JP2005064009A - フェライト磁石粉末およびその製造方法、並びにこのフェライト磁石粉末を用いたボンド磁石 - Google Patents
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Abstract
【課題】化学量論組成よりもFe2O3過剰の組成領域でも優れた磁石特性を有する安価な磁石粉末およびその製造方法を提供し、さらにその磁石粉末を用いて特性の優れた安価なボンド磁石を提供する。
【解決手段】式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]で表されるマグネトプランバイト型結晶構造の相がモル比で80%以上を占め、平均粉体粒径が0.5〜3.0μmであるフェライト磁石粉末であって、この式において、AはBaおよびSrから選択される少なくとも一種であり、Rは希土類元素から選択される少なくとも一種であり、x,yおよびnはモル比を表し、それぞれが、0<x≦0.6、0<y≦0.05、6.0<n≦6.6の範囲にある構成とし焼結時、前記式で表されるマグネトプランバイトの相がモル比で80%以上生成するように還元性雰囲気に制御する。この磁性粉末を使ってボンド磁石を作製する。
【選択図】なし
【解決手段】式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]で表されるマグネトプランバイト型結晶構造の相がモル比で80%以上を占め、平均粉体粒径が0.5〜3.0μmであるフェライト磁石粉末であって、この式において、AはBaおよびSrから選択される少なくとも一種であり、Rは希土類元素から選択される少なくとも一種であり、x,yおよびnはモル比を表し、それぞれが、0<x≦0.6、0<y≦0.05、6.0<n≦6.6の範囲にある構成とし焼結時、前記式で表されるマグネトプランバイトの相がモル比で80%以上生成するように還元性雰囲気に制御する。この磁性粉末を使ってボンド磁石を作製する。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、マグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト磁石粉末、およびその製造方法、並びにこのフェライト磁石粉末を用いたプラスチック磁石やゴム磁石などのボンド磁石に関する。
【0002】
【従来の技術】
フェライト磁石は様々な産業分野において使用されており、特に、最近の自動車の電装化およびIT化は、自動車部品用磁石の需要を増大させている。自動車部品に磁石を用いる場合は、部品の小型化、軽量化という命題が避けられないため、磁石特性に優れた磁石の使用が必要不可欠となり、例えば各種電装用モータに使用されるフェライト磁石についても磁石特性のより一層の向上が求められている。
【0003】
磁石特性に優れたフェライト磁石としては、マグネトプランバイト型(以下、M型と呼ぶ)結晶構造を有するものが従来より知られている。そして、このM型フェライト磁石に関する研究も数多く為されているが、現在実用化されているものは、式BaO・nFe2O3で表されるBaフェライト磁石、並びに式SrO・nFe2O3で表されるSrフェライト磁石の二種類がある(各式中、nはAOに対するFe2O3のモル比を表す。以下BaとSrをあわせてAと記載する)。
【0004】
これらフェライト磁石粉末に10mass%程度のプラスチックまたはゴムの結合材と、必要に応じて可塑剤等を混合したうえで、例えばシート状に圧延したり、リング状に圧縮成形したり、任意形状に成形してボンド磁石とすることができる。熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いた場合はプラスチック磁石、ゴムを用いた場合はゴム磁石と呼ばれ、これらを総称してボンド磁石と呼ばれる。ボンド磁石は耐薬品性に優れている他、種々の金型を用いて加工することができるので寸法精度の高いマグネットを得ることができる。加工は圧縮成型法、射出成型法、押出し成型法、ロール成型法などが用いられるが、その特徴を活かして用途も広がっており、モータ用、医療用、表示用、玩具用、印字装置のマグネットロールや電波吸収材の一部にも用いられている。なお、磁石粉末はボンド磁石用材料として用いられる他、磁気記録材料、光磁気記録材料などの記録材料としての用途もある。
【0005】
上記したAO・nFe2O3で表されるM型フェライトにおいて、M相を構成する成分中のAOに対するFe2O3のモル比n(n=Fe2O3/AO)の化学量論組成は6.0であるが、現在量産されているものは、化学量論組成よりも遥かにAOが過剰である組成領域、例えばnが5.2ないし5.6程度の組成領域が選択されている。この選択範囲よりもFe2O3が多い組成領域ほど焼結性に乏しいことが知られている。磁石の残留磁束密度を高めるためには、nの値を大きくすることが好ましい。しかしながら、上記したよりもFe2O3が多い組成領域の磁石を作製しようとすれば、焼結温度を高く設定しなければならず、著しい結晶成長を伴ってしまう。これは磁石特性の内、保磁力の大幅な低下を招く。
【0006】
また、磁石特性を向上させるため、あるいは焼結性を改善するために、例えばSiO2、CaCO3、Al2O3、Cr2O3等の添加物を1〜3mass%程度加えることも多い。
【0007】
上記(n=5.2〜5.6)のようなAO過剰の組成領域では、当然のことながら原料となる高価なACO3が多量に必要となり、その分原材料の価格が高くなるため工業上問題が大きい。逆に、Fe2O3組成を大きくすればするほど残留磁束密度を大きくできる可能性があるが、上述した焼結性の問題がある。
【0008】
高性能な磁石を得たい場合、保磁力、残留磁束密度とも大きくする必要があり、焼結密度を上げること、均一で微細な結晶粒を得ることが重要になる。高い焼結密度を得るためには高温で焼結する必要があるが、その場合、結晶粒が成長してしまうため、この方法は現実的でない。上述したように、焼結性を改善するために、例えばSiO2、CaCO3、Al2O3、Cr2O3等の添加物が使用されている。この他、同じく焼結性を改善するために、希土類元素の酸化物を添加するという報告(例えば、特許文献1参照)もある。
【0009】
さらに磁気異方性を大きくする目的で、希土類元素だけでなく同時にコバルトを添加した磁気記録材料が報告されている(例えば、特許文献2参照)。希土類元素の添加は焼結性を向上させるものの、希土類元素には+3価のイオンとなるものが多く、これらがM相中のA2+サイトに固溶してM相中のイオンバランスを崩す原因となる。しかしながら、M相中のFe3+サイトにCo2+を固溶させることにより、前記イオンバランスの崩れを軽減してM相を安定化させることも可能となった。その後、同様にLaとCoを添加したフェライト磁石および磁気記録材料の出願が権利化されている(例えば、特許文献3および特許文献4参照)。しかしながら、高価なコバルトを併用しているため原材料の価格はさらに高くなってしまう。膜として使用する磁気記録材料はともかく、バルクとして使用する磁石の場合、工業上問題である。
【0010】
これに対して本願発明者は、Fe2O3過剰の組成領域であっても、希土類元素とMgを少量添加すると共に雰囲気酸素濃度を制御して焼結することによって、一般的に選択されている焼結温度にて十分に焼結が進行し、M型結晶構造単相の均一微細な結晶が得られることを見出した。そして特許文献5および特許文献6に明らかにした。Co等高価な元素を添加しなくても、希土類イオンと電気的なバランスを保て、優れた磁石特性が実現できる。
【0011】
上述したM型フェライト磁石の他、AOとFe2O3の混合比で、n=6よりもはるかに多くFe2O3を混ぜて大気中、あるいは酸素濃度を低くした還元雰囲気中で焼結すると、W型、U型、X型、Y型およびZ型という、M型と同じく六方晶系の結晶構造をとり得ることが一般的に知られている。これらの内、式AFe2+ 2Fe3+ 16O27で表されるW型は、良好な磁石特性を示す可能性が指摘され(例えば、特許文献7参照)、近年、このW型フェライト磁石に関する研究もなされるようになってきている。ここで、非化学量論組成にて表記すると、AO・2(FeO)・n’(Fe2O3)と表すことができ、モル比:n’は8前後が選択される(n’=8の場合が化学量論組成である)。M型フェライトに比べて飽和磁束密度がおおよそ10%高いことが知られているが、逆に保磁力が低いことも事実である。また、W型の単一相にすることが非常に難しく、未だに実用化されていないのが実状である。このように、非常に不安定で単一相にできないため、W型フェライトの主相に、副相としてM型フェライトを5〜30%含んだ磁気記録媒体も提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0012】
【特許文献1】
特公昭29−5139号公報
【特許文献2】
特開昭60−063715号公報
【特許文献3】
特開平10−149910号公報
【特許文献4】
特開平11−154604号公報
【特許文献5】
特願2003−083321号
【特許文献6】
特願2003−099433号
【特許文献7】
特開平9−260124号公報
【特許文献8】
特開平2−249127号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、現在、M型フェライトはAOに対するFe2O3のモル比nが5.2ないし5.6程度の組成領域にて量産されている。これよりもnが大きい領域から化学量論組成であるn=6.0付近になると、フェライト磁石の焼結性が著しく低下するためである。さらには、n>6となる組成領域では、マグネトプランバイト相の単相にはならないと一般的にいわれている。
【0014】
例えば、モル比nが5.6よりも大きい組成領域を選択し、通常に用いられている温度(1150℃程度)で焼成焼結すると、十分に焼結密度を上げることは難しい。さらに、モル比nが6.0よりも大きい組成領域を選択すれば、フェライト磁石中にFe2O3相等の異相が残留し、十分な磁石特性を得ることはできない。他方、低い焼結性を補うために高温で焼成焼結すると、焼結密度は高くなるものの、結晶粒が大きく成長して磁石特性の低下を招いてしまう。従って、従来のBaフェライト磁石やSrフェライト磁石では、化学量論組成よりも遥かにAOが過剰である組成領域、例えばnが5.2ないし5.6程度の組成領域で生産されている。すなわち、従来一般のフェライト磁石は、高価なAOを過剰に含む組成となっており、その分、製造原価が高くなるという問題があった。
【0015】
また、コバルトを添加したフェライト磁石は、その磁石特性については比較的良好であるけれども、材料として高価なコバルトを使用するため製造原価が高騰する。また、その資源も地域による偏りが大きく、安定供給に対する不安はぬぐいきれない。
【0016】
本発明は上記のような従来技術の現状を考慮して為されたものであり、その課題は、化学量論組成よりもFe2O3過剰の組成領域でも良好な磁石特性を有する、安価なフェライト磁石粉末を提供するとともに、そのためのフェライト磁石粉末の製造方法並びにこのフェライト磁石粉末を用いたプラスチック磁石やゴム磁石などのボンド磁石を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記したように、本願発明者は、従来一般のBaフェライトやSrフェライトよりも著しく高い残留磁束密度を得るためFe2O3過剰の組成領域を選択し、かつ、希土類元素を少量添加すると共に雰囲気酸素濃度を制御して焼結することで、優れた磁石特性を示すM型単相のフェライト磁石を実現した。その後、さらに鋭意研究を行った結果、以下の結論に至った。
【0018】
磁石特性のうち高い保磁力を実現するには、主相であるマグネトプランバイト相(M相)が100%占めることが好ましい。ただし、M相の単相が得られなくとも、M相が大部分であって、残りの異相をW型フェライト相がその多くを占めた場合、保磁力が低下しないことを新たに見出した。さらには、残りの異相がマグネタイトである場合においても十分な保持力が得られた。特に異相がW型相の場合は残留磁束密度が高いために、M型単相の場合よりもわずかではあるが残留磁束密度が高くなることも新たに見出した。したがって、該M相はモル比で80%まで許容することができる。ただし、M相と、主にW相あるいはマグネタイトから成る副相とは、共に平均結晶粒径が1.6μm以下の均一微細な結晶粒で、かつ均一に分散した組織になっていることが好ましい。また、異相としてX型フェライト、Y型フェライト、Z型フェライト、およびFe2O3等が多く生成した場合には、磁石特性が低下してしまう。したがって、そうはならないように秤量組成、仮焼時の雰囲気酸素濃度、微粉砕粒径、ならびに焼結時の雰囲気酸素濃度は、いずれも厳密に制御する必要がある。
【0019】
焼結磁石の場合とは異なり、ボンド磁石に供する磁石粉末を考えた場合、粉末の焼成(焼結磁石でいうところの仮焼に相当。以下焼成と称す。)においてM相がモル比で80%以上を占める粉末とし、優れた磁石特性を得る必要がある。したがって、本発明のフェライト磁石粉末を得るためには、焼成時の雰囲気酸素濃度を厳密に制御しなければならない。また、焼成後、粉体粒径の粒度分布を調整する工程も重要になる。焼結磁石に供する場合、焼成粉の粉体粒径は0.5μmかそれ以下で、かつ均一な粒径である必要がある。これに対して、ボンド磁石に供する場合、おおよそ0.5〜3.0μm程度、好ましくは1.0〜2.0μmの平均粉体粒径で、かつ粒度分布はある程度の広がりが必要である。なお本発明において、粉体粒径とは粉砕後の一次粒子の粒径を示すもので、いわゆる空気透過法により測定される粒径の値で示される。
【0020】
また、粒径を調整する際に加えられる機械的な衝撃力により残留応力や格子歪が残る。これらを取り除くため、500〜1000℃程度の温度で焼鈍すると磁石特性が改善される。ただし、焼鈍を行なう場合には、酸化還元反応が伴わないように、雰囲気酸素濃度を制御して行なう必要がある。
【0021】
本発明は、上記した知見に基づいてなされたもので、本発明に係るフェライト磁石粉末は、式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]で表されるマグネトプランバイト型結晶構造の相がモル比で80%以上を占め、平均粉体粒径が0.5〜3.0μmであることを特徴とする。なおこの式において、AはBaおよびSrから選択される少なくとも一種であり、Rは希土類元素から選択される少なくとも一種であり、x,yおよびnはモル比を表し、それぞれが、0<x≦0.6、0<y≦0.05、6.0<n≦6.6の範囲にある。
【0022】
さらに副相は、式AFe2+ 2Fe3+ 16O27で表されるW型フェライト相であってもよく、マグネタイト相であってもよい。
【0023】
なおM相と混在するW相は、一般的には上述したようにAFe2+ 2Fe3+ 16O27で表せられる。しかしながら実際には非化学量論組成にて表記してAO・2(FeO)・n’(Fe2O3)と表すことができ、モル比n’は8前後の値がとり得る。そしてn’=7の場合が化学量論組成で表記したAFe2+ 2Fe3+ 16O27となる。したがって本願でいう、M相と混在するW相は、O・2(FeO)・n’(Fe2O3)と表記した場合、モル比n’は8程度の値であればよい。ここで、このW型フェライトの結晶構造中のFe2+が占有するサイトの一部にMg2+が置換してもかまわない。また、このときのn’の値は、Fe2O3とAOの組成と、焼成時の雰囲気酸素濃度によって決まる。
【0024】
また、本願でいうマグネタイトとは一般式Fe3O4で表せられる。
【0025】
このように構成したフェライト磁石粉末においては、Fe2O3過剰の組成領域であってもM型フェライト相の単相が得られる(特許文献5および特許文献6参照)。あるいは、式(A1−Rx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]換算でnが6よりも多くなるように(6.6よりも多くなるようにしてもかまわない)各原料粉末を秤量、混合、焼成したとする。このとき、組成と混合条件、焼成時の雰囲気酸素濃度等の製造方法を最適化することによって、6.0<n≦6.6の範囲にある式(A1−xR)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]で表されるM相(主相)と、このM相より著しくFe2O3の比率の高いW相、あるいはマグネタイト相(副相)とが得られる。このうちM型フェライト相の主相とW型フェライト相の副相とが均一微細(好ましくは、1.6μm以下)に混合した結晶組織が得られた場合、M型フェライト単相の場合と比較して、保磁力はほとんど低下せず、逆に、わずかではあるが残留磁束密度は高くなる。また、副相がマグネタイトである場合でも十分に高い保持力が得られる。しかも、Fe2O3過剰の組成領域となっているので、高価なSr、Co原料の使用量が可及的に削減する。
【0026】
また、本発明に係るフェライト磁石の製造方法は、ACO3、Fe2O3、R2O3ならびにMgOの各原料粉末を秤量、混合し、還元性雰囲気下で焼成することにより、式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]で表されるマグネトプランバイト型結晶構造の相がモル比で80%以上を占める粉末とし、さらに平均粉体粒径を0.5〜3.0μmに調整することを特徴とする。なおこの式において、AはBaおよびSrから選択される少なくとも一種であり、Rは希土類元素から選択される少なくとも一種であり、x、yおよびnはモル比を表し、それぞれが、0<x≦0.6、0<y≦0.05、6.0<n≦6.6の範囲にある。
【0027】
このような製造方法とすることにより、含有しているMg2+と、+3価の希土類元素イオンとによって、M型結晶構造中のイオンバランスが保たれる。
【0028】
また、上記のフェライト磁石粉末の製造方法において、平均粉体粒径を0.5〜3.0μmに調整した後、さらに還元性雰囲気下で焼鈍してもよい。このように平均粉体粒径を調整した後、焼鈍工程を経ることにより、粒径を調整する際に加えられる機械的な衝撃力によって生ずる残留応力や格子歪を取り除くことができ、磁石特性が改善される。ただし、焼鈍を行う場合には、酸化還元反応が伴わないように雰囲気酸素濃度を制御して行う必要がある。
【0029】
また、上記製造方法において、2ny=xとなるようにR2O3量とMgO量を含有させてもよい。これは加えるR2O3量と、MgO量を制御することでM型結晶構造中のイオンバランスが完全に保たれ、結晶構造の安定性という意味においても、磁石特性上においても最も好ましい。
【0030】
また、上記フェライト磁石粉末の製造方法において、式AFe2+ 2Fe3+ 16O27で表されるW型フェライト相を副相として生成させてもよく、マグネタイト相を副相として生成させてもよい。
【0031】
このようにして得られたフェライト磁石粉末を使用してボンド磁石を作成してもよい。これにより、コスト面および特性において特徴あるボンド磁石を得ることができる。
【0032】
本発明のフェライト磁石粉末は、AOに対するFe2O3のモル比nが化学量論組成(n=6)よりも大きく、Fe2O3過剰の組成領域となっている。このようにnを化学量論組成である6よりも大きく設定したのは、高い残留磁束密度を得るためである。ただし、nが6.6よりも大きくなると、希土類元素の添加および焼結時の雰囲気酸素濃度の制御によっても、Fe2O3やAO相等が残留しやすくなり、結果として保磁力が低下してしまう。他方、nが6.0以下の場合には、高い残留磁束密度が得られる効果が小さく、また、過剰のバリウム原料およびストロンチウム原料を必要として磁石の原料価格が高くなる。したがって、このnを上記した範囲、6.0<n≦6.6に設定することにより、高い残留磁束密度と高い保磁力とを確保することができる。
【0033】
本発明のフェライト磁石粉末において、希土類元素であるRは、焼結性を向上させるために役立つ。これらの希土類元素Rは、多すぎると電気的なイオンバランスが崩れてしまうので、その含有量は、モル比で上記した範囲、0<x≦0.6とする。これらの希土類元素としては例えばCe、La、Nd等である。
【0034】
本発明のフェライト磁石粉末は、希土類元素から選択されるRとのイオンバランスを保つためにMg2+を含有し、これは磁石特性の向上にも役立つ。上記した希土類元素の含有量と対応させる必要があり、0<x≦0.05とする。ところで、Mg2+は従来イオンバランスを保つために使用されていたコバルトよりも安価であり、フェライト磁石の原料価格を高騰させることはない。
【0035】
また、本フェライト磁石は、SiO2:0.01〜0.5mass%、CaCO3:0.01〜1.0mass%、Al2O3:0.01〜2.0mass%、Cr2O3:0.01〜2.0mass%のうちの少なくとも一種をさらに含有する構成としてもよい。これら成分は、いずれも磁石特性の向上ならびに焼結性の改善に寄与することが従来より知られており、これら成分の微量添加により、磁石特性のより一層の向上ならびに焼結性のより一層の改善を図ることができる
【0036】
本発明のフェライト磁石粉末の製造方法は、焼成後の粉末の平均粉体粒径を0.5〜3.0μm、好ましくは1.0〜2.0μmに調整する。最適な粉体粒径や粒度分布は、その磁石粉末が用いられるボンド磁石に求められる特性が、混合粉の流動性、保磁力、あるいは残留磁束密度なのかによって異なる。焼結磁石に供する場合は、粉末の粒度分布は狭い方が良い。しかしながら、ボンド磁石に供する場合、磁粉の流動性を確保するためにも、嵩密度を上げやすくするためにも、粒度分布に一定の広がりをもたせる必要がある。
【0037】
本発明のフェライト磁石粉末を製造するには、酸化鉄、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、希土類酸化物等の原料粉末を秤量した後、均一に混合する。そして、この混合粉末を雰囲気酸素濃度を制御して焼成する。最後に、平均粉体粒径を0.5〜3.0μmに調整する。
【0038】
本発明の磁石を構成するM相は、式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]において、6.0<n≦6.6の範囲である。しかしながら、n>6.6となるように、各原料粉末を秤量してもよい。例えば、n=6.7となるように秤量して、本発明の磁石の製造方法にて作製した場合、例えばn=6.6の上記式で表されるM相(主相)が90%、AFe2+ 2Fe3+ 16O27 で表されるW相(副相)が10%からなる混合結晶組織が生成する。M相におけるnの値は焼結時における各金属イオンの拡散速度、焼結温度や冷却速度、あるいは雰囲気酸素濃度にも依存する。したがって、これらの製造条件の違いにより、例えばn=6.6の上記式で表されるM相(主相)が80%以上、AFe2+ 2Fe3+ 16O27 で表されるW相(副相)もしくはFe3O4で表されるマグネタイト相が20%以下からなる混合結晶組織が生成することもある。
【0039】
本発明のフェライト磁石粉末においては、酸化鉄の原料粉末は純粋な酸化鉄の粉末の他、製鉄所における鋼板の酸洗い工程にて排出される鉄錆びを回収した酸化鉄粉末を使用することができる。この回収した酸化鉄粉末中には酸化鉄以外の成分として、Ca、Si、Cl、S、P等が存在する。これらの成分の大半は、フェライト磁石製造の際の焼成工程での加熱により燃焼、飛散するが、フェライト磁石粉末中に微量残留する。他方、Feと格子定数の近いMn、Cr、Ni、Co、V等は、製鉄所の精錬工程を経た後においても鉄鋼中に含まれており、したがって、これら元素もまた、酸化鉄原料経由でフェライト磁石粉末中に混入してくる。しかし、前記した元素のうちMn、Cr等の元素は微量であればフェライト磁石中に存在しても問題がなく、一方、CaおよびSiについては、磁石特性の向上のため、上記したように積極的に活用することができる。
【0040】
希土類元素の原料としてミッシュメタルを使用してもかまわない。ミッシュメタルは、希土類元素の混合物であって、例えばCe(40〜50mass%)、La(20〜40mass%)、Pr、Nd等を含有している。希土類元素はその地殻中での存在率が低いだけでなく、ランタノイドやアクチノイド等は互いの化学的性質が類似しているために分離精製が困難であり、分離精製に要する費用も高い。ミッシュメタルを用いれば、原料費用を大幅に低減できる。
【0041】
本発明のフェライト磁石粉末の焼結を行う際の温度は1000〜1400℃の範囲で選択することができる。上記したように雰囲気酸素濃度を厳密に制御して、Fe2+の生成量を制御する。雰囲気酸素濃度の制御は、窒素ガス、窒素と水素との混合ガス等を流して行うことができる。
【0042】
上記焼成後、平均粉体粒径を0.5〜3.0μmに調整する為に、ローラーミルや振動ミル、アトライター等を用いて粉砕することができる。より好ましくは1.0〜2.0μmの平均粉体粒径に調整した方がよい。乾式粉砕しても、湿式粉砕してもかまわない。ただし、磁石粉末やこれをボンド磁石とした場合に求められる特性により、最適な平均粉体粒径とその粒度分布も異なってくる。
【0043】
平均粉体粒径を調整する際に機械的な衝撃が加わるため、結晶粒に残留応力や格子歪が残る。したがって、必要に応じてこの残留応力や格子歪を取り除くために、500〜1000℃程度の温度で焼鈍することができる。ただし、焼鈍を行う場合には、酸化還元反応が伴わないように、雰囲気酸素濃度を制御して行なう必要がある。
【0044】
本発明のフェライト磁石粉末を磁性体とし、プラスチックあるいはゴムをバインダーとした、いわゆるボンド磁石を作製するには公知の製造方法によることができる。すなわちあらかじめ表面をシランカップリング剤などで親油処理したフェライト磁石粉末をプラスチックやゴムなどのバインダーと混合し、これを例えば加熱溶融しながら射出成型することにより任意の形状のボンド磁石成型体を得ることができる。また、同じく加熱溶融した磁性体とバインダーを特定形状のノズルから押出すことにより連続した押出し成型体を得る。またノズルに代えてカレンダーロールの間を通すことにより連続したシート状の成型体を得る。これらの成型時に特定方向に磁場を印加することも行われており異方性のボンド磁石を得ることもできる。各成型時の加熱温度などの設定条件は主に樹脂やゴムの材料特性に合わせて決められる。
【0045】
【発明の実施の形態】
【実施例1】
所定量のACO3、Fe2O3、MgO、希土類元素の酸化物の各原料粉末を配合し、湿式にて混合した。この混合粉を乾燥させた後、1200℃で2時間、大気中または窒素流入により雰囲気酸素濃度を制御して還元性とした雰囲気中で焼成した。アトライターを用いて平均粉体粒径が1.0μmになるまで粉砕し、実施例1〜4と比較例1〜3のフェライト磁石粉末を作製した。また、さらに700℃で2時間、窒素流入により雰囲気酸素濃度を制御して還元性とした雰囲気中で焼鈍し、実施例5のフェライト磁石粉末を作製した。
【0046】
得られたフェライト磁石粉末について、蛍光X線法にて前記式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]中のx、y、およびnを求めた。併せて、X線回折法にて主相のモル比を求めるともに、副相が存在した場合、それを同定した。次いで、得られたフェライト磁石粉末をワックスに固定して、残留磁束密度Brおよび保磁力Hcjを磁気磁束計によって測定した。表1に結果を示す。(表中「制御」とあるのは還元性雰囲気にて焼成したことを意味する。)
【0047】
【表1】
【0048】
表1より、本発明のフェライト磁石粉末(実施例1〜5)はいずれも、添加した希土類元素と加えたMg2+とが電気的にバランスしている。また、厳密に雰囲気酸素濃度を制御して焼成を行ったため、十分に焼結が進行している。この結果、主相のモル比が80%以上で、残りはW型フェライト相もしくはマグネタイト相である。Fe2O3等の未反応相は確認されない。したがって、残留磁束密度および保磁力ともに、優れた値が得られた。
【0049】
これに対して、比較例1のフェライト磁石粉末は、大気中で焼成焼結したことにより多量の非磁性相が形成され、Mg2+を含有しないために主相中のイオンバランスが崩れている。また、比較例2は、Ce等の希土類イオンを含有しない。さらに比較例3は、AOに対するFe2O3のモル比nが大きすぎる。これらのことより、比較例1〜3はいずれも、Fe2O3等の未反応相が残留しているとともに、残留磁束密度および保磁力ともに本発明のフェライト磁石粉末に比べて低い。また、残留磁束密度が低いことから、焼結が不十分であることがわかる。
【0050】
【実施例2】
実施例1にて得られた磁石粉末を0.1mass%のシランカップリング剤で表面処理したものに対して、10mass%のナイロンを混合して、800kA/mの磁界中で射出成形した。
【0051】
そして、得られた成形品の最大磁気エネルギー積BHmax、残留磁束密度Br、および保磁力Hcjを磁気磁束計によって測定した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
【実施例3】
実施例1にて得られた磁石粉末を0.1mass%のシランカップリング剤で表面処理したものに対して、10mass%のイソプロピレンゴムを混合した後、ロール圧延機を用いて、150℃の温度にて厚さ1.0mmのシート状の異方性磁石を得た。
【0054】
そして、シート状の異方性磁石を測定可能な形状に切り出した後、最大磁気エネルギー積BHmax、残留磁束密度Br、および保磁力Hcjを磁気磁束計によって測定した。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
このように、本発明の磁石粉末を用いることにより、最大磁気エネルギー積BHmax、残留磁束密度Br、および保磁力Hcjに優れた特性を有するボンド磁石を得ることができた。
【0057】
【発明の効果】
本発明のフェライト磁石粉末およびその製造方法によれば、化学論組成よりも過剰の組成領域(6.0<n≦6.6)でも極めて優れた磁石特性が得られ、高価なBaCO3やSrCO3の使用を削減できる分、製造原価の低減ができる。また、本発明のフェライト磁石粉末を用いたボンド磁石も同様に優れた特性を有し、低コストで作製することができる。
【発明が属する技術分野】
本発明は、マグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト磁石粉末、およびその製造方法、並びにこのフェライト磁石粉末を用いたプラスチック磁石やゴム磁石などのボンド磁石に関する。
【0002】
【従来の技術】
フェライト磁石は様々な産業分野において使用されており、特に、最近の自動車の電装化およびIT化は、自動車部品用磁石の需要を増大させている。自動車部品に磁石を用いる場合は、部品の小型化、軽量化という命題が避けられないため、磁石特性に優れた磁石の使用が必要不可欠となり、例えば各種電装用モータに使用されるフェライト磁石についても磁石特性のより一層の向上が求められている。
【0003】
磁石特性に優れたフェライト磁石としては、マグネトプランバイト型(以下、M型と呼ぶ)結晶構造を有するものが従来より知られている。そして、このM型フェライト磁石に関する研究も数多く為されているが、現在実用化されているものは、式BaO・nFe2O3で表されるBaフェライト磁石、並びに式SrO・nFe2O3で表されるSrフェライト磁石の二種類がある(各式中、nはAOに対するFe2O3のモル比を表す。以下BaとSrをあわせてAと記載する)。
【0004】
これらフェライト磁石粉末に10mass%程度のプラスチックまたはゴムの結合材と、必要に応じて可塑剤等を混合したうえで、例えばシート状に圧延したり、リング状に圧縮成形したり、任意形状に成形してボンド磁石とすることができる。熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いた場合はプラスチック磁石、ゴムを用いた場合はゴム磁石と呼ばれ、これらを総称してボンド磁石と呼ばれる。ボンド磁石は耐薬品性に優れている他、種々の金型を用いて加工することができるので寸法精度の高いマグネットを得ることができる。加工は圧縮成型法、射出成型法、押出し成型法、ロール成型法などが用いられるが、その特徴を活かして用途も広がっており、モータ用、医療用、表示用、玩具用、印字装置のマグネットロールや電波吸収材の一部にも用いられている。なお、磁石粉末はボンド磁石用材料として用いられる他、磁気記録材料、光磁気記録材料などの記録材料としての用途もある。
【0005】
上記したAO・nFe2O3で表されるM型フェライトにおいて、M相を構成する成分中のAOに対するFe2O3のモル比n(n=Fe2O3/AO)の化学量論組成は6.0であるが、現在量産されているものは、化学量論組成よりも遥かにAOが過剰である組成領域、例えばnが5.2ないし5.6程度の組成領域が選択されている。この選択範囲よりもFe2O3が多い組成領域ほど焼結性に乏しいことが知られている。磁石の残留磁束密度を高めるためには、nの値を大きくすることが好ましい。しかしながら、上記したよりもFe2O3が多い組成領域の磁石を作製しようとすれば、焼結温度を高く設定しなければならず、著しい結晶成長を伴ってしまう。これは磁石特性の内、保磁力の大幅な低下を招く。
【0006】
また、磁石特性を向上させるため、あるいは焼結性を改善するために、例えばSiO2、CaCO3、Al2O3、Cr2O3等の添加物を1〜3mass%程度加えることも多い。
【0007】
上記(n=5.2〜5.6)のようなAO過剰の組成領域では、当然のことながら原料となる高価なACO3が多量に必要となり、その分原材料の価格が高くなるため工業上問題が大きい。逆に、Fe2O3組成を大きくすればするほど残留磁束密度を大きくできる可能性があるが、上述した焼結性の問題がある。
【0008】
高性能な磁石を得たい場合、保磁力、残留磁束密度とも大きくする必要があり、焼結密度を上げること、均一で微細な結晶粒を得ることが重要になる。高い焼結密度を得るためには高温で焼結する必要があるが、その場合、結晶粒が成長してしまうため、この方法は現実的でない。上述したように、焼結性を改善するために、例えばSiO2、CaCO3、Al2O3、Cr2O3等の添加物が使用されている。この他、同じく焼結性を改善するために、希土類元素の酸化物を添加するという報告(例えば、特許文献1参照)もある。
【0009】
さらに磁気異方性を大きくする目的で、希土類元素だけでなく同時にコバルトを添加した磁気記録材料が報告されている(例えば、特許文献2参照)。希土類元素の添加は焼結性を向上させるものの、希土類元素には+3価のイオンとなるものが多く、これらがM相中のA2+サイトに固溶してM相中のイオンバランスを崩す原因となる。しかしながら、M相中のFe3+サイトにCo2+を固溶させることにより、前記イオンバランスの崩れを軽減してM相を安定化させることも可能となった。その後、同様にLaとCoを添加したフェライト磁石および磁気記録材料の出願が権利化されている(例えば、特許文献3および特許文献4参照)。しかしながら、高価なコバルトを併用しているため原材料の価格はさらに高くなってしまう。膜として使用する磁気記録材料はともかく、バルクとして使用する磁石の場合、工業上問題である。
【0010】
これに対して本願発明者は、Fe2O3過剰の組成領域であっても、希土類元素とMgを少量添加すると共に雰囲気酸素濃度を制御して焼結することによって、一般的に選択されている焼結温度にて十分に焼結が進行し、M型結晶構造単相の均一微細な結晶が得られることを見出した。そして特許文献5および特許文献6に明らかにした。Co等高価な元素を添加しなくても、希土類イオンと電気的なバランスを保て、優れた磁石特性が実現できる。
【0011】
上述したM型フェライト磁石の他、AOとFe2O3の混合比で、n=6よりもはるかに多くFe2O3を混ぜて大気中、あるいは酸素濃度を低くした還元雰囲気中で焼結すると、W型、U型、X型、Y型およびZ型という、M型と同じく六方晶系の結晶構造をとり得ることが一般的に知られている。これらの内、式AFe2+ 2Fe3+ 16O27で表されるW型は、良好な磁石特性を示す可能性が指摘され(例えば、特許文献7参照)、近年、このW型フェライト磁石に関する研究もなされるようになってきている。ここで、非化学量論組成にて表記すると、AO・2(FeO)・n’(Fe2O3)と表すことができ、モル比:n’は8前後が選択される(n’=8の場合が化学量論組成である)。M型フェライトに比べて飽和磁束密度がおおよそ10%高いことが知られているが、逆に保磁力が低いことも事実である。また、W型の単一相にすることが非常に難しく、未だに実用化されていないのが実状である。このように、非常に不安定で単一相にできないため、W型フェライトの主相に、副相としてM型フェライトを5〜30%含んだ磁気記録媒体も提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0012】
【特許文献1】
特公昭29−5139号公報
【特許文献2】
特開昭60−063715号公報
【特許文献3】
特開平10−149910号公報
【特許文献4】
特開平11−154604号公報
【特許文献5】
特願2003−083321号
【特許文献6】
特願2003−099433号
【特許文献7】
特開平9−260124号公報
【特許文献8】
特開平2−249127号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、現在、M型フェライトはAOに対するFe2O3のモル比nが5.2ないし5.6程度の組成領域にて量産されている。これよりもnが大きい領域から化学量論組成であるn=6.0付近になると、フェライト磁石の焼結性が著しく低下するためである。さらには、n>6となる組成領域では、マグネトプランバイト相の単相にはならないと一般的にいわれている。
【0014】
例えば、モル比nが5.6よりも大きい組成領域を選択し、通常に用いられている温度(1150℃程度)で焼成焼結すると、十分に焼結密度を上げることは難しい。さらに、モル比nが6.0よりも大きい組成領域を選択すれば、フェライト磁石中にFe2O3相等の異相が残留し、十分な磁石特性を得ることはできない。他方、低い焼結性を補うために高温で焼成焼結すると、焼結密度は高くなるものの、結晶粒が大きく成長して磁石特性の低下を招いてしまう。従って、従来のBaフェライト磁石やSrフェライト磁石では、化学量論組成よりも遥かにAOが過剰である組成領域、例えばnが5.2ないし5.6程度の組成領域で生産されている。すなわち、従来一般のフェライト磁石は、高価なAOを過剰に含む組成となっており、その分、製造原価が高くなるという問題があった。
【0015】
また、コバルトを添加したフェライト磁石は、その磁石特性については比較的良好であるけれども、材料として高価なコバルトを使用するため製造原価が高騰する。また、その資源も地域による偏りが大きく、安定供給に対する不安はぬぐいきれない。
【0016】
本発明は上記のような従来技術の現状を考慮して為されたものであり、その課題は、化学量論組成よりもFe2O3過剰の組成領域でも良好な磁石特性を有する、安価なフェライト磁石粉末を提供するとともに、そのためのフェライト磁石粉末の製造方法並びにこのフェライト磁石粉末を用いたプラスチック磁石やゴム磁石などのボンド磁石を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記したように、本願発明者は、従来一般のBaフェライトやSrフェライトよりも著しく高い残留磁束密度を得るためFe2O3過剰の組成領域を選択し、かつ、希土類元素を少量添加すると共に雰囲気酸素濃度を制御して焼結することで、優れた磁石特性を示すM型単相のフェライト磁石を実現した。その後、さらに鋭意研究を行った結果、以下の結論に至った。
【0018】
磁石特性のうち高い保磁力を実現するには、主相であるマグネトプランバイト相(M相)が100%占めることが好ましい。ただし、M相の単相が得られなくとも、M相が大部分であって、残りの異相をW型フェライト相がその多くを占めた場合、保磁力が低下しないことを新たに見出した。さらには、残りの異相がマグネタイトである場合においても十分な保持力が得られた。特に異相がW型相の場合は残留磁束密度が高いために、M型単相の場合よりもわずかではあるが残留磁束密度が高くなることも新たに見出した。したがって、該M相はモル比で80%まで許容することができる。ただし、M相と、主にW相あるいはマグネタイトから成る副相とは、共に平均結晶粒径が1.6μm以下の均一微細な結晶粒で、かつ均一に分散した組織になっていることが好ましい。また、異相としてX型フェライト、Y型フェライト、Z型フェライト、およびFe2O3等が多く生成した場合には、磁石特性が低下してしまう。したがって、そうはならないように秤量組成、仮焼時の雰囲気酸素濃度、微粉砕粒径、ならびに焼結時の雰囲気酸素濃度は、いずれも厳密に制御する必要がある。
【0019】
焼結磁石の場合とは異なり、ボンド磁石に供する磁石粉末を考えた場合、粉末の焼成(焼結磁石でいうところの仮焼に相当。以下焼成と称す。)においてM相がモル比で80%以上を占める粉末とし、優れた磁石特性を得る必要がある。したがって、本発明のフェライト磁石粉末を得るためには、焼成時の雰囲気酸素濃度を厳密に制御しなければならない。また、焼成後、粉体粒径の粒度分布を調整する工程も重要になる。焼結磁石に供する場合、焼成粉の粉体粒径は0.5μmかそれ以下で、かつ均一な粒径である必要がある。これに対して、ボンド磁石に供する場合、おおよそ0.5〜3.0μm程度、好ましくは1.0〜2.0μmの平均粉体粒径で、かつ粒度分布はある程度の広がりが必要である。なお本発明において、粉体粒径とは粉砕後の一次粒子の粒径を示すもので、いわゆる空気透過法により測定される粒径の値で示される。
【0020】
また、粒径を調整する際に加えられる機械的な衝撃力により残留応力や格子歪が残る。これらを取り除くため、500〜1000℃程度の温度で焼鈍すると磁石特性が改善される。ただし、焼鈍を行なう場合には、酸化還元反応が伴わないように、雰囲気酸素濃度を制御して行なう必要がある。
【0021】
本発明は、上記した知見に基づいてなされたもので、本発明に係るフェライト磁石粉末は、式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]で表されるマグネトプランバイト型結晶構造の相がモル比で80%以上を占め、平均粉体粒径が0.5〜3.0μmであることを特徴とする。なおこの式において、AはBaおよびSrから選択される少なくとも一種であり、Rは希土類元素から選択される少なくとも一種であり、x,yおよびnはモル比を表し、それぞれが、0<x≦0.6、0<y≦0.05、6.0<n≦6.6の範囲にある。
【0022】
さらに副相は、式AFe2+ 2Fe3+ 16O27で表されるW型フェライト相であってもよく、マグネタイト相であってもよい。
【0023】
なおM相と混在するW相は、一般的には上述したようにAFe2+ 2Fe3+ 16O27で表せられる。しかしながら実際には非化学量論組成にて表記してAO・2(FeO)・n’(Fe2O3)と表すことができ、モル比n’は8前後の値がとり得る。そしてn’=7の場合が化学量論組成で表記したAFe2+ 2Fe3+ 16O27となる。したがって本願でいう、M相と混在するW相は、O・2(FeO)・n’(Fe2O3)と表記した場合、モル比n’は8程度の値であればよい。ここで、このW型フェライトの結晶構造中のFe2+が占有するサイトの一部にMg2+が置換してもかまわない。また、このときのn’の値は、Fe2O3とAOの組成と、焼成時の雰囲気酸素濃度によって決まる。
【0024】
また、本願でいうマグネタイトとは一般式Fe3O4で表せられる。
【0025】
このように構成したフェライト磁石粉末においては、Fe2O3過剰の組成領域であってもM型フェライト相の単相が得られる(特許文献5および特許文献6参照)。あるいは、式(A1−Rx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]換算でnが6よりも多くなるように(6.6よりも多くなるようにしてもかまわない)各原料粉末を秤量、混合、焼成したとする。このとき、組成と混合条件、焼成時の雰囲気酸素濃度等の製造方法を最適化することによって、6.0<n≦6.6の範囲にある式(A1−xR)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]で表されるM相(主相)と、このM相より著しくFe2O3の比率の高いW相、あるいはマグネタイト相(副相)とが得られる。このうちM型フェライト相の主相とW型フェライト相の副相とが均一微細(好ましくは、1.6μm以下)に混合した結晶組織が得られた場合、M型フェライト単相の場合と比較して、保磁力はほとんど低下せず、逆に、わずかではあるが残留磁束密度は高くなる。また、副相がマグネタイトである場合でも十分に高い保持力が得られる。しかも、Fe2O3過剰の組成領域となっているので、高価なSr、Co原料の使用量が可及的に削減する。
【0026】
また、本発明に係るフェライト磁石の製造方法は、ACO3、Fe2O3、R2O3ならびにMgOの各原料粉末を秤量、混合し、還元性雰囲気下で焼成することにより、式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]で表されるマグネトプランバイト型結晶構造の相がモル比で80%以上を占める粉末とし、さらに平均粉体粒径を0.5〜3.0μmに調整することを特徴とする。なおこの式において、AはBaおよびSrから選択される少なくとも一種であり、Rは希土類元素から選択される少なくとも一種であり、x、yおよびnはモル比を表し、それぞれが、0<x≦0.6、0<y≦0.05、6.0<n≦6.6の範囲にある。
【0027】
このような製造方法とすることにより、含有しているMg2+と、+3価の希土類元素イオンとによって、M型結晶構造中のイオンバランスが保たれる。
【0028】
また、上記のフェライト磁石粉末の製造方法において、平均粉体粒径を0.5〜3.0μmに調整した後、さらに還元性雰囲気下で焼鈍してもよい。このように平均粉体粒径を調整した後、焼鈍工程を経ることにより、粒径を調整する際に加えられる機械的な衝撃力によって生ずる残留応力や格子歪を取り除くことができ、磁石特性が改善される。ただし、焼鈍を行う場合には、酸化還元反応が伴わないように雰囲気酸素濃度を制御して行う必要がある。
【0029】
また、上記製造方法において、2ny=xとなるようにR2O3量とMgO量を含有させてもよい。これは加えるR2O3量と、MgO量を制御することでM型結晶構造中のイオンバランスが完全に保たれ、結晶構造の安定性という意味においても、磁石特性上においても最も好ましい。
【0030】
また、上記フェライト磁石粉末の製造方法において、式AFe2+ 2Fe3+ 16O27で表されるW型フェライト相を副相として生成させてもよく、マグネタイト相を副相として生成させてもよい。
【0031】
このようにして得られたフェライト磁石粉末を使用してボンド磁石を作成してもよい。これにより、コスト面および特性において特徴あるボンド磁石を得ることができる。
【0032】
本発明のフェライト磁石粉末は、AOに対するFe2O3のモル比nが化学量論組成(n=6)よりも大きく、Fe2O3過剰の組成領域となっている。このようにnを化学量論組成である6よりも大きく設定したのは、高い残留磁束密度を得るためである。ただし、nが6.6よりも大きくなると、希土類元素の添加および焼結時の雰囲気酸素濃度の制御によっても、Fe2O3やAO相等が残留しやすくなり、結果として保磁力が低下してしまう。他方、nが6.0以下の場合には、高い残留磁束密度が得られる効果が小さく、また、過剰のバリウム原料およびストロンチウム原料を必要として磁石の原料価格が高くなる。したがって、このnを上記した範囲、6.0<n≦6.6に設定することにより、高い残留磁束密度と高い保磁力とを確保することができる。
【0033】
本発明のフェライト磁石粉末において、希土類元素であるRは、焼結性を向上させるために役立つ。これらの希土類元素Rは、多すぎると電気的なイオンバランスが崩れてしまうので、その含有量は、モル比で上記した範囲、0<x≦0.6とする。これらの希土類元素としては例えばCe、La、Nd等である。
【0034】
本発明のフェライト磁石粉末は、希土類元素から選択されるRとのイオンバランスを保つためにMg2+を含有し、これは磁石特性の向上にも役立つ。上記した希土類元素の含有量と対応させる必要があり、0<x≦0.05とする。ところで、Mg2+は従来イオンバランスを保つために使用されていたコバルトよりも安価であり、フェライト磁石の原料価格を高騰させることはない。
【0035】
また、本フェライト磁石は、SiO2:0.01〜0.5mass%、CaCO3:0.01〜1.0mass%、Al2O3:0.01〜2.0mass%、Cr2O3:0.01〜2.0mass%のうちの少なくとも一種をさらに含有する構成としてもよい。これら成分は、いずれも磁石特性の向上ならびに焼結性の改善に寄与することが従来より知られており、これら成分の微量添加により、磁石特性のより一層の向上ならびに焼結性のより一層の改善を図ることができる
【0036】
本発明のフェライト磁石粉末の製造方法は、焼成後の粉末の平均粉体粒径を0.5〜3.0μm、好ましくは1.0〜2.0μmに調整する。最適な粉体粒径や粒度分布は、その磁石粉末が用いられるボンド磁石に求められる特性が、混合粉の流動性、保磁力、あるいは残留磁束密度なのかによって異なる。焼結磁石に供する場合は、粉末の粒度分布は狭い方が良い。しかしながら、ボンド磁石に供する場合、磁粉の流動性を確保するためにも、嵩密度を上げやすくするためにも、粒度分布に一定の広がりをもたせる必要がある。
【0037】
本発明のフェライト磁石粉末を製造するには、酸化鉄、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、希土類酸化物等の原料粉末を秤量した後、均一に混合する。そして、この混合粉末を雰囲気酸素濃度を制御して焼成する。最後に、平均粉体粒径を0.5〜3.0μmに調整する。
【0038】
本発明の磁石を構成するM相は、式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]において、6.0<n≦6.6の範囲である。しかしながら、n>6.6となるように、各原料粉末を秤量してもよい。例えば、n=6.7となるように秤量して、本発明の磁石の製造方法にて作製した場合、例えばn=6.6の上記式で表されるM相(主相)が90%、AFe2+ 2Fe3+ 16O27 で表されるW相(副相)が10%からなる混合結晶組織が生成する。M相におけるnの値は焼結時における各金属イオンの拡散速度、焼結温度や冷却速度、あるいは雰囲気酸素濃度にも依存する。したがって、これらの製造条件の違いにより、例えばn=6.6の上記式で表されるM相(主相)が80%以上、AFe2+ 2Fe3+ 16O27 で表されるW相(副相)もしくはFe3O4で表されるマグネタイト相が20%以下からなる混合結晶組織が生成することもある。
【0039】
本発明のフェライト磁石粉末においては、酸化鉄の原料粉末は純粋な酸化鉄の粉末の他、製鉄所における鋼板の酸洗い工程にて排出される鉄錆びを回収した酸化鉄粉末を使用することができる。この回収した酸化鉄粉末中には酸化鉄以外の成分として、Ca、Si、Cl、S、P等が存在する。これらの成分の大半は、フェライト磁石製造の際の焼成工程での加熱により燃焼、飛散するが、フェライト磁石粉末中に微量残留する。他方、Feと格子定数の近いMn、Cr、Ni、Co、V等は、製鉄所の精錬工程を経た後においても鉄鋼中に含まれており、したがって、これら元素もまた、酸化鉄原料経由でフェライト磁石粉末中に混入してくる。しかし、前記した元素のうちMn、Cr等の元素は微量であればフェライト磁石中に存在しても問題がなく、一方、CaおよびSiについては、磁石特性の向上のため、上記したように積極的に活用することができる。
【0040】
希土類元素の原料としてミッシュメタルを使用してもかまわない。ミッシュメタルは、希土類元素の混合物であって、例えばCe(40〜50mass%)、La(20〜40mass%)、Pr、Nd等を含有している。希土類元素はその地殻中での存在率が低いだけでなく、ランタノイドやアクチノイド等は互いの化学的性質が類似しているために分離精製が困難であり、分離精製に要する費用も高い。ミッシュメタルを用いれば、原料費用を大幅に低減できる。
【0041】
本発明のフェライト磁石粉末の焼結を行う際の温度は1000〜1400℃の範囲で選択することができる。上記したように雰囲気酸素濃度を厳密に制御して、Fe2+の生成量を制御する。雰囲気酸素濃度の制御は、窒素ガス、窒素と水素との混合ガス等を流して行うことができる。
【0042】
上記焼成後、平均粉体粒径を0.5〜3.0μmに調整する為に、ローラーミルや振動ミル、アトライター等を用いて粉砕することができる。より好ましくは1.0〜2.0μmの平均粉体粒径に調整した方がよい。乾式粉砕しても、湿式粉砕してもかまわない。ただし、磁石粉末やこれをボンド磁石とした場合に求められる特性により、最適な平均粉体粒径とその粒度分布も異なってくる。
【0043】
平均粉体粒径を調整する際に機械的な衝撃が加わるため、結晶粒に残留応力や格子歪が残る。したがって、必要に応じてこの残留応力や格子歪を取り除くために、500〜1000℃程度の温度で焼鈍することができる。ただし、焼鈍を行う場合には、酸化還元反応が伴わないように、雰囲気酸素濃度を制御して行なう必要がある。
【0044】
本発明のフェライト磁石粉末を磁性体とし、プラスチックあるいはゴムをバインダーとした、いわゆるボンド磁石を作製するには公知の製造方法によることができる。すなわちあらかじめ表面をシランカップリング剤などで親油処理したフェライト磁石粉末をプラスチックやゴムなどのバインダーと混合し、これを例えば加熱溶融しながら射出成型することにより任意の形状のボンド磁石成型体を得ることができる。また、同じく加熱溶融した磁性体とバインダーを特定形状のノズルから押出すことにより連続した押出し成型体を得る。またノズルに代えてカレンダーロールの間を通すことにより連続したシート状の成型体を得る。これらの成型時に特定方向に磁場を印加することも行われており異方性のボンド磁石を得ることもできる。各成型時の加熱温度などの設定条件は主に樹脂やゴムの材料特性に合わせて決められる。
【0045】
【発明の実施の形態】
【実施例1】
所定量のACO3、Fe2O3、MgO、希土類元素の酸化物の各原料粉末を配合し、湿式にて混合した。この混合粉を乾燥させた後、1200℃で2時間、大気中または窒素流入により雰囲気酸素濃度を制御して還元性とした雰囲気中で焼成した。アトライターを用いて平均粉体粒径が1.0μmになるまで粉砕し、実施例1〜4と比較例1〜3のフェライト磁石粉末を作製した。また、さらに700℃で2時間、窒素流入により雰囲気酸素濃度を制御して還元性とした雰囲気中で焼鈍し、実施例5のフェライト磁石粉末を作製した。
【0046】
得られたフェライト磁石粉末について、蛍光X線法にて前記式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]中のx、y、およびnを求めた。併せて、X線回折法にて主相のモル比を求めるともに、副相が存在した場合、それを同定した。次いで、得られたフェライト磁石粉末をワックスに固定して、残留磁束密度Brおよび保磁力Hcjを磁気磁束計によって測定した。表1に結果を示す。(表中「制御」とあるのは還元性雰囲気にて焼成したことを意味する。)
【0047】
【表1】
【0048】
表1より、本発明のフェライト磁石粉末(実施例1〜5)はいずれも、添加した希土類元素と加えたMg2+とが電気的にバランスしている。また、厳密に雰囲気酸素濃度を制御して焼成を行ったため、十分に焼結が進行している。この結果、主相のモル比が80%以上で、残りはW型フェライト相もしくはマグネタイト相である。Fe2O3等の未反応相は確認されない。したがって、残留磁束密度および保磁力ともに、優れた値が得られた。
【0049】
これに対して、比較例1のフェライト磁石粉末は、大気中で焼成焼結したことにより多量の非磁性相が形成され、Mg2+を含有しないために主相中のイオンバランスが崩れている。また、比較例2は、Ce等の希土類イオンを含有しない。さらに比較例3は、AOに対するFe2O3のモル比nが大きすぎる。これらのことより、比較例1〜3はいずれも、Fe2O3等の未反応相が残留しているとともに、残留磁束密度および保磁力ともに本発明のフェライト磁石粉末に比べて低い。また、残留磁束密度が低いことから、焼結が不十分であることがわかる。
【0050】
【実施例2】
実施例1にて得られた磁石粉末を0.1mass%のシランカップリング剤で表面処理したものに対して、10mass%のナイロンを混合して、800kA/mの磁界中で射出成形した。
【0051】
そして、得られた成形品の最大磁気エネルギー積BHmax、残留磁束密度Br、および保磁力Hcjを磁気磁束計によって測定した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
【実施例3】
実施例1にて得られた磁石粉末を0.1mass%のシランカップリング剤で表面処理したものに対して、10mass%のイソプロピレンゴムを混合した後、ロール圧延機を用いて、150℃の温度にて厚さ1.0mmのシート状の異方性磁石を得た。
【0054】
そして、シート状の異方性磁石を測定可能な形状に切り出した後、最大磁気エネルギー積BHmax、残留磁束密度Br、および保磁力Hcjを磁気磁束計によって測定した。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
このように、本発明の磁石粉末を用いることにより、最大磁気エネルギー積BHmax、残留磁束密度Br、および保磁力Hcjに優れた特性を有するボンド磁石を得ることができた。
【0057】
【発明の効果】
本発明のフェライト磁石粉末およびその製造方法によれば、化学論組成よりも過剰の組成領域(6.0<n≦6.6)でも極めて優れた磁石特性が得られ、高価なBaCO3やSrCO3の使用を削減できる分、製造原価の低減ができる。また、本発明のフェライト磁石粉末を用いたボンド磁石も同様に優れた特性を有し、低コストで作製することができる。
Claims (7)
- 式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]で表されるマグネトプランバイト型結晶構造の相がモル比で80%以上を占め、平均粉体粒径が0.5〜3.0μmであることを特徴とするフェライト磁石粉末。(なおこの式において、AはBaおよびSrから選択される少なくとも一種であり、Rは希土類元素から選択される少なくとも一種であり、x,yおよびnはモル比を表し、それぞれが、0<x≦0.6、0<y≦0.05、6.0<n≦6.6の範囲にある。)
- 式AFe2+ 2Fe3+ 16O27で表されるW型フェライト相もしくはマグネタイト相を副相として含むことを特徴とする請求項1に記載のフェライト磁石粉末。
- ACO3、Fe2O3、R2O3ならびにMgOの各原料粉末を秤量、混合し、還元性雰囲気下で焼成することにより、式(A1−xRx)O・n[(Fe3+ 1−yMg2+ y)2O3]で表されるマグネトプランバイト型結晶構造の相がモル比で80%以上を占める粉末とし、さらに平均粉体粒径を0.5〜3.0μmに調整することを特徴とするフェライト磁石粉末の製造方法。(なおこの式において、AはBaおよびSrから選択される少なくとも一種であり、Rは希土類元素から選択される少なくとも一種であり、x、yおよびnはモル比を表し、それぞれが、0<x≦0.6、0<y≦0.05、6.0<n≦6.6の範囲にある。)
- 請求項3に記載のフェライト磁石粉末の製造方法において、平均粉体粒径を0.5〜3.0μmに調整した後、さらに還元性雰囲気下で焼鈍することを特徴とするフェライト磁石粉末の製造方法。
- 請求項3または請求項4において、2ny=xとなるようにR2O3量とMgO量を含有させることを特徴とするフェライト磁石粉末の製造方法。
- 式AFe2+ 2Fe3+ 16O27で表されるW型フェライト相もしくはマグネタイト相を副相として生成させることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載のフェライト磁石の製造方法。
- 請求項1乃至2に記載の磁石粉末を用いたことを特徴とするボンド磁石。
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JP2003207108A JP2005064009A (ja) | 2003-08-11 | 2003-08-11 | フェライト磁石粉末およびその製造方法、並びにこのフェライト磁石粉末を用いたボンド磁石 |
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JP2007214510A (ja) * | 2006-02-13 | 2007-08-23 | Dowa Holdings Co Ltd | ボンド磁石用フェライト磁性粉およびその製造方法、並びにボンド磁石 |
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2003
- 2003-08-11 JP JP2003207108A patent/JP2005064009A/ja active Pending
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