本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねた。そして、コイルの外表面と内表面における熱処理ムラを低減するには、コイルに施す熱処理条件を制御することが重要であると考え、その線に沿ってさらに検討を重ねた。その結果、熱処理時の加熱を比較的緩やかに行なうと共に、所定温度域でコイルを保持し、さらに加熱後のコイルを徐冷する際の条件を厳密に制御してやれば、コイルに均一な熱処理を施すことができることを見出し、本発明を完成した。
一方、上述した様に、バインダーを含む繊維材料で被覆された線材に熱処理を施すとガスが発生し、このガスが線材表面に付着すると超電導特性を低下させる。そこで、熱処理時に発生するガスが線材に付着するのを防止する方策について検討を重ねた。その結果、熱処理を不活性ガス気流下で行なうか、真空状態で行なうと共に、所定温度域でコイルを所定時間保持してやれば、熱処理時に発生するガスによる影響を低減できることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明の作用効果について説明する。
本発明に係る超電導コイルの製造方法とは、バインダーを含む繊維材料で被覆された線材で構成されているコイルを、ヒーターで加熱してから徐冷するという熱処理を施して超電導コイルを製造する際に、前記熱処理を(1)不活性ガス気流下または(2)真空で行なうと共に、前記ヒーターの昇温速度は65℃/hを超えない様に制御し、且つ、該ヒーターの温度が400℃〜500℃の加熱区間を少なくとも5時間とし、更に加熱後のコイルを徐冷する際には、前記ヒーターの温度が超電導結晶生成完了温度から300℃までの区間の平均降温速度(℃/h)を3.8/D以下とするところに特徴を有している。但し、Dは前記コイルの巻線部の厚み(m)である。
バインダーを含む繊維材料で被覆された線材とは、熱処理することによって超電導結晶を生成して超電導線材となる線材の表面が、バインダーを含む繊維材料で被覆されたものである。
ここで、熱処理することによって超電導結晶を生成して超電導線材となる線材とは、A15型超電導線材や酸化物系超電導線材の原料となる線材(以下「素線」と称することがある)であり、こうした素線としては公知のものを用いることができる。A15型超電導線材としては、例えば、Nb3Sn超電導線材やNb3Al超電導線材などが挙げられる。酸化物系超電導線材としては、例えば、Bi系酸化物超電導線材が挙げられる。
本発明の製造方法において熱処理対象となる素線は、素線表面がバインダーを含む繊維材料で被覆されているものである。繊維材とは、超電導結晶を生成する温度においても電気絶縁特性を有する材料であり、コイル状に巻かれる超電導線材同士が接触して短絡することがない様に用いられる。繊維材の種類は特に限定されないが、例えば、ガラスやAl2O3などを繊維状にしたものを編組した状態で用いることができる。
上記繊維材料は、必須成分としてバインダーを含むものである。バインダーとは、上記ガラスやAl2O3などの繊維材同士を分離させない様に添加する結合剤であり、その種類は特に限定されず、有機バインダーや無機バインダーが使用される。
有機バインダーとしては、例えば、澱粉やアクリル系材料、エポキシ系材料、フッ素系材料などが挙げられ、これらの有機バインダーが加熱されて熱分解すると、COやCO2,O2などのガスが生成する。また、無機バインダーとしては、例えば、金属アルコキシドやオルガノシロキサンなどを用いることができ、これらの無機バインダーが熱分解すると、H2やO2などのガスが生成する。上記有機バインダーや無機バインダーは、任意に選ばれる1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。勿論、有機バインダーと無機バインダーを併用しても構わない。
上記繊維材料に含まれるバインダーの量は特に限定されないが、バインダー量が多過ぎると、熱処理時に多量のガスを生成して超電導特性を劣化させ、一方、バインダー量が少な過ぎると、繊維材同士を結合する効果が不足するので注意が必要である。
本発明の製造方法において熱処理の対象となるコイルは、上記バインダーを含む繊維材料で被覆された線材で構成されており、このコイルは巻枠に巻回して形成すればよい。
コイルの大きさは特に限定されないが、後述する様に、本発明の製法では比較的大きなコイルであっても均一に熱処理でき、超電導特性の良好な超電導コイルを得ることができる。即ち、巻線部の厚みが0.05m以上で、且つ、巻線部の外径が0.4m以上の大型のコイルであっても均一な熱処理を実現できる。こうして得られる大型超電導コイルの内側(ボア内)には、該大型超電導コイルより小さな小型超電導コイル(例えば、Nb3Sn製コイル)を配置でき、また、前記大型超電導コイルの外側には、さらに大きな特大超電導コイル(例えば、NbTi製コイル)を配置することができる。そのため、例えば、920MHz級のNMRマグネットも実現可能となる。
本発明では、前記コイルをヒーターで加熱してから徐冷する熱処理を施して超電導コイルを得るが、熱処理は(1)不活性ガス気流下で行なうか、(2)真空で行なうことが重要である。
即ち、上記(1)の方法では、前記熱処理を不活性ガス気流下で行なうと共に、前記ヒーターの昇温温度は65℃/hを超えない様に制御し、且つ、該ヒーターの温度が400〜500℃の加熱区間を少なくとも5時間とする。
前記熱処理を不活性ガス気流下で行なうのは、該不活性ガスが熱の伝達媒体となって、コイルを均一に加熱し易くするためである。また、熱処理雰囲気を不活性ガス気流下とすれば、後述する様に、バインダーの熱分解によって生成するガスを速やかに線材表面から除去でき、線材の周りに分解ガスが滞留するのを防止できるからである。なお、不活性ガスとしては、例えば、HeやArなどのガスを好適に用いることができる。
本発明の製造方法では、前記ヒーターの昇温速度が65℃/hを超えない様に制御することが重要である。昇温速度が65℃/hを超えると、コイルの中でもヒーターに近い部分[例えば、コイルの周囲にヒーターが設けられている場合は、コイルの外表面側]は素早く加熱されて高温になるが、ヒーターから遠い部分[例えば、コイルの周囲にヒーターが設けられている場合は、コイルの内表面側(ボア内)]へはヒーターの熱が届き難いため低温となり、外表面部と内表面部の温度差が大きくなるからである。その結果、コイルの外表面と内表面で超電導結晶生成温度に保持される時間に差が生じ、超電導コイルの超電導特性が悪くなる。即ち、超電導特性は、超電導結晶生成温度に保持される時間に大きく影響を受け、該保持時間が長過ぎても短過ぎても超電導特性の劣化を生じるからである。
こうしたことから、コイルに熱処理を施すときの昇温速度はできるだけ小さく制御するのがよく、好ましくは昇温速度を40℃/h以下に抑えることが望ましい。昇温速度の下限値は特に限定されないが、昇温速度を小さくし過ぎると、昇温の途中で低品質の超電導結晶が優先成長して特性の低下原因となり、また生産性も悪くなるので、昇温速度の下限値は12℃/hとすることが推奨される。
なお、上記昇温速度は、コイルに熱処理を施す際に用いる熱処理炉に設けられたヒーターの設定温度である。
本発明を実施するに当たっては、ヒーターの温度が400℃〜500℃の加熱区間を少なくとも5時間とすることが重要である。即ち、超電導線材の原料となる素線に熱処理を施して超電導結晶を生成させるには、ヒーターの温度を720℃程度まで高めねばならないが、上記バインダーが300℃程度以上に熱されると、熱分解して種々のガスが生成する。このガスは、熱処理中の線材に悪影響を及ぼす有害ガスとなり、特に500℃程度以上の温度域では、該ガスが線材表面に酸化被膜層を形成し、巻線部を膨張させて磁場の均一度を乱したり、該ガスが線材表面に吸着して残留抵抗比(RRR)を低下させる原因となる。
そこで本発明では、ヒーターの温度が400℃〜500℃の加熱区間を少なくとも5時間とすることによって、この温度域に熱処理対象のコイルが5時間以上保持されることとなる。但し、この間にもガスが生成するが、生成したガスは、不活性ガス気流に随伴されて逐次系外へ排出される。その結果、ガスが線材に吸着することを抑制できるため、超電導コイルの特性低下を阻止することができる。また、コイルがこの温度域を通過するまでの時間を少なくとも5時間とすることによって、コイルの外表面部と内表面部の温度差が小さくなるので、最終的に得られる超電導コイルの特性向上にも寄与する。400℃〜500℃の加熱区間ではできる長く保持する方がよく、好ましくは7時間以上とすることが推奨される。なお、ヒーターの温度を400℃〜500℃の加熱区間に保持する時間の上限は特に限定されないが、この区間での経過時間が長くなり過ぎると低品質の超電導結晶が生成する原因となり、しかも生産性も悪くなるので、上限は20時間程度とする。
400℃〜500℃の加熱区間を通過する時間を少なくとも5時間とするためには、この温度区間における昇温速度を小さく(例えば、ヒーターの温度で15℃/h程度)する方法や、400℃〜500℃の間の温度域において昇温せずに加熱保持する方法を採用すればよい。
ところで上記(1)の方法では、不活性ガス気流下で熱処理を行ない、該不活性ガスの流れに随伴させて有害ガスを除去するが、熱処理炉内に存在する不活性ガス中に微量ではあるが有害ガスが残留することがある。この残留した有害ガスに素線が悪影響を受けると、超電導特性の中でも特にRRRの低下を招くことがある。
そこで本発明の他の製法では、上記(2)の方法として、不活性ガス気流下で熱処理を行なう代わりに、真空状態を保持しつつ熱処理する方法を採用する。即ち、上記(2)の方法では、前記熱処理を真空で行なうと共に、前記ヒーターの昇温温度は65℃/hを超えない様に制御し、且つ、該ヒーターの温度が400〜500℃の加熱区間を少なくとも5時間とする。つまり、前記熱処理を真空状態を保持しつつ行なえば、バインダーの熱分解によって生成する分解ガスを順次系外へ排出でき、その結果、有害ガスの残留を防止でき、RRRの低下を抑えることができる。但し、熱処理を真空状態を保持しつつ行なう場合は、熱伝達のための媒体が無くなるので、コイルの外表面部と内表面部の温度差が大きくなる傾向があるので注意すべきである。なお、真空を保持した状態とは、完全な真空のみならず、1×10-3Torr(0.133Pa)以下であればよい。
本発明の製法では、前記ヒーターの温度で300℃から超電導結晶生成完了温度までの温度域で上記要件を満たす様に制御することが好ましい。ヒーターの温度が300℃未満の低温域では、昇温速度や保持時間を制御しても最終的に得られる超電導コイルの超電導特性は殆ど変化しないからである。
ここで、超電導結晶生成完了温度とは、素線内に高品質な超電導結晶が生成して超電導特性を示す様になる温度であり、この温度は生成する超電導結晶の種類や線材の断面構成などによって定まる。即ち、超電導結晶は一般に600℃程度から生成し始めるが、Nb3Sn超電導線材の場合は650〜750℃程度、Nb3Al超電導線材の場合は700〜800℃程度、Bi系酸化物超電導線材の場合は850〜900℃程度に達すると高品質な超電導結晶の生成が完了する。
こうした観点から、本発明の製法では、300℃から超電導結晶の生成完了温度までを加熱領域とし、この領域での加熱条件を厳密に制御すべきである。なお、上述した様に、超電導結晶生成完了温度は結晶の種類によって異なり、一律に規定することはできない。
以上の様に、上記(1)や(2)の方法では、昇温速度を65℃/hを超えない様に制御すると共に、400℃〜500℃の加熱区間を少なくとも5時間としている。このとき、前記ヒーターの温度が500℃から超電導結晶生成完了温度までの加熱区間は、少なくとも7時間とすることが好ましい。この区間における加熱を緩やかに行なうことによって、コイルの外表面と内表面の温度差を小さくでき、超電導特性の良好な超電導コイルを得ることができるからである。
500℃から超電導結晶生成完了温度に到達するまでの時間を制御するためには、この区間における昇温速度を小さく(例えば、ヒーターの温度で15℃/h程度)する方法や、500℃から超電導結晶生成完了温度までの温度域のうち一定温度に加熱保持する工程を付加する方法を採用すればよい。
本発明の製造方法においては、上記400℃〜500℃の加熱区間や、500℃から超電導結晶生成完了温度までの加熱区間において恒温保持する際に、該恒温保持温度より高めの温度に一旦加熱昇温してから、前記恒温保持温度まで冷却して保持し、次いで保持後に再度加熱昇温することが好ましい。保持温度を超える温度に一旦加熱昇温した後、保持温度に冷却してから保持することによって、コイルの内表面における温度が保持温度に到達するまでの時間を短縮できるからである。
次に、超電導結晶生成完了温度で所定時間加熱保持したコイルは、次いで徐冷されるが、このときヒーターの温度が超電導結晶生成完了温度から300℃までの区間の平均降温速度が早すぎると、コイル巻線部の半径方向に生じる温度差が大きくなり、超電導コイルの超電導特性を劣化させる原因となる。
こうした難点を回避するには、超電導結晶生成完了温度から300℃までの区間の平均降温速度(℃/h)を3.8/D以下とする必要がある。ここで、Dとは前記コイルの巻線部の厚み(m)である。
即ち、前記超電導結晶生成完了温度をTmax(℃)、前記コイルの巻線部の厚みをD(m)、前記ヒーターの温度が超電導結晶生成完了温度から300℃に到達するまでにかかる時間をt(h)とした場合に、下記(I)式を満足する様に時間tを制御し、平均降温速
度(℃/h)を(Tmax−300)/tとすべきである。つまり、コイル巻線部の厚みから算出されるパラメータ(3.8/D)と前記平均降温速度との関係が、下記(I)式を満足
すれば、コイルの巻線部における半径方向に生じる温度差を抑えることができ、超電導コイルの超電導特性を向上させることができることが明らかとなったからである。なお、上記パラメータ(3.8/D)は、本発明者らが種々実験を行って得られた値である。
(Tmax−300)/t≦3.8/D ・・・(I)
本発明によって得られる超電導コイルは、高分解能核磁気共鳴(NMR)分析装置用マグネットに使用されるコイルとして採用でき、特に、液体ヘリウムへ浸漬して冷却する超電導マグネットや、冷凍機で冷却する超電導マグネットを構成する超電導コイルとして有用である。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例1
バインダーとして有機バインダーを含むガラス繊維材料で被覆された線材(Nb3Sn素線)を、ステンレス製の巻枠に巻線してコイルを作製した。
上記Nb3Sn素線は、Nb3Snフィラメントの周りに外部安定材として無酸素銅を配置して構成されており、各Nb3Snフィラメントの径は4.3μmであり、Nb3Sn素線の断面は1.5×2.5mm2である。
巻枠に巻線して得られたコイルの大きさは、巻線部の外径(x):480mm、巻線部の内径(y):360mm、巻線部の長さ(z):1300mm、巻線部の厚み(D):0.06mである。従って、上記(I)式の右辺値(3.8/D)を計算すると63.3となる。
図1は、線材を巻枠に巻線して得られたコイルを示す概略説明図であり、図1中、1は線材の巻線部、2は巻枠、3はコイル、xは巻線部の外径、yは巻線部の内径、zは巻線部の長さ、Dは巻線部の厚み、を夫々示している。このコイル3には、コイルと他のコイルの線材同士を接続するための線材ガイド4が設けられている。また、このコイル3の外表面部にはシース熱電対5a〜5dが設けられており、コイル3の内表面部にはシース熱電対6が設けられている。
なお、シース熱電対5aは、線材1と線材ガイド4の表面に接触するように設けられているが、シース熱電対5b〜5dは、線材1または線材ガイド4の表面に3箇所に分けて設けられている。
図2は、超電導コイルを製造する際に用いた熱処理炉の一構成例を示す概略説図であり、熱処理炉の内部に備えられている架台7の上に、前記図1に示したコイルが配置されている。図2中、8は上蓋、9a〜9cはヒーター、10a〜10cはヒーター制御用温度計、11は主バルブ、12は油拡散ポンプ、を夫々示している。
得られたコイルを、図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上に設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気した後、不活性ガスとしてArガスを導入し、Arガス気流下で図3に示すヒートパターンで熱処理を行ない、超電導コイルを得た。このときの処理圧は1atmである。
図3は、熱処理時のヒートパターンを説明するための図であり、図中、x軸は熱処理時間、y軸はヒーターの温度を夫々示している。図3中に示した実線が熱処理時のヒートパターンであり、ヒーターの温度で300℃から450℃の範囲を昇温速度60℃/hで加熱、次いでヒーターの温度で450℃で5時間保持、次いでヒーターの温度で450℃から720℃までの範囲を昇温速度60℃/hで加熱、次いで720℃で100時間保持、次いでヒーターの温度で720℃から300℃の範囲を降温速度60℃/hで冷却した。なお、ヒーター10a〜10cは、全て同じヒートパターンで操業されている。また、Nb3Snの超電導結晶生成完了温度は720℃である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を前記図3に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を前記図3に●で示した。
図3から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。また、コイルの内表面部の温度も、ほぼヒートパターンに追随しており、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は、55℃以内に収まった。しかもヒーターの温度が720℃に達してから2時間経過後には、コイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まり、熱処理時における巻線部の半径方向の温度差は殆ど生じていない。
熱処理して得られた超電導コイルの超電導特性を、オーバーオールの臨界電流密度、ΔZ2値およびRRRで評価した。なお、オーバーオールの臨界電流密度とは、臨界電流密度を線材の断面で除した値である。また、ΔZ2とは、コイルから発生する磁場の分布を示す代表的な係数であり、発生磁場の強度をマグネットボア中心軸上の位置の関数として多項式展開したときに算出される第2次係数Z2の設計値からのずれである。
得られた超電導コイルを液体ヘリウム(4.2K)へ浸漬し、外部磁場を14Tとし、コイル全体に通電することによりオーバーオールの臨界電流密度、ΔZ2およびRRRを夫々測定した。なお、超電導特性の合格基準は、超電導コイルを液体ヘリウム(4.2K)へ浸漬し、外部磁場を14Tとしたときに、オーバーオールの臨界電流密度が180A/mm2以上、ΔZ2値が0.5ppm以下、RRRが100以上の場合を夫々合格とする。
上記得られた超電導コイルの超電導特性は、オーバーオールの臨界電流密度が223A/mm2、ΔZ2値が0.33ppm、RRRが185であり、全ての特性において設計仕様を満足した。但し、実施例1では熱処理をArガス気流下で行なっているため、バインダーが熱分解して生成した有害ガスの影響を受けてRRRが若干悪かった。
実施例2
上記実施例1において、Arガス気流下で熱処理を施す代わりに、熱処理炉内を真空状態を保持したまま熱処理を施す以外は、上記実施例1と同じ条件で実験を行なって超電導コイルを得た。即ち、図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上にコイル3を設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気して熱処理炉内を真空状態を保持しつつ前記図3に示したヒートパターンと同じ条件で熱処理を行ない、超電導コイルを得た。このときの処理圧は1×10-4Torr以下である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を図4に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を図4に●で示した。
図4から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。また、コイルの内溶面部の温度も、ほぼヒートパターンに追随しており、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は、85℃以内に収まった。しかもヒーターの温度が720℃に達してから7時間経過後には、コイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まり、熱処理時における巻線部の半径方向の温度差は殆ど生じていない。
上記得られた超電導コイルの超電導特性を、上記実施例1と同様に測定した結果、オーバーオールの臨界電流密度は205A/mm2、ΔZ2値は0.28ppm、RRRは350であり、全ての特性において設計仕様を満足した。
実施例3
上記実施例1で得られたコイルを、図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上にコイル3を設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気し、熱処理炉内を真空状態を保持しつつ図5に示すヒートパターンで熱処理を行なって超電導コイルを得た。このときの処理圧は1×10-4Torr以下である。
図5は、熱処理時のヒートパターンを説明するための図である。図中に示した実線が熱処理時のヒートパターンであり、ヒーターの温度で300℃から450℃の範囲を昇温速度40℃/hで加熱、次いでヒーターの温度で450℃で5時間保持、次いでヒーターの温度で450℃から720℃までの範囲を昇温速度40℃/hで加熱、次いで720℃で100時間保持、次いでヒーターの温度で720℃から300℃の範囲を降温速度40℃/hで冷却した。なお、ヒーター10a〜10cは、全て同じヒートパターンで操業されている。また、Nb3Snの超電導結晶生成完了温度は720℃である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を前記図5に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を前記図5に●で示した。
図5から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。また、コイルの内溶面部の温度も、ほぼヒートパターンに追随しており、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は、65℃以内に収まった。しかもヒーターの温度が720℃に達してから4時間経過後には、コイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まり、熱処理時における巻線部の半径方向の温度差は殆ど生じていない。
上記得られた超電導コイルの超電導特性を、上記実施例1と同様に測定した結果、オーバーオールの臨界電流密度は218A/mm2、ΔZ2値は0.25ppm、RRRは352であり、全ての特性において設計仕様を満足した。
実施例4
上記実施例1で得られたコイルを、図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上に設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気し、熱処理炉内を真空状態を保持しつつ図6に示すヒートパターンで熱処理を行なって超電導コイルを得た。このときの処理圧は1×10-4Torr以下である。
図6は、熱処理時のヒートパターンを説明するための図である。図中に示した実線が熱処理時のヒートパターンであり、ヒーターの温度で300℃から450℃の範囲を昇温速度60℃/hで加熱、次いでヒーターの温度で450℃で5時間保持、次いでヒーターの温度で450℃から570℃までの範囲を昇温速度60℃/hで加熱、次いでヒーターの温度で570℃で5時間保持、次いでヒーターの温度で570℃から720℃の範囲を昇温速度60℃/hで加熱、次いで720℃で100時間保持、次いでヒーターの温度で720℃から300℃の範囲を降温速度60℃/hで冷却した。なお、ヒーター10a〜10cは、全て同じヒートパターンで操業されている。また、Nb3Snの超電導結晶生成完了温度は720℃である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を前記図6に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を前記図6に●で示した。
図6から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。また、コイルの内溶面部の温度も、ほぼヒートパターンに追随しており、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は、70℃以内に収まった。しかもヒーターの温度が720℃に達してから3時間経過後には、コイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まり、熱処理時における巻線部の半径方向の温度差は殆ど生じていない。
上記得られた超電導コイルの超電導特性を、上記実施例1と同様に測定した結果、オーバーオールの臨界電流密度は231A/mm2、ΔZ2値は0.19ppm、RRRは355であり、全ての特性において設計仕様を満足した。
実施例5
上記実施例1で得られたコイルを、図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上に設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気し、熱処理炉内を真空状態を保持しつつ図7に示すヒートパターンで熱処理を行なって超電導コイルを得た。このときの処理圧は1×10-4Torr以下である。
図7は、熱処理時のヒートパターンを説明するための図である。図中に示した実線が熱処理時のヒートパターンであり、ヒーターの温度で300℃から480℃の範囲を昇温速度60℃/hで加熱、次いでヒーターの温度で480℃から450℃の範囲を降温速度60℃/hで冷却、次いでヒーターの温度で450℃で4時間保持、次いでヒーターの温度で450℃から720℃の範囲を昇温速度60℃/hで加熱、次いでヒーターの温度で720℃で100時間保持、次いでヒーターの温度で720℃から300℃の範囲を降温速度60℃/hで冷却した。なお、ヒーター10a〜10cは、全て同じヒートパターンで操業されている。また、Nb3Snの超電導結晶生成完了温度は720℃である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を前記図7に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を前記図7に●で示した。
図7から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。また、コイルの内溶面部の温度も、ほぼヒートパターンに追随しており、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は、75℃以内に収まった。しかもヒーターの温度が720℃に達してから4時間経過後には、コイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まり、熱処理時における巻線部の半径方向の温度差は殆ど生じていない。
上記得られた超電導コイルの超電導特性を、上記実施例1と同様に測定した結果、オーバーオールの臨界電流密度は218A/mm2、ΔZ2値は0.22ppm、RRRは358であり、全ての特性において設計仕様を満足した。
特に、図7に示したヒートパターンでコイルに熱処理を施した場合は、400℃〜500℃の加熱区間における450℃で保持するに先立って、該保持温度より高めの480℃に一旦加熱昇温した後、450℃へ冷却して保持しているので、コイルのうち表面部における温度が速やかに保持温度に到達するので、超電導コイルの超電導特性が良好となる。
実施例6
上記実施例1で得られたコイルを、図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上にコイル3を設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気し、熱処理炉内を真空状態を保持しつつ図8に示すヒートパターンで熱処理を行なって超電導コイルを得た。このときの処理圧は1×10-4Torr以下である。
図8は、熱処理時のヒートパターンを説明するための図である。図中に示した実線が熱処理時のヒートパターンであり、ヒーターの温度で300℃から450℃の範囲を昇温速度60℃/hで加熱、次いでヒーターの温度で450℃で5時間保持、次いでヒーターの温度で450℃から660℃までの範囲を昇温速度60℃/hで加熱、次いでヒーターの温度で660℃から630℃までの範囲を降温速度60℃/hで冷却、次いでヒーターの温度で630℃で5時間保持、次いでヒーターの温度で630℃から720℃の範囲を昇温速度60℃/hで加熱、次いで720℃で100時間保持、次いでヒーターの温度で720℃から300℃の範囲を降温速度60℃/hで冷却した。なお、ヒーター10a〜10cは、全て同じヒートパターンで操業されている。また、Nb3Snの超電導結晶生成完了温度は720℃である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を前記図8に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を前記図8に●で示した。
図8から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。また、コイルの内溶面部の温度も、ほぼヒートパターンに追随しており、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は、80℃以内に収まった。しかもヒーターの温度が720℃に達してから2時間経過後には、コイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まり、熱処理時における巻線部の半径方向の温度差は殆ど生じていない。
上記得られた超電導コイルの超電導特性を、上記実施例1と同様に測定した結果、オーバーオールの臨界電流密度は242A/mm2、ΔZ2値は0.15ppm、RRRは364であり、全ての特性において設計仕様を満足した。
実施例7
バインダーとして有機バインダーを含むガラス繊維材料で被覆された線材(Nb3Al素線)を、ステンレス製の巻枠に巻線してコイルを作製した。
上記Nb3Al素線は、ジェリーロール法で作製されたものであり、安定化銅を中央部に配置したNb3Alフィラメントの外周に安定化銅を配置した96芯のNb3Al素線である。このNb3Al素線の断面は1.5×2.5mm2である。
巻枠に巻線して得られたコイルの大きさは、上記実施例1と同じであり、巻線部の外径(x):480mm、巻線部の内径(y):360mm、巻線部の長さ(z):1300mm、巻線部の厚み(D):60mmである。従って、上記(I)式の右辺値(3.8/D)を計算す
ると63.3となる。
得られたコイルを、上記図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上に設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気し、熱処理炉内を真空状態を保持しつつ上記図3に示すヒートパターンと同じ条件で熱処理を行なって超電導コイルを得た。このときの処理圧は1×10-4Torr以下である。なお、Nb3Alの超電導結晶生成完了温度は720℃である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を図9に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を図9に●で示した。
図9から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。また、コイルの内溶面部の温度も、ほぼヒートパターンに追随しており、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は、87℃以内に収まった。しかもヒーターの温度が720℃に達してから7時間経過後には、コイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まり、熱処理時における巻線部の半径方向の温度差は殆ど生じていない。
上記得られた超電導コイルの超電導特性を、上記実施例1と同様に測定した結果、オーバーオールの臨界電流密度は214A/mm2、ΔZ2値は0.30ppm、RRRは351であり、全ての特性において設計仕様を満足した。
実施例8
上記実施例1において得られたコイルを、図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上に設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気した後、不活性ガスとしてArガスを導入し、Arガス気流下で図10に示すヒートパターンで熱処理を行ない、超電導コイルを得た。このときの処理圧は1atmである。
図10は、熱処理時のヒートパターンを説明するための図であり、図中、x軸は熱処理時間、y軸はヒーターの温度を夫々示している。図10中に示した実線が熱処理時のヒートパターンであり、ヒーターの温度で300℃から720℃の範囲を昇温速度100℃/hで加熱、次いでヒーターの温度で720℃で100時間保持、次いでヒーターの温度で720℃から300℃の範囲を降温速度100℃/hで冷却した。なお、ヒーター10a〜10cは、全て同じヒートパターンで操業されている。また、Nb3Snの超電導結晶生成完了温度は720℃である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を前記図10に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を前記図10に●で示した。
図10から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。しかし、コイルの内溶面部の温度は、ヒートパターンに追随しておらず、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は最大160℃となった。また、ヒーターの温度が720℃に達してからコイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まるまでにかかった時間は、23時間であった。
上記得られた超電導コイルの超電導特性を、上記実施例1と同様に測定した結果、RRRは178となり、設計仕様を満足するものの、オーバーオールの臨界電流密度は135A/mm2、ΔZ2値は1.1ppmとなって設計仕様を満足しなかった。
実施例9
上記実施例8において、Arガス気流下で熱処理を施す代わりに、熱処理炉内を真空状態を保持したまま熱処理を施す以外は、上記実施例8と同じ条件で実験を行なって超電導コイルを得た。即ち、図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上にコイル3を設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気して熱処理炉内を真空状態を保持しつつ前記図10に示すヒートパターンと同じ条件で熱処理を行ない、超電導コイルを得た。このときの処理圧は1×10-4Torr以下である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を図11に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を図11に●で示した。
図11に示した各ヒーター9a〜9cの温度を制御することにより、熱電対5b〜5dの温度差は3℃以内に抑えられることが分かった。
図11から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。しかし、コイルの内溶面部の温度は、ヒートパターンに追随しておらず、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は最大240℃となった。また、ヒーターの温度が720℃に達してからコイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まるまでにかかった時間は、32時間であった。
また、冷却時には、ヒーターの温度が300℃になるまでに最大で105℃の温度差が生じた。
上記得られた超電導コイルの超電導特性を、上記実施例1と同様に測定した結果、RRRは348となり設計仕様を満足するものの、オーバーオールの臨界電流密度は105A/mm2、ΔZ2値は2.3ppmとなって設計仕様を満足しなかった。
実施例10
上記実施例7で得られたコイルを、上記図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上に設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気し、熱処理炉内を真空状態を保持しつつ上記図10に示すヒートパターンと同じ条件で熱処理を行なって超電導コイルを得た。このときの処理圧は1×10-4Torr以下である。なお、Nb3Alの超電導結晶生成完了温度は720℃である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を図12に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を図12に●で示した。
図12から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。しかし、コイルの内溶面部の温度は、ヒートパターンに追随しておらず、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は最大240℃となった。また、ヒーターの温度が720℃に達してからコイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まるまでにかかった時間は、30時間であった。
上記得られた超電導コイルの超電導特性を、上記実施例1と同様に測定した結果、RRRは345となり設計仕様を満足するものの、オーバーオールの臨界電流密度は127A/mm2、ΔZ2値は2.1ppmとなって設計仕様を満足しなかった。
実施例11
上記実施例1で得られたコイルを、図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上にコイル3を設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気し、熱処理炉内を真空状態を保持しつつ図13に示すヒートパターンで熱処理を行なって超電導コイルを得た。このときの処理圧は1×10-4Torr以下である。
図13は、熱処理時のヒートパターンを説明するための図である。図中に示した実線が熱処理時のヒートパターンであり、ヒーターの温度で300℃から720℃の範囲を昇温速度60℃/hで加熱、次いでヒーターの温度で720℃で100時間保持、次いでヒーターの温度で720℃から300℃の範囲を降温速度60℃/hで冷却した。なお、ヒーター10a〜10cは、全て同じヒートパターンで操業されている。また、Nb3Snの超電導結晶生成完了温度は720℃である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を前記図13に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を前記図13に●で示した。
図13から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。しかし、コイルの内溶面部の温度は、ヒートパターンに追随しておらず、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は最大170℃となった。また、ヒーターの温度が720℃に達してからコイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まるまでにかかった時間は、24時間であった。
上記得られた超電導コイルの超電導特性を、上記実施例1と同様に測定した結果、RRRは349となり設計仕様を満足するものの、オーバーオールの臨界電流密度は129A/mm2、ΔZ2値は1.9ppmとなって設計仕様を満足しなかった。
実施例12
上記実施例1で得られたコイルを、図2に示す様に、熱処理炉内の架台7上にコイル3を設置した後、上蓋8を閉め、油圧拡散ポンプ12を用いて熱処理炉内から排気し、熱処理炉内を真空状態を保持しつつ図14に示すヒートパターンで熱処理を行なって超電導コイルを得た。このときの処理圧は1×10-4Torr以下である。
図14は、熱処理時のヒートパターンを説明するための図である。図中に示した実線が熱処理時のヒートパターンであり、ヒーターの温度で300℃から450℃の範囲を昇温速度70℃/hで加熱、次いでヒーターの温度で450℃で5時間保持、次いでヒーターの温度で450℃から720℃までの範囲を昇温速度70℃/hで加熱、次いで720℃で100時間保持、次いでヒーターの温度で720℃から300℃の範囲を降温速度70℃/hで冷却した。なお、ヒーター10a〜10cは、全て同じヒートパターンで操業されている。また、Nb3Snの超電導結晶生成完了温度は720℃である。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を前記図14に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を前記図14に●で示した。
図14から明らかな様に、コイルの外表面部の温度は、ヒーターの温度変化(ヒートパターン)に追随する様に変化していることが分かる。しかし、コイルの内溶面部の温度は、ヒートパターンに追随しておらず、コイルの外表面部の温度と内表面部の温度差は最大102℃となった。また、ヒーターの温度が720℃に達してからコイルの外表面部と内表面部の温度差が5℃以内に収まるまでにかかった時間は、10時間であった。
上記得られた超電導コイルの超電導特性を、上記実施例1と同様に測定した結果、RRRは343となり設計仕様を満足するものの、オーバーオールの臨界電流密度は155A/mm2、ΔZ2値は0.72ppmとなって設計仕様を満足しなかった。
実施例13
上記実施例2において、図3に示したヒートパターンうちヒーターの温度で720℃から300℃の範囲を降温速度70℃/hで冷却する以外は、上記実施例2と同じ条件でコイルに熱処理を施した。
熱処理時におけるコイルの外表面部の温度をシース熱電対5aで測定し、結果を図15に○で示した。一方、熱処理時におけるコイルの内表面部の温度をシース熱電対6で測定し、結果を図15に●で示した。
その結果、RRRは348となり設計仕様を満足したが、オーバーオールの臨界電流密度が168A/mm2、ΔZ2値が0.61ppmとなり、設計仕様を満足しなかった。