JP6053681B2 - イヌの緑内障を診断する方法及びキット - Google Patents

イヌの緑内障を診断する方法及びキット Download PDF

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Description

本発明は、イヌの緑内障を診断する方法及びキットに関する。
イヌの緑内障は、角膜と水晶体の間を流れる房水の流れが障害され、眼圧の上昇が起こり、網膜や視神経が圧迫され、視野狭窄などの視覚障害がもたらされる疾患である。
高眼圧になれば、眼の疲れや頭痛、めまい、吐き気などが起こるが、イヌには自覚症状がなく、また、そのような不調を感じても、飼い主に訴えることができない。視野狭窄が始まっても、いつも通りに駆け回わり、行動の変化が見られるものではない。そのために、発見が遅れ、症状が進行してから、動物病院へ連れてこられるケースが多い。
緑内障には予防方法がないが、早期発見することができれば、病気の進行を抑える方法はある。例えば、点眼薬(縮瞳薬、β-アドレナリン作用遮断薬、プロスタグランジン関連薬など)・内服薬(浸透圧利尿薬、炭酸脱水酵素阻害薬など)の投与、眼房水産生を減少させるための手術、眼房水流出を増加させるための手術などである。
これまでのところ、イヌ緑内障の診断は、眼圧測定、隅角鏡検査法、眼底検査により行われている。
しかし、これらの方法では、緑内障の早期発見に十分とは言えず、より早期により確実に診断可能な方法が求められている。
一方、ヒト緑内障に関しては、疾患感受性遺伝子の探索が進められており、例えば、水木らは、GeneChip 500k Array Set を用いた GWAS が日本人集団(患者 305 検体、健常者 355 検体)で完了し、疾患と顕著な相関を示す 2遺伝子(SRBD1及びELOVL5)を同定している(非特許文献1)。
Ophthalmology 2010 Jul;117(7):1331-8.e5. Epub 2010 Apr 3.
本発明は、イヌの緑内障の診断に有効な疾患感受性遺伝子を見出し、その利用方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、緑内障イヌ集団と健常イヌ集団を対象にSNP解析を行ったところ、緑内障の診断に特に有効な2個のSNPを見出した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成された。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)一塩基多型国際番号rs22018513の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における450番目の塩基)、一塩基多型国際番号rs22018514の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における454番目の塩基)、及びそれらの多型と連鎖不平衡の状態にある多型部位の塩基からなる群より選択される少なくとも1個の多型部位の塩基を同定することを含む、イヌ緑内障の検査方法。
(2)下記の(a)及び(b)の成分からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む、イヌ緑内障の検査をするための試薬。
(a)一塩基多型国際番号rs22018513の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における450番目の塩基)、一塩基多型国際番号rs22018514の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における454番目の塩基)、及びそれらの多型と連鎖不平衡の状態にある多型部位の塩基からなる群より選択される少なくとも1個の多型部位の塩基を含む領域を増幅することができるプライマー
(b)一塩基多型国際番号rs22018513の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における450番目の塩基)、一塩基多型国際番号rs22018514の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における454番目の塩基)、及びそれらの多型と連鎖不平衡の状態にある多型部位の塩基からなる群より選択される少なくとも1個の多型部位の塩基を含む領域にハイブリダイズすることができるプローブ
(3)プローブが固相に固定されている(2)記載の試薬。
(4)(2)又は(3)記載の試薬を含む、イヌ緑内障の検査キット。
本発明により、イヌの緑内障をより早期、かつより正確に診断することが可能となった。既に発症した個体では確定診断が可能となり、積極的な治療をおこなうことが可能となった。また、未発症個体では発症の予測が可能となり、検査を頻回に行うことを勧め、早期発見につなげることができる。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2011‐152745の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
本発明は、一塩基多型国際番号rs22018513の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における450番目の塩基)、一塩基多型国際番号rs22018514の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における454番目の塩基)、及びそれらの多型と連鎖不平衡の状態にある多型部位の塩基からなる群より選択される少なくとも1個の多型部位の塩基を同定することを含む、イヌ緑内障の検査方法を提供する。配列番号1の塩基配列は、配列番号16の塩基配列に相補的な配列である。一塩基多型国際番号rs22018513の多型部位の塩基は、イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号16のヌクレオチド配列における451番目の塩基であり、一塩基多型国際番号rs22018514の多型部位の塩基は、イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号16のヌクレオチド配列における447番目の塩基である。
一塩基多型国際番号rs22018513又はrs22018514の多型と連鎖不平衡にある多型は、一塩基多型国際番号rs22018513又はrs22018514のLDブロック内にある多型であるとよい。一塩基多型国際番号rs22018513又はrs22018514の多型と連鎖不平衡にある多型は、イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域内にあるp値(緑内障個体と健常個体間での有意差の指標)が0.05未満の他の多型であるかもしれない。
SNP間のD'が大きければ連鎖不平衡にあると考えられている(Barrett JC, Fry B, Maller J, Daly MJ. Haploview: analysis and visualization of LD and haplotype maps. Bioinformatics. 2005;21(2):263-265.; Gabriel SB, Schaffner SF, Nguyen H, et al. The structure of haplotype blocks in the human genome. Science. 2002;296(5576):2225-2229.)。従って、一塩基多型国際番号rs22018513又はrs22018514の多型と連鎖不平衡にある多型は、例えば、これらのSNPとの間のD'がより大きい多型である。
LDブロックはHaploviewソフト(Barrett JC, Fry B, Maller J, Daly MJ. Haploview: analysis and visualization of LD and haplotype maps. Bioinformatics. 2005;21(2):263-265.)を用いてGabrielらの方法(Gabriel SB, Schaffner SF, Nguyen H, et al. The structure of haplotype blocks in the human genome. Science. 2002;296(5576):2225-2229.)で決定することができる。
本明細書において、一塩基多型(SNP)は、NCBIのSNPデータベースであるdbSNPにおけるreference SNP ID番号であるrs番号で示す。また、塩基の位置はNCBIのゲノムデータベース、build2.1に基づく。
本明細書において、「緑内障の検査」とは、被検個体が緑内障に罹患する可能性が高いか低いかを判定するための検査、すでに被検個体が緑内障に罹患している場合にはその確定診断を行うための検査が含まれる概念である。
rs22018513は、イヌ第10染色体の51049604番目の塩基におけるアデニン(A)/グアニン(G)の多型であり、この部位の塩基がGである場合には、緑内障に罹患する可能性が高い、あるいは緑内障に罹患していると判定される。
rs22018514は、イヌ第10染色体の51049600番目の塩基におけるシトシン(C)/グアニン(G)の多型であり、この部位の塩基がGである場合には、緑内障に罹患する可能性が高い、あるいは緑内障に罹患していると判定される。CがGに置換することにより、コードするアミノ酸がロイシンからバリンに置換される。
同定するSNPは、一種類でもよいし、複数を組み合わせてもよい。また、遺伝子のセンス鎖を解析してもよいし、アンチセンス鎖を解析してもよい。
また、多型のホモ接合性又はヘテロ接合性が、診断の指標となる場合もある。
rs22018513及びrs22018514は、遺伝子のエクソン中に存在し、rs22018514はアミノ酸置換を伴う変異であるが、これらの多型と連鎖不平衡の状態にある多型は、遺伝子のエクソン中、遺伝子の発現を制御する領域(例えば、プロモーター領域、エンハンサー領域等)中、遺伝子のイントロン中、あるいはこれら遺伝子と連鎖不平衡にあるその前後の領域に存在しうる。多型の種類としては、例えば、一塩基多型、一から数十塩基(時には数千塩基)が置換、欠失、挿入、転移あるいは逆位している多型などが挙げられるが、これらに特に限定されない。
本発明の検査方法において、多型部位の塩基の同定(すなわち、塩基種の決定)は、公知の一塩基多型解析方法によって行うことができる。一塩基多型解析方法としては、シークエンス解析、PCR、PCR-SSCP、ハイブリダイゼーション、RFLP法、Taqman-PCR法、インベーダー法、cycleave-PCR法、HRM法などを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。
多型部位の塩基を同定するために、被検個体の生体試料からゲノムDNAを抽出するとよい。生体試料は、例えば、被検個体の血液、皮膚、口腔粘膜、手術により採取あるいは切除した組織または細胞、検査等の目的で採取された体液(唾液、リンパ液、気道粘膜、精液、汗、尿など)等である。生体試料としては、四肢のいずれか又は首などの静脈から採血した全血が好ましい。市販のDNA抽出キットを用いて、生体試料からゲノムDNAを抽出することができる。次いで、必要に応じて、多型部位を含むDNAを単離する。該DNAの単離は、多型部位を含むDNAにハイブリダイズすることができるプライマーを用いて、ゲノムDNA、あるいはRNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。
緑内障の検査の対象となる犬種は、緑内障に罹患しやすい犬腫、例えば、シバイヌ、アメリカン・コッカー・スパニエル、チワワ、ダックスフンド、ルブラドール・レトリバー、マルチーズ、ミニチュア・ピンシャー、パグ、シーズー、コーギーなどを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
また、本発明は、下記の(a)及び(b)の成分からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む、イヌ緑内障の検査をするための試薬を提供する。
(a)一塩基多型国際番号rs22018513の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における450番目の塩基)、一塩基多型国際番号rs22018514の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における454番目の塩基)、及びそれらの多型と連鎖不平衡の状態にある多型部位の塩基からなる群より選択される少なくとも1個の多型部位の塩基を含む領域を増幅することができるプライマー
(b)一塩基多型国際番号rs22018513の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における450番目の塩基)、一塩基多型国際番号rs22018514の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における454番目の塩基)、及びそれらの多型と連鎖不平衡の状態にある多型部位の塩基からなる群より選択される少なくとも1個の多型部位の塩基を含む領域にハイブリダイズすることができるプローブ
一塩基多型国際番号rs22018513の多型部位、一塩基多型国際番号rs22018514の多型部位、及びそれらの多型と連鎖不平衡の状態にある多型部位は、上記の通りである。
さらにまた、本発明は、上記の試薬を含む、イヌ緑内障の検査キットを提供する。
本発明の試薬の成分であるプライマー及びプローブは、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドであるとよい。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、上記多型部位を含むDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。プライマーが増幅することができるDNAの長さは、通常、15〜1000bp、好ましくは、20〜500bp、より好ましくは20〜200bpである。また、該オリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合、その長さは、通常5bp〜200bpであり、好ましくは7bp〜100bpであり、より好ましくは7bp〜50bpである。プローブは、上記多型部位を含むDNAとハイブリダイズしうるものであれば、特に制限されない。
本発明において、多型部位を含む領域を増幅することができるプライマーは、多型部位を含むDNAを鋳型として、多型部位に向かって相補鎖合成を開始することができるものであるとよい。
本発明の試薬の成分であるプライマーとしては、以下のようなフォワードプライマーとリバースプライマーからなるプライマー対を挙げることができる。
Forward Primer: 5’-GCTATTGCTGATGTTGATTTG-3’(配列番号2)
Reverse Primer: 5’-TGCAGTGCTGGCCCTGTTGGA-3’(配列番号3)
配列番号2の塩基配列は、配列番号1のヌクレオチド配列における325番目〜345番目の塩基配列と同一の配列である。
配列番号3の塩基配列は、配列番号1のヌクレオチド配列における466番目〜486番目の塩基配列に相補的な配列である。
Forward Primer: 5’-TAAAGTGGATACCGTGAAGAC-3’ (配列番号12)
Reverse Primer: 5’-GCATTTGCTGGAAACCT-3’ (配列番号13)
配列番号12の塩基配列は、配列番号1のヌクレオチド配列における360番目〜380番目の塩基配列と同一の配列である。
配列番号13の塩基配列は、配列番号1のヌクレオチド配列における616番目〜632番目の塩基配列に相補的な配列である。
Forward Primer: 5’-ACTCTGTGGCTATTGCTGATG-3’ (配列番号14)
Reverse Primer: 5’-GGGACTGACCAAATGTGAAG-3’ (配列番号15)
配列番号14の塩基配列は、配列番号1のヌクレオチド配列における317番目〜337番目の塩基配列と同一の配列である。
配列番号15の塩基配列は、配列番号1のヌクレオチド配列における549番目〜568番目の塩基配列に相補的な配列である。
プライマーは、多型部位を含む領域にハイブリダイズできる塩基配列を有するが、配列番号2〜7の塩基配列と同一又は相補的な多型部位を含む領域から数塩基ずつずらした領域と同一又は相補的な配列であってもよい。
プライマーには、多型部位を含む領域の塩基配列と同一又は相補的な塩基配列に加え、任意の塩基配列を付加することができる。例えば、IIs型の制限酵素を利用した多型の解析方法のためのプライマーにおいては、IIs型制限酵素の認識配列を付加したプライマーが利用される。更に、プライマーは修飾してもよい。例えば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシンのような結合親和性物質で標識したプライマーを利用してもよい。
本発明において、多型部位を含む領域にハイブリダイズすることができるプローブは、多型部位を含む領域の塩基配列を有するポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるものであればよく、多型部位を含む領域の塩基配列を有するDNAに特異的にハイブリダイズするものが好ましい。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、多型部位を含む領域の塩基配列を有するDNA以外のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。より具体的には、プローブの塩基配列中に多型部位を含むプローブが好ましい。あるいは、多型部位における塩基の解析方法によっては、プローブの末端が多型部位に隣接する塩基に対応するように、デザインされる場合もある。従って、プローブ自身の塩基配列には多型部位が含まれないが、多型部位に隣接する領域に相補的な塩基配列を含むプローブも、本発明における望ましいプローブとして示すことができる。
プローブには、プライマーと同様に、塩基配列の改変、塩基配列の付加、あるいは修飾が許される。例えば、Invader法に用いるプローブは、フラップを構成するゲノムとは無関係な塩基配列が付加される。このようなプローブも、多型部位を含む領域にハイブリダイズする限り、本発明のプローブに含まれる。本発明のプローブを構成する塩基配列は、ゲノムにおける本発明の多型部位の周辺DNA領域の塩基配列をもとに、解析方法に応じてデザインすることができる。
当業者であれば、多型部位を含む周辺DNA領域についての塩基配列情報を基に、解析手法に応じたプライマー及びプローブをデザインすることができる。プライマー及びプローブを構成する塩基配列は、ゲノムの塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列のみならず、適宜改変することができる。
プライマー及びプローブは、それを構成する塩基配列をもとに、任意の方法によって合成することができる。与えられた塩基配列に基づいて、当該塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する手法は公知である。更に、オリゴヌクレオチドの合成において、蛍光色素やビオチンなどで修飾されたヌクレオチド誘導体を利用して、オリゴヌクレオチドに任意の修飾を導入することもできる。あるいは、合成されたオリゴヌクレオチドに、蛍光色素などを結合する方法も公知である。
プローブは、固相に固定されていてもよい(DNAアレイ)。DNAアレイは、同一平面上に配置した多数のプローブに対してサンプルDNA(あるいはRNA)をハイブリダイズさせ、当該平面をスキャンすることによって、各プローブに対するハイブリダイズが検出される。多くのプローブに対する反応を同時に観察することができることから、例えば、多数の多型部位について同時に解析するには、DNAアレイは有用である。ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常in situで合成される。例えば、リソグラフィー方式(Affymetrix社)、インクジェット方式(Agilent社)、ビーズアレイ方式(Illumina社)等によるオリゴヌクレオチドのin situ合成法が知られている。
オリゴヌクレオチドは、検出すべき多型部位を含む領域に相補的な塩基配列で構成される。基板に結合させるヌクレオチドプローブの長さは、オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常10〜100bpであり、好ましくは10〜50bpであり、さらに好ましくは15〜25bpである。
DNAアレイ法によるSNP検出のための試料は、被検個体から採取された生体試料をもとに当業者に周知の方法で調製することができる。生体試料は特に限定されない。例えば被検個体の血液、皮膚、口腔粘膜等の組織または細胞、涙、唾液、尿、糞便または毛髪から抽出したゲノムDNAから、DNA試料を調製することができる。判定すべき多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーを用いて、ゲノムDNAの特定の領域が増幅される。このとき、マルチプレックスPCR法によって複数の領域を同時に増幅することができる。マルチプレックスPCR法とは、複数組のプライマーセットを、同じ反応液中で用いるPCR法である。複数の多型部位を解析するときには、マルチプレックスPCR法が有用である。
一般にDNAアレイ法においては、PCR法によってDNA試料を増幅するとともに、増幅産物が標識される。増幅産物の標識には、標識を付したプライマーが利用される。例えば、まず多型部位を含む領域に特異的なプライマーセットによるPCR法でゲノムDNAを増幅する。次に、ビオチンラベルしたプライマーを使ったラベリングPCR法によって、ビオチンラベルされたDNAを合成する。こうして合成されたビオチンラベルDNAを、チップ上のオリゴヌクレオチドプローブにハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの反応液および反応条件は、固相に固定するヌクレオチドプローブの長さや反応温度等の条件に応じて、適宜調整することができる。当業者は、適切なハイブリダイゼーションの条件をデザインすることができる。ハイブリダイズしたDNAを検出するために、蛍光色素で標識したアビジンが添加される。アレイをスキャナで解析し、蛍光を指標としてハイブリダイズの有無を確認する。
DNAアレイ法を用いて本発明の検査方法を実施する手順の一例を示せば、被検個体から調製した多型部位を含むDNA及びヌクレオチドプローブが固定された固相を用意した後、該DNAと該固相を接触させる。次いで、固相に固定されたヌクレオチドプローブにハイブリダイズしたDNAを検出することにより、多型部位の塩基種を決定する。
本明細書において「固相」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な材料を意味する。固相は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、具体的には、マイクロプレートウェル、プラスチックビーズ、磁性粒子、基板などを含む固相等を例示することができる。固相としては、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。本明細書において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。また、本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。
上記の方法以外にも、特定部位の塩基を検出するために、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)は、検出すべき多型部位が存在する領域にハイブリダイズする塩基配列で構成される。ASOを試料DNAにハイブリダイズさせるとき、多型によって多型部位にミスマッチが生じるとハイブリッド形成の効率が低下する。ミスマッチは、サザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等によって検出することができる。また、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法によって、ミスマッチを検出することもできる。
本発明の試薬およびキットには、塩基の同定方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを含めることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、あるいはIIs制限酵素などの、上記の塩基同定方法として例示した各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。更に、酵素基質としては、例えば、相補鎖合成用の基質等が用いられる。
さらに、本発明の試薬およびキットには、多型部位における塩基が明らかな対照を添付することができる。対照としては、予め多型部位の塩基種が明らかなゲノムDNA、あるいはゲノムDNAの断片を用いることができる。ゲノムDNAは、細胞から抽出されたものを対照として添付してもよいし、あるいは、細胞又は細胞の分画を対照として添付しておき、そこから使用者がゲノムDNAを抽出してもよい。細胞を対照として用いれば、対照の結果によってゲノムDNAの抽出操作が正しく行われたことを証明することができる。あるいは、多型部位を含む塩基配列からなるDNAを対照として用いることもできる。具体的には、多型部位における塩基種が明らかにされたゲノム由来のDNAを含むYACベクターやBACベクターを対照として用いてもよい。あるいは多型部位に相当する数十から数百bpのみを切り出して挿入したベクターを対照として用いることもできる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
1.イヌ緑内障の診断およびDNAの精製
1) 麻布大学附属動物病院を来院したシバイヌ(純系)の両眼にベノキシールを点眼し、局部麻酔を施した。
2) 両眼の眼圧をトノペンで測定し、眼圧24mmHg以上の個体を緑内障、24mmHg未満の個体を健常と判定した。(緑内障47匹、健常34匹)
3) 頚静脈より血液を1cc採取し、DNA全血キット・スピン法(FUJI FILM社)でDNAを精製した。
4) DNAの濃度と純度をGeneQuant Pro(GEヘルスサイエンス社)で測定した。
2.DNA塩基配列の決定
1) TaKaRa Ex Taq(タカラバイオ社)を用いてPCRを実施した。 PCRの条件は以下のとおりとした。
<試薬>
Taq酵素 0.25μL
10×Buffer 5μL
dNTPs 4μL
Template 2μL
Forward Primer 1μL
(5’-GCTATTGCTGATGTTGATTTG-3’)(配列番号2)
Reverse Primer 1μL
(5’-TGCAGTGCTGGCCCTGTTGGA-3’)(配列番号3)
H2O 11.75μL
総容量 25μL
<増幅条件>
(94℃ 5分) 1サイクル
(98℃ 10秒、55℃ 30秒、72℃ 1分) 40サイクル
(72℃ 7分) 1サイクル
2) PCR産物を1%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイド染色によりPCR産物がシングルバンドとして検出されることを確認し、1.5mLのチューブに回収した。
3) 50μLのTEバッファーを添加し、-80℃で3時間以上凍結した。
4) サンプルを溶解し、Qiagen Dye Ex 2.0 スピンキット(QIAGEN社)でサンプルDNAを精製した。
5) 以下の条件でサイクルシーケンシングを実施した。
<試薬>
5×Buffer 4μL
Big Dye 6μL
Template 6μL
Forward Primer 1μL(またはReverse Primer 1μL)
H2O 3μL
総容量 20μL
<シーケンシング条件>
(95℃ 2分) 1サイクル
(94℃ 1分、50℃ 30秒、72℃ 4分) 30サイクル
(72℃ 7分)
6) Qiagen Dye Ex 2.0 スピンキットで再度サンプルDNAを精製し、乾燥した。
7) 20μLのHigh Dye Mix(ライフテクノロジーズ社)を添加し、90℃で3分間処理したのち、5分間氷冷した。
8) サンプルをシーケンシングチューブに移し、ABI 310 シーケンサ(ライフテクノロジーズ社)で塩基配列を解析した。
9) イヌSRBD1遺伝子の2か所のSNP(rs22018513およびrs22018514)の塩基配列よりサンプルの遺伝子型(ノンリスクホモ、ヘテロ、リスクホモ)を以下のとおり判定した。
緑内障シバイヌ47匹と健常シバイヌ34匹の遺伝子多型解析結果を表2に示す。
rs22018513の多型部位では、緑内障群のリスクアレル頻度は78.7%、健常群のリスクアレル頻度は55.9%となった。両群を比較したとき、リスクアレルを保持している場合の緑内障の発症リスクは2.92倍となり、χ自乗検定で有意差(P<0.01)を認めた。
rs22018514の多型部位では、緑内障群のリスクアレル頻度は39.4%、健常群のリスクアレル頻度は17.6%となった。両群を比較したとき、リスクアレルを保持している場合の緑内障の発症リスクは3.03倍となり、χ自乗検定で有意差(P<0.01)を認めた。
以上の結果より、rs22018513とrs22018514の両多型部位にリスクアレルを保持する場合には緑内障発症リスクは約9倍にも達すると推定された。
また、緑内障シーズー犬22匹と健常シーズー犬28匹の遺伝子多型解析結果についても表2に示す。
rs22018513の多型部位では、緑内障群のリスクアレル頻度は97.7%、健常群のリスクアレル頻度は85.7%となった。両群を比較したとき、リスクアレルを保持している場合の緑内障の発症リスクは7.17倍となり、χ自乗検定で有意差(P<0.05)を認めた。
他の遺伝子変異についても同様に検出した。但し、forward primer及びreverse primerとしては、以下のものを用いた。
・rs24048794検出用
Forward Primer: 5’-CTCACGGCTCCCAGCTCACGG-3’(配列番号4)
Reverse Primer: 5’-TGTGTGTGTGCTCGGGTGTAG-3’ (配列番号5)
・rs24048796検出用
Forward Primer: 5’-CTCACGGCTCCCAGCTCACGG-3’ (配列番号4)
Reverse Primer: 5’-TGTGTGTGTGCTCGGGTGTAG-3’ (配列番号5)
・rs24048798検出用
Forward Primer: 5’-CTCACGGCTCCCAGCTCACGG-3’ (配列番号4)
Reverse Primer: 5’-TGTGTGTGTGCTCGGGTGTAG-3’ (配列番号5)
・rs8571991検出用
Forward Primer: 5’-CCATTACGTATAATCGCTTCTTTT-3’ (配列番号6)
Reverse Primer: 5’-CGCACACAATGGTTATCCTG-3’ (配列番号7)
・rs8643563検出用
Forward Primer: 5’-AATTGTATGGCTGGGACCAA-3’ (配列番号8)
Reverse Primer: 5’-ACCACCAGAGGACACGGATA-3’ (配列番号9)
・rs22202438検出用
Forward Primer: 5’-CATGCTGAACATCTGGTGGT-3’ (配列番号10)
Reverse Primer: 5’-GCTGGTCTGGATGATTGTCA-3’ (配列番号11)
緑内障シバイヌ10匹と健常シバイヌ10匹の遺伝子多型解析結果を表3に示す。
OPTC1遺伝子について、rs24048794の多型部位では緑内障群と健常群のマイナーアレル頻度はともに10%となり、統計学的に有意差を認めなかった。 rs24048796の多型部位では緑内障群と健常群のマイナーアレル頻度はともに0%となり、統計学的に有意差を認めなかった。 rs24048798の多型部位では緑内障群と健常群のマイナーアレル頻度はともに0%となり、統計学的に有意差を認めなかった。
CYP1B1遺伝子について、rs8571991の多型部位では緑内障群と健常群のマイナーアレル頻度はともに0%となり、統計学的に有意差を認めなかった。
ELOVL5遺伝子について、rs8643563の多型部位では緑内障群と健常群のマイナーアレル頻度はともに0%となり、統計学的に有意差を認めなかった。 rs22202438の多型部位では緑内障群と健常群のマイナーアレル頻度はともに45%となり、統計学的に有意差を認めなかった。
以上の結果より、rs24048794、rs24048796、rs24048798、rs8571991、rs8643563、rs22202438の多型部位は緑内障発症リスクとの間に相関性がないことが示された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
本発明は、獣医学、診断などに利用可能である。
<配列番号1>
配列番号1は、rs22018513の多型部位を450番目(r= A/G)に、rs22018514の多型部位を454番目(r= C/G)に含む900塩基長の塩基配列を示す。
<配列番号2>
配列番号2は、rs22018513及びrs22018514の多型部位検出に用いたForward Primerの塩基配列を示す。
<配列番号3>
配列番号3は、rs22018513及びrs22018514の多型部位検出に用いたReverse Primerの塩基配列を示す。
<配列番号4>
配列番号4は、rs24048794、rs24048796及びrs24048798の多型部位検出に用いたForward Primerの塩基配列を示す。
<配列番号5>
配列番号5は、rs24048794、rs24048796及びrs24048798の多型部位検出に用いたReverse Primerの塩基配列を示す。
<配列番号6>
配列番号6は、rs8571991の多型部位検出に用いたForward Primerの塩基配列を示す。
<配列番号7>
配列番号7は、rs8571991の多型部位検出に用いたReverse Primerの塩基配列を示す。
<配列番号8>
配列番号8は、rs8643563の多型部位検出に用いたForward Primerの塩基配列を示す。
<配列番号9>
配列番号9は、rs8643563の多型部位検出に用いたReverse Primerの塩基配列を示す。
<配列番号10>
配列番号10は、rs22202438の多型部位検出に用いたForward Primerの塩基配列を示す。
<配列番号11>
配列番号11は、rs22202438の多型部位検出に用いたReverse Primerの塩基配列を示す。
<配列番号12>
配列番号12は、rs22018513及びrs22018514の多型部位検出に用いることができるForward Primerの塩基配列を示す。
<配列番号13>
配列番号13は、rs22018513及びrs22018514の多型部位検出に用いることができるReverse Primerの塩基配列を示す。
<配列番号14>
配列番号14は、rs22018513及びrs22018514の多型部位検出に用いることができるForward Primerの塩基配列を示す。
<配列番号15>
配列番号15は、rs22018513及びrs22018514の多型部位検出に用いることができるReverse Primerの塩基配列を示す。
<配列番号16>
配列番号16は、配列番号1の塩基配列に相補的な配列を示す。rs22018513の多型部位を451番目(y= T/C)に、rs22018514の多型部位を447番目(s= G/C)に含む900塩基長の塩基配列を示す。

Claims (4)

  1. 下記の(i)及び(ii)の少なくとも1つの同定を行うことを含む、イヌ緑内障の検査方法。
    (i)シバイヌについて、一塩基多型国際番号rs22018513の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における450番目の塩基)を同定する
    (ii) シバイヌについて、一塩基多型国際番号rs22018514の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における454番目の塩基)を同定する
  2. 下記の(a1)、(a2)、(b1)及び(b2)の成分からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む、請求項1記載のイヌ緑内障の検査方法に用いるための試薬。
    (a1)一塩基多型国際番号rs22018513の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における450番目の塩基)を検出可能なように、前記多型部位の塩基を含む領域を増幅することができるプライマー
    (a2)一塩基多型国際番号rs22018514の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における454番目の塩基)を検出可能なように、前記多型部位の塩基を含む領域を増幅することができるプライマー
    (b1)一塩基多型国際番号rs22018513の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における450番目の塩基)を検出可能なように、前記多型部位の塩基を含む領域にハイブリダイズすることができるプローブ
    (b2)一塩基多型国際番号rs22018514の多型部位の塩基(イヌ第10染色体のSRBD1を含む領域中に存在する配列番号1のヌクレオチド配列における454番目の塩基)を検出可能なように、前記多型部位の塩基を含む領域にハイブリダイズすることができるプローブ
  3. プローブが固相に固定されている請求項2記載の試薬。
  4. 請求項2又は3記載の試薬を含む、請求項1記載のイヌ緑内障の検査方法に用いるためのキット。
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