「公知の従来技術の説明」
自動車用自動変速装置として、図3〜5に示す様なトロイダル型無段変速機を使用する事が研究され、一部で実施されている。このトロイダル型無段変速機は、ダブルキャビティ型と呼ばれるもので、入力軸1の両端部周囲に入力側ディスク2、2を、ボールスプライン3、3を介して支持している。従ってこれら両入力側ディスク2、2は、互いに同心に、且つ、同期した回転を自在に支持されている。又、上記入力軸1の中間部周囲に出力歯車4を、この入力軸1に対する相対回転を自在として支持している。そして、この出力歯車4の中心部に設けた円筒部の両端部に出力側ディスク5、5を、それぞれスプライン係合させている。従ってこれら両出力側ディスク5、5は、上記出力歯車4と共に、同期して回転する。
又、上記各入力側ディスク2、2と上記各出力側ディスク5、5との間には、それぞれ複数個ずつ(通常2〜3個ずつ)のパワーローラ6、6を挟持している。これら各パワーローラ6、6は、それぞれトラニオン7、7の内側面に、支持軸8、8及び複数の転がり軸受を介して、回転自在に支持されている。上記各トラニオン7、7は、それぞれの長さ方向(図3、5の上下方向、図4の表裏方向)両端部に、これら各トラニオン7、7毎に互いに同心に設けられた枢軸9、9を中心として揺動変位自在である。これら各トラニオン7、7を傾斜させる動作は、油圧式のアクチュエータ10、10により、これら各トラニオン7、7を上記枢軸9、9の軸方向に変位させる事で行なうが、総てのトラニオン7、7の傾斜角度は、油圧式及び機械式に互いに同期させる。
即ち、前記入力軸1と出力歯車4との間の変速比を変えるべく、上記各トラニオン7、7の傾斜角度を変える場合には、上記各アクチュエータ10、10により上記各トラニオン7、7を、それぞれ逆方向に、例えば、図5の右側のパワーローラ6を同図の下側に、同図の左側のパワーローラ6を同図の上側に、それぞれ同じ距離だけ変位させる。この結果、これら各パワーローラ6、6の周面と上記各入力側ディスク2、2及び各出力側ディスク5、5の内側面との当接部に作用する、接線方向の力の向きが変化(当接部にサイドスリップが発生)する。そして、この力の向きの変化に伴って上記各トラニオン7、7が、支持板11、11に枢支された上記各枢軸9、9を中心として、互いに逆方向に揺動(傾斜)する。この結果、上記各パワーローラ6、6の周面と上記入力側、出力側各ディスク2、5の内側面との当接位置が変化し、上記入力軸1と出力歯車4との間の回転変速比が変化する。
上記各アクチュエータ10、10への圧油の給排状態は、これら各アクチュエータ10、10の数に関係なく1個の制御弁12により行ない、何れか1個のトラニオン7の動きをこの制御弁12にフィードバックする様にしている。この制御弁12は、ステッピングモータ13により軸方向(図3の表裏方向、図5の左右方向)に変位させられるスリーブ14と、このスリーブ14の内径側に軸方向の変位自在に嵌装されたスプール15とを有する。又、上記各トラニオン7、7と上記各アクチュエータ10、10のピストン16、16とを連結するロッド17、17のうち、何れか1個のトラニオン7に付属のロッド17の端部にプリセスカム18を固定しており、このプリセスカム18とリンク腕19とを介して、上記ロッド17の動き、即ち、軸方向の変位量と回転方向の変位量との合成値を上記スプール15に伝達する、フィードバック機構を構成している。又、上記各トラニオン7、7同士の間には同期ケーブル20を掛け渡して、油圧系の故障時にも、これら各トラニオン7、7の傾斜角度を、機械的に同期させられる様にしている。
変速状態を切り換える際には、上記ステッピングモータ13により上記スリーブ14を、得ようとする変速比に見合う所定位置にまで変位させて、上記制御弁12の所定方向の流路を開く。この結果、上記各アクチュエータ10、10に圧油が、所定方向に送り込まれて、これら各アクチュエータ10、10が上記各トラニオン7、7を所定方向に変位させる。即ち、上記圧油の送り込みに伴ってこれら各トラニオン7、7が、前記各枢軸9、9の軸方向に変位しつつ、これら各枢軸9、9を中心に揺動する。そして、上記何れか1個のトラニオン7の動き(軸方向及び揺動変位)が、上記ロッド17の端部に固定したプリセスカム18とリンク腕19とを介して上記スプール15に伝達され、このスプール15を軸方向に変位させる。この結果、上記トラニオン7が所定量変位した状態で、上記制御弁12の流路が閉じられ、上記各アクチュエータ10、10への圧油の給排が停止される。
この際の上記トラニオン7及び上記プリセスカム18のカム面21の変位に基づく上記制御弁12の動きは、次の通りである。先ず、上記制御弁12の流路が開かれる事に伴って上記トラニオン7が軸方向に変位すると、前述した様に、パワーローラ6の周面と入力側ディスク2及び出力側ディスク5の内側面との当接部に発生するサイドスリップにより、上記トラニオン7が上記各枢軸9、9を中心とする揺動変位を開始する。又、上記トラニオン7の軸方向変位に伴って上記カム面21の変位が、上記リンク腕19を介して上記スプール15に伝わり、このスプール15が軸方向に変位して、上記制御弁12の切り換え状態を変更する。具体的には、上記アクチュエータ10により上記トラニオン7を中立位置に戻す方向に、上記制御弁12が切り換わる。
従って上記トラニオン7は、軸方向に変位した直後から、中立位置に向け、逆方向に変位し始める。但し、上記トラニオン7は、中立位置からの変位が存在する限り、上記各枢軸9、9を中心とする揺動を継続する。この結果、上記プリセスカム18のカム面21の円周方向に関する変位が、上記リンク腕19を介して上記スプール15に伝わり、このスプール15が軸方向に変位する。そして、上記トラニオン7の傾斜角度が、得ようとする変速比に見合う所定角度に達した状態で、このトラニオン7が中立位置に復帰すると同時に、上記制御弁12が閉じられて、上記アクチュエータ10への圧油の給排が停止される。この結果上記トラニオン7の傾斜角度が、前記ステッピングモータ13により前記スリーブ14を軸方向に変位させた量に見合う角度になる。
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、エンジン等の動力源に繋がる駆動軸22により一方(図3、4の左方)の入力側ディスク2を、図示の様なローディングカム式の押圧装置23を介して回転駆動する。この結果、前記入力軸1の両端部に支持された1対の入力側ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、上記各パワーローラ6、6を介して上記各出力側ディスク5、5に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。
この様に上記各入力側ディスク2、2から上記各出力側ディスク5、5に動力を伝達する際に、上記各トラニオン7、7には、それぞれの内側面に支持した上記各パワーローラ6、6の周面と上記各ディスク2、5の内側面との転がり接触部(トラクション部)での摩擦に伴って、それぞれの両端部に設けた枢軸9、9の軸方向の力が加わる。この力は、所謂2Ftと呼ばれるもので、その大きさは、上記各入力側ディスク2、2から上記各出力側ディスク5、5(或は出力側ディスク5、5から入力側ディスク2、2)に伝達するトルクに比例する。そして、この様な力2Ftは、前記各アクチュエータ10、10により支承する。従って、トロイダル型無段変速機の運転時に、これら各アクチュエータ10、10を構成するピストン16、16の両側に存在する1対の油圧室24a、24b同士の間の圧力差は、上記力2Ftの大きさに比例する。
上記入力軸1と出力歯車4との回転速度を変える場合で、先ず入力軸1と出力歯車4との間で減速を行なう場合には、上記各アクチュエータ10、10により上記各トラニオン7、7を上記各枢軸9、9の軸方向に移動させ、これら各トラニオン7、7を図4に示す位置に揺動させる。そして、上記各パワーローラ6、6の周面をこの図4に示す様に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の中心寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の外周寄り部分とにそれぞれ当接させる。反対に、増速を行なう場合には、上記各トラニオン7、7を図4と反対方向に揺動させ、上記各パワーローラ6、6の周面を、この図4に示した状態とは逆に、上記各入力側ディスク2、2の内側面の外周寄り部分と上記各出力側ディスク5、5の内側面の中心寄り部分とに、それぞれ当接する様に、上記各トラニオン7、7を傾斜させる。これら各トラニオン7、7の傾斜角度を中間にすれば、入力軸1と出力歯車4との間で、中間の変速比(速度比)を得られる。
更に、上述の様に構成され作用するトロイダル型無段変速機を実際の自動車用の無段変速機に組み込む場合、遊星歯車機構等の歯車式の差動ユニットと組み合わせて無段変速装置を構成する事が、従来から提案されている。例えば特許文献1には、所謂ギヤード・ニュートラルと呼ばれ、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転、逆転に切り換えられる無段変速装置が記載されている。図6は、この様な特許文献1に記載された無段変速装置を示している。この無段変速装置は、トロイダル型無段変速機25と遊星歯車式変速機26とを組み合わせて成る。このうちのトロイダル型無段変速機25は、入力軸1と、1対の入力側ディスク2、2と、出力側ディスク5aと、複数のパワーローラ6、6とを備える。図示の例では、この出力側ディスク5aは、1対の出力側ディスクの外側面同士を突き合わせて一体とした如き構造を有する。
又、上記遊星歯車式変速機26は、上記入力軸1及び一方(図6の右方)の入力側ディスク2に結合固定されたキャリア27を備える。このキャリア27の径方向中間部に、その両端部にそれぞれ遊星歯車素子28a、28bを固設した第一の伝達軸29を、回転自在に支持している。又、上記キャリア27を挟んで上記入力軸1と反対側に、その両端部に太陽歯車30a、30bを固設した第二の伝達軸31を、上記入力軸1と同心に、回転自在に支持している。そして、上記各遊星歯車素子28a、28bと、上記出力側ディスク5aにその基端部(図6の左端部)を結合した中空回転軸32の先端部(図6の右端部)に固設した太陽歯車33又は上記第二の伝達軸31の一端部(図6の左端部)に固設した太陽歯車30aとを、それぞれ噛合させている。又、一方(図6の左方)の遊星歯車素子28aを、別の遊星歯車素子34を介して、上記キャリア27の周囲に回転自在に設けたリング歯車35に噛合させている。
一方、上記第二の伝達軸31の他端部(図6の右端部)に固設した太陽歯車30bの周囲に設けた第二のキャリア36に遊星歯車素子37a、37bを、回転自在に支持している。尚、この第二のキャリア36は、上記入力軸1及び第二の伝達軸31と同心に配置された、出力軸38の基端部(図6の左端部)に固設されている。又、上記各遊星歯車素子37a、37bは、互いに噛合すると共に、一方の遊星歯車素子37aが上記太陽歯車30bに、他方の遊星歯車素子37bが、上記第二のキャリア36の周囲に回転自在に設けた第二のリング歯車39に、それぞれ噛合している。又、上記リング歯車35と上記第二のキャリア36とを低速用クラッチ40により係脱自在とすると共に、上記第二のリング歯車39とハウジング等の固定の部分とを、高速用クラッチ41により係脱自在としている。
上述の様な、図6に示した無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ40を接続すると共に上記高速用クラッチ41の接続を断った、所謂低速モード状態では、上記入力軸1の動力が上記リング歯車35を介して上記出力軸38に伝えられる。そして、前記トロイダル型無段変速機25の変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比、即ち、上記入力軸1と上記出力軸38との間の変速比が変化する。この様な低速モード状態では、無段変速装置全体としての変速比は、無限大に変化する。即ち、上記トロイダル型無段変速機25の変速比を調節する事により、上記入力軸1を一方向に回転させた状態のまま上記出力軸38の回転状態を、停止状態を挟んで、正転、逆転の変換自在となる。
尚、この様な低速モード状態での加速若しくは定速走行時に、上記トロイダル型無段変速機25を通過するトルク(通過トルク)は、上記入力軸1から、キャリヤ27及び第一の伝達軸29と太陽歯車33と中空回転軸32とを介して出力側ディスク5aに加わり、更にこの出力側ディスク5aから各パワーローラ6、6を介して各入力側ディスク2、2に加わる。即ち、加速若しくは定速走行時に上記トロイダル型無段変速機25を通過するトルクは、上記各入力側ディスク2、2が上記各パワーローラ6、6からトルクを受ける方向に循環する。
これに対して、上記低速用クラッチ40の接続を断ち、上記高速用クラッチ41を接続した、所謂高速モード状態では、上記入力軸1の動力が上記第一、第二の伝達軸29、31を介して上記出力軸38に伝えられる。そして、上記トロイダル型無段変速機25の変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比が変化する。この場合には、上記トロイダル型無段変速機25の変速比を大きくする程、無段変速装置全体としての変速比が大きくなる。
尚、この様な高速モード状態での加速若しくは定速走行時に、上記トロイダル型無段変速機25を通過するトルクは、各入力側ディスク2、2が各パワーローラ6、6にトルクを付加する方向に加わる。
例えば図6に示す様な構造を有し、入力軸1を回転させた状態のまま出力軸38を停止させる、所謂無限大の変速比を実現できる無段変速装置の場合、この出力軸38を停止させた状態を含み、変速比を極端に大きくした状態で、上記トロイダル型無段変速機25に加わるトルクを適正値に維持する事が、このトロイダル型無段変速機25の耐久性確保と、運転操作の容易性確保との面から重要である。何となれば、「回転駆動力=回転速度×トルク」の関係から明らかな通り、変速比が極端に大きく、上記入力軸1が回転したまま上記出力軸38が停止又は極低速で回転する状態では、上記トロイダル型無段変速機25を通過するトルク(通過トルク)が、上記入力軸1に加わるトルクに比べて大きくなる。この為、上記トロイダル型無段変速機25の耐久性を、このトロイダル型無段変速機25を大型化する事なく確保する為には、上述の様にトルクを適正値に納める為に厳密な制御を行なう必要が生じる。具体的には、上記入力軸1に入力するトルクをできるだけ小さくしつつ、上記出力軸38を停止させる為、駆動源を含めた制御が必要になる。
又、上記変速比が極端に大きな状態では、上記トロイダル型無段変速機25の変速比が僅かに変化した場合にも、上記出力軸38に加わるトルクが大きく変化する。この為、上記トロイダル型無段変速機25の変速比調節が厳密に行なわれないと、運転者に違和感を与えたり、運転操作を行ないにくくする可能性がある。例えば、自動車用の自動変速装置の場合、停止時には運転者がブレーキを踏んだままで、停止状態を維持する事が行なわれる。この様な場合に、上記トロイダル型無段変速機25の変速比調節が厳密に行なわれず、上記出力軸38に大きなトルクが加わると、停車時に上記ブレーキペダルを踏み込む為に要する力が大きくなり、運転者の疲労を増大させる。逆に、発進時に上記トロイダル型無段変速機25の変速比調節が厳密に行なわれず、上記出力軸38に加わるトルクが小さ過ぎると、滑らかな発進が行なわれなくなったり、上り坂での発進時に車両が後退する可能性がある。従って、停止時若しくは極低速走行時には、駆動源から上記入力軸1に伝達するトルクを制御する他、上記トロイダル型無段変速機25の変速比調節を厳密に行なう必要がある。
この様な点を考慮して、特許文献2には、トラニオンを変位させる為の油圧式のアクチュエータ部分の圧力差を直接制御する事により、トロイダル型無段変速機を通過するトルク(通過トルク)を規制する構造が記載されている。
但し、上記特許文献2に記載されている様な構造の場合には、上記圧力差のみで制御を行なう為、上記通過トルクが目標値に一致した瞬間にトラニオンの姿勢を停止させる事が難しい。具体的には、トルク制御の為に上記トラニオンを変位させる量が大きくなる為、上記通過トルクが目標値に一致した瞬間にトラニオンが停止せずにそのまま変位を継続する、所謂オーバシュート(更にはこれに伴うハンチング)が生じ易く、上記通過トルクの制御が安定しない。
特に、図3〜5に示した一般的なハーフトロイダル型無段変速機の様に、トラニオン7、7の両端部に設けた各枢軸9、9の方向と、入力側、出力側各ディスク2、5の中心軸の方向とが互いに直角方向である、所謂キャストアングルを持たないトロイダル型無段変速機25の場合に、上記オーバシュートが生じ易い。これに対して、一般的なフルトロイダル型無段変速機の様に、キャストアングルを持った構造の場合には、オーバシュートを収束させる方向の力が作用する為、上記特許文献2に記載されている様な構造でも、十分なトルク制御を行なえるものと考えられる。
「未公知の第一の先発明の説明」
この様な事情に鑑みて、特願2003−56681号には、一般的なハーフトロイダル型無段変速機の様に、キャストアングルを持たないトロイダル型無段変速機を組み込んだ無段変速装置でも、このトロイダル型無段変速機を通過するトルク(通過トルク)の制御を厳密に行なえる方法及び装置に関する発明が開示されている。
図7は、この様な第一の先発明の制御方法及び装置の対象となる、無段変速装置の構造の1例を示している。この図7に示した無段変速装置は、前述の図6に示した従来から知られている無段変速装置と同様の機能を有するものであるが、遊星歯車式変速機26a部分の構造を工夫する事により、この遊星歯車式変速機26a部分の組立性を向上させている。
入力軸1及び1対の入力側ディスク2、2と共に回転するキャリア27aの両側面に、それぞれがダブルピニオン型である、第一、第二の遊星歯車42、43を支持している。即ち、これら第一、第二の遊星歯車42、43は、それぞれ1対ずつの遊星歯車素子44a、44b、45a、45bにより構成している。そして、これら各遊星歯車素子44a、44b、45a、45bを、互いに噛合させると共に、内径側の遊星歯車素子44a、45aを、出力側ディスク5aにその基端部(図7の左端部)を結合した中空回転軸32aの先端部(図7の右端部)及び伝達軸46の一端部(図7の左端部)にそれぞれ固設した第一、第二の太陽歯車47、48に、外径側の遊星歯車素子44b、45bをリング歯車49に、それぞれ噛合させている。
一方、上記伝達軸46の他端部(図7の右端部)に固設した第三の太陽歯車50の周囲に設けた第二のキャリア36aに遊星歯車素子51a、51bを、回転自在に支持している。尚、この第二のキャリア36aは、上記入力軸1と同心に配置された出力軸38aの基端部(図7の左端部)に固設されている。又、上記各遊星歯車素子51a、51bは、互いに噛合すると共に、内径側の遊星歯車素子51aを上記第三の太陽歯車50に、外径側の遊星歯車素子51bを、上記第二のキャリア36aの周囲に回転自在に設けた第二のリング歯車39aに、それぞれ噛合させている。又、上記リング歯車49と上記第二のキャリア36aとを低速用クラッチ40aにより係脱自在とすると共に、上記第二のリング歯車39aとハウジング等の固定の部分とを、高速用クラッチ41aにより係脱自在としている。尚、上記外径側の遊星歯車素子44b、45bに代えて大きな軸方向寸法を有する1本の遊星歯車素子を、上記リング歯車49に代えて軸方向寸法の小さなリング歯車を、それぞれ使用する事もできる。
この様に構成する改良された無段変速装置の場合、上記低速用クラッチ40aを接続し、上記高速用クラッチ41aの接続を断った状態では、上記入力軸1の動力が上記リング歯車49を介して上記出力軸38aに伝えられる。そして、トロイダル型無段変速機25の変速比を変える事により、無段変速装置全体としての速度比eCVT 、即ち、上記入力軸1と上記出力軸38aとの間の速度比が変化する。この際のトロイダル型無段変速機25の速度比eCVU と無段変速装置全体としての速度比eCVT との関係は、上記リング歯車49の歯数m49と前記第一の太陽歯車47の歯数m47との比をi1 (=m49/m47)とした場合に、次の(1)式で表される。
eCVT =(eCVU +i1 −1)/i1 --- (1)
そして、例えば上記歯数同士の比i1 が2である場合に、上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係が、図8に線分αで示す様に変化する。
これに対して、上記低速用クラッチ40aの接続を断ち、上記高速用クラッチ41aを接続した状態では、上記入力軸1の動力が、前記第一の遊星歯車42、上記リング歯車49、前記第二の遊星歯車43、前記伝達軸46、前記各遊星歯車素子51a、51b、上記第二のキャリア36aを介して、上記出力軸38aに伝えられる。そして、上記トロイダル型無段変速機25の速度比eCVU を変える事により、無段変速装置全体としての速度比eCVT が変化する。この際のトロイダル型無段変速機25の速度比eCVU と無段変速装置全体としての速度比eCVT との関係は、次の(2)式の様になる。尚、この(2)式中、i1 は上記リング歯車49の歯数m49と前記第一太陽歯車47の歯数m47との比(m49/m47)を、i2 は上記リング歯車49の歯数m49と前記第二の太陽歯車48の歯数m48との比(m49/m48)を、i3 は前記第二のリング歯車39aの歯数m39と前記第三の太陽歯車50の歯数m50との比(m39/m50)を、それぞれ表している。
eCVT ={1/(1−i3 )}・{1+(i2 /i1 )(eCVU −1)} --- (2)
そして、上記各比のうち、i1 が2、i2 が2.2、i3 が2.8である場合に、上記両速度比eCVU 、eCVT 同士の関係が、図8に線分βで示す様に変化する。
上述の様に構成し作用する無段変速装置の場合、図8の線分αから明らかな通り、前記入力軸1を回転させた状態のまま上記出力軸38aを停止させる、所謂変速比無限大の状態を造り出せる。但し、この様に入力軸1を回転させた状態のまま上記出力軸38aを停止させたり、或は極く低速で回転させる状態では、前述した通り、上記トロイダル型無段変速機25を通過するトルク(通過トルク)が、駆動源であるエンジンから上記入力軸1に加えられるトルクよりも大きくなる。この為、車両の停止時又は微速運行時には、上記通過トルクが過大(或は過小に)にならない様にする為、駆動源から上記入力軸1に入力されるトルクを適正に規制する必要がある。
又、上記微速運行時、出力軸38aを停止させる状態に近い状態、即ち、上記無段変速装置の変速比が非常に大きく、上記入力軸1の回転速度に比べて上記出力軸38aの回転速度が大幅に遅い状態では、この出力軸38aに加わるトルクが、上記無段変速装置の変速比の僅かな変動により、大幅に変動する。この為、円滑な運転操作を確保する為に、やはり駆動源から上記入力軸1に入力されるトルクを適正に規制する必要がある。
尚、この様な低速モード状態での加速若しくは定速走行時に、上記通過トルクは、前述の図6に示す従来構造と同様に、入力軸1からキャリヤ27a及び第一の遊星歯車42と第一の太陽歯車47と中空回転軸32aとを介して出力側ディスク5aに加わり、更にこの出力側ディスク5aから各パワーローラ6、6(図6参照)を介して各入力側ディスク2、2に加わる。即ち、加速若しくは定速走行時に上記通過トルクは、上記各入力側ディスク2、2が上記各パワーローラ6、6からトルクを受ける方向に循環する。
この為に、第一の先発明による変速比の制御方法及び装置の場合には、図9に示す様にして、上記駆動源から上記入力軸1に入力されるトルクを適正に規制する様にしている。先ず、上記駆動源であるエンジンの回転速度を大まかに制御する。即ち、このエンジンの回転速度を、図9のw範囲内の点aに規制する。これと共に、この制御されたエンジンの回転速度に上記無段変速装置の入力軸1の回転速度を一致させる為に必要とされる、上記トロイダル型無段変速機25の変速比を設定する。この設定作業は、前述の(1)式に基づいて行なう。即ち、第一の先発明の方法によりエンジンから上記入力軸1に伝達するトルクを厳密に規制する必要があるのは、前記低速用クラッチ40aを接続し、前記高速用クラッチ41aの接続を断った、所謂低速モード時である。従って、上記入力軸1の回転速度を、必要とする出力軸38aの回転速度に対応した値とすべく、上記(1)式により、上記トロイダル型無段変速機25の変速比を設定する。
又、上記トロイダル型無段変速機25に組み込んだトラニオン7、7を枢軸9、9の軸方向に変位させる為の油圧式のアクチュエータ10、10を構成する1対の油圧室24a、24b(図5及び後述する図11参照)同士の間の圧力差を、油圧センサ52(後述する図12参照)により測定する。この油圧測定作業は、上記エンジンの回転速度を大まか(但し回転速度を一定に保つ状態)に制御し、これに対応して、上述の様に、(1)式により上記トロイダル型無段変速機25の変速比を設定した状態で行なう。そして、測定作業に基づいて求めた上記圧力差により、上記トロイダル型無段変速機25を通過するトルク(通過トルク)TCVU を算出する。
即ち、上記圧力差は、上記トロイダル型無段変速機25の変速比が一定である限り、このトロイダル型無段変速機25を通過するトルクTCVU に比例する為、上記圧力差により、このトルクTCVU を求める事ができる。この理由は、前述した様に、上記各アクチュエータ10、10が、入力側ディスク2、2から上記出力側ディスク5a(或は出力側ディスク5aから入力側ディスク2、2)に伝達されるトルク(=トロイダル型無段変速機25を通過するトルクTCVU )に比例する大きさを有する、2Ftなる力を支承する為である。
一方、上記トルクTCVU は、次の(3)式によっても求められる。
TCVU =eCVU ・TIN/{eCVU +(i1 −1)ηCVU } --- (3)
この(3)式中、eCVU は上記トロイダル型無段変速機25の速度比を、TINは上記エンジンから前記入力軸1に入力されるトルクを、i1 は第一の遊星歯車42に関する遊星歯車変速機の歯数比(リング歯車49の歯数m49と第一の太陽歯車47の歯数m47との比)を、ηCVU は上記トロイダル型無段変速機25の効率を、それぞれ表している。
そこで、上記圧力差から求めた、実際にトロイダル型無段変速機25を通過するトルクTCVU1と、上記(3)式から求めた、目標とする通過トルクTCVU2とに基づいて、この実際に通過するトルクTCVU1と目標値TCVU2との偏差△T(=TCVU1−TCVU2)を求める。そして、この偏差△Tを解消する(△T=0とする)方向に、上記トロイダル型無段変速機25の速度比を調節する。尚、上記トルクの偏差△Tと、上記圧力差の偏差とは比例関係にあるので、上記変速比の調節作業は、トルクの偏差によっても、圧力差の偏差によっても行なえる。即ち、トルクの偏差による変速比制御と、圧力差の偏差による変速比制御とは、技術的に見て同じ事である。
例えば、図9に示す様に、上記トロイダル型無段変速機25を実際に通過するトルクTCVU1(測定値)を目標値TCVU2に規制する領域で、前記エンジンが前記入力軸1を駆動するトルクTINが、この入力軸1の回転速度が高くなる程急激に低くなる方向に変化する場合に就いて考える。この様なエンジンの特性は、電子制御されたエンジンであれば、低速回転域でも容易に得られる。この様なエンジン特性を有する場合で、上記トルクの測定値TCVU1が同じく目標値TCVU2に比べて、各入力側ディスク2、2が各パワーローラ6、6(図4〜6参照)からトルクを受ける方向の偏差を有する場合には、上記入力軸1を駆動するトルクTINを小さくする為にエンジンの回転速度を増大すべく、無段変速装置全体としての変速比を減速側に変位させる。この為に、上記トロイダル型無段変速機25の速度比を、増速側に変速する。
但し、ブレーキペダルを踏んで停止した状態(出力軸の回転速度=0)では、上記トロイダル型無段変速機25の内部で生じる滑り、即ち、入力側、出力側各ディスク2、5aの内側面と各パワーローラ6、6の周面(図4〜6参照)との当接部(トラクション部)で生じる滑り(クリープ)により吸収できる範囲内で、上記トロイダル型無段変速機25の速度比の制御を行なう。従って、この速度比を調節できる許容範囲は、上記当接部に無理な力が加わらない範囲に止まり、低速走行時の場合に比べて限られたものとなる。
例えば、図9で、上記目標値TCVU2がa点に存在し、上記測定値TCVU1が同図のb点に存在する場合には、上記各入力側ディスク2、2が上記各パワーローラ6、6からトルクを受ける方向の偏差を有する状態となる。そこで、上記トロイダル型無段変速機25の速度比eCVU を増速側に変更して、無段変速装置(T/M)全体としての速度比eCVT を減速側に変更する。これに合わせてエンジンの回転速度を増速し、トルクを下げる。反対に、上記測定値TCVU1が同図のc点に存在する場合には、上記各入力側ディスク2、2が上記各パワーローラ6、6にトルクを付加する方向の偏差を有する状態となる。この場合には、上述した場合とは逆に、上記トロイダル型無段変速機25の速度比eCVU を減速側に変更して、無段変速装置(T/M)全体としての速度比eCVT を増速側に変更する。これに合わせて、エンジンの回転速度を減速してトルクを上昇させる。
以下、上記圧力差から求めた、実際にトロイダル型無段変速機25を通過するトルクTCVU1が目標値に一致するまで、上述した動作を繰り返し行なう。即ち、1回のトロイダル型無段変速機25の変速制御だけでは、このトロイダル型無段変速機25を通過するトルクTCVU1を目標値TCVU2に一致させられない場合には、上述した動作を繰り返し行なう。この結果、前記エンジンが前記入力軸1を回転駆動するトルクTINを、このトロイダル型無段変速機25を通過するトルクTCVU を目標値TCVU2にする値に近付ける事ができる。尚、この様な動作は、無段変速装置の制御器に組み込んだマイクロコンピュータからの指令により、自動的に、且つ、短時間の間に行なわれる。
尚、図10は、上記トロイダル型無段変速機25を通過するトルクTCVU と上記エンジンが上記入力軸1を回転駆動するトルクTINとの比(左側縦軸)と、無段変速装置全体としての速度比eCVT (横軸)と、上記トロイダル型無段変速機25の速度比eCVU (右側縦軸)との関係を示している。実線aが上記通過トルクTCVU と駆動トルクTINとの比と、無段変速装置全体としての速度比eCVT との関係を、破線bが上記両速度比eCVT 、eCVU 同士の関係を、それぞれ示している。第一の先発明は、上記無段変速装置全体としての速度比eCVT を所定値に規制した状態で、上記トロイダル型無段変速機25を実際に通過するトルクTCVU1を上記実線a上の点で表される目標値(TCVU2)に規制すべく、上記トロイダル型無段変速機25の速度比eCVU を規制するものである。
上述した第一の先発明の場合、この様に上記トロイダル型無段変速機25を実際に通過するトルクTCVU1を前記目標値TCVU2である上記実線a上の点に規制する為の制御を2段階に分けて、先ず、エンジンの回転速度を大まかに、即ち、上記目標値TCVU2を得られるであろうと考えられる回転速度に制御した後、この回転速度に合わせてトロイダル型無段変速機25の変速比制御を行なう。この為、従来方法の様なオーバシュート(及びそれに伴うハンチング)を生じさせる事なく、或は仮に生じたとしても実用上問題ない程度に低く抑えて、上記トロイダル型無段変速機25を実際に通過するトルクTCVU1を上記目標値TCVU2に規制できる。
尚、前述の様に、ブレーキペダルを踏んで停止した状態で前記出力軸38a(図7)には、上記トロイダル型無段変速機25の内部で生じる滑りに基づいて、駆動力(トルク)が加わる。このトルクの大きさは、従来から普及している、トルクコンバータを備えた一般的な自動変速装置で生じるクリープ力に見合う値に設定する事が考えられる。この理由は、一般的な自動変速装置の操作に慣れた運転者に違和感を与えない為である。又、上記トルクの方向は、運転席に設けた操作レバー(シフトレバー)の操作位置により決定する。この操作レバーが前進方向位置(D、Lレンジ)を選択された場合には、上記出力軸38aに前進方向にトルクを付与し、後退方向位置(Rレンジ)を選択された場合には、後退方向にトルクを付与する。
次に、上述の様にトロイダル型無段変速機25を実際に通過するトルクTCVU1を目標値TCVU2に一致させるべく、このトロイダル型無段変速機25の速度比を制御する部分の回路に就いて、図11により説明する。トラニオン7を枢軸9、9(図5参照)の軸方向(図11の上下方向)に変位させる為の油圧式のアクチュエータ10を構成する1対の油圧室24a、24bに、制御弁12を通じて、圧油を給排自在としている。この制御弁12を構成するスリーブ14は、ステッピングモータ13により、リンク腕54とロッド53とを介して軸方向に変位自在としている。又、上記制御弁12を構成するスプール15は、リンク腕19とプリセスカム18とロッド17とを介して上記トラニオン7と係合させ、このトラニオン7の軸方向変位及び揺動変位に伴って、軸方向に変位自在としている。以上の構成は、従来から知られているトロイダル型無段変速機の変速比制御機構と、基本的に同じである。
特に第一の先発明の場合には、上記スリーブ14を、上記ステッピングモータ13により駆動するのに加えて、油圧式の差圧シリンダ55によっても駆動する様にしている。即ち、上記スリーブ14に基端部を結合した上記ロッド53の先端部を上記リンク腕54の中間部に枢支すると共に、このリンク腕54の両端部に設けた長孔に、上記ステッピングモータ13或は上記差圧シリンダ55の出力部に設けたピンを係合させている。上記リンク腕54の一端部に設けた長孔内のピンが押し引きされる場合、他端部の長孔内のピンは支点となる。この様な構成により、上記スリーブ14を、上記ステッピングモータ13による他、上記差圧シリンダ55によっても軸方向に変位させられる様にしている。先発明の場合、この差圧シリンダ55による上記スリーブ14の変位により、上記トロイダル型無段変速機25を通過するトルクTCVU に応じてこのトロイダル型無段変速機25の速度比eCVU を調節する様にしている。
この為に第一の先発明の場合には、上記差圧シリンダ55に設けた1対の油圧室56a、56b内に、補正用制御弁57を通じて、互いに異なる油圧を導入自在としている。これら各油圧室56a、56bに導入される油圧は、前記アクチュエータ10を構成する1対の油圧室24a、24b内に作用する油圧PDOWN、PUPの差圧△Pと、上記補正用制御弁57の開度調節用の1対の電磁弁58a、58bの出力圧の差圧△P0 とに基づいて決定される。即ち、これら両電磁弁58a、58bの開閉は、これら両電磁弁58a、58bの出力圧の差圧△P0 が前記トロイダル型無段変速機25の目標トルクTCVU2に対応する目標差圧となる様に、図示しない制御器(コントローラ)により演算され、この制御器から出力される出力信号に基づいて制御される。従って、上記補正用制御弁57を構成するスプール59には、上記アクチュエータ10の油圧室24a、24b内に作用する油圧の差圧△Pに応じた力と、これに対抗する力となる、上記目標トルクTCVU2に対応する目標差圧である上記電磁弁58a、58bの出力圧の差圧△P0 とが作用する。
上記トロイダル型無段変速機25を実際に通過するトルクTCVU1と上記目標トルクTCVU2とが一致する場合、即ち、これら通過トルクTCVU1と目標トルクTCVU2との差△Tが0の場合には、上記アクチュエータ10の油圧室24a、24b内に作用する油圧の差圧△Pに応じた力と、上記電磁弁58a、58bの出力圧の差圧△P0 に応じた力とが釣り合う。この為、上記補正用制御弁57を構成するスプール59は中立位置となり、上記差圧シリンダ55の油圧室56a、56bに作用する圧力も等しくなる。この状態では、この差圧シリンダ55のスプール60は中立位置となり、上記トロイダル型無段変速機25の速度比は変わらない(補正されない)。
一方、上記トロイダル型無段変速機25を実際に通過するトルクTCVU1と上記目標トルクTCVU2とに差が生じると、上記アクチュエータ10の油圧室24a、24b内に作用する油圧の差圧△Pに応じた力と、上記電磁弁58a、58bの出力圧の差圧△P0 に応じた力との釣り合いが崩れる。そして、上記通過トルクTCVU1と目標トルクTCVU2との差△Tの大きさ及び方向に応じて上記補正用制御弁57を構成するスプール59が軸方向に変位し、上記差圧シリンダ55の油圧室56a、56b内に、上記△Tの大きさ及び方向に応じた適切な油圧が導入される。そして、上記差圧シリンダ55のスプール60が軸方向に変位し、これに伴って、前記制御弁12を構成するスリーブ14が軸方向に変位する。この結果、前記トラニオン7が枢軸9、9の軸方向に変位して、上記トロイダル型無段変速機25の速度比が変わる(補正される)。尚、この様にして変速比が変化する方向、及び変化する量は、前述の図9〜10により説明した通りである。又、この様にトロイダル型無段変速機25の速度比が変位する量、即ち補正される量(速度比の補正量)は、このトロイダル型無段変速機25の速度比幅に対して十分小さいものである。この為に、上記差圧シリンダ55のスプール60のストロークは、前記ステッピングンモータ13の出力部のストロークよりも十分に小さくしている。
前述した従来の無段変速装置にしても、上述した第一の先発明に係る無段変速装置にしても、トロイダル型無段変速機と、遊星歯車式変速機等の歯車式の差動ユニットとを組み合わせて成り、入力軸を一方向に回転させた状態のまま出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転及び逆転に変換する機能を備えた無段変速装置の場合には、上記トロイダル型無段変速機の変速比を微妙に且つ正確に調節できる事が重要である。何となれば、上記入力軸を一方向に回転させた状態のまま上記出力軸を停止させる状態、若しくはこの状態に近い状態では、上記トロイダル型無段変速機の変速比が僅かに変化しただけでも、上記出力軸に伝わる動力の状態が大きく変化する為である。例えば、この出力軸に伝わるトルクが過大であった場合には、車両を発進させる際に、運転者が意図する以上の加速を行なうし、反対に過小であった場合には、意図した加速度を得られなかったり、上り坂での発進時に、ブレーキペダルからアクセルペダルに足を移す間に、車両が後退し易くなる。更には、上記出力軸の回転方向が、運転者が意図する方向とは逆になる可能性もある。
この様な事を考慮すれば、上述の様な無段変速装置を実施する場合、停車時にも、この無段変速装置に組み込んだトロイダル型無段変速機の変速比調節を厳密に行なえる構造とする事が好ましい。例えば、停車時に運転席に設けた操作レバー(シフトレバー)により、非走行状態であるパーキングレンジ(P)又はニュートラルレンジ(N)を選択した状態から、走行状態であるドライブ(通常前進)レンジ(D)、高駆動力前進レンジ(L)又はリバースレンジ(R)に切り替えた瞬間に出力軸に加わるトルクが、0若しくは一般的な自動変速機でPレンジ又はNレンジからDレンジ、Lレンジ又はRレンジに切り替えた瞬間に加わる程度のトルク(クリープにより微速走行させる程度のトルク)以下に規制する事が好ましい。
この為、上記非走行状態時にも上記トロイダル型無段変速機の変速比を調節して、仮にその瞬間に走行状態が選択されても、上記出力軸に加わるトルクが0若しくは小さな値に収まる様にしておく事が好ましい。この様な制御は、理論的には、図3〜5に示す様なトロイダル型無段変速機25に組み込まれたアクチュエータ10、10を、所定方向に所定量だけ変位させ、パワーローラ6、6を支持した各トラニオン7、7を、各枢軸9、9を中心として所定方向に所定角度揺動変位させる事で行なえる。
但し、トロイダル型無段変速機25に組み込まれる部品の数は多く、しかも、そのうちの多くの部品の寸法精度及び組み付け精度が、上記トロイダル型無段変速機25の変速比に影響を及ぼす。従って、複数のトロイダル型無段変速機25を考えた場合、各トロイダル型無段変速機25に組み込んだ各アクチュエータ10、10の変位量を一定とした場合でも、これら各トロイダル型無段変速機25で実現される変速比に差(個体差)が生じる事は、或る程度避けられない。現在実施されている様に、トロイダル型無段変速機25を単独で使用する場合には、上記個体差は、余程著しい場合の他は、殆ど問題とはならない。これに対して、本発明の対象となる無段変速装置では、走行状態が選択された場合に、出力軸に加わるトルクが0若しくは小さな値に収まる様にする為には、上記トロイダル型無段変速機25の変速比を、かなりの程度にまで厳密に規制する必要があり、上記個体差が問題となる。
「未公知の第二の先発明の説明」
この様な事情に鑑みて、特願2003−105967号には、非走行状態で、出力軸に加わるトルクが0若しくは小さな値に収まる様にする為に、トロイダル型無段変速機の変速比を厳密に規制できる、無段変速装置に関する発明が開示されている。この第二の先発明の構造及び作用に就いて、図12〜13により説明する。尚、このうちの図12の上部には、例えば前述の図7に示した無段変速装置を模式的に示している。従って、当該部分には、できるだけ、この図7に示した符号と同じ符号を付している。又、上記図12中、太矢印は動力の伝達経路を、実線は油圧回路を、破線は電気回路を、それぞれ示している。
エンジン61の出力は、ダンパ62を介して、入力軸1に入力される。このうちのダンパ62は、上記エンジン61の回転を平滑化して上記入力軸1に伝達する、弾性継手としての役目を有する。この入力軸1に伝達された動力は、トロイダル型無段変速機25aを構成する油圧式の押圧装置23aから入力側ディスク2に伝達され、更にパワーローラ6を介して出力側ディスク5aに伝達される。これら両ディスク2、5aのうち、入力側ディスク2の回転速度は入力側回転センサ63により、出力側ディスク5aの回転速度は出力側回転センサ64により、それぞれ測定して、制御器65に入力し、上記両ディスク2、5a間の(トロイダル型無段変速機25aの)変速比(速度比)を算出自在としている。
又、上記入力軸1に伝達された動力は、直接又は上記トロイダル型無段変速機25aを介して、差動ユニットである遊星歯車式変速機26bに伝達される。そして、この遊星歯車式変速機26bの構成部材の差動成分が、クラッチ装置66を介して、上記出力軸38aに取り出される。尚、このクラッチ装置66は、上記図7に示した低速用クラッチ40a及び高速用クラッチ41aを表すものである。又、出力軸回転センサ67によっても、上記出力軸38aの回転速度を検出自在としている。但し、この出力軸回転センサ67は、上記入力側回転センサ63及び出力側回転センサ64の故障の有無を判定する為のフェールセーフ用に設置したもので、第二の先発明を実施する場合に必須ではない。
一方、前記ダンパ62部分から取り出した動力によりオイルポンプ68を駆動し、このオイルポンプ68から吐出した圧油を、上記押圧装置23aと、上記パワーローラ6を支持したトラニオン7を変位させるアクチュエータ10(図5、11、13参照)の変位量を制御する為の制御弁装置69とに、送り込み自在としている。尚、この制御弁装置69とは、前述の図11及び後述する図13に示した制御弁12と、差圧シリンダ55と、補正用制御弁57(57a、57b)と、後述する図13に記載した、高速用切換弁70及び低速用切換弁71とを合わせたものである。又、上記アクチュエータ10に設けた1対の油圧室24a、24b(図5、11、13参照)内の油圧を(実際には1対の)油圧センサ52により検出して、その検出信号を、上記制御器65に入力している。この制御器65は、上記油圧センサ52からの信号に基づいて、上記トロイダル型無段変速機25aの通過トルクを算出する。
又、上記制御弁装置69は、ステッピングモータ13と、ライン圧制御用電磁開閉弁72と、上記補正用制御弁57を切り換える為の電磁弁58a(58b)と、上記高速用切換弁70及び低速用切換弁71を切り換える為のシフト用電磁弁73とにより、その作動状態を切り換えられる。そして、これらステッピングモータ13と、ライン圧制御用電磁開閉弁72と、電磁弁58a(58b)と、シフト用電磁弁73とは、何れも上記制御器65からの制御信号に基づいて切り換えられる。
又、この制御器65には、前記各回転センサ63、64、67及び上記油圧センサ52からの信号の他、油温センサ74の検出信号と、ポジションスイッチ75の位置信号と、アクセルセンサ76の検出信号と、ブレーキスイッチ77の信号とを入力している。このうちの油温センサ74は、無段変速装置を納めたケーシング内の潤滑油(トラクションオイル)の温度を検出するものである。又、上記ポジションスイッチ75は、後述する図13に記載した手動油圧切換弁78を切り換える為に運転席に設けられたシフトレバー(操作レバー)の操作位置を表す信号を出す為のものである。又、上記アクセルセンサ76は、アクセルペダルの開度を検出する為のものである。更に、上記ブレーキスイッチ77は、ブレーキペダルが踏まれた事、或はパーキングブレーキが操作された事を検出して、その事を表す信号を発するものである。
上記制御器65は、上記各スイッチ75、77及び各センサ52、63、64、67、74、76からの信号に基づいて、上記ステッピングモータ13と、ライン圧制御用電磁開閉弁72と、電磁弁58a(58b)と、シフト用電磁弁73とに上記制御信号を送る他、前記エンジン61を制御する為のエンジンコントローラ79に制御信号を送る。そして、前述した第一の先発明の場合と同様にして、入力軸1と出力軸38aとの間の速度比を変えたり、或は停止時若しくは極く低速走行時に前記トロイダル型無段変速機25aを通過して上記出力軸38aに加えられるトルク(通過トルク)を制御する。
特に図示の構造の場合には、前記入力側回転センサ63及び前記出力側回転センサ64の検出信号に基づいて、上記出力軸38aの回転速度及び回転方向を算出し、上記通過トルクの制御を行なう様にしている。即ち、上記入力側、出力側両回転センサ63、64の検出信号を入力した上記制御器65は、これら両回転センサ63、64の検出信号に基づいて、各入力側ディスク2、2の回転速度NIDと出力側ディスク5aの回転速度NODを求める。前記エンジン61により前記入力軸1が回転駆動されている限り、上記各入力側ディスク2、2及び出力側ディスク5aは、何れも十分な速度で回転する。従って、上記両センサ63、64により、上記各ディスク2、5aの回転速度を確実に求められる。
そして、上記各入力側ディスク2、2の回転速度NIDと出力側ディスク5aの回転速度NODとから求められる、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比NOD/NID(速度比eCVU とは正負逆)と、前記低速用クラッチ40aを接続しての低速モード状態時の、前記遊星歯車式変速機26bの変速比i1 とから、下記の(4)式により、上記出力軸38aの回転速度NOUT を、上記各入力側ディスク2、2の回転速度に対する比として求める。尚、上記遊星歯車式変速機26bの変速比i1 は、例えば図7に示した無段変速装置を構成する遊星歯車式変速機26aであれば、リング歯車49の歯数m49と第一の太陽歯車47の歯数m47との比である(i1 =m49/m47)。
NOUT =(i1 −1−NOD/NID)/i1 --- (4)
従って、上記出力軸38aの回転速度の絶対値は、NOUT ×NIDとなる。又、この(4)式から明らかな通り、NOD/NID=i1 −1であれば上記出力軸38aは停止し、NOD/NID>i1 −1であれば自動車を後退させる方向に回転し、NOD/NID<i1 −1であれば同じく前進させる方向に回転する。
又、上述の様な構成で第二の先発明を実施する為に、上記制御器65は、前記ポジションスイッチ75の信号に基づいて非走行状態(Pレンジ又はNレンジ)を選択された場合に、上記低速用クラッチ40aと前記高速用クラッチ41aとの接続を断つ。この状態では、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比に関係なく、前記入力軸1の回転が上記出力軸38aに伝わる事はなくなる。又、この状態では、上記トロイダル型無段変速機25aを通過するトルクは、(僅少の摩擦抵抗に見合うトルクを除き)実質的に0である。但し、この状態でも、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比を適切に規制しておかないと、次に走行状態(D、Lレンジ又はRレンジ)が選択された瞬間に、上記出力軸38aが突然、必要以上のトルク、且つ、必要以上の速度で回転し始める可能性がある。この様な事態が発生すると、運転者に違和感を与える他、各部の耐久性に悪影響を及ぼす。
そこで、第二の先発明の場合には、上記両クラッチ40a、41aが繋がれた場合でも上記出力軸38aの回転速度が0となる様に、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比を規制する(第一の方法)。この場合に好ましくは、このトロイダル型無段変速機25aを通過するトルクの目標値を(上述の様に非走行状態での実質的通過トルクの値である)0にした状態で、このトロイダル型無段変速機25aの変速比を調節する(第二の方法)。或は、上記両クラッチ40a、41aが繋がれた場合に上記出力軸38aの回転速度が、ブレーキペダルの踏み込みにより停止させられる程度の低速となり、且つ、この出力軸38aに加わるトルクが小さくなる様に、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比を調節する(第三の方法)。何れの場合でも、図面に表れる構造は同じであるから、以下、それぞれの場合に就いて説明する。
先ず、第一の方法の場合に上記制御器65は、前記遊星歯車式変速機26bの変速比i1 と上記トロイダル型無段変速機25aの変速比NOD/NIDとに基づいて、非走行状態時の上記出力軸38aの回転速度の絶対値NOUT ×NIDを求め、この回転速度を0にする。この為に、トロイダル型無段変速機25aの変速比NOD/NIDをi1 −1とする(NOD/NID=i1 −1)。この際、好ましくは、第二の方法の様に、上記トロイダル型無段変速機25aを通過して上記出力軸38aに伝わるトルクの目標値を0にした状態で上記出力軸38aの回転速度を0とすべく、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比NOD/NIDを調節する。この調節は、前述した第一の先発明の様にして(図9のa点を横軸上に設定して)行なう。
又、この調節作業は、前記制御器65からの指令に基づいて変位する前記アクチュエータ10により、前記トラニオン7を枢軸9、9の軸方向に変位させる事で行なう。この際に、前記両回転センサ63、64の検出信号に基づいて前記各入力側ディスク2、2の回転速度NIDと前記出力側ディスク5aの回転速度NODとを求めつつ、前記制御弁装置69をフィードバック制御する。そして、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比NOD/NIDがi1 −1になった状態で、上記アクチュエータ10を停止させる。そして、この状態での上記制御弁装置69の構成各部の状態を学習し、上記制御器65のメモリに記憶させる。そして、次に前記ポジションスイッチ75が非走行状態に切り替えられた場合に、上記メモリ内に記憶されている学習結果に基づき、上記制御弁装置69を切り替える。従って、上記トロイダル型無段変速機25aの個体差に関係なく、非走行状態から走行状態に切り替えられた瞬間に於ける上記出力軸38aの回転速度を0にできる。尚、この場合に於ける、出力軸38aの回転速度が0の状態には、完全な0だけでなく、運転者がブレーキペダルを含む等、制動装置を作動させる事により、エンジンのアイドリング回転に拘らず、車両を停止させたままにできる状態も含む。
又、第三の方法の場合には、前記両クラッチ40a、41aが繋がれた場合でも上記出力軸38aに加わるトルクを、一般的な自動変速機でPレンジ又はNレンジからDレンジ、Lレンジ又はRレンジに切り替えた瞬間に加わる程度のトルク(クリープにより微速走行させる程度のトルク)以下に規制する。この為に、非走行状態が選択されている場合には、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比NOD/NIDを、上述した場合のi1 −1を基準として若干の補正を加えるべく、上記トロイダル型無段変速機25aを通過するトルクの目標値として、0以外の(摩擦抵抗に基づくトルクよりも明らかに大きな)値を設定する。上記両クラッチ40a、41aが何れも接続されていない状態では、上記トロイダル型無段変速機25aを通過するトルクは(僅少の回転抵抗に見合うトルクを除き)ほぼ0である。従って、上記目標値と実際の通過トルクとの間に偏差が生じる。
この結果前記制御器65は、この偏差を解消すべく、上記制御弁装置69を構成する前記差圧シリンダ55を切り替えて、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比を調節する。但し、前述した通り、上記差圧シリンダ55によりこのトロイダル型無段変速機25aの変速比を調節できる範囲は、機械的に限定された範囲内であり、上記偏差を解消する為に行なわれる、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比の調節は微小である(偏差を解消し切らない)。一方、上記第三の方法の場合には、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比の目標値を、前記出力軸38aを完全に停止させる場合に必要となる変速比i1 −1に、αなる補正値を加えた値(i1 −1+α)とする。この補正値αは、上記差圧シリンダ55により上記トロイダル型無段変速機25aの変速比を調節できる限界値(補正限界値)であり、正負は問わない。
この様に、上記出力軸38aを完全に停止させる場合に必要となる変速比i1 −1にαなる補正値を加えた値(i1 −1+α)を目標に、且つ、通過トルクの目標値を設定した状態で上記トロイダル型無段変速機25aの変速比調節を行なうべく、前記制御器65からの指令に基づいて変位する前記アクチュエータ10により、前記トラニオン7を枢軸9、9の軸方向に変位させる。この際も、前記両回転センサ63、64の検出信号に基づいて前記各入力側ディスク2、2の回転速度NIDと前記出力側ディスク5aの回転速度NODとを求めつつ、前記制御弁装置69をフィードバック制御する。そして、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比NOD/NIDがi1 −1+αになった状態で、上記アクチュエータ10を停止させる。
そして、この状態での上記制御弁装置69の構成各部の状態を学習し、上記制御器65のメモリに記憶させる。そして、次に前記ポジションスイッチ75が非走行状態に切り替えられた場合に、このメモリ内に記憶されている学習結果に基づき、上記制御弁装置69を切り替える。従って、上記トロイダル型無段変速機25aの個体差に関係なく、非走行状態から走行状態に切り替えた瞬間に於ける上記出力軸38aの回転速度を、小さな値にできる。又、この状態でこの出力軸38aに加わるトルクを小さな値にできる。この場合には、運転者がブレーキペダルを踏み込んでさえいれば、自動車を停止状態のままに維持できる。従って、従来から一般的に使用されている自動変速機と同様の運転操作で良い。又、走行状態を選択した瞬間に、各部に大きな衝撃が加わる事はない。
この様な第三の方法の場合には、各摩擦係合部に存在するヒステリシスの存在に関係なく、所定の状態(トロイダル型無段変速機25aの変速比NOD/NIDがi1 −1+αになる状態)を実現する為の上記制御弁装置69の状態(学習値)を安定して得る事ができる。即ち、前述の第一の方法の場合には、前記差圧ピストン55の摩擦係合部に存在するヒステリシス等により、学習値に僅かとは言えばらつきを生じる可能性がある。これに対して、上記第三の方法の場合には、上記差圧ピストン55を構成するスプール60を片側に押し付けた状態で上記所定の状態を実現するので、上記摩擦係合部のヒステリシスに影響を受ける事なく、上記学習値を安定して求められる。
図13は、上述の様に構成し作用する、第二の先発明の無段変速装置を制御する油圧回路の具体例を示している。この油圧回路では、油溜80から吸引されてオイルポンプ68a、68bにより吐出された圧油を、調圧弁81a、81bで所定圧に調整自在としている。上記オイルポンプ68a、68bが、前述の図12に記載したオイルポンプ68に相当する。又、上記両調圧弁81a、81bのうち、次述する手動油圧切換弁78側に送る油圧を調整する為の調圧弁81bによる調整圧を、ライン圧制御用電磁開閉弁72の開閉に基づいて調節自在としている。そして、上記両調圧弁81a、81bにより圧力を調整された圧油を、制御弁12を介してアクチュエータ10に送り込み自在とする他、差圧シリンダ55のストロークを調節する為の補正用制御弁57a、57bに、ロード電磁弁82の開閉に基づいて送り込み自在としている。
又、上記圧油を、油圧式の押圧装置23aに送り込む様にしている。又、この圧油は、手動油圧切換弁78と、高速用切換弁70又は低速用切換弁71とを介して、低速用クラッチ40a(40)又は高速用クラッチ41a(41)の油圧室内に送り込み自在としている。上記各切換弁78、70、71のうち、上記手動油圧切換弁78は、運転席に設けられて運転者により操作されるシフトレバー(操作レバー)により操作されて、駐車レンジ(P)、リバース(後退)レンジ(R)、ニュートラルレンジ(N)、ドライブ(通常前進)レンジ(D)、高駆動力前進レンジ(L)を選択する。これら各レンジを選択した場合に於ける、上記手動油圧切換弁78の切り換え状態は、図示の通りである。尚、この手動油圧切換弁78を含め、各弁の構造及び機能の表示は、油圧機器に関する機械製図の一般的な手法によっている。
又、上記高速用、低速用両切換弁70、71はそれぞれ、シフト用電磁弁73により切り換えられるシフト用切換弁83の切り換えに基づく圧油の給排により、それぞれの連通状態を切り換えられるもので、一方の切換弁70(又は71)が高速用クラッチ41a(又は低速用クラッチ40a)の油圧室に圧油を送り込む際には、他方の切換弁71(又は70)が低速用クラッチ40a(又は高速用クラッチ41a)の油圧室から圧油を排出する。
例えば上述の様な油圧回路により制御される、前述の様な第二の先発明を実施する場合、前述した様に、前記ポジションスイッチ75が非走行状態に切り替えられた場合に、制御器65のメモリ内に記憶されている学習結果に基づき、前記制御弁装置69を切り替える。そして、走行状態に切り替えられた瞬間に於ける上記出力軸38aの回転速度を0にすべく、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比NOD/NIDを調節する。この様な目的で行なう、このトロイダル型無段変速機25aの変速比NOD/NIDの調節は、前記入力側、出力側両回転センサ63、64の検出値を観察しつつ、前記ステッピングモータ13により前記制御弁12を切り換える事でも行なえる。但し、上記ポジションスイッチ75が非走行状態に切り換えられる度に、上記両回転センサ63、64の検出値を観察しつつ上記制御弁12を切り換えるのでは、上記出力軸38aの回転速度を0にする為に要する時間が長くなり、現実的ではない。
この為、上記第二の先発明を実施する場合、実際には、上記出力軸38aの回転速度を0にできる上記ステッピングモータ13の位置(停止実現位置)を、上述の様に制御器65のメモリに記憶しておく。この停止実現位置をメモリに記憶させる作業は、上記第二の先発明に係る第一〜第三の方法の何れかにより、無段変速装置の初期設定作業として行なう。そして、上記ポジションスイッチ75が非走行状態に切り換えられた場合に上記ステッピングモータ13を、上記メモリに記憶されている、上記停止実現位置にまで移動させる。
上述の様にして、非走行状態での上記ステッピングモータ13の位置を制御すれば、上記出力軸38aの回転速度を0にする為に要する時間を短くできるが、無段変速装置に長期間に亙って安定した性能を発揮させる為には、更に次の点を考慮する必要がある。即ち、上記ステッピングモータ13と、このステッピングモータ13により駆動されて実際に制御弁12の連通状態を切り換える部材であるスリーブ14との間には、図13に示す様に、上記ステッピングモータ13の出力ロッド84、リンク腕54、ロッド53等、複数の部材の他、これら各部材同士を結合する軸等も存在する。又、トロイダル型無段変速機25aの変速状態を上記スリーブ14にフィードバックするフィードバック機構にも、トラニオン7(図4、5、11参照)と、ロッド17と、プリセスカム18と、リンク腕19とを含む、複数の部材が存在する。
これら各部材の位置関係が総て変わらなければ、非走行状態で上記ステッピングモータ13を、上記メモリに記憶されている停止実現位置にまで移動させる事で、前記入力軸1を回転させたまま、前記出力軸38aの回転速度を0にできる。但し、長期間に亙る使用に伴って、上記各部材同士の位置関係が微妙にずれる可能性は否定できない。例えば、各部材同士を結合する軸を設けた部分の摩耗、或は上記プリセスカム18とリンク腕19との係合部も摩耗、更には、使用時と停止時との温度変化の繰り返しにより、上記各部材が、僅かとは言え変形する可能性も否定できない。上記出力軸38aの回転速度を0にする為の、上記トロイダル型無段変速機25aの変速比制御は非常に厳密に行なわなければならない為、上記各部材同士の位置関係が僅かにずれた場合でも、このずれに対応する事が、無段変速機を搭載した車両の運行の安定性を確保する為には重要である。
特開2000−220719号公報
特開平10−103461号公報