JP2004358489A - カップ状成形品の鍛造成形方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】金型の表面粗度Raを適正化することにより、成形品コーナ部での割れの発生を防止できるカップ状成形品の鍛造成形方法を提供すること。
【解決手段】金型1内に保持した中実素材Mをポンチ5で圧縮し、カップ状成形品11を鍛造成形するに際し、前記金型1として、成形品外周部を成形する金型面2aの表面粗度Raを、成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面2b,3aの表面粗度Ra及び前記ポンチ5の成形品成形面5a,5bの表面粗度Raのいずれよりも粗くした金型1を用いることを特徴とするカップ状成形品の鍛造成形方法。
【選択図】 図2
【解決手段】金型1内に保持した中実素材Mをポンチ5で圧縮し、カップ状成形品11を鍛造成形するに際し、前記金型1として、成形品外周部を成形する金型面2aの表面粗度Raを、成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面2b,3aの表面粗度Ra及び前記ポンチ5の成形品成形面5a,5bの表面粗度Raのいずれよりも粗くした金型1を用いることを特徴とするカップ状成形品の鍛造成形方法。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カップ状成形品の鍛造成形方法に関し、金型の表面粗度Raを適正化することにより、成形品コーナ部での割れの発生を防止できるようにしたカップ状成形品の鍛造成形方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車部品などとして用いられるカップ状部材は、機械加工しろ低減による歩留まり向上や生産性向上のために、線材あるいは棒鋼を切断した円柱状の中実素材を用いて鍛造成形されることが多くなっている。特に、製品寸法精度向上や製造コスト低減のため、カップ状部材は中実素材を加熱せず常温で加工を行う冷間で鍛造成形されることが多い。
【0003】
この冷間鍛造(含む冷間圧造)では、延性の低い加工素材を鍛造成形する場合、製品に割れが発生することが問題となる。そこで、従来、製品に発生する割れの防止を目的として、例えば、特開平9−323137号公報に冷間鍛造方法が提案されている。
【0004】
この従来の冷間鍛造方法は、ボールジョイント等に用いられる複雑な形状の柄付きハウジングを冷間鍛造で成形する方法である。すなわち、所望する柄付きハウジングの体積と略同一体積の円柱素材を形成する第一工程と、円柱素材に段階的な冷間鍛造加工を施し、柄と略同一形状の中間柄と、カップ状本体と略同一外径の中間円柱状本体と、中間柄と中間円柱状本体との間に成形され中間円柱状本体外周から連続的に漸次小径となり、その最小径が段部最小径とスパナ掛け面外径との間に設定されるテーパ部とからなる中間鍛造品を形成する第二工程と、中間鍛造品の中間柄、テーパ部及び中間円柱状本体を加圧し、柄、段部及びカップ状本体を同時に成形する第三工程とにより、柄付きハウジングを割れが発生することなく精度良く冷間鍛造で成形するようにしている。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−323137号公報(段落番号[0008]、第3図〜第5図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし前述した従来の冷間鍛造方法では、柄付きハウジングを冷間鍛造で成形する方法としては優れているものの、カップ状のような比較的単純な形状のものを鍛造成形するのに適用しようとすると、割れ防止のために成形工程数を増やす必要が生じて生産性の低下を招くという欠点がある。また、試作段階においても割れ防止を達成しうるまで中間素材形状用の金型をいくつか作製する必要があり、コスト増大の要因となる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされてものであり、本発明の目的は、金型の表面粗度Raを適正化することにより、成形品コーナ部での割れの発生を防止することができるカップ状成形品の鍛造成形方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明は次のように構成されている。
【0009】
請求項1の発明は、金型内に保持した中実素材をポンチで圧縮し、カップ状成形品を鍛造成形するに際し、前記金型として、成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raを、前記成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Ra及び前記ポンチの成形品成形面の表面粗度Raのいずれよりも粗くした金型を用いることを特徴とするカップ状成形品の鍛造成形方法である。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載のカップ状成形品の鍛造成形方法において、前記成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raの値をRa1とし、前記成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Raと前記ポンチの成形品成形面の表面粗度Raとの平均値の値をRa2とすると、Ra2<1.0μmの場合はRa1がRa2の2倍以上を満足し、Ra2≧1.0μmの場合はRa1がRa2の1.5倍以上を満足することを特徴とするものである。
【0011】
本発明者らは、金型内に保持した中実素材をポンチで圧縮し、カップ状成形品を鍛造成形する場合、成形品外周部から成形品底部へ連なる部位である成形品コーナ部に割れが発生する原因について検討した。その結果、ポンチ圧入時に成形品外周部での上方への素材の流動が大きくなるため、成形品コーナ部では金型からの面圧による圧縮応力が小さい状態で引張応力が作用し、このことが成形品コーナ部に割れが発生する原因であるとの知見を得た。特に、成形品コーナ部におけるアールが小さいものや、段差付き底部を有するカップ状成形品(図1(b)参照)を鍛造成形する場合は、成形品外周部での上方への素材流動が大きくなる傾向が強く、成形品コーナ部が金型面から浮き上がって圧縮応力がない状態で引張応力を受け、割れが発生する危険性が高い。本発明は、このような知見に基づいて考え出されたものである。
【0012】
すなわち、本発明よるカップ状成形品の鍛造成形方法では、成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raを、成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Ra及びポンチの成形品成形面の表面粗度Raのいずれよりも粗くしてある。これにより成形品外周部を成形する金型面において素材に作用する摩擦は、残りの成形品部を成形する金型面及びポンチの成形品成形面よりも大きい。その結果、成形品外周部での上方への素材の大きな流動を抑制することができるので、成形品コーナ部が金型面から浮き上がることを防いで、成形品コーナ部に割れ防止に必要な圧縮応力を金型面から付与することができ、成形品コーナ部での割れの発生をなくすことができる。
【0013】
図4は鍛造成形における金型の表面粗度Raと摩擦係数との関係の一例を示すグラフである。このグラフは本出願人による特許第2804905号に記載されたものである。もちろん、素材、金型の材質や使用する潤滑剤の種類などによって摩擦係数(摩擦抵抗)の絶対値は変化するものの、金型の表面粗度Raと摩擦係数との関係は、図4に示すような傾向を示す。図4によれば、金型の表面粗度Raが大きいほど、グラフの傾きが大きくなり、表面粗度Raの変化に対する摩擦係数の変化が大きくなっている。
【0014】
そこで、本発明者らの実験結果から、本発明よるカップ状成形品の鍛造成形方法では、成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raの値をRa1とし、成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Raとポンチの成形品成形面の表面粗度Raとの平均値の値をRa2とすると、Ra2<1.0μmの場合はRa1がRa2の2倍以上を満足し、Ra2≧1.0μmの場合はRa1がRa2の1.5倍以上を満足することがよい。なお、表面粗度Raは、JIS B 0601に規定される表面粗度Raである。
【0015】
Ra2<1.0μmの場合、Ra1がRa2の2倍未満の値では、成形品コーナ部での割れ防止効果が十分発揮されない。また、Ra2≧1.0μmの場合、Ra1がRa2の1.5倍未満の値では、成形品コーナ部での割れ防止効果が十分発揮されない。よって、Ra2<1.0μmの場合はRa1がRa2の2倍以上であり、Ra2≧1.0μmの場合はRa1がRa2の1.5倍以上であることがよい。このとき、面粗度を大きくしすぎると鍛造荷重の増大や金型の損傷、素材の焼き付きを生じる危険性があるため、Ra2<1.0μm、Ra2≧1.0μmのいずれの場合にもRa1がRa2の5倍を上限値とすることが望ましい。なお、ポンチ外周部面に関しても、その表面粗度Raを大きくした方が割れ抑制の方向に作用するが、その効果は成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raを大きくした場合の効果よりも小さい。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
まず、図1を参照して本発明が適用されるカップ状成形品の例について説明すると、図1の(a)は典型的なカップ状成形品11の正面断面図、(b)は段差付き底部を有するカップ状成形品12の正面断面図、(c)は円筒付き底部を有するカップ状成形品13の正面断面図である。各カップ状成形品11〜13は、中空断面が平面視で円形をなしている。このうち、例えば、カップ状成形品11,12は最終の鍛造成形品(最終製品)である。また、カップ状成形品13は中間の鍛造成形品であって、さらに加工が施されて最終製品となるものである。符合Aはカップ状成形品11〜13の成形品コーナ部である。
【0018】
図2は本発明の一実施形態によるカップ状成形品の鍛造成形方法の説明図であり、左半分は成形前、右半分は成形後の状態を示す正面断面図である。
【0019】
この実施形態は、前記図1(a)に示すカップ状成形品11を冷間鍛造によって成形するものである。図2において、Mは円柱状中実素材、2は固定金型、3はノックアウト機能を有する可動金型、4はポンチガイド、5はポンチ(パンチ)をそれぞれ示す。この実施形態では、固定金型2と可動金型3とにより金型1が構成されている。可動金型3は成形品底部を成形する成形品底部成形金型面3aを有している。また、固定金型2は、成形品外周部を成形する成形品外周部成形金型面2aと、成形品外周部から成形品底部へ連なる成形品コーナ部を成形する成形品コーナ部成形金型面2bとを有している。また、ポンチ5は、円柱状中実素材Mを圧縮し成形品底部を成形するための成形品成形面としてのポンチ先端部面5aと、円柱状中実素材Mを圧縮し成形品外周部を成形するための成形品成形面としてのポンチ外周部面5bとを有している。
【0020】
金型1は、成形品外周部成形金型面2aの表面粗度Raが、成形品底部成形金型面3a、成形品コーナ部成形金型面2b、ポンチ先端部面5a及びポンチ外周部面5bの各表面粗度Raのいずれよりも粗くされている。よって、成形品外周部成形金型面2aにおいて素材に作用する摩擦は、残りの成形品部を成形する金型面2b,3a及びポンチ5の成形品成形面5a,5bよりも大きい。
【0021】
このように構成される金型1を用いて冷間鍛造を行うことにより、成形品外周部での上方への素材の大きな流動を抑制することができるので、カップ状成形品11の成形品コーナ部Aが金型面2bから浮き上がることを防いで、成形品コーナ部Aに割れ防止に必要な圧縮応力を金型面2bから付与することができ、成形品コーナ部Aに割れのない良好なカップ状成形品11を得ることができる。
【0022】
図3は本発明の別の実施形態によるカップ状成形品の鍛造成形方法の説明図であり、左半分は成形前、右半分は成形後の状態を示す正面断面図である。ここで、固定金型2’の形状が相違する点以外は前記図2に示すものと同一構成なので、前記図2と同一部分については図2と同一の符号を付して説明を省略し、異なる点について説明する。
【0023】
この実施形態は、前記図1(b)に示す段差付き底部を有するカップ状成形品12を冷間鍛造によって成形するものである。図3に示すように、固定金型2’は、成形品外周部を成形する成形品外周部成形金型面2’aと、成形品外周部から成形品底部へ連なり段差を含む成形品コーナ部を成形する成形品コーナ部成形金型面2’bとを有している。
【0024】
金型1’は、成形品外周部成形金型面2’aの表面粗度Raが、成形品底部成形金型面3a、成形品コーナ部成形金型面2’b、ポンチ先端部面5a及びポンチ外周部面5bの各表面粗度Raのいずれよりも粗くされている。よって、成形品外周部成形金型面2’aにおいて素材に作用する摩擦は、残りの成形品部を成形する金型面2’b,3a及びポンチ5の成形品成形面5a,5bよりも大きい。
【0025】
このように構成される金型1’を用いて冷間鍛造を行うことにより、成形品外周部での上方への素材の大きな流動を抑制することができるので、カップ状成形品12の成形品コーナ部Aが金型面2’bから浮き上がることを防いで、成形品コーナ部Aに割れ防止に必要な圧縮応力を金型面2’bから付与することができ、成形品コーナ部Aに割れのない良好なカップ状成形品12を得ることができる。
【0026】
【実施例】
次に、実施例について説明する。図1(b)に示すカップ状成形品12を図3に示す金型を用いて冷間鍛造する試験を行った。円柱状中実素材Mの材質はS45C(機械構造用炭素鋼)であり、加工に際し、素材M、金型及びポンチ5等は常温である。金型及びポンチ5の材質はSKD61(熱間工具鋼)である。試験結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、表面粗度Raを全面均一の0.5μmとした金型を用いた比較例1では、成形品コーナ部Aに割れが発生した。また、表面粗度Raを全面均一の1.2μmとした金型を用いた比較例2では、比較例1に比べると微細ではあるものの、成形品コーナ部Aに微細な割れが観察された。
【0029】
これに対して、実施例1,2では、成形品コーナ部Aに割れのない良好なカップ状成形品12を得ることができた。ここで、実施例1,2では、成形品外周部を成形する金型面2’aの表面粗度Raを、成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面2’b,3aの表面粗度Ra及びポンチ5の成形品成形面5a,5bの表面粗度Raのいずれよりも粗くしてある。さらに、実施例1では、金型面2’aの表面粗度Raの値をRa1(=1.2μm)とし、金型面2’b,3aの表面粗度Raとポンチ5の成形品成形面5a,5bの表面粗度Raとの平均値の値をRa2(=0.5μm)とすると、Ra2<1.0μmであるから、Ra1は、Ra1≧(Ra2)×2を満足するように設定されている。また、実施例12では、Ra2≧1.0μmであるから、Ra1は、Ra1≧(Ra2)×1.5を満足するように設定されている。
【0030】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によるカップ状成形品の鍛造成形方法は、金型内に保持した中実素材をポンチで圧縮し、カップ状成形品を鍛造成形するに際し、前記金型として、成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raを、前記成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Ra及び前記ポンチの成形品成形面の表面粗度Raのいずれよりも粗くした金型を用いるように構成されている。これにより成形品外周部での上方への素材の大きな流動を抑制することができるので、カップ状成形品の成形品コーナ部が金型面から浮き上がることを防いで、成形品コーナ部に割れ防止に必要な圧縮応力を金型面から付与することができ、成形品コーナ部に割れのない良好なカップ状成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されるカップ状成形品の例を示す正面断面図であって、その(a)は典型的なカップ状成形品の正面断面図、その(b)は段差付き底部を有するカップ状成形品の正面断面図、その(c)は円筒付き底部を有するカップ状成形品の正面断面図である。
【図2】本発明の一実施形態によるカップ状成形品の鍛造成形方法の説明図であり、左半分は成形前、右半分は成形後の状態を示す正面断面図である。
【図3】本発明の別の実施形態によるカップ状成形品の鍛造成形方法の説明図であり、左半分は成形前、右半分は成形後の状態を示す正面断面図である。
【図4】鍛造成形における金型の表面粗度Raと摩擦係数との関係の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
M…円柱状中実素材 1,1’…金型 2,2’…固定金型 2a,2a’…成形品外周部成形金型面 2b,2b’…成形品コーナ部成形金型面 3…可動金型 3a…成形品底部成形金型面 4…ポンチガイド 5…ポンチ 5a…ポンチ先端部面 5b…ポンチ外周部面 11〜13…カップ状成形品 A…成形品コーナ部 M…円柱状中実素材
【発明の属する技術分野】
本発明は、カップ状成形品の鍛造成形方法に関し、金型の表面粗度Raを適正化することにより、成形品コーナ部での割れの発生を防止できるようにしたカップ状成形品の鍛造成形方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車部品などとして用いられるカップ状部材は、機械加工しろ低減による歩留まり向上や生産性向上のために、線材あるいは棒鋼を切断した円柱状の中実素材を用いて鍛造成形されることが多くなっている。特に、製品寸法精度向上や製造コスト低減のため、カップ状部材は中実素材を加熱せず常温で加工を行う冷間で鍛造成形されることが多い。
【0003】
この冷間鍛造(含む冷間圧造)では、延性の低い加工素材を鍛造成形する場合、製品に割れが発生することが問題となる。そこで、従来、製品に発生する割れの防止を目的として、例えば、特開平9−323137号公報に冷間鍛造方法が提案されている。
【0004】
この従来の冷間鍛造方法は、ボールジョイント等に用いられる複雑な形状の柄付きハウジングを冷間鍛造で成形する方法である。すなわち、所望する柄付きハウジングの体積と略同一体積の円柱素材を形成する第一工程と、円柱素材に段階的な冷間鍛造加工を施し、柄と略同一形状の中間柄と、カップ状本体と略同一外径の中間円柱状本体と、中間柄と中間円柱状本体との間に成形され中間円柱状本体外周から連続的に漸次小径となり、その最小径が段部最小径とスパナ掛け面外径との間に設定されるテーパ部とからなる中間鍛造品を形成する第二工程と、中間鍛造品の中間柄、テーパ部及び中間円柱状本体を加圧し、柄、段部及びカップ状本体を同時に成形する第三工程とにより、柄付きハウジングを割れが発生することなく精度良く冷間鍛造で成形するようにしている。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−323137号公報(段落番号[0008]、第3図〜第5図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし前述した従来の冷間鍛造方法では、柄付きハウジングを冷間鍛造で成形する方法としては優れているものの、カップ状のような比較的単純な形状のものを鍛造成形するのに適用しようとすると、割れ防止のために成形工程数を増やす必要が生じて生産性の低下を招くという欠点がある。また、試作段階においても割れ防止を達成しうるまで中間素材形状用の金型をいくつか作製する必要があり、コスト増大の要因となる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされてものであり、本発明の目的は、金型の表面粗度Raを適正化することにより、成形品コーナ部での割れの発生を防止することができるカップ状成形品の鍛造成形方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明は次のように構成されている。
【0009】
請求項1の発明は、金型内に保持した中実素材をポンチで圧縮し、カップ状成形品を鍛造成形するに際し、前記金型として、成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raを、前記成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Ra及び前記ポンチの成形品成形面の表面粗度Raのいずれよりも粗くした金型を用いることを特徴とするカップ状成形品の鍛造成形方法である。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載のカップ状成形品の鍛造成形方法において、前記成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raの値をRa1とし、前記成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Raと前記ポンチの成形品成形面の表面粗度Raとの平均値の値をRa2とすると、Ra2<1.0μmの場合はRa1がRa2の2倍以上を満足し、Ra2≧1.0μmの場合はRa1がRa2の1.5倍以上を満足することを特徴とするものである。
【0011】
本発明者らは、金型内に保持した中実素材をポンチで圧縮し、カップ状成形品を鍛造成形する場合、成形品外周部から成形品底部へ連なる部位である成形品コーナ部に割れが発生する原因について検討した。その結果、ポンチ圧入時に成形品外周部での上方への素材の流動が大きくなるため、成形品コーナ部では金型からの面圧による圧縮応力が小さい状態で引張応力が作用し、このことが成形品コーナ部に割れが発生する原因であるとの知見を得た。特に、成形品コーナ部におけるアールが小さいものや、段差付き底部を有するカップ状成形品(図1(b)参照)を鍛造成形する場合は、成形品外周部での上方への素材流動が大きくなる傾向が強く、成形品コーナ部が金型面から浮き上がって圧縮応力がない状態で引張応力を受け、割れが発生する危険性が高い。本発明は、このような知見に基づいて考え出されたものである。
【0012】
すなわち、本発明よるカップ状成形品の鍛造成形方法では、成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raを、成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Ra及びポンチの成形品成形面の表面粗度Raのいずれよりも粗くしてある。これにより成形品外周部を成形する金型面において素材に作用する摩擦は、残りの成形品部を成形する金型面及びポンチの成形品成形面よりも大きい。その結果、成形品外周部での上方への素材の大きな流動を抑制することができるので、成形品コーナ部が金型面から浮き上がることを防いで、成形品コーナ部に割れ防止に必要な圧縮応力を金型面から付与することができ、成形品コーナ部での割れの発生をなくすことができる。
【0013】
図4は鍛造成形における金型の表面粗度Raと摩擦係数との関係の一例を示すグラフである。このグラフは本出願人による特許第2804905号に記載されたものである。もちろん、素材、金型の材質や使用する潤滑剤の種類などによって摩擦係数(摩擦抵抗)の絶対値は変化するものの、金型の表面粗度Raと摩擦係数との関係は、図4に示すような傾向を示す。図4によれば、金型の表面粗度Raが大きいほど、グラフの傾きが大きくなり、表面粗度Raの変化に対する摩擦係数の変化が大きくなっている。
【0014】
そこで、本発明者らの実験結果から、本発明よるカップ状成形品の鍛造成形方法では、成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raの値をRa1とし、成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Raとポンチの成形品成形面の表面粗度Raとの平均値の値をRa2とすると、Ra2<1.0μmの場合はRa1がRa2の2倍以上を満足し、Ra2≧1.0μmの場合はRa1がRa2の1.5倍以上を満足することがよい。なお、表面粗度Raは、JIS B 0601に規定される表面粗度Raである。
【0015】
Ra2<1.0μmの場合、Ra1がRa2の2倍未満の値では、成形品コーナ部での割れ防止効果が十分発揮されない。また、Ra2≧1.0μmの場合、Ra1がRa2の1.5倍未満の値では、成形品コーナ部での割れ防止効果が十分発揮されない。よって、Ra2<1.0μmの場合はRa1がRa2の2倍以上であり、Ra2≧1.0μmの場合はRa1がRa2の1.5倍以上であることがよい。このとき、面粗度を大きくしすぎると鍛造荷重の増大や金型の損傷、素材の焼き付きを生じる危険性があるため、Ra2<1.0μm、Ra2≧1.0μmのいずれの場合にもRa1がRa2の5倍を上限値とすることが望ましい。なお、ポンチ外周部面に関しても、その表面粗度Raを大きくした方が割れ抑制の方向に作用するが、その効果は成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raを大きくした場合の効果よりも小さい。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
まず、図1を参照して本発明が適用されるカップ状成形品の例について説明すると、図1の(a)は典型的なカップ状成形品11の正面断面図、(b)は段差付き底部を有するカップ状成形品12の正面断面図、(c)は円筒付き底部を有するカップ状成形品13の正面断面図である。各カップ状成形品11〜13は、中空断面が平面視で円形をなしている。このうち、例えば、カップ状成形品11,12は最終の鍛造成形品(最終製品)である。また、カップ状成形品13は中間の鍛造成形品であって、さらに加工が施されて最終製品となるものである。符合Aはカップ状成形品11〜13の成形品コーナ部である。
【0018】
図2は本発明の一実施形態によるカップ状成形品の鍛造成形方法の説明図であり、左半分は成形前、右半分は成形後の状態を示す正面断面図である。
【0019】
この実施形態は、前記図1(a)に示すカップ状成形品11を冷間鍛造によって成形するものである。図2において、Mは円柱状中実素材、2は固定金型、3はノックアウト機能を有する可動金型、4はポンチガイド、5はポンチ(パンチ)をそれぞれ示す。この実施形態では、固定金型2と可動金型3とにより金型1が構成されている。可動金型3は成形品底部を成形する成形品底部成形金型面3aを有している。また、固定金型2は、成形品外周部を成形する成形品外周部成形金型面2aと、成形品外周部から成形品底部へ連なる成形品コーナ部を成形する成形品コーナ部成形金型面2bとを有している。また、ポンチ5は、円柱状中実素材Mを圧縮し成形品底部を成形するための成形品成形面としてのポンチ先端部面5aと、円柱状中実素材Mを圧縮し成形品外周部を成形するための成形品成形面としてのポンチ外周部面5bとを有している。
【0020】
金型1は、成形品外周部成形金型面2aの表面粗度Raが、成形品底部成形金型面3a、成形品コーナ部成形金型面2b、ポンチ先端部面5a及びポンチ外周部面5bの各表面粗度Raのいずれよりも粗くされている。よって、成形品外周部成形金型面2aにおいて素材に作用する摩擦は、残りの成形品部を成形する金型面2b,3a及びポンチ5の成形品成形面5a,5bよりも大きい。
【0021】
このように構成される金型1を用いて冷間鍛造を行うことにより、成形品外周部での上方への素材の大きな流動を抑制することができるので、カップ状成形品11の成形品コーナ部Aが金型面2bから浮き上がることを防いで、成形品コーナ部Aに割れ防止に必要な圧縮応力を金型面2bから付与することができ、成形品コーナ部Aに割れのない良好なカップ状成形品11を得ることができる。
【0022】
図3は本発明の別の実施形態によるカップ状成形品の鍛造成形方法の説明図であり、左半分は成形前、右半分は成形後の状態を示す正面断面図である。ここで、固定金型2’の形状が相違する点以外は前記図2に示すものと同一構成なので、前記図2と同一部分については図2と同一の符号を付して説明を省略し、異なる点について説明する。
【0023】
この実施形態は、前記図1(b)に示す段差付き底部を有するカップ状成形品12を冷間鍛造によって成形するものである。図3に示すように、固定金型2’は、成形品外周部を成形する成形品外周部成形金型面2’aと、成形品外周部から成形品底部へ連なり段差を含む成形品コーナ部を成形する成形品コーナ部成形金型面2’bとを有している。
【0024】
金型1’は、成形品外周部成形金型面2’aの表面粗度Raが、成形品底部成形金型面3a、成形品コーナ部成形金型面2’b、ポンチ先端部面5a及びポンチ外周部面5bの各表面粗度Raのいずれよりも粗くされている。よって、成形品外周部成形金型面2’aにおいて素材に作用する摩擦は、残りの成形品部を成形する金型面2’b,3a及びポンチ5の成形品成形面5a,5bよりも大きい。
【0025】
このように構成される金型1’を用いて冷間鍛造を行うことにより、成形品外周部での上方への素材の大きな流動を抑制することができるので、カップ状成形品12の成形品コーナ部Aが金型面2’bから浮き上がることを防いで、成形品コーナ部Aに割れ防止に必要な圧縮応力を金型面2’bから付与することができ、成形品コーナ部Aに割れのない良好なカップ状成形品12を得ることができる。
【0026】
【実施例】
次に、実施例について説明する。図1(b)に示すカップ状成形品12を図3に示す金型を用いて冷間鍛造する試験を行った。円柱状中実素材Mの材質はS45C(機械構造用炭素鋼)であり、加工に際し、素材M、金型及びポンチ5等は常温である。金型及びポンチ5の材質はSKD61(熱間工具鋼)である。試験結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、表面粗度Raを全面均一の0.5μmとした金型を用いた比較例1では、成形品コーナ部Aに割れが発生した。また、表面粗度Raを全面均一の1.2μmとした金型を用いた比較例2では、比較例1に比べると微細ではあるものの、成形品コーナ部Aに微細な割れが観察された。
【0029】
これに対して、実施例1,2では、成形品コーナ部Aに割れのない良好なカップ状成形品12を得ることができた。ここで、実施例1,2では、成形品外周部を成形する金型面2’aの表面粗度Raを、成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面2’b,3aの表面粗度Ra及びポンチ5の成形品成形面5a,5bの表面粗度Raのいずれよりも粗くしてある。さらに、実施例1では、金型面2’aの表面粗度Raの値をRa1(=1.2μm)とし、金型面2’b,3aの表面粗度Raとポンチ5の成形品成形面5a,5bの表面粗度Raとの平均値の値をRa2(=0.5μm)とすると、Ra2<1.0μmであるから、Ra1は、Ra1≧(Ra2)×2を満足するように設定されている。また、実施例12では、Ra2≧1.0μmであるから、Ra1は、Ra1≧(Ra2)×1.5を満足するように設定されている。
【0030】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によるカップ状成形品の鍛造成形方法は、金型内に保持した中実素材をポンチで圧縮し、カップ状成形品を鍛造成形するに際し、前記金型として、成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raを、前記成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Ra及び前記ポンチの成形品成形面の表面粗度Raのいずれよりも粗くした金型を用いるように構成されている。これにより成形品外周部での上方への素材の大きな流動を抑制することができるので、カップ状成形品の成形品コーナ部が金型面から浮き上がることを防いで、成形品コーナ部に割れ防止に必要な圧縮応力を金型面から付与することができ、成形品コーナ部に割れのない良好なカップ状成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されるカップ状成形品の例を示す正面断面図であって、その(a)は典型的なカップ状成形品の正面断面図、その(b)は段差付き底部を有するカップ状成形品の正面断面図、その(c)は円筒付き底部を有するカップ状成形品の正面断面図である。
【図2】本発明の一実施形態によるカップ状成形品の鍛造成形方法の説明図であり、左半分は成形前、右半分は成形後の状態を示す正面断面図である。
【図3】本発明の別の実施形態によるカップ状成形品の鍛造成形方法の説明図であり、左半分は成形前、右半分は成形後の状態を示す正面断面図である。
【図4】鍛造成形における金型の表面粗度Raと摩擦係数との関係の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
M…円柱状中実素材 1,1’…金型 2,2’…固定金型 2a,2a’…成形品外周部成形金型面 2b,2b’…成形品コーナ部成形金型面 3…可動金型 3a…成形品底部成形金型面 4…ポンチガイド 5…ポンチ 5a…ポンチ先端部面 5b…ポンチ外周部面 11〜13…カップ状成形品 A…成形品コーナ部 M…円柱状中実素材
Claims (2)
- 金型内に保持した中実素材をポンチで圧縮し、カップ状成形品を鍛造成形するに際し、前記金型として、成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raを、前記成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Ra及び前記ポンチの成形品成形面の表面粗度Raのいずれよりも粗くした金型を用いることを特徴とするカップ状成形品の鍛造成形方法。
- 前記成形品外周部を成形する金型面の表面粗度Raの値をRa1とし、前記成形品外周部以外の残りの成形品部を成形する金型面の表面粗度Raと前記ポンチの成形品成形面の表面粗度Raとの平均値の値をRa2とすると、Ra2<1.0μmの場合はRa1がRa2の2倍以上を満足し、Ra2≧1.0μmの場合はRa1がRa2の1.5倍以上を満足することを特徴とする請求項1記載のカップ状成形品の鍛造成形方法。
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WO2008041406A1 (fr) * | 2006-10-03 | 2008-04-10 | Seiko Instruments Inc. | Ébauche d'élément annulaire de palier, son procédé de fabrication, procédé de fabrication de l'élément annulaire de palier et palier |
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2003
- 2003-06-02 JP JP2003157211A patent/JP2004358489A/ja active Pending
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