JP2005029842A - 超大入熱溶接部haz靭性に優れた高強度溶接構造用鋼とその製造方法 - Google Patents
超大入熱溶接部haz靭性に優れた高強度溶接構造用鋼とその製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2005029842A JP2005029842A JP2003196376A JP2003196376A JP2005029842A JP 2005029842 A JP2005029842 A JP 2005029842A JP 2003196376 A JP2003196376 A JP 2003196376A JP 2003196376 A JP2003196376 A JP 2003196376A JP 2005029842 A JP2005029842 A JP 2005029842A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- steel
- heat input
- toughness
- haz toughness
- less
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Granted
Links
Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.01〜0.20%、Si:0.02〜0.50%、Mn:0.3〜2.0%、P:≦0.03%、S:0.0001〜0.030%、V:0.005〜0.50%、Al:0.0005〜0.050%、Ti:0.003〜0.050%、を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなり、さらに、質量%で、MgとCaを同時に含有し、その合計が0.0003〜0.010%の範囲であることを特徴とする超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築、橋梁、造船、海洋構造物、ラインパイプ、建設機械などの溶接構造物として広く利用可能な、母材靭性と溶接部HAZ(熱影響部)靭性の両方に優れた490MPa級の引張強度を有する溶接構造物用鋼およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建築、橋梁、造船、海洋構造物など溶接構造物の脆性破壊防止の観点から、母材の靭性だけでなく、溶接部からの脆性破壊の発生抑制すなわち、使用される鋼板のHAZ靱性の向上に関する研究が数多く報告されてきた。一般に、母材靭性の確保のためには最終のフェライト粒径を小さくすることが肝要であり、必要靭性レベルにより普通圧延、制御圧延、さらには制御圧延+加速冷却が利用されてきた。その基本はAlNやTiNなどの高温で安定な窒化物をピニング粒子として用いて、まず母材の加熱オーステナイト(γ)粒径を微細化した上で、さらに圧延によりオーステナイト中にフェライトの核生成サイトを多数導入し、最終フェライト粒径を微細にすることにある。
【0003】
したがって、このような母材の製造方法では、当然ながら窒化物の種類により熱間圧延前の再加熱温度を変える必要が生じたり、加熱γ粒径の変動から最終のフェライト粒径にも変化が生じ、結果的に、母材靭性にバラツキが生じることがしばしば起こる。一方、溶接部HAZ靭性も加熱γ粒径が入熱量によって異なることから、要求靭性値が高いほどその値を小さくする必要があるにも関わらず、近年では加熱γ粒径が大きくなる条件、すなわち溶接施工能率の向上の観点から、大入熱溶接(およそ20kJ/mm以下)や超大入熱溶接(20〜150kJ/mm)が実施される場合が増加している。大入熱溶接と超大入熱溶接の鋼板への影響の差異は、高温での滞留時間の差異に起因しており、特に超大入熱溶接ではその時間が極めて長時間であるために、結晶粒径が著しく粗大化する領域が広く、靱性の低下が著しくなる点にある。
【0004】
以上のような母材靭性のバラツキと溶接部HAZ靭性の入熱依存性の問題点を回避する抜本的な方法として、母材組織および溶接部HAZ組織の加熱γ粒径を同一のピニング粒子によって制御し、両者の高温での粒成長を顕著に抑制することが有効と考えられる。これが実現できた場合は、母材靭性の安定性はもとより入熱が大きくなった場合にも溶接部HAZ靱性を十分に向上させることができる。また、母材の加熱γ粒径が著しく微細になる場合には、従来の制御圧延や加速冷却を用いることなく普通圧延でも同程度のフェライト粒径と母材靭性を付与できる可能性が出てくることから、本技術の確立は工業的価値が高い。
【0005】
加熱γ粒径のピニング効果が最も期待できる粒子として、高温でも溶解しにくい酸化物や硫化物が考えられる。例えば、酸化物の導入方法としては鋼の溶製工程においてTiなどの脱酸元素を単独に添加する方法があるが、多くの場合に溶鋼保持中に酸化物の凝集合体がおこり粗大な酸化物の生成をもたらすことによりかえって鋼の清浄度を損ない靱性を低下させてしまうことが知られている。そのため、複合脱酸法などさまざまな工夫がなされているが、従来知られている方法では、高温での母材の加熱γ粒径、さらには溶接入熱が大きく、しかも冷却速度が極めて小さい場合[例えば、800℃から500℃までの冷却速度が1℃/s以下]の加熱γ粒径および変態後に生成される粒界フェライトの結晶粒粗大化を完全に阻止しうるほどの技術は未だに確立されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、酸化物(あるいは硫化物)を最大限に微細分散させた上で、さらに超大入熱溶接時の粒界フェライトの粗大化抑制技術を鋭意検討し、超大入熱溶接においても溶接部HAZ組織を均質に微細化させ、溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼の製造技術の確立を課題とした。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 質量%で
C :0.01〜0.20%
Si:0.02〜0.50%
Mn:0.3〜2.0%
P :≦0.03%
S :0.0001〜0.030%
V :0.005〜0.50%
Al:0.0005〜0.050%
Ti:0.003〜0.050%
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなり、さらに、MgとCaを同時に含有し、その合計が0.0003〜0.010%の範囲であることを特徴とする超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼。
(2) 質量%で、さらに、
Cu:0.05〜1.50%
Ni:0.05〜5.0%
Cr:0.02〜1.50%
Mo:0.02〜1.50%
Nb:0.0001〜0.20%
Zr:0.0001〜0.050%
Ta:0.0001〜0.050%
B :0.0003〜0.0050%
のうち1種または2種以上を含有する(1)記載の超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼。
(3) 溶接部HAZ組織の加熱γ粒径(旧オーステナイト粒径)が溶接入熱によらず200μm以下であり、かつ粒界フェライト粒径が50μm以下であることを特徴とする(1)および(2)記載の超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼。
(4) (1)または(2)記載の鋼と同一成分を有する鋼塊をAc3点以上、1350℃以下に加熱後、再結晶温度域で熱間圧延した後、自然冷却することを特徴とする超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼の製造方法。
(5) (1)または(2)記載の鋼と同一成分を有する鋼塊をAc3点以上、1350℃以下に加熱後、再結晶温度域で熱間圧延し、さらに未再結晶温度域において累積圧下率で40〜90%の熱間圧延をした後、自然冷却することを特徴とする超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼の製造方法。
(6) (1)または(2)記載の鋼と同一成分を有する鋼塊をAc3点以上、1350℃以下に加熱後、再結晶温度域で熱間圧延し、さらに未再結晶温度域において累積圧下率で40〜90%の熱間圧延をした後、1〜60℃/secの冷却速度で0〜600℃まで冷却することを特徴とする超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼の製造方法。
(7) (1)または(2)記載の鋼と同一成分を有する鋼塊をAc3点以上、1350℃以下に加熱後、再結晶温度域で熱間圧延し、さらに未再結晶温度域において累積圧下率で40〜90%の熱間圧延をした後、1〜60℃/secの冷却速度で0〜600℃まで冷却し、引き続いて300℃〜Ac1点に加熱して焼戻し熱処理することを特徴とする超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
Mg、Caは、従来から強脱酸剤、脱硫剤として鋼の清浄度を高めることで、溶接熱影響部の靱性を向上させることが知られている。また、これら元素を含有する酸化物の分散を制御して、母材靭性および溶接部HAZ靱性の両方を向上させる技術として用いた例が特開2003−49237号公報に記載されている。本発明者らは、同じようにMg、Caの強脱酸剤あるいは強力な硫化物生成能に着目し、これら元素の添加順序および量を制御することで、超大入熱溶接部HAZ組織の加熱γ粒径の微細化に効果を有する酸化物あるいは硫化物の微細分散が期待できる余地があり、この技術とV含有鋼に見られるVN(あるいはVN/MnS)の粒内変態能との組合せにより、超大入熱かつ冷却速度が著しく小さい場合(例えば薄手のスキンプレート等)の溶接部HAZ靭性も著しく向上するものと考えた。
【0009】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
本発明者らは、Tiを添加し弱脱酸した溶鋼中にMgあるいはCaを添加した場合の酸化物の状態を系統的に調べた。その結果、Si、Mnによる脱酸後に、Ti添加、Mg(Ca)添加の順に添加した場合に、あるいはTi添加とMg(Ca)添加を同時に行い、さらに平衡状態になった状態で再度Mg(Ca)を添加するというサイクルを行なうことで、Mg(あるいはCa)の酸化物あるいは硫化物が極めて微細に、かつ高密度に生成されることを見出した。このMg添加の効果はCaをMgの代わりに用いても同様に得られ、いずれの元素を添加した場合も添加元素を含む酸化物もしくは硫化物が生成され、その粒子径は0.005〜0.5μm、粒子数は鋼中に1mm2当たり10000個以上であり、強力なピニング力を有していることが確認され、溶接部HAZ組織の加熱γ粒径が溶接入熱によらず200μm以下となる。一般的に、200μm以下のような微細な加熱γ粒径の場合には、超大入熱溶接時のような冷却速度においては、粒界フェライトの核生成頻度が増大し、しかもその成長速度が粗大な加熱γ粒径の場合に比較して大きくなるのが普通である。したがって、前述したような冷却速度、すなわち1℃/s以下のような場合には粒界フェライトが数10μmから100μm程に成長し、この粗大化が著しく靭性レベルを劣化させることが確認されるようになっている。
【0010】
本発明者らは、このHAZ細粒鋼の粒界フェライトの成長抑制方法について鋭意検討した結果、V添加が極めて有効であるとの知見を得るに至った。これは、VNのような粒内変態核としての作用による粒界フェライトの体積率低減効果とγ/α界面でのV(C,N)析出および微量の固溶V元素の異相界面偏析による粒界フェライトの成長抑制効果の重畳によって、粒界フェライトの成長抑制が達成されるものと推定される。以上のような加熱γ粒径の細粒化技術とV添加の組合せによる超大入熱かつ冷却速度が極端に小さい場合の靭性改善策は従来全く報告されていないものであり、工業的価値は高い。
【0011】
本発明は、MgあるいはCaの介在物の存在状態とV添加によって達成される母材靭性と溶接部HAZ靱性の両方に優れた鋼材に関するものであり、加熱γ粒径の変化を極力抑えた画期的な技術である。すなわち、本発明の特徴は、母材の加熱γ粒径(旧オーステナイト粒径)が再加熱温度によらず100μm以下であり、さらに溶接部HAZ組織の加熱γ粒径(旧オーステナイト粒径)が前述したように溶接入熱によらず200μm以下であり、しかも超大入熱溶接部の冷却速度が極めて小さくなるような板厚が60mm以下のような柱部材[例えば、スキンプレート]溶接のような場合にも、粒界フェライトの粒径が50μm以下となり、これらのミクロ組織を反映して、母材靭性と溶接部HAZ靭性の両方に優れた高強度溶接構造用鋼を提供できる点にある。
【0012】
本発明におけるMgとCaの添加方法であるが、MgとCaの効果を詳細に吟味した結果、これまでに知見できていなかった現象として、これら元素を同時に添加した場合には、V添加による粒界フェライトの成長抑制効果が単独添加の場合に比べて助長されるということが明らかになった。この場合、前述した加熱γ粒径の細粒化には大きく影響しない。MgとCaの同時添加の効果はこれら元素の合計量が大きくなるほど顕著になるが、一方で、粗大な酸化物・硫化物が生成されることから、高靭性を得るためには上限値を設定する必要があり、その値は100ppmである。また、同時添加の効果が発揮されるための最小量は0.0003%である。
【0013】
以下、本発明の成分の限定理由について述べる。
C:Cは鋼における母材強度を向上させる基本的な元素として欠かせない元素であり、その有効な下限として0.01%以上の添加が必要であるが、0.20%を越える過剰の添加では、鋼材の溶接性や靱性の低下を招くので、その上限を0.20%とした。
Si:Siは製鋼上脱酸元素として必要な元素であり、鋼中に0.02%以上の添加が必要であるが、0.5%を越えるとHAZ靱性を低下させるのでそれを上限とする。
Mn:Mnは、母材の強度および靱性の確保に必要な元素であるが、2.0%を越えるとHAZ靱性を著しく阻害するが、逆に0.3%未満では、母材の強度確保が困難になるために、その範囲を0.3〜2.0%とする。
【0014】
P:Pは鋼の靱性に影響を与える元素であり、0.03%を越えて含有すると鋼材の母材だけでなくHAZの靱性を著しく阻害するのでその含有される上限を0.03%とした。
S:Sは0.030%を越えて過剰に添加されると粗大な硫化物の生成の原因となり、靱性を阻害するが、その含有量が0.0001%未満になると、粒内フェライトの生成に有効なMnS等の硫化物生成量が著しく低下するために、0.0001〜0.030%をその範囲とする。
【0015】
V:Vは、本発明の主たる元素であり、窒化物[VN]形成元素として添加され、粒内フェライトの核として作用する。このとき、化学量論的にNよりも過剰に添加することにより、炭化物あるいは炭窒化物の析出と固溶Vの確保により、粒界フェライトの成長が顕著に抑制される。これらの効果は、0.005%以下の添加では十分でなく、0.50%を越える添加では、逆に靱性の低下を招くために、その範囲を0.005〜0.50%以下とする。
【0016】
Al:Alは通常脱酸剤として添加されるが、本発明においては、0.05%越えて添加されるとMg、Caの添加の効果を阻害するために、これを上限とする。また、Mg、Caの酸化物を安定に生成するためには0.0005%は必要であり、これを下限とした。
Ti:Tiは、脱酸剤として、さらには窒化物形成元素としてし結晶粒の細粒化に効果を発揮する元素であるが、多量の添加は炭化物の形成による靱性の著しい低下をもたらすために、その上限を0.050%にする必要があるが、所定の効果を得るためには0.003%以上の添加が必要であり、その範囲を0.003〜0.050%とする。
【0017】
Mg:Mgは本発明の主たる合金元素であり、主に脱酸剤あるいは硫化物生成元素として添加され、Caと同時添加により顕著に粒界フェライトの成長を抑制する。その量は粒界フェライトの成長抑制効果の下限としてCa量との総和で0.0003%、また上限値は粗大な酸化物生成による靭性低下をもたらすことから同様にCa量との総和で0.01%とする。なお、単独のMg量としては、0.0085%を越えて添加されると、粗大な酸化物あるいは硫化物が生成し易くなり、母材およびHAZ靱性の低下をもたらす。一方で、0.0001%未満の添加では、ピニング粒子として必要な酸化物の生成が十分に期待できなくなるため、その添加範囲を0.0001〜0.0085%と限定することが望ましい。
Ca:Caは硫化物を生成することにより伸長MnSの生成を抑制し、鋼材の板厚方向の特性、特に耐ラメラティアー性を改善する。さらに、Caは前述のようにMgとの同時添加により、粒界フェライトの成長抑制効果を有していることから、本発明の重要な元素である。Caの範囲はMgと同じ理由により、その範囲は0.0001%〜0.0085%の範囲に限定することが望ましく、さらにMg量との関係を考慮して、その合計を0.0003〜0.01%に限定する必要がある。
【0018】
なお、本発明においては、強度および靱性を改善する元素として、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、Zr、Ta、Bの中で、1種または2種以上の元素を必要に応じて添加することができる。
【0019】
Cu:Cuは、靱性を低下させずに強度の上昇に有効な元素であるが、0.05%未満では効果がなく、1.5%を越えると鋼片加熱時や溶接時に割れを生じやすくする。従って、その含有量を0.05〜1.5%以下とする。
Ni:Niは、靱性および強度の改善に有効な元素であり、その効果を得るためには0.05%以上の添加が必要であるが、5.0%以上の添加では溶接性が低下するために、その上限を5.0%とする。
Cr:Crは析出強化による鋼の強度を向上させるために、0.02%以上の添加が有効であるが、多量に添加すると、焼入れ性を上昇させ、ベイナイト組織を生じさせ、靱性を低下させる。従って、その上限を1.5%とする。
【0020】
Mo:Moは、焼入れ性を向上させると同時に、炭窒化物を形成し強度を改善する元素であり、その効果を得るためには、0.02%以上の添加が必要になるが、1.50%を越えた多量の添加は必要以上の強化とともに、靱性の著しい低下をもたらすために、その範囲を0.02〜0.50%以下とする。
Nb:Nbは、炭化物、窒化物を形成し強度の向上に効果がある元素であるが、0.0001%以下の添加ではその効果がなく、0.20%を越える添加では、靱性の低下を招くために、その範囲を0.0001〜0.20%以下とする。
Zr、Ta:ZrとTaもNbと同様に炭化物、窒化物を形成し強度の向上に効果がある元素であるが、0.0001%以下の添加ではその効果がなく、0.050%を越える添加では、逆に靱性の低下を招くために、その範囲を0.0001〜0.050%以下とする。
【0021】
B:Bは一般に、固溶すると焼入れ性を増加させるが、またBNとして固溶Nを低下させ、溶接熱影響部の靱性を向上させる元素である。従って、0.0003%以上の添加でその効果を利用できるが、過剰の添加は、靱性の低下を招くために、その上限を0.0050%とする。
【0022】
上記の成分を含有する鋼は、製鋼工程で溶製後、連続鋳造などを経て再加熱、圧延、冷却処理を施される。この場合、以下の点を限定した。
熱間圧延・制御圧延ともに、鋼塊をオーステナイト化するためにAc3点以上の温度に加熱する必要がある。しかし、1350℃を超えて加熱すると、熱源コストの増大が生じることから、加熱温度は1350℃以下とした。
次いで、熱間圧延・制御圧延ともに、再結晶温度域で圧延することによりオーステナイト粒径を小さくすることが必要である。また、制御圧延を用いて、強度上昇と靭性向上を図る場合には、さらに未再結晶温度域で圧延することによりオーステナイト粒内に変形帯を導入し、フェライト変態核を導入することが有効である。未再結晶域での累積圧下率が40%未満では変形帯が十分に形成されないので、未再結晶域で累積圧下率の下限値を40%とした。しかし、累積圧下率が90%を超えると、母材シャルピー試験の吸収エネルギーの低下が著しくなるために、上限を90%にした。
【0023】
自然放冷よりさらに強度を上昇させるためには加速冷却が必要である。しかしながら、冷却速度が1℃/sec未満では、十分な強度を得ることができない。逆に、冷却速度が60℃/sec超ではベイナイト主体組織が生成するため母材の靭性が低下する。したがって、冷却速度を1〜60℃/secに限定した。本発明においては、母材の強度を得るために変態が終了するまで加速冷却を継続する必要がある。このため、冷却停止温度の上限を600℃とした。600℃超の停止温度では変態が終了しないために、十分な強度が得られない。通常、加速冷却は水を冷却媒体として用いる。それ故、実際上の冷却停止温度の下限は0℃となるので、下限値を0℃とした。
【0024】
加速冷却後の焼戻し熱処理は回復による母材組織の靭性向上を目的としたものであるから、加熱温度は逆変態が生じない温度域であるAc1点以下でなければならない。回復は転位の消滅・合体により格子欠陥密度を減少させるものであり、これを実現するためには300℃以上に加熱することが必要である。このため、加熱温度の下限を300℃とした。上限は変態点以下であるため、AC1を上限とした。
【0025】
【実施例】
次に、本発明の実施例について述べる。
表1の化学成分を有する鋼塊を表2に示す製造条件により、板厚12mm〜100mmの厚鋼板とした後、溶接入熱が100kJ/mm、800℃から500℃での冷却速度が0.35℃/sの超大入熱かつ超緩冷却の溶接を付与し、旧γ粒と粒界フェライトのそれぞれの粒径を測定するとともに、溶接部HAZ靭性を0℃におけるシャルピー吸収エネルギーにより評価した。なお、母材靭性については、加熱温度を1100℃〜1350℃の範囲で5水準の温度にて製造しているが、全て良好な母材靭性であった。発明鋼の延性・脆性遷移温度(vTrs)は−40℃以下であり、試験温度−40〜−80℃の範囲にて高いシャルピー吸収エネルギー値(100J以上)を示した。次に、溶接部のHAZ靭性について記述する。
【0026】
まず、鋼1〜22は本発明の例を示したものである。表2に示すように、本発明の鋼板は化学成分と製造条件の各要件を満足しており、HAZの加熱γ粒径が200μm以下となっていることに加えて、冷却中に旧γ粒界にそって生成した粒界フェライトの粒径がいずれも50μm以下であり、高いHAZ靭性を有していることがわかる。
【0027】
それに対し、鋼23〜35は本発明方法から逸脱した比較例である。すなわち、鋼23〜27は基本成分あるいは選択元素の内いずれかの元素が、発明の要件を越えて添加されている例であり、本発明の重要な論点であるV量の確保と「MgとCaの合計量」に関す要件を満たしているものの靱性劣化要因となる元素が過剰に添加された事により超大入熱HAZ靱性の劣化が大きい。鋼28〜31ではVとAlがいずれも下限値ないしは上限値を逸脱した場合に相当している。順に特性を見ると、まず鋼28は粒界フェライトが大きいことによって靭性値が低くなっている。鋼29はV量が著しく高いために、やはり靭性値が劣化していることがわかる。鋼30と鋼31はAl量の影響が大きいことを示しており、これらの場合も靭性は低い。次に、鋼32〜鋼34はいずれもMg+Caの合計量が範囲外になっている例である。鋼32はこれら元素の不足のために、粒界フェライトが粗大化している場合であり、一方、鋼33と34は過剰添加によって粒界フェライトが微細になっているにも関わらず、5μm以上の粗大酸化物数が増大したことにより靭性値が大きく低下している。
鋼35はV、Mg、Caの3元素がいずれも添加されていない場合であり、他に比べて著しく粒界フェライトが粗大化しており、HAZ靭性が最も悪い。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【発明の効果】
本発明の化学成分および製造方法に限定し、MgとCaを同時添加することで、母材の加熱γ粒径を微細化することができ、さらにV添加との組合せによって溶接入熱に関わらずHAZの加熱γ粒径だけでなく靭性に悪影響を及ぼす粒界フェライトを同時に微細化することができ、これらの微細化効果により母材靭性と溶接部HAZ靱性の両者に優れた画期的な高強度溶接構造用鋼の製造が可能となる。その結果、建築、橋梁、造船、海洋構造物、ラインパイプ、建設機械などの溶接構造物の脆性破壊に対する安全性が大幅に向上し、産業上の効果は著しく大きい。
Claims (7)
- 質量%で
C :0.01〜0.20%
Si:0.02〜0.50%
Mn:0.3〜2.0%
P :≦0.03%
S :0.0001〜0.030%
V :0.005〜0.50%
Al:0.0005〜0.050%
Ti:0.003〜0.050%
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなり、さらに、MgとCaを同時に含有し、その合計が0.0003〜0.010%の範囲であることを特徴とする超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼。 - 質量%で、さらに、
Cu:0.05〜1.50%
Ni:0.05〜5.0%
Cr:0.02〜1.50%
Mo:0.02〜1.50%
Nb:0.0001〜0.20%
Zr:0.0001〜0.050%
Ta:0.0001〜0.050%
B :0.0003〜0.0050%
のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼。 - 溶接部HAZ組織の加熱γ粒径(旧オーステナイト粒径)が溶接入熱によらず200μm以下であり、かつ粒界フェライト粒径が50μm以下であることを特徴とする請求項1および請求項2記載の超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼。
- 請求項1または請求項2記載の鋼と同一成分を有する鋼塊をAc3点以上、1350℃以下に加熱後、再結晶温度域で熱間圧延した後、自然冷却することを特徴とする超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼の製造方法。
- 請求項1または請求項2記載の鋼と同一成分を有する鋼塊をAc3点以上、1350℃以下に加熱後、再結晶温度域で熱間圧延し、さらに未再結晶温度域において累積圧下率で40〜90%の熱間圧延をした後、自然冷却することを特徴とする超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼の製造方法。
- 請求項1または請求項2記載の鋼と同一成分を有する鋼塊をAc3点以上、1350℃以下に加熱後、再結晶温度域で熱間圧延し、さらに未再結晶温度域において累積圧下率で40〜90%の熱間圧延をした後、1〜60℃//secの冷却速度で0〜600℃まで冷却することを特徴とする超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼の製造方法。
- 請求項1または請求項2記載の鋼と同一成分を有する鋼塊をAc3点以上、1350℃以下に加熱後、再結晶温度域で熱間圧延し、さらに未再結晶温度域において累積圧下率で40〜90%の熱間圧延をした後、1〜60℃/secの冷却速度で0〜600℃まで冷却し、引き続いて300℃〜Ac1点に加熱して焼戻し熱処理することを特徴とする超大入熱溶接部HAZ靭性に優れた高強度溶接構造用鋼の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003196376A JP4105991B2 (ja) | 2003-07-14 | 2003-07-14 | 超大入熱溶接部haz靭性に優れた高強度溶接構造用鋼とその製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003196376A JP4105991B2 (ja) | 2003-07-14 | 2003-07-14 | 超大入熱溶接部haz靭性に優れた高強度溶接構造用鋼とその製造方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2005029842A true JP2005029842A (ja) | 2005-02-03 |
JP4105991B2 JP4105991B2 (ja) | 2008-06-25 |
Family
ID=34206890
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003196376A Expired - Lifetime JP4105991B2 (ja) | 2003-07-14 | 2003-07-14 | 超大入熱溶接部haz靭性に優れた高強度溶接構造用鋼とその製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP4105991B2 (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007254858A (ja) * | 2006-03-24 | 2007-10-04 | Nippon Steel Corp | 超大入熱溶接部haz靭性に優れた高強度溶接構造用鋼及びその製造方法 |
WO2015156179A1 (ja) * | 2014-04-08 | 2015-10-15 | 株式会社神戸製鋼所 | 極低温でのhaz靱性に優れた厚鋼板 |
CN109628853A (zh) * | 2019-01-03 | 2019-04-16 | 南京钢铁股份有限公司 | 一种海洋工程用s355g10特厚钢板及制造方法 |
-
2003
- 2003-07-14 JP JP2003196376A patent/JP4105991B2/ja not_active Expired - Lifetime
Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007254858A (ja) * | 2006-03-24 | 2007-10-04 | Nippon Steel Corp | 超大入熱溶接部haz靭性に優れた高強度溶接構造用鋼及びその製造方法 |
WO2015156179A1 (ja) * | 2014-04-08 | 2015-10-15 | 株式会社神戸製鋼所 | 極低温でのhaz靱性に優れた厚鋼板 |
JP2015199983A (ja) * | 2014-04-08 | 2015-11-12 | 株式会社神戸製鋼所 | 極低温でのhaz靱性に優れた厚鋼板 |
CN109628853A (zh) * | 2019-01-03 | 2019-04-16 | 南京钢铁股份有限公司 | 一种海洋工程用s355g10特厚钢板及制造方法 |
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP4105991B2 (ja) | 2008-06-25 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP4547044B2 (ja) | 靭性、溶接性に優れた高強度厚鋼材及び高強度極厚h形鋼とそれらの製造方法 | |
JP4071906B2 (ja) | 低温靱性の優れた高張力ラインパイプ用鋼管の製造方法 | |
JP5217385B2 (ja) | 高靭性ラインパイプ用鋼板およびその製造方法 | |
JP2007231312A (ja) | 高張力鋼およびその製造方法 | |
JP4926447B2 (ja) | 耐溶接割れ性に優れた高張力鋼の製造方法 | |
JP5509654B2 (ja) | 耐pwht特性および一様伸び特性に優れた高強度鋼板並びにその製造方法 | |
JPH10306316A (ja) | 低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼材の製造方法 | |
JP2008075107A (ja) | 高強度・高靭性鋼の製造方法 | |
JP2006241510A (ja) | 大入熱溶接部hazの低温靭性に優れた高強度溶接構造用鋼とその製造方法 | |
JP5849892B2 (ja) | 大入熱溶接用鋼材 | |
JP4959402B2 (ja) | 耐表面割れ特性に優れた高強度溶接構造用鋼とその製造方法 | |
JP2009084598A (ja) | 変形能ならびに低温靱性に優れた超高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法および超高強度ラインパイプ用鋼管の製造方法 | |
JP4105990B2 (ja) | 大入熱溶接部hazの低温靭性に優れた高強度溶接構造用鋼とその製造方法 | |
JP4105991B2 (ja) | 超大入熱溶接部haz靭性に優れた高強度溶接構造用鋼とその製造方法 | |
JP4105989B2 (ja) | 母材靭性と溶接部haz靭性の両方に優れた高強度溶接構造用鋼とその製造方法 | |
JP6237681B2 (ja) | 溶接熱影響部靭性に優れた低降伏比高張力鋼板 | |
JP4433844B2 (ja) | 耐火性および溶接熱影響部の靭性に優れる高張力鋼の製造方法 | |
JP4299743B2 (ja) | 母材靭性と超大入熱溶接部haz靭性に優れた高強度溶接構造用高靭性鋼とその製造方法 | |
JP5245202B2 (ja) | 超大入熱溶接部haz靭性に優れた高強度溶接構造用鋼及びその製造方法 | |
JP4259374B2 (ja) | 低温靭性および溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板およびその製造方法 | |
JP4762450B2 (ja) | 母材靭性と溶接部haz靭性に優れた高強度溶接構造用鋼の製造方法 | |
JP3882701B2 (ja) | 低温靭性に優れた溶接構造用鋼の製造方法 | |
JP2006241508A (ja) | 溶接部の耐亜鉛めっき割れ性に優れたHT490MPa級溶接構造用耐火鋼とその製造方法 | |
JP4959401B2 (ja) | 耐表面割れ特性に優れた高強度溶接構造用鋼とその製造方法 | |
JP5659949B2 (ja) | 溶接熱影響部の靱性に優れた厚鋼板およびその製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20050914 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20070524 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20070529 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20070730 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20071023 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20071221 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20080219 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20080303 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20080325 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20080328 |
|
R151 | Written notification of patent or utility model registration |
Ref document number: 4105991 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110404 Year of fee payment: 3 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120404 Year of fee payment: 4 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130404 Year of fee payment: 5 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130404 Year of fee payment: 5 |
|
S531 | Written request for registration of change of domicile |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313531 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130404 Year of fee payment: 5 |
|
R350 | Written notification of registration of transfer |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130404 Year of fee payment: 5 |
|
S533 | Written request for registration of change of name |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130404 Year of fee payment: 5 |
|
R350 | Written notification of registration of transfer |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20140404 Year of fee payment: 6 |
|
S533 | Written request for registration of change of name |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533 |
|
R350 | Written notification of registration of transfer |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350 |