JP2005015402A - 光学活性3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンおよびそのシュウ酸塩の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、不斉合成に用いられ得る、光学活性な3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンおよびそのシュウ酸塩の新規な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
以下の式I:
【0003】
【化22】
【0004】
で表される光学活性な3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(本明細書中において、アゼピン化合物、化合物Iなどという場合がある)は、それ自体が不斉塩基として有用であり(非特許文献1〜2)、その誘導体もまた、種々の不斉合成に利用されている。例えば、化合物Iのオキサジリジウム塩が、アルケンを立体選択的にエポキシ化するために使用されること(非特許文献3)、およびN−オキソアンモニウム塩が、2級アルコールを立体選択的に酸化すること(非特許文献4)が報告されている。また、化合物Iの窒素上の水素が−CH2CH2N(CH3)2で置換された化合物は、アルキルリチウムのアルデヒドへの立体選択的付加を触媒することが知られており(非特許文献5)、オレフィンの立体選択的ジヒドロキシル化も触媒することが報告がされている(非特許文献6)。
【0005】
光学活性化合物Iは、以下の式VIII:
【0006】
【化23】
【0007】
で表される不斉相間移動触媒の合成中間体としても有用な化合物である(特許文献1、非特許文献7〜9および12)。
【0008】
この化合物Iは、従来の方法によれば、以下の反応スキームで表される工程を経て合成されている(スキームは、S体を例に挙げて記載されている):
【0009】
【化24】
【0010】
上記工程においては、それぞれ適宜溶媒および反応条件が設定されているが、反応効率が悪い、環境に影響を与える溶媒が使用される、工業的に生産するには不利な方法であるなどの種々の問題がある。例えば、(i)化合物VIから化合物Vを得る工程では、反応溶媒にジクロロメタンという環境に影響を与えるハロゲン系溶媒が用いられ、−78℃という超低温から室温という温度条件にて反応が行なわれる(非特許文献7);(ii)化合物Vから化合物IVを得る工程では、低温引火性溶媒であるジエチルエーテルが使用される(非特許文献7);(iii)化合物IIから化合物Iを得る工程では、反応溶媒にジクロロメタンが使用される(非特許文献12)などの問題がある。
【0011】
上記工程の他、例えば、非特許文献1では、化合物IIIに、水素化ナトリウムの存在下でトリフルオロアセトアミドを作用させることにより環化させて、光学活性トリフルオロメチルカルボニルアゼピン化合物を得、これを加水分解することにより、化合物Iを得ている。しかし、不安定で取り扱いに注意を要する水素化ナトリウムを使用する必要があるため、工業的な方法とはいえない。
【0012】
さらに、上記方法のいずれにおいても、各工程で得られた化合物は、それぞれカラムクロマトグラフィーによる精製が必要であるため、煩雑な操作を必要とするという欠点がある。
【0013】
【特許文献1】
特開2001−48866号公報
【非特許文献1】
ホーキンス J. M. (Hawkins, J. M.); フー G. C. (Fu, G. C.), ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー (J. Org. Chem.), 1986, 51, 2820.
【非特許文献2】
ホーキンス J. M. (Hawkins, J. M.); ルイス T. A. (Lewis. T. A.), ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー (J. Org. Chem.), 1994, 59, 649
【非特許文献3】
アガーワル,V.K.(Aggarwal, V. K.); ワン, M. F.(Wang, M. F.)、ケミカル コミュニケーション(Chem. Commun.) 1996, 191
【非特許文献4】
リシュノフスキー, S. D.(Rychnovsky, S. D.); マクレノン, T. L. (McLernon, T. L.); ラジャパクセ, H. (Rajapakse, H.),ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー (J. Org. Chem.), 1996, 61, 1194
【非特許文献5】
マザレイラート, J. P. (Mazaleyrat, J. P.); クラム, D. J. (Cram, D. J.), ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー (J. Am. Chem. Soc.), 1981, 103, 4585
【非特許文献6】
ロッシーニ, C. (Rosini, C.); タンチューリ, R. (Tanturli, R.); ペルティシ, P. (Pertici, P.);サルバドリ, P. (Salvadori, P.), テトラヘドロン:アシンメトリー (Tetrahedron: Asymmetry), 1996 , 7, 2971
【非特許文献7】
オオイ, T. (Ooi, T.); カメダ, M. (Kameda, M.); マルオカ K. (Maruoka, K.), ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー (J. Am. Chem. Soc.), 1999, 121, 6519.
【非特許文献8】
オオイ, T. (Ooi, T.); タケウチ, M. (Takeuchi, M.); カメダ, M. (Kameda, M.); マルオカ K. (Maruoka, K.), ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー (J. Am. Chem. Soc.), 2000, 122, 5228.
【非特許文献9】
オオイ, T. (Ooi, T.); カメダ, M. (Kameda, M.); タンナイ, H. (Tannai, H.); マルオカ K. (Maruoka, K.), テトラヘドロン レターズ (Tetrahedron Letters.), 2000, 41, 8339
【非特許文献10】
フランツ, D. E. (Frantz, D. E.); ウェーバー D. G. (Weaver, D. G.); キャレイ, J. P. (Carey, J. P.); クレス, M. H. (Kress, M. H.); ドーリング, U. H. (Dolling, U. H.), オーガニック レターズ (Org. Lett.), 2002, 4, 4717
【非特許文献11】
ジンラス, M. (Gingras, M.); デュボア, F. (Dubois, F.), テトラヘドロン レターズ (Tetrahedron Letters.), 1999, 40, 1309
【非特許文献12】
オオイ, T. (Ooi, T.); カメダ, M. (Kameda, M.); マルオカ K. (Maruoka, K.), ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー (J. Am. Chem. Soc.), 2003, 125, 5139.
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、不斉塩基として有用である光学活性3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンを、低温引火性溶媒およびハロゲン溶剤を使用することなく、超低温の反応条件を必要とせず、さらにカラム精製を行なうことなく、実用的に効率よく合成することの可能な方法を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の式I’:
【0016】
【化25】
【0017】
で表される光学活性アゼピン化合物のシュウ酸塩の製造方法を包含し、該方法は、以下の式I:
【0018】
【化26】
【0019】
で表される光学活性アゼピン化合物にシュウ酸を作用させて塩を形成させ、結晶化する工程を包含する。
【0020】
好適な実施態様においては、上記式Iで表される光学活性アゼピン化合物は、以下の式II:
【0021】
【化27】
【0022】
で表される光学活性アリルアゼピン化合物に、トルエン中で、パラジウム触媒の存在下、1,3−ジメチルバルビツール酸を反応させることにより得られる。
【0023】
好適な実施態様においては、上記式IIで表される光学活性アリルアゼピン化合物は、以下の式III:
【0024】
【化28】
【0025】
で表される光学活性ジブロモ化合物を、トリエチルアミンの存在下でアリルアミンと反応させた後、アセトンで処理することにより得られる。
【0026】
好適な実施態様においては、上記式IIIで表されるジブロモ化合物は、以下の式IV:
【0027】
【化29】
【0028】
で表される光学活性ジメチル化合物を、シクロヘキサン中、2,2−アゾビスイソブチロニトリルの存在下でN−ブロモコハク酸イミドと反応させることにより得られる。
【0029】
好適な実施態様においては、上記式IVで表されるジメチル化合物は、以下の式V:
【0030】
【化30】
【0031】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)で表される光学活性ジO−トリフラート化合物を、t−ブチルメチルエーテル中で、Ni触媒存在下、メチルマグネシウムハライドと反応させることにより得られる。
【0032】
好適な実施態様においては、上記式Vで表されるジO−トリフラート化合物は、以下の式VI:
【0033】
【化31】
【0034】
で表される光学活性1,1’−ビナフトールと無水トリフルオロメタンスルホン酸とを、トルエン中で、ピリジンの存在下、0℃から室温の温度範囲で反応させることにより得られる。
【0035】
本発明は、以下の式V:
【0036】
【化32】
【0037】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)で表される光学活性ジO−トリフラート化合物の製造方法を包含し、該方法は、以下の式VI:
【0038】
【化33】
【0039】
で表される光学活性1,1’−ビナフトールと無水トリフルオロメタンスルホン酸とを、トルエン中で、ピリジンの存在下、0℃から室温の温度範囲で反応させる工程を包含する。
【0040】
本発明は、以下の式IV:
【0041】
【化34】
【0042】
で表される光学活性ジメチル化合物の製造方法を包含し、該方法は、以下の式V:
【0043】
【化35】
【0044】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)で表される光学活性ジO−トリフラート化合物を、t−ブチルメチルエーテル中で、Ni触媒存在下、メチルマグネシウムハライドと反応させる工程を包含する。
【0045】
本発明は、以下の式III:
【0046】
【化36】
【0047】
で表される光学活性ジブロモ化合物の製造方法を包含し、該方法は、以下の式IV:
【0048】
【化37】
【0049】
で表される光学活性ジメチル化合物とN−ブロモコハク酸イミドとを、シクロヘキサン中、2,2−アゾビスイソブチロニトリルの存在下で、反応させる工程;得られた反応液にカルボン酸エステルを加える工程;および得られた混合液を水と混合し、析出した結晶を得る工程を包含する。
【0050】
本発明は、以下の式II:
【0051】
【化38】
【0052】
で表される光学活性アリルアゼピン化合物の製造方法を包含し、該方法は、以下の式III:
【0053】
【化39】
【0054】
で表される光学活性ジブロモ化合物を、エーテル溶媒中、トリエチルアミンの存在下でアリルアミンと反応させた後、アセトンで処理する工程を包含する。
【0055】
本発明は、以下の式I:
【0056】
【化40】
【0057】
で表される光学活性アゼピン化合物の製造方法を包含し、該方法は、以下の式II:
【0058】
【化41】
【0059】
で表される光学活性アリルアゼピン化合物を、トルエン中で、パラジウム触媒を用いて1,3−ジメチルバルビツール酸と反応させる工程を包含する。
【0060】
本発明はまた、以下の式I’:
【0061】
【化42】
【0062】
で表されるアゼピン化合物のシュウ酸塩を包含する。
【0063】
本発明は、さらに、以下の式I:
【0064】
【化43】
【0065】
で表される光学活性アゼピン化合物の他の製造方法を包含し、該方法は、以下の式III:
【0066】
【化44】
【0067】
で表される光学活性ジブロモ化合物を、非プロトン性極性溶媒中、アルカリ金属水酸化物の存在下でトリフルオロアセトアミドと反応させて以下の式VII:
【0068】
【化45】
【0069】
で表される光学活性トリフルオロメチルカルボニルアゼピン化合物を得る工程、および該トリフルオロメチルカルボニルアゼピン化合物を加水分解する工程を包含する。
【0070】
【発明の実施の形態】
本明細書において、不斉中心を有する化合物の化学式は、光学異性を表示しない化学式、(R)体、および(S)体のいずれかで表されているが、特に記載がない限り、これらは(R)体および(S)体のいずれであってもよいことを意図する。
【0071】
発明者らは、光学活性3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(化合物I)の従来の合成方法について、各工程ごとに反応条件を検討して好適な反応条件を見出し、かつ生成した化合物Iをシュウ酸塩とすることによって簡便に単離し得ることを見出し、その結果、実用的な工程による化合物Iの合成方法を確立し、本発明を完成するに至った。
【0072】
本発明による化合物Iおよびそのシュウ酸塩の合成方法を以下の反応スキームに示す(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)。
【0073】
【化46】
【0074】
以下、上記スキームの各工程に沿って本発明を詳細に説明する。
【0075】
(1)光学活性2,2’−ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ−1,1’−ビナフチル(ジO−トリフラート化合物)の製造(化合物VI→化合物V)
【0076】
【化47】
【0077】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)。
【0078】
第1の工程では、光学活性1,1’−ビナフトール(明細書中で、化合物VIという場合がある)と無水トリフルオロメタンスルホン酸とを、トルエン中で、ピリジンの存在下、0℃から室温の温度範囲で反応させることにより2,2’−ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ−1,1’−ビナフチル(明細書中で、化合物V、ジO−トリフラート化合物などという場合がある)が得られる。この工程において、塩基として、ピリジンが用いられることにより、0℃から室温という比較的穏やかな条件下でトリフリル化を行うことができる。これに対して、従来のようにトリエチルアミンを用いると−78℃という低温を必要とする。
【0079】
上記ピリジンは、化合物VIの1当量に対して、2〜6当量、好ましくは3〜5当量、より好ましくは4当量の割合で、無水トリフルオロメタンスルホン酸は、2〜2.5当量、好ましくは2.2〜2.5当量、より好ましくは2.5当量の割合で用いられる。溶媒のトルエンは、化合物VIに対し、通常、容積比で5〜20倍、好ましくは6〜15倍、より好ましくは7倍の割合で使用される。最も好ましくは、化合物VI(1当量)およびピリジン(4当量)のトルエン溶液(化合物VIの容量の7倍容)に無水トリフルオロメタンスルホン酸(2.5当量)を0℃で加えて室温で3時間反応させると、化合物Vを定量的に得ることができる。このようにして得られる化合物Vは、精製することなく、次の工程に使用することができる。
【0080】
上記反応は、塩基として水酸化アルカリを用いたショッテンバウマン反応によっても行なうことができるが、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を多量に使用し、かつ反応時間が長時間を必要とするという欠点がある。
【0081】
(2)光学活性2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(ジメチル化合物)の製造(クロスカップリング工程;化合物V→化合物IV)
【0082】
【化48】
【0083】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基、Meはメチル基、Xはハロゲン原子を表す)。
【0084】
第2の工程では、2,2’−ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ−1,1’−ビナフチル(化合物V)に、t−ブチルメチルエーテル(MTBE)中、ニッケル触媒の存在下で、次式:
MeMgX
(式中、Meはメチル基、Xはハロゲン原子を表す)で示されるメチルマグネシウムハライドを作用させることによって、2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(明細書中において、ジメチル化合物、化合物IVなどという場合がある)を得る。上記反応において、メチルマグネシウムハライドとしては、MeMgCl、MeMgBr、MeMgIなどが挙げられ、化合物Vの1当量に対して通常、1.5〜5当量、好ましくは2〜4当量、より好ましくは3当量の割合で用いられる。ニッケル触媒としては、NiCl2・ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン錯体(NiCl2(dppp))、NiCl2(PPh3)2などが挙げられる。反応温度は、0℃〜55℃(MTBEの沸点)の適宜な温度、通常、25〜55℃であり、反応時間は、通常0.5〜1時間である。このとき、MTBEは、化合物Vに対し、容積(mL)/重量(g)比で通常、5〜20倍程度の割合で使用され、ニッケル触媒は、化合物Vの1当量に対して、好ましくは0.01〜0.1当量、より好ましくは0.02〜0.06当量の割合で使用される。上記反応処理後、例えば、粗生成物の3倍重量のシリカゲルを用いて反応液を濾過処理することによって、化合物IVを定量的に得ることができる。
【0085】
上記t−ブチルメチルエーテルを溶媒として使用する本法によれば、高い光学純度を有する化合物IVが得られる。これに対して、例えば、THFを溶媒として選択すると、光学純度の低下が生じる。
【0086】
この工程によって得られる化合物IVは、以下の工程によって得られる不斉塩基の化合物IまたはI’の合成原料または中間体として有用であるだけでなく、他の不斉相関移動触媒または不斉塩基となり得る化合物の合成原料または中間体にもなり得る。
【0087】
(3)光学活性2,2’−ビスブロモメチレン−1,1’−ビナフチル(ジブロモ化合物)の製造(化合物IV→化合物III)
【0088】
【化49】
【0089】
第3の工程では、光学活性ジメチル化合物(化合物IV)に、シクロヘキサン中、ラジカル反応開始剤である2,2−アゾビスイソブチロニトリルの存在下、ブロム化剤であるN−ブロモコハク酸イミドを作用させ、2および2’位のメチル基をともにブロム化して2,2’−ビスブロモメチレン−1,1’−ビナフチル (明細書中において、ジブロモ化合物、化合物IIIなどという場合がある)を得る。上記N−ブロモコハク酸イミド(NBS)は、化合物IVの1当量に対して、通常、2〜3当量、好ましくは2〜2.5当量、より好ましくは2.2当量の割合で用いられ、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)は、0.005〜0.1当量、より好ましくは、0.05当量の割合で用いられる。溶媒であるシクロヘキサンは、化合物IVに対し、容積(mL)/重量(g)比で、通常、3〜15倍、好ましくは5〜10倍、より好ましくは7倍の割合で使用される。反応温度は、通常、室温からシクロヘキサンの沸点までの間の任意の温度、好ましくは60〜100℃であり、反応時間は、通常2〜3時間である。
【0090】
上記反応後、反応液にカルボン酸エステルを加えると、上記反応で副生した不純物が該カルボン酸エステルに溶解する。このようなカルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどが挙げられ、好適には、酢酸エチルが用いられる。カルボン酸エステルは、好ましくはシクロヘキサンと等容量〜シクロヘキサンの1/5容、より好ましくは1/3容の割合で使用する。次いで、この混合物を水に注ぐと、化合物IIIが結晶として析出する。反応により生じたコハク酸イミドは水に溶解する。上記水は、好ましくはシクロヘキサンの1〜4倍容、より好ましくは1.5〜2.5倍、特に好ましくは2倍容の割合で使用する。得られた化合物IIIは、さらなる精製過程を経ることなく、次の工程に使用できる。このように、上記方法により、化合物IVから化合物IIIを得る従来の方法に比較して、簡便に純度の高い化合物IIIが得られる。
【0091】
(4)光学活性3,5−ジヒドロ−4H−(3−プロペニル)ジナフト[2,1−c’:1’,2’−e]アゼピン(アリルアゼピン化合物)の製造(化合物III→化合物II)
【0092】
【化50】
【0093】
第4の工程では、光学活性ジブロモ化合物(化合物III)を、エーテル溶媒中、トリエチルアミンの存在下、アリルアミンと反応させて光学活性アリルアゼピン化合物(化合物II)を得る。
【0094】
上記反応において、エーテル溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、MTBE、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどが挙げられ、好適にはTHFが用いられる。トリエチルアミンは、化合物IIIの1当量に対して好ましくは2〜10当量、より好ましくは2〜5当量、特に好ましくは3当量の割合で用いられる。このようにトリエチルアミンの量を約3当量に設定することにより、従来、この工程で3当量使用していたアリルアミンの量を1.7当量にまで削減することができる。反応温度は、室温からTHFの沸点までの間の任意の温度であり、通常50〜65℃の温度範囲が採用される。反応時間は好ましくは1〜5時間、より好ましくは2〜3時間である。
【0095】
得られた化合物IIの粗生成物は、アセトンで処理することにより精製される。具体的な生成手段としては、アセトンでの洗浄または再結晶が挙げられ、例えば、化合物IIの粗結晶を同量のアセトンで懸濁洗浄すると、得られる精製品は純度が高く、さらなる精製過程を経ることなく次の工程に使用可能である。
【0096】
(5)光学活性3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(アゼピン化合物)の製造(脱アリル化工程;化合物II→化合物I)
【0097】
【化51】
【0098】
第5の工程では、光学活性アリルアゼピン化合物(化合物II)を、トルエン中で、パラジウム触媒を用いて1,3−ジメチルバルビツール酸(NDMDA)と反応させて脱アリル化することにより、3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(化合物I)が得られる。この工程においては、反応溶媒としてトルエンを用いることにより、ハロゲン含有溶剤を用いることなく反応を行うことができる。上記NDMBAは、化合物IIの1当量に対して1〜5当量、好ましくは1.5当量の割合で用いられる。本法によれば、少量のNDMBAで反応が充分に進行し、従来においては3当量必要としていたのに対して、その量を削減することができる。
【0099】
上記パラジウム触媒としては、Pd(PPh3)4などのパラジウム錯体が用いられ、このような化合物は、反応系内でPd(OAc)2とPPh3とから調製することも可能である。パラジウム触媒は、化合物IIの1当量に対して、好ましくは0.01〜0.1当量、より好ましくは0.02〜0.03当量の割合で用いられる。反応温度は、室温からトルエンの沸点までの間の任意の温度、好ましくは20〜40℃であり、反応時間は、好ましくは1〜5時間、より好ましくは2〜3時間である。
【0100】
次いで、脱アリル化反応により得られた反応混合物に、アルカリ、例えば、1M水酸化ナトリウム水溶液を加え、NDMBAに由来する酸性物質を中和して水層に移行させ、化合物Iを含むトルエン層を得る。化合物Iは、このトルエン溶液からそのまま単離してもよく、あるいは、後述の第6の工程によりシュウ酸塩として単離してもよい。そのまま単離する場合は、トルエン溶液から酢酸水溶液(例えば、約50%)で抽出を行ない、得られた抽出液を水酸化ナトリウム水溶液(例えば、約48%)で塩基性にした後、遊離の化合物Iをトルエンで再抽出する。トルエンを減圧留去した後、固体の残渣を、好ましくは固体残渣の2倍容のメタノールから結晶化させて、純度の高い化合物Iを得ることができる。この方法では、抽出過程が多いため、後述のシュウ酸塩として単離する方法に比較すると収率はやや低い。
【0101】
(5’)光学活性3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(アゼピン化合物)製造の別法(化合物III→化合物VII→化合物I)
【0102】
上記(4)および(5)の工程に代えて、次の方法を採用することによっても光学活性アゼピン化合物を得ることが可能である。
【0103】
【化52】
【0104】
この方法によれば、まず、上記式IIIで表される光学活性ジブロモ化合物(化合物III)を、非プロトン性極性溶媒中、アルカリ金属水酸化物の存在下でトリフルオロアセトアミドと反応させることにより、式VIIで表される光学活性4−(2,2,2−トリフルオロアセチル)−3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(本明細書中で、トリフルオロメチルカルボニルアゼピン化合物、化合物VIIなどという場合がある)が得られる。ここで使用される非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N−メチルアセトアミドなどが挙げられ、好ましくは、ジメチルホルムアミドが用いられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが用いられ、好ましくは、水酸化ナトリウムが利用される。上記トリフルオロアセトアミドは、化合物IIIの1当量に対して、好ましくは1〜3当量、さらに好ましくは、1〜1.3当量の割合で用いられる。アルカリ金属水酸化物は、化合物IIIの1当量に対して、好ましくは2〜5当量、さらに好ましくは、2〜3当量の割合で用いられる。反応温度は、通常、20〜50℃であり、反応時間は、3〜6時間である。反応液を、例えば水と混合することにより、生じた化合物VIIが析出する。
【0105】
上記工程で得られた化合物VIIを、次いで、加水分解することにより、化合物Iが得られる。例えば、化合物VIIをアルコールなどの水溶性有機溶媒に溶解し、これに、炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液を加えることにより、加水分解反応が進行し、化合物Iが生成する。アルカリ水溶液は、含有されるアルカリの量が化合物VIIの1当量に対して、好ましくは2〜5当量、さらに好ましくは、3〜4当量の割合となるように使用される。
【0106】
(6)光学活性アゼピン化合物のシュウ酸塩の形成(化合物I→化合物I’)
【0107】
【化53】
【0108】
上記工程5または5’で得られるアゼピン化合物(化合物I)を適当な溶媒に溶解させ、シュウ酸を加えることにより。該アゼピン化合物の塩が形成される。簡便には、上記工程5において、上記化合物Iを含むトルエン溶液に直接シュウ酸を加えることにより、上記化合物Iのシュウ酸塩である化合物I’が析出し、この化合物I’を容易に単離することができる。使用するシュウ酸の量は、化合物IIの1当量に対して好ましくは1〜3当量、最も好ましくは1.5当量である。この工程により、煩雑な抽出工程を行うことなく、化合物I’を高収率で得ることができる。得られた化合物I’は、塩基性水溶液に溶解することにより容易に化合物Iに変換することが可能であり、これを有機溶媒で抽出することにより、化合物Iが得られる。
【0109】
【作用】
本発明によれば、このように、従来の合成方法と比較して以下の点が改善され、より効率的にかつ簡便に、光学活性3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンを合成することが可能である:
(1)のジO−トリフラート化合物の製造工程において、ハロゲン含有溶剤を使用せず、穏やかな温度条件下で反応を行なうことが可能であること;
(2)のジメチル化合物の製造(クロスカップリング工程)において、引火性が高く危険なジエチルエーテルの代わりに、より安全な溶媒としてMTBEを使用し、このことにより、光学純度の低下なく目的物が得られ、かつグリニャール試薬の使用量を削減できること;
(3)のジブロモ化合物の製造工程において、発ガン性のあるベンゼンを使用せず、シクロへキサンを使用すること;
(4)のアリルアゼピン化合物の製造工程において、アリルアミンとをトリエチルアミンとを共存させることによって、使用するアリルアミン量が少量で反応が充分に進行すること;
(5)のアゼピン化合物の製造工程において、環境に影響を与えるハロゲン化溶剤を使用せずトルエンを使用すること;
(5’)のアゼピン化合物の製造工程において、トリフルオロアセトアミドおよびアルカリ金属水酸化物を用いることにより、簡便かつ安全に反応を行なうことが可能であること;
(6)のアゼピン化合物(化合物I)のシュウ酸塩の形成を形成させることにより、非常に簡便に単離できること;および
(1)〜(6)の全工程を通じ、カラムクロマトグラフィーによる精製を行うことなく光学純度の高い化合物が高収率で得られること。
【0110】
上記の工程(1)〜(6)により、超低温条件、引火性溶媒、およびハロゲン含有溶剤を使用せず、そしてカラム精製を行うことなく、効率的に化合物I’および化合物Iを得ることが可能となる。この工程を採用すると、原料から化合物Iに至るまで、光学純度がほとんど低下しない。従って、光学純度の高い原料を使用することにより、ほぼ同等の高い光学純度を有する化合物が高い収率で得られ得る。このように、R体またはS体の原料を使用することにより、対応する絶対配置の光学活性化合物Iを効果的に得ることが可能となる。
【0111】
このようにして得られた化合物IまたはI’は、不斉塩基として有用であり、さらに、式VIII:
【0112】
【化54】
【0113】
で表される不斉相間移動触媒の合成中間体としても有用である。必要とされる式VIIIの化合物の構造に応じて、R体またはS体の化合物Iを、上記方法により容易に得ることが可能となる。
【0114】
【実施例】
以下に、本発明を実施例につき説明する。本実施例において、化合物Ia、化合物IIaなど、化合物の番号にaが付された化合物は、対応する化合物の(R)−光学異性体であることを示す。同様に、化合物Ib、化合物IIIbなど化合物の番号にbが付された化合物は、対応する化合物の(S)−光学異性体であることを示す。
【0115】
(実施例1):(R)−2,2’−ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ−1,1’−ビナフチル(化合物Va)の合成
【0116】
【化55】
【0117】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)。
【0118】
窒素雰囲気下、(R)−1,1’−ビナフトール(化合物VIa)(20.0g,69mmol)およびピリジン(22.1g,279mmol)を含む無水トルエン溶液(140mL)に、氷冷下、無水トリフルオロメタンスルホン酸(49.3g,174mmol)を滴下した。滴下終了後、室温で約3時間攪拌した。TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.057150); 酢酸エチル/ヘキサン(1:4);Rf 0.16(化合物VIa),0.46(化合物Va)]にて原料の消失を確認した。これに、トルエン(100mL)、水(100mL)、および35%塩酸(30mL)を加えて分液した後、有機層を水(100mL×2)および飽和食塩水(100mL×1)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥して、減圧濃縮した。これにより粗生成物の化合物Vaを固体としてほぼ定量的に得た(36.4g)。この化合物Vaの物理的性質を以下に示す。
【0119】
mp:64〜74℃
[α]D 20:−151.0 (c 0.29, CHCl3)
400 MHz 1H−NMR (CDCl3):δ8.14 (2H, d, J = 8.8 Hz), 8.01 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.62 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.59 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.4 Hz), 7.41 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.4 Hz), 7.27−7.24 (2H, m) IRνmax(KBr):1507, 1421, 1215, 1136, 961, 938, 830 cm−1。
【0120】
(比較例1):Schotten−Baumann法による(R)−2,2’−ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ−1,1’−ビナフチル(化合物Va)の合成
【0121】
【化56】
【0122】
Schotten−Baumann法を用いて化合物Vaの調製の検討を行なった。非特許文献10を参考にし、種々の濃度の水酸化カリウム水溶液を用い、種々の条件下で、化合物VIaのO−トリフリル化を行なった。その結果、15%水酸化カリウム水溶液を用い、化合物VIa1当量に対して4当量の無水トリフルオロメタンスルホン酸を用いて48時間反応を行った場合に、最も収率良く化合物Vaを得ることができた(収率96%)。しかし、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を多量に使用し、かつ反応に48時間という長時間を必要とした。
【0123】
(実施例2):(R)−2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(化合物IVa)の合成(クロスカップリング反応−その1)
【0124】
【化57】
【0125】
窒素雰囲気下、マグネシウム(660mg,27mmol)の乾燥MTBE懸濁液(7mL)を加熱還流させこれに、ヨウ化メチル(3.90g,27mmol)のMTBE溶液(4mL)を、還流が保持される温度に保ちながら滴下し、グリニヤール試薬の調製を行なった。放冷後、30℃でMTBE(5mL)加え、さらに30℃でNiCl2(dppp)(0.25g,0.45mmol)を加えた。次いで、化合物Va(5.0g,9.1mmol)のMTBE溶液(20mL)を滴下し、55℃で約30分間加熱・還流させながら攪拌を行った。その後、TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/ヘキサン(1:4);Rf 0.46(化合物Va),0.79(化合物IVa)]にて原料の消失を確認した。反応液にトルエン(30mL)を加え、この混合物を氷水(30mL)に注ぎ、35%塩酸(5mL)を加えた。分液後、有機層を水(30mL×2)および飽和食塩水(30mL×1)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮して、粗結晶(2.6g)を得た。これをシリカゲル(7.8g)に吸着させ、酢酸エチル/ヘキサン(1:4)(200mL)で溶出して、化合物IVa(2.46g,収率96.1%)を得た。この反応の条件および化合物IVaの収率を表1に示す。化合物IVaの物理的性質を以下に示す。
【0126】
光学純度99.6%ee{HPLC:カラム,Chiralpak OD 4.6mmΦ×250mm;カラム温度,25℃;移動相,ヘキサン/イソプロピルアルコール(99.8:0.2;流速,0.5mL/分;検出波長,240nm;tR 9.5分[(S)体,0.2%],12.3分[化合物IVa,99.8%]}
mp:77〜79℃
[α]D 20:−42.6 (c 0.20, CHCl3) {文献値:[α]D 20 −35.6 (c 1.0, CHCl3), 94 %ee}
400 MHz 1H−NMR (CDCl3):δ7.89 (2H, d, J = 8.4Hz), 7.87 (2H, d, J = 8.4Hz), 7.50 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.39 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.4 Hz), 7.20 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.4 Hz), 7.04 (2H, dd, J = 1.2 Hz, 8.4 Hz), 2.03 (6H, s)
IRνmax(KBr):3045, 2910, 1503, 1421, 1219, 815, 744 cm−1。
【0127】
(実施例3):(R)−2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(化合物IVa)の合成(クロスカップリング反応−その2)
マグネシウムおよびヨウ化メチル(グリニャール試薬の原料)を化合物Vaの1当量に対して5当量用い、これを化合物Vaと53℃で反応させたこと以外は、実施例2と同様に化合物IVaを合成した。結果を表1に示す。
【0128】
(実施例4):(R)−2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(化合物IVa)の合成(クロスカップリング反応−その3)
マグネシウムおよびヨウ化メチル(グリニャール試薬の原料)を化合物Vaの1当量に対して5当量用い、これを化合物Vaと40℃で反応させたこと以外は、実施例2と同様に化合物IVaを合成した。結果を表1に示す。
【0129】
(比較例2):(R)−2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(化合物IVa)の合成(クロスカップリング反応−その4)
反応溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、マグネシウムおよび塩化メチル(グリニャール試薬の原料)を化合物Vaの1当量に対して5当量用い、これを化合物Vaと40℃で反応させたこと以外は、実施例2と同様に化合物IVaを合成した。結果を表1に示す。
【0130】
(比較例3):(R)−2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(化合物IVa)の合成(クロスカップリング反応−その5)
非特許文献11を参考にして、反応溶媒としてジエチルエーテルを用い、マグネシウムおよびヨウ化メチル(グリニャール試薬の原料)を化合物Vaの1当量に対して5当量用い、これを化合物Vaと35℃(還流温度)で反応させたこと以外は、実施例2と同様に化合物IVaを合成した。結果を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
表1からわかるように、ジエチルエーテルを溶媒として中で反応を行うと、光学純度99.3%eeの化合物IVaを収率93.5%で得ることができた(比較例3)。しかし、反応溶媒としてより安全なTHFを用いると、化合物IVaの光学純度は88.4%eeまで低下した(比較例2)。THFのような環状エーテルの代わりに、構造がジエチルエーテルに近いMTBE(t−ブチルメチルエーテル)を反応溶媒として用いると、光学純度の低下を伴うことなく、反応が進行した(実施例4)。また、反応溶媒にMTBEを用いると、反応温度を55℃(MTBEの沸点)にまで上げても、化合物IVaの光学純度は低下しなかった(実施例3)。さらに、このような加熱条件下では、グリニャール試薬の当量数を5.0当量から3.0当量に減らすことができた(実施例2)。このように、グリニャール試薬の当量数が削減できたことから、未反応のグリニャール試薬をより安全にクエンチすることが可能になった。
【0133】
(実施例5):(R)−2,2’−ビスブロモメチレン−1,1’−ビナフチル(化合物IIIa)の合成
【0134】
【化58】
【0135】
化合物IVa(24.4g,86mmol)のシクロヘキサン懸濁液(170mL)にN−ブロモコハク酸イミド(NBS;33.8g,190mmol)および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN;0.70g,4.3mmol)を加え、約2時間加熱還流した。TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/ヘキサン(1:10);Rf0.60(化合物IVa),0.49(化合物IIIa)]にて原料の消失を確認した。反応終了後、反応混合液を放冷し、酢酸エチル(56mL)を加え攪拌した。この反応混合液を水(350mL)に注いだ。混合物を攪拌して、析出した結晶を濾取した。一晩風乾し、化合物IIIaを得た(20.6g,収率54.3%)。得られた化合物IIIaの物理的性質を以下に示す。
【0136】
mp:178〜181℃(文献値:171〜174℃)
[α]D 20:+160.5 (c 0.11, ベンゼン){文献値:[α]D 20 +148 (c 1.7, ベンゼン)}
400 MHz 1H−NMR (CDCl3):δ8.02 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.75 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.49 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.0 Hz), 7.27 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.0 Hz), 7.07 (2H, dd, J = 0.8 Hz, 8.8 Hz), 4.26 (4H, s)
IRνmax(KBr):3045, 1507, 1432, 1211, 826, 759 cm−1。
【0137】
(実施例6):(R)−(化合物IIa)の合成(アゼピン環の形成)
【0138】
【化59】
【0139】
窒素雰囲気下、室温で化合物IIIa(10.0g,23mmol)およびトリエチルアミン(6.9g,68mmol)を含む乾燥THF(70mL)溶液に、アリルアミン(2.2g,39mmol)を加え、55℃にて3時間加熱攪拌した。TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/ヘキサン(1:4);Rf0.56(化合物IIIa),0.11(化合物IIa)]にて原料の消失を確認した。この反応混合液にトルエン(70mL)および1M水酸化ナトリウム水溶液(70mL)を加えた。分液後、有機層を水(70mL×2)および飽和食塩水(70mL×1)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、減圧濃縮し、粗結晶(7.4g)を得た。粗結晶にアセトン(7.4mL)を加えて、懸濁洗浄した。結晶を濾取後、一晩風乾して化合物IIaを得た(6.5g,収率84.7%)。得られた化合物IIaの物理的性質を以下に示す。
【0140】
mp:177〜178℃
[α]D 20:−396.3 (c 0.24, CHCl3)
400 MHz 1H−NMR (CDCl3):δ7.95 (4H, d, J = 8.4 Hz), 7.55 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.48−7.44 (4H, m), 7.29−7.24 (2H, m), 6.06−5.96 (1H, m), 5.31−5.21 (2H, m), 3.74 (2H, d, J = 12.6 Hz), 3.16 (2H, d, J = 12.6 Hz), 3.14−3.10 (2H, m)
IRνmax(KBr):3037, 2940, 2791, 1641, 1589, 1510, 1447, 1338, 1237, 1118, 998, 920, 826, 755, 542 cm−1。
【0141】
(比較例4):p−メトキシベンジルアミンを用いるアゼピン化合物の調製
【0142】
【化60】
【0143】
アゼピン環の窒素源としてp−メトキシベンジルアミンを用いる方法を試みた。
【0144】
化合物IIIa(0.9g,2.0mmol)およびトリエチルアミン(0.8g,8.2mmol)を含む乾燥THF(10mL)溶液に、窒素雰囲気下、室温でp−メトキシベンジルアミン(0.63g,4.6mmol)を加え、55℃にて3時間加熱攪拌した。実施例6と同様にTLCで原料の消失を確認した。反応混合液から同様の方法で化合物IXaを得た(0.39g,収率45.9%)。
【0145】
次いで、酸処理(35% 塩酸)または接触還元[Pd/C、Pd(OH)2]を行ったが、化合物IXaからp−メトキシベンジル基を除去することができなかった。
【0146】
この化合物IXaをクロロギ酸α−クロロエチルと反応させた後、酸で処理すると、目的とする化合物Iaを得ることができたが、収率はわずか17%であった。
【0147】
(実施例7):(R)−3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(化合物Ia)の合成(脱アリル化反応)
【0148】
【化61】
【0149】
窒素雰囲気下、化合物IIa(2.5g,7.5mmol)の乾燥トルエン溶液(25mL)に、1,3−ジメチルバルビツール酸(NDMBA)(1.9g,11.9mmol)、酢酸パラジウム(0.03g,0.15mmol)、およびトリフェニルホスフィン(0.16g,0.60mmol)を加え、35℃で3時間攪拌を行った。TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/メタノール(1:1);Rf0.83(化合物IIa),0.19(化合物Ia)]で原料の消失を確認した。反応混合液に、1M水酸化ナトリウム水溶液(25mL)を加えて攪拌した。トルエン層を水(25mL×3)および飽和食塩水(25mL×1)で順次洗浄した。
【0150】
次いで、トルエン層を50%酢酸水溶液(20mL×3)で抽出した。有機層から化合物Iaが消失したことをTLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/メタノール(1:1);Rf0.19(化合物Ia)]にて確認した。冷却下、50%酢酸水溶液に、48%水酸化ナトリウム水溶液(32.5mL)を加え、アルカリ性にして、トルエン(20mL)で抽出した。トルエン抽出液を、水(30mL×2)および飽和食塩水(30mL×1)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮して、粗結晶(2.33g)を得た。この粗結晶を、メタノール(4.5mL)から再結晶をして、化合物Ia(1.47g,収率66.8%)を得た。得られた化合物Iaの物理的性質を以下に示す。
【0151】
光学純度:99.8%ee{HPLC:カラム,Chiralpak AD−H 4.6 mmФ×250 mm;カラム温度,25 ℃;移動相,ヘキサン/エタノール(9:1)(ジエチルアミン0.1%v/v添加);流速, 0.5 mL/分;検出波長,254 nm;tR 14.2分[化合物Ia,99.9%],17.0分[(S)体,0.1%]}
mp:73〜84℃{文献値:73〜84℃; (S)体}
[α]D 20:−585.5 (c 0.23, CHCl3){文献値:[α]D 20 +620 (c 0.7, CHCl3),
(S)体}
400 MHz 1H−NMR (CDCl3):δ7.97 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.95 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.57 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.48−7.43 (4H, m), 7.28−7.24 (2H, m), 3.83 (2H, d, J = 12.4 Hz), 3.51 (2H, d, J = 12.4 Hz)
IRνmax(KBr):3045, 2940, 2866, 1507, 1465, 1447, 1365, 1350, 1088, 1028, 819, 755 cm−1
Ms m/z 296:[(M+H)+]
【0152】
(実施例8):トリフルオロメチルアゼピン化合物を経由するアゼピン化合物の合成
【0153】
【化62】
【0154】
窒素雰囲気下、トリフルオロアセトアミド(0.13g,1.14mmo1)のDMF(7mL)溶液に、攪拌しながら室温で粉末の水酸化ナトリウム(0.09g,2.27 mmol)を添加し、続いて、これに化合物IIIb(0.50g,1.14 mmol)のDMF(5mL)溶液を滴下した。室温で3時間攪拌し、TLC[Kiese1ge1 60(Merck,art 1.057150);酢酸エチル/ヘキサン(1:4);Rf 0.56(化合物IIIb);Rf 0.38(化合物VIIb)]で原料の消失を確認した。この反応混合物に水(20mL)を注ぎ、析出した結晶を濾取し、化合物VIIbの粗結晶を得た。
【0155】
得られた化合物VIIbの粗結晶をメタノール(20mL)溶液とし、これに炭酸ナトリウム(0.43g,4.09mmol)および水(1mL)を加え、室温にて一晩攪拌した。TLC[Kiese1ge1 60(Merck,art1.057150);酢酸エチル/メタノール(1:1);Rf 0.88(化合物VIIb);Rf 0.19(化合物Ib)]で原料の消失を確認した。反応混合物に、1M水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、トルエン(20mL)にて抽出した。トルエン抽出液は、水(20mL×1)および飽和食塩水(20mL×1)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。これを減圧濃縮し、化合物Ibの粗結晶(0.19g,56.7%;化合物IIIbからの通算収率)を淡黄色結晶で得た。
【0156】
(実施例9):(R)−3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン・シュウ酸塩(化合物Ia’)の合成
【0157】
【化63】
【0158】
窒素雰囲気下、化合物IIa(1.5g,4.5mmol)、NDMBA(1.2g,7.1mmol)、酢酸パラジウム(0.02g,0.09mmol)、およびトリフェニルホスフィン(0.09g,0.36mmol)を乾燥トルエン(15mL)中に含む混合物を、35℃で5時間攪拌した。TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/メタノール(1:1);Rf0.83(化合物IIa),0.19(化合物Ia)]で原料の消失を確認した後、1M水酸化ナトリウム水溶液(15mL)を加えた。分液後、トルエン層を水(20mL×3)および飽和食塩水(20mL×1)で順次洗浄した。
【0159】
次いで、トルエン層にシュウ酸(0.61g,6.7mmol)を加えて室温で攪拌した。析出した結晶を濾取して、粗結晶(2.18g)を得た。この結晶を水(12mL)で懸濁洗浄した後、濾取した。40℃で10時間減圧加熱乾燥して、化合物Ia’を得た(1.58g,収率91.9%)。得られた化合物IIa’の物理的性質および水分含量を以下に示す。
【0160】
mp:72〜76℃
[α]D 20:−223.9 (c 0.24, MeOH)
400 MHz 1H−NMR (CD3OD):δ8.21 (2H, d, J = 8.4 Hz), 8.11 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.29 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.62 (2H, ddd, J = 3.6 Hz, 4.4 Hz, 8.4 Hz), 7.40−7.38 (4H, m), 4.41 (2H, d, J = 13.3 Hz), 3.76 (2H, d, J = 13.2Hz)
IRνmax(KBr):3433, 3045, 2955, 2746, 2605, 1735, 1634, 1596, 1211, 815, 748 cm−1
元素分析:C24H19NO4 ・0.18 C7H8(トルエン)・0.35 H2O:(計算値)C, 74.30; H, 5.23; N, 3.43;(実測値)C, 74.1; H, 5.1; N 3.3
カールフィッシャー水分測定:1.4%(モル比0.35の水に相当)。
【0161】
(R)−1,1’−ビナフトール(化合物VIa)から、実施例1、実施例2、実施例5、実施例6、および実施例9によって連続的に化合物Ia’を合成した場合の通算収率は、41%となった。
【0162】
【発明の効果】
本発明によれば、このように、超低温条件、引火性溶媒、およびハロゲン含有溶剤を使用せず、そしてカラム精製を行うことなく、効率的に光学活性な3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(化合物I)ならびにその合成中間体を得ることが可能となる。この工程を採用すると、原料から化合物Iに至るまで、光学純度がほとんど低下しない。従って、光学純度の高い原料を使用することにより、ほぼ同等の高い光学純度を有する化合物が高い収率で得られ得る。得られた化合物は、不斉相関移動触媒または不斉塩基として有用である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、不斉合成に用いられ得る、光学活性な3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンおよびそのシュウ酸塩の新規な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
以下の式I:
【0003】
【化22】
【0004】
で表される光学活性な3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(本明細書中において、アゼピン化合物、化合物Iなどという場合がある)は、それ自体が不斉塩基として有用であり(非特許文献1〜2)、その誘導体もまた、種々の不斉合成に利用されている。例えば、化合物Iのオキサジリジウム塩が、アルケンを立体選択的にエポキシ化するために使用されること(非特許文献3)、およびN−オキソアンモニウム塩が、2級アルコールを立体選択的に酸化すること(非特許文献4)が報告されている。また、化合物Iの窒素上の水素が−CH2CH2N(CH3)2で置換された化合物は、アルキルリチウムのアルデヒドへの立体選択的付加を触媒することが知られており(非特許文献5)、オレフィンの立体選択的ジヒドロキシル化も触媒することが報告がされている(非特許文献6)。
【0005】
光学活性化合物Iは、以下の式VIII:
【0006】
【化23】
【0007】
で表される不斉相間移動触媒の合成中間体としても有用な化合物である(特許文献1、非特許文献7〜9および12)。
【0008】
この化合物Iは、従来の方法によれば、以下の反応スキームで表される工程を経て合成されている(スキームは、S体を例に挙げて記載されている):
【0009】
【化24】
【0010】
上記工程においては、それぞれ適宜溶媒および反応条件が設定されているが、反応効率が悪い、環境に影響を与える溶媒が使用される、工業的に生産するには不利な方法であるなどの種々の問題がある。例えば、(i)化合物VIから化合物Vを得る工程では、反応溶媒にジクロロメタンという環境に影響を与えるハロゲン系溶媒が用いられ、−78℃という超低温から室温という温度条件にて反応が行なわれる(非特許文献7);(ii)化合物Vから化合物IVを得る工程では、低温引火性溶媒であるジエチルエーテルが使用される(非特許文献7);(iii)化合物IIから化合物Iを得る工程では、反応溶媒にジクロロメタンが使用される(非特許文献12)などの問題がある。
【0011】
上記工程の他、例えば、非特許文献1では、化合物IIIに、水素化ナトリウムの存在下でトリフルオロアセトアミドを作用させることにより環化させて、光学活性トリフルオロメチルカルボニルアゼピン化合物を得、これを加水分解することにより、化合物Iを得ている。しかし、不安定で取り扱いに注意を要する水素化ナトリウムを使用する必要があるため、工業的な方法とはいえない。
【0012】
さらに、上記方法のいずれにおいても、各工程で得られた化合物は、それぞれカラムクロマトグラフィーによる精製が必要であるため、煩雑な操作を必要とするという欠点がある。
【0013】
【特許文献1】
特開2001−48866号公報
【非特許文献1】
ホーキンス J. M. (Hawkins, J. M.); フー G. C. (Fu, G. C.), ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー (J. Org. Chem.), 1986, 51, 2820.
【非特許文献2】
ホーキンス J. M. (Hawkins, J. M.); ルイス T. A. (Lewis. T. A.), ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー (J. Org. Chem.), 1994, 59, 649
【非特許文献3】
アガーワル,V.K.(Aggarwal, V. K.); ワン, M. F.(Wang, M. F.)、ケミカル コミュニケーション(Chem. Commun.) 1996, 191
【非特許文献4】
リシュノフスキー, S. D.(Rychnovsky, S. D.); マクレノン, T. L. (McLernon, T. L.); ラジャパクセ, H. (Rajapakse, H.),ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー (J. Org. Chem.), 1996, 61, 1194
【非特許文献5】
マザレイラート, J. P. (Mazaleyrat, J. P.); クラム, D. J. (Cram, D. J.), ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー (J. Am. Chem. Soc.), 1981, 103, 4585
【非特許文献6】
ロッシーニ, C. (Rosini, C.); タンチューリ, R. (Tanturli, R.); ペルティシ, P. (Pertici, P.);サルバドリ, P. (Salvadori, P.), テトラヘドロン:アシンメトリー (Tetrahedron: Asymmetry), 1996 , 7, 2971
【非特許文献7】
オオイ, T. (Ooi, T.); カメダ, M. (Kameda, M.); マルオカ K. (Maruoka, K.), ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー (J. Am. Chem. Soc.), 1999, 121, 6519.
【非特許文献8】
オオイ, T. (Ooi, T.); タケウチ, M. (Takeuchi, M.); カメダ, M. (Kameda, M.); マルオカ K. (Maruoka, K.), ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー (J. Am. Chem. Soc.), 2000, 122, 5228.
【非特許文献9】
オオイ, T. (Ooi, T.); カメダ, M. (Kameda, M.); タンナイ, H. (Tannai, H.); マルオカ K. (Maruoka, K.), テトラヘドロン レターズ (Tetrahedron Letters.), 2000, 41, 8339
【非特許文献10】
フランツ, D. E. (Frantz, D. E.); ウェーバー D. G. (Weaver, D. G.); キャレイ, J. P. (Carey, J. P.); クレス, M. H. (Kress, M. H.); ドーリング, U. H. (Dolling, U. H.), オーガニック レターズ (Org. Lett.), 2002, 4, 4717
【非特許文献11】
ジンラス, M. (Gingras, M.); デュボア, F. (Dubois, F.), テトラヘドロン レターズ (Tetrahedron Letters.), 1999, 40, 1309
【非特許文献12】
オオイ, T. (Ooi, T.); カメダ, M. (Kameda, M.); マルオカ K. (Maruoka, K.), ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー (J. Am. Chem. Soc.), 2003, 125, 5139.
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、不斉塩基として有用である光学活性3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンを、低温引火性溶媒およびハロゲン溶剤を使用することなく、超低温の反応条件を必要とせず、さらにカラム精製を行なうことなく、実用的に効率よく合成することの可能な方法を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の式I’:
【0016】
【化25】
【0017】
で表される光学活性アゼピン化合物のシュウ酸塩の製造方法を包含し、該方法は、以下の式I:
【0018】
【化26】
【0019】
で表される光学活性アゼピン化合物にシュウ酸を作用させて塩を形成させ、結晶化する工程を包含する。
【0020】
好適な実施態様においては、上記式Iで表される光学活性アゼピン化合物は、以下の式II:
【0021】
【化27】
【0022】
で表される光学活性アリルアゼピン化合物に、トルエン中で、パラジウム触媒の存在下、1,3−ジメチルバルビツール酸を反応させることにより得られる。
【0023】
好適な実施態様においては、上記式IIで表される光学活性アリルアゼピン化合物は、以下の式III:
【0024】
【化28】
【0025】
で表される光学活性ジブロモ化合物を、トリエチルアミンの存在下でアリルアミンと反応させた後、アセトンで処理することにより得られる。
【0026】
好適な実施態様においては、上記式IIIで表されるジブロモ化合物は、以下の式IV:
【0027】
【化29】
【0028】
で表される光学活性ジメチル化合物を、シクロヘキサン中、2,2−アゾビスイソブチロニトリルの存在下でN−ブロモコハク酸イミドと反応させることにより得られる。
【0029】
好適な実施態様においては、上記式IVで表されるジメチル化合物は、以下の式V:
【0030】
【化30】
【0031】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)で表される光学活性ジO−トリフラート化合物を、t−ブチルメチルエーテル中で、Ni触媒存在下、メチルマグネシウムハライドと反応させることにより得られる。
【0032】
好適な実施態様においては、上記式Vで表されるジO−トリフラート化合物は、以下の式VI:
【0033】
【化31】
【0034】
で表される光学活性1,1’−ビナフトールと無水トリフルオロメタンスルホン酸とを、トルエン中で、ピリジンの存在下、0℃から室温の温度範囲で反応させることにより得られる。
【0035】
本発明は、以下の式V:
【0036】
【化32】
【0037】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)で表される光学活性ジO−トリフラート化合物の製造方法を包含し、該方法は、以下の式VI:
【0038】
【化33】
【0039】
で表される光学活性1,1’−ビナフトールと無水トリフルオロメタンスルホン酸とを、トルエン中で、ピリジンの存在下、0℃から室温の温度範囲で反応させる工程を包含する。
【0040】
本発明は、以下の式IV:
【0041】
【化34】
【0042】
で表される光学活性ジメチル化合物の製造方法を包含し、該方法は、以下の式V:
【0043】
【化35】
【0044】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)で表される光学活性ジO−トリフラート化合物を、t−ブチルメチルエーテル中で、Ni触媒存在下、メチルマグネシウムハライドと反応させる工程を包含する。
【0045】
本発明は、以下の式III:
【0046】
【化36】
【0047】
で表される光学活性ジブロモ化合物の製造方法を包含し、該方法は、以下の式IV:
【0048】
【化37】
【0049】
で表される光学活性ジメチル化合物とN−ブロモコハク酸イミドとを、シクロヘキサン中、2,2−アゾビスイソブチロニトリルの存在下で、反応させる工程;得られた反応液にカルボン酸エステルを加える工程;および得られた混合液を水と混合し、析出した結晶を得る工程を包含する。
【0050】
本発明は、以下の式II:
【0051】
【化38】
【0052】
で表される光学活性アリルアゼピン化合物の製造方法を包含し、該方法は、以下の式III:
【0053】
【化39】
【0054】
で表される光学活性ジブロモ化合物を、エーテル溶媒中、トリエチルアミンの存在下でアリルアミンと反応させた後、アセトンで処理する工程を包含する。
【0055】
本発明は、以下の式I:
【0056】
【化40】
【0057】
で表される光学活性アゼピン化合物の製造方法を包含し、該方法は、以下の式II:
【0058】
【化41】
【0059】
で表される光学活性アリルアゼピン化合物を、トルエン中で、パラジウム触媒を用いて1,3−ジメチルバルビツール酸と反応させる工程を包含する。
【0060】
本発明はまた、以下の式I’:
【0061】
【化42】
【0062】
で表されるアゼピン化合物のシュウ酸塩を包含する。
【0063】
本発明は、さらに、以下の式I:
【0064】
【化43】
【0065】
で表される光学活性アゼピン化合物の他の製造方法を包含し、該方法は、以下の式III:
【0066】
【化44】
【0067】
で表される光学活性ジブロモ化合物を、非プロトン性極性溶媒中、アルカリ金属水酸化物の存在下でトリフルオロアセトアミドと反応させて以下の式VII:
【0068】
【化45】
【0069】
で表される光学活性トリフルオロメチルカルボニルアゼピン化合物を得る工程、および該トリフルオロメチルカルボニルアゼピン化合物を加水分解する工程を包含する。
【0070】
【発明の実施の形態】
本明細書において、不斉中心を有する化合物の化学式は、光学異性を表示しない化学式、(R)体、および(S)体のいずれかで表されているが、特に記載がない限り、これらは(R)体および(S)体のいずれであってもよいことを意図する。
【0071】
発明者らは、光学活性3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(化合物I)の従来の合成方法について、各工程ごとに反応条件を検討して好適な反応条件を見出し、かつ生成した化合物Iをシュウ酸塩とすることによって簡便に単離し得ることを見出し、その結果、実用的な工程による化合物Iの合成方法を確立し、本発明を完成するに至った。
【0072】
本発明による化合物Iおよびそのシュウ酸塩の合成方法を以下の反応スキームに示す(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)。
【0073】
【化46】
【0074】
以下、上記スキームの各工程に沿って本発明を詳細に説明する。
【0075】
(1)光学活性2,2’−ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ−1,1’−ビナフチル(ジO−トリフラート化合物)の製造(化合物VI→化合物V)
【0076】
【化47】
【0077】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)。
【0078】
第1の工程では、光学活性1,1’−ビナフトール(明細書中で、化合物VIという場合がある)と無水トリフルオロメタンスルホン酸とを、トルエン中で、ピリジンの存在下、0℃から室温の温度範囲で反応させることにより2,2’−ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ−1,1’−ビナフチル(明細書中で、化合物V、ジO−トリフラート化合物などという場合がある)が得られる。この工程において、塩基として、ピリジンが用いられることにより、0℃から室温という比較的穏やかな条件下でトリフリル化を行うことができる。これに対して、従来のようにトリエチルアミンを用いると−78℃という低温を必要とする。
【0079】
上記ピリジンは、化合物VIの1当量に対して、2〜6当量、好ましくは3〜5当量、より好ましくは4当量の割合で、無水トリフルオロメタンスルホン酸は、2〜2.5当量、好ましくは2.2〜2.5当量、より好ましくは2.5当量の割合で用いられる。溶媒のトルエンは、化合物VIに対し、通常、容積比で5〜20倍、好ましくは6〜15倍、より好ましくは7倍の割合で使用される。最も好ましくは、化合物VI(1当量)およびピリジン(4当量)のトルエン溶液(化合物VIの容量の7倍容)に無水トリフルオロメタンスルホン酸(2.5当量)を0℃で加えて室温で3時間反応させると、化合物Vを定量的に得ることができる。このようにして得られる化合物Vは、精製することなく、次の工程に使用することができる。
【0080】
上記反応は、塩基として水酸化アルカリを用いたショッテンバウマン反応によっても行なうことができるが、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を多量に使用し、かつ反応時間が長時間を必要とするという欠点がある。
【0081】
(2)光学活性2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(ジメチル化合物)の製造(クロスカップリング工程;化合物V→化合物IV)
【0082】
【化48】
【0083】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基、Meはメチル基、Xはハロゲン原子を表す)。
【0084】
第2の工程では、2,2’−ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ−1,1’−ビナフチル(化合物V)に、t−ブチルメチルエーテル(MTBE)中、ニッケル触媒の存在下で、次式:
MeMgX
(式中、Meはメチル基、Xはハロゲン原子を表す)で示されるメチルマグネシウムハライドを作用させることによって、2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(明細書中において、ジメチル化合物、化合物IVなどという場合がある)を得る。上記反応において、メチルマグネシウムハライドとしては、MeMgCl、MeMgBr、MeMgIなどが挙げられ、化合物Vの1当量に対して通常、1.5〜5当量、好ましくは2〜4当量、より好ましくは3当量の割合で用いられる。ニッケル触媒としては、NiCl2・ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン錯体(NiCl2(dppp))、NiCl2(PPh3)2などが挙げられる。反応温度は、0℃〜55℃(MTBEの沸点)の適宜な温度、通常、25〜55℃であり、反応時間は、通常0.5〜1時間である。このとき、MTBEは、化合物Vに対し、容積(mL)/重量(g)比で通常、5〜20倍程度の割合で使用され、ニッケル触媒は、化合物Vの1当量に対して、好ましくは0.01〜0.1当量、より好ましくは0.02〜0.06当量の割合で使用される。上記反応処理後、例えば、粗生成物の3倍重量のシリカゲルを用いて反応液を濾過処理することによって、化合物IVを定量的に得ることができる。
【0085】
上記t−ブチルメチルエーテルを溶媒として使用する本法によれば、高い光学純度を有する化合物IVが得られる。これに対して、例えば、THFを溶媒として選択すると、光学純度の低下が生じる。
【0086】
この工程によって得られる化合物IVは、以下の工程によって得られる不斉塩基の化合物IまたはI’の合成原料または中間体として有用であるだけでなく、他の不斉相関移動触媒または不斉塩基となり得る化合物の合成原料または中間体にもなり得る。
【0087】
(3)光学活性2,2’−ビスブロモメチレン−1,1’−ビナフチル(ジブロモ化合物)の製造(化合物IV→化合物III)
【0088】
【化49】
【0089】
第3の工程では、光学活性ジメチル化合物(化合物IV)に、シクロヘキサン中、ラジカル反応開始剤である2,2−アゾビスイソブチロニトリルの存在下、ブロム化剤であるN−ブロモコハク酸イミドを作用させ、2および2’位のメチル基をともにブロム化して2,2’−ビスブロモメチレン−1,1’−ビナフチル (明細書中において、ジブロモ化合物、化合物IIIなどという場合がある)を得る。上記N−ブロモコハク酸イミド(NBS)は、化合物IVの1当量に対して、通常、2〜3当量、好ましくは2〜2.5当量、より好ましくは2.2当量の割合で用いられ、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)は、0.005〜0.1当量、より好ましくは、0.05当量の割合で用いられる。溶媒であるシクロヘキサンは、化合物IVに対し、容積(mL)/重量(g)比で、通常、3〜15倍、好ましくは5〜10倍、より好ましくは7倍の割合で使用される。反応温度は、通常、室温からシクロヘキサンの沸点までの間の任意の温度、好ましくは60〜100℃であり、反応時間は、通常2〜3時間である。
【0090】
上記反応後、反応液にカルボン酸エステルを加えると、上記反応で副生した不純物が該カルボン酸エステルに溶解する。このようなカルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどが挙げられ、好適には、酢酸エチルが用いられる。カルボン酸エステルは、好ましくはシクロヘキサンと等容量〜シクロヘキサンの1/5容、より好ましくは1/3容の割合で使用する。次いで、この混合物を水に注ぐと、化合物IIIが結晶として析出する。反応により生じたコハク酸イミドは水に溶解する。上記水は、好ましくはシクロヘキサンの1〜4倍容、より好ましくは1.5〜2.5倍、特に好ましくは2倍容の割合で使用する。得られた化合物IIIは、さらなる精製過程を経ることなく、次の工程に使用できる。このように、上記方法により、化合物IVから化合物IIIを得る従来の方法に比較して、簡便に純度の高い化合物IIIが得られる。
【0091】
(4)光学活性3,5−ジヒドロ−4H−(3−プロペニル)ジナフト[2,1−c’:1’,2’−e]アゼピン(アリルアゼピン化合物)の製造(化合物III→化合物II)
【0092】
【化50】
【0093】
第4の工程では、光学活性ジブロモ化合物(化合物III)を、エーテル溶媒中、トリエチルアミンの存在下、アリルアミンと反応させて光学活性アリルアゼピン化合物(化合物II)を得る。
【0094】
上記反応において、エーテル溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、MTBE、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどが挙げられ、好適にはTHFが用いられる。トリエチルアミンは、化合物IIIの1当量に対して好ましくは2〜10当量、より好ましくは2〜5当量、特に好ましくは3当量の割合で用いられる。このようにトリエチルアミンの量を約3当量に設定することにより、従来、この工程で3当量使用していたアリルアミンの量を1.7当量にまで削減することができる。反応温度は、室温からTHFの沸点までの間の任意の温度であり、通常50〜65℃の温度範囲が採用される。反応時間は好ましくは1〜5時間、より好ましくは2〜3時間である。
【0095】
得られた化合物IIの粗生成物は、アセトンで処理することにより精製される。具体的な生成手段としては、アセトンでの洗浄または再結晶が挙げられ、例えば、化合物IIの粗結晶を同量のアセトンで懸濁洗浄すると、得られる精製品は純度が高く、さらなる精製過程を経ることなく次の工程に使用可能である。
【0096】
(5)光学活性3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(アゼピン化合物)の製造(脱アリル化工程;化合物II→化合物I)
【0097】
【化51】
【0098】
第5の工程では、光学活性アリルアゼピン化合物(化合物II)を、トルエン中で、パラジウム触媒を用いて1,3−ジメチルバルビツール酸(NDMDA)と反応させて脱アリル化することにより、3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(化合物I)が得られる。この工程においては、反応溶媒としてトルエンを用いることにより、ハロゲン含有溶剤を用いることなく反応を行うことができる。上記NDMBAは、化合物IIの1当量に対して1〜5当量、好ましくは1.5当量の割合で用いられる。本法によれば、少量のNDMBAで反応が充分に進行し、従来においては3当量必要としていたのに対して、その量を削減することができる。
【0099】
上記パラジウム触媒としては、Pd(PPh3)4などのパラジウム錯体が用いられ、このような化合物は、反応系内でPd(OAc)2とPPh3とから調製することも可能である。パラジウム触媒は、化合物IIの1当量に対して、好ましくは0.01〜0.1当量、より好ましくは0.02〜0.03当量の割合で用いられる。反応温度は、室温からトルエンの沸点までの間の任意の温度、好ましくは20〜40℃であり、反応時間は、好ましくは1〜5時間、より好ましくは2〜3時間である。
【0100】
次いで、脱アリル化反応により得られた反応混合物に、アルカリ、例えば、1M水酸化ナトリウム水溶液を加え、NDMBAに由来する酸性物質を中和して水層に移行させ、化合物Iを含むトルエン層を得る。化合物Iは、このトルエン溶液からそのまま単離してもよく、あるいは、後述の第6の工程によりシュウ酸塩として単離してもよい。そのまま単離する場合は、トルエン溶液から酢酸水溶液(例えば、約50%)で抽出を行ない、得られた抽出液を水酸化ナトリウム水溶液(例えば、約48%)で塩基性にした後、遊離の化合物Iをトルエンで再抽出する。トルエンを減圧留去した後、固体の残渣を、好ましくは固体残渣の2倍容のメタノールから結晶化させて、純度の高い化合物Iを得ることができる。この方法では、抽出過程が多いため、後述のシュウ酸塩として単離する方法に比較すると収率はやや低い。
【0101】
(5’)光学活性3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(アゼピン化合物)製造の別法(化合物III→化合物VII→化合物I)
【0102】
上記(4)および(5)の工程に代えて、次の方法を採用することによっても光学活性アゼピン化合物を得ることが可能である。
【0103】
【化52】
【0104】
この方法によれば、まず、上記式IIIで表される光学活性ジブロモ化合物(化合物III)を、非プロトン性極性溶媒中、アルカリ金属水酸化物の存在下でトリフルオロアセトアミドと反応させることにより、式VIIで表される光学活性4−(2,2,2−トリフルオロアセチル)−3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(本明細書中で、トリフルオロメチルカルボニルアゼピン化合物、化合物VIIなどという場合がある)が得られる。ここで使用される非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N−メチルアセトアミドなどが挙げられ、好ましくは、ジメチルホルムアミドが用いられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが用いられ、好ましくは、水酸化ナトリウムが利用される。上記トリフルオロアセトアミドは、化合物IIIの1当量に対して、好ましくは1〜3当量、さらに好ましくは、1〜1.3当量の割合で用いられる。アルカリ金属水酸化物は、化合物IIIの1当量に対して、好ましくは2〜5当量、さらに好ましくは、2〜3当量の割合で用いられる。反応温度は、通常、20〜50℃であり、反応時間は、3〜6時間である。反応液を、例えば水と混合することにより、生じた化合物VIIが析出する。
【0105】
上記工程で得られた化合物VIIを、次いで、加水分解することにより、化合物Iが得られる。例えば、化合物VIIをアルコールなどの水溶性有機溶媒に溶解し、これに、炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液を加えることにより、加水分解反応が進行し、化合物Iが生成する。アルカリ水溶液は、含有されるアルカリの量が化合物VIIの1当量に対して、好ましくは2〜5当量、さらに好ましくは、3〜4当量の割合となるように使用される。
【0106】
(6)光学活性アゼピン化合物のシュウ酸塩の形成(化合物I→化合物I’)
【0107】
【化53】
【0108】
上記工程5または5’で得られるアゼピン化合物(化合物I)を適当な溶媒に溶解させ、シュウ酸を加えることにより。該アゼピン化合物の塩が形成される。簡便には、上記工程5において、上記化合物Iを含むトルエン溶液に直接シュウ酸を加えることにより、上記化合物Iのシュウ酸塩である化合物I’が析出し、この化合物I’を容易に単離することができる。使用するシュウ酸の量は、化合物IIの1当量に対して好ましくは1〜3当量、最も好ましくは1.5当量である。この工程により、煩雑な抽出工程を行うことなく、化合物I’を高収率で得ることができる。得られた化合物I’は、塩基性水溶液に溶解することにより容易に化合物Iに変換することが可能であり、これを有機溶媒で抽出することにより、化合物Iが得られる。
【0109】
【作用】
本発明によれば、このように、従来の合成方法と比較して以下の点が改善され、より効率的にかつ簡便に、光学活性3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンを合成することが可能である:
(1)のジO−トリフラート化合物の製造工程において、ハロゲン含有溶剤を使用せず、穏やかな温度条件下で反応を行なうことが可能であること;
(2)のジメチル化合物の製造(クロスカップリング工程)において、引火性が高く危険なジエチルエーテルの代わりに、より安全な溶媒としてMTBEを使用し、このことにより、光学純度の低下なく目的物が得られ、かつグリニャール試薬の使用量を削減できること;
(3)のジブロモ化合物の製造工程において、発ガン性のあるベンゼンを使用せず、シクロへキサンを使用すること;
(4)のアリルアゼピン化合物の製造工程において、アリルアミンとをトリエチルアミンとを共存させることによって、使用するアリルアミン量が少量で反応が充分に進行すること;
(5)のアゼピン化合物の製造工程において、環境に影響を与えるハロゲン化溶剤を使用せずトルエンを使用すること;
(5’)のアゼピン化合物の製造工程において、トリフルオロアセトアミドおよびアルカリ金属水酸化物を用いることにより、簡便かつ安全に反応を行なうことが可能であること;
(6)のアゼピン化合物(化合物I)のシュウ酸塩の形成を形成させることにより、非常に簡便に単離できること;および
(1)〜(6)の全工程を通じ、カラムクロマトグラフィーによる精製を行うことなく光学純度の高い化合物が高収率で得られること。
【0110】
上記の工程(1)〜(6)により、超低温条件、引火性溶媒、およびハロゲン含有溶剤を使用せず、そしてカラム精製を行うことなく、効率的に化合物I’および化合物Iを得ることが可能となる。この工程を採用すると、原料から化合物Iに至るまで、光学純度がほとんど低下しない。従って、光学純度の高い原料を使用することにより、ほぼ同等の高い光学純度を有する化合物が高い収率で得られ得る。このように、R体またはS体の原料を使用することにより、対応する絶対配置の光学活性化合物Iを効果的に得ることが可能となる。
【0111】
このようにして得られた化合物IまたはI’は、不斉塩基として有用であり、さらに、式VIII:
【0112】
【化54】
【0113】
で表される不斉相間移動触媒の合成中間体としても有用である。必要とされる式VIIIの化合物の構造に応じて、R体またはS体の化合物Iを、上記方法により容易に得ることが可能となる。
【0114】
【実施例】
以下に、本発明を実施例につき説明する。本実施例において、化合物Ia、化合物IIaなど、化合物の番号にaが付された化合物は、対応する化合物の(R)−光学異性体であることを示す。同様に、化合物Ib、化合物IIIbなど化合物の番号にbが付された化合物は、対応する化合物の(S)−光学異性体であることを示す。
【0115】
(実施例1):(R)−2,2’−ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ−1,1’−ビナフチル(化合物Va)の合成
【0116】
【化55】
【0117】
(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホニル基を表す)。
【0118】
窒素雰囲気下、(R)−1,1’−ビナフトール(化合物VIa)(20.0g,69mmol)およびピリジン(22.1g,279mmol)を含む無水トルエン溶液(140mL)に、氷冷下、無水トリフルオロメタンスルホン酸(49.3g,174mmol)を滴下した。滴下終了後、室温で約3時間攪拌した。TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.057150); 酢酸エチル/ヘキサン(1:4);Rf 0.16(化合物VIa),0.46(化合物Va)]にて原料の消失を確認した。これに、トルエン(100mL)、水(100mL)、および35%塩酸(30mL)を加えて分液した後、有機層を水(100mL×2)および飽和食塩水(100mL×1)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥して、減圧濃縮した。これにより粗生成物の化合物Vaを固体としてほぼ定量的に得た(36.4g)。この化合物Vaの物理的性質を以下に示す。
【0119】
mp:64〜74℃
[α]D 20:−151.0 (c 0.29, CHCl3)
400 MHz 1H−NMR (CDCl3):δ8.14 (2H, d, J = 8.8 Hz), 8.01 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.62 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.59 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.4 Hz), 7.41 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.4 Hz), 7.27−7.24 (2H, m) IRνmax(KBr):1507, 1421, 1215, 1136, 961, 938, 830 cm−1。
【0120】
(比較例1):Schotten−Baumann法による(R)−2,2’−ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ−1,1’−ビナフチル(化合物Va)の合成
【0121】
【化56】
【0122】
Schotten−Baumann法を用いて化合物Vaの調製の検討を行なった。非特許文献10を参考にし、種々の濃度の水酸化カリウム水溶液を用い、種々の条件下で、化合物VIaのO−トリフリル化を行なった。その結果、15%水酸化カリウム水溶液を用い、化合物VIa1当量に対して4当量の無水トリフルオロメタンスルホン酸を用いて48時間反応を行った場合に、最も収率良く化合物Vaを得ることができた(収率96%)。しかし、トリフルオロメタンスルホン酸無水物を多量に使用し、かつ反応に48時間という長時間を必要とした。
【0123】
(実施例2):(R)−2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(化合物IVa)の合成(クロスカップリング反応−その1)
【0124】
【化57】
【0125】
窒素雰囲気下、マグネシウム(660mg,27mmol)の乾燥MTBE懸濁液(7mL)を加熱還流させこれに、ヨウ化メチル(3.90g,27mmol)のMTBE溶液(4mL)を、還流が保持される温度に保ちながら滴下し、グリニヤール試薬の調製を行なった。放冷後、30℃でMTBE(5mL)加え、さらに30℃でNiCl2(dppp)(0.25g,0.45mmol)を加えた。次いで、化合物Va(5.0g,9.1mmol)のMTBE溶液(20mL)を滴下し、55℃で約30分間加熱・還流させながら攪拌を行った。その後、TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/ヘキサン(1:4);Rf 0.46(化合物Va),0.79(化合物IVa)]にて原料の消失を確認した。反応液にトルエン(30mL)を加え、この混合物を氷水(30mL)に注ぎ、35%塩酸(5mL)を加えた。分液後、有機層を水(30mL×2)および飽和食塩水(30mL×1)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮して、粗結晶(2.6g)を得た。これをシリカゲル(7.8g)に吸着させ、酢酸エチル/ヘキサン(1:4)(200mL)で溶出して、化合物IVa(2.46g,収率96.1%)を得た。この反応の条件および化合物IVaの収率を表1に示す。化合物IVaの物理的性質を以下に示す。
【0126】
光学純度99.6%ee{HPLC:カラム,Chiralpak OD 4.6mmΦ×250mm;カラム温度,25℃;移動相,ヘキサン/イソプロピルアルコール(99.8:0.2;流速,0.5mL/分;検出波長,240nm;tR 9.5分[(S)体,0.2%],12.3分[化合物IVa,99.8%]}
mp:77〜79℃
[α]D 20:−42.6 (c 0.20, CHCl3) {文献値:[α]D 20 −35.6 (c 1.0, CHCl3), 94 %ee}
400 MHz 1H−NMR (CDCl3):δ7.89 (2H, d, J = 8.4Hz), 7.87 (2H, d, J = 8.4Hz), 7.50 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.39 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.4 Hz), 7.20 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.4 Hz), 7.04 (2H, dd, J = 1.2 Hz, 8.4 Hz), 2.03 (6H, s)
IRνmax(KBr):3045, 2910, 1503, 1421, 1219, 815, 744 cm−1。
【0127】
(実施例3):(R)−2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(化合物IVa)の合成(クロスカップリング反応−その2)
マグネシウムおよびヨウ化メチル(グリニャール試薬の原料)を化合物Vaの1当量に対して5当量用い、これを化合物Vaと53℃で反応させたこと以外は、実施例2と同様に化合物IVaを合成した。結果を表1に示す。
【0128】
(実施例4):(R)−2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(化合物IVa)の合成(クロスカップリング反応−その3)
マグネシウムおよびヨウ化メチル(グリニャール試薬の原料)を化合物Vaの1当量に対して5当量用い、これを化合物Vaと40℃で反応させたこと以外は、実施例2と同様に化合物IVaを合成した。結果を表1に示す。
【0129】
(比較例2):(R)−2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(化合物IVa)の合成(クロスカップリング反応−その4)
反応溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、マグネシウムおよび塩化メチル(グリニャール試薬の原料)を化合物Vaの1当量に対して5当量用い、これを化合物Vaと40℃で反応させたこと以外は、実施例2と同様に化合物IVaを合成した。結果を表1に示す。
【0130】
(比較例3):(R)−2,2’−ジメチル−1,1’−ビナフチル(化合物IVa)の合成(クロスカップリング反応−その5)
非特許文献11を参考にして、反応溶媒としてジエチルエーテルを用い、マグネシウムおよびヨウ化メチル(グリニャール試薬の原料)を化合物Vaの1当量に対して5当量用い、これを化合物Vaと35℃(還流温度)で反応させたこと以外は、実施例2と同様に化合物IVaを合成した。結果を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
表1からわかるように、ジエチルエーテルを溶媒として中で反応を行うと、光学純度99.3%eeの化合物IVaを収率93.5%で得ることができた(比較例3)。しかし、反応溶媒としてより安全なTHFを用いると、化合物IVaの光学純度は88.4%eeまで低下した(比較例2)。THFのような環状エーテルの代わりに、構造がジエチルエーテルに近いMTBE(t−ブチルメチルエーテル)を反応溶媒として用いると、光学純度の低下を伴うことなく、反応が進行した(実施例4)。また、反応溶媒にMTBEを用いると、反応温度を55℃(MTBEの沸点)にまで上げても、化合物IVaの光学純度は低下しなかった(実施例3)。さらに、このような加熱条件下では、グリニャール試薬の当量数を5.0当量から3.0当量に減らすことができた(実施例2)。このように、グリニャール試薬の当量数が削減できたことから、未反応のグリニャール試薬をより安全にクエンチすることが可能になった。
【0133】
(実施例5):(R)−2,2’−ビスブロモメチレン−1,1’−ビナフチル(化合物IIIa)の合成
【0134】
【化58】
【0135】
化合物IVa(24.4g,86mmol)のシクロヘキサン懸濁液(170mL)にN−ブロモコハク酸イミド(NBS;33.8g,190mmol)および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN;0.70g,4.3mmol)を加え、約2時間加熱還流した。TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/ヘキサン(1:10);Rf0.60(化合物IVa),0.49(化合物IIIa)]にて原料の消失を確認した。反応終了後、反応混合液を放冷し、酢酸エチル(56mL)を加え攪拌した。この反応混合液を水(350mL)に注いだ。混合物を攪拌して、析出した結晶を濾取した。一晩風乾し、化合物IIIaを得た(20.6g,収率54.3%)。得られた化合物IIIaの物理的性質を以下に示す。
【0136】
mp:178〜181℃(文献値:171〜174℃)
[α]D 20:+160.5 (c 0.11, ベンゼン){文献値:[α]D 20 +148 (c 1.7, ベンゼン)}
400 MHz 1H−NMR (CDCl3):δ8.02 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.93 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.75 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.49 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.0 Hz), 7.27 (2H, ddd, J = 1.2 Hz, 6.8 Hz, 8.0 Hz), 7.07 (2H, dd, J = 0.8 Hz, 8.8 Hz), 4.26 (4H, s)
IRνmax(KBr):3045, 1507, 1432, 1211, 826, 759 cm−1。
【0137】
(実施例6):(R)−(化合物IIa)の合成(アゼピン環の形成)
【0138】
【化59】
【0139】
窒素雰囲気下、室温で化合物IIIa(10.0g,23mmol)およびトリエチルアミン(6.9g,68mmol)を含む乾燥THF(70mL)溶液に、アリルアミン(2.2g,39mmol)を加え、55℃にて3時間加熱攪拌した。TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/ヘキサン(1:4);Rf0.56(化合物IIIa),0.11(化合物IIa)]にて原料の消失を確認した。この反応混合液にトルエン(70mL)および1M水酸化ナトリウム水溶液(70mL)を加えた。分液後、有機層を水(70mL×2)および飽和食塩水(70mL×1)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、減圧濃縮し、粗結晶(7.4g)を得た。粗結晶にアセトン(7.4mL)を加えて、懸濁洗浄した。結晶を濾取後、一晩風乾して化合物IIaを得た(6.5g,収率84.7%)。得られた化合物IIaの物理的性質を以下に示す。
【0140】
mp:177〜178℃
[α]D 20:−396.3 (c 0.24, CHCl3)
400 MHz 1H−NMR (CDCl3):δ7.95 (4H, d, J = 8.4 Hz), 7.55 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.48−7.44 (4H, m), 7.29−7.24 (2H, m), 6.06−5.96 (1H, m), 5.31−5.21 (2H, m), 3.74 (2H, d, J = 12.6 Hz), 3.16 (2H, d, J = 12.6 Hz), 3.14−3.10 (2H, m)
IRνmax(KBr):3037, 2940, 2791, 1641, 1589, 1510, 1447, 1338, 1237, 1118, 998, 920, 826, 755, 542 cm−1。
【0141】
(比較例4):p−メトキシベンジルアミンを用いるアゼピン化合物の調製
【0142】
【化60】
【0143】
アゼピン環の窒素源としてp−メトキシベンジルアミンを用いる方法を試みた。
【0144】
化合物IIIa(0.9g,2.0mmol)およびトリエチルアミン(0.8g,8.2mmol)を含む乾燥THF(10mL)溶液に、窒素雰囲気下、室温でp−メトキシベンジルアミン(0.63g,4.6mmol)を加え、55℃にて3時間加熱攪拌した。実施例6と同様にTLCで原料の消失を確認した。反応混合液から同様の方法で化合物IXaを得た(0.39g,収率45.9%)。
【0145】
次いで、酸処理(35% 塩酸)または接触還元[Pd/C、Pd(OH)2]を行ったが、化合物IXaからp−メトキシベンジル基を除去することができなかった。
【0146】
この化合物IXaをクロロギ酸α−クロロエチルと反応させた後、酸で処理すると、目的とする化合物Iaを得ることができたが、収率はわずか17%であった。
【0147】
(実施例7):(R)−3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(化合物Ia)の合成(脱アリル化反応)
【0148】
【化61】
【0149】
窒素雰囲気下、化合物IIa(2.5g,7.5mmol)の乾燥トルエン溶液(25mL)に、1,3−ジメチルバルビツール酸(NDMBA)(1.9g,11.9mmol)、酢酸パラジウム(0.03g,0.15mmol)、およびトリフェニルホスフィン(0.16g,0.60mmol)を加え、35℃で3時間攪拌を行った。TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/メタノール(1:1);Rf0.83(化合物IIa),0.19(化合物Ia)]で原料の消失を確認した。反応混合液に、1M水酸化ナトリウム水溶液(25mL)を加えて攪拌した。トルエン層を水(25mL×3)および飽和食塩水(25mL×1)で順次洗浄した。
【0150】
次いで、トルエン層を50%酢酸水溶液(20mL×3)で抽出した。有機層から化合物Iaが消失したことをTLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/メタノール(1:1);Rf0.19(化合物Ia)]にて確認した。冷却下、50%酢酸水溶液に、48%水酸化ナトリウム水溶液(32.5mL)を加え、アルカリ性にして、トルエン(20mL)で抽出した。トルエン抽出液を、水(30mL×2)および飽和食塩水(30mL×1)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮して、粗結晶(2.33g)を得た。この粗結晶を、メタノール(4.5mL)から再結晶をして、化合物Ia(1.47g,収率66.8%)を得た。得られた化合物Iaの物理的性質を以下に示す。
【0151】
光学純度:99.8%ee{HPLC:カラム,Chiralpak AD−H 4.6 mmФ×250 mm;カラム温度,25 ℃;移動相,ヘキサン/エタノール(9:1)(ジエチルアミン0.1%v/v添加);流速, 0.5 mL/分;検出波長,254 nm;tR 14.2分[化合物Ia,99.9%],17.0分[(S)体,0.1%]}
mp:73〜84℃{文献値:73〜84℃; (S)体}
[α]D 20:−585.5 (c 0.23, CHCl3){文献値:[α]D 20 +620 (c 0.7, CHCl3),
(S)体}
400 MHz 1H−NMR (CDCl3):δ7.97 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.95 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.57 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.48−7.43 (4H, m), 7.28−7.24 (2H, m), 3.83 (2H, d, J = 12.4 Hz), 3.51 (2H, d, J = 12.4 Hz)
IRνmax(KBr):3045, 2940, 2866, 1507, 1465, 1447, 1365, 1350, 1088, 1028, 819, 755 cm−1
Ms m/z 296:[(M+H)+]
【0152】
(実施例8):トリフルオロメチルアゼピン化合物を経由するアゼピン化合物の合成
【0153】
【化62】
【0154】
窒素雰囲気下、トリフルオロアセトアミド(0.13g,1.14mmo1)のDMF(7mL)溶液に、攪拌しながら室温で粉末の水酸化ナトリウム(0.09g,2.27 mmol)を添加し、続いて、これに化合物IIIb(0.50g,1.14 mmol)のDMF(5mL)溶液を滴下した。室温で3時間攪拌し、TLC[Kiese1ge1 60(Merck,art 1.057150);酢酸エチル/ヘキサン(1:4);Rf 0.56(化合物IIIb);Rf 0.38(化合物VIIb)]で原料の消失を確認した。この反応混合物に水(20mL)を注ぎ、析出した結晶を濾取し、化合物VIIbの粗結晶を得た。
【0155】
得られた化合物VIIbの粗結晶をメタノール(20mL)溶液とし、これに炭酸ナトリウム(0.43g,4.09mmol)および水(1mL)を加え、室温にて一晩攪拌した。TLC[Kiese1ge1 60(Merck,art1.057150);酢酸エチル/メタノール(1:1);Rf 0.88(化合物VIIb);Rf 0.19(化合物Ib)]で原料の消失を確認した。反応混合物に、1M水酸化ナトリウム水溶液(10mL)を加え、トルエン(20mL)にて抽出した。トルエン抽出液は、水(20mL×1)および飽和食塩水(20mL×1)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。これを減圧濃縮し、化合物Ibの粗結晶(0.19g,56.7%;化合物IIIbからの通算収率)を淡黄色結晶で得た。
【0156】
(実施例9):(R)−3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン・シュウ酸塩(化合物Ia’)の合成
【0157】
【化63】
【0158】
窒素雰囲気下、化合物IIa(1.5g,4.5mmol)、NDMBA(1.2g,7.1mmol)、酢酸パラジウム(0.02g,0.09mmol)、およびトリフェニルホスフィン(0.09g,0.36mmol)を乾燥トルエン(15mL)中に含む混合物を、35℃で5時間攪拌した。TLC[Kieselgel 60(Merck,art 1.05715);酢酸エチル/メタノール(1:1);Rf0.83(化合物IIa),0.19(化合物Ia)]で原料の消失を確認した後、1M水酸化ナトリウム水溶液(15mL)を加えた。分液後、トルエン層を水(20mL×3)および飽和食塩水(20mL×1)で順次洗浄した。
【0159】
次いで、トルエン層にシュウ酸(0.61g,6.7mmol)を加えて室温で攪拌した。析出した結晶を濾取して、粗結晶(2.18g)を得た。この結晶を水(12mL)で懸濁洗浄した後、濾取した。40℃で10時間減圧加熱乾燥して、化合物Ia’を得た(1.58g,収率91.9%)。得られた化合物IIa’の物理的性質および水分含量を以下に示す。
【0160】
mp:72〜76℃
[α]D 20:−223.9 (c 0.24, MeOH)
400 MHz 1H−NMR (CD3OD):δ8.21 (2H, d, J = 8.4 Hz), 8.11 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.29 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.62 (2H, ddd, J = 3.6 Hz, 4.4 Hz, 8.4 Hz), 7.40−7.38 (4H, m), 4.41 (2H, d, J = 13.3 Hz), 3.76 (2H, d, J = 13.2Hz)
IRνmax(KBr):3433, 3045, 2955, 2746, 2605, 1735, 1634, 1596, 1211, 815, 748 cm−1
元素分析:C24H19NO4 ・0.18 C7H8(トルエン)・0.35 H2O:(計算値)C, 74.30; H, 5.23; N, 3.43;(実測値)C, 74.1; H, 5.1; N 3.3
カールフィッシャー水分測定:1.4%(モル比0.35の水に相当)。
【0161】
(R)−1,1’−ビナフトール(化合物VIa)から、実施例1、実施例2、実施例5、実施例6、および実施例9によって連続的に化合物Ia’を合成した場合の通算収率は、41%となった。
【0162】
【発明の効果】
本発明によれば、このように、超低温条件、引火性溶媒、およびハロゲン含有溶剤を使用せず、そしてカラム精製を行うことなく、効率的に光学活性な3,5−ジヒドロ−4H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピン(化合物I)ならびにその合成中間体を得ることが可能となる。この工程を採用すると、原料から化合物Iに至るまで、光学純度がほとんど低下しない。従って、光学純度の高い原料を使用することにより、ほぼ同等の高い光学純度を有する化合物が高い収率で得られ得る。得られた化合物は、不斉相関移動触媒または不斉塩基として有用である。
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