JP2005088075A - アモルファス金属材料加工体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 過冷却液体温度域を利用してアモルファス金属材料の塑性加工なし接合加工を行なう際に、結晶化潜伏期間による加工上の制約が生じにくく、ひいては、強加工や加工に時間を要する複雑な加工も、材料の結晶化を気にすることなく容易に行なうことができるアモルファス金属材料加工体の製造方法を提供する。
【解決手段】 結晶化温度とガラス遷移温度との間の過冷却液体温度域に設定される加工温度にアモルファス金属材料を保持し、当該加工温度における材料の結晶化潜伏期間内に収まる保持時間にてアモルファス金属材料に施す塑性加工又は接合加工を単位加工とする。そして、アモルファス金属材料を加工温度に昇温して単位加工を行ない、該単位加工後の材料を結晶化開始前にガラス遷移温度以下へ冷却する加工/冷却サイクルを複数回繰り返すことにより該材料の加工体を得る。
【選択図】 図6
【解決手段】 結晶化温度とガラス遷移温度との間の過冷却液体温度域に設定される加工温度にアモルファス金属材料を保持し、当該加工温度における材料の結晶化潜伏期間内に収まる保持時間にてアモルファス金属材料に施す塑性加工又は接合加工を単位加工とする。そして、アモルファス金属材料を加工温度に昇温して単位加工を行ない、該単位加工後の材料を結晶化開始前にガラス遷移温度以下へ冷却する加工/冷却サイクルを複数回繰り返すことにより該材料の加工体を得る。
【選択図】 図6
Description
この発明はアモルファス金属材料加工体の製造方法に関する。
金属の塑性加工あるいは接合加工は、材質に応じて種々の方法にて実施されている。特許文献1には、アモルファス金属材料の接合方法として、次のような方法が開示されている。すなわち、接合する金属の間にアモルファス金属材料を介在させ、その状態で該材料の過冷却液体域△Tx(≡Tx(結晶化温度)−Tg(ガラス遷移温度))で定義される温度領域)に昇温する。該過冷却液体温度域ではアモルファス金属材料の変形抵抗が大幅に減少して粘性流動を生じるので、該温度で、接合する金属を介してアモルファス金属材料を加圧しつつ保持することにより、低温で拡散を進行させ、金属とアモルファス金属材料とを接合する。ガラス遷移温度(Tg)と結晶化温度(Tx)とは、DSC等の周知の熱分析により測定できる。
しかし、上記特許文献1の方法では、接合メカニズムとして拡散を積極的に利用しているため、接合のために介在するアモルファス金属材料を過冷却液体温度域に比較的長時間保持する必要がある。ところが、過冷却液体温度域に保持されたアモルファス金属材料は、保持温度に対応した一定の潜伏期間(incubation period)を経て結晶化するので、十分な接合強度を得ようと過度に長時間保持すると、アモルファス金属材料部分の結晶化が進行して、接合強度を確保できなくなる問題がある。該潜伏期間は保持温度が結晶化温度Txに近づくほど短くなるから、拡散接合促進のために保持温度を上げようとすると、結晶化を回避できる可能な保持時間は短くなり、必ずしも接合温度の引き上げが、拡散進行による接合強度の向上に直結できないジレンマがある。なお、前述の結晶化温度(Tx)は、上記の潜伏期間がゼロに外挿される保持温度と把握することもでき、それ以下の温度では結晶化が進行しない、ということを当然意味するものではない。
他方、上記の特許文献1の不具合を解消するために、特許文献2には、各々アモルファス金属材料からなる2以上の金属部材を重ね合わせ、その重ね合わせた金属部材をアモルファス金属材料部材の過冷却液体域まで加熱するとともに、さらに押圧手段により押圧して金属部材同士の接合促進を図る提案がなされている。該文献には具体例として、ゴルフクラブのヘッドを板金深絞り加工で製造するために、アモルファス金属材料の薄板を複数枚重ね合わせ、さらに加熱しながら絞りパンチで押圧することによりヘッド形状を得る工程が開示されている。板状のアモルファス金属材料は、急冷により製造される制約のため、通常厚さ0.05mm未満の急冷薄帯しか得られず、最終的な部材として必要な強度を確保するためには、複数枚の急冷薄帯を積層することが必須である。上記特許文献2では、個々の急冷薄帯を重ね合わせて押圧による強曲げ加工を施しつつ、各薄板の拡散ないし食い込みによる一体化も同時進行させている。
しかし、特許文献2の方法には以下のような欠点がある。
(1)板材の塑性加工は、結局のところ加工温度における結晶化の潜伏期間内に終了させなければならないから、変形量の大きい強加工や、工数の多い複雑な加工を施そうとすると時間切れになりやすく、制約が多い。なお、潜伏期間内に加工を終わらせるために、変形速度を増加させる方法には限度がある。また、潜伏期間を延長するために加工温度を下げると塑性流動効果が小さくなり、変形抵抗が増大して加工割れなどの不良も生じやすくなる。
(2)板材の曲げ加工と接合とを同時に行なおうとするため、曲げ部分での層間剥離を起こしやすい。つまり、積層体の強曲げ加工を行なった場合、曲げ内面側と外面側とで面内の曲げ歪が異なるため、板材同士が十分な強度で接合される前に積層境界で滑りが起こりやすくなり、接合不十分による剥離につながる。
(1)板材の塑性加工は、結局のところ加工温度における結晶化の潜伏期間内に終了させなければならないから、変形量の大きい強加工や、工数の多い複雑な加工を施そうとすると時間切れになりやすく、制約が多い。なお、潜伏期間内に加工を終わらせるために、変形速度を増加させる方法には限度がある。また、潜伏期間を延長するために加工温度を下げると塑性流動効果が小さくなり、変形抵抗が増大して加工割れなどの不良も生じやすくなる。
(2)板材の曲げ加工と接合とを同時に行なおうとするため、曲げ部分での層間剥離を起こしやすい。つまり、積層体の強曲げ加工を行なった場合、曲げ内面側と外面側とで面内の曲げ歪が異なるため、板材同士が十分な強度で接合される前に積層境界で滑りが起こりやすくなり、接合不十分による剥離につながる。
本発明の課題は、過冷却液体温度域を利用してアモルファス金属材料の塑性加工又は接合加工を行なう際に、結晶化潜伏期間による加工上の制約が生じにくく、ひいては、強加工や加工に時間を要する複雑な加工も、材料の結晶化を気にすることなく容易に行なうことができるアモルファス金属材料加工体の製造方法を提供することにある。
本発明は、結晶化温度よりも低温側にガラス遷移温度を有したアモルファス金属材料(一般に金属ガラスと言われている)に塑性加工を施してアモルファス金属材料加工体を得るための方法であって、上記課題を解決するためにその第一は、
結晶化温度とガラス遷移温度との間の過冷却液体温度域に設定される加工温度にアモルファス金属材料を保持し、当該加工温度における材料の結晶化潜伏期間内に収まる保持時間にてアモルファス金属材料に施す塑性加工又は接合加工を単位加工として、
アモルファス金属材料を加工温度に昇温して単位加工を行ない、該単位加工後の材料を結晶化開始前にガラス遷移温度以下へ冷却する加工/冷却サイクルを複数回繰り返すことにより該材料の加工体を得ることを特徴とする。
結晶化温度とガラス遷移温度との間の過冷却液体温度域に設定される加工温度にアモルファス金属材料を保持し、当該加工温度における材料の結晶化潜伏期間内に収まる保持時間にてアモルファス金属材料に施す塑性加工又は接合加工を単位加工として、
アモルファス金属材料を加工温度に昇温して単位加工を行ない、該単位加工後の材料を結晶化開始前にガラス遷移温度以下へ冷却する加工/冷却サイクルを複数回繰り返すことにより該材料の加工体を得ることを特徴とする。
アモルファス金属材料は前述の通り、過冷却液体状態のある温度に保持された場合、その温度に対応した潜伏期間を経過すれば結晶化を起す。他方、潜伏期間が経過する前に過冷却液体状態が解消される温度、すなわちガラス遷移温度Tg以下に冷却すれば、結晶化は起こらない。本発明者が検討したところ、上記の冷却後に材料を再び昇温して過冷却液体状態にした場合、冷却前の熱履歴の相当部分が解消されることがわかった。つまり、冷却前の前回の加熱で経過した期間は、冷却後の2度目の加熱時における結晶化の潜伏期間として累積されないのである。
本発明はこのことを利用するものであって、過冷却液体状態への1回の加熱では、潜伏期間の制限により加工時間はあまり長く確保できないが、図6に示すように、潜伏期間内で終わらせることができる加工を単位加工として、該単位加工とガラス遷移温度Tg以下への冷却とからなる加工/冷却サイクルを複数回繰り返すようにした。その結果、1回目の単位加工で潜伏期間の部分を費やすことになっても、その後のガラス遷移温度Tg以下への冷却により経過した潜伏期間が回復し、次の単位加工では再び十分な加工時間を確保することができる。従って、潜伏期間内で完了する同種の単位加工の反復ないし異種の単位加工の組み合わせにより、潜伏期間内での単独の加工では実施不能だった強加工や複雑な加工も、材料の結晶化を引き起こすことなく問題なく実施できるようになる。かくして、アモルファス金属材料に特有の加工上の制約が大幅に軽減され、アモルファス金属材料を用いた既存の加工体の加工コスト削減及び品質向上に寄与するばかりでなく、これまで不可能とみなされていたアモルファス金属材料の新たな適用分野も開拓することができる。
なお、特許文献3にはパルス通電によりアモルファス合金の接合部を溶融状態まで急速加熱して接合を行なう方法が開示されているが、溶融温度まで加熱される点において、結晶化温度よりも低温で加工を行なう本願発明と明らかに相違し、また、一旦溶融した材料が再冷却される際に結晶化しやすい、などといった不具合も生じやすい。
金属の塑性加工ないし接合に関しては加工温度を上げることにより、塑性加工の場合は変形抵抗の軽減を図ることができ、加工能率の向上やさらなる強加工への対応も容易になる利点がある。また、接合加工の場合は、拡散促進による接合強度の向上が期待できる。しかし、過冷却液体温度域に加工温度を設定するアモルファス金属材料の加工においては、加工温度が結晶化温度Txに近づくほど結晶化の潜伏期間が短くなり、加工時間の確保が困難になるために、従来は加工温度を上げたくともできない事情があった。しかし、本発明の方法によると、1回当たりの単位加工の時間は短くなるが、ガラス遷移温度Tg以下への冷却を挟みながら該単位加工を繰り返すことで問題なく加工を継続できるので、加工温度をより高く設定することが可能になり、加工温度上昇による上記の利点を享受できる。
具体的には、結晶化温度Tx(℃)とガラス遷移温度Tg(℃)との差をΔT(℃)とすれば、上記の単位加工は、加工温度をTg−0.2ΔT(℃)以上Tg+0.6×ΔT(℃)以下に設定して行なうことが望ましい。加工温度がTg+0.6×ΔT(℃)以上になると、単位加工のために確保できる時間が極端に短くなり(例えば1分以下)、加工中に材料が結晶化してしまうリスクも高くなる。他方、加工温度がをTg−0.2×ΔT(℃)未満になると、接合加工の場合は、拡散速度の低下により強度が十分に確保できる接合状態が得られるまでの保持時間が長くなったり、あるいは高圧による加圧を行なわなければ接合ができなくなったりする不具合につながる。他方、塑性加工の場合は、材料の塑性流動性向上の効果が薄れ、加工能率の低下や割れ等を招きやすくなる。上記の加工温度は、より望ましくはTg−0.2×ΔT(℃)以上Tg+0.6×ΔT(℃)以下に設定することが望ましい。
次に、アモルファス金属材料の一次材料形態としては、粉末、薄片、薄帯などが例示でき、例えば粉末や薄片の場合は、上記過冷却液体温度域で金型プレス成形等を行なうことにより塊状物に転換する、といったようなことも可能である。また、該塊状物を潜伏期間経過前にガラス遷移温度Tg以下に冷却した後、再び過冷却液体温度域に昇温して、鍛造や圧延などといった二次加工を行なうこともできる。
最終的な加工体として板状部材を得たい場合、アモルファス金属材料の急冷薄帯は、冷却速度確保の観点から一般には薄いもの(例えば厚さ0.05mm未満)しか製造できないので、厚い板状部材を得たい場合は、第一の単位加工として、アモルファス金属材料の単位板材を複数枚積層して加工温度に昇温し、その状態でそれら単位板材を積層方向に加圧して互いに接合・一体化することにより単位板材よりも厚さの大きいクラッド板材を得るクラッド工程を行なうことが有効である。これにより、従来、急冷法による直接製造が困難であった厚板状のアモルファス金属部材(例えば、厚さ0.05mm以上;特に0.1mm以上)も容易に製造できるようになる。
そして、そのクラッド工程の後、第二の単位加工として、クラッド板材に板厚方向の塑性変形を伴う板材加工を行なうことにより、アモルファス金属材料加工体としての板状加工体を得るようにすれば、厚板の塑性加工品も容易に得ることができる。単位板材の接合と、接合後のクラッド板材に対する板材加工とを順次的に行なっているにもかかわらず、クラッド工程の後に実施されるガラス遷移温度Tg以下への冷却により、クラッド工程での熱履歴(経過した潜伏期間)が板材加工の熱履歴に累積されなくなり、該板材加工時に結晶化等の不具合が生じにくくなる。
特に、板材加工を、クラッド板材に凹部を形成するプレス加工又は深絞り加工とする場合、本発明の採用により、以下のような効果が達成される。すなわち、第一の単位加工において単位板材同士を強固に接合して一体のクラッド板材としてから、そのクラッド板材に、第二の単位加工の形で凹部形成のためのプレス加工又は深絞り加工を行なうようにするので、凹部内面側と外面側との歪量に差を生じやすいプレス加工又は深絞り加工を行なっても、特許文献2のような単位板材間での剥離や接合不良などを大幅に生じにくくすることができる。
上記のような加工方法が有効な板状加工体としては、例えば燃料電池用金属セパレータを例示できる。該燃料電池用金属セパレータは、燃料電池の高分子固体電解質膜を覆う電極層上に片側の板面が積層され、電極層との間にガス拡散層を形成する凹部が当該板面に形成されてなるものである。燃料電池用金属セパレータは、燃料電池セルを積層して圧着する際の加圧力に耐え、かつ、燃料ガスあるいは酸化剤ガスと接する腐食環境下にても長期にわたる剛性が確保できるように、その板厚もある程度大きく設定しなければならない。アモルファス金属材料は、一般に高強度でかつ耐食性も高いので、厚ささえ確保できれば燃料電池用金属セパレータの材質として極めて好適であるといえるが、前述のごとく、アモルファス金属材料の急冷薄帯は最大でも0.05mm程度の厚さのものしか得られないから、単独では燃料電池用金属セパレータの素材として薄すぎ、従来あまり積極的には採用されてこなかった。しかしながら、上記本発明特有の方法を採用することにより、厚さの十分確保された燃料電池用金属セパレータを、アモルファス金属材料を用いて簡単かつ確実に製造できるようになる。
なお、高分子固体電解質膜は、プロトン導電性を高めるために、高分子固体電解質膜を、スルホン酸基を有する高分子材料により構成することが望ましい。特に、高分子固体電解質膜自体の耐薬品性を向上させる観点から、スルホン酸基を有するフッ素樹脂を採用するとなお望ましい。スルホン酸基を有する高分子材料としては、市販品であればNAFION(商標名)を代表的なものとして例示でき、また、特開2002−313355号、特開平10−40737号あるいは特開平9−102322号に開示されたものも使用できる。
アモルファス金属材料からなる単位板材をクラッド板材化する場合、前述のクラッド工程は、単位板材の積層体を圧延ロールの間で加熱しつつ圧延することによりクラッド板材を得るロールクラッド工程とすることが望ましい。また、本発明のアモルファス金属材料加工体の製造方法の第二は、結晶化温度よりも低温側にガラス遷移温度を有したアモルファス金属材料に塑性加工を施して板状のアモルファス金属材料加工体を得るために、
アモルファス金属材料の単位板材を複数枚積層し、結晶化温度とガラス遷移温度との間の過冷却液体温度域に設定される加工温度に保持し、当該加工温度における材料の結晶化潜伏期間内ににて、それら単位板材の積層体を圧延ロールの間で加熱しつつ圧延することにより積層方向に一体化することにより、板状のアモルファス金属材料加工体を、単位板材よりも厚さの大きいクラッド板材として得るクラッド工程を含むことを特徴とする。
アモルファス金属材料の単位板材を複数枚積層し、結晶化温度とガラス遷移温度との間の過冷却液体温度域に設定される加工温度に保持し、当該加工温度における材料の結晶化潜伏期間内ににて、それら単位板材の積層体を圧延ロールの間で加熱しつつ圧延することにより積層方向に一体化することにより、板状のアモルファス金属材料加工体を、単位板材よりも厚さの大きいクラッド板材として得るクラッド工程を含むことを特徴とする。
上記の方法によると、過冷却液体温度域に設定される加工温度において、積層された単位板材を圧延ロールにより圧縮することで、単位板材の積層面に大きな圧力を均一に付加しつつ加熱することができる。その結果、アモルファス金属材料からなる単位板材が強固にかつ均一に接合・一体化されたクラッド板材を得ることができ、プレス加工あるいは深絞り加工といった後続の塑性加工に該クラッド板材を供した場合も、単位板材間の剥離等が一層生じにくくなる。この場合、クラッド工程において圧延ロールを加熱し、単位板材の積層体を、該加熱された圧延ロールとの接触により加工温度に昇温すると、圧延ロール間に供給される単位板材の積層体を過冷却液体温度域に、速やかにかつ均一に加熱することができる。
なお、本発明に適用可能なアモルファス金属材料は特に限定されないが、例えば特許文献2に開示されているZrCuAlNi系の材料や、特開平特開平8−192278号公報に開示されているFeCoAl系の材料、さらには、特開2000−345309号公報に開示されたニッケル基アモルファス金属材料(特に、燃料電池用セパレータの材質として好適である)などを本発明に好適に採用できる。この場合、結晶化温度Txとガラス遷移温度Tgとの差ΔT(≡Tx−Tg)が30℃以上であるものを用いることが望ましい。この場合、前述の単位加工を行なうための加工温度は、過冷却液体温度域であって結晶化温度よりも20℃以上低い温度にて実施することが望ましい。加工温度を結晶化温度よりも少なくとも20℃以上(望ましくは30℃以上)低温側に設定すれば、結晶化に至る潜伏期間が十分長くなり、加工に適した低粘性のアモルファス相状態を加工完了に至るまで余裕を持って確保することができるようになる。この場合、加工温度を結晶化温度よりも20℃以上低い加工温度を、過冷却液体温度域にて確実に設定できるようにするために、材料加熱の温度制御の誤差を考慮して、結晶化温度とガラス遷移温度との差を30℃以上確保するようにする。また、上記合金の急冷薄体は、溶融状態から公知の単ロール法あるいは双ロール法をより得ることができる。この場合、冷却速度は、例えば104℃/秒〜106℃/秒程度の範囲で設定することが望ましく、ロールの冷却能(水冷銅ロールが特に望ましい)と回転速度に応じて、周知の方法により調整が可能である。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態では、燃料電池用金属セパレータへの適用を例にとり説明を行なうが、本発明の適用対象はこれに限られるものではない。図1は、燃料電池の一例を積層形態にて模式的に説明するものである。該燃料電池1は、高分子固体電解質膜3を採用した固体高分子形燃料電池である。具体的に、高分子固体電解質膜3はスルホン酸基を含むフッ素樹脂にて形成され、これを挟む形で一対の電極層2,4を有し、該高分子固体電解質膜3と電極2,4とによりなる単位電池本体5を有する。具体的には、高分子固体電解質膜3の第一主表面3aを覆う第一電極層2と、同じく第二主表面3bを覆う第二電極層4と、本発明の燃料電池用金属セパレータとして構成され、第一電極層2上に積層されるとともに、凹部21により燃料ガス用のガス拡散層を形成する第一セパレータ10aと、本発明の燃料電池用金属セパレータとして構成され、第二電極層4上に積層されるとともに、凹部21により酸化剤ガス用のガス拡散層を形成する第二セパレータ10bとを有する。なお、単位電池本体5とセパレータ10との間に、燃料ガス及び酸化剤ガスのリークを防止するために、ガスケットが配置されるが、図1では省略している。
図2は、セパレータ10a,10bの概略を示すものである。図2(a)に示すように、セパレータ10a,10bは板状に形成され、その主表面に、凸凹が形成されており、凸部14の先端側が電極に接触する形態となっている。他方、凹部21は電極層2,4(図1)との間にガス流通路を兼ねたガス拡散層を形成する。本実施形態では、凹部21は、凸部14に挟まれた蛇行溝形態で形成され、その両端がガス入口22及びガス出口23とされる。
図1に戻り、単位電池本体5とセパレータ10とを単位セルUとして、この単位セルUが、カーボン等の導電体からなる冷却水流通基板11を介して、複数積層されて燃料電池スタック1とされる。単位セルUは例えば50〜400個程度積層され、その積層体の両端に、単位セルUと接触する側から、導電性シート9、集電板8、絶縁シート7及び締め付け板6がそれぞれ配置されて、燃料電池スタック1とされる。集電板8と複数のセパレータ10とは直列に接続され、複数の単位電池本体5からの電流が集められることになる。
セパレータ10a,10bは、例えば結晶化温度が500℃以上であって、該結晶化温度よりも低温側にガラス遷移温ニッケル基アモルファス金属材料により板状に形成されている。電極層2,4との間にガス拡散層を形成する凹部21は、上記のNi基アモルファス金属材料からなる板材の板厚方向の屈曲に基づいて形成されたものである。板材の板厚は0.6mm以上0.2mm以下である。
本実施形態において、セパレータ10a,10bに用いるNi基アモルファス金属材料は、結晶化温度とガラス遷移温度との差が30℃以上のものが使用され、例えば、Nb、Ti、Zr、Hf、Co、Fe及びBの1種又は2種以上を副成分として含有するものである。具体的には、本実施形態で使用するNi基アモルファス金属は、Ni含有率が50原子%以上65原子%以下とされ、Nb含有率が10原子%以上28原子%以下とされ、Zr、Ti及びHfの1種以上よりなる金属成分M1の合計含有率が10原子%以上28原子%以下とされ、Nbと金属成分M1との合計含有率が35原子%以上42原子%以下とされたものであり、必要に応じてCo,Fe,Cu,Pdの1種以上よりなる金属成分M2を、合計にて15原子%以下の範囲内で含有させることができる。この場合、Nbと金属成分M1と金属成分M2との合計含有率は、35原子%以上50原子%以下とされる。
以下、セパレータ10a(10b)の製造方法について説明する。
図3に示すように、所期の組成となるように合金原料を配合し、ルツボ41を用いて高周波誘導溶解炉等の溶解炉40内にて原料を溶解することにより溶湯42とする。次に、図3の下方左側に示すように、この溶湯42を、溶湯供給ノズル43を経て、回転する急冷ロール44の上に直接噴出させ、急冷凝固してNi基アモルファス金属材料からなる薄帯45を得る(単ロール法:ロールは例えばCu製)。他方、図3の下方右側に示すように、2つの急冷ロール44,44間の隙間に溶湯42を噴出して薄帯45を得る双ロール法を採用してもよい。このようにして得られる薄帯45は、厚さが一般に小さく、例えば0.02mm以上0.1mm未満である。
図3に示すように、所期の組成となるように合金原料を配合し、ルツボ41を用いて高周波誘導溶解炉等の溶解炉40内にて原料を溶解することにより溶湯42とする。次に、図3の下方左側に示すように、この溶湯42を、溶湯供給ノズル43を経て、回転する急冷ロール44の上に直接噴出させ、急冷凝固してNi基アモルファス金属材料からなる薄帯45を得る(単ロール法:ロールは例えばCu製)。他方、図3の下方右側に示すように、2つの急冷ロール44,44間の隙間に溶湯42を噴出して薄帯45を得る双ロール法を採用してもよい。このようにして得られる薄帯45は、厚さが一般に小さく、例えば0.02mm以上0.1mm未満である。
次に、上記の薄帯45aを単位板材として、図7に示すようなクラッド工程(第一の単位加工)を実施する。すなわち、アモルファス金属材料からなる単位板材45aを複数枚、ここでは2枚積層して前述の過冷却温度域内に設定される加工温度に昇温し、その状態でそれら単位板材45aを積層方向に加圧して互いに接合・一体化することにより、厚さのより大きいクラッド板材45を得る。本実施形態では、単位板材45aの積層体を圧延ロール101,101の間で加熱しつつ圧延することによりクラッド板材45を得るロールクラッド工程を採用している。ここでは、圧延ロール101,101を加熱炉F1内に配置して直接加熱し、該加熱された圧延ロール101,101との接触により単位板材45aの積層体を加工温度に昇温するようにしている。なお、圧延ロール101,101は、ロール内に内蔵されたヒータにより加熱するようにしてもよい。さらに、単位板材45aの積層体を、圧延ロール101,101に送給のに先立って、予熱炉F2により予熱してもよい。
材料の結晶化温度をTx(℃)、ガラス遷移温度をTg(℃)として、上記の加工温度は、Tg−0.2×ΔT(℃)以上Tg+0.6(℃)以下に設定する。そして、単位板材45aの該加工温度への保持時間は、当該加工温度での結晶化潜伏期間よりも短く設定される。例えば具体的には潜伏期間をτとしたとき、保持時間は0.1τ以上0.9τ以下とするのがよい。また、圧延ロール101,101による単位板材45aの積層体の圧下率は例えば5%以上15%以下とし、最大加圧力は30kg/cm2以上1000kg/cm2以下とするのがよい。
本実施形態で使用するニッケル基アモルファス金属材料はガラス遷移温度Tgが概ね500℃以上であり、例えばNi−15原子%Nb−15原子%Ti−10原子%Zrの組成を有するNi基アモルファス金属材料の場合、ガラス遷移温度Tgは550℃、結晶化温度Txは620℃(従って、過冷却液体温度域は約70℃)程度である。結晶化の潜伏期間は、結晶化温度Txより20℃下で3分程度、40℃下で10分程度、60℃下で60分程度である。
上記圧延ロール101,101を通過する際に、単位板材45aは互いに圧着しあいながら塑性流動を介した拡散により接合され、一体のクラッド板材45となる。クラッド板材45は、圧延ロール101,101通過後もしばらくの間は過冷却温度域内に保持された状態となっており、結晶化のための潜伏期間の経過が継続する。従って、クラッド板材45は、圧延ロール101,101からの排出後に速やかにガラス遷移温度Tg以下に冷却する必要がある。クラッド板材がそれほど厚くない場合は放冷等も可能であるが、ある程度厚さを有するクラッド板材の場合は、冷却ロール102,102(水冷式とすることもできる)の通過、あるいはファン103による送風等により強制冷却を行なって、潜伏期間の経過前にガラス遷移温度Tg以下とすることにより、結晶化を阻止する必要がある。
上記のようにして得られるクラッド板材45は、燃料電池用セパレータとしての剛性および耐久性確保のため、例えば厚さが0.04mm以上1mm以下、望ましくは0.05mm以上0.2mm以下とされる。2枚の単位板材45aの積層だけで該厚さが得られない場合は、図8に示すように、3枚以上の単位板材45aを積層してもよい。また、最終的な単位板材45aの積層枚数が多い場合、加工温度への一括加熱が難しい場合もある。そこで、図9に示すように、最終的な積層枚数よりも少ない枚数の単位板材45aに同様のクラッド工程(加熱圧延+冷却)を施して予備クラッド板材45pを作製し、この予備クラッド板材45pと別の単位板材45a(あるいは別の予備クラッド板材45p)とを積層する形でクラッド工程を繰り返し、クラッド板材の厚さを順次増加させる工程を採用することも可能である(この場合、繰り返されるクラッド工程がそれぞれ単位加工をなしているとみなせる)。
また、ロールクラッド工程を採用する代わりに、図10に示すように、適当な大きさにカットした単位板材45aを平置き状態で加圧装置のパンチ110,110間に配置し、例えばパンチ110,110に内蔵されたヒータ110hにより加熱しつつ両パンチ110,110間にて加圧してクラッド板材45を得るようにしてもよい。
上記クラッド板材45は、図4に示すように、予熱炉50により再び過冷却液体温度域内の加工温度に加熱し、必要に応じてカッター53にて切断した後、プレス用金型51,51を有したプレス装置へ移送して、温間プレス加工を行なう。プレス加工は以下のようにして行なう。まず、図5の工程1に示すように、転写すべき凹凸パターン51aを有するプレス用金型51,51の間に切断した薄帯45を配置する。そして、工程2に示すように、金型51,51を相対的に接近させ、薄帯45を両金型51,51間にて加圧する。材料は、過冷却液体温度域に加熱されることで粘性が低くなっており、該加圧により、金型の凹凸パターン51aに沿って容易に塑性流動し、凹凸パターンが転写される。そして、工程3に示すようにプレス用金型51,51を離間させればセパレータ10a(10b)が得られる。なお、急冷上がりの薄帯45の表面は、工程1に拡大して示すように、算術平均粗さRaにて1μmを超える程度に面荒れしていることもある。しかし、金型51のプレス面をRaにて1μm以下に平滑仕上げしておくと、過冷却液体温度域への加熱により塑性流動が極めて良好となった薄帯45の表面も金型表面に倣う形で平滑化し、工程3に拡大して示すように、セパレータ10a(10b)の表面を、算術平均粗さRaにて1μm以下に平滑に仕上げることができる。
なお、以上の実施形態は、燃料電池用セパレータを得るために、板材のプレス加工を行なう場合について例示したが、本発明の適用対象は燃料電池用セパレータに限られるものではない。図11は、板材の深絞り加工を行なう場合を例示している。すなわち、板材45を加工ダイス20の上に配置してヒータ122により加工部位を過冷却液体温度域に加熱する。そして、潜伏期間が経過する前に絞りパンチ121により板材45に、単位加工としての所定深さの絞り加工を行なうことにより凹部を形成する。次いでパンチ121を退避させ、ファン123により板材45をガラス遷移温度Tg以下に冷却することにより、潜伏期間を回復させる。そしてパンチ121により凹部の深さを増す形で絞り加工を追加し、再び冷却する。このように絞り加工と冷却とを繰り返すことにより、1ストロークの絞り加工では形成が困難な深い凹部を、板材のアモルファス状態を維持しつつ容易に行なうことができる。
1 燃料電池
2 第一電極層
3 高分子固体電解質膜
4 第二電極層
10a 第一セパレータ(アモルファス金属材料加工体)
10b 第二セパレータ(アモルファス金属材料加工体)
45a 単位板材
45 クラッド板材
101,101 圧延ロール
2 第一電極層
3 高分子固体電解質膜
4 第二電極層
10a 第一セパレータ(アモルファス金属材料加工体)
10b 第二セパレータ(アモルファス金属材料加工体)
45a 単位板材
45 クラッド板材
101,101 圧延ロール
Claims (9)
- 結晶化温度よりも低温側にガラス遷移温度を有したアモルファス金属材料に塑性加工を施してアモルファス金属材料加工体を得るために、
前記結晶化温度と前記ガラス遷移温度との間の過冷却液体温度域に設定される加工温度に前記アモルファス金属材料を保持し、当該加工温度における材料の結晶化潜伏期間内に収まる保持時間にて前記アモルファス金属材料に施す塑性加工又は接合加工を単位加工として、
前記アモルファス金属材料を前記加工温度に昇温して前記単位加工を行ない、該単位加工後の材料を結晶化開始前に前記ガラス遷移温度以下へ冷却する加工/冷却サイクルを複数回繰り返すことにより該材料の加工体を得ることを特徴とするアモルファス金属材料加工体の製造方法。 - 前記結晶化温度Tx(℃)と前記ガラス遷移温度Tg(℃)との差をΔT(≡Tx−Tg)(℃)として、前記加工温度をTg−0.2×ΔT(℃)以上Tg+0.6×ΔT(℃)以下に設定して前記単位加工を行なう請求項1記載のアモルファス金属材料加工体の製造方法。
- 第一の前記単位加工として、前記アモルファス金属材料の単位板材を複数枚積層して前記加工温度に昇温し、その状態でそれら単位板材を積層方向に加圧して互いに接合・一体化することにより前記単位板材よりも厚さの大きいクラッド板材を得るクラッド工程を行ない、
そのクラッド工程の後、第二の前記単位加工として、前記クラッド板材に板厚方向の塑性変形を伴う板材加工を行なうことにより、前記アモルファス金属材料加工体としての板状加工体を得る請求項1又は請求項2に記載のアモルファス金属材料加工体の製造方法。 - 前記板材加工は前記クラッド板材に凹部を形成するプレス加工又は深絞り加工である請求項3記載のアモルファス金属材料加工体の製造方法。
- 前記板状加工体は、燃料電池の高分子固体電解質膜を覆う電極層上に片側の板面が積層され、前記電極層との間にガス拡散層を形成する凹部が当該板面に形成されてなる燃料電池用金属セパレータである請求項4記載のアモルファス金属材料加工体の製造方法。
- 前記クラッド工程は、前記単位板材の積層体を圧延ロールの間で加熱しつつ圧延することにより前記クラッド板材を得るロールクラッド工程である請求項3ないし請求項5のいずれか1項に記載のアモルファス金属材料加工体の製造方法。
- 結晶化温度よりも低温側にガラス遷移温度を有したアモルファス金属材料に塑性加工を施して板状のアモルファス金属材料加工体を得るために、
前記アモルファス金属材料の単位板材を複数枚積層し、前記結晶化温度と前記ガラス遷移温度との間の過冷却液体温度域に設定される加工温度に保持し、当該加工温度における材料の結晶化潜伏期間内にて、それら単位板材の積層体を圧延ロールの間で加熱しつつ圧延することにより積層方向に一体化することにより、前記板状のアモルファス金属材料加工体を、前記単位板材よりも厚さの大きいクラッド板材として得るクラッド工程を含むことを特徴とするアモルファス金属材料加工体の製造方法。 - 前記クラッド工程において前記圧延ロールを加熱し、前記単位板材の積層体を、該加熱された圧延ロールとの接触により前記加工温度に昇温する請求項6叉は請求項7に記載のアモルファス金属材料加工体の製造方法。
- 前記単位板材は、厚さ0.1mm未満の急冷薄帯である請求項3ないし請求項8のいずれか1項に記載のアモルファス金属材料加工体の製造方法。
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