JP2005009508A - ドラムブレーキ装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】ブレーキ力に応じて制動力を制御可能なシュー駆動カムを備えるドラムブレーキ装置において、制動解除時のブレーキシューの戻り不良による引き摺りの発生を防止する。
【解決手段】ブレーキシューからアンカピンに作用するブレーキ力に応じて制動力をメカ的に制御するシュー駆動カムを備えるドラムブレーキ装置において、アンカピン10に回動自在に支持されるカム板76と、操作力発生手段6からシュー操作力を受けるレバープレート30とを、各ブレーキシュー3,4に当接した一対のカムピン21,23を介して相対回動可能に連結して、レバープレート30及び一対のカムピン21,23から構成される入力系統の伝達機構と、一対のカムピン21,23とカム板76とで構成される制御系統の伝達機構とを、相互間で直接的な動力伝達が行われない分離状態にする。
【選択図】 図1
【解決手段】ブレーキシューからアンカピンに作用するブレーキ力に応じて制動力をメカ的に制御するシュー駆動カムを備えるドラムブレーキ装置において、アンカピン10に回動自在に支持されるカム板76と、操作力発生手段6からシュー操作力を受けるレバープレート30とを、各ブレーキシュー3,4に当接した一対のカムピン21,23を介して相対回動可能に連結して、レバープレート30及び一対のカムピン21,23から構成される入力系統の伝達機構と、一対のカムピン21,23とカム板76とで構成される制御系統の伝達機構とを、相互間で直接的な動力伝達が行われない分離状態にする。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブレーキシューのドラムへの押圧力をブレーキ力に応じて制御して、ブレーキの高い効きと安定性を確保できるドラムブレーキ装置に関し、詳しくは、制動操作時の入力の伝達を円滑にするための改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両の走行を制動するために種々の形式のドラムブレーキ装置が用いられているが、これらのドラムブレーキ装置は、略円筒状のドラムの内周面に押圧されるブレーキシューの配置によって、リーディングトレーリング式やツーリーディング式、若しくはデュオサーボ式等に分類される。
【0003】
デュオサーボ式のドラムブレーキ装置は、一般に、円筒状のドラム内に、互いに対向して配置されたプライマリ・シューとセカンダリ・シューの一対のブレーキシューを備える。
プライマリ・シューは、ドラムの前進回転方向入口側が入力部とされると共に、ドラムの前進回転方向出口側は例えばアジャスタを介してセカンダリ・シューの入口側に連結される。一方、セカンダリ・シューの出口側はバッキングプレート上に装備されたアンカ部に当接させられ、プライマリ・シュー及びセカンダリ・シューに作用するブレーキ力(制動トルク)をアンカ部で受け止めるようになっている。
【0004】
これにより、プライマリ・シュー及びセカンダリ・シューを拡開させてドラムの内周面に押し付けると、プライマリ・シューに作用するブレーキ力がセカンダリ・シューの入口側に入力してセカンダリ・シューをドラム内周面に押し付けるように作用するため、プライマリ・シューとセカンダリ・シューの双方に自己サーボ作用が働き、非常にゲインの高い制動力を得ることができる。
【0005】
前述したデュオサーボ式ドラムブレーキ装置は、リーディングトレーリング式やツーリーディング式のドラムブレーキ装置と比較して、極めて高い制動力を得ることができるばかりでなく、小型化し易く、かつパーキングブレーキの組み込みも容易である等の多くの長所を有している。
ところが、このようなデュオサーボ式ドラムブレーキ装置は、ブレーキシューのライニングの摩擦係数の変化に敏感であるため、制動力を安定させにくい傾向にあり、制動力を安定化させる工夫が要求されている。
【0006】
また、最近の車両用のブレーキ装置は、アンチロックブレーキシステムを始めとするブレーキ機能のインテリジェント化や、環境汚染の軽減等に適した電気自動車(EV車)等への対応のため、ブレーキ装置の電動化も重要課題とされている。
【0007】
このような背景から、本願出願人は、制動時にブレーキシューを拡開するシュー駆動機構として、サービスブレーキ時に操作力発生手段から入力レバーに伝達されるシュー操作力に応じて一対のブレーキシューを拡開してドラムに押圧する一方、制動時にアンカピンに作用するブレーキ力がシュー操作力に対して所定倍率に達するとシュー操作力の作用を減ずる方向の制動制限力を入力レバーに作用させるリンク機構を、既に提案している(例えば、特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】
特開2001−254766号公報
【0009】
このリンク機構を使用することで、デュオサーボ式ドラムブレーキ装置における制動力の安定化が図れ、更に、上記の操作力発生手段として、従来の液圧式のホイールシリンダの代わりに、電動モータ等を利用した電動式の操作力発生手段を採用するだけで、ブレーキ装置の電動化も容易に実現することができた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前述したシュー駆動機構としての従来のリンク機構は、制動時のブレーキ力を入力レバーにフィードバックして、制動力を制御する構成のため、制動中に入力レバーにフィードバックされるブレーキ力が、ブレーキシューへの入力伝達の妨げになって、入力伝達の円滑性が損なわれたり、入力の伝達効率の低下を招く虞があった。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ブレーキ力に応じて制動力が制御可能で、ブレーキの安定した効きを確保できると同時に、制動力を制御するためにフィードバックされるブレーキ力が、ブレーキシューを拡開する入力伝達手段には伝達されず、制動操作時の入力の伝達を円滑にすると共に、入力の伝達効率を向上させることのできるドラムブレーキ装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明に係るドラムブレーキ装置は、ドラム内に対向配置される一対のブレーキシューを、操作力発生手段の発生するシュー操作力によりドラムに押圧して制動力を発生させると共に、制動時にブレーキシューに作用するブレーキ力を利用して前記制動力を制御するシュー駆動カムを備えたドラムブレーキ装置において、前記シュー駆動カムは、各ブレーキシューの端部に当接する一対のカムピンと、バッキングプレートに立設したアンカピンに回転可能に支持されると共に前記一対のカムピンを遊嵌状態に挿通させたカム板と、前記操作力発生手段によるシュー操作力を受ける入力受け部を有して前記一対のカムピンに係合するレバープレートとを備え、前記カム板が前記シュー操作力に応じた前記レバープレートの回動に伴い前記カムピンを介して前記一対のブレーキシューを拡開すると共に、前記カムピンの何れかに作用するブレーキ力に応じて前記アンカピンの周りを回動することにより前記制動力の制御を行うことを特徴とする。
【0013】
このように構成されたドラムブレーキ装置においては、制動操作時には、操作力発生手段の出力するシュー操作力を受けたシュー駆動カムのレバープレートの回動動作によって一対のカムピンが変位し、この一対のカムピンの変位に追従する各ブレーキシューの拡開によって制動力を発生させる。
そして、制動時には、出力側のブレーキシューからカムピンに作用するブレーキ力が、カムピンを挿通させたカム板に伝達される。そして、伝達されたブレーキ力でカム板がアンカピン周りに回動すると、それに伴うカムピンの変位によって、カムピンによるブレーキシューの拘束が緩和されて、制動力の上昇を抑える制御作用が生じる。
【0014】
また、以上のシュー駆動カムは、操作力発生手段と各ブレーキシューとの間に配置されて制動力の制御をメカ的に行うため、操作力発生手段としては、従来の油圧式ホイールシリンダ等の液圧式のアクチュエータだけでなく、電動モータ等の電動式のアクチュエータを使用することができる。
【0015】
更に、以上のシュー駆動カムにおいて、カム板とレバープレートとは一対のカムピンを介して互いに連結された機構であるが、これらカム板及びレバープレートのカムピンに対する係合形態を工夫することによって、カム板とレバープレートとを相対回動可能な連結構造にすることができる。そして、カム板とレバープレートとを相対回動可能に連結することで、レバープレート及び一対のカムピンから構成される入力系統の伝達機構と、一対のカムピンとカム板とで構成される制御系統の伝達機構とを、相互間で直接的な動力伝達が行われない分離状態にすることができ、制動時にカム板に作用するブレーキ力のレバープレートへの伝達を排除することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るドラムブレーキ装置の好適な実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るドラムブレーキ装置の好適な実施の形態の正面図である。 この実施の形態のドラムブレーキ装置1は、所謂、デュオサーボ式ドラムブレーキ装置で、図示せぬ略円筒形のドラム内の空間に対向配備されるプライマリ・シュー3及びセカンダリ・シュー4の一対のブレーキシュー3,4と、これら一対のブレーキシュー3,4の一方の対向端側に配設されてサービスブレーキの操作時に各ブレーキシュー3,4をドラム内周面に押圧するためのシュー操作力を発生する操作力発生手段6と、この操作力発生手段6の発生する操作力を各ブレーキシュー3,4に伝達するシュー駆動機構であるシュー駆動カム7と、各ブレーキシュー3,4の他方の対向端間に配設されてプライマリ・シュー3の出力をセカンダリ・シュー4に入力するリンク機能を兼ねたアジャスタユニット8と、これらの構成部材を支持するバッキングプレート上に立設されたアンカピン10とを備えている。
【0017】
なお、図1では、バッキングプレートやドラムは図示が省略されている。また、各ブレーキシュー3,4の端部相互を互いに接近する方向に付勢するシューリターンスプリングや、アジャスタユニット8を駆動する機構等も、図示が省略されている。
なお、図示せぬドラムは、バッキングプレートと同心で、車両の前進時には図1の矢印R方向に回転する。
【0018】
また、ブレーキシュー3,4は、ドラムの内周に向かって移動可能に、図示せぬシューホールドダウン装置によりバッキングプレートに取り付けられている。
そして、各ブレーキシュー3,4の操作力発生手段6側の端部は、図示せぬシューリターンスプリングを介して、それぞれのシューの端部が互いに接近する方向(即ち、ドラムから離間する方向)に付勢されている。
また、各ブレーキシュー3,4のアジャスタユニット8側の端部相互も、図示せぬシュートゥシュースプリングの付勢力によって、アジャスタユニット8の端部に当接した状態が維持されるように付勢されている。
【0019】
本実施の形態の場合、操作力発生手段6は、サービスブレーキ用のブレーキペダル等のブレーキ操作に応じて出力ロッドが矢印(イ)方向に進出して、シュー操作力W(図6参照)となる押圧力を出力するホイールシリンダである。
【0020】
アジャスタユニット8は、本来は、各ブレーキシュー3,4のライニングの摩耗の進行に応じて、これらのブレーキシュー3,4の端部間の間隔を調整するもので、制動時のブレーキシュー3,4の変位量に応じて回動するアジャスタレバーの回動動作で調整用歯車8aを回転操作して、ブレーキシュー3,4の端部間の間隔を自動調整するように構成されている。
【0021】
本実施の形態のシュー駆動カム7は、図6に示すように、一対のレバープレート30と、これらのレバープレート30,30間において互いに離間状態に配置され、ピン嵌合穴76aによってアンカピン10に回転自在に支持される一対のカム板76と、後述するプライマリカムピン21及びセカンダリカムピン23と、一対のレバープレート30,30間に軸支され操作力発生手段6からシュー操作力Wを受ける入力受け部としての入力ピン25とを備えて構成される。
【0022】
プライマリカムピン21及びセカンダリカムピン23は、図1及び図7に示すように、プライマリカムピン21がプライマリ・シュー3の端部に当接するシュー係合カム部として作用し、セカンダリカムピン23がセカンダリ・シュー4の端部に当接するシュー係合カム部として作用するもので、アンカピン10を挟んで、プライマリカムピン21がドラムの半径方向外側の位置に、セカンダリカムピン23がドラムの半径方向内側の位置に配置されている。
そして、図7に示すように、入力ピン25は、セカンダリカムピン23よりも更に半径方向内径側に離間した位置に配置されている。
【0023】
また、本実施の形態の場合、上記した各カムピン21,23は、カム板76に回転自在に挿通されると共に、図2、図5に示すように、カムピン21,23を変位可能にする隙間Δs1,Δs2を有する形状に設定されたピン嵌合穴76b,76cに遊嵌して、レバープレート30と係合している。
そして、上記の各カムピン21,23は、図2に示すように、制動操作が行われない非制動時は、外周面が各ブレーキシュー3,4から隙間Δs1,Δs2だけ離間した非接触位置に配置されている。しかし、各カムピン21,23には、図4に示すように、一対のカム板76,76間においてリング体21a,23aが外嵌されており、各ブレーキシュー3,4は、一対のカム板76,76間に配置されることにより、これらのリング体21a,23aを介して各カムピン21,23と当接されている。
【0024】
レバープレート30は、金属板のプレス成形等で形成されたもので、既述したように、カム板76を挟むように上下に一対設けられている。
これら一対のレバープレート30相互は、一端側が、操作力発生手段6からのシュー操作力Wを受ける入力ピン25により連結されている。
また、各レバープレート30は、プライマリカムピン21に係合する湾曲凹面状のピン係合部30aと、セカンダリカムピン23が嵌合する孔状のピン係合部30bとを有している。
【0025】
レバープレート30は、これら一対のピン係合部30a,30bに、一対のカムピン21,23をそれぞれ係合させることで、何れかのカムピン21,23を支点に回動可能に、カム板76に連結される。
また、カムピン21,23はカム板76上を変位可能であり、このカムピン21,23の移動距離によって、ピン係合部30a,30bに係合されるレバープレート30が、カム板76に対して移動可能になっている。
【0026】
以上のシュー駆動カム7では、例えば前進制動時には、図7に示すように、入力ピン25に操作力発生手段6のシュー操作力Wを受けることで、レバープレート30にカムピン21又はカムピン23を支点とした図中反時計方向の回動を生じさせ、それに伴う各カムピン21,23の変位によって、各ブレーキシュー3,4を拡開して制動力を発生させる。即ち、レバープレート30及びカムピン21,23が、シュー操作力Wをブレーキシュー3,4に伝達する入力系統の伝達機構として働く。
なお、一対のブレーキシュー3,4の拡開時には、カムピン21,23の変位に追従して、カム板76がアンカピン10を回転中心とする反時計方向に回動変位する。
【0027】
一方、制動時には、出力側のブレーキシュー(前進制動時であればセカンダリ・シュー4、後進制動時であればプライマリ・シュー3)からセカンダリカムピン23又はプライマリカムピン21を介してカム板76にブレーキ力Faが作用する。このブレーキ力Faは、カム板76にアンカピン10を回転中心とする時計方向の回転モーメントM3を作用させ、カム板76の時計方向の回動に伴う一対のカムピン21,23の変位によって、制動力を減ずる方向に制動力を制御する。即ち、カムピン21,23及びカム板76が、ブレーキ力Faに応じて制動力の制御を行う制御系統の伝達機構として働く。
【0028】
この制動時のブレーキ力Faによるカム板76の時計方向の回動は微量であり、このカム板76の時計方向への回動に伴う一対のカムピン21,23の、隙間Δs1,Δs2を超えて移動する変位量もまた微量である。
即ち、ブレーキ力Faによるカム板76の時計方向の回動時、レバープレート30は、一対のカムピン21,23が変位しても、以前の位置を保持することができ、制御系統の伝達機構から入力系統の伝達機構へのブレーキ力Faの伝達を排除することができる。
【0029】
シュー駆動カム7において、入力ピン25とアンカピン10との間の離間距離をL1、操作力発生手段6から入力するシュー操作力をWとすると、シュー操作力Wによってカム板76に働く反時計方向の回転モーメントM1は、
M1=W×L1 ……(1)
である。
また、プライマリカムピン21がプライマリ・シュー3をドラムに押圧する力をF0、アンカピン10とプライマリカムピン21との間の離間距離をL2とすると、プライマリ・シュー3からの反力によってカム板76に作用する時計方向の回転モーメントM2は、
M2=F0×L2 ……(2)
である。
【0030】
また、図7に示す前進制動時において、セカンダリ・シュー4からセカンダリカムピン23を介してカム板76に作用するブレーキ力をFa、セカンダリカムピン23とアンカピン10との間の離間距離をsとすると、カム板76に作用するブレーキ力Faによってカム板76に働く時計方向の回転モーメントM3は、
M3=Fa×s ……(3)
である。
シュー駆動カム7は、これらの(1)〜(3)に示す回転モーメントがつり合うように、制動力を制御する。
【0031】
後進制動時には、操作力発生手段6からシュー操作力Wが入力ピン25に伝達されると、それによってレバープレート30がカムピン21又はカムピン23を支点に反時計方向に回動して、それに伴うカムピン21,23の移動によってブレーキシュー3,4を拡開して制動力を発生させる。
そして、制動時には、プライマリ・シュー3からカムピン21に作用するブレーキ力によって、カム板76に時計方向の回転モーメントが作用して、前進制動時と同様に、制動力の制御がなされる。この後進制動時においても、カム板76上でのカムピン21,23の変位により、ブレーキ力がレバープレート30に作用することは、排除される。
【0032】
以上に説明したドラムブレーキ装置1では、制動操作時には、操作力発生手段6の出力するシュー操作力Wを受けたシュー駆動カム7のレバープレート30の回動動作によって一対のカムピン21,23が変位し、この一対のカムピン21,23の変位に追従する各ブレーキシュー3,4の拡開によって制動力を発生させる。
そして、制動時には、出力側のブレーキシューからカムピンに作用するブレーキ力が、カムピン21,23を支持しているカム板76に伝達される。そして、伝達されたブレーキ力でカム板76がアンカピン周りに回動すると、それに伴うカムピン21,23の変位によって、カムピン21,23によるブレーキシュー3,4の拘束が緩和されて、制動力の上昇を抑える制御作用が生じる。そのため、安定したブレーキの効きを確保することができる。
【0033】
また、以上のシュー駆動カム7は、操作力発生手段6と各ブレーキシュー3,4との間に配置されて制動力の制御をメカ的に行うため、操作力発生手段6としては、従来の油圧式ホイールシリンダ等の液圧式のアクチュエータだけでなく、電動モータ等の電動式のアクチュエータを使用することができ、ブレーキ機能のインテリジェント化や車両のハイブリッド化等のための電動化も容易にできる。
【0034】
更に、以上のシュー駆動カム7において、カム板76とレバープレート30とは一対のカムピン21,23を介して互いに回動可能に連結された機構である。
そして、カム板76とレバープレート30とを相対回動可能に連結したことで、レバープレート30及び一対のカムピン21,23から構成される入力系統の伝達機構と、一対のカムピン21,23とカム板76とで構成される制御系統の伝達機構とを、相互間で直接的な動力伝達が行われない分離状態にすることができ、制動時にカム板76に作用するブレーキ力のレバープレート30への伝達を排除することができる。
従って、制動力を制御するためにフィードバックされるブレーキ力が、シュー操作力Wに応じてブレーキシューの拡開を行う入力伝達手段には伝達されず、制動操作時の入力の伝達を円滑にすると共に、入力の伝達効率を向上させることができる。
【0035】
なお、カム板76とレバープレート30とを相対回動可能に連結するために、上記実施の形態では、図2及び図5に明瞭に示したように、カムピン21,23が嵌合するカム板76,76上のピン嵌合孔76b,76cを、カムピン21,23の変位可能な隙間Δs1,Δs2を有した適宜形状に設定した。
しかし、カム板76とレバープレート30とを相対回動可能に連結する構造としては、カムピン21,23が、カム板76と係合する本体軸部に対し偏心してレバープレート30と係合するレバー用軸部を有した形状に設定して実現することも可能である。
【0036】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のドラムブレーキ装置によれば、制動操作時には、操作力発生手段の出力するシュー操作力を受けたシュー駆動カムのレバープレートの回動動作によって一対のカムピンが変位し、この一対のカムピンの変位に追従する各ブレーキシューの拡開によって制動力を発生させる。
そして、制動時には、出力側のブレーキシューからカムピンに作用するブレーキ力が、カムピンを支持しているカム板に伝達される。そして、伝達されたブレーキ力でカム板がアンカピン周りに回動すると、それに伴うカムピンの変位によって、カムピンによるブレーキシューの拘束が緩和されて、制動力の上昇を抑える制御作用が生じる。そのため、安定したブレーキの効きを確保することができる。
【0037】
また、シュー駆動カムは、操作力発生手段と各ブレーキシューとの間に配置されて制動力の制御をメカ的に行うため、操作力発生手段としては、従来の油圧式ホイールシリンダ等の液圧式のアクチュエータだけでなく、電動モータ等の電動式のアクチュエータを使用することができ、ブレーキ機能のインテリジェント化や車両のハイブリッド化等のための電動化も容易にできる。
【0038】
更に、本発明のシュー駆動カムにおいて、カム板とレバープレートとは一対のカムピンを介して互いに回動可能に連結された機構である。
そして、カム板とレバープレートとを相対回動可能に連結したことで、レバープレート及び一対のカムピンから構成される入力系統の伝達機構と、一対のカムピンとカム板とで構成される制御系統の伝達機構とを、相互間で直接的な動力伝達が行われない分離状態にすることができ、制動時にカム板に作用するブレーキ力のレバープレートへの伝達を排除することができる。
従って、制動力を制御するためにフィードバックされるブレーキ力が、シュー操作力に応じてブレーキシューの拡開を行う入力伝達手段には伝達されず、制動操作時の入力の伝達を円滑にすると共に、入力の伝達効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るドラムブレーキ装置の好適な実施の形態の要部の正面図である。
【図2】図1に示したシュー駆動カムの一方のレバープレートを取り外した状態の正面図である。
【図3】図2に示したシュー駆動カムの斜視図である。
【図4】図3に示したシュー駆動カムの更に一方のカム板を取り外した状態の斜視図である。
【図5】図1に示したシュー駆動カムの組立時の正面図である。
【図6】図5に示したシュー駆動カムの斜視図である。
【図7】図1に示したシュー駆動カムの前進制動時における各カムピンの回転挙動の説明図である。
【符号の説明】
1 ドラムブレーキ装置
3 プライマリ・シュー(ブレーキシュー)
4 セカンダリ・シュー(ブレーキシュー)
6 操作力発生手段(ホイールシリンダ)
7 シュー駆動カム(シュー駆動機構)
8 アジャスタユニット
10 アンカピン
21 プライマリカムピン(カムピン)
23 セカンダリカムピン(カムピン)
25 入力ピン
30 レバープレート
76 カム板
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブレーキシューのドラムへの押圧力をブレーキ力に応じて制御して、ブレーキの高い効きと安定性を確保できるドラムブレーキ装置に関し、詳しくは、制動操作時の入力の伝達を円滑にするための改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両の走行を制動するために種々の形式のドラムブレーキ装置が用いられているが、これらのドラムブレーキ装置は、略円筒状のドラムの内周面に押圧されるブレーキシューの配置によって、リーディングトレーリング式やツーリーディング式、若しくはデュオサーボ式等に分類される。
【0003】
デュオサーボ式のドラムブレーキ装置は、一般に、円筒状のドラム内に、互いに対向して配置されたプライマリ・シューとセカンダリ・シューの一対のブレーキシューを備える。
プライマリ・シューは、ドラムの前進回転方向入口側が入力部とされると共に、ドラムの前進回転方向出口側は例えばアジャスタを介してセカンダリ・シューの入口側に連結される。一方、セカンダリ・シューの出口側はバッキングプレート上に装備されたアンカ部に当接させられ、プライマリ・シュー及びセカンダリ・シューに作用するブレーキ力(制動トルク)をアンカ部で受け止めるようになっている。
【0004】
これにより、プライマリ・シュー及びセカンダリ・シューを拡開させてドラムの内周面に押し付けると、プライマリ・シューに作用するブレーキ力がセカンダリ・シューの入口側に入力してセカンダリ・シューをドラム内周面に押し付けるように作用するため、プライマリ・シューとセカンダリ・シューの双方に自己サーボ作用が働き、非常にゲインの高い制動力を得ることができる。
【0005】
前述したデュオサーボ式ドラムブレーキ装置は、リーディングトレーリング式やツーリーディング式のドラムブレーキ装置と比較して、極めて高い制動力を得ることができるばかりでなく、小型化し易く、かつパーキングブレーキの組み込みも容易である等の多くの長所を有している。
ところが、このようなデュオサーボ式ドラムブレーキ装置は、ブレーキシューのライニングの摩擦係数の変化に敏感であるため、制動力を安定させにくい傾向にあり、制動力を安定化させる工夫が要求されている。
【0006】
また、最近の車両用のブレーキ装置は、アンチロックブレーキシステムを始めとするブレーキ機能のインテリジェント化や、環境汚染の軽減等に適した電気自動車(EV車)等への対応のため、ブレーキ装置の電動化も重要課題とされている。
【0007】
このような背景から、本願出願人は、制動時にブレーキシューを拡開するシュー駆動機構として、サービスブレーキ時に操作力発生手段から入力レバーに伝達されるシュー操作力に応じて一対のブレーキシューを拡開してドラムに押圧する一方、制動時にアンカピンに作用するブレーキ力がシュー操作力に対して所定倍率に達するとシュー操作力の作用を減ずる方向の制動制限力を入力レバーに作用させるリンク機構を、既に提案している(例えば、特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】
特開2001−254766号公報
【0009】
このリンク機構を使用することで、デュオサーボ式ドラムブレーキ装置における制動力の安定化が図れ、更に、上記の操作力発生手段として、従来の液圧式のホイールシリンダの代わりに、電動モータ等を利用した電動式の操作力発生手段を採用するだけで、ブレーキ装置の電動化も容易に実現することができた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前述したシュー駆動機構としての従来のリンク機構は、制動時のブレーキ力を入力レバーにフィードバックして、制動力を制御する構成のため、制動中に入力レバーにフィードバックされるブレーキ力が、ブレーキシューへの入力伝達の妨げになって、入力伝達の円滑性が損なわれたり、入力の伝達効率の低下を招く虞があった。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ブレーキ力に応じて制動力が制御可能で、ブレーキの安定した効きを確保できると同時に、制動力を制御するためにフィードバックされるブレーキ力が、ブレーキシューを拡開する入力伝達手段には伝達されず、制動操作時の入力の伝達を円滑にすると共に、入力の伝達効率を向上させることのできるドラムブレーキ装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明に係るドラムブレーキ装置は、ドラム内に対向配置される一対のブレーキシューを、操作力発生手段の発生するシュー操作力によりドラムに押圧して制動力を発生させると共に、制動時にブレーキシューに作用するブレーキ力を利用して前記制動力を制御するシュー駆動カムを備えたドラムブレーキ装置において、前記シュー駆動カムは、各ブレーキシューの端部に当接する一対のカムピンと、バッキングプレートに立設したアンカピンに回転可能に支持されると共に前記一対のカムピンを遊嵌状態に挿通させたカム板と、前記操作力発生手段によるシュー操作力を受ける入力受け部を有して前記一対のカムピンに係合するレバープレートとを備え、前記カム板が前記シュー操作力に応じた前記レバープレートの回動に伴い前記カムピンを介して前記一対のブレーキシューを拡開すると共に、前記カムピンの何れかに作用するブレーキ力に応じて前記アンカピンの周りを回動することにより前記制動力の制御を行うことを特徴とする。
【0013】
このように構成されたドラムブレーキ装置においては、制動操作時には、操作力発生手段の出力するシュー操作力を受けたシュー駆動カムのレバープレートの回動動作によって一対のカムピンが変位し、この一対のカムピンの変位に追従する各ブレーキシューの拡開によって制動力を発生させる。
そして、制動時には、出力側のブレーキシューからカムピンに作用するブレーキ力が、カムピンを挿通させたカム板に伝達される。そして、伝達されたブレーキ力でカム板がアンカピン周りに回動すると、それに伴うカムピンの変位によって、カムピンによるブレーキシューの拘束が緩和されて、制動力の上昇を抑える制御作用が生じる。
【0014】
また、以上のシュー駆動カムは、操作力発生手段と各ブレーキシューとの間に配置されて制動力の制御をメカ的に行うため、操作力発生手段としては、従来の油圧式ホイールシリンダ等の液圧式のアクチュエータだけでなく、電動モータ等の電動式のアクチュエータを使用することができる。
【0015】
更に、以上のシュー駆動カムにおいて、カム板とレバープレートとは一対のカムピンを介して互いに連結された機構であるが、これらカム板及びレバープレートのカムピンに対する係合形態を工夫することによって、カム板とレバープレートとを相対回動可能な連結構造にすることができる。そして、カム板とレバープレートとを相対回動可能に連結することで、レバープレート及び一対のカムピンから構成される入力系統の伝達機構と、一対のカムピンとカム板とで構成される制御系統の伝達機構とを、相互間で直接的な動力伝達が行われない分離状態にすることができ、制動時にカム板に作用するブレーキ力のレバープレートへの伝達を排除することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るドラムブレーキ装置の好適な実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るドラムブレーキ装置の好適な実施の形態の正面図である。 この実施の形態のドラムブレーキ装置1は、所謂、デュオサーボ式ドラムブレーキ装置で、図示せぬ略円筒形のドラム内の空間に対向配備されるプライマリ・シュー3及びセカンダリ・シュー4の一対のブレーキシュー3,4と、これら一対のブレーキシュー3,4の一方の対向端側に配設されてサービスブレーキの操作時に各ブレーキシュー3,4をドラム内周面に押圧するためのシュー操作力を発生する操作力発生手段6と、この操作力発生手段6の発生する操作力を各ブレーキシュー3,4に伝達するシュー駆動機構であるシュー駆動カム7と、各ブレーキシュー3,4の他方の対向端間に配設されてプライマリ・シュー3の出力をセカンダリ・シュー4に入力するリンク機能を兼ねたアジャスタユニット8と、これらの構成部材を支持するバッキングプレート上に立設されたアンカピン10とを備えている。
【0017】
なお、図1では、バッキングプレートやドラムは図示が省略されている。また、各ブレーキシュー3,4の端部相互を互いに接近する方向に付勢するシューリターンスプリングや、アジャスタユニット8を駆動する機構等も、図示が省略されている。
なお、図示せぬドラムは、バッキングプレートと同心で、車両の前進時には図1の矢印R方向に回転する。
【0018】
また、ブレーキシュー3,4は、ドラムの内周に向かって移動可能に、図示せぬシューホールドダウン装置によりバッキングプレートに取り付けられている。
そして、各ブレーキシュー3,4の操作力発生手段6側の端部は、図示せぬシューリターンスプリングを介して、それぞれのシューの端部が互いに接近する方向(即ち、ドラムから離間する方向)に付勢されている。
また、各ブレーキシュー3,4のアジャスタユニット8側の端部相互も、図示せぬシュートゥシュースプリングの付勢力によって、アジャスタユニット8の端部に当接した状態が維持されるように付勢されている。
【0019】
本実施の形態の場合、操作力発生手段6は、サービスブレーキ用のブレーキペダル等のブレーキ操作に応じて出力ロッドが矢印(イ)方向に進出して、シュー操作力W(図6参照)となる押圧力を出力するホイールシリンダである。
【0020】
アジャスタユニット8は、本来は、各ブレーキシュー3,4のライニングの摩耗の進行に応じて、これらのブレーキシュー3,4の端部間の間隔を調整するもので、制動時のブレーキシュー3,4の変位量に応じて回動するアジャスタレバーの回動動作で調整用歯車8aを回転操作して、ブレーキシュー3,4の端部間の間隔を自動調整するように構成されている。
【0021】
本実施の形態のシュー駆動カム7は、図6に示すように、一対のレバープレート30と、これらのレバープレート30,30間において互いに離間状態に配置され、ピン嵌合穴76aによってアンカピン10に回転自在に支持される一対のカム板76と、後述するプライマリカムピン21及びセカンダリカムピン23と、一対のレバープレート30,30間に軸支され操作力発生手段6からシュー操作力Wを受ける入力受け部としての入力ピン25とを備えて構成される。
【0022】
プライマリカムピン21及びセカンダリカムピン23は、図1及び図7に示すように、プライマリカムピン21がプライマリ・シュー3の端部に当接するシュー係合カム部として作用し、セカンダリカムピン23がセカンダリ・シュー4の端部に当接するシュー係合カム部として作用するもので、アンカピン10を挟んで、プライマリカムピン21がドラムの半径方向外側の位置に、セカンダリカムピン23がドラムの半径方向内側の位置に配置されている。
そして、図7に示すように、入力ピン25は、セカンダリカムピン23よりも更に半径方向内径側に離間した位置に配置されている。
【0023】
また、本実施の形態の場合、上記した各カムピン21,23は、カム板76に回転自在に挿通されると共に、図2、図5に示すように、カムピン21,23を変位可能にする隙間Δs1,Δs2を有する形状に設定されたピン嵌合穴76b,76cに遊嵌して、レバープレート30と係合している。
そして、上記の各カムピン21,23は、図2に示すように、制動操作が行われない非制動時は、外周面が各ブレーキシュー3,4から隙間Δs1,Δs2だけ離間した非接触位置に配置されている。しかし、各カムピン21,23には、図4に示すように、一対のカム板76,76間においてリング体21a,23aが外嵌されており、各ブレーキシュー3,4は、一対のカム板76,76間に配置されることにより、これらのリング体21a,23aを介して各カムピン21,23と当接されている。
【0024】
レバープレート30は、金属板のプレス成形等で形成されたもので、既述したように、カム板76を挟むように上下に一対設けられている。
これら一対のレバープレート30相互は、一端側が、操作力発生手段6からのシュー操作力Wを受ける入力ピン25により連結されている。
また、各レバープレート30は、プライマリカムピン21に係合する湾曲凹面状のピン係合部30aと、セカンダリカムピン23が嵌合する孔状のピン係合部30bとを有している。
【0025】
レバープレート30は、これら一対のピン係合部30a,30bに、一対のカムピン21,23をそれぞれ係合させることで、何れかのカムピン21,23を支点に回動可能に、カム板76に連結される。
また、カムピン21,23はカム板76上を変位可能であり、このカムピン21,23の移動距離によって、ピン係合部30a,30bに係合されるレバープレート30が、カム板76に対して移動可能になっている。
【0026】
以上のシュー駆動カム7では、例えば前進制動時には、図7に示すように、入力ピン25に操作力発生手段6のシュー操作力Wを受けることで、レバープレート30にカムピン21又はカムピン23を支点とした図中反時計方向の回動を生じさせ、それに伴う各カムピン21,23の変位によって、各ブレーキシュー3,4を拡開して制動力を発生させる。即ち、レバープレート30及びカムピン21,23が、シュー操作力Wをブレーキシュー3,4に伝達する入力系統の伝達機構として働く。
なお、一対のブレーキシュー3,4の拡開時には、カムピン21,23の変位に追従して、カム板76がアンカピン10を回転中心とする反時計方向に回動変位する。
【0027】
一方、制動時には、出力側のブレーキシュー(前進制動時であればセカンダリ・シュー4、後進制動時であればプライマリ・シュー3)からセカンダリカムピン23又はプライマリカムピン21を介してカム板76にブレーキ力Faが作用する。このブレーキ力Faは、カム板76にアンカピン10を回転中心とする時計方向の回転モーメントM3を作用させ、カム板76の時計方向の回動に伴う一対のカムピン21,23の変位によって、制動力を減ずる方向に制動力を制御する。即ち、カムピン21,23及びカム板76が、ブレーキ力Faに応じて制動力の制御を行う制御系統の伝達機構として働く。
【0028】
この制動時のブレーキ力Faによるカム板76の時計方向の回動は微量であり、このカム板76の時計方向への回動に伴う一対のカムピン21,23の、隙間Δs1,Δs2を超えて移動する変位量もまた微量である。
即ち、ブレーキ力Faによるカム板76の時計方向の回動時、レバープレート30は、一対のカムピン21,23が変位しても、以前の位置を保持することができ、制御系統の伝達機構から入力系統の伝達機構へのブレーキ力Faの伝達を排除することができる。
【0029】
シュー駆動カム7において、入力ピン25とアンカピン10との間の離間距離をL1、操作力発生手段6から入力するシュー操作力をWとすると、シュー操作力Wによってカム板76に働く反時計方向の回転モーメントM1は、
M1=W×L1 ……(1)
である。
また、プライマリカムピン21がプライマリ・シュー3をドラムに押圧する力をF0、アンカピン10とプライマリカムピン21との間の離間距離をL2とすると、プライマリ・シュー3からの反力によってカム板76に作用する時計方向の回転モーメントM2は、
M2=F0×L2 ……(2)
である。
【0030】
また、図7に示す前進制動時において、セカンダリ・シュー4からセカンダリカムピン23を介してカム板76に作用するブレーキ力をFa、セカンダリカムピン23とアンカピン10との間の離間距離をsとすると、カム板76に作用するブレーキ力Faによってカム板76に働く時計方向の回転モーメントM3は、
M3=Fa×s ……(3)
である。
シュー駆動カム7は、これらの(1)〜(3)に示す回転モーメントがつり合うように、制動力を制御する。
【0031】
後進制動時には、操作力発生手段6からシュー操作力Wが入力ピン25に伝達されると、それによってレバープレート30がカムピン21又はカムピン23を支点に反時計方向に回動して、それに伴うカムピン21,23の移動によってブレーキシュー3,4を拡開して制動力を発生させる。
そして、制動時には、プライマリ・シュー3からカムピン21に作用するブレーキ力によって、カム板76に時計方向の回転モーメントが作用して、前進制動時と同様に、制動力の制御がなされる。この後進制動時においても、カム板76上でのカムピン21,23の変位により、ブレーキ力がレバープレート30に作用することは、排除される。
【0032】
以上に説明したドラムブレーキ装置1では、制動操作時には、操作力発生手段6の出力するシュー操作力Wを受けたシュー駆動カム7のレバープレート30の回動動作によって一対のカムピン21,23が変位し、この一対のカムピン21,23の変位に追従する各ブレーキシュー3,4の拡開によって制動力を発生させる。
そして、制動時には、出力側のブレーキシューからカムピンに作用するブレーキ力が、カムピン21,23を支持しているカム板76に伝達される。そして、伝達されたブレーキ力でカム板76がアンカピン周りに回動すると、それに伴うカムピン21,23の変位によって、カムピン21,23によるブレーキシュー3,4の拘束が緩和されて、制動力の上昇を抑える制御作用が生じる。そのため、安定したブレーキの効きを確保することができる。
【0033】
また、以上のシュー駆動カム7は、操作力発生手段6と各ブレーキシュー3,4との間に配置されて制動力の制御をメカ的に行うため、操作力発生手段6としては、従来の油圧式ホイールシリンダ等の液圧式のアクチュエータだけでなく、電動モータ等の電動式のアクチュエータを使用することができ、ブレーキ機能のインテリジェント化や車両のハイブリッド化等のための電動化も容易にできる。
【0034】
更に、以上のシュー駆動カム7において、カム板76とレバープレート30とは一対のカムピン21,23を介して互いに回動可能に連結された機構である。
そして、カム板76とレバープレート30とを相対回動可能に連結したことで、レバープレート30及び一対のカムピン21,23から構成される入力系統の伝達機構と、一対のカムピン21,23とカム板76とで構成される制御系統の伝達機構とを、相互間で直接的な動力伝達が行われない分離状態にすることができ、制動時にカム板76に作用するブレーキ力のレバープレート30への伝達を排除することができる。
従って、制動力を制御するためにフィードバックされるブレーキ力が、シュー操作力Wに応じてブレーキシューの拡開を行う入力伝達手段には伝達されず、制動操作時の入力の伝達を円滑にすると共に、入力の伝達効率を向上させることができる。
【0035】
なお、カム板76とレバープレート30とを相対回動可能に連結するために、上記実施の形態では、図2及び図5に明瞭に示したように、カムピン21,23が嵌合するカム板76,76上のピン嵌合孔76b,76cを、カムピン21,23の変位可能な隙間Δs1,Δs2を有した適宜形状に設定した。
しかし、カム板76とレバープレート30とを相対回動可能に連結する構造としては、カムピン21,23が、カム板76と係合する本体軸部に対し偏心してレバープレート30と係合するレバー用軸部を有した形状に設定して実現することも可能である。
【0036】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のドラムブレーキ装置によれば、制動操作時には、操作力発生手段の出力するシュー操作力を受けたシュー駆動カムのレバープレートの回動動作によって一対のカムピンが変位し、この一対のカムピンの変位に追従する各ブレーキシューの拡開によって制動力を発生させる。
そして、制動時には、出力側のブレーキシューからカムピンに作用するブレーキ力が、カムピンを支持しているカム板に伝達される。そして、伝達されたブレーキ力でカム板がアンカピン周りに回動すると、それに伴うカムピンの変位によって、カムピンによるブレーキシューの拘束が緩和されて、制動力の上昇を抑える制御作用が生じる。そのため、安定したブレーキの効きを確保することができる。
【0037】
また、シュー駆動カムは、操作力発生手段と各ブレーキシューとの間に配置されて制動力の制御をメカ的に行うため、操作力発生手段としては、従来の油圧式ホイールシリンダ等の液圧式のアクチュエータだけでなく、電動モータ等の電動式のアクチュエータを使用することができ、ブレーキ機能のインテリジェント化や車両のハイブリッド化等のための電動化も容易にできる。
【0038】
更に、本発明のシュー駆動カムにおいて、カム板とレバープレートとは一対のカムピンを介して互いに回動可能に連結された機構である。
そして、カム板とレバープレートとを相対回動可能に連結したことで、レバープレート及び一対のカムピンから構成される入力系統の伝達機構と、一対のカムピンとカム板とで構成される制御系統の伝達機構とを、相互間で直接的な動力伝達が行われない分離状態にすることができ、制動時にカム板に作用するブレーキ力のレバープレートへの伝達を排除することができる。
従って、制動力を制御するためにフィードバックされるブレーキ力が、シュー操作力に応じてブレーキシューの拡開を行う入力伝達手段には伝達されず、制動操作時の入力の伝達を円滑にすると共に、入力の伝達効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るドラムブレーキ装置の好適な実施の形態の要部の正面図である。
【図2】図1に示したシュー駆動カムの一方のレバープレートを取り外した状態の正面図である。
【図3】図2に示したシュー駆動カムの斜視図である。
【図4】図3に示したシュー駆動カムの更に一方のカム板を取り外した状態の斜視図である。
【図5】図1に示したシュー駆動カムの組立時の正面図である。
【図6】図5に示したシュー駆動カムの斜視図である。
【図7】図1に示したシュー駆動カムの前進制動時における各カムピンの回転挙動の説明図である。
【符号の説明】
1 ドラムブレーキ装置
3 プライマリ・シュー(ブレーキシュー)
4 セカンダリ・シュー(ブレーキシュー)
6 操作力発生手段(ホイールシリンダ)
7 シュー駆動カム(シュー駆動機構)
8 アジャスタユニット
10 アンカピン
21 プライマリカムピン(カムピン)
23 セカンダリカムピン(カムピン)
25 入力ピン
30 レバープレート
76 カム板
Claims (1)
- ドラム内に対向配置される一対のブレーキシューを、操作力発生手段の発生するシュー操作力によりドラムに押圧して制動力を発生させると共に、制動時にブレーキシューに作用するブレーキ力を利用して前記制動力を制御するシュー駆動カムを備えたドラムブレーキ装置において、
前記シュー駆動カムは、各ブレーキシューの端部に当接する一対のカムピンと、バッキングプレートに立設したアンカピンに回転可能に支持されると共に前記一対のカムピンを遊嵌状態に挿通させたカム板と、前記操作力発生手段によるシュー操作力を受ける入力受け部を有して前記一対のカムピンに係合するレバープレートとを備え、
前記カム板が前記シュー操作力に応じた前記レバープレートの回動に伴い前記カムピンを介して前記一対のブレーキシューを拡開すると共に、前記カムピンの何れかに作用するブレーキ力に応じて前記アンカピンの周りを回動することにより前記制動力の制御を行うことを特徴とするドラムブレーキ装置。
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