JP2005074629A - 平版印刷版用支持体 - Google Patents
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Abstract
【課題】機上現像タイプとして用いる場合には、良好な機上現像性を有し、感度が高く、高耐刷性を示し、印刷の際の汚れにくさが良好であり、従来のサーマルポジタイプやサーマルネガタイプとして用いる場合には、熱を効率よく画像形成に利用することができ、感度が高く、高耐刷性を示し、非画像部の汚れが生じにくい感熱性の平版印刷版原版とそれに用いる平版印刷版用支持体を提供する。
【解決手段】粗面化処理および陽極酸化処理された金属基体に、下記1)および2)の処理をこの順序で、または2)、1)の順序で、または2)、1)、2)の順で行い、
1)ポリビニルホスホン酸を含む水溶液で処理、
2)ケイ酸化合物を含有する水溶液で処理、
その上に、酸基を含有する高分子化合物を有する平版印刷版用支持体。
【選択図】なし
【解決手段】粗面化処理および陽極酸化処理された金属基体に、下記1)および2)の処理をこの順序で、または2)、1)の順序で、または2)、1)、2)の順で行い、
1)ポリビニルホスホン酸を含む水溶液で処理、
2)ケイ酸化合物を含有する水溶液で処理、
その上に、酸基を含有する高分子化合物を有する平版印刷版用支持体。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、平版印刷版用支持体および平版印刷版原版に関し、レーザ光を版面上に走査させ、文字原稿、画像原稿等を直接版面上に形成させ、フィルム原稿を用いず直接製版する、平版印刷版として、支持体上に、サーマルタイプの画像記録層を設けた平版印刷版原版およびそれに用いる平版印刷版用支持体に関する。また、現像不要のコンピュータ・ツウ・プレートシステム用に好適に用いられる感熱性平版印刷版原版、詳しくは、デジタル信号に基づいた赤外線走査露光による画像記録が可能であり、露光後に現像液を用いるなどの従来の現像工程を経ることなく、そのまま印刷機に装着して印刷することができる感熱性平版印刷版原版およびそれに用いられる平版印刷版用支持体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年進展が目覚ましいコンピュータ・ツウ・プレートシステム用平版印刷版原版については、多数の研究がなされている。その中で、より一層の工程合理化と廃液処理問題の解決とを目指すものとして、露光後、そのまま印刷機に装着して印刷することができる平版印刷版原版について、多数の研究がなされ、種々の提案がなされている。
有望な技術の一つとしては、親水性バインダーポリマー中に疎水性熱可塑性ポリマー粒子を分散させた親水層を画像形成感熱層とする感熱性平版印刷版原版が挙げられる。この平版印刷版原版は、感熱層に熱を加えると疎水性熱可塑性ポリマー粒子が融着し、親水性感熱層表面が親油性画像部に変換するという原理を利用している。
【0003】
このような疎水性熱可塑性ポリマー粒子の熱融着を利用する平版印刷版原版において、処理工程を少なくする方法の一つとして、露光後の平版印刷版原版を現像液で処理することなく印刷機のシリンダーに装着し、シリンダーを回転させながらインキおよび/または湿し水を供給することによって、平版印刷版原版の非画像部を除去する、機上現像と呼ばれる方法がある。この方法においては、平版印刷版原版を露光した後、そのまま印刷機に装着し、通常の印刷工程の中で現像処理が完了する。
このような機上現像に適した平版印刷版原版は、湿し水やインキ溶剤に可溶な感熱層を有し、しかも、明室に置かれた印刷機上で現像されるのに適した明室取り扱い性を有することが必要とされる。
【0004】
例えば、特許第2938397号明細書には、親水性バインダーポリマー中に熱可塑性疎水性重合体の微粒子を分散させた感熱層を親水性支持体上に設けた平版印刷版原版が記載されている。この特許明細書には、前記平版印刷版原版を赤外線レーザー露光して熱可塑性疎水性重合体の微粒子を熱により合体させて画像形成した後、印刷機シリンダー上に版を取り付け、インキおよび/または湿し水を供給することにより、機上現像できることが記載されている。
また、特開平9−127683号公報および国際公開第99/10186号パンフレットには、熱可塑性微粒子を熱により合体させた後、機上現像により平版印刷版を作製することが記載されている。
【0005】
しかしながら、このような熱による微粒子の合体で画像を形成する平版印刷版原版は、良好な機上現像性を示すものの、金属支持体に熱が逃げるため感度が低いという問題や、微粒子の合体が不十分である場合、感熱層の画像部の強度が弱くなるために、耐刷性が不十分となるという問題があった。
この対策としては、アルミニウム支持体と感熱層との間に水不溶性有機ポリマーを設ける方法が提案されているが(例えば、特許文献1)、感度は高くなるものの、汚れるという問題点があった。
【0006】
ところで、感熱層中に存在する赤外線吸収剤がその光熱変換作用を発現し露光により発熱し、その熱により感熱層の露光部分がアルカリ可溶化しポジ画像を形成するいわゆるサーマルタイプのポジ型平版印刷版原版や、その熱によりラジカル発生剤や酸発生剤がラジカルや酸を発生させ、それによりラジカル重合反応や酸架橋反応が進行して不溶化しネガ型画像を形成するサーマルタイプのネガ型平版印刷版原版などの、機上現像しない従来のサーマルタイプの平版印刷版原版においても、以下のような問題がある。
【0007】
即ち、このようなサーマルタイプの画像形成においては、レーザー光照射によって感熱層中で光熱変換物質により熱が発生してその熱が画像形成反応を引き起こすのであるが、粗面化され陽極酸化皮膜を形成されたアルミニウム支持体では、支持体の熱伝導率が感熱層に比べ極めて高いため、感熱層と支持体との界面付近で発生した熱は、画像形成に十分使用されないうちに支持体内部に拡散してしまい、その結果、感熱層と支持体との界面では次のようなことが起こる。
【0008】
まず、ポジ型感熱層においては、熱が支持体内部に拡散してアルカリ可溶化反応が不十分となると、本来の非画像部分に残膜が発生してしまうという低感度の問題があり、これはポジ型感熱層の本質的問題となっている。
また、このようなサーマルポジタイプの平版印刷版原版においては、光熱変換機能を有する赤外線吸収剤が必須であるが、これらは分子量が比較的大きいため溶解性が低く、また、陽極酸化により生じたミクロな開口部に吸着して除去しにくいため、アルカリ現像液による現像工程において、残膜が発生しやすいという問題もある。
【0009】
一方、ネガ型感熱層においては、熱が支持体内部に拡散して感熱層支持体界面付近での感熱層の現像液不溶化が不十分になると、本来画像部となるべき部分で画像が十分にできずに現像時に流れてしまったり、たとえ画像様に形成できたとしても印刷時に容易に画像がはく離してしまったりするという問題がある。
【0010】
これらの問題を解決すべく、感熱層で発生した熱がアルミニウム支持体に拡散することを抑制する観点から陽極酸化皮膜を有する支持体をポアワイドニング処理する試みがなされている。
ポアワイドニング処理により、感熱層支持体界面付近での感熱層の現像液不溶化が十分になるため、耐刷性および感度を向上できるものの、現像時に感熱層が残膜したり、印刷時に汚れが生じたりする問題点があった。
残膜・汚れを解消するために、陽極酸化皮膜のマイクロポアを封孔する試みが以前からなされている。封孔処理の方法としては、加圧水蒸気や熱水による処理、ケイ酸塩処理、重クロム酸塩水溶液処理、亜硝酸塩処理、酢酸アンモニウム塩処理、電着封孔処理、トリエタノールアミン処理、炭酸バリウム塩処理、極微量のリン酸塩を含有する熱水処理が提案されている。しかしながら、これらの方法では、耐汚れ性は向上するが、感度および耐刷性が劣化してしまうという問題があった。
【0011】
特許文献2には、Si原子付着量が0.1〜8mg/m2 であるアルミニウム支持体上にポジ型感光層を設けてなるポジ型感光性平版印刷版が記載され、アルミニウム支持体上にさらに、酸基を有する構成成分を有する高分子化合物を含有する中間層が設けられ、この中間層の上にポジ型感光層が設けられている平版印刷版が記載されている。
【0012】
特許文献3には、(a)金属性基質を準備し;(b)該基質の少なくとも1つの表面を粗面化し;(c)該基質の少なくとも1つの粗面化された表面に陽極酸化層を適用し;(d)該基質の少なくとも1つの粗面化され且つ陽極酸化された表面を、定電圧又は定電流を適用しながら、アクリル酸とビニルホスホン酸のコポリマーを含んでなる水溶液で処理する段階を含む平版印刷版支持体の製造法が記載されている。
【0013】
特許文献4には、下記式に示される関係を満たす表面を有するアルミニウム支持体上に感光層又は感熱層を設けた平版印刷版を、珪酸塩を含まない現像液で現像処理することを特徴とする平版印刷版の製造方法が記載されている:0. 05≦A/(A+B)≦0. 70(式中、AはX線光電子分光法を用いて測定して得られたリン(2P)のピーク面積(counts・eV/sec)を表し、BはX線光電子分光法を用いて測定して得られたアルミニウム(2P)のピーク面積(counts・eV/sec)を表す)。
【0014】
しかしながら、これらの方法では、耐汚れ性、耐放置汚れ性(インキ払い性)、感度および耐刷性のいずれかが向上すると、他が劣化してしまうという問題があり、高度な要求を満たすものは得られていなかった。
【0015】
【特許文献1】
特開2000−23983号公報
【特許文献2】
特開平11−109637号公報
【特許文献3】
特開2000−141938号公報
【特許文献4】
特開2002−099093号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した先行技術の欠点を克服した感熱性平版印刷版原版およびそれに好適に用いられる平版印刷版用支持体を提供することを目的とする。即ち、機上現像タイプとして用いる場合には、良好な機上現像性を有し、感度が高く、高耐刷性を示し、印刷の際の汚れにくさが良好であり、耐放置汚れ性(インキ払い性)が良好であり、従来のサーマルポジタイプやサーマルネガタイプとして用いる場合には、熱を効率よく画像形成に利用することができ、感度が高く、高耐刷性を示し、非画像部の汚れが生じにくい感熱性の平版印刷版原版およびそれに好適に用いられる平版印刷版用支持体を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、鋭意検討の結果、粗面化処理および陽極酸化処理を施された金属基体を、特定の水溶液で処理した後、酸基を含有する高分子化合物を設けてなる平版印刷版用支持体に、赤外線レーザー露光により書き込み可能な記録層を設けることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
即ち、本発明は、粗面化処理および陽極酸化処理された金属基体に、下記1)および2)の処理をこの順序で、または2)、1)の順序で、または2)、1)、2)の順で行い、
1)ポリビニルホスホン酸を含む水溶液で処理、
2)ケイ酸化合物を含有する水溶液で処理、
その上に、酸基を含有する高分子化合物を設けてなる平版印刷版用支持体を提供する。
【0019】
平版印刷版用支持体は、下記式(1)を満たす金属基体表面に、酸基を含有する高分子化合物を設けてなるのが好ましい。
0.05≦(A+B)/(A+B+C)≦0.70 (1)
A:X線光電子分光法を用いて測定して得られるフッ素(1S)のピーク面積(counts・eV/sec)
B:X線光電子分光法を用いて測定して得られるケイ素(2P)のピーク面積(counts・eV/sec)
C:X線光電子分光法を用いて測定して得られたアルミニウム(2P)のピーク面積(counts・eV/sec)
【0020】
また、本発明は、前記平版印刷版用支持体上に、赤外線レーザー露光により書き込み可能な記録層を設けてなる平版印刷版原版を提供する。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
[平版印刷版用支持体]
<金属基体>
本発明の平版印刷版用支持体に用いられる金属基体は、特に限定されず、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウムが挙げられる。中でも、アルミニウムが好ましい。
アルミニウム基体として用いられるアルミニウム板は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属であり、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。 純アルミニウム板のほか、アルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金板や、アルミニウムまたはアルミニウム合金がラミネートされまたは蒸着されたプラスチックフィルムまたは紙を用いることもできる。更に、特公昭48−18327号公報に記載されているようなポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウムシートが結合された複合体シートを用いることもできる。
【0022】
本発明に用いられるアルミニウム板は、特に限定されないが、純アルミニウム板を用いるのが好適である。完全に純粋なアルミニウムは精練技術上、製造が困難であるので、わずかに異元素を含有するものを用いてもよい。例えば、アルミニウムハンドブック第4版(軽金属協会(1990))に記載の公知の素材のもの、具体的には、JIS1050材、JIS1100材、JIS3003材、JIS3103材、JIS3005材等を用いることができる。具体例では、Si:0.07〜0.09質量%、Fe:0.20〜0.40質量%、Cu:0.000質量%〜0.15質量%、、Mn:0.01質量%以下、Mg:0.01質量%以下、Cr:0.01質量%以下、Zn:0.01質量%以下、Ti:0.04質量%以下、Al:99.5質量%以上であるアルミニウム板である。
【0023】
また、別の例として、アルミニウム(Al)の含有率が99.4〜95質量%であって、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、およびチタン(Ti)のうち少なくとも5種以上を後述する範囲内で含む、アルミニウム合金、スクラップアルミ材または二次地金を使用したアルミニウム板を使用することもできる。
この場合は、Alの含有率が99.4質量%を超えると、不純物の許容量が少なくなるため、コスト削減効果が減少してしまう場合がある。また、Alの含有率が95質量%未満であると不純物を多く含むこととなり圧延中に割れ等の不具合が発生してしまう場合がある。より好ましいAlの含有率は95〜99質量%であり、特に好ましくは95〜97質量%である。
【0024】
Feの含有率は0.3〜1.0質量%としてもよい。Feは新地金においても0.1〜0.2質量%前後含有される元素で、Al中に固溶する量は少なく、ほとんどが金属間化合物として残存する。Feの含有率が1.0質量%を超えると圧延途中に割れが発生しやすくなり、0.3質量%未満であるとコスト削減効果が減少するため好ましくない。より好ましいFeの含有率は0.5〜1.0質量%である。
【0025】
Siの含有率は0.15〜1.0質量%としてもよい。SiはJIS2000系、4000系、6000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。また、Siは新地金においても0.03〜0.1質量%前後含有される元素であり、Al中に固溶した状態で、または、金属間化合物として存在する。アルミニウム板が支持体の製造過程で加熱されると、固溶していたSiが単体Siとして析出することがある。単体SiとFeSi系の金属間化合物は耐苛酷インキ汚れ性に悪影響を与えることが知られている。ここで、「苛酷インキ汚れ」とは、印刷を何度も中断しつつ行った場合に、平版印刷版の非画像部表面部分にインキが付着しやすくなった結果、印刷された紙等に表れる点状または円環状の汚れをいう。Siの含有率が1.0質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理(デスマット処理)でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.15質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいSiの含有率は0.3〜1.0質量%である。
【0026】
Cuの含有率は0.1〜1.0質量%としてもよい。CuはJIS2000系、4000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。Cuは比較的Alに中に固溶しやすい。Cuの含有率が1.0質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいCuの含有率は0.3〜1.0質量%である。
【0027】
Mgの含有率は0.1〜1.5質量%としてもよい。MgはJIS2000系、3000系、5000系、7000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。特にcan end材に多く含まれるため、スクラップ材に含まれる主要な不純物金属の一つである。Mgは比較的Al中に固溶しやすく、Siと金属間化合物を形成する。Mgの含有率が1.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいMgの含有率は0.5〜1.5質量%であり、更に好ましくは1.0〜1.5質量%である。
【0028】
Mnの含有率は0.1〜1.5質量%としてもよい。MnはJIS3000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。Mnは特にcan body材に多く含まれるため、スクラップ材に含まれる主要な不純物金属の一つである。Mnは比較的Al中に固溶しやすく、Al、FeおよびSiと金属間化合物を形成する。Mnの含有率が1.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいMnの含有率は0.5〜1.5質量%であり、更に好ましくは1.0〜1.5質量%である。
【0029】
Znの含有率は0.1〜0.5質量%としてもよい。Znは特にJIS7000系のスクラップに多く含まれる元素である。Znは比較的Al中に固溶しやすい。Znの含有率が0.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいZnの含有率は0.3〜0.5質量%である。
【0030】
Crの含有率は0.01〜0.1質量%としてもよい。CrはJIS A5000系、同6000系、同7000系のスクラップに少量含まれる不純物金属である。Crの含有率が0.1質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.01質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいCrの含有率は0.05〜0.1質量%である。
【0031】
Tiの含有率は0.03〜0.5質量%としてもよい。Tiは通常結晶微細化材として0.01〜0.04質量%添加される元素である。JIS5000系、6000系、7000系のスクラップには不純物金属として比較的多めに含まれる。Tiの含有率が0.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.03質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいTiの含有率は0.05〜0.5質量%である。
【0032】
本発明に用いられるアルミニウム板は、上記原材料を用いて常法で鋳造したものに、適宜圧延処理や熱処理を施し、厚さを例えば、0.1〜0.7mmとし、必要に応じて平面性矯正処理を施して製造される。この厚さは、印刷機の大きさ、印刷版の大きさおよびユーザーの希望により、適宜変更することができる。
なお、上記アルミニウム板の製造方法としては、例えば、DC鋳造法、DC鋳造法から均熱処理および/または焼鈍処理を省略した方法、ならびに、連続鋳造法を用いることができる。
【0033】
<表面処理工程>
本発明の平版印刷版用支持体は、上記金属基体に粗面化処理および陽極酸化処理を施し、更に、特定の水溶液で処理し、酸基を含有する高分子化合物を設けて得られるが、本発明の平版印刷版用支持体の製造工程には、粗面化処理、陽極酸化処理および前記水溶液での処理、酸基を含有する高分子化合物を設ける以外の各種の工程が含まれていてもよい。以下、金属基体としてアルミニウム板を用いる場合を例に挙げて、本発明の平版印刷版用支持体について説明する。
【0034】
上記アルミニウム板は、付着している圧延油を除く脱脂工程、アルミニウム板の表面のスマットを溶解するデスマット処理工程、アルミニウム板の表面を粗面化する粗面化処理工程、アルミニウム板の表面を酸化皮膜で覆う陽極酸化処理工程、ポアワイド処理(酸処理またはアルカリ処理)工程等を経るのが好ましい。本発明の平版印刷版用支持体の製造工程は、酸性水溶液中で交流電流を用いてアルミニウム板を電気化学的に粗面化する粗面化処理(電気化学的粗面化処理)を含むのが好ましい。
また、本発明の平版印刷版用支持体の製造工程は、上記電気化学的粗面化処理の他に、機械的粗面化処理、酸またはアルカリ水溶液中での化学的エッチング処理等を組み合わせたアルミニウム板の表面処理工程を含んでもよい。本発明の平版印刷版用支持体の粗面化処理等の製造工程は、連続法でも断続法でもよいが、工業的には連続法を用いるのが好ましい。
本発明においては、更に、特定の水溶液で処理され、さらにその上に特定の中間層(記録層側から見れば下塗層)を設ける。
【0035】
<粗面化処理(砂目立て処理)>
まず、粗面化処理について説明する。
上記アルミニウム板は、より好ましい形状に砂目立て処理される。砂目立て処理方法は、特開昭56−28893号公報に記載されているような機械的砂目立て(機械的粗面化処理)、化学的エッチング、電解グレイン等がある。更に、塩酸電解液中または硝酸電解液中で電気化学的に砂目立てする電気化学的砂目立て法(電気化学的粗面化処理、電解粗面化処理)や、アルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立てするボールグレイン法、ナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てするブラシグレイン法等の機械的砂目立て法(機械的粗面化処理)を用いることができる。これらの砂目立て法は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。例えば、ナイロンブラシと研磨剤とによる機械的粗面化処理と、塩酸電解液または硝酸電解液による電解粗面化処理との組み合わせや、複数の電解粗面化処理の組み合わせが挙げられる。中でも、電気化学的粗面化処理が好ましい。また、機械的粗面化処理と電気化学的粗面化処理とを組み合わせて行うのも好ましく、特に、機械的粗面化処理の後に硝酸電解液での電気化学的粗面化処理を行い、さらに塩酸電解液での電気化学的粗面化処理を行うのが好ましい。
【0036】
機械的粗面化処理は、ブラシ等を使用してアルミニウム板表面を機械的に粗面化する処理であり、上述した電気化学的粗面化処理の前に行われるのが好ましい。
好適な機械的粗面化処理においては、毛径が0.07〜0.57mmである回転するナイロンブラシロールと、アルミニウム板表面に供給される研磨剤のスラリー液とで処理する。
【0037】
ナイロンブラシは吸水率が低いものが好ましく、例えば、東レ社製のナイロンブリッスル200T(6,10−ナイロン、軟化点:180℃、融点:212〜214℃、比重:1.08〜1.09、水分率:20℃・相対湿度65%において1.4〜1.8、20℃・相対湿度100%において2.2〜2.8、乾引っ張り強度:4.5〜6g/d、乾引っ張り伸度:20〜35%、沸騰水収縮率:1〜4%、乾引っ張り抵抗度:39〜45g/d、ヤング率(乾):380〜440kg/mm2 )が好ましい。
【0038】
研磨剤としては公知のものを用いることができるが、特開平6−135175号公報および特公昭50−40047号公報に記載されているケイ砂、石英、水酸化アルミニウム、またはこれらの混合物を用いるのが好ましい。
【0039】
スラリー液としては、比重が1.05〜1.3の範囲内にあるものが好ましい。スラリー液をアルミニウム板表面に供給する方法としては、例えば、スラリー液を吹き付ける方法、ワイヤーブラシを用いる方法、凹凸を付けた圧延ロールの表面形状をアルミニウム板に転写する方法が挙げられる。また、特開昭55−074898号公報、同61−162351号公報、同63−104889号公報に記載されている方法を用いてもよい。更に、特表平9−509108号公報に記載されているように、アルミナおよび石英からなる粒子の混合物を95:5〜5:95の範囲の質量比で含んでなる水性スラリー中で、アルミニウム板表面をブラシ研磨する方法を用いることもできる。このときの上記混合物の平均粒子径は、1〜40μm、特に1〜20μmの範囲内であるのが好ましい。
【0040】
電気化学的粗面化処理は、酸性水溶液中で、アルミニウム板を電極として交流電流を通じ、該アルミニウム板の表面を電気化学的に粗面化する工程であり、後述の機械的粗面化処理とは異なる。
本発明においては、上記電気化学的粗面化処理において、アルミニウム板が陰極となるときにおける電気量、即ち、陰極時電気量QC と、陽極となるときにおける電気量、即ち、陽極時電気量QA との比QC /QA を、例えば、0.5〜2.0の範囲内とすることで、アルミニウム板の表面に均一なハニカムピットを生成することができる。QC /QA が0.50未満であると、不均一なハニカムピットとなりやすく、また、2.0を超えても、不均一なハニカムピットとなりやすい。QC /QA は、0.8〜1.5の範囲内とするのが好ましい。
【0041】
電気化学的粗面化処理に用いられる交流電流の波形としては、正弦波(サイン波)、矩形波、三角波、台形波等が挙げられる。中でも、矩形波または台形波が好ましい。また、交流電流の周波数は、電源装置を製作するコストの観点から、30〜200Hzであるのが好ましく、40〜120Hzであるのがより好ましい。
本発明に好適に用いられる台形波の一例を図1に示す。図1において、縦軸は電流値、横軸は時間を示す。また、taはアノード反応時間、tcはカソード反応時間、tpは電流値がゼロからカソードサイクル側のピークに達するまでの時間、tp´は電流値がゼロからアノードサイクル側のピークに達するまでの時間、Iaはアノードサイクル側のピーク時の電流、Icはカソードサイクル側のピーク時の電流を示す。交流電流の波形として台形波を用いる場合、電流がゼロからピークに達するまでの時間tpおよびtp´はそれぞれ0.1〜2msecであるのが好ましく、0.3〜1.5msecであるのがより好ましい。tpおよびtp´が0.1msec未満であると、電源回路のインピーダンスが影響し、電流波形の立ち上がり時に大きな電源電圧が必要となり、電源の設備コストが高くなる場合がある。また、tpおよびtp´が2msecを超えると、酸性水溶液中の微量成分の影響が大きくなり、均一な粗面化処理が行われにくくなる場合がある。
【0042】
また、電気化学的粗面化処理に用いられる交流電流のdutyは、アルミニウム板表面を均一に粗面化する点から0.25〜0.5の範囲内とするのが好ましく、0.3〜0.4の範囲内とするのがより好ましい。本発明でいうdutyとは、交流電流の周期Tにおいて、アルミニウム板の陽極反応が持続している時間(アノード反応時間)をtaとしたときのta/Tをいう。特に、カソード反応時のアルミニウム板表面には、水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分の生成に加え、酸化皮膜の溶解や破壊が発生し、次のアルミニウム板のアノード反応時におけるピッティング反応の開始点となるため、交流電流のdutyの選択は均一な粗面化に与える効果が大きい。
【0043】
交流電流の電流密度は、台形波または矩形波の場合、アノードサイクル側のピーク時の電流密度Iapおよびカソードサイクル側のピーク時の電流密度Icpがそれぞれ10〜200A/dm2 となるのが好ましい。また、Icp/Iapは、0.9〜1.5の範囲内にあるのが好ましい。
電気化学的粗面化処理において、電気化学的粗面化処理が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応に用いた電気量の総和は、50〜1000C/dm2 であるのが好ましい。電気化学的粗面化処理の時間は、1秒〜30分であるのが好ましい。
【0044】
電気化学的粗面化処理に用いられる酸性水溶液としては、通常の直流電流または交流電流を用いた電気化学的粗面化処理に用いるものを用いることができ、その中でも硝酸を主体とする酸性水溶液または塩酸を主体とする酸性水溶液を用いることが好ましい。ここで、「主体とする」とは、水溶液中に主体となる成分が、成分全体に対して、30質量%以上、好ましくは50質量%以上含まれていることをいう。以下、他の成分においても同様である。
【0045】
硝酸を主体とする酸性水溶液としては、上述したように、通常の直流電流または交流電流を用いた電気化学的粗面化処理に用いるものを用いることができる。例えば、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸化合物のうち一つ以上を、0.01g/Lから飽和に達するまでの濃度で、硝酸濃度5〜15g/Lの硝酸水溶液に添加して使用することができる。硝酸を主体とする酸性水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、ケイ素等のアルミニウム合金中に含まれる金属等が溶解されていてもよい。
【0046】
硝酸を主体とする酸性水溶液としては、中でも、硝酸と、アルミニウム塩と、硝酸塩とを含有し、かつ、アルミニウムイオンが1〜15g/L、好ましくは1〜10g/L、アンモニウムイオンが10〜300ppmとなるように、硝酸濃度5〜15g/Lの硝酸水溶液中に硝酸アルミニウムおよび硝酸アンモニウムを添加して得られたものを用いることが好ましい。なお、上記アルミニウムイオンおよびアンモニウムイオンは、電気化学的粗面化処理を行っている間に自然発生的に増加していくものである。また、この際の液温は10〜95℃であるのが好ましく、20〜90℃であるのがより好ましく、40〜80℃であるのが特に好ましい。
【0047】
電気化学的粗面化処理においては、縦型、フラット型、ラジアル型等の公知の電解装置を用いることができるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解装置が特に好ましい。
図2は、本発明に好適に用いられるラジアル型電解装置の概略図である。図2において、ラジアル型電解装置は、アルミニウム板11が主電解槽21中に配置されたラジアルドラムローラ12に巻装され、搬送過程で交流電源20に接続された主極13aおよび13bによって電解処理される。酸性水溶液14は、溶液供給口15からスリット16を通じてラジアルドラムローラ12と主極13aおよび13bとの間にある溶液通路17に供給される。
ついで、主電解槽21で処理されたアルミニウム板11は、補助陽極槽22で電解処理される。この補助陽極槽22には補助陽極18がアルミニウム板11と対向配置されており、酸性水溶液14は、補助陽極18とアルミニウム板11との間を流れるように供給される。なお、補助電極に流す電流は、サイリスタ19aおよび19bにより制御される。
【0048】
主極13aおよび13bは、カーボン、白金、チタン、ニオブ、ジルコニウム、ステンレス、燃料電池用陰極に用いる電極等から選定することができるが、カーボンが特に好ましい。カーボンとしては、一般に市販されている化学装置用不浸透性黒鉛や、樹脂含浸黒鉛等を用いることができる。
補助陽極18は、フェライト、酸化イリジウム、白金、または、白金をチタン、ニオブ、ジルコニウム等のバルブ金属にクラッドもしくはメッキしたもの等公知の酸素発生用電極から選定することができる。
【0049】
主電解槽21および補助陽極槽22内を通過する酸性水溶液の供給方向はアルミニウム板11の進行とパラレルでもカウンターでもよい。アルミニウム板に対する酸性水溶液の相対流速は、10〜1000cm/secであるのが好ましい。
一つの電解装置には1個以上の交流電源を接続することができる。また、2個以上の電解装置を使用してもよく、各装置における電解条件は同一であってもよいし異なっていてもよい。
また、電解処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないためにニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0050】
上記電解装置を用いる場合においては、電解装置中のアルミニウム板がアノード反応する酸性水溶液の通電量に比例して、例えば、(i)酸性水溶液の導電率と(ii)超音波の伝搬速度と(iii)温度とから求めた硝酸およびアルミニウムイオン濃度をもとに、硝酸と水の添加量を調節しながら添加し、硝酸と水の添加容積と同量の酸性水溶液を逐次電解装置からオーバーフローさせて排出することで、上記酸性水溶液の濃度を一定に保つのが好ましい。
【0051】
つぎに、酸性水溶液中またはアルカリ水溶液中での化学的エッチング処理、デスマット処理等の表面処理について順を追って説明する。上記表面処理は、それぞれ上記電気化学的粗面化処理の前、または、上記電気化学的粗面化処理の後であって後述する陽極酸化処理の前において行われる。ただし、以下の各表面処理の説明は例示であり、本発明は、以下の各表面処理の内容に限定されるものではない。また、上記表面処理を初めとする以下の各処理は任意で施される。
【0052】
<アルカリエッチング処理>
アルカリエッチング処理は、アルカリ水溶液中でアルミニウム板表面を化学的にエッチングする処理であり、上記電気化学的粗面化処理の前と後のそれぞれにおいて行うのが好ましい。また、電気化学的粗面化処理の前に機械的粗面化処理を行う場合には、機械的粗面化処理の後に行うのが好ましい。アルカリエッチング処理は、短時間で微細構造を破壊することができるので、後述する酸性エッチング処理よりも有利である。
アルカリエッチング処理に用いられるアルカリ水溶液としては、カセイソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の1種または2種以上を含有する水溶液が挙げられる。特に、水酸化ナトリウム(カセイソーダ)を主体とする水溶液が好ましい。アルカリ水溶液は、アルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分を0.5〜10質量%を含有していてもよい。
アルカリ水溶液の濃度は、1〜50質量%であるのが好ましく、1〜30質量%であるのがより好ましい。
【0053】
アルカリエッチング処理は、アルカリ水溶液の液温を20〜100℃、好ましくは40〜80℃の間とし、1〜120秒間、好ましくは2〜60秒間処理することにより行うのが好ましい。アルミニウムの溶解量は、機械的粗面化処理の後に行う場合は5〜20g/m2 であるのが好ましく、電気化学的粗面化処理の後に行う場合は0.01〜20g/m2 であるのが好ましい。最初にアルカリ水溶液中で化学的なエッチング液をミキシングするときには、液体水酸化ナトリウム(カセイソーダ)とアルミン酸ナトリウム(アルミン酸ソーダ)とを用いて処理液を調製することが好ましい。
また、アルカリエッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないために、ニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0054】
アルカリエッチング処理を電気化学的粗面化処理の後に行う場合、電気化学的粗面化処理により生じたスマットを除去することができる。このようなアルカリエッチング処理としては、例えば、特開昭53−12739号公報に記載されているような50〜90℃の温度の15〜65質量%の硫酸と接触させる方法および特公昭48−28123号公報に記載されているアルカリエッチングする方法が好適に挙げられる。
【0055】
<酸性エッチング処理>
酸性エッチング処理は、酸性水溶液中でアルミニウム板を化学的にエッチングする処理であり、上記電気化学的粗面化処理の後に行うのが好ましい。また、上記電気化学的粗面化処理の前および/または後に上記アルカリエッチング処理を行う場合は、アルカリエッチング処理の後に酸性エッチング処理を行うのも好ましい。
アルミニウム板に上記アルカリエッチング処理を施した後に、上記酸性エッチング処理を施すと、アルミニウム板表面のシリカを含む金属間化合物または単体Siを除去することができ、その後の陽極酸化処理において生成する陽極酸化皮膜の欠陥をなくすことができる。その結果、印刷時にチリ状汚れと称される非画像部に点状のインクが付着するトラブルを防止することができる。
【0056】
酸性エッチング処理に用いられる酸性水溶液としては、リン酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、またはこれらの2種以上の混酸を含有する水溶液が挙げられる。中でも、硫酸水溶液が好ましい。酸性水溶液の濃度は、50〜500g/Lであるのが好ましい。酸性水溶液は、アルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分を含有していてもよい。
【0057】
酸性エッチング処理は、液温を60〜90℃、好ましくは70〜80℃とし、1〜10秒間処理することにより行うのが好ましい。このときのアルミニウム板の溶解量は0.001〜0.2g/m2 であるのが好ましい。また、酸濃度、例えば、硫酸濃度とアルミニウムイオン濃度は、常温で晶出しない範囲から選択することが好ましい。好ましいアルミニウムイオン濃度は0.1〜50g/Lであり、特に好ましくは5〜15g/Lである。
また、酸性エッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないために、ニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0058】
<デスマット処理>
上記電気化学的粗面化処理の前および/または後に上記アルカリエッチング処理を行う場合は、アルカリエッチング処理により、一般にアルミニウム板の表面にスマットが生成するので、リン酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸、またはこれらの2種以上の混酸を含有する酸性溶液中で上記スマットを溶解する、いわゆるデスマット処理をアルカリエッチング処理の後に行うのが好ましい。なお、アルカリエッチング処理の後には、酸性エッチング処理およびデスマット処理のうち、いずれか一方を行えば十分である。
【0059】
酸性溶液の濃度は、1〜500g/Lであるのが好ましい。酸性溶液中にはアルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分が0.001〜50g/L溶解していてもよい。
酸性溶液の液温は、20℃〜95℃であるのが好ましく、30〜70℃であるのがより好ましい。また、処理時間は1〜120秒であるのが好ましく、2〜60秒であるのがより好ましい。
また、デスマット処理液(酸性溶液)としては、上記電気化学的粗面化処理で用いた酸性水溶液の廃液を用いるのが、廃液量削減の上で好ましい。
デスマット処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないためにニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0060】
これらの表面処理の組み合わせとして、好ましい態様を以下に示す。
まず、機械的粗面化処理および/またはアルカリエッチング処理を行い、その後、デスマット処理を行う。つぎに、電気化学的粗面化処理を行い、その後、▲1▼酸性エッチング処理、▲2▼アルカリエッチング処理およびそれに引き続くデスマット処理、▲3▼アルカリエッチング処理およびそれに引き続く酸性エッチング処理、▲4▼アルカリエッチング処理およびそれに引き続くデスマット処理あるいは酸性エッチング処理を施した後、さらに電気化学的粗面化処理、アルカリエッチング処理およびそれに引き続くデスマット処理のいずれかを行う。
【0061】
<陽極酸化処理>
以上のようにして粗面化処理および必要に応じて他の処理を施されたアルミニウム板に、陽極酸化処理を施す。
陽極酸化処理はこの分野で従来行われている方法で行うことができる。具体的には、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等の単独のまたは2種以上を組み合わせた水溶液または非水溶液の中で、アルミニウム板に直流または交流を流すと、アルミニウム板の表面に、陽極酸化皮膜を形成することができる。
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.5〜60A/dm2 、電圧1〜200V、電解時間1〜1000秒であるのが適当である。
これらの陽極酸化処理の中でも、英国特許第1,412,768号明細書に記載されている、硫酸電解液中で高電流密度で陽極酸化処理する方法、および、米国特許第3,511,661号明細書に記載されている、リン酸を電解浴として陽極酸化処理する方法が好ましい。また、硫酸中で陽極酸化処理し、更にリン酸中で陽極酸化処理するなどの多段陽極酸化処理を施すこともできる。
【0062】
本発明においては、陽極酸化皮膜は、傷付きにくさおよび耐刷性の点で、1.0g/m2 以上であるのが好ましく、3.0g/m2 以上であるのがより好ましく、4.0g/m2 以上であるのが特に好ましく、また、厚い皮膜を設けるためには多大なエネルギーを必要とすることを鑑みると、100g/m2 以下であるのが好ましく、40g/m2 以下であるのがより好ましく、20g/m2 以下であるのが特に好ましい。
【0063】
陽極酸化皮膜には、その表面にマイクロポアと呼ばれる微細な凹部が一様に分布して形成されている。陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアの密度は、処理条件を適宜選択することによって調整することができる。
【0064】
<ポアワイド処理>
本発明においては、熱伝導率を下げる目的で、陽極酸化処理の後、マイクロポアのポア径を拡げるポアワイド処理を行うことが好ましい。このポアワイド処理は、陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム基板を酸水溶液またはアルカリ水溶液に浸せきすることにより、陽極酸化皮膜を溶解し、マイクロポアのポア径を拡大するものである。ポアワイド処理は、陽極酸化皮膜の溶解量が、好ましくは0.01〜20g/m2 、より好ましくは0.1〜5g/m2 、特に好ましくは0.2〜4g/m2 となる範囲で行われる。
【0065】
ポアワイド処理に酸水溶液を用いる場合は、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は10〜1000g/Lであるのが好ましく、20〜500g/Lであるのがより好ましい。酸水溶液の温度は、10〜90℃であるのが好ましく、30〜70℃であるのがより好ましい。酸水溶液への浸せき時間は、1〜300秒であるのが好ましく、2〜100秒であるのがより好ましい。
一方、ポアワイド処理にアルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液のpHは、10〜13であるのが好ましく、11.5〜13.0であるのがより好ましい。アルカリ水溶液の温度は、10〜90℃であるのが好ましく、30〜50℃であるのがより好ましい。アルカリ水溶液への浸せき時間は、1〜500秒であるのが好ましく、2〜100秒であるのがより好ましい。又、アルカリ処理の後に酸水溶液での処理を行っても良い。
【0066】
<特定の水溶液での処理>
本発明においては、上述したようにして陽極酸化皮膜を設けた後、更に、下記1)および2)の処理をこの順序で、または2)、1)の順序で、または2)、1)、2)の順で行う。
1)ポリビニルホスホン酸を含む水溶液で処理、
2)ケイ酸化合物を含有する水溶液で処理、
この工程を行うことおよび後に説明する特定の高分子をこの上に設けることにより、平版印刷版としたときに、感度、耐刷性および耐汚れ性のいずれにも優れる平版印刷版用支持体が得られる。
【0067】
1)本発明に用いられるポリビニルホスホン酸を含む水溶液で処理する工程の例示は、米国特許第4,153,461号明細書に親水化処理として記載されているポリビニルホスホン酸で処理する方法が好適に挙げられる。
【0068】
ポリビニルホスホン酸は、好ましくは分子量800〜20000で、水溶液で用いられるが、エチルアルコール、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルグリコールアセテート等の揮発性溶媒を含む水溶液でもよい。例えば、ポリビニルホスホン酸濃度が0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜2.5質量%、温度が10℃〜70℃、好ましくは30℃〜60℃である。アルミニウム支持体を、例えば、この水溶液に、0.5秒〜10分、好ましくは1秒〜30秒浸せきすることにより処理することができる。浸漬以外では、ブラシ、スポンジ、スプレー、ホイールコータ等で水溶液を塗布してもよい。処理後は、必要な場合は水洗、乾燥処理してもよい。
【0069】
本発明のポリビニルホスホン酸を含む水溶液処理では、ポリビニルホスホン酸に加えて、またはその代わりに以下のモノマーを含むポリマー、またはコポリマーを用いることができる。p−ビニルベンジルホスホン酸、2−プロペニル−ホスホン酸ジエチルエステル、[2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)−アミノ]プロピル]−ホスホン酸、α−フェニルビニルホスホン酸、ビニルホスホン酸、ホスホン化無水マレイン酸、ホスホン化アクリレート又はメタクリレート、ビニルホスホン酸ジメチル、2−プロペニルホスホン酸、ホスホノメチル化アクリルアミド、ホスホノメチル化ビニルアミン、ビニルアミノメチレンホスホン酸、1−フェニルビニルホスホン酸、ビニルホスホン酸、(アクリルアミドメチルプロピル)ホスホン酸、ビニルホスホン酸メチル。
【0070】
2)本発明に用いられるケイ酸化合物を含有する水溶液処理に用いられるケイ酸化合物としては、ケイ酸、ケイ酸塩が挙げられるが、中でもアルカリ金属ケイ酸塩が好適に挙げられる。
具体的には、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。中でも、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムが好ましい。
ケイ酸ナトリウムは、例えば、3号ケイ酸ナトリウム、2号ケイ酸ナトリウム、1号ケイ酸ナトリウム、オルソケイ酸ナトリウム、セスキケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムが挙げられる。ケイ酸カリウムは、例えば1号ケイ酸カリウムが挙げられる。又、アルミニウムを含むアルミノケイ酸塩、ホウ素を含むホウケイ酸塩を用いることもできる。
ケイ酸は、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二ケイ酸、メタ三ケイ酸、メタ四ケイ酸が挙げられる。
【0071】
ケイ酸化合物の水溶液中の濃度は、汚れ性の点で、0.01質量%以上であるのが好ましく、0.1質量%以上であるのがより好ましい。また、耐刷性の点で、10質量%以下であるのが好ましく、7質量%以下であるのがより好ましく、5質量%以下であるのが特に好ましい。
【0072】
本発明に用いる水溶液は、ポリビニルホスホン酸およびケイ酸化合物を含有する水溶液であってもよく、その場合両者の濃度は、それぞれ上記の濃度範囲とする。
【0073】
また、本発明に用いるケイ酸化合物の水溶液は、pHを高くするために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化物を適当量含有してもよい。中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
また、さらにアルカリ土類金属塩または4族(第IVB族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩等の水溶性塩が挙げられる。4族(第IVB族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩および4族(第IVB族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0074】
また、ケイ酸化合物の水溶液の温度は、10℃以上であるのが好ましく、20℃以上であるのがより好ましく、また、100℃以下であるのが好ましく、80℃以下であるのがより好ましい。
また、水溶液は、pH8以上であるのが好ましく、pH10以上であるのがより好ましく、また、pH13以下であるのが好ましく、pH12以下であるのがより好ましい。
【0075】
本発明に用いるケイ酸化合物の水溶液での処理の方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。 中でも、浸せき法が好ましい。浸せき法を用いて処理する場合、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、3秒以上であるのがより好ましく、また、600秒以下であるのが好ましく、120秒以下であるのがより好ましい。
【0076】
<酸性水溶液処理>
本発明においては、上記ケイ酸化合物の水溶液での処理されたアルミニウム支持体を、必要に応じ、酸性水溶液で処理することができる。この酸性水溶液としては、硫酸、硝酸、塩酸、蓚酸、燐酸などの水溶液が挙げられる。また、この酸性水溶液処理は、親水化処理されたアルミニウム支持体を、上記のような酸の濃度0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜1重量%の水溶液に、温度15〜70℃、好ましくは25〜50℃で、0.5〜120秒間、好ましくは2〜30秒間程浸漬することにより行うのが適当である。この酸性水溶液処理により、感熱層等の記録層との密着性を向上させ耐刷力を向上させることができる。
【0077】
水溶液での処理工程は1)ポリビニルホスホン酸を含む水溶液での処理、2)ケイ酸化合物を含有する水溶液での処理、の工程を組み合わせるが、さらに複数回用いてもよく、1)および2)の処理をこの順序で、または2)、1)の順序で、または2)、1)、2)の順で行う。前述の陽極酸化処理における封孔処理は、水溶液での処理工程の前に行ってもよいし、後で行ってもよい。
【0078】
本発明においては、上述したようにして特定の水溶液で処理して得られた本発明の平版印刷版用支持体を、更に1種以上の親水性化合物を含有する水溶液へ浸せきすることにより、親水性表面処理を行ってもよい。親水性化合物としては、例えば、スルホン酸基を有する化合物、糖類化合物、ビニルホスホン酸以外のリン酸塩化合物、フッ素化合物が挙げられる。
【0079】
スルホン酸基を有する化合物には、芳香族スルホン酸、そのホルムアルデヒド縮合物、それらの誘導体、およびそれらの塩が含まれる。
芳香族スルホン酸としては、例えば、フェノールスルホン酸、カテコールスルホン酸、レゾルシノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、リグニンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アセナフテン−5−スルホン酸、フェナントレン−2−スルホン酸、ベンズアルデヒド−2(または3)−スルホン酸、ベンズアルデヒド−2,4(または3,5)−ジスルホン酸、オキシベンジルスルホン酸類、スルホ安息香酸、スルファニル酸、ナフチオン酸、タウリンが挙げられる。中でも、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、リグニンスルホン酸が好ましい。また、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、リグニンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物も好ましい。
更に、これらは、スルホン酸塩として使用してもよい。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩が挙げられる。中でも、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
スルホン酸基を有する化合物を含有する水溶液のpHは、4〜6.5であるのが好ましく、硫酸、水酸化ナトリウム、アンモニア等を用いて上記pH範囲に調整することができる。
【0080】
糖類化合物には、単糖類およびその糖アルコール、オリゴ糖類、多糖類、ならびに、配糖体が含まれる。
単糖類およびその糖アルコールとしては、例えば、グリセロール等のトリオース類およびその糖アルコール類;トレオース、エリトリトール等のテトロースおよびその糖アルコール類;アラビノース、アラビトール等のペントースおよびその糖アルコール類;グルコース、ソルビトール等のヘキソースおよびその糖アルコール類;D−グリセロ−D−ガラクトヘプトース、D−グリセロ−D−ガラクトヘプチトール等のヘプトースおよびその糖アルコール類;D−エリトロ−D−ガラクトオクチトール等のオクトースおよびその糖アルコール類;D−エリトロ−L−グルコ−ノヌロース等のノノースおよびその糖アルコール類が挙げられる。
オリゴ糖類としては、例えば、サッカロース、トレハロース、ラクトース等の二糖類;ラフィノース等の三糖類が挙げられる。
多糖類としては、例えば、アミロース、アラビナン、シクロデキストリン、アルギン酸セルロースが挙げられる。
【0081】
本発明において、「配糖体」とは、糖部分と非糖部分がエーテル結合等を介して結合している化合物をいう。
配糖体は非糖部分により分類することができる。例えば、アルキル配糖体、フェノール配糖体、クマリン配糖体、オキシクマリン配糖体、フラボノイド配糖体、アントラキノン配糖体、トリテルペン配糖体、ステロイド配糖体、からし油配糖体が挙げられる。
糖部分としては、上述した単糖類およびその糖アルコール;オリゴ糖類;多糖類が挙げられる。中でも、単糖類、オリゴ糖類が好ましく、単糖類、二糖類がより好ましい。
好ましい配糖体の例として、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0082】
【化1】
【0083】
上記式(I)中、Rは、炭素原子数1〜20の直鎖のまたは分枝を有する、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
炭素原子数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル基が挙げられ、これらは直鎖であっても、分枝を有していてもよく、また、環状アルキル基であってもよい。
炭素原子数1〜20のアルケニル基としては、例えば、アリル、2−ブテニル基が挙げられ、これらは直鎖であっても、分枝を有していてもよく、また、環状アルケニル基であってもよい。
炭素原子数1〜20のアルキニル基としては、例えば、1−ペンチニル基が挙げられ、これらは直鎖であっても、分枝を有していてもよく、また、環状アルキニル基であってもよい。
【0084】
上記式(I)で表される具体的な化合物としては、例えば、メチルグルコシド、エチルグルコシド、プロピルグルコシド、イソプロピルグルコシド、ブチルグルコシド、イソブチルグルコシド、n−ヘキシルグルコシド、オクチルグルコシド、カプリルグルコシド、デシルグルコシド、2−エチルヘキシルグルコシド、2−ペンチルノニルグルコシド、2−ヘキシルデシルグルコシド、ラウリルグルコシド、ミリスチルグルコシド、ステアリルグルコシド、シクロヘキシルグルコシド、2−ブチニルグルコシドが挙げられる。これらの化合物は、配糖体の一種であるグルコシドで、ブドウ糖のヘミアセタールヒドロキシル基が他の化合物をエーテル状に結合したものであり、例えば、グルコースとアルコール類とを反応させる公知の方法により得ることができる。これらのアルキルグルコシドの一部は、ドイツHenkel社により商品名グルコポン(GLUCOPON)として市販されており、本発明ではそれを用いることができる。
【0085】
好ましい配糖体の別の例としては、サポニン類、ルチントリハイドレート、ヘスペリジンメチルカルコン、ヘスペリジン、ナリジンハイドレート、フェノール−β−D−グルコピラノシド、サリシン、3´,5,7−メトキシ−7−ルチノシドが挙げられる。
【0086】
糖類化合物を含有する水溶液のpHは、8〜11であるのが好ましく、水酸化カリウム、硫酸、炭酸、炭酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム等を用いて上記pH範囲に調整することができる。
【0087】
また、スルホン酸基を有する化合物の水溶液は、濃度が0.02〜0.2質量%であるのが好ましい。浸せき温度は60〜100℃であるのが好ましい。浸せき時間は1〜300秒であるのが好ましく、10〜100秒であるのがより好ましい。
更に、糖類化合物の水溶液は、濃度が0.5〜10質量%であるのが好ましい。浸せき温度は40〜70℃であるのが好ましい。浸せき時間は2〜300秒であるのが好ましく、5〜30秒であるのがより好ましい。
【0088】
本発明に用いられるリン酸塩としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属のリン酸塩が挙げられる。
具体的には、例えば、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一アンモニウム、リン酸一カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カルシウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸第一鉄、リン酸第二鉄、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸鉛、リン酸二アンモニウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸リチウム、リンタングステン酸、リンタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸ナトリウム;亜リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムが挙げられる。中でも、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムが好ましい。
【0089】
また、親水性表面処理に用いられる無機フッ素化合物としては、金属フッ化物が好適に挙げられる。具体的には、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ヘキサフルオロジルコニウムナトリウム、ヘキサフルオロジルコニウムカリウム、ヘキサフルオロチタン酸ナトリウム、ヘキサフルオロチタン酸カリウム、ヘキサフルオロジルコニウム水素酸、ヘキサフルオロチタン水素酸、ヘキサフルオロジルコニウムアンモニウム、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸、フッ化ニッケル、フッ化鉄、フッ化リン酸、フッ化リン酸アンモニウムが挙げられる。
【0090】
支持体は、これらの親水性化合物を含有する水溶液へ浸せきした後には、水等によって洗浄され、乾燥される。
【0091】
上述した親水性表面処理により、陽極酸化処理後のポアワイド処理により向上した感度(ネガタイプの感光層の場合は耐刷性の向上)と引き替えに発生する耐放置汚れ性(インキ払い性)劣化等の印刷汚れの問題が解消される。即ち、ポア径が拡大したことにより、印刷時、特に印刷機が停止し、平版印刷版が印刷機上で放置された後の印刷再スタート時に、インキが取れにくくなる現象(耐放置汚れ性(インキ払い性)劣化)が起こりやすくなる問題があるが、親水性表面処理が施されていると、上記問題が軽減される。
【0092】
このような特定の水溶液処理して得られる本発明の平版印刷版用支持体は、表面が下記式(1)を満たすのが好ましい。
0.05≦(A+B)/(A+B+C)≦0.70 (1)
A:X線光電子分光法を用いて測定して得られるリン(2p)のピーク面積(counts・eV/sec)
B:X線光電子分光法を用いて測定して得られるケイ素(2p)のピーク面積(counts・eV/sec)
C:X線光電子分光法を用いて測定して得られたアルミニウム(2p)のピーク面積(counts・eV/sec)
【0093】
上記式(1)において、「(A+B)/(A+B+C)」は、陽極酸化皮膜において、リン化合物およびケイ素化合物が被覆している程度を表しており、「(A+B)/(A+B+C)」の値が大きいほど被覆率が高く、小さいほど被覆率が低い。
ここで、「(A+B)/(A+B+C)」の値が0.05以上であると、特定の水溶液による処理の効果が大きくなり、耐汚れ性(耐地汚れ性および耐放置汚れ性)がより優れたものとなる。よって、「(A+B)/(A+B+C)」の値は、0.05以上であるのが好ましく、0.10以上であるのがより好ましい。一方、「(A+B)/(A+B+C)」の値が0.70以下であると、無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液による処理の効果が適度となり、耐刷性がより優れたものとなる。よって、「(A+B)/(A+B+C)」の値は、0.70以下であるのが好ましく、0.60以下であるのがより好ましい。
【0094】
支持体の表面を上記式の条件とするには、本発明の特定の水溶液処理の各条件を調整したり、他の必須ではないが行ってもよい処理を行って調整してもよい。
【0095】
<中間層>
上記の処理を行ったアルミニウム支持体上に中間層(記録層側から見れば下塗層)として酸基を含有する高分子化合物を設ける。
【0096】
(酸基とオニウム基とを有する高分子化合物の中間層)
中間層形成に用いる高分子化合物として、酸基を有する、あるいは、酸基を有する構成成分と共にオニウム基を有する構成成分をも有する高分子化合物が一層好適に用いられる。この高分子化合物の構成成分の酸基としては、酸解離指数(pKa)が7以下の酸基が好ましく、より好ましくは−COOH、−SO3 H、−OSO3 H、−PO3 H2 、−OPO3 H2 、−CONHSO2 、−SO2 NHSO2 −であり、特に好ましくは−COOHである。好適なる酸基を有する構成成分は、下記の一般式(1)あるいは一般式(2)で表される重合可能な化合物である。
【0097】
【化2】
【0098】
式中、Aは2価の連結基を表す。Bは芳香族基あるいは置換芳香族基を表す。D及びEはそれぞれ独立して2価の連結基を表す。Gは3価の連結基を表す。X及びX′はそれぞれ独立してpKaが7以下の酸基あるいはそのアルカリ金属塩あるいはアンモニウム塩を表す。R1 は水素原子、アルキル基またはハロゲン原子を表す。a,b,d,eはそれぞれ独立して0または1を表す。tは1〜3の整数である。酸基を有する構成成分の中でより好ましくは、Aは−COO−または−CONH−を表し、Bはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基、ハロゲン原子あるいはアルキル基である。D及びEはそれぞれ独立してアルキレン基あるいは分子式がCn H2nO、Cn H2nSあるいはCn H2n+1Nで表される2価の連結基を表す。Gは分子式がCn H2n−1、Cn H2n−1O、Cn H2n−1SあるいはCn H2nNで表される3価の連結基を表す。ただし、ここでnは1〜12の整数を表す。X及びX′はそれぞれ独立してカルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、硫酸モノエステルあるいは燐酸モノエステルを表す。R1 は水素原子またはアルキル基を表す。a,b,d,eはそれぞれ独立して0または1を表すが、aとbは同時に0ではない。酸基を有する構成成分の中で特に好ましくは一般式(1)で示す化合物であり、Bはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基あるいは炭素数1〜3のアルキル基である。D及びEはそれぞれ独立して炭素数1〜2のアルキレン基あるいは酸素原子で連結した炭素数1〜2のアルキレン基を表す。R1 は水素原子あるいはメチル基を表す。Xはカルボン酸基を表す。aは0であり、bは1である。
【0099】
酸基を有する構成成分の具体例を以下に示す。ただし、本発明はこの具体例に限定されるものではない。アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられ、さらに下記のものが挙げられる。
【0100】
【化3】
【0101】
【化4】
【0102】
【化5】
【0103】
上記のような酸基を有する構成成分は、1種類あるいは2種類以上組み合わせてもよい。
【0104】
(オニウム基を有する高分子化合物の中間層)
また、上記中間層形成に用いられる高分子化合物の構成成分のオニウム基として好ましいものは、周期律表第V族あるいは第VI族の原子からなるオニウム基であり、より好ましくは窒素原子、リン原子あるいはイオウ原子からなるオニウム基であり、特に好ましくは窒素原子からなるオニウム基である。また、この高分子化合物は、その主鎖構造がアクリル樹脂やメタクリル樹脂やポリスチレンのようなビニル系ポリマーあるいはウレタン樹脂あるいはポリエステルあるいはポリアミドであるポリマーが好ましい。中でも、主鎖構造がアクリル樹脂やメタクリル樹脂やポリスチレンのようなビニル系ポリマーがさらに好ましい。特に好ましい高分子化合物は、オニウム基を有する構成成分が下記の一般式(3)、一般式(4)あるいは一般式(5)で表される重合可能な化合物であるポリマーである。
【0105】
【化6】
【0106】
式中、Jは2価の連結基を表す。Kは芳香族基あるいは置換芳香族基を表す。Mはそれぞれ独立して2価の連結基を表す。Y1 は周期律表第V族の原子を表し、Y2 は周期律表第VI族の原子を表す。Z− は対アニオンを表す。R2 は水素原子、アルキル基またはハロゲン原子を表す。R3 ,R4 ,R5 ,R7 はそれぞれ独立して水素原子あるいは場合によっては置換基が結合してもよいアルキル基、芳香族基、アラルキル基を表し、R6 はアルキリジン基あるいは置換アルキリジンを表すが、R3 とR4 あるいはR6 とR7 はそれぞれ結合して環を形成してもよい。j,k,mはそれぞれ独立して0または1を表す。uは1〜3の整数を表す。オニウム基を有する構成成分の中でより好ましくは、Jは−COO−または−CONH−を表し、Kはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基、ハロゲン原子あるいはアルキル基である。Mはアルキレン基あるいは分子式がCn H2nO、Cn H2nSあるいはCn H2n+1Nで表される2価の連結基を表す。ただし、ここでnは1〜12の整数を表す。Y1 は窒素原子またはリン原子を表し、Y2 はイオウ原子を表す。Z− はハロゲンイオン、PF6 − 、BF4 − あるいはR8 SO3 − を表す。R2 は水素原子またはアルキル基を表す。R3 ,R4 ,R5 ,R7 はそれぞれ独立して水素原子あるいは場合によっては置換基が結合してもよい炭素数1〜10のアルキル基、芳香族基、アラルキル基を表し、R6 は炭素数1〜10のアルキリジン基あるいは置換アルキリジンを表すが、R3 とR4 あるいはR6 とR7 はそれぞれ結合して環を形成してもよい。j,k,mはそれぞれ独立して0または1を表すが、jとkは同時に0ではない。オニウム基を有する構成成分の中で特に好ましくは、Kはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基あるいは炭素数1〜3のアルキル基である。Mは炭素数1〜2のアルキレン基あるいは酸素原子で連結した炭素数1〜2のアルキレン基を表す。Z− は塩素イオン等のハロゲンイオンあるいはR8 SO3 − を表す。R8 は水素原子あるいはメチル基を表す。jは0であり、kは1である。
【0107】
オニウム基を有する構成成分の具体例を以下に示す。ただし、本発明はこの具体例に限定されるものではない。
【0108】
【化7】
【0109】
【化8】
【0110】
中間層形成に用いる高分子化合物には、上記のようなオニウム基を有する構成成分を1モル%以上、好ましくは5モル%以上含むことが望ましい。オニウム基を有する構成成分が1モル%以上含まれると密着性が一層向上される。また、オニウム基を有する構成成分は1種類あるいは2種類以上組み合わせてもよい。さらに、中間層形成に用いる高分子化合物は、構成成分あるいは組成比あるいは分子量の異なるものを2種類以上混合して用いてもよい。
【0111】
また、この酸基と共にオニウム基をも有する高分子化合物においては、酸基を有する構成成分を20モル%以上、好ましくは40モル%以上含み、オニウム基を有する構成成分を1モル%以上、好ましくは5モル%以上含むことが望ましい。酸基を有する構成成分が20モル%以上含まれると、アルカリ現像時の溶解除去が一層促進され、また酸基とオニウム基との相乗効果により密着性がなお一層向上される。また、このオニウム基と共に酸基をも有する高分子化合物においても、構成成分あるいは組成比あるいは分子量の異なるものを2種類以上混合して用いてもよいことはいうまでもない。以下に、上記のオニウム基と共に酸基をも有する高分子化合物の代表的な例を示す。なお、ポリマー構造の組成比はモル百分率を表す。
【0112】
【化9】
【0113】
【化10】
【0114】
【化11】
【0115】
【化12】
【0116】
(中間層形成用高分子化合物の製法等)
上記のような中間層形成に用いる、酸基を有するあるいは酸基と共にオニウム基をも有する高分子化合物のいずれも、一般には、ラジカル連鎖重合法を用いて製造することができる(“Textbook of Polymer Science” 3rd ed,(1984)F.W.Billmeyer,A Wiley−Interscience Publication参照)。また、これらの高分子化合物の分子量は広範囲であってもよいが、光散乱法を用いて測定した時、重量平均分子量(Mw)が500〜2,000,000であることが好ましく、また2,000〜600,000の範囲であることが更に好ましい。また、この高分子化合物中に含まれる未反応モノマー量は広範囲であってもよいが、20重量%以下であることが好ましく、また10重量%以下であることがさらに好ましい。また、酸基と共にオニウム基をも有する高分子化合物の代表的な例の一つとして上記したp−ビニル安息香酸とビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドとの共重合体(表1のNo.1)を例にとって、その合成例を示せば次のとおりである。p−ビニル安息香酸[北興化学工業(株)製]146.9g(0.99mol)、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド44.2g(0.21mol)および2−メトキシエタノール446gを1Lの3口フラスコに取り、窒素気流下攪拌しながら、加熱し75℃に保った。次に2,2−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル2,76g(12mmol)を加え、攪拌を続けた。2時間後、2,2−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル2,76g(12mmol)を追加した。更に、2時間後、2,2−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル2.76g(12mmol)を追加した。2時間攪拌した後、室温まで放冷した。この反応液を攪拌下12Lの酢酸エチル中に注いだ。析出する固体を濾取し、乾燥した。その収量は189.5gであった。得られた固体は光散乱法で分子量測定を行った結果、重量平均分子量(Mw)は3.2万であった。他の高分子化合物も同様の方法で合成できる。
【0117】
(中間層の形成法)
中間層は、上記した酸基を有するあるいは酸基と共にオニウム基をも有する高分子化合物(以下単に「高分子化合物」という)を、上記した特定の水溶液で処理したアルミニウム支持体あるいは特定の水溶液処理後さらに酸性水溶液処理したアルミニウム支持体(以下単に「アルミニウム支持体」という)の上に種々の方法により塗布して設けられる。中間層を設けるために一般的に採用される方法の一つは、メタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤あるいはこれら有機溶剤と水との混合溶剤に高分子化合物を溶解させた溶液をアルミニウム支持体上に塗布し、乾燥して設ける方法であり、他の一つは、メタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤あるいはこれら有機溶剤と水との混合溶剤に高分子化合物を溶解させた溶液に、アルミニウム支持体を浸漬して高分子化合物を吸着させ、しかる後、水などによって洗浄し、乾燥して設ける方法である。前者の方法では、高分子化合物の0.005〜10重量%の濃度の溶液を種々の方法で塗布できる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布などいずれの方法を用いてもよい。また、後者の方法では、溶液の濃度は0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜5重量%であり、浸漬温度は20〜90℃、好ましくは25〜50℃であり、浸漬時間は0.1秒〜20分、好ましくは2秒〜1分である。
【0118】
上記の高分子化合物の溶液は、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化カリウムなどの塩基性物質や、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸などの無機酸、ニトロベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸、フェニルホスホン酸などの有機ホスホン酸、安息香酸、クマル酸、リンゴ酸などの有機カルボン酸など種々の有機酸性物質、ナフタレンスルホニルクロライド、ベンゼンスルホニルクロライドなどの有機酸クロライド等によりpHを調整し、pH=0〜12、より好ましくはpH=0〜5、の範囲で使用することもできる。また、感光性平版印刷版の調子再現性改良のために黄色染料を添加することもできる。高分子化合物の乾燥後の被覆量は、2〜100mg/m2 が適当であり、好ましくは5〜50mg/m2 である。上記被覆量が2mg/m2 よりも少ないと、十分な効果が得られない。また、100mg/m2 より多くても同様である。
【0119】
<バックコート層>
上述したようにして得られる支持体には、平版印刷版原版としたときに、重ねても記録層が傷付かないように、裏面(記録層が設けられない側の面)に、有機高分子化合物からなる被覆層(以下「バックコート層」ともいう。)を必要に応じて設けてもよい。
バックコート層の主成分としては、ガラス転移点が20℃以上の、飽和共重合ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂および塩化ビニリデン共重合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いるのが好ましい。特開平5−45885号公報記載の有機高分子化合物および特開平6−35174号公報記載の有機または無機金属化合物を加水分解および重縮合させて得られる金属酸化物からなる被覆層が好ましく用いられる。これらの被覆層のうち、Si(OCH3 )4 、Si(OC2 H5 )4 、Si(OC3 H7 )4 、Si(OC4 H9 )4 などの珪素のアルコキシ化合物が安価で入手し易く、それから与られる金属酸化物の被覆層が耐現像性に優れており好ましい。
【0120】
バックコート層に用いる飽和共重合ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸ユニットとジオールユニットとからなる。ジカルボン酸ユニットとしては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、シュウ酸、スベリン酸、セバチン酸、マロン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0121】
バックコート層は、更に、着色のための染料や顔料、支持体との密着性を向上させるためのシランカップリング剤、ジアゾニウム塩からなるジアゾ樹脂、有機ホスホン酸、有機リン酸、カチオン性ポリマー、滑り剤として通常用いられるワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、ジメチルシロキサンからなるシリコーン化合物、変性ジメチルシロキサン、ポリエチレン粉末等を適宜含有することができる。
【0122】
バックコート層の厚さは、基本的には合紙がなくても、後述する記録層を傷付けにくい程度であればよく、0.01〜8μmであるのが好ましい。厚さが0.01μm未満であると、平版印刷版原版を重ねて取り扱った場合の記録層の擦れ傷を防ぐことが困難である。また、厚さが8μmを超えると、印刷中、平版印刷版周辺で用いられる薬品によってバックコート層が膨潤して厚みが変動し、印圧が変化して印刷特性を劣化させることがある。
【0123】
バックコート層を支持体の裏面に設ける方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、上記バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解し溶液にして塗布し、または、乳化分散液にして塗布し、乾燥する方法;あらかじめフィルム状に成形したものを接着剤や熱での支持体に貼り合わせる方法;溶融押出機で溶融被膜を形成し、支持体に貼り合わせる方法が挙げられる。好適な厚さを確保するうえで最も好ましいのは、バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解し溶液にして塗布し、乾燥する方法である。この方法においては、特開昭62−251739号公報に記載されているような有機溶剤を単独でまたは混合して、溶媒として用いることができる。
【0124】
平版印刷版原版の製造においては、裏面のバックコート層と表面の記録層のどちらを先に支持体上に設けてもよく、また、両者を同時に設けてもよい。
【0125】
[平版印刷版原版]
本発明の平版印刷版原版は、このようにして得られる本発明の平版印刷版用支持体上に、赤外線レーザー露光により書き込み可能な記録層を設けることにより得られる。
<記録層>
本発明の平版印刷版原版においては、記録層が、
(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー、または、
(b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセル
を含有する感熱層であるのが好ましい。この感熱層を用いると、機上現像タイプの平版印刷版原版とすることができる。
【0126】
上記(a)および(b)に共通の熱反応性官能基としては、例えば、重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基)、付加反応を行うイソシアネート基またはそのブロック体、その反応相手である活性水素原子を有する官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基)、同じく付加反応を行うエポキシ基、その反応相手であるアミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基、縮合反応を行うカルボキシル基とヒドロキシル基またはアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物とアミノ基またはヒドロキシル基が挙げられる。本発明に用いられる熱反応性官能基は、これらに限定されず、化学結合が形成されるならば、どのような反応を行う官能基でもよい。
【0127】
(a)微粒子ポリマーに好適な熱反応性官能基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリルロイル基、ビニル基、アリル基、エポキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアネート基、酸無水物基およびそれらを保護した基が挙げられる。熱反応性官能基のポリマー粒子への導入は、ポリマーの重合時に行ってもよいし、重合後に高分子反応を利用して行ってもよい。
【0128】
熱反応性官能基をポリマーの重合時に導入する場合は、熱反応性官能基を有するモノマーを用いて乳化重合または懸濁重合を行うのが好ましい。
熱反応性官能基を有するモノマーの具体例としては、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ビニルメタクリレート、ビニルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、2−イソシアネートエチルメタクリレート、そのアルコールなどによるブロックイソシアネート、2−イソシアネートエチルアクリレート、そのアルコールなどによるブロックイソシアネート、2−アミノエチルメタクリレート、2−アミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、二官能アクリレート、二官能メタクリレートが挙げられる。本発明に用いられる熱反応性官能基を有するモノマーは、これらに限定されない。
これらのモノマーと共重合可能な、熱反応性官能基を有しないモノマーとしては、例えば、スチレン、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アクリロニトリル、酢酸ビニルが挙げられる。本発明に用いられる熱反応性官能基を有しないモノマーは、これらに限定されない。
【0129】
熱反応性官能基をポリマーの重合後に導入する場合に用いられる高分子反応としては、例えば、国際公開第96/34316号パンフレットに記載されている高分子反応が挙げられる。
【0130】
上記(a)微粒子ポリマーの中でも、微粒子ポリマー同士が熱により合体するものが好ましく、その表面が親水性で水に分散するものがより好ましい。また、微粒子ポリマーのみを塗布し、凝固温度よりも低い温度で乾燥して作製したときの皮膜の接触角(空中水滴)が、凝固温度よりも高い温度で乾燥して作製したときの皮膜の接触角(空中水滴)よりも低くなることが好ましい。
このように微粒子ポリマーの表面を親水性にするには、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の親水性ポリマーもしくはオリゴマー、または親水性低分子化合物を微粒子ポリマーの表面に吸着させればよいが、これらに限定されるものではない。
【0131】
(a)微粒子ポリマーの凝固温度は、70℃以上であるのが好ましいが、経時安定性を考えると100℃以上であるのがより好ましい。
(a)微粒子ポリマーの平均粒径は、0.01〜20μmであるのが好ましいが、その中でも0.05〜2.0μmであるのがより好ましく、0.1〜1.0μmであるのが好ましい。この範囲内で良好な解像度と経時安定性が得られる。
(a)微粒子ポリマーの添加量は、感熱層固形分の50質量%以上が好ましく、60質量%以上が更に好ましい。
【0132】
(b)マイクロカプセルに好適な熱反応性官能基としては、例えば、重合性不飽和基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、イソシアネートブロック体が挙げられる。
【0133】
重合性不飽和基を有する化合物としては、エチレン性不飽和結合、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物であるのが好ましい。そのような化合物群は当該産業分野において広く知られるものであり、本発明においては、これらを特に限定されずに用いることができる。これらは、化学的形態としては、モノマー、プレポリマー、即ち、二量体、三量体およびオリゴマー、またはそれらの混合物、およびそれらの共重合体である。
【0134】
具体的には、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸)、そのエステル、不飽和カルボン酸アミドが挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコールとのエステルおよび不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミンとのアミドが好ましい。
また、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルまたは不飽和カルボン酸アミドと単官能もしくは多官能のイソシアネートまたはエポキシドとの付加反応物、および、単官能もしくは多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に用いられる。
また、イソシアネート基、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルまたはアミドと、単官能もしくは多官能のアルコール、アミンまたはチオールとの付加反応物、および、ハロゲン基やトシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルまたはアミドと、単官能もしくは多官能アルコール、アミンまたはチオールとの置換反応物も好適である。
また、別の好適な例として、上記の不飽和カルボン酸を、不飽和ホスホン酸またはクロロメチルスチレンに置き換えた化合物が挙げられる。
【0135】
不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコールとのエステルである重合性化合物のうち、アクリル酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリス(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマーが挙げられる。
【0136】
メタクリル酸エステルとしては、例えば、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタンが挙げられる。
【0137】
イタコン酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネートが挙げられる。
【0138】
クロトン酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネートが挙げられる。
イソクロトン酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネートが挙げられる。
マレイン酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレートが挙げられる。
【0139】
その他のエステルとしては、例えば、特公昭46−27926号公報、同51−47334号公報、同57−196231号公報に記載されている脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240号公報、同59−5241号公報、特開平2−226149号公報に記載されている芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613号公報に記載されているアミノ基を含有するものが挙げられる。
【0140】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミドが挙げられる。
その他の好ましいアミド系モノマーとしては、例えば、特公昭54−21726号公報に記載されているシクロへキシレン構造を有するものが挙げられる。
【0141】
また、イソシアネートとヒドロキシル基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、具体的には、例えば、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記式(II)で示されるヒドロキシル基を有する不飽和モノマーを付加させて得られる、1分子中に2個以上の重合性不飽和基を含有するウレタン化合物が挙げられる。
CH2 =C(R1 )COOCH2 CH(R2 )OH (II)
(ただし、R1 およびR2 は、それぞれHまたはCH3 を表す。)
【0142】
また、特開昭51−37193号公報、特公平2−32293号公報、同2−16765号公報に記載されているようなウレタンアクリレートや、特公昭58−49860号公報、同56−17654号公報、同62−39417号公報、同62−39418号公報に記載されているエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物も好適なものとして挙げられる。
【0143】
更に、特開昭63−277653号公報、同63−260909号公報、特開平1−105238号公報に記載されている、分子内にアミノ構造やスルフィド構造を有するラジカル重合性化合物も好適なものとして挙げられる。
【0144】
その他の好適なものの例としては、特開昭48−64183号公報、特公昭49−43191号公報、同52−30490号公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートが挙げられる。また、特公昭46−43946号公報、特公平1−40337号公報、同1−40336号公報に記載されている特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号公報に記載されているビニルホスホン酸系化合物等も好適なものとして挙げられる。また、ある場合には、特開昭61−22048号公報に記載されているペルフルオロアルキル基を含有する化合物も好適に挙げられる。更に、日本接着協会誌、20巻7号、p.300〜308(1984年)に光硬化性モノマーおよびオリゴマーとして紹介されているものも好適に例示される。
【0145】
好適なエポキシ化合物としては、例えば、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ビスフェノール類もしくはポリフェノール類またはそれらの水素添加物のポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0146】
好適なイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、シクロヘキサンフェニレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、または、それらをアルコールもしくはアミンでブロックした化合物が挙げられる。
【0147】
好適なアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、プロピレンジアミン、ポリエチレンイミンが挙げられる。
【0148】
好適なヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、末端メチロール基を有する化合物、ペンタエリスリトール等の多価アルコール、ビスフェノール・ポリフェノール類が挙げられる。
好適なカルボキシル基を有する化合物としては、例えば、ピロメリット酸、トリメリット酸、フタル酸等の芳香族多価カルボン酸、アジピン酸等の脂肪族多価カルボン酸が挙げられる。
好適な酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物が挙げられる。
【0149】
エチレン状不飽和化合物の共重合体の好適なものとしては、例えば、アリルメタクリレートの共重合体が挙げられる。具体的には、例えば、アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、アリルメタクリレート/エチルメタクリレート共重合体、アリルメタクリレート/ブチルメタクリレート共重合体が挙げられる。
【0150】
マイクロカプセル化する方法としては、公知の方法が適用できる。例えば、マイクロカプセルの製造方法としては、米国特許第2,800,457号明細書、同第2,800,458号明細書に記載されているコアセルベーションを利用した方法、英国特許第99,0443号明細書、米国特許第3,287,154号明細書、特公昭38−19574号公報、同42−446号公報、同42−711号公報に記載されている界面重合法による方法、米国特許第3,418,250号明細書、同第3,660,304号明細書に記載されているポリマーの析出による方法、米国特許第3,796,669号明細書に記載されているイソシアネートポリオール壁材料を用いる方法、米国特許第3,914,511号明細書に記載されているイソシアネート壁材料を用いる方法、米国特許第4,001,140号明細書、同第4,087,376号明細書、同第4,089,802号明細書に記載されている尿素−ホルムアルデヒド系または尿素ホルムアルデヒド−レゾルシノール系壁形成材料を用いる方法、米国特許第4,025,445号明細書に記載されているメラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシセルロース等の壁材を用いる方法、特公昭36−9163号公報、同51−9079号公報に記載されているモノマー重合によるin situ法、英国特許第930,422号明細書、米国特許第3,111,407号明細書に記載されているスプレードライング法、英国特許第952,807号明細書、同第967,074号明細書に記載されている電解分散冷却法が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0151】
(b)マイクロカプセルに好適に用いられるマイクロカプセル壁は、三次元架橋を有し、溶剤によって膨潤する性質を有するものである。このような観点から、マイクロカプセルの壁材は、ポリウレア、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、またはこれらの混合物が好ましく、特に、ポリウレアおよびポリウレタンが好ましい。また、マイクロカプセル壁に熱反応性官能基を有する化合物を導入してもよい。
【0152】
(b)マイクロカプセルの平均粒径は、0.01〜20μmであるのが好ましく、0.05〜2.0μmであるのがより好ましく、0.10〜1.0μmであるのが特に好ましい。上記範囲内であると、良好な解像度と経時安定性が得られる。
【0153】
(b)マイクロカプセルは、カプセル同士が熱により合体してもよいし、合体しなくてもよい。要は、マイクロカプセル内包物のうち、塗布時にカプセル表面もしくはマイクロカプセル外に滲み出したもの、または、マイクロカプセル壁に浸入したものが、熱により化学反応を起こせばよい。添加された親水性樹脂、または、添加された低分子化合物と反応してもよい。また、2種以上のマイクロカプセルに、それぞれ異なる官能基で互いに熱反応するような官能基をもたせることによって、マイクロカプセル同士を反応させてもよい。
したがって、熱によってマイクロカプセル同士が、熱で溶融合体することは画像形成上好ましいことであるが、必須ではない。
【0154】
(b)マイクロカプセルの感熱層への添加量は、固形分換算で、10〜60質量%であるのが好ましく、15〜40質量%であるのがより好ましい。上記範囲であると、良好な機上現像性と同時に、良好な感度および耐刷性が得られる。
【0155】
(b)マイクロカプセルを感熱層に添加する場合、内包物が溶解し、かつ、壁材が膨潤する溶剤をマイクロカプセル分散媒中に添加することができる。このような溶剤によって、内包された熱反応性官能基を有する化合物の、マイクロカプセル外への拡散が促進される。
このような溶剤は、マイクロカプセル分散媒、マイクロカプセル壁の材質、壁厚および内包物に依存するが、多くの市販されている溶剤から容易に選択することができる。例えば、架橋ポリウレア、ポリウレタン壁からなる水分散性マイクロカプセルの場合、アルコール類、エーテル類、アセタール類、エステル類、ケトン類、多価アルコール類、アミド類、アミン類、脂肪酸類等が好ましい。
【0156】
具体的には、例えば、メタノール、エタノール、第三ブタノール、n−プロパノール、テトラヒドロフラン、乳酸メチル、乳酸エチル、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、γ−ブチルラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。また、これらの溶剤を2種以上併用してもよい。
【0157】
マイクロカプセル分散液には溶解しないが、上記溶剤を混合すれば溶解する溶剤も用いることができる。添加量は、素材の組み合わせにより決まるものであるが、通常、塗布液の5〜95質量%であるのが好ましく、10〜90質量%であるのがより好ましく、15〜85質量%であるのが特に好ましい。
【0158】
記録層として、上述した(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー、または、(b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセルを含有する感熱層を用いる場合には、必要に応じてこれらの反応を開始しまたは促進する化合物を添加してもよい。反応を開始しまたは促進する化合物としては、例えば、熱によりラジカルまたはカチオンを発生するような化合物が挙げられる。具体的には、例えば、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物、過酸化物、アゾ化合物、ジアゾニウム塩またはジフェニルヨードニウム塩などを含んだオニウム塩、アシルホスフィン、イミドスルホナートが挙げられる。
これらの化合物は、感熱層固形分の1〜20質量%の範囲で添加するのが好ましく、3〜10質量%の範囲であるのがより好ましい。上記範囲内であると、機上現像性を損なわず、良好な反応開始効果または反応促進効果が得られる。
【0159】
感熱層には親水性樹脂を添加してもよい。親水性樹脂を添加することにより機上現像性が良好となるばかりか、感熱層自体の皮膜強度も向上する。
親水性樹脂としては、ヒドロキシル、カルボキシル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、アミノ、アミノエチル、アミノプロピル、カルボキシメチル等の親水基を有するものが好ましい。
【0160】
親水性樹脂の具体例としては、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩、セルロースアセテート、アルギン酸ナトリウム、酢酸ビニル−マレイン酸コポリマー類、スチレン−マレイン酸コポリマー類、ポリアクリル酸類およびそれらの塩、ポリメタクリル酸類およびそれらの塩、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ポリエチレングリコール類、ヒドロキシプロピレンポリマー類、ポリビニルアルコール類、ならびに加水分解度が少なくとも60質量%、好ましくは少なくとも80質量%の加水分解ポリビニルアセテート、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー、メタクリルアミドのホモポリマーおよびポリマー、N−メチロールアクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマーが挙げられる。
【0161】
親水性樹脂の感熱層への添加量は、感熱層固形分の5〜40質量%であるのが好ましく、10〜30質量%であるのがより好ましい。上記範囲内であると、良好な機上現像性と皮膜強度が得られる。
【0162】
感熱層には、感度を向上させるため、赤外線を吸収して発熱する光熱変換剤を含有させることができる。かかる光熱変換剤は、700〜1200nmの少なくとも一部に吸収帯を有する光吸収物質であればよく、種々の顔料、染料および金属微粒子を用いることができる。
【0163】
顔料の種類としては、黒色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、例えば、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレンおよびペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラックが挙げられる。
【0164】
顔料は表面処理を施さずに用いてもよく、表面処理を施して用いてもよい。表面処理の方法としては、例えば、親水性樹脂や親油性樹脂を表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シリカゾル、アルミナゾル、シランカップリング剤やエポキシ化合物、イソシアネート化合物)を顔料表面に結合させる方法が挙げられる。上記表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)および「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。これらの顔料中、赤外線を吸収するものが、赤外線を発光するレーザでの利用に適する点で好ましい。かかる赤外線を吸収する顔料としてはカーボンブラックが好ましい。顔料の粒径は0. 01〜1μmの範囲にあるのが好ましく、0.01〜0.5μmの範囲にあるのがより好ましい。
【0165】
染料としては、市販の染料および、文献(例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)、「化学工業」1986年5月号P.45〜51の「近赤外吸収色素」、「90年代機能性色素の開発と市場動向」第2章2.3項(1990)シーエムシー)または特許に記載されている公知の染料が利用できる。
具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、ポリメチン染料、シアニン染料等の赤外線吸収染料が好ましい。
【0166】
更に、例えば、特開昭58−125246号公報、同59−84356号公報、同60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号公報、同58−181690号公報、同58−194595号等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号公報、同58−224793号公報、同59−48187号公報、同59−73996号公報、同60−52940号公報、同60−63744号等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号等に記載されているスクワリリウム染料、英国特許第434,875号明細書に記載されているシアニン染料、米国特許第4,756,993号明細書に記載されている染料、米国特許第4,973,572号明細書に記載されているシアニン染料、特開平10−268512号公報に記載されている染料、同11−235883号公報に記載されているフタロシアニン化合物が挙げられる。
【0167】
また、染料として米国特許第5,156,938号明細書に記載されている近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号明細書に記載されている置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号に記載されているトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号公報、同58−220143号公報、同59−41363号公報、同59−84248号公報、同59−84249号公報、同59−146063号公報、同59−146061号公報に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号公報に記載されているシアニン染料、米国特許第4,283,475号明細書に記載されているペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号公報、同5−19702号公報に記載されているピリリウム化合物、エポリン社製のエポライトIII−178、エポライトIII−130、エポライトIII−125等も好適に用いられる。
以下にいくつかの具体例を示す。
【0168】
【化13】
【0169】
【化14】
【0170】
上記の有機系の光熱変換剤は、感熱層中に30質量%までの範囲で添加するのが好ましい。より好ましくは5〜25質量%であり、特に好ましくは7〜20質量%である。上記範囲内であると、良好な感度が得られる。
【0171】
感熱層には、光熱変換剤として金属微粒子も用いることができる。金属微粒子の多くは光熱変換性であって、かつ自己発熱性である。好ましい金属微粒子として、例えば、Si、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Mo、Ag、Au、Pt、Pd、Rh、In、Sn、W、Te、Pb、Ge、Re、Sbの単体もしくは合金、または、それらの酸化物もしくは硫化物の微粒子が挙げられる。
これらの金属微粒子を構成する金属の中でも好ましい金属は、光照射時に熱による合体をしやすい、融点が約1000℃以下で赤外、可視または紫外線領域に吸収をもつ金属、例えば、Re、Sb、Te、Au、Ag、Cu、Ge、Pb、Snである。
また、特に好ましいのは、融点も比較的低く、赤外線に対する吸光度も比較的高い金属の微粒子、例えば、Ag、Au、Cu、Sb、Ge、Pbで、最も好ましい元素としては、Ag、Au、Cuが挙げられる。
【0172】
また、例えば、Re、Sb、Te、Au、Ag、Cu、Ge、Pb、Sn等の低融点金属の微粒子と、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、W、Ge等の自己発熱性金属の微粒子とを混合使用するなど、2種以上の光熱変換物質で構成されていてもよい。また、Ag、Pt、Pd等の、微小片としたときに光吸収が特に大きい金属種の微小片と他の金属微小片とを組み合わせて用いることも好ましい。
【0173】
これらの粒子の粒径は、10μm以下であるのが好ましく、0.003〜5μmであるのがより好ましく、0.01〜3μmであるのが特に好ましい。上記範囲内であると、良好な感度と解像力が得られる。
【0174】
本発明において、これらの金属微粒子を光熱変換剤として用いる場合、その添加量は、感熱層固形分の10質量%以上であるのが好ましく、20質量%以上であるのがより好ましく、30質量%以上であるのが特に好ましい。上記範囲内であると、高い感度が得られる。
【0175】
光熱変換剤は、感熱層の隣接層である下塗層や、後述する水溶性オーバーコート層が含有してもよい。感熱層、下塗層およびオーバーコート層のうち少なくとも一つの層が光熱変換剤を含有することにより、赤外線吸収効率が高まり、感度を向上させることができる。
【0176】
感熱層には、更に必要に応じて上記以外に種々の化合物を添加してもよい。例えば、耐刷力を一層向上させるために多官能モノマーを感熱層マトリックス中に添加することができる。この多官能モノマーとしては、マイクロカプセル中に入れられるモノマーとして例示したものを用いることができる。特に好ましいモノマーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレートを挙げることができる。
【0177】
また、感熱層には、画像形成後、画像部と非画像部との区別をつけやすくするため、可視光域に大きな吸収を持つ染料を画像の着色剤として使用することができる。具体的には、オイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業社製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)、特開昭62−293247号公報に記載されている染料が挙げられる。また、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、酸化チタン等の顔料も好適に用いることができる。添加量は、感熱層塗布液全固形分に対し0.01〜10質量%であるのが好ましい。
【0178】
また、本発明においては、感熱層塗布液の調製中または保存中においてエチレン性不飽和化合物の不要な熱重合を阻止するために、少量の熱重合防止剤を添加するのが好ましい。適当な熱重合防止剤としては、例えば、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4´−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩が挙げられる。熱重合防止剤の添加量は、全組成物の質量に対して約0.01〜5質量%であるのが好ましい。
【0179】
また必要に応じて、酸素による重合阻害を防止するためにベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸やその誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で感熱層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸やその誘導体の添加量は、感熱層固形分の約0.1〜約10質量%であるのが好ましい。
【0180】
更に、感熱層には、必要に応じ、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤を加えることができる。可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリルが挙げられる。
【0181】
感熱層は、必要な上記各成分を溶剤に溶かして塗布液を調製し、塗布される。ここで使用する溶剤としては、例えば、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチルラクトン、トルエン、水が挙げられるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独でまたは混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0182】
また、塗布し乾燥した後に得られる支持体上の感熱層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.5〜5.0g/m2 であるのが好ましい。上記範囲より塗布量が少なくなると、見かけの感度は大になるが、画像記録の機能を果たす感熱層の皮膜特性は低下する。塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布が挙げられる。
【0183】
感熱層塗布液には、塗布性を向上させるための界面活性剤、例えば、特開昭62−170950号公報に記載されているようなフッ素系界面活性剤を添加することができる。添加量は、感熱層全固形分の0.01〜1質量%であるのが好ましく、0.05〜0.5質量%であるのがより好ましい。
【0184】
本発明の平版印刷版原版においては、親油性物質による感熱層表面の汚染防止のため、感熱層上に、水溶性オーバーコート層を設けることができる。本発明に使用される水溶性オーバーコート層は印刷時に容易に除去できるものであり、水溶性の有機高分子化合物から選ばれた樹脂を含有する。
水溶性の有機高分子化合物としては、塗布乾燥によってできた被膜がフィルム形成能を有するものである。具体的には、ポリ酢酸ビニル(ただし、加水分解率65%以上のもの);ポリアクリル酸、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;ポリアクリル酸共重合体、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;ポリメタクリル酸、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;ポリメタクリル酸共重合体、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;ポリアクリルアミド、その共重合体;ポリヒドロキシエチルアクリレート;ポリビニルピロリドン、その共重合体;ポリビニルメチルエーテル;ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体;ポリ−2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;ポリ−2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸共重合体、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;アラビアガム;繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース)、その変性体;ホワイトデキストリン;プルラン;酵素分解エーテル化デキストリンが例示される。また、目的に応じて、これらを二種以上混合して用いることもできる。
【0185】
また、オーバーコート層には、前記の水溶性光熱変換剤を添加してもよい。更に、オーバーコート層には塗布の均一性を確保する目的で、水溶液塗布の場合には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル等の非イオン系界面活性剤を添加することができる。
オーバーコート層の乾燥塗布量は、0.1〜2.0g/m2 が好ましい。この範囲内で、機上現像性を損なわず、指紋付着汚れなどの親油性物質による感熱層表面の良好な汚染防止が可能となる。
【0186】
本発明の平版印刷版原版においては、記録層として、上述した(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー、または、(b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセルを含有する感熱層以外のものを用いることもできる。例えば、ネガ型赤外線レーザー記録材料を用いた感光(感熱)層、ポジ型赤外線レーザー記録材料を用いた感光(感熱)層、スルホネート型赤外線レーザー記録材料を用いた感光(感熱)層が挙げられる。
【0187】
本発明の平版印刷版原版を赤外線レーザーに露光可能なネガ型の平版印刷版原版、いわゆるサーマルネガタイプの平版印刷版原版とする場合には、ネガ型赤外線レーザー記録材料によって感光層を設けるのがよい。
ネガ型赤外線レーザー記録材料としては、(A)光または熱によって分解して酸を発生する化合物、(B)酸によって架橋する架橋剤、(C)アルカリ可溶性樹脂、(D)赤外線吸収剤、および(E)一般式(R3 −X)n −Ar−(OH)m で表される化合物(式中、R3 は炭素数6〜32のアルキル基またはアルケニル基を表し、Xは単結合、O、S、COOまたはCONHを表し、Arは芳香族炭化水素基、脂肪式炭化水素基または複素環基を表し、nは1〜3の整数を表し、mは1〜3の整数を表す。)からなる組成物が好適に用いられる。
【0188】
一般に、サーマルネガタイプの平版印刷版原版は、現像後に指紋が付きやすく、画像部の強度が弱いという欠点があるが、かかる欠点は上記組成物によって感光層を形成することで解消される。
【0189】
(A)光または熱によって分解して酸を発生する化合物としては、特願平3−140109号明細書(特開平04−365048号公報)に記載されているイミノスルフォネート等に代表される、光分解してスルホン酸を発生する化合物が挙げられ、200〜500nmの波長の照射、または100℃以上の加熱によって酸を発生する化合物が挙げられる。
好適な酸発生剤としては、例えば、光カチオン重合開始剤、光ラジカル重合の開始剤、色素類の光消色剤、光変色剤が挙げられる。これらの酸発生剤は、記録材料全固形分に対して、0.01〜50質量%添加されるのが好ましい。
【0190】
(B)酸によって架橋する架橋剤としては、例えば、(i)アルコキシメチル基またはヒドロキシル基で置換された芳香族化合物、(ii)N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基またはN−アシルオキシメチル基を有する化合物、(iii)エポキシ化合物が好適に挙げられる。
【0191】
(C)アルカリ可溶性樹脂としては、例えば、ノボラック樹脂や、側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマーが挙げられる。
【0192】
(D)赤外線吸収剤からなる組成物としては、例えば、760〜1200nmの赤外線を有効に吸収するアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料等の市販染料;カラーインデックスに記載されている黒色顔料、赤色顔料、金属粉顔料、フタロシアニン系顔料が挙げられる。また、画像の見やすさを向上させるためにオイルイエロー、オイルブルー#603等の画像着色剤を添加するのが好ましい。また、感光層塗膜の柔軟性改善のため、ポリエチレングリコールやフタル酸エステルのような可塑剤を添加することができる。
【0193】
また、本発明の平版印刷版原版を赤外線レーザーに露光可能なポジ型の平版印刷版原版、いわゆるサーマルポジタイプの平版印刷版原版とする場合には、ポジ型赤外線レーザー記録材料によって感光層を設けるのがよい。
ポジ型赤外線レーザー記録材料としては、(A)アルカリ可溶性高分子、(B)該アルカリ可溶性高分子と相溶してアルカリ溶解性を低下させる化合物、および(C)赤外レーザーを吸収する化合物からなるポジ型赤外線レーザー記録材料が好適に用いられる。
このポジ型赤外線レーザー記録材料を用いると、非画像部のアルカリ現像液に対する溶解性不足を解消でき、また、傷つきにくく、画像部の耐アルカリ現像適性に優れ、現像安定性のよい平版印刷版原版とすることができる。
【0194】
(A)アルカリ可溶性高分子としては、例えば、(i)フェノール樹脂、クレゾール樹脂、ノボラック樹脂、ピロガロール樹脂等に代表されるフェノール性ヒドロキシル基を有する高分子化合物、(ii)スルホンアミド基を有する重合モノマーを単独で重合させ、または、他の重合性モノマーと共重合させて得られた化合物、(iii)N−(p−トルエンスルホニル)メタクリルアミド、N−(p−トルエンスルホニル)アクリルアミド等に代表される活性イミド基を分子内に有する化合物が挙げられる。
【0195】
(B)上記(A)成分と相溶してアルカリ溶解性を低下させる化合物としては、例えば、スルホン化合物、アンモニウム塩、スルホニウム塩、アミド化合物等の上記(A)成分と相互作用する化合物が挙げられる。例えば、上記(A)成分がノボラック樹脂の場合には、(B)成分としては、シアニン色素が好適に挙げられる。
【0196】
(C)赤外レーザーを吸収する化合物としては、750〜1200nmの赤外域に吸収域があり、光/熱変換能を有する材料が好ましい。このような機能を有するものとしては、例えば、スクワリリウム色素、ピリリウム塩色素、カーボンブラック、不溶性アゾ染料、アントラキノン系染料が挙げられる。これらは、0.01〜10μmの範囲の大きさであるのが好ましい。
【0197】
サーマルポジタイプの平版印刷版原版は、このポジ型赤外線レーザー記録材料を、メタノール、メチルエチルケトン等の有機溶媒に溶解し、必要に応じて、染料を添加し、支持体上に乾燥後の質量が1〜3g/m2 となるように塗布し乾燥することにより得ることができる。
【0198】
また、本発明の平版印刷版原版には、記録層として、スルホネート型赤外線レーザー記録材料を用いてもよい。
スルホネート型赤外線レーザー記録材料としては、例えば、特許第270480号明細書、特許第2704872号明細書等に記載されているスルホネート化合物を用いることができる。また、赤外線レーザー照射によって発生した熱によってスルホン酸を発生し、水に可溶化する感光材料や、スチレンスルホン酸エステルをゾルゲルで固め、その後赤外線レーザーを照射することで表面極性が変化する感光材料や、特願平9−89816号明細書(特開平10−282646号公報)、特願平10−22406号明細書(特開平11−218928号公報)、特願平10−027655号明細書(特開平10−282672号公報)に記載されているレーザー露光によって疎水性表面が親水性に変化する感光材料等を用いることもできる。
【0199】
また、この熱によってスルホン酸基を発生しうる高分子化合物からなる感光層の特性を更に改善するためには、つぎに挙げる方法を併用するのが好ましい。かかる方法としては、例えば、(1)特願平10−7062号明細書(特開平11−202483号公報)に記載された酸または塩基発生剤との併用による方法、(2)特願平9−340358号明細書(特開平11−174685号公報)に記載された特定の中間層を設ける方法、(3)特願平9−248994号明細書(特開平11−84658号公報)に記載された特定の架橋剤を併用する方法、(4)特願平10−115354号明細書(特開平11−301131号公報)に記載された固体粒子表面修飾の様態で使用する方法を挙げることができる。
【0200】
更に、レーザー露光によって発生する熱を利用して感光層の親/疎水性を変化させる組成物の他の例としては、例えば、米国特許第2,764,085号明細書に記載されているWerner錯体からなる熱によって疎水性に変化する組成物、特公昭46−27219号公報に記載されている特定の糖類、メラミンホルムアルデヒド樹脂等の露光によって親水性に変化する組成物、特開昭51−63704号公報に記載されているヒートモード露光によって疎水性に変化する組成物、米国特許第4,081,572号明細書に記載されているフタリルヒドラジドポリマーのように熱によって脱水/疎水化するポリマーからなる組成物、特公平3−58100号公報に記載されているテトラゾリウム塩構造を有し熱によって親水化する組成物、特開昭60−132760号公報に記載されているスルホン酸変性ポリマーからなる露光によって疎水化する組成物、特開昭64−3543号公報に記載されているイミド前駆体ポリマーからなる露光によって疎水化する組成物、特開昭51−74706号公報に記載されているフッ化炭素ポリマーからなる露光によって親水化する組成物が挙げられ、これらの組成物を用いて記録層を形成することができる。
【0201】
更に、特開平3−197190号公報に記載されている疎水性結晶性ポリマーからなる露光によって親水性に変化する組成物、特開平7−186562号公報に記載されている熱によって不溶化された側基が親水性に変化するポリマーと光熱変換剤からなる組成物、特開平7−1849号公報に記載されているマイクロカプセルを含有する三次元架橋された親水性バインダーからなり露光によって疎水化する組成物、特開平8−3463号公報に記載されている原子価異性化またはプロトン移動異性化する組成物、特開平8−141819号公報に記載されている熱によって層内の相構造変化(相溶化)を生じ、親/疎水性を変化させる組成物、特公昭60−228号公報に記載されている熱によって表面の形態、表面の親/疎水性が変化する組成物が挙げられ、これらの組成物を用いて記録層を形成することができる。
【0202】
本発明において、記録層に用いられる好ましい記録材料の他の例としては、高パワーおよび高密度のレーザー光によって発生した熱を利用する、いわゆるヒートモード露光によって、感光層と支持体との間の接着性を変化させる組成物が挙げられる。具体的には、特公昭44−22957号公報に記載されている熱融着性物質または熱反応性物質からなる組成物が挙げられる。
【0203】
以下、本発明の平版印刷版用支持体の好適な態様であるアルミニウム支持体の製造装置について説明する。
本発明の平版印刷版用支持体の好適な態様であるアルミニウム支持体の製造過程としては、(1)圧延され、コイル状に巻き取られたアルミニウム板を多軸ターレットからなる送り出し装置から送り出し、(2)上記各処理(機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理、アルカリエッチング処理、酸性エッチング処理、デスマット処理、陽極酸化処理、ポアワイド処理(酸処理またはアルカリ処理)、ポリビニルホスホン酸を含む水溶液で処理および・またはケイ酸化合物を含有する水溶液で処理、その上に、酸基を含有する高分子化合物を設けた後、アルミニウム板を乾燥処理し、(3)アルミニウム板を上記多軸ターレットからなる巻き取り装置にてコイル状に巻き取り、または、アルミニウム板の平面性を矯正し、その後、所定の長さにカットして集積するのが好ましい。また、必要に応じ、上記過程において、下塗層や記録層を形成して乾燥処理する工程を設け、平版印刷版原版としてから上記巻取り装置によりコイル状に巻き取ってもよい。
【0204】
また、アルミニウム支持体の製造においては、アルミニウム板の表面の欠陥を検査する装置を用いて、該欠陥を連続的に検査し、発見した欠陥部のエッジ部分に目印のラベルを貼る工程を、1工程以上有するのが好ましい。更に、本発明の平版印刷版原版の製造においては、アルミニウム板の送り出し工程および巻き取り工程において、アルミコイルの交換の際に、該アルミニウム板の走行を停止しても、上記各工程におけるアルミニウム板の走行速度を一定に保つようなリザーバ装置を設けることが好ましく、上記アルミコイルの送り出し工程の後には、アルミニウム板を超音波またはアーク溶接にて接合する工程を設けるのが好ましい。
【0205】
アルミニウム支持体の製造に用いられる装置は、アルミニウム板の走行位置を検出し、走行位置を矯正する装置を1個以上有するのが好ましく、また、アルミニウム板の張力カットおよび走行速度制御を目的とした駆動装置と、張力制御を目的としたダンサロール装置とをそれぞれ1個以上有するのが好ましい。
また、トラッキング装置にて各工程の状態が所望の条件か否かを記録し、アルミニウムコイルが巻き取られる前に、アルミニウムウェブのエッジ部にラベルを貼り、そのラベルよりも後が所望の条件か否かをのちに判別できるようにするのも好ましい。
【0206】
本発明においては、アルミニウム板は、合紙とともに帯電させて互いに吸着させ、その後所定の長さにカット、および/または、スリットすることが好ましい。また、アルミニウム板のエッジ部分に貼られたラベルの情報をもとに、所定の長さに裁断した後または裁断する前に、そのラベルを目印として良品部分と欠陥部分とを分別し、良品部分のみを集積するのが好ましい。
【0207】
上記送り出し工程等を含む各工程では、アルミニウム板のサイズ(厚さおよび幅)、アルミニウムの材質またはアルミニウムウェブの走行速度によって、それぞれの条件で最適な張力を設定することが重要である。そこで、張力カットと走行速度制御を目的とした駆動装置と、張力制御を目的としたダンサーロールとを利用し、張力感知装置からの信号をフィードバック制御する張力制御装置を複数設けるのが好ましい。駆動装置は、直流モーターと主駆動ローラを組み合わせた制御方法を用いるのが一般的である。主駆動ローラは一般的なゴムを材質とするが、アルミニウムウェブがwetな状態にある工程では不織布を積層して作製されたローラを用いることができる。また、各パスローラとしては、ゴムまたは金属が一般的に用いられるが、アルミニウムウェブとスリップを起こしやすい箇所ではこのスリップを防止するために、各パスローラにモーターや減速機を接続し、主駆動装置からの信号によって一定速度で回転制御するなど補助的な駆動装置を設けることもできる。
【0208】
本発明に用いられるアルミニウム支持体は、特開平10−114046号公報に記載されているように、圧延方向の算術平均粗さ(Ra )をR1 とし、幅方向の算術平均粗さ(Ra )をR2 とした場合に、R1 −R2 が、R1 の30%以内であるのが好ましく、また、圧延方向の平均曲率が1.5×10−3mm−1以下、幅方向の平均曲率が1.5×10−3mm−1以下、圧延方向と垂直な方向の平均曲率が1.0×10−3mm−1以下であるのが好ましい。
また、上記粗面化処理等を施して製造されたアルミニウム支持体は、ロール直径20〜80mm、ゴム硬度50〜95度の矯正ロールを用いて矯正するのが好ましい。これにより、平版感光印刷機の自動搬送工程においても、平版印刷版原版の露光ズレが起きないフラットネスのアルミニウムコイル状素板を供給することができる。特開平9−194093号公報には、ウェブのカール測定方法および装置、カール修正方法および装置、ならびにウェブ切断装置が記載されており、本発明においてもこれらを用いることができる。
【0209】
また、連続的にアルミニウム支持体を製造するにあたり、各工程が適切な条件で稼働しているかを電気的に監視し、トラッキング装置にて各工程の状態が所望の条件か否かを記録し、アルミニウムコイルが巻き取られる前に、アルミニウムウェブのエッジ部にラベルを貼り、そのラベルよりも後が所望の条件か否かを、後から判別できるようにすることで、裁断時、集積時にその部分の良否を判定することができる。
【0210】
上述の粗面化処理に用いられるアルミニウム板の処理装置は、液の温度、比重、電導度、超音波の伝搬速度のうち、一つ以上を測定し、液の組成を求め、フィードバック制御、および/または、フィードフォワード制御して液濃度を一定にコントロールするのが好ましい。
上記処理装置中の酸性水溶液にはアルミニウムイオンを初めとするアルミニウム板中に含まれる成分がアルミニウム板の表面処理の進行に伴って溶解する。そこで、アルミニウムイオン濃度と酸またはアルカリの濃度を一定にするために、水と酸、または、水とアルカリを間欠的に添加して液組成を一定に保つのが好ましい。ここで添加する酸またはアルカリの濃度は、10〜98質量%であるのが好ましい。
【0211】
上記酸またはアルカリの濃度を制御するには、例えば、以下の方法が好ましい。
まず、あらかじめ使用が予定されている濃度範囲の成分液ごとの導電率、比重または超音波の伝搬速度を各温度毎に測定してデータテーブルを作成する。そして、被測定液の導電率、比重または超音波の伝搬速度と温度データをあらかじめ作成した非測定液のデータテーブルを参照して濃度を測定する。上記超音波の伝搬時間を高精度・高安定に測定する方法は、特開平6−235721号公報に記載されている。また、上記超音波の伝搬速度を利用した濃度測定システムについては、特開昭58−77656号公報に記載されている。また、複数の物理量データを液成分ごとに相関を示すデータテーブルを作成しておき、そのデータテーブルを参照して多成分液の濃度を測定する方法は、特開平4−19559号公報に記載されている。
【0212】
上記超音波の伝搬速度を用いた濃度測定方法を被測定液の導電率と温度の値と組み合わせて、アルミニウム支持体の粗面化工程に応用すると、プロセスの管理がリアルタイムで正確に行えるため、一定品質の製品が製造できるようになり、得率の向上につながる。また、温度と超音波の伝搬速度と導電率との組み合わせだけでなく、温度と比重、温度と導電率、温度と導電率と比重等、それぞれの物理量で濃度および温度ごとにデータテーブルを作成しておき、そのデータテーブルを参照して多成分液の濃度測定する方法をアルミニウム支持体の粗面化処理工程に応用すると、前記と同様な効果が得られる。
また、比重と温度とを測定し、あらかじめ作成しておいたデータテーブルを参照して被測定物のスラリー濃度を求めることによって、スラリー濃度の測定も迅速にかつ正確に行えるようになる。
【0213】
上記超音波の伝搬速度測定は液中の気泡の影響を受けやすいため、垂直に配置され、かつ、下方から上方に向かう流速のある配管中で行われるのがより好ましい。上記超音波の伝搬速度測定は、配管内の圧力が1〜10kg/cm2 の圧力範囲内で行うことが好ましく、超音波の周波数は0.5〜3MHzであるのが好ましい。
また、上記比重、導電率、超音波の伝搬速度の測定は温度の影響を受けやすいため、保温状態にあり、かつ温度変動が±0.3℃以内に制御された配管内で測定するのが好ましい。更に、導電率および比重、または、導電率と超音波の伝搬速度とは同一温度で測定するのが好ましいので、同一の配管内または同一の配管フロー内で測定するのが特に好ましい。測定の際の圧力変動は温度の変動につながるので可能な限り低い方が好ましい。また、測定する配管内の流速分布もできるだけ少ない方が好ましい。更に、上記測定はスラリー、ゴミ、および気泡の影響を受けやすいので、フィルターや脱気装置等を通した液を測定するのが好ましい。
【0214】
このようにして得られる本発明の平版印刷版原版は熱により画像形成される。具体的には、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザによる走査露光、キセノン放電灯等の高照度フラッシュ露光、赤外線ランプの固体高出力赤外線レーザによる露光が好適である。
【0215】
本発明の平版印刷版原版は、 記録層が(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー、または、(b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセルを含有する、いわゆる機上現像タイプの感熱層である場合には、画像露光後、それ以上の処理なしに印刷機に装着し、インキおよび/または湿し水を用いて通常の手順で印刷することができる。また、特許第2938398号明細書に記載されているように、印刷機シリンダー上に取りつけた後に、印刷機に搭載されたレーザーにより露光し、その後にインキおよび/または湿し水をつけて機上現像することも可能である。これらの場合、印刷機上でインキおよび/または湿し水により感熱層が除去されるので、別個の現像工程を必要とせず、また、現像後、印刷のために印刷機を止める必要もなく、現像が終わり次第、引き続き印刷を行うことができる。
即ち、本発明の平版印刷版の製版および印刷方法は、機上現像タイプの感熱層を設けてなる平版印刷版原版を、レーザー光によって画像露光しそのまま印刷機に取り付けて印刷するか、または、印刷機に取り付けた後にレーザー光によって画像露光しそのまま印刷することを特徴とする。レーザー光としては、波長760〜1200nmの赤外線を放射する、固体レーザーまたは半導体レーザーを用いることができる。
なお、機上現像タイプの感熱層を有する場合においても、水または適当な水溶液を現像液とする現像をした後、印刷に用いることができる。
【0216】
また、本発明の平版印刷版原版は、 従来のサーマルポジタイプまたはサーマルネガタイプの記録層等を有する場合には、常法に従い、画像露光後、現像液により現像して、印刷機に装着し、印刷に供することができる。
【0217】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0218】
1.平版印刷版用支持体(アルミニウム支持体)の製造
(支持体製造例1)
Si:0.073質量%、Fe:0.270質量%、Cu:0.028質量%、Mn:0.001質量%、Mg:0.000質量%、Cr:0.001質量%、Zn:0.003質量%、Ti:0.020質量%を含有し、残部はAlと不可避不純物とからなるアルミニウム合金を用いて溶湯を調製し、本発明の実施例および比較例に用いるアルミニウム板を以下のようにして作製した。
まず、アルミニウム合金溶湯に、脱ガスおよびろ過からなる溶湯処理を施し、DC鋳造法で厚さ500mmの鋳塊を作製した。得られた鋳塊の表面を10mm面削した後、鋳塊を加熱し、均熱化処理を行わずに400℃で熱間圧延を開始し、板厚4mmになるまで圧延した。つぎに、冷間圧延で厚さ1.5mmにし、中間焼鈍を行った後、再度冷間圧延で0.24mmに仕上げ、平面性を矯正して、アルミニウム板を得た。
【0219】
得られたアルミニウム板について、下記に示す(1)〜(13)の手順で表面処理を行った。なお、各表面処理および水洗の後にはニップローラで液切りを行った。水洗は、スプレー管から水を吹き付けて行った。
【0220】
(1)機械的粗面化処理
比重1.12のケイ砂(研磨剤、平均粒径25μm)と水との懸濁液を研磨スラリー液として、スプレー管によってアルミニウム板の表面に供給しながら、ナイロンブラシが回転するブラシローラを用いて機械的粗面化処理を行った。
使用したナイロンブラシの材質は6,10−ナイロンであり、毛長は50mmであり、毛の直径は0.48mmであった。このナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛されたものである。
また、ブラシローラには、ナイロンブラシが3本使用されており、ブラシ下部に備えられた2本の支持ローラ(φ200mm)間の距離は300mmであった。
上記ブラシローラは、ブラシを回転させる駆動モータの負荷を、ナイロンブラシがアルミニウム板に押さえつけられる前の負荷に対して管理し、粗面化後のアルミニウム板の平均算術粗さ(Ra )が0.45μmになるように押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。その後、水洗を行った。
また、研磨剤の濃度は、あらかじめ研磨剤濃度と温度と比重との関係から作成したテーブルを参照し、温度および比重から研磨剤濃度を求め、フィードバック制御によって水と研磨剤とを添加し、上記研磨剤の濃度を一定に保った。また、研磨剤が粉砕して粒度が小さくなると粗面化されたアルミニウム板の表面形状が変化するので、サイクロンによって粒度の小さな研磨剤は系外に逐次排出した。研磨剤の粒径は1〜35μmの範囲であった。
【0221】
(2)アルカリエッチング処理
NaOH、27質量%およびアルミニウムイオン6.5質量%を含有する液温70℃の水溶液をスプレー管によってアルミニウム板に吹き付けて、アルカリエッチング処理を行った。アルミニウム板の、後に電気化学的粗面化処理を行う面の溶解量は8g/m2 であり、その裏面の溶解量は2g/m2 であった。
アルカリエッチング処理に用いたエッチング液の濃度は、あらかじめNaOH濃度と、アルミニウムイオン濃度と、温度と、比重と、液の導電率との関係から作成したテーブルを参照し、温度、比重、および導電率からエッチング液濃度を求め、フィードバック制御によって水と48質量%NaOH水溶液とを添加することにより一定に保った。その後、水洗を行った。
【0222】
(3)デスマット処理
液温35℃の硝酸水溶液をスプレーを用いてアルミニウム板に吹き付けて、10秒間デスマット処理を行った。硝酸水溶液は、次の工程で用いる電解装置からのオーバーフロー廃液を使用した。ついで、デスマット処理液を吹き付けるスプレー管を数カ所設置して、次の工程までアルミニウム板の表面が乾かないようにした。
【0223】
(4)電気化学的粗面化処理
図1に示した台形波の交流電流と図2に示した電解装置2槽とを用いて連続的に電気化学的粗面化処理を行った。酸性水溶液としては、硝酸1質量%の硝酸水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%およびアンモニウムイオン0.007質量%を含む。)を用いた。液温は50℃であった。また、交流電流は、電流値がゼロからカソードサイクル側およびアノードサイクル側のピークに達するまでの時間tpおよびtp´が1msecであり、カーボン電極を対極とした。交流電流のピーク時の電流密度は、アルミニウム板が陽極時および陰極時ともに50A/dm2 であり、交流電流の陰極時電気量(QC )と陽極時電気量(QA )との比(QC /QA )は0.95であり、duty比は0.50であり、周波数は60Hzであり、陽極時の電気量の総和は180C/dm2 であった。その後、スプレーによって水洗を行った。
硝酸水溶液の濃度コントロールは、67質量%の硝酸原液と水とを、通電量に比例して添加し、硝酸と水との添加容積と同量の酸性水溶液(硝酸水溶液)を逐次電解装置からオーバーフローさせて電解装置系外に排出して行った。また、これとともに、あらかじめ硝酸濃度とアルミニウムイオン濃度と温度と液の導電率と液の超音波伝搬速度との関係から作成したテーブルを参照し、硝酸水溶液の温度、導電率、超音波伝搬速度から該硝酸水溶液の濃度を求め、硝酸原液と水との添加量を逐次調整する制御を行って濃度を一定に保った。
【0224】
(5)アルカリエッチング処理2
NaOH、26質量%およびアルミニウムイオン6.5質量%を含有する液温45℃の水溶液を、アルミニウム板にスプレーを用いて吹き付けて、アルカリエッチング処理を行った。アルミニウム板の溶解量は3g/m2 であった。エッチング液の濃度はあらかじめNaOH濃度とアルミニウムイオン濃度と温度と比重と液の導電率との関係から作成したテーブルを参照し、温度、比重および導電率からエッチング液濃度を求め、フィードバック制御によって水と48質量%NaOH水溶液とを添加して、一定に保った。その後、水洗を行った。
【0225】
(6)酸性エッチング処理
硫酸(硫酸濃度300g/L、アルミニウムイオン濃度15g/L)を酸性エッチング液とし、これをスプレー管から80℃で7秒間アルミニウム板に吹き付けて、酸性エッチング処理を行った。酸性エッチング液の濃度は、あらかじめ硫酸濃度とアルミニウムイオン濃度と温度と比重と液の導電率との関係から作成したテーブルを参照して、温度、比重および導電率から酸性エッチング液濃度を求め、フィードバック制御によって水と50質量%硫酸とを添加して、一定に保った。その後、水洗を行った。
【0226】
(7)電気化学的粗面化処理2
上記(4)の電気化学的粗面化処理の電解液を塩酸とし、陽極時の電気量の総和を50C/dm2 とした以外は上記(4)と同様に電気化学的粗面化処理を行った。
(8)アルカリエッチング処理3
NaOH、5質量%、アルミニウム板の溶解量を0.2g/m2 としたことを除き、上記(5)のアルカリエッチング処理2と同様にアルカリエッチング処理を行った。
【0227】
(9)酸性エッチング処理2
上記(6)の酸性エッチング処理と同様に行った。
(10)陽極酸化処理
硫酸濃度100g/Lの水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%を含む。)を陽極酸化溶液として用いて、直流電圧を用い、電流密度25A/dm2 、温度50℃、30秒の条件でアルミニウム板の陽極酸化処理を行い、陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理液の濃度は、あらかじめ硫酸濃度、アルミニウムイオン濃度、温度、比重および液の導電率の関係から作成したテーブルを参照して、温度、比重および導電率から液濃度を求め、フィードバック制御によって水と50質量%硫酸とを添加して、一定に保った。その後、スプレーによって水洗を行った。
【0228】
(11)ポアワイド処理
陽極酸化処理後のアルミニウム板をpH13のNaOH水溶液に50℃で1分間浸せきして、ポアワイド処理を行った。その後、水洗を行った。
【0229】
(12)特定の水溶液での処理
(実施例1〜4)
ポアワイド処理後のアルミニウム板を、ポリビニルホスホン酸水溶液および3号ケイ酸ナトリウム水溶液を濃度がそれぞれ第2表に示すように井水を用いて調製した水溶液を用いて、第2表に示す温度、時間でそれぞれ浸せき処理した。その後、水洗を行った。
(比較例1〜4)
ポアワイド処理後のアルミニウム板を、第2表に示す水溶液を濃度がそれぞれ第2表に示すように井水を用いて調製して、第2表に示す温度、時間でそれぞれ浸せき処理した。その後、水洗を行った。なし、との記載は第2回目の処理である第2水溶液処理がされなかったことを示す。
【0230】
(13)中間層
第2表に示すポリマーAは、前述の表1. 代表的な高分子化合物の例のNo. 2の高分子化合物を0.1g、メタノール100g、水1gの溶液として、塗布し、80℃、15秒間乾燥した。乾燥後の被覆量は、15mg/m2 であった。比較例3は、ポリマーではなくモノマーとしてトリエタノールアミンとβ−アラニンとをそれぞれ0.1g、0.1g、をメタノール100g、水1gとの溶液として用いた。比較例4は中間層を設けなかった。
【0231】
2.X線光電子分光法による測定
上記で得られた本発明の支持体1〜4ならびに比較用の支持体5〜8について、X線光電子分光法(ESCA、Electron SpectroscopyChemical Analysis)を行った。ESCAの条件を以下に示す。
装置:ESCA PHI−5400MC、アルバック・ファイ社製
X線源:Mg−Kα(400W)
パルスエネルギー:71.55eV/178.95eV
take off angle:45度
【0232】
得られたリン(2p)、ケイ素(2p)およびアルミニウム(2p)のピーク面積から、上記式(1)における(A+B)/(A+B+C)の値を算出した。
結果を第2表に示した。
【0233】
3.微粒子ポリマーの合成およびマイクロカプセルの調製
(1)微粒子ポリマーの合成
アリルメタクリレート7.5g、ブチルメタクリレート7.5g、ポリオキシエチレンノニルフェノール水溶液(濃度9.84×10−3mol/L)200mlを加え、250rpmでかくはんしながら、系内を窒素ガスで置換した。この液を25℃にした後、セリウム(IV)アンモニウム塩水溶液(濃度0.984×10−3mol/L)10mlを添加した。この際、硝酸アンモニウム水溶液(濃度58.8×10−3mol/L)を加え、pHを1.3〜1.4に調整した。その後、8時間かくはんして、微粒子ポリマーを含有する液を得た。得られた液の固形分濃度は9.5%であり、微粒子ポリマーの平均粒径は0.2μmであった。
【0234】
(2)マイクロカプセルの調製
キシレンジイソシアネート40g、トリメチロールプロパンジアクリレート10g、アリルメタクリレートとブチルメタクリレートの共重合体(モル比7/3)10gおよび界面活性剤(パイオニンA41C、竹本油脂社製)0.1gを酢酸エチル60gに溶解させて、油相成分とした。一方、ポリビニルアルコール(PVA205、クラレ社製)の4%水溶液を120g調製し、水相成分とした。油相成分および水相成分をホモジナイザーに投入し、10000rpmで用いて乳化させた。その後、水を40g添加し、室温で30分かくはんし、更に40℃で3時間かくはんし、マイクロカプセル液を得た。得られたマイクロカプセル液の固形分濃度は20質量%であり、マイクロカプセルの平均粒径は0.2μmであった。
【0235】
4.平版印刷版原版の作製
(実施例1〜4ならびに比較例1〜4)
上記で得られた本発明の支持体ならびに比較例の支持体に、下記組成の感熱層(1)、(2)、(3)、(4)塗布液を塗布し、オーブンにて60℃で150秒間乾燥して、実施例1〜4ならびに比較例1〜4の平版印刷版原版を得た。感熱層の種類およびそれぞれの塗布量(乾燥量)を第1表に示した。
【0236】
<感熱層(1)塗布液組成>
・上記で合成した微粒子ポリマーを含有する液 5g(固形分)
・ポリヒドロキシエチルアクリレート(重量平均分子量2.5万)0.5g
・光熱変換剤{本明細書記載の構造式(IR−11)} 0.3g
・水 100g
【0237】
<感熱層(2)塗布液組成>
・上記で合成したマイクロカプセル液 5g(固形分)
・トリメチロールプロパントリアクリレート 3g
・光熱変換剤{本明細書記載の構造式(IR−11)} 0.3g
・水 60g
・1−メトキシ−2−プロパノール 40g
【0238】
<感熱層(3)塗布液>
感熱層(3)は、重層型のサーマルポジタイプの画像記録層であり、以下のようにして形成させた。
下記組成の第一層用塗布液を調製し、中間層を形成させた平版印刷版用支持体に、この第一層用塗布液を乾燥後の塗布量が0.8g/m2 になるよう塗布し、140℃で60秒間乾燥させて第一層を形成させた。ついで、下記組成の第二層用塗布液を調製し、第一層を形成させた平版印刷版用支持体に、この第二層用塗布液を乾燥後の塗布量が0.2g/m2 になるよう塗布し、140℃で50秒間乾燥させて第二層を形成させ、重層型のサーマルポジタイプの画像記録層を有する平版印刷版原版を得た。
【0239】
(第一層用塗布液組成)
・N−(4−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル(モル比36/34/30、重量平均分子量50,000、酸価2.65) 2.133g
・下記式で表されるシアニン染料A 0.109g
・4,4′−ビスヒドロキシフェニルスルホン 0.126g
・シス−Δ4 −テトラヒドロフタル酸無水物 0.190g
・p−トルエンスルホン酸 0.008g
・3−メトキシ−4−ジアゾジフェニルアミンヘキサフルオロホスフェート 0.030g
・エチルバイオレットの対イオンを6−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホンに変えたもの 0.100g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、大日本インキ化学工業社製、30質量%溶液) 0.023g(溶液として)
・メチルエチルケトン 25.41g
・1−メトキシ−2−プロパノール 13.0g
・γ−ブチロラクトン 13.2g
【0240】
【化15】
【0241】
(第二層用塗布液組成)
・m,p−クレゾール−ノボラック樹脂(m/p比=6/4、重量平均分子量4,500、未反応クレゾール0.8質量%含有) 0.3479g
・上記式で表されるシアニン染料A 0.0192g
・エチルメタクリレート/モノ−2−(メタクリロイルオキシ)エチルコハク酸エステル共重合体(モル比67/33)の30質量%1−メトキシ−2−プロパノール溶液 0.1403g(溶液として)
・下記式で表される化合物Y 0.0043g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、大日本インキ化学工業社製、30質量%溶液) 0.015g(溶液として)
・含フッ素化合物(メガファックF−781、大日本インキ化学工業社製)0.0033g
・メチルエチルケトン 10.39g
・1−メトキシ−2−プロパノール 20.78g
【0242】
【化16】
【0243】
<感熱層(4)塗布液>
下記組成の感熱層(4)塗布液を調製し、上記で得られた親水性層を有する平版印刷版用支持体に、この感熱層塗布液を乾燥後の塗布量(感熱層塗布量)が1.3g/m2 になるよう塗布し、温風式乾燥装置により122℃で27秒乾燥させて感熱層(サーマルネガタイプの画像記録層)を形成させ、平版印刷版原版を得た。
【0244】
(感熱層(4)塗布液組成)
・赤外線吸収剤[IR−1] 0.074g
・重合開始剤[OS−12] 0.280g
・添加剤[PM−1] 0.151g
・重合性化合物[AM−1] 1.00g
・バインダーポリマー[BT−1] 1.00g
・エチルバイオレット[C−1] 0.04g
・フッ素系界面活性剤 0.015g
(メガファックスF−780−F 大日本インキ化学工業(株)MIBK30質量%溶液)
・メチルエチルケトン 10.4g
・メタノール 4.83g
・1−メトキシ−2−プロパノール 10.4g
上記感熱層塗布液に用いた赤外線吸収剤[IR−1]、重合開始剤[OS−12]、添加剤[PM−1]、重合性化合物[AM−1]、バインダーポリマー[BT−1]およびエチルバイオレット[C−1]の構造を以下に示す。
【0245】
【化17】
【0246】
【化18】
【0247】
<保護層(オーバーコート層)>
上記の感熱層表面に、ポリビニルアルコール(ケン化度98モル%、重合度500)とポリビニルピロリドン(BASF社製、ルビスコールK−30)との混合水溶液をワイヤーバーで塗布し、温風式乾燥装置にて125℃、75秒間乾燥させた。なお、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドンの含有量は4/1質量%であり、塗布量(乾燥後の被覆量)は2.30g/m2 であった。
【0248】
5.感度の測定
(実施例1および比較例1)
微粒子ポリマーを用いた感熱層の場合
実施例ならびに比較例の機上現像可能な平版印刷版原版を、水冷式40W赤外線半導体レーザーを搭載したクレオ社製トレンドセッター3244VFSを用いて、解像度2400dpiの条件で出力して露光した。この際、外面ドラム回転数を変化させることにより版面エネルギを変化させて、画像形成できる最低露光量により感度を評価した。結果を第2表に示した。
【0249】
(実施例2および比較例2)
マイクロカプセルを用いた感熱層の場合
実施例ならびに比較例の機上現像可能な平版印刷版原版を、マルチチャンネルレーザーヘッドを搭載した富士写真フイルム(株)製Luxel T−9000CTPを用い、解像度2400dpiの条件で出力して露光した。この際、ビーム1本あたりの出力および外面ドラム回転数を変化させて、画像形成できる最低露光量により感度を評価した。結果を第2表に示した。
【0250】
(実施例3および比較例3)
サーマルポジタイプの感熱層の場合
平版印刷版原版を出力500mW、波長830nm、ビーム径17μm(1/e2 )の半導体レーザを装備したCREO社製TrendSetter3244を用いて主走査速度5m/秒、版面エネルギー量140mJ/cm2 で像様露光した。感度の評価のためには、版面エネルギー量を45〜150mJ/cm2 まで5mJ/cm2 おきに変えて露光を行ったサンプルを準備した。
現像処理は、富士写真フイルム(株)製現像液DT−2(1:8)を満たした自動現像機PS900NP(富士写真フイルム(株)製)を用いて、現像温度30℃、12秒の条件で行った。現像処理が終了した後、水洗工程を経て、ガム(FG−1(1:1))等で処理して、製版が完了した平版印刷版を得た。版面エネルギー量を変化させたサンプルから、現像処理後画像形成できた最低露光量を感度とした。
【0251】
(実施例4および比較例4)
サーマルネガタイプの感熱層の場合
平版印刷版原版を水冷式40W赤外線半導体レーザ(波長830nm)を搭載したCREO社製Trendsetter3244VFSにて、出力9W、外面ドラム回転数150rpm、版面エネルギー量100mJ/cm2 、解像度175dpiの条件で露光した。なお、感度の評価のためには、版面エネルギー量を20〜200mJ/cm2 まで5mJ/cm2 おきに変えて露光を行ったサンプルを準備した。
露光後、水道水による水洗で保護層を除去した後、富士写真フイルム(株)製LPー1310HIIを用い、30℃、12秒で現像した。現像液は、富士写真フイルム(株)製DV−2Cの1:4水希釈液を用い、フィニッシャーは、富士写真フイルム(株)製GN−2Kの1:1水希釈液を用いた。
現像して得られた平版印刷版の画像部濃度をマクベス反射濃度計RD−918を使用し、該濃度計に装備されている赤フィルターを用いてシアン濃度を測定した。測定した濃度が0.8を得るのに必要な露光量の逆数を感度の指標とした。
【0252】
【0253】
6.印刷試験
実施例1,2および比較例1,2の平版印刷版原版を、上述したように露光した後、何ら処理することなく、ハイデルベルグ社製印刷機SOR−Mのシリンダーに取り付け、アルキ1%+IPA10%湿し水を供給した後、東洋バンデアンエコー紅インキを供給し、更に紙を供給して印刷試験を行った。なお、実施例の平版印刷版原版のすべてにおいて、問題なく機上現像をすることができ、印刷も可能であった。下記条件で評価し結果を第2表に示した。
実施例3、4および比較例3、4については上記露光、現像処理を行った後、同様に評価した。
【0254】
上記印刷試験においては、地汚れおよび耐刷性を以下の方法により評価した。それぞれの結果を第2表に示した。
(1)地汚れ
印刷試験において、印刷機の水目盛りを調整し、地汚れの生じる水目盛りにより地汚れを評価した。地汚れの生じる水目盛りが2未満である場合を○、2以上3未満である場合を○△、3以上4未満である場合を△、4以上である場合を×とした。
(2)耐放置汚れ性
印刷機の水目盛りを調整し鮮明な印刷物を1万枚印刷した後、1時間印刷機上で放置した後、再度印刷を行い、鮮明な印刷物が得られる印刷枚数により耐放置汚れ性を評価した。印刷枚数が少ないほど耐放置汚れ性が優れる。
(3)耐刷性
鮮明な印刷物が得られる印刷枚数により耐刷性を評価した。印刷枚数が多いほど耐刷性に優れる。
【0255】
第2表から、本発明の平版印刷版用支持体を用いた本発明の平版印刷版原版(実施例1〜4)は、感度に優れ、地汚れが発生しにくく、耐放置汚れ性および耐刷性に優れることが分かる。
【0256】
【表1】
【0257】
【発明の効果】
本発明の平版印刷版用支持体は、特定の水溶液で処理し、さらに中間層を設けてなるので、この上に記録層として機上現像タイプの感熱層を設けた本発明の平版印刷版原版は、良好な機上現像性を有し、感度が高く、かつ、高耐刷性を示し、印刷の際の汚れにくさが良好である。
【0258】
また、本発明の平版印刷版用支持体は、特定の水溶液で処理し、さらに中間層を設けてなるので、この上に記録層としてサーマルポジタイプの感光層を設けた本発明の平版印刷版原版は、赤外線レーザーの露光量が低いときや、現像液の液感が低いときでも、現像液に対する溶解性が高くなり、その結果、感度が高く、現像ラチチュードが広く、低露光時にも残膜が少なく、非画像部の汚れが生じにくい。
また、本発明の平版印刷版用支持体は、特定の水溶液で処理し、さらに中間層を設けてなるので、この上に記録層としてサーマルネガタイプの感光層を設けた本発明の平版印刷版原版は、レーザー露光部における現像液に対する不溶解率が高くなり、その結果、感度が高く、耐刷性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に好適に用いられる交流を用いた電気化学的粗面化処理に用いる台形波の一例を示す波形図である。
【図2】本発明に好適に用いられる電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
【符号の説明】
11 アルミニウム板
12 ラジアルドラムローラ
13a、13b 主極
14 酸性水溶液
15 溶液供給口
16 スリット
17 溶液通路
18 補助陽極
19a、19b サイリスタ
20 交流電源
21 主電解槽
22 補助陽極槽
【発明の属する技術分野】
本発明は、平版印刷版用支持体および平版印刷版原版に関し、レーザ光を版面上に走査させ、文字原稿、画像原稿等を直接版面上に形成させ、フィルム原稿を用いず直接製版する、平版印刷版として、支持体上に、サーマルタイプの画像記録層を設けた平版印刷版原版およびそれに用いる平版印刷版用支持体に関する。また、現像不要のコンピュータ・ツウ・プレートシステム用に好適に用いられる感熱性平版印刷版原版、詳しくは、デジタル信号に基づいた赤外線走査露光による画像記録が可能であり、露光後に現像液を用いるなどの従来の現像工程を経ることなく、そのまま印刷機に装着して印刷することができる感熱性平版印刷版原版およびそれに用いられる平版印刷版用支持体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年進展が目覚ましいコンピュータ・ツウ・プレートシステム用平版印刷版原版については、多数の研究がなされている。その中で、より一層の工程合理化と廃液処理問題の解決とを目指すものとして、露光後、そのまま印刷機に装着して印刷することができる平版印刷版原版について、多数の研究がなされ、種々の提案がなされている。
有望な技術の一つとしては、親水性バインダーポリマー中に疎水性熱可塑性ポリマー粒子を分散させた親水層を画像形成感熱層とする感熱性平版印刷版原版が挙げられる。この平版印刷版原版は、感熱層に熱を加えると疎水性熱可塑性ポリマー粒子が融着し、親水性感熱層表面が親油性画像部に変換するという原理を利用している。
【0003】
このような疎水性熱可塑性ポリマー粒子の熱融着を利用する平版印刷版原版において、処理工程を少なくする方法の一つとして、露光後の平版印刷版原版を現像液で処理することなく印刷機のシリンダーに装着し、シリンダーを回転させながらインキおよび/または湿し水を供給することによって、平版印刷版原版の非画像部を除去する、機上現像と呼ばれる方法がある。この方法においては、平版印刷版原版を露光した後、そのまま印刷機に装着し、通常の印刷工程の中で現像処理が完了する。
このような機上現像に適した平版印刷版原版は、湿し水やインキ溶剤に可溶な感熱層を有し、しかも、明室に置かれた印刷機上で現像されるのに適した明室取り扱い性を有することが必要とされる。
【0004】
例えば、特許第2938397号明細書には、親水性バインダーポリマー中に熱可塑性疎水性重合体の微粒子を分散させた感熱層を親水性支持体上に設けた平版印刷版原版が記載されている。この特許明細書には、前記平版印刷版原版を赤外線レーザー露光して熱可塑性疎水性重合体の微粒子を熱により合体させて画像形成した後、印刷機シリンダー上に版を取り付け、インキおよび/または湿し水を供給することにより、機上現像できることが記載されている。
また、特開平9−127683号公報および国際公開第99/10186号パンフレットには、熱可塑性微粒子を熱により合体させた後、機上現像により平版印刷版を作製することが記載されている。
【0005】
しかしながら、このような熱による微粒子の合体で画像を形成する平版印刷版原版は、良好な機上現像性を示すものの、金属支持体に熱が逃げるため感度が低いという問題や、微粒子の合体が不十分である場合、感熱層の画像部の強度が弱くなるために、耐刷性が不十分となるという問題があった。
この対策としては、アルミニウム支持体と感熱層との間に水不溶性有機ポリマーを設ける方法が提案されているが(例えば、特許文献1)、感度は高くなるものの、汚れるという問題点があった。
【0006】
ところで、感熱層中に存在する赤外線吸収剤がその光熱変換作用を発現し露光により発熱し、その熱により感熱層の露光部分がアルカリ可溶化しポジ画像を形成するいわゆるサーマルタイプのポジ型平版印刷版原版や、その熱によりラジカル発生剤や酸発生剤がラジカルや酸を発生させ、それによりラジカル重合反応や酸架橋反応が進行して不溶化しネガ型画像を形成するサーマルタイプのネガ型平版印刷版原版などの、機上現像しない従来のサーマルタイプの平版印刷版原版においても、以下のような問題がある。
【0007】
即ち、このようなサーマルタイプの画像形成においては、レーザー光照射によって感熱層中で光熱変換物質により熱が発生してその熱が画像形成反応を引き起こすのであるが、粗面化され陽極酸化皮膜を形成されたアルミニウム支持体では、支持体の熱伝導率が感熱層に比べ極めて高いため、感熱層と支持体との界面付近で発生した熱は、画像形成に十分使用されないうちに支持体内部に拡散してしまい、その結果、感熱層と支持体との界面では次のようなことが起こる。
【0008】
まず、ポジ型感熱層においては、熱が支持体内部に拡散してアルカリ可溶化反応が不十分となると、本来の非画像部分に残膜が発生してしまうという低感度の問題があり、これはポジ型感熱層の本質的問題となっている。
また、このようなサーマルポジタイプの平版印刷版原版においては、光熱変換機能を有する赤外線吸収剤が必須であるが、これらは分子量が比較的大きいため溶解性が低く、また、陽極酸化により生じたミクロな開口部に吸着して除去しにくいため、アルカリ現像液による現像工程において、残膜が発生しやすいという問題もある。
【0009】
一方、ネガ型感熱層においては、熱が支持体内部に拡散して感熱層支持体界面付近での感熱層の現像液不溶化が不十分になると、本来画像部となるべき部分で画像が十分にできずに現像時に流れてしまったり、たとえ画像様に形成できたとしても印刷時に容易に画像がはく離してしまったりするという問題がある。
【0010】
これらの問題を解決すべく、感熱層で発生した熱がアルミニウム支持体に拡散することを抑制する観点から陽極酸化皮膜を有する支持体をポアワイドニング処理する試みがなされている。
ポアワイドニング処理により、感熱層支持体界面付近での感熱層の現像液不溶化が十分になるため、耐刷性および感度を向上できるものの、現像時に感熱層が残膜したり、印刷時に汚れが生じたりする問題点があった。
残膜・汚れを解消するために、陽極酸化皮膜のマイクロポアを封孔する試みが以前からなされている。封孔処理の方法としては、加圧水蒸気や熱水による処理、ケイ酸塩処理、重クロム酸塩水溶液処理、亜硝酸塩処理、酢酸アンモニウム塩処理、電着封孔処理、トリエタノールアミン処理、炭酸バリウム塩処理、極微量のリン酸塩を含有する熱水処理が提案されている。しかしながら、これらの方法では、耐汚れ性は向上するが、感度および耐刷性が劣化してしまうという問題があった。
【0011】
特許文献2には、Si原子付着量が0.1〜8mg/m2 であるアルミニウム支持体上にポジ型感光層を設けてなるポジ型感光性平版印刷版が記載され、アルミニウム支持体上にさらに、酸基を有する構成成分を有する高分子化合物を含有する中間層が設けられ、この中間層の上にポジ型感光層が設けられている平版印刷版が記載されている。
【0012】
特許文献3には、(a)金属性基質を準備し;(b)該基質の少なくとも1つの表面を粗面化し;(c)該基質の少なくとも1つの粗面化された表面に陽極酸化層を適用し;(d)該基質の少なくとも1つの粗面化され且つ陽極酸化された表面を、定電圧又は定電流を適用しながら、アクリル酸とビニルホスホン酸のコポリマーを含んでなる水溶液で処理する段階を含む平版印刷版支持体の製造法が記載されている。
【0013】
特許文献4には、下記式に示される関係を満たす表面を有するアルミニウム支持体上に感光層又は感熱層を設けた平版印刷版を、珪酸塩を含まない現像液で現像処理することを特徴とする平版印刷版の製造方法が記載されている:0. 05≦A/(A+B)≦0. 70(式中、AはX線光電子分光法を用いて測定して得られたリン(2P)のピーク面積(counts・eV/sec)を表し、BはX線光電子分光法を用いて測定して得られたアルミニウム(2P)のピーク面積(counts・eV/sec)を表す)。
【0014】
しかしながら、これらの方法では、耐汚れ性、耐放置汚れ性(インキ払い性)、感度および耐刷性のいずれかが向上すると、他が劣化してしまうという問題があり、高度な要求を満たすものは得られていなかった。
【0015】
【特許文献1】
特開2000−23983号公報
【特許文献2】
特開平11−109637号公報
【特許文献3】
特開2000−141938号公報
【特許文献4】
特開2002−099093号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した先行技術の欠点を克服した感熱性平版印刷版原版およびそれに好適に用いられる平版印刷版用支持体を提供することを目的とする。即ち、機上現像タイプとして用いる場合には、良好な機上現像性を有し、感度が高く、高耐刷性を示し、印刷の際の汚れにくさが良好であり、耐放置汚れ性(インキ払い性)が良好であり、従来のサーマルポジタイプやサーマルネガタイプとして用いる場合には、熱を効率よく画像形成に利用することができ、感度が高く、高耐刷性を示し、非画像部の汚れが生じにくい感熱性の平版印刷版原版およびそれに好適に用いられる平版印刷版用支持体を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、鋭意検討の結果、粗面化処理および陽極酸化処理を施された金属基体を、特定の水溶液で処理した後、酸基を含有する高分子化合物を設けてなる平版印刷版用支持体に、赤外線レーザー露光により書き込み可能な記録層を設けることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
即ち、本発明は、粗面化処理および陽極酸化処理された金属基体に、下記1)および2)の処理をこの順序で、または2)、1)の順序で、または2)、1)、2)の順で行い、
1)ポリビニルホスホン酸を含む水溶液で処理、
2)ケイ酸化合物を含有する水溶液で処理、
その上に、酸基を含有する高分子化合物を設けてなる平版印刷版用支持体を提供する。
【0019】
平版印刷版用支持体は、下記式(1)を満たす金属基体表面に、酸基を含有する高分子化合物を設けてなるのが好ましい。
0.05≦(A+B)/(A+B+C)≦0.70 (1)
A:X線光電子分光法を用いて測定して得られるフッ素(1S)のピーク面積(counts・eV/sec)
B:X線光電子分光法を用いて測定して得られるケイ素(2P)のピーク面積(counts・eV/sec)
C:X線光電子分光法を用いて測定して得られたアルミニウム(2P)のピーク面積(counts・eV/sec)
【0020】
また、本発明は、前記平版印刷版用支持体上に、赤外線レーザー露光により書き込み可能な記録層を設けてなる平版印刷版原版を提供する。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
[平版印刷版用支持体]
<金属基体>
本発明の平版印刷版用支持体に用いられる金属基体は、特に限定されず、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウムが挙げられる。中でも、アルミニウムが好ましい。
アルミニウム基体として用いられるアルミニウム板は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属であり、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。 純アルミニウム板のほか、アルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金板や、アルミニウムまたはアルミニウム合金がラミネートされまたは蒸着されたプラスチックフィルムまたは紙を用いることもできる。更に、特公昭48−18327号公報に記載されているようなポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウムシートが結合された複合体シートを用いることもできる。
【0022】
本発明に用いられるアルミニウム板は、特に限定されないが、純アルミニウム板を用いるのが好適である。完全に純粋なアルミニウムは精練技術上、製造が困難であるので、わずかに異元素を含有するものを用いてもよい。例えば、アルミニウムハンドブック第4版(軽金属協会(1990))に記載の公知の素材のもの、具体的には、JIS1050材、JIS1100材、JIS3003材、JIS3103材、JIS3005材等を用いることができる。具体例では、Si:0.07〜0.09質量%、Fe:0.20〜0.40質量%、Cu:0.000質量%〜0.15質量%、、Mn:0.01質量%以下、Mg:0.01質量%以下、Cr:0.01質量%以下、Zn:0.01質量%以下、Ti:0.04質量%以下、Al:99.5質量%以上であるアルミニウム板である。
【0023】
また、別の例として、アルミニウム(Al)の含有率が99.4〜95質量%であって、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、およびチタン(Ti)のうち少なくとも5種以上を後述する範囲内で含む、アルミニウム合金、スクラップアルミ材または二次地金を使用したアルミニウム板を使用することもできる。
この場合は、Alの含有率が99.4質量%を超えると、不純物の許容量が少なくなるため、コスト削減効果が減少してしまう場合がある。また、Alの含有率が95質量%未満であると不純物を多く含むこととなり圧延中に割れ等の不具合が発生してしまう場合がある。より好ましいAlの含有率は95〜99質量%であり、特に好ましくは95〜97質量%である。
【0024】
Feの含有率は0.3〜1.0質量%としてもよい。Feは新地金においても0.1〜0.2質量%前後含有される元素で、Al中に固溶する量は少なく、ほとんどが金属間化合物として残存する。Feの含有率が1.0質量%を超えると圧延途中に割れが発生しやすくなり、0.3質量%未満であるとコスト削減効果が減少するため好ましくない。より好ましいFeの含有率は0.5〜1.0質量%である。
【0025】
Siの含有率は0.15〜1.0質量%としてもよい。SiはJIS2000系、4000系、6000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。また、Siは新地金においても0.03〜0.1質量%前後含有される元素であり、Al中に固溶した状態で、または、金属間化合物として存在する。アルミニウム板が支持体の製造過程で加熱されると、固溶していたSiが単体Siとして析出することがある。単体SiとFeSi系の金属間化合物は耐苛酷インキ汚れ性に悪影響を与えることが知られている。ここで、「苛酷インキ汚れ」とは、印刷を何度も中断しつつ行った場合に、平版印刷版の非画像部表面部分にインキが付着しやすくなった結果、印刷された紙等に表れる点状または円環状の汚れをいう。Siの含有率が1.0質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理(デスマット処理)でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.15質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいSiの含有率は0.3〜1.0質量%である。
【0026】
Cuの含有率は0.1〜1.0質量%としてもよい。CuはJIS2000系、4000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。Cuは比較的Alに中に固溶しやすい。Cuの含有率が1.0質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいCuの含有率は0.3〜1.0質量%である。
【0027】
Mgの含有率は0.1〜1.5質量%としてもよい。MgはJIS2000系、3000系、5000系、7000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。特にcan end材に多く含まれるため、スクラップ材に含まれる主要な不純物金属の一つである。Mgは比較的Al中に固溶しやすく、Siと金属間化合物を形成する。Mgの含有率が1.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいMgの含有率は0.5〜1.5質量%であり、更に好ましくは1.0〜1.5質量%である。
【0028】
Mnの含有率は0.1〜1.5質量%としてもよい。MnはJIS3000系材料のスクラップに多く含まれる元素である。Mnは特にcan body材に多く含まれるため、スクラップ材に含まれる主要な不純物金属の一つである。Mnは比較的Al中に固溶しやすく、Al、FeおよびSiと金属間化合物を形成する。Mnの含有率が1.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいMnの含有率は0.5〜1.5質量%であり、更に好ましくは1.0〜1.5質量%である。
【0029】
Znの含有率は0.1〜0.5質量%としてもよい。Znは特にJIS7000系のスクラップに多く含まれる元素である。Znは比較的Al中に固溶しやすい。Znの含有率が0.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.1質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいZnの含有率は0.3〜0.5質量%である。
【0030】
Crの含有率は0.01〜0.1質量%としてもよい。CrはJIS A5000系、同6000系、同7000系のスクラップに少量含まれる不純物金属である。Crの含有率が0.1質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.01質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいCrの含有率は0.05〜0.1質量%である。
【0031】
Tiの含有率は0.03〜0.5質量%としてもよい。Tiは通常結晶微細化材として0.01〜0.04質量%添加される元素である。JIS5000系、6000系、7000系のスクラップには不純物金属として比較的多めに含まれる。Tiの含有率が0.5質量%を超えると、例えば、後述する硫酸による処理でこれを除去し切れなくなる場合があり、0.03質量%未満であると、コスト削減効果が減少してしまう。より好ましいTiの含有率は0.05〜0.5質量%である。
【0032】
本発明に用いられるアルミニウム板は、上記原材料を用いて常法で鋳造したものに、適宜圧延処理や熱処理を施し、厚さを例えば、0.1〜0.7mmとし、必要に応じて平面性矯正処理を施して製造される。この厚さは、印刷機の大きさ、印刷版の大きさおよびユーザーの希望により、適宜変更することができる。
なお、上記アルミニウム板の製造方法としては、例えば、DC鋳造法、DC鋳造法から均熱処理および/または焼鈍処理を省略した方法、ならびに、連続鋳造法を用いることができる。
【0033】
<表面処理工程>
本発明の平版印刷版用支持体は、上記金属基体に粗面化処理および陽極酸化処理を施し、更に、特定の水溶液で処理し、酸基を含有する高分子化合物を設けて得られるが、本発明の平版印刷版用支持体の製造工程には、粗面化処理、陽極酸化処理および前記水溶液での処理、酸基を含有する高分子化合物を設ける以外の各種の工程が含まれていてもよい。以下、金属基体としてアルミニウム板を用いる場合を例に挙げて、本発明の平版印刷版用支持体について説明する。
【0034】
上記アルミニウム板は、付着している圧延油を除く脱脂工程、アルミニウム板の表面のスマットを溶解するデスマット処理工程、アルミニウム板の表面を粗面化する粗面化処理工程、アルミニウム板の表面を酸化皮膜で覆う陽極酸化処理工程、ポアワイド処理(酸処理またはアルカリ処理)工程等を経るのが好ましい。本発明の平版印刷版用支持体の製造工程は、酸性水溶液中で交流電流を用いてアルミニウム板を電気化学的に粗面化する粗面化処理(電気化学的粗面化処理)を含むのが好ましい。
また、本発明の平版印刷版用支持体の製造工程は、上記電気化学的粗面化処理の他に、機械的粗面化処理、酸またはアルカリ水溶液中での化学的エッチング処理等を組み合わせたアルミニウム板の表面処理工程を含んでもよい。本発明の平版印刷版用支持体の粗面化処理等の製造工程は、連続法でも断続法でもよいが、工業的には連続法を用いるのが好ましい。
本発明においては、更に、特定の水溶液で処理され、さらにその上に特定の中間層(記録層側から見れば下塗層)を設ける。
【0035】
<粗面化処理(砂目立て処理)>
まず、粗面化処理について説明する。
上記アルミニウム板は、より好ましい形状に砂目立て処理される。砂目立て処理方法は、特開昭56−28893号公報に記載されているような機械的砂目立て(機械的粗面化処理)、化学的エッチング、電解グレイン等がある。更に、塩酸電解液中または硝酸電解液中で電気化学的に砂目立てする電気化学的砂目立て法(電気化学的粗面化処理、電解粗面化処理)や、アルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立てするボールグレイン法、ナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てするブラシグレイン法等の機械的砂目立て法(機械的粗面化処理)を用いることができる。これらの砂目立て法は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。例えば、ナイロンブラシと研磨剤とによる機械的粗面化処理と、塩酸電解液または硝酸電解液による電解粗面化処理との組み合わせや、複数の電解粗面化処理の組み合わせが挙げられる。中でも、電気化学的粗面化処理が好ましい。また、機械的粗面化処理と電気化学的粗面化処理とを組み合わせて行うのも好ましく、特に、機械的粗面化処理の後に硝酸電解液での電気化学的粗面化処理を行い、さらに塩酸電解液での電気化学的粗面化処理を行うのが好ましい。
【0036】
機械的粗面化処理は、ブラシ等を使用してアルミニウム板表面を機械的に粗面化する処理であり、上述した電気化学的粗面化処理の前に行われるのが好ましい。
好適な機械的粗面化処理においては、毛径が0.07〜0.57mmである回転するナイロンブラシロールと、アルミニウム板表面に供給される研磨剤のスラリー液とで処理する。
【0037】
ナイロンブラシは吸水率が低いものが好ましく、例えば、東レ社製のナイロンブリッスル200T(6,10−ナイロン、軟化点:180℃、融点:212〜214℃、比重:1.08〜1.09、水分率:20℃・相対湿度65%において1.4〜1.8、20℃・相対湿度100%において2.2〜2.8、乾引っ張り強度:4.5〜6g/d、乾引っ張り伸度:20〜35%、沸騰水収縮率:1〜4%、乾引っ張り抵抗度:39〜45g/d、ヤング率(乾):380〜440kg/mm2 )が好ましい。
【0038】
研磨剤としては公知のものを用いることができるが、特開平6−135175号公報および特公昭50−40047号公報に記載されているケイ砂、石英、水酸化アルミニウム、またはこれらの混合物を用いるのが好ましい。
【0039】
スラリー液としては、比重が1.05〜1.3の範囲内にあるものが好ましい。スラリー液をアルミニウム板表面に供給する方法としては、例えば、スラリー液を吹き付ける方法、ワイヤーブラシを用いる方法、凹凸を付けた圧延ロールの表面形状をアルミニウム板に転写する方法が挙げられる。また、特開昭55−074898号公報、同61−162351号公報、同63−104889号公報に記載されている方法を用いてもよい。更に、特表平9−509108号公報に記載されているように、アルミナおよび石英からなる粒子の混合物を95:5〜5:95の範囲の質量比で含んでなる水性スラリー中で、アルミニウム板表面をブラシ研磨する方法を用いることもできる。このときの上記混合物の平均粒子径は、1〜40μm、特に1〜20μmの範囲内であるのが好ましい。
【0040】
電気化学的粗面化処理は、酸性水溶液中で、アルミニウム板を電極として交流電流を通じ、該アルミニウム板の表面を電気化学的に粗面化する工程であり、後述の機械的粗面化処理とは異なる。
本発明においては、上記電気化学的粗面化処理において、アルミニウム板が陰極となるときにおける電気量、即ち、陰極時電気量QC と、陽極となるときにおける電気量、即ち、陽極時電気量QA との比QC /QA を、例えば、0.5〜2.0の範囲内とすることで、アルミニウム板の表面に均一なハニカムピットを生成することができる。QC /QA が0.50未満であると、不均一なハニカムピットとなりやすく、また、2.0を超えても、不均一なハニカムピットとなりやすい。QC /QA は、0.8〜1.5の範囲内とするのが好ましい。
【0041】
電気化学的粗面化処理に用いられる交流電流の波形としては、正弦波(サイン波)、矩形波、三角波、台形波等が挙げられる。中でも、矩形波または台形波が好ましい。また、交流電流の周波数は、電源装置を製作するコストの観点から、30〜200Hzであるのが好ましく、40〜120Hzであるのがより好ましい。
本発明に好適に用いられる台形波の一例を図1に示す。図1において、縦軸は電流値、横軸は時間を示す。また、taはアノード反応時間、tcはカソード反応時間、tpは電流値がゼロからカソードサイクル側のピークに達するまでの時間、tp´は電流値がゼロからアノードサイクル側のピークに達するまでの時間、Iaはアノードサイクル側のピーク時の電流、Icはカソードサイクル側のピーク時の電流を示す。交流電流の波形として台形波を用いる場合、電流がゼロからピークに達するまでの時間tpおよびtp´はそれぞれ0.1〜2msecであるのが好ましく、0.3〜1.5msecであるのがより好ましい。tpおよびtp´が0.1msec未満であると、電源回路のインピーダンスが影響し、電流波形の立ち上がり時に大きな電源電圧が必要となり、電源の設備コストが高くなる場合がある。また、tpおよびtp´が2msecを超えると、酸性水溶液中の微量成分の影響が大きくなり、均一な粗面化処理が行われにくくなる場合がある。
【0042】
また、電気化学的粗面化処理に用いられる交流電流のdutyは、アルミニウム板表面を均一に粗面化する点から0.25〜0.5の範囲内とするのが好ましく、0.3〜0.4の範囲内とするのがより好ましい。本発明でいうdutyとは、交流電流の周期Tにおいて、アルミニウム板の陽極反応が持続している時間(アノード反応時間)をtaとしたときのta/Tをいう。特に、カソード反応時のアルミニウム板表面には、水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分の生成に加え、酸化皮膜の溶解や破壊が発生し、次のアルミニウム板のアノード反応時におけるピッティング反応の開始点となるため、交流電流のdutyの選択は均一な粗面化に与える効果が大きい。
【0043】
交流電流の電流密度は、台形波または矩形波の場合、アノードサイクル側のピーク時の電流密度Iapおよびカソードサイクル側のピーク時の電流密度Icpがそれぞれ10〜200A/dm2 となるのが好ましい。また、Icp/Iapは、0.9〜1.5の範囲内にあるのが好ましい。
電気化学的粗面化処理において、電気化学的粗面化処理が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応に用いた電気量の総和は、50〜1000C/dm2 であるのが好ましい。電気化学的粗面化処理の時間は、1秒〜30分であるのが好ましい。
【0044】
電気化学的粗面化処理に用いられる酸性水溶液としては、通常の直流電流または交流電流を用いた電気化学的粗面化処理に用いるものを用いることができ、その中でも硝酸を主体とする酸性水溶液または塩酸を主体とする酸性水溶液を用いることが好ましい。ここで、「主体とする」とは、水溶液中に主体となる成分が、成分全体に対して、30質量%以上、好ましくは50質量%以上含まれていることをいう。以下、他の成分においても同様である。
【0045】
硝酸を主体とする酸性水溶液としては、上述したように、通常の直流電流または交流電流を用いた電気化学的粗面化処理に用いるものを用いることができる。例えば、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸化合物のうち一つ以上を、0.01g/Lから飽和に達するまでの濃度で、硝酸濃度5〜15g/Lの硝酸水溶液に添加して使用することができる。硝酸を主体とする酸性水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、ケイ素等のアルミニウム合金中に含まれる金属等が溶解されていてもよい。
【0046】
硝酸を主体とする酸性水溶液としては、中でも、硝酸と、アルミニウム塩と、硝酸塩とを含有し、かつ、アルミニウムイオンが1〜15g/L、好ましくは1〜10g/L、アンモニウムイオンが10〜300ppmとなるように、硝酸濃度5〜15g/Lの硝酸水溶液中に硝酸アルミニウムおよび硝酸アンモニウムを添加して得られたものを用いることが好ましい。なお、上記アルミニウムイオンおよびアンモニウムイオンは、電気化学的粗面化処理を行っている間に自然発生的に増加していくものである。また、この際の液温は10〜95℃であるのが好ましく、20〜90℃であるのがより好ましく、40〜80℃であるのが特に好ましい。
【0047】
電気化学的粗面化処理においては、縦型、フラット型、ラジアル型等の公知の電解装置を用いることができるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解装置が特に好ましい。
図2は、本発明に好適に用いられるラジアル型電解装置の概略図である。図2において、ラジアル型電解装置は、アルミニウム板11が主電解槽21中に配置されたラジアルドラムローラ12に巻装され、搬送過程で交流電源20に接続された主極13aおよび13bによって電解処理される。酸性水溶液14は、溶液供給口15からスリット16を通じてラジアルドラムローラ12と主極13aおよび13bとの間にある溶液通路17に供給される。
ついで、主電解槽21で処理されたアルミニウム板11は、補助陽極槽22で電解処理される。この補助陽極槽22には補助陽極18がアルミニウム板11と対向配置されており、酸性水溶液14は、補助陽極18とアルミニウム板11との間を流れるように供給される。なお、補助電極に流す電流は、サイリスタ19aおよび19bにより制御される。
【0048】
主極13aおよび13bは、カーボン、白金、チタン、ニオブ、ジルコニウム、ステンレス、燃料電池用陰極に用いる電極等から選定することができるが、カーボンが特に好ましい。カーボンとしては、一般に市販されている化学装置用不浸透性黒鉛や、樹脂含浸黒鉛等を用いることができる。
補助陽極18は、フェライト、酸化イリジウム、白金、または、白金をチタン、ニオブ、ジルコニウム等のバルブ金属にクラッドもしくはメッキしたもの等公知の酸素発生用電極から選定することができる。
【0049】
主電解槽21および補助陽極槽22内を通過する酸性水溶液の供給方向はアルミニウム板11の進行とパラレルでもカウンターでもよい。アルミニウム板に対する酸性水溶液の相対流速は、10〜1000cm/secであるのが好ましい。
一つの電解装置には1個以上の交流電源を接続することができる。また、2個以上の電解装置を使用してもよく、各装置における電解条件は同一であってもよいし異なっていてもよい。
また、電解処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないためにニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0050】
上記電解装置を用いる場合においては、電解装置中のアルミニウム板がアノード反応する酸性水溶液の通電量に比例して、例えば、(i)酸性水溶液の導電率と(ii)超音波の伝搬速度と(iii)温度とから求めた硝酸およびアルミニウムイオン濃度をもとに、硝酸と水の添加量を調節しながら添加し、硝酸と水の添加容積と同量の酸性水溶液を逐次電解装置からオーバーフローさせて排出することで、上記酸性水溶液の濃度を一定に保つのが好ましい。
【0051】
つぎに、酸性水溶液中またはアルカリ水溶液中での化学的エッチング処理、デスマット処理等の表面処理について順を追って説明する。上記表面処理は、それぞれ上記電気化学的粗面化処理の前、または、上記電気化学的粗面化処理の後であって後述する陽極酸化処理の前において行われる。ただし、以下の各表面処理の説明は例示であり、本発明は、以下の各表面処理の内容に限定されるものではない。また、上記表面処理を初めとする以下の各処理は任意で施される。
【0052】
<アルカリエッチング処理>
アルカリエッチング処理は、アルカリ水溶液中でアルミニウム板表面を化学的にエッチングする処理であり、上記電気化学的粗面化処理の前と後のそれぞれにおいて行うのが好ましい。また、電気化学的粗面化処理の前に機械的粗面化処理を行う場合には、機械的粗面化処理の後に行うのが好ましい。アルカリエッチング処理は、短時間で微細構造を破壊することができるので、後述する酸性エッチング処理よりも有利である。
アルカリエッチング処理に用いられるアルカリ水溶液としては、カセイソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の1種または2種以上を含有する水溶液が挙げられる。特に、水酸化ナトリウム(カセイソーダ)を主体とする水溶液が好ましい。アルカリ水溶液は、アルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分を0.5〜10質量%を含有していてもよい。
アルカリ水溶液の濃度は、1〜50質量%であるのが好ましく、1〜30質量%であるのがより好ましい。
【0053】
アルカリエッチング処理は、アルカリ水溶液の液温を20〜100℃、好ましくは40〜80℃の間とし、1〜120秒間、好ましくは2〜60秒間処理することにより行うのが好ましい。アルミニウムの溶解量は、機械的粗面化処理の後に行う場合は5〜20g/m2 であるのが好ましく、電気化学的粗面化処理の後に行う場合は0.01〜20g/m2 であるのが好ましい。最初にアルカリ水溶液中で化学的なエッチング液をミキシングするときには、液体水酸化ナトリウム(カセイソーダ)とアルミン酸ナトリウム(アルミン酸ソーダ)とを用いて処理液を調製することが好ましい。
また、アルカリエッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないために、ニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0054】
アルカリエッチング処理を電気化学的粗面化処理の後に行う場合、電気化学的粗面化処理により生じたスマットを除去することができる。このようなアルカリエッチング処理としては、例えば、特開昭53−12739号公報に記載されているような50〜90℃の温度の15〜65質量%の硫酸と接触させる方法および特公昭48−28123号公報に記載されているアルカリエッチングする方法が好適に挙げられる。
【0055】
<酸性エッチング処理>
酸性エッチング処理は、酸性水溶液中でアルミニウム板を化学的にエッチングする処理であり、上記電気化学的粗面化処理の後に行うのが好ましい。また、上記電気化学的粗面化処理の前および/または後に上記アルカリエッチング処理を行う場合は、アルカリエッチング処理の後に酸性エッチング処理を行うのも好ましい。
アルミニウム板に上記アルカリエッチング処理を施した後に、上記酸性エッチング処理を施すと、アルミニウム板表面のシリカを含む金属間化合物または単体Siを除去することができ、その後の陽極酸化処理において生成する陽極酸化皮膜の欠陥をなくすことができる。その結果、印刷時にチリ状汚れと称される非画像部に点状のインクが付着するトラブルを防止することができる。
【0056】
酸性エッチング処理に用いられる酸性水溶液としては、リン酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、またはこれらの2種以上の混酸を含有する水溶液が挙げられる。中でも、硫酸水溶液が好ましい。酸性水溶液の濃度は、50〜500g/Lであるのが好ましい。酸性水溶液は、アルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分を含有していてもよい。
【0057】
酸性エッチング処理は、液温を60〜90℃、好ましくは70〜80℃とし、1〜10秒間処理することにより行うのが好ましい。このときのアルミニウム板の溶解量は0.001〜0.2g/m2 であるのが好ましい。また、酸濃度、例えば、硫酸濃度とアルミニウムイオン濃度は、常温で晶出しない範囲から選択することが好ましい。好ましいアルミニウムイオン濃度は0.1〜50g/Lであり、特に好ましくは5〜15g/Lである。
また、酸性エッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないために、ニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0058】
<デスマット処理>
上記電気化学的粗面化処理の前および/または後に上記アルカリエッチング処理を行う場合は、アルカリエッチング処理により、一般にアルミニウム板の表面にスマットが生成するので、リン酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸、またはこれらの2種以上の混酸を含有する酸性溶液中で上記スマットを溶解する、いわゆるデスマット処理をアルカリエッチング処理の後に行うのが好ましい。なお、アルカリエッチング処理の後には、酸性エッチング処理およびデスマット処理のうち、いずれか一方を行えば十分である。
【0059】
酸性溶液の濃度は、1〜500g/Lであるのが好ましい。酸性溶液中にはアルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分が0.001〜50g/L溶解していてもよい。
酸性溶液の液温は、20℃〜95℃であるのが好ましく、30〜70℃であるのがより好ましい。また、処理時間は1〜120秒であるのが好ましく、2〜60秒であるのがより好ましい。
また、デスマット処理液(酸性溶液)としては、上記電気化学的粗面化処理で用いた酸性水溶液の廃液を用いるのが、廃液量削減の上で好ましい。
デスマット処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないためにニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0060】
これらの表面処理の組み合わせとして、好ましい態様を以下に示す。
まず、機械的粗面化処理および/またはアルカリエッチング処理を行い、その後、デスマット処理を行う。つぎに、電気化学的粗面化処理を行い、その後、▲1▼酸性エッチング処理、▲2▼アルカリエッチング処理およびそれに引き続くデスマット処理、▲3▼アルカリエッチング処理およびそれに引き続く酸性エッチング処理、▲4▼アルカリエッチング処理およびそれに引き続くデスマット処理あるいは酸性エッチング処理を施した後、さらに電気化学的粗面化処理、アルカリエッチング処理およびそれに引き続くデスマット処理のいずれかを行う。
【0061】
<陽極酸化処理>
以上のようにして粗面化処理および必要に応じて他の処理を施されたアルミニウム板に、陽極酸化処理を施す。
陽極酸化処理はこの分野で従来行われている方法で行うことができる。具体的には、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等の単独のまたは2種以上を組み合わせた水溶液または非水溶液の中で、アルミニウム板に直流または交流を流すと、アルミニウム板の表面に、陽極酸化皮膜を形成することができる。
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.5〜60A/dm2 、電圧1〜200V、電解時間1〜1000秒であるのが適当である。
これらの陽極酸化処理の中でも、英国特許第1,412,768号明細書に記載されている、硫酸電解液中で高電流密度で陽極酸化処理する方法、および、米国特許第3,511,661号明細書に記載されている、リン酸を電解浴として陽極酸化処理する方法が好ましい。また、硫酸中で陽極酸化処理し、更にリン酸中で陽極酸化処理するなどの多段陽極酸化処理を施すこともできる。
【0062】
本発明においては、陽極酸化皮膜は、傷付きにくさおよび耐刷性の点で、1.0g/m2 以上であるのが好ましく、3.0g/m2 以上であるのがより好ましく、4.0g/m2 以上であるのが特に好ましく、また、厚い皮膜を設けるためには多大なエネルギーを必要とすることを鑑みると、100g/m2 以下であるのが好ましく、40g/m2 以下であるのがより好ましく、20g/m2 以下であるのが特に好ましい。
【0063】
陽極酸化皮膜には、その表面にマイクロポアと呼ばれる微細な凹部が一様に分布して形成されている。陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアの密度は、処理条件を適宜選択することによって調整することができる。
【0064】
<ポアワイド処理>
本発明においては、熱伝導率を下げる目的で、陽極酸化処理の後、マイクロポアのポア径を拡げるポアワイド処理を行うことが好ましい。このポアワイド処理は、陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム基板を酸水溶液またはアルカリ水溶液に浸せきすることにより、陽極酸化皮膜を溶解し、マイクロポアのポア径を拡大するものである。ポアワイド処理は、陽極酸化皮膜の溶解量が、好ましくは0.01〜20g/m2 、より好ましくは0.1〜5g/m2 、特に好ましくは0.2〜4g/m2 となる範囲で行われる。
【0065】
ポアワイド処理に酸水溶液を用いる場合は、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は10〜1000g/Lであるのが好ましく、20〜500g/Lであるのがより好ましい。酸水溶液の温度は、10〜90℃であるのが好ましく、30〜70℃であるのがより好ましい。酸水溶液への浸せき時間は、1〜300秒であるのが好ましく、2〜100秒であるのがより好ましい。
一方、ポアワイド処理にアルカリ水溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリの水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液のpHは、10〜13であるのが好ましく、11.5〜13.0であるのがより好ましい。アルカリ水溶液の温度は、10〜90℃であるのが好ましく、30〜50℃であるのがより好ましい。アルカリ水溶液への浸せき時間は、1〜500秒であるのが好ましく、2〜100秒であるのがより好ましい。又、アルカリ処理の後に酸水溶液での処理を行っても良い。
【0066】
<特定の水溶液での処理>
本発明においては、上述したようにして陽極酸化皮膜を設けた後、更に、下記1)および2)の処理をこの順序で、または2)、1)の順序で、または2)、1)、2)の順で行う。
1)ポリビニルホスホン酸を含む水溶液で処理、
2)ケイ酸化合物を含有する水溶液で処理、
この工程を行うことおよび後に説明する特定の高分子をこの上に設けることにより、平版印刷版としたときに、感度、耐刷性および耐汚れ性のいずれにも優れる平版印刷版用支持体が得られる。
【0067】
1)本発明に用いられるポリビニルホスホン酸を含む水溶液で処理する工程の例示は、米国特許第4,153,461号明細書に親水化処理として記載されているポリビニルホスホン酸で処理する方法が好適に挙げられる。
【0068】
ポリビニルホスホン酸は、好ましくは分子量800〜20000で、水溶液で用いられるが、エチルアルコール、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルグリコールアセテート等の揮発性溶媒を含む水溶液でもよい。例えば、ポリビニルホスホン酸濃度が0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜2.5質量%、温度が10℃〜70℃、好ましくは30℃〜60℃である。アルミニウム支持体を、例えば、この水溶液に、0.5秒〜10分、好ましくは1秒〜30秒浸せきすることにより処理することができる。浸漬以外では、ブラシ、スポンジ、スプレー、ホイールコータ等で水溶液を塗布してもよい。処理後は、必要な場合は水洗、乾燥処理してもよい。
【0069】
本発明のポリビニルホスホン酸を含む水溶液処理では、ポリビニルホスホン酸に加えて、またはその代わりに以下のモノマーを含むポリマー、またはコポリマーを用いることができる。p−ビニルベンジルホスホン酸、2−プロペニル−ホスホン酸ジエチルエステル、[2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)−アミノ]プロピル]−ホスホン酸、α−フェニルビニルホスホン酸、ビニルホスホン酸、ホスホン化無水マレイン酸、ホスホン化アクリレート又はメタクリレート、ビニルホスホン酸ジメチル、2−プロペニルホスホン酸、ホスホノメチル化アクリルアミド、ホスホノメチル化ビニルアミン、ビニルアミノメチレンホスホン酸、1−フェニルビニルホスホン酸、ビニルホスホン酸、(アクリルアミドメチルプロピル)ホスホン酸、ビニルホスホン酸メチル。
【0070】
2)本発明に用いられるケイ酸化合物を含有する水溶液処理に用いられるケイ酸化合物としては、ケイ酸、ケイ酸塩が挙げられるが、中でもアルカリ金属ケイ酸塩が好適に挙げられる。
具体的には、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。中でも、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムが好ましい。
ケイ酸ナトリウムは、例えば、3号ケイ酸ナトリウム、2号ケイ酸ナトリウム、1号ケイ酸ナトリウム、オルソケイ酸ナトリウム、セスキケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムが挙げられる。ケイ酸カリウムは、例えば1号ケイ酸カリウムが挙げられる。又、アルミニウムを含むアルミノケイ酸塩、ホウ素を含むホウケイ酸塩を用いることもできる。
ケイ酸は、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二ケイ酸、メタ三ケイ酸、メタ四ケイ酸が挙げられる。
【0071】
ケイ酸化合物の水溶液中の濃度は、汚れ性の点で、0.01質量%以上であるのが好ましく、0.1質量%以上であるのがより好ましい。また、耐刷性の点で、10質量%以下であるのが好ましく、7質量%以下であるのがより好ましく、5質量%以下であるのが特に好ましい。
【0072】
本発明に用いる水溶液は、ポリビニルホスホン酸およびケイ酸化合物を含有する水溶液であってもよく、その場合両者の濃度は、それぞれ上記の濃度範囲とする。
【0073】
また、本発明に用いるケイ酸化合物の水溶液は、pHを高くするために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化物を適当量含有してもよい。中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
また、さらにアルカリ土類金属塩または4族(第IVB族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩等の水溶性塩が挙げられる。4族(第IVB族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩および4族(第IVB族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0074】
また、ケイ酸化合物の水溶液の温度は、10℃以上であるのが好ましく、20℃以上であるのがより好ましく、また、100℃以下であるのが好ましく、80℃以下であるのがより好ましい。
また、水溶液は、pH8以上であるのが好ましく、pH10以上であるのがより好ましく、また、pH13以下であるのが好ましく、pH12以下であるのがより好ましい。
【0075】
本発明に用いるケイ酸化合物の水溶液での処理の方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。 中でも、浸せき法が好ましい。浸せき法を用いて処理する場合、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、3秒以上であるのがより好ましく、また、600秒以下であるのが好ましく、120秒以下であるのがより好ましい。
【0076】
<酸性水溶液処理>
本発明においては、上記ケイ酸化合物の水溶液での処理されたアルミニウム支持体を、必要に応じ、酸性水溶液で処理することができる。この酸性水溶液としては、硫酸、硝酸、塩酸、蓚酸、燐酸などの水溶液が挙げられる。また、この酸性水溶液処理は、親水化処理されたアルミニウム支持体を、上記のような酸の濃度0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜1重量%の水溶液に、温度15〜70℃、好ましくは25〜50℃で、0.5〜120秒間、好ましくは2〜30秒間程浸漬することにより行うのが適当である。この酸性水溶液処理により、感熱層等の記録層との密着性を向上させ耐刷力を向上させることができる。
【0077】
水溶液での処理工程は1)ポリビニルホスホン酸を含む水溶液での処理、2)ケイ酸化合物を含有する水溶液での処理、の工程を組み合わせるが、さらに複数回用いてもよく、1)および2)の処理をこの順序で、または2)、1)の順序で、または2)、1)、2)の順で行う。前述の陽極酸化処理における封孔処理は、水溶液での処理工程の前に行ってもよいし、後で行ってもよい。
【0078】
本発明においては、上述したようにして特定の水溶液で処理して得られた本発明の平版印刷版用支持体を、更に1種以上の親水性化合物を含有する水溶液へ浸せきすることにより、親水性表面処理を行ってもよい。親水性化合物としては、例えば、スルホン酸基を有する化合物、糖類化合物、ビニルホスホン酸以外のリン酸塩化合物、フッ素化合物が挙げられる。
【0079】
スルホン酸基を有する化合物には、芳香族スルホン酸、そのホルムアルデヒド縮合物、それらの誘導体、およびそれらの塩が含まれる。
芳香族スルホン酸としては、例えば、フェノールスルホン酸、カテコールスルホン酸、レゾルシノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、リグニンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アセナフテン−5−スルホン酸、フェナントレン−2−スルホン酸、ベンズアルデヒド−2(または3)−スルホン酸、ベンズアルデヒド−2,4(または3,5)−ジスルホン酸、オキシベンジルスルホン酸類、スルホ安息香酸、スルファニル酸、ナフチオン酸、タウリンが挙げられる。中でも、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、リグニンスルホン酸が好ましい。また、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、リグニンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物も好ましい。
更に、これらは、スルホン酸塩として使用してもよい。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩が挙げられる。中でも、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
スルホン酸基を有する化合物を含有する水溶液のpHは、4〜6.5であるのが好ましく、硫酸、水酸化ナトリウム、アンモニア等を用いて上記pH範囲に調整することができる。
【0080】
糖類化合物には、単糖類およびその糖アルコール、オリゴ糖類、多糖類、ならびに、配糖体が含まれる。
単糖類およびその糖アルコールとしては、例えば、グリセロール等のトリオース類およびその糖アルコール類;トレオース、エリトリトール等のテトロースおよびその糖アルコール類;アラビノース、アラビトール等のペントースおよびその糖アルコール類;グルコース、ソルビトール等のヘキソースおよびその糖アルコール類;D−グリセロ−D−ガラクトヘプトース、D−グリセロ−D−ガラクトヘプチトール等のヘプトースおよびその糖アルコール類;D−エリトロ−D−ガラクトオクチトール等のオクトースおよびその糖アルコール類;D−エリトロ−L−グルコ−ノヌロース等のノノースおよびその糖アルコール類が挙げられる。
オリゴ糖類としては、例えば、サッカロース、トレハロース、ラクトース等の二糖類;ラフィノース等の三糖類が挙げられる。
多糖類としては、例えば、アミロース、アラビナン、シクロデキストリン、アルギン酸セルロースが挙げられる。
【0081】
本発明において、「配糖体」とは、糖部分と非糖部分がエーテル結合等を介して結合している化合物をいう。
配糖体は非糖部分により分類することができる。例えば、アルキル配糖体、フェノール配糖体、クマリン配糖体、オキシクマリン配糖体、フラボノイド配糖体、アントラキノン配糖体、トリテルペン配糖体、ステロイド配糖体、からし油配糖体が挙げられる。
糖部分としては、上述した単糖類およびその糖アルコール;オリゴ糖類;多糖類が挙げられる。中でも、単糖類、オリゴ糖類が好ましく、単糖類、二糖類がより好ましい。
好ましい配糖体の例として、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0082】
【化1】
【0083】
上記式(I)中、Rは、炭素原子数1〜20の直鎖のまたは分枝を有する、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表す。
炭素原子数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル基が挙げられ、これらは直鎖であっても、分枝を有していてもよく、また、環状アルキル基であってもよい。
炭素原子数1〜20のアルケニル基としては、例えば、アリル、2−ブテニル基が挙げられ、これらは直鎖であっても、分枝を有していてもよく、また、環状アルケニル基であってもよい。
炭素原子数1〜20のアルキニル基としては、例えば、1−ペンチニル基が挙げられ、これらは直鎖であっても、分枝を有していてもよく、また、環状アルキニル基であってもよい。
【0084】
上記式(I)で表される具体的な化合物としては、例えば、メチルグルコシド、エチルグルコシド、プロピルグルコシド、イソプロピルグルコシド、ブチルグルコシド、イソブチルグルコシド、n−ヘキシルグルコシド、オクチルグルコシド、カプリルグルコシド、デシルグルコシド、2−エチルヘキシルグルコシド、2−ペンチルノニルグルコシド、2−ヘキシルデシルグルコシド、ラウリルグルコシド、ミリスチルグルコシド、ステアリルグルコシド、シクロヘキシルグルコシド、2−ブチニルグルコシドが挙げられる。これらの化合物は、配糖体の一種であるグルコシドで、ブドウ糖のヘミアセタールヒドロキシル基が他の化合物をエーテル状に結合したものであり、例えば、グルコースとアルコール類とを反応させる公知の方法により得ることができる。これらのアルキルグルコシドの一部は、ドイツHenkel社により商品名グルコポン(GLUCOPON)として市販されており、本発明ではそれを用いることができる。
【0085】
好ましい配糖体の別の例としては、サポニン類、ルチントリハイドレート、ヘスペリジンメチルカルコン、ヘスペリジン、ナリジンハイドレート、フェノール−β−D−グルコピラノシド、サリシン、3´,5,7−メトキシ−7−ルチノシドが挙げられる。
【0086】
糖類化合物を含有する水溶液のpHは、8〜11であるのが好ましく、水酸化カリウム、硫酸、炭酸、炭酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム等を用いて上記pH範囲に調整することができる。
【0087】
また、スルホン酸基を有する化合物の水溶液は、濃度が0.02〜0.2質量%であるのが好ましい。浸せき温度は60〜100℃であるのが好ましい。浸せき時間は1〜300秒であるのが好ましく、10〜100秒であるのがより好ましい。
更に、糖類化合物の水溶液は、濃度が0.5〜10質量%であるのが好ましい。浸せき温度は40〜70℃であるのが好ましい。浸せき時間は2〜300秒であるのが好ましく、5〜30秒であるのがより好ましい。
【0088】
本発明に用いられるリン酸塩としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属のリン酸塩が挙げられる。
具体的には、例えば、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一アンモニウム、リン酸一カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カルシウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸第一鉄、リン酸第二鉄、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸鉛、リン酸二アンモニウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸リチウム、リンタングステン酸、リンタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸ナトリウム;亜リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムが挙げられる。中でも、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムが好ましい。
【0089】
また、親水性表面処理に用いられる無機フッ素化合物としては、金属フッ化物が好適に挙げられる。具体的には、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ヘキサフルオロジルコニウムナトリウム、ヘキサフルオロジルコニウムカリウム、ヘキサフルオロチタン酸ナトリウム、ヘキサフルオロチタン酸カリウム、ヘキサフルオロジルコニウム水素酸、ヘキサフルオロチタン水素酸、ヘキサフルオロジルコニウムアンモニウム、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、ヘキサフルオロケイ酸、フッ化ニッケル、フッ化鉄、フッ化リン酸、フッ化リン酸アンモニウムが挙げられる。
【0090】
支持体は、これらの親水性化合物を含有する水溶液へ浸せきした後には、水等によって洗浄され、乾燥される。
【0091】
上述した親水性表面処理により、陽極酸化処理後のポアワイド処理により向上した感度(ネガタイプの感光層の場合は耐刷性の向上)と引き替えに発生する耐放置汚れ性(インキ払い性)劣化等の印刷汚れの問題が解消される。即ち、ポア径が拡大したことにより、印刷時、特に印刷機が停止し、平版印刷版が印刷機上で放置された後の印刷再スタート時に、インキが取れにくくなる現象(耐放置汚れ性(インキ払い性)劣化)が起こりやすくなる問題があるが、親水性表面処理が施されていると、上記問題が軽減される。
【0092】
このような特定の水溶液処理して得られる本発明の平版印刷版用支持体は、表面が下記式(1)を満たすのが好ましい。
0.05≦(A+B)/(A+B+C)≦0.70 (1)
A:X線光電子分光法を用いて測定して得られるリン(2p)のピーク面積(counts・eV/sec)
B:X線光電子分光法を用いて測定して得られるケイ素(2p)のピーク面積(counts・eV/sec)
C:X線光電子分光法を用いて測定して得られたアルミニウム(2p)のピーク面積(counts・eV/sec)
【0093】
上記式(1)において、「(A+B)/(A+B+C)」は、陽極酸化皮膜において、リン化合物およびケイ素化合物が被覆している程度を表しており、「(A+B)/(A+B+C)」の値が大きいほど被覆率が高く、小さいほど被覆率が低い。
ここで、「(A+B)/(A+B+C)」の値が0.05以上であると、特定の水溶液による処理の効果が大きくなり、耐汚れ性(耐地汚れ性および耐放置汚れ性)がより優れたものとなる。よって、「(A+B)/(A+B+C)」の値は、0.05以上であるのが好ましく、0.10以上であるのがより好ましい。一方、「(A+B)/(A+B+C)」の値が0.70以下であると、無機フッ素化合物とケイ酸化合物とを含有する水溶液による処理の効果が適度となり、耐刷性がより優れたものとなる。よって、「(A+B)/(A+B+C)」の値は、0.70以下であるのが好ましく、0.60以下であるのがより好ましい。
【0094】
支持体の表面を上記式の条件とするには、本発明の特定の水溶液処理の各条件を調整したり、他の必須ではないが行ってもよい処理を行って調整してもよい。
【0095】
<中間層>
上記の処理を行ったアルミニウム支持体上に中間層(記録層側から見れば下塗層)として酸基を含有する高分子化合物を設ける。
【0096】
(酸基とオニウム基とを有する高分子化合物の中間層)
中間層形成に用いる高分子化合物として、酸基を有する、あるいは、酸基を有する構成成分と共にオニウム基を有する構成成分をも有する高分子化合物が一層好適に用いられる。この高分子化合物の構成成分の酸基としては、酸解離指数(pKa)が7以下の酸基が好ましく、より好ましくは−COOH、−SO3 H、−OSO3 H、−PO3 H2 、−OPO3 H2 、−CONHSO2 、−SO2 NHSO2 −であり、特に好ましくは−COOHである。好適なる酸基を有する構成成分は、下記の一般式(1)あるいは一般式(2)で表される重合可能な化合物である。
【0097】
【化2】
【0098】
式中、Aは2価の連結基を表す。Bは芳香族基あるいは置換芳香族基を表す。D及びEはそれぞれ独立して2価の連結基を表す。Gは3価の連結基を表す。X及びX′はそれぞれ独立してpKaが7以下の酸基あるいはそのアルカリ金属塩あるいはアンモニウム塩を表す。R1 は水素原子、アルキル基またはハロゲン原子を表す。a,b,d,eはそれぞれ独立して0または1を表す。tは1〜3の整数である。酸基を有する構成成分の中でより好ましくは、Aは−COO−または−CONH−を表し、Bはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基、ハロゲン原子あるいはアルキル基である。D及びEはそれぞれ独立してアルキレン基あるいは分子式がCn H2nO、Cn H2nSあるいはCn H2n+1Nで表される2価の連結基を表す。Gは分子式がCn H2n−1、Cn H2n−1O、Cn H2n−1SあるいはCn H2nNで表される3価の連結基を表す。ただし、ここでnは1〜12の整数を表す。X及びX′はそれぞれ独立してカルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、硫酸モノエステルあるいは燐酸モノエステルを表す。R1 は水素原子またはアルキル基を表す。a,b,d,eはそれぞれ独立して0または1を表すが、aとbは同時に0ではない。酸基を有する構成成分の中で特に好ましくは一般式(1)で示す化合物であり、Bはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基あるいは炭素数1〜3のアルキル基である。D及びEはそれぞれ独立して炭素数1〜2のアルキレン基あるいは酸素原子で連結した炭素数1〜2のアルキレン基を表す。R1 は水素原子あるいはメチル基を表す。Xはカルボン酸基を表す。aは0であり、bは1である。
【0099】
酸基を有する構成成分の具体例を以下に示す。ただし、本発明はこの具体例に限定されるものではない。アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられ、さらに下記のものが挙げられる。
【0100】
【化3】
【0101】
【化4】
【0102】
【化5】
【0103】
上記のような酸基を有する構成成分は、1種類あるいは2種類以上組み合わせてもよい。
【0104】
(オニウム基を有する高分子化合物の中間層)
また、上記中間層形成に用いられる高分子化合物の構成成分のオニウム基として好ましいものは、周期律表第V族あるいは第VI族の原子からなるオニウム基であり、より好ましくは窒素原子、リン原子あるいはイオウ原子からなるオニウム基であり、特に好ましくは窒素原子からなるオニウム基である。また、この高分子化合物は、その主鎖構造がアクリル樹脂やメタクリル樹脂やポリスチレンのようなビニル系ポリマーあるいはウレタン樹脂あるいはポリエステルあるいはポリアミドであるポリマーが好ましい。中でも、主鎖構造がアクリル樹脂やメタクリル樹脂やポリスチレンのようなビニル系ポリマーがさらに好ましい。特に好ましい高分子化合物は、オニウム基を有する構成成分が下記の一般式(3)、一般式(4)あるいは一般式(5)で表される重合可能な化合物であるポリマーである。
【0105】
【化6】
【0106】
式中、Jは2価の連結基を表す。Kは芳香族基あるいは置換芳香族基を表す。Mはそれぞれ独立して2価の連結基を表す。Y1 は周期律表第V族の原子を表し、Y2 は周期律表第VI族の原子を表す。Z− は対アニオンを表す。R2 は水素原子、アルキル基またはハロゲン原子を表す。R3 ,R4 ,R5 ,R7 はそれぞれ独立して水素原子あるいは場合によっては置換基が結合してもよいアルキル基、芳香族基、アラルキル基を表し、R6 はアルキリジン基あるいは置換アルキリジンを表すが、R3 とR4 あるいはR6 とR7 はそれぞれ結合して環を形成してもよい。j,k,mはそれぞれ独立して0または1を表す。uは1〜3の整数を表す。オニウム基を有する構成成分の中でより好ましくは、Jは−COO−または−CONH−を表し、Kはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基、ハロゲン原子あるいはアルキル基である。Mはアルキレン基あるいは分子式がCn H2nO、Cn H2nSあるいはCn H2n+1Nで表される2価の連結基を表す。ただし、ここでnは1〜12の整数を表す。Y1 は窒素原子またはリン原子を表し、Y2 はイオウ原子を表す。Z− はハロゲンイオン、PF6 − 、BF4 − あるいはR8 SO3 − を表す。R2 は水素原子またはアルキル基を表す。R3 ,R4 ,R5 ,R7 はそれぞれ独立して水素原子あるいは場合によっては置換基が結合してもよい炭素数1〜10のアルキル基、芳香族基、アラルキル基を表し、R6 は炭素数1〜10のアルキリジン基あるいは置換アルキリジンを表すが、R3 とR4 あるいはR6 とR7 はそれぞれ結合して環を形成してもよい。j,k,mはそれぞれ独立して0または1を表すが、jとkは同時に0ではない。オニウム基を有する構成成分の中で特に好ましくは、Kはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基あるいは炭素数1〜3のアルキル基である。Mは炭素数1〜2のアルキレン基あるいは酸素原子で連結した炭素数1〜2のアルキレン基を表す。Z− は塩素イオン等のハロゲンイオンあるいはR8 SO3 − を表す。R8 は水素原子あるいはメチル基を表す。jは0であり、kは1である。
【0107】
オニウム基を有する構成成分の具体例を以下に示す。ただし、本発明はこの具体例に限定されるものではない。
【0108】
【化7】
【0109】
【化8】
【0110】
中間層形成に用いる高分子化合物には、上記のようなオニウム基を有する構成成分を1モル%以上、好ましくは5モル%以上含むことが望ましい。オニウム基を有する構成成分が1モル%以上含まれると密着性が一層向上される。また、オニウム基を有する構成成分は1種類あるいは2種類以上組み合わせてもよい。さらに、中間層形成に用いる高分子化合物は、構成成分あるいは組成比あるいは分子量の異なるものを2種類以上混合して用いてもよい。
【0111】
また、この酸基と共にオニウム基をも有する高分子化合物においては、酸基を有する構成成分を20モル%以上、好ましくは40モル%以上含み、オニウム基を有する構成成分を1モル%以上、好ましくは5モル%以上含むことが望ましい。酸基を有する構成成分が20モル%以上含まれると、アルカリ現像時の溶解除去が一層促進され、また酸基とオニウム基との相乗効果により密着性がなお一層向上される。また、このオニウム基と共に酸基をも有する高分子化合物においても、構成成分あるいは組成比あるいは分子量の異なるものを2種類以上混合して用いてもよいことはいうまでもない。以下に、上記のオニウム基と共に酸基をも有する高分子化合物の代表的な例を示す。なお、ポリマー構造の組成比はモル百分率を表す。
【0112】
【化9】
【0113】
【化10】
【0114】
【化11】
【0115】
【化12】
【0116】
(中間層形成用高分子化合物の製法等)
上記のような中間層形成に用いる、酸基を有するあるいは酸基と共にオニウム基をも有する高分子化合物のいずれも、一般には、ラジカル連鎖重合法を用いて製造することができる(“Textbook of Polymer Science” 3rd ed,(1984)F.W.Billmeyer,A Wiley−Interscience Publication参照)。また、これらの高分子化合物の分子量は広範囲であってもよいが、光散乱法を用いて測定した時、重量平均分子量(Mw)が500〜2,000,000であることが好ましく、また2,000〜600,000の範囲であることが更に好ましい。また、この高分子化合物中に含まれる未反応モノマー量は広範囲であってもよいが、20重量%以下であることが好ましく、また10重量%以下であることがさらに好ましい。また、酸基と共にオニウム基をも有する高分子化合物の代表的な例の一つとして上記したp−ビニル安息香酸とビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドとの共重合体(表1のNo.1)を例にとって、その合成例を示せば次のとおりである。p−ビニル安息香酸[北興化学工業(株)製]146.9g(0.99mol)、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド44.2g(0.21mol)および2−メトキシエタノール446gを1Lの3口フラスコに取り、窒素気流下攪拌しながら、加熱し75℃に保った。次に2,2−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル2,76g(12mmol)を加え、攪拌を続けた。2時間後、2,2−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル2,76g(12mmol)を追加した。更に、2時間後、2,2−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル2.76g(12mmol)を追加した。2時間攪拌した後、室温まで放冷した。この反応液を攪拌下12Lの酢酸エチル中に注いだ。析出する固体を濾取し、乾燥した。その収量は189.5gであった。得られた固体は光散乱法で分子量測定を行った結果、重量平均分子量(Mw)は3.2万であった。他の高分子化合物も同様の方法で合成できる。
【0117】
(中間層の形成法)
中間層は、上記した酸基を有するあるいは酸基と共にオニウム基をも有する高分子化合物(以下単に「高分子化合物」という)を、上記した特定の水溶液で処理したアルミニウム支持体あるいは特定の水溶液処理後さらに酸性水溶液処理したアルミニウム支持体(以下単に「アルミニウム支持体」という)の上に種々の方法により塗布して設けられる。中間層を設けるために一般的に採用される方法の一つは、メタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤あるいはこれら有機溶剤と水との混合溶剤に高分子化合物を溶解させた溶液をアルミニウム支持体上に塗布し、乾燥して設ける方法であり、他の一つは、メタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤あるいはこれら有機溶剤と水との混合溶剤に高分子化合物を溶解させた溶液に、アルミニウム支持体を浸漬して高分子化合物を吸着させ、しかる後、水などによって洗浄し、乾燥して設ける方法である。前者の方法では、高分子化合物の0.005〜10重量%の濃度の溶液を種々の方法で塗布できる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布などいずれの方法を用いてもよい。また、後者の方法では、溶液の濃度は0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜5重量%であり、浸漬温度は20〜90℃、好ましくは25〜50℃であり、浸漬時間は0.1秒〜20分、好ましくは2秒〜1分である。
【0118】
上記の高分子化合物の溶液は、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化カリウムなどの塩基性物質や、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸などの無機酸、ニトロベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸、フェニルホスホン酸などの有機ホスホン酸、安息香酸、クマル酸、リンゴ酸などの有機カルボン酸など種々の有機酸性物質、ナフタレンスルホニルクロライド、ベンゼンスルホニルクロライドなどの有機酸クロライド等によりpHを調整し、pH=0〜12、より好ましくはpH=0〜5、の範囲で使用することもできる。また、感光性平版印刷版の調子再現性改良のために黄色染料を添加することもできる。高分子化合物の乾燥後の被覆量は、2〜100mg/m2 が適当であり、好ましくは5〜50mg/m2 である。上記被覆量が2mg/m2 よりも少ないと、十分な効果が得られない。また、100mg/m2 より多くても同様である。
【0119】
<バックコート層>
上述したようにして得られる支持体には、平版印刷版原版としたときに、重ねても記録層が傷付かないように、裏面(記録層が設けられない側の面)に、有機高分子化合物からなる被覆層(以下「バックコート層」ともいう。)を必要に応じて設けてもよい。
バックコート層の主成分としては、ガラス転移点が20℃以上の、飽和共重合ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂および塩化ビニリデン共重合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いるのが好ましい。特開平5−45885号公報記載の有機高分子化合物および特開平6−35174号公報記載の有機または無機金属化合物を加水分解および重縮合させて得られる金属酸化物からなる被覆層が好ましく用いられる。これらの被覆層のうち、Si(OCH3 )4 、Si(OC2 H5 )4 、Si(OC3 H7 )4 、Si(OC4 H9 )4 などの珪素のアルコキシ化合物が安価で入手し易く、それから与られる金属酸化物の被覆層が耐現像性に優れており好ましい。
【0120】
バックコート層に用いる飽和共重合ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸ユニットとジオールユニットとからなる。ジカルボン酸ユニットとしては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、シュウ酸、スベリン酸、セバチン酸、マロン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0121】
バックコート層は、更に、着色のための染料や顔料、支持体との密着性を向上させるためのシランカップリング剤、ジアゾニウム塩からなるジアゾ樹脂、有機ホスホン酸、有機リン酸、カチオン性ポリマー、滑り剤として通常用いられるワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、ジメチルシロキサンからなるシリコーン化合物、変性ジメチルシロキサン、ポリエチレン粉末等を適宜含有することができる。
【0122】
バックコート層の厚さは、基本的には合紙がなくても、後述する記録層を傷付けにくい程度であればよく、0.01〜8μmであるのが好ましい。厚さが0.01μm未満であると、平版印刷版原版を重ねて取り扱った場合の記録層の擦れ傷を防ぐことが困難である。また、厚さが8μmを超えると、印刷中、平版印刷版周辺で用いられる薬品によってバックコート層が膨潤して厚みが変動し、印圧が変化して印刷特性を劣化させることがある。
【0123】
バックコート層を支持体の裏面に設ける方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、上記バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解し溶液にして塗布し、または、乳化分散液にして塗布し、乾燥する方法;あらかじめフィルム状に成形したものを接着剤や熱での支持体に貼り合わせる方法;溶融押出機で溶融被膜を形成し、支持体に貼り合わせる方法が挙げられる。好適な厚さを確保するうえで最も好ましいのは、バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解し溶液にして塗布し、乾燥する方法である。この方法においては、特開昭62−251739号公報に記載されているような有機溶剤を単独でまたは混合して、溶媒として用いることができる。
【0124】
平版印刷版原版の製造においては、裏面のバックコート層と表面の記録層のどちらを先に支持体上に設けてもよく、また、両者を同時に設けてもよい。
【0125】
[平版印刷版原版]
本発明の平版印刷版原版は、このようにして得られる本発明の平版印刷版用支持体上に、赤外線レーザー露光により書き込み可能な記録層を設けることにより得られる。
<記録層>
本発明の平版印刷版原版においては、記録層が、
(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー、または、
(b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセル
を含有する感熱層であるのが好ましい。この感熱層を用いると、機上現像タイプの平版印刷版原版とすることができる。
【0126】
上記(a)および(b)に共通の熱反応性官能基としては、例えば、重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基)、付加反応を行うイソシアネート基またはそのブロック体、その反応相手である活性水素原子を有する官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基)、同じく付加反応を行うエポキシ基、その反応相手であるアミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシル基、縮合反応を行うカルボキシル基とヒドロキシル基またはアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物とアミノ基またはヒドロキシル基が挙げられる。本発明に用いられる熱反応性官能基は、これらに限定されず、化学結合が形成されるならば、どのような反応を行う官能基でもよい。
【0127】
(a)微粒子ポリマーに好適な熱反応性官能基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリルロイル基、ビニル基、アリル基、エポキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアネート基、酸無水物基およびそれらを保護した基が挙げられる。熱反応性官能基のポリマー粒子への導入は、ポリマーの重合時に行ってもよいし、重合後に高分子反応を利用して行ってもよい。
【0128】
熱反応性官能基をポリマーの重合時に導入する場合は、熱反応性官能基を有するモノマーを用いて乳化重合または懸濁重合を行うのが好ましい。
熱反応性官能基を有するモノマーの具体例としては、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ビニルメタクリレート、ビニルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、2−イソシアネートエチルメタクリレート、そのアルコールなどによるブロックイソシアネート、2−イソシアネートエチルアクリレート、そのアルコールなどによるブロックイソシアネート、2−アミノエチルメタクリレート、2−アミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、二官能アクリレート、二官能メタクリレートが挙げられる。本発明に用いられる熱反応性官能基を有するモノマーは、これらに限定されない。
これらのモノマーと共重合可能な、熱反応性官能基を有しないモノマーとしては、例えば、スチレン、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アクリロニトリル、酢酸ビニルが挙げられる。本発明に用いられる熱反応性官能基を有しないモノマーは、これらに限定されない。
【0129】
熱反応性官能基をポリマーの重合後に導入する場合に用いられる高分子反応としては、例えば、国際公開第96/34316号パンフレットに記載されている高分子反応が挙げられる。
【0130】
上記(a)微粒子ポリマーの中でも、微粒子ポリマー同士が熱により合体するものが好ましく、その表面が親水性で水に分散するものがより好ましい。また、微粒子ポリマーのみを塗布し、凝固温度よりも低い温度で乾燥して作製したときの皮膜の接触角(空中水滴)が、凝固温度よりも高い温度で乾燥して作製したときの皮膜の接触角(空中水滴)よりも低くなることが好ましい。
このように微粒子ポリマーの表面を親水性にするには、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の親水性ポリマーもしくはオリゴマー、または親水性低分子化合物を微粒子ポリマーの表面に吸着させればよいが、これらに限定されるものではない。
【0131】
(a)微粒子ポリマーの凝固温度は、70℃以上であるのが好ましいが、経時安定性を考えると100℃以上であるのがより好ましい。
(a)微粒子ポリマーの平均粒径は、0.01〜20μmであるのが好ましいが、その中でも0.05〜2.0μmであるのがより好ましく、0.1〜1.0μmであるのが好ましい。この範囲内で良好な解像度と経時安定性が得られる。
(a)微粒子ポリマーの添加量は、感熱層固形分の50質量%以上が好ましく、60質量%以上が更に好ましい。
【0132】
(b)マイクロカプセルに好適な熱反応性官能基としては、例えば、重合性不飽和基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、イソシアネートブロック体が挙げられる。
【0133】
重合性不飽和基を有する化合物としては、エチレン性不飽和結合、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物であるのが好ましい。そのような化合物群は当該産業分野において広く知られるものであり、本発明においては、これらを特に限定されずに用いることができる。これらは、化学的形態としては、モノマー、プレポリマー、即ち、二量体、三量体およびオリゴマー、またはそれらの混合物、およびそれらの共重合体である。
【0134】
具体的には、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸)、そのエステル、不飽和カルボン酸アミドが挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコールとのエステルおよび不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミンとのアミドが好ましい。
また、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルまたは不飽和カルボン酸アミドと単官能もしくは多官能のイソシアネートまたはエポキシドとの付加反応物、および、単官能もしくは多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に用いられる。
また、イソシアネート基、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルまたはアミドと、単官能もしくは多官能のアルコール、アミンまたはチオールとの付加反応物、および、ハロゲン基やトシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルまたはアミドと、単官能もしくは多官能アルコール、アミンまたはチオールとの置換反応物も好適である。
また、別の好適な例として、上記の不飽和カルボン酸を、不飽和ホスホン酸またはクロロメチルスチレンに置き換えた化合物が挙げられる。
【0135】
不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコールとのエステルである重合性化合物のうち、アクリル酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリス(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマーが挙げられる。
【0136】
メタクリル酸エステルとしては、例えば、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタンが挙げられる。
【0137】
イタコン酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネートが挙げられる。
【0138】
クロトン酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネートが挙げられる。
イソクロトン酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネートが挙げられる。
マレイン酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレートが挙げられる。
【0139】
その他のエステルとしては、例えば、特公昭46−27926号公報、同51−47334号公報、同57−196231号公報に記載されている脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240号公報、同59−5241号公報、特開平2−226149号公報に記載されている芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613号公報に記載されているアミノ基を含有するものが挙げられる。
【0140】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミドが挙げられる。
その他の好ましいアミド系モノマーとしては、例えば、特公昭54−21726号公報に記載されているシクロへキシレン構造を有するものが挙げられる。
【0141】
また、イソシアネートとヒドロキシル基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、具体的には、例えば、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記式(II)で示されるヒドロキシル基を有する不飽和モノマーを付加させて得られる、1分子中に2個以上の重合性不飽和基を含有するウレタン化合物が挙げられる。
CH2 =C(R1 )COOCH2 CH(R2 )OH (II)
(ただし、R1 およびR2 は、それぞれHまたはCH3 を表す。)
【0142】
また、特開昭51−37193号公報、特公平2−32293号公報、同2−16765号公報に記載されているようなウレタンアクリレートや、特公昭58−49860号公報、同56−17654号公報、同62−39417号公報、同62−39418号公報に記載されているエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物も好適なものとして挙げられる。
【0143】
更に、特開昭63−277653号公報、同63−260909号公報、特開平1−105238号公報に記載されている、分子内にアミノ構造やスルフィド構造を有するラジカル重合性化合物も好適なものとして挙げられる。
【0144】
その他の好適なものの例としては、特開昭48−64183号公報、特公昭49−43191号公報、同52−30490号公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートが挙げられる。また、特公昭46−43946号公報、特公平1−40337号公報、同1−40336号公報に記載されている特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号公報に記載されているビニルホスホン酸系化合物等も好適なものとして挙げられる。また、ある場合には、特開昭61−22048号公報に記載されているペルフルオロアルキル基を含有する化合物も好適に挙げられる。更に、日本接着協会誌、20巻7号、p.300〜308(1984年)に光硬化性モノマーおよびオリゴマーとして紹介されているものも好適に例示される。
【0145】
好適なエポキシ化合物としては、例えば、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ビスフェノール類もしくはポリフェノール類またはそれらの水素添加物のポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0146】
好適なイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、シクロヘキサンフェニレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、または、それらをアルコールもしくはアミンでブロックした化合物が挙げられる。
【0147】
好適なアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、プロピレンジアミン、ポリエチレンイミンが挙げられる。
【0148】
好適なヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、末端メチロール基を有する化合物、ペンタエリスリトール等の多価アルコール、ビスフェノール・ポリフェノール類が挙げられる。
好適なカルボキシル基を有する化合物としては、例えば、ピロメリット酸、トリメリット酸、フタル酸等の芳香族多価カルボン酸、アジピン酸等の脂肪族多価カルボン酸が挙げられる。
好適な酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物が挙げられる。
【0149】
エチレン状不飽和化合物の共重合体の好適なものとしては、例えば、アリルメタクリレートの共重合体が挙げられる。具体的には、例えば、アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、アリルメタクリレート/エチルメタクリレート共重合体、アリルメタクリレート/ブチルメタクリレート共重合体が挙げられる。
【0150】
マイクロカプセル化する方法としては、公知の方法が適用できる。例えば、マイクロカプセルの製造方法としては、米国特許第2,800,457号明細書、同第2,800,458号明細書に記載されているコアセルベーションを利用した方法、英国特許第99,0443号明細書、米国特許第3,287,154号明細書、特公昭38−19574号公報、同42−446号公報、同42−711号公報に記載されている界面重合法による方法、米国特許第3,418,250号明細書、同第3,660,304号明細書に記載されているポリマーの析出による方法、米国特許第3,796,669号明細書に記載されているイソシアネートポリオール壁材料を用いる方法、米国特許第3,914,511号明細書に記載されているイソシアネート壁材料を用いる方法、米国特許第4,001,140号明細書、同第4,087,376号明細書、同第4,089,802号明細書に記載されている尿素−ホルムアルデヒド系または尿素ホルムアルデヒド−レゾルシノール系壁形成材料を用いる方法、米国特許第4,025,445号明細書に記載されているメラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ヒドロキシセルロース等の壁材を用いる方法、特公昭36−9163号公報、同51−9079号公報に記載されているモノマー重合によるin situ法、英国特許第930,422号明細書、米国特許第3,111,407号明細書に記載されているスプレードライング法、英国特許第952,807号明細書、同第967,074号明細書に記載されている電解分散冷却法が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0151】
(b)マイクロカプセルに好適に用いられるマイクロカプセル壁は、三次元架橋を有し、溶剤によって膨潤する性質を有するものである。このような観点から、マイクロカプセルの壁材は、ポリウレア、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、またはこれらの混合物が好ましく、特に、ポリウレアおよびポリウレタンが好ましい。また、マイクロカプセル壁に熱反応性官能基を有する化合物を導入してもよい。
【0152】
(b)マイクロカプセルの平均粒径は、0.01〜20μmであるのが好ましく、0.05〜2.0μmであるのがより好ましく、0.10〜1.0μmであるのが特に好ましい。上記範囲内であると、良好な解像度と経時安定性が得られる。
【0153】
(b)マイクロカプセルは、カプセル同士が熱により合体してもよいし、合体しなくてもよい。要は、マイクロカプセル内包物のうち、塗布時にカプセル表面もしくはマイクロカプセル外に滲み出したもの、または、マイクロカプセル壁に浸入したものが、熱により化学反応を起こせばよい。添加された親水性樹脂、または、添加された低分子化合物と反応してもよい。また、2種以上のマイクロカプセルに、それぞれ異なる官能基で互いに熱反応するような官能基をもたせることによって、マイクロカプセル同士を反応させてもよい。
したがって、熱によってマイクロカプセル同士が、熱で溶融合体することは画像形成上好ましいことであるが、必須ではない。
【0154】
(b)マイクロカプセルの感熱層への添加量は、固形分換算で、10〜60質量%であるのが好ましく、15〜40質量%であるのがより好ましい。上記範囲であると、良好な機上現像性と同時に、良好な感度および耐刷性が得られる。
【0155】
(b)マイクロカプセルを感熱層に添加する場合、内包物が溶解し、かつ、壁材が膨潤する溶剤をマイクロカプセル分散媒中に添加することができる。このような溶剤によって、内包された熱反応性官能基を有する化合物の、マイクロカプセル外への拡散が促進される。
このような溶剤は、マイクロカプセル分散媒、マイクロカプセル壁の材質、壁厚および内包物に依存するが、多くの市販されている溶剤から容易に選択することができる。例えば、架橋ポリウレア、ポリウレタン壁からなる水分散性マイクロカプセルの場合、アルコール類、エーテル類、アセタール類、エステル類、ケトン類、多価アルコール類、アミド類、アミン類、脂肪酸類等が好ましい。
【0156】
具体的には、例えば、メタノール、エタノール、第三ブタノール、n−プロパノール、テトラヒドロフラン、乳酸メチル、乳酸エチル、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、γ−ブチルラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。また、これらの溶剤を2種以上併用してもよい。
【0157】
マイクロカプセル分散液には溶解しないが、上記溶剤を混合すれば溶解する溶剤も用いることができる。添加量は、素材の組み合わせにより決まるものであるが、通常、塗布液の5〜95質量%であるのが好ましく、10〜90質量%であるのがより好ましく、15〜85質量%であるのが特に好ましい。
【0158】
記録層として、上述した(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー、または、(b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセルを含有する感熱層を用いる場合には、必要に応じてこれらの反応を開始しまたは促進する化合物を添加してもよい。反応を開始しまたは促進する化合物としては、例えば、熱によりラジカルまたはカチオンを発生するような化合物が挙げられる。具体的には、例えば、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物、過酸化物、アゾ化合物、ジアゾニウム塩またはジフェニルヨードニウム塩などを含んだオニウム塩、アシルホスフィン、イミドスルホナートが挙げられる。
これらの化合物は、感熱層固形分の1〜20質量%の範囲で添加するのが好ましく、3〜10質量%の範囲であるのがより好ましい。上記範囲内であると、機上現像性を損なわず、良好な反応開始効果または反応促進効果が得られる。
【0159】
感熱層には親水性樹脂を添加してもよい。親水性樹脂を添加することにより機上現像性が良好となるばかりか、感熱層自体の皮膜強度も向上する。
親水性樹脂としては、ヒドロキシル、カルボキシル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、アミノ、アミノエチル、アミノプロピル、カルボキシメチル等の親水基を有するものが好ましい。
【0160】
親水性樹脂の具体例としては、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩、セルロースアセテート、アルギン酸ナトリウム、酢酸ビニル−マレイン酸コポリマー類、スチレン−マレイン酸コポリマー類、ポリアクリル酸類およびそれらの塩、ポリメタクリル酸類およびそれらの塩、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ポリエチレングリコール類、ヒドロキシプロピレンポリマー類、ポリビニルアルコール類、ならびに加水分解度が少なくとも60質量%、好ましくは少なくとも80質量%の加水分解ポリビニルアセテート、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー、メタクリルアミドのホモポリマーおよびポリマー、N−メチロールアクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマーが挙げられる。
【0161】
親水性樹脂の感熱層への添加量は、感熱層固形分の5〜40質量%であるのが好ましく、10〜30質量%であるのがより好ましい。上記範囲内であると、良好な機上現像性と皮膜強度が得られる。
【0162】
感熱層には、感度を向上させるため、赤外線を吸収して発熱する光熱変換剤を含有させることができる。かかる光熱変換剤は、700〜1200nmの少なくとも一部に吸収帯を有する光吸収物質であればよく、種々の顔料、染料および金属微粒子を用いることができる。
【0163】
顔料の種類としては、黒色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、例えば、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレンおよびペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラックが挙げられる。
【0164】
顔料は表面処理を施さずに用いてもよく、表面処理を施して用いてもよい。表面処理の方法としては、例えば、親水性樹脂や親油性樹脂を表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シリカゾル、アルミナゾル、シランカップリング剤やエポキシ化合物、イソシアネート化合物)を顔料表面に結合させる方法が挙げられる。上記表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)および「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。これらの顔料中、赤外線を吸収するものが、赤外線を発光するレーザでの利用に適する点で好ましい。かかる赤外線を吸収する顔料としてはカーボンブラックが好ましい。顔料の粒径は0. 01〜1μmの範囲にあるのが好ましく、0.01〜0.5μmの範囲にあるのがより好ましい。
【0165】
染料としては、市販の染料および、文献(例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)、「化学工業」1986年5月号P.45〜51の「近赤外吸収色素」、「90年代機能性色素の開発と市場動向」第2章2.3項(1990)シーエムシー)または特許に記載されている公知の染料が利用できる。
具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、ポリメチン染料、シアニン染料等の赤外線吸収染料が好ましい。
【0166】
更に、例えば、特開昭58−125246号公報、同59−84356号公報、同60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号公報、同58−181690号公報、同58−194595号等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号公報、同58−224793号公報、同59−48187号公報、同59−73996号公報、同60−52940号公報、同60−63744号等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号等に記載されているスクワリリウム染料、英国特許第434,875号明細書に記載されているシアニン染料、米国特許第4,756,993号明細書に記載されている染料、米国特許第4,973,572号明細書に記載されているシアニン染料、特開平10−268512号公報に記載されている染料、同11−235883号公報に記載されているフタロシアニン化合物が挙げられる。
【0167】
また、染料として米国特許第5,156,938号明細書に記載されている近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号明細書に記載されている置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号に記載されているトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号公報、同58−220143号公報、同59−41363号公報、同59−84248号公報、同59−84249号公報、同59−146063号公報、同59−146061号公報に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号公報に記載されているシアニン染料、米国特許第4,283,475号明細書に記載されているペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号公報、同5−19702号公報に記載されているピリリウム化合物、エポリン社製のエポライトIII−178、エポライトIII−130、エポライトIII−125等も好適に用いられる。
以下にいくつかの具体例を示す。
【0168】
【化13】
【0169】
【化14】
【0170】
上記の有機系の光熱変換剤は、感熱層中に30質量%までの範囲で添加するのが好ましい。より好ましくは5〜25質量%であり、特に好ましくは7〜20質量%である。上記範囲内であると、良好な感度が得られる。
【0171】
感熱層には、光熱変換剤として金属微粒子も用いることができる。金属微粒子の多くは光熱変換性であって、かつ自己発熱性である。好ましい金属微粒子として、例えば、Si、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Mo、Ag、Au、Pt、Pd、Rh、In、Sn、W、Te、Pb、Ge、Re、Sbの単体もしくは合金、または、それらの酸化物もしくは硫化物の微粒子が挙げられる。
これらの金属微粒子を構成する金属の中でも好ましい金属は、光照射時に熱による合体をしやすい、融点が約1000℃以下で赤外、可視または紫外線領域に吸収をもつ金属、例えば、Re、Sb、Te、Au、Ag、Cu、Ge、Pb、Snである。
また、特に好ましいのは、融点も比較的低く、赤外線に対する吸光度も比較的高い金属の微粒子、例えば、Ag、Au、Cu、Sb、Ge、Pbで、最も好ましい元素としては、Ag、Au、Cuが挙げられる。
【0172】
また、例えば、Re、Sb、Te、Au、Ag、Cu、Ge、Pb、Sn等の低融点金属の微粒子と、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、W、Ge等の自己発熱性金属の微粒子とを混合使用するなど、2種以上の光熱変換物質で構成されていてもよい。また、Ag、Pt、Pd等の、微小片としたときに光吸収が特に大きい金属種の微小片と他の金属微小片とを組み合わせて用いることも好ましい。
【0173】
これらの粒子の粒径は、10μm以下であるのが好ましく、0.003〜5μmであるのがより好ましく、0.01〜3μmであるのが特に好ましい。上記範囲内であると、良好な感度と解像力が得られる。
【0174】
本発明において、これらの金属微粒子を光熱変換剤として用いる場合、その添加量は、感熱層固形分の10質量%以上であるのが好ましく、20質量%以上であるのがより好ましく、30質量%以上であるのが特に好ましい。上記範囲内であると、高い感度が得られる。
【0175】
光熱変換剤は、感熱層の隣接層である下塗層や、後述する水溶性オーバーコート層が含有してもよい。感熱層、下塗層およびオーバーコート層のうち少なくとも一つの層が光熱変換剤を含有することにより、赤外線吸収効率が高まり、感度を向上させることができる。
【0176】
感熱層には、更に必要に応じて上記以外に種々の化合物を添加してもよい。例えば、耐刷力を一層向上させるために多官能モノマーを感熱層マトリックス中に添加することができる。この多官能モノマーとしては、マイクロカプセル中に入れられるモノマーとして例示したものを用いることができる。特に好ましいモノマーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレートを挙げることができる。
【0177】
また、感熱層には、画像形成後、画像部と非画像部との区別をつけやすくするため、可視光域に大きな吸収を持つ染料を画像の着色剤として使用することができる。具体的には、オイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業社製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)、特開昭62−293247号公報に記載されている染料が挙げられる。また、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、酸化チタン等の顔料も好適に用いることができる。添加量は、感熱層塗布液全固形分に対し0.01〜10質量%であるのが好ましい。
【0178】
また、本発明においては、感熱層塗布液の調製中または保存中においてエチレン性不飽和化合物の不要な熱重合を阻止するために、少量の熱重合防止剤を添加するのが好ましい。適当な熱重合防止剤としては、例えば、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4´−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩が挙げられる。熱重合防止剤の添加量は、全組成物の質量に対して約0.01〜5質量%であるのが好ましい。
【0179】
また必要に応じて、酸素による重合阻害を防止するためにベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸やその誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で感熱層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸やその誘導体の添加量は、感熱層固形分の約0.1〜約10質量%であるのが好ましい。
【0180】
更に、感熱層には、必要に応じ、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤を加えることができる。可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリルが挙げられる。
【0181】
感熱層は、必要な上記各成分を溶剤に溶かして塗布液を調製し、塗布される。ここで使用する溶剤としては、例えば、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチルラクトン、トルエン、水が挙げられるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独でまたは混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0182】
また、塗布し乾燥した後に得られる支持体上の感熱層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.5〜5.0g/m2 であるのが好ましい。上記範囲より塗布量が少なくなると、見かけの感度は大になるが、画像記録の機能を果たす感熱層の皮膜特性は低下する。塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布が挙げられる。
【0183】
感熱層塗布液には、塗布性を向上させるための界面活性剤、例えば、特開昭62−170950号公報に記載されているようなフッ素系界面活性剤を添加することができる。添加量は、感熱層全固形分の0.01〜1質量%であるのが好ましく、0.05〜0.5質量%であるのがより好ましい。
【0184】
本発明の平版印刷版原版においては、親油性物質による感熱層表面の汚染防止のため、感熱層上に、水溶性オーバーコート層を設けることができる。本発明に使用される水溶性オーバーコート層は印刷時に容易に除去できるものであり、水溶性の有機高分子化合物から選ばれた樹脂を含有する。
水溶性の有機高分子化合物としては、塗布乾燥によってできた被膜がフィルム形成能を有するものである。具体的には、ポリ酢酸ビニル(ただし、加水分解率65%以上のもの);ポリアクリル酸、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;ポリアクリル酸共重合体、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;ポリメタクリル酸、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;ポリメタクリル酸共重合体、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;ポリアクリルアミド、その共重合体;ポリヒドロキシエチルアクリレート;ポリビニルピロリドン、その共重合体;ポリビニルメチルエーテル;ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体;ポリ−2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;ポリ−2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸共重合体、そのアルカリ金属塩またはアミン塩;アラビアガム;繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース)、その変性体;ホワイトデキストリン;プルラン;酵素分解エーテル化デキストリンが例示される。また、目的に応じて、これらを二種以上混合して用いることもできる。
【0185】
また、オーバーコート層には、前記の水溶性光熱変換剤を添加してもよい。更に、オーバーコート層には塗布の均一性を確保する目的で、水溶液塗布の場合には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル等の非イオン系界面活性剤を添加することができる。
オーバーコート層の乾燥塗布量は、0.1〜2.0g/m2 が好ましい。この範囲内で、機上現像性を損なわず、指紋付着汚れなどの親油性物質による感熱層表面の良好な汚染防止が可能となる。
【0186】
本発明の平版印刷版原版においては、記録層として、上述した(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー、または、(b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセルを含有する感熱層以外のものを用いることもできる。例えば、ネガ型赤外線レーザー記録材料を用いた感光(感熱)層、ポジ型赤外線レーザー記録材料を用いた感光(感熱)層、スルホネート型赤外線レーザー記録材料を用いた感光(感熱)層が挙げられる。
【0187】
本発明の平版印刷版原版を赤外線レーザーに露光可能なネガ型の平版印刷版原版、いわゆるサーマルネガタイプの平版印刷版原版とする場合には、ネガ型赤外線レーザー記録材料によって感光層を設けるのがよい。
ネガ型赤外線レーザー記録材料としては、(A)光または熱によって分解して酸を発生する化合物、(B)酸によって架橋する架橋剤、(C)アルカリ可溶性樹脂、(D)赤外線吸収剤、および(E)一般式(R3 −X)n −Ar−(OH)m で表される化合物(式中、R3 は炭素数6〜32のアルキル基またはアルケニル基を表し、Xは単結合、O、S、COOまたはCONHを表し、Arは芳香族炭化水素基、脂肪式炭化水素基または複素環基を表し、nは1〜3の整数を表し、mは1〜3の整数を表す。)からなる組成物が好適に用いられる。
【0188】
一般に、サーマルネガタイプの平版印刷版原版は、現像後に指紋が付きやすく、画像部の強度が弱いという欠点があるが、かかる欠点は上記組成物によって感光層を形成することで解消される。
【0189】
(A)光または熱によって分解して酸を発生する化合物としては、特願平3−140109号明細書(特開平04−365048号公報)に記載されているイミノスルフォネート等に代表される、光分解してスルホン酸を発生する化合物が挙げられ、200〜500nmの波長の照射、または100℃以上の加熱によって酸を発生する化合物が挙げられる。
好適な酸発生剤としては、例えば、光カチオン重合開始剤、光ラジカル重合の開始剤、色素類の光消色剤、光変色剤が挙げられる。これらの酸発生剤は、記録材料全固形分に対して、0.01〜50質量%添加されるのが好ましい。
【0190】
(B)酸によって架橋する架橋剤としては、例えば、(i)アルコキシメチル基またはヒドロキシル基で置換された芳香族化合物、(ii)N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基またはN−アシルオキシメチル基を有する化合物、(iii)エポキシ化合物が好適に挙げられる。
【0191】
(C)アルカリ可溶性樹脂としては、例えば、ノボラック樹脂や、側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマーが挙げられる。
【0192】
(D)赤外線吸収剤からなる組成物としては、例えば、760〜1200nmの赤外線を有効に吸収するアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料等の市販染料;カラーインデックスに記載されている黒色顔料、赤色顔料、金属粉顔料、フタロシアニン系顔料が挙げられる。また、画像の見やすさを向上させるためにオイルイエロー、オイルブルー#603等の画像着色剤を添加するのが好ましい。また、感光層塗膜の柔軟性改善のため、ポリエチレングリコールやフタル酸エステルのような可塑剤を添加することができる。
【0193】
また、本発明の平版印刷版原版を赤外線レーザーに露光可能なポジ型の平版印刷版原版、いわゆるサーマルポジタイプの平版印刷版原版とする場合には、ポジ型赤外線レーザー記録材料によって感光層を設けるのがよい。
ポジ型赤外線レーザー記録材料としては、(A)アルカリ可溶性高分子、(B)該アルカリ可溶性高分子と相溶してアルカリ溶解性を低下させる化合物、および(C)赤外レーザーを吸収する化合物からなるポジ型赤外線レーザー記録材料が好適に用いられる。
このポジ型赤外線レーザー記録材料を用いると、非画像部のアルカリ現像液に対する溶解性不足を解消でき、また、傷つきにくく、画像部の耐アルカリ現像適性に優れ、現像安定性のよい平版印刷版原版とすることができる。
【0194】
(A)アルカリ可溶性高分子としては、例えば、(i)フェノール樹脂、クレゾール樹脂、ノボラック樹脂、ピロガロール樹脂等に代表されるフェノール性ヒドロキシル基を有する高分子化合物、(ii)スルホンアミド基を有する重合モノマーを単独で重合させ、または、他の重合性モノマーと共重合させて得られた化合物、(iii)N−(p−トルエンスルホニル)メタクリルアミド、N−(p−トルエンスルホニル)アクリルアミド等に代表される活性イミド基を分子内に有する化合物が挙げられる。
【0195】
(B)上記(A)成分と相溶してアルカリ溶解性を低下させる化合物としては、例えば、スルホン化合物、アンモニウム塩、スルホニウム塩、アミド化合物等の上記(A)成分と相互作用する化合物が挙げられる。例えば、上記(A)成分がノボラック樹脂の場合には、(B)成分としては、シアニン色素が好適に挙げられる。
【0196】
(C)赤外レーザーを吸収する化合物としては、750〜1200nmの赤外域に吸収域があり、光/熱変換能を有する材料が好ましい。このような機能を有するものとしては、例えば、スクワリリウム色素、ピリリウム塩色素、カーボンブラック、不溶性アゾ染料、アントラキノン系染料が挙げられる。これらは、0.01〜10μmの範囲の大きさであるのが好ましい。
【0197】
サーマルポジタイプの平版印刷版原版は、このポジ型赤外線レーザー記録材料を、メタノール、メチルエチルケトン等の有機溶媒に溶解し、必要に応じて、染料を添加し、支持体上に乾燥後の質量が1〜3g/m2 となるように塗布し乾燥することにより得ることができる。
【0198】
また、本発明の平版印刷版原版には、記録層として、スルホネート型赤外線レーザー記録材料を用いてもよい。
スルホネート型赤外線レーザー記録材料としては、例えば、特許第270480号明細書、特許第2704872号明細書等に記載されているスルホネート化合物を用いることができる。また、赤外線レーザー照射によって発生した熱によってスルホン酸を発生し、水に可溶化する感光材料や、スチレンスルホン酸エステルをゾルゲルで固め、その後赤外線レーザーを照射することで表面極性が変化する感光材料や、特願平9−89816号明細書(特開平10−282646号公報)、特願平10−22406号明細書(特開平11−218928号公報)、特願平10−027655号明細書(特開平10−282672号公報)に記載されているレーザー露光によって疎水性表面が親水性に変化する感光材料等を用いることもできる。
【0199】
また、この熱によってスルホン酸基を発生しうる高分子化合物からなる感光層の特性を更に改善するためには、つぎに挙げる方法を併用するのが好ましい。かかる方法としては、例えば、(1)特願平10−7062号明細書(特開平11−202483号公報)に記載された酸または塩基発生剤との併用による方法、(2)特願平9−340358号明細書(特開平11−174685号公報)に記載された特定の中間層を設ける方法、(3)特願平9−248994号明細書(特開平11−84658号公報)に記載された特定の架橋剤を併用する方法、(4)特願平10−115354号明細書(特開平11−301131号公報)に記載された固体粒子表面修飾の様態で使用する方法を挙げることができる。
【0200】
更に、レーザー露光によって発生する熱を利用して感光層の親/疎水性を変化させる組成物の他の例としては、例えば、米国特許第2,764,085号明細書に記載されているWerner錯体からなる熱によって疎水性に変化する組成物、特公昭46−27219号公報に記載されている特定の糖類、メラミンホルムアルデヒド樹脂等の露光によって親水性に変化する組成物、特開昭51−63704号公報に記載されているヒートモード露光によって疎水性に変化する組成物、米国特許第4,081,572号明細書に記載されているフタリルヒドラジドポリマーのように熱によって脱水/疎水化するポリマーからなる組成物、特公平3−58100号公報に記載されているテトラゾリウム塩構造を有し熱によって親水化する組成物、特開昭60−132760号公報に記載されているスルホン酸変性ポリマーからなる露光によって疎水化する組成物、特開昭64−3543号公報に記載されているイミド前駆体ポリマーからなる露光によって疎水化する組成物、特開昭51−74706号公報に記載されているフッ化炭素ポリマーからなる露光によって親水化する組成物が挙げられ、これらの組成物を用いて記録層を形成することができる。
【0201】
更に、特開平3−197190号公報に記載されている疎水性結晶性ポリマーからなる露光によって親水性に変化する組成物、特開平7−186562号公報に記載されている熱によって不溶化された側基が親水性に変化するポリマーと光熱変換剤からなる組成物、特開平7−1849号公報に記載されているマイクロカプセルを含有する三次元架橋された親水性バインダーからなり露光によって疎水化する組成物、特開平8−3463号公報に記載されている原子価異性化またはプロトン移動異性化する組成物、特開平8−141819号公報に記載されている熱によって層内の相構造変化(相溶化)を生じ、親/疎水性を変化させる組成物、特公昭60−228号公報に記載されている熱によって表面の形態、表面の親/疎水性が変化する組成物が挙げられ、これらの組成物を用いて記録層を形成することができる。
【0202】
本発明において、記録層に用いられる好ましい記録材料の他の例としては、高パワーおよび高密度のレーザー光によって発生した熱を利用する、いわゆるヒートモード露光によって、感光層と支持体との間の接着性を変化させる組成物が挙げられる。具体的には、特公昭44−22957号公報に記載されている熱融着性物質または熱反応性物質からなる組成物が挙げられる。
【0203】
以下、本発明の平版印刷版用支持体の好適な態様であるアルミニウム支持体の製造装置について説明する。
本発明の平版印刷版用支持体の好適な態様であるアルミニウム支持体の製造過程としては、(1)圧延され、コイル状に巻き取られたアルミニウム板を多軸ターレットからなる送り出し装置から送り出し、(2)上記各処理(機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理、アルカリエッチング処理、酸性エッチング処理、デスマット処理、陽極酸化処理、ポアワイド処理(酸処理またはアルカリ処理)、ポリビニルホスホン酸を含む水溶液で処理および・またはケイ酸化合物を含有する水溶液で処理、その上に、酸基を含有する高分子化合物を設けた後、アルミニウム板を乾燥処理し、(3)アルミニウム板を上記多軸ターレットからなる巻き取り装置にてコイル状に巻き取り、または、アルミニウム板の平面性を矯正し、その後、所定の長さにカットして集積するのが好ましい。また、必要に応じ、上記過程において、下塗層や記録層を形成して乾燥処理する工程を設け、平版印刷版原版としてから上記巻取り装置によりコイル状に巻き取ってもよい。
【0204】
また、アルミニウム支持体の製造においては、アルミニウム板の表面の欠陥を検査する装置を用いて、該欠陥を連続的に検査し、発見した欠陥部のエッジ部分に目印のラベルを貼る工程を、1工程以上有するのが好ましい。更に、本発明の平版印刷版原版の製造においては、アルミニウム板の送り出し工程および巻き取り工程において、アルミコイルの交換の際に、該アルミニウム板の走行を停止しても、上記各工程におけるアルミニウム板の走行速度を一定に保つようなリザーバ装置を設けることが好ましく、上記アルミコイルの送り出し工程の後には、アルミニウム板を超音波またはアーク溶接にて接合する工程を設けるのが好ましい。
【0205】
アルミニウム支持体の製造に用いられる装置は、アルミニウム板の走行位置を検出し、走行位置を矯正する装置を1個以上有するのが好ましく、また、アルミニウム板の張力カットおよび走行速度制御を目的とした駆動装置と、張力制御を目的としたダンサロール装置とをそれぞれ1個以上有するのが好ましい。
また、トラッキング装置にて各工程の状態が所望の条件か否かを記録し、アルミニウムコイルが巻き取られる前に、アルミニウムウェブのエッジ部にラベルを貼り、そのラベルよりも後が所望の条件か否かをのちに判別できるようにするのも好ましい。
【0206】
本発明においては、アルミニウム板は、合紙とともに帯電させて互いに吸着させ、その後所定の長さにカット、および/または、スリットすることが好ましい。また、アルミニウム板のエッジ部分に貼られたラベルの情報をもとに、所定の長さに裁断した後または裁断する前に、そのラベルを目印として良品部分と欠陥部分とを分別し、良品部分のみを集積するのが好ましい。
【0207】
上記送り出し工程等を含む各工程では、アルミニウム板のサイズ(厚さおよび幅)、アルミニウムの材質またはアルミニウムウェブの走行速度によって、それぞれの条件で最適な張力を設定することが重要である。そこで、張力カットと走行速度制御を目的とした駆動装置と、張力制御を目的としたダンサーロールとを利用し、張力感知装置からの信号をフィードバック制御する張力制御装置を複数設けるのが好ましい。駆動装置は、直流モーターと主駆動ローラを組み合わせた制御方法を用いるのが一般的である。主駆動ローラは一般的なゴムを材質とするが、アルミニウムウェブがwetな状態にある工程では不織布を積層して作製されたローラを用いることができる。また、各パスローラとしては、ゴムまたは金属が一般的に用いられるが、アルミニウムウェブとスリップを起こしやすい箇所ではこのスリップを防止するために、各パスローラにモーターや減速機を接続し、主駆動装置からの信号によって一定速度で回転制御するなど補助的な駆動装置を設けることもできる。
【0208】
本発明に用いられるアルミニウム支持体は、特開平10−114046号公報に記載されているように、圧延方向の算術平均粗さ(Ra )をR1 とし、幅方向の算術平均粗さ(Ra )をR2 とした場合に、R1 −R2 が、R1 の30%以内であるのが好ましく、また、圧延方向の平均曲率が1.5×10−3mm−1以下、幅方向の平均曲率が1.5×10−3mm−1以下、圧延方向と垂直な方向の平均曲率が1.0×10−3mm−1以下であるのが好ましい。
また、上記粗面化処理等を施して製造されたアルミニウム支持体は、ロール直径20〜80mm、ゴム硬度50〜95度の矯正ロールを用いて矯正するのが好ましい。これにより、平版感光印刷機の自動搬送工程においても、平版印刷版原版の露光ズレが起きないフラットネスのアルミニウムコイル状素板を供給することができる。特開平9−194093号公報には、ウェブのカール測定方法および装置、カール修正方法および装置、ならびにウェブ切断装置が記載されており、本発明においてもこれらを用いることができる。
【0209】
また、連続的にアルミニウム支持体を製造するにあたり、各工程が適切な条件で稼働しているかを電気的に監視し、トラッキング装置にて各工程の状態が所望の条件か否かを記録し、アルミニウムコイルが巻き取られる前に、アルミニウムウェブのエッジ部にラベルを貼り、そのラベルよりも後が所望の条件か否かを、後から判別できるようにすることで、裁断時、集積時にその部分の良否を判定することができる。
【0210】
上述の粗面化処理に用いられるアルミニウム板の処理装置は、液の温度、比重、電導度、超音波の伝搬速度のうち、一つ以上を測定し、液の組成を求め、フィードバック制御、および/または、フィードフォワード制御して液濃度を一定にコントロールするのが好ましい。
上記処理装置中の酸性水溶液にはアルミニウムイオンを初めとするアルミニウム板中に含まれる成分がアルミニウム板の表面処理の進行に伴って溶解する。そこで、アルミニウムイオン濃度と酸またはアルカリの濃度を一定にするために、水と酸、または、水とアルカリを間欠的に添加して液組成を一定に保つのが好ましい。ここで添加する酸またはアルカリの濃度は、10〜98質量%であるのが好ましい。
【0211】
上記酸またはアルカリの濃度を制御するには、例えば、以下の方法が好ましい。
まず、あらかじめ使用が予定されている濃度範囲の成分液ごとの導電率、比重または超音波の伝搬速度を各温度毎に測定してデータテーブルを作成する。そして、被測定液の導電率、比重または超音波の伝搬速度と温度データをあらかじめ作成した非測定液のデータテーブルを参照して濃度を測定する。上記超音波の伝搬時間を高精度・高安定に測定する方法は、特開平6−235721号公報に記載されている。また、上記超音波の伝搬速度を利用した濃度測定システムについては、特開昭58−77656号公報に記載されている。また、複数の物理量データを液成分ごとに相関を示すデータテーブルを作成しておき、そのデータテーブルを参照して多成分液の濃度を測定する方法は、特開平4−19559号公報に記載されている。
【0212】
上記超音波の伝搬速度を用いた濃度測定方法を被測定液の導電率と温度の値と組み合わせて、アルミニウム支持体の粗面化工程に応用すると、プロセスの管理がリアルタイムで正確に行えるため、一定品質の製品が製造できるようになり、得率の向上につながる。また、温度と超音波の伝搬速度と導電率との組み合わせだけでなく、温度と比重、温度と導電率、温度と導電率と比重等、それぞれの物理量で濃度および温度ごとにデータテーブルを作成しておき、そのデータテーブルを参照して多成分液の濃度測定する方法をアルミニウム支持体の粗面化処理工程に応用すると、前記と同様な効果が得られる。
また、比重と温度とを測定し、あらかじめ作成しておいたデータテーブルを参照して被測定物のスラリー濃度を求めることによって、スラリー濃度の測定も迅速にかつ正確に行えるようになる。
【0213】
上記超音波の伝搬速度測定は液中の気泡の影響を受けやすいため、垂直に配置され、かつ、下方から上方に向かう流速のある配管中で行われるのがより好ましい。上記超音波の伝搬速度測定は、配管内の圧力が1〜10kg/cm2 の圧力範囲内で行うことが好ましく、超音波の周波数は0.5〜3MHzであるのが好ましい。
また、上記比重、導電率、超音波の伝搬速度の測定は温度の影響を受けやすいため、保温状態にあり、かつ温度変動が±0.3℃以内に制御された配管内で測定するのが好ましい。更に、導電率および比重、または、導電率と超音波の伝搬速度とは同一温度で測定するのが好ましいので、同一の配管内または同一の配管フロー内で測定するのが特に好ましい。測定の際の圧力変動は温度の変動につながるので可能な限り低い方が好ましい。また、測定する配管内の流速分布もできるだけ少ない方が好ましい。更に、上記測定はスラリー、ゴミ、および気泡の影響を受けやすいので、フィルターや脱気装置等を通した液を測定するのが好ましい。
【0214】
このようにして得られる本発明の平版印刷版原版は熱により画像形成される。具体的には、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザによる走査露光、キセノン放電灯等の高照度フラッシュ露光、赤外線ランプの固体高出力赤外線レーザによる露光が好適である。
【0215】
本発明の平版印刷版原版は、 記録層が(a)熱反応性官能基を有する微粒子ポリマー、または、(b)熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセルを含有する、いわゆる機上現像タイプの感熱層である場合には、画像露光後、それ以上の処理なしに印刷機に装着し、インキおよび/または湿し水を用いて通常の手順で印刷することができる。また、特許第2938398号明細書に記載されているように、印刷機シリンダー上に取りつけた後に、印刷機に搭載されたレーザーにより露光し、その後にインキおよび/または湿し水をつけて機上現像することも可能である。これらの場合、印刷機上でインキおよび/または湿し水により感熱層が除去されるので、別個の現像工程を必要とせず、また、現像後、印刷のために印刷機を止める必要もなく、現像が終わり次第、引き続き印刷を行うことができる。
即ち、本発明の平版印刷版の製版および印刷方法は、機上現像タイプの感熱層を設けてなる平版印刷版原版を、レーザー光によって画像露光しそのまま印刷機に取り付けて印刷するか、または、印刷機に取り付けた後にレーザー光によって画像露光しそのまま印刷することを特徴とする。レーザー光としては、波長760〜1200nmの赤外線を放射する、固体レーザーまたは半導体レーザーを用いることができる。
なお、機上現像タイプの感熱層を有する場合においても、水または適当な水溶液を現像液とする現像をした後、印刷に用いることができる。
【0216】
また、本発明の平版印刷版原版は、 従来のサーマルポジタイプまたはサーマルネガタイプの記録層等を有する場合には、常法に従い、画像露光後、現像液により現像して、印刷機に装着し、印刷に供することができる。
【0217】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0218】
1.平版印刷版用支持体(アルミニウム支持体)の製造
(支持体製造例1)
Si:0.073質量%、Fe:0.270質量%、Cu:0.028質量%、Mn:0.001質量%、Mg:0.000質量%、Cr:0.001質量%、Zn:0.003質量%、Ti:0.020質量%を含有し、残部はAlと不可避不純物とからなるアルミニウム合金を用いて溶湯を調製し、本発明の実施例および比較例に用いるアルミニウム板を以下のようにして作製した。
まず、アルミニウム合金溶湯に、脱ガスおよびろ過からなる溶湯処理を施し、DC鋳造法で厚さ500mmの鋳塊を作製した。得られた鋳塊の表面を10mm面削した後、鋳塊を加熱し、均熱化処理を行わずに400℃で熱間圧延を開始し、板厚4mmになるまで圧延した。つぎに、冷間圧延で厚さ1.5mmにし、中間焼鈍を行った後、再度冷間圧延で0.24mmに仕上げ、平面性を矯正して、アルミニウム板を得た。
【0219】
得られたアルミニウム板について、下記に示す(1)〜(13)の手順で表面処理を行った。なお、各表面処理および水洗の後にはニップローラで液切りを行った。水洗は、スプレー管から水を吹き付けて行った。
【0220】
(1)機械的粗面化処理
比重1.12のケイ砂(研磨剤、平均粒径25μm)と水との懸濁液を研磨スラリー液として、スプレー管によってアルミニウム板の表面に供給しながら、ナイロンブラシが回転するブラシローラを用いて機械的粗面化処理を行った。
使用したナイロンブラシの材質は6,10−ナイロンであり、毛長は50mmであり、毛の直径は0.48mmであった。このナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛されたものである。
また、ブラシローラには、ナイロンブラシが3本使用されており、ブラシ下部に備えられた2本の支持ローラ(φ200mm)間の距離は300mmであった。
上記ブラシローラは、ブラシを回転させる駆動モータの負荷を、ナイロンブラシがアルミニウム板に押さえつけられる前の負荷に対して管理し、粗面化後のアルミニウム板の平均算術粗さ(Ra )が0.45μmになるように押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。その後、水洗を行った。
また、研磨剤の濃度は、あらかじめ研磨剤濃度と温度と比重との関係から作成したテーブルを参照し、温度および比重から研磨剤濃度を求め、フィードバック制御によって水と研磨剤とを添加し、上記研磨剤の濃度を一定に保った。また、研磨剤が粉砕して粒度が小さくなると粗面化されたアルミニウム板の表面形状が変化するので、サイクロンによって粒度の小さな研磨剤は系外に逐次排出した。研磨剤の粒径は1〜35μmの範囲であった。
【0221】
(2)アルカリエッチング処理
NaOH、27質量%およびアルミニウムイオン6.5質量%を含有する液温70℃の水溶液をスプレー管によってアルミニウム板に吹き付けて、アルカリエッチング処理を行った。アルミニウム板の、後に電気化学的粗面化処理を行う面の溶解量は8g/m2 であり、その裏面の溶解量は2g/m2 であった。
アルカリエッチング処理に用いたエッチング液の濃度は、あらかじめNaOH濃度と、アルミニウムイオン濃度と、温度と、比重と、液の導電率との関係から作成したテーブルを参照し、温度、比重、および導電率からエッチング液濃度を求め、フィードバック制御によって水と48質量%NaOH水溶液とを添加することにより一定に保った。その後、水洗を行った。
【0222】
(3)デスマット処理
液温35℃の硝酸水溶液をスプレーを用いてアルミニウム板に吹き付けて、10秒間デスマット処理を行った。硝酸水溶液は、次の工程で用いる電解装置からのオーバーフロー廃液を使用した。ついで、デスマット処理液を吹き付けるスプレー管を数カ所設置して、次の工程までアルミニウム板の表面が乾かないようにした。
【0223】
(4)電気化学的粗面化処理
図1に示した台形波の交流電流と図2に示した電解装置2槽とを用いて連続的に電気化学的粗面化処理を行った。酸性水溶液としては、硝酸1質量%の硝酸水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%およびアンモニウムイオン0.007質量%を含む。)を用いた。液温は50℃であった。また、交流電流は、電流値がゼロからカソードサイクル側およびアノードサイクル側のピークに達するまでの時間tpおよびtp´が1msecであり、カーボン電極を対極とした。交流電流のピーク時の電流密度は、アルミニウム板が陽極時および陰極時ともに50A/dm2 であり、交流電流の陰極時電気量(QC )と陽極時電気量(QA )との比(QC /QA )は0.95であり、duty比は0.50であり、周波数は60Hzであり、陽極時の電気量の総和は180C/dm2 であった。その後、スプレーによって水洗を行った。
硝酸水溶液の濃度コントロールは、67質量%の硝酸原液と水とを、通電量に比例して添加し、硝酸と水との添加容積と同量の酸性水溶液(硝酸水溶液)を逐次電解装置からオーバーフローさせて電解装置系外に排出して行った。また、これとともに、あらかじめ硝酸濃度とアルミニウムイオン濃度と温度と液の導電率と液の超音波伝搬速度との関係から作成したテーブルを参照し、硝酸水溶液の温度、導電率、超音波伝搬速度から該硝酸水溶液の濃度を求め、硝酸原液と水との添加量を逐次調整する制御を行って濃度を一定に保った。
【0224】
(5)アルカリエッチング処理2
NaOH、26質量%およびアルミニウムイオン6.5質量%を含有する液温45℃の水溶液を、アルミニウム板にスプレーを用いて吹き付けて、アルカリエッチング処理を行った。アルミニウム板の溶解量は3g/m2 であった。エッチング液の濃度はあらかじめNaOH濃度とアルミニウムイオン濃度と温度と比重と液の導電率との関係から作成したテーブルを参照し、温度、比重および導電率からエッチング液濃度を求め、フィードバック制御によって水と48質量%NaOH水溶液とを添加して、一定に保った。その後、水洗を行った。
【0225】
(6)酸性エッチング処理
硫酸(硫酸濃度300g/L、アルミニウムイオン濃度15g/L)を酸性エッチング液とし、これをスプレー管から80℃で7秒間アルミニウム板に吹き付けて、酸性エッチング処理を行った。酸性エッチング液の濃度は、あらかじめ硫酸濃度とアルミニウムイオン濃度と温度と比重と液の導電率との関係から作成したテーブルを参照して、温度、比重および導電率から酸性エッチング液濃度を求め、フィードバック制御によって水と50質量%硫酸とを添加して、一定に保った。その後、水洗を行った。
【0226】
(7)電気化学的粗面化処理2
上記(4)の電気化学的粗面化処理の電解液を塩酸とし、陽極時の電気量の総和を50C/dm2 とした以外は上記(4)と同様に電気化学的粗面化処理を行った。
(8)アルカリエッチング処理3
NaOH、5質量%、アルミニウム板の溶解量を0.2g/m2 としたことを除き、上記(5)のアルカリエッチング処理2と同様にアルカリエッチング処理を行った。
【0227】
(9)酸性エッチング処理2
上記(6)の酸性エッチング処理と同様に行った。
(10)陽極酸化処理
硫酸濃度100g/Lの水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%を含む。)を陽極酸化溶液として用いて、直流電圧を用い、電流密度25A/dm2 、温度50℃、30秒の条件でアルミニウム板の陽極酸化処理を行い、陽極酸化皮膜を形成した。陽極酸化処理液の濃度は、あらかじめ硫酸濃度、アルミニウムイオン濃度、温度、比重および液の導電率の関係から作成したテーブルを参照して、温度、比重および導電率から液濃度を求め、フィードバック制御によって水と50質量%硫酸とを添加して、一定に保った。その後、スプレーによって水洗を行った。
【0228】
(11)ポアワイド処理
陽極酸化処理後のアルミニウム板をpH13のNaOH水溶液に50℃で1分間浸せきして、ポアワイド処理を行った。その後、水洗を行った。
【0229】
(12)特定の水溶液での処理
(実施例1〜4)
ポアワイド処理後のアルミニウム板を、ポリビニルホスホン酸水溶液および3号ケイ酸ナトリウム水溶液を濃度がそれぞれ第2表に示すように井水を用いて調製した水溶液を用いて、第2表に示す温度、時間でそれぞれ浸せき処理した。その後、水洗を行った。
(比較例1〜4)
ポアワイド処理後のアルミニウム板を、第2表に示す水溶液を濃度がそれぞれ第2表に示すように井水を用いて調製して、第2表に示す温度、時間でそれぞれ浸せき処理した。その後、水洗を行った。なし、との記載は第2回目の処理である第2水溶液処理がされなかったことを示す。
【0230】
(13)中間層
第2表に示すポリマーAは、前述の表1. 代表的な高分子化合物の例のNo. 2の高分子化合物を0.1g、メタノール100g、水1gの溶液として、塗布し、80℃、15秒間乾燥した。乾燥後の被覆量は、15mg/m2 であった。比較例3は、ポリマーではなくモノマーとしてトリエタノールアミンとβ−アラニンとをそれぞれ0.1g、0.1g、をメタノール100g、水1gとの溶液として用いた。比較例4は中間層を設けなかった。
【0231】
2.X線光電子分光法による測定
上記で得られた本発明の支持体1〜4ならびに比較用の支持体5〜8について、X線光電子分光法(ESCA、Electron SpectroscopyChemical Analysis)を行った。ESCAの条件を以下に示す。
装置:ESCA PHI−5400MC、アルバック・ファイ社製
X線源:Mg−Kα(400W)
パルスエネルギー:71.55eV/178.95eV
take off angle:45度
【0232】
得られたリン(2p)、ケイ素(2p)およびアルミニウム(2p)のピーク面積から、上記式(1)における(A+B)/(A+B+C)の値を算出した。
結果を第2表に示した。
【0233】
3.微粒子ポリマーの合成およびマイクロカプセルの調製
(1)微粒子ポリマーの合成
アリルメタクリレート7.5g、ブチルメタクリレート7.5g、ポリオキシエチレンノニルフェノール水溶液(濃度9.84×10−3mol/L)200mlを加え、250rpmでかくはんしながら、系内を窒素ガスで置換した。この液を25℃にした後、セリウム(IV)アンモニウム塩水溶液(濃度0.984×10−3mol/L)10mlを添加した。この際、硝酸アンモニウム水溶液(濃度58.8×10−3mol/L)を加え、pHを1.3〜1.4に調整した。その後、8時間かくはんして、微粒子ポリマーを含有する液を得た。得られた液の固形分濃度は9.5%であり、微粒子ポリマーの平均粒径は0.2μmであった。
【0234】
(2)マイクロカプセルの調製
キシレンジイソシアネート40g、トリメチロールプロパンジアクリレート10g、アリルメタクリレートとブチルメタクリレートの共重合体(モル比7/3)10gおよび界面活性剤(パイオニンA41C、竹本油脂社製)0.1gを酢酸エチル60gに溶解させて、油相成分とした。一方、ポリビニルアルコール(PVA205、クラレ社製)の4%水溶液を120g調製し、水相成分とした。油相成分および水相成分をホモジナイザーに投入し、10000rpmで用いて乳化させた。その後、水を40g添加し、室温で30分かくはんし、更に40℃で3時間かくはんし、マイクロカプセル液を得た。得られたマイクロカプセル液の固形分濃度は20質量%であり、マイクロカプセルの平均粒径は0.2μmであった。
【0235】
4.平版印刷版原版の作製
(実施例1〜4ならびに比較例1〜4)
上記で得られた本発明の支持体ならびに比較例の支持体に、下記組成の感熱層(1)、(2)、(3)、(4)塗布液を塗布し、オーブンにて60℃で150秒間乾燥して、実施例1〜4ならびに比較例1〜4の平版印刷版原版を得た。感熱層の種類およびそれぞれの塗布量(乾燥量)を第1表に示した。
【0236】
<感熱層(1)塗布液組成>
・上記で合成した微粒子ポリマーを含有する液 5g(固形分)
・ポリヒドロキシエチルアクリレート(重量平均分子量2.5万)0.5g
・光熱変換剤{本明細書記載の構造式(IR−11)} 0.3g
・水 100g
【0237】
<感熱層(2)塗布液組成>
・上記で合成したマイクロカプセル液 5g(固形分)
・トリメチロールプロパントリアクリレート 3g
・光熱変換剤{本明細書記載の構造式(IR−11)} 0.3g
・水 60g
・1−メトキシ−2−プロパノール 40g
【0238】
<感熱層(3)塗布液>
感熱層(3)は、重層型のサーマルポジタイプの画像記録層であり、以下のようにして形成させた。
下記組成の第一層用塗布液を調製し、中間層を形成させた平版印刷版用支持体に、この第一層用塗布液を乾燥後の塗布量が0.8g/m2 になるよう塗布し、140℃で60秒間乾燥させて第一層を形成させた。ついで、下記組成の第二層用塗布液を調製し、第一層を形成させた平版印刷版用支持体に、この第二層用塗布液を乾燥後の塗布量が0.2g/m2 になるよう塗布し、140℃で50秒間乾燥させて第二層を形成させ、重層型のサーマルポジタイプの画像記録層を有する平版印刷版原版を得た。
【0239】
(第一層用塗布液組成)
・N−(4−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル(モル比36/34/30、重量平均分子量50,000、酸価2.65) 2.133g
・下記式で表されるシアニン染料A 0.109g
・4,4′−ビスヒドロキシフェニルスルホン 0.126g
・シス−Δ4 −テトラヒドロフタル酸無水物 0.190g
・p−トルエンスルホン酸 0.008g
・3−メトキシ−4−ジアゾジフェニルアミンヘキサフルオロホスフェート 0.030g
・エチルバイオレットの対イオンを6−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホンに変えたもの 0.100g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、大日本インキ化学工業社製、30質量%溶液) 0.023g(溶液として)
・メチルエチルケトン 25.41g
・1−メトキシ−2−プロパノール 13.0g
・γ−ブチロラクトン 13.2g
【0240】
【化15】
【0241】
(第二層用塗布液組成)
・m,p−クレゾール−ノボラック樹脂(m/p比=6/4、重量平均分子量4,500、未反応クレゾール0.8質量%含有) 0.3479g
・上記式で表されるシアニン染料A 0.0192g
・エチルメタクリレート/モノ−2−(メタクリロイルオキシ)エチルコハク酸エステル共重合体(モル比67/33)の30質量%1−メトキシ−2−プロパノール溶液 0.1403g(溶液として)
・下記式で表される化合物Y 0.0043g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、大日本インキ化学工業社製、30質量%溶液) 0.015g(溶液として)
・含フッ素化合物(メガファックF−781、大日本インキ化学工業社製)0.0033g
・メチルエチルケトン 10.39g
・1−メトキシ−2−プロパノール 20.78g
【0242】
【化16】
【0243】
<感熱層(4)塗布液>
下記組成の感熱層(4)塗布液を調製し、上記で得られた親水性層を有する平版印刷版用支持体に、この感熱層塗布液を乾燥後の塗布量(感熱層塗布量)が1.3g/m2 になるよう塗布し、温風式乾燥装置により122℃で27秒乾燥させて感熱層(サーマルネガタイプの画像記録層)を形成させ、平版印刷版原版を得た。
【0244】
(感熱層(4)塗布液組成)
・赤外線吸収剤[IR−1] 0.074g
・重合開始剤[OS−12] 0.280g
・添加剤[PM−1] 0.151g
・重合性化合物[AM−1] 1.00g
・バインダーポリマー[BT−1] 1.00g
・エチルバイオレット[C−1] 0.04g
・フッ素系界面活性剤 0.015g
(メガファックスF−780−F 大日本インキ化学工業(株)MIBK30質量%溶液)
・メチルエチルケトン 10.4g
・メタノール 4.83g
・1−メトキシ−2−プロパノール 10.4g
上記感熱層塗布液に用いた赤外線吸収剤[IR−1]、重合開始剤[OS−12]、添加剤[PM−1]、重合性化合物[AM−1]、バインダーポリマー[BT−1]およびエチルバイオレット[C−1]の構造を以下に示す。
【0245】
【化17】
【0246】
【化18】
【0247】
<保護層(オーバーコート層)>
上記の感熱層表面に、ポリビニルアルコール(ケン化度98モル%、重合度500)とポリビニルピロリドン(BASF社製、ルビスコールK−30)との混合水溶液をワイヤーバーで塗布し、温風式乾燥装置にて125℃、75秒間乾燥させた。なお、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドンの含有量は4/1質量%であり、塗布量(乾燥後の被覆量)は2.30g/m2 であった。
【0248】
5.感度の測定
(実施例1および比較例1)
微粒子ポリマーを用いた感熱層の場合
実施例ならびに比較例の機上現像可能な平版印刷版原版を、水冷式40W赤外線半導体レーザーを搭載したクレオ社製トレンドセッター3244VFSを用いて、解像度2400dpiの条件で出力して露光した。この際、外面ドラム回転数を変化させることにより版面エネルギを変化させて、画像形成できる最低露光量により感度を評価した。結果を第2表に示した。
【0249】
(実施例2および比較例2)
マイクロカプセルを用いた感熱層の場合
実施例ならびに比較例の機上現像可能な平版印刷版原版を、マルチチャンネルレーザーヘッドを搭載した富士写真フイルム(株)製Luxel T−9000CTPを用い、解像度2400dpiの条件で出力して露光した。この際、ビーム1本あたりの出力および外面ドラム回転数を変化させて、画像形成できる最低露光量により感度を評価した。結果を第2表に示した。
【0250】
(実施例3および比較例3)
サーマルポジタイプの感熱層の場合
平版印刷版原版を出力500mW、波長830nm、ビーム径17μm(1/e2 )の半導体レーザを装備したCREO社製TrendSetter3244を用いて主走査速度5m/秒、版面エネルギー量140mJ/cm2 で像様露光した。感度の評価のためには、版面エネルギー量を45〜150mJ/cm2 まで5mJ/cm2 おきに変えて露光を行ったサンプルを準備した。
現像処理は、富士写真フイルム(株)製現像液DT−2(1:8)を満たした自動現像機PS900NP(富士写真フイルム(株)製)を用いて、現像温度30℃、12秒の条件で行った。現像処理が終了した後、水洗工程を経て、ガム(FG−1(1:1))等で処理して、製版が完了した平版印刷版を得た。版面エネルギー量を変化させたサンプルから、現像処理後画像形成できた最低露光量を感度とした。
【0251】
(実施例4および比較例4)
サーマルネガタイプの感熱層の場合
平版印刷版原版を水冷式40W赤外線半導体レーザ(波長830nm)を搭載したCREO社製Trendsetter3244VFSにて、出力9W、外面ドラム回転数150rpm、版面エネルギー量100mJ/cm2 、解像度175dpiの条件で露光した。なお、感度の評価のためには、版面エネルギー量を20〜200mJ/cm2 まで5mJ/cm2 おきに変えて露光を行ったサンプルを準備した。
露光後、水道水による水洗で保護層を除去した後、富士写真フイルム(株)製LPー1310HIIを用い、30℃、12秒で現像した。現像液は、富士写真フイルム(株)製DV−2Cの1:4水希釈液を用い、フィニッシャーは、富士写真フイルム(株)製GN−2Kの1:1水希釈液を用いた。
現像して得られた平版印刷版の画像部濃度をマクベス反射濃度計RD−918を使用し、該濃度計に装備されている赤フィルターを用いてシアン濃度を測定した。測定した濃度が0.8を得るのに必要な露光量の逆数を感度の指標とした。
【0252】
【0253】
6.印刷試験
実施例1,2および比較例1,2の平版印刷版原版を、上述したように露光した後、何ら処理することなく、ハイデルベルグ社製印刷機SOR−Mのシリンダーに取り付け、アルキ1%+IPA10%湿し水を供給した後、東洋バンデアンエコー紅インキを供給し、更に紙を供給して印刷試験を行った。なお、実施例の平版印刷版原版のすべてにおいて、問題なく機上現像をすることができ、印刷も可能であった。下記条件で評価し結果を第2表に示した。
実施例3、4および比較例3、4については上記露光、現像処理を行った後、同様に評価した。
【0254】
上記印刷試験においては、地汚れおよび耐刷性を以下の方法により評価した。それぞれの結果を第2表に示した。
(1)地汚れ
印刷試験において、印刷機の水目盛りを調整し、地汚れの生じる水目盛りにより地汚れを評価した。地汚れの生じる水目盛りが2未満である場合を○、2以上3未満である場合を○△、3以上4未満である場合を△、4以上である場合を×とした。
(2)耐放置汚れ性
印刷機の水目盛りを調整し鮮明な印刷物を1万枚印刷した後、1時間印刷機上で放置した後、再度印刷を行い、鮮明な印刷物が得られる印刷枚数により耐放置汚れ性を評価した。印刷枚数が少ないほど耐放置汚れ性が優れる。
(3)耐刷性
鮮明な印刷物が得られる印刷枚数により耐刷性を評価した。印刷枚数が多いほど耐刷性に優れる。
【0255】
第2表から、本発明の平版印刷版用支持体を用いた本発明の平版印刷版原版(実施例1〜4)は、感度に優れ、地汚れが発生しにくく、耐放置汚れ性および耐刷性に優れることが分かる。
【0256】
【表1】
【0257】
【発明の効果】
本発明の平版印刷版用支持体は、特定の水溶液で処理し、さらに中間層を設けてなるので、この上に記録層として機上現像タイプの感熱層を設けた本発明の平版印刷版原版は、良好な機上現像性を有し、感度が高く、かつ、高耐刷性を示し、印刷の際の汚れにくさが良好である。
【0258】
また、本発明の平版印刷版用支持体は、特定の水溶液で処理し、さらに中間層を設けてなるので、この上に記録層としてサーマルポジタイプの感光層を設けた本発明の平版印刷版原版は、赤外線レーザーの露光量が低いときや、現像液の液感が低いときでも、現像液に対する溶解性が高くなり、その結果、感度が高く、現像ラチチュードが広く、低露光時にも残膜が少なく、非画像部の汚れが生じにくい。
また、本発明の平版印刷版用支持体は、特定の水溶液で処理し、さらに中間層を設けてなるので、この上に記録層としてサーマルネガタイプの感光層を設けた本発明の平版印刷版原版は、レーザー露光部における現像液に対する不溶解率が高くなり、その結果、感度が高く、耐刷性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に好適に用いられる交流を用いた電気化学的粗面化処理に用いる台形波の一例を示す波形図である。
【図2】本発明に好適に用いられる電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
【符号の説明】
11 アルミニウム板
12 ラジアルドラムローラ
13a、13b 主極
14 酸性水溶液
15 溶液供給口
16 スリット
17 溶液通路
18 補助陽極
19a、19b サイリスタ
20 交流電源
21 主電解槽
22 補助陽極槽
Claims (3)
- 粗面化処理および陽極酸化処理された金属基体に、下記1)および2)の処理をこの順序で、または2)、1)の順序で、または2)、1)、2)の順で行い、
1)ポリビニルホスホン酸を含む水溶液で処理、
2)ケイ酸化合物を含有する水溶液で処理、
その上に、酸基を含有する高分子化合物を有する平版印刷版用支持体。 - 下記式(1):
0.05≦(A+B)/(A+B+C)≦0.70 (1)
A:X線光電子分光法を用いて測定して得られるリン(2p)のピーク面積(counts・eV/sec)
B:X線光電子分光法を用いて測定して得られるケイ素(2p)のピーク面積(counts・eV/sec)
C:X線光電子分光法を用いて測定して得られたアルミニウム(2p)のピーク面積(counts・eV/sec)を満たす金属基体上に、
酸基を含有する高分子化合物を有する平版印刷版用支持体。 - 請求項1または2に記載の平版印刷版用支持体上に、赤外線レーザー露光により書き込み可能な記録層を設けてなる平版印刷版原版。
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