JP2005048596A - 駆動装置およびその制御方法並びに自動車 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】エンジンの始動指示がなされたときに、エンジンの回転数Neが共振現象を生じやすい回転数領域の上限値として設定された共振基準回転数Nref1より小さいときにはモータMG1のトルク指令Tm1*にクランキングトルクTm1maxを設定し(S120,S140)、回転数Neが共振基準回転数Nref1以上となり、かつ、クランク角θが所定角θ1〜θ2の範囲(エンジンが膨張行程にさしかかるタイミングのクランク角θの範囲)にあるときに、エンジンを制御開始回転数Nref2まで安定してモータリングできる最低限のトルクTm1minにトルク指令Tm1*を切り替える(S150)。この結果、内燃機関を始動する際の振動を低減することができる。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、駆動装置およびその制御方法並びに自動車に関し、詳しくは、内燃機関を有する駆動装置およびその制御方法並びにこうした駆動装置を備える自動車に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の駆動装置としては、エンジンと、このエンジンの出力軸と駆動軸とに接続されたプラネタリギヤと、プラネタリギヤの第3の軸に動力を入出力する第1のモータと、駆動軸に動力を入出力する第2のモータとを備え、エンジンの始動時に第1のモータを駆動してエンジンのクランキングを行なうものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、エンジンの回転数が共振現象を生じる領域を通過するまでは第1のモータから比較的大きなトルクを出力してクランキングすることにより、共振現象による振動の低減を図っている。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−153075号公報(図2)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述した駆動装置では、共振現象を生じる回転数領域を迅速に通過させた後にはそれほど大きなクランキングトルクは必要ないから、例えばより小さなトルクなどに変更しても構わない。しかしながら、クランキングトルクの大きさを変更する場合、この駆動装置を搭載した車両などに若干のトルクショックが生じてしまうことがある。こうしたトルクショックは車両などの運転者に違和感を与えるものであるから、できるだけ抑制することが好ましい。
【0005】
本発明の駆動装置およびその制御方法並びに自動車は、内燃機関を始動する際の振動を低減することを目的の一つとする。また、本発明の駆動装置およびその制御方法並びに自動車は、エネルギ効率を向上させることを目的の一つとする。
【0006】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
本発明の駆動装置およびその制御方法並びに自動車は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の駆動装置は、
内燃機関を有する駆動装置であって、
前記内燃機関をクランキング可能なクランキング手段と、
前記内燃機関の出力軸の回転位置を検出する回転位置検出手段と、
該検出された回転位置に基づいて前記内燃機関のいずれかの気筒が膨張行程にさしかかるタイミングを含む所定範囲のタイミングにあるか否かを判定するタイミング範囲判定手段と、
前記内燃機関の始動指示がなされたとき、少なくとも始動に伴う共振現象に関する所定条件が成立するまでは第1のトルクにより前記内燃機関がクランキングされるよう前記クランキング手段を駆動制御し、前記所定条件が成立した以降に前記タイミング範囲判定手段により前記所定範囲のタイミングにあるのを判定したときに前記第1のトルクより小さな第2のトルクにより前記内燃機関がクランキングされるよう前記クランキング手段を駆動制御するクランキング制御手段と、を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の駆動装置では、内燃機関の始動を指示されたときに、始動に伴う共振現象に関する所定条件が成立するまでは第1のトルクにより内燃機関がクランキングされるようにクランキング手段を駆動制御し、この所定条件が成立した以降は内燃機関のいずれかの気筒が膨張行程にさしかかるタイミングを含む所定範囲のタイミングにあるときに第1のトルクより小さな第2のトルクに切り替えて内燃機関がクランキングされるようにクランキング手段を駆動制御する。したがって、内燃機関のいずれかの気筒が膨張行程にさしかかるタイミングを含む範囲で第1のトルクから第2のトルクへの切り替えを行なうからトルクを切り替える際に生じるトルクショックを抑制することができる。もとより、始動に伴う共振現象に関する所定条件として内燃機関の回転数が共振現象を生じやすい回転数領域(以下、共振帯域という)を通過した際などに成立する条件を設定することにより、共振帯域では第1のトルクにより迅速に回転数を上昇させて共振現象による振動を低減すると共に、共振帯域を通過した後には第1のトルクより小さな第2のトルクに切り替えてエネルギ効率を向上させることができる。なお「所定範囲のタイミング」としては、膨張行程を開始する直前から膨張行程を終了するより前までの範囲のタイミングなどを挙げることができる。
【0009】
こうした本発明の駆動装置において、前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段を備え前記所定条件は前記回転数検出手段により検出される回転数が所定回転数に至ったときに成立する条件であるものとしたり、前記所定条件は前記内燃機関の始動を開始した時点を基準とした所定時点からの経過時間が所定時間に至ったときに成立する条件であるものとすることもできる。こうすれば、内燃機関の回転数や経過時間を基準として共振現象に関する条件を判定することができる。
【0010】
また、本発明の駆動装置において、前記内燃機関の出力軸と駆動軸とに接続され電力と動力の入出力を伴って該内燃機関からの動力の少なくとも一部を該駆動軸に出力する電力動力入出力手段と前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機とを備え、前記クランキング手段は前記電力動力入出力手段と前記電動機とからなる手段であるものとすることもできる。この態様の本発明の駆動装置において、前記クランキング制御手段は前記第1のトルクまたは前記第2のトルクが出力されるよう前記電力動力入出力手段を駆動制御すると共に少なくとも該電力動力入出力手段から出力されるトルクの反力としてのトルクが出力されるよう前記電動機を駆動制御する手段であるものとすることもできる。
【0011】
この電力動力入出力手段と電動機とを備える態様の本発明の駆動装置において、前記電力動力入出力手段は前記内燃機関の出力軸と前記駆動軸と第3の軸の3軸に接続され該3軸のうちのいずれか2軸に入出力した動力に基づいて残余の軸に動力を入出力する3軸式動力入出力手段と前記第3の軸に動力を入出力する発電機とを備える手段であるものとしたり、前記電力動力入出力手段は前記内燃機関の出力軸に取り付けられた第1の回転子と前記駆動軸に取り付けられた第2の回転子とを有し該第1の回転子と該第2の回転子との電磁作用による電力の入出力を伴って該内燃機関からの動力の少なくとも一部を該駆動軸に出力する対回転子電動機であるものとすることもできる。
【0012】
本発明の自動車は、上述したいずれかの態様の本発明の駆動装置、即ち、基本的には、内燃機関を有する駆動装置であって、前記内燃機関をクランキング可能なクランキング手段と、前記内燃機関の出力軸の回転位置を検出する回転位置検出手段と、該検出された回転位置に基づいて前記内燃機関のいずれかの気筒が膨張行程にさしかかるタイミングを含む所定範囲のタイミングにあるか否かを判定するタイミング範囲判定手段と、前記内燃機関の始動指示がなされたとき、少なくとも始動に伴う共振現象に関する所定条件が成立するまでは第1のトルクにより前記内燃機関がクランキングされるよう前記クランキング手段を駆動制御し、前記所定条件が成立した以降に前記タイミング範囲判定手段により前記所定範囲のタイミングにあるのを判定したときに前記第1のトルクより小さな第2のトルクにより前記内燃機関がクランキングされるよう前記クランキング手段を駆動制御するクランキング制御手段と、を備える駆動装置を備えることを要旨とする。
【0013】
この本発明の自動車では、上述のいずれかの態様の本発明の駆動装置を備えるから、本発明の駆動装置が奏する効果、例えば、トルクを切り替える際に生じるトルクショックを抑制することができる効果や、共振現象による振動を低減する効果や、エネルギ効率を向上させる効果などを奏することができる。
【0014】
本発明の駆動装置の制御方法は、
内燃機関と該内燃機関をクランキング可能なクランキング手段とを備える駆動装置の制御方法であって、
(a)前記内燃機関の出力軸の回転位置を検出し、
(b)該検出された回転位置に基づいて前記内燃機関のいずれかの気筒が膨張行程にさしかかるタイミングを含む所定範囲のタイミングにあるか否かを判定し、(c)前記内燃機関の始動指示がなされたとき、少なくとも始動に伴う共振現象に関する所定条件が成立するまでは第1のトルクにより前記内燃機関がクランキングされるよう前記クランキング手段を駆動制御し、前記所定条件が成立した以降に前記ステップ(b)により前記所定範囲のタイミングにあるのを判定したときに前記第1のトルクより小さな第2のトルクにより前記内燃機関がクランキングされるよう前記クランキング手段を駆動制御する
ことを要旨とする。
【0015】
この本発明の駆動装置の制御方法では、内燃機関の始動を指示されたときに、始動に伴う共振現象に関する所定条件が成立するまでは第1のトルクにより内燃機関がクランキングされるようにクランキング手段を駆動制御し、この所定条件が成立した以降は内燃機関のいずれかの気筒が膨張行程にさしかかるタイミングを含む所定範囲のタイミングにあるときに第1のトルクより小さな第2のトルクに切り替えて内燃機関がクランキングされるようにクランキング手段を駆動制御する。したがって、内燃機関のいずれかの気筒が膨張行程にさしかかるタイミングを含む範囲で第1のトルクから第2のトルクへの切り替えを行なうからトルクを切り替える際に生じるトルクショックを抑制することができる。もとより、始動に伴う共振現象に関する所定条件として共振帯域を通過した際などに成立する条件を設定することにより、共振帯域では第1のトルクにより迅速に回転数を上昇させて共振現象による振動を低減すると共に、共振帯域を通過した後には第1のトルクより小さな第2のトルクに切り替えてエネルギ効率を向上させることができる。なお「所定範囲のタイミング」としては、膨張行程を開始する直前から膨張行程を終了するより前までの範囲のタイミングなどを挙げることができる。また「所定条件」としては、前記内燃機関の回転数が所定回転数に至ったときに成立する条件などを挙げることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。図1は、本発明の一実施例である駆動装置を搭載したハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、駆動装置全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0017】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジン22の運転状態を検出する各種センサとしては、例えば、クランクシャフト26のクランク角θを検出するクランクポジションセンサ23やエンジン22の冷却水の温度(冷却水温)を検出する図示しない水温センサなどを挙げることができる。また、エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0018】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。
【0019】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0020】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば,バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度などが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
【0021】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0022】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0023】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に運転停止しているエンジン22を始動する際の動作について説明する。図2は、実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される始動時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、エンジン22の始動指示がなされたときに実行される。
【0024】
始動時駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V,エンジン22の回転数Neやクランク角θ,モータMG2の回転数Nm2など制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neとクランク角θは、クランクポジションセンサ23により検出されたクランク角θとこのクランク角θに基づいて計算された回転数NeとをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、モータMG2の回転数Nm2は、回転位置検出センサ44により検出されるモータMG2の回転子の回転位置に基づいて計算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。
【0025】
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動輪63a,63bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を設定する(ステップS110)。要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。図3に要求トルク設定用マップの一例を示す。
【0026】
続いて、エンジン22の回転数Neと共振基準回転数Nref1,制御開始回転数Nref2とを比較する(ステップ120)。エンジン22の回転数Neが共振基準回転数Nref1より小さいときにはトルク指令Tm1*としてクランキングトルクTm1maxを設定する(ステップS140)。ここで、共振基準回転数Nref1には、共振現象を生じやすいエンジン22の回転数領域の上限値(例えば、400rpmなど)が設定されている。したがって、エンジン22の回転数Neが共振現象を生じやすい回転数領域を通過するまでは、トルク指令Tm1*としてクランキングトルクTm1maxが設定されることになる。なお、制御開始回転数Nref2は、エンジン22の燃料噴射制御などを開始する基準の回転数として設定されたものであり、詳細は後述する。
【0027】
モータMG1のトルク指令Tm1*が設定されると、要求トルクTr*とトルク指令Tm1*と動力分配統合機構30のギヤ比ρを用いてモータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを式(1)により計算する(ステップS180)。式(1)は、動力分配統合機構30の回転要素に対する力学的な関係式である。図4はエンジン22を始動する前における動力分配統合機構30の各回転要素の回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図であり、図5はエンジン22をクランキングしている最中における動力分配統合機構30の各回転要素の回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図である。図中、左のS軸はモータMG1の回転数Nm1であるサンギヤ31の回転数を示し、C軸はエンジン22の回転数Neであるキャリア34の回転数を示し、R軸はモータMG2の回転数Nm2に減速ギヤ35のギヤ比Grを乗じたリングギヤ32の回転数Nrを示す。式(1)は、図5の共線図を用いれば容易に導くことができる。なお、図5中のR軸上の2つの太線矢印は、モータMG1からトルク指令Tm1*のトルクを出力してエンジン22をクランキングする際に駆動軸としてのリングギヤ軸32aに作用する反力としてのトルクと、モータMG2から出力されるトルクTm2*が減速ギヤ35を介してリングギヤ軸32aに作用するトルクとを示している。このようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定することにより、モータMG1によりエンジン22をクランキングする際に駆動軸としてのリングギヤ軸32aに作用する反力としてのトルクを受け持つと共に運転者が要求する要求トルクTr*に応じたトルクを出力することができる。
【0028】
【数1】
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr ・・・ (1)
【0029】
続いて、モータMG2の定格出力に基づくトルク制限Tm2limを設定する(ステップS190)。トルク制限Tm2limは、モータMG2の回転数Nm2に基づいて設定することができる。実施例では、モータMG2の回転数Nm2とトルク制限Tm2limとの関係を実験などにより定めてトルク制限設定マップとして予めROM74に記憶しておき、モータMG2の回転数Nm2が与えられるとトルク制限設定マップから対応するトルク制限Tm2limを導出するものとした。図6に例示するように、実施例のトルク制限設定マップでは、回転数Nm2が大きくなるほどトルクTm2limが大きく制限されるように設定されている。
【0030】
そして、仮モータトルクTm2tmpとトルク制限Tm2limとを比較して小さい方のトルクをモータMG2のトルク指令Tm2*に設定し(ステップS200)、設定したトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する(ステップS210)。トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。そして、エンジン22が完爆したか否かを判定し(ステップS220)、完爆していないときにはステップS100に戻り、完爆しているときにはエンジン22の始動完了と判断して始動時駆動制御ルーチンを終了する。いま、エンジン22の回転数Neが共振基準回転数Nref1より小さいときを考えれば、エンジン22の燃料噴射制御などが開始されていないからステップS100に戻ることになる。
【0031】
ステップS120でエンジン22の回転数Neが共振基準回転数Nref1以上となっており制御開始回転数Nref2より小さいときには、さらに、クランク角θが所定角θ1〜θ2の範囲にあるか否かを判定する(ステップS130)。ここで、所定角θ1〜θ2はエンジン22が膨張行程にさしかかるタイミングのクランク角θの範囲(例えば、上死点−10°CA〜上死点+20°CAなど)として設定されている。即ち、このステップS130の判定によりエンジン22が膨張行程にさしかかるタイミングにあるか否かを判定するのである。
【0032】
ステップS130の判定により、クランク角θが所定角θ1〜θ2の範囲にないときには、前述したステップS140にスキップしてトルク指令Tm1*にクランキングトルクTm1maxを設定する。一方、クランク角θが所定角θ1〜θ2の範囲にあるときには、トルク指令Tm1*としてエンジン22を制御開始回転数Nref2まで安定してモータリングできる最低限のトルクTm1minを設定する(ステップS150)。なお、このステップS130では、一度肯定的な判定(即ち、エンジン22が膨張行程にさしかかるタイミングにあるとの判定)がなされた以降に繰り返し実行されるときには、クランク角θの判定を行なわずにステップS150にスキップしトルク指令Tm1*にトルクTm1minを設定する。
【0033】
こうしてトルク指令Tm1*を設定すると、前述したステップS180以降の処理を実行する。この場合、トルク指令Tm1*として最低限のトルクTm1minが設定されているから、クランキングトルクTm1maxが設定されている場合と比較してリングギヤ軸32aに作用する反力としてのトルク(Tm1*/ρ)が小さくなり、この結果、より大きな要求トルクTr*に対してもトルク制限Tm2limによる制限を受けることなく対応できるのである。
【0034】
ステップS120でエンジン22の回転数Neが制御開始回転数Nref2に達しているときには、トルク指令Tm1*に値0を設定すると共にエンジンECU24に燃料噴射制御などの開始を指示する(ステップS160,S170)。ここで、トルク指令Tm1*に値0を設定するのは、エンジン22の初爆時の振動の低減などを考慮したことに基づく。
【0035】
こうしてトルク指令Tm1*を設定すると、前述したステップS180以降の処理を実行する。この場合、ステップS170で燃料噴射制御などの開始を指示しているから、エンジン22が完爆しているときにはエンジン22の始動完了と判断して始動時駆動制御ルーチンを終了することになる。
【0036】
図7は、上述したモータMG1のトルク指令Tm1*とエンジン22の回転数Neの時間変化の様子の一例を示す説明図である。図示するように、エンジン22の回転数Neが共振基準回転数Nref1より小さいときにはクランキングトルクTm1maxがトルク指令Tm1*に設定され、回転数Neが共振基準回転数Nref1以上となりエンジン22が膨張行程にさしかかるタイミングにあるときにトルク指令Tm1*をトルクTm1minに切り替える(時間t1)。そして、回転数Neが制御開始回転数Nref2に達したときにトルク指令Tm1*に値0を設定するのである(時間t2)。
【0037】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン22の始動指示がなされたときに、エンジン22の回転数Neが共振基準回転数Nref1以上となり、かつ、クランク角θがエンジン22が膨張行程にさしかかるタイミングのクランク角θの範囲(所定角θ1〜θ2)にあるときに、モータMG1のトルク指令Tm1*をクランキングトルクTm1maxからトルクTm1minに切り替えることができる。この結果、トルクを切り替える際に生じるトルクショックを抑制することができる。もとより、エンジン22の回転数Neが共振基準回転数Nref1に達するまでは比較的大きなクランキングトルクTm1maxでエンジン22をクランキングして共振現象を生じやすい回転数領域を迅速に通過するから共振現象による振動を低減することができる。さらに、エンジン22の回転数Neが共振現象を生じやすい回転数領域を通過した後にはエンジン22を制御開始回転数Nref2まで安定してモータリングできる最低限のトルクTm1minをトルク指令Tm1*として設定するから、モータMG1から出力するトルクにより駆動軸としてのリングギヤ軸32aに作用するトルクを小さくすることができる。この結果、モータMG2から出力可能なトルクの範囲内でより大きな要求トルクTr*に対応することができる。
【0038】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の回転数Neが共振基準回転数Nref1以上になったときに、共振現象を生じやすい回転数領域を通過したと判断するものとしたが、その他の条件により判断するものとしてもよく、例えば、始動時駆動制御ルーチンの実行を開始してからの経過時間が所定時間に達したときなどに共振現象を生じやすい回転数領域を通過したと判断するものとしてもよい。
【0039】
実施例のハイブリッド自動車20では、所定角θ1〜θ2としてエンジン22が膨張行程にさしかかるタイミングのクランク角θの範囲を設定するものとしたが、所定角θ1〜θ2の設定範囲は膨張行程にさしかかるタイミングを含んでいればよく、例えば、膨張行程にさしかかるタイミングからその膨張行程を終了するタイミングまでの範囲(例えば、上死点−10°CA〜上死点+180°CAなど)としたり、膨張行程にさしかかるタイミングからその膨張行程の途中のタイミングまでの範囲(例えば、上死点−10°CA〜上死点+90°CA)などとしても構わないのは勿論である。
【0040】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力を減速ギヤ35により変速してリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図8の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aが接続された車軸(駆動輪63a,63bが接続された車軸)とは異なる車軸(図8における車輪64a,64bに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
【0041】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の動力を動力分配統合機構30を介して駆動輪63a,63bに接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図9の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフト26に接続されたインナーロータ232と駆動輪63a,63bに動力を出力する駆動軸に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を駆動軸に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。
【0042】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の動力を動力分配統合機構30を介して駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力するパラレル型のハイブリッド自動車としたが、いわゆるシリーズ型のハイブリッド自動車に適用するものとしてもよい。また、エンジンの運転/停止を頻繁に行なうアイドリングストップ機能付きの車両に適用することもできる。さらに、エンジンなどの内燃機関とこの内燃機関をクランキングする手段を備える構成の車両であれば、その他の種々の車両に適用しても差し支えない。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される始動時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】エンジン22を始動する前における動力分配統合機構30の各回転要素の回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図である。
【図5】エンジン22をクランキングしている最中における動力分配統合機構30の各回転要素の回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図である。
【図6】トルク制限設定マップの一例を示す説明図である。
【図7】エンジン22を始動する際のモータMG1のトルク指令Tm1*とエンジン22の回転数Neの時間変化の様子の一例を示す説明図である。
【図8】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図9】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
20,120,220 ハイブリッド自動車、22 エンジン、23 クランクポジションセンサ、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35,135 減速ギヤ、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b,64a,64b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、193a,193b 車輪、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ 234 アウターロータ、MG1,MG2 モータ。
Claims (11)
- 内燃機関を有する駆動装置であって、
前記内燃機関をクランキング可能なクランキング手段と、
前記内燃機関の出力軸の回転位置を検出する回転位置検出手段と、
該検出された回転位置に基づいて前記内燃機関のいずれかの気筒が膨張行程にさしかかるタイミングを含む所定範囲のタイミングにあるか否かを判定するタイミング範囲判定手段と、
前記内燃機関の始動指示がなされたとき、少なくとも始動に伴う共振現象に関する所定条件が成立するまでは第1のトルクにより前記内燃機関がクランキングされるよう前記クランキング手段を駆動制御し、前記所定条件が成立した以降に前記タイミング範囲判定手段により前記所定範囲のタイミングにあるのを判定したときに前記第1のトルクより小さな第2のトルクにより前記内燃機関がクランキングされるよう前記クランキング手段を駆動制御するクランキング制御手段と、を備える駆動装置。 - 請求項1記載の駆動装置であって、
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段を備え、
前記所定条件は、前記回転数検出手段により検出される回転数が所定回転数に至ったときに成立する条件である駆動装置。 - 前記所定条件は、前記内燃機関の始動を開始した時点を基準とした所定時点からの経過時間が所定時間に至ったときに成立する条件である請求項1記載の駆動装置。
- 前記所定範囲のタイミングは、膨張行程を開始する直前から膨張行程を終了するより前までの範囲のタイミングである請求項1ないし3いずれか記載の駆動装置。
- 請求項1ないし4いずれか記載の駆動装置であって、
前記内燃機関の出力軸と駆動軸とに接続され電力と動力の入出力を伴って該内燃機関からの動力の少なくとも一部を該駆動軸に出力する電力動力入出力手段と、前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機と、を備え、
前記クランキング手段は、前記電力動力入出力手段と前記電動機とからなる手段である駆動装置。 - 前記クランキング制御手段は、前記第1のトルクまたは前記第2のトルクが出力されるよう前記電力動力入出力手段を駆動制御すると共に少なくとも該電力動力入出力手段から出力されるトルクの反力としてのトルクが出力されるよう前記電動機を駆動制御する手段である請求項5記載の駆動装置。
- 前記電力動力入出力手段は、前記内燃機関の出力軸と前記駆動軸と第3の軸の3軸に接続され該3軸のうちのいずれか2軸に入出力した動力に基づいて残余の軸に動力を入出力する3軸式動力入出力手段と、前記第3の軸に動力を入出力する発電機とを備える手段である請求項5または6記載の駆動装置。
- 前記電力動力入出力手段は、前記内燃機関の出力軸に取り付けられた第1の回転子と前記駆動軸に取り付けられた第2の回転子とを有し該第1の回転子と該第2の回転子との電磁作用による電力の入出力を伴って該内燃機関からの動力の少なくとも一部を該駆動軸に出力する対回転子電動機である請求項5または6記載の駆動装置。
- 請求項1ないし8いずれか記載の駆動装置を備える自動車。
- 内燃機関と該内燃機関をクランキング可能なクランキング手段とを備える駆動装置の制御方法であって、
(a)前記内燃機関の出力軸の回転位置を検出し、
(b)該検出された回転位置に基づいて前記内燃機関のいずれかの気筒が膨張行程にさしかかるタイミングを含む所定範囲のタイミングにあるか否かを判定し、
(c)前記内燃機関の始動指示がなされたとき、少なくとも始動に伴う共振現象に関する所定条件が成立するまでは第1のトルクにより前記内燃機関がクランキングされるよう前記クランキング手段を駆動制御し、前記所定条件が成立した以降に前記ステップ(b)により前記所定範囲のタイミングにあるのを判定したときに前記第1のトルクより小さな第2のトルクにより前記内燃機関がクランキングされるよう前記クランキング手段を駆動制御する
駆動装置の制御方法。 - 前記所定条件は、前記内燃機関の回転数が所定回転数に至ったときに成立する条件である請求項10記載の駆動装置の制御方法。
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