JP2005130764A - Narc−1遺伝子上の多型を利用した脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法、および創薬のための用途 - Google Patents

Narc−1遺伝子上の多型を利用した脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法、および創薬のための用途 Download PDF

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Abstract

【課題】NARC-1遺伝子のイントロン領域もしくはエクソン領域における脂質代謝に関連する多型もしくはハプロタイプを見出し、これらを指標とした、脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法を提供することを課題とする。
【解決手段】常染色体優性高脂血症家系で発見されたNARC-1遺伝子に対する全エクソンのシークエンスを行い、Intron 1 C-161T 及び I474V遺伝子型が、血清総コレステロール値及び血清LDLコレステロール値に影響を与えることを見出した。該遺伝子型の有無を指標とすることにより、被検者について脂質代謝に関連する疾患についての検査が可能であることが示された。
【選択図】なし

Description

本発明は、被検者について脂質代謝異常に起因する疾患を検査する方法に関する。
フランスの常染色体優性高脂血症家系(23家系)を用いた連鎖解析によりポジショナル・クローニングを行ったところ、Proprotein convertase substilisin/kexin type 9 (PCSK 9)/neural apoptosis regulated convertase 1 (NARC-1) に変異があることが報告された(非特許文献1参照)。NARC-1(neural apoptosis regulated convertase 1)遺伝子は、ヒト常染色体 1p34.1-p32に存在し、SREBPをステロール応答性に切断する蛋白切断酵素(Site-1 protease)に関連するスブチラーゼのひとつである。
現在までに、NARC-1遺伝子におけるIntron 1 C-161T 及び I474Vの2 SNPsの存在は報告されているが(非特許文献1参照)、これら2個のSNPsと血清コレステロールレベル及び血清LDLレベルとの相関について述べた報告はない。また、NARC-1のIntron 1 C-161T 及び I474Vの2 SNPsによる血清総コレステロールレベル及び血清LDLレベル低下の機序については不明である。
Abifadel M, ら著、「Nat Genet」、2003年、Vol.34、p.154-6
本発明は、このような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、NARC-1遺伝子のイントロン領域もしくはエクソン領域における脂質代謝に関連する多型もしくはハプロタイプを見出し、これらを指標とした、脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。本発明者らは、常染色体優性高脂血症家系で発見されたNARC-1遺伝子に対する全エクソンのシークエンスを行い、Intron 1 C-161T 及び I474V遺伝子型が、血清総コレステロール値及び血清LDLコレステロール値に影響を与えることを発見した。
脂質代謝は、様々な疾患に結びついているが、血清総コレステロールレベル及び血清LDLコレステロールレベルの高値は、動脈硬化の促進に関係しており、事実、心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化によってもたらされる循環器疾患に相関がある。また、低コレステロール血症は、特に若年者において脳出血の危険因子である。ゆえにNARC-1のIntron 1 C-161T 及び I474Vの2 SNPsは、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患及び脳出血などの疾患感受性の判定の際に、大いに有用であるものと考えられる。
脂質代謝に関与する遺伝子の数はかなり多数と想定されるが、本発明のように素因遺伝子の遺伝子多型を明らかにすることで、最終的には複数の遺伝子多型の組み合わせにより、テーラーメイドの脂質代謝疾患のみならず、循環器疾患治療・予防が可能であるものと考えられる。
また本発明の2つの遺伝子多型群(Intron 1 T-161 及び V474)において血清総コレステロールレベル及び血清LDLコレステロールレベルが低下していたため、この遺伝子をターゲットとした創薬の可能性が期待される。
即ち本発明は、脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法に関するものであり、より詳しくは、
〔1〕 被検者について、以下の(a)および/または(b)の多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法、
(a)NARC-1遺伝子のイントロン領域であって、配列番号:1に記載の塩基配列の67位の多型部位
(b)NARC-1遺伝子のエクソン領域であって、配列番号:2に記載の塩基配列の69位の多型部位
〔2〕 被検者について、以下の(a)および/または(b)の多型部位の遺伝子型を決定することを特徴とする、脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法、
(a)NARC-1遺伝子のイントロン領域であって、配列番号:1に記載の塩基配列の67位の多型部位
(b)NARC-1遺伝子のエクソン領域であって、配列番号:2に記載の塩基配列の69位の多型部位
〔3〕 脂質代謝異常に起因する疾患が、血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患である、〔2〕に記載の検査方法、
〔4〕 血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患が脳出血であって、(a)の多型部位の遺伝子型がT/TもしくはT/Cであり、および/または、(b)の多型部位の遺伝子型がG/GもしくはG/Aである場合に、脳出血感受性であるものと判定される、〔3〕に記載の検査方法、
〔5〕 血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患が動脈硬化性疾患であって、(a)の多型部位の遺伝子型がC/Cであり、および/または、(b)の多型部位の遺伝子型がA/Aである場合に、動脈硬化性疾患感受性であるものと判定される、〔3〕に記載の検査方法、
〔6〕 被検者について、以下の(a)および(b)の多型部位によって決定されるハプロタイプを検出することを特徴とする、脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法、
(a)NARC-1遺伝子のイントロン領域であって、配列番号:1に記載の塩基配列の67位の多型部位
(b)NARC-1遺伝子のエクソン領域であって、配列番号:2に記載の塩基配列の69位の多型部位
〔7〕 脂質代謝異常に起因する疾患が、血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患である、〔6〕に記載の検査方法、
〔8〕 血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患が脳出血であって、(a)の多型部位の塩基種がTであり、(b)の多型部位の塩基種がGであるハプロタイプが検出された場合に脳出血感受性であるものと判定される、〔7〕に記載の検査方法、
〔9〕 血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患が動脈硬化性疾患であって、(a)の多型部位の塩基種がCであり、(b)の多型部位の塩基種がAであるハプロタイプが検出された場合に、動脈硬化性疾患感受性であるものと判定される、〔7〕に記載の検査方法、
〔10〕 〔1〕の(a)または(b)に記載の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド、
〔11〕 〔10〕に記載のオリゴヌクレオチドを含む、脂質代謝異常に起因する疾患を検査するための試薬、
〔12〕 〔1〕の(a)または(b)に記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチドを含む、脂質代謝異常に起因する疾患を検査するための試薬、
〔13〕 脂質代謝異常に起因する疾患が、血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患である、〔11〕または〔12〕に記載の試薬、
〔14〕 血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患が、脳出血、または動脈硬化性疾患である、〔13〕に記載の試薬、
を、提供するものである。
本発明者らは、NARC-1遺伝子の遺伝子多型(Intron 1 C-161T 及び I474V)が、血清総コレステロールレベル及び血清LDLコレステロールレベルに影響を与えることを明らかにした。
本発明のNARC-1遺伝子上の多型部位の塩基種を明らかにすることにより、1) 血清総コレステロールレベル及び血清LDLコレステロールレベルに対する個人的傾向を明らかにできるだけでなく、2) 動脈硬化によって引き起こされる心筋梗塞や脳梗塞などの疾患感受性の推定、3) 特に若年者においては低コレステロール血症が危険因子である脳出血などの疾患感受性、4) 高脂血症患者におけるスタチンなどの高脂血症薬に対するResponder-nonresponderを推定することが可能となると考えられる。例えば、Intron 1 C-161T 及び I474V遺伝子多型を有する者は、高脂血症薬内服によって急激な血清コレステロール低下などの副作用を招くおそれがあるため、食事療法がより有効であると考えられる。しかし本発明の検査方法により、高脂血症薬に対する感受性まで推定できれば、副作用を事前に防ぐことが可能である。
また本発明の遺伝子の発現を調節することにより、血清総コレステロールレベル及び血清LDLコレステロールレベルを低下させることが期待できるため、この遺伝子をターゲットとした創薬が期待される。
本発明により、NARC-1遺伝子上の脂質代謝異常に起因する疾患に関連する多型部位の遺伝子型が明らかになったことにより、当業者に過度の負担を強いることなく、上記脂質代謝異常に起因する疾患に関する検査を行うことができる。
例えば従来、脳出血の判定には、頭部CTや頭部MRIが用いられ、動脈硬化性疾患全般の判定には、頚動脈エコーが用いられる。また、脳梗塞等の脳血管障害には脳血流シンチ、頭部CT、頭部MRI、脳血管造影等が用いられ、虚血性心疾患の判定には、心電図、運動負荷検査、心エコー、心筋シンチグラフィー、心臓カテーテル検査等が用いられる。さらに、慢性閉塞性動脈硬化症の判定は、下肢血圧測定(ankle-pressure-index)や下肢血管造影により行なわれているが、本発明の遺伝子型を指標とした検査方法を用いることにより、これらの従来の方法よりも簡便に判定を行なうことができると考えられる。
本発明者らによって、NARC-1遺伝子(アクセッション番号:AX207686)のイントロン領域およびエクソン領域における脂質代謝に関連する多型が同定された。該遺伝子における多型部位の塩基種を決定することによって、被検者について脂質代謝異常に起因する疾患に対して感受性であるか否かの判定を行うことができる。
本発明のNARC-1遺伝子のイントロン領域を含む塩基配列を配列番号:1に、エクソン領域を含む塩基配列を配列番号:2に、およびエクソン領域を含むアミノ酸配列を配列番号:3に示す。
なお、本発明の遺伝子の全塩基配列、もしくは任意の部分配列、および該遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸に関するデータは、例えば、公共のデータベースのGenBankからアクセッション番号:AX207686によって容易に取得することが可能である。
なお、DNAは通常、互いに相補的な二本鎖DNA構造を有している。従って、本明細書においては、便宜的に一方の鎖におけるDNA配列を示した場合であっても、当然の如く、当該配列(塩基)に相補的な配列も開示したものと解釈される。当業者にとって、一方のDNA配列(塩基)が判れば、該配列(塩基)に相補的な配列(塩基)は自明である。
一般的に「脂質」とは、血清中に存在する、コレステロールあるいは中性脂肪(トリグリセリド)、リン脂質、脂肪酸をさす。コレステロールは、リン脂質とともに細胞膜の構造脂質として重要な物質であり、さらにステロイドホルモン産生の原料等となる。コレステロールは血中ではリポ蛋白の一部として存在し、リポ蛋白はカイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDLに分類され、それぞれのリポ蛋白にコレステロールが存在している。本発明における「総コレステロール」とは、通常、上記のコレステロールの総和を言う。
コレステロールは主に肝臓で生合成され、超低密度リポタンパク質(VLDL)に組み込まれ、末梢へと運ばれ、代謝・生成したLDL中の主たる脂質成分となっている。正常人ではLDL中に最も多く含有され、一部は末梢から肝臓へのコレステロール逆転送に関与するHDL中に存在している。血清コレステロール値は、食べ物からの摂取、体内での生合成、胆汁酸や中性ステロールとして体外への排出、というバランスによって保たれている。
LDL(低比重リポタンパク質)コレステロールは、肝臓で合成されて血中に分泌された超低密度リポタンパク質(VLDL)という脂肪粒子が、リポタンパクリパーゼという酵素によって一部分解されてできるやや小さい脂肪粒子である。コレステロールを多く含み、末梢組織に細胞膜や生理活性物質の材料を送るという大事な働きがあるが、多過ぎると血管壁の細胞内に蓄積し、動脈硬化、血栓症(心筋梗塞、脳梗塞など)を合併し易くなる。
一方、HDL(高比重リポタンパク質)コレステロールは、末梢組織で余ったコレステロールを受け取り、肝臓に送り戻して処理する特別な脂肪粒子である(コレステロール逆転送系)。つまり、血中コレステロール値を下げ、抗動脈硬化作用を有し、冠動脈疾患の防御因子として重要であるとされている。その血中濃度が低いと末梢組織にコレステロールが蓄積され、動脈硬化、血栓症(心筋梗塞、脳梗塞など)を合併し易くなる。
本発明における「脂質代謝異常」とは、血清中の脂質量が正常である場合と比較して、異常に多いあるいは少ない状態を指す。通常、血清中の脂質量はほぼ一定になるように常に調節されているが、体質的な要因に食べ過ぎや運動不足等の要因が加わると、血清中の脂質量のバランスが崩れる。なお、血清脂質はリポ蛋白として血液中に存在しているため、「脂質代謝異常」は、「リポ蛋白代謝異常」と言い換えることもできる。
例えば、血清脂質値が増加し過ぎると、通常、高脂血症と判断される。高脂血症は、動脈硬化性疾患の危険因子の一つであり、高脂血症患者では心筋梗塞、脳梗塞、狭心症等の疾患を高率に合併する。一方、血液中の脂質量(コレステロール量)が極端に少ない場合は、肝臓や脳、血管などに栄養がいかず、脳出血や脳卒中の原因となる。特に若年者における低コレステロール血症は、脳出血の危険因子とされている。
本発明はまず、被検者について、以下の(a)および/または(b)の多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法を提供する。
(a)NARC-1遺伝子のイントロン領域であって、配列番号:1に記載の塩基配列の67位の多型部位
(b)NARC-1遺伝子のエクソン領域であって、配列番号:2に記載の塩基配列の69位の多型部位
本発明における「脂質代謝異常に起因する疾患」とは、好ましくは、血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患を指す。このような疾患としては、例えば、脳出血、動脈硬化性疾患を挙げることができる。さらに動脈硬化性疾患として、例えば、脳血管障害(脳梗塞)、虚血性心疾患、心筋梗塞等を挙げることができる。
本発明における「脂質代謝異常に起因する疾患の検査」とは、被検者が脂質代謝異常に起因する疾患に対して感受性を示すか否かの判定のための検査、または、すでに該疾患に罹患している場合には、その原因や病型を判定するための検査等が含まれる。
本発明の検査方法の好ましい態様においては、上記(a)および/または(b)の多型部位の塩基種もしくは遺伝子型(genotype)を決定することを特徴とする方法である。一般に染色体は、二本ずつ対をなして存在することから、1つの多型部位に相当するDNA部位も、一組の染色体において通常、二箇所存在する。本発明の多型部位における塩基種の決定とは、この中の少なくとも一箇所を決定することを指す。一般的に「遺伝子型」とは、対立遺伝子、あるいは、注目している遺伝子座の対立遺伝子の存在状態を言う。即ち、「遺伝子型」とは、ある遺伝子座における遺伝子(塩基種)の組み合わせを指す。本明細書においては遺伝子型を表現する場合、x/x(xは塩基種)のように記載する。本発明においては、二本の染色体において対をなして存在するそれぞれの多型部位について、塩基種を決定する(即ち、「遺伝子型」を決定する)ことが好ましい。
尚、当業者においては、本明細書において開示された配列番号:1または2で示される塩基配列および多型部位についての情報から、適宜、該多型部位に相当する実際のゲノム上の位置を知ることは容易である。例えば、公開されているゲノムデータベース等と照会することにより、本発明の多型部位のゲノム上の位置を知ることができる。即ち、配列表に掲げた塩基配列とゲノム上の実際の塩基配列との間に若干の塩基配列の相違がみられた場合であっても、配列表に掲げた塩基配列を基にゲノム配列と相同性検索等を行うことにより、本発明の多型部位について、実際のゲノム上の位置を正確に知ることが可能である。また、ゲノム上の位置が特定できない場合でも、本明細書に記載の配列表および多型部位についての情報から、本発明に記載の検査を行うことは容易である。
本発明の好ましい態様においては、本発明の脂質代謝異常に起因する疾患が脳出血である場合には、上記(a)の多型部位の遺伝子型がT/TもしくはT/Cであり、および/または、上記(b)の多型部位の遺伝子型がG/GもしくはG/Aであるとき、被検者は脳出血感受性であるものと判定される。
本発明における「感受性」とは、被検者が疾患に罹患し易い体質であることをいう。例えば本発明における「脳出血感受性」とは、被検者が脳出血になり易い体質であることをさし、「動脈硬化性疾患感受性」とは、被検者が動脈硬化性疾患に罹患し易い体質であることをさす。
また、本発明の脂質代謝異常に起因する疾患が動脈硬化性疾患である場合には、上記(a)の多型部位の遺伝子型がC/Cであり、および/または、上記(b)の多型部位の遺伝子型がA/Aであるとき、被検者は動脈硬化性疾患感受性であるものと判定される。
ヒトの染色体は2本1組で存在し、それぞれ父親と母親から由来している。ハプロタイプとは一般的に、その一方に関する個体の遺伝子型の組み合わせをいい、それぞれ父母由来の1本の染色体上に遺伝子座がどのように並んでいるかを示すものである。染色体を父母から1本ずつ受け継ぐので、配偶子形成の際に組換えが起きないとすれば、1本の染色体上に乗っている遺伝子は必ず一緒に子へ伝えられ、連鎖することとなる。しかし実際は減数分裂の際に組換えが生じるため、1本の染色体上に乗っている遺伝子であっても必ずしも連鎖しているわけではない。しかし逆に、遺伝的組換えが起きた場合であっても、同一染色体上の距離が近い遺伝子座は強く連鎖する。1本の染色体上に多型を有する遺伝子座が密に(固く)連鎖して存在している場合、同一染色体上に連鎖する各遺伝子座の対立遺伝子の組み合わせをハプロタイプと呼ぶ。また、本発明のハプロタイプとは、対立遺伝子(座)上に存在する少なくとも2以上の多型部位における塩基種の組み合わせによって定義される。本発明のハプロタイプとは、この多型部位における塩基種の組み合わせについての情報のみを指すものではなく、これら多型部位の塩基種によって定義される、密に(固く)連鎖しているDNA領域(所謂「固いDNA領域」)を指す。
即ち、疾患と関連するハプロタイプが見出すことができれば、被検者について該ハプロタイプの有無を指標とすることにより、該疾患についての検査を行うことが可能である。
本発明者らは鋭意研究により、脂質代謝異常に起因する疾患に関連するハプロタイプを見出だすことに成功した。従って本発明は、被検者について、以下の(a)および(b)の多型部位によって決定されるハプロタイプを検出することを特徴とする、脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法を提供する。
(a)NARC-1遺伝子のイントロン領域であって、配列番号:1に記載の塩基配列の67位の多型部位
(b)NARC-1遺伝子のエクソン領域であって、配列番号:2に記載の塩基配列の69位の多型部位
本方法においては、被検者について脂質代謝異常に起因する疾患に関連するハプロタイプを検出することで、脂質代謝異常に起因する疾患に対して感受性であるか否かを検査することができる。本発明の方法は、例えば治療方針の決定等に利用することができる。
上記、「脂質代謝異常に起因する疾患に関連するハプロタイプ」とは、具体的には以下のようなハプロタイプを挙げることができる。
(1)配列番号:1に記載の塩基配列における67位の塩基種がT、配列番号:2に記載の塩基配列の69位の塩基種がGであるハプロタイプ
(2)配列番号:1に記載の塩基配列における67位の塩基種がC、配列番号:2に記載の塩基配列の69位の塩基種がAであるハプロタイプ
より具体的には、上記(1)のハプロタイプは脳出血と関連し、(2)のハプロタイプは動脈硬化性疾患と関連する。
本発明の上記方法の好ましい態様においては、脂質代謝異常に起因する疾患は、血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患である。
さらに、本発明の血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患が脳出血であるときには、(a)の多型部位の塩基種がTであり、(b)の多型部位の塩基種がGであるハプロタイプが検出された場合に、脳出血感受性であるものと判定される。
さらに、本発明の血清総コレステロールレベルに起因する疾患が動脈硬化性疾患であるときには、(a)の多型部位の塩基種がCであり、(b)の多型部位の塩基種がAであるハプロタイプが検出された場合に、動脈硬化性疾患感受性であるものと判定される。
本発明におけるハプロタイプの検出は、通常、上記に具体的に記載された多型部位の塩基種を決定することによって行うことができるが、必ずしもこれらの多型部位について塩基種を決定することのみに限定されない。上記多型部位以外であっても、該多型部位とその周辺のDNAは、強く連鎖しているものと考えられることから、上記多型部位の近傍の多型部位について塩基種を決定することによっても、本発明の検査が可能である。即ち、上記ハプロタイプ上の所望の多型部位について、塩基種を決定することにより、本発明の方法を実施することが可能である。
「近傍の多型部位」を利用する場合には、例えば、以下のようにして本発明の方法を実施することができる。配列番号:1に記載の塩基配列における67位の多型部位の塩基種がTであるヒトについて、該多型部位の近傍の多型部位の塩基種を決定する。この部位の塩基種がAであったとすると、被検者における該多型部位の塩基種がAであるか否かについての情報が、疾患感受性の判定のための一つの指標となる。上記「近傍の多型部位」に関する情報は、当業者においては、適宜、公知の文献、もしくは公共の多型バンク等を利用して、容易に入手することが可能である。尚、上記方法において塩基種の決定に供する多型部位は、上記のハプロタイプ上の多型部位であって、2以上の複数の多型部位であることが好ましい。
本発明の多型部位における塩基種の決定は、当業者においては種々の方法によって行うことができる。一例を示せば、本発明の多型部位を含むDNAの塩基配列を直接決定することによって行うことができる。この方法においては、まず、被検者からDNA試料を調製する。本発明においてDNA試料は、例えば被検者の血液、皮膚、口腔粘膜、手術により採取あるいは切除した組織または細胞、検査等の目的で採取された体液等から抽出した染色体DNA、あるいはRNAを基に調製することができる。
本方法においては、次いで、本発明の多型部位を含むDNAを単離する。該DNAの単離は、本発明の多型部位を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、染色体DNA、あるいはRNAを鋳型としたPCR等によって行うことも可能である。
本方法においては、次いで、単離したDNAの塩基配列を決定する。単離したDNAの塩基配列の決定は、当業者においては、DNAシークエンサー等を用いて容易に実施することができる。
本発明の多型部位は、通常、その部位の塩基種のバリエーションが既に明らかになっている。本発明における「塩基種の決定」とは、必ずしもその多型部位についてA、G、T、Cのいずれかの塩基種であるかを判別することを意味するものではない。例えば、ある多型部位について塩基種のバリエーションがAまたはGであることが判明している場合には、その部位の塩基種が「Aでない」もしくは「Gでない」ことが判明すれば充分である。
予め塩基のバリエーションが明らかにされている多型部位について、その塩基種を決定するための様々な方法が公知である。本発明の塩基種の決定のための方法は、特に限定されない。例えば、PCR法を応用した解析方法として、TaqMan PCR法、AcycroPrimer法、およびMALDI-TOF/MS法等が実用化されている。またPCRに依存しない塩基種の決定法としてInvader法やRCA法が知られている。更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる。以下にこれらの方法について簡単に述べる。ここに述べた方法は、いずれも本発明における多型部位の塩基種の決定に応用できる。
[TaqMan PCR法]
TaqMan PCR法の原理は次のとおりである。TaqMan PCR法は、アレルを含む領域を増幅することができるプライマーセットと、TaqManプローブを利用した解析方法である。TaqManプローブは、このプライマーセットによって増幅されるアレルを含む領域にハイブリダイズするように設計される。
TaqManプローブのTmに近い条件で標的塩基配列にハイブリダイズさせれば、1塩基の相違によってTaqManプローブのハイブリダイズ効率は著しく低下する。TaqManプローブの存在下でPCR法を行うと、プライマーからの伸長反応は、いずれハイブリダイズしたTaqManプローブに到達する。このときDNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブはその5'末端から分解される。TaqManプローブをレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、TaqManプローブの分解を、蛍光シグナルの変化として追跡することができる。つまり、TaqManプローブの分解が起きれば、レポーター色素が遊離してクエンチャーとの距離が離れることによって蛍光シグナルが生成する。1塩基の相違のためにTaqManプローブのハイブリダイズが低下すればTaqManプローブの分解が進まず蛍光シグナルは生成されない。
多型に対応するTaqManプローブをデザインし、更に各プローブの分解によって異なるシグナルが生成されるようにすれば、同時に塩基種の判定を行うこともできる。例えば、レポーター色素として、あるアレルのアレルAのTaqManプローブに6-carboxy-fluorescein(FAM)を、アレルBのプローブにVICを用いる。プローブが分解されない状態では、クエンチャーによってレポーター色素の蛍光シグナル生成は抑制されている。各プローブが対応するアレルにハイブリダイズすれば、ハイブリダイズに応じた蛍光シグナルが観察される。すなわち、FAMまたはVICのいずれかのシグナルが他方よりも強い場合には、アレルAまたはアレルBのホモであることが判明する。他方、アレルをヘテロで有する場合には、両者のシグナルがほぼ同じレベルで検出されることになる。TaqMan PCR法の利用によって、ゲル上での分離のような時間のかかる工程無しで、ゲノムを解析対象としてPCRと塩基種の決定を同時に行うことができる。そのため、TaqMan PCR法は、多くの被検者についての塩基種を決定できる方法として有用である。
本発明においては、多型部位の塩基種の決定に、TaqMan PCR法を好適に用いることができる。その際使用されるプライマーおよびプローブとしては、特に制限されないが、例えば、後述の実施例に記載のオリゴヌクレオチド(配列番号:4〜11)を好適に使用することができる。
[Acyclo Prime法]
PCR法を利用した塩基種を決定する方法として、Acyclo Prime法も実用化されている。Acyclo Prime法では、ゲノム増幅用のプライマー1組と、多型検出用の1つのプライマーを用いる。まず、ゲノムの多型部位を含む領域をPCRで増幅する。この工程は、通常のゲノムPCRと同じである。次に、得られたPCR産物に対して、ゲノム検出用のプライマーをアニールさせ、伸長反応を行う。ゲノム検出用のプライマーは、検出対象となっている多型部位に隣接する領域にアニールするようにデザインされている。
このとき、伸長反応のためのヌクレオチド基質として、蛍光偏光色素でラベルし、かつ3'-OHをブロックしたヌクレオチド誘導体(ターミネータ)を用いる。その結果、多型部位に相当する位置の塩基に相補的な塩基が1塩基だけ取りこまれて伸長反応が停止する。ヌクレオチド誘導体のプライマーへの取りこみは、分子量の増大による蛍光偏光(Fluorescence polarization;FP)の増加によって検出することができる。蛍光偏光色素に波長の異なる2種類のラベルを用いれば、特定のSNPsが2種類の塩基のうちのいずれであるのかを特定することができる。蛍光偏光のレベルは定量することができるので、1度の解析でアレルがホモかヘテロかを判定することもできる。
[MALDI-TOF/MS法]
PCR産物をMALDI-TOF/MSで解析することによって塩基種の決定を行うこともできる。MALDI-TOF/MSは、分子量をきわめて正確に知ることができるため、タンパク質のアミノ酸配列や、DNAの塩基配列のわずかな相違を明瞭に識別することができる解析手法として様々な分野で利用されている。MALDI-TOF/MSによる塩基種の決定のためには、まず解析対象であるアレルを含む領域をPCRで増幅する。次いで増幅産物を単離してMALDI-TOF/MSによってその分子量を測定する。アレルの塩基配列は予めわかっているので、分子量に基づいて増幅産物の塩基配列は一義的に決定される。
MALDI-TOF/MSを利用した塩基種の決定には、PCR産物の分離工程などが必要となる。しかし標識プライマーや標識プローブを使わないで、正確な塩基種の決定が期待できる。また複数の場所の多型の同時検出にも応用することができる。
[IIs型制限酵素を利用したSNPs特異的な標識方法]
PCR法を利用した更に高速な塩基種の決定が可能な方法も報告されている。例えば、IIs型制限酵素を利用して多型部位の塩基種の決定が行われている。この方法においては、PCRにあたり、IIs型制限酵素の認識配列を有するプライマーが用いられる。遺伝子組み換えに利用される一般的な制限酵素(II型)は、特定の塩基配列を認識して、その塩基配列中の特定部位を切断する。これに対してIIs型の制限酵素は、特定の塩基配列を認識して、認識塩基配列から離れた部位を切断する。酵素によって、認識配列と切断個所の間の塩基数は決まっている。従って、この塩基数の分だけ離れた位置にIIs型制限酵素の認識配列を含むプライマーがアニールするようにすれば、IIs型制限酵素によってちょうど多型部位で増幅産物を切断することができる。
IIs型制限酵素で切断された増幅産物の末端には、SNPsの塩基を含む付着末端(conhesive end)が形成される。ここで、増幅産物の付着末端に対応する塩基配列からなるアダプターをライゲーションする。アダプターは、多型変異に対応する塩基を含む異なる塩基配列からなり、それぞれ異なる蛍光色素で標識しておくことができる。最終的に、増幅産物は多型部位の塩基に対応する蛍光色素で標識される。
前記IIs型制限酵素認識配列を含むプライマーに、捕捉プライマー(capture primer)を組み合せてPCR法を行えば、増幅産物は蛍光標識されるとともに、捕捉プライマーを利用して固相化することができる。例えばビオチン標識プライマーを捕捉プライマーとして用いれば、増幅産物はアビジン結合ビーズに捕捉することができる。こうして捕捉された増幅産物の蛍光色素を追跡することにより、塩基種を決定することができる。
[磁気蛍光ビーズを使った多型部位における塩基種の決定]
複数のアレルを単一の反応系で並行して解析することができる技術も公知である。複数のアレルを並行して解析することは、多重化と呼ばれている。一般に蛍光シグナルを利用したタイピング方法では、多重化のために異なる蛍光波長を有する蛍光成分が必要である。しかし実際の解析に利用することができる蛍光成分は、それほど多くない。これに対して、樹脂等に複数種の蛍光成分を混合した場合には、限られた種類の蛍光成分であっても、相互に識別可能な多様な蛍光シグナルを得ることができる。更に、樹脂中に磁気で吸着される成分を加えれば蛍光を発するとともに、磁気によって分離可能なビーズとすることができる。このような磁気蛍光ビーズを利用した、多重化多型タイピングが考え出された(バイオサイエンスとバイオインダストリー, Vol.60 No.12, 821-824)。
磁気蛍光ビーズを利用した多重化多型タイピングにおいては、各アレルの多型部位に相補的な塩基を末端に有するプローブが磁気蛍光ビーズに固定化される。各アレルにそれぞれ固有の蛍光シグナルを有する磁気蛍光ビーズが対応するように、両者は組み合せられる。一方、磁気蛍光ビーズに固定されたプローブが相補配列にハイブリダイズしたときに、当該アレル上で隣接する領域に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴDNAを調製する。
アレルを含む領域を非対称PCRによって増幅し、上記の磁気蛍光ビーズ固定化プローブと蛍光標識オリゴDNAをハイブリダイズさせ、更に両者をライゲーションする。磁気蛍光ビーズ固定化プローブの末端が、多型部位の塩基に相補的な塩基配列であった場合には効率的にライゲーションされる。逆にもしも多型のために末端の塩基が異なれば、両者のライゲーション効率は低下する。その結果、各磁気蛍光ビーズには、試料が当該磁気蛍光ビーズに相補的な塩基種であった場合に限り、蛍光標識オリゴDNAが結合する。
磁気によって磁気蛍光ビーズを回収し、更に各磁気蛍光ビーズ上の蛍光標識オリゴDNAの存在を検出することにより、塩基種が決定される。磁気蛍光ビーズは、フローサイトメーターでビーズ毎に蛍光シグナルを解析できるので、多種類の磁気蛍光ビーズが混合されていてもシグナルの分離は容易である。つまり、多種類の多型部位について、単一の反応容器で並行して解析する「多重化」が達成される。
[Invader法]
PCR法に依存しないジェノタイピングのための方法も実用化されている。例えば、Invader法では、アレルプローブ、インベーダープローブ、およびFRETプローブの3種類のオリゴヌクレオチドと、クリバーゼ(cleavase)と呼ばれる特殊なヌクレアーゼのみで、塩基種の決定を実現している。これらのプローブのうち標識が必要なのはFRETプローブのみである。
アレルプローブは、検出すべきアレルに隣接する領域にハイブリダイズするようにデザインされる。アレルプローブの5'側には、ハイブリダイズに無関係な塩基配列からなるフラップが連結されている。アレルプローブは多型部位の3'側にハイブリダイズし、多型部位の上でフラップに連結する構造を有する。
一方インベーダープローブは、多型部位の5'側にハイブリダイズする塩基配列からなっている。インベーダープローブの塩基配列は、ハイブリダイズによって3'末端が多型部位に相当するようにデザインされている。インベーダープローブにおける多型部位に相当する位置の塩基は任意で良い。つまり、多型部位を挟んでインベーダープローブとアレルプローブとが隣接してハイブリダイズするように両者の塩基配列はデザインされている。
多型部位がアレルプローブの塩基配列に相補的な塩基であった場合には、インベーダープローブとアレルプローブの両者がアレルにハイブリダイズすると、アレルプローブの多型部位に相当する塩基にインベーダープローブが侵入(invasion)した構造が形成される。cleavaseは、このようにして形成された侵入構造を形成したオリゴヌクレオチドのうち、侵入された側の鎖を切断する。切断は侵入構造の上で起きるので、結果としてアレルプローブのフラップが切り離されることになる。一方、もしも多型部位の塩基がアレルプローブの塩基に相補的でなかった場合には、多型部位におけるインベーダープローブとアレルプローブの競合は無く、侵入構造は形成されない。したがってcleavaseによるフラップの切断が起こらない。
FRETプローブは、こうして切り離されたフラップを検出するためのプローブである。FRETプローブは5'末端側に自己相補配列を有し、3'末端側に1本鎖部分が配置されたヘアピンループを構成している。FRETプローブの3'末端側に配置された1本鎖部分は、フラップに相補的な塩基配列からなっていて、ここにフラップがハイブリダイズすることができる。フラップがFRETプローブにハイブリダイズすると、FRETプローブの自己相補配列の5'末端部分にフラップの3'末端が侵入した構造が形成されるように両者の塩基配列がデザインされている。cleavaseは侵入構造を認識して切断する。FRETプローブのcleavaseによって切断される部分を挟んで、TaqMan PCRと同様のレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、FRETプローブの切断を蛍光シグナルの変化として検知することができる。
なお、理論的には、フラップは切断されない状態でもFRETプローブにハイブリダイズするはずである。しかし実際には、切断されたフラップとアレルプローブの状態で存在しているフラップとでは、FRETに対する結合効率に大きな差が有る。そのため、FRETプローブを利用して、切断されたフラップを特異的に検出することは可能である。
Invader法に基づいて塩基種を決定するためには、アレルAとアレルBのそれぞれに相補的な塩基配列を含む、2種類のアレルプローブを用意すれば良い。このとき両者のフラップの塩基配列は異なる塩基配列とする。フラップを検出するためのFRETプローブも2種類を用意し、それぞれのレポーター色素を識別可能なものとしておけば、TacMan PCR法と同様の考え方によって、塩基種を決定することができる。
Invader法の利点は、標識の必要なオリゴヌクレオチドがFRETプローブのみであることである。FRETプローブは検出対象の塩基配列とは無関係に、同一のオリゴヌクレオチドを利用することができる。従って、大量生産が可能である。一方アレルプローブとインベーダープローブは標識する必要が無いので、結局、ジェノタイピングのための試薬を安価に製造することができる。
[RCA法]
PCR法に依存しない塩基種の決定方法として、RCA法を挙げることができる。鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが、環状の1本鎖DNAを鋳型として、長い相補鎖を合成する反応に基づくDNAの増幅方法が、Rolling Circle Amplification(RCA)法である(Lizardri PM et al.,Nature Genetics 19, 225, 1998)。RCA法においては、環状DNAにアニールして相補鎖合成を開始するプライマーと、このプライマーによって生成する長い相補鎖にアニールする第2のプライマーを利用して、増幅反応を構成している。
RCA法には、鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが利用されている。そのため、相補鎖合成によって2本鎖となった部分は、より5'側にアニールした別のプライマーから開始した相補鎖合成反応によって置換される。例えば、環状DNAを鋳型とする相補鎖合成反応は、1周分では終了しない。先に合成した相補鎖を置換しながら相補鎖合成は継続し、長い1本鎖DNAが生成される。一方、環状DNAを鋳型として生成した長い1本鎖DNAには、第2のプライマーがアニールして相補鎖合成が開始する。RCA法において生成される1本鎖DNAは、環状のDNAを鋳型としていることから、その塩基配列は同じ塩基配列の繰り返しである。従って、長い1本鎖の連続的な生成は、第2のプライマーの連続的なアニールをもたらす。その結果、変性工程を経ることなく、プライマーがアニールすることができる1本鎖部分が連続的に生成される。こうして、DNAの増幅が達成される。
RCA法に必要な環状1本鎖DNAが多型部位の塩基種に応じて生成されれば、RCA法を利用して塩基種の決定をすることができる。そのために、直鎖状で1本鎖のパドロックプローブが利用される。パドロックプローブは、5'末端と3'末端に検出すべき多型部位の両側に相補的な塩基配列を有している。これらの塩基配列は、バックボーンと呼ばれる特殊な塩基配列からなる部分で連結されている。多型部位がパドロックプローブの末端に相補的な塩基配列であれば、アレルにハイブリダイズしたパドロックプローブの末端をDNAリガーゼによってライゲーションすることができる。その結果、直鎖状のパドロックプローブが環状化され、RCA法の反応がトリガーされる。DNAリガーゼの反応は、ライゲーションすべき末端部分が完全に相補的でない場合には反応効率が著しく低下する。従って、ライゲーションの有無をRCA法で確認することによって、多型部位の塩基種の決定が可能である。
RCA法は、DNAを増幅することはできるが、そのままではシグナルを生成しない。また増幅の有無のみを指標とするのでは、アレル毎に反応を行わなければ、通常、塩基種を決定することができない。これらの点を塩基種の決定のために改良した方法が公知である。例えば、モレキュラービーコンを利用して、RCA法に基づいて1チューブで延期種の決定を行うことができる。モレキュラービーコンは、TaqMan法と同様に、蛍光色素とクエンチャーを利用したシグナル生成用プローブである。モレキュラービーコンの5'末端と3'末端は相補的な塩基配列で構成されており、単独ではヘアピン構造を形成する。両端付近を蛍光色素とクエンチャーで標識しておけば、ヘアピン構造を形成している状態では蛍光シグナルが検出できない。モレキュラービーコンの一部を、RCA法の増幅産物に相補的な塩基配列としておけば、モレキュラービーコンはRCA法の増幅産物にハイブリダイズする。ハイブリダイズによってヘアピン構造が解消されるため、蛍光シグナルが生成される。
モレキュラービーコンの利点は、パドロックプローブのバックボーン部分の塩基配列を利用することによって、検出対象とは無関係にモレキュラービーコンの塩基配列を共通にできる点である。アレル毎にバックボーンの塩基配列を変え、蛍光波長が異なる2種類のモレキュラービーコンを組み合せれば、1チューブで塩基種の決定が可能である。蛍光標識プローブの合成コストは高いので、測定対象に関わらず共通のプローブを利用できることは、経済的なメリットである。
これらの方法はいずれも多量のサンプルを高速にジェノタイピングするために開発された方法である。MALDI-TOF/MSを除けば、通常、いずれの方法にも何らかの形で標識プローブなどを用意する必要がある。これに対して、標識プローブなどに頼らない塩基種決定法も古くから行われている。このような方法の一つとして、例えば、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。
RFLPは、制限酵素の認識部位の変異、あるいは制限酵素処理によって生じるDNA断片内における塩基の挿入または欠失が、制限酵素処理後に生じる断片の大きさの変化として検出できることを利用している。検出対象となる多型を含む塩基配列を認識する制限酵素が存在すれば、RFLPの原理によって多型部位の塩基を知ることができる。
標識プローブを必要としない方法として、DNAの二次構造の変化を指標として塩基の違いを検出する方法も公知である。PCR-SSCPでは、1本鎖DNAの二次構造がその塩基配列の相違を反映することを利用している(Cloning and polymerase chain reaction-single-strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11. Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.、Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single-strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products. Oncogene. 1991 Aug 1; 6(8): 1313-1318.、Multiple fluorescence-based PCR-SSCP analysis with postlabeling.、PCR Methods Appl. 1995 Apr 1; 4(5): 275-282.)。PCR-SSCP法は、PCR産物を1本鎖DNAに解離させ、非変性ゲル上で分離する工程により実施される。ゲル上の移動度は、1本鎖DNAの二次構造によって変動するので、もしも多型部位における塩基の相違があれば、移動度の違いとして検出することができる。
その他、標識プローブを必要としない方法として、例えば、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis: DGGE法)等を例示することができる。DGGE法は、変性剤の濃度勾配のあるポリアクリルアミドゲル中で、DNA断片の混合物を泳動し、それぞれの不安定性の違いによってDNA断片を分離する方法である。ミスマッチのある不安定なDNA断片が、ゲル中のある変性剤濃度の部分まで移動すると、ミスマッチ周辺のDNA配列はその不安定さのために、部分的に1本鎖へと解離する。部分的に解離したDNA断片の移動度は、非常に遅くなり、解離部分のない完全な二本鎖DNAの移動度と差がつくことから、両者を分離することができる。
具体的には、まずPCR法等によって多型部位を含む領域を増幅する。増幅産物に、塩基配列がわかっているプローブDNAをハイブリダイズさせて2本鎖とする。これを尿素などの変性剤の濃度が移動するに従って徐々に高くなっているポリアクリルアミドゲル中で電気泳動し、対照と比較する。プローブDNAとのハイブリダイズによってミスマッチを生じたDNA断片では、より低い変性剤濃度位置でDNA断片が一本鎖になり、極端に移動速度が遅くなる。こうして生じた移動度の差を検出することによりミスマッチの有無を検出することができる。
更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる(細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」,秀潤社,2000.4/20発行,pp97-103「オリゴDNAチップによるSNPの解析」,梶江慎一)。DNAアレイは、同一平面上に配置した多数のプローブに対してサンプルDNA(あるいはRNA)をハイブリダイズさせ、当該平面をスキャンすることによって、各プローブに対するハイブリダイズが検出される。多くのプローブに対する反応を同時に観察することができることから、例えば、多数の多型部位について同時に解析するには、DNAアレイは有用である。
一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non- porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することもできる。
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インビトロ(in vitro)で合成される。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)、および化学物質を固定させるためのインクジェット(Rosetta Inpharmatics社)技術等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、いずれの技術も本発明の基板の作製に利用することができる。
オリゴヌクレオチドは、検出すべきSNPsを含む領域に相補的な塩基配列で構成される。基板に結合させるヌクレオチドプローブの長さは、オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常10〜100ベースであり、好ましくは10〜50ベースであり、さらに好ましくは15〜25ベースである。更に、一般にDNAアレイ法においては、クロスハイブリダイゼーション(非特異的ハイブリダイゼーション)による誤差を避けるために、ミスマッチ(MM)プローブが用いられる。ミスマッチプローブは、標的塩基配列と完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとのペアを構成している。ミスマッチプローブに対して、完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドはパーフェクトマッチ(PM)プローブと呼ばれる。データ解析の過程で、ミスマッチプローブで観察されたシグナルを消去することによって、クロスハイブリダイゼーションの影響を小さくすることができる。
DNAアレイ法によるジェノタイピングのための試料は、被検者から採取された生物学的試料をもとに当業者に周知の方法で調製することができる。生物学的試料は特に限定されない。例えば被検者の血液、末梢血白血球、皮膚、口腔粘膜等の組織または細胞、涙、唾液、尿、糞便または毛髪から抽出した染色体DNAから、DNA試料を調製することができる。判定すべき多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーを用いて、染色体DNAの特定の領域が増幅される。このとき、マルチプレックスPCR法によって複数の領域を同時に増幅することができる。マルチプレックスPCR法とは、複数組のプライマーセットを、同じ反応液中で用いるPCR法である。複数の多型部位を解析するときには、マルチプレックスPCR法が有用である。
一般にDNAアレイ法においては、PCR法によってDNA試料を増幅するとともに、増幅産物が標識される。増幅産物の標識には、標識を付したプライマーが利用される。例えば、まず多型部位を含む領域に特異的なプライマーセットによるPCR法でゲノムDNAを増幅する。次に、ビオチンラベルしたプライマーを使ったラベリングPCR法によって、ビオチンラベルされたDNAを合成する。こうして合成されたビオチンラベルDNAを、チップ上のオリゴヌクレオチドプローブにハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの反応液および反応条件は、基板に固定するヌクレオチドプローブの長さや反応温度等の条件に応じて、適宜調整することができる。当業者は、適切なハイブリダイゼーションの条件をデザインすることができる。ハイブリダイズしたDNAを検出するために、蛍光色素で標識したアビジンが添加される。アレイをスキャナで解析し、蛍光を指標としてハイブリダイズの有無を確認する。
上記方法をより具体的に示せば、被検者から調製した本発明の多型部位を含むDNA、およびヌクレオチドプローブが固定された固相、を取得した後、次いで、該DNAと該固相を接触させる。さらに、固相に固定されたヌクレオチドプローブにハイブリダイズしたDNAを検出することにより、本発明の多型部位の塩基種を決定する。
本発明において「固相」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な材料を意味する。本発明の固相は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、具体的には、マイクロプレートウェル、プラスチックビーズ、磁性粒子、基板などを含む固相等を例示することができる。本発明の「固相」としては、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。本発明において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。また、本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。
上記の方法以外にも、特定部位の塩基を検出するために、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)は、検出すべき多型部位が存在する領域にハイブリダイズする塩基配列で構成される。ASOを試料DNAにハイブリダイズさせるとき、多型によって多型部位にミスマッチが生じるとハイブリッド形成の効率が低下する。ミスマッチは、サザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等によって検出することができる。また、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法によって、ミスマッチを検出することもできる。
本発明はまた、上記多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを提供する。
本発明の上記オリゴヌクレオチドの好ましい態様としては、
(a)NARC-1遺伝子のイントロン領域であって、配列番号:1に記載の塩基配列の67位の多型部位、または
(b)NARC-1遺伝子のエクソン領域であって、配列番号:2に記載の塩基配列の69位の多型部位、を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドである。本発明のオリゴヌクレオチドは、脂質代謝異常に起因する疾患を検査するための試薬として利用できる。
本発明のオリゴヌクレオチドは、本発明の上記(a)または(b)に記載の多型部位を含むDNAに特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、検出する遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における、上記(a)または(b)に記載の塩基配列に対し、完全に相補的である必要はない。
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、具体的には、通常「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度の条件を例示することができる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明の検査方法におけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、本発明の上記(a)または(b)に記載の多型部位を含むDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。
本発明は、本発明の多型部位を含む領域を増幅するためのプライマー、および多型部位を含むDNA領域にハイブリダイズするプローブを提供する。
本発明において、多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーには、多型部位を含むDNAを鋳型として、多型部位に向かって相補鎖合成を開始することができるプライマーも含まれる。該プライマーは、多型部位を含むDNAにおける、多型部位の3'側に複製開始点を与えるためのプライマーと表現することもできる。プライマーがハイブリダイズする領域と多型部位との間隔は任意である。両者の間隔は、多型部位の塩基の解析手法に応じて、好適な塩基数を選択することができる。たとえば、DNAチップによる解析のためのプライマーであれば、多型部位を含む領域として、20〜500、通常50〜200塩基の長さの増幅産物が得られるようにプライマーをデザインすることができる。当業者においては、多型部位を含む周辺DNA領域についての塩基配列情報を基に、解析手法に応じたプライマーをデザインすることができる。本発明のプライマーを構成する塩基配列は、ゲノムの塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列のみならず、適宜改変することができる。
本発明のプライマーには、ゲノムの塩基配列に相補的な塩基配列に加え、任意の塩基配列を付加することができる。例えば、IIs型の制限酵素を利用した多型の解析方法のためのプライマーにおいては、IIs型制限酵素の認識配列を付加したプライマーが利用される。このような、塩基配列を修飾したプライマーは、本発明のプライマーに含まれる。更に、本発明のプライマーは、修飾することができる。例えば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシンのような結合親和性物質で標識したプライマーが各種のジェノタイピング方法において利用される。これらの修飾を有するプライマーも本発明に含まれる。
一方、本発明において、多型部位を含む領域にハイブリダイズするプローブとは、多型部位を含む領域の塩基配列を有するポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるプローブを言う。より具体的には、プローブの塩基配列中に多型部位を含むプローブは本発明のプローブとして好ましい。あるいは、多型部位における塩基の解析方法によっては、プローブの末端が多型部位に隣接する塩基に対応するように、デザインされる場合もある。従って、プローブ自身の塩基配列には多型部位が含まれないが、多型部位に隣接する領域に相補的な塩基配列を含むプローブも、本発明における望ましいプローブとして示すことができる。
言いかえれば、ゲノムDNA上の本発明の多型部位、または多型部位に隣接する部位にハイブリダイズすることができるプローブは、本発明のプローブとして好ましい。本発明のプローブには、プライマーと同様に、塩基配列の改変、塩基配列の付加、あるいは修飾が許される。例えば、Invader法に用いるプローブは、フラップを構成するゲノムとは無関係な塩基配列が付加される。このようなプローブも、多型部位を含む領域にハイブリダイズする限り、本発明のプローブに含まれる。本発明のプローブを構成する塩基配列は、ゲノムにおける本発明の多型部位の周辺DNA領域の塩基配列をもとに、解析方法に応じてデザインすることができる。
本発明のプライマー、またはプローブは、それを構成する塩基配列をもとに、任意の方法によって合成することができる。本発明のプライマーまたはプローブの、ゲノムDNAに相補的な塩基配列の長さは、通常15〜100、一般に15〜50、通常15〜30である。与えられた塩基配列に基づいて、当該塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する手法は公知である。更に、オリゴヌクレオチドの合成において、蛍光色素やビオチンなどで修飾されたヌクレオチド誘導体を利用して、オリゴヌクレオチドに任意の修飾を導入することもできる。あるいは、合成されたオリゴヌクレオチドに、蛍光色素などを結合する方法も公知である。
本発明はまた、本発明の脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法に使用するための試薬(キット)を提供する。本発明の試薬(キット)は、本発明の上記プライマーおよび/またはプローブを含む。脂質代謝異常に起因する疾患の検査においては、上記(a)または(b)に記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーおよび/またはプローブを用いる。
本発明の試薬には、塩基種の決定方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合せることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、あるいはIIs制限酵素などの、上記の塩基種決定方法として例示した各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。更に、酵素基質としては、例えば、相補鎖合成用の基質等が用いられる。
更に本発明の試薬には、多型部位における塩基が明らかな対照を添付することができる。対照は、予め多型部位の塩基種が明らかなゲノム、あるいはゲノムの断片を用いることができる。ゲノムは、細胞から抽出されたものでもよいし、細胞あるいは細胞の分画を用いることもできる。細胞を対照として用いれば、対照の結果によってゲノムDNAの抽出操作が正しく行われたことを証明することができる。あるいは、多型部位を含む塩基配列からなるDNAを対照として用いることもできる。具体的には、本発明の多型部位における塩基種が明らかにされたゲノム由来のDNAを含むYACベクターやBACベクターは、対照として有用である。あるいは多型部位に相当する数百ベースのみを切り出して挿入したベクターを対照として用いることもできる。
さらに、本発明における試薬の別の態様は、上記(a)または(b)に記載の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、検査薬である。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕
本発明者らは、NARC-1遺伝子の変異が脂質代謝に関係があるか検討するため、NARC-1の全エクソンのシークエンスを行った。39個のsingle nucleotide polymorphisms (SNPs)が同定された。このうち、15 SNPsは、エクソン上にあり、9 SNPsは、コード配列上にあり、5 SNPsは、アミノ酸変異を随伴した(図1)。
今回、C(-161)T、I(474)Vの遺伝子多型の検出には、TaqMan法を用いた。使用したプライマーおよびプローブを以下に示す。
C(-161)T:
プライマー(フォワード) CACATTTGAAAGTGTTGTATAACCATGTGA (配列番号:4)
プライマー(リバース) AGAAGTTACCAAATGCGGACCAA (配列番号:5)
プローブ-A1 AAAGCAAATTAAAGAACTCAT (配列番号:6)
プローブ-A2 AAGCAAATTAAAAAACTCAT (配列番号:7)
I(474)V:
プライマー(フォワード) CCCTTCTCCCTTGTCTGTGTAAG (配列番号:8)
プライマー(リバース) CAGAGCCCCATTCTCATTTAATCCT (配列番号:9)
プローブ-A1 TTTAAGGTGGCGTCATC (配列番号:10)
プローブ-A2 AGGTGGCATCATC (配列番号:11)
1880名の吹田コホートを用いてこれらの遺伝型に対する関連分析を施行した。Intron 1 C-161T 及び I474Vの2 SNPsは、血清コレステロールレベル及び血清LDLレベル(Friedewaldの計算式にて算出)と有意な相関があった。年齢、性、BMIなどによる補正を行っても、表1に示す如く、Intron 1 C-161T 及び I474V遺伝型の影響が観察された。
Figure 2005130764
上記表中で、TCは総コレステロール、HDLは高濃度リポ蛋白質、TGはトリグリセリド、LDLは低濃度リポ蛋白質を示し、Res TC、Res HDL、Res TGおよびRes LDLは、それぞれ年齢、性別、およびBMIで調整したTC、HDL、TGおよびLDLの残差を示す。LDLはFriedewald's formulaによって計算した(LDL = TC - HDL - (TG/5)。HDLレベルが100mg/dl以上の対象者あるいはTGレベルが400mg/dl以上の対象者は除いた。)。Pはstudent t testによって計算した。
図1は、NARC-1遺伝子の構造を模式的に示した図である。

Claims (14)

  1. 被検者について、以下の(a)および/または(b)の多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法。
    (a)NARC-1遺伝子のイントロン領域であって、配列番号:1に記載の塩基配列の67位の多型部位
    (b)NARC-1遺伝子のエクソン領域であって、配列番号:2に記載の塩基配列の69位の多型部位
  2. 被検者について、以下の(a)および/または(b)の多型部位の遺伝子型を決定することを特徴とする、脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法。
    (a)NARC-1遺伝子のイントロン領域であって、配列番号:1に記載の塩基配列の67位の多型部位
    (b)NARC-1遺伝子のエクソン領域であって、配列番号:2に記載の塩基配列の69位の多型部位
  3. 脂質代謝異常に起因する疾患が、血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患である、請求項2に記載の検査方法。
  4. 血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患が脳出血であって、(a)の多型部位の遺伝子型がT/TもしくはT/Cであり、および/または、(b)の多型部位の遺伝子型がG/GもしくはG/Aである場合に、脳出血感受性であるものと判定される、請求項3に記載の検査方法。
  5. 血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患が動脈硬化性疾患であって、(a)の多型部位の遺伝子型がC/Cであり、および/または、(b)の多型部位の遺伝子型がA/Aである場合に、動脈硬化性疾患感受性であるものと判定される、請求項3に記載の検査方法。
  6. 被検者について、以下の(a)および(b)の多型部位によって決定されるハプロタイプを検出することを特徴とする、脂質代謝異常に起因する疾患の検査方法。
    (a)NARC-1遺伝子のイントロン領域であって、配列番号:1に記載の塩基配列の67位の多型部位
    (b)NARC-1遺伝子のエクソン領域であって、配列番号:2に記載の塩基配列の69位の多型部位
  7. 脂質代謝異常に起因する疾患が、血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患である、請求項6に記載の検査方法。
  8. 血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患が脳出血であって、(a)の多型部位の塩基種がTであり、(b)の多型部位の塩基種がGであるハプロタイプが検出された場合に脳出血感受性であるものと判定される、請求項7に記載の検査方法。
  9. 血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患が動脈硬化性疾患であって、(a)の多型部位の塩基種がCであり、(b)の多型部位の塩基種がAであるハプロタイプが検出された場合に、動脈硬化性疾患感受性であるものと判定される、請求項7に記載の検査方法。
  10. 請求項1の(a)または(b)に記載の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド。
  11. 請求項10に記載のオリゴヌクレオチドを含む、脂質代謝異常に起因する疾患を検査するための試薬。
  12. 請求項1の(a)または(b)に記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチドを含む、脂質代謝異常に起因する疾患を検査するための試薬。
  13. 脂質代謝異常に起因する疾患が、血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患である、請求項11または12に記載の試薬。
  14. 血清総コレステロールレベルまたは血清LDLコレステロールレベル異常に起因する疾患が、脳出血、または動脈硬化性疾患である、請求項13に記載の試薬。
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