次のステップS8では、ステップS7で測定した圧力P実測値と、ステップS4で測定したリファレンス圧PREFとの大小関係を比較する。すなわち、ここではP実測値≦PREFであるか否かを判定する。
ステップS8でP実測値≦PREFと判定された場合は、ステップS9へ進み、蒸発燃料経路に生じている漏れ孔の大きさはφ0.5mm以下であると判定する。一方、ステップS8でP実測値>PREFと判定された場合は、ステップS10へ進み、蒸発燃料経路にφ0.5mmよりも大きな漏れ孔が生じていると判定する。
ステップS2でMmax≦msの場合はステップS11へ進む。この場合、現時点でのキャニスタ20の燃料ベーパ吸着量msがしきい値Mmaxに達しているため、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和していると判断できる。従って、ステップS11では、蒸発燃料経路の漏れ判定は行わない。なお、キャニスタ20の吸着量msが増加してMmaxに近傍に到達すると、ポンプモジュール36の通路54から燃料ベーパが大気放出されてしまうため、ステップS2において、所定の安全率を見込んだ上でMmaxとmsを比較することが好適である。例えば、ステップS2において、Mmaxに所定の係数(例えば0.9)を乗じて、0.9×Mmax>msであるか否かを判定する。これにより、キャニスタ20の燃料ベーパ吸着能力が完全には飽和していないが、飽和に近い状態となった場合に、漏れ判定を実施しない制御が実現できる。従って、燃料ベーパがポンプモジュール36の通路54から排出されてしまうことを確実に抑止できる。
図4の処理によれば、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和していない場合のみ蒸発燃料経路の漏れ判定を行うため、漏れ判定の際にポンプモジュール36により負圧を付与すると、燃料タンク10内の燃料ベーパが確実にキャニスタ20に吸着されることとなる。従って、ポンプモジュール36の通路54から燃料ベーパが大気中に放出されてしまうことを確実に抑止することができる。また、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和していない場合のみ蒸発燃料経路の漏れ判定を行うため、燃料ベーパの分圧が圧力計44で測定されることがない。従って、燃料ベーパの分圧がP実測値に与える影響を排除することができ、P実測値に基づいて蒸発燃料経路の漏れ判定を正確に行うことが可能となる。
次に、図4のステップS1において、現時点におけるキャニスタ20の燃料ベーパ吸着量msを求める方法を説明する。本実施形態において、ECU40は、キャニスタ20に吸着されている燃料ベーパの絶対量に相当する燃料吸着状態(燃料ベーパ吸着量ms)を正確に推定する機能を有している。
燃料タンク10内では、燃料の蒸発によって燃料ベーパが発生している。VSVバルブ56を開くと、燃料タンク10内の燃料ベーパはキャニスタ20に流れ、キャニスタ20に吸着される。燃料ベーパがキャニスタ20に吸着されると、キャニスタ20の内部エネルギーが変化する。このときの内部エネルギーの変化量は、燃料ベーパの吸着量に応じて変動する。本実施形態の蒸発燃料処理装置では、VSVバルブ56を開いている間のキャニスタ20の内部エネルギーの変化量を、吸着の際に発生する吸着熱から算出し、これに基づいてキャニスタ20の燃料ベーパ吸着量を算出する。
最初に吸着熱を算出する方法を説明する。図5は、燃料ベーパが活性炭30に吸着される様子を示す模式図である。図5に示すように、活性炭30に吸着される前の燃料ベーパは気相状態にある。気相状態の燃料ベーパが活性炭30の表面に吸着されると、吸着分子が発生する。これにより、燃料ベーパが液化して吸着相の状態となり、吸着熱が発生する。ここで、燃料ベーパの吸着によって発生する熱量(吸着熱)、活性炭30がもらうエネルギー、熱伝導によって失われる熱量、の間には以下の関係が成立する。
(吸着熱)=(活性炭がもらうエネルギー)+(熱伝導によって失われる熱量)
上記関係は、以下の(5)式(Tianの式)で表すことができる。(5)式において、dqは吸着の際に燃料ベーパの単位質量が発生する吸着熱である。また、ΔTは、吸着時の燃料ベーパ(活性炭30)の温度変化量であって、VSVバルブ56を開いている間のキャニスタ20の内部温度Tの変化量として、キャニスタ温度センサ34から検出することができる。また、σは活性炭30の熱伝導係数、cは活性炭30の有効熱容量である。(5)式によれば、温度変化量ΔTに基づいて、燃料ベーパの単位質量が発生する吸着熱dqを算出することができる。
燃料ベーパの吸着によってキャニスタ20内の内部エネルギーEadsが変化する。この際、熱伝導によって熱がキャニスタ20の外部に逃げなければ、以下の関係が成立する。
(燃料ベーパの単位質量が吸着された際の、キャニスタ内のエネルギー変化量)=(吸着によって燃料ベーパの単位質量が発生する熱量)
すなわち、燃料ベーパ単位質量あたりのエネルギー変化量dEadsと吸着熱dqは釣り合い、以下の(6)式の関係が成立する。
dEads=dq ・・・(6)
キャニスタ20の内部エネルギーEadsは、活性炭30のエネルギーと吸着相のエネルギーESとの和で表すことができ、以下の関係が成立する。
(キャニスタの内部エネルギー)=(活性炭のエネルギー)+(吸着相のエネルギー)
活性炭30の内部エネルギーは、活性炭30の内部温度Tに比例し、内部温度Tと活性炭の比熱CVCとの積で表すことができる。従って、以下の(7)式の関係が成立する。
Eads=CVC・T+ES ・・・(7)
(7)式を吸着量、時間で微分すると、VSVバルブ56を開いている間の燃料ベーパ単位質量の吸着による内部エネルギーEadsの変化量dEadsが得られる。そして、(6)式からdEads=dqであるため、以下の(8)式の関係が成立する。
dq=dEads=CVC・dT+dES ・・・(8)
(8)式において、吸着相のエネルギーESの変化量dESは、燃料ベーパの吸着量に応じて変動する。従って、変化量dESを吸着量の関数として表すことで、(8)式に基づいて、吸着熱dqから燃料ベーパの吸着量を算出することができる。
吸着相のエネルギーESの変化量dESを吸着量の関数として表す方法を以下に説明する。図6は、単位質量あたりの吸着相のエネルギーESが単位活性炭質量あたりの燃料ベーパの吸着量msに応じて変動する様子を示す特性図である。図6は、燃料ベーパの温度を一定とした場合の特性を示しており、単位質量あたりの吸着相のエネルギーESとともに、燃料ベーパの気相のエネルギー、吸着の際に発生した吸着熱、及び燃料ベーパの蒸発潜熱を、それぞれ燃料ベーパ単位質量あたりの値として示している。図6に示すように、吸着相のエネルギーと吸着熱は吸着量msに応じて変動し、気相のエネルギー、蒸発潜熱は吸着量msによらず一定である。
図6に示すように、活性炭30における燃料ベーパの吸着量が多くなるほど、吸着相のエネルギーは増加し、吸着熱は減少する。そして、燃料ベーパの吸着量が多くなると、吸着相のエネルギーは、気相のエネルギーから蒸発潜熱を差し引いた値に漸近していく。
活性炭30に吸着される前の燃料ベーパの内部エネルギーは、図6に示す気相のエネルギーである。燃料ベーパが活性炭30に吸着されて吸着分子が発生すると、燃料ベーパの内部エネルギーは図6に示す吸着相のエネルギーとなり、吸着熱が発生する。従って、以下の関係が成立する。
(燃料ベーパ単位質量あたりの吸着相のエネルギー)=(燃料ベーパ単位質量あたりの気相のエネルギー)−(燃料ベーパ単位質量あたりの吸着熱)
この関係は、以下の(9)式で表すことができる。
(9)式において、Cp・Tは燃料ベーパ単位質量あたりの気相のエネルギーを表している。ここで、Cpは燃料蒸気低圧比熱であり、Tは燃料ベーパの温度である。
また、(9)式において、Δhvap(T)+f(ν)は、燃料ベーパ単位質量あたりの吸着熱を表している。ここで、Δhvap(T)は蒸発潜熱であって、燃料ベーパの温度Tの関数である。蒸発潜熱Δhvap(T)は、例えば公知のクラジウス・クラペイロンの式で表すことができる。
また、f(ν)は、燃料ベーパの吸着ポテンシャルを表している。吸着ポテンシャルf(ν)は、燃料ベーパが吸着相となった場合に、分子間力に起因して発生する燃料ベーパのエネルギーである。吸着ポテンシャルf(ν)は吸着体積νの関数であって、νは吸着相の密度ρLに対する吸着量msの割合である。すなわち、ν=ms/ρLの関係が成立する。図7は、吸着ポテンシャルf(ν)とν(=ms/ρL)の関係(吸着特性曲線)を実験的に求めた特性図である。図7に示すように、νが増加すると、燃料ベーパの吸着ポテンシャルf(ν)は減少する。すなわち、ν=ms/ρLであるため、吸着量msが増加すると、吸着ポテンシャルf(ν)は減少する。吸着量msが更に増加すると吸着ポテンシャルf(ν)は0に近づき、図6に示すように吸着熱と蒸発潜熱はほぼ等しくなる。
このように、燃料ベーパ単位質量あたりの吸着熱は、蒸発潜熱Δhvap(T)と吸着ポテンシャルf(ν)の和で表すことができる。
(9)式を吸着量msで積分すると、以下の(10)式が得られる。(10)式によれば、吸着相のエネルギーEsを吸着量msの関数として表すことができる。なお、(10)式では、吸着ポテンシャルf(ν)における変数をν’として示している。
(8)式において、VSVバルブ56を開いている間の、燃料ベーパ単位質量あたりの変化量dESは、(10)式を微分して算出することができる。ここで、吸着相のエネルギーESは燃料ベーパの温度Tと吸着量msの関数であるため、以下の(11)式の関係が成立する。そして、(11)式の右辺を(8)式に代入すると、以下の(12)式が得られる。燃料ベーパの温度Tとキャニスタ20の内部温度Tは等しいと考えることができるため、(12)式によれば、内部エネルギーの変化量dEads(=吸着熱dq)をキャニスタ内部温度T、および吸着量msの関数として表すことができる。従って、吸着熱dq、および内部温度Tから吸着量msを算出することが可能となる。
(11)式の右辺第1項および第2項は(10)式を微分して求めることができ、以下の(13)式、(14)式で表すことができる。(13)式、(14)式では、dTをΔTとし、またdmsをΔmsとして示している。また、(13)式、(14)式において、ΔTは、VSVバルブ56を開いている間、すなわち燃料ベーパが吸着されている間の燃料ベーパ(活性炭30)の温度変化量である。また、TはVSVバルブ56を開いた時点の燃料ベーパ(活性炭30)の温度である。ΔT,Tは、キャニスタ温度センサ34から検出することができる。
(13)式では(10)式を内部温度Tについて微分しているが、この際(10)式のf(ν)が内部温度Tの関数ではないため、f(ν)を微分した項は0となる。また、(13)式において、Δ{Δhvap(T)}は、VSVバルブ56を開いている間の蒸発潜熱Δhvap(T)の変化量である。また、ν=ms/ρLであるため、(14)式においてdν/dms=1/ρLである。
(13)式、(14)式を(12)式へ代入すると、以下の(15)式が得られる。(15)式において、ΔmsはVSVバルブ56を開いている間の吸着量msの変化量を表している。すなわち、VSVバルブ56を開いた時点の吸着量をms(k−1)、VSVバルブ56を閉じた時点の吸着量をms(k)とすると、Δms=ms(k)−ms(k−1)の関係が成立する。また、(15)式において、msはVSVバルブ56を閉じた時点の吸着量ms(k)を表している。従って、(15)式を変形すると(16)式が得られる。(16)式によれば、吸着熱dqをms(k),ms(k−1),ΔTの関数として表すことができる。
以下の(17)式は、(16)式の左辺dqを右辺に移項して、関数fを定義した式である。(16)式によれば、吸着熱dq、前回の吸着量ms(k−1)、温度変化量ΔTを用いて現在の吸着量ms(k)を求めることは可能であるが、吸着ポテンシャルf(ν)が吸着量ms(k)の関数であるため、(16)式から直接的に現在の吸着量ms(k)を求めようとすると演算処理が煩雑となる場合がある。そこで、本実施形態では、前回取得した吸着量ms(k−1)とVSVバルブ56を開いている間の温度変化量ΔTを(17)式に代入するとともに、現在の吸着量ms(k)については仮の値を(17)式に代入する。そして、仮の吸着量ms(k)の値を変更しながら、f→0となるように(17)式を反復演算する。そして、関数fの値が最も0に近づいた場合のms(k)の値を最終的な現在の吸着量ms(k)として算出する。このように、(17)式を反復演算することで、吸着熱dq、前回の吸着量ms(k−1)、温度変化量ΔTから現在の吸着量ms(k)を算出することが可能となる。
キャニスタ20における吸着量が多くなり、パージVSV32を開いた場合は、活性炭30に吸着されていた燃料ベーパが脱離して吸気通路側へ流れる。このとき、図5で説明した反応と逆の反応が起こり、パージVSV32を開いている間にキャニスタ温度センサ34で検出される温度は、時間の経過とともに低下する。従って、パージVSV32を開いた場合の温度変化量ΔTは負の値となる。
所定時間パージVSV32を開いて燃料ベーパを脱離させた後の吸着量ms(k)は、VSVバルブ56を開いて燃料ベーパを吸着させた後の吸着量ms(k)と同様に、(17)式から求めることができる。この際、ΔTの値を負の値にして(17)式に代入することで、脱離後の燃料ベーパ吸着量ms(k)を求めることが可能である。
従って、VSVバルブ56またはパージVSV32を開いた時点の吸着量ms(k−1)と、VSVバルブ56またはパージVSV32を開いている間の温度変化量ΔTを(17)式に代入することで、VSVバルブ56またはパージVSV32を閉じた時点の吸着量ms(k)を算出することが可能となる。そして、吸着量ms(k)を記憶しておき、次にVSVバルブ56またはパージVSV32を開いた際に(17)式の演算を行うことで、キャニスタ20における燃料ベーパ吸着量の絶対量を逐次算出することが可能である。
キャニスタ20に吸着されている燃料ベーパは、パージVSV32を所定時間(数十分程度)開くことで完全に脱離する。従って、VSVバルブ56またはパージVSV32を開いた時点の吸着量ms(k−1)が不明の場合は、パージVSV32を所定時間開いてキャニスタ20を空の状態にリセットし、次回の演算の際にms(k−1)=0として(17)式の演算を行うことが好適である。
また、VSVバルブ56、パージVSV32の双方を閉じている場合は、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着現象、脱離現象は発生せず、キャニスタ20内で温度変化は生じない。従って、VSVバルブ56またはパージVSV32の一方を開いた時にキャニスタ温度センサ36を起動するようにしてもよい。
次に、図8のフローチャートに基づいて、燃料ベーパ吸着量msを算出する処理の手順を説明する。ここでは、VSVバルブ56を開いてキャニスタ20に燃料ベーパを吸着させる場合の処理について説明する。
先ず、ステップS11では、燃料タンク10に設けられたタンク内圧バルブを閉じ、燃料タンク10からキャニスタ20へ燃料ベーパを送る準備をする。次のステップS12では、燃料ベーパ吸着量を推定する準備が完了しているか否かを判定する。
次のステップS13では、燃料タンク10の内圧が所定の圧力(大気圧+α)以上であるか否かを判定する。燃料タンク10の内圧が所定の圧力以上である場合は、燃料タンク10内で燃料ベーパが発生しているため、ステップS14へ進み、所定時間の間だけVSVバルブ56を開く。一方、燃料タンク10の内圧が所定の圧力よりも小さい場合は終了する(END)。
ステップS14でVSVバルブ56を開いている間は、燃料タンク10内の燃料ベーパがキャニスタ20へ流れ込む。そして、燃料ベーパは活性炭30に吸着され、吸着熱の発生により活性炭30の温度が上昇する。ステップS15では、VSVバルブ56を開いている間の温度変化量ΔTをキャニスタ温度センサ34から検出する。
次のステップS16では、ステップS15で求めた温度変化量ΔTを用いて、活性炭30における燃料ベーパの現在の吸着量(VSVバルブ56を閉じた時点の吸着量)ms(k)を求める。ステップS16で燃料ベーパの吸着量ms(k)を求めた後は、処理を終了する(END)。
図9のフローチャートは、図8のステップS16において、吸着量ms(k)を算出する処理を詳細に示したものである。先ずステップS21では、図8のステップS15で検出した温度変化量ΔTを用いて、(5)式から吸着熱dqを算出する。次のステップS22では、ECU40のメモリから前回算出した吸着量ms(k−1)を取得する。
次のステップS23では、ΔT、ms(k−1)、および仮に設定したms(k)の値を(17)式に代入して反復計算を行う。そして、(17)式のfが最も0に近づいたときのms(k)の値を最終的な現在の吸着量ms(k)として算出する。ステップS23で現在の吸着量ms(k)を算出した後は、処理を終了する(END)。
なお、ステップS23において、関数fの値が0近傍の値に収束しない場合は、所定時間の経過後、ステップS21または図8の処理に戻り、処理を再度行うようにする。
また、図8のステップS13において、(燃料タンク10の内圧)≦(大気圧−α)の場合にVSVバルブ56を開くと、キャニスタ20に吸着されている燃料ベーパが脱離し、キャニスタ20から燃料タンク10へ燃料ベーパが流れる。この場合、VSVバルブ56を開いている間の温度変化量ΔTは負の値となる。従って、(燃料タンク10の内圧)≦(大気圧−α)の場合においても、パージVSV32を開いた場合と同様に、燃料ベーパを脱離させた後、VSVバルブ56を閉じた時点の吸着量ms(k)を算出することができる。(燃料タンク10の内圧)≦(大気圧−α)の場合にVSVバルブ56を開くことで、蒸発燃料経路が急冷された場合などに燃料タンク10に過度な圧力がかかることを回避できる。
図8、図9の処理によれば、現時点のキャニスタ20における燃料ベーパ吸着量ms(k)を逐次算出することができる。従って、図4のステップS1において、現時点におけるキャニスタ20の燃料ベーパ吸着量msとして、逐次算出しておいた燃料ベーパ吸着量ms(k)を取得することができる。
次に、マップから燃料ベーパの吸着量msを算出する方法を説明する。図10は、図7と同様に、単位質量あたりの吸着相のエネルギーESが単位活性炭質量あたりの燃料ベーパの吸着量msに応じて変動する様子を示す特性図である。図10に基づいて、VSVバルブ56が開いている間の温度変化量ΔTが同じ場合に、VSVバルブ56を開いた時点の吸着量ms(k−1)の相違が、VSVバルブ56が開いている間の吸着量の変化量Δmsに与える影響について説明する。
VSVバルブ56を開いている間の温度変化量ΔTが等しい場合、燃料ベーパのエネルギー変化量も等しいと考えることができる。図10に示すように、吸着量ms(k−1)が異なる2つの場合において、VSVバルブ56を開いている間の吸着による燃料ベーパのエネルギー変化量は、単位質量あたりの吸着相のエネルギーを表す曲線60と、気相のエネルギーを表す直線62で囲まれた面積A1,A2で表すことができる。ここで、面積A1と面積A2で表される2つの場合において、吸着開始時の内部温度Tが等しく、吸着の際の温度変化量ΔTが等しい場合を想定すると、双方の燃料ベーパのエネルギー変化量が等しくなるため、面積A1と面積A2は等しくなる。
ここで、横軸方向の面積A1,面積A2の幅は、VSVバルブ56を開いている間の吸着量の変化量Δmsと考えることができる。図10に示すように、温度変化量ΔTが等しい場合の横軸方向の面積A1,面積A2の幅は、吸着量ms(k−1)に応じて変動し、面積A1に比べて面積A2の横軸方向の幅は広くなる。従って、図10に示すように、温度変化量ΔTが等しい場合、VSVバルブ56を開いた時点の吸着量ms(k−1)が大きい程、吸着量の変化量Δmsは増加する。
一方、VSVバルブ56を開いた時点の吸着量ms(k−1)が等しい場合、温度変化量ΔTが大きいほど活性炭30における燃料ベーパの吸着反応が多く行われる。従って、吸着量ms(k−1)が等しい場合は、温度変化量ΔTが大きくなるほど、吸着量の変化量Δmsは大きくなる。このことは、例えば図7の吸着特性曲線からも説明することができる。図7に示すように、吸着量の変化量Δmsが異なる2つの場合(Δms1,Δms2)において、Δmsが大きくなる程、f(ν)の変化量Δ{f(ν)}は大きくなる。そして、f(ν)が大きいほど吸着相のエネルギーEsの変化量が大きくなり、結果として温度変化量ΔTも大きくなる。従って、吸着量ms(k−1)が等しい場合は、温度変化量ΔTが大きくなるほど、吸着量の変化量Δmsは大きくなる。
以上の観点から、温度変化量ΔT、VSVバルブ56を開いた時点の吸着量ms(k−1)、およびVSVバルブ56を開いている間の吸着量の変化量Δmsの関係をマップで規定することができる。そして、マップからVSVバルブ56を開いている間の吸着量の変化量Δmsを求めることが可能となる。
図11は、温度変化量ΔT、吸着量ms(k−1)、および吸着量の変化量Δmsの関係を規定したマップを示す模式図である。図11のマップには、温度変化量ΔTが等しい場合、VSVバルブ56を開いた時点の吸着量ms(k−1)が大きいほど、吸着量の変化量Δmsが大きくなる関係が規定されている。また、吸着量ms(k−1)が等しい場合は、温度変化量ΔTが大きいほど、変化量Δmsが大きくなる関係が規定されている。従って、温度変化量ΔT、吸着量ms(k−1)を図11のマップに当てはめることで、吸着量の変化量Δmsを求めることができる。そして、Δmsを求めた後は、ms(k)=ms(k−1)+Δmsの演算を行うことで、現在の吸着量ms(k)を求めることが可能となる。なお、図11のマップは、温度変化量ΔT、吸着量ms(k−1)、および吸着量の変化量Δmsの関係を実験で求めることで作成することができる。
パージVSV32を開いた場合も同様に、温度変化量ΔT(<0)、吸着量ms(k−1)を図11のマップに当てはめることで、吸着量の変化量(脱離量)Δmsを求めることができる。
なお、図11のマップでは、温度変化量ΔT、吸着量ms(k−1)、および吸着量の変化量Δmsの関係を規定したが、ms(k)=ms(k−1)+Δmsであるため、温度変化量ΔT、吸着量ms(k−1)、および吸着量ms(k)の関係を規定しても良い。
図11マップによれば、現時点のキャニスタ20における燃料ベーパ吸着量ms(k)を求めることができる。従って、図4のステップS1において、現時点におけるキャニスタ20の燃料ベーパ吸着量msとして、図11のマップから求めた燃料ベーパ吸着量ms(k)を取得することができる。
以上説明したように実施の形態1によれば、キャニスタ20の燃料ベーパ吸着能力が飽和していない場合にのみ、蒸発燃料経路の漏れ判定を行うことができる。これにより、漏れ判定の際には、燃料タンク10内の燃料ベーパが全てキャニスタ20に吸着されることとなるため、燃料ベーパの分圧が圧力計44で測定した圧力P実測値に与える影響を排除することができる。従って、リファレンス圧PREFと圧力計44で測定した圧力P実測値に基づいて、蒸発燃料経路に漏れ孔が生じているか否かを正確に判定することが可能となる。また、キャニスタ20の燃料ベーパ吸着能力が飽和している場合は、漏れ判定を行わないため、燃料ベーパがポンプモジュール36の通路54から大気中に放出されてしまうことを確実に抑止することができる。
また、実施の形態1によれば、VSVバルブ56を開いている間のキャニスタ内部温度の変化量ΔTから吸着熱dqを算出することができる。そして、吸着熱dq(=内部エネルギーEadsの変化量dEads)をキャニスタ20の内部温度Tと吸着量msとの関数で表すことができるため、吸着熱dq、内部温度Tおよび吸着量msの関係式から現時点の吸着量msを算出することが可能となる。また、VSVバルブ56を開いた時点の吸着量ms(k−1)と、VSVバルブ56を開いている間の温度変化量ΔTとから、現在の吸着量ms(k)をマップ算出することが可能となる。従って、簡素な方法で、キャニスタ20の燃料ベーパ吸着量を正確に求めることが可能となる。
なお、実施の形態1において、キャニスタ温度センサ34をキャニスタ20内の複数の箇所に設けておいても良い。これにより、キャニスタ20内の複数箇所で単位活性炭質量あたりの燃料ベーパの吸着量msを求めることができ、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着状態をより正確に求めることができる。
また、実施の形態1において、吸着熱dqを算出する際に、伝熱によりキャニスタ20の外部へ逃げる熱量を考慮して吸着熱dqを算出しても良い。例えば、キャニスタ20の外周に熱流束センサ38を設け、外部への熱損失を検出し、算出した吸着熱dqに熱損失分を加算することで、吸着熱dqの算出精度をより高めることが可能である。
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態2では、圧力計44で測定し圧力P実測値の変動に基づいて、キャニスタ20の燃料ベーパ吸着能力が飽和しているか否かを判定する。そして、キャニスタ20の燃料ベーパ吸着能力が飽和している場合は、実施の形態1と同様に蒸発燃料経路の漏れ判定を中止する。実施の形態2の蒸発燃料処理装置の構成は図1で説明した構成と同様である。
図12は、蒸発燃料経路に負圧を付与した場合に、ポンプモジュール36で測定された圧力P実測値が時間の経過とともに変動する様子を示す特性図である。各特性A〜Cは、負圧を与え始めた時点から定常状態となるまでのP実測値の変動を示している。ここで、実線で示す特性Aは、実施の形態1と同様にポンプモジュール36から燃料タンク10、キャニスタ20を含む蒸発燃料経路に負圧を与えた場合に圧力P実測値が変動する様子を示している。
また、一点鎖線で示す特性Bは、ポンプモジュール36から燃料タンク10に直接負圧を与えた場合の圧力P実測値の変動を示している。すなわち、特性Bは、図1の構成からキャニスタ20を除き、ポンプモジュール36と燃料タンク10を直接接続して蒸発燃料経路に負圧を付与した場合に、圧力P実測値が変動する様子を示している。
また、破線で示す特性Cは、特性Aと同様に燃料タンク10、キャニスタ20を含む蒸発燃料経路に負圧を付与した場合において、時刻tの時点でキャニスタ20の燃料ベーパ吸着能力が飽和した場合に、以降の圧力P実測値が変動する様子を示している。
特性A〜Cに示すように、負圧を与え始めた時点では、蒸発燃料経路内に空気、燃料ベーパが満たされているため、経路内の空気、燃料ベーパが排出されるまでの間、圧力計44で測定される圧力P実測値は時間の経過とともに低下する。そして、蒸発燃料経路内の空気、燃料ベーパが排出されると、圧力計44で測定された圧力は定常値となる。
実施の形態1で説明したように、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和している場合は、燃料ベーパの分圧分が圧力計44で測定されてしまうため、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和していない場合に比べて圧力計44で測定される圧力P実測値は高くなる。図12に示す特性Bは、キャニスタ20を設けていない場合に圧力P実測値が変動する様子を示しているため、特性Bの圧力には燃料ベーパの蒸気分圧が含まれる。すなわち、特性Bは、図1の構成において、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和している場合に圧力P実測値が変動する特性と同様である。従って、図12に示すように、特性Aに比べて特性Bの圧力は高くなる。
図1に示す構成において、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和していない場合に、ポンプモジュール36から蒸発燃料経路に負圧を付与すると、特性Aに従って圧力P実測値は低下していく。この間、燃料タンク10内の燃料ベーパはキャニスタ20側へ吸い出され、キャニスタ20に順次吸着されていく。そして、図12に示す時刻tの時点でキャニスタ20の燃料ベーパ吸着能力が飽和すると、時刻t以降は燃料ベーパがキャニスタ20に吸着されないため、圧力計44で測定された圧力P実測値は、燃料ベーパの分圧分だけ高くなる。従って、時刻t以降の圧力P実測値は特性Cに従って変動し、キャニスタ20が存在しない場合の特性Bに漸近していく。そして、定常状態に到達した際の圧力(=Pc)は、定常状態の特性Bの圧力と同一となる。
従って、蒸発燃料経路に負圧を付与している最中にキャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和すると、飽和した時刻tの時点で圧力推移が大きく変動し、時刻tにおいて圧力P実測値に変曲点64が発生することになる。
このため、実施の形態2では、蒸発燃料経路に負圧を与えている最中に圧力P実測値をモニタし、P実測値に変曲点64が発生した場合は、変曲点64が発生した時点でキャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和したものと判定する。そして、以降の蒸発燃料経路の漏れ判定を中止する。これにより、実施の形態1と同様にキャニスタ20が飽和している場合に漏れ判定が行われることを抑止できる。従って、燃料ベーパの蒸気分圧分が漏れ判定に与える影響を排除することができ、蒸発燃料経路の漏れ判定を高精度に行うことが可能となる。また、変曲点64が検出された後に漏れ判定を中止することにより、燃料ベーパがポンプモジュール36から大気中に放出されてしまうことを抑止できる。なお、変曲点64を検出する場合は、P実測値をモニタしている最中にP実測値が減少から増加に転じるタイミングが存在するか否かを検出する。
図13は、図12と同様に、ポンプモジュール36で測定された圧力P実測値が時間の経過とともに変動する様子を示す特性図である。図13に示す特性Cは、P実測値がPcに到達する以前にキャニスタ20が飽和した場合のP実測値の変動を示している。この場合、変曲点64でP実測値が減少から増加に転じることはないが、変曲点64の前後でP実測値の変化の割合が大きく変わる。本実施形態では、図13に示すように、P実測値の変化の割合が変動するタイミングも変曲点64と称することとする。図13の変曲点64を検出する場合は、例えば、微小時間Δt毎のP実測値の変化量をモニタしておき、Δt毎の変化量が大きく変わるタイミングが発生した場合、そのタイミングで変曲点64が発生したものと判断する。この場合、Δt毎の変化量の差分が所定のしきい値を超えた場合を、Δt毎の変化量が大きく変わるタイミングと判定できる。また、P実測値の特性の2次微分が所定のしきい値よりも大きくなった場合を、Δt毎の変化量が大きく変わるタイミングと判定してもよい。
次に、図14のフローチャートに基づいて、実施の形態2にかかる蒸発燃料処理装置の処理の手順を説明する。先ず、ステップS31では、ポンプ42を作動させる。次のステップS32では、ポンプ42による負圧が、オリフィス48の設けられた通路52側へ付与されるように切換弁46の状態を設定して、リファレンス圧PREFを検出する。
次のステップS33では、ポンプ42による負圧がポンプ通路38側へ付与されるように切換弁46の状態を設定して、燃料タンク10内、キャニスタ20、ベーパ通路18、パージ通路26、ベーパポート22、パージポート28を含む蒸発燃料経路へ負圧を付与する。次のステップS34では、蒸発燃料経路に負圧を付与した際の圧力P実測値の変動をモニタする。
次のステップS35では、モニタした圧力P実測値の特性に変曲点64が生じているか否かを判定する。変曲点64が生じていない場合は、キャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和していないため、ステップS36へ進み、以降のステップで蒸発燃料経路の漏れ判定を実施する。
ステップS36では、定常状態となった後の圧力P実測値と、ステップS32で測定したリファレンス圧PREFとの大小関係を比較する。すなわち、ここではP実測値≦PREFであるか否かを判定する。
ステップS36でP実測値≦PREFと判定された場合は、ステップS37へ進み、蒸発燃料経路に生じている漏れ孔の大きさはφ0.5mm以下であると判定する。一方、ステップS36でP実測値>PREFと判定された場合は、ステップS38へ進み、蒸発燃料経路にφ0.5mmよりも大きな漏れ孔が生じていると判定する。
ステップS35で変曲点64が検出された場合は、ステップS39へ進む。この場合、変曲点64が検出された時点でキャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和しているため、ポンプ42の作動を停止し、漏れ判定を中止する。
以上説明したように実施の形態2によれば、圧力計44で測定した圧力P実測値の変動をモニタし、圧力P実測値の特性に変曲点64が発生した場合は、変曲点64が発生した時点でキャニスタ20における燃料ベーパの吸着能力が飽和したものと判断できる。従って、変曲点64を検出した場合は漏れ判定を中止することで、ポンプモジュール36から燃料ベーパが外気中に放出されてしまうことを抑止できる。