JP2004355891A - 電界放出型冷陰極、その製造方法及び電解放出型画像表示装置 - Google Patents
電界放出型冷陰極、その製造方法及び電解放出型画像表示装置 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】▲1▼下部電極とカーボン材料との密着性向上、▲2▼画素内、画素間の輝度バラツキの抑制、▲3▼カーボン材料の耐熱性向上による電界放出性能の低下防止。
【解決手段】カーボン材料をシリカゾル溶液中に分散させ、乾燥処理により当該溶液の溶媒を除去することにより、シリカゲルをカーボン材料の表面に析出、定着させる。更に、加熱処理によりシリカゲルのシラノール基(−Si−O−H)の一部を脱水・架橋させた上で(−Si−O−Si−)、当該カーボン材料を極性溶媒中に混合してペースト又はスラリーを調整する。その際、極性基(−Si−O−H)が導入されるので、極性溶媒に対する分散性が向上する。調整後のカーボン材料5のペースト又はスラリーを下部電極2上に塗布して陰極層4を形成する。更に、焼成により、シラノール基の一部を下部電極2の金属原子と化学結合させても良い。シリカゲル6は酸素遮蔽膜として機能する。
【選択図】 図1
【解決手段】カーボン材料をシリカゾル溶液中に分散させ、乾燥処理により当該溶液の溶媒を除去することにより、シリカゲルをカーボン材料の表面に析出、定着させる。更に、加熱処理によりシリカゲルのシラノール基(−Si−O−H)の一部を脱水・架橋させた上で(−Si−O−Si−)、当該カーボン材料を極性溶媒中に混合してペースト又はスラリーを調整する。その際、極性基(−Si−O−H)が導入されるので、極性溶媒に対する分散性が向上する。調整後のカーボン材料5のペースト又はスラリーを下部電極2上に塗布して陰極層4を形成する。更に、焼成により、シラノール基の一部を下部電極2の金属原子と化学結合させても良い。シリカゲル6は酸素遮蔽膜として機能する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、画像表示素子の電子源として利用される、電界放出型冷陰極に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、画像表示装置の薄型化の市場要求が高まっており、電界放出型画像表示(FED)素子の開発が注目を集めている。そして、カーボンナノチューブ(CNT)に代表される種々のカーボン材料が優れた電界放出特性を有することが、報告されている。このため、カーボンナノチューブ等のカーボン材料は、上記電界放出型画像表示素子における有望な陰極材料(エミッタ材料)として期待されており、その様なカーボン材料を陰極材料として実用化するための様々な研究活動が行われている。
【0003】
電界放出型画像表示装置の背面パネル側における一般的な冷陰極構造は、(1)ガラス基板と、(2)その上に形成された下部電極(カソード電極)と、(3)下部電極上に直接形成されて下部電極から電子が供給される、カーボンナノチューブより成る陰極層(エミッタ)と、陰極の上方に数十μmの間隔をおいて設置されており、陰極層と当該電極間の印加電圧に起因して陰極層より放出される電子の通過孔となる開口部を有する上部引き出し電極(ゲート電極)とから、構成されている。しかも、上部引き出し電極と下部電極とは立体的に互いに直交しており、平面視において両電極の交差点はサブピクセルを成す。即ち、電界放出型画像表示素子の駆動に於いては、下部電極と上部引き出し電極とをそれぞれストライプ状に形成し、これらの電極が互いに立体的に直交する様に配置した上で、夫々に異なる電位を与えて、その交点に於いて、上下の電極間に、陰極材の電界放出特性に対応する電位差を生じさせて、所望の画素に対応する陰極部分より電界放出を起こさせる。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−190247号公報
【特許文献2】
特開2001−110303号公報
【特許文献3】
特開2003−59391号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
カーボン材料を上記電界放出型画像表示素子の陰極に適用する際の主用な問題点は、以下の3つである。
【0006】
(1)カーボン材料は、下部電極を形成する無機金属材料との密着性が低いため、上部電極と下部電極間で電位差が発生すると、誘起される静電引力によりカーボン材料が下部電極から剥離し陰極層と下部電極との導通が不安定になり、その結果、陰極層の電界放出性能が不安定になる。しかも、剥離したカーボン材料の一部が上部電極に接触するときには、剥離したカーボン材料の一部は上下電極間を短絡させて画面欠点を発生させる。
【0007】
(2)陰極層は印刷法あるいはスピンコート法により形成されるが、カーボン材料は、印刷ペーストあるいはスピンコート用懸濁液(以後、懸濁液をスラリーと称す)の調整に使用される極性溶媒への分散性が低く、当該ペースト若しくはスラリー中で凝集する。その結果、形成された陰極層中でのカーボン材料の分布が不均一になり、この分布不均一が各陰極層からの電子放出の均一性を確保することが出来ず、表示面に輝度斑を生じさせる。
【0008】
(3)カーボン材料は、その耐熱性が低いため、画像表示装置組み立てに於いて必須であり不可避な熱工程、例えば、函体を封着する工程において、その一部が焼失したり、又は、その結晶構造に欠陥が生じたりすることにより、電界放出性能が劣化する。
【0009】
(1)の問題を解決するために、陰極層の膜強度及び同層の基板への密着力を確保する技術として、アーク法で合成するカーボンナノチューブに対して、合成後の粒子状不純物を除去する精製を敢えて行わず、この粒子状不純物をカーボンナノチューブ間の充填剤として用い、陰極層の膜強度及び陰極層の基板への密着力を確保する方法が、上記の特許文献1において開示されている。この場合、当該アーク法で得られる上記不純物は、主に、粒子状グラファイト、アモルファスカーボン及び触媒金属粒から成る。
【0010】
しかしながら、上記先行技術においては、粒子状不純物の大部分がカーボン系の不純物であるので、依然として、陰極層の無機電極材料への密着性は低く、静電引力による陰極層剥離を抑え得るだけの密着力を確保するのは困難である。
【0011】
又、当該先行技術においては、アクリル、ニトロセルロース、ポリイミド樹脂の有機系バインダーを併用する例も挙げられている。しかしながら、この様な有機系バインダーはガスを放出して陰極層被毒の原因となるため、最終的には熱工程を通してこれを除去せねばならず、陰極層剥離の問題を解消することが出来ない。
【0012】
あるいは、触媒金属の残留量を増やすことで、陰極層の無機電極材料への密着性を挙げる事も考えられるが、金属含有量が高くなると、分散性が非常に悪くなり、陰極層を形成する為の印刷用ペースト、又は、スピンコートあるいはスプレーコート用スラリーを作成する事が困難になる。更に、金属表面は燃焼触媒となる場合が多く、残留により、グラファイト材料の耐熱性を更に低下させてしまうと言う新たな問題点が惹起される。従って、この方策も有効な解決策とは成り得ない。
【0013】
(2)の問題を解決するために、陰極層中のカーボン材料の均一分散を確保する技術として、カーボンナノチューブを電気泳動法により下部電極へ付着させた上で、200℃〜600℃の温度で熱処理してカソードを作成する方法が、上記の特許文献2において開示されている。この方法によれば、カーボンナノチューブを下部電極上に均一に付着させることは可能である。
【0014】
しかしながら、電気泳動法により、下部電極にカーボンナノチューブを付着させ、これを熱処理するだけでは、カーボンナノチューブと下部電極との密着性の向上は得られず、陰極層たるカーボンナノチューブは容易く剥離してしまう。
【0015】
これに対して、アルミニウムや金等の金属を下部電極に用い、電気泳動法でカーボンナノチューブを付着させた後、無酸素雰囲気下で加熱処理を行って、下部電極を溶融させることで下部電極用金属をカーボンナノチューブ層に浸透させて、密着性を確保する方法が、上記特許文献3において、提案されている。この文献によれば、当該加熱処理を無酸素雰囲気下で行うことにより、カーボンナノチューブの酸化及び焼失と言う熱ダメージの発生を防止することが出来る。
【0016】
しかしながら、上記文献3中においても記載されている通り、この方法では、下部電極の溶融に対して、670℃〜800℃(アルミニウムの場合)、あるいは、1100℃〜1200℃(金の場合)の高温加熱が必要となり、この高温加熱処理に起因して、下部電極を保持するガラス基板が歪み、電界放出型画像表示装置のカソードを形成する事が出来なくなると言う新たな問題点が引き起こされてしまう。
【0017】
また、(3)の耐熱性の問題をカーボン材料により解決するためには、材料を構成する結晶中の格子欠陥を少なくする必要がある。蓋し、この様な格子欠陥部分が酸化及び燃焼の端緒となるからである。
【0018】
ところが、この様なカーボン材料の格子欠陥部分は、通常、カルボニル基(−CO−)又はカルボキシル基(−COOH)の様な極性基を形成しているので、格子欠陥を減らすことは、カーボン材料表面の極性基を減らすことに繋がり、その結果、陰極材料の下部電極への密着性、及び、陰極材料の極性溶媒への分散性は、共に更に低下してしまう。
【0019】
本発明は、上述の問題点(1)〜(3)を考慮して成されたものであり、その目的とするところは、カーボンナノチューブ又は繊維状カーボン材料に代表される様なカーボン材料を用いて電界放出型冷陰極を形成するに際して、▲1▼下部電極と陰極層との間の密着性の向上、▲2▼陰極層を形成するためのペーストあるいはスラリー中におけるカーボン材料の分散性向上化を通じて、電子放出の均一性及び表示面上の輝度均一性の確保、▲3▼熱工程中におけるカーボン材料を用いた陰極層の耐熱性向上を通じて陰極層の電界放出特性の改善化を、一挙に解決可能な構造を有する電界放出型冷陰極及びその製造技術を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
この発明の主題に係る電界放出型冷陰極の製造方法は、(a)カーボン材料をシリカゾル溶液中に分散させ、乾燥処理により前記シリカゾル溶液の溶媒を除去することにより、前記カーボン材料の表面上にシリカゲルを析出、定着させる工程と、(b)前記シリカゲルを前記表面に定着させた後のカーボン材料を極性溶媒中に分散させ、ペースト若しくは懸濁液を調整する工程と、(c)基板上に下部電極を形成する工程と、(d)前記下部電極上に、前記ペースト若しくは懸濁液を塗布して陰極層を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0021】
ここで留意すべき点は、上記下部電極形成工程(c)を、上記シリカゲル定着工程(a)の前において実行しても良いし、あるいは、上記ペースト・懸濁液調整工程(b)の後に実行しても良いことである。
【0022】
以下、本発明の一適用例である実施の形態1及び2を、図面を参照しつつ、具体的且つ詳細に記述することとする。
【0023】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る電界放出型冷陰極の特徴点は、下部電極を有するガラス基板(単に基板とも称す)上に形成される陰極層を、その表面上にシリカゲルを定着したカーボン材料より構成した点にある。しかも、シリカゲルに含有されるシラノール基の少なくとも一部は重合されてSiO2膜に変化している。更に好ましい例として、シリカゲルと下部電極との界面におけるシリカゲル部分中のシラノール基は、下部電極表面の金属原子(例えば鉄(Fe)原子)と化学結合している。ここで、カーボン材料としては、例えばカーボンナノチューブ(CNT)の様な繊維状カーボン材料が用いられる。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る電界放出型冷陰極の一部における構成を拡大して示す縦断面図である。図1において、ガラス基板1の表面上に、カソード電極としての下部電極2が配設されている。又、ガラス基板1の上方には、ゲート絶縁膜としてのスペーサー(図示せず)を介して、ゲート電極としての上部引き出し電極3が配設されている。ここで、下部電極2及び上部引き出し電極3は、各々ストライプ状に配設されており、しかも、各下部電極2の配設方向(図面の前後方向)と各上部引き出し電極3の配設方向(図面の左右方向)とは、互いに直交している。従って、図1は、平面視において、下部電極2とそれに対応する上部引き出し電極3とが交差する重複領域(サブピクセル領域)を拡大して図示した構造に該当する。又、図1中、当該重複領域において、上部引き出し電極3には、電子の通過孔(エミッタホール)としての開口部(貫通孔)3aが、設けられている。尚、上記の様な構造は、上記スペーサーを含めて、既知であり、例えば特開2001−209352号公報の図3に図示されている。
【0025】
そして、開口部3aに対向する下部電極2の表面上には、電子を放出するエミッタとしての陰極層4が設けられている。ここでは、陰極層4は、▲1▼カーボン材料(例えば、カーボンナノチューブより成る。以下、カーボンナノチューブとして記載を進める。)5と、▲2▼その表面に定着したシリカゲル6より構成されている。しかも、シリカゲル6は、当該シリカゲル6の材料であるシリガゾルの熱処理及び/又は当該シリカゲル6の更なる熱処理により生成されるSiO2膜を、その内部に含有している。そして、シリカゲル6内のシラノール基と下部電極2の表面の金属原子とは、互いに配位している、あるいは、互いに化学的に結合している。
【0026】
尚、石英の融点(600℃〜700℃)を越える様な高温で当該シリカゲル6を熱処理しても良く、そのときには、シリカゲル6はSiO2膜の連続体として構成される。
【0027】
次に、本実施の形態に係る電界放出型冷陰極の製造方法を、図面に基づいて記載する。
【0028】
<工程1>
先ず、図2に示す様に、蒸着法又は印刷法等を用いて、ITO、アルミニウム、銀等の無機金属材料により、ガラス基板1の表面上に、下部電極2を配設する。
【0029】
<工程2>
次に、アーク法等により合成されたカーボンナノチューブの粉末を用いて、印刷ペーストを調合する。
【0030】
先ず、超音波分散法等を用いて、カーボンナノチューブをシリカゾル溶液中に分散させ、その後、乾燥処理を行うことにより当該溶液の溶媒を除去することにより、シリカゲルをカーボン材料の表面上に析出、定着させる。この段階で、シリカゲルは、少量ながら、SiO2膜を含んでいる。
【0031】
上記の様に処理して、シリカゲルをその表面に定着させたカーボンナノチューブを、そのままペースト調合に用いても良い。
【0032】
しかしながら、ペースト調合中に加わるシェアー(せん断力)によりシリカゲルがカーボンナノチューブから剥離する可能性がある。これを防ぐ為には、上記の様にして得られた、粉体のカーボンナノチューブを所定の第1温度で第1加熱処理して、表面に定着したシリカゲルの少なくとも一部を重合させ、SiO2膜を形成することで、シリカゲル中のSiO2膜の含有量を一層増大させれば良い。
【0033】
具体的には、上記の様にして得られた粉体のカーボンナノチューブに対して、200℃、20分間の過熱処理を行い、シリカゲルに含有されるシラノール基(−Si−O−H)間で脱水、架橋を行うことにより、シラノール基の一部を重合させ(−Si−O−Si−)、SiO2膜を形成させる。図3に、この様にして得られたシリカゲル6をその表面に定着させたカーボンナノチューブ5の模式図を示す。
【0034】
本実施の形態では、上記の加熱条件にてシリカゲルを重合させたが、当該反応は150℃以上の温度域であれば促進されるため、特に上記加熱条件に限定される訳ではない。但し、250℃以上の温度条件では、反応が進みすぎて後述する極性溶媒への分散性改善及び下部電極2への密着性改善に寄与するシラノ−ル基の量が少なくなるため、250℃以上の温度条件は好ましいとは言えない。従って、上記加熱処理を150℃〜250℃の温度範囲で行うのが好適である。
【0035】
次に、上記の様にして得られた、カーボンナノチューブを用いて、印刷ペーストを調合する。
【0036】
具体的には、印刷ペーストは、例えば、組成比7%のカーボンナノチューブ、組成比6%のエチルセルロース(有機バインダー)、組成比8%のブチルカルビトール(極性溶媒)、79%のブチルカルビトールアセテート(極性溶媒)を混合することにより、作成される。
【0037】
カーボンナノチューブの様なカーボン材料は極性が小さく、本来、極性溶媒への分散性は非常に低い。しかし、本実施の形態では、具体的に記載した処理により、カーボンナノチューブ5の表面上に、当該表面を被覆する様に、シリカゲルを定着させて、カーボンナノチューブ表面に、シリカゲル内に含有されるシラノール基(−Si−O−H:極性基)を導入しているので、極性溶媒への分散性が大幅に改善される。換言すれば、極性基を導入して極性溶媒への分散性を高めるために、図3の様に、定着されたシリカゲル6で以ってカーボンナノチューブ5の表面を被覆しているのである。
【0038】
尚、当該工程2と既述の工程1との順序を入れ替えても良い。
【0039】
<工程3>
次に、スクリーン印刷法により、下部電極2の表面上に、上記印刷ペーストを所定の形状に印刷する。その後、乾燥工程を経た上で(この段階では、シラノール基の一部と下部電極2の金属との間には、図5(A)に示す様な配位が成立している)、当該基板を350℃程度の温度下で約20分間焼成することにより(所定の第2温度下での第2加熱処理)、有機バインダー成分を除去し、下部電極2の表面上に、カーボンナノチューブ5、及び、その表面に定着した一部SiO2膜を含むシリカゲル6を残存させる(図4)。
【0040】
上記熱工程中に、図5(B)に示す様に、下部電極表面と接する部分におけるシリカゲル6のシラノール基の一部が、下部電極2の金属(当該金属原子をMeと記す)と化学的に結合し、陰極層4をより一層堅固に下部電極2に結合させる。尚、図5(A)に示す様な配位状態においても、カーボンナノチューブのみから成る陰極層と比較すれば、陰極層と下部電極表面との固着強度は高まっている。
【0041】
本実施の形態では、有機バインダーを除去する必要から350℃程度で焼成したが、上記結合反応は150℃以上の温度の範囲で起こるため、例えば、有機バインダーを含まずにペーストを調合した場合には、陰極層の形成(乾燥)後に150℃以上の温度で加熱処理する事により(所定の第2温度下での第2加熱処理)、同様の効果を期待することが出来る。
【0042】
<工程4>
その後、ガラス基板1上に、図示していないスペーサーを設け、当該スペーサー上に、平面視において下部電極2と立体交差する位置に開口部3aが貫通する様に穿設されている、上部引き出し電極3を、載置する(図1)。
【0043】
尚、スピンコートで陰極層4を形成する場合には、印刷ペーストの調合に代えて、シリカゲル6をその表面に定着させた後のカーボン材料を極性溶媒中に分散させて懸濁液(スラリー)を調整することとしても良い。この場合には、上記シリカゲル付きカーボンナノチューブ粉末を、例えばエタノールあるいはイソプロピロアルコールの溶媒中に混合することにより、スラリーを調整する。その上で、基板の回転によって下部電極表面上にスラリーを均一に塗布し、その後、乾燥・焼成工程を経て、印刷法で得られる物と同様な構造を有する陰極層4が下部電極表面上に形成される。
【0044】
以上が、本実施の形態に係る電界放出型冷陰極の製造方法である。
【0045】
次に、上記の方法により製造された電界放出型冷陰極に対して、陰極層4の下部電極2への密着性と、陰極層4の電界放出性能との評価を、行った。尚、当該評価は、本実施の形態で得られたカソードの性能を明確にするために、以下の4種類の測定対象を用いて行った。
【0046】
即ち、第1測定対象は、本実施の形態における上記工程に基づいて作成された測定対象(上記第1及び第2加熱処理を経た物)である。これに対して、第2測定対象は、本実施の形態におけるカーボンナノチューブ表面へのシリカゲル定着処理を行わずに、未処理のカーボンナノチューブのみを用いて陰極層を構成するものであり、上記シリカゲル定着処理以外は本実施の形態に従って作成されている。又、第3測定対象は、上記第1測定対象と同様に本実施の形態に従って作成されると共に、更に、その後、500℃、30分間の加熱処理を施して得られた測定対象である。又、第4測定対象は、第2測定対象に対して、500℃、30分間の加熱処理を更に施すことで得られた測定対象である。
【0047】
ここで、第3及び第4測定対象に対して、500℃、30分間の加熱処理を行った理由は、カーボンナノチューブの耐熱性向上の効果を明確にするためである。従って、上記加熱条件は、カソード形成後の電界放出型画像表示装置の組み立て工程で想定される熱工程の加熱条件を模擬したものである。
【0048】
下部電極2に対する陰極層4の密着性試験は、先端Rがφ0.05mmのサファイア針に一定の加重を印加して、陰極層表面を引っ掻き、陰極層の剥離が発生する最低加重を測定することで、実行された。その際の引っ掻き速度は0.5mm/secである。
【0049】
他方、電界放出性能に関する測定は、上部引き出し電極3に電圧を印加し、当該電圧を漸増させて、陰極層4から放出される電子により、下部電極2とアースとの間で生じる電流値が所定の値(例えば1μA)になるために必要な、上部引き出し電極3への印加電圧(以下、ターンオン電圧(T/O)と呼称する)を測定することで、実行された。
【0050】
図6は、上記電界放出性能に関する測定に用いた測定系の概略を示す図である。実際の測定は、陰極層4を作成したカソード基板と蛍光面7(図8参照)とをスペーサーを介して対向配置させることで組み合わされた装置を真空槽内にセットし、外部から上部引き出し電極3及び蛍光面7への電圧の印加、並びに、下部電極2とアース間の電流の測定が出来る様に電気配線を行った上で、真空槽内を2.67×10−4Pa以下の圧力に保持することで、実行された。
【0051】
図7は、上記第1乃至第4測定対象に対する一連の測定結果を示す。以下、これらの測定結果について分析・評価する。
【0052】
密着性を示す引っ掻き試験の結果、第2及び第4測定対象においては、その密着性は共に20mgと非常に低い値である。尚、どちらの測定対象に於いても、5つの陰極層の内、2つの陰極層で、電界放出性能測定時に下部電極2から陰極層4が剥離した。このため、図7において、T/O測定データが無い部分が存在する。これに対して、第1測定対象では密着性は120mg、第3測定対象では密着性は160mgであった。
【0053】
以上の様に、第1及び第3測定対象においては、下部電極2への陰極層4の密着性が飛躍的に増している。この理由は、カーボンナノチューブ5の表面上に定着したシリカゾル6に含有されるシラノール基が下部電極2の表面の金属と化学的に結合して、陰極層4と下部電極2とを互いにより一層強く結合させる点にあると、本願発明者は思料する。
【0054】
しかも、第1測定対象のそれと比較して、第3測定対象における上記密着性が更に増している。この点に関しては、第3測定対象では500℃、30分間の加熱処理を施している結果、シラノール基と下部電極2表面の金属との化学的結合の割合がより増大しているためであると、考えられる。
【0055】
他方、電界放出性能の比較においては、第1乃至第3測定対象の各々に関して、ターンオン電圧の平均値がそれぞれ108V、117V及び108Vである。これに対して、第4測定対象では、そのターンオン電圧の平均値は242Vであり、他と比較して非常に高い値であった。この理由は、第4測定対象に対して500℃、30分間の熱処理を施したことにより、カーボンナノチューブの焼失が著しかったためであると、考えられる。
【0056】
対称的に、同じく500℃、30分間の熱処理を施した第3測定対象に関しては、そのターンオン電圧の平均値は108Vであり、当該熱処理を施さなかった第1測定対象のそれと同程度の電界放出性能が得られている。この理由は、カーボンナノチューブ5の表面上に定着したシリカゲル6が熱工程中に酸素遮蔽膜として働き、カーボンナノチューブ5の酸化及び焼失を有効に防ぎ、熱ダメージを抑制する事が出来るからである。
【0057】
又、第2測定対象のターンオン電圧の平均値は117Vであり、それは第1及び第3測定対象のそれらと比べて高くなっている。この点については、第2測定対象における陰極層4と下部電極2との密着性が第1及び第3測定対象と比較して格段に低い為(そこでは、カーボンナノチューブのみから成る陰極層が殆ど下部電極表面上にのっかかったにすぎない弱い結合状態で固着している)、陰極層4に若干の浮きが生じ、その結果、陰極層4と下部電極2との接触が阻害された為であると、考えられる。
【0058】
最後に、以上に記載した点を整理すると、本実施の形態1に係る電界放出型冷陰極を採用するときには、陰極層の下部電極への密着性がカーボンナノチューブのみから成る陰極層の場合と比較して増大し、しかも、カーボン材料の生産工程中での焼失が防止されるので、ターンオン電圧が格段に低くなり、加えて、陰極層中のカーボン材料の分布が均一であるため、電子放出性能の均一性を飛躍的に高めることが出来ると言う、利点が得られる。
【0059】
(実施の形態2)
次に、実施の形態1に係る電界放出型冷陰極を背面パネルとして適用した画像表示装置の輝度均一性に関して評価した結果につき、記載する。
【0060】
本実施の形態においては、当該評価を簡便に行うために、実施の形態1で作成した第1乃至第4測定対象の各々毎に、上部引き出し電極3の更に上方に、前面パネル(以下、蛍光面と呼称する)7を、ガラス基板1から所定の間隔を保たせて蛍光体膜11側が陰極層4と対面する様に、両パネルの周縁部に設けられたスペーサー(実製品では、当該スペーサーはフリットガラス等の封着部材より成る)を介して配設した上で、カソードからの電子線の衝撃による発光面積を測定した。ここで、蛍光面7は、前面パネル用ガラス基板9と、その片側表面上に設けられた、透明なITO電極より成る上部電極ないしはアノード電極10と、同電極10の背面パネル側の表面上に塗布された蛍光体膜11(R,G,B各色の蛍光体層)とを、有している。この様な前面パネル側の構造は、本実施の形態ではそれが中核部ではないため、既知の構造に該当している。
【0061】
発光面積は、カソードから理想的な均一全面電子線放射が得られた場合に蛍光面上で得られる発光面積を100として、実際に観察された発光面積を相対値で評価した。
【0062】
図8は、上記蛍光面7の発光面積の測定に用いた測定系の概略構成を示す。図8において、その一部が描かれたスペーサー8は、ゲート絶縁膜である。尚、実際の測定においては、陰極層4を作成したカソード基板と蛍光面7とをスペーサー(図示せず)を介して組み合わせて成る装置を真空槽内にセットし、外部から上部引き出し電極3及び蛍光面7への電圧の印加、並びに、下部電極とアース間の電流の測定が出来る様に電気配線を行った上で、真空槽内の圧力を2.67×10−4Pa以下に保持しながら、上記測定を実行した。
【0063】
又、蛍光面7への印加電圧は1kVに設定され、上部引き出し電極3への印加電圧は、下部電極2とアースとの間の電流値が100μAとなる様に、調整された。
【0064】
図9に、その測定結果を記載する。図9において、第1及び第3測定対象では、理想的な発光面積に対して、平均で80%を越える発光面積が得られている。他方、第2測定対象では38%の発光面積が、第4測定対象に至っては17%程度の発光面積しか得られていない。
【0065】
この様に、第1及び第3測定対象では、その発光面積が著しく増大しているのは、カーボンナノチューブ表面にシリカゲル6を定着させた結果、印刷ペースト中でのカーボンナノチューブの分散性が良化し、陰極層4中のカーボンナノチューブ5の分布が均一になって、陰極層4表面のより広い面積から、均一に電子放出が可能になった結果である。この事は、当該陰極層4を用いた電界放出型画像表示装置の輝度均一性が高いことを示している。
【0066】
又、第4測定対象では、その発光面積が非常に小さくなったのは、陰極層中のカーボンナノチューブ分布の均一性が相対的に悪いのに加えて、500℃、30分間の加熱処理により、カーボンナノチューブが焼失し、電子放出に寄与する有効なカーボンナノチューブの絶対量が少ない事によると、考えられる。
【0067】
以上の通り、実施の形態1に係る電界放出型冷陰極を電界放出型画像表示装置の背面パネルに適用するときには、陰極層の下部電極への密着性が高まり、剥離による表示面内の非発光部の発生を防止することが出来、しかも、カーボン材料の生産工程中での焼失が防止されるため、ターンオン電圧が低くなり、その結果、低消費電力化を達成することが出来、更には、陰極層中のカーボン材料の分布が均一化されていることにより、優れた輝度均一性を実現し得ると言う利点が、得られる。
【0068】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を詳細に開示し記述したが、以上の記述は本発明の適用可能な局面を例示したものであって、本発明はこれに限定されるものではない。即ち、記述した局面に対する様々な修正や変形例を、この発明の範囲から逸脱することの無い範囲内で考えることが可能である。
【0069】
【発明の効果】
本発明の主題に係る電界放出型冷陰極の製造方法によれば、▲1▼シラノール基と下部電極表面の金属との配位によって下部電極からの陰極層の剥離を抑えることが出来、しかも、▲2▼陰極層形成の為の印刷ペースト若しくは懸濁液(スラリー)中でのカーボン材料の分散性を改善することで、電子放出性能の安定化及び均一化を図る事が出来ると共に、▲3▼その後の熱工程においてシリカゲルが酸素遮断膜として機能する結果、カーボン材料の酸化及び焼失による電界放出性能の劣化を防ぐことが出来ると言う効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1に係る電界放出型冷陰極の構成を拡大して模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る電界放出型冷陰極の製造方法を示す縦断面図である。
【図3】カーボンナノチューブの表面上にSiO2膜を含有するシリカゲルが定着したときの状態を模式的に示す概念図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る電界放出型冷陰極の製造方法を示す縦断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る電界放出型冷陰極の製造方法において、陰極層が下部電極へ固着する際のメカニズムを模式的に示す概念図である。
【図6】実施の形態1における測定系の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図7】実施の形態1に係る電界放出型冷陰極の測定結果を従来技術との対比で示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2における測定系の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図9】実施の形態2に係る電界放出型画像表示装置の測定結果を従来技術との対比で示す図である。
【符号の説明】
1 ガラス基板、2 下部電極(カソード電極)、3 上部引き出し電極(ゲート電極)、3a 開口部、4 陰極層、5 カーボンナノチューブ(電子放出材)、6 シリカゲル、7 蛍光面、8 スペーサ(絶縁層)、9 前面パネル側ガラス基板、10 上部電極(1個のアノード電極)、11 各色の蛍光体膜。
【発明の属する技術分野】
本発明は、画像表示素子の電子源として利用される、電界放出型冷陰極に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、画像表示装置の薄型化の市場要求が高まっており、電界放出型画像表示(FED)素子の開発が注目を集めている。そして、カーボンナノチューブ(CNT)に代表される種々のカーボン材料が優れた電界放出特性を有することが、報告されている。このため、カーボンナノチューブ等のカーボン材料は、上記電界放出型画像表示素子における有望な陰極材料(エミッタ材料)として期待されており、その様なカーボン材料を陰極材料として実用化するための様々な研究活動が行われている。
【0003】
電界放出型画像表示装置の背面パネル側における一般的な冷陰極構造は、(1)ガラス基板と、(2)その上に形成された下部電極(カソード電極)と、(3)下部電極上に直接形成されて下部電極から電子が供給される、カーボンナノチューブより成る陰極層(エミッタ)と、陰極の上方に数十μmの間隔をおいて設置されており、陰極層と当該電極間の印加電圧に起因して陰極層より放出される電子の通過孔となる開口部を有する上部引き出し電極(ゲート電極)とから、構成されている。しかも、上部引き出し電極と下部電極とは立体的に互いに直交しており、平面視において両電極の交差点はサブピクセルを成す。即ち、電界放出型画像表示素子の駆動に於いては、下部電極と上部引き出し電極とをそれぞれストライプ状に形成し、これらの電極が互いに立体的に直交する様に配置した上で、夫々に異なる電位を与えて、その交点に於いて、上下の電極間に、陰極材の電界放出特性に対応する電位差を生じさせて、所望の画素に対応する陰極部分より電界放出を起こさせる。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−190247号公報
【特許文献2】
特開2001−110303号公報
【特許文献3】
特開2003−59391号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
カーボン材料を上記電界放出型画像表示素子の陰極に適用する際の主用な問題点は、以下の3つである。
【0006】
(1)カーボン材料は、下部電極を形成する無機金属材料との密着性が低いため、上部電極と下部電極間で電位差が発生すると、誘起される静電引力によりカーボン材料が下部電極から剥離し陰極層と下部電極との導通が不安定になり、その結果、陰極層の電界放出性能が不安定になる。しかも、剥離したカーボン材料の一部が上部電極に接触するときには、剥離したカーボン材料の一部は上下電極間を短絡させて画面欠点を発生させる。
【0007】
(2)陰極層は印刷法あるいはスピンコート法により形成されるが、カーボン材料は、印刷ペーストあるいはスピンコート用懸濁液(以後、懸濁液をスラリーと称す)の調整に使用される極性溶媒への分散性が低く、当該ペースト若しくはスラリー中で凝集する。その結果、形成された陰極層中でのカーボン材料の分布が不均一になり、この分布不均一が各陰極層からの電子放出の均一性を確保することが出来ず、表示面に輝度斑を生じさせる。
【0008】
(3)カーボン材料は、その耐熱性が低いため、画像表示装置組み立てに於いて必須であり不可避な熱工程、例えば、函体を封着する工程において、その一部が焼失したり、又は、その結晶構造に欠陥が生じたりすることにより、電界放出性能が劣化する。
【0009】
(1)の問題を解決するために、陰極層の膜強度及び同層の基板への密着力を確保する技術として、アーク法で合成するカーボンナノチューブに対して、合成後の粒子状不純物を除去する精製を敢えて行わず、この粒子状不純物をカーボンナノチューブ間の充填剤として用い、陰極層の膜強度及び陰極層の基板への密着力を確保する方法が、上記の特許文献1において開示されている。この場合、当該アーク法で得られる上記不純物は、主に、粒子状グラファイト、アモルファスカーボン及び触媒金属粒から成る。
【0010】
しかしながら、上記先行技術においては、粒子状不純物の大部分がカーボン系の不純物であるので、依然として、陰極層の無機電極材料への密着性は低く、静電引力による陰極層剥離を抑え得るだけの密着力を確保するのは困難である。
【0011】
又、当該先行技術においては、アクリル、ニトロセルロース、ポリイミド樹脂の有機系バインダーを併用する例も挙げられている。しかしながら、この様な有機系バインダーはガスを放出して陰極層被毒の原因となるため、最終的には熱工程を通してこれを除去せねばならず、陰極層剥離の問題を解消することが出来ない。
【0012】
あるいは、触媒金属の残留量を増やすことで、陰極層の無機電極材料への密着性を挙げる事も考えられるが、金属含有量が高くなると、分散性が非常に悪くなり、陰極層を形成する為の印刷用ペースト、又は、スピンコートあるいはスプレーコート用スラリーを作成する事が困難になる。更に、金属表面は燃焼触媒となる場合が多く、残留により、グラファイト材料の耐熱性を更に低下させてしまうと言う新たな問題点が惹起される。従って、この方策も有効な解決策とは成り得ない。
【0013】
(2)の問題を解決するために、陰極層中のカーボン材料の均一分散を確保する技術として、カーボンナノチューブを電気泳動法により下部電極へ付着させた上で、200℃〜600℃の温度で熱処理してカソードを作成する方法が、上記の特許文献2において開示されている。この方法によれば、カーボンナノチューブを下部電極上に均一に付着させることは可能である。
【0014】
しかしながら、電気泳動法により、下部電極にカーボンナノチューブを付着させ、これを熱処理するだけでは、カーボンナノチューブと下部電極との密着性の向上は得られず、陰極層たるカーボンナノチューブは容易く剥離してしまう。
【0015】
これに対して、アルミニウムや金等の金属を下部電極に用い、電気泳動法でカーボンナノチューブを付着させた後、無酸素雰囲気下で加熱処理を行って、下部電極を溶融させることで下部電極用金属をカーボンナノチューブ層に浸透させて、密着性を確保する方法が、上記特許文献3において、提案されている。この文献によれば、当該加熱処理を無酸素雰囲気下で行うことにより、カーボンナノチューブの酸化及び焼失と言う熱ダメージの発生を防止することが出来る。
【0016】
しかしながら、上記文献3中においても記載されている通り、この方法では、下部電極の溶融に対して、670℃〜800℃(アルミニウムの場合)、あるいは、1100℃〜1200℃(金の場合)の高温加熱が必要となり、この高温加熱処理に起因して、下部電極を保持するガラス基板が歪み、電界放出型画像表示装置のカソードを形成する事が出来なくなると言う新たな問題点が引き起こされてしまう。
【0017】
また、(3)の耐熱性の問題をカーボン材料により解決するためには、材料を構成する結晶中の格子欠陥を少なくする必要がある。蓋し、この様な格子欠陥部分が酸化及び燃焼の端緒となるからである。
【0018】
ところが、この様なカーボン材料の格子欠陥部分は、通常、カルボニル基(−CO−)又はカルボキシル基(−COOH)の様な極性基を形成しているので、格子欠陥を減らすことは、カーボン材料表面の極性基を減らすことに繋がり、その結果、陰極材料の下部電極への密着性、及び、陰極材料の極性溶媒への分散性は、共に更に低下してしまう。
【0019】
本発明は、上述の問題点(1)〜(3)を考慮して成されたものであり、その目的とするところは、カーボンナノチューブ又は繊維状カーボン材料に代表される様なカーボン材料を用いて電界放出型冷陰極を形成するに際して、▲1▼下部電極と陰極層との間の密着性の向上、▲2▼陰極層を形成するためのペーストあるいはスラリー中におけるカーボン材料の分散性向上化を通じて、電子放出の均一性及び表示面上の輝度均一性の確保、▲3▼熱工程中におけるカーボン材料を用いた陰極層の耐熱性向上を通じて陰極層の電界放出特性の改善化を、一挙に解決可能な構造を有する電界放出型冷陰極及びその製造技術を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
この発明の主題に係る電界放出型冷陰極の製造方法は、(a)カーボン材料をシリカゾル溶液中に分散させ、乾燥処理により前記シリカゾル溶液の溶媒を除去することにより、前記カーボン材料の表面上にシリカゲルを析出、定着させる工程と、(b)前記シリカゲルを前記表面に定着させた後のカーボン材料を極性溶媒中に分散させ、ペースト若しくは懸濁液を調整する工程と、(c)基板上に下部電極を形成する工程と、(d)前記下部電極上に、前記ペースト若しくは懸濁液を塗布して陰極層を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0021】
ここで留意すべき点は、上記下部電極形成工程(c)を、上記シリカゲル定着工程(a)の前において実行しても良いし、あるいは、上記ペースト・懸濁液調整工程(b)の後に実行しても良いことである。
【0022】
以下、本発明の一適用例である実施の形態1及び2を、図面を参照しつつ、具体的且つ詳細に記述することとする。
【0023】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る電界放出型冷陰極の特徴点は、下部電極を有するガラス基板(単に基板とも称す)上に形成される陰極層を、その表面上にシリカゲルを定着したカーボン材料より構成した点にある。しかも、シリカゲルに含有されるシラノール基の少なくとも一部は重合されてSiO2膜に変化している。更に好ましい例として、シリカゲルと下部電極との界面におけるシリカゲル部分中のシラノール基は、下部電極表面の金属原子(例えば鉄(Fe)原子)と化学結合している。ここで、カーボン材料としては、例えばカーボンナノチューブ(CNT)の様な繊維状カーボン材料が用いられる。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る電界放出型冷陰極の一部における構成を拡大して示す縦断面図である。図1において、ガラス基板1の表面上に、カソード電極としての下部電極2が配設されている。又、ガラス基板1の上方には、ゲート絶縁膜としてのスペーサー(図示せず)を介して、ゲート電極としての上部引き出し電極3が配設されている。ここで、下部電極2及び上部引き出し電極3は、各々ストライプ状に配設されており、しかも、各下部電極2の配設方向(図面の前後方向)と各上部引き出し電極3の配設方向(図面の左右方向)とは、互いに直交している。従って、図1は、平面視において、下部電極2とそれに対応する上部引き出し電極3とが交差する重複領域(サブピクセル領域)を拡大して図示した構造に該当する。又、図1中、当該重複領域において、上部引き出し電極3には、電子の通過孔(エミッタホール)としての開口部(貫通孔)3aが、設けられている。尚、上記の様な構造は、上記スペーサーを含めて、既知であり、例えば特開2001−209352号公報の図3に図示されている。
【0025】
そして、開口部3aに対向する下部電極2の表面上には、電子を放出するエミッタとしての陰極層4が設けられている。ここでは、陰極層4は、▲1▼カーボン材料(例えば、カーボンナノチューブより成る。以下、カーボンナノチューブとして記載を進める。)5と、▲2▼その表面に定着したシリカゲル6より構成されている。しかも、シリカゲル6は、当該シリカゲル6の材料であるシリガゾルの熱処理及び/又は当該シリカゲル6の更なる熱処理により生成されるSiO2膜を、その内部に含有している。そして、シリカゲル6内のシラノール基と下部電極2の表面の金属原子とは、互いに配位している、あるいは、互いに化学的に結合している。
【0026】
尚、石英の融点(600℃〜700℃)を越える様な高温で当該シリカゲル6を熱処理しても良く、そのときには、シリカゲル6はSiO2膜の連続体として構成される。
【0027】
次に、本実施の形態に係る電界放出型冷陰極の製造方法を、図面に基づいて記載する。
【0028】
<工程1>
先ず、図2に示す様に、蒸着法又は印刷法等を用いて、ITO、アルミニウム、銀等の無機金属材料により、ガラス基板1の表面上に、下部電極2を配設する。
【0029】
<工程2>
次に、アーク法等により合成されたカーボンナノチューブの粉末を用いて、印刷ペーストを調合する。
【0030】
先ず、超音波分散法等を用いて、カーボンナノチューブをシリカゾル溶液中に分散させ、その後、乾燥処理を行うことにより当該溶液の溶媒を除去することにより、シリカゲルをカーボン材料の表面上に析出、定着させる。この段階で、シリカゲルは、少量ながら、SiO2膜を含んでいる。
【0031】
上記の様に処理して、シリカゲルをその表面に定着させたカーボンナノチューブを、そのままペースト調合に用いても良い。
【0032】
しかしながら、ペースト調合中に加わるシェアー(せん断力)によりシリカゲルがカーボンナノチューブから剥離する可能性がある。これを防ぐ為には、上記の様にして得られた、粉体のカーボンナノチューブを所定の第1温度で第1加熱処理して、表面に定着したシリカゲルの少なくとも一部を重合させ、SiO2膜を形成することで、シリカゲル中のSiO2膜の含有量を一層増大させれば良い。
【0033】
具体的には、上記の様にして得られた粉体のカーボンナノチューブに対して、200℃、20分間の過熱処理を行い、シリカゲルに含有されるシラノール基(−Si−O−H)間で脱水、架橋を行うことにより、シラノール基の一部を重合させ(−Si−O−Si−)、SiO2膜を形成させる。図3に、この様にして得られたシリカゲル6をその表面に定着させたカーボンナノチューブ5の模式図を示す。
【0034】
本実施の形態では、上記の加熱条件にてシリカゲルを重合させたが、当該反応は150℃以上の温度域であれば促進されるため、特に上記加熱条件に限定される訳ではない。但し、250℃以上の温度条件では、反応が進みすぎて後述する極性溶媒への分散性改善及び下部電極2への密着性改善に寄与するシラノ−ル基の量が少なくなるため、250℃以上の温度条件は好ましいとは言えない。従って、上記加熱処理を150℃〜250℃の温度範囲で行うのが好適である。
【0035】
次に、上記の様にして得られた、カーボンナノチューブを用いて、印刷ペーストを調合する。
【0036】
具体的には、印刷ペーストは、例えば、組成比7%のカーボンナノチューブ、組成比6%のエチルセルロース(有機バインダー)、組成比8%のブチルカルビトール(極性溶媒)、79%のブチルカルビトールアセテート(極性溶媒)を混合することにより、作成される。
【0037】
カーボンナノチューブの様なカーボン材料は極性が小さく、本来、極性溶媒への分散性は非常に低い。しかし、本実施の形態では、具体的に記載した処理により、カーボンナノチューブ5の表面上に、当該表面を被覆する様に、シリカゲルを定着させて、カーボンナノチューブ表面に、シリカゲル内に含有されるシラノール基(−Si−O−H:極性基)を導入しているので、極性溶媒への分散性が大幅に改善される。換言すれば、極性基を導入して極性溶媒への分散性を高めるために、図3の様に、定着されたシリカゲル6で以ってカーボンナノチューブ5の表面を被覆しているのである。
【0038】
尚、当該工程2と既述の工程1との順序を入れ替えても良い。
【0039】
<工程3>
次に、スクリーン印刷法により、下部電極2の表面上に、上記印刷ペーストを所定の形状に印刷する。その後、乾燥工程を経た上で(この段階では、シラノール基の一部と下部電極2の金属との間には、図5(A)に示す様な配位が成立している)、当該基板を350℃程度の温度下で約20分間焼成することにより(所定の第2温度下での第2加熱処理)、有機バインダー成分を除去し、下部電極2の表面上に、カーボンナノチューブ5、及び、その表面に定着した一部SiO2膜を含むシリカゲル6を残存させる(図4)。
【0040】
上記熱工程中に、図5(B)に示す様に、下部電極表面と接する部分におけるシリカゲル6のシラノール基の一部が、下部電極2の金属(当該金属原子をMeと記す)と化学的に結合し、陰極層4をより一層堅固に下部電極2に結合させる。尚、図5(A)に示す様な配位状態においても、カーボンナノチューブのみから成る陰極層と比較すれば、陰極層と下部電極表面との固着強度は高まっている。
【0041】
本実施の形態では、有機バインダーを除去する必要から350℃程度で焼成したが、上記結合反応は150℃以上の温度の範囲で起こるため、例えば、有機バインダーを含まずにペーストを調合した場合には、陰極層の形成(乾燥)後に150℃以上の温度で加熱処理する事により(所定の第2温度下での第2加熱処理)、同様の効果を期待することが出来る。
【0042】
<工程4>
その後、ガラス基板1上に、図示していないスペーサーを設け、当該スペーサー上に、平面視において下部電極2と立体交差する位置に開口部3aが貫通する様に穿設されている、上部引き出し電極3を、載置する(図1)。
【0043】
尚、スピンコートで陰極層4を形成する場合には、印刷ペーストの調合に代えて、シリカゲル6をその表面に定着させた後のカーボン材料を極性溶媒中に分散させて懸濁液(スラリー)を調整することとしても良い。この場合には、上記シリカゲル付きカーボンナノチューブ粉末を、例えばエタノールあるいはイソプロピロアルコールの溶媒中に混合することにより、スラリーを調整する。その上で、基板の回転によって下部電極表面上にスラリーを均一に塗布し、その後、乾燥・焼成工程を経て、印刷法で得られる物と同様な構造を有する陰極層4が下部電極表面上に形成される。
【0044】
以上が、本実施の形態に係る電界放出型冷陰極の製造方法である。
【0045】
次に、上記の方法により製造された電界放出型冷陰極に対して、陰極層4の下部電極2への密着性と、陰極層4の電界放出性能との評価を、行った。尚、当該評価は、本実施の形態で得られたカソードの性能を明確にするために、以下の4種類の測定対象を用いて行った。
【0046】
即ち、第1測定対象は、本実施の形態における上記工程に基づいて作成された測定対象(上記第1及び第2加熱処理を経た物)である。これに対して、第2測定対象は、本実施の形態におけるカーボンナノチューブ表面へのシリカゲル定着処理を行わずに、未処理のカーボンナノチューブのみを用いて陰極層を構成するものであり、上記シリカゲル定着処理以外は本実施の形態に従って作成されている。又、第3測定対象は、上記第1測定対象と同様に本実施の形態に従って作成されると共に、更に、その後、500℃、30分間の加熱処理を施して得られた測定対象である。又、第4測定対象は、第2測定対象に対して、500℃、30分間の加熱処理を更に施すことで得られた測定対象である。
【0047】
ここで、第3及び第4測定対象に対して、500℃、30分間の加熱処理を行った理由は、カーボンナノチューブの耐熱性向上の効果を明確にするためである。従って、上記加熱条件は、カソード形成後の電界放出型画像表示装置の組み立て工程で想定される熱工程の加熱条件を模擬したものである。
【0048】
下部電極2に対する陰極層4の密着性試験は、先端Rがφ0.05mmのサファイア針に一定の加重を印加して、陰極層表面を引っ掻き、陰極層の剥離が発生する最低加重を測定することで、実行された。その際の引っ掻き速度は0.5mm/secである。
【0049】
他方、電界放出性能に関する測定は、上部引き出し電極3に電圧を印加し、当該電圧を漸増させて、陰極層4から放出される電子により、下部電極2とアースとの間で生じる電流値が所定の値(例えば1μA)になるために必要な、上部引き出し電極3への印加電圧(以下、ターンオン電圧(T/O)と呼称する)を測定することで、実行された。
【0050】
図6は、上記電界放出性能に関する測定に用いた測定系の概略を示す図である。実際の測定は、陰極層4を作成したカソード基板と蛍光面7(図8参照)とをスペーサーを介して対向配置させることで組み合わされた装置を真空槽内にセットし、外部から上部引き出し電極3及び蛍光面7への電圧の印加、並びに、下部電極2とアース間の電流の測定が出来る様に電気配線を行った上で、真空槽内を2.67×10−4Pa以下の圧力に保持することで、実行された。
【0051】
図7は、上記第1乃至第4測定対象に対する一連の測定結果を示す。以下、これらの測定結果について分析・評価する。
【0052】
密着性を示す引っ掻き試験の結果、第2及び第4測定対象においては、その密着性は共に20mgと非常に低い値である。尚、どちらの測定対象に於いても、5つの陰極層の内、2つの陰極層で、電界放出性能測定時に下部電極2から陰極層4が剥離した。このため、図7において、T/O測定データが無い部分が存在する。これに対して、第1測定対象では密着性は120mg、第3測定対象では密着性は160mgであった。
【0053】
以上の様に、第1及び第3測定対象においては、下部電極2への陰極層4の密着性が飛躍的に増している。この理由は、カーボンナノチューブ5の表面上に定着したシリカゾル6に含有されるシラノール基が下部電極2の表面の金属と化学的に結合して、陰極層4と下部電極2とを互いにより一層強く結合させる点にあると、本願発明者は思料する。
【0054】
しかも、第1測定対象のそれと比較して、第3測定対象における上記密着性が更に増している。この点に関しては、第3測定対象では500℃、30分間の加熱処理を施している結果、シラノール基と下部電極2表面の金属との化学的結合の割合がより増大しているためであると、考えられる。
【0055】
他方、電界放出性能の比較においては、第1乃至第3測定対象の各々に関して、ターンオン電圧の平均値がそれぞれ108V、117V及び108Vである。これに対して、第4測定対象では、そのターンオン電圧の平均値は242Vであり、他と比較して非常に高い値であった。この理由は、第4測定対象に対して500℃、30分間の熱処理を施したことにより、カーボンナノチューブの焼失が著しかったためであると、考えられる。
【0056】
対称的に、同じく500℃、30分間の熱処理を施した第3測定対象に関しては、そのターンオン電圧の平均値は108Vであり、当該熱処理を施さなかった第1測定対象のそれと同程度の電界放出性能が得られている。この理由は、カーボンナノチューブ5の表面上に定着したシリカゲル6が熱工程中に酸素遮蔽膜として働き、カーボンナノチューブ5の酸化及び焼失を有効に防ぎ、熱ダメージを抑制する事が出来るからである。
【0057】
又、第2測定対象のターンオン電圧の平均値は117Vであり、それは第1及び第3測定対象のそれらと比べて高くなっている。この点については、第2測定対象における陰極層4と下部電極2との密着性が第1及び第3測定対象と比較して格段に低い為(そこでは、カーボンナノチューブのみから成る陰極層が殆ど下部電極表面上にのっかかったにすぎない弱い結合状態で固着している)、陰極層4に若干の浮きが生じ、その結果、陰極層4と下部電極2との接触が阻害された為であると、考えられる。
【0058】
最後に、以上に記載した点を整理すると、本実施の形態1に係る電界放出型冷陰極を採用するときには、陰極層の下部電極への密着性がカーボンナノチューブのみから成る陰極層の場合と比較して増大し、しかも、カーボン材料の生産工程中での焼失が防止されるので、ターンオン電圧が格段に低くなり、加えて、陰極層中のカーボン材料の分布が均一であるため、電子放出性能の均一性を飛躍的に高めることが出来ると言う、利点が得られる。
【0059】
(実施の形態2)
次に、実施の形態1に係る電界放出型冷陰極を背面パネルとして適用した画像表示装置の輝度均一性に関して評価した結果につき、記載する。
【0060】
本実施の形態においては、当該評価を簡便に行うために、実施の形態1で作成した第1乃至第4測定対象の各々毎に、上部引き出し電極3の更に上方に、前面パネル(以下、蛍光面と呼称する)7を、ガラス基板1から所定の間隔を保たせて蛍光体膜11側が陰極層4と対面する様に、両パネルの周縁部に設けられたスペーサー(実製品では、当該スペーサーはフリットガラス等の封着部材より成る)を介して配設した上で、カソードからの電子線の衝撃による発光面積を測定した。ここで、蛍光面7は、前面パネル用ガラス基板9と、その片側表面上に設けられた、透明なITO電極より成る上部電極ないしはアノード電極10と、同電極10の背面パネル側の表面上に塗布された蛍光体膜11(R,G,B各色の蛍光体層)とを、有している。この様な前面パネル側の構造は、本実施の形態ではそれが中核部ではないため、既知の構造に該当している。
【0061】
発光面積は、カソードから理想的な均一全面電子線放射が得られた場合に蛍光面上で得られる発光面積を100として、実際に観察された発光面積を相対値で評価した。
【0062】
図8は、上記蛍光面7の発光面積の測定に用いた測定系の概略構成を示す。図8において、その一部が描かれたスペーサー8は、ゲート絶縁膜である。尚、実際の測定においては、陰極層4を作成したカソード基板と蛍光面7とをスペーサー(図示せず)を介して組み合わせて成る装置を真空槽内にセットし、外部から上部引き出し電極3及び蛍光面7への電圧の印加、並びに、下部電極とアース間の電流の測定が出来る様に電気配線を行った上で、真空槽内の圧力を2.67×10−4Pa以下に保持しながら、上記測定を実行した。
【0063】
又、蛍光面7への印加電圧は1kVに設定され、上部引き出し電極3への印加電圧は、下部電極2とアースとの間の電流値が100μAとなる様に、調整された。
【0064】
図9に、その測定結果を記載する。図9において、第1及び第3測定対象では、理想的な発光面積に対して、平均で80%を越える発光面積が得られている。他方、第2測定対象では38%の発光面積が、第4測定対象に至っては17%程度の発光面積しか得られていない。
【0065】
この様に、第1及び第3測定対象では、その発光面積が著しく増大しているのは、カーボンナノチューブ表面にシリカゲル6を定着させた結果、印刷ペースト中でのカーボンナノチューブの分散性が良化し、陰極層4中のカーボンナノチューブ5の分布が均一になって、陰極層4表面のより広い面積から、均一に電子放出が可能になった結果である。この事は、当該陰極層4を用いた電界放出型画像表示装置の輝度均一性が高いことを示している。
【0066】
又、第4測定対象では、その発光面積が非常に小さくなったのは、陰極層中のカーボンナノチューブ分布の均一性が相対的に悪いのに加えて、500℃、30分間の加熱処理により、カーボンナノチューブが焼失し、電子放出に寄与する有効なカーボンナノチューブの絶対量が少ない事によると、考えられる。
【0067】
以上の通り、実施の形態1に係る電界放出型冷陰極を電界放出型画像表示装置の背面パネルに適用するときには、陰極層の下部電極への密着性が高まり、剥離による表示面内の非発光部の発生を防止することが出来、しかも、カーボン材料の生産工程中での焼失が防止されるため、ターンオン電圧が低くなり、その結果、低消費電力化を達成することが出来、更には、陰極層中のカーボン材料の分布が均一化されていることにより、優れた輝度均一性を実現し得ると言う利点が、得られる。
【0068】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を詳細に開示し記述したが、以上の記述は本発明の適用可能な局面を例示したものであって、本発明はこれに限定されるものではない。即ち、記述した局面に対する様々な修正や変形例を、この発明の範囲から逸脱することの無い範囲内で考えることが可能である。
【0069】
【発明の効果】
本発明の主題に係る電界放出型冷陰極の製造方法によれば、▲1▼シラノール基と下部電極表面の金属との配位によって下部電極からの陰極層の剥離を抑えることが出来、しかも、▲2▼陰極層形成の為の印刷ペースト若しくは懸濁液(スラリー)中でのカーボン材料の分散性を改善することで、電子放出性能の安定化及び均一化を図る事が出来ると共に、▲3▼その後の熱工程においてシリカゲルが酸素遮断膜として機能する結果、カーボン材料の酸化及び焼失による電界放出性能の劣化を防ぐことが出来ると言う効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1に係る電界放出型冷陰極の構成を拡大して模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る電界放出型冷陰極の製造方法を示す縦断面図である。
【図3】カーボンナノチューブの表面上にSiO2膜を含有するシリカゲルが定着したときの状態を模式的に示す概念図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る電界放出型冷陰極の製造方法を示す縦断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る電界放出型冷陰極の製造方法において、陰極層が下部電極へ固着する際のメカニズムを模式的に示す概念図である。
【図6】実施の形態1における測定系の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図7】実施の形態1に係る電界放出型冷陰極の測定結果を従来技術との対比で示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2における測定系の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図9】実施の形態2に係る電界放出型画像表示装置の測定結果を従来技術との対比で示す図である。
【符号の説明】
1 ガラス基板、2 下部電極(カソード電極)、3 上部引き出し電極(ゲート電極)、3a 開口部、4 陰極層、5 カーボンナノチューブ(電子放出材)、6 シリカゲル、7 蛍光面、8 スペーサ(絶縁層)、9 前面パネル側ガラス基板、10 上部電極(1個のアノード電極)、11 各色の蛍光体膜。
Claims (7)
- (a)カーボン材料をシリカゾル溶液中に分散させ、乾燥処理により前記シリカゾル溶液の溶媒を除去することにより、前記カーボン材料の表面上にシリカゲルを析出、定着させる工程と、
(b)前記シリカゲルを前記表面に定着させた後のカーボン材料を極性溶媒中に分散させ、ペースト若しくは懸濁液を調整する工程と、
(c)基板上に下部電極を形成する工程と、
(d)前記下部電極上に、前記ペースト若しくは懸濁液を塗布して陰極層を形成する工程とを備えることを特徴とする、
電界放出型冷陰極の製造方法。 - 請求項1に記載の電界放出型冷陰極の製造方法であって、
前記工程(a)は、
(a−1)前記シリカゲルを前記表面に定着させた後の粉体のカーボン材料に対して所定の第1温度で加熱処理を施す事により、少なくとも前記シリカゲルの一部を更に重合させることで、前記シリカゲル内に形成されるSiO2膜の含有量をより一層増大させる工程を更に備えることを特徴とする、
電界放出型冷陰極の製造方法。 - 請求項1又は2に記載の電界放出型冷陰極の製造方法であって、
前記工程(d)は、
(d−1)前記ペースト若しくは懸濁液を塗布後の前記基板に対して所定の第2温度で加熱処理を施すことにより、前記カーボン材料の前記表面上に定着した前記シリカゲルに含有されるシラノール基と前記下部電極を形成する金属表面との間に化学結合を形成する工程を更に備えることを特徴とする、
電界放出型冷陰極の製造方法。 - 基板と、
前記基板上に形成された下部電極と、
前記下部電極上に形成される陰極層と、
前記陰極層の上部に配置された開口部を有し、前記陰極層から電子の放出を促す上部引き出し電極とを備えており、
前記陰極層は、
カーボン材料と、
前記カーボン材料の表面に定着したシリカゲルとを有することを特徴とする、電界放出型冷陰極。 - 請求項4に記載の電界放出型冷陰極であって、
前記シリカゲルは、当該シリカゲル材料の少なくとも一部が変化して成るSiO2膜を含有していることを特徴とする、
電界放出型冷陰極。 - 請求項4又は5に記載の電界放出型冷陰極であって、
前記シリカゲルに含有されるシラノール基と前記下部電極の表面を形成する金属とが互いに化学結合されていることを特徴とする、
電界放出型冷陰極。 - 請求項4乃至6の何れかに記載の前記電界放出型冷陰極に該当する背面パネルと、
前記背面パネルと対向した蛍光体を有する前面パネルとを備えることを特徴とする、
電解放出型画像表示装置。
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---|---|---|---|---|
JP2006222175A (ja) * | 2005-02-09 | 2006-08-24 | Sumitomo Metal Mining Co Ltd | 電気2重層キャパシタ電極の製造方法、得られる電気2重層キャパシタ電極、及びそれを用いた電気2重層キャパシタ |
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-
2003
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