JP2005015310A - 多孔性シリカ膜、それを有する積層体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】膜厚方向に対して空隙率の連続的な変化を有し、かつ十点表面粗さRz=100nm以下であることを特徴とする多孔性シリカ膜。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低反射性、機械的耐久性に優れた膜厚方向に傾斜構造を有する多孔性シリカ膜、それを有する積層体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
レンズ、フィルタ−、プリズム、反射防止膜、透過膜、太陽電池、光ファイバー、光センサー、光アイソレータなどの光学部品あるいは光学素子において外界、若しくは層間の屈折率差のために、光の入出射時にフレネル反射が生じることが知られている。その対策として高屈折率と低屈折率の薄膜を交互に積層した多層干渉膜や傾斜的に屈折率を変化させた屈折率傾斜構造膜を施すことは従来知られている。
【0003】
従来の多層干渉膜は、光の位相を意識して、設計することで反射率を低減させ、増透効果を得てはいるが、光の波長に依存して、透過率が変動するという問題点があった。さらに、膜厚、屈折率を制御した透明薄膜を何層も成膜する必要があるため、量産性に欠け、高コストという問題もあった。
【0004】
一方、屈折率傾斜構造膜を形成するためには、膜組成、膜の表面形状などを傾斜的に変化させることで見掛け上の屈折率を変えることができる。例えば、特許文献1では超粒子で構成される面を転写することで、規則的な凹表面を形成することができる。この方法では見掛け上の屈折率が傾斜構造をしていることで反射防止効果を有する。しかしながら、規則的な凹表面は反射率の波長依存性が大きく、上記用途においては問題がある。他にも、特許文献2では、ガスを用いたエッチングを施し、表面に非周期的海綿状微細構造を形成する方法が報告されている。この方法では、幾分、反射率の波長依存性は低減されている。いずれの従来の材料も膜表面に凹凸形状を必要とするため、摩擦係数が大きく、機械的摩耗に対する耐久性、防汚性は著しく低下してしまうことがある。さらに、この方法は多段階工程となり、高コストや量産性という問題もある。
【0005】
また、特許文献3には、空孔サイズを変えて、スピンコーターにより積層することで、屈折率の分布を制御していることが開示されている。この方法では、目的とする分布構造を容易に得ることができるが、最表面に存在する空孔サイズによって表面粗さが変化してしまう恐れがある。さらに、同公報では、CVD法での原料組成を順次変えることで、空隙率の傾斜構造を形成し、その後、有機成分を熱処理で取り除く方法も報告されている。この方法では、前記同様、空隙率の傾斜構造を容易に得られるが、CVD法では膜表面が不均質になることが多く、場所による機械強度の違いが発生しやすいという問題点がある。また、必ず、有機成分を必要とし、最終的に残存する膜中への不純物も少なくない。
【0006】
したがって、従来の材料には空隙率の連続的な傾斜構造を有するものは存在するが、反射防止効果における反射率の波長依存性、表面性、機械的摩耗に対する耐久性の点で問題があり、さらに、その製造方法においても、多段階プロセスや高度な塗布技術を要するために高コストであり、量産性に欠けており、上記用途において十分に満足のいくものはない。
【0007】
【特許文献1】
特開平8―274359号公報
【特許文献2】
特開2002−139601号公報
【特許文献3】
特開2001−272506号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、可視光域での波長依存性の少ない低反射性、積層工程の容易性、防汚性、機械強度に優れた多孔性シリカ膜、及びそれを用いた光学材料、半導体材料に好適な積層体を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の問題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、有する空孔の空隙率が膜厚方向に対して連続的に変化することで、光学材料や半導体材料用途において有効な性能を有する多孔性シリカ膜が、従来にはない極めて平滑な表面性を有する。これにより、可視光域での波長依存性の少ない低反射性だけではなく、積層工程の容易性、防汚性、機械強度にも優れた上記材料が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
上記目的を達成するための本発明の多孔性シリカ膜は、膜厚方向に対して空隙率の連続的な変化を有し、かつ十点表面粗さRz=100nm以下であることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、膜厚方向に対して空隙率が連続的に変化する事で、フレネル反射や反射率の波長依存性が軽減され、極めて優れた光学材料を提供する事ができる。例えば、表面から空隙率が減少している場合、空孔は空気(屈折率1)で満たされているため、多孔性シリカ膜の屈折率は表面ほど小さくなっている。こうした材料は反射防止膜として理想的な光学設計となっており、太陽電池、ディスプレイ、センサーなどの光学用途として適用できる。
【0011】
さらに、従来の多孔性シリカ膜は多孔質構造を有することで、凹部と凸部による荒れた表面となる傾向がある。しかしながら、本発明の多孔性シリカ膜は十点表面粗さRz=100nm以下であることを特徴とする。この発明により、表面の摩擦係数が小さくなり、機械的摩耗に対する耐久性が向上すると共に、優れた防汚性も発現する。太陽電池、ディスプレイ、センサーなどの光学材料用途においては、本発明の多孔性シリカ膜が外界と接した状態で利用されることも多く、前記の性能は重要である。
【0012】
本発明の多孔性シリカ膜の表面は極めて平滑であり、平均表面粗さRa=50nm以下であることが好ましい。この発明により、上記の光学材料や半導体材料の用途において必ず必要となる積層構造を容易にすることができる。例えば、本発明の多孔性シリカ膜上にITOなどの透明電導層を積層しても、突起や陥没が生じることを防ぐために、積層した透明電極層の性能を損なう事はほとんどない。また、樹脂などを介して平滑基板を積層する際も、多孔性シリカ膜と平滑基板の接着性を損なう事もほとんどない。
【0013】
本発明の多孔性シリカ膜において、有する空孔は連続的につながった連通孔であることが好ましい。この発明により、機械強度に優れた多孔性シリカ膜を提供する事ができる。
さらに、上記の用途における環境安定性の点において、本発明の多孔性シリカ膜は膜厚50〜2000nmであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の多孔性シリカ膜は平均空孔径0.5〜100nm、平均空隙率25以上であることが好ましい。これは空孔がナノメートルサイズであることで、上記の用途において十分な機械強度とともに、透明性も向上する。また、パターニングに対しても耐性を有する多孔性シリカ膜材料を得ることができる。
【0015】
上記用途においては、さらに過酷な環境安定性、耐薬品性を必要とすることもある。この場合、本発明の多孔性シリカ膜において、表面から深さ300nm以内に緻密層を有することが好ましい。この発明により、格段に機械強度が向上するとともに、表面の平滑性も向上し、環境安定性、耐薬品性もよくなる。
【0016】
上記目的を達成するための積層体は、基板上に上述した本発明の多孔性シリカ膜を有することを特徴とする。また、本発明の積層体は、前記基板を透明にしたり、半導体基板であることを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実態について説明する。
本発明の多孔性シリカ膜の有する空隙率が膜厚方向に対して連続的に変化していることを特徴としている。ここでの空隙率の変化とは、空孔サイズであっても、空孔数であってもよく、空孔の占める絶対量の変化を意味している。また、空孔率は膜面に対する平均空孔率を指し、これが膜厚方向に対して連続的に変化をしている。さらに、その変化には特に制限はなく、線形的、曲線的であってもよい。連続的な変化とは、膜厚の1/10以下の領域で変化があることをいう。こうした膜構造は、明確な界面が膜中に存在せず、連続的な光学定数の変化を伴うため、反射防止材料におけるフレネル反射や反射率の波長依存性が軽減され、反射防止効果の最大化に寄与することができる。すなわち、太陽電池、ディスプレイ、センサーなどの光学用途として、最適な材料となる
【0018】
上記の構造を確認する方法として、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)がある。電子顕微鏡観察の場合は、電子線の加速電圧5kV、観察倍率1000倍〜10000倍の電子顕微鏡写真を撮り、その断面像の解析で決定することができる。なお、SEM観察試料としては、この多孔性シリカ膜を基板上に形成した際の積層体を試料として用い、その試料を液体窒素で冷却して脆化させた状態で機械的衝撃を加え、そのときの脆性破壊面を用いた。この脆性破壊面には、試料表面の導電性を向上させる目的で一般に行われている金属や炭素等の導電性物質の薄膜を蒸着等しないものを試料とした。さらに上記に記載したように空隙率は屈折率と相関をもっているため、分光エリプソメーターによっても評価することができた。空孔率の変化も、測定光の波長範囲が250〜850nmの分光エリプソメトリー(ソプラ社製:GES−5)によって測定した結果からも確認できる。
【0019】
さらに従来の屈折率傾斜構造を有する多孔性シリカ膜とは異なり、均質な表面を有する本発明の多孔性シリカ膜は十点表面粗さ(Rz)が100nm以下であることを特徴とする。好ましくは十点表面粗さ(Rz)は50nm以下であり、より好ましくは30nm以下であり、もっとも好ましくは25nm以下である。また、シリカは微細な規則構造から形成されており、十点表面粗さ(Rz)の下限値は10nmである。従来の多孔性シリカ材料においても十分な反射防止性能を有するものもあるが、表面性の問題から実際の光学材料用途として実用化できないものも少なくない。しかしながら、本発明の多孔性シリカ膜の表面は前記の表面性から摩擦係数が極めて小さく、機械的摩耗に対する耐久性に優れている。さらに防汚性も付加される。具体的には外界と接する状態で利用されることが多い太陽電池、ディスプレイ、センサーなどの光学材料には重要であり、前記の用途として最適な材料といえる。
【0020】
本発明で使用する十点表面粗さ(Rz)とはJIS B0601で定義されている十点平均粗さである。つまり、指定面における最大から5番目までの山頂のZデータ(高さ方向)の平均値と最小から5番目までの谷底のZデータとの平均の差である。十点表面粗さ(Rz)の測定には原子間力顕微鏡(AFM)を用いる方法がある。一定範囲の表面を測定し、その領域での十点表面粗さ(Rz)を算出する。例えば、セイコー電子社製SPI3800を用い、DFMモードによって5um*5um範囲の表面像を測定し、装置搭載のソフトにより十点表面粗さ(Rz)を算出する。
【0021】
本発明の多孔性シリカ膜は上記の表面性に加えて、極めて平滑な表面性を有している。前記多孔性シリカ膜は従来の多孔性シリカ膜によく見られた凹部がほとんどなく、表面粗さRa=50nm以下であることを特徴とする。好ましくは表面粗さRa=10nm以下、より好ましくは表面粗さRa=5nm以下、さらに好ましくは表面粗さRa=3nm以下、もっとも好ましくは表面粗さRa=0.5nm以下である。上記でも述べたが、シリカは微細な規則的構造からなっているため、表面粗さRa=0.1nm以下は困難である。また、表面粗さRa=50nmより大きいと、本発明の多孔性シリカ膜上への積層工程において様々な支障をきたす恐れがある。
【0022】
本発明中で使用する表面粗さ(Ra)はJIS−B0601で定義される数値である。表面粗さ(Ra)の測定には、触針式段差・表面粗さ・微細形状測定装置(ケーエルエー・テンコール社製:P−15)を用いた。測定条件は表面を傷つけず、正確な表面粗さを得るためにスタイラス・フォース(触圧)0.2mg、スキャン速度20μm/秒とし、さらにできるだけ広範囲の平滑性を評価するために走査距離500μmとした。表面粗さ(Ra)の算出は装置搭載のソフトにより行った。表面粗さRaの測定には、他にも原子間力顕微鏡(AFM)を用いた方法も一般的である。一定範囲の表面を測定し、その領域での表面粗さRaを算出する。例えば、セイコー電子社製SPI3800を用い、DFMモードによって10um*10um範囲の表面像を測定し、装置搭載のソフトにより全体の平均表面粗さ(Ra)を算出する。本発明に記載する多孔性シリカ膜はこの方法に於いても同様に極めて平滑な表面を示している。
【0023】
本発明の多孔性シリカ膜の有する空孔は連続的につながった連通孔であることが好ましい。詳細な空孔構造には特に制限はなく、トンネル状や独立空孔がつながった連結孔であってもよい。多孔性シリカ膜の均質性、機械的強度の点では独立空孔がつながった連結孔が好ましい。こうした空孔状態は上述した透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)により確認される。前記の連結孔の場合、後述する平均空孔径とはそれらの幅の平均値として定義される。
【0024】
この発明により機械強度に優れた多孔性シリカ膜を提供する事ができる。
さらに、上述の用途に於ける環境安定性の点において、本発明の多孔性シリカ膜は膜厚50〜2000nmであることが好ましい。より好ましくは膜厚50〜1000nm、さらに好ましくは膜厚80〜850nm、最も好ましくは膜厚200〜700nmである。膜厚50nmより小さいと、シリカ2次粒子からなる凹凸表面が現れるため、多孔性シリカ膜の表面平滑性が損なわれ、膜厚2000nmより大きいとシリカの3次元ネットワーク構造により膜が僅かにうねるため、同様に表面平滑性が損なわれる。測定は触針式段差・表面粗さ・微細形状測定装置(ケーエルエー・テンコール社製:P−15)を用い、測定条件はスタイラス・フォース(触圧)0.2mg、スキャン速度10um/秒とした。
【0025】
本発明の多孔性シリカ膜は空気やガスによって満たされた空孔を有している。したがって、平均空孔径や平均空隙率(空孔量)を調節することで、前記多孔性シリカ膜における見掛けの密度、誘電率、屈折率などの物理定数を制御することができる。平均空孔径0.5〜100nmを適度に有する事で、機械的強度に優れた半導体材料(低誘電率材料など)、光学材料(低屈折材料、反射防止材料など)として適用する事ができる。好ましくは平均空孔径0.5〜50nm、さらに好ましくは平均空孔径1〜20nm、最も好ましくは平均空孔径3〜20nmである。逆に平均空孔径100nmより大きいと多孔性シリカ膜の表面性に悪影響を及ぼし、平均空孔径1nmより小さいと、空孔壁面の活性基が接近するため、多孔性シリカ膜の安定性が損なわれ、かつ多孔性を上げることが困難となる。平均空隙率においても同様に半導体材料や光学材料などの用途に優れた機能を有するには、多孔性シリカ膜全体の平均空隙率が25%以上であることが必要である。好ましくは平均空隙率35%以上、さらに好ましくは平均空隙率45%以上、最も好ましくは平均空隙率55%以上である。一方、平均空隙率75%以上では多孔性シリカ膜の機械強度が著しく損なわれ、表面性も悪化する。
【0026】
平均空孔径、平均空隙率は、窒素吸着法、TEM、SEMにより評価することができる。具体的な測定条件は、上述した空隙率の連続的変化の確認と同様である。さらに上記に記載したように平均空隙率も屈折率と相関をもっているため、分光エリプソメーターによっても評価することができた。平均空孔率は、測定光の波長範囲が250〜850nmの分光エリプソメトリー(ソプラ社製:GES−5)によって測定した結果で確認できる。
【0027】
光学材料用途における機械強度、及び耐薬品性という点に於いて、多孔性シリカ膜の表面から深さ300nm以内に緻密層を有することが好ましい。より好ましくは表面から深さ150nm以内、さらに好ましくは深さ100nm以内、もっとも好ましくは深さ50nm以内である。表面から深さ300nmより深く緻密層が存在すると、多孔化構造が損なわれ、一方、深さ10nm以内ではその表面性を均質に制御することが難しくなる。この発明により、格段に機械強度が向上するとともに、表面の平滑性、耐薬品性も向上し、過酷な条件での環境安定性が得られる。この構造を確認するには、上述したようなTEM、SEMにより容易に確認できる。
【0028】
上記目的を達成するための積層体は、基板上に上述した本発明の多孔性シリカ膜を有することを特徴とした形態をとることができる。例えば、半導体材料用途に於いては半導体基板に積層することができる。半導体基板の代表的なものとして、透明電導膜があり、錫を添加した酸化インジウム、アルミニウムを添加した酸化亜鉛などの複合酸化物薄膜が好ましい。他にも、シリコン、ゲルマニウム等の半導体、ガリウム−砒素、インジウム−アンチモン等の化合物半導体、セラミックス、金属等の基板等を用いることもできるし、これらの表面に他の物質の薄膜を形成した上で用いることもできる。この場合の薄膜としては、アルミニウム、チタン、クロム、ニッケル、銅、銀、白金、タンタル、タングステン、オスミウム、金などの金属の他に、多結晶シリコン、アルミナ、チタニア、ジルコニア、窒化シリコン、窒化チタン、窒化タンタル、窒化ホウ素、アモルファスカーボン、フッ素化アモルファスカーボンからなる薄膜でもよい。
【0029】
また、光学材料用途に於いては、前記基板は透明であることが好ましく、その屈折率が1.15〜2.2であることがより好ましい。この屈折率は、ASTMD−542に基づき、エリプソメーターによる測定で決定される全深さ方向の平均屈折率であり、23℃でのナトリウムD線(589.3nm)に対する値で表される。こうした屈折率を有する基板としては、汎用材料からなる透明基板を用いることができる。例えば、二酸化珪素、BK7、SF11、LaSFN9、BaK1、F2等の各種ショットガラス、フッ素化ガラス、リンガラス、ホウ素−リンガラス、ホウ珪酸ガラス、合成フューズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、サファイヤ、ソーダガラス、無アルカリガラス等のガラス、ポリメチルメタクリレートや架橋アクリレート等のアクリル樹脂、ビスフェノールAポリカーボネート等の芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン等のスチレン樹脂、ポリシクロオレフィン等の非晶性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂等の合成樹脂を挙げることができる。
【0030】
これらのうち、BK7、BaK1等のショットガラス、合成フューズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、ソーダガラス、無アルカリガラス、アクリル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂が好ましく、BK7のショットガラス、合成フューズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、ソーダガラス、無アルカリガラス、アクリル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂が最も好ましい。他にも水酸化シルセスキオキサンなどの無機化合物、メチルシルセスキオキサン、多孔性シリカ上に積層することもできる。
【0031】
基板の厚さには特に制限はないが、光学用途に於いては、通常、0.1〜10mmである。なお、基板の厚さの下限値としては、機械的強度とガスバリヤ性の観点から、0.2mmが好ましく、0.3mmがより好ましい。一方、基板の厚さの上限値としては、軽量性と光線透過率の観点から、5mmが好ましく、3mmがより好ましい。
【0032】
また、本発明の多孔性シリカ膜を基板上に展開する際に基板表面の性質が製造される膜の性質を左右する可能性がある。したがって、基板表面の洗浄だけではなく、場合によっては、基板表面の吸着部位を制御する必要があり、表面処理を施すこともある。基板の洗浄では化学的な方法として、フッ酸、硫酸、塩酸、硝酸、燐酸等の酸類、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカル類、過酸化水素と濃硫酸、塩酸、アンモニア等の混合液への浸漬、物理的方法として、真空中での加熱処理、イオンスパッタリング、UVオゾン処理などが挙げられる。また表面処理では、加熱、濃硫酸、塩酸、硝酸等の強酸類への浸漬が挙げられる。さらに多孔性シリカ膜との密着性に劣る基板に対しては、界面活性剤、高分子電解質などを吸着層を添加する方法がある。特に、本発明の多孔性シリカ膜の密着性と生産性という点で、シリコン基板、透明ガラス基板を用いた場合、硫酸、硝酸等の酸類による洗浄、及び表面処理がより好ましい。
【0033】
本発明の多孔性シリカ膜は、酸化ケイ素(SiO2)組成を主体とするものである。なお、この多孔性シリカ膜には、例えばゾル−ゲル法によるシリカ合成において有機シラン類を共重合するなどの方法でシリカ組成の一部にケイ素原子−炭素原子結合が存在してSiOx組成(但し、xは0を超え2未満の正数である)となるものも含まれる。
【0034】
本発明の多孔性シリカ膜には、陽性元素を含む任意の化学組成(付加組成と略すことがある。)が含有されていてもよい。例えば、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化鉛等の遷移金属酸化物組成;酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウム等の酸化アルカリ金属組成;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等の酸化アルカリ土類金属組成;酸化ホウ素組成;酸化アルミニウム組成;等を挙げることができる。この他、カルコゲナイドガラス組成、フッ化ガラス組成等の公知の無機ガラス組成、金、銀、銅などの金属ナノ粒子も挙げることができる。
【0035】
多孔性シリカ膜を構成する酸化ケイ素組成は、ケイ素を含む全ての陽性元素に対するケイ素の割合が50〜100モル%となる割合で含有される。このケイ素の含有割合が50モル%未満では、多孔性シリカ膜の表面粗さが極端に悪化し、機械的強度も低下することがある。好ましい下限値としては、70モル%、更に好ましくは80モル%、最も好ましくは90モル%であり、ケイ素の含有割合が高いほど表面平滑性のよい多孔性シリカ膜が形成される。
【0036】
本発明における多孔性シリカ膜、およびそれを有する積層体は上述した空孔特性や表面平滑性に特徴を有し、その製造方法は特に制限されないが、本発明の積層体を効率よく、かつ生産性にも優れた方法の例を以下に詳述する。
【0037】
(多孔性シリカ膜および積層体の製造方法)
多孔性シリカ膜は、以下の工程により形成される。(イ)多孔性シリカ膜形成用の原料液を準備する工程、(ロ)その原料液から一次膜を形成する工程、(ハ)形成された一次膜が高分子量化して中間体膜が形成される工程、(ニ)中間体膜に局所的な加水分解反応および脱水縮合反応を促し、空隙率の傾斜構造を形成する工程、(ホ)多孔性シリカ膜を乾燥する工程。以下、各工程について説明する。
【0038】
(イ)多孔性シリカ膜形成用の原料液を準備する工程;
多孔性シリカ膜形成用の原料液は、アルコキシシラン類を主体とするものであり、加水分解反応および脱水縮合反応により高分子量化を起こすことができる原料化合物を含む含水有機溶液である。
【0039】
本発明の多孔性シリカ膜形成用の原料液である含水有機溶液は、アルコキシシラン類、有機溶媒、水、および、必要に応じて加えられる触媒を含有している。
【0040】
アルコキシシラン類としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン等のテトラアルコキシシラン類、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,3,5−トリス(トリメトキシシリル)ベンゼン等の有機残基が2つ以上のトリアルコキシシリル基を結合したもの、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3vグリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3−カルボキシプロピルトリメトキシシランなどのケイ素原子に置換するアルキル基が反応性官能基を有するものが挙げられ、更にこれらの部分加水分解物やオリゴマーであってもよい。
【0041】
これらの中でも特に好ましいのが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラメトキシシラン若しくはテトラエトキシシランのオリゴマーである。特に、テトラメトキシシランのオリゴマーは、反応性とゲル化の制御性から最も好ましく用いられる。
【0042】
さらに、前記アルコキシシラン類には、ケイ素原子上に2〜3個の水素、アルキル基又はアリール基を持つモノアルコキシシラン類を混合することも可能である。モノアルコキシシラン類を混合することにより、得られる多孔性シリカ膜を疎水化して耐水性を向上させることができる。モノアルコキシシラン類としては、例えば、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、ジフェニルメチルメトキシシラン、ジフェニルメチルエトキシシラン、等が挙げられる。モノアルコキシシラン類の混合量は、全アルコキシシラン類の70モル%以下となるようにすることが望ましい。その混合量が70モル%を超えると、理想的なゲル化が起こらない場合がある。
【0043】
また、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン等のフッ化アルキル基やフッ化アリール基を有するアルコキシシラン類を併用すると、優れた耐水性、耐湿性、耐汚染性等が得られる場合がある。
【0044】
この原料液に於けるオリゴマーの形状としては特に制限はないが、例えば、線形、架橋、カゴ型分子(シルセスキオキサンなど)などが挙げられる。塗布時の反応性制御という点では線形を主成分としたものが好ましい。
なお、上記した原料液を塗布する際には、すでにある程度の高分子量化(つまり縮合がある程度進んだ状態)が達成されていることが必要であり、その高分子量化の程度としては、見た目に不溶物ができない程度の高分子量化が達成されていることが好ましい。その理由としては、塗布前の原料液中に目視可能な不溶物が存在していると、大きな表面凹凸ができ、膜質を低下させてしまうからである。
【0045】
有機溶媒は、原料液を構成するアルコキシシラン類、水、および後述する、高沸点の親水性有機化合物を混和させる能力を持つものが好ましく用いられる。使用可能な有機溶媒としては、炭素数1〜4の一価アルコール、炭素数1〜4の二価アルコール、グリセリンやペンタエリスリトールなどの多価アルコール等のアルコール類;ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等、前記アルコール類のエーテルまたはエステル化物;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−アセチルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−アセチルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルピロリジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジアセチルピペラジンなどのアミド類;γ−ブチロラクトンのようなラクトン類;テトラメチルウレア、N,N’−ジメチルイミダゾリジンなどのウレア類;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらの有機溶媒を、単独または混合物として用いてもよい。本発明の多孔性シリカ膜が有する空隙率の傾斜構造を形成するためには、塗布後の局所的な加水分解反応および脱水縮合反応によるが、それ以前に膜が適度な安定構造とする必要がある。したがって、揮発性の高い有機溶媒が好ましく、中でも、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトンが更に好ましく、メタノールまたはエタノールが最も好ましい。
【0046】
本発明の多孔質構造を形成するために、上述した有機溶媒に加えて、高沸点の親水性有機化合物を含有するとよい。高沸点の親水性有機化合物とは、水酸基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、カルボキシル基、アミド結合、ウレタン結合、尿素結合等の親水性官能基を分子構造中に有する有機化合物のことである。この親水性有機化合物には、これらの親水性官能基のうち、複数個を分子構造中に有していてもよい。ここでいう沸点とは、760mmHgの圧力下での沸点である。沸点は80℃以上が好ましく、沸点が80℃に満たない親水性有機化合物を用いた場合には、多孔性シリカ膜の空孔率が極端に減少することがある。沸点が80℃以上の親水性有機化合物としては、炭素数3〜8のアルコール類、炭素数2〜6の多価アルコール類、フェノール類を好ましく挙げることができる。より好ましい親水性有機化合物としては、炭素数3〜8のアルコール類、炭素数2〜8のジオール類、炭素数3〜8のトリオール類、炭素数4〜8のテトラオール類が挙げられる。更に好ましい親水性有機化合物としては、n−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、シクロペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等の炭素数4〜7のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等の炭素数2〜4のジオール類、グリセロールやトリスヒドロキシメチルエタン等の炭素数3〜6のトリオール類、エリスリトールやペンタエリストール等の炭素数4〜5のテトラオール類が挙げられる。この親水性有機化合物において、炭素数が大すぎると、親水性が低下しすぎる場合があり、加水分解反応前のアルコキシシラン類の分散性を不安定化することがある。
【0047】
触媒は、必要に応じて配合される。触媒としては、上述したアルコキシシラン類の加水分解および脱水縮合反応を促進させる物質を挙げることができる。具体例としては、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸などの酸類;アンモニア、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類;ピリジンなどの塩基類;アルミニウムのアセチルアセトン錯体などのルイス酸類;などが挙げられる。
【0048】
触媒として用いる金属キレート化合物の金属種としては、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン等が挙げられる。具体的な金属キレート化合物としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
【0049】
アルミニウム錯体としては、ジ−エトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−イソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物等を挙げることができる。
【0050】
チタン錯体としては、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等を挙げることができる。
【0051】
また、これらの触媒以外に、弱アルカリ性の化合物、例えばアンモニアなどの塩基性の触媒を使用してもよい。この際には、シリカ濃度調整、有機溶媒種等を適宜調整することが好ましい。また、含水有機溶液を調整する際には、溶液中の触媒濃度を急激に増加させないことが好ましい。具体例としては、アルコキシシラン類と有機溶媒の一部を混合し、次いでこれに水を混合し、最後に残余の有機溶媒、および塩基を混合するという順序にて混合する方法が挙げられる。
【0052】
後に行う局所的な加水分解反応および脱水縮合反応をより最適に進めるためには、シリカの3次元ネットワーク構造が均質に形成される必要がある。したがって、触媒の添加量は原料液のpHが8以下になるように調整することが好ましい。さらに好ましくはpH3〜7であり、もっとも好ましくはpH4〜6になるよう調整する。
【0053】
本発明の多孔性シリカ膜形成用の原料液は、上述した原料を配合して形成される。アルコキシシラン類の配合割合は、原料液全体に対して、10〜60重量%であることが好ましく、20〜40重量%であることがより好ましい。アルコキシシラン類の配合割合が60重量%を超える場合には、原料液の安定性を保つことが難しく、成膜時に多孔性シリカ膜が割れることがある。一方、アルコキシシラン類の配合割合が10重量%未満の場合は、加水分解反応および脱水縮合反応が極端に遅くなり、成膜性の悪化(膜ムラ)が起きることがある。
【0054】
水は、アルコキシシラン類の加水分解に必要であり、目的である多孔性シリカ膜の造膜性向上という観点から重要である。よって、好ましい水の量をアルコキシ基の量に対するモル比で規定すると、アルコキシシラン中のアルコキシ基1モルに対して0.1〜1.6モル倍量、中でも0.3〜1.2モル倍量、特に0.5〜0.7モル倍量であることが好ましい。
【0055】
水の添加はアルコキシシラン類を有機溶媒に溶解させた後であればいつでもよいが、望ましくはアルコキシシラン類、触媒およびその他の添加物を十分、溶媒に分散させた後、水を添加する方が最も好ましい。加水分解反応は、水を添加することによって引き起こされるが、水は液体のまま、アルコール水溶液として、または、水蒸気として加えることができ、特に限定されない。また、水の添加を急激に行うと、アルコキシシランの種類によっては加水分解反応と脱水縮合反応とが速く起こりすぎ、沈殿が生じることがある。そのため、そのような沈殿が起こらないように、水の添加に十分な時間をかけること、アルコール溶媒を共存させて水を均一に添加する状態にすること、水を低温で添加して添加時の反応を抑制すること、等の手段を単独でまたは組み合わせて用いることが好ましい。
【0056】
用いる水の純度は、イオン交換、蒸留、いずれか一方または両方の処理をしたものを用いればよい。本発明の多孔性シリカ膜を半導体材料や光学材料など、微小不純物を特に嫌う用途分野に用いる際には、より純度の高い多孔性シリカ膜が必要とされるため、蒸留水をさらにイオン交換した超純水を用いるのが望ましく、この際には例えば0.01〜0.5μmの孔径を有するフィルターを通した水を用いればよい。
【0057】
含水有機溶液に沸点80℃以上の親水性有機化合物を用いる際には、沸点80℃以上の親水性有機化合物の含有量が、有機溶媒と沸点80℃以上の親水性有機化合物の合計含有量に対して、特定量以下であることが重要である。この合計含有量に対する、沸点80℃以上の親水性有機化合物の含有量は90重量%以下であり、好ましくは85重量%以下である。
【0058】
沸点80℃以上の親水性有機化合物の配合割合が少なすぎると、多孔性シリカ膜の空孔率が極端小さくなり、かつ塗布直後に膜構造が固定化されてしまい、空隙率の傾斜構造を形成することが困難となることがある。一方、沸点80℃以上の親水性有機化合物の配合割合が多すぎても、塗布直後の膜が安定構造とならず、表面性や傾斜構造制御に影響を与えることがある。一般的に沸点80℃以上の親水性有機化合物の配合割合は、有機溶媒と沸点80℃以上の親水性有機化合物の合計含有量の10重量%以上、中でも30重量%以上、特に55重量%以上であることが好ましい。
【0059】
原料液の調製における雰囲気温度や、混合順序は任意であるが、原料液中での均一な構造形成を得るため、水は最後に混合するのが好ましい。また、原料液中でのアルコキシシラン類の極端な加水分解や脱水縮合反応を抑えるため、原料液の調整は0〜60℃、中でも15〜40℃、特に15〜30℃の温度範囲において、常湿条件下で行うことが好ましい。
調液時においては、原料液の攪拌操作は任意であるが、混合毎にスターラーにより攪拌を行うのがより好ましい。
【0060】
さらに原料液調整後、アルコキシシラン類を加水分解、脱水縮合反応を進行させるため、溶液の熟成をすることが好ましい。この熟成期間中においては、生成するアルコキシシラン類の加水分解縮合物が、原料液内においてより均一に分散した状態であることが好ましいので、液を攪拌することが好ましい。
【0061】
熟成期間中の温度は任意であり、一般的には室温、若しくは連続的または断続的に加熱してもよい。中でも、アルコキシシラン類の加水分解縮合物による均一な3次元ネットワーク構造を形成させるために、加熱熟成が好ましい。具体的な温度は使用する有機溶媒の沸点以下であれば、特に制限はなく、加圧下の条件で使用する有機溶媒の沸点以上で加熱熟成することも可能である。加熱熟成の時間は加える温度によって適宜調整するが、15時間以下が好ましく、5時間以下がさらに好ましい。
【0062】
(ロ)原料液から一次膜を形成する工程;
一次膜は、上記で調整した原料液を基板上に塗布して形成される。基板としては、シリコン、ゲルマニウム等の半導体、ガリウム−砒素、インジウム−アンチモン等の化合物半導体、セラミックス、金属等の基板、さらにはガラス基板、合成樹脂基板等の透明基板等が挙げられる。場合によっては、基板は表面処理をしておく必要がある。
【0063】
原料液を塗布する手段としては、原料液をバーコーター、アプリケーターまたはドクターブレードなどを使用して基板上に延ばす流延法、原料液に基板を浸漬し引き上げるディップ法、または、スピンコート法などの周知を挙げることができる。これらの手段のうち、流延法とスピンコート法が原料液を均一に塗布することができるので好ましく採用される。均質な膜を形成する上ではスピンコート法が特に好ましい。
【0064】
流延法で原料液を塗布する場合における流延速度は、0.1〜1000m/分、好ましくは0.5〜700m/分、更に好ましくは1〜500m/分である。スピンコート法で原料液を塗布形成する場における回転速度は、10〜100000回転/分、好ましくは50〜50000回転/分、更に好ましくは100〜10000回転/分である。
【0065】
ディップコート法においては、任意の速度で、基板を原料液に浸漬し引き上げればよい。この際の引き上げ速度は0.01〜50mm/秒、中でも0.05〜30mm/秒、特に0.1〜20mm/秒の速度で引き上げるのが好ましい。基板を原料液中に浸漬する速度に制限はないが、引き上げ速度と同程度の速度で基板を原料液中に浸漬することが好ましい場合がある。基板を原料液中に浸漬し引き上げるまでの間、適当な時間浸漬を継続してもよく、この継続時間は通常1秒〜48時間、好ましくは3秒〜24時間、更に好ましくは5秒〜12時間である。
【0066】
また、塗布中の雰囲気は、空気中又は窒素やアルゴン等の不活性気体中でもよく、温度は通常0〜60℃、好ましくは10〜50℃、更に好ましくは20〜40℃であり、雰囲気の相対湿度は通常5〜90%、好ましくは10〜80%、更に好ましくは15〜70%である。成膜温度は、0〜100℃、好ましくは10〜80℃、更に好ましくは20〜70℃である。ディップコート法とスピンコート法では、乾燥速度に違いがあり、塗布直後の膜の安定構造に僅かな違いが生じることがある。これは塗布中の雰囲気を変えることで調整する事ができる。他にも基板の表面処理によっても対処する事ができる。
【0067】
(ハ)形成された一次膜が高分子量化されて中間体膜が形成される工程;
原料液を基板上に塗布した際に、ゾルーゲル反応により高分子量化され、中間体膜が形成される。この工程によって得られる中間体膜は3次元ネットワーク構造中に有機溶媒を取り込んだ安定構造となっている。
【0068】
ゾル−ゲル反応によるアルコキシシラン類の加水分解縮合反応が進行すると、アルコキシシラン類の縮合物が徐々に高分子量化する。加水分解縮合反応においては、相平衡の変化に起因すると考えられる相分離が起こる場合があるが、本発明においては、原料液の組成、使用するアルコキシシラン類および沸点80℃以上の親水性有機化合物の親水度との兼ね合いにより、相分離がナノメートルスケールで起こるように制御される。その結果、親水性有機化合物の分離相が、アルコキシシラン類縮合物の3次元ネットワーク構造の中に保持されたまま基板上に成膜され、中間体膜を構成する。
【0069】
この中間体膜の形成に際しては、例えば基板上に塗布した塗布膜を前乾燥することで、膜の最表面領域の溶媒濃度を低減し、シリカの一部縮合反応をさせることができる。これによって膜表面の平滑性を得ることができる
【0070】
中間体膜の前乾燥の温度は通常0〜60℃、好ましくは10〜50℃、更に好ましくは20〜40℃であり、雰囲気の相対湿度は通常5〜95%、好ましくは10〜90%、更に好ましくは15〜80%、さらに最も好ましくは25〜60%である。また、前乾燥の時間は、通常30秒〜60分間、好ましくは1〜30分間である。
【0071】
(ニ)中間体膜に局所的な加水分解反応および脱水縮合反応を促し、空隙率の傾斜構造を形成する工程;
中間体膜に局所的な加水分解反応および脱水縮合反応を促すことで、空隙率の傾斜構造、つまり空隙率の連続的な変化を与える。例えば、中間体膜に水溶性有機溶媒を接触させ、局所的な加水分解反応および脱水縮合反応を進める事ができる。中間体膜に水溶性有機溶媒を接触させることにより、中間体膜中の上記親水性有機化合物が抽出除去されると共に、中間体膜中の水が除去される。中間体膜中に存在する水は、有機溶媒に溶けているだけでなく膜構成物質の内壁にも吸着しているので、中間体膜中の水を効果的に除去する必要がある。この水溶性有機溶媒を接触させた雰囲気シリカの3次元構造の自由度が比較的高い状態にある。そこで、この雰囲気下で15℃以上の条件下に一定時間静置する事で、有機溶媒中に含まれる水によって局所的な加水分解反応および脱水縮合反応を進めることができる。さらに、水分量によって接触させる水溶性有機溶媒の表面張力を制御し、シリカの3次元構造の自由度と膜への溶媒浸透を制御することができ、目的とする空隙率の傾斜構造を得ることができる。したがって、有機溶媒中の水の含有量は、適宜調整する必要がある。しかしながら、過剰の水分量は、工程後の膜中に水が残存し、場合によっては、その後に行われる膜の加熱または乾燥工程で空孔が崩壊して消滅または小さくなる場合がある。
また、この水溶性有機溶媒中に上述したような触媒を添加することも可能である。
【0072】
中間体膜中の親水性有機化合物の接触手段としては、例えば、中間体膜を水溶性有機溶媒に浸漬すること、中間体膜の表面を水溶性有機溶媒で洗浄すること、中間体膜の表面に水溶性有機溶媒を噴霧すること、中間体膜の表面に水溶性有機溶媒の蒸気を吹き付けること等の手段を挙げることができる。これらのうち、浸漬手段と洗浄手段が好ましい。中間体膜と水溶性有機溶媒との接触時間は、1秒〜24時間の範囲で設定できるが、生産性の観点から、接触時間の上限値は、12時間が好ましく、6時間がより好ましい。一方、接触時間の下限値は、上記の反応を十分に進めることが必要なため、1分間以上が好ましい。
【0073】
接触処理液としては、極性溶媒が好ましく、中でも一価アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、アミド類の1種類、又は2種類以上の親水性溶媒が好ましい。2種類以上の親水性溶媒を組み合わせる際は、混合して用いても、それぞれの溶媒で単独に処理して組み合わせることもできる。さらには、同種の接触処理液を繰り返し作用させることもできる。また、目的とする接触処理液の表面張力と前記反応に必要な水の量が異なる場合においても、2度以上に分けて作用させてもよい。
【0074】
なお、この前記工程の前、前記工程の後または前記工程と同時に、以下の工程を単独で行うこともできる。その工程とは中間体膜を一定湿度下で酸類または塩基類と接触させる。これにより、中間体膜の表層での、アルコキシシラン類の加水分解反応及び脱水縮合反応を促進させることができる。その結果、空隙率の傾斜構造が形成されるだけではなく、中間体膜の表面領域を高硬度化することができる。接触させる好ましい酸類としては、塩化水素、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等の気化しやすい酸類が挙げられる。また、好ましい塩基類としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等、分子構造中の炭素数が6以下のモノアミン類が挙げられる。
【0075】
中間体膜を酸類または塩基類と接触させる方法としては、酸類または塩基類の液体または溶液または蒸気が用いられる。作用させる湿度とは10〜80%が好ましく、18〜70%がより好ましい。他にも前記湿度下で中間体膜に温度をかけることでも空隙率の傾斜構造を形成することができる。中間体膜表面からだけではなく、基板面から加熱してもよい。温度は20℃以上が好ましく、35%以上がより好ましい。上限値は150℃以下であり、それより高いと膜の表面性が損なわれる恐れがある
【0076】
(ホ)多孔性シリカ膜を乾燥する工程;
乾燥工程は、多孔性シリカ膜に残存する揮発成分を除去する目的及び/又はアルコキシシラン類の加水分解縮合反応を最大限に進める目的で行われる。乾燥温度は、20〜500℃、好ましくは30〜400℃、更に好ましくは50〜350℃であり、乾燥時間は、1分〜50時間、好ましくは3分〜30時間、更に好ましくは5分〜15時間である。
【0077】
乾燥方式は、送風乾燥、減圧乾燥等の公知の方式で行うことができ、それらを組み合わせてもよい。送風乾燥の後は、揮発成分の十分な除去を目的とした減圧乾燥を追加することもできる。
【0078】
後乾燥では、加圧、減圧、常圧のいずれの条件下で乾燥してもよい。乾燥温度は、前記の工程で形成した空隙率の傾斜構造を有するシリカ骨格を変質させる温度未満で乾燥させることが好ましく、一般的には0〜100℃、中でも10〜70℃、特に15〜50℃が好ましく、乾燥時間は、通常30秒〜60分、好ましくは1分〜30分である。
【0079】
高温乾燥は、多孔性シリカ膜内の不必要な溶媒、添加物の除去、さらには膜の硬化を目的とする。加熱乾燥は、例えばオーブン炉、真空乾燥機、ホットプレート等の装置を用いることができる。乾燥時間は、通常10秒〜48時間、好ましくは30秒〜24時間、更に好ましくは1分〜12時間であり、乾燥温度は、通常100〜370℃、好ましくは130〜350℃、更に好ましくは150〜320℃である。高温乾燥も加圧、減圧、常圧のいずれの条件下で乾燥してもよい。
【0080】
得られた多孔性シリカ膜をシリル化剤で処理することで、より機能性に優れた表面にする事ができる。シリル化剤で処理することにより、多孔性シリカ膜に疎水性が付与され、アルカリ水などの不純物により空孔が汚染されるのを防ぐことができる。シリル化剤としては、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルビニルメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロソラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、メチルクロロジシラン、トリフェニルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、ジフェニルジクロロシランなどのクロロシラン類、ヘキサメチルジシラザン、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ウレア、N−トリメチルシリルアセトアミド、ジメチルトリメチルシリルアミン、ジエチルトリエチルシリルアミン、トリメチルシリルイミダゾールなどのシラザン類、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン等のフッ化アルキル基やフッ化アリール基を有するアルコキシシラン類などが挙げられる。シリル化は、シリル化剤を多孔性シリカ膜に塗布したり、シリル化剤中に多孔性シリカ膜を浸漬したり、多孔性シリカ膜をシリル化剤の蒸気中に曝したりすることにより行うことができる。
【0081】
【実施例】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
アルミニウムアセチルアセトネートをメタノール、n−ブタノールの混合溶媒に溶解し、メトキシシランのオリゴマー(三菱化学(株)製 MKCシリケートMS51)を全体の30重量%の均一な溶液になるよう添加し、攪拌した。ここでのメタノールとn−ブタノールの混合比は重量比で3:7である。添加したしたメトキシシランオリゴマーに対する加水分解及び脱水縮合反応の化学量論以上の水を攪拌しながら混合し、原料液を調製した。塗布工程前に、原料液は有機溶媒の沸点以下の温度で一定時間攪拌した。なお、調製された原料液のpHは中性付近で基板に塗布される。
【0082】
上記の原料液を、クラウンガラス基板上に3000回転/分の回転数で30秒間、スピンコートし、一次膜を形成し、湿度20〜45%、温度25〜30℃の条件下で前乾燥することで、中間体膜を得た。
得られた中間体膜を、水を1%未満含んだエタノール(500mL)中に浸漬し、膜中の水分を取り除き、さらに含水エタノール中で5分間静置した。この際の湿度は20〜45%の範囲で維持する。これにより空隙率の傾斜構造が形成される。取り出した膜は150℃に保った乾燥機内で乾燥、反応を終了させ、多孔性シリカ膜を得た。
【0083】
こうして得られた多孔性シリカ膜の断面をSEM観察したところ、空隙率が連続的に変化しており、膜表面〜深さ50nmでは空隙率10%、深さ50nm〜100nmでは空隙率24%、深さ100nm〜150nmでは空隙率40%、深さ150nm〜200nmでは空隙率52%、深さ200nm〜250nmでは空隙率60%、深さ250nm〜300nmでは空隙率62%、深さ300nm〜350nmでは空隙率52%、深さ350nm〜400nmでは空隙率48%、深さ400nm〜450nmでは空隙率40%、深さ450nm〜500nmでは空隙率28%、深さ500nm〜基板では空隙率36%であることが分かり、その空隙率の傾斜構造が凸型であることが確認できる。さらに、この測定から空孔が連通孔であることも確認できる。また、その多孔性シリカ膜の表面を原子間力顕微鏡により評価した結果、十点表面粗さRz=10nmであり、触針式段差・表面粗さ・微細形状測定による結果では、平均表面粗さRa=0.7nmと極めて平滑な表面性である。さらに、窒素吸着法、及び分光エリプソメーターから、それぞれ、平均空孔径2.5nm、平均空隙率42%、膜厚573nmであることが分かった。
【0084】
上記の多孔性シリカ膜は空隙率の傾斜構造を有しているため、前記材料の有する屈折率も連続的に変化したものとなっている。こうした材料は光学材料用途として有用であり、具体的には太陽電池用の低反射ガラス積層体として利用できる。従来ある太陽電池用反射防止材では太陽光の反射率を最大5%程度低下させているものもあるが、それらは反射率の波長依存性が大きく、太陽電池効率としては十分なものではない。(特開平9−175840号公報)しかしながら、本発明の多孔性シリカ膜を利用することで従来にない反射防止性能を得ることができる。
【0085】
例えば、上記実施例の多孔性シリカ膜表面をスパッタリングやエッチングにより深さ230nmまで削り取ることで、従来の多層構造では不可能であった膜厚方向に対して空隙率が約60%から30%まで連続的に変化し、それぞれの光学界面を有しない多孔性シリカ膜Aを得ることができる。一方、前記多孔性シリカ膜を有しないガラス基板面に、特開平9−175840号公報における実施例に記載されているような、チタンのアルコキシド、又はその部分縮合体を加えたシリコンアルコキシドを有機溶媒に溶解した原料液から酸化チタン/珪素膜(薄膜(1))を形成し、さらに該薄膜(1)の上に、特開2001−36117号公報の実施例に記載されているような酸化錫膜(薄膜(2))を形成する。次に該薄膜(2)上に、導電膜を形成することで、図1に示す太陽電池用低反射積層体を得る。
【0086】
前記太陽電池用低反射積層体の垂直方向に入射する可視光に対して反射率をシミュレーションした。その結果、従来の太陽電池用ガラス基板に比べ、波長350〜850nmの全範囲において、ほぼ同等に反射率が5%程度減少することが分かり、本発明の多孔性シリカ膜が反射率の波長依存性が少ない極めて優秀な反射防止材料であるといえる。
【0087】
現在最も利用されている太陽電池の光電変換素子としてシリコン系材料がある。この光電変換効率の波長依存性と実際に利用される太陽光の波長分布とは僅かにずれた相反する関係にある。したがって、太陽光の全波長領域における反射率の低減が重要であり、上記のように反射率の波長依存性が小さいことは太陽電池の効率を飛躍的に向上させることができる。つまり、上記の太陽電池用低反射積層体を利用した場合、効率は約30%程度向上する。したがって、従来型の15%程度の効率に対して、本発明による反射防止効果から20%近い効率を得ることができると見積もれらる。この画期的な数値は太陽電池の最大の問題である発電コストの軽減にも寄与する。
【0088】
【発明の効果】
本発明の多孔性シリカ膜は、膜厚方向に空隙率が連続的に変化し、かつ表面平滑性の極めて優れた多孔性シリカ膜、およびそれを有する積層体を特徴とする。
多孔性シリカ膜には1)透明性、2)反射防止性という効果を有することで、半導体材料や光学材料用途などに適用できる。さらに本発明により、フレネル反射や反射率の波長依存性が軽減されることで、反射防止性の最大化に寄与しており、特に光学材料用途として極めて優れた材料である。上記の太陽電池用低反射積層体がその1例である。加えて、従来の多孔性シリカ膜材料には難しかった多孔性シリカ膜の極めて平滑な表面性によって、3)積層工程の容易性、4)防汚性、5)耐薬品性、6)高い機械強度という効果も得ることができ、本発明の多孔性シリカ膜が上記用途において極めて最適な材料であることを示している。
【0089】
【発明の効果】
本発明の多孔性シリカ膜は表面や空孔壁面への化学的修飾も容易であり、分離吸着剤、触媒材料、センサー材料、燃料電池の電解膜などなどへの用途範囲の拡大も期待できる。例えば、本発明の多孔性シリカ膜の有する空孔の壁表面には水酸基を多く持つため、水の吸着量が多く、水の吸着剤としての用途展開もある。特に本発明の多孔性シリカ膜は空隙率の傾斜構造を有するため、特有の吸着特性を有しており、前記用途においても優れた性能を示すことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多孔性シリカ膜を利用した太陽電池用低反射積層体の一例を部分的に拡大して表す側断面図である。
【符号の説明】
1 多孔性シリカ膜A
2 ガラス基板、又は透明樹脂基板
3 薄膜(1)
4 薄膜(2)
5 導電膜
Claims (9)
- 膜厚方向に対して空隙率の連続的な変化を有し、かつ十点表面粗さRz=100nm以下であることを特徴とする多孔性シリカ膜。
- 平均表面粗さRa=50nm以下である平滑表面を有することを特徴とする請求項1に記載の多孔性シリカ膜。
- 空孔が連通孔であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔性シリカ膜。
- 膜厚が50〜2000nmであることを特徴とする多孔性シリカ膜。
- 平均空孔径が0.5〜100nmであり、平均空隙率が25以上であることを特徴とする多孔性シリカ膜。
- 表面から深さ300nm以内に緻密層を有することを特徴とする請求項1〜5に記載の多孔性シリカ膜。
- 基板上に、請求項1〜6に記載の多孔性シリカ膜を有することを特徴とする積層体。
- 前記基板が透明であることを特徴とする請求項7に記載の積層体。
- 前記基板が半導体基板であることを特徴とする請求項7に記載の積層体。
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