JP2005032542A - 電子反射抑制材及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】この電子反射抑制材10は、基板12と、基板12の表面に被覆された表面皮膜とを有する。表面皮膜は、基板12の表面に対して略垂直な方向に伸びる複数の繊維状カーボンナノチューブ16により形成されている。
この電子反射抑制材は、基板12の表面を被覆する表面皮膜が複数の繊維状カーボンナノチューブ16によって形成されている。このため、従来の電子反射抑制材と比較して、その電子反射率を格段に低下させることができる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】本発明は、入射する電子によって入射面から放出される二次電子や反射電子を抑制する電子反射抑制材に関する。
【0002】
【従来の技術】電子反射抑制材は、例えば真空電子機器や電子線分析機器等の電子装置に利用されている。すなわち、これら電子装置の電子ビーム経路周辺に電子反射抑制材を配すると、電子ビーム経路におけるチャージアップが抑えられ、電子装置の動作を安定化することができる。従来の電子反射抑制材としては、非特許文献1に開示のものが知られている。
非特許文献1に開示された電子反射抑制材は、アルミニウム基板と、このアルミニウム基板に対して垂直に植え付けられた多数のカーボンパイル(カーボンファイバー)とで構成される。この電子反射抑制材では、植毛面に入射する電子はカーボンパイルによって反射を繰り返し、植毛面に吸収される(いわゆる、トラップ効果)。
【0003】
【非特許文献1】
藤本哲也,伊藤晴雄,林友直,生田信皓,「電子の反射のない電極を用いた放電特性」,1995年原子衝突研究会,p.99
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述した電子反射抑制材は、トラップ効果等によって電子反射率を低下させることができた。しかしながら、真空電子機器や電子線分析機器の動作精度を向上させるためには、これら電子装置の動作安定性をより向上させたいという要求が高まっている。このため、より電子反射率の低い電子反射抑制材の出現が望まれている。
本発明は、上述した実情に鑑みなされたものであり、優れた電子放出抑制効果を有する電子反射抑制材を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段と作用と効果】上記課題を解決するために本願の電子反射抑制材は、入射する電子の反射を抑制する電子反射抑制材であって、基板と、その基板の表面に被覆された表面皮膜とを有し、その表面皮膜は、基板表面に対して所定方向に伸びる複数の繊維状カーボンナノチューブにより形成されている。
この電子反射抑制材では、基板表面を被覆する表面皮膜が、基板表面に対して所定方向に伸びる複数の繊維状カーボンナノチューブによって形成される。繊維状カーボンナノチューブを用いると、カーボンファイバーを基板表面に植毛した場合と比較して、格段に電子反射率を低減することができる。
【0006】
ここで、繊維状カーボンナノチューブの伸びる方向は、電子反射抑制材に入射する電子の入射角度(電子反射抑制材が配される電子装置の構造等から決まる)に応じて調整されていることが好ましい。すなわち、電子反射抑制材に入射する電子の入射角度と略平行となるように調整されていることが好ましい。電子の入射角度と略平行となるように繊維状カーボンナノチューブが伸びていると、電子の捕捉率が高まり、電子反射率をより低くすることができる。例えば、基板表面に垂直に電子が入射する場合、繊維状カーボンナノチューブは基板表面から略垂直方向に伸びていることが好ましい。
【0007】
また、繊維状カーボンナノチューブの長さは、1〜20μmであることが好ましい。繊維状カーボンナノチューブの長さが1μm未満であると充分なトラップ効果を得ることができず、逆に、長さが20μmを越えるとカーボンナノチューブの生成に時間がかかり過ぎるためである。
また、繊維状カーボンナノチューブの数密度が1.0×109〜1.0×1011本/cm2であることが好ましい。繊維状カーボンナノチューブの数密度が1.0×109本/cm2未満であると充分なトラップ効果を得ることができず、一方、数密度が1.0×1011本/cm2を超える数密度を得ることは実質的に困難なためである。
【0008】
また、本願は上述した電子反射抑制材を好適に製造する方法を提供する。すなわち、本願に係る電子反射抑制材の製造方法は、表面に触媒が配された基板を反応室内に設置し、反応室内で炭化水素系有機物を熱分解することで基板表面にカーボンナノチューブを成長させることを特徴とする。
この製造方法では、化学気相成長(chemical vapor deposition)法を用いることによって、基板表面にカーボンナノチューブを直接成長させて表面皮膜を形成することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】図1は本発明の一実施形態に係る電子反射抑制材の構成を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の電子反射抑制材10は、基板12と、基板12上に形成された触媒層14と、触媒層14の表面に配された多数の繊維状カーボンナノチューブ16とから構成される。
基板12は、電子反射抑制材10が用いられる電子装置(例えば、真空電子機器や電子線分析機器等)にあわせて種々の形状に形成することができる。基板12には、ステンレス鋼、銅、アルミニウム等の金属板や、シリコン等の半導体、あるいはセラミックス、ガラス等の絶縁体を用いることができる。
また、基板12には、鉄、コバルト、ニッケル等の単体金属、あるいはこれらの元素を含む合金からなる材料を用いることもできる。この場合、基板12はカーボンナノチューブを生成するための触媒として機能することができる。したがって、基板12の表面に触媒層14を形成することを省略することができる。
【0010】
触媒層14は、繊維状カーボンナノチューブ16を成長させるための触媒である。触媒層14には、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ta、Pt等を用いることができ、より好ましくは、Fe、Co、Ni、Y、Mo、Pt及び/又はこれらの合金を用いることができる。また、触媒層14に用いる元素は、繊維状カーボンナノチューブ16の構造に応じて適宜選択することができる。例えば、繊維状カーボンナノチューブ16の構造を単層ナノチューブ(Single−wall Nanotube)としたい場合にはFe、Moなどを用いることができ、多層ナノチューブ(Multiwall Nanotubes)としたい場合にはFe、Coなどを用いることができ、二層ナノチューブ(Double−wall Nanotube)としたい場合にはCoやVをゼオライトに坦持したものを使用することができる。
触媒層14を基板12の表面上に形成する方法としては、例えば、真空蒸着やスパッタ堆積等を用いることができる。真空蒸着やスパッタ堆積を用いることで、触媒を必要な量だけ基板12表面に配することができる。真空蒸着やスパッタ堆積を用いる場合、触媒層(すなわち蒸着膜)の厚さを10nm〜100nmとすることができる。
また、触媒層14の表面の酸化膜は、繊維状カーボンナノチューブ16を生成する前に除去されていることが好ましく、また、触媒層14を構成する金属粒子は微粒子化されていることが好ましい。触媒層14の表面酸化膜が除去され、また、触媒層14が微粒子化されていると、繊維状カーボンナノチューブ16を良好に生成することができる。
なお、触媒層14は、基板12の表面全体に形成される必要は必ずしもなく、例えば、基板表面に所定のパターンで形成されていても良い。これによって、基板12上の所望の位置に繊維状カーボンナノチューブ16を生成することができる。
【0011】
繊維状カーボンナノチューブ16は、図1に示すように、基板12の表面から上方に向って延びていることが好ましい。繊維状カーボンナノチューブ16の構造としては、単層ナノチューブ構造、多層ナノチューブ構造、二層ナノチューブ構造のいずれをもとることができ、好ましくは、多層ナノチューブ構造とされる。繊維状カーボンナノチューブ16を構成するグラフィンの巻き方は、繊維状カーボンナノチューブ16が金属(導体)的な電気的特性を示すように巻かれることが好ましい。
この繊維状カーボンナノチューブ16の直径は、カーボンナノチューブの構造によって約1〜100nm程度の範囲となるが、多層ナノチューブ構造の場合は10〜60nmとなる。
また、繊維状カーボンナノチューブ16の長さは、カーボンナノチューブの構造によって約1〜100μm程度の範囲となるが、多層ナノチューブ構造の場合は約1〜20μmとなることが好ましい。繊維状カーボンナノチューブ16の長さが1μm未満であると充分なトラップ効果を得ることができず、逆に、長さが20μmを越えるとカーボンナノチューブの生成に時間がかかり過ぎるためである。
また、繊維状カーボンナノチューブの数密度が1.0×109〜1.0×1011本/cm2であることが好ましい。繊維状カーボンナノチューブの数密度が1.0×109本/cm2未満であると充分なトラップ効果を得ることができないためである。一方、数密度が1.0×1011本/cm2を超える数密度を得ることは実質的に困難なためである。
【0012】
ここで、繊維状カーボンナノチューブ16が延びる方向は、電子反射抑制材10に入射する電子の入射角に応じて調整されていることが好ましい。例えば、電子反射抑制材10の表面に略垂直に電子が入射する場合(例えば、電子装置に電子反射抑制材10を配設したときにその電子反射抑制材10に入射する電子が略垂直となる場合)、繊維状カーボンナノチューブ16は基板12の表面から略垂直に延びていることが好ましい。電子線の入射角と繊維状カーボンナノチューブ16の延びる方向が平行となると、入射する電子を捕捉する効果(トラップ効果)が向上するためである。
なお、繊維状カーボンナノチューブ16の延びる方向を基板に対して斜めとなるように調整する方法としては、例えば、基板上にカーボンナノチューブを気相成長させ、しかる後、ロールをかけること等によって実現することができる。また、基板12の表面上の全ての位置で、繊維状カーボンナノチューブ16が一定の方向を向いている必要は必ずしもない。例えば、基板12上を複数の領域に分割し、各領域毎に繊維状カーボンナノチューブ16の延びる方向を変えるようにしてもよい。
【0013】
上述した電子反射抑制材10は、化学気相成長(CVD)法によって好適に製造することができる。化学気相成長法では、炭化水素、例えば、メタン、エタン、一酸化炭素、アセチレン、エチレン、ベンゼン、プロピレンなどの有機物を炭素源とし気相中あるいは触媒表面上でこれらを分解し、基材12(詳細には、触媒層14)上にカーボンナノチューブを成長させることができる。
なお、電子反射抑制材10は、化学気相成長法以外の方法により製造することもできる。たとえば、アーク放電法やレーザ蒸発法等によって作成したカーボンナノチューブの繊維を基板に植毛することによって製造することもできる。
【0014】
【実施例】以下、本発明の一実施例に係る電子反射抑制材について詳細に説明する。本実施例では化学気相成長法を用いて電子反射抑制材を製作した。図2には、本実施例で使用したプラズマCVD装置の概略構成を示している。
図2に示すように、プラズマCVD装置は石英チャンバー20を備える。チャンバー20内には電極22,24が配されている。電極22は接地され、電極24には負のバイアス電圧が印可されている。また、電極22,24には、マイクロ波電源26が接続されている。マイクロ波電源26は、放電周波数2.45GHz、放電電力500Wのものを用いた。マイクロ波電源26を作動させることで、電極22,24間にプラズマが発生するようになっている。
上記チャンバー20には水素供給源が接続され、水素供給源からチャンバー20内に水素ガスが供給されるようになっている。供給される水素ガスの流量は、マスフローコントローラ30により制御される。同様に、チャンバー20にはメタン供給源が接続され、メタン供給源からチャンバー20内にメタンガスが供給されるようになっている。供給されるメタンガスの流量は、マスフローコントローラ28により制御される。
さらに、チャンバー20にはロータリポンプ32が接続されている。ロータリポンプ32を作動させることで、チャンバー20内の空気が排気される。
【0015】
上記プラズマCVD装置を用いて電子反射抑制材を製作したときの手順を説明する。まず、触媒層(鉄,コバルト)が形成された基板(ステンレス鋼)をチャンバー20内の電極24上に設置し(すなわち、基板に負のバイアス電圧を印可し)、水素プラズマ前処理を行った。水素プラズマ前処理では、まず、ロータリポンプ32を作動させてチャンバー20内を約1.33Paに減圧した。次いで、チャンバー20内に水素ガスを一定の流量で供給した。この際、チャンバー20内の圧力が一定となるようにロータリポンプ32を作動してチャンバー20内から残存ガスを排気した。この状態でマイクロ波電源26を作動させてプラズマを発生させた。この水素プラズマ前処理によって、基板表面(詳細には、触媒層表面)の酸化膜が除去され、また、触媒層の金属粒子を微粒子化した。
【0016】
上記水素プラズマ前処理を施した後、基板表面に繊維状カーボンナノチューブを気相成長させた。具体的には、チャンバー20内にメタンガスの供給を開始し、水素ガスとメタンガスの混合ガス中でプラズマを発生させ、基板表面に繊維状カーボンナノチューブを気相成長させた。
上述した処理によって得られた電子反射抑制材の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3に示す。図3に示すように、基板表面には、基板に対して略垂直方向に伸びる多数の繊維状のカーボンナノチューブによる皮膜が生成されている。1本の繊維状ナノチューブは、直径40〜60nm、長さ約5μmであった。また、繊維状カーボンナノチューブの数密度は約3.1×1010本/cm2であった。
上記水素プラズマ前処理と気相成長処理の詳細なプロセス条件を表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
上述した手順で作成した電子反射抑制材について、その表面(繊維状カーボンナノチューブの生成面)に電子線を入射したときの電子反射率(すなわち、表面から放出される二次電子の放出率)を測定した。二次電子放出率の測定は、走査型電子顕微鏡を用いて行った。図4は二次電子放出率を測定した測定系の概略構成を示す模式図である。図4(a)は被測定対象物に入射する電子線の電流量Ipを測定するときの模式図であり、図4(b)は本実施例に係る電子反射抑制材によって吸収される電流量Iaを測定するときの模式図である。
図4(a)に示すように、まず、試験片40に電子線100を入射し、試験片40からグランドに流れた電流Ipを微小電流計34により測定した。試験片40に入射する電子線100は、試験片40の凹部内で反射を繰り返し、略全てが試験片40に吸収されると考えられる。したがって、試験片40を用いて測定した電流量Ipを、電子線100の電流量とした。
次に、図4(b)に示すように、電子線100を被測定対象物10の測定面に入射し、被測定対象物10からグランドに流れる吸収電流Iaを微小電流計34により測定した。次いで、測定された電子線電流量Ipと吸収電流Iaとから、二次電子放出率γ〔=(Ip−Ia)/Ip〕を算出した。
【0019】
なお、上述した二次電子放出率γの算出は、被測定対象物に入射する電子線100の電子エネルギーを1keV〜30keVの範囲で変化させて算出した。被測定対象物への電子線100の入射角は、被測定対象物に対して略垂直とした。また、比較例として、(1)基板(ステンレス鋼)表面に単層カーボンナノチューブをスプレイ堆積したもの、(2)基板(ステンレス鋼)表面に多層カーボンナノチューブをスプレイ堆積したもの、(3)基板(ステンレス鋼)に表面処理を施さないものについても二次電子放出率γを算出した。
算出された結果を図5に示す。図5中、▲PCVT−CNTは本実施例に係る電子反射抑制材について算出された二次電子放出率γであり、■SWNTは上記比較例(1)について算出された二次電子放出率γであり、◆MWNTは上記比較例(2)について算出された二次電子放出率γであり、●ステンレスは上記比較例(3)について算出された二次電子放出率γを示している。図5から明らかなように、本実施例に係る電子反射抑制材の二次電子放出率は、比較例について算出された二次電子放出率と異なり低い値となった。特に、入射する電子線のエネルギーが低い領域(詳細には10keV以下の領域)において、二次電子放出率が著しく減少した。また、比較例では0.5〜1.0keVのエネルギー領域で二次電子放出率がピークとなるが、本実施例の電子反射抑制材ではそのようなピークが測定されなかった。
【0020】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態に係る電子反射抑制材の構成を示す断面図である。
【図2】電子反射抑制材を製作するために用いられるプラズマCVD装置の概略構成を示す図である。
【図3】本実施例に係る電子反射抑制材の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】二次電子放出率を測定するための測定系の構成を示す模式図である。
【図5】二次電子放出率の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
10:電子反射抑制材
12:基板
14:触媒層
16:繊維状カーボンナノチューブ
Claims (5)
- 入射する電子の反射を抑制する電子反射抑制材であって、基板と、その基板の表面に被覆された表面皮膜とを有し、その表面皮膜は、基板表面に対して所定方向に伸びる複数の繊維状カーボンナノチューブにより形成されていることを特徴とする電子反射抑制材。
- 前記繊維状カーボンナノチューブは、基板表面に対して略垂直方向に伸びていることを特徴とする請求項1に記載の電子反射抑制材。
- 前記繊維状カーボンナノチューブの長さが1〜20μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子反射抑制材。
- 前記繊維状カーボンナノチューブの数密度が1.0×109〜1.0×1011本/cm2であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子反射抑制材。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の電子反射抑制材を製造する方法であって、表面に触媒が配された基板を反応室内に設置し、反応室内で炭化水素系有機物を熱分解することで基板表面にカーボンナノチューブを成長させることを特徴とする電子反射抑制材の製造方法。
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