JP2007066817A - 固体高分子型燃料電池用セパレータ及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract


【課題】高強度、高耐食性、優れた超塑性、低コストで優れた性能を兼備する燃料電池用
セパレータ及びその製造方法の提供。
【解決手段】セパレータの材料が、組成式(Ni1−xZrNbTi(60原
子%≦a≦70原子%、5原子%≦b≦20原子%、15原子%≦c≦30原子%、0≦x
≦0.17)で表される組成からなり、厚さが0.02〜0.5mmの金属ガラス板材か
らなるとともに、その表面に金属ガラス中の成分元素の酸化物及び/又は窒化物からなる
膜を有し、金属ガラス板材の一部がガス流路となるように過冷却液体領域におけるプレス
成形により凹凸形状を設けてあることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【選択図】 図1

Description

本発明は、固体高分子型燃料電池に用いる金属製セパレータ及びその製造方法に関する
固体高分子型燃料電池は固体高分子電解質膜を利用するものであり、低温動作及び小型
化が可能であり、種々の用途への検討がなされている。固体高分子型燃料電池は、高分子
固体電解質膜を一対の電極層により挟んで単電池を形成するとともに、該電極層の表面に
水素ガス等の燃料ガス又は酸素ガスや空気等の酸化剤ガスの拡散層を形成するためのセパ
レータを積層配置するのが一般的である。
図1に、固体高分子型燃料電池の基本構造の一例を示す。図1に例示する固体高分子型
燃料電池は単電池セル(4)の両側にセパレータ(5a、5b)が配置され、片側のセパ
レータには、電池温度を制御するための水冷板(6)が一体化された基本構造を有する。
単電池セルは、厚さ0.1〜0.2mmの電解質膜(2)の両面に電極(1、3)を接合
したものである。電解質としては、一般にNAFION(登録商標)に代表されるフッ素系電解
質膜が用いられている。そして、図1に示す基本構造を積層化して、電極とセパレータを
接触させることにより、固体高分子型燃料電池が構成される。
固体高分子型燃料電池のセパレータには、上記のように電池を積層化する機能に加え、
反応ガスを電極に効率よく供給し、なおかつ効率的に電解質膜を加湿と除湿する機能が必
要である。
従来、固体高分子型燃料電池に用いるセパレータとしては、炭素材料、又は金属材料が
用いられている。しかし、炭素材料のセパレータは、熱硬化性樹脂とカーボン粉末を混合
して焼成した後、水素ガス及び酸素ガスの通路を形成するための微細加工を施したものが
主に使用されていたが、カーボン製のセパレータは製造コストが高い、電気抵抗が高い、
強度が弱く脆いために薄肉化ができずに燃料電池を小型化することができないなど種々の
問題を抱えていた。
他方、金属材料としては、薄い金属板をプレス加工して両面にガス供給溝をつける方法
が試みられている。しかし、プレス加工による残留応力により全体的にそりやうねりが生
じ、燃料電池の長期運転が困難であるという問題がある。さらに、セパレータから微量溶
出する金属イオンが電解質膜を汚染して水素イオン伝導率が著しく低下する問題も有して
いた。また、ステンレス鋼板に金めっき処理したものや、鉄、銅などの表面に耐食性の高
い特殊金属を形成したクラッド板などが提案されているがコストが高くなるため実用化す
ることができない。
セパレータに必要な特性として、耐食性、酸化還元雰囲気における安定性、電子伝導性
、気密性、機械的強度、低コストであることが挙げられる。これらの問題を解決する手段
として、耐食性に優れ加工性に優れたNi基アモルファス金属材料からなる燃料電池用セパ
レータがある(特許文献1、2)。
本発明者等はこれまでに、「過冷却液体領域を有するアモルファス金属」と定義される
「金属ガラス」を多種類開発してきたが、特許文献2に例示されるNi基アモルファス合金
もその一つであり、高強度・高耐食性を有している(特許文献3)。本発明者等は、特許
文献2に開示されているNi基金属ガラス板材から燃料電池用セパレータの作製を試みたと
ころ、元の材料となるNi基金属ガラスは薄板状では耐食性が高いことが確認できたが、開
示されている方法に従い燃料電池用セパレータを作製して、濃硫酸中で耐食性試験を行な
ったところ孔食が一部で確認され、セパレータとして使用するに当たっては信頼性に欠け
ることが判明した。孔食が生じた原因は不明であるが、プレス前の板材に微小な結晶が微
量ある場合に、その部分より孔食が進むものと考えられた。
このような微小な結晶を皆無にするためには、Ni基金属ガラス板材の作製時において溶
湯から固化までの鋳造材の冷却速度を向上させた方法、すなわち厚みが薄い板材を作製す
ることが必要になる。特許文献2(特開2004−273314号公報)記載の発明を改
良した発明として、薄い金属ガラス板材を積層して燃料電池用セパレータを作製する方法
がある(特許文献4)。特許文献4には、「従来、急冷法による直接製造が困難であった
厚板状のアモルファス金属部材(具体的には、厚さ0.05mm以上、特に0.1mm以
上)も容易に製造できるようになる。」と記載されている通りに、結晶等を一切含まない
0.05mm以上の厚さの金属ガラスを直接鋳造することは困難であったのである。金属
ガラスは、その溶湯を金型内に充填し過冷却液体状態に保持して所定の形状に成形できる
(特許文献5)。このような手段を用いてセパレータ状のモールドキャビティを有するモ
ールドに金属ガラス溶湯を注入してセパレータを製造する方法が知られている(特許文献
6)が、この方法はプレス法に比べて面積の大きい形状の部材の作製が難しい。
アモルファス金属の耐食性を向上させる方法としては、CrやNb等の耐食性を向上させる
元素を添加することによる方法が種々開示されているが、その他の方法として、酸化物を
表面に析出させる方法が、知られている(特許文献7)。しかし、本発明者等は、この特
許文献7の開示に従い耐食性非晶質合金を製作したところ、表面の抵抗が高いために燃料
電池用セパレータとして用いることはできなかった。
特開2004−232070号公報 特開2004−273314号公報 特開2000−345309号公報 特開2005−93391号公報 特開平11−323454号公報 特開2005−685519号公報 特公昭61−55590号公報
そこで、本発明は、高強度、高耐食性、優れた超塑性、低コストで優れた性能を兼備す
る燃料電池用セパレータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、金属ガラスの研究過程において、ある特定の金属ガラスが耐食性に優れ
ていることや、過冷却液体温度域による超塑性が出現することにより容易な加工が可能で
あることをこれまで見出してきた。さらに、本発明者等は、固体高分子型燃料電池のセパ
レータとして必要な特性を具備する金属ガラスを鋭意検討した結果、耐食性に優れ、かつ
過冷却液体温度域における超塑性加工が可能で、長時間安定した高い導電性を有する金属
ガラスを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記のものからなる。
(1)セパレータの材料が、組成式(Ni1−xZrNbTi(60原子%≦
a≦70原子%、5原子%≦b≦20原子%、15原子%≦c≦30原子%、0≦x≦0.
17)で表される組成からなり、厚さが0.02〜0.5mmの金属ガラス板材からなる
とともに、その表面に金属ガラス中の成分元素の酸化物及び/又は窒化物からなる膜を有
し、金属ガラス板材の一部がガス流路となるように凹凸形状を設けてあることを特徴とす
る固体高分子型燃料電池用セパレータ。
(2)酸化膜及び/又は窒化膜物の厚さが0.003〜0.1μmであることを特徴とす
る上記(1)の固体高分子型燃料電池セパレータ。
(3)表面の色彩がJIS Z8729に規定される三属性による色の表示により明度V>8及び
彩度C<3であることを特徴とする上記(1)又は(2)の高分子型燃料電池セパレータ
(4)組成式(Ni1−xZrNbTi(60原子%≦a≦70原子%、5原
子%≦b≦20原子%、15原子%≦c≦30原子%、0≦x≦0.17)で表される組成
からなり、厚さが0.02〜0.5mmの金属ガラス板材をガラス遷移温度〜結晶化温度
の過冷却液体領域に加熱した状態でプレス加工してガス流路となる凹凸を形成し、次いで
凹凸を形成した表面に酸化物及び/又は窒化物の膜を形成することを特徴とする上記(1
)、(2)又は(3)の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。
(5)ガラス遷移温度よりも20K低い温度以上、ガラス遷移温度未満の温度に加熱した
状態でプレス加工を開始することを特徴とする上記(4)の固体高分子型燃料電池用セパ
レータの製造方法。
本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータを構成する金属ガラスは、組成式 (Ni
1−xZrNbTi(60原子%≦a≦70原子%、5原子%≦b≦20原子
%、15原子%≦c≦30原子%、0≦x≦0.17)で表される組成からなる。
Niが60原子%以上70原子%以下の範囲である組成、又はNi及びZrの含有量の合計が
60原子%以上70原子%以下であり、Zr/(Ni+Zr)の比が0.17以下の範囲でNiの一部
をZrで置換した組成である必要がある。Zr及びNiの含有量がこれらの範囲から逸脱してい
ると、耐食性が低く、燃料電池の運転中に構成元素が溶出してしまう。また、Ni及びZrの
含有量はNiが62以上68原子%以下の範囲である組成又はNiが58原子%以上62原子
%以下かつZrが8原子%以上12原子%以下である組成が望ましい。
また、Nbは本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータを構成する金属ガラスの耐食性
を高める元素であり、5原子%以上20原子%以下含有されている必要があり、好ましく
は5原子%以上15原子%以下である。さらに、Tiは本発明を構成する金属ガラスのガラ
ス形成能を高める元素であり、15原子%以上30原子%以下含有している必要がある。
本発明においては、上記金属ガラスの板厚は0.02mm以上0.5mm以下でなけれ
ばならず、好ましくは0.03mm以上0.2mm以下であり、さらに好ましくは0.1
mm以下である。0.02mm未満であると金属ガラス板材を製造した際にピンホールを
生じやすく実用に供することができない。また、0.5mmを越えると金属ガラスを製造
するときに冷却速度が低くなるために結晶を含有する場合が多くなり脆くなる傾向にある
とともに、燃料電池用セパレータとして用いた場合、結晶を含む部分から孔食と同様な腐
食が進行してしまうために燃料電池用セパレータとして供することが困難になる。
また、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータは、その表面に金属ガラス中の成分
元素の酸化物及び/又は窒化物からなる膜を有することを特徴としている。膜は基板とな
る金属ガラスに強固に付着している必要がある。膜の密着性については、セパレータ形状
では評価が困難であるが、ワイプ等での拭取りや超音波洗浄において剥離するような膜で
あってはならない。膜の成形条件は、金属ガラス板に膜を形成し、3点曲げ試験により表
面の最大歪みが1%以上でも亀裂が生じない膜の成形条件で成膜したものでなければなら
ない。
さらに、本発明は、燃料電池用セパレータの形状として、金属ガラスの板材の一部がガ
ス流路となるように凹凸形状を設けてあることを特徴としている。ガスがスムーズに流れ
るように種々の形状を用いることができる。好ましい形状は、深さ0.5mm以上1mm
以下の凹凸を有する形状であり、集電性やガスの流れに応じて種々の凹凸形状を取り得る
本発明の第2の発明は、上記の金属ガラスの組成、金属ガラスの厚さ及び表面に酸化物
及び/又は窒化物を有することに加えて、酸化物及び/又は窒化物の膜の厚さを規定する
ものである。酸化物及び/又は窒化物の膜の厚さは0.003〜0.1μmであり、好ま
しくは0.004〜0.05μm、より好ましくは0.005〜0.02μmである。こ
の範囲内であれば内部抵抗を変化させずに耐腐食性も向上させることができる。酸化物及
び/又は窒化物の膜の厚さが0.1μmを超えると、膜の電気抵抗が高くなるため燃料電
池用セパレータとして用いた場合、大きな電流で発電することができなくなる問題を生じ
る。また、酸化物の厚さが0.003μm未満であると、膜を形成していない金属ガラス
板材と比べて顕著な耐食性の向上が見られず、微量の結晶等が金属ガラスに生じていた場
合には孔食と同様な腐食を生じ燃料電池用セパレータとして供することができない。
酸化物及び/又は窒化物の膜厚の測定は種々の方法を用いることができるが、超音波に
よる方法が望ましい。また、本発明のNi及び/又はZrを主成分とする金属ガラスの場合、
その膜は薄青色の着色が見られることで判断できる。黒色の着色が見られた場合、膜厚は
0.1μmを越えており、本発明に好適な酸化物の厚さではない。急速凝固したままの状
態では酸化膜は形成されない。また、空気中でプレス成形を行なっただけの場合や十分に
酸化膜を生成させた後にプレス成形を行なった場合は、酸化膜に亀裂が入り耐蝕性が急激
に低下する。
さらに、本発明の第3の発明は、上記の金属ガラスの組成、金属ガラスの厚さ及び表面
に酸化物及び/又は窒化物の膜を有することに加えて、酸化物及び/又は窒化物の膜が形
成されることで生じる表面の色を規定するものである。表面の色は、JIS Z8729に規定さ
れる三属性による色の表示により明度V>8及び彩度C<3であることを特徴とする。好ま
しくは、色彩HがPB、B、BG、Gの場合、V>8及びC<3であり、色彩Hがそれ以外の場合
、V≧9及びC≦1である色であり、さらに好ましくは、色彩HがPB、B、BG、Gの場合、V
≧9及びC≦2である。
酸化物及び/又は窒化物の膜の厚さが厚くなるとその表面は金属光沢の白色から明度が
低下することに基づいて第3の発明の構成を規定している。色相については、その酸化物
及び/又は窒化物の膜の厚さと形態により種々の色彩があり得るが、いずれも彩度Cは3
未満の低い値をとる。本発明を実施するに当たり、各々のセパレータの酸化膜の厚さを計
測することは行なわず、表面に生じた酸化膜の色彩により判断することが容易であり、実
際の酸化処理の判断をするために第3の発明は有益である。
また、本発明の第4の発明は、固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法であり、
第1、第2及び第3の発明を実施する良好な方法である。第4の発明は、厚さが0.02
〜0.5mmの金属ガラス板材を作製し、該金属ガラス板材をガラス遷移温度〜結晶化温
度の過冷却液体領域に加熱した状態でプレス加工して、ガス流路となる凹凸を形成し、次
いで凹凸を形成した表面に酸化物及び/又は窒化物の膜を形成することを特徴とする第1
の発明の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法である。
第4の発明においては、金属ガラス板材は燃料電池用セパレータの最終形状に近い厚み
の板材を用いることが望ましい。Ni及び/又はZrを主成分とする金属ガラスは強度が高く
2000MPa以上の強度を有するため、強度的に従来のセパレータに比べて薄くするこ
とが可能である。そのため、本発明のセパレータの好ましい厚さは、0.02mm以上0
.5mm以下である。このセパレータの好ましい厚さを得るために、加工前厚さの好まし
い範囲は0.03mm以上0.5mm以下であり、さらに好ましくは0.04mm以上0
.1mm以下である。加工前の金属ガラスの板材が所望する燃料電池用セパレータの厚さ
より薄い場合は、薄い板材を積層させることによっても厚い板材とすることができる。積
層した場合においても、本発明のプレス方法によれば積層した板材同士が強固に密着する
ために一枚の板材としてみなすことができる。
金属ガラスを加熱する温度は、ガラス遷移温度〜結晶化温度未満である。ガラス遷移温
度よりも低い温度であると本発明を構成する金属ガラスは容易に加工ができないため、凹
凸形状を得ることが困難であり、無理に強力な圧力でプレスを行なうと板材が破断するこ
とや、金型の破壊を起こす。また、結晶化温度以上では金属ガラスが脆化するため実用に
供せない。望ましいプレス加工は、ガラス遷移温度よりも20K低い温度まで急速に加熱
すると同時にプレス加工を低圧力で開始し、低い昇温速度で昇温を続け、ガラス遷移温度
+30Kの過冷却液体領域で一定温度として加工を続け、所定の形状を形成した後冷却す
る方法である。金属ガラス合金は、過冷却液体領域に温度制御していても、過冷却液体領
域で長時間保持していると結晶化することがあるので、ガラス遷移温度まで温度を上げて
からプレスを開始すると結晶化するまでの時間が短くなり、プレス途中で結晶化してしま
う場合がある。ガラス遷移温度よりも20K低い温度程度から軟化が始まっておりプレス
加工しても破断したりすることを防ぐことができる。
ガラス遷移温度よりも20K低い温度まで急速に加熱する速度は、その加熱装置によっ
て異なるが、所定温度に加熱した炉中に試料を投入する方法が良好な方法であり、赤外集
光炉、1kHz以上の周波数で発振する高周波誘導加熱炉、又はレーザー加熱などにより急
速に加熱することも望ましい方法である。また、ガラス遷移温度までの昇温速度が10K
/minより低い場合、金属ガラス板はプレス加工中に結晶化のために脆化する傾向にあ
るので望ましくない。プレス加工の圧力は高いほど望ましいが、金型の耐久性から1から
10MPaの面圧力で加圧するのが通常である。
さらに、本発明の製造方法においては、酸化物及び/又は窒化物からなる膜を形成する
工程を付与することが必要である。酸化物膜及び/又は窒化物膜を形成する工程は種々の
方法を用いることができ、例えば、酸素及び/又は窒素含有雰囲気中での加熱処理、反応
性スパッタ法、レーザー照射などを用いることができる。望ましい方法は空気中で熱処理
する方法であり、プレス成形した金属ガラスを酸素含有雰囲気中において200〜400
℃で5〜100min加熱する方法が好ましく、さらに好ましくは、空気中において25
0〜350℃で10〜50min加熱する方法が好ましい。
プレス成形した金属ガラスを空気中で加熱する場合は、形成される膜は酸化物となる。
加熱する温度が200℃未満であると酸化物からなる膜の形成が顕著ではない。窒素を流
しながら加熱すると酸化物及び窒化物からなる膜が生成する。また350℃以上であると
膜の厚さが急激に増加し、本発明で規定する膜厚以内にすることが困難になる。加熱処理
の時間は、加工する板材の組成などにより異なるが、板材が結晶化するまで時間を延長し
てはならない。
本発明の第4の発明は、ガラス遷移温度〜結晶化温度未満の温度範囲でプレスにより燃
料電池用セパレータの形状に加工しているが、金型鋳造法によって燃料電池用セパレータ
に近い形状を作製した後に、精密な成形を本発明の方法と同様に行なうことによって、本
発明のセパレータを得ることができる。
さらに、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータは、酸化処理を施していないNi基
金属ガラス製のセパレータに比較し水との濡れ性が高く親水性が高い傾向がある。これは
、親水性を目視により判断したものであり、表面に酸化物形成処理を行なった板材と未処
理の板材の上に水を散布して手の指で押し広げると、酸化物形成処理を行なっていない金
属ガラスは水が球状に再凝集するが、酸化物形成処理を行なったNi基金属ガラスは押し広
げた状態となっていることにより、親水性の傾向を判断した。親水性が高い傾向は、燃料
電池のセパレータにおいて、電力の発生とともに生じる排出させる水が水滴になり流路を
閉塞する液詰まりを防止する効果があり、これにより燃料電池の電圧のふらつきを減少す
ることが可能である。
以上のように、本発明によれば、従来のカーボン板で複雑な工程により作製するセパレ
ータに比べて、特定の組成の金属ガラスをプレスし酸化処理をするのみでセパレータを製
造することが可能であり、量産時に大幅なコスト削減が図れる。また、セパレータ板を薄
くすることができるので、積層燃料電池のコンパクト化に寄与する。さらに、酸化物膜及
び/又は窒化物膜形成処理により低い内部抵抗を維持して金属ガラスの耐食性がさらに向
上するためにセパレータの耐久性が向上し、またセパレータ表面の親水性が高くなり、こ
れらの結果、長時間安定した燃料電池の運転が可能になる。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、セパレータ5a、5bの例を示すものである。図1(a)に示すように、セパ
レータ5a,5bは板状に成形され、その主表面に凹凸が形成され、凸部8の先端側が電
極1,3に接触する形態になっている。他方、凹部7は電極層1,3との間にガス流通路
を兼ねたガス拡散層を形成する。本実施形態では、セパレータ5a、5bの両面に凹凸が
ある形態が望ましく、セパレータ5a、5bの剛性と集電性能を考慮して図1(b)に示
すように、凹部7、凸部8を波型にするなどの種々の形状を取りうる。
本実施形態において、セパレータ5a,5bに用いる金属ガラス板材は、結晶化せずに
加工する時間を多くとるために、結晶化温度とガラス遷移温度との差で表される過冷却液
体領域の幅が30K以上のものを用いることが好ましい。より好ましくは、50K以上で
ある。
以下、本発明の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法について説明する。図2
は、プレス成形機を用いて本発明の金属ガラス製の固体高分子型燃料電池用セパレータを
製造する工程を示す概念図である。
本発明に従い製造を行なう被加工材であるセパレータの金属ガラス板材11は、所定組
成を有する金属ガラスからなる板材である。金属ガラス板材は従来公知の単ロール法、双
ロール法、射出成形法、溶湯加圧鍛造法などいずれの方法で作製したものでも構わないが
、ピンホールや光学顕微鏡で確認できるような欠陥があってはならない。ただし、金属ガ
ラス粉末から成形により作製する方法は、粉末間の微小な亀裂を含有する可能性が高く、
本発明の酸化物膜及び/又は窒化物膜を形成する方法を用いても耐蝕性を向上させること
が困難になるために望ましくない。
雰囲気調整ができるチャンバー13を備えた加熱炉12において、上記金属ガラス板1
1をホルダー18上に設置する。チャンバー13を真空引きし高純度Ar等の不活性ガスを
導入する(工程1)。
不活性雰囲気にした後に加熱炉12にホルダー18に設置した金属ガラス板材11を移
動させて、金属ガラス板材11をガラス遷移温度よりも50K低い温度を越えない温度ま
で急速に加熱し、金属ガラス板材11の予熱を行なう(工程2)。
次に、周囲の雰囲気を制御可能としたプレスチャンバーP内にホルダー18を用いて金
属ガラス板材11を移動し、凹凸パターン17を有するプレス用金型15a、15bの間
に配置する(工程3)。
プレス用金型15a、15bは、ヒーター16によりガラス遷移温度よりも20K低い
温度以上から結晶化温度未満の温度に予熱されており、金型15a、15bの接近により
金属ガラス板材11は所定の温度まで上昇する。金属ガラス板材11が所定の温度まで上
昇したら両金型間にて加圧する(工程4)。
金属ガラス板材11は、過冷却液体温度域に加熱されることで粘性が低下しており、該
加圧により、金型15a、15bの凹凸パターンに沿って容易に塑性流動を生じ金型15
a、15bの凹凸パターンが金属ガラス板材11に転写される。そして、プレス用金型1
5a、15bを離間させた後に、金属ガラス板材11が400℃以下になるまで冷却を行
ない、次に空気をプレスチャンバー内に導入し、プレス成形した金属ガラス板材11の表
面に酸化物及び/又は窒化物の膜を形成させる(工程5)。
酸化物及び/又は窒化物の膜の形成中の温度は、加熱されている金型15a、15bか
らの熱流を用いて金型15a、15bと金属ガラス板材11との距離によりコントロール
を行なう。酸化物及び/又は窒化物の膜の形成が所定時間で終了した後に、プレス用金型
15a、15bを金属ガラス板材11より遠方に離脱し、圧縮ガスをプレスチャンバーP
内に導入することにより金属ガラス板材11の冷却を行い、プレスチャンバーPより凹凸
形状に成形され酸化物及び/又は窒化物の膜が成膜された燃料電池用セパレータを取り出
す。
本発明で用いるプレス用金型15a,15bの材料は高温硬度の高い材料であれば種々
の材料が用いられるが、黒鉛、石英ガラス、SKDなどの工具鋼、ベリリウム銅やクロム
銅を好適に用いることができる。金属ガラスの熱間成形において、赤外線やレーザー等を
加熱源として用いた場合は、石英ガラスのプレス型を用いることにより、容易に加熱・冷
却をすることが可能である。
以下、実施例に基づき本発明の例を示す。
Ni65Nb5Ti30(原子%)の合金溶湯を単ロール急冷装置により急冷凝固して厚み0.0
4mmの金属ガラス板材を作製した。プレス条件を決定するために示差走査熱量計により
ガラス遷移温度及び結晶化温度を測定したところ、測定時の昇温速度は40K/minで
あるときにガラス遷移温度は818K、結晶化温度は863Kであった。次に、この金属
ガラス板材をJIS引張り試験片14B号の形状と50mmの正方形に切り出した。引張試
験片については空気中の加熱処理のみを行ない、正方形の板材については成形装置により
プレス成形を行なった。
本プレス成形装置の基本的な構成は、図2と同様な構成である。本装置に深さ0.8m
m、幅1mm、長さ30mmの凸条を1mm間隔で具備した一対の金型を装着してガス流
路となる凹凸形状を形成させることとした。金属ガラス板材を予熱炉で853Kまで昇温
した後、プレスチャンバー内に移動し、10MPaの圧力でプレスを開始し、加圧を続け
たまま923Kまで昇温を続け、5分保持後にプレス金型を20mmずつ中心より後退さ
せ、653Kになった時点で空気をプレスチャンバー内に導入し金属ガラス板材の表面に
酸化物の膜を形成する処理を5分間行なった。5分後に金型を最大限に後退させ圧縮空気
による冷却を行い、凹凸形状に成形した金属ガラス板材を装置から取り出した。これによ
り金型の凹凸形状を正確に転写した燃料電池用セパレータが得られた。
作製した燃料電池用セパレータの酸化膜の厚さは0.05μmであり、表面の色をマン
セルの色見本と照らし合わせたところ、色彩H=5B、V=9、C=1(5B9/1)で
あった。また、セパレータにはソリやうねりなどの形状異常は目視では観察されず、溝の
深さ寸法は0.8mmの0.01mm以内の精度であり、良好な形状転写性を有していた
。作製した燃料電池用セパレータについて12時間の硫酸沸騰腐食試験と発電性能評価を
行なった。作製したセパレータを標準セルに入れて単セルを組み立てて、I−V特性から
内部抵抗を測定した。硫酸沸騰腐食試験によって測定した腐食速度及び孔食の有無の結果
及び内部抵抗の値及び引張試験の結果を表1に示す。
Ni60Nb15Ti15Zr10(原子%)合金溶湯を単ロール急冷装置により急冷凝固して厚み0.
08mmの金属ガラス板材を作製し、実施例1と同一の条件を用いてプレスと成膜を行い
燃料電池用セパレータに加工した。作製した燃料電池用セパレータの酸化膜の厚さは0.
05μmであり、表面の色は色彩H=5B、V=9、C=1(5B9/1)であった。実
施例2においても、実施例1と同様に試験を行なった。試験の結果を表1に示す。
比較例1
比較例として、Ni65Nb5Ti30(原子%)の厚み0.04mmの金属ガラス板材を作製し
、実施例1と同一の条件を用いてプレスを行い、成膜を行なわずに酸化膜のない燃料電池
用セパレータを作製した。作製した燃料電池用セパレータは超音波式膜厚計では測定限界
以下で膜の存在は確認できなかった。また色彩はなく完全な鏡面光沢で色の判定はできな
かった。比較例1においても、実施例1と同様に試験を行なった。試験の結果を表1に示
す。
比較例2
SUS316Lステンレス鋼を冷間プレスした燃料電池セパレータについても、実施例
1と同様に試験を行なった。結果を表1に示す。
実施例1、2及び比較例1、2で得られた試料について、硫酸沸騰腐食試験を行なった
。さらに実施例1と比較例2、3で作製したセパレータについて、発電性能評価を行なっ
た。作製したセパレータを標準セルに入れて単セルを組み立てて、I−V特性から内部抵
抗を測定した。硫酸沸騰腐食試験によって測定した腐食速度及び孔食の有無の結果及び内
部抵抗の値を表1に示す。
Figure 2007066817
また、本発明において酸化膜を有しない比較例1のセパレータと比べると、耐腐食性に
も優れており、内部抵抗も同等の値を示しており、酸化物の膜の形成が本発明の範囲内で
あれば内部抵抗を変化させずに耐腐食性も向上させることができることが判明した。
燃料電池のセパレータユニットの概略側面図である。 本発明の燃料電池のセパレータの製造工程を示す概念図である。

Claims (5)

  1. セパレータの材料が、組成式(Ni1−xZrNbTi(60原子%≦a≦7
    0原子%、5原子%≦b≦20原子%、15原子%≦c≦30原子%、0≦x≦0.17)
    で表される組成からなり、厚さが0.02〜0.5mmの金属ガラス板材からなるととも
    に、その表面に金属ガラス中の成分元素の酸化物及び/又は窒化物からなる膜を有し、金
    属ガラス板材の一部がガス流路となるように過冷却液体領域におけるプレス成形により凹
    凸形状を設けてあることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ。
  2. 酸化膜及び/又は窒化膜物の厚さが0.003〜0.1μmであることを特徴とする請求
    項1の固体高分子型燃料電池セパレータ。
  3. 表面の色彩がJIS Z8729に規定される三属性による色の表示により明度V>8及び彩度C<
    3であることを特徴とする請求項1又は2記載の固体高分子型燃料電池セパレータ。
  4. 厚さが0.02〜0.5mmの金属ガラス板材を作製し、該金属ガラス板材をガラス遷移
    温度〜結晶化温度の過冷却液体領域に加熱した状態でプレス加工して、ガス流路となる凹
    凸を形成し、次いで凹凸を形成した表面に酸化物及び/又は窒化物の膜を形成することを
    特徴とする請求項1記載の固体高分子型燃料電池用セパレータの製造方法。
  5. ガラス遷移温度よりも20K低い温度以上、ガラス遷移温度未満の温度に加熱した状態で
    プレス加工を開始することを特徴とする請求項4記載の固体高分子型燃料電池用セパレー
    タの製造方法。
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