JP2005014419A - 印字部の後処理方法及びそのための後処理装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】高色調で高画質であり、高い画像堅牢性を有する記録画像を得ることができる印字部の後処理方法、及びそのための後処理装置を提供すること。
【解決手段】記録媒体の上に、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーの1種以上、イオン解離する酸性基を含有するモノマーの1種以上、及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルの1種以上からの各構成単位を含む共重合体のアルカリ中和物を含むミセル会合体、顔料及び水性媒体を少なくとも含む水性インキを用いて印字した印字部に行う後処理方法であって、印字後10秒以内に、1)印字部をオゾン雰囲気に曝す処理、又は2)印字部を酸性雰囲気に曝す処理を行うことを特徴とする、印字部の後処理方法、及び印字部をオゾン雰囲気に曝すためのオゾン発生装置又は印字部を酸性雰囲気に曝すための酸性雰囲気発生装置を備えた後処理装置。
【選択図】 図1
【解決手段】記録媒体の上に、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーの1種以上、イオン解離する酸性基を含有するモノマーの1種以上、及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルの1種以上からの各構成単位を含む共重合体のアルカリ中和物を含むミセル会合体、顔料及び水性媒体を少なくとも含む水性インキを用いて印字した印字部に行う後処理方法であって、印字後10秒以内に、1)印字部をオゾン雰囲気に曝す処理、又は2)印字部を酸性雰囲気に曝す処理を行うことを特徴とする、印字部の後処理方法、及び印字部をオゾン雰囲気に曝すためのオゾン発生装置又は印字部を酸性雰囲気に曝すための酸性雰囲気発生装置を備えた後処理装置。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性インキを用いて印字した印字部の後処理方法及びそのための後処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、印刷分野においても最近の環境問題への要請の高まりから、水性印刷インキの開発が急がれている。しかし、水性印刷インキ中における顔料の分散不良が完全には解決されておらず、また、現在の水性印刷インキを用いた画像は堅牢性、特に耐水性に問題があり、現段階では実用に耐えうる画像特性は得られていない。
【0003】
水性インキの応用例として、近年、インクジェット記録用インキを用いる画像記録が普及している。インクジェット記録は、水性液体インキをノズルより小滴として吐出させ、これを記録媒体に付着させることにより記録を行う。従来はこのインキ液の着色色材として染料を用い、インキ媒体は一般に表面張力の関係から水系液体が選ばれ、均一液体系であった。色材としての染料は水溶性が高くノズル詰まりを起こしにくく、染料を用いたインキ液はニュートニアンに近い液性をもつためインキ吐出が安定であり、さらに色の種類も極めて多いという利点を有する。
しかし、一般に染料は顔料に比較して耐水性や耐光性に劣るので、染料を含むインキにより記録した画像は耐水性及び耐光性が劣る他、滲みやすいという欠点があり、画像反射濃度も十分でない。染料を含むインクジェットインキを用いて特殊紙に記録すれば、色再現性においては印刷の色再現域が得られるが、普通紙においては同様の色再現性は実現されない。
一方、インクジェット記録が普及するにつれその記録特性に対する要求も一層高くなっており、インクジェット記録を用いることにより、印刷をした場合の画像と同等レベルの性能が求められるようになっている。したがって、前記のごとき染料含有インキのもつ耐水性、耐光性、色滲み、反射濃度、色再現性等の問題は緊急に解決しなくてはならない課題となっている。
【0004】
また、印刷技術分野においては、現在の水性印刷インキ画像の堅牢性と水性媒体に対する有機顔料の分散性に問題があるため、実使用では画像特性不足を生じている。非溶剤型への要求に応える必要がある場合には、やもを得ず画像特性を落として水性印刷インキを用いているのが現状である。しかし市場やユーザーから不満の声が聞かれ、解決しなくてはならない課題となっている。
【0005】
これに対し、色材として顔料を用いるインクジェット記録インキに関する開発研究は様々な角度からアプローチされ、高分子分散剤や水性溶剤の検討など、種々行われてきたが、充分な特性のものが得られずに今日に至っている。
例えば以下の特許文献1には、顔料入りインキとして水性キャリア媒体、窒素複素環ジオール補助溶剤及び顔料分散物(重合体分散剤により安定化された顔料粒子の水性分散物)を含む目詰まり耐性が向上したインクジェット記録インキが記載され、高分子分散剤としてAB又はBABブロックコポリマー(Aセグメントはアクリル系の疎水性ポリマー、Bセグメントはアクリル系親水性ポリマー)が記載されている。
【0006】
また、以下の特許文献2には、顔料を含む記録液において、保湿剤としてエチレングリコール等に代え糖類を用いることにより、同等の保湿性能をより低い粘度で実現したものが記載され、また、顔料の分散剤である高分子化合物として、スチレン、その誘導体、ビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーとアクリル酸等の不飽和カルボン酸との共重合体を用いることが記載されている。
【0007】
さらに、以下の特許文献3には、顔料を含む水性インクジェットインキの顔料分散剤として、少なくとも1つの塩基性アミン官能基を有する疎水性ポリマーブロックと非イオン性ポリマーブロック又は酸性官能基含有ポリマーブロックからなるブロックポリマーを用いることにより、顔料分散が安定化された水性インクジェットインキが得られることが記載されている。
【0008】
さらに、以下の特許文献4には、顔料をスチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体等の高分子分散剤で分散したインクジェット記録用インキが記載されている。
【0009】
前記のごとき特許文献に記載のインクジェット記録インキは、いずれも顔料の分散剤として高分子化合物(バインダー樹脂)を含み、該高分子化合物は水への溶解性を助ける酸性基と顔料に対する親和性が高い疎水性基を含んでいる。ところで前記高分子化合物は、顔料の分散剤として作用するだけでなく、顔料を記録媒体に付着させる機能を有し、さらに顔料を高分子化合物被膜で覆うことにより顔料による粒子表面光散乱を防ぎ、画像の反射濃度を向上させる機能をも有している。
したがって、記録画像の色濃度を向上させるためには、インキの顔料濃度を上げるだけでなく、インキ中の高分子化合物の含有量を高くして、顔料表面の高分子被覆性を高くすることが望ましい。
しかしながら、前記特許文献1ないし4に記載の高分子化合物を多量インキ中に含ませると、インキ粘度が上昇し、インクジェット記録インキとして使用不可能となる。また、前記特許文献1ないし4に記載のインキを用いて記録した画像は耐水性に乏しいという問題点を有している。
【0010】
【特許文献1】
特開平5−214284号公報(段落0016、0037〜0053)
【特許文献2】
特開平7−11182号公報(特許請求の範囲、段落0010、0016〜0025)
【特許文献3】
特開平6−136311号公報(段落0016〜0025)
【特許文献4】
特開2002−38061号公報(段落0051、0054、0102)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、特願2002−265571号として、特定の共重合体を用いたミセル会合体を作り、このミセル会合体により顔料を包含せしめ、高濃度の顔料を安定に分散保持しうる水性インキ組成物を提供した。この水性インキ組成物は顔料を用いるインクジェット記録に新たな技術展開を与えるもので、従来の顔料分散水性インキによっては達成することができない優れた画像特性(高色調で高画質)が得られる。
本発明は前記の特願2002−265571号に係る発明である水性インキ組成物を用いる記録方法に、新たに、印字後の後処理に関する改良を加えるもので、その目的は、高色調で高画質であり、また高い画像堅牢性(耐水性、耐光性及び耐久性等)を有する記録画像を得ることができる印字部の後処理方法、及びそのための後処理装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記課題は、以下の印字部の後処理方法及び後処理装置を提供することにより解決される。
(1)記録媒体の上に、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーの1種以上、イオン解離する酸性基を含有するモノマーの1種以上、及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルの1種以上からの各構成単位を含む共重合体のアルカリ中和物を含むミセル会合体、顔料及び水性媒体を少なくとも含む水性インキを用いて印字した印字部に行う後処理方法であって、印字後10秒以内に、1)印字部をオゾン雰囲気に曝す処理、又は2)印字部を酸性雰囲気に曝す処理を行うことを特徴とする、印字部の後処理方法。
【0013】
(2)前記1)又は2)の処理に加え、印字部を35〜150℃の温度範囲において加熱処理を行うことを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(3)前記ミセル会合体の平均径が10nm〜300nmであることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
【0014】
(4)前記共重合体の酸性基がカルボキシル基であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(5)前記共重合体の酸価が60〜160であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(6)前記共重合体の数平均分子量が6,000〜30,000であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(7)前記共重合体のガラス転移点が10〜120℃であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(8)前記共重合体が少なくとも230℃の耐熱性を有することを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
【0015】
(9)前記共重合体の、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーからの構成単位が15〜55質量%であり、イオン解離する酸性基を含有するモノマーからの構成単位が9〜28質量%であり、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルからの構成単位が20〜75質量%であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(10)前記水性インキに対する前記共重合体のアルカリ中和物の含有率が0.1〜35質量%であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(11)前記水性インキ中の分散顔料の数平均粒径が2nmないし200nmであることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(12)前記顔料の含有量が1〜35質量%であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(13)前記水性インキの固形分含有量が2〜40質量%であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
【0016】
(14)前記共重合体として、共重合体水溶液のpHを変化させた場合、pH変化量が2.5以内において、共重合体が溶解又はコロイド状態から上澄みを生じて沈殿する共重合体を用いることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(15)前記水性インキのpHを、共重合体が溶解状態から上澄みを発生して沈殿を生じるpH点から、0.5ないし4.0高いpH領域に調節することを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(16)沸点が40℃〜150℃のpH調節剤によりpH調節を行なうことを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(17)前記pH調節剤の添加量が100ミリモル/Kg〜20モル/Kgであることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(18)さらに、水に可溶の液体で、沸点80℃以上蒸気圧が100mmHg以下の湿潤剤を5〜50質量%含むことを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
【0017】
(19)前記(1)に記載の印字部の後処理方法に用いる後処理装置であって、印字部をオゾン雰囲気に曝すためのオゾン発生装置又は印字部を酸性雰囲気に曝すための酸性雰囲気発生装置を備えた後処理装置。
(20)さらに印字部を加熱処理するための加熱装置を設けた前記(19)に記載の後処理装置。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の記録方法は、以下で説明する特定の水性インキを用いて印字した後、10秒以内に、1)印字部をオゾン雰囲気に曝す処理又は2)印字部を酸性雰囲気に曝す処理を行うことを特徴とする。
最初に本発明の記録方法に用いる水性インキについて説明する。前記水性インキは、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーの1種以上、イオン解離する酸性基を含有するモノマーの1種以上、及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルの1種以上からの各構成単位を含む共重合体のアルカリ中和物を含むミセル会合体、顔料及び水性媒体を少なくとも含む。
ミセル会合体はその平均径が10nmないし300nmであることが好ましく、20nmないし200nmがより好ましく、30nmないし120nmの範囲がさらに好ましい。ミセル会合体の平均径が前記範囲にあると、顔料の分散安定性が大きい。
ミセル会合体の平均径や分散状態は、クライオTEM法、クライオSEM法、動的光散乱法、静的光散乱法、レーザー散乱法等により測定される。
本発明の水性インキにおいて、顔料微粒子はミセル会合体により分散保持される。
【0019】
前記ミセル会合体(micelle aggregation)は、前記共重合体分子の中和物が複数絡み合った集合体で、粒子形態を有している。水性インキ中においてミセル会合体は単独で及び/又は複数のミセル会合体が複数集合してコロイド分散しており、前記の粒子形態に基づき安定なコロイド状態となる(前記ミセル会合体が複数集合したものは他のミセル会合体と会合しにくくなり、また、高分子の鎖の多くが液中に大きく開かれないため会合体間の相互作用が小さく、低い粘度の状態を維持すると考えられる)。また、ミセル会合体はその内部に水性媒体を内包しているため、比重が水性媒体と近くなり重量の観点からも安定なコロイド状態を作り出す。さらに、ミセル会合体の径は、液のpH値が多少変化しても大きく変わらない。
顔料微粒子はミセル会合体により保持される。顔料微粒子の粒径がミセル会合体の径に比較して小さい場合には、顔料微粒子は各ミセル会合体の内部に保持され、またその粒径がミセル会合体の径に比較して大きい場合、複数のミセル会合体により保持されていると考えられる。そして、ミセル会合体の径を非常に小さくすることができるので、微細な顔料粒子も十分安定に分散保持できる。
【0020】
本発明の水性インキにおける共重合体分子は、前記のごときミセル会合体を形成し液中で分子が広がって存在していないため、共重合体の含有量を高くしても液の粘度は低くまたその粘度は長期間安定的に保持される。
また、顔料微粒子はミセル会合体により保持されているので、水性インキに高濃度の顔料を含有せしめることが可能で、またその分散性も安定に保持される。
したがって、本発明の水性インキでは、液の粘度を上げることなく、共重合体及び顔料の双方の濃度を高くすることが可能になり、また、紙などの記録媒体の表面に顔料/高分子共存物質が膜状に形成可能となり、その結果、色再現範囲が広くなり普通紙を用いても高色調画像が得られ、また、他の特性(例えば、インクジェットノズル噴射特性や印刷特性)を損なうことなく、画像が高濃度化され高画質の画像が得られる。また、印刷用のインキ組成物は、通常20〜30質量%程度の固形分(樹脂バインダー+色材)を含むことが必要であるが、本発明の水性インキにはこの程度の固形分を含ませることできるので、印刷用のインキ組成物として用いることが可能で、高光学反射濃度の画像が得られる。
さらに、水性インキ中の顔料微粒子はミセル会合体に内包されているので、画像被膜の顔料は共重合体樹脂被膜内に保持され、顔料が脱離しにくく(画像耐久性)、また画像に水が接触しても色材再分散に至らないので画像滲みが生ずることがない(耐水性)。そして、ミセル会合体の径を非常に小さくすることができるので、微細な顔料粒子も十分安定に分散保持でき、その結果、印字画像が高い色透明性を有し、色再現範囲が広い(高色調画像)。
また、本発明で用いる共重合体は前記のごとき特定のモノマーからの単位を有する共重合体であり、特に疎水性の高いスチレンモノマー等を用いることにより、画像被膜を構成する樹脂部分が高い耐水性を有する。このことと、前記の、顔料微粒子がミセル会合体に内包されていることと相俟って、本発明の水性インキを用いて形成される画像は、非常に耐水性と堅牢性に優れたものとなる。
【0021】
さらに、本発明の水性インキは色材として顔料を用いているので、画像滲みの少ない画像が得られることは勿論である。
また、本発明の水性インキをインクジェット記録に用いる場合、ミセル会合体がその内部に水を内包していることに基づき、保湿による湿潤効果が発現され、ノズルからのインキ吐出性(ノズル目詰まり等)に関する信頼性が向上する。
【0022】
[ミセル会合体]
次に、本発明におけるミセル会合体について説明する。
(共重合体)
ミセル会合体を構成する共重合体は、少なくとも、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーの1種以上、イオン解離する酸性基を含有するモノマーの1種以上、及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルの1種以上からの構成単位を含む共重合体である。
【0023】
前記アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーから構成される単位は疎水性が強く、顔料微粒子を強く吸着して顔料分散を安定化する。さらに前記構成単位はその疎水性により形成画像の耐水性に寄与し、また、画像部に堅牢性を与える。さらに前記構成単位は共重合体のイオン解離する酸性基を含有するモノマーのイオン解離機能の抑制にも影響を与える。
アルケンは炭素数が2〜20程度のものが好ましく、より好ましくは2〜10
であり、疎水性が大きく損なわれない限り他の置換基を有していてもよい。
スチレン及びこの誘導体としてはスチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレンや、これらのスチレン及びその誘導体のベンゼン環に疎水性を大きく損なわない置換基あるいはさらに疎水性を増す置換基が置換したものなどを挙げることができる。また、ビニルナフタレン及びその誘導体としてはビニルナフタレンの他、ナフタレン環に疎水性を大きく損なわない置換基あるいはさらに疎水性を増す置換基が置換したビニルナフタレンが挙げられる。
中でも、アルケン、スチレン及びその誘導体は、共重合体製造時の制御性が高く有用な疎水性モノマ−である。
【0024】
前記アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーからの構成単位は、前記の顔料分散性、画像の耐水性及び堅牢性の観点からみて、共重合体中、好ましくは15〜55質量%、より好ましくは25〜40質量%、特に好ましくは29〜37質量%である。
前記構成単位が15質量%未満の共重合体は、顔料分散性の不足、耐水性の不足、紙への接着性やインキ膜強度の不足が生ずることがあり、また、55質量%を越えると水性媒体への溶解性が不十分となり、インキの作製が難しかったり、インキが濁ったり、インキ中で材料の不溶沈殿物が生じたり、インキの粘度が不安定になることがあるので、前記範囲が適切である。
【0025】
イオン解離する酸性基を含有するモノマーからの構成単位は、共重合体をアルカリ性の水性媒体に溶解させる機能を有する。前記モノマーとしては、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸が好ましく挙げられ、例えばメタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸又はそのモノエステル、フマル酸又はそのモノエステル、イタコン酸又はそのモノエステル、クロトン酸などが挙げられる。特に、メタクリル酸、アクリル酸は本発明のインキ組成物として挙げた前記効果を達成するのに好ましい。
【0026】
イオン解離する酸性基を含有するモノマーからの構成単位は、共重合体中、9〜28質量%が好ましく、より好ましくは12〜21質量%、特に好ましくは14〜18質量%である。この構成単位が9%より少ないと共重合体が水性媒体(アルカリ性)に溶解しにくく、ミセル会合体溶液を安定して作製しにくくなる。一方、28質量%より多くなると記録画像の耐水性や堅牢性が損なわれる場合があるので、前記範囲が適切である。
【0027】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルからの構成単位は共重合体に屈曲性を与える成分であり、この成分を含ませることによりミセル会合体が良好に形成でき、また、ミセル会合体の径のばらつきが小さくなる。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルのアルキル基は炭素数1〜20が好ましく、より好ましくは2〜10である。例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸エステル類、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル等のフマル酸エステル類等が挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルからの構成単位は、ミセル会合体の形成性及び形成されるミセル会合体の径のばらつきの観点から、共重合体中、20〜75質量%が好ましく、より好ましくは35〜65質量%、特に好ましくは45〜60質量%である。
【0028】
また、本発明の共重合体には、前記3種の構成単位の他、本発明の目的に合致するミセル会合体の形成を損なわない範囲で他の共重合単位を含ませることが可能である。
【0029】
本発明に使用される共重合体は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。水性インキの顔料分散性や保存性の制御性を考慮すると、ブロック共重合体の方が好ましいが、共重合体の製造のし易さやコストの点からはランダム共重合体が好ましい。また、水性インキにおける顔料分散性のバラツキを小さくする点からはランダム共重合体を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の共重合体は、画像被膜の強度や接着強度の点から、数平均分子量が6,000から30,000のものが好ましい。より好ましくは数平均分子量が13,000から22,000である。数平均分子量が6,000より低いと、粉末化したりし易く画像被膜が不均一で、また画像被膜の耐水性(堅牢性)が低くなりがちである。一方、数平均分子量が30,000より高いと、水性媒体への溶解性が不十分となり、分散液の固形分濃度を適正値まで上げることができなくなったり、液体が濁ったり沈殿物が生じたり、液粘度が上昇したり、画像被膜表面の平滑性が劣ったりする場合がある。
また、本発明の共重合体は、ガラス転移点が10〜120℃のものが好ましく、環境安定性等を考慮すると35℃から70℃の範囲にあるものが好ましい。また、流動開始点が180℃より低く、分解点は150℃より高い熱特性の材料を用いることにより物理的着膜特性の制御余裕度が広くなり、さらに透光性の高い画像被膜が得られる。
さらに、印字部から吸着水分や吸着ガスを排出するための加熱処理を行なったり、また、共重合体にコルベ反応を生じさせてその親水性を低下させるために印字部に加熱処理を行なったりする点からは、本発明の共重合体が少なくとも230℃の耐熱性を有することが好ましい。ここで「共重合体が少なくとも230℃の耐熱性を有する」とは、共重合体を230℃の温度に30分保持した場合、質量変化が5%以下であることを意味する。
【0031】
本発明の共重合体の酸価は、60から160の範囲が好ましく、より好ましくは90から140の範囲で、特に100〜130の範囲が好ましい。共重合体の酸価が60より小さいと、水性媒体への溶解性が不十分となり、分散時の固形分濃度を適正値まで上げることができなくなったり、液体が濁ったり沈殿物が生じたり、液粘度が上昇したりすることがある。また、共重合体の酸価が160より大きいと、画像被膜の耐水性が低かったり、画像濃度が充分得られなかったり、画像滲みが生じやすくなる。
ところで、一般に印刷用紙やインクジェット用紙は、酸性紙が多く使用されている。そのため、酸価160以下の共重合体(イオン性部分が少ない)を用いて酸性紙の上に画像被膜を形成した場合、共重合体は酸性紙の上でH+イオンの影響をより強く受けやすく、画像被膜が乾燥された固体状態では水への溶解性が大変低くなり、画像被膜の耐水性(水に短時間濡れても画像は影響されず、画像定着性が高い)が良好となる。
【0032】
本発明において用いる酸性基を有する共重合体は、液のpHを高いところから低いところへ変化させることにより、良溶解状態(均一透明溶液液)から白濁状態(溶解から沈殿に至る過渡状態)を経て上澄みを生じる沈殿(2層分離)に至るが、本発明の共重合体は酸性基の他特定の構成単位を有するため、前記白濁液を生ずるpH領域が狭く、良溶解状態から沈殿析出への移行が急峻である。したがって、水性インクのわずかなpH低下によっても共重合体の溶解性が劇的に減少する。
一方、印字直後の印字部に前記のごとき処理(印字部をオゾン雰囲気或いは酸性雰囲気に曝す処理)を行なうと、印字部のpHが低下して共重合体の溶解度が急激に下がり、耐水性などの印字膜の堅牢性が向上する。
共重合体の、溶解状態から上澄みを生じる沈殿の現象が、pH変化量が2.5以内、好ましくは1.0以内であると、前記のごとき処理を行なうことにより耐水性が良好となる。
【0033】
前記共重合体のpH特性は、電気化学的現象解析法である「EQCM法」により評価することができる。EQCM測定装置は、容器の中にpH特性を測定すべき共重合体溶液を収納し、溶液中にセンサー(水晶振動子と作用電極を有する)、対向電極及び参照電極を置き、これらを電圧印加装置に連結したもので、対向電極と作用電極の間にかける印加電圧を変化させて、作用電極上への共重合体の付着量の変化を調べるものである。
共重合体溶液の、良溶解状態から上澄みを生じる沈殿の現象が、pH変化量が小さくても生ずることに加え、一旦沈殿した共重合体が、pHの上昇にもかかわらずその沈殿状態を維持すること、すなわちヒステリシス特性を示すことが好ましい。この特性を示すものは、前記EQCM法による印加電圧−共重合体付着量の変化において、わずかに水素イオン濃度を高くした場合でも急激に共重合体膜の析出(例えば+1.8Vの陽極電極上)が生じ、液の水素イオン濃度をこれより低くした場合(例えば+1.0Vから+0.2Vへ電圧低下させた場合)や、更にpHが変化して高い水酸イオン濃度域(例えば−0.5Vから−1.5Vへ上昇させた場合)になった場合でも、陽極電極上に析出した共重合体膜が溶解することなく維持される。
本発明において用いる共重合体は前記のごとき構成単位を有するため、ヒステリシス特性を示し、この特性は画像被膜の耐水性に大きく寄与する。さらに前記耐水性の他、画像被膜の凝集力が向上され、画像濃度低下や画像堅牢性の低下、画像の滲みが低減される。
本発明の共重合体の酸性基がカルボキシル基の場合、このヒステリシス特性への寄与が大きい。
【0034】
(ミセル会合体の作製)
本発明のミセル会合体は、例えば以下のような方法により作製される。微細で均一な径のミセル会合体を作るには、前記共重合体、アルカリ及び水性媒体を含む液を、前記共重合体のガラス転移点よりも15℃以上高い温度に保持しながら攪拌することにより作製される。
まず、前記液中のアルカリ含有量は、それにより共重合体の酸性基を中和するに当たり、酸性基を完全に中和しないような量とすることが好ましい。具体的には、共重合体の全酸基を中和する量(当量)より2当量%から30当量%少ない量が好ましく、より好ましくは6当量%から15当量%少ない量がよい。2当量%から30当量%少ない量を用いることにより微細で均一な径のミセル会合体が作製できる。2当量%少ない量よりアルカリ含有量を多くすると、ミセル会合体の径の制御性が悪くなり、特にミセル会合体を形成しなかったり、ミセル会合体の径分布が広くなったりする。その結果、顔料分散安定性が損なわれたり、画像の色特性の劣化が生じることがある。一方、30当量%少ない量よりアルカリの量を少なくすると、最終的に不溶解分が生じたり、液が濃い白濁を生じたり、必要な固形分濃度のミセル会合体溶液を作製することが困難になることがある。
用いるアルカリとしては、NaOH、KOH等のアルカリ金属水酸化物、TMAH、TEAH、アンモニア、アンモニウム系化合物、第4級アンモニウム系化合物、アミン系化合物が用いられる。
次に、液攪拌時の温度であるが、液の温度が、用いる共重合体のガラス転移点よりも15℃以上高いことが好ましい。好ましくは25℃以上高い温度がよいが、その温度が水の沸点に近くなる場合は、水に共沸性の良溶解多価アルコール系の高沸点溶剤を混合することが有効である。
アルカリの量を前記のように調節した場合でも、液温が共重合体のガラス転移点から15℃高い温度より低いと、平均径が300nm以上の白色気味の液が生成し、この液では分散顔料の径が小さくならず、凝集体も生じやすく、またミセル会合体に多くの顔料を内包し過ぎて重量的に重くなり、長期分散安定性が損なわれる。
攪拌時間は2〜6時間程度が適切である。攪拌時、強力な剪断力を特にかける必要はない。したがって、攪拌装置としては通常のものが制限なく使用できる。例えば、プロペラ攪拌法、回転子攪拌法だけでなく、超音波による振動攪拌が挙げられる。超音波攪拌の場合、共重合体としてガラス転移点が10℃から120℃の範囲のものを用い、このガラス転移点より20℃から50℃、好ましくは30℃から50℃高い温度範囲で超音波振動を与えながら共重合体溶液を攪拌することが好ましい。
【0035】
[顔料]
色材として分散される顔料は、有機顔料、無機顔料、含金属顔料等が適用でき、一種又は複数種混合して用いることもできる。有機顔料としては、アゾ系顔料、ナフトール系顔料、インドリノン系顔料、アントラキノン系顔料、インジゴ系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、フタロシアニン系顔料、ジケトピロロ系顔料、ペリレン系顔料等が好ましい。無機顔料としては、カーボンブラック系、酸化亜鉛系、酸化チタン系、酸化鉄系、群青、金属粉末等の顔料が好ましい。
用いる顔料の数平均粒子径(一次粒子径)が2nmないし200nmの範囲が適切であり、好ましくは30nmないし100nmの範囲にあることが好ましい。2nmから200nmの範囲の場合、顔料分散安定性が向上し、また、可視光波長の二分の一以下より短い粒子径の場合は画像被膜の透明性も高く、画像部の色再現域が広がり、高色調・高彩度の印字画像が得られる。2nm以下の粒子径を有する微粒子は、粒子が飛散しやすく表面積が大きくなる為に、物理的な安定性が低くなり、各種作業時の処理が難しくなる。
本発明の水性インキにおいては、いかなる顔料を用いても良好な顔料分散性が得られる。したがって、顔料は自己分散型顔料であったり、特にイオン基を表面に持つものである必要性はない。また、表面処理により親水性基を含む金属化合物粒子に対しても良い分散性も得られる。本発明において特に顕著な分散効果が得られるのは、通常分散が難しい、表面が疎水性の有機顔料用いる場合である。(なお、自己分散性顔料は、顔料粒子表面のイオン状態を乱し、良好な分散性を損なうことがある。)
顔料は、そのままでもまた顔料分散物としてミセル会合体溶液に加えることができる。その後、一時的にホモジナイザーやブラストミル等の強い分散処理を与えてもよい。
本発明においては、前記のごとき径の範囲のミセル会合体を含有する液に、顔料を分散させることにより、良好な顔料分散性と長期分散安定性が得られる。
【0036】
[水性インキの調製]
水性インキの調製法に特に制限はないが、前記のようにして作製したミセル会合体のコロイド溶液に顔料又はその分散物を分散させる方法が好ましい。ミセル会合体溶液中への顔料の分散は、例えばビーズミル法、ロールミル法、超音波分散法、ジェットミル法、ホモジナイザー法等の1つ又は複数を用いることにより行われる。
分散工程の精度を上げるため、分級工程として遠心分離法や各種開口径の異なるフィルターによる多段加圧濾過分級法等も用いることもできる。
【0037】
本発明の水性インキには、顔料を35質量%程度まで含有しうる。また、共重合体を35質量%程度まで含有しうる。例えば、インクジェット記録インキの場合には、顔料を1〜35質量%程度、好ましくは2〜10質量%程度含み、印刷インキでは5〜35質量%程度、好ましくは10〜25質量%程度含むことが適切である。また、共重合体は、インクジェット記録インキの場合には、0.1〜35質量%程度、好ましくは1〜5質量%程度含み、印刷インキでは10〜35質量%程度、好ましくは15〜30質量%程度含むことが適切である。
また、インクジェット記録インキの場合、顔料と共重合体の比(質量)は、10:0.1〜10:20が好ましく、より好ましくは10:1から10:5である。また、印刷インキの場合、顔料と共重合体の比(質量)は、10:1〜10:200が好ましく、より好ましくは10:5〜10:50である。
また、本発明の水性インキには、適宜他の成分を加えることができる。たとえば、インクジェット記録インキには湿潤剤を添加することができる。湿潤剤は水に可溶の液体で、沸点80℃以上で、蒸気圧が100mmHg以下である液体が用いられ、水性インキに対し5〜65質量%程度加えることが適切である。
湿潤剤としては、多価アルコール類、グリコールエーテル類等が用いられ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、カルビトール、ブチルカルビトール、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、2‐(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール等であり、1種又は2種以上が用いられる。
さらに、防腐剤および/または防カビ剤を水性インキ全体に対し、0.05〜4質量%含ませることができる。
本発明の水性インキにおける固形分含有量は2〜40質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0038】
また、水性インキのpHは、本発明において用いる共重合体の前記のごときヒステリシス特性を利用して、印字膜の水性媒体に対する堅牢性や凝集力を高め、印字濃度低下や画像の滲みを低減させるために、共重合体が溶解状態から上澄みを発生して沈殿を生じるpH点(白濁開始pH点)から、好ましくは、0.5から4.0高いpH領域、より好ましくは、1.0から3.0高いpH領域に調節することが好ましい。
【0039】
また、本発明の水性インキ中の分散顔料の数平均粒径が2nmないし200nmであることが好ましい。
【0040】
[印字部の後処理方法]
本発明の水性インキを用いて印字を行なった後、印字部に特定の処理、即ち、印字後10秒以内に、1)印字部をオゾン雰囲気に曝す処理又は2)印字部を酸性雰囲気に曝す処理を行うことにより、耐水性等の画像堅牢性を一層向上させることができる。前記1)の印字部をオゾン雰囲気に曝す処理及び前記2)の印字部を酸性雰囲気に曝す処理により、インク液のpHが低下する。そうすると、前述のように酸性基を有する本発明の共重合体の特性に基づいて共重合体の溶解度が急激に低下し、印字膜の堅牢性(耐水性)が増す。
前記1)の印字部をオゾン雰囲気に曝す処理としては例えばコロナ放電処理、陰性放電処理等の放電処理の他、通常のオゾン発生装置を用いることが可能である。また、前記2)の印字部を酸性雰囲気に曝す処理としては、例えば、酸性水溶液ミスト中を通過させる処理、酸性水溶液中を通過させる処理、又は酸性水溶液を塗布する処理等の酸性水性液体による印字面の処理や、酸性蒸気を吹き付けたり酸性蒸気中を通過させる処理等が有効な処理手段となる。
また、前記1)又は2)の処理時間は、オゾン濃度や酸性溶液pH等により異なるが通常数秒程度でよい。
【0041】
また、前記1)又は2)の処理に加えて、印字部を35〜150℃に加熱する処理も画像堅牢性を高めるために有効な後処理手段である。加熱処理は前記1)又は2)の処理と同時であってもよく、また、その後であってもよい。また前記2)の処理であって、酸性ミスト等の酸性水性液体により処理を行なう場合には、その前に加熱処理を行なってもよい。カルボキシル基を有する共重合体の場合、加熱処理により共重合体内部で架橋反応が生じ遊離のカルボキシル基の数が減少して、水への共重合体の溶解度が大きく低下することにより画像の耐水性が改善される。
さらに、前記アルカリ水性媒体の調製時、アルカリとしてその全部又は一部を沸点が40℃〜150℃以下のアルカリ(アンモニウム系化合物、第4級アンモニウム化合物及びアミン系化合物等のpH調整剤)を用いると、加熱処理の際pH調整剤が揮散せしめられ、インク液のpH低下の一助となる。pH調整剤が画像被膜に悪影響を与える場合、この加熱処理によりその悪影響を除くこともできる。pH調整剤は、水性インキ中の濃度が、50mmモル/Kgから20モル/Kgの範囲 、好ましくは0.11モル/Kgから10モル/Kgの範囲 、より好ましくは0.66モル/Kgから5モル/Kgの範囲が適切である。
【0042】
本発明において前記のごとき後処理を2以上行う場合には、少なくとも最初の後処理は10秒以内に行うことが必要であるが、すべての後処理を印字後10秒以内に行うことが好ましい。
【0043】
[後処理装置]
前述の印字部の後処理方法に用いる後処理装置は、印字部をオゾン雰囲気に曝すためのオゾン発生装置又は印字部を酸性雰囲気に曝すための酸性雰囲気発生装置を備えている。オゾン発生装置としてはコロナ放電装置、陰性放電装置等の放電装置が用いられる。また、酸性雰囲気発生装置としては酸性水溶液ミストを噴霧する装置、酸性蒸気発生装置、酸性水溶液塗布装置等が用いられる。
また、前記オゾン発生装置又は酸性雰囲気発生装置と同じ場所、又は該装置の上流側若しくは下流側(記録媒体の搬送方向)に印字部を加熱する加熱装置を設けることができる。加熱装置としては温風発生装置、加熱ロール、輻射加熱装置、雰囲気加熱装置等が挙げられる。
【0044】
図1は、本発明の後処理装置の一例を示す概念図で、図1中、1は記録紙を、10はインクジェット記録装置におけるインクジェットヘッドを、12はプラテンロールを、14は紙送りロールを、30はコロナ放電装置を、32はコロナ放電ヘッドを、34はコロナ放電ヘッドの対向電極ロールをそれぞれ示す。
図2は、印字部を最初に温風で加熱処理し、その後印字部を酸性ミスト中を通過させる後処理装置の概念図を示すもので、図2中、1、10、12及び14は、図1において同じ符合で表されるものを意味し、16は紙送りロールを、40は温温風噴き出しヘッド(図示しない温風供給装置に連結される)を、50は酸性ミスト噴霧ヘッド(図示しない酸性ミスト供給装置に連結される)をそれぞれ示す。
図3の後処理装置は、印字部をオゾン雰囲気に曝した後、加熱ロールの下を通して印字部を加熱処理する態様のものである。図3中、1、14、16は、図2において同じ符合で表されるものを意味し、60は陰性放電装置を、62は放電ヘッドを、64は放電ヘッドに対向する電極を兼ねるプラテンロールを、70は加熱ロールをそれぞれ示す。
【0045】
本発明の後処理装置は、前記のごとき簡便な装置であり、インクジェット記録装置や印刷装置の下流側に配置するだけでよく、また、独立の装置としても或いはインクジェット記録装置や印刷装置に一体に組み込んでもよい。
【実施例】
以下に実施例を示し本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
共重合体(スチレン−アクリル酸−アクリル酸へキシルのランダム三元共重合体:重量平均分子量19,000、共重合比(質量)=35/22/43、酸価120、ガラス転移点55℃,流動開始点90℃、分解点247℃、析出開始点pH5.8)200gに蒸留水750gを加え、これにジメチルアミノエタノール水溶液(20質量%)をpHが8.1になるように徐々に混合しながら溶解を行い、得られた溶液を89℃に加熱しながら、5時間30分スリーワンモータープロペラ攪拌機を用いて溶解兼コロイド溶液作製工程を行った。そして最終的に液の濃度調整を行い、固形分濃度が20質量%のコロイド水溶液を調製した。
このコロイド溶液と銅フタロシアニン青色超微粒子顔料(一次平均粒子32nm)を固形分比率で4対6に混合し、これにジエチレングリコールを添加後の液の20質量%になるように加え、強制加圧型顔料分散装置を用いて分散させた。分散顔料粒子径をレーザー散乱微粒子径測定装置を用いて測定したところ、平均粒子径36nmであった。
これに更に、蒸留水、ジエチレングリコール、水酸化カリウム及び防カビ剤を添加し、1μm径メッシュの加圧濾過工程を経て、pH8.2、顔料濃度4質量%、共重合体濃度2.7質量%、エチレングリコール16質量%のシアン色インクジェット用インキ液が得られた。
【0046】
市販のインクジェットプリンターの記録紙排出側に、図1で示されるようなコロナチャージャー(後処理装置)を配置した装置を用意した。インクジェットプリンターにより印字後、4秒後にコロナチャージャーと対向電極ロールの間を2秒間で通過するようにその配置を調節した。コロナチャージャーには−7KVの電圧を印可した。
この装置を用いて印字及び後処理を行い、印字特性を評価した。上質紙上にベタ印字したところ、乾燥後のソリッド画像部におけるシアン色光学反射濃度が1.65であった。画像部を白い布で擦っても顔料の離脱は観察されなかった。また、この画像記録紙を水道水に1分浸漬したが、光学反射濃度の低下は0.1以下であり、良好な画像堅牢性が示された。
【0047】
実施例2
共重合体(スチレン−アクリル酸−メタクリル酸ブチル共重合体:重量平均分子量14,000、共重合比(質量)=30/18/52、酸価110、ガラス転移点49℃、流動開始点90℃、分解開始点239℃、析出開始点pH5.9)450gに蒸留水1000gを添加し、これにアンモニア水(25質量%水溶液)をpHが8.2になるように添加し、これを混合しながら溶解を行い、得られた溶液を90℃に加熱しながら、4時間スリーワンモータープロペラ攪拌機を用いて溶解兼コロイド溶液作製工程を行った。そして最終的に液の濃度調整を行い、固形分濃度40質量%のコロイド水溶液を調製した。
その後、このコロイド溶液と銅フタロシアニン系青色超微粒子顔料とを、質量固形分比率が5対5になるように混合し、液の温度が78℃になるように加熱した状態で、高強度ロールミル分散装置を用いて混合分散させて顔料分散液を得た。(この顔料分散液を希釈し、分散顔料粒子径をレーザー散乱微粒子径測定装置を用いて測定したところ、平均粒子径68nmであった。)
前記の顔料分散液を希釈して固形分濃度40質量%のオフセット印刷インクを得た。
【0048】
普通紙に上記印刷インクを用いてオフセット印刷をした後、次のような後処理を行った。後処理装置は図2で示されるような温風吹き出し装置と酸性ミスト噴霧装置を用い、印刷後、印字部が5秒後に温風雰囲気を2秒間で通過し、その後1秒後に酸性ミスト雰囲気中を5秒間で通過するように、記録紙の搬送速度と、温風吹き出し装置及び酸性ミスト噴霧装置の位置を調節した。温風温度は80℃に、また酸性ミストのpHは3に調節した。
この後処理の後乾燥処理を行った。印刷物を純水に5分間浸漬したが、画像流れは確認できなかった。温風処理及び酸性ミスト処理を行わなかった印刷物は、画像の境界部分ににじみを生じた。
【0049】
実施例3
共重合体(α−メチルスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸ブチル共重合体:重量平均分子量17,000、共重合比(質量)=37/23/40、酸価132、ガラス転移点50℃、流動開始点84℃、分解開始点235℃、析出開始点pH6.2)400gに蒸留水1700gを加え、これにテトラメチルアンモニウムヒドロキシドをpHが8.1になるように添加し、混合しながら溶解を行い、得られた溶液を90℃に加熱しながら、6時間高強度の強制攪拌をスリーワンモータプロペラ攪拌機を用いて行い、溶解兼コロイド溶液調製工程を行った。そして最終的に液の濃度調整を行い、固形分濃度20質量%のコロイド水溶液を得た。
次にこのコロイド溶液とアゾ系赤色超微粒子顔料を固形分比率で8対2で混合し、これにジエチレングリコールを添加後の液の20質量%になるように加え、高強度サンドミル分散装置を用いて、顔料を含む分散液を作製した。この液の分散顔料粒子径をレーザー散乱微粒子径測定装置を用いて測定したところ、平均粒子径46nmであった。
これに更に、蒸留水、ジエチレングリコール、水酸化カリ及び防カビ剤を添加し、1μm径メッシュの加圧濾過工程を経て、pH8.0、顔料濃度8質量%、共重合体濃度2.5質量%、エチレングリコール26質量%のマゼンタ色インクジェット用インキ液を得た。
【0050】
このインクジェットインキを用い、実施例1と同様にして印字及び後処理を行った。印字部を水道水に2分間浸漬し、10箇所の測定箇所で画像光学濃度を測定したが、浸漬前との画像光学濃度の変化は平均で0.05であり、大きな画像光学濃度変化がないことが確認された。本発明の後処理を行わない場合には、画像光学濃度変化は0.43であった。
【0051】
実施例4
共重合体(α−メチルスチレン−メタクリル酸−アクリル酸エチル共重合体:重量平均分子量20,000、共重合比(質量)=39/28/33、酸価142、ガラス転移点58℃、流動開始点104℃、分解開始点245℃、析出開始点pH6.2)400gに蒸留水1000gを加え、これにテトラメチルアンモニウムヒドロキシドをpHが8.1になるように添加し、混合しながら溶解を行い、得られた溶液を90℃に加熱しながら、3時間高強度の強制攪拌を、スリーワンモータープロペラ攪拌機と超音波震動機も併用して行い、溶解兼コロイド溶液調製工程を行った。そして最終的に液の濃度調整を行い、固形分濃度27質量%のコロイド水溶液を調製した。
次にこの樹脂溶液とカーボンブラック黒色超微粒子顔料とを固形分比率で4対6で混合し、これにジエチレングリコールを添加後の液の15質量%になるように加え、高強度ロールミル分散装置を用いて、顔料を含む分散液を作製した。この液の分散顔料粒子径をレーザー散乱微粒子径測定装置を用いて測定したところ、平均粒子径76nmであった。
これに更に、蒸留水、ジエチレングリコール、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び防カビ剤を添加し、0.7μm径メッシュの加圧濾過工程を経て、pH7.9、顔料濃度5.5質量%、共重合体濃度2.7質量%、エチレングリコール30質量%の黒色インクジェット用インキ液を得た。
【0052】
市販のインクジェットプリンターの記録紙排出側に、図3で示されるような放電装置と加熱ロール(後処理装置)を配置した装置を用意した。後処理装置はインクジェットプリンターにより印字後、印字部が6秒後に放電ヘッド(印加電圧−4.5KV)の下を2秒間で通過し、また印字後10秒後に表面温度が120℃の加熱ロール上を4秒間で通過するように、記録紙の搬送速度と、放電装置及び加熱ロールの位置を調節した。
この装置を用いて印字及び後処理を行いさらに乾燥処理を行った。印刷物を純水による5分間浸漬したが、画像流れは確認できなかった。後処理を行わなかった印刷物は、画像の境界部分ににじみを生じた。
【0053】
【発明の効果】
本発明で用いる水性インキは、液の粘度を上げることなく、共重合体及び顔料の双方の濃度を高くすることが可能になり、その結果、色再現範囲が広くなり普通紙を用いても高色調画像が得られ、また、他の特性(例えば、インクジェットノズル噴射特性や印刷特性)を損なうことなく、画像が高濃度化され高画質の画像が得られる。また、本発明の水性インキを用いて形成される画像は高透明性で色再現範囲が広い(高色調画像)という特徴を有し、画像被膜は堅牢性(耐水性、耐光性、耐久性等)に優れている。さらに本発明の水性インキでは、通常インキに加えるpH緩衝剤の添加が不用となる。この他、本発明の水性インキをインクジェット記録に用いる場合、ノズルからのインキ吐出性(ノズル目詰まり等)に関する信頼性が向上する。
そして、前記水性インキを用いて印字後、本発明の後処理を行うため、画像被膜の堅牢性(耐水性)が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の後処理装置(オゾン雰囲気)をインクジェット記録装置に配置した概念図を示す。
【図2】本発明の他の後処理装置(温風、酸性ミスト)をインクジェット記録装置に配置した概念図を示す。
【図3】本発明の他の後処理装置(オゾン雰囲気、加熱)の例を示す概念図である。
【符号の説明】
1 記録紙
10 インクジェット記録ヘッド
14、16 紙送りロール
30 コロナ放電装置
34 対向電極ロール
40 温風噴き出しヘッド
50 酸性ミスト噴霧ヘッド
60 陰性放電装置
70 加熱ロール
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性インキを用いて印字した印字部の後処理方法及びそのための後処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、印刷分野においても最近の環境問題への要請の高まりから、水性印刷インキの開発が急がれている。しかし、水性印刷インキ中における顔料の分散不良が完全には解決されておらず、また、現在の水性印刷インキを用いた画像は堅牢性、特に耐水性に問題があり、現段階では実用に耐えうる画像特性は得られていない。
【0003】
水性インキの応用例として、近年、インクジェット記録用インキを用いる画像記録が普及している。インクジェット記録は、水性液体インキをノズルより小滴として吐出させ、これを記録媒体に付着させることにより記録を行う。従来はこのインキ液の着色色材として染料を用い、インキ媒体は一般に表面張力の関係から水系液体が選ばれ、均一液体系であった。色材としての染料は水溶性が高くノズル詰まりを起こしにくく、染料を用いたインキ液はニュートニアンに近い液性をもつためインキ吐出が安定であり、さらに色の種類も極めて多いという利点を有する。
しかし、一般に染料は顔料に比較して耐水性や耐光性に劣るので、染料を含むインキにより記録した画像は耐水性及び耐光性が劣る他、滲みやすいという欠点があり、画像反射濃度も十分でない。染料を含むインクジェットインキを用いて特殊紙に記録すれば、色再現性においては印刷の色再現域が得られるが、普通紙においては同様の色再現性は実現されない。
一方、インクジェット記録が普及するにつれその記録特性に対する要求も一層高くなっており、インクジェット記録を用いることにより、印刷をした場合の画像と同等レベルの性能が求められるようになっている。したがって、前記のごとき染料含有インキのもつ耐水性、耐光性、色滲み、反射濃度、色再現性等の問題は緊急に解決しなくてはならない課題となっている。
【0004】
また、印刷技術分野においては、現在の水性印刷インキ画像の堅牢性と水性媒体に対する有機顔料の分散性に問題があるため、実使用では画像特性不足を生じている。非溶剤型への要求に応える必要がある場合には、やもを得ず画像特性を落として水性印刷インキを用いているのが現状である。しかし市場やユーザーから不満の声が聞かれ、解決しなくてはならない課題となっている。
【0005】
これに対し、色材として顔料を用いるインクジェット記録インキに関する開発研究は様々な角度からアプローチされ、高分子分散剤や水性溶剤の検討など、種々行われてきたが、充分な特性のものが得られずに今日に至っている。
例えば以下の特許文献1には、顔料入りインキとして水性キャリア媒体、窒素複素環ジオール補助溶剤及び顔料分散物(重合体分散剤により安定化された顔料粒子の水性分散物)を含む目詰まり耐性が向上したインクジェット記録インキが記載され、高分子分散剤としてAB又はBABブロックコポリマー(Aセグメントはアクリル系の疎水性ポリマー、Bセグメントはアクリル系親水性ポリマー)が記載されている。
【0006】
また、以下の特許文献2には、顔料を含む記録液において、保湿剤としてエチレングリコール等に代え糖類を用いることにより、同等の保湿性能をより低い粘度で実現したものが記載され、また、顔料の分散剤である高分子化合物として、スチレン、その誘導体、ビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーとアクリル酸等の不飽和カルボン酸との共重合体を用いることが記載されている。
【0007】
さらに、以下の特許文献3には、顔料を含む水性インクジェットインキの顔料分散剤として、少なくとも1つの塩基性アミン官能基を有する疎水性ポリマーブロックと非イオン性ポリマーブロック又は酸性官能基含有ポリマーブロックからなるブロックポリマーを用いることにより、顔料分散が安定化された水性インクジェットインキが得られることが記載されている。
【0008】
さらに、以下の特許文献4には、顔料をスチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体等の高分子分散剤で分散したインクジェット記録用インキが記載されている。
【0009】
前記のごとき特許文献に記載のインクジェット記録インキは、いずれも顔料の分散剤として高分子化合物(バインダー樹脂)を含み、該高分子化合物は水への溶解性を助ける酸性基と顔料に対する親和性が高い疎水性基を含んでいる。ところで前記高分子化合物は、顔料の分散剤として作用するだけでなく、顔料を記録媒体に付着させる機能を有し、さらに顔料を高分子化合物被膜で覆うことにより顔料による粒子表面光散乱を防ぎ、画像の反射濃度を向上させる機能をも有している。
したがって、記録画像の色濃度を向上させるためには、インキの顔料濃度を上げるだけでなく、インキ中の高分子化合物の含有量を高くして、顔料表面の高分子被覆性を高くすることが望ましい。
しかしながら、前記特許文献1ないし4に記載の高分子化合物を多量インキ中に含ませると、インキ粘度が上昇し、インクジェット記録インキとして使用不可能となる。また、前記特許文献1ないし4に記載のインキを用いて記録した画像は耐水性に乏しいという問題点を有している。
【0010】
【特許文献1】
特開平5−214284号公報(段落0016、0037〜0053)
【特許文献2】
特開平7−11182号公報(特許請求の範囲、段落0010、0016〜0025)
【特許文献3】
特開平6−136311号公報(段落0016〜0025)
【特許文献4】
特開2002−38061号公報(段落0051、0054、0102)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、特願2002−265571号として、特定の共重合体を用いたミセル会合体を作り、このミセル会合体により顔料を包含せしめ、高濃度の顔料を安定に分散保持しうる水性インキ組成物を提供した。この水性インキ組成物は顔料を用いるインクジェット記録に新たな技術展開を与えるもので、従来の顔料分散水性インキによっては達成することができない優れた画像特性(高色調で高画質)が得られる。
本発明は前記の特願2002−265571号に係る発明である水性インキ組成物を用いる記録方法に、新たに、印字後の後処理に関する改良を加えるもので、その目的は、高色調で高画質であり、また高い画像堅牢性(耐水性、耐光性及び耐久性等)を有する記録画像を得ることができる印字部の後処理方法、及びそのための後処理装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記課題は、以下の印字部の後処理方法及び後処理装置を提供することにより解決される。
(1)記録媒体の上に、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーの1種以上、イオン解離する酸性基を含有するモノマーの1種以上、及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルの1種以上からの各構成単位を含む共重合体のアルカリ中和物を含むミセル会合体、顔料及び水性媒体を少なくとも含む水性インキを用いて印字した印字部に行う後処理方法であって、印字後10秒以内に、1)印字部をオゾン雰囲気に曝す処理、又は2)印字部を酸性雰囲気に曝す処理を行うことを特徴とする、印字部の後処理方法。
【0013】
(2)前記1)又は2)の処理に加え、印字部を35〜150℃の温度範囲において加熱処理を行うことを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(3)前記ミセル会合体の平均径が10nm〜300nmであることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
【0014】
(4)前記共重合体の酸性基がカルボキシル基であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(5)前記共重合体の酸価が60〜160であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(6)前記共重合体の数平均分子量が6,000〜30,000であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(7)前記共重合体のガラス転移点が10〜120℃であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(8)前記共重合体が少なくとも230℃の耐熱性を有することを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
【0015】
(9)前記共重合体の、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーからの構成単位が15〜55質量%であり、イオン解離する酸性基を含有するモノマーからの構成単位が9〜28質量%であり、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルからの構成単位が20〜75質量%であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(10)前記水性インキに対する前記共重合体のアルカリ中和物の含有率が0.1〜35質量%であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(11)前記水性インキ中の分散顔料の数平均粒径が2nmないし200nmであることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(12)前記顔料の含有量が1〜35質量%であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(13)前記水性インキの固形分含有量が2〜40質量%であることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
【0016】
(14)前記共重合体として、共重合体水溶液のpHを変化させた場合、pH変化量が2.5以内において、共重合体が溶解又はコロイド状態から上澄みを生じて沈殿する共重合体を用いることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(15)前記水性インキのpHを、共重合体が溶解状態から上澄みを発生して沈殿を生じるpH点から、0.5ないし4.0高いpH領域に調節することを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(16)沸点が40℃〜150℃のpH調節剤によりpH調節を行なうことを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(17)前記pH調節剤の添加量が100ミリモル/Kg〜20モル/Kgであることを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
(18)さらに、水に可溶の液体で、沸点80℃以上蒸気圧が100mmHg以下の湿潤剤を5〜50質量%含むことを特徴とする前記(1)に記載の印字部の後処理方法。
【0017】
(19)前記(1)に記載の印字部の後処理方法に用いる後処理装置であって、印字部をオゾン雰囲気に曝すためのオゾン発生装置又は印字部を酸性雰囲気に曝すための酸性雰囲気発生装置を備えた後処理装置。
(20)さらに印字部を加熱処理するための加熱装置を設けた前記(19)に記載の後処理装置。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の記録方法は、以下で説明する特定の水性インキを用いて印字した後、10秒以内に、1)印字部をオゾン雰囲気に曝す処理又は2)印字部を酸性雰囲気に曝す処理を行うことを特徴とする。
最初に本発明の記録方法に用いる水性インキについて説明する。前記水性インキは、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーの1種以上、イオン解離する酸性基を含有するモノマーの1種以上、及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルの1種以上からの各構成単位を含む共重合体のアルカリ中和物を含むミセル会合体、顔料及び水性媒体を少なくとも含む。
ミセル会合体はその平均径が10nmないし300nmであることが好ましく、20nmないし200nmがより好ましく、30nmないし120nmの範囲がさらに好ましい。ミセル会合体の平均径が前記範囲にあると、顔料の分散安定性が大きい。
ミセル会合体の平均径や分散状態は、クライオTEM法、クライオSEM法、動的光散乱法、静的光散乱法、レーザー散乱法等により測定される。
本発明の水性インキにおいて、顔料微粒子はミセル会合体により分散保持される。
【0019】
前記ミセル会合体(micelle aggregation)は、前記共重合体分子の中和物が複数絡み合った集合体で、粒子形態を有している。水性インキ中においてミセル会合体は単独で及び/又は複数のミセル会合体が複数集合してコロイド分散しており、前記の粒子形態に基づき安定なコロイド状態となる(前記ミセル会合体が複数集合したものは他のミセル会合体と会合しにくくなり、また、高分子の鎖の多くが液中に大きく開かれないため会合体間の相互作用が小さく、低い粘度の状態を維持すると考えられる)。また、ミセル会合体はその内部に水性媒体を内包しているため、比重が水性媒体と近くなり重量の観点からも安定なコロイド状態を作り出す。さらに、ミセル会合体の径は、液のpH値が多少変化しても大きく変わらない。
顔料微粒子はミセル会合体により保持される。顔料微粒子の粒径がミセル会合体の径に比較して小さい場合には、顔料微粒子は各ミセル会合体の内部に保持され、またその粒径がミセル会合体の径に比較して大きい場合、複数のミセル会合体により保持されていると考えられる。そして、ミセル会合体の径を非常に小さくすることができるので、微細な顔料粒子も十分安定に分散保持できる。
【0020】
本発明の水性インキにおける共重合体分子は、前記のごときミセル会合体を形成し液中で分子が広がって存在していないため、共重合体の含有量を高くしても液の粘度は低くまたその粘度は長期間安定的に保持される。
また、顔料微粒子はミセル会合体により保持されているので、水性インキに高濃度の顔料を含有せしめることが可能で、またその分散性も安定に保持される。
したがって、本発明の水性インキでは、液の粘度を上げることなく、共重合体及び顔料の双方の濃度を高くすることが可能になり、また、紙などの記録媒体の表面に顔料/高分子共存物質が膜状に形成可能となり、その結果、色再現範囲が広くなり普通紙を用いても高色調画像が得られ、また、他の特性(例えば、インクジェットノズル噴射特性や印刷特性)を損なうことなく、画像が高濃度化され高画質の画像が得られる。また、印刷用のインキ組成物は、通常20〜30質量%程度の固形分(樹脂バインダー+色材)を含むことが必要であるが、本発明の水性インキにはこの程度の固形分を含ませることできるので、印刷用のインキ組成物として用いることが可能で、高光学反射濃度の画像が得られる。
さらに、水性インキ中の顔料微粒子はミセル会合体に内包されているので、画像被膜の顔料は共重合体樹脂被膜内に保持され、顔料が脱離しにくく(画像耐久性)、また画像に水が接触しても色材再分散に至らないので画像滲みが生ずることがない(耐水性)。そして、ミセル会合体の径を非常に小さくすることができるので、微細な顔料粒子も十分安定に分散保持でき、その結果、印字画像が高い色透明性を有し、色再現範囲が広い(高色調画像)。
また、本発明で用いる共重合体は前記のごとき特定のモノマーからの単位を有する共重合体であり、特に疎水性の高いスチレンモノマー等を用いることにより、画像被膜を構成する樹脂部分が高い耐水性を有する。このことと、前記の、顔料微粒子がミセル会合体に内包されていることと相俟って、本発明の水性インキを用いて形成される画像は、非常に耐水性と堅牢性に優れたものとなる。
【0021】
さらに、本発明の水性インキは色材として顔料を用いているので、画像滲みの少ない画像が得られることは勿論である。
また、本発明の水性インキをインクジェット記録に用いる場合、ミセル会合体がその内部に水を内包していることに基づき、保湿による湿潤効果が発現され、ノズルからのインキ吐出性(ノズル目詰まり等)に関する信頼性が向上する。
【0022】
[ミセル会合体]
次に、本発明におけるミセル会合体について説明する。
(共重合体)
ミセル会合体を構成する共重合体は、少なくとも、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーの1種以上、イオン解離する酸性基を含有するモノマーの1種以上、及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルの1種以上からの構成単位を含む共重合体である。
【0023】
前記アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーから構成される単位は疎水性が強く、顔料微粒子を強く吸着して顔料分散を安定化する。さらに前記構成単位はその疎水性により形成画像の耐水性に寄与し、また、画像部に堅牢性を与える。さらに前記構成単位は共重合体のイオン解離する酸性基を含有するモノマーのイオン解離機能の抑制にも影響を与える。
アルケンは炭素数が2〜20程度のものが好ましく、より好ましくは2〜10
であり、疎水性が大きく損なわれない限り他の置換基を有していてもよい。
スチレン及びこの誘導体としてはスチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレンや、これらのスチレン及びその誘導体のベンゼン環に疎水性を大きく損なわない置換基あるいはさらに疎水性を増す置換基が置換したものなどを挙げることができる。また、ビニルナフタレン及びその誘導体としてはビニルナフタレンの他、ナフタレン環に疎水性を大きく損なわない置換基あるいはさらに疎水性を増す置換基が置換したビニルナフタレンが挙げられる。
中でも、アルケン、スチレン及びその誘導体は、共重合体製造時の制御性が高く有用な疎水性モノマ−である。
【0024】
前記アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーからの構成単位は、前記の顔料分散性、画像の耐水性及び堅牢性の観点からみて、共重合体中、好ましくは15〜55質量%、より好ましくは25〜40質量%、特に好ましくは29〜37質量%である。
前記構成単位が15質量%未満の共重合体は、顔料分散性の不足、耐水性の不足、紙への接着性やインキ膜強度の不足が生ずることがあり、また、55質量%を越えると水性媒体への溶解性が不十分となり、インキの作製が難しかったり、インキが濁ったり、インキ中で材料の不溶沈殿物が生じたり、インキの粘度が不安定になることがあるので、前記範囲が適切である。
【0025】
イオン解離する酸性基を含有するモノマーからの構成単位は、共重合体をアルカリ性の水性媒体に溶解させる機能を有する。前記モノマーとしては、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸が好ましく挙げられ、例えばメタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸又はそのモノエステル、フマル酸又はそのモノエステル、イタコン酸又はそのモノエステル、クロトン酸などが挙げられる。特に、メタクリル酸、アクリル酸は本発明のインキ組成物として挙げた前記効果を達成するのに好ましい。
【0026】
イオン解離する酸性基を含有するモノマーからの構成単位は、共重合体中、9〜28質量%が好ましく、より好ましくは12〜21質量%、特に好ましくは14〜18質量%である。この構成単位が9%より少ないと共重合体が水性媒体(アルカリ性)に溶解しにくく、ミセル会合体溶液を安定して作製しにくくなる。一方、28質量%より多くなると記録画像の耐水性や堅牢性が損なわれる場合があるので、前記範囲が適切である。
【0027】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルからの構成単位は共重合体に屈曲性を与える成分であり、この成分を含ませることによりミセル会合体が良好に形成でき、また、ミセル会合体の径のばらつきが小さくなる。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルのアルキル基は炭素数1〜20が好ましく、より好ましくは2〜10である。例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸エステル類、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル等のフマル酸エステル類等が挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルからの構成単位は、ミセル会合体の形成性及び形成されるミセル会合体の径のばらつきの観点から、共重合体中、20〜75質量%が好ましく、より好ましくは35〜65質量%、特に好ましくは45〜60質量%である。
【0028】
また、本発明の共重合体には、前記3種の構成単位の他、本発明の目的に合致するミセル会合体の形成を損なわない範囲で他の共重合単位を含ませることが可能である。
【0029】
本発明に使用される共重合体は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。水性インキの顔料分散性や保存性の制御性を考慮すると、ブロック共重合体の方が好ましいが、共重合体の製造のし易さやコストの点からはランダム共重合体が好ましい。また、水性インキにおける顔料分散性のバラツキを小さくする点からはランダム共重合体を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の共重合体は、画像被膜の強度や接着強度の点から、数平均分子量が6,000から30,000のものが好ましい。より好ましくは数平均分子量が13,000から22,000である。数平均分子量が6,000より低いと、粉末化したりし易く画像被膜が不均一で、また画像被膜の耐水性(堅牢性)が低くなりがちである。一方、数平均分子量が30,000より高いと、水性媒体への溶解性が不十分となり、分散液の固形分濃度を適正値まで上げることができなくなったり、液体が濁ったり沈殿物が生じたり、液粘度が上昇したり、画像被膜表面の平滑性が劣ったりする場合がある。
また、本発明の共重合体は、ガラス転移点が10〜120℃のものが好ましく、環境安定性等を考慮すると35℃から70℃の範囲にあるものが好ましい。また、流動開始点が180℃より低く、分解点は150℃より高い熱特性の材料を用いることにより物理的着膜特性の制御余裕度が広くなり、さらに透光性の高い画像被膜が得られる。
さらに、印字部から吸着水分や吸着ガスを排出するための加熱処理を行なったり、また、共重合体にコルベ反応を生じさせてその親水性を低下させるために印字部に加熱処理を行なったりする点からは、本発明の共重合体が少なくとも230℃の耐熱性を有することが好ましい。ここで「共重合体が少なくとも230℃の耐熱性を有する」とは、共重合体を230℃の温度に30分保持した場合、質量変化が5%以下であることを意味する。
【0031】
本発明の共重合体の酸価は、60から160の範囲が好ましく、より好ましくは90から140の範囲で、特に100〜130の範囲が好ましい。共重合体の酸価が60より小さいと、水性媒体への溶解性が不十分となり、分散時の固形分濃度を適正値まで上げることができなくなったり、液体が濁ったり沈殿物が生じたり、液粘度が上昇したりすることがある。また、共重合体の酸価が160より大きいと、画像被膜の耐水性が低かったり、画像濃度が充分得られなかったり、画像滲みが生じやすくなる。
ところで、一般に印刷用紙やインクジェット用紙は、酸性紙が多く使用されている。そのため、酸価160以下の共重合体(イオン性部分が少ない)を用いて酸性紙の上に画像被膜を形成した場合、共重合体は酸性紙の上でH+イオンの影響をより強く受けやすく、画像被膜が乾燥された固体状態では水への溶解性が大変低くなり、画像被膜の耐水性(水に短時間濡れても画像は影響されず、画像定着性が高い)が良好となる。
【0032】
本発明において用いる酸性基を有する共重合体は、液のpHを高いところから低いところへ変化させることにより、良溶解状態(均一透明溶液液)から白濁状態(溶解から沈殿に至る過渡状態)を経て上澄みを生じる沈殿(2層分離)に至るが、本発明の共重合体は酸性基の他特定の構成単位を有するため、前記白濁液を生ずるpH領域が狭く、良溶解状態から沈殿析出への移行が急峻である。したがって、水性インクのわずかなpH低下によっても共重合体の溶解性が劇的に減少する。
一方、印字直後の印字部に前記のごとき処理(印字部をオゾン雰囲気或いは酸性雰囲気に曝す処理)を行なうと、印字部のpHが低下して共重合体の溶解度が急激に下がり、耐水性などの印字膜の堅牢性が向上する。
共重合体の、溶解状態から上澄みを生じる沈殿の現象が、pH変化量が2.5以内、好ましくは1.0以内であると、前記のごとき処理を行なうことにより耐水性が良好となる。
【0033】
前記共重合体のpH特性は、電気化学的現象解析法である「EQCM法」により評価することができる。EQCM測定装置は、容器の中にpH特性を測定すべき共重合体溶液を収納し、溶液中にセンサー(水晶振動子と作用電極を有する)、対向電極及び参照電極を置き、これらを電圧印加装置に連結したもので、対向電極と作用電極の間にかける印加電圧を変化させて、作用電極上への共重合体の付着量の変化を調べるものである。
共重合体溶液の、良溶解状態から上澄みを生じる沈殿の現象が、pH変化量が小さくても生ずることに加え、一旦沈殿した共重合体が、pHの上昇にもかかわらずその沈殿状態を維持すること、すなわちヒステリシス特性を示すことが好ましい。この特性を示すものは、前記EQCM法による印加電圧−共重合体付着量の変化において、わずかに水素イオン濃度を高くした場合でも急激に共重合体膜の析出(例えば+1.8Vの陽極電極上)が生じ、液の水素イオン濃度をこれより低くした場合(例えば+1.0Vから+0.2Vへ電圧低下させた場合)や、更にpHが変化して高い水酸イオン濃度域(例えば−0.5Vから−1.5Vへ上昇させた場合)になった場合でも、陽極電極上に析出した共重合体膜が溶解することなく維持される。
本発明において用いる共重合体は前記のごとき構成単位を有するため、ヒステリシス特性を示し、この特性は画像被膜の耐水性に大きく寄与する。さらに前記耐水性の他、画像被膜の凝集力が向上され、画像濃度低下や画像堅牢性の低下、画像の滲みが低減される。
本発明の共重合体の酸性基がカルボキシル基の場合、このヒステリシス特性への寄与が大きい。
【0034】
(ミセル会合体の作製)
本発明のミセル会合体は、例えば以下のような方法により作製される。微細で均一な径のミセル会合体を作るには、前記共重合体、アルカリ及び水性媒体を含む液を、前記共重合体のガラス転移点よりも15℃以上高い温度に保持しながら攪拌することにより作製される。
まず、前記液中のアルカリ含有量は、それにより共重合体の酸性基を中和するに当たり、酸性基を完全に中和しないような量とすることが好ましい。具体的には、共重合体の全酸基を中和する量(当量)より2当量%から30当量%少ない量が好ましく、より好ましくは6当量%から15当量%少ない量がよい。2当量%から30当量%少ない量を用いることにより微細で均一な径のミセル会合体が作製できる。2当量%少ない量よりアルカリ含有量を多くすると、ミセル会合体の径の制御性が悪くなり、特にミセル会合体を形成しなかったり、ミセル会合体の径分布が広くなったりする。その結果、顔料分散安定性が損なわれたり、画像の色特性の劣化が生じることがある。一方、30当量%少ない量よりアルカリの量を少なくすると、最終的に不溶解分が生じたり、液が濃い白濁を生じたり、必要な固形分濃度のミセル会合体溶液を作製することが困難になることがある。
用いるアルカリとしては、NaOH、KOH等のアルカリ金属水酸化物、TMAH、TEAH、アンモニア、アンモニウム系化合物、第4級アンモニウム系化合物、アミン系化合物が用いられる。
次に、液攪拌時の温度であるが、液の温度が、用いる共重合体のガラス転移点よりも15℃以上高いことが好ましい。好ましくは25℃以上高い温度がよいが、その温度が水の沸点に近くなる場合は、水に共沸性の良溶解多価アルコール系の高沸点溶剤を混合することが有効である。
アルカリの量を前記のように調節した場合でも、液温が共重合体のガラス転移点から15℃高い温度より低いと、平均径が300nm以上の白色気味の液が生成し、この液では分散顔料の径が小さくならず、凝集体も生じやすく、またミセル会合体に多くの顔料を内包し過ぎて重量的に重くなり、長期分散安定性が損なわれる。
攪拌時間は2〜6時間程度が適切である。攪拌時、強力な剪断力を特にかける必要はない。したがって、攪拌装置としては通常のものが制限なく使用できる。例えば、プロペラ攪拌法、回転子攪拌法だけでなく、超音波による振動攪拌が挙げられる。超音波攪拌の場合、共重合体としてガラス転移点が10℃から120℃の範囲のものを用い、このガラス転移点より20℃から50℃、好ましくは30℃から50℃高い温度範囲で超音波振動を与えながら共重合体溶液を攪拌することが好ましい。
【0035】
[顔料]
色材として分散される顔料は、有機顔料、無機顔料、含金属顔料等が適用でき、一種又は複数種混合して用いることもできる。有機顔料としては、アゾ系顔料、ナフトール系顔料、インドリノン系顔料、アントラキノン系顔料、インジゴ系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、フタロシアニン系顔料、ジケトピロロ系顔料、ペリレン系顔料等が好ましい。無機顔料としては、カーボンブラック系、酸化亜鉛系、酸化チタン系、酸化鉄系、群青、金属粉末等の顔料が好ましい。
用いる顔料の数平均粒子径(一次粒子径)が2nmないし200nmの範囲が適切であり、好ましくは30nmないし100nmの範囲にあることが好ましい。2nmから200nmの範囲の場合、顔料分散安定性が向上し、また、可視光波長の二分の一以下より短い粒子径の場合は画像被膜の透明性も高く、画像部の色再現域が広がり、高色調・高彩度の印字画像が得られる。2nm以下の粒子径を有する微粒子は、粒子が飛散しやすく表面積が大きくなる為に、物理的な安定性が低くなり、各種作業時の処理が難しくなる。
本発明の水性インキにおいては、いかなる顔料を用いても良好な顔料分散性が得られる。したがって、顔料は自己分散型顔料であったり、特にイオン基を表面に持つものである必要性はない。また、表面処理により親水性基を含む金属化合物粒子に対しても良い分散性も得られる。本発明において特に顕著な分散効果が得られるのは、通常分散が難しい、表面が疎水性の有機顔料用いる場合である。(なお、自己分散性顔料は、顔料粒子表面のイオン状態を乱し、良好な分散性を損なうことがある。)
顔料は、そのままでもまた顔料分散物としてミセル会合体溶液に加えることができる。その後、一時的にホモジナイザーやブラストミル等の強い分散処理を与えてもよい。
本発明においては、前記のごとき径の範囲のミセル会合体を含有する液に、顔料を分散させることにより、良好な顔料分散性と長期分散安定性が得られる。
【0036】
[水性インキの調製]
水性インキの調製法に特に制限はないが、前記のようにして作製したミセル会合体のコロイド溶液に顔料又はその分散物を分散させる方法が好ましい。ミセル会合体溶液中への顔料の分散は、例えばビーズミル法、ロールミル法、超音波分散法、ジェットミル法、ホモジナイザー法等の1つ又は複数を用いることにより行われる。
分散工程の精度を上げるため、分級工程として遠心分離法や各種開口径の異なるフィルターによる多段加圧濾過分級法等も用いることもできる。
【0037】
本発明の水性インキには、顔料を35質量%程度まで含有しうる。また、共重合体を35質量%程度まで含有しうる。例えば、インクジェット記録インキの場合には、顔料を1〜35質量%程度、好ましくは2〜10質量%程度含み、印刷インキでは5〜35質量%程度、好ましくは10〜25質量%程度含むことが適切である。また、共重合体は、インクジェット記録インキの場合には、0.1〜35質量%程度、好ましくは1〜5質量%程度含み、印刷インキでは10〜35質量%程度、好ましくは15〜30質量%程度含むことが適切である。
また、インクジェット記録インキの場合、顔料と共重合体の比(質量)は、10:0.1〜10:20が好ましく、より好ましくは10:1から10:5である。また、印刷インキの場合、顔料と共重合体の比(質量)は、10:1〜10:200が好ましく、より好ましくは10:5〜10:50である。
また、本発明の水性インキには、適宜他の成分を加えることができる。たとえば、インクジェット記録インキには湿潤剤を添加することができる。湿潤剤は水に可溶の液体で、沸点80℃以上で、蒸気圧が100mmHg以下である液体が用いられ、水性インキに対し5〜65質量%程度加えることが適切である。
湿潤剤としては、多価アルコール類、グリコールエーテル類等が用いられ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、カルビトール、ブチルカルビトール、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、2‐(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール等であり、1種又は2種以上が用いられる。
さらに、防腐剤および/または防カビ剤を水性インキ全体に対し、0.05〜4質量%含ませることができる。
本発明の水性インキにおける固形分含有量は2〜40質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0038】
また、水性インキのpHは、本発明において用いる共重合体の前記のごときヒステリシス特性を利用して、印字膜の水性媒体に対する堅牢性や凝集力を高め、印字濃度低下や画像の滲みを低減させるために、共重合体が溶解状態から上澄みを発生して沈殿を生じるpH点(白濁開始pH点)から、好ましくは、0.5から4.0高いpH領域、より好ましくは、1.0から3.0高いpH領域に調節することが好ましい。
【0039】
また、本発明の水性インキ中の分散顔料の数平均粒径が2nmないし200nmであることが好ましい。
【0040】
[印字部の後処理方法]
本発明の水性インキを用いて印字を行なった後、印字部に特定の処理、即ち、印字後10秒以内に、1)印字部をオゾン雰囲気に曝す処理又は2)印字部を酸性雰囲気に曝す処理を行うことにより、耐水性等の画像堅牢性を一層向上させることができる。前記1)の印字部をオゾン雰囲気に曝す処理及び前記2)の印字部を酸性雰囲気に曝す処理により、インク液のpHが低下する。そうすると、前述のように酸性基を有する本発明の共重合体の特性に基づいて共重合体の溶解度が急激に低下し、印字膜の堅牢性(耐水性)が増す。
前記1)の印字部をオゾン雰囲気に曝す処理としては例えばコロナ放電処理、陰性放電処理等の放電処理の他、通常のオゾン発生装置を用いることが可能である。また、前記2)の印字部を酸性雰囲気に曝す処理としては、例えば、酸性水溶液ミスト中を通過させる処理、酸性水溶液中を通過させる処理、又は酸性水溶液を塗布する処理等の酸性水性液体による印字面の処理や、酸性蒸気を吹き付けたり酸性蒸気中を通過させる処理等が有効な処理手段となる。
また、前記1)又は2)の処理時間は、オゾン濃度や酸性溶液pH等により異なるが通常数秒程度でよい。
【0041】
また、前記1)又は2)の処理に加えて、印字部を35〜150℃に加熱する処理も画像堅牢性を高めるために有効な後処理手段である。加熱処理は前記1)又は2)の処理と同時であってもよく、また、その後であってもよい。また前記2)の処理であって、酸性ミスト等の酸性水性液体により処理を行なう場合には、その前に加熱処理を行なってもよい。カルボキシル基を有する共重合体の場合、加熱処理により共重合体内部で架橋反応が生じ遊離のカルボキシル基の数が減少して、水への共重合体の溶解度が大きく低下することにより画像の耐水性が改善される。
さらに、前記アルカリ水性媒体の調製時、アルカリとしてその全部又は一部を沸点が40℃〜150℃以下のアルカリ(アンモニウム系化合物、第4級アンモニウム化合物及びアミン系化合物等のpH調整剤)を用いると、加熱処理の際pH調整剤が揮散せしめられ、インク液のpH低下の一助となる。pH調整剤が画像被膜に悪影響を与える場合、この加熱処理によりその悪影響を除くこともできる。pH調整剤は、水性インキ中の濃度が、50mmモル/Kgから20モル/Kgの範囲 、好ましくは0.11モル/Kgから10モル/Kgの範囲 、より好ましくは0.66モル/Kgから5モル/Kgの範囲が適切である。
【0042】
本発明において前記のごとき後処理を2以上行う場合には、少なくとも最初の後処理は10秒以内に行うことが必要であるが、すべての後処理を印字後10秒以内に行うことが好ましい。
【0043】
[後処理装置]
前述の印字部の後処理方法に用いる後処理装置は、印字部をオゾン雰囲気に曝すためのオゾン発生装置又は印字部を酸性雰囲気に曝すための酸性雰囲気発生装置を備えている。オゾン発生装置としてはコロナ放電装置、陰性放電装置等の放電装置が用いられる。また、酸性雰囲気発生装置としては酸性水溶液ミストを噴霧する装置、酸性蒸気発生装置、酸性水溶液塗布装置等が用いられる。
また、前記オゾン発生装置又は酸性雰囲気発生装置と同じ場所、又は該装置の上流側若しくは下流側(記録媒体の搬送方向)に印字部を加熱する加熱装置を設けることができる。加熱装置としては温風発生装置、加熱ロール、輻射加熱装置、雰囲気加熱装置等が挙げられる。
【0044】
図1は、本発明の後処理装置の一例を示す概念図で、図1中、1は記録紙を、10はインクジェット記録装置におけるインクジェットヘッドを、12はプラテンロールを、14は紙送りロールを、30はコロナ放電装置を、32はコロナ放電ヘッドを、34はコロナ放電ヘッドの対向電極ロールをそれぞれ示す。
図2は、印字部を最初に温風で加熱処理し、その後印字部を酸性ミスト中を通過させる後処理装置の概念図を示すもので、図2中、1、10、12及び14は、図1において同じ符合で表されるものを意味し、16は紙送りロールを、40は温温風噴き出しヘッド(図示しない温風供給装置に連結される)を、50は酸性ミスト噴霧ヘッド(図示しない酸性ミスト供給装置に連結される)をそれぞれ示す。
図3の後処理装置は、印字部をオゾン雰囲気に曝した後、加熱ロールの下を通して印字部を加熱処理する態様のものである。図3中、1、14、16は、図2において同じ符合で表されるものを意味し、60は陰性放電装置を、62は放電ヘッドを、64は放電ヘッドに対向する電極を兼ねるプラテンロールを、70は加熱ロールをそれぞれ示す。
【0045】
本発明の後処理装置は、前記のごとき簡便な装置であり、インクジェット記録装置や印刷装置の下流側に配置するだけでよく、また、独立の装置としても或いはインクジェット記録装置や印刷装置に一体に組み込んでもよい。
【実施例】
以下に実施例を示し本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
共重合体(スチレン−アクリル酸−アクリル酸へキシルのランダム三元共重合体:重量平均分子量19,000、共重合比(質量)=35/22/43、酸価120、ガラス転移点55℃,流動開始点90℃、分解点247℃、析出開始点pH5.8)200gに蒸留水750gを加え、これにジメチルアミノエタノール水溶液(20質量%)をpHが8.1になるように徐々に混合しながら溶解を行い、得られた溶液を89℃に加熱しながら、5時間30分スリーワンモータープロペラ攪拌機を用いて溶解兼コロイド溶液作製工程を行った。そして最終的に液の濃度調整を行い、固形分濃度が20質量%のコロイド水溶液を調製した。
このコロイド溶液と銅フタロシアニン青色超微粒子顔料(一次平均粒子32nm)を固形分比率で4対6に混合し、これにジエチレングリコールを添加後の液の20質量%になるように加え、強制加圧型顔料分散装置を用いて分散させた。分散顔料粒子径をレーザー散乱微粒子径測定装置を用いて測定したところ、平均粒子径36nmであった。
これに更に、蒸留水、ジエチレングリコール、水酸化カリウム及び防カビ剤を添加し、1μm径メッシュの加圧濾過工程を経て、pH8.2、顔料濃度4質量%、共重合体濃度2.7質量%、エチレングリコール16質量%のシアン色インクジェット用インキ液が得られた。
【0046】
市販のインクジェットプリンターの記録紙排出側に、図1で示されるようなコロナチャージャー(後処理装置)を配置した装置を用意した。インクジェットプリンターにより印字後、4秒後にコロナチャージャーと対向電極ロールの間を2秒間で通過するようにその配置を調節した。コロナチャージャーには−7KVの電圧を印可した。
この装置を用いて印字及び後処理を行い、印字特性を評価した。上質紙上にベタ印字したところ、乾燥後のソリッド画像部におけるシアン色光学反射濃度が1.65であった。画像部を白い布で擦っても顔料の離脱は観察されなかった。また、この画像記録紙を水道水に1分浸漬したが、光学反射濃度の低下は0.1以下であり、良好な画像堅牢性が示された。
【0047】
実施例2
共重合体(スチレン−アクリル酸−メタクリル酸ブチル共重合体:重量平均分子量14,000、共重合比(質量)=30/18/52、酸価110、ガラス転移点49℃、流動開始点90℃、分解開始点239℃、析出開始点pH5.9)450gに蒸留水1000gを添加し、これにアンモニア水(25質量%水溶液)をpHが8.2になるように添加し、これを混合しながら溶解を行い、得られた溶液を90℃に加熱しながら、4時間スリーワンモータープロペラ攪拌機を用いて溶解兼コロイド溶液作製工程を行った。そして最終的に液の濃度調整を行い、固形分濃度40質量%のコロイド水溶液を調製した。
その後、このコロイド溶液と銅フタロシアニン系青色超微粒子顔料とを、質量固形分比率が5対5になるように混合し、液の温度が78℃になるように加熱した状態で、高強度ロールミル分散装置を用いて混合分散させて顔料分散液を得た。(この顔料分散液を希釈し、分散顔料粒子径をレーザー散乱微粒子径測定装置を用いて測定したところ、平均粒子径68nmであった。)
前記の顔料分散液を希釈して固形分濃度40質量%のオフセット印刷インクを得た。
【0048】
普通紙に上記印刷インクを用いてオフセット印刷をした後、次のような後処理を行った。後処理装置は図2で示されるような温風吹き出し装置と酸性ミスト噴霧装置を用い、印刷後、印字部が5秒後に温風雰囲気を2秒間で通過し、その後1秒後に酸性ミスト雰囲気中を5秒間で通過するように、記録紙の搬送速度と、温風吹き出し装置及び酸性ミスト噴霧装置の位置を調節した。温風温度は80℃に、また酸性ミストのpHは3に調節した。
この後処理の後乾燥処理を行った。印刷物を純水に5分間浸漬したが、画像流れは確認できなかった。温風処理及び酸性ミスト処理を行わなかった印刷物は、画像の境界部分ににじみを生じた。
【0049】
実施例3
共重合体(α−メチルスチレン−メタクリル酸−メタクリル酸ブチル共重合体:重量平均分子量17,000、共重合比(質量)=37/23/40、酸価132、ガラス転移点50℃、流動開始点84℃、分解開始点235℃、析出開始点pH6.2)400gに蒸留水1700gを加え、これにテトラメチルアンモニウムヒドロキシドをpHが8.1になるように添加し、混合しながら溶解を行い、得られた溶液を90℃に加熱しながら、6時間高強度の強制攪拌をスリーワンモータプロペラ攪拌機を用いて行い、溶解兼コロイド溶液調製工程を行った。そして最終的に液の濃度調整を行い、固形分濃度20質量%のコロイド水溶液を得た。
次にこのコロイド溶液とアゾ系赤色超微粒子顔料を固形分比率で8対2で混合し、これにジエチレングリコールを添加後の液の20質量%になるように加え、高強度サンドミル分散装置を用いて、顔料を含む分散液を作製した。この液の分散顔料粒子径をレーザー散乱微粒子径測定装置を用いて測定したところ、平均粒子径46nmであった。
これに更に、蒸留水、ジエチレングリコール、水酸化カリ及び防カビ剤を添加し、1μm径メッシュの加圧濾過工程を経て、pH8.0、顔料濃度8質量%、共重合体濃度2.5質量%、エチレングリコール26質量%のマゼンタ色インクジェット用インキ液を得た。
【0050】
このインクジェットインキを用い、実施例1と同様にして印字及び後処理を行った。印字部を水道水に2分間浸漬し、10箇所の測定箇所で画像光学濃度を測定したが、浸漬前との画像光学濃度の変化は平均で0.05であり、大きな画像光学濃度変化がないことが確認された。本発明の後処理を行わない場合には、画像光学濃度変化は0.43であった。
【0051】
実施例4
共重合体(α−メチルスチレン−メタクリル酸−アクリル酸エチル共重合体:重量平均分子量20,000、共重合比(質量)=39/28/33、酸価142、ガラス転移点58℃、流動開始点104℃、分解開始点245℃、析出開始点pH6.2)400gに蒸留水1000gを加え、これにテトラメチルアンモニウムヒドロキシドをpHが8.1になるように添加し、混合しながら溶解を行い、得られた溶液を90℃に加熱しながら、3時間高強度の強制攪拌を、スリーワンモータープロペラ攪拌機と超音波震動機も併用して行い、溶解兼コロイド溶液調製工程を行った。そして最終的に液の濃度調整を行い、固形分濃度27質量%のコロイド水溶液を調製した。
次にこの樹脂溶液とカーボンブラック黒色超微粒子顔料とを固形分比率で4対6で混合し、これにジエチレングリコールを添加後の液の15質量%になるように加え、高強度ロールミル分散装置を用いて、顔料を含む分散液を作製した。この液の分散顔料粒子径をレーザー散乱微粒子径測定装置を用いて測定したところ、平均粒子径76nmであった。
これに更に、蒸留水、ジエチレングリコール、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び防カビ剤を添加し、0.7μm径メッシュの加圧濾過工程を経て、pH7.9、顔料濃度5.5質量%、共重合体濃度2.7質量%、エチレングリコール30質量%の黒色インクジェット用インキ液を得た。
【0052】
市販のインクジェットプリンターの記録紙排出側に、図3で示されるような放電装置と加熱ロール(後処理装置)を配置した装置を用意した。後処理装置はインクジェットプリンターにより印字後、印字部が6秒後に放電ヘッド(印加電圧−4.5KV)の下を2秒間で通過し、また印字後10秒後に表面温度が120℃の加熱ロール上を4秒間で通過するように、記録紙の搬送速度と、放電装置及び加熱ロールの位置を調節した。
この装置を用いて印字及び後処理を行いさらに乾燥処理を行った。印刷物を純水による5分間浸漬したが、画像流れは確認できなかった。後処理を行わなかった印刷物は、画像の境界部分ににじみを生じた。
【0053】
【発明の効果】
本発明で用いる水性インキは、液の粘度を上げることなく、共重合体及び顔料の双方の濃度を高くすることが可能になり、その結果、色再現範囲が広くなり普通紙を用いても高色調画像が得られ、また、他の特性(例えば、インクジェットノズル噴射特性や印刷特性)を損なうことなく、画像が高濃度化され高画質の画像が得られる。また、本発明の水性インキを用いて形成される画像は高透明性で色再現範囲が広い(高色調画像)という特徴を有し、画像被膜は堅牢性(耐水性、耐光性、耐久性等)に優れている。さらに本発明の水性インキでは、通常インキに加えるpH緩衝剤の添加が不用となる。この他、本発明の水性インキをインクジェット記録に用いる場合、ノズルからのインキ吐出性(ノズル目詰まり等)に関する信頼性が向上する。
そして、前記水性インキを用いて印字後、本発明の後処理を行うため、画像被膜の堅牢性(耐水性)が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の後処理装置(オゾン雰囲気)をインクジェット記録装置に配置した概念図を示す。
【図2】本発明の他の後処理装置(温風、酸性ミスト)をインクジェット記録装置に配置した概念図を示す。
【図3】本発明の他の後処理装置(オゾン雰囲気、加熱)の例を示す概念図である。
【符号の説明】
1 記録紙
10 インクジェット記録ヘッド
14、16 紙送りロール
30 コロナ放電装置
34 対向電極ロール
40 温風噴き出しヘッド
50 酸性ミスト噴霧ヘッド
60 陰性放電装置
70 加熱ロール
Claims (20)
- 記録媒体の上に、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーの1種以上、イオン解離する酸性基を含有するモノマーの1種以上、及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルの1種以上からの各構成単位を含む共重合体のアルカリ中和物を含むミセル会合体、顔料及び水性媒体を少なくとも含む水性インキを用いて印字した印字部に行う後処理方法であって、印字後10秒以内に、1)印字部をオゾン雰囲気に曝す処理、又は2)印字部を酸性雰囲気に曝す処理を行うことを特徴とする、印字部の後処理方法。
- 前記1)又は2)の処理に加え、印字部を35〜150℃の温度範囲において加熱処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記ミセル会合体の平均径が10nm〜300nmであることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記共重合体の酸性基がカルボキシル基であることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記共重合体の酸価が60〜160であることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記共重合体の数平均分子量が6,000〜30,000であることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記共重合体のガラス転移点が10〜120℃であることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記共重合体が少なくとも230℃の耐熱性を有することを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記共重合体の、アルケン、スチレン及びその誘導体ならびにビニルナフタレン及びその誘導体から選ばれるモノマーからの構成単位が15〜55質量%であり、イオン解離する酸性基を含有するモノマーからの構成単位が9〜28質量%であり、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルからの構成単位が20〜75質量%であることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記水性インキに対する前記共重合体のアルカリ中和物の含有率が0.1〜35質量%であることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記水性インキ中の分散顔料の数平均粒径が2nmないし200nmであることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記顔料の含有量が1〜35質量%であることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記水性インキの固形分含有量が2〜40質量%であることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記共重合体として、共重合体水溶液のpHを変化させた場合、pH変化量が2.5以内において、共重合体が溶解又はコロイド状態から上澄みを生じて沈殿する共重合体を用いることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記水性インキのpHを、共重合体が溶解状態から上澄みを発生して沈殿を生じるpH点から、0.5ないし4.0高いpH領域に調節することを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 沸点が40℃〜150℃のpH調節剤によりpH調節を行なうことを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 前記pH調節剤の添加量が100ミリモル/Kg〜20モル/Kgであることを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- さらに、水に可溶の液体で、沸点80℃以上蒸気圧が100mmHg以下の湿潤剤を5〜50質量%含むことを特徴とする請求項1に記載の印字部の後処理方法。
- 請求項1に記載の印字部の後処理方法に用いる後処理装置であって、印字部をオゾン雰囲気に曝すためのオゾン発生装置又は印字部を酸性雰囲気に曝すための酸性雰囲気発生装置を備えた後処理装置。
- さらに印字部を加熱処理するための加熱装置を設けた請求項19に記載の後処理装置。
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Cited By (4)
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2003
- 2003-06-26 JP JP2003182814A patent/JP2005014419A/ja active Pending
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