JP2004363013A - 高分子固体電解質およびそれを用いた固体高分子型燃料電池 - Google Patents
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Abstract
【課題】メタノールクロスオーバーが少なく、高出力を達成できる新規な高分子固体電解質およびその製造方法ならびにそれを用いた高性能な固体高分子型燃料電池等を提供すること。
【解決手段】少なくともイオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーの混合物からなり、全光線透過率が70%以上であることを特徴とする高分子固体電解質。
【選択図】 なし
【解決手段】少なくともイオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーの混合物からなり、全光線透過率が70%以上であることを特徴とする高分子固体電解質。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高分子固体電解質およびそれを用いた固体高分子型燃料電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、排出物が少なく、かつ高エネルギー効率で環境への負担の低い発電装置である。このため、近年の地球環境保護への高まりの中で再び脚光を浴びている。従来の大規模発電施設に比べ、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として、将来的にも期待されている発電装置である。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池に替わり、携帯電話やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池においては、水素ガスを燃料とする従来の固体高分子型燃料電池(以下、PEFCと記載する)に加えて、メタノールを直接供給するダイレクトメタノール型燃料電池(以下、DMFCと記載する)も注目されている。DMFCは、従来のPEFCに比べて出力が低いものの、燃料が液体で改質器を用いないために、エネルギー密度が高くなり、一充填あたりの携帯機器の使用時間が長時間になるという利点がある。
【0004】
燃料電池は通常、発電を担う反応の起こるアノードとカソードの電極と、アノードとカソード間のイオン伝導体となる電解質膜とが、膜―電極複合体(MEA)を構成し、このMEAがセパレータによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。ここで、電極は、ガス拡散の促進と集(給)電を行う電極基材(ガス拡散電極あるいは集電体とも云う)と、実際に電気化学的反応場となる電極触媒層とから構成されている。たとえば固体高分子型燃料電池のアノード電極では、水素ガスなどの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトンと電子を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子固体電解質へと伝導する。このため、アノード電極には、ガスの拡散性、電子伝導性、イオン伝導性が良好なことが要求される。一方、カソード電極では、酸素や空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、高分子固体電解質から伝導してきたプロトンと、電極基材から伝導してきた電子とが反応して水を生成する。このため、カソード電極においては、ガス拡散性、電子伝導性、イオン伝導性とともに、生成した水を効率よく排出することも必要となる。
【0005】
特に、固体高分子型燃料電池の中でも、メタノールなどの有機溶媒を燃料とするDMFC用電解質膜においては、水素ガスを燃料とする従来のPEFC用の電解質膜に要求される性能に加えて、燃料のメタノール水溶液透過抑制も要求される。電解質膜のメタノール透過は、メタノールクロスオーバー(MCO)、ケミカルショートとも呼ばれ、電池出力およびエネルギー効率が低下するという問題を引き起こす。
【0006】
これまで、固体高分子型燃料電池の電解質膜においては、例えばパーフルオロスルホン酸系高分子であるナフィオン(Nafion、デュポン社の登録商標。以下同様。)が用いられてきた。しかし、ナフィオンは多段階合成を経て製造されるフッ素系のポリマーであるため非常に高価なものとなっており、かつ、クラスター構造を形成するために水と親和性の高いメタノールが膜を透過しやすい、すなわちメタノールクロスオーバー(以下MCOと略す)が大きいという課題があった。
また、膨潤によって膜の機械強度が低下するという問題もあった。そこで、これら高分子固体電解質の実用化のためには、安価でメタノールクロスオーバーの抑制された高分子固体電解質が市場から望まれていた。
【0007】
非フッ素系ポリマーをベースとした高分子プロトン伝導体についても既にいくつかの取り組みがなされている。1950年代には、スチレン系の陽イオン交換樹脂が検討された。しかしながら、通常燃料電池に使用する際の形態である膜としての強度が十分ではなかったため、十分な電池寿命を得るには至らなかった。
【0008】
スルホン化芳香族ポリエーテルエーテルケトンを電解質に用いた燃料電池の検討もなされている。例えば、有機溶媒に難溶性の芳香族ポリエーテルエーテルケトン(以降、PEEKと略称することがある。)が、高度にスルホン化することにより有機溶媒に可溶となり成膜が容易になることが知られている(非特許文献1参照。)。しかしながら、これらのスルホン化PEEKは、同時に親水性も向上し、水溶性となったり、あるいは吸水時の強度低下などを引き起こす。燃料電池は、通常燃料と酸素の反応により水を副生するか、あるいはDMFCにおいては燃料自体がメタノール水溶液であることから、特にかかるスルホン化PEEKが水溶性となる場合にはそのまま燃料電池用電解質へ利用するには適さない。
【0009】
また、非特許文献2には芳香族ポリエーテルスルホンであるPSF(UDELP−1700)やPESのスルホン化物について記載されている(非特許文献2参照)。当該文献にはスルホン化PSFは完全に水溶性となり、電解質としての評価ができないと記載されている。また当該文献においては、スルホン化PESは水溶性とはならないけれども、高吸水率の問題から架橋構造の導入を提案している。
【0010】
このように、これまで知られる高分子固体電解質用の材料は、いずれも上述した高プロトン伝導性、メタノールクロスオーバー抑制効果、経済性を全て同時に満たすものではなく、更に高度な要求を満たす高分子材料の開発が待ち望まれていた。
【0011】
この要求を満足させるための試みとして、高分子ブレンドを用いることが考えられる。この方法は単純で共重合又はIPN(Interpenetrating Polymer Network)といった方法よりも便利な技術である。分子レベルで混合された均一な高分子ブレンドは元の複数のポリマーのいずれとも性質の全く異なる新しい材料を生み出す可能性を有している。しかし、高分子が均一に混じり合うのは大変まれである。概して同一の溶媒を使用して調製されたとしても、高分子は均一に混合しないものである。高分子が均一に混合しない場合、ブレンド物は相分離して不十分な機械強度をもたらす。たとえミクロな相分離であっても、ほとんどの場合に不十分な相互作用が相間で生じるか、あるいは元の高分子の性質が反映され、十分なメタノールクロスオーバー抑制効果が得られない。
【0012】
ブレンド高分子固体電解質についても既にいくつかの取り組みがなされている。例えば、スルホン化ポリフェニレンオキシド(以降、S−PPOと略称することがある。)とポリフッ化ビニリデン(以降、PVDFと略称することがある。
)を様々な混合比でブレンドした高分子固体電解質が紹介されている(特許文献1)。しかし、これらのブレンド電解質は半透明あるいは白色であると記載され、メタノールクロスオーバーについての記述はないが、このような相分離構造を有するブレンド電解質では我々の知る限り、十分なメタノールクロスオーバー抑制効果は期待できない。
【0013】
【非特許文献1】
「ポリマー」(Polymer), 1987, vol. 28, 1009.
【0014】
【非特許文献2】
「ジャーナル オブ メンブレン サイエンス」(Journal of Membrane Science), 83 (1993) 211−220.
【0015】
【特許文献1】
特開2002−294087号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
これら従来の技術においては、得られる電解質が高価であったり、メタノールクロスオーバー抑制効果が不十分である等の問題点があった。本発明の目的は、安価であり、有機溶媒可溶性・熱可塑性であるために成形加工が容易であり、かつ耐水性が高く、高プロトン伝導性とメタノールクロスオーバー抑制効果が両立され、高性能な燃料電池に適した高分子固体電解質、およびそれを用いた高性能な固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を達成するために、本発明は次のような構成を有する。すなわち、
(1)少なくともイオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーの混合物からなり、全光線透過率が70%以上であることを特徴とする高分子固体電解質、
(2)前記イオン性基を有するポリマーおよび非架橋ポリマーにそれぞれ相溶する相溶化剤を混合してなることを特徴とする前記(1)に記載の高分子固体電解質、
(3)前記イオン性基を有するポリマーが少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基から選ばれる1種あるいは2種以上を有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の高分子固体電解質、
(4)前記イオン性基を有するポリマーが少なくともスルホン酸基を有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の高分子固体電解質、
(5)スルホン酸基密度が1.0〜3.5mmol/gであることを特徴とする前記(4)に記載の高分子固体電解質、
(6)前記イオン性基を有するポリマーがスルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリフェニレンスルフィド、スルホン化ポリアミド、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリエーテルイミド、スルホン化ポリイミダゾール、スルホン化ポリオキサゾール、スルホン化ポリフェニレン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルアルコールスルホン酸エステルおよびパーフルオロスルホン酸系ポリマーから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)〜(5)いずれかに記載の高分子固体電解質、
(7)前記非架橋ポリマーがフッ素系ポリマーであることを特徴とする前記(1)〜(6)いずれかに記載の高分子固体電解質、
(8)前記非架橋ポリマーが芳香族炭化水素系ポリマーであることを特徴とする前記(1)〜(6)いずれかに記載の高分子固体電解質、
(9)前記相溶化剤がアミド結合を有するポリマーであることを特徴とする前記(1)〜(8)いずれかに記載の高分子固体電解質、
(10)前記アミド結合を有するポリマーがポリビニルピロリドンであることを特徴とする前記(9)に記載の高分子固体電解質、
(11)前記(1)〜(10)に記載の高分子固体電解質を用いることを特徴とする固体高分子型燃料電池、
(12)炭素数1〜3のアルコール、ジメチルエーテルおよびこれらの水溶液から選ばれた少なくとも1種を燃料に用いることを特徴とする前記(11)に記載の固体高分子型燃料電池、である。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明の高分子固体電解質は、少なくともイオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーの混合物からなり、全光線透過率が70%以上であることを特徴とする。本発明の高分子固体電解質は、イオン性基を有するポリマーと疎水性非架橋ポリマーが相溶した電解質である。
【0020】
本発明の高分子固体電解質において、MCO低減が達成された要因は現段階で明確ではないが、次のように推測される。つまり、通常容易にメタノール水溶液に膨潤してしまうイオン性基を有するポリマーの分子鎖がメタノール水溶液に全く膨潤しない疎水性非架橋ポリマーに分子レベルで混和されることにより、分子レベルで拘束され、高分子固体電解質のメタノール水溶液に対する膨潤が抑制されてMCOが低減し、膜の強度低下も抑えられるものと推測される。
【0021】
すなわち、従来のイオン性基を有するポリマーを単独で高分子固体電解質として用いた場合、イオン伝導性を高めるためにイオン性基の含有量を増加すると、高分子固体電解質が膨潤し、内部に大きな水のクラスターができ易く、高分子固体電解質中にいわゆる自由水が多くなる。自由水中はメタノールの移動が容易に行なわれるため、メタノールクロスオーバーは抑制され難い。
【0022】
本発明の高分子固体電解質中のイオン性基を有するポリマーおよび非架橋ポリマーは互いに相溶しうるものを用いることが必要である。相溶させるために必要に応じてイオン性基を有するポリマーおよび非架橋ポリマーの両方に相溶する相溶化剤を混合することは好ましく採用される手段である。高分子ブレンド物は光学的透明性などの特性に関して均質性を示すことが期待され、本発明の高分子固体電解質は全光線透過率が70%以上である必要があり、低MCOの点からより好ましくは全光線透過率が80%以上である。全光線透過率が70%未満である場合、イオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーは均一に混合せず、相分離していたりし、これらの相間の影響か、あるいは元のイオン性基を有するポリマーの性質が反映され、十分なメタノールクロスオーバー抑制効果が得られない。
また、非架橋ポリマーの性質も反映され、十分なプロトン伝導性が得られない場合もある。
【0023】
次に、本発明に使用されるイオン性基を有するポリマーについて説明する。本発明に使用されるイオン性基は、負電荷を有する原子団であれば特に限定されるものではないが、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく用いられる。ここで、スルホン酸基とは−SO2(OH)、スルホンイミド基とは−SO2NHSO2R(ただし、Rは有機基を意味する。)、硫酸基は−OSO2(OH)、ホスホン酸基は−PO(OH)2、リン酸基は−OPO(OH)2、カルボン酸基は−CO(OH)、およびこれらの塩のことを意味する。これらのイオン性基は前記高分子固体電解質中に2種類以上含むことができ、組み合わせることにより好ましくなる場合がある。組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基を有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0024】
このようなポリマーを形成するためのモノマーとしては、たとえばアクリル酸、メタアクリル酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、エチレングリコールメタクリレートホスフェートなどのモノマーを用いることができるが、これらに限定されるものではない。このようなイオン性基を有するモノマーにイオン性基を持たないモノマーを共重合させて使用することも可能である。このような共重合体の具体例として、スチレン/スチレンスルホン酸共重合体、スチレン/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体などがあげられる。また、芳香族ポリマーに対して高分子反応でイオン性基を導入することも可能である。芳香族ポリマーへのホスホン酸基の導入は、例えばPolymer Preprints, Japan , 51, 750 (2002).等に記載の方法によって可能である。芳香族ポリマーへのリン酸基の導入は、例えばヒドロキシル基を有するポリマーのリン酸エステル化によって可能である。芳香族ポリマーへのカルボン酸基の導入は、例えばアルキル基やヒドロキシアルキル基を有するポリマーを酸化することによって可能である。芳香族ポリマーへのスルホンイミド基の導入は、例えばスルホン酸基を有するポリマーをアルキルスルホンアミドで処理することによって可能である。芳香族ポリマーへの硫酸基の導入は、例えばヒドロキシル基を有するポリマーの硫酸エステル化によって可能である。芳香族ポリマーをスルホン化する方法、すなわちスルホン酸基を導入する方法としては、たとえば特開平2−16126号公報あるいは特開平2−208322号公報等に記載の方法が公知である。具体的には、例えば、芳香族ポリマーをクロロホルムでクロロスルホン酸のようなスルホン化剤と反応させたり、濃硫酸や発煙硫酸中で反応することによりスルホン化することができる。スルホン化剤には芳香族ポリマーをスルホン化するものであれば特に制限はなく、上記以外にも三酸化硫黄等を使用することができる。この方法により芳香族ポリマーをスルホン化する場合には、スルホン化の度合いはスルホン化剤の使用量、反応温度および反応時間により制御できる。
【0025】
スルホン化の度合いはスルホン酸基密度の値として示すことができる。本発明における高分子固体電解質のスルホン酸基密度は、プロトン交換能および耐水性の点から0.1〜5.0mmol/gであることが好ましく、さらに好ましくは、1.0〜3.5mmol/gである。スルホン酸基密度が、0.1mmol/gより低いと、伝導度が低いため出力性能が低下することがあり、5.0mmol/gより高いと燃料電池用電解質膜として使用する際に、十分な耐水性および含水時の機械的強度が得られないことがある。
【0026】
ここで、スルホン酸基密度とは高分子固体電解質1グラムあたりに導入されたスルホン酸基のモル数であり、値が大きいほどスルホン化の度合いが高いことを示す。スルホン酸基密度は、1H−NMRスペクトロスコピー、元素分析、中和滴定等により求めることが可能である。試料の純度によらずスルホン酸基密度の測定が可能であることから、1H−NMRスペクトロスコピーが好ましい方法であるが、スペクトルが複雑でスルホン酸基密度の算出が困難な場合には測定の容易さから元素分析を用いることが好ましい。また、スルホン酸基以外の硫黄源を含む場合などは中和滴定によりスルホン酸基密度を求めることも可能である。
【0027】
本発明に使用されるイオン性基を有するポリマーとしては、十分な機械強度と高スルホン酸基密度のポリマーを容易に合成できる点から、イオン性基を有するポリマーがスルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリフェニレンスルフィド、スルホン化ポリアミド、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリエーテルイミド、スルホン化ポリイミダゾール、スルホン化ポリオキサゾール、スルホン化ポリフェニレン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルアルコールスルホン酸エステルおよびパーフルオロスルホン酸系ポリマーから選ばれた少なくとも1種がより好ましく用いられる。
【0028】
次に、本発明に使用される非架橋ポリマーについて説明する。本発明に使用される非架橋ポリマーは使用されるイオン性基を有するポリマーと相溶する疎水性ポリマーであれば特に限定されるものではなく、良好なメタノールクロスオーバー抑制効果を得ることができる。その具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン(PVDF−TFE)共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体に代表されるフッ素系ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホン、ポリイミダゾール、ポリオキサゾール、ポリフェニレンなどの芳香族炭化水素系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリスチレンなどの脂肪族炭化水素系ポリマーが挙げられる。また、主鎖および/または側鎖に剛直性を有するビフェニレン基、ビフェニル基等を有する液晶高分子も本発明の疎水性非架橋ポリマーとして挙げられる。中でもイオン性基を有するポリマーとの相溶性、および疎水性の点からフッ素系ポリマーがより好ましい。また、イオン性基を有するポリマーとの相溶性、および機械強度の点で芳香族炭化水素系ポリマーもより好ましく用いられる。
【0029】
本発明において必要に応じて使用される相溶化剤としては、使用されるイオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーを相溶させるものであれば、特に限定されるものではなく、たとえば直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩やアルキル硫酸エステル塩などの界面活性剤、水酸基、エステル基、アミド基、イミド基、ケトン基、スルホン基、エーテル基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基などの極性基を有する有機化合物およびポリマーが挙げられる。なかでも機械強度、ブリードアウトしにくいという点から極性基を有するポリマーがより好ましい。ポリビニルピロリドンやポリアクリルアミドなどのようなアミド結合を有するポリマーを相溶化剤として用いた場合に、全光線透過率が70%を越えたものとして、透明、かつ機械強度が良好で高プロトン伝導性を有する高分子電解質が容易に得られ、さらに、驚くべきことにこうした高分子固体電解質はイオン性基を有するポリマーが本来有するプロトン伝導性を損なわず、メタノール水溶液にほとんど膨潤せず、メタノールクロスオーバーが抑制されたものとして得ることができる。
【0030】
本発明の高分子固体電解質を燃料電池用として使用する際には、通常膜の状態で使用される。イオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマー、並びに必要に応じてこれらそれぞれに相溶する相溶化剤の混合物を膜へ転化する方法に特に制限はないが、溶液状態より製膜する方法あるいは溶融状態より製膜する方法等が可能である。前者では、たとえば、該混合物をN,N−ジメチルアセトアミド等の溶媒に溶解し、その溶液をガラス板等の上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜する方法が例示できる。製膜に用いる溶媒は、高分子を溶解し、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、あるいはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。これらの溶媒と併用しても良い溶媒としては、メタノール、エタノールに代表されるアルコール類、アセトン、2−ブタノンに代表されるケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルに代表されるエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンに代表されるエーテル類、トリエチルアミン、エチレンジアミンに代表されるアミン類などが挙げられ使用される。膜厚は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御できる。溶融状態より製膜する場合は、溶融プレス法あるいは溶融押し出し法等が可能である。
【0031】
高分子固体電解質膜の厚みは、特に制限はないが通常10〜500μmのものが好適に使用される。実用に耐える膜の強度を得るには10μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能の向上のためには500μmより薄い方が好ましい。
【0032】
本発明に使用されるイオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーの混合比は実用的なプロトン伝導性を得ることができれば特に限定されるものではなく、イオン性基を有するポリマーのスルホン酸基密度にも依存するが、おおよそ、固体高分子電解質全体に対する非架橋ポリマーの割合として1〜60重量%、好ましくは10〜30重量%である。非架橋ポリマーの使用量が60重量%より多ければ十分なプロトン伝導性が得られ難く、1重量%より小さければ膨潤抑制効果とメタノールクロスオーバー抑制効果が不十分な場合がある。また、本発明に必要に応じて使用される相溶化剤の含有量は、イオン性基を有するポリマーの重量と非架橋ポリマーの重量の和に対する割合として、0.1〜30重量部、好ましくは、1〜15重量部である。この使用量が30重量部より多ければ十分なプロトン伝導性が得られず、0.1重量部より小さければ相溶化剤としての機能が不十分な場合がある。
【0033】
また、本発明の高分子固体電解質には、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤、等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で含んでいても構わない。
【0034】
燃料電池として用いる際の電解質と電極の接合法については特に制限はなく、公知の方法(例えば、電気化学,1985, 53, 269.記載の化学メッキ法、J. Electrochem. Soc.: Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209. 記載のガス拡散電極の熱プレス接合法など)を適用することが可能である。
【0035】
本発明の高分子固体電解質は、種々の電気化学装置に適用可能である。例えば、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等が挙げられるが、中でも燃料電池がもっとも好ましい。さらに燃料電池のなかでも固体高分子型燃料電池に好適であり、これには水素を燃料とするものとメタノールなどの有機化合物を燃料とするものがあり、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1〜3のアルコール、ジメチルエーテルおよびこれらの水溶液から選ばれた少なくとも1種を燃料とする直接型燃料電池に特に好ましく用いられる。
【0036】
さらに、本発明の固体高分子型燃料電池の用途としては、特に限定されないが、移動体の電力供給源が好ましいものである。特に、携帯電話、パソコン、PDAなどの携帯機器、掃除機等の家電、乗用車、バス、トラックなどの自動車や船舶、鉄道などの移動体の電力供給源として好ましく用いられる。
【0037】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。
【0038】
(1)スルホン酸基密度測定方法
精製、乾燥後のスルホン化ポリマーを元素分析により測定した。炭素、水素、窒素の分析は全自動元素分析装置varioEL、硫黄の分析はフラスコ燃焼法・酢酸バリウム滴定で実施した。それぞれのポリマーの組成比から単位グラムあたりのスルホン酸基密度(mmol/g)を算出した。
【0039】
(2)高分子固体電解質膜のイオン伝導度測定法
北斗電工製電気化学測定システムHAG5010(HZ−3000 50V 10A Power Unit, HZ−3000 Automatic Polarization System)およびエヌエフ回路設計ブロック製周波数特性分析器(Frequency Response Analyzer)5010を使用し、25℃において、2端子法で定電位インピーダンス測定を行い、ナイキスト(Nykist)図からイオン伝導度を求めた。交流振幅は500mVとした。サンプルは幅10mm程度、長さ10〜30mm程度の膜を用いた。サンプルは測定直前まで水中に浸漬したものを用いた。電極として直径100μmの白金線(2本)を使用した。電極はサンプル膜の表側と裏側に、互いに平行にかつサンプル膜の長手方向に対して直交するように配置した。
【0040】
(3)高分子固体電解質膜のメタノール透過量測定法
H型セル間にサンプル膜を挟み、一方のセルには純水を入れ、他方のセルには1Mメタノール水溶液を入れた。セルの容量は各80mLであった。またセル間の開口部面積は1.77cm2であった。20℃において両方のセルを撹拌した。1時間,2時間および3時間経過時点で純水中に溶出したメタノール量を島津製作所製ガスクロマトグラフィ(GC−2010)で測定し定量した。グラフの傾きから単位時間、単位面積あたりのメタノール透過量を求めた。
【0041】
(4)高分子固体電解質膜の全光線透過率測定法
デジタルSMカラーコンピューター(スガ試験機製:SM−7−CH)を使用し、ASTM−D1003に準じて全光線透過率(%)を測定した。ここで全光線透過率とは試験片の平行入射光束に対する全透過光束の割合である。
【0042】
比較例1 ナフィオン117の評価
市販のナフィオン117膜(デュポン社製)を用い、イオン伝導度、MCOおよび全光線透過率を評価した。ナフィオン117膜は100℃の5%過酸化水素水中にて30分、続いて100℃の5%希硫酸中にて30分浸漬した後、100℃の脱イオン水でよく洗浄した。メタノール透過量は113nmol/cm/min、イオン伝導度は80mS/cm、全光線透過率は85%であった。
【0043】
比較例2 スルホン化PPO/PVDFのブレンド高分子電解質の作製
スルホン化PPO(S−PPO)の合成はPPOとして三菱ガス化学社製YPX−100Lを用い、J. Appl. Polym. Sci., 29, 4017 (1984).記載の方法で実施した。スルホン酸基密度は3.0mmol/gであった。N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させたS−PPOと、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解させたPVDF(呉羽化学社製W#1100))をS−PPO/PVDF=8/2(重量比)で混合し、1時間室温で攪拌した。混合溶液をガラス基板上に流延塗布し、100℃にて3時間乾燥し、溶媒を除去した。得られた膜は、膜厚105μmであり、白濁した柔軟な膜であった。この膜のメタノール透過量は115nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は40%、スルホン酸基密度は2.4mmol/gであった。ナフィオン117に比べイオン伝導度は優れるものの、メタノールクロスオーバー抑制効果はなかった。
【0044】
実施例1 スルホン化PPO/PVDF/PVPのブレンド高分子電解質の作製
スルホン化PPO(S−PPO)の合成はPPOとして三菱ガス化学社製YPX−100Lを用い、J. Appl. Polym. Sci., 29, 4017 (1984).記載の方法で実施した。スルホン酸基密度は3.0mmol/gであった。N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させたS−PPOと、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解させたPVDF(呉羽化学社製W#1100))をS−PPO/PVDF=8/2(重量比)で混合し、さらにDMAcに溶解させたポリビニルピロリドン(PVP、和光純薬工業社製(試薬グレード)、分子量4万)をS−PPOの重量とPVDFの重量の和に対する割合として20重量部添加し、1時間室温で攪拌した。混合溶液をガラス基板上に流延塗布し、100℃にて3時間乾燥し、溶媒を除去した。この膜(膜厚95μm)のメタノール透過量は81nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は85%、スルホン酸基密度は1.9mmol/gであった。膜は透明であり、高イオン伝導度を維持したまま、メタノールクロスオーバーの抑制効果が見られた。
【0045】
比較例3 スルホン化PEEK/PVDFのブレンド高分子電解質の作製
スルホン化PEEKはPEEKとしてビクトレックス社製450PFを用い、Polymer, 28, 1009 (1987).記載の方法で合成した。スルホン酸基密度は2.7mmol/gであった。N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させたS−PEEKと、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解させたPVDF(呉羽化学社製W#1100))をS−PEEK/PVDF=8/2(重量比)で混合し、1時間室温で攪拌した。混合溶液をガラス基板上に流延塗布し、100℃にて3時間乾燥し、溶媒を除去した。得られた膜は、膜厚105μmであり、白濁した柔軟な膜であった。この膜のメタノール透過量は115nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は40%、スルホン酸基密度は2.2mmol/gであった。ナフィオン117に比べイオン伝導度は優れるものの、メタノールクロスオーバー抑制効果はなかった。
【0046】
実施例2 スルホン化PEEK/PVDF/PVPのブレンド高分子電解質の作製
スルホン化PEEKはPEEKとしてビクトレックス社製450PFを用い、Polymer, 28, 1009 (1987).記載の方法で合成した。スルホン酸基密度は2.7mmol/gであった。N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させたS−PEEKと、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解させたPVDF(呉羽化学社製W#1100))をS−PEEK/PVDF=8/2(重量比)で混合し、さらにDMAcに溶解させたポリビニルピロリドン(PVP、和光純薬工業社製(試薬グレード)、分子量4万)をS−PEEKの重量とPVDFの重量の和に対する割合として20重量部添加し、1時間室温で攪拌した。混合溶液をガラス基板上に流延塗布し、100℃にて3時間乾燥し、溶媒を除去した。この膜(膜厚95μm)のメタノール透過量は85nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は80%、スルホン酸基密度は1.7mmol/gであった。膜は透明であり、高イオン伝導度を維持したまま、メタノールクロスオーバーの抑制効果が大きかった。
【0047】
比較例4 スルホン化PEES/PVDFのブレンド高分子電解質の作製
PEEKの代わりに市販のPEES(アルドリッチ社製(試薬グレード))を用いた以外は比較例3に記載の方法で膜の作製を行った。スルホン酸基密度は2.7mmol/gであった。得られた膜は、膜厚105μmであり、白濁した柔軟な膜であった。この膜のメタノール透過量は115nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は40%、スルホン酸基密度は2.2mmol/gであった。ナフィオン117に比べイオン伝導度は優れるものの、メタノールクロスオーバー抑制効果はなかった。
【0048】
実施例3 スルホン化PEES/PVDF/PVPのブレンド高分子電解質の作製
PEEKの代わりに市販のPEES(アルドリッチ社製(試薬グレード))を用いた以外は実施例2に記載の方法で膜の作製を行った。PEESのスルホン酸基密度は2.7mmol/gであった。この膜(膜厚95μm)のメタノール透過量は80nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は80%、スルホン酸基密度は1.7mmol/gであった。膜は透明であり、高イオン伝導度を維持したまま、メタノールクロスオーバーの抑制効果が大きかった。
【0049】
実施例4 スルホン化PPO/PVDF/PNIPAMのブレンド高分子電解質の作製
ポリ(N−ジイソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM、アルドリッチ社製(試薬グレード)、分子量2万)をポリビニルピロリドン(PVP、和光純薬工業社製(試薬グレード)、分子量4万)の代わりに用いた以外は実施例1に記載の方法で膜の作製を行った。この膜(膜厚95μm)のメタノール透過量は90nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は71%、スルホン酸基密度は1.9mmol/gであった。膜は透明であり、高イオン伝導度を維持したまま、メタノールクロスオーバーの抑制効果が見られた。
【0050】
実施例5 スルホン化PPO/ポリイミドスルホンのブレンド高分子電解質の作製
ポリイミドスルホン(新日本理化社製リカコートSN−20)をPVDFの代わりに使用した以外は比較例2に記載の方法で膜の作製を行った。この膜(膜厚102μm)のメタノール透過量は76nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は80%、スルホン酸基密度は2.4mmol/gであった。膜は透明であり、高イオン伝導度を維持したまま、メタノールクロスオーバーの抑制効果が見られた。
【0051】
比較例5 スルホン化PEEK膜の評価
比較例3で使用したスルホン化PEEKから作製した膜(膜厚95μm)は水に激しく膨潤し、メタノール透過量は312nmol/cm/min、イオン伝導度は101mS/cmとなり、ナフィオン117と同等のイオン伝導度を有するものの、メタノールクロスオーバーは極めて大きかった。
【0052】
比較例6 スルホン化PPO/PVDF/PVPのブレンド高分子電解質の作製
S−PPO/PVDFの重量比をS−PPO/PVDF=3/7に変えた以外は実施例1に記載の方法で膜の作製を行った。この膜(膜厚95μm)のメタノール透過量は8nmol/cm/min、イオン伝導度は10mS/cm、全光線透過率は76%、スルホン酸基密度は0.8mmol/gであった。膜は透明であり、メタノールクロスオーバーの抑制効果は見られたが、イオン伝導度がかなり低かった。
【0053】
実施例6および比較例7
実施例1の高分子固体電解質膜を用いて、次の方法により固体高分子型燃料電池を作製し評価した。また、比較例1の市販のナフィオン117膜も同様に固体高分子型燃料電池を作製し評価した。
【0054】
2枚の炭素繊維クロス基材に20%PTFE水への浸漬による撥水処理を行ったのち、焼成して電極基材を作製した。1枚の電極基材上に、Pt−Ru担持カーボンと市販のNafion溶液(デュポン社製)からなるアノード電極触媒塗液を塗工、乾燥してアノード電極を、もう1枚の電極基材上に、Pt担持カーボンとNafion溶液からなるカソード電極触媒塗液を塗工、乾燥してカソード電極を作製した。
【0055】
実施例1の高分子固体電解質膜を、先に作製したアノード電極とカソード電極で夾持し加熱プレスすることで膜−電極複合体(MEA)を作製した。このMEAをエレクトロケム社製セルにセットしアノード側に3%メタノール水溶液、カソード側に空気を流してMEA評価を行った。評価はMEAに定電流を流し、その時の電圧を測定した。電流を順次増加させ電圧が10mV以下になるまで測定を行った。各測定点での電流と電圧の積が出力となるが、本発明の実施例1の高分子固体電解質膜を使用したMEAの方が優れた特性を有していた。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、メタノールクロスオーバーを抑制し、イオン伝導性が高く、高出力を達成できる新規な高分子電解質およびその製造方法ならびにそれを用いた高性能な固体高分子型燃料電池を提供でき、その実用性は高い。
【発明の属する技術分野】
本発明は、高分子固体電解質およびそれを用いた固体高分子型燃料電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、排出物が少なく、かつ高エネルギー効率で環境への負担の低い発電装置である。このため、近年の地球環境保護への高まりの中で再び脚光を浴びている。従来の大規模発電施設に比べ、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として、将来的にも期待されている発電装置である。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池に替わり、携帯電話やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池においては、水素ガスを燃料とする従来の固体高分子型燃料電池(以下、PEFCと記載する)に加えて、メタノールを直接供給するダイレクトメタノール型燃料電池(以下、DMFCと記載する)も注目されている。DMFCは、従来のPEFCに比べて出力が低いものの、燃料が液体で改質器を用いないために、エネルギー密度が高くなり、一充填あたりの携帯機器の使用時間が長時間になるという利点がある。
【0004】
燃料電池は通常、発電を担う反応の起こるアノードとカソードの電極と、アノードとカソード間のイオン伝導体となる電解質膜とが、膜―電極複合体(MEA)を構成し、このMEAがセパレータによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。ここで、電極は、ガス拡散の促進と集(給)電を行う電極基材(ガス拡散電極あるいは集電体とも云う)と、実際に電気化学的反応場となる電極触媒層とから構成されている。たとえば固体高分子型燃料電池のアノード電極では、水素ガスなどの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトンと電子を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子固体電解質へと伝導する。このため、アノード電極には、ガスの拡散性、電子伝導性、イオン伝導性が良好なことが要求される。一方、カソード電極では、酸素や空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、高分子固体電解質から伝導してきたプロトンと、電極基材から伝導してきた電子とが反応して水を生成する。このため、カソード電極においては、ガス拡散性、電子伝導性、イオン伝導性とともに、生成した水を効率よく排出することも必要となる。
【0005】
特に、固体高分子型燃料電池の中でも、メタノールなどの有機溶媒を燃料とするDMFC用電解質膜においては、水素ガスを燃料とする従来のPEFC用の電解質膜に要求される性能に加えて、燃料のメタノール水溶液透過抑制も要求される。電解質膜のメタノール透過は、メタノールクロスオーバー(MCO)、ケミカルショートとも呼ばれ、電池出力およびエネルギー効率が低下するという問題を引き起こす。
【0006】
これまで、固体高分子型燃料電池の電解質膜においては、例えばパーフルオロスルホン酸系高分子であるナフィオン(Nafion、デュポン社の登録商標。以下同様。)が用いられてきた。しかし、ナフィオンは多段階合成を経て製造されるフッ素系のポリマーであるため非常に高価なものとなっており、かつ、クラスター構造を形成するために水と親和性の高いメタノールが膜を透過しやすい、すなわちメタノールクロスオーバー(以下MCOと略す)が大きいという課題があった。
また、膨潤によって膜の機械強度が低下するという問題もあった。そこで、これら高分子固体電解質の実用化のためには、安価でメタノールクロスオーバーの抑制された高分子固体電解質が市場から望まれていた。
【0007】
非フッ素系ポリマーをベースとした高分子プロトン伝導体についても既にいくつかの取り組みがなされている。1950年代には、スチレン系の陽イオン交換樹脂が検討された。しかしながら、通常燃料電池に使用する際の形態である膜としての強度が十分ではなかったため、十分な電池寿命を得るには至らなかった。
【0008】
スルホン化芳香族ポリエーテルエーテルケトンを電解質に用いた燃料電池の検討もなされている。例えば、有機溶媒に難溶性の芳香族ポリエーテルエーテルケトン(以降、PEEKと略称することがある。)が、高度にスルホン化することにより有機溶媒に可溶となり成膜が容易になることが知られている(非特許文献1参照。)。しかしながら、これらのスルホン化PEEKは、同時に親水性も向上し、水溶性となったり、あるいは吸水時の強度低下などを引き起こす。燃料電池は、通常燃料と酸素の反応により水を副生するか、あるいはDMFCにおいては燃料自体がメタノール水溶液であることから、特にかかるスルホン化PEEKが水溶性となる場合にはそのまま燃料電池用電解質へ利用するには適さない。
【0009】
また、非特許文献2には芳香族ポリエーテルスルホンであるPSF(UDELP−1700)やPESのスルホン化物について記載されている(非特許文献2参照)。当該文献にはスルホン化PSFは完全に水溶性となり、電解質としての評価ができないと記載されている。また当該文献においては、スルホン化PESは水溶性とはならないけれども、高吸水率の問題から架橋構造の導入を提案している。
【0010】
このように、これまで知られる高分子固体電解質用の材料は、いずれも上述した高プロトン伝導性、メタノールクロスオーバー抑制効果、経済性を全て同時に満たすものではなく、更に高度な要求を満たす高分子材料の開発が待ち望まれていた。
【0011】
この要求を満足させるための試みとして、高分子ブレンドを用いることが考えられる。この方法は単純で共重合又はIPN(Interpenetrating Polymer Network)といった方法よりも便利な技術である。分子レベルで混合された均一な高分子ブレンドは元の複数のポリマーのいずれとも性質の全く異なる新しい材料を生み出す可能性を有している。しかし、高分子が均一に混じり合うのは大変まれである。概して同一の溶媒を使用して調製されたとしても、高分子は均一に混合しないものである。高分子が均一に混合しない場合、ブレンド物は相分離して不十分な機械強度をもたらす。たとえミクロな相分離であっても、ほとんどの場合に不十分な相互作用が相間で生じるか、あるいは元の高分子の性質が反映され、十分なメタノールクロスオーバー抑制効果が得られない。
【0012】
ブレンド高分子固体電解質についても既にいくつかの取り組みがなされている。例えば、スルホン化ポリフェニレンオキシド(以降、S−PPOと略称することがある。)とポリフッ化ビニリデン(以降、PVDFと略称することがある。
)を様々な混合比でブレンドした高分子固体電解質が紹介されている(特許文献1)。しかし、これらのブレンド電解質は半透明あるいは白色であると記載され、メタノールクロスオーバーについての記述はないが、このような相分離構造を有するブレンド電解質では我々の知る限り、十分なメタノールクロスオーバー抑制効果は期待できない。
【0013】
【非特許文献1】
「ポリマー」(Polymer), 1987, vol. 28, 1009.
【0014】
【非特許文献2】
「ジャーナル オブ メンブレン サイエンス」(Journal of Membrane Science), 83 (1993) 211−220.
【0015】
【特許文献1】
特開2002−294087号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
これら従来の技術においては、得られる電解質が高価であったり、メタノールクロスオーバー抑制効果が不十分である等の問題点があった。本発明の目的は、安価であり、有機溶媒可溶性・熱可塑性であるために成形加工が容易であり、かつ耐水性が高く、高プロトン伝導性とメタノールクロスオーバー抑制効果が両立され、高性能な燃料電池に適した高分子固体電解質、およびそれを用いた高性能な固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を達成するために、本発明は次のような構成を有する。すなわち、
(1)少なくともイオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーの混合物からなり、全光線透過率が70%以上であることを特徴とする高分子固体電解質、
(2)前記イオン性基を有するポリマーおよび非架橋ポリマーにそれぞれ相溶する相溶化剤を混合してなることを特徴とする前記(1)に記載の高分子固体電解質、
(3)前記イオン性基を有するポリマーが少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基から選ばれる1種あるいは2種以上を有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の高分子固体電解質、
(4)前記イオン性基を有するポリマーが少なくともスルホン酸基を有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の高分子固体電解質、
(5)スルホン酸基密度が1.0〜3.5mmol/gであることを特徴とする前記(4)に記載の高分子固体電解質、
(6)前記イオン性基を有するポリマーがスルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリフェニレンスルフィド、スルホン化ポリアミド、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリエーテルイミド、スルホン化ポリイミダゾール、スルホン化ポリオキサゾール、スルホン化ポリフェニレン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルアルコールスルホン酸エステルおよびパーフルオロスルホン酸系ポリマーから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)〜(5)いずれかに記載の高分子固体電解質、
(7)前記非架橋ポリマーがフッ素系ポリマーであることを特徴とする前記(1)〜(6)いずれかに記載の高分子固体電解質、
(8)前記非架橋ポリマーが芳香族炭化水素系ポリマーであることを特徴とする前記(1)〜(6)いずれかに記載の高分子固体電解質、
(9)前記相溶化剤がアミド結合を有するポリマーであることを特徴とする前記(1)〜(8)いずれかに記載の高分子固体電解質、
(10)前記アミド結合を有するポリマーがポリビニルピロリドンであることを特徴とする前記(9)に記載の高分子固体電解質、
(11)前記(1)〜(10)に記載の高分子固体電解質を用いることを特徴とする固体高分子型燃料電池、
(12)炭素数1〜3のアルコール、ジメチルエーテルおよびこれらの水溶液から選ばれた少なくとも1種を燃料に用いることを特徴とする前記(11)に記載の固体高分子型燃料電池、である。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明の高分子固体電解質は、少なくともイオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーの混合物からなり、全光線透過率が70%以上であることを特徴とする。本発明の高分子固体電解質は、イオン性基を有するポリマーと疎水性非架橋ポリマーが相溶した電解質である。
【0020】
本発明の高分子固体電解質において、MCO低減が達成された要因は現段階で明確ではないが、次のように推測される。つまり、通常容易にメタノール水溶液に膨潤してしまうイオン性基を有するポリマーの分子鎖がメタノール水溶液に全く膨潤しない疎水性非架橋ポリマーに分子レベルで混和されることにより、分子レベルで拘束され、高分子固体電解質のメタノール水溶液に対する膨潤が抑制されてMCOが低減し、膜の強度低下も抑えられるものと推測される。
【0021】
すなわち、従来のイオン性基を有するポリマーを単独で高分子固体電解質として用いた場合、イオン伝導性を高めるためにイオン性基の含有量を増加すると、高分子固体電解質が膨潤し、内部に大きな水のクラスターができ易く、高分子固体電解質中にいわゆる自由水が多くなる。自由水中はメタノールの移動が容易に行なわれるため、メタノールクロスオーバーは抑制され難い。
【0022】
本発明の高分子固体電解質中のイオン性基を有するポリマーおよび非架橋ポリマーは互いに相溶しうるものを用いることが必要である。相溶させるために必要に応じてイオン性基を有するポリマーおよび非架橋ポリマーの両方に相溶する相溶化剤を混合することは好ましく採用される手段である。高分子ブレンド物は光学的透明性などの特性に関して均質性を示すことが期待され、本発明の高分子固体電解質は全光線透過率が70%以上である必要があり、低MCOの点からより好ましくは全光線透過率が80%以上である。全光線透過率が70%未満である場合、イオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーは均一に混合せず、相分離していたりし、これらの相間の影響か、あるいは元のイオン性基を有するポリマーの性質が反映され、十分なメタノールクロスオーバー抑制効果が得られない。
また、非架橋ポリマーの性質も反映され、十分なプロトン伝導性が得られない場合もある。
【0023】
次に、本発明に使用されるイオン性基を有するポリマーについて説明する。本発明に使用されるイオン性基は、負電荷を有する原子団であれば特に限定されるものではないが、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく用いられる。ここで、スルホン酸基とは−SO2(OH)、スルホンイミド基とは−SO2NHSO2R(ただし、Rは有機基を意味する。)、硫酸基は−OSO2(OH)、ホスホン酸基は−PO(OH)2、リン酸基は−OPO(OH)2、カルボン酸基は−CO(OH)、およびこれらの塩のことを意味する。これらのイオン性基は前記高分子固体電解質中に2種類以上含むことができ、組み合わせることにより好ましくなる場合がある。組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基を有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0024】
このようなポリマーを形成するためのモノマーとしては、たとえばアクリル酸、メタアクリル酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、エチレングリコールメタクリレートホスフェートなどのモノマーを用いることができるが、これらに限定されるものではない。このようなイオン性基を有するモノマーにイオン性基を持たないモノマーを共重合させて使用することも可能である。このような共重合体の具体例として、スチレン/スチレンスルホン酸共重合体、スチレン/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体などがあげられる。また、芳香族ポリマーに対して高分子反応でイオン性基を導入することも可能である。芳香族ポリマーへのホスホン酸基の導入は、例えばPolymer Preprints, Japan , 51, 750 (2002).等に記載の方法によって可能である。芳香族ポリマーへのリン酸基の導入は、例えばヒドロキシル基を有するポリマーのリン酸エステル化によって可能である。芳香族ポリマーへのカルボン酸基の導入は、例えばアルキル基やヒドロキシアルキル基を有するポリマーを酸化することによって可能である。芳香族ポリマーへのスルホンイミド基の導入は、例えばスルホン酸基を有するポリマーをアルキルスルホンアミドで処理することによって可能である。芳香族ポリマーへの硫酸基の導入は、例えばヒドロキシル基を有するポリマーの硫酸エステル化によって可能である。芳香族ポリマーをスルホン化する方法、すなわちスルホン酸基を導入する方法としては、たとえば特開平2−16126号公報あるいは特開平2−208322号公報等に記載の方法が公知である。具体的には、例えば、芳香族ポリマーをクロロホルムでクロロスルホン酸のようなスルホン化剤と反応させたり、濃硫酸や発煙硫酸中で反応することによりスルホン化することができる。スルホン化剤には芳香族ポリマーをスルホン化するものであれば特に制限はなく、上記以外にも三酸化硫黄等を使用することができる。この方法により芳香族ポリマーをスルホン化する場合には、スルホン化の度合いはスルホン化剤の使用量、反応温度および反応時間により制御できる。
【0025】
スルホン化の度合いはスルホン酸基密度の値として示すことができる。本発明における高分子固体電解質のスルホン酸基密度は、プロトン交換能および耐水性の点から0.1〜5.0mmol/gであることが好ましく、さらに好ましくは、1.0〜3.5mmol/gである。スルホン酸基密度が、0.1mmol/gより低いと、伝導度が低いため出力性能が低下することがあり、5.0mmol/gより高いと燃料電池用電解質膜として使用する際に、十分な耐水性および含水時の機械的強度が得られないことがある。
【0026】
ここで、スルホン酸基密度とは高分子固体電解質1グラムあたりに導入されたスルホン酸基のモル数であり、値が大きいほどスルホン化の度合いが高いことを示す。スルホン酸基密度は、1H−NMRスペクトロスコピー、元素分析、中和滴定等により求めることが可能である。試料の純度によらずスルホン酸基密度の測定が可能であることから、1H−NMRスペクトロスコピーが好ましい方法であるが、スペクトルが複雑でスルホン酸基密度の算出が困難な場合には測定の容易さから元素分析を用いることが好ましい。また、スルホン酸基以外の硫黄源を含む場合などは中和滴定によりスルホン酸基密度を求めることも可能である。
【0027】
本発明に使用されるイオン性基を有するポリマーとしては、十分な機械強度と高スルホン酸基密度のポリマーを容易に合成できる点から、イオン性基を有するポリマーがスルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリフェニレンスルフィド、スルホン化ポリアミド、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリエーテルイミド、スルホン化ポリイミダゾール、スルホン化ポリオキサゾール、スルホン化ポリフェニレン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルアルコールスルホン酸エステルおよびパーフルオロスルホン酸系ポリマーから選ばれた少なくとも1種がより好ましく用いられる。
【0028】
次に、本発明に使用される非架橋ポリマーについて説明する。本発明に使用される非架橋ポリマーは使用されるイオン性基を有するポリマーと相溶する疎水性ポリマーであれば特に限定されるものではなく、良好なメタノールクロスオーバー抑制効果を得ることができる。その具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン(PVDF−TFE)共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体に代表されるフッ素系ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホン、ポリイミダゾール、ポリオキサゾール、ポリフェニレンなどの芳香族炭化水素系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリスチレンなどの脂肪族炭化水素系ポリマーが挙げられる。また、主鎖および/または側鎖に剛直性を有するビフェニレン基、ビフェニル基等を有する液晶高分子も本発明の疎水性非架橋ポリマーとして挙げられる。中でもイオン性基を有するポリマーとの相溶性、および疎水性の点からフッ素系ポリマーがより好ましい。また、イオン性基を有するポリマーとの相溶性、および機械強度の点で芳香族炭化水素系ポリマーもより好ましく用いられる。
【0029】
本発明において必要に応じて使用される相溶化剤としては、使用されるイオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーを相溶させるものであれば、特に限定されるものではなく、たとえば直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩やアルキル硫酸エステル塩などの界面活性剤、水酸基、エステル基、アミド基、イミド基、ケトン基、スルホン基、エーテル基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基などの極性基を有する有機化合物およびポリマーが挙げられる。なかでも機械強度、ブリードアウトしにくいという点から極性基を有するポリマーがより好ましい。ポリビニルピロリドンやポリアクリルアミドなどのようなアミド結合を有するポリマーを相溶化剤として用いた場合に、全光線透過率が70%を越えたものとして、透明、かつ機械強度が良好で高プロトン伝導性を有する高分子電解質が容易に得られ、さらに、驚くべきことにこうした高分子固体電解質はイオン性基を有するポリマーが本来有するプロトン伝導性を損なわず、メタノール水溶液にほとんど膨潤せず、メタノールクロスオーバーが抑制されたものとして得ることができる。
【0030】
本発明の高分子固体電解質を燃料電池用として使用する際には、通常膜の状態で使用される。イオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマー、並びに必要に応じてこれらそれぞれに相溶する相溶化剤の混合物を膜へ転化する方法に特に制限はないが、溶液状態より製膜する方法あるいは溶融状態より製膜する方法等が可能である。前者では、たとえば、該混合物をN,N−ジメチルアセトアミド等の溶媒に溶解し、その溶液をガラス板等の上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜する方法が例示できる。製膜に用いる溶媒は、高分子を溶解し、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、あるいはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。これらの溶媒と併用しても良い溶媒としては、メタノール、エタノールに代表されるアルコール類、アセトン、2−ブタノンに代表されるケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルに代表されるエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンに代表されるエーテル類、トリエチルアミン、エチレンジアミンに代表されるアミン類などが挙げられ使用される。膜厚は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御できる。溶融状態より製膜する場合は、溶融プレス法あるいは溶融押し出し法等が可能である。
【0031】
高分子固体電解質膜の厚みは、特に制限はないが通常10〜500μmのものが好適に使用される。実用に耐える膜の強度を得るには10μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能の向上のためには500μmより薄い方が好ましい。
【0032】
本発明に使用されるイオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーの混合比は実用的なプロトン伝導性を得ることができれば特に限定されるものではなく、イオン性基を有するポリマーのスルホン酸基密度にも依存するが、おおよそ、固体高分子電解質全体に対する非架橋ポリマーの割合として1〜60重量%、好ましくは10〜30重量%である。非架橋ポリマーの使用量が60重量%より多ければ十分なプロトン伝導性が得られ難く、1重量%より小さければ膨潤抑制効果とメタノールクロスオーバー抑制効果が不十分な場合がある。また、本発明に必要に応じて使用される相溶化剤の含有量は、イオン性基を有するポリマーの重量と非架橋ポリマーの重量の和に対する割合として、0.1〜30重量部、好ましくは、1〜15重量部である。この使用量が30重量部より多ければ十分なプロトン伝導性が得られず、0.1重量部より小さければ相溶化剤としての機能が不十分な場合がある。
【0033】
また、本発明の高分子固体電解質には、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤、等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で含んでいても構わない。
【0034】
燃料電池として用いる際の電解質と電極の接合法については特に制限はなく、公知の方法(例えば、電気化学,1985, 53, 269.記載の化学メッキ法、J. Electrochem. Soc.: Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209. 記載のガス拡散電極の熱プレス接合法など)を適用することが可能である。
【0035】
本発明の高分子固体電解質は、種々の電気化学装置に適用可能である。例えば、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等が挙げられるが、中でも燃料電池がもっとも好ましい。さらに燃料電池のなかでも固体高分子型燃料電池に好適であり、これには水素を燃料とするものとメタノールなどの有機化合物を燃料とするものがあり、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1〜3のアルコール、ジメチルエーテルおよびこれらの水溶液から選ばれた少なくとも1種を燃料とする直接型燃料電池に特に好ましく用いられる。
【0036】
さらに、本発明の固体高分子型燃料電池の用途としては、特に限定されないが、移動体の電力供給源が好ましいものである。特に、携帯電話、パソコン、PDAなどの携帯機器、掃除機等の家電、乗用車、バス、トラックなどの自動車や船舶、鉄道などの移動体の電力供給源として好ましく用いられる。
【0037】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。
【0038】
(1)スルホン酸基密度測定方法
精製、乾燥後のスルホン化ポリマーを元素分析により測定した。炭素、水素、窒素の分析は全自動元素分析装置varioEL、硫黄の分析はフラスコ燃焼法・酢酸バリウム滴定で実施した。それぞれのポリマーの組成比から単位グラムあたりのスルホン酸基密度(mmol/g)を算出した。
【0039】
(2)高分子固体電解質膜のイオン伝導度測定法
北斗電工製電気化学測定システムHAG5010(HZ−3000 50V 10A Power Unit, HZ−3000 Automatic Polarization System)およびエヌエフ回路設計ブロック製周波数特性分析器(Frequency Response Analyzer)5010を使用し、25℃において、2端子法で定電位インピーダンス測定を行い、ナイキスト(Nykist)図からイオン伝導度を求めた。交流振幅は500mVとした。サンプルは幅10mm程度、長さ10〜30mm程度の膜を用いた。サンプルは測定直前まで水中に浸漬したものを用いた。電極として直径100μmの白金線(2本)を使用した。電極はサンプル膜の表側と裏側に、互いに平行にかつサンプル膜の長手方向に対して直交するように配置した。
【0040】
(3)高分子固体電解質膜のメタノール透過量測定法
H型セル間にサンプル膜を挟み、一方のセルには純水を入れ、他方のセルには1Mメタノール水溶液を入れた。セルの容量は各80mLであった。またセル間の開口部面積は1.77cm2であった。20℃において両方のセルを撹拌した。1時間,2時間および3時間経過時点で純水中に溶出したメタノール量を島津製作所製ガスクロマトグラフィ(GC−2010)で測定し定量した。グラフの傾きから単位時間、単位面積あたりのメタノール透過量を求めた。
【0041】
(4)高分子固体電解質膜の全光線透過率測定法
デジタルSMカラーコンピューター(スガ試験機製:SM−7−CH)を使用し、ASTM−D1003に準じて全光線透過率(%)を測定した。ここで全光線透過率とは試験片の平行入射光束に対する全透過光束の割合である。
【0042】
比較例1 ナフィオン117の評価
市販のナフィオン117膜(デュポン社製)を用い、イオン伝導度、MCOおよび全光線透過率を評価した。ナフィオン117膜は100℃の5%過酸化水素水中にて30分、続いて100℃の5%希硫酸中にて30分浸漬した後、100℃の脱イオン水でよく洗浄した。メタノール透過量は113nmol/cm/min、イオン伝導度は80mS/cm、全光線透過率は85%であった。
【0043】
比較例2 スルホン化PPO/PVDFのブレンド高分子電解質の作製
スルホン化PPO(S−PPO)の合成はPPOとして三菱ガス化学社製YPX−100Lを用い、J. Appl. Polym. Sci., 29, 4017 (1984).記載の方法で実施した。スルホン酸基密度は3.0mmol/gであった。N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させたS−PPOと、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解させたPVDF(呉羽化学社製W#1100))をS−PPO/PVDF=8/2(重量比)で混合し、1時間室温で攪拌した。混合溶液をガラス基板上に流延塗布し、100℃にて3時間乾燥し、溶媒を除去した。得られた膜は、膜厚105μmであり、白濁した柔軟な膜であった。この膜のメタノール透過量は115nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は40%、スルホン酸基密度は2.4mmol/gであった。ナフィオン117に比べイオン伝導度は優れるものの、メタノールクロスオーバー抑制効果はなかった。
【0044】
実施例1 スルホン化PPO/PVDF/PVPのブレンド高分子電解質の作製
スルホン化PPO(S−PPO)の合成はPPOとして三菱ガス化学社製YPX−100Lを用い、J. Appl. Polym. Sci., 29, 4017 (1984).記載の方法で実施した。スルホン酸基密度は3.0mmol/gであった。N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させたS−PPOと、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解させたPVDF(呉羽化学社製W#1100))をS−PPO/PVDF=8/2(重量比)で混合し、さらにDMAcに溶解させたポリビニルピロリドン(PVP、和光純薬工業社製(試薬グレード)、分子量4万)をS−PPOの重量とPVDFの重量の和に対する割合として20重量部添加し、1時間室温で攪拌した。混合溶液をガラス基板上に流延塗布し、100℃にて3時間乾燥し、溶媒を除去した。この膜(膜厚95μm)のメタノール透過量は81nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は85%、スルホン酸基密度は1.9mmol/gであった。膜は透明であり、高イオン伝導度を維持したまま、メタノールクロスオーバーの抑制効果が見られた。
【0045】
比較例3 スルホン化PEEK/PVDFのブレンド高分子電解質の作製
スルホン化PEEKはPEEKとしてビクトレックス社製450PFを用い、Polymer, 28, 1009 (1987).記載の方法で合成した。スルホン酸基密度は2.7mmol/gであった。N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させたS−PEEKと、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解させたPVDF(呉羽化学社製W#1100))をS−PEEK/PVDF=8/2(重量比)で混合し、1時間室温で攪拌した。混合溶液をガラス基板上に流延塗布し、100℃にて3時間乾燥し、溶媒を除去した。得られた膜は、膜厚105μmであり、白濁した柔軟な膜であった。この膜のメタノール透過量は115nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は40%、スルホン酸基密度は2.2mmol/gであった。ナフィオン117に比べイオン伝導度は優れるものの、メタノールクロスオーバー抑制効果はなかった。
【0046】
実施例2 スルホン化PEEK/PVDF/PVPのブレンド高分子電解質の作製
スルホン化PEEKはPEEKとしてビクトレックス社製450PFを用い、Polymer, 28, 1009 (1987).記載の方法で合成した。スルホン酸基密度は2.7mmol/gであった。N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させたS−PEEKと、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解させたPVDF(呉羽化学社製W#1100))をS−PEEK/PVDF=8/2(重量比)で混合し、さらにDMAcに溶解させたポリビニルピロリドン(PVP、和光純薬工業社製(試薬グレード)、分子量4万)をS−PEEKの重量とPVDFの重量の和に対する割合として20重量部添加し、1時間室温で攪拌した。混合溶液をガラス基板上に流延塗布し、100℃にて3時間乾燥し、溶媒を除去した。この膜(膜厚95μm)のメタノール透過量は85nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は80%、スルホン酸基密度は1.7mmol/gであった。膜は透明であり、高イオン伝導度を維持したまま、メタノールクロスオーバーの抑制効果が大きかった。
【0047】
比較例4 スルホン化PEES/PVDFのブレンド高分子電解質の作製
PEEKの代わりに市販のPEES(アルドリッチ社製(試薬グレード))を用いた以外は比較例3に記載の方法で膜の作製を行った。スルホン酸基密度は2.7mmol/gであった。得られた膜は、膜厚105μmであり、白濁した柔軟な膜であった。この膜のメタノール透過量は115nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は40%、スルホン酸基密度は2.2mmol/gであった。ナフィオン117に比べイオン伝導度は優れるものの、メタノールクロスオーバー抑制効果はなかった。
【0048】
実施例3 スルホン化PEES/PVDF/PVPのブレンド高分子電解質の作製
PEEKの代わりに市販のPEES(アルドリッチ社製(試薬グレード))を用いた以外は実施例2に記載の方法で膜の作製を行った。PEESのスルホン酸基密度は2.7mmol/gであった。この膜(膜厚95μm)のメタノール透過量は80nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は80%、スルホン酸基密度は1.7mmol/gであった。膜は透明であり、高イオン伝導度を維持したまま、メタノールクロスオーバーの抑制効果が大きかった。
【0049】
実施例4 スルホン化PPO/PVDF/PNIPAMのブレンド高分子電解質の作製
ポリ(N−ジイソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM、アルドリッチ社製(試薬グレード)、分子量2万)をポリビニルピロリドン(PVP、和光純薬工業社製(試薬グレード)、分子量4万)の代わりに用いた以外は実施例1に記載の方法で膜の作製を行った。この膜(膜厚95μm)のメタノール透過量は90nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は71%、スルホン酸基密度は1.9mmol/gであった。膜は透明であり、高イオン伝導度を維持したまま、メタノールクロスオーバーの抑制効果が見られた。
【0050】
実施例5 スルホン化PPO/ポリイミドスルホンのブレンド高分子電解質の作製
ポリイミドスルホン(新日本理化社製リカコートSN−20)をPVDFの代わりに使用した以外は比較例2に記載の方法で膜の作製を行った。この膜(膜厚102μm)のメタノール透過量は76nmol/cm/min、イオン伝導度は110mS/cm、全光線透過率は80%、スルホン酸基密度は2.4mmol/gであった。膜は透明であり、高イオン伝導度を維持したまま、メタノールクロスオーバーの抑制効果が見られた。
【0051】
比較例5 スルホン化PEEK膜の評価
比較例3で使用したスルホン化PEEKから作製した膜(膜厚95μm)は水に激しく膨潤し、メタノール透過量は312nmol/cm/min、イオン伝導度は101mS/cmとなり、ナフィオン117と同等のイオン伝導度を有するものの、メタノールクロスオーバーは極めて大きかった。
【0052】
比較例6 スルホン化PPO/PVDF/PVPのブレンド高分子電解質の作製
S−PPO/PVDFの重量比をS−PPO/PVDF=3/7に変えた以外は実施例1に記載の方法で膜の作製を行った。この膜(膜厚95μm)のメタノール透過量は8nmol/cm/min、イオン伝導度は10mS/cm、全光線透過率は76%、スルホン酸基密度は0.8mmol/gであった。膜は透明であり、メタノールクロスオーバーの抑制効果は見られたが、イオン伝導度がかなり低かった。
【0053】
実施例6および比較例7
実施例1の高分子固体電解質膜を用いて、次の方法により固体高分子型燃料電池を作製し評価した。また、比較例1の市販のナフィオン117膜も同様に固体高分子型燃料電池を作製し評価した。
【0054】
2枚の炭素繊維クロス基材に20%PTFE水への浸漬による撥水処理を行ったのち、焼成して電極基材を作製した。1枚の電極基材上に、Pt−Ru担持カーボンと市販のNafion溶液(デュポン社製)からなるアノード電極触媒塗液を塗工、乾燥してアノード電極を、もう1枚の電極基材上に、Pt担持カーボンとNafion溶液からなるカソード電極触媒塗液を塗工、乾燥してカソード電極を作製した。
【0055】
実施例1の高分子固体電解質膜を、先に作製したアノード電極とカソード電極で夾持し加熱プレスすることで膜−電極複合体(MEA)を作製した。このMEAをエレクトロケム社製セルにセットしアノード側に3%メタノール水溶液、カソード側に空気を流してMEA評価を行った。評価はMEAに定電流を流し、その時の電圧を測定した。電流を順次増加させ電圧が10mV以下になるまで測定を行った。各測定点での電流と電圧の積が出力となるが、本発明の実施例1の高分子固体電解質膜を使用したMEAの方が優れた特性を有していた。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、メタノールクロスオーバーを抑制し、イオン伝導性が高く、高出力を達成できる新規な高分子電解質およびその製造方法ならびにそれを用いた高性能な固体高分子型燃料電池を提供でき、その実用性は高い。
Claims (12)
- 少なくともイオン性基を有するポリマーと非架橋ポリマーの混合物からなり、全光線透過率が70%以上であることを特徴とする高分子固体電解質。
- 少なくともイオン性基を有するポリマー、非架橋ポリマーおよびその両方を相溶せしめる相溶化剤の混合物からなり、全光線透過率が70%以上であることを特徴とする高分子固体電解質。
- 前記イオン性基を有するポリマーが少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基から選ばれる1種あるいは2種以上を有することを特徴とする請求項1または2に記載の高分子固体電解質。
- 前記イオン性基を有するポリマーが少なくともスルホン酸基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の高分子固体電解質。
- スルホン酸基密度が1.0〜3.5mmol/gであることを特徴とする請求項4に記載の高分子固体電解質。
- 前記イオン性基を有するポリマーがスルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリフェニレンスルフィド、スルホン化ポリアミド、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリエーテルイミド、スルホン化ポリイミダゾール、スルホン化ポリオキサゾール、スルホン化ポリフェニレン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルアルコールスルホン酸エステルおよびパーフルオロスルホン酸系ポリマーから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の高分子固体電解質。
- 前記非架橋ポリマーがフッ素系ポリマーであることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の高分子固体電解質。
- 前記非架橋ポリマーが芳香族炭化水素系ポリマーであることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の高分子固体電解質。
- 前記相溶化剤がアミド結合を有するポリマーであることを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の高分子固体電解質。
- 前記アミド結合を有するポリマーがポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項9に記載の高分子固体電解質。
- 請求項1〜10に記載の高分子固体電解質を用いることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
- 炭素数1〜3のアルコール、ジメチルエーテルおよびこれらの水溶液から選ばれた少なくとも1種を燃料に用いることを特徴とする請求項11に記載の固体高分子型燃料電池。
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