本発明の第1の情報記録媒体は、Zrと、La、Ga及びInから成る群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素と、酸素(O)とを含む酸化物系材料層を含む。この酸化物系材料層は、その組成が
ZrQ1L1T1O100-Q1-T1(原子%)・・・(1)
(式中、L1は、前記群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q1及びT1は、0<Q1<34、0<T1<50、20<Q1+T1<60を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。さらに、上記式(1)において、L1がGaであることがより好ましい。
ここで、「原子%」とは、式(1)が、「Zr」原子、「L1」原子及び「O」原子を合わせた数を基準(100%)として表された組成式であることを示している。L1が2つ以上の元素を含む場合には、含まれるすべての元素の原子数を合わせた原子数がT1になる。以下の式においても「原子%」の表示は、同様の趣旨で使用されている。また、式(1)は、酸化物系材料層に含まれる、「Zr」原子、「L1」原子及び「O」原子のみをカウントして表したものである。したがって、式(1)で示される材料を含む酸化物系材料層は、これらの原子以外の成分を含むことがある。
上述のとおり、式(1)において、Q1及びT1は、0<Q1<34、0<T1<50、20<Q+T<60を満たすことが好ましい。Zrが34原子%以上含まれると、密着性が悪くなる。元素L1が50原子%以上含まれると、繰り返し書換性能が悪化する。また、酸素(O)が40原子%に満たないと、透明性が低下する。より好ましくは、4<Q1<24、6<T1<37、30<Q1+T1<50である。
式(1)において、各原子はどのような化合物として存在してもよい。このような式で材料を特定しているのは、薄膜に形成した層の組成を調べるに際し、化合物の組成を求めることは難しく、現実には、元素組成(即ち、各原子の割合)のみを求める場合が多いことによる。式(1)で表される材料において、Zr及び元素L1の殆どは酸素原子とともに酸化物として存在していると考えられる。そのため、本明細書においては、式(1)で表される材料を含む層であっても、これを便宜的に「酸化物系材料層」と称している。以下、式(3)、(5)、(6)、(9)及び(10)においても同様である。
第1の情報記録媒体に含まれる酸化物系材料層では、Zr及び元素L1の殆どが酸素原子とともに酸化物として存在していると考えると、含まれる材料を以下の式(2)で表すこともできる。
(D1)X1(E1)100-X1(mol%)・・・(2)
(式中、D1はZrの酸化物を示し、E1は前記群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、X1は、0<X1<100を満たす。)
また、上記式(2)において、D1がZrO2であり、E1がGa2O3であることが好ましい。
本発明の第2の情報記録媒体は、M1(但し、M1は、ZrとHfの混合物又はHfである。)と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、酸素(O)とを含む酸化物系材料層を含む。この酸化物系材料層は、その組成が、
M1Q2L2T2O100-Q2-T2(原子%)・・・(3)
(式中、M1は、ZrとHfの混合物又はHfを示し、L2は、前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q2及びT2は、0<Q2<34、0<T2<50、20<Q2+T2<60を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。さらに、上記式(3)において、L2がGaであることがより好ましい。
本発明の第2の情報記録媒体においても、「原子%」とは、第1の情報記録媒体の場合と同様の意味で用いられており、M1がZrとHfの混合物である場合には、ZrとHfの原子数を合わせた原子数がQ2になり、L2が2つ以上の元素を含む場合には、含まれるすべての元素の原子数を合わせた原子数がT2になる。また、式(3)は、酸化物系材料層に含まれる、「M1」原子、「L2」原子及び「O」原子のみをカウントして表したものである。したがって、式(3)で示される材料を含む酸化物系材料層は、これらの原子以外の成分を含むことがある。
上述のとおり、式(3)において、Q2及びT2は、0<Q2<34、0<T2<50、20<Q2+T2<60を満たすことが好ましい。元素M1が34原子%以上含まれると、密着性が悪くなる。元素L1が50原子%以上含まれると、繰り返し書換性能が悪化する。また、酸素(O)が40原子%に満たないと、透明性が低下する。より好ましくは、4<Q2<24、6<T2<37、30<Q2+T2<50である。
上記式(1)の場合と同様に、式(3)においても各原子はどのような化合物として存在してもよい。式(3)で表される材料においても、元素M1及び元素L2の殆どは酸素原子とともに酸化物として存在していると考えられる。そこで、元素M1及び元素L2の殆どが酸素原子とともに酸化物として存在していると考えると、酸化物系材料層に含まれる材料を以下の式(4)で表すこともできる。
(D2)X2(E2)100-X2(mol%)・・・(4)
(式中、D2は前記M1の酸化物を示し、E2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、X2は、0<X2<100を満たす。)
また、上記式(4)において、E2がGa2O3であることが好ましい。
本発明の第3の情報記録媒体は、Zr及びHfからなる群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、Siと、酸素(O)とを含む酸化物系材料層を含む。この酸化物系材料層は、その組成が、
M2Q3SiR1L2T3O100-Q3-R1-T3(原子%)・・・(5)
(式中、M2は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q3、R1及びT3は、0<Q3≦32、0<R1≦32、3<T3<43、20<Q3+R1+T3<60を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。
また、本発明の第3の情報記録媒体においては、酸化物系材料層が、さらに炭素(C)、窒素(N)及びCrからなる群GK1より選ばれる少なくとも一つの元素を含んでいてもよい。この場合の酸化物系材料層は、その組成が、
M2Q3SiR1L2T3K1J1O100-Q3-R1-T3―J1(原子%)・・・(6)
(式中、M2は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、K1は前記群GK1より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q3、R1、T3及びJ1は、0<Q3≦32、0<R1≦35、2<T3≦40、0<J1≦40、20<Q3+R1+T3+J1<80を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。
上記式(5)及び(6)において、M2がZrであり、L2がGaであることがより好ましい(すなわち、ZrQ3SiR1GaT3O100-Q3-R1-T3、ZrQ3SiR1GaT3K1J1O100-Q3-R1-T3―J1が好ましい。)。
本発明の第3の情報記録媒体においても、「原子%」とは、第1の情報記録媒体の場合と同様の意味で用いられており、M2が2つの元素を含む場合には、2つの元素の原子数を合わせた原子数がQ3、L2が2つ以上の元素を含む場合には、含まれるすべての元素の原子数を合わせた原子数がT3、K1が2つ以上の元素を含む場合には、含まれるすべての元素の原子数を合わせた原子数がJ1になる。また、式(5)は、酸化物系材料層に含まれる、「M2」原子、「L2」原子、「Si」原子及び「O」原子のみをカウントして表したもの、式(6)は、酸化物系材料層に含まれる、「M2」原子、「L2」原子、「Si」原子、「K1」原子及び「O」原子のみをカウントして表したものである。したがって、式(5)又は(6)で示される材料を含む酸化物系材料層は、これらの原子以外の成分を含むことがある。
上述したとおり、式(5)において、Q3、R1及びT3は、0<Q3≦32、0<R1≦32、3<T3<43、20<Q3+R1+T3<60を満たすことが好ましい。元素M2又はSiが32原子%より多く含まれると、密着性が悪くなる。元素L2が43原子%以上含まれると、繰り返し書換性能が悪化する。また、酸素(O)が40原子%に満たないと、透明性が低下する。より好ましくは、0<Q3<25、0<R1<25、6<T3<37、30<Q3+R1+T3<50である。したがって、この酸化物系材料は、熱的安定性、高透明性、密着性、耐湿性、低熱伝導性に優れた材料である。
上記式(1)の場合と同様に、式(5)及び(6)においても、各原子はどのような化合物として存在してもよい。例えば式(5)で表される材料では、元素M2、Si及び元素L2の殆どは酸素原子とともに酸化物として存在していると考えられる。また、Siは窒化物や炭化物として含まれていてもよい。そこで、酸化物系材料層に含まれる上記式(5)や(6)で表される材料を以下の式(7)又は(8)で表すこともできる。
(D3)X3(g)Z1(E2)100-X3-Z1(mol%)・・・(7)
(式中、D3は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、gはSiO2、Si3N4及びSiCからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を示し、E2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、X3及びZ1は、10≦X3<90、0<Z1≦50、10<X3+Z1≦90を満たす。)
(D3)X3(SiO2)Z2(f)A1(E2)100-X3―Z2-A1(mol%)(8)
(式中、D3及びE2は上記式(7)の場合と同様の酸化物を示し、fはSiC、Si3N4及びCr2O3からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物を示し、X3、Z2及びA1は、10≦X3<90、0<Z2≦50、0<A1≦50、10<X3+Z2+A1≦90を満たす。)
また、上記式(7)及び(8)において、D3がZrO2であり、E2がGa2O3であることが好ましい。
本発明の第4の情報記録媒体は、Zr及びHfからなる群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、Crと、酸素(O)とを含む酸化物系材料層を含む。この酸化物系材料層は、その組成が、
M2Q4CrUL2T4O100-Q4-U-T4(原子%)・・・(9)
(式中、M2は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q4、U及びT4は、0<Q4≦32、0<U≦25、0<T4≦40、20<Q4+U+T4<60を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。
また、本発明の第4の情報記録媒体において、酸化物系材料層は、窒素(N)及び炭素(C)よりなる群GK2より選ばれる少なくとも1つの元素を含んでいてもよい。この場合の酸化物系材料層は、その組成が、
M2Q4CrUL2T4SiR2K2J2O100-Q4-U-T4-R2-J2(原子%)・・(10)
(式中、M2は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、K2は窒素(N)及び炭素(C)よりなる群GK2より選ばれる少なくとも1つの元素を示し、Q4、U、T4、R2及びJ2は、0<Q4≦32、0<U≦25、0<T4≦40、0<R2≦30、0<J2≦40、25<Q4+U+T4+R2+J2<85を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。
また、上記式(9)及び(10)において、M2がZrであり、L2がGaであることが好ましい(すなわち、ZrQ4CrUGaT4O100-Q4-U-T4、ZrQ4CrUGaT4SiR2K2J2O100-Q4-U-T4-R2-J2が好ましい。)。
式(10)において、Q4、U、T4、R2及びJ2は、0<Q4≦32、0<U≦25、0<T4≦40、0<R2≦30、0<J2≦40、25<Q4+U+T4+R2+J2<85を満たすことが好ましい。式(10)で表される材料系においては、元素M2が含まれることにより耐熱性が向上するが、含有量が32原子%を超えると記録層との密着性が低下するため、元素M2の含有量は32原子%以下が好ましい。また、この材料系にCrが含まれると記録層との密着性が向上するが、C、Nが含まれる場合は透明性を低下させないように、Crの含有量を25原子%以下とすることが好ましい。また、この材料系に元素L2が含まれると酸化物系材料層の透明性が向上するが、繰り返し書換性能を低下させないように、含有量は40原子%以下が好ましい。また、Siが窒化物、炭化物として酸化物と混在すると、構造が複雑になりこの材料系の熱伝導率を下げることができる。ただし、この材料系においては、記録層との密着性を低下させないように、Siの含有量を30原子%以下とすることが好ましい。また、元素K2(C、N)は、この材料系ではSiと化合物を形成しやすいので、上記した理由により熱伝導率を低下させることができるが、透明性を低下させないために、Cの含有量は20原子%以下、Nの含有量は40原子%以下が好ましい。また、この材料系では、Nが多く含まれる場合、他の材料系と比較してOが少なくても透明性が得られる。ただし、Oが15原子%以下となると透明性が低下し、75原子%以上となるとOが余り、CやNよりもSiと結合しやすくなり熱伝導率の調整が困難となる。従って、Oは15原子%を超え、75原子%未満であることが好ましい。
上記式(1)の場合と同様に、式(9)及び(10)においても、各原子はどのような化合物として存在してもよい。例えば式(9)で表される材料では、元素M2、Cr及び元素L2の殆どは酸素原子とともに酸化物として存在していると考えられる。また、上記式(10)で表される材料では、Siは、酸化物、窒化物及び炭化物のうち少なくとも何れかとして存在していると考えられる。そこで、酸化物系材料層に含まれる上記式(9)や(10)で表される材料を以下の式(11)又は(12)で表すこともできる。
(D3)X4(Cr2O3)A2(E2)100-X4-A2(mol%)・・・(11)
(式中、D3は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、E2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、X4及びA2は、10≦X4<90、0<A2≦40、10<X4+A2≦90を満たす。)
(D3)X4(Cr2O3)A2(h)Z3(E2)100-X4-A2-Z3(mol%)(12)
(式中、D3は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、hはSi3N4及びSiCからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を示し、E2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、X4及びA2及びZ3は、10≦X4<90、0<A2≦40、0<Z3≦40、10<X4+A2+Z3≦90を満たす。)
上記式(11)及び(12)で表される材料系においては、D3が含まれることにより耐熱性が向上するが、含有量が90mol%を超えると記録層との密着性が低下するため、90mol%以下が好ましい。また、この材料系において、Cr2O3が含まれることにより記録層との密着性が向上するが、透明性の低下を抑制するために含有量を40mol%以下とすることが好ましい。また、この材料系において、E2が含まれることにより透明性が向上するが、繰り返し書換性能の低下を抑制するために含有量を90mol%未満が好ましい。また、上記式(12)で表される材料系に含まれるhによれば、構造が複雑になるため、この材料系の熱伝導率を下げることができる。ただし、透明性の低下を抑制するために、この材料系においてはhの含有量を40mol%以下とすることが好ましい。
上記式(11)及び(12)において、D3がZrO2であり、E2がGa2O3であることが好ましい。
Zr及びHfの酸化物は、いずれも透明で融点が高く、熱的安定性に優れる。各々ほぼZrO2及びHfO2として酸化物系材料層中に存在していると考えられる。このような熱的安定性に優れた材料を含む層が設けられている情報記録媒体では、情報が繰り返し書き換えられる場合でも、劣化しにくく、耐久性に優れる。ZrO2とHfO2はほぼ同じ性質を示すが、ZrO2はより低価格であるため、実用性に富む。さらにSiを含ませると、熱的安定性に加えて柔軟性も得られる。このため、繰り返し書換の際の、膜の膨張収縮に対しても強くなり、膜が割れにくくなる。Siの酸化物もまた透明性に優れている。
La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYの酸化物は、いずれもレーザ波長405nm近傍においても透明で、消衰係数はほぼ0.00である。各々La2O3、CeO2、Al2O3、Ga2O3、In2O3、MgO及びY2O3として酸化物系材料層に存在していると考えられる。これらの酸化物は、水に不溶で優れた耐湿性を示す。また、カルコゲナイド材料である記録層と良好に密着する。中でも、Ga2O3は、透明性と密着性に富む。さらにCr2O3と比較して、熱伝導性が低く、成膜速度が大きいので、実用性に優れた材料である。
本発明の第1〜第4の情報記録媒体は、記録層をさらに含み、この記録層がアモルファスと結晶の相変態を生じる相変化材料にて形成されていてもよい。利用する相変化材料としては、非可逆的相変態を生じる追記形材料でも、可逆的相変態を生じる書換形材料でもよい。書換形材料は、具体的には、Ge−Sb−Te、Ge−Sn−Sb−Te、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Bi−Te、Ge−Sb−Bi−Te、Ge−Sn−Sb−Bi−Te、Ag−In−Sb−Te及びSb−Teから選択される、いずれか1つの材料を含む。記録層の厚みは20nm以下が好ましく、より好ましくは3nmから15nmである。あるいは、磁化の反転を利用する、Tb−Fe−Co、Gd−Tb−Fe−Co、Tb−Fe、Dy−Fe−Co、Dy−Nd−Fe−Coのような光磁気材料であってもよい。また、このような記録層を含む複数の記録層(他の種類の記録層が含まれていてもよい。)が設けられていてもよい。なお、酸化物系材料層は、記録層の種類又は数によらず適用することができ、さらに、レーザ光のような光学的手段で記録する媒体のほかに、電気的手段で記録する媒体にも適用することができる。
酸化物系材料層は、記録層の少なくとも一方の面と接して配置されていてもよい。酸化物系材料層はSを含まないため、記録層と直接接して形成しても、良好な繰り返し書換性能と耐湿性を有する情報記録媒体が得られる。
次に、本発明の第1〜第4の情報記録媒体の製造方法について説明する。
本発明の第1〜第4の情報記録媒体の製造方法は、それぞれ、酸化物系材料層をスパッタリング法で形成する工程を含む方法である。スパッタリング法によれば、スパッタリングターゲットの組成と略同じ組成を有する酸化物系材料層を形成できる。したがって、この製造方法によれば、スパッタリングターゲットを適切に選択することによって所望の組成の酸化物系材料層を容易に形成できる。
本発明の第1の情報記録媒体の製造方法は、Zrと、La、Ga及びInから成る群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素と、酸素(O)とを含む酸化物系材料層を含む情報記録媒体の製造方法であって、前記酸化物系材料層を、Zrと、前記群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素と、酸素(O)とを含むスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法で形成する工程を含む。この場合のスパッタリングターゲットは、その組成が、
Zrq1L1t1O100-q1-t1(原子%)・・・(13)
(式中、L1は、前記群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、q1及びt1は、0<q1<34、0<t1<50、20<q1+t1<60を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。式(13)において、L1がGaであることがより好ましい。
また、このスパッタリングターゲットの組成は、Zr及び元素L1が酸化物として存在していると考えて、以下の式(14)で表すこともできる。
(D1)x1(E1)100-x1(mol%)・・・(14)
(式中、D1はZrの酸化物を示し、E1は前記群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、x1は、0<x1<100(好ましくは20≦x1≦80)を満たす。)
式(14)に示すスパッタリングターゲットをスパッタリングすることにより、上記式(1)で表される材料を含む酸化物系材料層を形成することができる。本発明者らの実験によると、形成された酸化物系材料層の元素組成(原子%)は、スパッタリングターゲットの表示組成(mol%)から算出される元素組成(原子%)と比較して、1原子%から2原子%、酸素が少なくてもよいことが確認された。
上記式(14)において、D1がZrO2であり、E1がGa2O3であることが好ましい(すなわち、式(14)においては、(ZrO2)x1(Ga2O3)100-x1(mol%)のスパッタリングターゲット。)。
D1が2つの酸化物を含む場合には、2つの酸化物のモル数を合わせたモル数がx1、同様に、E1が2つ以上の酸化物を含む場合には、含まれるすべての酸化物のモル数を合わせたモル数が(100−x)になる。
このようにスパッタリングターゲットを特定しているのは、Zr、群GL1より選ばれる元素及び酸素(O)を含むスパッタリングターゲットは、通常、Zrの酸化物と群GL1より選ばれる元素の酸化物の組成が表示されて供給されていることによる。また、スパッタリングターゲットの製造過程において、GaやInのような低融点な材料とZrのような高融点の材料を直接混合することは困難であり、酸化物の形態で混合してスパッタリングターゲットを製造する方法が一般的である。
また、本発明者らは、組成がそのように表示されたスパッタリングターゲットをX線マイクロアナライザーで分析して得た元素組成が、表示されている組成から算出される元素組成と略等しくなることを(即ち、組成表示(公称組成)が適正であること)を確認している。したがって、酸化物の混合物として提供されるスパッタリングターゲットもまた、本発明の第1の情報記録媒体の製造方法において好ましく用いられる。なお、以下に説明する第2〜第4の情報記録媒体の製造方法についても同様である。
本発明の第2の情報記録媒体の製造方法は、M1(但し、M1は、ZrとHfの混合物又はHfである。)と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、酸素(O)とを含む酸化物系材料層を含む情報記録媒体の製造方法であって、前記酸化物系材料層を、前記M1と、前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、酸素(O)とを含むスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法で形成する工程を含む。この場合のスパッタリングターゲットは、その組成が、
M1q2L2t2O100-q2-t2(原子%)・・・(15)
(式中、M1は、ZrとHfの混合物又はHfを示し、L2は、前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、q2及びt2は、0<q2<34、0<t2<50、20<q2+t2<60を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。式(15)において、L2がGaであることがより好ましい。
また、このスパッタリングターゲットの組成は、元素M1及びL2が酸化物として存在していると考えて、以下の式(16)で示すこともできる。
(D2)x2(E2)100-x2(mol%)・・・(16)
(式中、D2は前記M1の酸化物を示し、E2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、x2は、0<x2<100(好ましくは20≦x2≦80)を満たす。)
式(16)に示すスパッタリングターゲットをスパッタリングすることにより、上記式(3)で表される材料を含む酸化物系材料層を形成することができる。本発明者らの実験によると、形成された酸化物系材料層の元素組成(原子%)は、スパッタリングターゲットの表示組成(mol%)から算出される元素組成(原子%)と比較して、1原子%から2原子%、酸素が少なくてもよいことが確認された。
上記式(16)において、E2がGa2O3あることが好ましい。
本発明の第3の情報記録媒体の製造方法は、Zr及びHfからなる群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、Siと、酸素(O)とを含む酸化物系材料層を含む情報記録媒体の製造方法であって、前記酸化物系材料層を、前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素と、前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、Siと、酸素(O)とを含むスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法で形成する工程を含む。この場合のスパッタリングターゲットは、その組成が、
M2q3Sir1L2t3O100-q3-r1-t3(原子%)・・・(17)
(式中、M2は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、q3、r1及びt3は、0<q3≦32、0<r1≦32、3<t3<43、20<q3+r1+t3<60を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。
また、本発明の第3の情報記録媒体の製造方法においては、スパッタリングターゲットが、さらに炭素(C)、窒素(N)及びCrからなる群GKより選ばれる少なくとも一つの元素を含んでいてもよい。この場合のスパッタリングターゲットは、その組成が、
M2q3Sir1L2t3K1j1O100-q3-r1-t3―j1(原子%)・・・(18)
(式中、M2は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、K1は前記群GK1より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、q3、r1、t3及びj1は、0<q3≦32、0<r1≦35、2<t3≦40、0<j1≦40、20<q3+r1+t3+j1<80を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。
式(17)及び(18)において、M2がZrであり、L2がGaであることがより好ましい。
また、上記式(17)に示すスパッタリングターゲットの組成は、M2及びL2が酸化物として、Siが酸化物、窒化物及び炭化物の少なくとも何れかとして存在していると考えて、以下の式(19)で表すこともできる。
(D3)x3(g)z1(E2)100-x3-z1(mol%)・・・(19)
(式中、D3は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、gはSiO2、Si3N4及びSiCからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を示し、E2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、x3及びz1は、10≦x3<90(好ましくは10≦x3<70)、0<z1≦50(好ましくは0<z1≦50)、10<x3+z1≦90(好ましくは20≦x3+z1≦80)を満たす。)
式(19)に示すスパッタリングターゲットをスパッタリングすることにより、上記式(5)で表される材料を含む酸化物系材料層を形成することができる。本発明者らの実験によると、形成された酸化物系材料層の元素組成(原子%)は、スパッタリングターゲットの表示組成(mol%)から算出される元素組成(原子%)と比較して、1原子%から2原子%、酸素が少なくてもよいことが確認された。
また、上記式(18)に示すスパッタリングターゲットの組成は、以下の式(20)で表すこともできる。
(D3)x3(SiO2)z2(f)a1(E2)100-x3―z2-a1(mol%)(20)
(式中、D3は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、fはSiC、Si3N4及びCr2O3からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物を示し、E2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、x3、z2及びa1は、10≦x3<90、0<z2≦50、0<a1≦50、10<x3+z2+a1≦90を満たす。)
式(19)に示すスパッタリングターゲットをスパッタリングすることにより、上記式(6)で表される材料を含む酸化物系材料層を形成することができる。本発明者らの実験によると、形成された酸化物系材料層の元素組成(原子%)は、スパッタリングターゲットの表示組成(mol%)から算出される元素組成(原子%)と比較して、1原子%から2原子%、酸素が少なくてもよいことが確認された。
上記式(19)及び(20)において、D3がZrO2であり、E2がGa2O3であることが好ましい(すなわち、例えば式(19)においては、(ZrO2)x3(SiO2)z1(Ga2O3)100-x3-z1(mol%)のスパッタリングターゲット。)。
本発明の第4の情報記録媒体の製造方法は、Zr及びHfからなる群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、Crと、酸素(O)とを含む酸化物系材料層を含む情報記録媒体の製造方法であって、前記酸化物系材料層を、前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素と、前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、Crと、酸素(O)とを含むスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法で形成する工程を含む。この場合のスパッタリングターゲットは、その組成が、
M2q4CruL2t4O100-q4-u-t4(原子%)・・・(21)
(式中、M2は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、q4、u及びt4は、0<q4≦32、0<u≦25、0<t4≦40、20<q4+u+t4<60を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。
また、本発明の第4の情報記録媒体において用いられるスパッタリングターゲットは、窒素(N)及び炭素(C)よりなる群GK2より選ばれる少なくとも1つの元素を含んでいてもよい。この場合のスパッタリングターゲットは、その組成が、
M2q4CruL2t4Sir2K2j2O100-q4-u-t4-r2-j2(原子%)・・(22)
(式中、M2は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、K2は窒素(N)及び炭素(C)よりなる群GK2より選ばれる少なくとも1つの元素を示し、q4、u、t4、r2及びj2は、0<q4≦32、0<u≦25、0<t4≦40、0<r2≦30、0<j2≦40、25<q4+u+t4+r2+j2<85を満たす。)で表される材料を含むことが好ましい。
また、上記式(21)及び(22)において、M2がZrであり、L2がGaであることが好ましい。
上記式(21)及び(22)で表される材料を含むスパッタリングターゲットは、以下の式(23)又は(24)でそれぞれ表すこともできる。
(D3)x4(Cr2O3)a2(E2)100-x4-a2(mol%)・・・(23)
(式中、D3は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、E2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、x4及びa2は、10≦x4<90、0<a2≦40、10<x4+a2≦90を満たす。)
(D3)x4(Cr2O3)a2(h)z3(E2)100-x4-a2-z3(mol%)(24)
(式中、D3は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、hはSi3N4及びSiCからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物を示し、E2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、x4及びa2及びz3は、10≦x4<90、0<a2≦40、0<z3≦40、10<x4+a2+z3≦90を満たす。)
上記式(22)及び(23)において、D3がZrO2であり、E2がGa2O3であることが好ましい。
なお、例えば上記式(19)において、D3がZrO2で、gがSiO2で、且つx3=z1の関係にあるスパッタリングターゲットの場合、ZrO2とSiO2を略等しい割合で含むZrSiO4なる複合酸化物を含んでもよい。その他、上記式(2)、(4)、(14)、(16)及び(19)のいずれかで表される材料が、CeZrO4、Hf2La2O7、LaAlO3、LaGaO3、Mg2SiO4、MgSiO3、MgZrO3、Y3Al5O12、Y3Ga5O12、Y0.15Zr0.85O1.93及びZrSiO4のような複合酸化物を含んでもよい。例えば、MgOとSiO2の複合酸化物としてMgSiO3が、ZrO2とSiO2の複合酸化物としてZrSiO4が存在するように、2以上の酸化物から複合酸化物が形成されてもよく、より良好な熱的安定性が得られる。
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。以下の実施の形態は例示的なものであり、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1として、レーザ光を用いて情報の記録及び再生を実施する、光情報記録媒体の一例を説明する。図1に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。
図1に示す情報記録媒体25は、基板1の一方の表面に、第1の誘電体層2、記録層4、第2の誘電体層6、光吸収補正層7及び反射層8がこの順に形成され、さらに接着層9でダミー基板10が反射層8に接着された構成を有する。すなわち、反射層8は光吸収補正層7の上に形成され、光吸収補正層7は第2の誘電体層6の上に形成され、第2の誘電体層6は記録層4の上に形成され、記録層4は第1の誘電体層2の上に形成されている。この構成の情報記録媒体は、波長660nm付近の赤色域のレーザビームで情報を記録再生する、4.7GB/DVD−RAMとして使用できる。この構成の情報記録媒体25には、基板1側からレーザ光12が入射され、それにより情報の記録及び再生が実施される。情報記録媒体25は、第1の界面層103及び第2の界面層105を有していない点において図12に示す従来の情報記録媒体31と相違する。
実施の形態1においては、第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6がともに酸化物系材料層である。上述したように、酸化物系材料層は、次の4つのうちの何れかである。
(I)Zrと、La、Ga及びInから成る群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素と、酸素(O)とを含む酸化物系材料層
(II)M1(但し、M1は、ZrとHfの混合物又はHfである。)と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、酸素(O)とを含む酸化物系材料層
(III)Zr及びHfからなる群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、Siと、酸素(O)とを含む酸化物系材料層
(IV)Zr及びHfからなる群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、Crと、酸素(O)とを含む酸化物系材料層
一般に、誘電体層の材料には、透明であること、融点が高く、記録の際に溶融しないこと、及びカルコゲナイド材料である記録層との密着性が良好であること、が要求される。透明であることは、基板1側から入射されたレーザ光12を通過させて記録層4に到達させるために必要な特性である。この特性は、特に入射側の第1の誘電体層に要求される。高い融点は、ピークパワーレベルのレーザ光を照射したときに、誘電体層の材料が記録層に混入しないことを確保するために必要な特性であり、第1及び第2の誘電体層の両方に求められる。誘電体層の材料が記録層に混入すると、繰り返し書き換え性能が著しく低下する。カルコゲナイド材料である記録層との密着性が良好であることは、情報記録媒体の信頼性を確保するために必要な特性であり、第1及び第2の誘電体層の両方に求められる。さらに、誘電体層の材料は、得られる情報記録媒体が、従来の情報記録媒体(即ち、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)から成る誘電体層と記録層との間に界面層が位置する媒体)と同等かそれ以上の記録感度を有するように選択する必要がある。
上記(I)〜(IV)の酸化物系材料層に含まれる成分のうち、Zr及びHfのそれぞれの酸化物はいずれも、透明で融点が高く、熱安定性に優れる。したがって、これらの化合物によれば、情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を確保できる。また、上記(I)〜(IV)の酸化物系材料層に含まれる成分のうち、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYのそれぞれの酸化物も透明で、記録層との密着性、耐湿性に優れている。したがって、これらの化合物によれば、情報記録媒体の耐湿性を確保できる。Zr及びHfのそれぞれの酸化物には、例えば、ZrO2及びHfO2がそれぞれ含まれる。La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYのそれぞれの酸化物には、例えば、La2O3、CeO2、Al2O3、Ga2O3、In2O3、MgO及びY2O3がそれぞれ含まれる。さらに、SiO2を含んでもよい。これらの酸化物の融点は(文献値)、ZrO2及びHfO2が約2700℃、La2O3が約2300℃、CeO2が約2000℃、Al2O3が約2000℃、Ga2O3が約1700℃、In2O3が約1900℃、MgOが約2800℃、Y2O3が約2400℃及びSiO2が約1700℃である。いずれも記録層の融点500〜700℃よりも十分に高く、記録の際に溶けて記録層に拡散する可能性は極めて低い。また、これら2以上の元素の酸化物を含み、複合酸化物を形成していてよい。例えば、ZrO2とSiO2が略等しい割合で含まれたZrSiO4、MgOとSiO2が略等しい割合で含まれたMgSiO3を形成してもよい。
これらの酸化物を混合した材料を含む層を、第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6とし、これらを図示するように記録層4と接するように形成することによって、繰り返し書き換え性能に優れ、且つ記録層と誘電体層との間の密着性が良好である情報記録媒体25を実現できる。
誘電体層2、6として上記(I)の酸化物系材料層を用いる場合、この酸化物系材料層は、ZrQ1L1T1O100-Q1-T1(原子%)(式中、L1は、前記群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q1及びT1は、0<Q1<34、0<T1<50、20<Q1+T1<60を満たす。)で表される材料を含む。Zrが34原子%以上含まれると、密着性が悪くなる。元素L1が50原子%以上含まれると、繰り返し書換性能が悪化する。また、酸素(O)が40原子%に満たないと、透明性が低下する。より好ましくは、4<Q1<24、6<T1<37、30<Q1+T1<50である。
また、誘電体層2、6として上記(II)の酸化物系材料層を用いる場合、この酸化物系材料層は、M1Q2L2T2O100-Q2-T2(原子%)(式中、M1は、ZrとHfの混合物又はHfを示し、L2は、前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q2及びT2は、0<Q2<34、0<T2<50、20<Q2+T2<60を満たす。)で表される材料を含む。M1が34原子%以上含まれると、密着性が悪くなる。元素L2が50原子%以上含まれると、繰り返し書換性能が悪化する。また、酸素(O)が40原子%に満たないと、透明性が低下する。より好ましくは、4<Q2<24、6<T2<37、30<Q2+T2<50である。
上記(I)及び(II)の酸化物系材料層の成分元素としては、例えば、Zr−La−O、Zr−Hf−La−O、Hf−La−O、Zr−Hf−Ce−O、Hf−Ce−O、Zr−Hf−Al−O、Hf−Al−O、Zr−Ga−O、Zr−Hf−Ga−O、Hf−Ga−O、Zr−In−O、Zr−Hf−In−O、Hf−In−O、Zr−Hf−Mg−O、Hf−Mg−O、Zr−Hf−Y−O、Hf−Y−Oなどがあり、いずれも2つ以上の酸化物が混合された形態で層中に存在していると考えられる。酸化物系材料層をX線マイクロアナライザーなどで組成分析すると、各元素の原子%(Q1,T1,100−Q1−T1,Q2,T2,100−Q2−T2)が得られる。たとえば、Zr−Ga−Oの場合には、ほぼZrO2−Ga2O3として存在していると考えられる。Zr−Ga−Oは、高透明性、低熱伝導性、高密着性及び高成膜速度を有する優れた材料である。
Zr−Ga−O以外の他の材料についても、次のような混合材料になって存在していると考えられる。ZrO2−La2O3、ZrO2−HfO2−La2O3、HfO2−La2O3、ZrO2−HfO2−CeO2、HfO2−CeO2、ZrO2−HfO2−Al2O3、HfO2−Al2O3、ZrO2−Ga2O3、ZrO2−HfO2−Ga2O3、HfO2−Ga2O3、ZrO2−In2O3、ZrO2−HfO2−In2O3、HfO2−In2O3、ZrO2−HfO2−MgO、HfO2−MgO、ZrO2−HfO2−Y2O3、HfO2−Y2O3などが挙げられる。
誘電体層2、6として上記(III)の酸化物系材料層を用いる場合、この酸化物系材料層は、M2Q3SiR1L2T3O100-Q3-R1-T3(原子%)(式中、M2は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q3、R1及びT3は、0<Q3≦32、0<R1≦32、3<T3<43、20<Q3+R1+T3<60を満たす。)で表される材料を含む。元素M2又はSiが32原子%より多く含まれると、密着性が悪くなる。元素L2が43原子%以上含まれると、繰り返し書換性能が悪化する。また、酸素(O)が40原子%に満たないと、透明性が低下する。より好ましくは、0<Q3<25、0<R1<25、6<T3<37、30<Q3+R1+T3<50である。
上記(III)の酸化物系材料層の成分元素としては、例えば、Zr−Si−La−O、Zr−Si−Hf−La−O、Hf−Si−La−O、Zr−Si−Ce−O、Zr−Si−Hf−Ce−O、Hf−Si−Ce−O、Zr−Si−Al−O、Zr−Si−Hf−Al−O、Hf−Si−Al−O、Zr−Si−Ga−O、Zr−Si−Hf−Ga−O、Hf−Si−Ga−O、Zr−Si−In−O、Zr−Si−Hf−In−O、Hf−Si−In−O、Zr−Si−Mg−O、Zr−Si−Hf−Mg−O、Hf−Si−Mg−O、Zr−Si−Y−O、Zr−Hf−Si−Y−O、Hf−Si−Y−O、Zr−Si−Ga−Y−Oなどがあり、いずれも2つ以上の酸化物が混合された形態で層中に存在していると考えられる。たとえば、Zr−Si−Ga−Oの場合には、ほぼZrO2−SiO2−Ga2O3として存在していると考えられる。特に、Zr−Si−Ga−Oは、高透明性、低熱伝導性、高密着性、高繰り返し書換性能及び高成膜速度を有し優れた材料である。
Zr−Si−Ga−O以外の他の材料についても、次のような混合材料になって存在していると考えられる。ZrO2−SiO2−La2O3、ZrO2−HfO2−SiO2−La2O3、HfO2−SiO2−La2O3、ZrO2−SiO2−CeO2、ZrO2−HfO2−SiO2−CeO2、HfO2−SiO2−CeO2、ZrO2−SiO2−Al2O3、ZrO2−HfO2−SiO2−Al2O3、HfO2−SiO2−Al2O3、ZrO2−SiO2−Ga2O3、ZrO2−HfO2−SiO2−Ga2O3、HfO2−SiO2−Ga2O3、ZrO2−SiO2−In2O3、ZrO2−HfO2−SiO2−In2O3、HfO2−SiO2−In2O3、ZrO2−SiO2−MgO(ZrO2−MgSiO3)、ZrO2−HfO2−SiO2−MgO、HfO2−SiO2−MgO、ZrO2−SiO2−Y2O3、ZrO2−HfO2−SiO2−Y2O3、HfO2−SiO2−Y2O3、ZrO2−SiO2−Ga2O3−Y2O3などが挙げられる。
上記(III)の酸化物系材料層には、さらにC、N及びCrからなる群GK1より選ばれる少なくとも一つの元素K1が含まれていてもよい。この酸化物系材料層は、M2Q3SiR1L2T3K1J1O100-Q3-R1-T3―J1(原子%)(式中、M2は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、K1は前記群GK1より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q3、R1、T3及びJ1は、0<Q3≦32、0<R1≦35、2<T3≦40、0<J1≦40、20<Q3+R1+T3+J1<80を満たす。)で表される材料を含む。元素M2とSiの酸化物を含めると繰り返し書換性能が向上し、Siの酸化物は透明性を向上させる働きも有する。また、元素L2の酸化物は、透明性が高く、記録層との密着性にも優れている。さらに、元素K1を含めることにより、酸化物系材料層の熱伝導率を小さくしたり、記録層との密着性をさらに向上させたりする効果が得られる。具体的には、元素K1がCの場合、Siの炭化物が元素M2及びL2の酸化物と共に存在し、互いに混ざることなく複雑な構造を形成することが期待される。同様に、元素K1がNの場合、Siの窒化物が元素M2及びL2の酸化物と共に存在し、互いに混ざることなく複雑な構造を形成することが期待される。構造が複雑になることで熱が伝わりにくくなり、熱伝導率を小さくすることができると考えられる。また、群GK1に含まれるCrの酸化物は記録層との密着性がよい。これらのことから、M2Q3SiR1L2T3K1J1O100-Q3-R1-T3―J1(原子%)系は優れた酸化物系材料層である。なお、上記に好ましい原子濃度を示したが、元素M1が32原子%よりも多く、又はSiが35原子%より多く含まれると記録層との密着性が悪くなり、元素L2が40原子%以上含まれると繰り返し書換性能が悪化する。さらに、元素K1が40原子%を超えると透明性が低下する。また、この酸化物系材料層では、酸素(O)が20原子%に満たないと透明性が低下する。より好ましい原子濃度は、0<Q3<25、0<R1<25、6<T3<37、0<J1<35、30<Q3+R1+T3+J1<50である。
上記(III)の酸化物系材料層に元素Kが含まれている場合の成分元素としては、例えば、Zr−Si−La−Cr−O、Zr−Si−La−N−O、Zr−Si−La−C−O、Zr−Si−Ga−Cr−O、Zr−Si−La−N−O、Zr−Si−La−C−O、Zr−Si−Y−Cr−O、Zr−Si−Y−N−O、Zr−Si−Y−C−O、などがあり、いずれも2つ以上の酸化物が混合された形態で層中に存在していると考えられる。たとえば、Zr−Si−La−Cr−Oの場合には、ほぼZrO2−SiO2−La2O3−Cr2O3として存在していると考えられる。また、特に、Zr−Si−Ga−Cr−Oは、高透明性、低熱伝導性、高密着性、高繰り返し書換性能性及び高成膜速度を有し、優れた材料である。
Zr−Si−La−Cr−O以外の他の材料についても、次のような混合材料になって存在していると考えられる。ZrO2−SiO2−La2O3−Si3N4、ZrO2−SiO2−La2O3−SiC、ZrO2−SiO2−Ga2O3−Si3N4、ZrO2−SiO2−Ga2O3−SiC、ZrO2−SiO2−Ga2O3−Cr2O3、ZrO2−SiO2−In2O3−Si3N4、ZrO2−SiO2−In2O3−SiC、ZrO2−SiO2−In2O3−Cr2O3、また、HfO2−SiO2−La2O3−Si3N4、HfO2−SiO2−La2O3−SiC、HfO2−SiO2−La2O3−Cr2O3、HfO2−SiO2−Ga2O3−Si3N4、HfO2−SiO2−Ga2O3−SiC、HfO2−SiO2−Ga2O3−Cr2O3、HfO2−SiO2−In2O3−Si3N4、HfO2−SiO2−In2O3−SiC、HfO2−SiO2−In2O3−Cr2O3などが挙げられる。
また、Siが炭化物もしくは窒化物のみを形成していてもよく、その場合は、次のような混合材料になって存在していると考えられる。ZrO2−La2O3−Si3N4、ZrO2−La2O3−SiC、ZrO2−Ga2O3−Si3N4、ZrO2−Ga2O3−SiC、ZrO2−In2O3−Si3N4、ZrO2−In2O3−SiC、ZrO2−In2O3−Cr2O3、また、HfO2−CeO2−Si3N4、HfO2−CeO2−SiC、HfO2−Al2O3−Si3N4、HfO2−Ga2O3−Si3N4、HfO2−Ga2O3−SiC、HfO2−In2O3−Si3N4、HfO2−In2O3−SiCなどが挙げられる。
誘電体層2、6として上記(IV)の酸化物系材料層を用いる場合、この酸化物系材料層は、例えばM2Q4CrUL2T4O100-Q4-U-T4(原子%)(式中、M2はZr及びHfからなる群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q4、U及びT4は、0<Q4≦32、0<U≦25、0<T4≦40、20<Q4+U+T4<60を満たす。)で表される材料を含む。元素M4が32原子%より多く含まれると、特に記録層との密着性が悪くなる。Crを含めると記録層との密着性がより向上する。Crが25原子%よりも多くなると、酸化物系材料層の透明性が低下する。元素L2が40原子%以上含まれると、繰り返し書換性能が悪化する。また、酸素(O)が40原子%に満たないと、透明性が低下する。より好ましくは、0<Q4<25、0<U<18、6<T4<20、30<Q4+U+T4<50である。
この場合の酸化物系材料層の成分元素としては、例えば、Zr−Cr−La−O、Zr−Cr−Hf−La−O、Hf−Cr−La−O、Zr−Cr−Ce−O、Zr−Cr−Hf−Ce−O、Hf−Cr−Ce−O、Zr−Cr−Al−O、Zr−Cr−Hf−Al−O、Hf−Cr−Al−O、Zr−Cr−Ga−O、Zr−Cr−Hf−Ga−O、Hf−Cr−Ga−O、Zr−Cr−In−O、Zr−Cr−Hf−In−O、Hf−Cr−In−O、Zr−Cr−Hf−Mg−O、Hf−Cr−Mg−O、Zr−Cr−Mg−O、Zr−Cr−Y−O、Zr−Hf−Cr−Y−O、Hf−Cr−Y−O、などがあり、いずれも2つ以上の酸化物が混合された形態で層中に存在していると考えられる。たとえば、Zr−Cr−Ga−Oの場合には、ほぼZrO2−Cr2O3−Ga2O3として存在していると考えられる。特に、Zr−Cr−Ga−Oは、高透明性、低熱伝導性、高密着性、高繰り返し書換性能及び高成膜速度を有し、優れた材料である。
Zr−Cr−Ga−O以外の他の材料についても、次のような混合材料になって存在していると考えられる。ZrO2−Cr2O3−La2O3、ZrO2−HfO2−Cr2O3−La2O3、HfO2−Cr2O3−La2O3、ZrO2−Cr2O3−CeO2、ZrO2−HfO2−Cr2O3−CeO2、HfO2−Cr2O3−CeO2、ZrO2−Cr2O3−Al2O3、ZrO2−HfO2−Cr2O3−Al2O3、HfO2−Cr2O3−Al2O3、ZrO2−Cr2O3−Ga2O3、ZrO2−HfO2−Cr2O3−Ga2O3、HfO2−Cr2O3−Ga2O3、ZrO2−Cr2O3−In2O3、ZrO2−HfO2−Cr2O3−In2O3、HfO2−Cr2O3−In2O3、ZrO2−Cr2O3−MgO、ZrO2−HfO2−Cr2O3−MgO、HfO2−Cr2O3−MgO、ZrO2−Cr2O3−Y2O3、ZrO2−HfO2−Cr2O3−Y2O3、HfO2−Cr2O3−Y2O3、ZrO2−Cr2O3−Ga2O3−Y2O3などが挙げられる。
図7に、式(1)又は(3)で表される材料の組成範囲を示す。図7において、座標は(M、L、O)で、単位は原子%である。座標MはZr又は元素M1を示し、座標Lは元素L1又はL2を示している。この図において、式(1)又は(3)で表される材料は、a(34、26、40)、b(10、50、40)、c(0、50、50)、d(0、20、80)、e(20、0、80)、f(34、0、66)で囲まれる範囲(線上を含まない)内の材料である。
上記(I)の酸化物系材料層は、Zrの酸化物と、上記群GL1より選ばれる元素の酸化物とを、合わせて90mol%以上含むことが好ましい。上記(II)の酸化物系材料層は、M1の酸化物と、上記群GL2より選ばれる元素の酸化物とを、合わせて90mol%以上含むことが好ましい。上記(III)の酸化物系材料層は、上記群GM2より選ばれる元素の酸化物と、上記群GL2より選ばれる元素の酸化物と、Siの酸化物とを、合わせて90mol%以上含むことが好ましい。上記(IV)の酸化物系材料層は、上記群GM2より選ばれる元素の酸化物と、上記群GL2より選ばれる元素の酸化物と、Crの酸化物とを、合わせて90mol%以上含むことが好ましい。これらの化合物を合わせて90mol%以上含む層は、それ以外の第三成分を含んでいても、その熱安定性及び耐湿性は変わらず、第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6として好ましく用いられる。第三成分は、酸化物系材料層を形成する際に不可避的に含まれるもの、添加されてよいもの、又は不可避的に形成されるものである。第三成分として、例えば、誘電体、金属、半金属、半導体及び/又は非金属が酸化物系材料層に含まれる。誘電体は10mol%程度含まれていてもよく、金属の含有量は2mol%以下が好ましい。また、半金属、半導体、非金属の含有量は、5mol%以下が好ましい。
第三成分として含まれる誘電体は、より具体的には、Bi2O3、Cr2O3、CuO、Cu2O、Er2O3、FeO、Fe2O3、Fe3O4、Ho2O3、GeO、GeO2、In2O3とSnO2の混合物、Mn3O4、Nb2O5、Nd2O3、NiO、Sb2O3、Sb2O4、Sc2O3、SiO2、Sm2O3、SnO、SnO2、Ta2O5、Tb4O7、TeO2、TiO2、WO3、Yb2O3、ZnO、AlN、BN、CrN、Cr2N、HfN、NbN、Si3N4、TaN、TiN、VN、ZrN、B4C、Cr3C2、HfC、Mo2C、NbC、SiC、TaC、TiC、VC、W2C、WC、及びZrCである。
第三成分として含まれる金属は、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy及びYbである。
第三成分として含まれる半金属及び半導体は、より具体的には、B、Al、C、Si、Ge及びSnである。第三成分として含まれる非金属は、より具体的には、Sb、Bi、Te及びSeである。
第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6は、各々の光路長(即ち、誘電体層の屈折率nと誘電体層の膜厚dとの積nd)を変えることにより、結晶相の記録層4の光吸収率Ac(%)と非晶質相の記録層4の光吸収率Aa(%)、記録層4が結晶相であるときの情報記録媒体25の光反射率Rc(%)と記録層4が非晶質相であるときの情報記録媒体25の光反射率Ra(%)、記録層4が結晶相である部分と非晶質相である部分の情報記録媒体25の光の位相差Δφを調整する機能を有する。記録マークの再生信号振幅を大きくして、信号品質を上げるためには、反射率差(|Rc−Ra|)又は反射率比(Rc/Ra)が大きいことが望ましい。また、記録層4がレーザ光を吸収するように、Ac及びAaも大きいことが望ましい。これらの条件を同時に満足するように第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6の光路長を決定する。それらの条件を満足する光路長は、例えばマトリクス法(例えば久保田広著「波動光学」岩波新書、1971年、第3章を参照)に基づく計算によって正確に決定することができる。
以上において説明した、酸化物系材料層は、その組成に応じて異なる屈折率を有する。誘電体層の屈折率をn、膜厚をd(nm)、レーザ光12の波長をλ(nm)とした場合、光路長ndは、nd=aλで表される。ここで、aは正の数とする。情報記録媒体25の記録マークの再生信号振幅を大きくして信号品質を向上させるには、例えば、15%≦Rc且つRa≦2%であることが好ましい。また、書き換えによるマーク歪みを無くす又は小さくするには、1.1≦Ac/Aaであることが好ましい。これらの好ましい条件が同時に満たされるように第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6の光路長(aλ)を、マトリクス法に基づく計算により正確に求めた。得られた光路長(aλ)、ならびにλ及びnから、誘電体層の厚さdを求めた。その結果、例えば、ZrQ3SiR1GaT3O100-Q3-R1-T3(原子%)((ZrO2)X3(SiO2)Z1(Ga2O3)100-X3-Z1(mol%)と表すことができる。)で表され、屈折率nが1.7〜2.3である材料で、第1の誘電体層2を形成する場合、その厚さは、好ましくは100nm〜200nmであることが判った。また、この材料で第2の誘電体層6を形成する場合、その厚さは、好ましくは、20〜80nmであることが判った。
なお、実施の形態1における情報記録媒体は、一例として、第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6の両方に、本発明の酸化物系材料層を用いているが、各々の誘電体層に、同じ材料、又は構成元素が同じで組成比が異なる材料、又は構成元素が異なる材料を用いることも可能である。例えば、第1の誘電体層2及び6にZr6Si6Ga25O63(原子%)を用いてもよいし、第1の誘電体層2にZr16Si4Ga17O63(原子%)を、第2の誘電体層6にZr3Si13Ga21O63(原子%)を用いてもよいし、第1の誘電体層2にZr13Ga13Y12O62(原子%)を、第2の誘電体層6にHf3Zr5Si8La12Mg10O62(原子%)を用いてもよい。
基板1は、通常、透明な円盤状の板である。誘電体層及び記録層等を形成する側の表面には、レーザ光を導くための案内溝が形成されていてもよい。案内溝を基板に形成した場合、基板の断面を見ると、グルーブ部とランド部とが形成される。本明細書においては、レーザ光12に近い側にある面を便宜的に「グルーブ面」と呼び、レーザ光から遠い側にある面を便宜的に「ランド面」と呼ぶ。図1においては、基板の案内溝の底面23がグルーブ面に相当し、頂面24がランド面に相当する。後述の図2、3及び4においても同様である。
図1に示す態様において基板1のグルーブ面23とランド面24の段差は、40nm〜60nmであることが好ましい。後述する図2、図3及び図4に示す態様の情報記録媒体を構成する基板1においても、グルーブ面23とランド面24との段差はこの範囲であることが好ましい。グルーブ−ランド間の距離(グルーブ面23の中心からランド面24の中心まで)は、例えば4.7GB/DVD−RAMの場合、約0.615μmである。また、層を形成しない側の表面は、平滑であることが望ましい。
基板1の材料として、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィンもしくはポリメチルメタクリレート(PMMA)のような樹脂、又はガラスを挙げることができる。成形性、価格、及び機械強度を考慮すると、ポリカーボネートが好ましく使用される。図示した形態において、基板1の厚さは、0.5〜0.7mm程度である。
記録層4は、光の照射又は電気的エネルギーの印加によって、結晶相と非晶質相との間で相変態を起こし、記録マークが形成される層である。相変態が可逆的であれば、消去や書き換えを行うことができる。
可逆的相変態材料としては、高速結晶化材料である、Ge−Sb−TeもしくはGe−Sn−Sb−Teを用いることが好ましい。具体的には、Ge−Sb−Teの場合、GeTe−Sb2Te3擬二元系組成であることが好ましく、その場合、Sb2Te3≦GeTe≦50Sb2Te3であることが好ましい。GeTe<Sb2Te3の場合、記録前後の反射光量の変化が小さく、読み出し信号の品質が低下する。50Sb2Te3<GeTeの場合、結晶相と非晶質相間の体積変化が大きく、繰り返し書き換え性能が低下する。
Ge−Sn−Sb−Teは、Ge−Sb−Teよりも結晶化速度が速い。Ge−Sn−Sb−Teは、例えば、GeTe−Sb2Te3擬二元系組成のGeの一部をSnで置換したものである。記録層4において、Snの含有量は、20原子%以下であることが好ましい。20原子%を越えると、結晶化速度が速すぎて、非晶質相の安定性が損なわれ、記録マークの信頼性が低下する。Snの含有量は記録条件に合わせて調整することができる。
また、記録層4は、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Bi−Te、Ge−Sb−Bi−Te、又はGe−Sn−Sb−Bi−TeのようなBiを含む材料で形成することもできる。BiはSbよりも結晶化しやすい。したがって、Sbの少なくとも一部をBiで置換することによっても、記録層の結晶化速度を向上させることができる。
Ge−Bi−Teは、GeTeとBi2Te3の混合物である。この混合物においては、4Bi2Te3≦GeTe≦50Bi2Te3であることが好ましい。GeTe<4Bi2Te3の場合、結晶化温度が低下し、記録保存性が劣化しやすくなる。50Bi2Te3<GeTe の場合、結晶相と非晶質相間の体積変化が大きく、繰り返し書き換え性能が低下する。
Ge−Sn−Bi−Teは、Ge−Bi−TeのGeの一部をSnで置換したものに相当する。Snの置換濃度を調整して、記録条件に合わせて結晶化速度を制御することが可能である。Sn置換は、Bi置換と比較して、記録層の結晶化速度の微調整により適している。記録層において、Snの含有量は10原子%以下であることが好ましい。10原子%を越えると、結晶化速度が速くなりすぎるために、非晶質相の安定性が損なわれ、記録マークの保存性が低下する。
Ge−Sn−Sb−Bi−Teは、Ge−Sb−TeのGeの一部をSnで置換し、さらにSbの一部をBiで置換したものに相当する。これは、GeTe、SnTe、Sb2Te3及びBi2Te3の混合物に相当する。この混合物においては、Sn置換濃度とBi置換濃度を調整して、記録条件に合わせて結晶化速度を制御することが可能である。Ge−Sn−Sb−Bi−Teにおいては、2(Sb−Bi)2Te3≦(Ge−Sn)Te≦50(Sb−Bi)2Te3であることが好ましい。(Ge−Sn)Te<2(Sb−Bi)2Te3の場合、記録前後の反射光量の変化が小さく、読み出し信号品質が低下する。50(Sb−Bi)2Te3<(Ge−Sn)Teの場合、結晶相と非晶質相間の体積変化が大きく、繰り返し書き換え性能が低下する。また、記録層において、Biの含有量は10原子%以下であることが好ましく、Snの含有量は20原子%以下であることが好ましい。Bi及びSnの含有量がそれぞれこの範囲内にあれば、良好な記録マークの保存性が得られる。
可逆的に相変態を起こす材料としては、その他に、Ag−In−Sb−Te、Ag−In−Sb−Te−Ge、及びSbを70原子%以上含有するSb−Teを含む材料が挙げられる。
非可逆的相変態材料としては、例えば日本国特許公報平7−25209公報(特許第2006849号)に開示されるように、TeOx+α(αはPd、Ge等である)を用いることが好ましい。記録層が非可逆的相変態材料である情報記録媒体は、記録が一度だけ可能である、いわゆるライトワンスタイプのものである。そのような情報記録媒体においても、記録時の熱により誘電体層中の原子が記録層中に拡散して、信号の品質を低下させるという問題がある。したがって、本発明は、書き換え可能な情報記録媒体だけでなく、ライトワンス型の情報記録媒体にも好ましく適用される。
記録層4が可逆的に相変態する材料から成る場合(即ち、情報記録媒体が書き換え可能な情報記録媒体である場合)には、前記のように、記録層4の厚さは20nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがより好ましい。
なお、記録層は、磁場の印加と光の照射で記録消去再生を行う光磁気材料を用いてもよい。その材料としては、Tb、Gd、Dy、Nd、Smより成る希土類金属群のうちの少なくとも一つの元素と、Sc、Cr、Fe、Co、Niより成る遷移金属群のうちの少なくとも一つの元素とを含む材料を用いることができる。具体的には、Tb−Fe、Tb−Fe−Co、Gd−Fe、Gd−Fe−Co、Dy−Fe−Co、Nd―Fe―Co、Sm−Co、Tb−Fe−Ni、Gd−Tb−Fe−Co、Dy−Sc−Fe−Coなどが挙げられる。記録層の材料が光磁気材料である場合、情報記録媒体の構成は図1から図6と必ずしも一致しないが、記録材料や層構成によらず、本発明の酸化物系材料層は誘電体層として用いることができる。
光吸収補正層7は、前記のように、記録層4が結晶状態であるときの光吸収率Acと非晶質状態であるときの光吸収率Aaの比Ac/Aaを調整し、書き換え時にマーク形状が歪まないようにする働きがある。光吸収補正層7は、屈折率が高く、且つ適度に光を吸収する材料で形成されることが好ましい。例えば、屈折率nが3以上6以下、消衰係数kが1以上4以下である材料を用いて、光吸収補正層7を形成できる。具体的には、Ge−Cr、Ge−Mo、及びGe−W等の非晶質のGe合金、Si−Cr、Si−Mo、及びSi−W等の非晶質のSi合金、Te化物、ならびにTi、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、W、SnTe、及びPbTe等の結晶性の金属、半金属及び半導体材料から選択される材料を使用することが好ましい。光吸収補正層7の膜厚は、20nm〜60nmであることが好ましい。
反射層8は、光学的には記録層4に吸収される光量を増大させ、熱的には記録層4で生じた熱を速やかに拡散させて記録層4を急冷し、非晶質化し易くする機能を有する。さらに、反射層8は、光吸収補正層7,記録層4、誘電体層2及び6を含む多層膜を使用環境から保護する。反射層8の材料としては、例えば、Al、Au、Ag、及びCu等の熱伝導率の高い単体金属材料が挙げられる。反射層8は、その耐湿性を向上させる目的で、及び/又は熱伝導率又は光学特性(例えば、光反射率、光吸収率又は光透過率)を調整する目的で、上記の金属材料から選択される1つ又は複数の元素に、他の1つ又は複数の元素を添加した材料を使用して形成してよい。具体的には、Al−Cr、Al−Ti、Ag−Pd、Ag−Pd−Cu、Ag−Pd−Ti、又はAu−Cr等の合金材料を用いることができる。これらの材料は何れも耐食性に優れ且つ急冷機能を有し優れた材料である。同様の目的は、反射層8を2以上の層で形成することによっても達成され得る。反射層8の厚さは50〜180nmであることが好ましく、60nm〜120nmであることがより好ましい。
図示した情報記録媒体25において、接着層9は、ダミー基板10を反射層8に接着するために設けられる。接着層9は、耐熱性及び接着性の高い材料、例えば、紫外線硬化性樹脂等の接着樹脂を用いて形成してよい。具体的には、アクリル樹脂を主成分とする材料又はエポキシ樹脂を主成分とする材料で、接着層9を形成してよい。また、必要に応じて、接着層9を形成する前に、紫外線硬化性樹脂よりなる、厚さ2〜20μmの保護層を反射層8の表面に設けてもよい。接着層9の厚さは好ましくは15〜40μmであり、より好ましくは20〜35μmである。
ダミー基板10は、情報記録媒体25の機械的強度を高めるとともに、第1の誘電体層102から反射層8までの積層体を保護する。ダミー基板10の好ましい材料は、基板1の好ましい材料と同じである。ダミー基板10を貼り合わせた情報記録媒体25において、機械的な反り、及び歪み等が発生しないように、ダミー基板10と基板1は、実質的に同一材料で形成され、同じ厚さを有することが好ましい。
実施の形態1の情報記録媒体は、1つの記録層を有する片面構造ディスクである。本発明の情報記録媒体は、2つの記録層を有してよい。例えば、実施の形態1において反射層8まで積層したものを、反射層8同士を対向させて、接着層を介して貼り合わせることによって、両面構造の情報記録媒体が得られる。この場合、2つの積層体の貼り合わせは、接着層を遅効性樹脂で形成し、圧力と熱の作用を利用して実施する。反射層8の上に保護層を設ける場合には、保護層まで形成した積層体を、保護層同士を対向させて貼り合わせることにより、両面構造の情報記録媒体を得る。
続いて、実施の形態1の情報記録媒体25を製造する方法を説明する。情報記録媒体25は、案内溝(グルーブ面23とランド面24)が形成された基板1(例えば、厚さ0.6mm)を成膜装置に配置し、基板1の案内溝が形成された表面に第1の誘電体層2を成膜する工程(工程a)、記録層4を成膜する工程(工程b)、第2の誘電体層6を成膜する工程(工程c)、光吸収補正層7を成膜する工程(工程d)及び反射層8を成膜する工程(工程e)を順次実施し、さらに、反射層8の表面に接着層9を形成する工程、及びダミー基板10を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。以下の説明を含む本明細書において、各層に関して、「表面」というときは、特に断りのない限り、各層が形成されたときに露出している表面(厚さ方向に垂直な表面)を指すものとする。
最初に、基板1の案内溝が形成された面に、第1の誘電体層2を成膜する工程aを実施する。工程aは、スパッタリングにより実施される。ここで、まず、本実施の形態において用いられるスパッタリング装置の一例について説明する。図11にはスパッタ装置を用いて成膜する様子が示されている。図11に示すように、このスパッタ装置では、真空容器39に排気口32を通して真空ポンプ(図示せず)が接続され、真空容器39内を高真空に保つことができるようになっている。ガス供給口33からは、一定流量のガスを供給できるようになっている。基板35(ここでの基板とは、膜を体積させるための基材のことである。)は陽極34に載置されている。真空容器39を接地することにより、真空容器39及び基板35が陽極に保たれている。スパッタリングターゲット36は陰極37に接続されており、スイッチ(図示せず)を介して電源に接続されている。陽極34と陰極37との間に所定の電圧を加えることにより、スパッタリングターゲット36から放出された粒子により基板35上に薄膜が形成できる。なお、以下の工程のスパッタリングでも、同様の装置を用いることができる。
工程aでのスパッタリングは、高周波電源を用いて、Arガス雰囲気で実施する。スパッタリングは、Arガスに5%以下の酸素ガスもしくは窒素ガスのうち少なくともいずれか1つのガスが混合された、混合ガス雰囲気中で実施してよい。スパッタリングターゲットが酸化物の混合体であるため、反応性スパッタリングは不要であり、Arガスのみの雰囲気中でも酸化物系材料層が形成できる。スパッタリングの条件としては、要素が少ないので、条件を決定しやすく、量産に適している。5%を超える酸素ガス及び/又は窒素ガスをArガスに混合すると、元素によっては所望の価数と異なる形態の酸化物が形成され、所望の特性を有する酸化物系材料層が形成されない場合がある。スパッタリングが安定に持続すれば、パルス発生形の直流電源を用いてもよい。
工程aで使用されるスパッタリングターゲットとしては、次の4つのうち何れかを用いることができる。
(i)Zrと、La、Ga及びInから成る群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素と、酸素(O)とを含むスパッタリングターゲット(例えば、Zrの酸化物と群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物とを含むスパッタリングターゲット)
(ii)M1(但し、M1は、ZrとHfの混合物又はHfである。)と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、酸素(O)とを含むスパッタリングターゲット(例えば、M1の酸化物と群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物とを含むスパッタリングターゲット)
(iii)Zr及びHfからなる群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、Siと、酸素(O)とを含むスパッタリングターゲット(例えば、群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物と、群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物と、Siの酸化物とを含むスパッタリングターゲット)
(iv)Zr及びHfからなる群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素と、Crと、酸素(O)とを含むスパッタリングターゲット(例えば、群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物と、群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物と、Crの酸化物とを含むスパッタリングターゲット)
また、(i)〜(iv)のスパッタリングターゲットについては、必須元素の酸化物(例えば(i)の場合はZrの酸化物と群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物)を合わせて98mol%以上含むものが好ましい。この場合、残りの2mol%未満には、酸化物系材料層に含んでもよい前記の第三成分が含まれていてもよい。
詳しくは、例えば、(D1)x1(E1)100-x1(mol%)(式中、D1はZrの酸化物を示し、E1は前記群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、x1は、0<x1<100を満たす。)で表すことができる材料を含むスパッタリングターゲット、(D2)x2(E2)100-x2(mol%)(式中、D2は前記M1の酸化物を示し、E2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、x2は、0<x2<100を満たす。)で表すことができるスパッタリングターゲット、(D3)x3(SiO2)z1(E2)100-x3-z1(mol%)(式中、D3は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、E2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を示し、x3及びz1は、10≦x3<90、0<z1≦50、10<x3+z1≦90を満たす。)で表すことができる材料を含むスパッタリングターゲット等を用いることができる。これらのスパッタリングターゲットを使用すれば、ZrQ1L1T1O100-Q1-T1(原子%)(式中、L1は、前記群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q1及びT1は、0<Q1<34、0<T1<50、20<Q1+T1<60を満たす。)で表される材料を含む酸化物系材料層、M1Q2L2T2O100-Q2-T2(原子%)(式中、M1は、ZrとHfの混合物又はHfを示し、L2は、前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q2及びT2は、0<Q2<34、0<T2<50、20<Q2+T2<60を満たす。)で表される材料を含む酸化物系材料層又はM2Q3SiR1L2T3O100-Q3-R1-T3(原子%)(式中、M2は前記群GM2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、L2は前記群GL2より選ばれる少なくとも一つの元素を示し、Q3、R1及びT3は、0<Q3≦32、0<R1≦32、3<T3<43、20<Q3+R1+T3<60を満たす。)で表される材料を含む酸化物系材料層等を形成できる。特に、ZrO2−SiO2−Ga2O3スパッタリングターゲットを使用すれば、優れたZr−Ga−O酸化物系材料層が形成される。ZrO2とSiO2とが同mol濃度である場合は、ZrO2とSiO2の複合酸化物ZrSiO4を形成することができる。その場合には、例えば、(ZrSiO4)a(E2)100-a(mol%)(式中、aは、11≦a≦82を満たす)で表すことができる材料を含むスパッタリングターゲットを用いることができる。このスパッタリングターゲットを使用すれば、ZrQ3SiR1L2T3O100-Q3-R1-T3(原子%)で表される材料を含む酸化物系材料層が形成される。例えば、(ZrO2)x3(SiO2)z1(Ga2O3)100-x3-z1(mol%)で表すことができるスパッタリングターゲットは、Zr、Si、Ga及びOの粉末を混合するのではなく(GaとOは融点が低いので、室温で粉末を扱うことが困難)、一般に、ZrO2、SiO2及びGa2O3の粉末を混合し、最適な温度や圧力の条件下で固めて造られる。また、同じ元素の酸化物でも価数の異なる複数の酸化物が存在する元素もあるので、所望の酸化物系材料層を形成するためには、酸化物比を表す(D1)x1(E1)100-x1(mol%)、(D2)x2(E2)100-x2(mol%)、(D3)x3(SiO2)z1(E2)100-x3-z1(mol%)の表記が重要である。必要であれば、酸化物系材料層同様、これらの表記のスパッタリングターゲットの粉末をX線マイクロアナライザー等で分析することができ、各元素の組成比が、Zrq1L1t1O100-q1-t1(原子%)、M1q2L2t2O100-q2-t2(原子%)、M2q3Sir1L2t3O100-q3-r1-t3(原子%)で得られる。
図8に、式(19)で表される材料においてgとしてSiO2を用いた場合の組成範囲を示す。図8において、座標は(D3、SiO2、E2)で、単位はmol%である。この図において、式(20)で表される材料は、g(90、0、10)、h(40、50、10)、i(10、50、40)、j(10、0、90)で囲まれる範囲(g−h−i−j線上を含む、g−j線上含まない)内の材料である。
次に、工程bを実施して、第1の誘電体層2の表面に、記録層4を成膜する。工程bもまた、スパッタリングにより実施される。スパッタリングは、直流電源を用いて、Arガス雰囲気中、又はArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気中で実施する。スパッタリングターゲットは、Ge−Sb−Te、Ge−Sn−Sb−Te、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Bi−Te、Ge−Sb−Bi−Te、Ge−Sn−Sb−Bi−Te、Ag−In−Sb−Te及びSb−Teのうち、いずれか1つの材料を含むものを使用する。成膜後の記録層4は非晶質状態である。
次に、工程cを実施して、記録層4の表面に、第2の誘電体層6を成膜する。工程cは、工程aと同様に実施される。第2の誘電体層6は、第1の誘電体層2とは、同じ酸化物を同じ混合比で含むスパッタリングターゲット、同じ酸化物を含むが混合比の異なるスパッタリングターゲット、又は各群から選ばれる異なる酸化物を含むスパッタリングターゲットを用いて形成できる。
例えば、工程a及びcで(ZrO2)30(SiO2)20(Ga2O3)50(mol%)を含むスパッタリングターゲットを使用してもよいし、工程aで(ZrO2)30(SiO2)20(Ga2O3)50(mol%)を含むスパッタリングターゲットを使用し、工程cで(ZrO2)40(SiO2)30(Ga2O3)30(mol%)を含むスパッタリングターゲットを用いてもよい。あるいは、工程aでHfO2−Ga2O3混合系材料を含むスパッタリングターゲットを使用し、工程cでZrO2−SiO2−Y2O3混合系材料を含むスパッタリングターゲットを使用してもよい。
次に、工程dを実施して、第2の誘電体層6の表面に、光吸収補正層7を成膜する。工程dにおいては、直流電源又は高周波電源を用いて、スパッタリングを実施する。スパッタリングターゲットとして、Ge−Cr、Ge−Mo、及びGe−W等の非晶質Ge合金、Si−Cr、Si−Mo及びSi−W等の非晶質Si合金、Te化物、ならびにTi、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、W、SnTe、及びPbTe等の結晶性の金属、半金属、及び半導体材料から選択される材料から成るものを用いる。スパッタリングはArガス雰囲気中で実施する。
次に、工程eを実施して、光吸収補正層7の表面に、反射層8を成膜する。工程eはスパッタリングにより実施される。スパッタリングは、直流電源又は高周波電源を用いて、Arガス雰囲気中で実施する。スパッタリングターゲットとしては、Au、Al、Ag、Cu等の高熱伝導材料の単体スパッタリングターゲット、又はAl−Cr、Al−Ti、Ag−Pd、Ag−Pd−Cu、Ag−Pd−Ti、Au−Cr等の合金スパッタリングターゲットを用いることができる。
上記のように、工程a〜eは、いずれもスパッタリング工程である。したがって、工程a〜eは、図11に示したようなスパッタリング装置の1つの真空室内において、スパッタリングターゲットを順次変更して連続的に実施してよい。また、工程a〜eは、スパッタリング装置のそれぞれ独立した真空室内にスパッタリングターゲットを配備して実施してもよい。
反射層8を成膜した後、第1誘電体層2から反射層8まで順次積層した基板1をスパッタリング装置から取り出す。それから、反射層8の表面に、紫外線硬化性樹脂を例えばスピンコート法により塗布する。塗布した紫外線硬化性樹脂に、ダミー基板10を密着させて、紫外線をダミー基板10側から照射して、樹脂を硬化させ、貼り合わせ工程を終了させる。
貼り合わせ工程が終了した後は、必要に応じて初期化工程を実施する。初期化工程は、非晶質状態である記録層4を、例えば半導体レーザを照射して、結晶化温度以上に昇温して結晶化させる工程である。初期化工程は貼り合わせ工程の前に実施してもよい。このように、工程a〜e、接着層の形成工程、及びダミー基板の貼り合わせ工程を順次実施することにより、実施の形態1の情報記録媒体25を製造することができる。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2として、レーザ光を用いて情報の記録及び再生を実施する、光情報記録媒体の別の例を説明する。図2に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。図2に示す情報記録媒体26は、基板1の一方の表面に、第1の誘電体層2、記録層4、第2の界面層5、第2の誘電体層106、光吸収補正層7、及び反射層8がこの順に形成され、さらに接着層9でダミー基板10が反射層8に接着された構成を有する。図2に示す情報記録媒体26は、第1の界面層103を有していない点において、図12に示す従来の情報記録媒体31と相違する。また、情報記録媒体26は、記録層4の上に第2の界面層5を介して第2の誘電体層106が積層されている点において、図1に示す実施の形態1の情報記録媒体25と相違する。情報記録媒体26においては、第1の誘電体層2が、実施の形態1と同様に、酸化物系材料層である。その他、図2において、図1で使用した符号と同じ符号は、同じ要素を表し、図1を参照して説明した材料及び方法で形成されるものである。したがって、図1に関連して既に説明した要素については、その詳細な説明を省略する。なお、この形態において、界面層は1つだけ設けられているが、それが第2の誘電体層106と記録層4との間に位置していることから、この界面層を便宜的に第2の界面層5と呼ぶ。
この形態の情報記録媒体26は、第2の誘電体層106を、従来の情報記録媒体で使用されていた(ZnS)80(SiO2)20(mol%)で形成した構成に相当する。したがって、第2の界面層5は、繰り返しの記録により第2の誘電体層106と記録層4との間で生じる物質移動を防止するために設けられる。
第2の界面層5には、本発明の酸化物系材料層を用いることができる。実施の形態1の第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6と同様に、Zr及びHfから成る群GMより選ばれる少なくとも一つの元素と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから成る群GLより選ばれる少なくとも一つの元素と、酸素(O)とを含む層である。また、Siを含んでもよく、10原子%未満の第三成分を含んでもよい。
また、第2の界面層5は、従来用いられていたGe−Nを含む材料で形成されてもよいし、ZrO2−SiO2−Cr2O3を含む材料、又はHfO2−SiO2−Cr2O3を含む材料で形成されてもよい。他に、Si−N、Al−N、Zr−N、Ti−N、もしくはTa−N等の窒化物又はこれらを含む窒化酸化物、SiC等の炭化物、又はC(炭素)で形成されてもよい。界面層の厚さは1〜10nmであることが好ましく、2〜7nmであることがより好ましい。界面層の厚さが大きいと、基板1の表面に形成された第1の誘電体層2から反射層8までの積層体の光反射率及び光吸収率が変化して、記録消去性能に影響を与える。
続いて、実施の形態2の情報記録媒体26を製造する方法を説明する。情報記録媒体26は、基板1の案内溝が形成された表面に第1の誘電体層2を成膜する工程(工程a)、記録層4を成膜する工程(工程b)、第2の界面層5を成膜する工程(工程f)、第2の誘電体層106を成膜する工程(工程g)、光吸収補正層7を成膜する工程(工程d)及び反射層8を成膜する工程(工程e)を順次実施し、さらに反射層8の表面に接着層9を形成する工程、及びダミー基板10を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。工程a、b、d、及びeは、実施の形態1に関連して説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。以下、実施の形態1の情報記録媒体の製造において実施されない工程のみ、説明する。
工程fは、記録層4を形成した後で実施され、記録層4の表面に第2の界面層5を成膜する工程である。工程fにおいては、高周波電源を用いて、スパッタリングを実施する。工程fで使用されるスパッタリングターゲットとしては、実施の形態1において説明した(i)〜(iv)のスパッタリングターゲットを用いることができる。また、この場合、必須元素の酸化物(例えば(i)の場合はZrの酸化物と群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物)が合わせて90mol%以上含まれるスパッタリングターゲットを用いることもできる。残りの10mol%未満には、酸化物系材料層に含んでもよい前記の第三成分が含まれていてもよい。工程fのスパッタリングは、高周波電源を用いて、Arガス雰囲気で実施するか、もしくはArガスに5%以下の酸素ガスもしくは窒素ガスのうち少なくともいずれか1つのガスが混合された、混合ガス雰囲気中で実施してよい。スパッタリングターゲットが酸化物の混合体であるため、反応性スパッタリングは不要であり、Arガスのみの雰囲気中でも酸化物系材料層が形成できる。
また、工程fで使用されるスパッタリングターゲットとしては、従来のZrO2−SiO2−Cr2O3を含むスパッタリングターゲット、又はHfO2−SiO2−Cr2O3を含むスパッタリングターゲットを用いてもよく、その場合も、高周波電源を用いて、Arガス雰囲気で実施するか、もしくはArガスに5%以下の酸素ガスもしくは窒素ガスのうち少なくともいずれか1つのガスが混合された、混合ガス雰囲気中で実施してよい。また、Ge−Cr、Ge、Si、Al、Zr、Ti、もしくはTaを含むスパッタリングターゲットを用いて、ArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気中で実施する、反応性スパッタリングであってよい。この反応性スパッタリングによれば、Ge−Cr−N、Ge−N、Si−N、Al−N、Zr−N、Ti−N、もしくはTa−Nを含む第2の界面層5が記録層4の表面に形成される。その他、SiC等の炭化物、又はC(炭素)を含むスパッタリングターゲットを用いて、Arガスでスパッタリングし、SiC等の炭化物、又はC(炭素)で形成してもよい。
次に、工程gを実施して、第2の界面層5の表面に、第2の誘電体層106を成膜する。工程gにおいては、高周波電源を使用し、例えば(ZnS)80(SiO2)20(mol%)から成るスパッタリングターゲットを用いて、Arガス雰囲気中、又はArガスとO2ガスの混合ガス雰囲気中で、スパッタリングを実施する。それにより、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)から成る層が形成される。その後、ダミー基板10を貼り合わせる工程が終了した後、実施の形態1に関連して説明したように、必要に応じて初期化工程を実施して、情報記録媒体26を得る。
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3として、レーザ光を用いて情報の記録及び再生を実施する、光情報記録媒体のさらに別の例を説明する。図3に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。
図3に示す情報記録媒体27は、基板1の一方の表面に、第1の誘電体層102、第1の界面層103、記録層4、第2の誘電体層6、光吸収補正層7、及び反射層8がこの順に形成され、さらに接着層9で反射層8にダミー基板10が接着された構成を有する。図3に示す情報記録媒体27は、第2の界面層105を有していない点において、図12に示す従来の情報記録媒体31と相違する。また、情報記録媒体27は、基板1と記録層4の間に第1の誘電体層102と第1の界面層3がこの順に積層されている点において、図1に示す実施の形態1の情報記録媒体25と相違する。情報記録媒体27においては、第2の誘電体層6が、実施の形態1と同様に、酸化物系材料層である。その他、図3において、図1で使用した符号と同じ符号は、同じ要素を表し、図1を参照して説明した材料及び方法で形成されるものである。したがって、図1で既に説明した要素については、その詳細な説明を省略する。
この形態の情報記録媒体27は、第1の誘電体層102を、従来の情報記録媒体で使用されていた(ZnS)80(SiO2)20(mol%)で形成した構成に相当する。したがって、第1の界面層3は、繰り返しの記録により第1の誘電体層102と記録層4との間で生じる物質移動を防止するために設けられる。第1の界面層3の好ましい材料及び厚さは、図2を参照して説明した実施の形態2の情報記録媒体26の第2の界面層5と同じである。したがって、それについての詳細な説明は省略する。
続いて、実施の形態3の情報記録媒体27を製造する方法を説明する。情報記録媒体27は、基板1の案内溝が形成された面に第1の誘電体層102を成膜する工程(工程h)、第1の界面層3を成膜する工程(工程i)、記録層4を成膜する工程(工程b)、第2の誘電体層6を成膜する工程(工程c)、光吸収補正層7を成膜する工程(工程d)及び反射層8を成膜する工程(工程e)を順次実施し、さらに反射層8の表面に接着層9を形成する工程、及びダミー基板10を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。工程b、c、d、及びeは、実施の形態1に関連して説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。以下、実施の形態1の情報記録媒体の製造において実施されない工程のみ、説明する。
工程hは、基板1の表面に第1の誘電体層102を成膜する工程である。その具体的な方法は、実施の形態2の製造方法に関連して説明した工程gと同様である。工程iは、第1の誘電体層102の表面に第1の界面層3を成膜する工程である。その具体的な方法は、実施の形態2の製造方法に関連して説明した工程fと同様である。その後、ダミー基板10を貼り合わせる工程が終了した後、実施の形態1に関連して説明したように、必要に応じて初期化工程を実施して、情報記録媒体27を得る。
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4として、レーザ光を用いて情報の記録及び再生を実施する光情報記録媒体のさらに別の例を説明する。図4に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。
図4に示す情報記録媒体28は、基板1の一方の表面に、第1の誘電体層102、第1の界面層3、記録層4、第2の界面層5、第2の誘電体層106、光吸収補正層7、及び反射層8がこの順に形成され、さらに接着層9でダミー基板10が反射層8に接着された構成を有する。図4に示す情報記録媒体28においては、第1及び第2の界面層3及び5を、酸化物系材料層としている。その他、図4において、図1から図3で使用した符号と同じ符号は、同じ要素を表し、図1から図3を参照して説明した材料及び方法で形成されるものである。したがって、図1から図3を参照して既に説明した要素については、その詳細な説明を省略する。
この形態の情報記録媒体は、第1及び第2の誘電体層102及び106を、従来の情報記録媒体で使用されていた(ZnS)80(SiO2)20(mol%)で形成し、第1及び第2の界面層3及び5を、酸化物系材料層で形成した構成に相当する。第1及び第2の界面層3及び5の好ましい材料は、実施の形態1の第1及び第2の誘電体層2及び6のそれと同じである。したがって、それらについての詳細な説明は省略する。第1及び第2の界面層3及び5の厚さは、記録消去性能に影響を与えないように、1〜10nmであることが好ましく、約2〜7nmであることがより好ましい。酸化物系材料層である界面層は、従来のGeを含む窒化物から成る界面層と比較して、材料コストが安価である、消衰係数が小さい(透明性が高い)、ならびに融点が高く熱的に安定であるといった利点を有する。
なお、第1及び第2の誘電体層102及び106は、同じ材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよい。
続いて、実施の形態4の情報記録媒体28を製造する方法を説明する。情報記録媒体28は、基板1の案内溝が形成された面に第1の誘電体層102を成膜する工程(工程h)、第1の界面層3を成膜する工程(工程i)、記録層4を成膜する工程(工程b)、第2の界面層5を成膜する工程(工程f)、第2の誘電体層106を成膜する工程(工程g)、光吸収補正層7を成膜する工程(工程d)及び反射層8を成膜する工程(工程e)を順次実施し、さらに反射層8の表面に接着層9を形成する工程、及びダミー基板10を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。工程hは、実施の形態3に関連して説明したとおりであり、工程b、d及びeは、実施の形態1に関連して説明したとおりであり、工程gは、実施の形態2に関連して説明したとおりであるからここでは、その説明を省略する。
第2の誘電体層106は、第1の誘電体層102とは同じ材料を含むスパッタリングターゲット、又は異なるスパッタリングターゲットを用いて形成してもよい。例えば、工程h及びg共に(ZnS)80(SiO2)20(mol%)を含むスパッタリングターゲットを使用してもよいし、工程hで(ZnS)80(SiO2)20(mol%)を含むスパッタリングターゲットを使用し、工程gで(ZrO2)30(SiO2)30(Cr2O3)20(LaF3)20(mol%)を含むスパッタリングターゲットを使用してもよい。スパッタリングはいずれも高周波電源を使用し、Arガス雰囲気もしくは、酸素ガスもしくは窒素ガスの少なくともいずれかとArガスとが混合された混合ガス雰囲気中で実施することができる。
工程iは、第1の誘電体層102の表面に第1の界面層3を成膜する工程である。工程iは、実施の形態3と同様にして実施される。工程iで使用するスパッタリングターゲットは、実施の形態1において説明した(i)〜(iv)のスパッタリングターゲットを用いることができる。また、この場合、必須元素の酸化物(例えば(i)の場合はZrの酸化物と群GL1より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物)が合わせて90mol%以上含まれるスパッタリングターゲットを用いることもできる。残りの10mol%未満には、酸化物系材料層に含んでもよい前記の第三成分が含まれていてもよい。この場合、スパッタリングは、高周波電源を用いて、Arガス雰囲気で実施するか、もしくはArガスに5%以下の酸素ガスもしくは窒素ガスのうち少なくともいずれか1つのガスが混合された、混合ガス雰囲気中で実施してよい。スパッタリングターゲットが酸化物の混合体であるため、反応性スパッタリングは不要であり、Arガスのみの雰囲気中でも酸化物系材料層が形成できる。
なお、実施の形態4における情報記録媒体は、一例として、第1の界面層3及び第2の界面層5の両方に、本発明の酸化物系材料層を用いているが、第1の界面層3のみに用いて、第2の界面層に他の材料を用いるかもしくは第2の界面層5のみに用いて、第1の界面層に他の材料を用いる構成の情報記録媒体を実施することも可能である。第1の界面層3及び第2の界面層5の両方に、本発明の酸化物系材料層を用いる場合に、各界面層に、図7に示す範囲内の異なる組成を用いることも可能である。
工程fは、記録層4の表面に第2の界面層5を成膜する工程である。工程fは、実施の形態2のと同様にして実施される。工程fで使用するスパッタリングターゲットは、上記工程iで使用するスパッタリングターゲットと同様である。
ダミー基板10を貼り合わせる工程が終了した後、実施の形態1に関連して説明したように、必要に応じて初期化工程を実施して、情報記録媒体28を得る。
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5として、レーザ光を用いて情報の記録及び再生を実施する、光情報記録媒体のさらに別の例を説明する。図5に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。
図5に示す情報記録媒体29は、基板101の一方の表面に反射層8、第2の誘電体層6、記録層4、及び第1の誘電体層2をこの順に形成し、さらに接着層9でダミー基板110が第1の誘電体層2に接着された構成を有する。この情報記録媒体29は、第1の界面層103及び第2の界面層105を有していない点、及び基板101、110を用いる点において図10に示す従来の情報記録媒体31と相違する。また、この構成の情報記録媒体は、光吸収補正層7を有していない点において図1に示す構成の情報記録媒体25と相違する。
この構成の情報記録媒体29には、ダミー基板110側からレーザ光12が入射され、それにより情報の記録及び再生が実施される。情報記録媒体の記録密度を高くするためには、短波長のレーザ光を使用するとともに、レーザビームをより絞り込んで、記録層に小さな記録マークを形成する必要がある。ビームを絞り込むためには、対物レンズの開口数NAをより大きくすることが必要となる。しかし、NAが大きくなると、焦点位置が浅くなる。そこで、レーザ光が入射する基板を薄くする必要がある。図5に示す情報記録媒体29において、レーザ光が入射される側のダミー基板110は、記録層等を形成する際の支持体として機能する必要がないため、その厚さを小さくすることができる。したがって、この構成によれば、より高密度の記録が可能な大容量情報記録媒体29を得ることができる。具体的には、この構成によれば、波長約405nmの青紫色域のレーザ光を記録再生に使用する、容量が25GBの情報記録媒体を得ることができる。
この情報記録媒体においても、第1及び第2の誘電体層2及び6は、実施の形態1と同様に、酸化物系材料層である。酸化物系材料層は、反射層等の形成順序及び記録容量に関係無く、誘電体層として適用される。酸化物系材料層に含まれる材料は、実施の形態1に関連して説明したとおりであるから、それらについての詳細な説明は省略する。
前記のように、この情報記録媒体29は、短い波長のレーザ光で記録再生するのに適している。したがって、第1及び第2の誘電体層2及び6の厚さは、例えば、λ=405nmであるときの好ましい光路長から求める。情報記録媒体29の記録マークの再生信号振幅を大きくして信号品質を向上させるために、例えば20%≦Rc且つRa≦5%を満足するように第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6の光路長ndをマトリクス法に基づく計算により厳密に決定した。その結果、屈折率が1.8〜2.5である酸化物系材料層を第1及び第2の誘電体層2及び6とする場合、第1の誘電体層2の厚さは好ましくは30nm〜100nmであり、より好ましくは50nm〜80nmであることが判った。また、第2の誘電体層6の厚さは、好ましくは3nm〜50nmであり、より好ましくは10nm〜30nmであることが判った。
基板101は、実施の形態1の基板1と同様、透明な円盤状の板である。基板101の反射層等を形成する側の表面には、レーザ光を導くための案内溝が形成されていてもよい。案内溝を形成した場合、実施の形態1に関連して説明したように、レーザ光12に近い側にある面23を便宜的にグルーブ面23と呼び、レーザ光12から遠い側にある面24をランド面と呼ぶ。基板101においてグル−ブ面23とランド面24の段差は、10nm〜30nmであることが好ましく、15nm〜25nmであることがより好ましい。また、層を形成しない側の表面は、平滑であることが望ましい。基板101の材料としては、実施の形態1の基板1の材料と同じ材料を挙げることができる。基板101の厚さは、好ましくは1.0〜1.2mm程度である。基板101の好ましい厚さは、実施の形態1の基板1のそれよりも大きい。これは、後述するように、ダミー基板110の厚さが薄いために、基板101で情報記録媒体の強度を確保する必要があることによる。
ダミー基板110は、基板101同様、透明な円盤状の板である。前記のように、図4に示す構成によれば、ダミー基板110の厚さを小さくすることによって、短波長のレーザ光で記録することが可能となる。したがって、ダミー基板110の厚さは、40μm〜110μmであることが好ましい。接着層9とダミー基板110を合わせた厚さが50μm〜120μmであることがより好ましい。
ダミー基板110は薄いので、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、又はPMMAのような樹脂で形成することが好ましく、特にポリカーボネートで形成することが好ましい。また、ダミー基板110は、レーザ光12入射側に位置するため、光学的には短波長域における複屈折が小さく、透明であることが好ましい。
接着層9は、透明な紫外線硬化性樹脂で形成することが好ましい。接着層9の厚さは5〜15μmであることが好ましい。接着層9がダミー基板110の機能を兼ね備え、50μm〜120μmの厚さとなるように形成できれば、ダミー基板110を省略することもできる。
その他、実施の形態1と同一の符号を付した要素は、既に実施の形態1に関連して説明したとおりであるので、その説明を省略する。
この形態の情報記録媒体の変形例においては、例えば、第1の誘電体層のみを酸化物系材料層とし、第2の誘電体層を(ZnS)80(SiO2)20(mol%)で形成して、第2の誘電体層と記録層との間に第2の界面層を形成し得る。また、この形態の情報記録媒体の別の変形例においては、第2の誘電体層のみを酸化物系材料層とし、第1の誘電体層を(ZnS)80(SiO2)20(mol%)として、第1の誘電体層と記録層との間に第1の界面層を形成し得る。
続いて、実施の形態5の情報記録媒体29の製造方法を説明する。情報記録媒体29は、案内溝(グルーブ面23とランド面24)が形成された基板101(例えば、厚さ1.1mm)を成膜装置に配置し、基板101の案内溝が形成された表面に反射層8を成膜する工程(工程e)、第2の誘電体層6を成膜する工程(工程c)、記録層4を成膜する工程(工程b)、及び第1の誘電体層2を成膜する工程(工程a)を順次実施し、さらに、第1の誘電体層2の表面に接着層9を形成する工程、及びダミー基板110を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。
最初に、工程eを実施して、基板101の案内溝が形成された面に、反射層8を成膜する。工程eを実施する具体的な方法は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。次に、工程c、工程b、及び工程aをこの順に実施する。工程c、b及びaを実施する具体的な方法は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。実施の形態1の情報記録媒体と同様、この形態の情報記録媒体の製造においても、工程cで使用するスパッタリングターゲットと、工程aで使用するスパッタリングターゲットとは異なるものであってよい。この形態の情報記録媒体の製造方法においては、各工程の実施順序が、実施の形態1の情報記録媒体の製造方法におけるそれと異なる。
第1の誘電体層2を成膜した後、反射層8から第1の誘電体層2まで順次積層した基板101を、スパッタリング装置から取り出す。それから、第1の誘電体層2の上に、紫外線硬化性樹脂を例えばスピンコート法により塗布する。塗布した紫外線硬化性樹脂に、ダミー基板110を密着させて、紫外線をダミー基板110側から照射して樹脂を硬化させ、貼り合わせ工程を終了させる。接着層9を、50μm〜120μmの厚さとなるように形成し、これに紫外線を照射することによって、ダミー基板110を貼り合わせる工程を省略することができる。
貼り合わせ工程が終了した後は、必要に応じて初期化工程を実施する。初期化工程の方法は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6として、レーザ光を用いて記録及び再生を実施する、光情報記録媒体のさらに別の例を説明する。図6に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。
図6に示す情報記録媒体30は、基板101の一方の表面に第2情報層22、中間層16、及び第1情報層21がこの順に形成され、さらに接着層9を介してダミー基板110が第1情報層21に積層された構成である。より詳しくは、第2情報層22は、基板101の一方の表面に第2の反射層20、第5の誘電体層19、第2の記録層18、及び第4の誘電体層17がこの順に形成されて成る。中間層16は、第4の誘電体層17の表面に形成される。第1情報層21は、この中間層16の表面に、第3の誘電体層15、第1の反射層14、第2の誘電体層6、第1の記録層13、及び第1の誘電体層2がこの順に形成されて成る。この形態においても、レーザ光12は、ダミー基板110の側から入射される。また、この形態の情報記録媒体においては、2つの記録層にそれぞれ情報を記録できる。したがって、この構成によれば、上記実施の形態5の2倍程度の容量を有する、情報記録媒体を得ることができる。具体的には、この構成によれば、例えば、波長405nm付近の青紫色域のレーザ光を記録再生に使用する、容量が50GBの情報記録媒体を得ることができる。
第1情報層21における記録再生は、ダミー基板110を通過したレーザ光12によって行われる。第2情報層22における記録再生は、ダミー基板110、第1情報層21及び中間層16を通過したレーザ光12によって実施される。
図6に示す形態の情報記録媒体30において、第5の誘電体層19、第4の誘電体層17、第2の誘電体層6、及び第1の誘電体層2に、酸化物系材料層を用いることができる。酸化物系材料層を使用すれば、第1の記録層13と第1の誘電体層2との間、第1の記録層13と第2の誘電体層6との間、第2の記録層18と第4の誘電体層17との間、第2の記録層18と第5の誘電体層19との間の界面層が不要となる。酸化物系材料層の具体的な材料は、実施の形態1に関連して説明したとおりであるから、それらについての詳細な説明は省略する。
第5の誘電体層19と第2の誘電体層6は、反射層と記録層との間で断熱層として機能する。そのため、第5及び第2の誘電体層19及び6は、層の熱伝導率が低く、第2及び第1の記録層18及び13を急冷する効果が高くなるように材料を選択して形成することが好ましい。具体的には、それらの層は、例えば、Zr15Si11Ga11O63(原子%)(酸化物表示(ZrO2)40(SiO2)30(Ga2O3)30(mol%))で表される材料を含む層であることが好ましい。また、第5及び第2の誘電体層19及び6の膜厚は、好ましくは3nm〜50nmであり、より好ましくは10nm〜30nmである。
第2情報層22及び第1情報層21において、レーザ光12は、第2の記録層18及び第1の記録層13に到達する前に、第4の誘電体層17及び第1の誘電体層2に入射される。そのため、第4及び第1の誘電体層17及び2は、透明で、且つ熱伝導率の低い材料から成ることが望ましい。具体的には、それらの層は、例えば、Zr6Si6Ga25O63(原子%)(酸化物表示(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50(mol%))で表される材料を含む層であることが好ましい。第4及び第1の誘電体層17及び2の膜厚は、好ましくは30nm〜80nmである。
このように、図6に示すような片面2層構造の情報記録媒体においても、記録層の両側に位置する誘電体層を酸化物系材料層とすることによって、誘電体層を界面層を介することなく、記録層と直接的に接するように形成できる。したがって、本発明によれば、片面2層構造の情報記録媒体についても、全体を構成する層の数を減らすことができる。また、誘電体層を構成する材料に含まれる酸化物を複数種とすることにより、及び/又は酸化物の種類を適切に選択することにより、屈折率や媒体の記録感度を調整して、情報記録媒体の種類に応じて最適化することができる。
第3の誘電体層15は、中間層16と第1の反射層14との間に位置する。第3の誘電体層15は、第1情報層21の光透過率を高める機能を有するよう、透明で、高い屈折率を有することが好ましい。また、第3の誘電体層15は、反射層と同様に、第1の記録層13の熱を速やかに拡散させる機能を有するように、熱伝導率がより高い材料から成ることが好ましい。これらの条件を満足する材料は、TiO2である。TiO2を90mol%以上含む。TiO2系材料を使用すると、約2.7の大きい屈折率を有する層が形成される。第3の誘電体層15の膜厚は10nm〜30nmであることが好ましい。
基板101は、実施の形態5の基板101と同様のものである。したがって、ここでは基板101に関する詳細な説明を省略する。
第2の反射層20は、実施の形態1の反射層8と同様のものである。また、第2の記録層18は、実施の形態1の記録層4と同様のものである。したがって、ここでは、第2の反射層20及び第2の記録層18に関する詳細な説明を省略する。
中間層16は、第1情報層21におけるレーザ光の焦点位置と、第2情報層22における焦点位置とが有意に異なるようにするために設けられる。中間層16には、必要に応じて第1情報層21側に案内溝が形成されている。中間層16は、紫外線硬化性樹脂で形成することができる。中間層16は、レーザ光12が効率よく第2情報層22に到達するよう、記録再生する波長λの光に対して透明であることが望ましい。中間層16の厚さは、対物レンズの開口数NAとレーザ光波長λにより決定される焦点深度ΔZ以上であることを要する。ΔZは、ΔZ=λ/{2(NA)2}で近似できる。λ=405nm、NA=0.85の時、ΔZ=0.28μmとなる。さらに、この値の±0.3μmの範囲内は焦点深度の範囲に含まれるので、中間層16は、0.8μm以上の厚さであることを要する。また、中間層16の厚さは、第1情報層21の第1の記録層13及び第2情報層22の第2の記録層18間の距離が、対物レンズの集光可能な範囲内にあるように、ダミー基板110の厚さと合わせて、使用する対物レンズについて許容できる基板厚公差内にすることが好ましい。したがって、中間層の厚さは10μm〜40μmであることが好ましい。中間層16は、必要に応じて樹脂層を複数層、積層して構成してよい。具体的には、第4の誘電体層17を保護する層と、案内溝を有する層との2層構成にしてよい。
第1の反射層14は、第1の記録層13の熱を速やかに拡散させる機能を有する。また、第2情報層22を記録再生する際には、第1情報層21を透過したレーザ光12を使用するので、第1情報層21は全体として高い光透過率を有する必要があり、好ましくは、45%以上の光透過率を有する。そのため、第1の反射層14は、第2の反射層20と比較して、その材料及び厚さが限定される。第1の反射層14の光吸収を少なくするために、第1の反射層14は、厚さを薄くして、小さい消衰係数、及び大きい熱伝導率を有することが望ましい。具体的には、第1の反射層14は、好ましくは、Agを含む合金で、膜厚が5nm以上15nm以下となるように形成される。
第1の記録層13もまた、第1情報層21の高い光透過率を確保するために、第2の記録層18と比較して、その材料及び膜厚が限定される。第1の記録層13は、好ましくは、その結晶相における透過率とその非晶質相における透過率の平均が45%以上になるように形成する。そのため、第1の記録層13の膜厚は7nm以下とすることが好ましい。第1の記録層13を構成する材料は、このように薄い膜厚であっても、溶融急冷によって良好な記録マークが形成され、品質の高い信号が再生できること、ならびに昇温徐冷により記録マークを消去できることを確保し得るように、選択される。具体的には、可逆的相変態材料であるGeTe−Sb2Te3系材料のようなGe−Sb−Te、又はGeTe−Sb2Te3系材料のGeの一部をSnで置換したGe−Sn−Sb−Teで、第1の記録層13を形成することが好ましい。GeTe−Bi2Te3系材料のようなGe−Bi−Te、又はGe−Bi−TeのGeの一部をSnで置換したGe−Sn−Bi−Teを用いることもできる。具体的には、例えば、GeTe:Sb2Te3=22:1であるGe22Sb2Te25、又はGe19Sn3Sb2Te25が好ましく用いられる。
接着層9は、実施の形態5の接着層9と同様、透明な紫外線硬化性樹脂で形成することが好ましい。接着層9の厚さは5〜15μmであることが好ましい。
ダミー基板110は、実施の形態5のダミー基板110と同様のものである。したがって、ここではダミー基板に関する詳細な説明を省略する。また、この形態においても、接着層9がダミー基板110の機能を兼ね備え、50μm〜120μmの厚さとなるように形成できれば、ダミー基板110を省略することもできる。
この形態の情報記録媒体においては、第1の誘電体層2、第2の誘電体層6、第4の誘電体層17、及び第5の誘電体層19のうち、1つの誘電体層のみが酸化物系材料層であってよい。あるいは、2つ又は3つの誘電体層が、酸化物系材料層であってよい。1つの誘電体層が酸化物系材料層である場合には、少なくとも1つの界面層が不要となり、2つの誘電体層が酸化物系材料層である場合には、少なくとも2つの界面層が不要となる。したがって、この形態の情報記録媒体においては、最大で4つの界面層を無くすことができる。酸化物系材料層でない誘電体層と記録層との間には必要に応じて、記録層と誘電体層との間の物質移動を防止するための界面層を設けてよい。その場合には、界面層を、厚さ5nm程度の極めて薄い膜の形態の酸化物系材料層とすることができる。
以上において、記録層を有する情報層を2つ有する構成の情報記録媒体を説明した。複数の記録層を有する情報記録媒体は、この構成に限定されず、情報層を3つ以上含む構成とすることも可能である。また、図示した形態の変形例は、例えば2つの情報層のうち、一つを可逆的相変態を生じる記録層を有する情報層とし、一つを非可逆的相変態を生じる記録層を有する情報層としたものである。また、情報層を3つ有する情報記録媒体においては、3つの情報層のうち一つを再生専用の情報層とし、一つを可逆的相変態を生じる記録層を有する情報層とし、一つを非可逆的相変態を生じる記録層を有する情報層とすることも可能である。このように、情報層を2以上有する情報記録媒体には、種々の形態のものがある。いずれの形態においても、誘電体層を酸化物系材料層とすることによって、記録層と誘電体層との間に界面層を設ける必要を無くすことができる。
また、2以上の記録層を有する情報記録媒体において、酸化物系材料層は、記録層と誘電体層との間に位置する界面層として存在してよい。そのような界面層は、5nm程度の厚さを有する極めて薄い膜に形成される。
続いて、実施の形態6の情報記録媒体30を製造する方法を説明する。情報記録媒体30は、基板101に第2の反射層20を成膜する工程(工程j)、第5の誘電体層19を成膜する工程(工程k)、第2の記録層18を成膜する工程(工程l)、及び第4の誘電体層17を成膜する工程(工程m)を順次実施した後、第4の誘電体層17の表面に中間層16を形成する工程を実施し、それから中間層16の表面に第3の誘電体層15を成膜する工程(工程n)、第1の反射層14を成膜する工程(工程o)、第2の誘電体層6を成膜する工程(工程p)、第1の記録層13を成膜する工程(工程q)、及び第1の誘電体層2を成膜する工程(工程r)を順次実施し、さらに、第1の誘電体層2の表面に接着層9を形成する工程、及びダミー基板110を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。
工程j〜mは、第2情報層22を形成する工程に相当する。工程jは、基板101の案内溝が形成された面に、第2の反射層20を成膜する工程である。工程jは、実施の形態1の工程eと同様にして実施される。次に、工程kを実施して、第2の反射層20の表面に、第5の誘電体層19を成膜する。工程kは、実施の形態1の工程cと同様にして実施される。次に、工程lを実施して、第5の誘電体層19の表面に、第2の記録層18を成膜する。工程lは、実施の形態1の工程bと同様にして実施される。最後に、工程mを実施して、第2の記録層18の表面に、第4の誘電体層17を成膜する。工程mは、実施の形態1の工程aと同様にして実施される。
工程j〜mにより第2情報層22を形成した基板101を、スパッタリング装置から取り出し、中間層16を形成する。中間層16は次の手順で形成される。まず、第4の誘電体層17の表面に、紫外線硬化性樹脂を例えばスピンコートにより塗布する。次に、中間層に形成すべき案内溝と相補的である凹凸を有するポリカーボネート基板の凹凸形成面を、紫外線硬化性樹脂に密着させる。その状態で紫外線を照射して樹脂を硬化させた後、凹凸を有するポリカーボネート基板を剥離する。それにより、前記凹凸に相補的な形状の案内溝が紫外線硬化性樹脂に形成されて、図示するような案内溝を有する中間層16が形成される。別法において、中間層16は、第4の誘電体層17を保護する層を紫外線硬化性樹脂で形成し、その上に案内溝を有する層を形成することにより、形成してよい。その場合、得られる中間層は2層構造である。あるいは、中間層は、3以上の層を積層して構成してよい。
中間層16まで形成した基板101を再びスパッタリング装置に配置して、中間層16の表面に第1情報層21を形成する。第1情報層21を形成する工程は、工程n〜rに相当する。
工程nは、中間層16の案内溝を有する面に、第3の誘電体層15を成膜する工程である。工程nにおいては、高周波電源を使用し、TiO2材料を含むスパッタリングターゲットを用いて、Arガス雰囲気中又はArガスとO2ガスの混合ガス雰囲気中で、スパッタリングを実施する。また、酸素欠損形のTiO2スパッタリングターゲットであれば、パルス発生形の直流電源を用いてスパッタリングすることもできる。
次に、工程oを実施して、第3の誘電体層15の表面に第1の反射層14を成膜する。工程oにおいては、直流電源を使用し、Agを含む合金のスパッタリングターゲットを用いて、Arガス雰囲気中でスパッタリングを実施する。次に、工程pを実施して、第1の反射層14の表面に第2の誘電体層6を成膜する。工程pは、工程kと同様にして実施される。
次に、工程qを実施して、第2の誘電体層6の表面に第1の記録層13を成膜する。工程qにおいては、直流電源を使用し、例えばGeTe−Sb2Te3系材料であるGe−Sb−Te、例えばGeTe−Sb2Te3系材料のGeの一部をSnで置換した材料であるGe−Sn−Sb−Te、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Bi−Te、Ge−Sb−Bi−Te、及びGe−Sn−Sb−Bi−Teから選択されるいずれか1つの材料を含むスパッタリングターゲットを用いて、Arガス雰囲気中又はArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリングを実施する。
次に、工程rを実施して、第1の記録層13の表面に第1の誘電体層2を成膜する。工程rは工程mと同様にして実施される。このように、工程n〜rを順次実施して、第1情報層21を形成する。
第1情報層21まで形成した基板101をスパッタリング装置から取り出す。それから、第1の誘電体層2の表面に、紫外線硬化性樹脂を例えばスピンコート法により塗布する。塗布した紫外線硬化性樹脂に、ダミー基板110を密着させて、紫外線をダミー基板110側から照射して樹脂を硬化させ、貼り合わせ工程を終了させる。実施の形態6の情報記録媒体の製造方法においても、実施の形態5の情報記録媒体の製造方法と同様にして、ダミー基板110を貼り合わせる工程を省略することもできる。
貼り合わせ工程が終了した後は、必要に応じて、第2情報層22及び第1情報層21の初期化工程を実施する。初期化工程は、中間層を形成する前もしくは後に、第2情報層22について実施し、ダミー基板110の貼り合わせ工程の前もしくは後に、第1情報層21について実施してよい。初期化工程を実施する方法は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。
以上、図1〜図6を参照して、本発明の情報記録媒体の実施形態として、レーザ光で記録再生する光情報記録媒体を説明した。本発明の光情報記録媒体はこれらの形態に限定されない。本発明の光情報記録媒体は、酸化物系材料層を、構成層の1つとして、記録層と接するように設けることが可能で、任意の形態をとりうる。また、記録層と接していなくても、情報記録媒体に含まれる誘電体層として、任意に使用可能である。即ち、本発明は、基板上に層を形成する順序、記録層の数、記録条件、及び記録容量等にかかわらず、適用される。また、本発明の光情報記録媒体は、種々の波長で記録するのに適している。したがって、本発明の光情報記録媒体は、例えば、波長630〜680nmのレーザ光で記録再生するDVD−RAM又はDVD−R、又は波長400〜450nmのレーザ光で記録再生する大容量光ディスク等であってよい。
(実施の形態7)
本発明の実施の形態7として、電気的エネルギーを印加して情報の記録及び再生を実施する情報記録媒体の一例を示す。図9に、その情報記録媒体の一部断面を示す。
図9は、基板201の表面に、下部電極202、記録部203及び上部電極204がこの順に形成されたメモリ207である。メモリ207の記録部203は、円柱状の記録層205及び記録層205を取り囲む誘電体層206を含む構成を有する。先に図1〜図6を参照して説明した光情報記録媒体とは異なり、この形態のメモリ207においては、記録層205及び誘電体層206は、同一面上に形成され、それらは積層された関係にない。しかし、記録層205及び誘電体層206はともに、メモリ207においては、基板201、下部及び上部電極202及び204を含む積層体の一部を構成しているから、それぞれ「層」と呼び得るものである。したがって、本発明の情報記録媒体には、記録層と誘電体層が同一面上にある形態のものも含まれる。
基板201として、具体的には、Si基板などの半導体基板、又はポリカーボネート基板、SiO2基板及びAl2O3基板などの絶縁性基板を、基板201として使用できる。下部電極202及び上部電極204は、適当な導電材料で形成される。下部電極202及び上部電極204は、例えば、Au、Ag、Pt、Al、Ti、W及びCrならびにこれらの混合物のような金属をスパッタリングすることにより形成される。
記録部203を構成する記録層205は、電気的エネルギーを印加することによって、相変化する材料から成り、相変化部と称することもできる。記録層205は、電気的エネルギーを印加することによって生じるジュール熱によって、結晶相と非晶質相との間で相変化する材料で形成される。記録層205の材料としては、例えば、Ge−Sb−Te、Ge−Sn−Sb−Te、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Bi−Te、Ge−Sb−Bi−Te及びGe−Sn−Sb−Bi−Te系材料が使用され、より具体的には、GeTe−Sb2Te3系又はGeTe−Bi2Te3系材料が使用される。
記録部203を構成する誘電体層206は、上部電極204及び下部電極202との間に電圧を印加することによって、記録層205に流れた電流が周辺部に逃げることを防止し、記録層205を電気的及び熱的に絶縁する機能を有する。したがって、誘電体層206は、断熱部と称することもできる。誘電体層206は、酸化物系材料層であり、具体的には、上記に説明した(I)〜(IV)の酸化物系材料層である。酸化物系材料層は、高融点であること、加熱された場合でも材料層中の原子が拡散しにくいこと、ならびに熱伝導率が低いことから、好ましく用いられる。
このメモリ207については、後述の実施例において、その作動方法とともにさらに説明する。
次に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
(試験1)
本発明の情報記録媒体の製造において用いられる酸化物系材料から成るスパッタリングターゲットの公称組成(換言すれば、供給に際してスパッタリングターゲットメーカーが公に表示している組成)と、その分析組成との関係を、試験により確認した。
本試験では、上記式(19)に相当する(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50(mol%)で公称組成が表示された、スパッタリングターゲットを粉末状にし、X線マイクロアナライザー法により組成分析を実施した。この結果、スパッタリングターゲットの分析組成が、化合物の割合(mol%)で示される式(19)ではなく、各元素の割合(原子%)で示される式(17)として得られた。分析結果を、表1に示す。さらに、表1には、公称組成から算出される元素組成である、換算組成を示す。
表1に示すように、分析組成は換算組成とほぼ等しかった。この結果から、式(19)により表記されるスパッタリングターゲットの実際の組成(即ち、分析組成)は、計算により求められる元素組成(即ち、換算組成)とほぼ一致し、したがって公称組成が適正であることが確認された。
(試験2)
本発明の情報記録媒体の製造において用いられる酸化物系材料から成るスパッタリングターゲットの公称組成と、このスパッタリングターゲットを用いて形成した酸化物系材料層の分析組成との関係を、試験により確認した。具体的には、上記式(19)に相当する、(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50(mol%)で公称組成が表示されたスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置(即ち、スパッタリング装置)に取り付け、0.13Paの圧力下、Arガス雰囲気中で、高周波電源を用いて、400Wのパワーでスパッタリングした。このスパッタリングにより、Si基板上に500nmの厚さの酸化物系材料層が形成された。この酸化物系材料層の組成分析もまた、X線マイクロアナライザー法により実施した。酸化物系材料層の分析組成も、化合物の割合(mol%)で示される式(7)ではなく、各元素の割合(原子%)で示される式(5)として得られた。分析結果を表2に示す。さらに、表2に、スパッタリングターゲットの公称組成から算出される換算組成を示す。
表2に示すように、層の分析組成は、スパッタリングターゲットの換算組成とほぼ等しかった。この結果から、式(19)により表記されるスパッタリングターゲットを用いて形成した酸化物系材料層の実際の組成は、スパッタリングターゲットの公称組成から計算される換算組成とほぼ一致し、したがって、式(19)により表記されるスパッタリングターゲットを用いれば、ほぼ同じ組成を有する膜が形成されることを確認した。
試験1及び2と同様の結果は、Zr及びHfから選ばれる少なくとも一方の元素の酸化物の混合割合と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物の混合割合とが表記されて提供される、他のスパッタリングターゲットについても得られると考えられる。したがって、以下の実施例においては、スパッタリングターゲットの組成を公称組成(mol%)で表す。また、スパッタリングターゲットの公称組成と前記スパッタリングターゲットを用いるスパッタリング法により形成した酸化物系材料層の組成(mol%)は同じものとみなして差し支えないと考えた。したがって、以下の実施例では、スパッタリングターゲットの組成の表示を以って、誘電体層の組成をも表示することとした。また、以下の実施例では、スパッタリングターゲット及び酸化物系材料層の組成を化合物の割合(mol%)でのみ表記する。当業者であれば各化合物の割合(mol%)に基づいて、スパッタリングターゲット及び酸化物系材料層の元素組成(原子%)を容易に算出することができるであろう。
(実施例1)
実施例1では、酸化物系材料層の透明性を調べるため、赤色域(波長660nm)と青紫色域(波長405nm)における複素屈折率(n−ki、n:屈折率、k:消衰係数)を測定した。手順としては、石英ガラス基板上に酸化物系材料を含む薄膜を形成した試料片を準備し、エリプソメトリにより薄膜の複素屈折率を測定した。準備した酸化物系材料は、Zr及びHfから選ばれる少なくとも一方の元素の酸化物と、La、Ce、Al、Ga、In、Mg及びYから選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物との混合物と、さらにSiの酸化物が混合された混合物である。2つの酸化物を混合した(ZrO2)20(La2O3)80、(ZrO2)20(CeO2)80、(ZrO2)20(Al2O3)80、(ZrO2)20(Ga2O3)80、(ZrO2)20(In2O3)80、(ZrO2)20(MgO)80、(ZrO2)20(Y2O3)80、及び比較例として(ZrO2)20(Cr2O3)80、さらにSiO2を混合した(ZrO2)25(SiO2)25(La2O3)50、(ZrO2)25(SiO2)25(CeO2)50、(ZrO2)25(SiO2)25(Al2O3)50、(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50、(ZrO2)25(SiO2)25(In2O3)50、(ZrO2)25(SiO2)25(MgO)50、(ZrO2)25(SiO2)25(Y2O3)50、及び比較例として(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50の16種類である。
スパッタリング装置の真空室内に、酸化物系材料を含むスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を取り付け、また、基板として石英ガラス(縦18mm、横12mm、厚み1.2mm)をスパッタリングターゲットに対向して取り付けた。スパッタリングは、0.13Paの圧力のArガス雰囲気中で、高周波電源を用いて400Wのパワーで実施した。上記16種類の材料はいずれも同じ条件でスパッタリングし、石英ガラス基板上に各々20nmの酸化物系材料層を形成した。石英ガラス試料片を真空室から取り出して、エリプソメトリで赤色域(波長λ=660nm)と青紫色域(波長λ=405nm)における複素屈折率(n−ki、n:屈折率、k:消衰係数)を測定した。測定結果を表3に示す。
表3に示すように、比較例(ZrO2)20(Cr2O3)80及び(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50を除いた試料1−1〜1−14の材料は、すべてλ=660nm及びλ=405nmにおいて、k=0.00であった。すなわち透明であることが確認された。Cr2O3が入っている材料は、0<kであり、透明性が低いことが確認された。
なお、複素屈折率は、分光器で試料片の反射率と透過率を測って、計算により算出することも可能である。この方法でも、精度よく複素屈折率が得られる。
(実施例2)
ZrO2の替わりにHfO2を含む以外は実施例1と同様の酸化物系材料層を実施したところ、実施例1の場合と同様の結果が得られた。具体的には、(HfO2)X1(E1)100-X1(mol%)及び(HfO2)X1(SiO2)Z(E)100-X1―Z(mol%)も、λ=660nm及びλ=405nmにおいて、k=0.00であった。すなわち透明であることが確認された。
(実施例3)
実施例3では、酸化物系材料層を用いて情報記録媒体25を作製した。具体的には、(ZrO2)50(E)50(mol%)の材料からなる酸化物系材料層を第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6に用いた。なお、ここで表記するEは、La2O3、CeO2、Al2O3、Ga2O3、In2O3、MgO、Y2O3の何れかを示す。このような酸化物系材料層を用いて、7種類の媒体試料(試料3−1〜3−7)を作製し、密着性、繰り返し書き換え性能、記録感度を評価した。
以下、情報記録媒体25の作製方法を説明する。以下の説明においては、理解の容易のために、各構成要素の参照番号として、図1に示した各構成要素と同じ参照番号を用いる。後述の実施例の情報記録媒体においても、同様に、各構成要素の参照番号として、対応する情報記録媒体における構成要素と同じ参照番号を用いる。
まず、基板1として、深さ56nm、トラックピッチ(基板の主面に平行な面内におけるグルーブ表面及びランド表面の中心間距離)0.615μmの案内溝が片側表面に予め設けられた、直径120mm、厚さ0.6mmの円形のポリカーボネート基板を準備した。基板1上に、厚さ150nmの第1の誘電体層2、厚さ9nmの記録層4、厚さ50nmの第2の誘電体層6、厚さ40nmの光吸収補正層7、及び厚さ80nmの反射層8を、この順にスパッタリング法により以下に説明する方法で成膜した。
第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6を形成する工程においては、前記の(ZrO2)50(E)50(mol%)材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、圧力0.13PaのArガス雰囲気中で、400Wの高周波スパッタリングを実施した。
記録層4を形成する工程においては、GeTe−Sb2Te3擬二元系組成のGeの一部をSnで置換したGe−Sn−Sb−Te系材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付けて、直流スパッタリングを実施した。パワーは100Wとした。スパッタリング中、Arガス(97%)とN2ガス(3%)との混合ガスを導入した。スパッタ時の圧力は0.13Paとした。記録層の組成は、Ge27Sn8Sb12Te53(原子%)であった。
光吸収補正層7を形成する工程においては、組成がGe80Cr20(原子%)である材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、圧力約0.4PaのArガス雰囲気中で、300Wの直流スパッタリングを実施した。
反射層8を形成する工程においては、Ag−Pd−Cu合金から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、圧力約0.4PaのArガス雰囲気中で、200Wの直流スパッタリングを実施した。
反射層8を形成した後、紫外線硬化性樹脂を反射層8上に塗布した。塗布した紫外線硬化性樹脂の上に、直径120mm、厚さ0.6mmのポリカーボネート製のダミー基板10を密着させた。次いで、ダミー基板10の側から紫外線を照射して樹脂を硬化させた。これにより、硬化した樹脂から成る接着層9を30μmの厚さで形成すると同時に、ダミー基板10を接着層9を介して反射層8の上に貼り合わせた。
ダミー基板10を貼り合わせた後、波長810nmの半導体レーザを使用して初期化工程を実施した。初期化工程においては、情報記録媒体25の半径22〜60mmの範囲の環状領域内に位置する記録層4を、ほぼ全面に亘って結晶化させた。初期化工程の終了により、情報記録媒体25の作製が完了した。
比較例として、第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6を(ZrO2)50(Cr2O3)50(mol%)で形成した媒体試料(比較例3−1)も作製した。製造工程は、(ZrO2)50(Cr2O3)50(mol%)材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、圧力0.13PaのArガス雰囲気中で、400Wの高周波スパッタリングを実施した。他の層の材料・工程は同様である。
次に情報記録媒体の評価手法について説明する。情報記録媒体25における誘電体層の密着性は、高温高湿条件下での剥離の有無に基づいて評価した。具体的には、初期化工程後の情報記録媒体25を、温度90℃で相対湿度80%の高温高湿槽に100時間放置した後、記録層とこれに接する誘電体層の間、より詳細には記録層4と第1の誘電体層2の界面及び記録層4と第2の誘電体層6の界面の少なくとも一方で剥離が発生していないかどうかを、光学顕微鏡を使って目視で調べた。当然のことではあるが、剥離の無い試料は良好な密着性を有すると評価され、剥離の有る試料は密着性に劣ると評価される。
情報記録媒体25の繰り返し書き換え性能は、繰り返し回数に基づいて評価した。繰り返し回数は以下の条件で決定した。
情報記録媒体25に情報を記録するために、情報記録媒体25を回転させるスピンドルモータと、レーザ光12を発する半導体レーザを備えた光学ヘッドと、レーザ光12を情報記録媒体25の記録層4上に集光させる対物レンズとを具備した一般的な構成の情報記録システムを用いた。情報記録媒体25の評価においては、波長660nmの半導体レーザと開口数0.6の対物レンズを使用し、4.7GB容量相当の記録を行った。情報記録媒体25を回転させる線速度は8.2m/秒とした。また、後述の平均ジッタ値を求める際のジッタ値の測定には、タイムインターバルアナライザーを用いた。
まず、繰り返し回数を決定する際の測定条件を決めるために、ピークパワー(Pp)及びバイアスパワー(Pb)を以下の手順で設定した。上記のシステムを用いて、レーザ光12を、高パワーレベルのピークパワー(mW)と低パワーレベルのバイアスパワー(mW)との間でパワー変調しながら情報記録媒体25に向けて照射して、マーク長0.42μm(3T)〜1.96μm(14T)のランダム信号を(グルーブ記録により)記録層4の同一のグルーブ表面に10回記録した。そして、前端間のジッタ値及び後端間のジッタ値を測定し、これらの平均値として平均ジッタ値を求めた。バイアスパワーを一定の値に固定し、ピークパワーを種々変化させた各記録条件について平均ジッタ値を測定し、ピークパワーを徐々に増加させて、ランダム信号の平均ジッタ値が13%に達したときのピークパワーの1.3倍のパワーを仮にPp1と決めた。次に、ピークパワーをPp1に固定し、バイアスパワーを種々変化させた各記録条件について平均ジッタ値を測定し、ランダム信号の平均ジッタ値が13%以下となったときの、バイアスパワーの上限値及び下限値の平均値をPbに設定した。そして、バイアスパワーをPbに固定し、ピークパワーを種々変化させた各記録条件について平均ジッタ値を測定し、ピークパワーを徐々に増加させて、ランダム信号の平均ジッタ値が13%に達したときのピークパワーの1.3倍のパワーをPpに設定した。このようにして設定したPp及びPbの条件で記録した場合、例えば10回繰り返し記録において、8〜9%の平均ジッタ値が得られた。システムのレーザパワー上限値を考慮すれば、Pp≦14mW、Pb≦8mWを満足することが望ましい。記録感度は、Ppの値が小さい方が良好である。
繰り返し回数は、本実施例では平均ジッタ値に基づいて決定した。上記のようにして設定したPpとPbとでレーザ光をパワー変調しながら情報記録媒体25に向けて照射して、マーク長0.42μm(3T)〜1.96μm(14T)のランダム信号を(グルーブ記録により)同一のグルーブ表面に所定回数繰り返して連続記録した後、平均ジッタ値を測定した。平均ジッタ値は、繰り返し回数が1、2、3、5、10、100、200及び500回であるときに測定し、繰り返し回数が1000〜10000回の範囲では1000回毎に測定し、繰り返し回数が20000〜100000回の範囲では10000回毎に測定した。平均ジッタ値が13%に達したときを繰り返し書き換えの限界として判断し、このときの繰り返し回数により繰り返し書き換え性能を評価した。当然のことながら、繰り返し回数が大きいほど、繰り返し書き換え性能が高いと評価される。情報記録媒体が、コンピュータの外部メモリとして用いられる場合には、繰り返し回数は10万回以上であることが好ましい。情報記録媒体が、画像音声レコーダで用いられる場合には、繰り返し回数は1万回以上であることが好ましい。
表4に示すように、試料3−1〜3−7は、良好な密着性、繰り返し書き換え性能、記録感度が得られた。特に、試料番号3−4の(ZrO2)50(Ga2O3)50(mol%)は、10万回の繰り返し性能及び12.5mWの高記録感度が得られた。一方、比較例の(ZrO2)50(Cr2O3)50(mol%)酸化物系材料層を用いたものは、記録感度が14mWを超えた。この結果から、ZrO2とEとの混合物を含む酸化物系材料層を用いることにより、記録感度が改善されることが確認できた。
さらに、ZrO2の替わりにHfO2を用いた以外は試料3−1〜3−7及び比較例3−1と同様の媒体をそれぞれ作製し(試料番号3−11〜3−17及び比較例3−2)、同様に評価を行ったところ、以下の表5に示す結果が得られた。この結果から、HfO2と(E2)が含まれる材料を含む酸化物系材料層についても、記録感度が改善されることが確認できた。
(実施例4)
実施例4では、実施例3で特に良好な性能を示した、(ZrO2)50(Ga2O3)50(mol%)酸化物系材料層の、適用可能な組成範囲を決定した。実施例3同様、情報記録媒体25の第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6に、ZrO2とGa2O3との組成比を変化させた酸化物系材料層をそれぞれ適用した。ここで用いた酸化物系材料層を(ZrO2)X(Ga2O3)100-X(mol%)と表記し、Xの値が異なる酸化物系材料層で形成した11種類の媒体試料(試料4−1〜4−11)を作製した。
実施例3と同様の方法で密着性、繰り返し性能、記録感度を評価した評価結果を表6に示す。
表6に示すように、(ZrO2)X(Ga2O3)100-X(mol%)酸化物系材料層を第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6に用いた情報記録媒体25は、全て、良好な密着性、10万回の繰り返し書き換え性能、及び14mW未満の記録感度を両立した。この結果から、(ZrO2)X(Ga2O3)100-X(mol%)は、0<X<100の広い範囲で使用できることも明らかになった。なお、本実施例で用いた材料は、式(2)で表すことができるものである。従って、この結果から、式(2)で表すことができる材料は、0<X1<100の広い範囲で使用できることも明らかである。
さらに、実施例3で特に良好な性能を示した、(HfO2)50(Ga2O3)50(mol%)酸化物系材料層についても、同様に11種類の媒体試料を作製し(試料番号4−21〜4−31)、評価を行った。
表7に示すように、(HfO2)X(Ga2O3)100-X(mol%)は、0<X<100の広い範囲で使用できることも明らかになった。なお、本実施例で用いた材料は、式(4)で表すことができるものである。従って、この結果から、式(4)で表すことができる材料は、0<X2<100の広い範囲で使用できることも確認された。
(実施例5)
実施例5では、式(7)で表される材料においてgとしてSiO2を用いた場合の(D3)X3(SiO2)Z1(E2)100-X3-Z1(mol%)酸化物系材料層を第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6に用いて情報記録媒体25を作製した。具体的には、D3としてZrO2を含み、E2として各々La2O3、CeO2、Al2O3、Ga2O3、In2O3、MgO、Y2O3を含み、X3=Z=25とした。第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6を形成する工程においては、前記の(D3)X3(SiO2)Z(E2)100-X3-Z(mol%)材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、圧力0.13PaのArガス雰囲気中で、400Wの高周波スパッタリングを実施した。他の層の材料及び工程は、実施例3と同様である。比較例として、第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6を(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50(mol%)で形成した媒体試料(比較例5−1)も作製した。
このようにして、7種類の媒体試料(試料5−1〜5−7)を作製し、実施例3と同様の方法で密着性、繰り返し書き換え性能、記録感度を評価した。その結果を表6に示す。
表8に示すように、試料5−1〜5−7において、密着性、繰り返し性能、記録感度共に良好な結果が得られた。実施例3の表4の結果と比較すると、SiO2を含ませることにより、繰り返し性能が向上し、記録感度がさらに改善されたことが確認できた。特に、(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50(mol%)酸化物系材料層を用いた試料5−4は、10万回を超える繰り返し性能と12mW未満の記録感度が得られた。比較の(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50(mol%)では、14mW<Ppであった。
さらに、D3としてHfO2を用いること以外は試料5−1〜5−7と同様の媒体試料を作製し(試料番号5−11〜5−17)、同様に評価を行った。さらに、比較例として、第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6を(HfO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50(mol%)で形成した媒体試料(比較例5−2)も作製した。
表9に示すように、試料5−11〜5−17においても、試料5−1〜5−7と同様に、密着性、繰り返し性能、記録感度共に良好な結果が得られた。
(実施例6)
実施例6では、上記において説明した実施の形態2に相当する図2に示す情報記録媒体26において、第1の誘電体層2及び第2の界面層5が酸化物系材料層である情報記録媒体(試料6−1)を作製した。以下、情報記録媒体26の作製方法を説明する。
まず、基板1として、実施例3で使用したものと同じ基板を準備した。この基板1上に、厚さ150nmの第1の誘電体層2、厚さ9nmの記録層4、厚さ3nmの第2の界面層5、厚さ50nmの第2の誘電体層106、厚さ40nmの光吸収補正層7を40nm、及び厚さ80nmの反射層8を、この順にスパッタリング法により以下に説明する方法で成膜した。
第1の誘電体層2を形成する工程においては、(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50(mol%)スパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、圧力0.13Paにて、Arガス雰囲気中で高周波スパッタリングを実施した。パワーは400Wであった。
第2の界面層5は、第1の誘電体層2と同様に、(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50(mol%)スパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、圧力0.13Paにて、Arガス雰囲気中で高周波スパッタリングを実施した。パワーは400Wであった。
第2の誘電体層106は、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を使用して、圧力0.13Paにて、Arガス(97%)とO2ガス(3%)との混合ガスを導入し、400Wの高周波スパッタリングを実施して形成した。記録層4、光吸収補正層7及び反射層8は、実施例3と同様にして形成した。
比較例として、第1の誘電体層2及び第2の界面層5を(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50(mol%)で形成した媒体(比較例6−1)も作製した。作製した情報記録媒体26に、グルーブ記録及びランド記録を実施し、繰り返し回数を実施例3で記載した方法に従って求めることにより、繰り返し書き換え性能を評価した。評価結果を表10に示す。
表10に示すように、第1の誘電体層2及び第2の界面層5を酸化物系材料層とした情報記録媒体26も、グルーブ記録、ランド記録において優れた密着性、繰り返し書き換え性能、ピークパワー、及びバイアスパワーを実現した。(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50(mol%)を用いることにより、(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50(mol%)を用いた場合よりも記録感度が約20%向上した。
なお、(ZrO2)20(SiO2)60(Ga2O3)20(mol%)なる、SiO2を60mol%含む酸化物系材料層を第1の誘電体層2及び第2の界面層5に用いた媒体を作製して評価したところ、媒体の密着性が低下し、媒体の外周部に剥離が観察された。よって、SiO2の濃度は、50mol%以下が好ましい。
(実施例7)
実施例7では、上記において説明した実施の形態3に相当する図3に示す情報記録媒体27において、第1の界面層3及び第2の誘電体層6が酸化物系材料層である情報記録媒体(試料7−1)を作製した。以下、情報記録媒体27の作製方法を説明する。
まず、基板1として、実施例1で使用したものと同じ基板を準備した。この基板1上に、厚さ150nmの第1の誘電体層102、厚さ5nmの第1の界面層3、厚さ9nmの記録層4、厚さ50nmの第2の誘電体層6、厚さ40nmの光吸収補正層7、及び厚さ80nmの反射層8を、この順にスパッタリング法により以下に説明する方法で成膜した。
第1の誘電体層102は、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)で形成した。第1の界面層3は、(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50(mol%)で形成した。記録層4は、実施例3と同様にして形成した。したがって、その組成は、Ge27Sn8Sb12Te53(原子%)であった。
第2の誘電体層6は、(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50(mol%)スパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を用いて、Arガス雰囲気中で0.13Paの圧力下で高周波スパッタリングを実施して形成した。
光吸収補正層7及び反射層8は、実施例3にて説明した情報記録媒体25のそれらと同様にして形成した。
比較のため、第1の界面層3及び第2の誘電体層6を(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50(mol%)で形成した媒体(比較例7−1)も比較例として作製した。
得られた各試料について、誘電体層の密着性と繰り返し書き換え性能を評価した。その評価結果を表11に示す。密着性及び繰り返し書き換え性能の評価方法は、先に説明したとおりである。但し、本実施例では、密着性の評価は、記録層4とこれに接する第2の誘電体層6との間で剥離が発生していないかどうか調べることにより実施した。
表11に示すように、第1の界面層3及び第2の誘電体層6を酸化物系材料層とした情報記録媒体27も、グルーブ記録、ランド記録において優れた密着性、繰り返し書き換え性能、ピークパワー、及びバイアスパワーを実現した。(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50(mol%)を用いることにより、(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50(mol%)を用いた場合よりも記録感度が約20%向上した。
(実施例8)
実施例8では、上記において説明した実施の形態4に相当する図4に示す情報記録媒体28において、第1の界面層3及び第2の界面層5が酸化物系材料層である情報記録媒体(試料8−1)を作製した。以下、情報記録媒体28の作製方法を説明する。
まず、基板1として、実施例3で使用した基板と同じ基板を用意した。基板1上に、厚さ150nmの第1の誘電体層102、厚さ5nmの第1の界面層3、厚さ9nmの記録層4、厚さ3nmの第2の界面層5、厚さ50nmの第2の誘電体層106、厚さ40nmの光吸収補正層7、及び厚さ80nmの反射層8を、この順にスパッタリング法により成膜した。
第1の誘電体層102は、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)で形成した。第2の誘電体層106も同様にして形成した。
第1の界面層3の形成工程においては、(ZrO2)25(SiO2)25(Ga2O3)50(mol%)から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、圧力0.13Paにて、Arガス雰囲気中で高周波スパッタリングを実施した。パワーは400Wであった。第2の界面層5も同様にして形成した。
記録層4は、実施例3と同様にして形成した。したがって、その組成は、Ge27Sn8Sb12Te53(原子%)であった。光吸収補正層7も、実施例3と同様にしてGe80Cr20を用いて形成した。反射層8も、実施例3と同様にして、Ag−Pd−Cu合金で形成した。
比較のため、第1の界面層3及び第2の界面層5を(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50(mol%)で形成した情報記録媒体(試料8−1)を比較例として作製した。得られた試料について、密着性及び繰り返し書き換え性能を評価した。密着性の評価は、記録層4とこれに接する界面層の間、より詳細には記録層と第1の界面層3及び第2の界面層5の少なくとも一方との間で剥離が発生していないかどうか調べることにより実施した。繰り返し書き換え性能の評価は、グルーブ記録及びランド記録を実施し、グルーブ記録及びランド記録の繰り返し回数を実施例3で記載した方法に従って求めることにより実施した。評価結果を表12に示す。
表12に示すように、酸化物系材料層を界面層として用いた試料8−1の性能は、比較例よりもPpが約1mW低く、膜厚が薄い界面層として用いても、記録感度を向上させる効果が確認された。且つ、密着性、繰り返し性能は比較例8−1と同等以上であった。
この試料8−1を構成する層の数は従来の情報記録媒体と同じである。したがって、試料8−1においては層数の減少による効果を得ることはできない。しかし、酸化物系材料層を界面層とする場合には、反応性スパッタリングに依らず、Arガスのみの雰囲気下でスパッタリングすることにより界面層を形成できる。従って、製造の容易性及び安定性を維持し、且つ、従来の(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50(mol%)材料よりも透明性が高く、媒体の記録感度が向上するという性能改善も達成できた。
また、第1の界面層3及び第2の界面層5を、式(7)、(8)、(11)又は(12)で表される酸化物系材料層にて形成した媒体を14種作製し(媒体8−11〜8−24)、それぞれについて媒体8−1と同様の評価を行った。表13に、用いた酸化物形材料と評価結果が示されている。また、比較例8−2〜8−5として、式(7)、(8)、(11)又は(12)で表される材料のうちE2が含まれていない酸化物系材料層にて第1の界面層3及び第2の界面層5が形成されている媒体も作製し、同様に評価を行った。
表13に示すように、式(7)の何れかで表される酸化物系材料を界面層として用いた場合、記録感度が良好で、且つ密着性及び繰り返し書換性能が比較例と同等以上であった。
(実施例9)
実施例9として、ZrO2と、La2O3、CeO2、Al2O3、In2O3、MgO及びY2O3の何れかとを含む酸化物系材料層についても実施例6、7及び8を実施したところ、良好な密着性と繰り返し性能を得ることができ、記録感度も良好であった。
(実施例10)
実施例10として、HfO2と、La2O3、CeO2、Al2O3、Ga2O3、In2O3、MgO及びY2O3の何れかとを含む酸化物系材料層についても実施例6、7及び8を実施したところ、良好な密着性と繰り返し性能を得ることができ、記録感度も良好であった。
以上のように、酸化物系材料層は、図1に示す情報記録媒体25の構成、図2に示す情報記録媒体26の構成、図3に示す情報記録媒体27の構成、及び図4に示す情報記録媒体28の構成の、誘電体層もしくは界面層として用いることが可能で、従来の(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50(mol%)を用いた場合よりも、密着性と繰り返し性能を劣化させないで、記録感度を向上させることができる。さらに、少なくとも第1の誘電体層2又は第2の誘電体層6として用いる場合には、図11に示す従来の情報記録媒体31の構成と比較して、層数を7層から6層又は5層にまで減らすことが可能である。反応性成膜によらず、膜質の装置依存性が小さいため、前記膜の形成条件はより速く最適化することができる。したがって、酸化物系材料層を誘電体層や界面層とすることにより、情報記録媒体の量産立ち上げがより速く進行するという効果ももたらされる。
(実施例11)
実施例11では、上記において説明した実施の形態5に相当する図5に示す情報記録媒体29において、第1及び第2の誘電体層2及び6が酸化物系材料層である情報記録媒体(試料11−1)を作製した。以下、情報記録媒体29の作製方法を説明する。
まず、基板101として、深さ21nm、トラックピッチ(基板の主面に平行な面内におけるグルーブ表面及びグルーブ表面の中心間距離)0.32μmの案内溝が片側表面に予め設けられた、直径120mm、厚さ1.1mmの円形のポリカーボネート基板を準備した。
基板101上に、厚さ80nmの反射層8、厚さ16nmの第2の誘電体層6、厚さ10nmの記録層4、及び厚さ68nmの第1の誘電体層2を、この順にスパッタリング法により以下に説明する方法で成膜した。
反射層8は、実施例1と同様にして形成した。第2の誘電体層6を形成する工程においては、(ZrO2)35(SiO2)35(Ga2O3)30(mol%)から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、圧力0.13Paにて、Arガス雰囲気中で高周波スパッタリングを実施した。パワーは400Wであった。第1の誘電体層2も同様にして形成した。
記録層4を形成する工程においては、Ge−Bi−Te系材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、直流スパッタリングを実施した。パワーは100Wとした。スパッタリング中、Arガス(97%)とN2ガス(3%)の混合ガスを導入した。スパッタ時の圧力は約0.13Paとした。記録層4の組成は、Ge45Bi4Te51であった。
第1の誘電体層2を形成した後、紫外線硬化性樹脂を第1の誘電体層2の上に塗布した。塗布した紫外線硬化性樹脂の上に、直径120mm、厚さ90μmの円形のポリカーボネート基板をダミー基板110として密着させた。次いで、ダミー基板110の側から紫外線を照射して樹脂を硬化させた。これにより、硬化した樹脂から成る接着層9を10μmの厚さで形成すると同時に、ダミー基板110を接着層9を介して第1の誘電体層2の上に貼り合わせた。
ダミー基板110を貼り合わせた後、波長670nmの半導体レーザを使用して初期化工程を実施した。初期化工程においては、情報記録媒体29の半径22mmから60mmの範囲の環状領域内に位置する記録層4を、ほぼ全面に亘って結晶化させた。初期化工程の終了により、情報記録媒体29(試料11−1)の作製が完了した。作製した情報記録媒体29の(凹凸のない平面部における)Rc実測値は20%、Ra実測値は2%であった。
比較例として、第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6に(ZrO2)35(SiO2)35(Cr2O3)30(mol%)材料を用い、他の材料は、情報記録媒体29と同様である情報記録媒体(比較例11−1)を作製した。
得られた各試料について、密着性及び繰り返し書き換え性能を評価した。その評価結果を表10に示す。密着性の評価方法は、実施例1にて説明したとおりである。繰り返し書き換え性能は、実施例1で採用した方法とは異なる方法で評価した。以下にその方法を説明する。
情報記録媒体29の繰り返し書き換え性能は、実施例1で使用したものと同様の構成の情報記録システムを用いて評価した。情報記録媒体29の評価においては、波長405nmの半導体レーザと開口数0.85の対物レンズを使用し、25GB容量相当の記録を行った。情報記録媒体29を回転させる線速度は4.92m/秒(データ転送レート:36Mbps)及び9.84m/秒(72Mbps)とした。平均ジッタ値(前端間ジッタと後端間ジッタとの平均値)を求める際のジッタ値の測定には、タイムインターバルアナライザーを用いた。
まず、繰り返し回数を決定する際の測定条件を決めるために、ピークパワー(Pp)及びバイアスパワー(Pb)を以下の手順で設定した。レーザ光12を、高パワーレベルのピークパワー(mW)と低パワーレベルのバイアスパワー(mW)との間でパワー変調しながら情報記録媒体29に向けて照射して、マーク長0.149μmの2T信号を記録層4の同一のグルーブ表面に10回記録した。2Tから8Tのランダム信号を10回記録した後、平均ジッタ値を測定した。ランダム信号の10回記録の際、バイアスパワーを一定の値に固定し、ピークパワーを種々変化させた各記録条件について平均ジッタ値を測定し、平均ジッタ値が最小値になるピークパワーをPp1に設定した。ピークパワーをPp1に固定し、バイアスパワーを種々変化させた各記録条件について平均ジッタ値を測定し、平均ジッタ値が最小値になるバイアスパワーをPbに設定した。再び、バイアスパワーをPbに固定し、ピークパワーを種々変化させた各記録条件について平均ジッタ値を測定し、平均ジッタ値が最小値になるピークパワーをPpに設定した。得られたPp及びPbは、規格を考慮すれば、36Mbpsにおいては、5.2mW以下を満足することが望ましい。72Mbpsにおいてもシステムとのバランスを考慮すると、6mW以下を満足することが望ましい。
繰り返し回数は、本実施例では平均ジッタ値に基づいて決定した。上記のようにして設定したPpとPbとでレーザ光をパワー変調しながら情報記録媒体29に向けて照射して、ランダム信号を同一のグルーブ表面に所定回数繰り返して連続記録した。それから、平均ジッタ値を測定した。平均ジッタ値は、繰り返し回数が、1、2、3、5、10、100、200、500、1000、2000、3000、5000、7000、10000回であるときに求めた。10回繰り返した場合の平均ジッタ値を基準として、平均ジッタ値が3%増加したときを繰り返し書き換えの限界と判断し、このときの繰り返し回数により繰り返し書き換え性能を評価した。当然のことながら、繰り返し回数が大きいほど繰り返し書き換え性能が高い。情報記録媒体29の繰り返し回数は1万回以上が好ましい。
本実施例の試料11−1の情報記録媒体29は、図1に示す情報記録媒体25とは、基板上への各層の成膜順序、記録条件(レーザ波長やレンズの開口数)、ならびに記録容量が異なる。試料11−1の記録容量は、図1に示す情報記録媒体25の5倍以上である。しかしながら、これらの相違点に関係なく、表10に示すように、第1の誘電体層2及び第2の誘電体層6として、(ZrO2)35(SiO2)35(Ga2O3)30(mol%)の酸化物系材料層を用いることによって、25GB容量で規格を満足する記録感度が得られた。比較例は記録感度が満足できなかった。
情報記録媒体29の構成で、第1の誘電体層2又は第2の誘電体層6のみが酸化物系材料層であっても、同様な結果が得られた。即ち、酸化物系材料層を用いることにより、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)を用いた場合に必要となる界面層を少なくとも一層は減らすことができ、且つ同等の性能を確保することができる。また、本発明で採用される酸化物系材料層は、S(硫黄)を含まないので、Agを含む反射層8と界面を接しても原子拡散は生じない。それにより、4層構成が可能となった。当然のことながら、反射層8と第2の誘電体層6との間には、必要に応じて、記録層における光の吸収・反射を調節するための層を形成してよい。そのような層は、金属、非金属、半金属、半導体及び誘電体、ならびにそれらの化合物から選択される1種の材料又は2種以上の材料の混合物で形成される。そのような層は、好ましくは、波長405nm付近の光に対して4以下の屈折率及び4以下の消衰係数を有する。
(実施例12)
実施例12では、上記において説明した実施の形態6に相当する図6に示す情報記録媒体30において、第5の誘電体層19、第4の誘電体層17、第2の誘電体層6及び第1の誘電体層2が酸化物系材料層である情報記録媒体(試料12−1)を作製した。以下、情報記録媒体30の作製方法を説明する。
まず、基板101として、実施例11で使用した基板101と同じ基板を用意した。基板101上に、厚さ80nmの第2の反射層20、厚さ16nmの第5の誘電体層19、厚さ10nmの第2の記録層18、厚さ68nmの第4の誘電体層17を、この順にスパッタリング法により成膜し、第2情報層22を形成した。
第2の反射層20は、実施例1と同様にして、Ag−Pd−Cu合金で形成した。第5の誘電体層19を形成する工程においては、(ZrO2)35(SiO2)35(Ga2O3)30(mol%)から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、圧力0.13Paにて、Arガス雰囲気中で高周波スパッタリングを実施した。パワーは400Wであった。第4の誘電体層17も同様にして形成した。第2の記録層18は、実施例11と同様にして、Ge−Bi−Te系材料から成るスパッタリングターゲットを使用して形成した。
次に、第2情報層22の上に、溝を有する厚さ25μmの中間層16を形成した。中間層16を以下の手順に従って形成した。まず、スピンコートにより、紫外線硬化性樹脂を塗布した。塗布した紫外線硬化性樹脂の上に、表面に凹凸が設けられたポリカーボネート基板を、前記凹凸を密着させて配置した。この凹凸は、中間層16に形成すべき案内溝と相補的な形状を有するものであった。その後、ポリカーボネート基板の側から紫外線を照射して樹脂を硬化させ、ポリカーボネート基板を中間層16から剥離した。これにより、紫外線硬化性樹脂が硬化されて成る、案内溝が転写により形成された中間層16を得た。
中間層16の形成後、第2情報層22の初期化工程を実施した。初期化工程においては、波長670nmの半導体レーザを使用して、半径22mmから60mmの範囲の環状領域内に位置する第2の記録層18を、ほぼ全面に亘って結晶化させた。
次に、中間層16上に、厚さ15nmの第3の誘電体層15、厚さ10nmの第1の反射層14、厚さ12nmの第2の誘電体層6、厚さ6nmの第1の記録層13、及び厚さ45nmの第1の誘電体層2を、この順にスパッタリング法により成膜して、第1情報層21を形成した。
第3の誘電体層15を形成する工程においては、TiO2から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を用いて、圧力約0.13Paにて高周波スパッタリングを実施した。パワーは400Wとした。スパッタリング中、Arガス(97%)とO2ガス(3%)との混合ガスを導入した。
第1の反射層14も、第2の反射層20と同様にして形成し、Ag−Pd−Cu合金の層として形成した。第2の誘電体層6及び第1の誘電体層2は、(ZrO2)56(SiO2)14(Ga2O3)30(mol%)で形成した。
第1の記録層13を形成する工程においては、Ge−Sn−Bi−Te系材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、圧力0.13Paにて、直流スパッタリングを実施した。パワーは50Wとした。スパッタリング中、Arガス(100%)を導入した。スパッタ時の圧力は約0.13Paとした。記録層の組成は、Ge40Sn5Bi4Te51(原子%)であった。
第1の誘電体層2を形成した後、紫外線硬化性樹脂を第1の誘電体層2上に塗布した。塗布した紫外線硬化性樹脂の上に、直径120mm、厚さ65μmの円形のポリカーボネート基板をダミー基板110として密着させた。次いで、ダミー基板110の側から紫外線を照射して樹脂を硬化させた。これにより、硬化した樹脂から成る接着剤層9を10μmの厚さで形成すると同時に、ダミー基板110を接着層を介して第1の誘電体層2の上に貼り合わせた。
ダミー基板110を貼り合わせた後、波長670nmの半導体レーザを使用して、第1の情報層21の初期化工程を実施した。初期化工程においては、半径22mmから60mmの範囲の環状領域内に位置する第1の記録層13を、ほぼ全面に亘って結晶化させた。初期化工程の終了により、情報記録媒体30(試料12−1)の作製が完了した。
試料12−1の第1情報層21及び第2情報層22それぞれについて、誘電体層の密着性及び情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)及びバイアスパワー(Pb)とともに表16に示す。
本実施例にて、誘電体層の密着性の評価は実施例1と同様の条件で、第1情報層21と第2情報層22のそれぞれについて剥離の有無を調べて実施した。情報記録媒体30の繰り返し書き換え性能の評価は、実施例11と同様の条件にて、第1情報層21と第2情報層22のそれぞれに25GB容量相当の記録を行って、第1情報層21と第2情報層22のそれぞれについて繰り返し回数を調べた。第1情報層21に記録する際には、レーザ光12を第1の記録層13に焦点させ、第2情報層22を記録する際には、レーザ光12を第2の記録層18に焦点させた。規格及びシステムとのバランスを考慮すれば、36Mbpsにおいて、第1の情報層21でPp≦10.4mWを満足することが望ましい。
本実施例の試料12−1の情報記録媒体30は、図1に示す情報記録媒体25とは、基板上への各層の形成順序、情報層(即ち、記録層)の数が2であること、及び記録条件(レーザ波長やレンズの開口数)が異なる。また、試料12−1の記録容量は、図1に示す情報記録媒体25の約10倍である。しかしながら、これらの相違点に関係なく、第1、第2、第4及び第5の誘電体層2、6、17及び19として、ZrO2、SiO2及びGa2O3の混合物から成る層を用いることによって、界面層を設けなくとも、良好な性能を有する情報記録媒体が得られることが確認された。作製した情報記録媒体30の(凹凸のない平面部における)第1情報層21のRc設計値は6%、Ra設計値は0.7%であった。第2情報層22のRc設計値は25%、Ra設計値は3%であった。
本実施例においては、情報記録媒体30を構成する、第1、第2、第4及び第5の誘電体層2、6、17及び19を全て酸化物系材料層としたが、本発明はこれに限定されない。1つの変形例において、本発明の情報記録媒体は、これら4つの誘電体層のうち、少なくとも1つが酸化物系材料層であり、他の誘電体層が(ZnS)80(SiO2)20(mol%)から成るものであってよい。その場合、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の誘電体層と記録層との間には界面層を形成する必要がある。かかる変形例の情報記録媒体においても、層の数が減少するという目的が達成されるとともに、上記試料12−1と同様に良好な性能が得られた。
また、本実施例では、第1及び第2、第4及び第5の誘電体層2及び6、17及び19を、各々同じ組成の酸化物系材料層としたが、本発明はこれに限定されない。1つの変形例として、これら4つの誘電体層が互いに異なる組成を有する情報記録媒体30を作製してよい。そのような情報記録媒体もまた、上記試料12−1と同様に、良好な性能を示す。
(実施例13)
実施例13では、必須元素の酸化物(例えば、上記(I)の酸化物系材料層の場合Zrの酸化物及び元素L1の酸化物、上記(II)の酸化物系材料層の場合M1の酸化物及び元素L2の酸化物。上記(III)、(IV)の酸化物系材料層においても同様。)以外の第三成分を含む酸化物系材料層を有する情報記録媒体の性能を評価した。この実施例では、第2の誘電体層6の材料を除いては実施例7と同様にして、図3に示す情報記録媒体27を作製した。
第2の誘電体層6の形成に際しては、(ZrO2)35(SiO2)25(Ga2O3)40(mol%)から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付け、さらにそのスパッタリングターゲット表面に、それぞれ10mm×10mm×1mmの寸法を有する、Si3N4、Ge、Cのスパッタリングチップを置いた。このスパッタリングチップを有するスパッタリングターゲットを用いて、圧力0.13Paにて、Arガス雰囲気中で高周波スパッタリングを実施して第2の誘電体層6を形成した。パワーは400Wであった。形成された層を分析したところ、前記層には(ZrO2)35(SiO2)25(Ga2O3)40(mol%)が98mol%含まれ、第三成分として、Si3N4が1mol%、Geが0.5mol%、Cが0.5mol%含まれていた。
比較のため、第2の誘電体層6に、第三成分を含まない(ZrO2)35(SiO2)25(Ga2O3)40(mol%)を形成した(比較例13−1)。他の材料は、本実施例の情報記録媒体27と同様である。各試料の第2の誘電体層6の密着性を実施例1と同様の条件で評価した。また、各試料の繰り返し書き換え性能を、各試料にグルーブ記録及びランド記録を実施し、グルーブ記録及びランド記録の繰り返し回数を実施例1で記載した方法に従って求めることにより、評価した。その結果、2mol%の第三成分を含んだ酸化物系材料層を用いても、Pp≦14mWを満足する性能が得られた。評価結果を表16に示す。
表16に示すように、試料13−1は、比較試料と同程度の密着性及び繰り返し書き換え性能を示した。また、試料13−1のPp及びPbは比較試料よりも高いものの、Pp≦14mW及びPb≦7mWを満たし、十分に実用可能なものであった。この結果から、誘電体層が群GMから選択される元素の酸化物と群GLから選択される元素の酸化物とを合わせて98mol%以上含む場合には、良好な密着性、良好な繰り返し書き換え性能、及び良好な記録感度が確保されることが確認された。
(実施例14)
以上の実施例1〜13では、光学的手段によって情報を記録する情報記録媒体を作製した。実施例14では、図9に示すような、電気的手段によって情報を記録する情報記録媒体207を作製した。これはいわゆるメモリである。
本実施例の情報記録媒体207は次のようにして作製した。まず、表面を窒化処理した、長さ5mm、幅5mm及び厚さ1mmのSi基板201を準備した。この基板201の上に、Auの下部電極202を1.0mm×1.0mmの領域に厚さ0.1μmで形成した。下部電極202の上に、Ge38Sb10Te52(化合物としてはGe8Sb2Te11と表記される)の相変化部205を直径0.2mmの円形領域に厚さ0.1μmとなるように形成し、(ZrO2)15(SiO2)15(Ga2O3)70(mol%)の断熱部206を、0.6mm×0.6mmの領域(但し相変化部205を除く)に、相変化部205と同じ厚さとなるように形成した。さらに、Auの上部電極204を0.6mm×0.6mmの領域に厚さ0.1μmで形成した。下部電極202、相変化部205、断熱部206及び上部電極204はいずれも、スパッタリング法で形成した。
相変化部205を成膜する工程では、Ge−Sb−Te系材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付け、パワー100Wで、Arガスを導入して直流スパッタリングを行った。スパッタ時の圧力は約0.13Paとした。また、断熱部206を成膜する工程では、(ZrO2)15(SiO2)15(Ga2O3)70(mol%)の組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚さ6mm)を成膜装置に取り付けて、約0.13Paの圧力下で、高周波スパッタリングを行った。パワーは400Wとした。スパッタリング中、Arガスを導入した。これら工程でのスパッタリングは、相変化部205及び断熱部206が互いに積層しないように、成膜すべき面以外の領域をマスク治具で覆って各々行った。相変化部205及び断熱部206の形成の順序は問わず、いずれを先に行ってもよい。
相変化部205及び断熱部206は記録部203を構成する。相変化部205は本発明に言うところの記録層に前記当し、断熱部206は本発明に言うところの酸化物系材料層に前記当する。
尚、下部電極202及び上部電極204は、電極形成技術の分野において一般的に採用されているスパッタリング方法によって成膜できるので、それらの成膜工程についての詳細な説明は省略する。
以上のようにして作製した情報記録媒体207に電気的エネルギーを印加することによって相変化部205にて相変化が起こることを、図10に示すシステムにより確認した。図10に示す情報記録媒体207の断面図は、図9に示す情報記録媒体207の線A−Bに沿って厚さ方向に切断した断面を示している。
より詳細には、図10に示すように、2つの印加部212を下部電極202及び上部電極204にAuリード線でそれぞれボンディングすることによって、印加部212を介して電気的書き込み/読み出し装置214を情報記録媒体(メモリ)207に接続した。この電気的書き込み/読み出し装置214において、下部電極202と上部電極204に各々接続されている印加部212の間には、パルス発生部208がスイッチ210を介して接続され、また、抵抗測定器209がスイッチ211を介して接続されていた。抵抗測定器209は、抵抗測定器209によって測定される抵抗値の高低を判定する判定部213に接続されていた。パルス発生部208によって印加部212を介して上部電極204及び下部電極202の間に電流パルスを流し、下部電極202と上部電極204との間の抵抗値を抵抗測定器209によって測定し、この抵抗値の高低を判定部213で判定した。一般に、相変化部205の相変化によって抵抗値が変化するため、この判定結果に基づいて、相変化部205の相の状態を知ることができる。
本実施例の場合、相変化部205の融点は630℃、結晶化温度は170℃、結晶化時間は130nsであった。下部電極202と上部電極204の間の抵抗値は、相変化部205が非晶質相状態では1000Ω、結晶相状態では20Ωであった。相変化部205が非晶質相状態(即ち高抵抗状態)のとき、下部電極202と上部電極204の間に、20mA、150nsの電流パルスを印加したところ、下部電極202と上部電極204の間の抵抗値が低下し、相変化部205が非晶質相状態から結晶相状態に転移した。次に、相変化部205が結晶相状態(即ち低抵抗状態)のとき、下部電極202と上部電極204の間に、200mA、100nsの電流パルスを印加したところ、下部電極202と上部電極204の間の抵抗値が上昇し、相変化部205が結晶相から非晶質相に転移した。
以上の結果から、相変化部205の周囲の断熱部206として(ZrO2)15(SiO2)15(Ga2O3)70(mol%)の組成を有する材料を含む層を用い、電気的エネルギーを付与することによって、相変化部(記録層)にて相変態を生起させることができ、よって、情報記録媒体207が、情報を記録する機能を有することが確認できた。
本実施例のように、円柱状の相変化部205の周囲に、誘電体である(ZrO2)15(SiO2)15(Ga2O3)70(mol%)の断熱部206を設けると、上部電極204及び下部電極202との間に電圧を印加することによって相変化部205に流れた電流がその周辺部に逃げることを効果的に抑制し得る。その結果、電流により生じるジュール熱によって相変化部205の温度を効率的に上昇させることができる。特に、相変化部205を非晶質相状態に転移させる場合には、相変化部205のGe38Sb10Te52を一旦溶融させて急冷する過程が必要である。相変化部205のこの溶融は、相変化部205の周囲に断熱部206を設けることによって、より小さい電流で生起し得る。
断熱部206の(ZrO2)15(SiO2)15(Ga2O3)70(mol%)は、高融点であり、熱による原子拡散も生じにくいので、情報記録媒体207のような電気的メモリに適用することが可能である。また、相変化部205の周囲に断熱部206が存在すると、断熱部206が障壁となって相変化部205は記録部203の面内において電気的及び熱的に実質的に隔離される。このことを利用して、情報記録媒体207に、複数の相変化部205を断熱部206で互いに隔離された状態で設けて、情報記録媒体207のメモリ容量を増やすこと、ならびにアクセス機能及びスイッチング機能を向上させることが可能となる。あるいは、情報記録媒体207自体を複数個つなぐことも可能である。
一例として、(ZrO2)15(SiO2)15(Ga2O3)70(mol%)を用いたが、DとしてZrO2を含み、Eとして各々La2O3、CeO2、Al2O3、In2O3、MgO、Y2O3を含む酸化物系材料層についても、同様の結果が得られた。また、DとしてHfO2を含み、Eとして各々La2O3、CeO2、Al2O3、Ga2O3、In2O3、MgO、Y2O3を含む酸化物系材料層についても、同様の結果が得られた。以上、種々の実施例を通じて本発明の情報記録媒体について説明してきたように、光学的手段で記録する情報記録媒体及び電気的手段で記録する情報記録媒体のいずれにも酸化物系材料層を用いることができる。この酸化物系材料層を含む本発明の情報記録媒体によれば、これまで実現されなかった構成を実現でき、及び/又は従来の情報記録媒体よりも優れた性能が得られる。