本発明は、溶銑の脱燐方法に関し、詳しくは、脱燐処理の際の溶銑の脱炭を抑制し、更に、蛍石等のフッ素源を媒溶剤として使用しなくてもCaO系の脱燐用フラックスを用いて効率良く溶銑を脱燐する脱燐方法に関するものである。
高炉から出銑された溶銑は、転炉にて精錬される前に溶銑予備処理と呼ばれる脱硫処理、脱珪処理及び脱燐処理が施されている。当初、これらの予備処理は、鋼材の品質面上から低硫化や低燐化が要求されるものについて実施されていたが、近年では、転炉スラグの処理の問題、転炉でのMn鉱石の還元によるコスト削減効果、転炉の生産性向上によるコスト削減効果等により、高炉及び転炉を備えた銑鋼一貫製鉄所では、品質面上からの低硫化及び低燐化のみならず、製鋼工程のトータルコストを削減する手段として、出銑されるほぼ全ての溶銑に対して脱硫処理及び脱燐処理が施されるようになった。
このうち脱燐処理は、通常、次のようにして行われている。即ち、トーピードカーや溶銑鍋等の溶銑保持容器或いは転炉等の精錬容器に収容された溶銑に、酸素ガスを上吹きすると共に生石灰等からなる脱燐用フラックスを上置きするか又はインジェクションし、更には、固体酸素源として鉄鉱石等を上置きするか又はインジェクションし、溶銑中の燐を酸素ガスや固体酸素源によって酸化し、生成する燐酸化物を脱燐用フラックス中に取り込むと云う方法である。
このように、溶銑の脱燐処理では溶銑を酸化精錬するので、溶銑中の炭素が酸化されて減少する所謂脱炭反応が、脱燐反応と併行して起こる。溶銑中炭素の酸化熱は、例えば転炉精錬の熱源として鉄スクラップやMn鉱石の溶解に利用されており、従って、溶銑の脱燐処理における脱炭は次工程以降における熱不足をもたらすことになる。
この熱不足を補償する方法として、脱燐処理中に溶銑中にコークス等の炭材を添加して炭素を補う方法が多数提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、炭材を添加する方法では、炭材には硫黄が含まれるために溶銑中の硫黄濃度が上昇し、溶銑予備処理の脱燐処理と脱硫処理の順序のフレキシビリティーがなくなる、或いは脱硫処理費用が増大する等々の問題が発生する。硫黄含有量の少ない炭材も存在するが、高価であり鉄鋼業での使用は現実的ではない。
一方、脱燐用フラックスとして添加した生石灰が滓化しないと脱燐効率が低下するため、従来、生石灰の滓化を促進させるために、媒溶剤として蛍石(CaF2 )を使用することが広く行なわれていた。ところが最近、環境保護の観点からスラグからのフッ素溶出量の規制基準が強化される状況にあり、そのため、脱燐用フラックス中のフッ素濃度を下げる或いは蛍石の使用を中止する必要性が発生した。蛍石の使用量を削減する或いは中止すると脱燐効率は極端に低下する。
これに対処すべく多くの提案がなされている。例えば、特許文献2には、上底吹転炉形式の炉において、蛍石を使用しないで転炉滓と酸化鉄とを主成分とする脱燐用フラックスを用い、酸素を上吹きして溶銑を脱燐処理する際に、処理中のスラグ条件として、塩基度(mass%CaO/mass%SiO2 )を1.2〜2.0、Al2 O3 含有量を2〜16mass%、T.Fe含有量を7〜30mass%に制御して溶銑を脱燐する方法が提案されている。
しかしながら、特許文献2の方法では、塩基度が低いために、脱燐用フラックスの脱燐能が低く、脱燐量を確保するためには脱燐用フラックスの使用量を非常に多くしなければならない。又、脱燐用フラックス中のT.Fe含有量も高いため、脱燐用フラックスの使用量が多いことと相まってスラグ中への鉄ロスが大きく、鉄歩留りが低下すると云う問題もある。尚、T.Feとは、スラグ中の全ての鉄酸化物の鉄分の合計値である。
特開平8−311517号公報
特開平8−157921号公報
このように、従来、脱燐処理における脱炭を効率的に抑制する手段が望まれていたが、有効な手段が無いまま、前述したような炭材添加に依存していた。又、蛍石等のフッ素源を媒溶剤として使用しないで溶銑を効率的に脱燐する手段も切望されていたものの、未だ有効な手段が確立されていないのが現状である。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、脱燐処理の際の溶銑の脱炭を効率良く抑制可能であり、更に、蛍石等のフッ素源を媒溶剤として使用しなくてもCaO系の脱燐用フラックスを用いて効率良く溶銑を脱燐することの可能な脱燐方法を提供することである。
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意検討研究を行なった。以下に、検討研究結果を説明する。
気体酸素源又は固体酸素源を用いた溶銑の脱燐処理では、溶銑の炭素含有量が高いので、前述したように、下記の(1)式で示す脱燐反応と同時に、下記の(2)式で示す脱炭反応が進行する。そのため、脱燐処理後の溶銑中炭素濃度は低下する。
そこで、脱炭反応を抑制することを目的として、気体酸素源として使用している酸素ガスに、炭酸ガス(二酸化炭素)を混合させることを検討した。炭酸ガスを混合させることにより、下記の(3)式及び(4)式に示す反応が生じる。
(3)式及び(4)式に示すように脱燐反応が進むにつれて溶銑浴面上における雰囲気ガス中のCOガス分圧が高くなるので、(2)式に示すCOガス生成を伴う脱炭反応は抑制されるとの想定の下、実機において脱燐試験を実施した。脱燐試験は、転炉型精錬容器の炉底に設けた底吹き羽口から攪拌用ガスを吹き込んで溶銑を攪拌しながら、転炉型精錬容器内の溶銑に向けて酸素ガス及び炭酸ガスを上吹きランスから上吹きすると共に、この上吹きランスから、脱燐用フラックスとしての粉体状の生石灰を、酸素ガス及び炭酸ガスを搬送用ガスとして溶銑浴面に吹き付けて行なった。その結果、炭酸ガスを酸素ガスに混合させることで、脱燐処理中の脱炭量が低減することを確認した。その際に、生成するCOガスを回収すれば、エネルギー的にもメリットが得られることが判明した。
更に、実験を繰返すうちに、酸素ガスと炭酸ガスとの混合ガス中の炭酸ガス濃度を高くすると、脱炭を抑制することはできるものの、脱燐反応が阻害され、脱燐処理後の到達燐濃度が比較的高くなることが分かった。これは、炭酸ガスの酸化力が酸素ガスの酸化力に比べて弱いことに起因すると考えられた。そこで、脱燐処理の初期は脱燐反応を促進するために炭酸ガス濃度を低くし、一方、脱燐処理の末期は脱炭を抑制するために炭酸ガス濃度を高くした試験を行なった。その結果、脱燐反応が十分に行なわれると同時に、脱炭量が少なくなることが分かった。
又、スラグ量が多い場合には、上吹きした混合ガスはスラグに遮断され、溶銑浴面へ到達することが妨げられるので、到達燐濃度が高くなることが分かった。生成するスラグ量を少なくするためには、スラグ中のSiO2 を低減することが効果的であり、従って、溶銑中の珪素濃度を脱燐処理前に予め低減しておくことが好ましく、特に、溶銑中の珪素濃度を予め0.1mass%以下に低減することで、脱燐反応が安定し、燐濃度の低い溶銑を安定して得ることができることが分かった。
又、粉体状の生石灰を溶銑浴面に吹き付けて添加することによって、生石灰の滓化が促進され、蛍石等のフッ素源を使用しなくても、従来と同等の脱燐処理が可能であることも確認できた。この場合、滓化が促進されることにより、脱燐用フラックスの使用原単位も大幅に低減することが分かった。尚、本発明における酸素ガスとは、工業的に純酸素ガスと呼ばれるもので、数vol %程度の窒素ガス等を含有するガスも本発明における酸素ガスに含まれる。
本発明は、上記検討研究結果に基づいてなされたものであり、第1の発明に係る溶銑の脱燐方法は、溶銑に気体酸素源を供給する溶銑の脱燐方法であって、前記気体酸素源の一部として炭酸ガスを使用することを特徴とするものである。
第2の発明に係る溶銑の脱燐方法は、第1の発明において、前記気体酸素源として、酸素ガス及び炭酸ガスを使用することを特徴とするものである。
第3の発明に係る溶銑の脱燐方法は、第2の発明において、前記気体酸素源中の炭酸ガスの濃度比率を、脱燐処理中に変更することを特徴とするものである。
第4の発明に係る溶銑の脱燐方法は、第3の発明において、前記気体酸素源中の炭酸ガスの濃度比率を、連続的又は段階的に増加させることを特徴とするものである。
第5の発明に係る溶銑の脱燐方法は、第3又は第4の発明において、前記気体酸素源中の炭酸ガスの濃度を、脱燐処理の初期には10〜30vol %、脱燐処理の末期には50〜100vol %とすることを特徴とするものである。
第6の発明に係る溶銑の脱燐方法は、第1ないし第5の発明の何れかにおいて、前記溶銑の脱燐処理前の珪素含有量が0.1mass%以下であることを特徴とするものである。
第7の発明に係る溶銑の脱燐方法は、第1ないし第6の発明の何れかにおいて、前記気体酸素源と共に、溶銑の浴面に向けてCaOを主成分とする脱燐用フラックスを吹き付けることを特徴とするものである。
第8の発明に係る溶銑の脱燐方法は、第7の発明において、前記脱燐用フラックスとして、実質的にフッ素を含有しない物質を使用することを特徴とするものである。
本発明に係る溶銑の脱燐方法によれば、気体酸素源の一部として炭酸ガスを使用し、この炭酸ガスを酸素ガス等の気体酸素源に混合して使用するので、溶銑浴面上における雰囲気ガス中のCOガス分圧が高くなり、脱燐処理中の溶銑の脱炭反応を抑制することが可能となる。又、CaOを主成分とする脱燐用フラックスを溶銑の浴面に向けて吹き付けて添加した場合には、脱燐用フラックスの滓化が十分に進行し、蛍石等のフッ素源を使用しなくても、従来と同等の脱燐処理を行うことが可能となる。このように、本発明によって工業上有益な効果がもたらされる。
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明に係る溶銑の脱燐方法を実施する際に用いる転炉型精錬設備の概略断面図である。
図1に示すように、本発明に係る溶銑の脱燐方法で用いる転炉型精錬設備1は、その外殻を鉄皮4で構成され、鉄皮4の内側に耐火物5が施行された炉本体2と、この炉本体2内に挿入され、上下方向に移動可能な鋼製の上吹きランス3とを備えている。炉本体2の上部には、収容した溶銑16を出湯するための出湯口6が設けられ、又、炉本体2の炉底には、撹拌用ガスを吹き込むための底吹き羽口7が設けられている。この底吹き羽口7はガス導入管8と接続されている。上吹きランス3には、酸素ガス配管9及び炭酸ガス配管10が接続されており、気体酸素源としての酸素ガス及び炭酸ガスが、酸素ガス配管9及び炭酸ガス配管10を介して任意の流量で上吹きランス3から炉本体2内に供給されるようになっている。
酸素ガス配管9から分岐した酸素ガス配管9A、並びに、炭酸ガス配管10から分岐した炭酸ガス配管10Aは、脱燐用フラックス18を収容したディスペンサー11に接続されており、一方、ディスペンサー11には、上吹きランス3と接続するフラックス移送配管20が接続されている。即ち、ディスペンサー11内に供給された酸素ガス及び炭酸ガスは、ディスペンサー11内の脱燐用フラックス18の搬送用ガスとして機能し、フラックス移送配管20を経由して上吹きランス3の先端から脱燐用フラックス18を炉本体2内に吹き付けて供給することができるようになっている。
酸素ガス配管9,9A及び炭酸ガス配管10,10Aには、流量調整弁12,13,14,15が設けられており、酸素ガス及び炭酸ガスを上吹きランス3から直接吹き込むことも、又、ディスペンサー11を経由して吹き込むことも任意に調整することができるようになっている。
尚、本発明による脱燐方法を実施する場合、上吹きランス3は脱燐用フラックス18の供給流路を兼ねる必要はなく、上吹きランス3とは別に脱燐用フラックス18の供給用ランスを設置してもよい。但し、炉本体2の上方部における設備配置が煩雑になるので、これを防止するためには、上吹きランス3が脱燐用フラックス18の供給流路を兼ねることが好ましい。
このような構成の転炉型精錬設備1を用い、溶銑16に対して、以下に示すようにして本発明に係る脱燐処理を実施する。
先ず、炉本体2内に溶銑16を装入する。用いる溶銑16としてはどのような組成であっても処理することができ、脱燐処理の前に脱硫処理や脱珪処理が施されていてもよい。脱珪処理とは、溶銑16に酸素ガスやミルスケールを添加し、主として溶銑16中の珪素を除去する処理である。因みに、脱燐処理前の溶銑16の主な化学成分は、炭素:3.8〜5.0mass%、珪素:0.2mass%以下、硫黄:0.05mass%以下、燐:0.08〜0.2mass%程度である。但し、前述したように、脱燐処理時に炉本体2内のスラグ17の量が多くなると脱燐効率が低下するので、炉内のスラグ量を少なくして脱燐効率を高めるために、予め脱珪処理等により、溶銑16中の珪素濃度を0.1mass%以下まで低減しておくことが好ましい。又、溶銑温度は1250〜1350℃の範囲であれば問題なく脱燐処理することができる。
次いで、脱燐用フラックス18として、CaOを主成分とするフラックスを上吹きランス3を介して溶銑16の浴面に向けて吹き付けると共に、底吹き羽口7から窒素ガス等の非酸化性ガス又はArガス等の希ガスを撹拌用ガスとして溶銑16中に吹き込みながら、上吹きランス3から酸素ガス及び炭酸ガスを供給して溶銑16の脱燐処理を実施する。
この場合、CaOを主成分とする脱燐用フラックス18としては、生石灰粉を使用することができる。生石灰粉にアルミナ粉等を媒溶剤として加えてもよいが、本発明においては脱燐用フラックス18を溶銑浴面に吹き付けて添加するので、生石灰粉単体であっても十分に滓化するので、アルミナ粉等の媒溶剤は用いなくても十分に脱燐することができる。特に、スラグ17からのフッ素の溶出量を抑えて環境を保護する観点から、蛍石等のフッ素含有物質は造滓剤として使用しないことが好ましい。但し、フッ素が不純物成分として不可避的に混入した物質については使用しても構わない。底吹き羽口7から吹き込まれた攪拌ガス19によって溶銑16は攪拌され、浴面に吹き付けられた脱燐用フラックス18は火点にて溶融し、スラグ17を形成する。
上吹きランス3から供給する酸素ガス及び炭酸ガスは、脱燐処理の処理開始時期は炭酸ガス濃度比を低くし、脱燐処理の進行に伴って炭酸ガス濃度比が高くなるように、連続的又は段階的に変更することが好ましい。具体的には、酸素ガスと炭酸ガスとの混合ガス中の炭酸ガスの濃度を、脱燐処理の初期には10〜30vol %、脱燐処理の末期には50〜100vol %とすることが好ましい。脱燐処理の初期には炭酸ガスを混合せず、酸素ガスのみであってもよい。このようにすることで、脱燐処理開始時には脱燐反応が促進され、一方、脱燐処理末期には脱炭反応が抑制されるので、燐濃度が低く、炭素濃度が高い溶銑16を得ることができる。
脱燐処理時の酸素源が気体の酸素ガス及び炭酸ガスのみでは溶銑温度が上昇し過ぎて脱燐反応が阻害される場合もあるので、必要に応じて固体酸素源としてミルスケールや鉄鉱石等を添加してもよい。気体酸素源の添加量と固体酸素源の添加量との比は、溶銑16中の珪素濃度、燐濃度、炭素濃度等に応じて適宜変更することができる。又、脱燐用フラックス18の投入量は、溶銑16中の珪素濃度及び燐濃度に応じて変更することとするが、最大でも溶銑トン当たり40kg程度であれば十分である。又、ランス高さは特に限定する必要はなく、スラグ17の生成量等を勘案して設定すればよい。
以上説明したように、本発明に係る溶銑の脱燐方法では、気体酸素源の一部として炭酸ガスを使用し、この炭酸ガスを酸素ガス等の気体酸素源に混合して使用するので、溶銑浴面上における雰囲気ガス中のCOガス分圧が高くなり、その結果、溶銑16の脱炭反応を抑制することが可能となる。その際、脱燐処理開始時は炭酸ガス濃度比を低くし、脱燐処理の進行に伴って炭酸ガス濃度比を高くした場合には、脱炭反応を抑制すると同時に、溶銑16を十分に脱燐処理することが可能となる。又、CaOを主成分とする脱燐用フラックス18を、気体酸素源と共に溶銑16の浴面に向けて吹き付けて添加するので、脱燐用フラックス18の滓化が十分に進行し、蛍石等のフッ素源を使用しなくても、従来と同等の脱燐処理が可能である。
尚、上記説明では、CaOを主成分とする脱燐用フラックス18を、上吹きランス3を介して気体酸素源と共に溶銑16の浴面に吹き付けて添加しているが、本発明においては気体酸素源と共に吹き付けて添加する必要はなく、溶銑16の浴面に上置きしても、又、インジェクションランス等を用いて溶銑16中に吹き込んでもよい。但し、これらの場合には、気体酸素源と共に溶銑16の浴面に吹き付けて添加する場合と比較して脱燐用フラックス18の滓化が遅れるので、特に滓化の遅い上置き添加の場合には、蛍石等のフッ素源を媒溶剤として使用することが好ましい。
又、上記説明では脱燐処理設備として転炉型精錬設備1を用いた場合を示したが、脱燐処理設備は上記の転炉型精錬設備1に限るものではなく、取鍋やトーピードカー等の溶銑搬送容器等であっても、窒素ガス、Arガス等の攪拌用ガスをインジェクションランス等によって溶銑中に吹き込むことで、上記に沿って本発明を実施することができる。更に、上記説明では炭酸ガスと混合して使用する気体酸素源として酸素ガスを用いているが、空気或いは酸素富化空気等の酸素含有ガスを気体酸素源として用いることもできる。但し、脱燐処理を迅速に行うためには、気体酸素源として酸素ガスを用いることが好ましい。
高炉から出銑された溶銑を溶銑鍋で受銑し、この溶銑に対して脱珪処理次いで脱硫処理を施した後に、前述した図1に示す転炉型精錬設備に溶銑を装入して、合計21回の脱燐試験を行った。脱燐試験は、大別して以下の5つの試験水準で実施した。
水準1:脱燐用フラックスとして生石灰の塊状品を用い、この生石灰を溶銑浴面に上置き添加した。又、蛍石を媒溶剤として用い、生石灰と同時に上置き添加した。上吹きランスから供給する気体酸素源としては、酸素ガスと炭酸ガスとの混合ガスを使用した。混合ガスの炭酸ガス濃度比は、脱燐処理中に変更せず一定とした。
水準2:脱燐用フラックスとして生石灰粉を用い、この生石灰粉を上吹きランスを介して溶銑浴面に吹き付けて添加した。又、上吹きランスから供給する気体酸素源としては、酸素ガスと炭酸ガスとの混合ガスを使用した。混合ガスの炭酸ガス濃度比は、脱燐処理中に変更せず一定とした。蛍石等のフッ素含有物質は使用せず行った。
水準3:脱燐用フラックスとして生石灰粉を用い、この生石灰粉を上吹きランスを介して溶銑浴面に吹き付けて添加した。又、上吹きランスから供給する気体酸素源としては、酸素ガスと炭酸ガスとの混合ガスを使用し、そして、混合ガスの炭酸ガス濃度比を、処理開始時に比べて処理末期が高くなるように、脱燐処理開始から約5分程度経過した脱燐処理途中で変更した。蛍石等のフッ素含有物質は使用せず行った。
水準4:脱燐用フラックスとして生石灰の塊状品を用い、この生石灰を溶銑浴面に上置き添加した。又、蛍石を媒溶剤として用い、生石灰と同時に上置き添加した。蛍石を使用しない試験も実施した。上吹きランスから供給する気体酸素源としては酸素ガスのみを使用した。
水準5:脱燐用フラックスとして生石灰粉を用い、この生石灰粉を上吹きランスを介して溶銑浴面に吹き付けて添加した。又、蛍石を媒溶剤として用い、蛍石を浴面に上置き添加する試験も実施した。上吹きランスから供給する気体酸素源としては酸素ガスのみを使用した。
各試験水準とも、底吹き羽口から攪拌用ガスとして窒素ガスを0.07〜0.12Nm3 /min・tの供給量で吹き込みながら脱燐処理した。又、各水準とも、脱燐処理時間は10〜13分であり、脱燐処理前及び処理後の溶銑温度は1280〜1350℃の範囲内に調整した。
表1に、各試験の試験条件及び試験結果を示す。又、図2に、各試験における脱炭量と脱燐量との相関を示し、図3に、生石灰添加量と脱燐処理後の溶銑中燐濃度との関係を示す。
水準4では、脱燐処理前の溶銑中珪素濃度を0.05〜0.22mass%まで変更して脱燐処理した。その結果、溶銑中珪素濃度が高い試験(試験No.17〜19)では生石灰添加量が多いにも拘わらず、脱燐量は少なく、脱燐効率が悪いことが分かったため、水準1,2,3,5では、脱燐処理前に溶銑に脱珪処理を施し、溶銑中珪素濃度を0.1mass%以下に調整した。又、生石灰を吹き付けて添加した水準2,3,5では、上置き添加した水準1,4に比べて少ない生石灰添加量で、水準1,4における脱燐量以上の脱燐量を安定して確保することができた。その場合に、試験No.20と試験No.21とを比較すれば明らかなように、造滓剤としての蛍石は添加する必要のないことが判明した。
又、図2に示すように、気体酸素源に炭酸ガスを使用した水準1,2,3では、気体酸素源として酸素ガスのみを使用した水準4,5に比較して、脱炭量が少なくなることが分かった。このことから、気体酸素源の一部として炭酸ガスを酸素ガスに混合して使用することにより、溶銑の脱炭反応を抑制可能であることが確認できた。但し、生石灰を上置き添加した水準1では、生石灰を吹き付けて添加した水準2,3に比較して、脱炭量が多く、脱燐量が少なくなることが分かった。又、水準2でも、水準5に比較して若干脱燐量が少なくなることが分かった。これは、水準2では酸素ガスに炭酸ガスを混合しているため、酸素ガス単独の水準5に比較して酸化力が弱まったためである。炭酸ガスを50vol %まで混合した試験No.6でこの傾向が顕著であった。
しかしながら酸素ガスと炭酸ガスとの混合ガス中の炭酸ガス濃度比を脱燐処理の進行に伴って増加させた水準3では、水準2と同程度の少ない脱炭量を維持しつつ、水準5と同程度の脱燐量を確保することができた。これは、脱燐初期に酸素ガスを多くすることによって脱燐反応に必要な鉄酸化物(FeO)を十分に生成させることができ、一方、脱燐処理の末期に炭酸ガスを多くすることで、脱炭反応を抑制できたものと考えられる。
又、水準3のみに着目すると、初期の炭酸ガス濃度を5vol %とした試験No.7は、初期の炭酸ガス濃度を10〜30vol %とした試験No.8〜11に比べて脱炭量が多くなることが分かった。更に、初期の炭酸ガス濃度を40vol %とした試験No.12では、試験No.8〜11に比べて脱炭量が抑制されるものの、脱燐量が減少することが分かった。これらの結果から、脱炭を抑制しつつ、十分な脱燐量を確保するためには、脱燐初期の混合ガスの炭酸ガス濃度を10〜30vol %とすることが好ましいことが分かった。尚、表1の備考欄には、本発明の範囲内の試験には「本発明例」と表示し、それ以外の試験には「比較例」と表示した。
本発明に係る溶銑の脱燐方法を実施する際に用いる転炉型精錬設備の概略断面図である。
実施例1の各試験における脱炭量と脱燐量との相関を示す図である。
実施例1の各試験における生石灰添加量と脱燐処理後の溶銑中燐濃度との関係を示す図である。
符号の説明
1 転炉型精錬設備
2 炉本体
3 上吹きランス
4 鉄皮
5 耐火物
6 出湯口
7 底吹き羽口
8 ガス導入管
9 酸素ガス配管
10 炭酸ガス配管
11 ディスペンサー
16 溶銑
17 スラグ
18 脱燐用フラックス
19 攪拌ガス
20 フラックス移送配管