JP2005061457A - ころ軸受 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】少なくとも一方につば部31bを有する内外輪30,31と、内外輪30,31の間に組み込まれた状態でつば部31bに端面33aが摺接するころ33を備えたころ軸受Bにおいて、つば部31b及びころ端面33aの少なくとも一方に硬質炭素被膜を形成したことにより、これらの表面を荒れ難いものにすると共に、摩擦熱の上昇を抑制し、つば部31bところ端面33aの間に充分な耐焼き付き性を得た。このころ軸受はトラクション油中で特に良好な特性を示し、さらにトラクション油中にエステル化合物やアミン化合物を添加すると、摩擦低減・焼き付き防止に優れた効果が得られる。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種装置の回転部位に用いられるころ軸受に関し、とくに、トロイダル型無段変速機においてトラクションオイル中で用いるのに好適なころ軸受に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ころ軸受は、周知のように、内外の軌道輪の間に、円筒ころ、円錐ころ及び球面ころ等のころを複数介装したものであって、各種装置の回転部位に用いられている。一例を挙げると、車両の差動装置では、車体に取付けるハウジングに対して、その内部に収容したディファレンシャルケースを回転自在に支持するために、ハウジングとディファレンシャルケースの間にテーパローラベアリング(円錐ころ軸受)を介装している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、一般的なころ軸受では、少なくとも一方の軌道輪に設けたつば部ところの端面との接触部分が、大きな滑りを伴う転がり接触構造であることから、供給される潤滑油の量が不足すると、つば部ところ端面の間で焼き付きが生じることがある。例えば、上記した差動装置では、車両の旋回時に生じる遠心力でディファレンシャルケース内の潤滑油が偏り、これによりテーパローラベアリングにおける潤滑油が不足した場合や、急加速時に同ベアリングの温度が上昇した場合に、軌道輪のつば部ところ端面の間で焼き付きが生じる恐れがある。
【0004】
そこで、従来にあっては、ころ軸受において、軌道輪のつば部ところ端面の間での焼き付きを防止する手段として、双方の接触面の平滑度を高めて金属接触を可能な限り軽減する方法や、高Cr鋼の表面に窒化物層を形成して摩擦係数の上昇を抑える方法(例えば、特許文献2参照)があった。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−185858号公報
【特許文献2】
特開2001−187916号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記したような従来のころ軸受において、軌道輪のつば部ところ端面の平滑度を高めて焼き付きを防止する方法では、例えばZDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)等の添加剤が比較的多く添加されているトランスミッションオイルやギヤオイル中で使用する場合には、凝着摩耗よりも腐食摩耗が増大するため、瞬間的な金属接触を防止することができるが、例えばトロイダル型無段変速機において添加剤の少ないトラクションオイル中で使用する場合には、凝着摩耗し易くなるため、低速と高速を繰り返すたびにつば部ところ端面の間で金属接触が起こり、これらの表面が荒れるという現象が避けられないことから、焼き付きを防止するには不充分であった。
【0007】
例えば、入力ディスクと出力ディスクの間に介装したパワーローラを傾動させて変速比を無段階的に変化させるトロイダル型無段変速機において、パワーローラの内外輪を支持し且つトラクションオイル中で用いる円錐ころ軸受では、トラクションオイルが枯渇したり少なくなったりした際に摩擦係数が急上昇したり、起動トルクが増大する現象が起きる可能性がある。
【0008】
また、高Cr鋼に窒化物層を形成することにより、軌道輪のつば部ところ端面の間での焼き付きを防止する方法では、材料の変更が必要であるばかりでなく、通常の雰囲気処理では表面にCr酸化膜が生成され、安定した窒化物層を得ることが難しいという問題点があった。
【0009】
【発明の目的】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、材料の変更や特殊な熱処理が不要であり、供給される潤滑油の量が不足した場合や、添加剤が少ないトラクションオイル中で使用する場合でも、軌道輪のつば部ところ端面の間に充分な耐焼き付き性を得ることができるころ軸受を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明のころ軸受は、少なくとも一方につば部を有する一対の軌道輪と、両軌道輪の間に組み込まれた状態でつば部に端面が摺接するころを備えたころ軸受において、軌道輪のつば部及びころ端面の少なくとも一方に硬質炭素被膜を形成したものであって、望ましくはトラクション油中で用いることを特徴とし、また、トラクション油にエステル化合物やアミン化合物を含有させることも有効であり、さらに望ましくは硬質炭素被膜中の水素量を1原子%以下にしたことを特徴としている。
【0011】
【発明の作用】
本発明のころ軸受では、例えばトラクションオイル中で低速と高速の繰り返し運転をしている際に、ころのスキューの発生等で軌道輪のつば部及びころ端面の間で金属接触が生じた場合でも、つば部及びころ端面の少なくとも一方に硬質炭素被膜が形成してあるので、これらの表面が摩耗し難く且つ平滑度が保たれて荒れ難いものになると共に、摩擦熱の発生が抑えられることになり、このような特性と硬質炭素被膜が有する化学的安定性が相俟って、つば部ところ端面の焼き付きが起こりにくいものとなる。また、硬質炭素被膜が有する固体潤滑性によって起動トルクを低く抑えるものとなる。
【0012】
【発明の効果】
本発明のころ軸受によれば、添加剤の少ない種類の油、例えばトラクションオイル中で使用する場合でも、材料の変更や特殊な熱処理を必要とせずに、軌道輪のつば部ところ端面の間に充分な耐焼き付き性を得ることができると共に、起動トルクを低く抑えることができ、供給される潤滑油の量が不足した場合でも、上記の充分な耐焼き付き性及び耐久性を確保して、ころ軸受の長寿命化を実現することができるという優れた効果がもたらされる。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1は、ころ軸受を用いた装置の一例であるトロイダル型無段変速機を説明する図である。図示のトロイダル型無段変速機は、エンジンからの回転駆動力が図外のトルクコンバータ及び前後進切換え機構を介して入力軸1に入力されるようになっており、入力軸1と同軸上にトルク伝達軸2を備えている。トルク伝達軸2は、両端側に、第1入力ディスク3と第2入力ディスク4がスプライン結合により軸線方向に移動可能に装着してあると共に、中間に、出力ディスク8が回転自在に装着してある。
【0014】
第1入力ディスク3の背面と入力軸1との間には、入力トルクに応じて軸線方向の推力を発生するローディングカム機構5が介装してある。また、第2入力ディスク4の背面とトルク伝達軸2の端部に螺着したナット6との間には、両入力ディスク3,4にプリロードを付与する皿ばね7が介装してある。
【0015】
出力ディスク8は、2つの出力ディスクの背面を互いに合わせて一体化したものであって、外周部に出力ギア9が形成してある。そして、第1入力ディスク3と出力ディスク8の互いの対向面に、トロイド状溝3a,8aが形成してあると共に、第2入力ディスク4と出力ディスク8の互いの対向面に、同じくトロイド状溝4a,8bが形成してある。
【0016】
第1入力ディスク3と出力ディスク8のトロイド状溝3a,8aの間には、図中で上下に配置した2個の第1パワーローラ10,10が、油膜剪断力により動力伝達可能に挟持されている。また、第2入力ディスク4と出力ディスク8のトロイド状溝4a,8bの間にも、同様に、上下2個の第2パワーローラ11,11が挟持されている。そして、第1入力ディスク3と出力ディスク8と第1パワーローラ10,10により第1トロイダル変速部12を構成し、第2入力ディスク4と出力ディスク8と第2パワーローラ11,11により第2トロイダル変速部13を構成している。
【0017】
上記構成を備えたトロイダル型無段変速機は、入力軸1の回転をトルク伝達軸2から各入力ディスク3,4に伝達すると共に、各入力ディスク3,4の回転を各パワーローラ10,11を介して出力ディスク8に伝達し、この出力ディスク8の回転を外部に出力するようになっており、この際、各パワーローラ10,11を同時に傾動させることで変速比を無段階的に変化させる。
【0018】
ここで、各パワーローラ10(11)は、図2(a)に示すように、入力ディスク3,4及び出力ディスク8に接触する内輪(軌道輪)30と、これに対応する外輪(軌道輪)31を備え、内輪30と外輪31の間に、図2(b)にも示す保持器32とともに複数の円錐ころ33が介装してある。つまり、パワーローラ10では、実質的に、内輪30、外輪31、保持器32及び複数の円錐ころ33より、円錐ころ軸受Bを構成している。なお、パワーローラ10は、図示は省略したが、傾動中心軸に対して揺動可能なトラニオンを備え、トラニオンに、当該ローラの回転中心となるピボットシャフトを備えると共に、このピボットシャフトに、上記の内輪30及び外輪31が装着してある。
【0019】
上記円錐ころ軸受Bにおいて、内輪30には、円錐ころ33の転動面となる内輪軌道面30aが形成してある。これに対して、外輪31には、円錐ころ33の転動面となる外輪軌道面31aが形成してあると共に、円錐ころ33の軸受外周側のころ端面33aが摺接するつば部31bが設けてある。なお、図示のパワーローラ10は、内輪30に働くラジアル荷重を受けるためのラジアル軸受を設けずに、内輪30に働くラジアル荷重及びスラスト荷重の全てを円錐ころ軸受Bで支持するものとなっている。
【0020】
ところで、上記のトロイダル型無段変速機において、パワーローラ10の円錐ころ軸受Bは、トラクションオイル中で使用することとなるが、エンジンオイルなどと比べて添加剤の少ないトラクションオイル中で使用する場合、低速と高速を繰り返すたびにつば部31bところ端面33aの間で金属接触が起こり、これらの表面が荒れることがある。このようにつば部31bところ端面33aの表面が荒れると、オイル不足や温度上昇が生じた際に焼き付きが生じたり、また、つば部31bところ端面33aの表面に摩耗によって凹凸が生じたり、うねったりした場合、または摩擦抵抗の大きい表面であった場合、摩擦係数が急上昇したり、起動トルクが増大して加速しにくくなるおそれがある。
【0021】
そこで、本発明のころ軸受では、上記円錐ころ軸受Bにおいて、外輪31のつば部31b及びころ端面33aの少なくとも一方に硬質炭素被膜を形成したものとしており、この際、硬質炭素被膜中の水素量が1原子%以下になるようにしている。
【0022】
上記の硬質炭素被膜とは、アモルファス状の炭素又は水素化炭素から成る膜であって、a−C:H(アモルファスカーボン又は水素化アモルファスカーボン)、i−C(アイカーボン)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン又はディーエルシー)などとも呼ばれている膜である。この硬質炭素被膜は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、及び化学気相堆積法(CVD法)などの公知の方法で形成することができる。なお、硬質炭素被膜は、上記した如く水素量を1原子%以下としており、極力水素を含まない方が好ましいので、成膜方法としてはスパッタリング法及びイオンプレーティング法がとくに好適である。
【0023】
これにより、円錐ころ軸受Bは、トラクションオイル中で低速と高速の繰り返し運転をした際、ころ33のスキューの発生等によってつば部31bところ端面33aが直接接触した場合においても、これらの表面が摩耗し難く平滑度が保たれ荒れ難いものになると共に、摩擦熱の上昇が低く抑えられることとなり、オイルの供給量が不足したとしても、つば部31bところ端面33aの間に充分な耐焼き付き性が確保され、また、つば部31bところ端面33aの表面の粗さ、平滑度に関し経時変化が少ないために耐久性も確保されることになる。また、硬質炭素被膜は固体潤滑性を有するので、起動トルクの低減も実現する。
【0024】
なお、硬質炭素被膜中の水素量を1原子%以下にすることによっても、つば部31bところ端面33aの焼き付きを防止し、起動トルクを抑えるうえで効果がある。この理由は、被膜中の水素量が少ない場合ほど、硬質炭素被膜の表面の摩擦を抑える反応物が形成されやすいためと推測している。
【0025】
また、本発明のころ軸受は、トラクションオイル中で使用し、より望ましくはトラクション油にエステル化合物及び/又はアミン化合物を添加することにより、上記の効果をより一層発揮する。すなわち、トラクションオイル中にエステル化合物及び/又はアミン化合物を添加した場合には、硬質炭素被膜の摩擦係数がより小さくなり、摩擦熱の発生がさらに減少して焼き付きが一層起こりにくくなり、起動トルクがさらに下がるといった利点がある。この理由は、硬質炭素被膜の表面に何らかの反応物が生成され、それが焼き付きを防ぎ起動トルクを下げる働きをしていると推測している。
【0026】
上記のトラクションオイルに添加する化合物において、エステル化合物としては、例えば、脂肪酸と、グリセリン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール及びトリメチロールプロパンのうちの少なくとも一つとのエステルなどが挙げられる。また、アミン化合物としては、例えば、アルキルアルカノールアミドやポリオキシエチレンラウリルアミンなどが挙げられる。なお、トラクションオイルに添加する化合物がこれらに限定されることはない。
【0027】
上記のようにトラクションオイル中にエステル化合物及び/又はアミン化合物を添加したことにより、円錐ころ軸受Bは、つば部31bところ端面32aの間の摩擦係数が一層低減され、摩耗も起こりにくくなり、転動面すなわち内輪軌道面30aや外輪軌道面31aにおける寿命が延長され、当該円錐ころ軸受Bの長寿命化を実現し、ひいては当該円錐ころ軸受Bを用いたパワーローラ10及びトロイダル型無段変速機の長寿命化に貢献し得るものとなる。
【0028】
【実施例】
以下、本発明のころ軸受の具体的な実施例を比較例とともに説明する。
(実施例1)
JIS−G4805に規定される高炭素クロム軸受鋼SUJ2を用いて、図2に示すような内外輪を成形し、これらに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.02μm程度に仕上げ研磨し、その後、外輪に化学的蒸着法(CVD法)により厚さ1μm程度の硬質炭素被膜を形成した。なお、処理温度は200℃とした。また、同じくSUJ2材を用いて、図2に示すようなころを成形し、ころに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.03μm程度に仕上げ研磨した。
【0029】
(実施例2)
JIS−G4805に規定される高炭素クロム軸受鋼SUJ2を用いて、図2に示すような内外輪を成形し、これらに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.01μm程度に仕上げ研磨し、その後、外輪のころと当たる部分にマグネトロンスパッタ法により厚さ0.5μm程度の硬質炭素被膜を形成した。なお、処理温度は200℃とした。また、同じくSUJ2材を用いて、図2に示すようなころを成形し、ころに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.01μm程度に仕上げ研磨した。
【0030】
(実施例3)
JIS−G4805に規定される高炭素クロム軸受鋼SUJ2を用いて、図2に示すような内外輪を成形し、これらに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.01μm程度に仕上げ研磨し、その後、外輪にイオンプレーティング法により厚さ0.8μm程度の硬質炭素被膜を形成した。なお、処理温度は200℃とした。
その後、外輪のつば部のみをRa0.01μm程度に仕上げ研磨した。また、同じくSUJ2材を用いて、図2に示すようなころを成形し、ころに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.01μm程度に仕上げ研磨した。
【0031】
(実施例4)
JIS−G4805に規定される高炭素クロム軸受鋼SUJ2を用いて、図2に示すような内外輪を成形し、これらに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.01μm程度に仕上げ研磨し、その後、外輪にイオンプレーティング法により厚さ0.9μmの硬質炭素被膜を形成した。また、同じくSUJ2材を用いて、図2に示すようなころを成形し、ころに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.01μm程度に仕上げ研磨し、その後、イオンプレーティング法により厚さ1.2μm程度の硬質炭素被膜を形成した。
【0032】
(実施例5)
JIS−G4805に規定される高炭素クロム軸受鋼SUJ2を用いて、図2に示すような内外輪を成形し、これらに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.01μm程度に仕上げ研磨した。また、同じくSUJ2材を用いて、図2に示すようなころを成形し、ころに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.01μm程度に仕上げ研磨し、その後、イオンプレーティング法により硬質炭素被膜を形成した。硬質炭素被膜の厚さは0.8μmであった。
【0033】
(実施例6)
JIS−G4105に規定されるクロムモリブデン鋼SCM435を用いて、図2に示すような内外輪を成形し、これらにイオン窒化処理(500℃×4H窒化後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.04μm程度に仕上げ研磨し、厚さ2μm程度の窒化物層を形成した。その後、外輪のつば部のみをRa0.02μm程度に仕上げ研磨した。また、同じくSUJ2材を用いて、図2に示すようなころを成形し、ころに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)を実施した後、表面粗さRa0.01μm程度に仕上げ研磨した。その後、イオンプレーティング法により当該ころに硬質炭素被膜を形成した。被膜の厚さは0.8μm、表面粗さは0.012μmであった。
【0034】
(比較例1)
SUJ2材を用いて同様の内外輪及びころを成形し、これらに調質(850℃×1H保持後、60℃油焼き入れ)及び焼き戻し(160℃×2H)を実施した後、表面粗さRa0.01μmに研磨仕上げした。
【0035】
上記の実施例1〜6及び比較例1のころ軸受の仕様(材料及び表面改質層)及び表面粗さ測定結果を後記する表1に示す。なお、被膜中の水素量は二次イオン質量分析(SIMS)法により測定した。
【0036】
また、各例のころ軸受について、荷重120kN、回転速度6000回/分、給油停止直前の潤滑油量毎分0.5リットル、油温80℃の条件で円錐ころ軸受の試験を実施して耐焼き付き性を評価した。また、荷重60kN、給油量毎分5リットル、油温120℃の条件で円錐ころ軸受の試験を実施して起動トルクを測定した。その試験結果も表1に示す。なお、試験に用いた油は、A;トラクション油、 B;トラクション油97体積%+オレイン酸モノグリセリド3体積%(エステル化合物添加)、C;トラクション油98体積%+ラウリルアミン2体積%(アミン化合物添加)の三種類である。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示す試験結果から明らかなように、本発明の実施例1〜6に係わるころ軸受については、起動トルクが低く、つば部ところ端面の間の耐焼き付き性に優れていることを確認した。また、同様に表1に示すように、トラクション油単独の場合(A)に比べて、トラクションオイルにエステル化合物を添加した場合(B)や、トラクションオイルにアミン化合物を添加した場合(C)には、耐焼き付き性や起動トルクを低減する点で一層の効果が得られることを確認した。
【0039】
また、上記試験の結果、最も性能的に優れたものは実施例4であり、焼き付き防止効果及び起動トルク低減効果を共に最大に得ることができた。さらに、コストと性能のバランスで言えば実施例5がよい。実施例5は、ころにのみ硬質炭素被膜を形成したものであるが、硬質炭素被膜の形成のような真空プロセスにおいては、真空槽内に入る部品の点数でコストが支配されるので、相対的に大きな軌道輪に被膜を形成するよりもころに被膜を形成した方が有利となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のころ軸受を適用したトロイダル型無段変速機を概略的に示す断面説明図である。
【図2】図1に示すパワーローラの断面図(a)及び保持器の平面図(b)である。
【符号の説明】
10 パワーローラ
30 内輪(軌道輪)
31 外輪(軌道輪)
31b つば部
33 ころ
33a ころ端面
B 円錐ころ軸受
Claims (6)
- 少なくとも一方につば部を有する一対の軌道輪と、両軌道輪の間に組み込まれた状態でつば部に端面が摺接するころを備えたころ軸受において、軌道輪のつば部及びころ端面の少なくとも一方に硬質炭素被膜を形成したことを特徴とするころ軸受。
- トラクション油中で用いることを特徴とする請求項1に記載のころ軸受。
- トラクション油が、エステル化合物を含むことを特徴とする請求項2に記載のころ軸受。
- トラクション油が、アミン化合物を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載のころ軸受。
- 硬質炭素被膜中の水素量が、1原子%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のころ軸受。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のころ軸受を用いたことを特徴とするトロイダル型無段変速機。
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