JP2005068316A - 潤滑剤、樹脂潤滑用グリース組成物及び電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】樹脂部材と金属部材とが接触する部分において樹脂部材の摩耗を従来よりも大幅に低減し、長寿命を図ることが可能な潤滑剤及びグリース組成物を提供する。また、耐久性に優れ、かつギアの動力伝達を高効率で行うことができ、長寿命の電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】少なくとも一方が樹脂製で、接触状態で相対運動する2つの物体の間の潤滑を行う潤滑剤であって、珪素化合物を含有する潤滑剤、または前記潤滑剤に増ちょう剤として金属石けん及びウレア化合物の少なくとも1種を配合して樹脂潤滑用グリース組成物とする。また、樹脂製のウォームホイールと金属製のウォームとで構成される減速ギアを備える電動パワーステアリング装置を前記樹脂潤滑用グリース組成物により潤滑する。
【選択図】 なし
【解決手段】少なくとも一方が樹脂製で、接触状態で相対運動する2つの物体の間の潤滑を行う潤滑剤であって、珪素化合物を含有する潤滑剤、または前記潤滑剤に増ちょう剤として金属石けん及びウレア化合物の少なくとも1種を配合して樹脂潤滑用グリース組成物とする。また、樹脂製のウォームホイールと金属製のウォームとで構成される減速ギアを備える電動パワーステアリング装置を前記樹脂潤滑用グリース組成物により潤滑する。
【選択図】 なし
Description
本発明は、少なくとも一方が樹脂製で、相対運動する2つの物体の間の潤滑を行う潤滑剤及び樹脂潤滑用グリース組成物に関する。また、金属製芯金の外周に、樹脂組成物からなり外周面にギア歯が形成された樹脂部を一体に形成した従動歯車を備え、グリース潤滑される電動パワーステアリング装置に関する。
自動車に組み込まれる電動パワーステアリング装置には、電動モータに比較的高速回転、低トルクのものが使用されるため、電動モータとステアリングシャフトとの間に減速機構が組み込まれている。減速機構としては、一組で大きな減速比が得られる等の理由から、図3に示されるような、ウォーム12と、ウォーム12に噛み合うウォームホイール11とから構成される電動パワーステアリング装置用減速ギア20(以下、単に「減速ギア」ともいう)が使用されるのが一般的である。ここで、ウォーム12は図2に示す電動モータ100の回転軸に連結しており、駆動歯車に相当し、一方ウォームホイール11は従動歯車に相当する。
このような減速ギア20では、ウォームホイール11とウォーム12の両方を金属製にすると、ハンドル操作時に歯打ち音や振動音等の不快音が発生するという不具合を生じていた。そこで、ウォームホイール11に、金属製の芯管1の外周に、樹脂製で外周面にギア歯10を形成してなる樹脂部3を、接着剤8を用いるなどして一体化させたものを使用して騒音対策を行っている。
上記樹脂部3には、例えば特公平6−60674号公報に記載されているように、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のベース樹脂に、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材を配合した材料の他、強化材を含有しないMC(モノマーキャスト)ナイロン、ポリアミド6、ポリアミド66等が使用されている。中でも、寸法安定性やコストを考慮して、強化材を含有しないMCナイロン、ガラス繊維を含有したポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46等が主流となっている。
また、減速ギア20のウォーム12は、図2に示すように、一対の玉軸受等の転がり軸受110で支持されて電動モータ100と連結しており、ハウジング120の一対の転がり軸受110の間の空間には、通常、ウォーム12とウォームホイール11との両ギア歯間の潤滑のためにグリースが充填されている。更に、転がり軸受110に予圧をかけるとともに、タイヤ側からの微小なキックバック入力が入ってきたときに、ウォーム12を軸方向に動かして電動モータ100が回転しないようにし、ハンドル側にキックバックのみの情報を伝えるために、図示されるように、転がり軸受110のウォーム側にゴム製のダンパー130を取り付けているものも知られており、使用されるゴムとしては圧縮永久歪が小さいエチレンアクリルゴムに代表されるアクリルゴムが一般的である。
上記グリースとしては、水酸基を含む脂肪族または多価アルコールの脂肪酸エステルを含有するものが知られている(特許文献1参照)。このグリースは、長期間使用後にもトルクの変動が抑制され、長時間運転してもハンドル操作に違和感がない点で優れているものの、大型車の電動パワーステアリング装置に適用すると、高荷重下での樹脂部材と金属部材とが摺動することとなり、摩擦力が増大してハンドルをゆっくり切った場合に引っ掛かりを感じたり、ウォームホイール11の樹脂部3の耐久寿命が短くなる等の問題が発生するおそれがある。
このような不具合を解消するために、ワックスを配合したグリースも使用されており、例えば平均分子量が900〜100000のポリエチレンワックスを0.5〜40質量%含有するグリース(特許文献2参照)、基油を合成炭化水素油とし、増ちょう剤をウレア化合物とし、モンタンワックスを配合したグリース(特許文献3参照)、ポリエチレンオキサイド系ワックスを0.1〜30質量%含有するグリース(特許文献4)等が提案されている。しかし、これらワックスを配合したグリースでは、ワックスが構造的に十分に強固でないため、樹脂部材と金属部材との摺動部において発生する高い面圧や局所的な高温により分解しやすく、更なる改善が望まれている。
また、脂肪酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類塁金属塩、ウレア化合物、珪素化合物及び有機化ベントナイトの少なくとも1種を配合することにより、粘度指数を高めて耐摩耗性や潤滑性の向上を図った潤滑剤組成物も知られている(特許文献5参照)。しかし、特許文献5には、この潤滑剤組成物が樹脂部材と金属部材との潤滑に有効であるとの記載はない。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、樹脂部材と金属部材とが接触する部分において樹脂部材の摩耗を従来よりも大幅に低減し、長寿命を図ることが可能な潤滑剤及びグリース組成物を提供することを目的とする。また、耐久性に優れ、かつギアの動力伝達を高効率で行うことができ、長寿命の電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は以下の潤滑剤、樹脂潤滑用グリース組成物及び電動パワーステアリング装置を提供する。
(1)少なくとも一方が樹脂製で、接触状態で相対運動する2つの物体の間の潤滑を行う潤滑剤であって、珪素化合物を含有することを特徴とする潤滑剤。
(2)珪素化合物が疎水性であるか、分子構造中に疎水基を有することを特徴とする上記(1)記載の潤滑剤。
(3)珪素化合物として二酸化珪素微粒子、有機シリコーン化合物、アルコキシシラン、クロロシラン、シラザン及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1種を潤滑剤全量の0.1〜10質量%含有することを特徴とする上記(2)記載の潤滑剤。
(4)二酸化珪素微粒子が一次粒径で100nm以下であることを特徴とする上記(3)記載の潤滑剤。
(5)潤滑油が、非極性の潤滑油を潤滑油全量の80質量%以上含有することを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の潤滑剤。
(6)非極性の潤滑油が、合成炭化水素油及び鉱油から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記(5)記載の潤滑剤。
(7)上記(1)〜(6)の何れか1項に記載の潤滑剤に、増ちょう剤として金属石けん及びウレア化合物の少なくとも1種を配合してなることを特徴とする樹脂潤滑用グリース組成物。
(8)非極性ワックス及び極性ワックスの少なくとも1種を含有することを特徴とする上記(7)記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
(9)電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置であって、前記減速歯車機構の従動歯車が、外周面にギア歯が形成された樹脂部を設けてなり、かつ、上記(7)または(8)に記載のグリース組成物により潤滑されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
(1)少なくとも一方が樹脂製で、接触状態で相対運動する2つの物体の間の潤滑を行う潤滑剤であって、珪素化合物を含有することを特徴とする潤滑剤。
(2)珪素化合物が疎水性であるか、分子構造中に疎水基を有することを特徴とする上記(1)記載の潤滑剤。
(3)珪素化合物として二酸化珪素微粒子、有機シリコーン化合物、アルコキシシラン、クロロシラン、シラザン及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1種を潤滑剤全量の0.1〜10質量%含有することを特徴とする上記(2)記載の潤滑剤。
(4)二酸化珪素微粒子が一次粒径で100nm以下であることを特徴とする上記(3)記載の潤滑剤。
(5)潤滑油が、非極性の潤滑油を潤滑油全量の80質量%以上含有することを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の潤滑剤。
(6)非極性の潤滑油が、合成炭化水素油及び鉱油から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記(5)記載の潤滑剤。
(7)上記(1)〜(6)の何れか1項に記載の潤滑剤に、増ちょう剤として金属石けん及びウレア化合物の少なくとも1種を配合してなることを特徴とする樹脂潤滑用グリース組成物。
(8)非極性ワックス及び極性ワックスの少なくとも1種を含有することを特徴とする上記(7)記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
(9)電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置であって、前記減速歯車機構の従動歯車が、外周面にギア歯が形成された樹脂部を設けてなり、かつ、上記(7)または(8)に記載のグリース組成物により潤滑されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
本発明の潤滑剤及び樹脂潤滑用グリース組成物は、珪素化合物を含有することにより、樹脂部材と金属部材との摺動面において樹脂の摩耗を大幅に低減でき、長寿命化を図ることができる。また、この樹脂潤滑用グリース組成物を用いて潤滑することにより、樹脂製ギア歯の摩耗が少なくなり、樹脂部を有するウォームホイールを備える電動パワーステアリング装置を長寿命化することができる。
以下、本発明に関して詳細に説明する。
(潤滑剤)
本発明の潤滑剤は、少なくとも一方が樹脂製で、接触状態で相対運動する2つの物体の間の潤滑に使用されるもので、潤滑油と珪素化合物とを含有する。
本発明の潤滑剤は、少なくとも一方が樹脂製で、接触状態で相対運動する2つの物体の間の潤滑に使用されるもので、潤滑油と珪素化合物とを含有する。
潤滑油は、樹脂への影響(寸法変化や劣化等)を考慮して、非極性の潤滑油を80質量%以上含むことが好ましい。また、後述するように、潤滑剤は増ちょう剤を配合してグリースとされ、電動パワーステアリング装置の潤滑に用いられるが、上述したように電動パワーステアリング装置に組み込まれるダンパーは一般にアクリルゴム製であり、極性の潤滑油を用いると膨潤して機能低下を招く。非極性の潤滑油としては、合成炭化水素油及び鉱油が好ましい。具体的には、合成炭化水素油としてはポリα−オレフィン油が好ましく、鉱油としては減圧蒸留、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて精製した高度精製鉱油が好ましい。また、これらの潤滑油は単独でも、混合して使用してもよい。
潤滑油として20質量%未満であれば、極性を有する潤滑油を併用してもよい。極性を有する潤滑油は樹脂に対する濡れ性が高いため、これを少量配合することにより油膜の成膜性を向上させることができる。尚、極性を有する潤滑油には制限がないが、ジエステルやポリオールエステル等のエステル油、アルキルジフェニルエーテルやポリプロピレングリコール等のエーテル油等が好適である。
また、電動パワーステアリング装置用グリースとしての使用を考慮すると、低温から120℃程度までの広い温度範囲での潤滑性能を確保するために、潤滑油の40℃における動粘度が30〜150mm2/sであることが好ましい。40℃における動粘度が30mm2/s未満では、摺動面において十分な油膜厚さが確保できず、樹脂製のギア歯10の耐久寿命に悪影響を及ぼす可能性があり、150mm2/sを超えると、低温流動性が低下して潤滑性能が悪くなる。
珪素化合物は、摺動時に発生する滑りにより摺動部位の金属表面及び樹脂表面の双方に酸化珪素を主成分とする珪素含有膜を形成し、樹脂の摩耗を抑制する。珪素化合物としては、疎水性のもの、あるいは分子構造中に疎水基を有するのものが好ましい。このような疎水性の珪素化合物は上記潤滑油との親和性が高く、珪素含有膜が金属表面及び樹脂表面に形成されやすく、かつ安定して存在するようになり、樹脂の摩耗を抑制する効果がより高まる。このような珪素化合物としては、酸化珪素微粒子、有機シリコーン化合物、アルコキシシラン、クロロシラン、シラザン及びシランカップリング剤が好ましい。
酸化珪素微粒子は、その一次粒径が100nm以下、特に50nm以下のものが好ましい。一次粒径が100nmを超えると、潤滑油中における分散安定性が低下し、また、酸化珪素微粒子が砥石として働き、樹脂表面を摩耗させるため使用に適さない。このような酸化珪素微粒子は、アルカリ触媒を用いた金属アルコキシド法やゾル−ゲル法等により、容易に得ることができる。また、潤滑油への分散性を高めるために、シランカップリング剤等により疎水化処理を施してもよい。
有機シリコーン化合物としては、下記一般式で現われるオルガノポリシロキサン化合物が好ましい。式中、Rは同一であっても、それぞれ異なっていてもよく、炭素数1〜18の非置換または置換の1価炭化水素基であり、m及びnは正数である。
R3Si−O−〔Si(R)2−O−〕m−〔Si(R)2−O−〕n−SiR3
R3Si−O−〔Si(R)2−O−〕m−〔Si(R)2−O−〕n−SiR3
具体的には、Rとしてメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基、ビシクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、もしくは、これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部をハロゲン原子やシアノ基で置換したもの等が挙げられる。これらのRを有するオルガノポリシロキサンは、一般にストレートシリコーンオイルと称されているものである。これらストレートシリコーンオイルの中でも、ジメチルシリコーンオイル(Rがメチル基のもの)、フェニルメチルシリコーンオイル(Rがメチル基とフェニル基のもの)が好ましい。
更に、Rとしてアミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基、アルコキシ基、ポリエーテル基、メチルスチリル基、エステル基等で置換したものも使用できる。これらのRを有するオルガノポリシロキサン化合物は、一般に変性シリコーンオイルと称されているものである。これら変性シリコーンオイルの中でも、末端基のみにこれらのRが配置された、一般に「末端基変性シリコーンオイル」と称されるものが好ましい。
アルコキシシランとしては、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン等が挙げられる。
クロロシランとしては、ジクロロシラン、トリクロロシラン等が挙げられる。
シラザンとしては、ヘキサメチルシラザン等が挙げられる。
シランカップリング剤としては、下記一般式で表される2種以上の異なった反応基を有する有機珪素化合物が好ましい。式中、nは1〜3の整数であり、Xはビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基等であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基である。また、X及びRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
Xn−Si−(OR)4−n
Xn−Si−(OR)4−n
これら珪素化合物は、それぞれ単独で使用してもよく、適宜組み合わせて使用してもよい。何れの場合も、その含有量は、潤滑剤全量の0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%とする。珪素化合物の含有量が0.1質量%未満では、十分な摩擦及び摩耗低減効果が得られず、10質量%を超える場合は樹脂表面及び金属表面に珪素含有膜が均一に形成し難くなり、同様に十分な摩擦及び摩耗低減効果が得られなくなる。
潤滑剤には、必要に応じて、潤滑剤に通常添加されるような各種添加剤を添加してもよい。これらは何れも公知のもので構わない。
(樹脂潤滑用グリース組成物)
本発明の樹脂潤滑用グリース組成物(以下、単に「グリース組成物」という)は、上記の潤滑剤を基油とし、増ちょう剤としてアルミニウム、バリウム、カルシウム、リチウム、ナトリウム等の金属石けん、リチウムコンプレックス、カルシウムコンプレックス、アルミニウムコンプレックス等の複合金属石けん、ウレア化合物、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア化合物を配合してグリースとしたものである。尚、これら増ちょう剤は何れも公知のもので構わない。また、金属石けんとウレア化合物はそれぞれ単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。増ちょう剤の配合量は、上記の潤滑剤とともにグリース性状を形成、維持できる量で構わない。
本発明の樹脂潤滑用グリース組成物(以下、単に「グリース組成物」という)は、上記の潤滑剤を基油とし、増ちょう剤としてアルミニウム、バリウム、カルシウム、リチウム、ナトリウム等の金属石けん、リチウムコンプレックス、カルシウムコンプレックス、アルミニウムコンプレックス等の複合金属石けん、ウレア化合物、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア化合物を配合してグリースとしたものである。尚、これら増ちょう剤は何れも公知のもので構わない。また、金属石けんとウレア化合物はそれぞれ単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。増ちょう剤の配合量は、上記の潤滑剤とともにグリース性状を形成、維持できる量で構わない。
グリース組成物には、摩耗の更なる低減を目的としてワックスを配合してもよい。本発明では、非極性ワックス及び極性ワックスの何れも使用可能であり、両ワックスを混合して使用してもよい。非極性ワックスとは、成分中に極性基を持たないワックスのことであり、例えば石油精製時に取り出される石油ワックス、一酸化炭素と水素とを反応させて合成するフィッシャ−トロプシュワックス、エチレンの重合やポリエチレンの熱分解で製造されるポリエチレンワックス等が挙げられる。中でも、摩耗特性に優れることから、ポリエチレンワックスが好ましい。また、ポリエチレンワックスは平均分子量が900〜10000のものが好ましく、更に0.98g/cm3以下の低密度のものが好ましい。一方、極性ワックスとは、成分中に極性基を有するワックスのことであり、例えば褐炭やリグナイトから得られるモンタンワックス、脂肪酸エステルや脂肪族アミド、ケトン・アミン類等の常温で固体の物質、ワックスを酸化させた酸化ワックス等が挙げられる。中でも、摩耗特性に優れるモンタンワックス、ポリエチレンオキサイドワックスが好ましい。
これらワックス類の配合量は、グリース全量に対して1〜10質量%が好ましい。配合量がグリ−ス全量の1質量%未満では、摩耗低減効果が得られず、10質量%を超えるとグリースが硬くなりすぎて十分な潤滑性能を発揮できなくなる。より好ましい配合量は、グリース全量の1〜10質量%である。
また、グリース組成物には、必要に応じて酸化防止剤、防錆剤、金属腐食防止剤、油性剤、極圧剤、固体潤滑剤等の添加剤を含有することができる。これらは何れも公知のもので構わず、その添加量も従来と同様である。
グリース組成物の混和ちょう度は、後述する電動パワーステアリング装置の安定作動を考慮すると、200〜300、好ましくは240〜295とする。混和ちょう度が200未満では硬すぎて流動性に乏しくなり、300を超えると柔らかすぎて漏洩しやすくなり、各種トラブルの原因となる。
本発明のグリース組成物は、珪素化合物を含有することにより、樹脂表面と金属表面との双方に珪素含有膜を形成し、樹脂の摩耗を大幅に低減する。
(電動パワーステアリング装置)
本発明において、電動パワーステアリング装置自体の構成には制限がなく、例えば図1に示す電動パワーステアリング装置を例示することができる。図示される電動パワーステアリング装置において、ステアリングコラム50の出力軸60側には、図2及び図3に示したような減速ギア20をハウジング120に収容して構成されるギアボックスが配設されている。
本発明において、電動パワーステアリング装置自体の構成には制限がなく、例えば図1に示す電動パワーステアリング装置を例示することができる。図示される電動パワーステアリング装置において、ステアリングコラム50の出力軸60側には、図2及び図3に示したような減速ギア20をハウジング120に収容して構成されるギアボックスが配設されている。
また、ステアリングコラム50は中空になっており、ステアリングシャフト70が挿通され、ハウジング120に収納された転がり軸受90、91により回転自在に支承されている。また、ステアリングシャフト70は中空軸であり、トーションバー80を収容している。そして、ステアリングシャフト70の外周面には、ウォームホイール11が設けてあり、このウォームホイール11にウォーム12が噛合してある。また、これらウォームホイール11とウォーム12とからなる減速ギア20には、図2に示したように、電動モータ100が連結されている。
減速ギア20は、図3に示したように、金属製の芯管1の外周に、ポリアミド樹脂やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、あるいはこれらの混合樹脂を含み、その外周端面にギア歯10を形成した樹脂部3を一体化したウォームホイール11と、金属製のウォーム12とから構成される。尚、ウォームホイール11において、金属製芯管1と樹脂部3とを接着剤8により接着してもよく、接着剤8として例えばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤またはトリアジンチオール化合物を用いることができる。
ポリアミド樹脂の中でも吸水性や耐疲労性の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミドMXD6、ポリアミド6I6T、変性ポリアミド6T等が好適に挙げられるが、中でもポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が耐疲労性に優れるため特に好ましい。また、これらポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂と相溶性を有する他の樹脂と混合してもよい。例えば、無水マレイン酸等の酸で変性したポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィンコポリマー、プロピレン−α−オレフィンコポリマー等)が挙げられる。
これら樹脂は単独でも一定以上の耐久性を示し、ウォームホイール11の相手材である金属製のウォーム12の摩耗に対して有利に働き、減速ギアとして十分に機能する。しかしながら、より過酷な使用条件で使用されると、ギア歯10が破損や摩耗することも想定されるため、信頼性をより高めるために、強化材を配合することが好ましい。
補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等が好ましく、上記に挙げた樹脂との接着性を考慮してシランカプッリング剤で表面処理したものが更に好ましい。また、これらの補強材は複数種を組み合わせて使用することができる。衝撃強度を考慮すると、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状物を配合することが好ましく、更にウォ−ム12の損傷を考慮するとウィスカー状物を繊維状物と組み合わせて配合することが好ましい。混合使用する場合の混合比は、繊維状物及びウィスカー状物の種類により異なり、衝撃強度やウォーム12の損傷等を考慮して適宜選択される。これらの補強材は、全体の5〜40重量%、特に10〜30重量%の割合で配合することが好ましい。補強材の配合量が5重量%未満の場合には、機械的強度の改善が少なく好ましくない。補強材の配合量が40重量%を超える場合には、ウォーム12を損傷し易くなり、ウォーム12の摩耗が促進されて減速ギアとしての耐久性が不足する可能性があり好ましくない。
更に、樹脂には、成形時及び使用時の熱による劣化を防止するために、ヨウ化物系熱安定化剤やアミン系酸化防止剤を、それぞれ単独あるいは併用して添加されていてもよい。
そして、上記の如く概略構成される電動パワーステアリング装置のハウジング120の一対の転がり軸受110の間の空間に、ウォーム12とウォームホイール11との両ギア歯間の潤滑のための上記のグリース組成物が充填される(図2参照)。グリース組成物は、上記のように、ウォーム12の表面とウォームホイール11の樹脂製ギア歯10の表面とに珪素含有膜を形成して樹脂製ギア歯10の摩耗を大幅に低減し、電動パワーステアリング装置の長寿命化が図られる。
また、本発明の電動パワーステアリング装置では、減速ギア20として、上記したウォームホイール11及びウォーム12以外にも、図4に示す平歯車、図5に示すはすば歯車、図6に示すかさ歯車、図7に示すハイポイドギア等が可能であり、何れもウォームホイール11を、金属製芯管1の外周に、ポリアミド樹脂組成物からなり、その外周面にギヤ歯10が形成された樹脂部3を、接着剤8を用いるなどして一体化して構成する。
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
(実施例1〜5、比較例1〜2)
40℃における動粘度が68mm2/sのポリα−オレフィン油を基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とし、混和ちょう度が270のベースグリースに、表1に示すように珪素化合物を1質量%となるように添加して試験グリースを調製した。尚、実施例1で用いた二酸化珪素微粒子は、液相法により合成された単分散の二酸化珪素超微粒子に疎水化処理を施してイソプロピルアルコールに分散させたものであり、試験グリースはこの二酸化珪素超微粒子が1質量%となるようにベースグリースに混合した後、イソプロピルアルコールをエバポレータで蒸発させて調製した。また、実施例2で用いた二酸化珪素微粒子は、気相法により合成された固体粉末上の二酸化珪素超微粒子であり、ベースグリースにそのまま添加して試験グリースを調製した。
40℃における動粘度が68mm2/sのポリα−オレフィン油を基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とし、混和ちょう度が270のベースグリースに、表1に示すように珪素化合物を1質量%となるように添加して試験グリースを調製した。尚、実施例1で用いた二酸化珪素微粒子は、液相法により合成された単分散の二酸化珪素超微粒子に疎水化処理を施してイソプロピルアルコールに分散させたものであり、試験グリースはこの二酸化珪素超微粒子が1質量%となるようにベースグリースに混合した後、イソプロピルアルコールをエバポレータで蒸発させて調製した。また、実施例2で用いた二酸化珪素微粒子は、気相法により合成された固体粉末上の二酸化珪素超微粒子であり、ベースグリースにそのまま添加して試験グリースを調製した。
そして、図8に示す摩擦試験機を用いて各試験グリースの樹脂−金属間の摩耗係数を測定した。図示される摩擦試験機は、ガラス繊維を30質量%含有するポリアミド66製の樹脂平板上に試験グリースを塗布し、軸受鋼SUJ2製で直径10mm、幅10mmの円筒コロを所定の垂直荷重を負荷しながらカムにより揺動させ、そのときに摩擦により生ずる水平応力をロードセルで検出し、その出力電圧から摩擦係数を求める構成となっている。測定は、接触最大面圧200MPa、揺動距離30mm、揺動周波数10Hz、試験温度100℃にて行った。結果を、ベースグリース(比較例1)による測定値を1とする相対値にて表1に示す。
表1から、本発明に従い珪素化合物を添加することにより、摩擦係数が大幅に低減することがわかる。
(二酸化珪素微粒子の粒子径の検証)
二酸化珪素微粒子の粒子径を検証するために、実施例1に準じて液相法にて粒子径の異なる二酸化珪素微粒子を作製し、試験グリースを調製した。そして、各試験グリースについて、上記と同条件にて摩擦係数を測定した。結果を図9に示すが、同様にベースグリースによる測定値を1とする相対値で示してある。
二酸化珪素微粒子の粒子径を検証するために、実施例1に準じて液相法にて粒子径の異なる二酸化珪素微粒子を作製し、試験グリースを調製した。そして、各試験グリースについて、上記と同条件にて摩擦係数を測定した。結果を図9に示すが、同様にベースグリースによる測定値を1とする相対値で示してある。
また、各試験グリースについて、耐摩耗性の評価を行った。評価方法は、クロスローレット加工を施し、脱脂した外径45mm、幅13mmのS45C製の芯管をスプルー及びディスクゲートを装着した金型に配置し、ガラス繊維を30質量%含有するポリアミド66(宇部興産(株)製「UBEナイロン2020GU6」、銅系添加剤含有)を射出成形して外径60mm、幅13mmのウォームホイールブランク材とし、次いで樹脂部の外周を切削加工してギア歯を形成して図3に示す形状のウォームホイール試験体を作製した。そして、ウォームホイール試験体を実際の電動パワーステアリング装置の減速ギアに組み込み、調製した試験グリースをウォームホイールのギア歯表面及びウォームのギア歯表面に満遍なく塗布し、雰囲気温度120℃に維持して操蛇を行い、20万回操蛇後のギア歯の摩耗量を測定した。結果を図9に示すが、同様にベースグリースによる測定値を1とする相対値で示してある。
図9から、一次粒径が100nmであれば摩擦係数及び摩耗量が低減することがわかる。特に50nm以下がより効果的である。
(珪素化合物の含有量の検証)
珪素化合物の含有量を検証するために、実施例4に従いアルコール変性シリコーンの添加量を変えて試験グリースを調製した。そして、各試験グリースについて、上記と同条件にて摩擦係数を測定した。結果を図10に示すが、同様にベースグリースによる測定値を1とする相対値で示してある。
珪素化合物の含有量を検証するために、実施例4に従いアルコール変性シリコーンの添加量を変えて試験グリースを調製した。そして、各試験グリースについて、上記と同条件にて摩擦係数を測定した。結果を図10に示すが、同様にベースグリースによる測定値を1とする相対値で示してある。
図10から、珪素化合物の含有量がグリース全量の0.1〜10質量%とすることにより、摩擦係数及び摩耗量が低減することがわかる。特に、0.5〜5質量%がより効果的である。
(基油における非極性潤滑油の配合量の検証)
基油における非極性潤滑油の配合量を検証するために、ポリα−オレフィン油(30mm2/s、40℃)と、ポリオールエステル油(30mm2/s、40℃)とを配合比を変えて混合して基油とし、ジウレア化合物を一定量ずつ配合して試験グリースを調製した。そして、各試験グリースに、エチレンアクリルゴム製円板(直径10mm、厚さ5mm)を浸漬し、100℃の恒温槽内に100時間放置した。放置後にエチレンアクリルゴム製円板の厚みを測定し、浸漬前との変化率を求めた。結果を図11に示すが、ポリα−オレフィン油の割合が80質量%以上であれば、寸法変化率を30%以下に抑えられ、エチレンアクリルゴムへの影響をほぼ無視でき好ましいことがわかる。
基油における非極性潤滑油の配合量を検証するために、ポリα−オレフィン油(30mm2/s、40℃)と、ポリオールエステル油(30mm2/s、40℃)とを配合比を変えて混合して基油とし、ジウレア化合物を一定量ずつ配合して試験グリースを調製した。そして、各試験グリースに、エチレンアクリルゴム製円板(直径10mm、厚さ5mm)を浸漬し、100℃の恒温槽内に100時間放置した。放置後にエチレンアクリルゴム製円板の厚みを測定し、浸漬前との変化率を求めた。結果を図11に示すが、ポリα−オレフィン油の割合が80質量%以上であれば、寸法変化率を30%以下に抑えられ、エチレンアクリルゴムへの影響をほぼ無視でき好ましいことがわかる。
1 芯管
3 樹脂部
8 接着層
10 ギア歯
11 ウォームホイール
12 ウォーム
20 減速ギア
50 ステリングコラム
70 ステアリングシャフト
80 トーションバー
90 軸受
91 軸受
100 電動モータ
110 転がり軸受
120 ハウジング
130 ダンパー
3 樹脂部
8 接着層
10 ギア歯
11 ウォームホイール
12 ウォーム
20 減速ギア
50 ステリングコラム
70 ステアリングシャフト
80 トーションバー
90 軸受
91 軸受
100 電動モータ
110 転がり軸受
120 ハウジング
130 ダンパー
Claims (9)
- 少なくとも一方が樹脂製で、接触状態で相対運動する2つの物体の間の潤滑を行う潤滑剤であって、珪素化合物を含有することを特徴とする潤滑剤。
- 珪素化合物が疎水性であるか、分子構造中に疎水基を有することを特徴とする請求項1記載の潤滑剤。
- 珪素化合物として二酸化珪素微粒子、有機シリコーン化合物、アルコキシシラン、クロロシラン、シラザン及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1種を潤滑剤全量の0.1〜10質量%含有することを特徴とする請求項2記載の潤滑剤。
- 二酸化珪素微粒子が、一次粒径で100nm以下であることを特徴とする請求項3記載の潤滑剤。
- 潤滑油が、非極性の潤滑油を潤滑油全量の80質量%以上含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の潤滑剤。
- 非極性の潤滑油が、合成炭化水素油及び鉱油から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5記載の潤滑剤。
- 請求項1〜6の何れか1項に記載の潤滑剤に、増ちょう剤として金属石けん及びウレア化合物の少なくとも1種を配合してなることを特徴とする樹脂潤滑用グリース組成物。
- 非極性ワックス及び極性ワックスの少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項7記載の樹脂潤滑用グリース組成物。
- 電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置であって、前記減速歯車機構の従動歯車が、外周面にギア歯が形成された樹脂部を設けてなり、かつ、請求項7または8に記載のグリース組成物により潤滑されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003301401A JP2005068316A (ja) | 2003-08-26 | 2003-08-26 | 潤滑剤、樹脂潤滑用グリース組成物及び電動パワーステアリング装置 |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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-
2003
- 2003-08-26 JP JP2003301401A patent/JP2005068316A/ja not_active Withdrawn
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