JP2004344025A - 細胞培養基材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明は、基材と、上記基材上に形成され、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を有する細胞接着性変化層とを有し、上記細胞接着性変化層には、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンが形成されていることを特徴とする細胞培養基材を提供することにより上記目的を達成するものである。
【選択図】 無し
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、細胞のパターンを形成するために用いられる細胞培養基材およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、いろいろな動物や植物の細胞培養が行われており、また、新たな細胞の培養法が開発されている。細胞培養の技術は、細胞の生化学的現象や性質の解明、有用な物質の生産などの目的で利用されている。さらに、培養細胞を用いて、人工的に合成された薬剤の生理活性や毒性を調べる試みがなされている。
【0003】
一部の細胞、特に多くの動物細胞は、何かに接着して生育する接着依存性を有しており、生体外の浮遊状態では長期間生存することができない。このような接着依存性を有した細胞の培養には、細胞が接着するための担体が必要であり、一般的には、コラーゲンやフィブロネクチンなどの細胞接着性タンパク質を均一に塗布したプラスチック製の培養皿が用いられている。これらの細胞接着性タンパク質は、培養細胞に作用し、細胞の接着を容易にしたり、細胞の形態に影響を与えることが知られている。
【0004】
一方、培養細胞を基材上の微小な部分にのみ接着させ、配列させる技術が報告されている。このような技術により、培養細胞を人工臓器やバイオセンサ、バイオリアクターなどに応用することが可能になる。培養細胞を配列させる方法としては、細胞に対して接着の容易さが異なるような表面がパターンをなしているような基材を用い、この表面で細胞を培養し、細胞が接着するように加工した表面だけに細胞を接着させることによって細胞を配列させる方法がとられている。
【0005】
例えば、特許文献1には、回路状に神経細胞を増殖させるなどの目的で、静電荷パターンを形成させた電荷保持媒体を細胞培養に応用している。また、特許文献2では、細胞非接着性あるいは細胞接着性の光感受性親水性高分子をフォトリソグラフィ法によりパターニングした表面上への培養細胞の配列を試みている。
【0006】
さらに、特許文献3では、細胞の接着率や形態に影響を与えるコラーゲンなどの物質がパターニングされた細胞培養用基材と、この基材をフォトリソグラフィ法によって作製する方法について開示している。このような基材の上で細胞を培養することによって、コラーゲンなどがパターニングされた表面により多くの細胞を接着させ、細胞のパターニングを実現している。
【0007】
しかしながら、このような細胞培養部位のパターニングは、用途によっては高精細であることが要求される場合がある。上述したような感光性材料を用いたフォトリソグラフィ法等によるパターニングを行う場合は、高精細なパターンを得ることはできるが、細胞接着性材料が感光性を有する必要があり、例えば生体高分子等にこのような感光性を付与するための化学的修飾を行うことが困難な場合が多く、細胞接着性材料の選択性の幅を極めて狭くするといった問題があった。また、フォトレジストを用いたフォトリソグラフィ法では、現像液等を用いる必要性があり、これらが細胞培養に際して悪影響を及ぼす場合があった。
【0008】
さらに、高精細な細胞接着性材料のパターンの形成方法として、マイクロ・コンタクトプリンティング法が、ハーバード大学のジョージ M,ホワイトサイズ(George M. Whitesides)により提唱されている(例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7等)。しかしながら、この方法を用いて工業的に細胞接着性材料のパターンを有する細胞培養基材を製造することは難しいといった問題があった。
【0009】
【特許文献1】
特開平2−245181号公報
【特許文献2】
特開平3−7576号公報
【特許文献3】
特開平5−176753号公報
【特許文献4】
米国特許第5,512,131号公報
【特許文献5】
米国特許第5,900,160号公報
【特許文献6】
特開平9−240125号公報
【特許文献7】
特開平10−12545号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、基材上に細胞接着性が良好な領域のパターンが高精細に形成された細胞培養基材、およびその製造方法を提供することを主目的とするものである。
【0011】
【課題が解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために、基材と、上記基材上に形成され、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を有する細胞接着性変化層とを有し、上記細胞接着性変化層には、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンが形成されていることを特徴とする細胞培養基材を提供する。本発明によればエネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を有する細胞接着性変化層を有するものであるので、エネルギーをパターン状に照射することにより、容易に細胞接着性変化層表面に、高精細な細胞接着性の良好な領域と悪い領域とのパターンである細胞接着性変化パターンを形成することができる。
【0012】
上記本発明は、上記細胞接着性変化層が、光触媒と上記細胞接着性変化材料とを有する光触媒含有細胞接着性変化層である場合、上記細胞接着性変化層が、光触媒を有する光触媒処理層と、上記光触媒処理層上に形成され、上記細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層とを有するものである場合、さらには、上記細胞接着性変化層が、上記細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層であり、上記接着性変化パターンが、光触媒を含有する光触媒含有層と上記細胞接着性変化材料層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギーを照射することにより形成されたものである場合の3つの態様を含むものである。
【0013】
さらに、本発明においては、上記細胞接着性変化パターンは、表面の細胞接着性が少なくとも3水準以上異なる領域を有する細胞接着性変化パターンであってもよい。細胞の接着性の良好な領域から悪い領域までの細胞接着性の水準が3水準以上のものを用いることにより、細胞に対する接着性がどの水準が好ましいか不明である場合等において、多水準もしくは連続的に水準の変化した細部接着性変化パターンを形成することにより、パターンの形成が可能であるからである。
【0014】
なお、本発明において、「3水準以上」とは、連続的に変化する場合をも含む概念である。
【0015】
また、本発明は、基材と、上記基材上に形成され、かつ光触媒およびエネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する光触媒含有細胞接着性変化層とを有するパターン形成体用基材を形成するパターン形成体用基材形成工程と、
上記光触媒含有細胞接着性変化層にエネルギーを照射し、上記光触媒含有細胞接着性変化層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する細胞接着性変化パターン形成工程と
を有することを特徴とする細胞培養基材の製造方法を提供する。
【0016】
本発明によれば、上記光触媒含有細胞接着性変化層を形成することから、エネルギー照射を行うことによって、光触媒含有細胞接着性変化層自体に含有される光触媒の作用によって、容易に光触媒含有細胞接着性変化層表面に、高精細な細胞接着性の良好な領域と悪い領域とのパターンである細胞接着性変化パターンを形成することができる。
【0017】
また本発明は、基材と、上記基材上に形成された光触媒を含有する光触媒処理層と、上記光触媒処理層上に形成され、かつエネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層とを有するパターン形成体用基材を形成するパターン形成体用基材形成工程と、
上記細胞接着性変化材料層にエネルギーを照射し、上記細胞接着性変化材料層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する細胞接着性変化パターン形成工程と
を有することを特徴とする細胞培養基材の製造方法を提供する。
【0018】
本発明によれば、上記光触媒処理層および細胞接着性変化材料層とを形成することから、エネルギー照射を行うことにより、隣接する光触媒処理層中に含有される光触媒の作用によって、容易に細胞接着性変化材料層表面に、高精細な細胞接着性の良好な領域と悪い領域とのパターンである細胞接着性変化パターンを形成することができる。
【0019】
またさらに本発明は、基材と、上記基材上に形成され、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層とを有するパターン形成体用基材を形成するパターン形成体用基材形成工程と、
上記パターン形成体用基材と、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板とを、上記細胞接着性変化材料層と上記光触媒含有層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギー照射し、上記細胞接着性変化材料層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する細胞接着性変化パターン形成工程と
を有することを特徴とする細胞培養基材の製造方法を提供する。
【0020】
本発明によれば、細胞接着性変化材料層に、上記光触媒含有層側基板を用いてエネルギー照射することにより、容易に細胞接着性変化材料層表面に、高精細な細胞接着性の良好な領域と悪い領域とのパターンである細胞接着性変化パターンを形成することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明は、細胞のパターンを形成するために用いられる細胞培養基材およびその製造方法に関するものであり、以下、それぞれについて説明する。
【0022】
I.細胞培養基材
まず、本発明の細胞培養基材について詳細に説明する。本発明の細胞培養基材は、基材と、上記基材上に形成され、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を有する細胞接着性変化層とを有し、上記細胞接着性変化層には、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンが形成されていることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の細胞培養基材は、上述したような細胞接着性変化材料を含む細胞接着性変化層を有するものであるので、必要とされるパターンに沿ってエネルギーをパターン状に照射することにより、容易に細胞接着性変化層に対して、細胞の接着性が変化したパターンを形成することができる。したがって、高精細なパターンを細胞に対して悪影響を及ぼすような処理液を用いることなく、簡便な工程により形成することができる。また、細胞接着性変化材料の変性の必要性がないことから、材料選択の幅を広げることが可能であり、後述するような特異的な接着性を発現するような生物学的細胞接着性変化材料をも問題なく用いることができる。
【0024】
本発明の細胞培養基材は、少なくとも3つの実施態様を含むものである。これらについて、それぞれ説明する。
【0025】
A.第1実施態様
本発明の細胞培養基材の第1実施態様は、基材と、上記基材上に形成され、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を有する細胞接着性変化層とを有し、上記細胞接着性変化層には、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンが形成されている細胞培養基材であって、上記細胞接着性変化層が、光触媒と上記細胞接着性変化材料とを有する光触媒含有細胞接着性変化層である点に特徴を有するものである。
【0026】
本実施態様においては、このように細胞接着性変化層が、光触媒と上記細胞接着性変化材料とを有する光触媒含有細胞接着性変化層であるので、エネルギーが照射された際に、光触媒含有細胞接着性変化層内の光触媒の作用により細胞接着性変化材料の細胞接着性が変化し、エネルギーが照射された部分と照射されない部分とで細胞との接着性が異なる細胞接着性変化パターンを形成することができる。
【0027】
このような本実施態様の細胞培養基材を、用いられる部材に分けてそれぞれ説明する。
【0028】
1.光触媒含有細胞接着性変化層
本実施態様は、基材上に光触媒含有細胞接着性変化層が形成されている点に特徴を有する。この光触媒含有細胞接着性変化層は、少なくとも光触媒と細胞接着性変化材料とを有するものである。
【0029】
(1)細胞接着性変化材料
本実施態様に用いられる細胞接着性変化材料は、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する材料であれば特に限定されるものではないが、細胞との接着性を制御する態様により、物理化学的特性により細胞と接着する物理化学的細胞接着性変化材料と生物学的特性により細胞と接着する生物学的細胞接着性変化材料との主に二つの態様がある。
【0030】
a.物理化学的細胞接着性変化材料
細胞を基材に接着、培養させるための物理化学的な因子としては、表面自由エネルギーに関する因子と、疎水性相互作用等による因子等が挙げられる。
【0031】
このような因子により物理化学的細胞接着性を有する物理化学的細胞接着材料としては、主骨格が光触媒の作用により分解されないような高い結合エネルギーを有するものであって、光触媒の作用により分解されるような有機置換基を有するものが好ましく、例えば、(1)ゾルゲル反応等によりクロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン、(2)反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
【0032】
上記の(1)の場合、一般式:
YnSiX(4−n)
(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)
で示される珪素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物もしくは共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。なお、ここでYで示される基の炭素数は1〜20の範囲内であることが好ましく、また、Xで示されるアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。
【0033】
また、有機基として、特にフルオロアルキル基を含有するポリシロキサンを好ましく用いることができ、具体的には、下記のフルオロアルキルシランの1種または2種以上の加水分解縮合物、共加水分解縮合物が挙げられ、一般にフッ素系シランカップリング剤として知られたものを使用することができる。
CF3(CF2)3CH2CH2Si(OCH3)3;
CF3(CF2)5CH2CH2Si(OCH3)3;
CF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH3)3;
CF3(CF2)9CH2CH2Si(OCH3)3;
(CF3)2CF(CF2)4CH2CH2Si(OCH3)3;
(CF3)2CF(CF2)6CH2CH2Si(OCH3)3;
(CF3)2CF(CF2)8CH2CH2Si(OCH3)3;
CF3(C6H4)C2H4Si(OCH3)3;
CF3(CF2)3(C6H4)C2H4Si(OCH3)3;
CF3(CF2)5(C6H4)C2H4Si(OCH3)3;
CF3(CF2)7(C6H4)C2H4Si(OCH3)3;
CF3(CF2)3CH2CH2SiCH3(OCH3)2;
CF3(CF2)5CH2CH2SiCH3(OCH3)2;
CF3(CF2)7CH2CH2SiCH3(OCH3)2;
CF3(CF2)9CH2CH2SiCH3(OCH3)2;
(CF3)2CF(CF2)4CH2CH2SiCH3(OCH3)2;
(CF3)2CF(CF2)6CH2CH2Si CH3(OCH3)2;
(CF3)2CF(CF2)8CH2CH2Si CH3(OCH3)2;
CF3(C6H4)C2H4SiCH3(OCH3)2;
CF3(CF2)3(C6H4)C2H4SiCH3(OCH3)2;
CF3(CF2)5(C6H4)C2H4SiCH3(OCH3)2;
CF3(CF2)7(C6H4)C2H4SiCH3(OCH3)2;
CF3(CF2)3CH2CH2Si(OCH2CH3)3;
CF3(CF2)5CH2CH2Si(OCH2CH3)3;
CF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH2CH3)3;
CF3(CF2)9CH2CH2Si(OCH2CH3)3;
CF3(CF2)7SO2N(C2H5)C2H4CH2Si(OCH3)3
上記のようなフルオロアルキル基を含有するポリシロキサンを物理化学的細胞接着材料として用いることにより、光触媒含有細胞接着性変化層のエネルギー未照射部においては、表面にフッ素を有する部分とすることができ、またエネルギー照射された部分においては、フッ素等が除去されて、表面にOH基等を有する部分とすることができる。従って、エネルギー照射部とエネルギー未照射部とにおいて、表面自由エネルギーが大きく異なるものとすることができ、細胞の接着性の差を大きくすることができる。
【0034】
また、上記の(2)の反応性シリコーンとしては、下記一般式で表される骨格をもつ化合物を挙げることができる。
【0035】
【化1】
【0036】
ただし、nは2以上の整数であり、R1,R2はそれぞれ炭素数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アリールあるいはシアノアルキル基であり、モル比で全体の40%以下がビニル、フェニル、ハロゲン化フェニルである。また、R1、R2がメチル基のものが表面エネルギーが最も小さくなるので好ましく、モル比でメチル基が60%以上であることが好ましい。また、鎖末端もしくは側鎖には、分子鎖中に少なくとも1個以上の水酸基等の反応性基を有する。
【0037】
また、上記のオルガノポリシロキサンとともに、ジメチルポリシロキサンのような架橋反応をしない安定なオルガノシリコン化合物を別途混合してもよい。
【0038】
一方、分解物質タイプの物理化学的細胞接着材料としては光触媒の作用により分解し、かつ分解されることにより光触媒含有極性変化層表面の極性を変化させる機能を有する界面活性剤を挙げることができる。具体的には、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
【0039】
なお、このように物理化学的細胞接着材料を分解物質タイプとして用いた場合には、通常別途バインダ成分を用いることが好ましい。この際用いられるバインダ成分としては、主骨格が上記光触媒の作用により分解されないような高い結合エネルギーを有するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、有機置換基を有しない、もしくは多少有機置換基を有するポリシロキサンを挙げることができ、これらはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等を加水分解、重縮合することにより得ることができる。
【0040】
なお、本実施態様においては、このようなバインダタイプの物理化学的細胞接着材料と分解物質タイプの物理化学的細胞接着材料とを併用するようにしてもよい。
【0041】
また、静電的相互作用の制御により、細胞との接着性を変化させる物理化学的細胞接着性変化材料もある。このような材料の場合、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、材料が含有する、正電荷を有する官能基が分解された結果、表面に存在する正電荷量が変化し、これにより細胞との接着性を変化させ、細胞接着性変化パターンを形成するものである。例えば、このような材料としてポリLリシン等が挙げられる。
【0042】
b.生物学的細胞接着性変化材料
細胞を基材上に接着、培養させる為の生物学的な因子としては、多くの細胞種に対して被接着性を有することが出来る材料、特定の細胞種にのみ被接着性を有する材料がある。前者は例えばコラーゲンI型であり、後者は例えば肝実質細胞を選択的に接着するポリ(N−p−ビニルベンジル−[O−β−D−ガラクトピラノシル−(1→4)−D−グルコンアミド])(以下、PVLA)等がある。PVLAの場合、肝実質細胞が特異認識をするガラクトース基を構造中に有する事により、材料−細胞間の選択的かつ特異的な接着が行われるものと推測される。
【0043】
このような材料と光触媒を混合し、光触媒含有細胞接着性変化層として用いる場合は以下の使用形態が考えられる。コラーゲンI型を酵素処理により可溶化した可溶化コラーゲンIと予め焼成処理、粉砕処理をしたTiO2粒子を混合し、光触媒含有細胞接着性変化層用材料とする。次に、基材上に光触媒含有細胞接着性変化層用材料を塗布して光触媒含有細胞接着性変化層を形成する。この、光触媒含有細胞接着性変化層に、少量のエネルギーを照射した場合には、コラーゲンの側鎖にある細胞接着性ペプチド構造の一部が破壊され、細胞接着性が減少させることができる。また、エネルギー照射量を増やす事により細胞接着性ペプチド構造を徐々に失わせることができ、細胞接着性を更に減少させることができる。またさらに、過大なエネルギー照射を行う事によりコラーゲンの主鎖構造を破壊することができ、その細胞接着性を完全に失わせることができる。
【0044】
(2)光触媒
本実施態様に用いられる光触媒としては、光半導体として知られる例えば二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化ビスマス(Bi2O3)、および酸化鉄(Fe2O3)を挙げることができ、これらから選択して1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
本実施態様においては、特に二酸化チタンが、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから好適に使用される。二酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型があり本態様ではいずれも使用することができるが、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。アナターゼ型二酸化チタンは励起波長が380nm以下にある。
【0046】
このようなアナターゼ型二酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製STS−02(平均粒径7nm)、石原産業(株)製ST−K01)、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
【0047】
光触媒の粒径は小さいほど光触媒反応が効果的に起こるので好ましく、平均粒径が50nm以下であることが好ましく、20nm以下の光触媒を使用するのが特に好ましい。
【0048】
本実施態様に用いられる光触媒含有細胞接着性変化層中の光触媒の含有量は、5〜60重量%、好ましくは20〜40重量%の範囲で設定することができる。
【0049】
2.基材
本発明の細胞培養基材に用いられる基材としては、表面に光触媒含有細胞接着性変化層を形成することが可能な材料で形成されたものであれば特に限定されるものではなく、露光処理による表面処理が可能であればその形態は問わない。具体的には、金属、ガラス、およびシリコン等の無機材料、プラスチックで代表される有機材料を挙げることができる。
【0050】
3.細胞接着性変化パターン
本実施態様においては、上記基材上に上述した光触媒含有細胞接着性変化層を形成し、さらにエネルギーをパターン状に照射することにより、細胞との接着性が変化したパターンである細胞接着性変化パターンが形成されている。
【0051】
このような細胞接着性変化パターンは、通常は細胞接着性の良好な細胞接着性良好領域と細胞接着性の悪い細胞接着性阻害領域とから形成される。そして、この細胞接着性良好領域に細胞が接着されることにより、高精細なパターン状に細胞を接着させることができる。
【0052】
このような細胞接着性良好領域と細胞接着性阻害領域とは、用いる細胞接着性変化材料の種類に応じて決定されるものである。
【0053】
例えば、細胞接着性変化材料が表面自由エネルギーを変化させて細胞の接着性を変化させる物理化学的細胞接着性変化材料である場合、細胞の接着性は所定の範囲内の表面自由エネルギーであると良好であり、その範囲を外れると細胞との接着性が低下する傾向にある。このような表面自由エネルギーによる細胞の接着性の変化としては例えば、資料CMC出版 バイオマテリアルの最先端 筏 義人(監修) p.109下部に示されるような実験結果が知られている。
【0054】
また、上記材料の表面自由エネルギーだけでなく、どのような細胞種をどのような材料種に接触させるか等によっても、細胞の接着性を決定することができる。
【0055】
ここで、この細胞接着性変化パターンとしては、上述したような細胞接着性良好領域と細胞接着性阻害領域との2水準によるパターンであってもよいが、用途によっては細胞接着性変化パターンが、表面の細胞接着性が少なくとも3水準以上異なる領域を有する細胞接着性変化パターンであってもよい。
【0056】
例えば、生物学的細胞接着性変化材料を用いた光触媒含有細胞接着性変化層を用いている場合であって、細胞の接着性の良好な状態が未確定である場合等においては、連続的に光触媒含有細胞接着性変化層の表面状態を変化させることにより、接着性に最適な状態を見出すことができる等の利点を有する場合があるからである。
【0057】
このように、本発明においては、3水準以上とは連続的に細胞の接着性が変化した状態を含むものであり、どの程度の水準とするかは、状況に応じて適宜選択されて決定される。
【0058】
このような多水準の接着性の異なる領域を形成する場合は、光触媒含有細胞接着性変化層に対するエネルギーの照射量を変化させることにより行うことができる。具体的には透過率の異なるハーフトーンのフォトマスクを用いる等の方法を挙げることができる。
【0059】
さらに、本実施態様においては、エネルギーの照射された部分と未照射の部分との光触媒活性の差を利用した、細胞接着性変化パターンを用いることができる。すなわち、例えば分解物質として光触媒含有細胞接着性変化層内に導入された生物学的細胞接着性変化材料を用いた場合、光触媒含有細胞接着性変化層表面にエネルギーをパターン状に照射すると、照射部分の表面に滲出した生物学的細胞接着性変化材料は分解され、未照射の部分の生物学的細胞接着性変化材料は残存する。したがって、この生物学的細胞接着性変化材料が特定の細胞と接着性が良好な材料、もしくは多くの細胞と接着性が良好な細胞である場合、未照射部分が細胞接着性良好領域となるが、エネルギーが照射された部分は、細胞との接着性が良好な生物学的細胞接着性変化材料が存在しないばかりでなく、エネルギー照射により活性化された滅菌性を有する光触媒が露出した領域となる。したがって、エネルギー照射部分が細胞接着性阻害領域となる場合は、特に本実施態様の細胞培養基材を用いて所定の期間培養した場合、パターンが太くなる等の不具合が生じることが無いという利点を有するものである。
【0060】
なお、上記エネルギーの照射方法等については、後述する「II.細胞培養基材の製造方法」で詳しく説明するので、ここでの説明は省略する。
【0061】
B.第2実施態様
本発明の細胞培養基材の第2実施態様は、基材と、上記基材上に形成され、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を有する細胞接着性変化層とを有し、上記細胞接着性変化層には、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンが形成されている細胞培養基材であって、上記細胞接着性変化層が、光触媒を有する光触媒処理層と、上記光触媒処理層上に形成され、上記細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層とを有することを特徴とするものである。
【0062】
本実施態様においては、このように細胞接着性変化層が、基材上に形成された光触媒処理層と、この光触媒処理層上に形成された細胞接着性変化材料層とを有するものであるので、エネルギーが照射された際に、光触媒処理層内の光触媒の作用により細胞接着性変化材料層内の細胞接着性変化材料の細胞接着性が変化し、エネルギーが照射された部分と照射されない部分とで細胞との接着性が異なる細胞接着性変化パターンを形成することができる。
【0063】
このような本実施態様の細胞培養基材を、用いられる部材に分けてそれぞれ説明する。
【0064】
1.細胞接着性変化材料層
本実施態様の細胞培養基材は、基材上に形成された光触媒処理層上に細胞接着性変化材料層が形成される。この細胞接着性変化材料層は、上記第1実施態様における「1.光触媒含有細胞接着性変化層」中の「(1)細胞接着性変化材料」で説明した材料を用いることにより形成される層を用いることができる。以下、物理化学的細胞接着性変化材料を用いた細胞接着性変化材料層と生物学的細胞接着性変化材料を用いた細胞接着性変化材料層とに分けて説明する。
【0065】
(1)物理化学的細胞接着性変化材料を用いた場合
本実施態様において、物理化学的細胞接着性変化材料により形成される細胞接着性変化材料層は、上記第1実施態様における「1.光触媒含有細胞接着性変化層」中の「(1)細胞接着性変化材料」で説明した材料と同様の材料を用いた層とすることができる。このような材料を用いた場合は、光触媒の有無を除き上述したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。なお、本実施態様においては、原則的には細胞接着性変化材料層内に光触媒を含有する必要性は無いが、感度等の関係で少量含有されたものであってもよい。
【0066】
また、本実施態様においては、光触媒処理層上に光触媒の作用により分解除去される分解除去層として細胞接着性変化材料層を形成し、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により細胞接着性変化材料層が分解された領域、すなわち光触媒処理層が露出した領域と、細胞接着性変化材料層が残存する領域とを形成し、これにより細胞接着性変化パターンとするようなタイプの細胞接着性変化材料層を用いることができる。
【0067】
具体的には、表面自由エネルギーにより細胞の接着性を制御する場合は、表面自由エネルギーが細胞接着性に適当である物理化学的細胞接着性変化材料を用い、この材料を全面に塗布して細胞接着性変化材料層を形成し、その後エネルギーをパターン照射して細胞接着性変化材料層の有無のパターンを形成し、これにより細胞接着性変化パターンとするものである。
【0068】
このような分解除去層としての物理化学的細胞接着性変化材料層であって、表面自由エネルギーにより細胞の接着性を制御する場合に用いることができる材料としては、例えば、再生セルロース、ナイロン11等が挙げられる。
【0069】
また、静電的相互作用により細胞の接着性を制御する場合は、正電荷を有する物理化学的細胞接着性変化材料を用い、上記と同様の方法により細胞接着性変化パターンとすることができる。
【0070】
このような分解除去層としての物理化学的細胞接着性変化材料層であって、静電的相互作用により細胞の接着性を制御する場合に用いることができる材料としては、ポリアミングラフトポリ(2−ヒドロキシメチルメタクリレート)(HA−x)等を挙げることができる。
【0071】
これらの樹脂は、溶媒に溶解させ、例としてスピンコート法等の一般的な成膜方法により形成することが可能である。また、本発明においては、機能性薄膜、すなわち、自己組織化単分子膜、ラングミュア−ブロケット膜、および交互吸着膜等を用いることにより、欠陥のない膜を形成することが可能であることから、このような成膜方法を用いることがより好ましいといえる。
【0072】
このような分解除去層としての細胞接着性変化材料層を用いて細胞接着性変化パターンを形成した場合は、分解除去された領域は後述する光触媒処理層が露出していることから、細胞の培養が大きく阻害される領域となる。したがって、このような方法により得られる細胞培養基材は、長期間細胞を保持しても高精細なパターンを維持することができるといった利点を有するものである。
【0073】
(2)生物学的細胞接着性変化材料を用いた場合
本実施態様において、生物学的細胞接着性変化材料により形成される細胞接着性変化材料層は、例えば上記第1実施態様における「1.光触媒含有細胞接着性変化層」中の(1)細胞接着性変化材料」で説明したコラーゲンI型等を挙げることができる。
【0074】
2.光触媒処理層
次に、本発明に用いられる光触媒処理層について説明する。本発明に用いられる光触媒処理層は、光触媒処理層中の光触媒がその上に形成された細胞接着性変化材料層の細胞接着特性を変化させるような構成であれば、特に限定されるものではなく、光触媒とバインダとから構成されているものであってもよいし、光触媒単体で製膜されたものであってもよい。また、その表面の特性は特に親液性であっても撥液性であってもよいが、この光触媒処理層上に、細胞接着性変化材料層等を形成する都合上、親液性であることが好ましい。
【0075】
この光触媒処理層における、後述するような酸化チタンに代表される光触媒の作用機構は、必ずしも明確なものではないが、光の照射によって生成したキャリアが、近傍の化合物との直接反応、あるいは、酸素、水の存在下で生じた活性酸素種によって、有機物の化学構造に変化を及ぼすものと考えられている。本発明においては、このキャリアが光触媒処理層上に形成された細胞接着性変化材料層中の化合物に作用を及ぼすものであると思われる。
【0076】
このような光触媒としては、第1実施態様で詳述したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0077】
本実施態様における光触媒処理層は、上述したように光触媒単独で形成されたものであってもよく、またバインダと混合して形成されたものであってもよい。
【0078】
光触媒のみからなる光触媒処理層の場合は、細胞接着性変化材料層の細胞接着特性の変化に対する効率が向上し、処理時間の短縮化等のコスト面で有利である。一方、光触媒とバインダとからなる光触媒処理層の場合は、光触媒処理層の形成が容易であるという利点を有する。
【0079】
光触媒のみからなる光触媒処理層の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等の真空製膜法を用いる方法を挙げることができる。真空製膜法により光触媒処理層を形成することにより、均一な膜でかつ光触媒のみを含有する光触媒処理層とすることが可能であり、これにより細胞接着性変化材料層の特性を均一に変化させることが可能であり、かつ光触媒のみからなることから、バインダを用いる場合と比較して効率的に細胞接着性変化層の細胞接着性を変化させることが可能となる。
【0080】
また、光触媒のみからなる光触媒処理層の形成方法の他の例としては、例えば光触媒が二酸化チタンの場合は、基材上に無定形チタニアを形成し、次いで焼成により結晶性チタニアに相変化させる方法等が挙げられる。ここで用いられる無定形チタニアとしては、例えば四塩化チタン、硫酸チタン等のチタンの無機塩の加水分解、脱水縮合、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタン等の有機チタン化合物を酸存在下において加水分解、脱水縮合によって得ることができる。次いで、400℃〜500℃における焼成によってアナターゼ型チタニアに変性し、600℃〜700℃の焼成によってルチル型チタニアに変性することができる。
【0081】
また、バインダを用いる場合は、バインダの主骨格が上記の光触媒の作用により分解されないような高い結合エネルギーを有するものが好ましく、例えばこのようなバインダとしては、上述したオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
【0082】
このようにオルガノポリシロキサンをバインダとして用いた場合は、上記光触媒処理層は、光触媒とバインダであるオルガノポリシロキサンとを必要に応じて他の添加剤とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液を透明基材上に塗布することにより形成することができる。使用する溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系の有機溶剤が好ましい。塗布はスピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により行うことができる。バインダとして紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより光触媒処理層を形成することかできる。
【0083】
また、バインダとして無定形シリカ前駆体を用いることができる。この無定形シリカ前駆体は、一般式SiX4で表され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
【0084】
具体的には、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシラン等が挙げられる。また、この場合には、無定形シリカの前駆体と光触媒の粒子とを非水性溶媒中に均一に分散させ、透明基材上に空気中の水分により加水分解させてシラノールを形成させた後、常温で脱水縮重合することにより光触媒処理層を形成できる。シラノールの脱水縮重合を100℃以上で行えば、シラノールの重合度が増し、膜表面の強度を向上できる。また、これらの結着剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0085】
バインダを用いた場合の光触媒処理層中の光触媒の含有量は、5〜60重量%、好ましくは20〜40重量%の範囲で設定することができる。また、光触媒処理層の厚みは、0.05〜10μmの範囲内が好ましい。
【0086】
また、光触媒処理層には上記の光触媒、バインダの他に、界面活性剤を含有させることができる。具体的には、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることかでき、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
【0087】
さらに、光触媒処理層には上記の界面活性剤の他にも、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレン等のオリゴマー、ポリマー等を含有させることができる。
【0088】
3.基材
本実施態様に用いられる基材は、上記光触媒処理層を形成可能であれば、特に限定されるものではなく、第1実施態様で説明したものと同様のものを用いることが可能であるので、ここでの説明は省略する。
【0089】
4.細胞接着性変化パターン
本実施態様においては、上述した細胞接着性変化材料層に、パターン状にエネルギーを照射することにより、光触媒処理層中の光触媒の作用によって、細胞接着性変化材料層表面の細胞との接着性が変化したパターンである細胞接着性変化パターンが形成されている。
【0090】
ここで、細胞接着性変化パターンについては、上述した第1実施態様で説明したものと同様であり、またそのエネルギーの照射方法等については、後述する「II.細胞培養基材の製造方法」で詳しく説明するので、ここでの説明は省略する。
【0091】
C.第3実施態様
本実施態様の細胞培養基材は、基材と、上記基材上に形成され、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を有する細胞接着性変化層とを有し、上記細胞接着性変化層には、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンが形成されている細胞培養基材であって、上記細胞接着性変化層が、上記細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層であり、上記接着性変化パターンが、光触媒を含有する光触媒含有層と上記細胞接着性変化材料層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギーを照射することにより形成されたものであることを特徴とするものである。
【0092】
本実施態様においては、このように細胞接着性変化層が、細胞接着性変化材料層であり、上記接着性変化パターンが、光触媒を含有する光触媒含有層と上記細胞接着性変化材料層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギーを照射することにより形成されたものであるので、エネルギーが照射された際に、光触媒含有層内の光触媒の作用により細胞接着性変化材料層内の細胞接着性変化材料の細胞接着性が変化し、エネルギーが照射された部分と照射されない部分とで細胞との接着性が異なる細胞接着性変化パターンを形成することができる。
【0093】
このような本実施態様の細胞培養基材を、用いられる部材に分けてそれぞれ説明する。
【0094】
1.細胞接着性変化材料層
本実施態様の細胞培養基材は、基材上に細胞接着性変化材料層が形成される。この細胞接着性変化材料層は、上記第2実施態様における「1.光触媒含有細胞接着性変化層」中の「(1)細胞接着性変化材料」で説明した材料を用いることにより形成される層と同様であるので、ここでの説明は省略する。なお、本実施態様においては、原則的には細胞接着性変化材料層内に光触媒を含有する必要性は無いが、感度等の関係で少量含有されたものであってもよい。
【0095】
また、本実施態様においては、上述した第2実施態様と同様に、基材上に光触媒の作用により分解除去される分解除去層として細胞接着性変化材料層を形成してもよい。この場合、細胞接着性変化材料層は、光触媒含有層側基板を用いてエネルギー照射することにより、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により細胞接着性変化材料層が分解された領域、すなわち基材が露出した領域と、細胞接着性変化材料層が残存する領域とを形成し、これにより細胞接着性変化パターンとするようなタイプのものが用いられる。
【0096】
2.基材
本実施態様に用いられる基材は、上述した細胞接着性変化材料層が形成可能なものであれば、特に限定されるものではなく、第1実施態様で説明したものと同様のものを用いることが可能であるので、ここでの説明は省略する。
【0097】
3.光触媒含有層
次に、本実施態様に用いられる光触媒含有層について説明する。本実施態様に用いられる光触媒含有層は、光触媒を含有する層であり、通常はガラス等の基体上に形成されて用いられる。本実施態様においては、このような光触媒含有層を、上述した細胞接着性変化材料層と対向させて配置し、エネルギー照射を行うことにより、光触媒含有層中に含有される光触媒の作用により、細胞接着性変化材料層の細胞接着性を変化させることができるのである。本実施態様においては、この光触媒含有層を、エネルギー照射の際に所定の位置に配置し、細胞接着性変化パターンを形成することが可能であることから、上記細胞接着性変化材料層中に光触媒を含有させる必要がなく、細胞接着性変化材料層が、経時的に光触媒の作用を受けることのないものとすることができる、という利点を有する。
【0098】
このような光触媒含有層としては、上記第2実施態様における「2.光触媒処理層」で説明した層と同様であり、光触媒含有層と上記細胞接着性変化材料層との配置や、エネルギー照射等については、後述する「細胞培養基材の製造方法」の第3実施態様で詳しく説明するので、ここでの説明は省略する。
【0099】
4.細胞接着性変化パターン
本実施態様においては、上述した細胞接着性変化材料層に、上記光触媒含有層を用いて、パターン状にエネルギーを照射することにより、光触媒含有層中の光触媒の作用によって、細胞接着性変化材料層表面の細胞との接着性が変化したパターンである細胞接着性変化パターンが形成されている。
【0100】
ここで、細胞接着性変化パターンについては、上述した第1実施態様で説明したものと同様であり、またそのエネルギーの照射方法等については、後述する「II.細胞培養基材の製造方法」で詳しく説明するので、ここでの説明は省略する。
【0101】
II.細胞培養基材の製造方法
次に、本発明の細胞培養基材の製造方法について説明する。本発明の細胞培養基材の製造方法には3つの実施態様があるが、いずれの実施態様においても、基材と、その基材上に形成され、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する層とを有するパターン形成体用基材を形成し、このパターン形成体用基材にエネルギーを照射することにより、光触媒を作用させて、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成することを特徴とするものである。
【0102】
本発明の細胞培養基材の製造方法によれば、上記エネルギー照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する層を形成することから、この層に必要とされるパターン上にエネルギーを照射することにより、容易に高精細なパターン状に細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンが形成された細胞培養基材を製造することが可能となる。したがって、高精細なパターンを細胞に対して悪影響を及ぼすような処理液を用いることなく、簡便な工程により細胞培養基材を製造することができる。また、細胞接着性変化材料の変性の必要性がないことから、材料選択の幅を広げることが可能であり、後述するような特異的な接着性を発現するような生物学的細胞接着性変化材料をも問題なく用いることができるのである。
【0103】
以下、本発明の細胞培養基材の各実施態様ごとに説明する。
【0104】
A.第1実施態様
まず、本発明の細胞培養基材の第1実施態様について説明する。本発明の細胞培養基材の第1実施態様は、基材と、上記基材上に形成され、かつ光触媒およびエネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する光触媒含有細胞接着性変化層とを有するパターン形成体用基材を形成するパターン形成体用基材形成工程と、
上記光触媒含有細胞接着性変化層にエネルギーを照射し、上記光触媒含有細胞接着性変化層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する細胞接着性変化パターン形成工程と
を有するものである。
【0105】
本実施態様の細胞培養基材の製造方法は、例えば図1に示すように、まず、基材1と、その基材1上に形成された光触媒含有細胞接着性変化層2とを有するパターン形成体用基材3を形成する(パターン形成体用基材形成工程(図1(a))。次に、上記光触媒含有細胞接着性変化層2に、例えばフォトマスク4を用いてエネルギー5を照射し(図1(b))、光触媒含有細胞接着性変化層2の細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターン6を形成する(図1(c))細胞接着性変化パターン形成工程を行うものである。
【0106】
本実施態様においては、光触媒と上記細胞接着性変化材料とを有する光触媒含有細胞接着性変化層を形成することから、細胞接着性変化パターン形成工程において、エネルギーを照射することにより、光触媒含有細胞接着性変化層内の光触媒の作用により細胞接着性変化材料の細胞接着性が変化し、エネルギーが照射された部分と照射されない部分とで細胞との接着性が異なる細胞接着性変化パターンを形成することができるのである。以下、本実施態様の各工程について説明する。
【0107】
1.パターン形成体用基材形成工程
まず、本実施態様におけるパターン形成体用基材形成工程について説明する。本実施態様におけるパターン形成体用基材形成工程は、基材と、上記基材上に形成され、かつ光触媒およびエネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する光触媒含有細胞接着性変化層とを有するパターン形成体用基材を形成する工程である。
【0108】
本工程は、基材上に、光触媒および細胞接着性変化材料を含有する塗工液を、例えば、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により塗布し、光触媒含有細胞接着性変化層を形成することにより行うことができる。またバインダとして紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより光触媒含有層を形成することができる。
【0109】
ここで、本工程に用いられる基材や光触媒、および細胞接着性変化材料については、上述した「I.細胞培養基材」の第1実施態様の項で説明したものと同様のものを用いることができるので、ここでの説明は省略する。
【0110】
2.細胞接着性変化パターン形成工程
次に、本実施態様における細胞接着性変化パターン形成工程について説明する。本実施態様における細胞接着性変化パターン形成工程は、上記光触媒含有細胞接着性変化層にエネルギーを照射し、上記光触媒含有細胞接着性変化層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する工程である。
【0111】
本工程により、目的とするパターン状にエネルギーを照射することにより、エネルギー照射された領域のみの光触媒含有細胞接着性変化層の細胞の接着性を変化させることができ、高精細な細胞接着性の良好な領域と悪い領域とのパターンである、細胞接着性変化パターンを形成することができるのである。
【0112】
ここで、本実施態様でいうエネルギー照射(露光)とは、光触媒含有細胞接着性変化層表面の細胞接着性を変化させることが可能ないかなるエネルギー線の照射をも含む概念であり、可視光の照射に限定されるものではない。
【0113】
通常このようなエネルギー照射に用いる光の波長は、400nm以下の範囲、好ましくは380nm以下の範囲から設定される。これは、上述したように光触媒含有細胞接着性変化層に用いられる好ましい光触媒が二酸化チタンであり、この二酸化チタンにより光触媒作用を活性化させるエネルギーとして、上述した波長の光が好ましいからである。
【0114】
このようなエネルギー照射に用いることができる光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、その他種々の光源を挙げることができる。
【0115】
上述したような光源を用い、フォトマスクを介したパターン照射により行う方法の他、エキシマ、YAG等のレーザを用いてパターン状に描画照射する方法を用いることも可能である。
【0116】
また、エネルギー照射に際してのエネルギーの照射量は、光触媒含有細胞接着性変化層中の光触媒の作用により、光触媒含有細胞接着性変化層表面の細胞の接着性の変化が行われるのに必要な照射量とする。
【0117】
この際、光触媒含有細胞接着性変化層を加熱しながらエネルギー照射することにより、感度を上昇させることが可能となり、効率的な細胞の接着性の変化を行うことができる点で好ましい。具体的には30℃〜80℃の範囲内で加熱することが好ましい。
【0118】
本実施態様におけるエネルギー照射方向は、上述した基材が透明である場合は、基材側および光触媒含有細胞接着性変化層側のいずれの方向からフォトマスクを介したパターンエネルギー照射もしくはレーザの描画照射を行っても良い。一方、基材が不透明な場合は、光触媒含有細胞接着性変化層側からエネルギー照射を行う必要がある。
【0119】
B.第2実施態様
次に、本発明の細胞培養基材の第2実施態様について説明する。本発明の細胞培養基材の第2実施態様は、基材と、上記基材上に形成された光触媒を含有する光触媒処理層と、上記光触媒処理層上に形成され、かつエネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層とを有するパターン形成体用基材を形成するパターン形成体用基材形成工程と、
上記細胞接着性変化材料層にエネルギーを照射し、上記細胞接着性変化材料層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する細胞接着性変化パターン形成工程と
を有するものである。
【0120】
本実施態様の細胞培養基材の製造方法は、例えば図2に示すように、まず、基材1と、その基材1上に形成された光触媒処理層7と、その光触媒処理層7上に形成された細胞接着性変化材料層8とを有するパターン形成体用基材3を形成する(パターン形成体用基材形成工程(図2(a))。次に、上記細胞接着性変化材料層8に、例えばフォトマスク4を用いてエネルギー5を照射し(図2(b))、細胞接着性変化材料層8の細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターン6を形成する(図2(c))細胞接着性変化パターン形成工程を行うものである。
【0121】
本実施態様においては、光触媒処理層と、上記細胞接着性変化材料層を形成することから、細胞接着性変化パターン形成工程において、エネルギーを照射することにより、光触媒処理層中に含有される光触媒の作用により、細胞接着性変化材料層内の細胞接着性が変化し、エネルギーが照射された部分と照射されない部分とで細胞との接着性が異なる細胞接着性変化パターンを形成することができるのである。以下、本実施態様の各工程について説明する。
【0122】
1.パターン形成体用基材形成工程
まず、本実施態様におけるパターン形成体用基材形成工程について説明する。本実施態様におけるパターン形成体用基材形成工程は、上記基材上に形成された光触媒を含有する光触媒処理層と、上記光触媒処理層上に形成され、かつエネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層とを有するパターン形成体用基材を形成する工程である。
【0123】
本工程で形成される光触媒処理層は、光触媒のみからなるものであってもよく、またバインダと混合して形成されるものであってもよい。
【0124】
光触媒のみからなる光触媒処理層の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等の真空製膜法や、例えば光触媒が二酸化チタンの場合は、基材上に無定形チタニアを形成し、次いで焼成により結晶性チタニアに相変化させる方法等が挙げられる。真空製膜法により光触媒処理層を形成することにより、均一な膜でかつ光触媒のみを含有する光触媒処理層とすることが可能であり、これにより細胞接着性変化材料層上の細胞接着性を均一に変化させることが可能であり、かつ光触媒のみからなることから、バインダを用いる場合と比較して効率的に細胞接着性変化材料層上の細胞接着性を変化させることが可能となる。
【0125】
また、光触媒処理層が、光触媒とバインダとを混合させたものである場合には、光触媒とバインダとを、必要に応じて他の添加剤とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液を透明基材上に塗布することにより形成することができる。使用する溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系の有機溶剤が好ましい。塗布はスピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により行うことができる。バインダとして紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより光触媒処理層を形成することができる。
【0126】
続いて、上記光触媒処理層上に、上述した細胞接着性変化材料を含有する塗工液を、例えば、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により塗布し、細胞接着性変化材料層を形成することができる。またバインダとして紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより光触媒処理層を形成することができる。
【0127】
ここで、本工程に用いられる基材や光触媒処理層、および細胞接着性変化材料層については、上述した「I.細胞培養基材」の第2実施態様の項で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0128】
2.細胞接着性変化パターン形成工程
次に、本実施態様における細胞接着性変化パターン形成工程について説明する。本実施態様における細胞接着性変化パターン形成工程は、上記細胞接着性変化材料層にエネルギーを照射し、上記細胞接着性変化材料層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する工程である。
【0129】
本工程により、目的とするパターン状にエネルギーを照射することにより、エネルギー照射された領域のみの細胞接着性変化材料層の細胞の接着性を変化させることができ、高精細な細胞接着性の良好な領域と悪い領域とのパターンである、細胞接着性変化パターンを形成することができるのである。
【0130】
本工程におけるエネルギー照射方法や、照射するエネルギーについては、上述した第1実施態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0131】
C.第3実施態様
次に、本発明の細胞培養基材の第3実施態様について説明する。本発明の細胞培養基材の第3実施態様は、基材と、上記基材上に形成され、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層とを有するパターン形成体用基材を形成するパターン形成体用基材形成工程と、
上記パターン形成体用基材と、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板とを、上記細胞接着性変化材料層と上記光触媒含有層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギー照射し、上記細胞接着性変化材料層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する細胞接着性変化パターン形成工程と
を有するものである。
【0132】
本実施態様の細胞培養基材の製造方法は、例えば図3に示すように、まず、基材1と、その基材1上に形成された細胞接着性変化材料層8とを有するパターン形成体用基材3を形成する(パターン形成体用基材形成工程(図2(a))。次に、基体11と、その基体11上に形成された光触媒含有層12とを有する光触媒含有層側基板13を用意する。この光触媒含有層側基板13における光触媒含有層12と上記細胞接着性変化材料層8とが対向するように配置し、例えばフォトマスク4を用いてエネルギー5を照射し(図3(b))、細胞接着性変化材料層8の細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターン6を形成する(図3(c))細胞接着性変化パターン形成工程を行うものである。
【0133】
本実施態様においては、上記細胞接着性変化材料層を形成することから、細胞接着性変化パターン形成工程において、光触媒含有層側基板を用いてエネルギーを照射することにより、光触媒含有層中に含有される光触媒の作用により、細胞接着性変化材料層内の細胞接着性が変化し、エネルギーが照射された部分と照射されない部分とで細胞との接着性が異なる細胞接着性変化パターンを形成することができるのである。以下、本実施態様の各工程について説明する。
【0134】
1.パターン形成体用基材形成工程
まず、本発明におけるパターン形成体用基材形成工程について説明する。本発明におけるパターン形成体用基材形成工程は、基材と、上記基材上に形成され、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層とを有するパターン形成体用基材を形成する工程である。
【0135】
本工程は、基材上に、細胞接着性変化材料を含有する塗工液を、例えば、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により塗布し、細胞接着性変化材料層を形成することにより行うことができる。またバインダとして紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより光触媒含有層を形成することができる。
【0136】
ここで、本工程に用いられる基材および細胞接着性変化材料については、上述した「I.細胞培養基材」の第1実施態様の項で説明したものと同様のものを用いることができるので、ここでの説明は省略する。
【0137】
2.細胞接着性変化パターン形成工程
次に、本実施態様における細胞接着性変化パターン形成工程について説明する。本実施態様における接着性変化パターン形成工程は、上記パターン形成体用基材と、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板とを、上記細胞接着性変化材料層と上記光触媒含有層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギー照射し、上記細胞接着性変化材料層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する工程である。
【0138】
本工程において、光触媒含有層側基板における光触媒含有層および細胞接着性変化材料層を対向するように配置し、目的とするパターン状にエネルギーを照射することにより、エネルギー照射された領域のみの細胞接着性変化材料層の細胞の接着性を変化させることができ、高精細な細胞接着性の良好な領域と悪い領域とのパターンである、細胞接着性変化パターンを形成することができるのである。
【0139】
以下、本工程に用いられる光触媒含有層側基板、およびエネルギー照射についてそれぞれ説明する。
【0140】
(1)光触媒含有層側基板
まず、本実施態様に用いられる光触媒含有層側基板について説明する。
【0141】
本実施態様に用いられる光触媒含有層側基板は、少なくとも光触媒含有層と基体とを有するものであり、通常は基体上に所定の方法で形成された薄膜状の光触媒含有層が形成されてなるものである。また、この光触媒含有層側基板には、パターン状に形成された光触媒含有層側遮光部やプライマー層が形成されたものも用いることができる。
【0142】
本実施態様においては、エネルギーを照射する際に、上記細胞接着性変化材料層と、上記光触媒含有層側基板における光触媒含有層とを所定の間隙をおいて対向させ、光触媒含有層側基板の光触媒含有層の作用により、細胞接着性変化材料層の細胞接着性を変化させ、エネルギー照射後、光触媒含有層側基板を取り外すことにより細胞接着性変化パターンが形成されるのである。以下、この光触媒含有層側基板の各構成について説明する。
【0143】
a.光触媒含有層
本実施態様に用いられる光触媒含有層は、少なくとも光触媒を含有するものであり、バインダを有していても、有していなくてもよく、上述した第2実施態様の光触媒処理層と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0144】
ここで、本実施態様において用いられる光触媒含有層は、例えば図3に示すように、基体11上に全面に形成されたものであってもよいが、例えば図4に示すように、基体11上に光触媒含有層12がパターン状に形成されたものであってもよい。
【0145】
このように光触媒含有層をパターン状に形成することにより、エネルギーを照射する際に、フォトマスク等を用いてパターン照射をする必要がなく、全面に照射することにより、細胞接着性変化材料層上に細胞接着性変化パターンを形成することができる。
【0146】
この光触媒含有層のパターニング方法は、特に限定されるものではないが、例えばフォトリソグラフィー法等により行うことが可能である。
【0147】
また、光触媒含有層と細胞接着性変化材料層とを例えば密着させてエネルギー照射を行う場合には、実際に光触媒含有層の形成された部分のみの特性が変化するものであるので、エネルギーの照射方向は上記光触媒含有層と細胞接着性変化材料層とが対向する部分にエネルギーが照射されるものであれば、いかなる方向から照射されてもよく、さらには、照射されるエネルギーも特に平行光等の平行なものに限定されないという利点を有するものとなる。
【0148】
b.基体
本実施態様においては、図3に示すように、光触媒含有層側基板13は、少なくとも基体11とこの基体11上に形成された光触媒含有層12とを有するものである。この際、用いられる基体を構成する材料は、後述するエネルギーの照射方向や、得られる細胞培養基材が透明性を必要とするか等により適宜選択される。
【0149】
また本実施態様に用いられる基体は、可撓性を有するもの、例えば樹脂製フィルム等であってもよいし、可撓性を有さないもの、例えばガラス基材等であってもよい。さらには、別の形態の基体として、光ファイバ等の光導波路を用いることもできる。これらは、エネルギー照射方法により適宜選択されるものである。
【0150】
なお、基体表面と光触媒含有層との密着性を向上させるために、基体上にアンカー層を形成するようにしてもよい。このようなアンカー層としては、例えば、シラン系、チタン系のカップリング剤等を挙げることができる。
【0151】
c.光触媒含有層側遮光部
本実施態様に用いられる光触媒含有層側基板には、パターン状に形成された光触媒含有層側遮光部が形成されたものを用いても良い。このように光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板を用いることにより、エネルギー照射に際して、フォトマスクを用いたり、レーザ光による描画照射を行う必要がない。したがって、光触媒含有層側基板とフォトマスクとの位置合わせが不要であることから、簡便な工程とすることが可能であり、また描画照射に必要な高価な装置も不必要であることから、コスト的に有利となるという利点を有する。
【0152】
このような光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板は、光触媒含有層側遮光部の形成位置により、下記の二つの態様とすることができる。
【0153】
一つが、例えば図5に示すように、基体11上に光触媒含有層側遮光部14を形成し、この光触媒含有層側遮光部14上に光触媒含有層12を形成して、光触媒含有層側基板とする態様である。もう一つは、例えば図6に示すように、基体11上に光触媒含有層12を形成し、その上に光触媒含有層側遮光部14を形成して光触媒含有層側基板とする態様である。
【0154】
いずれの態様においても、フォトマスクを用いる場合と比較すると、光触媒含有層側遮光部が、上記光触媒含有層と細胞接着性変化材料層との配置部分の近傍に配置されることになるので、基体内等におけるエネルギーの散乱の影響を少なくすることができることから、エネルギーのパターン照射を極めて正確に行うことが可能となる。
【0155】
さらに、上記光触媒含有層上に光触媒含有層側遮光部を形成する態様においては、光触媒含有層と細胞接着性変化材料層とを所定の位置に配置する際に、この光触媒含有層側遮光部の膜厚をこの間隙の幅と一致させておくことにより、上記光触媒含有層側遮光部を上記間隙を一定のものとするためのスペーサとしても用いることができるという利点を有する。また、スペーサとしての高さが不足する場合、遮光部に別途スペーサを設けてもよい。
【0156】
すなわち、所定の間隙をおいて上記光触媒含有層と細胞接着性変化材料層とを対向させた状態で配置する際に、上記光触媒含有層側遮光部と細胞接着性変化材料層とを密着させた状態で配置することにより、上記所定の間隙を正確とすることが可能となり、そしてこの状態で光触媒含有層側基板からエネルギーを照射することにより、細胞接着性変化材料層上に細胞接着性変化パターンを精度良く形成することが可能となるのである。
【0157】
このような光触媒含有層側遮光部の形成方法は、特に限定されるものではなく、光触媒含有層側遮光部の形成面の特性や、必要とするエネルギーに対する遮蔽性等に応じて適宜選択されて用いられる。
【0158】
例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により厚み1000〜2000Å程度のクロム等の金属薄膜を形成し、この薄膜をパターニングすることにより形成されてもよい。このパターニングの方法としては、スパッタ等の通常のパターニング方法を用いることができる。
【0159】
また、樹脂バインダ中にカーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子を含有させた層をパターン状に形成する方法であってもよい。用いられる樹脂バインダとしては、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の樹脂を1種または2種以上混合したものや、感光性樹脂、さらにはO/Wエマルジョン型の樹脂組成物、例えば、反応性シリコーンをエマルジョン化したもの等を用いることができる。このような樹脂製遮光部の厚みとしては、0.5〜10μmの範囲内で設定することができる。このよう樹脂製遮光部のパターニングの方法は、フォトリソ法、印刷法等一般的に用いられている方法を用いることができる。
【0160】
なお、上記説明においては、光触媒含有層側遮光部の形成位置として、基体と光触媒含有層との間、および光触媒含有層表面の二つの場合について説明したが、その他、基体の光触媒含有層が形成されていない側の表面に光触媒含有層側遮光部を形成する態様も採ることが可能である。この態様においては、例えばフォトマスクをこの表面に着脱可能な程度に密着させる場合等が考えられ、細胞接着性変化パターンを小ロットで変更するような場合に好適に用いることができる。
【0161】
d.プライマー層
次に、本実施態様の光触媒含有層側基板に用いられるプライマー層について説明する。本実施態様において、上述したように基体上に光触媒含有層側遮光部をパターン状に形成して、その上に光触媒含有層を形成して光触媒含有層側基板とする場合においては、上記光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成してもよい。
【0162】
このプライマー層の作用・機能は必ずしも明確なものではないが、光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成することにより、プライマー層は光触媒の作用による細胞接着性変化材料層の細胞接着性変化を阻害する要因となる光触媒含有層側遮光部および光触媒含有層側遮光部間に存在する開口部からの不純物、特に、光触媒含有層側遮光部をパターニングする際に生じる残渣や、金属、金属イオン等の不純物の拡散を防止する機能を示すものと考えられる。したがって、プライマー層を形成することにより、高感度で細胞接着性変化の処理が進行し、その結果、高解像度のパターンを得ることが可能となるのである。
【0163】
なお、本実施態様においてプライマー層は、光触媒含有層側遮光部のみならず光触媒含有層側遮光部間に形成された開口部に存在する不純物が光触媒の作用に影響することを防止するものであるので、プライマー層は開口部を含めた光触媒含有層側遮光部全面にわたって形成されていることが好ましい。
【0164】
本実施態様におけるプライマー層は、光触媒含有層側基板の光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層とが接触しないようにプライマー層が形成された構造であれば特に限定されるものではない。
【0165】
このプライマー層を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、光触媒の作用により分解されにくい無機材料が好ましい。具体的には無定形シリカを挙げることができる。このような無定形シリカを用いる場合には、この無定形シリカの前駆体は、一般式SiX4で示され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物であり、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
【0166】
また、プライマー層の膜厚は、0.001μmから1μmの範囲内であることが好ましく、特に0.001μmから0.1μmの範囲内であることが好ましい。
【0167】
(2)エネルギー照射
次に、本工程におけるエネルギー照射について説明する。本実施態様においては、上記細胞接着性変化材料層と、上記光触媒含有層側基板における光触媒含有層とを、対向するように配置し、所定の方向からエネルギーを照射することにより、細胞接着性変化材料層の細胞接着性が変化したパターンを形成することができる。
【0168】
上記の配置とは、実質的に光触媒の作用が細胞接着性変化材料層表面に及ぶような状態で配置された状態をいうこととし、実際に物理的に接触している状態の他、所定の間隔を隔てて上記光触媒含有層と細胞接着性変化材料層とが配置された状態とする。この間隙は、200μm以下であることが好ましい。
【0169】
本実施態様において上記間隙は、パターン精度が極めて良好であり、光触媒の感度も高く、したがって細胞接着性変化材料層の細胞接着性変化の効率が良好である点を考慮すると特に0.2μm〜10μmの範囲内、好ましくは1μm〜5μmの範囲内とすることが好ましい。このような間隙の範囲は、特に間隙を高い精度で制御することが可能である小面積の細胞接着性変化材料層に対して特に有効である。
【0170】
一方、例えば300mm×300mm以上といった大面積の細胞接着性変化材料層に対して処理を行う場合は、接触することなく、かつ上述したような微細な間隙を光触媒含有層側基板と細胞接着性変化材料層との間に形成することは極めて困難である。したがって、細胞接着性変化材料層が比較的大面積である場合は、上記間隙は、10〜100μmの範囲内、特に10〜20μmの範囲内とすることが好ましい。間隙をこのような範囲内とすることにより、パターンがぼやける等のパターン精度の低下の問題や、光触媒の感度が悪化して細胞接着性変化の効率が悪化する等の問題が生じることなく、さらに細胞接着性変化材料層上の細胞接着性変化にムラが発生しないといった効果を有するからである。
【0171】
このように比較的大面積の細胞接着性変化材料層をエネルギー照射する際には、エネルギー照射装置内の光触媒含有層側基板と細胞接着性変化材料層との位置決め装置における間隙の設定を、10μm〜200μmの範囲内、特に10μm〜20μmの範囲内に設定することが好ましい。設定値をこのような範囲内とすることにより、パターン精度の大幅な低下や光触媒の感度の大幅な悪化を招くことなく、かつ光触媒含有層側基板と細胞接着性変化材料層とが接触することなく配置することが可能となるからである。
【0172】
このように光触媒含有層と細胞接着性変化材料層表面とを所定の間隔で離して配置することにより、酸素と水および光触媒作用により生じた活性酸素種が脱着しやすくなる。すなわち、上記範囲より光触媒含有層と細胞接着性変化材料層との間隔を狭くした場合は、上記活性酸素種の脱着がしにくくなり、結果的に細胞接着性変化速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくない。また、上記範囲より間隔を離して配置した場合は、生じた活性酸素種が細胞接着性変化材料層に届き難くなり、この場合も細胞接着性変化の速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくない。
【0173】
このような極めて狭い間隙を均一に形成して光触媒含有層と細胞接着性変化材料層とを配置する方法としては、例えばスペーサを用いる方法を挙げることができる。そして、このようにスペーサを用いることにより、均一な間隙を形成することができると共に、このスペーサが接触する部分は、光触媒の作用が細胞接着性変化材料層表面に及ばないことから、このスペーサを上述した細胞接着性変化パターンと同様のパターンを有するものとすることにより、細胞接着性変化材料層上に所定の細胞接着性変化パターンを形成することが可能となる。
【0174】
本実施態様においては、このような配置状態は、少なくともエネルギー照射の間だけ維持されればよい。
【0175】
ここで、照射されるエネルギーの種類や、照射方法等については、上述した第1実施態様における細胞接着性変化パターン形成工程の欄で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0176】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0177】
【実施例】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0178】
<実施例1>
イソプロピルアルコール3g、オルガノシランTSL8113(東芝シリコーン)0.4g、フルオロアルキルシランMF−160E(トーケムプロダクツ)0.04g、および光触媒無機コーティング剤ST−K01(石原産業)1.5gを混合し、攪拌しながら20分間、100℃で加温した。
【0179】
この溶液をスピンコーティング法により予めアルカリ処理を施したソーダガラス基材に塗布し、その基材を150℃の温度で10分間乾燥することにより、加水分解、重縮合反応を進行させ、光触媒がオルガノポリシロキサン中に強固に固定された膜厚0.2μmの光触媒含有細胞接着性変化層が形成されたパターン形成体用基材を得た。
【0180】
次に、このパターン形成体用基材上の光触媒含有細胞接着性変化層に対し、直径50μmの網点が50μm間隔で配置されたネガ型フォトマスクのパターン面を重ねて配置し、フォトマスク側から水銀ランプ(波長365nm)により300mW/cm2の照度で900秒間紫外線露光を行い、細胞接着性変化パターンを有する細胞培養基材を得た。
【0181】
次に、Lewis系4週齢雄性ラットの肋骨軟骨を摘出し5mm程度に細切した。その後0.1%エチレンジアミン四酢酸(ナカライテスク)(以下EDTA)/PBS(−)(ローマン工業)に37℃で20分間浸漬し、更に37℃で1時間、0.25%のトリプシン(ギブコ)を含む0.1%EDTA/PBSに浸漬した。このトリプシン処理軟骨片をPBSで3回洗浄し、37℃で3時間0.1%コラゲナーゼ(和光純薬工業)/PBS(+)に浸漬した後、PBSで洗浄し、軟骨細胞液を得た。
【0182】
続いて、使用する上記細胞培養基材は培養の前処理として、70%エタノール水溶液で洗浄し滅菌した後、PBSで3回洗浄した。
【0183】
次に、上記細胞培養基材の光触媒含有細胞接着性変化層面に前述の軟骨細胞液を播き、10%FBSを含むダルベッコ調整イーグル培地(ギブコ)(以下DMEM)中に基材を静置し1週間培養した。
【0184】
細胞培養後の細胞培養基材を光学顕微鏡で観察したところ、細胞培養基材の紫外線処理部にのみ軟骨細胞が接着、培養され、未処理部には細胞が接着、培養していない事を確認した。
【0185】
<実施例2>
予め5倍濃度DMEM10gと、再構成用緩衝液10gとを加えたCellmatrix Type I−C(新田ゼラチン)100ml、および光触媒無機コーティング剤ST−K01(石原産業)1.0gを4℃で冷却しながら20分攪拌混合した。
【0186】
次に、この溶液をスピンコーティング法により予めアルカリ処理を施したソーダガラス基材に塗布し、その基材を37℃の温度で10分間インキュベーション処理することにより、ゲル化を進行させた。更に基材を凍結乾燥処理する事により、光触媒がコラーゲン中に分散された膜厚0.2μmの光触媒含有細胞接着性変化層を有するパターン形成体用基材を得た。
【0187】
このパターン形成体用基材に対し実施例1と同様の方法で光触媒含有細胞接着性変化層のパターニングと細胞の播種、培養を行った。
【0188】
この結果、細胞培養後の細胞培養基材を光学顕微鏡で観察したところ、細胞培養基材の紫外線処理部にのみ軟骨細胞が接着、培養され、未処理部には細胞が接着、培養していない事を確認した。
【0189】
<実施例3>
実施例1と同様の手法で光触媒含有細胞接着性変化層を有するパターン形成体用基材を作成した。
【0190】
このパターン形成体用基材上の光触媒含有細胞接着性変化層面に対し、直径1000μmの単一スポットを持つネガ型フォトマスクのパターン面を重ね配置し、フォトマスク側から水銀ランプ(波長365nm)により300mW/cm2の照度で50秒間紫外線露光を行った。次にフォトマスクの位置をずらし、既に露光した部位とは異なる部位に対し、先と同様に300mW/cm2の照度でそれぞれ100秒間、600秒間の紫外線照射を行い、基材上に紫外線照射量の異なるスポットを3点作成し、細胞培養基材とした。
【0191】
この細胞培養基材に対し実施例1と同様の方法で細胞の播種、培養を行い、光学顕微鏡観察により細胞培養基材上の細胞数を計算盤にて確認したところ、照射時間100秒のスポットには細胞が接着せず、100秒のスポットには3.3×103個の細胞が、600秒のスポットには4.8×104個の細胞が、それぞれ露光パターンに即した形で接着、培養されている事が確認された。
【0192】
<実施例4>
まず、トリメトキシメチルシランTSL8113(GE東芝シリコーン)5gと0.5規定塩酸2.5gとを混合し、8時間攪拌した。これをイソプロピルアルコールにより10倍に希釈し、アンカー層用組成物とした。
【0193】
上記アンカー層用組成物を予めアルカリ処理を行ったソーダガラス基材上にスピンコーティング法により塗布し、その基材を150℃の温度で10分間乾燥することにより、アンカー層を有するソーダガラス基材を得た。
【0194】
次に、イソプロピルアルコール30gとトリメトキシメチルシランTSL8113(GE東芝シリコーン)3gと光触媒無機コーティング剤ST−K03(石原産業)20gとを混合し、100℃で20分間攪拌した。これをイソプロピルアルコールにより3倍希釈し、光触媒処理層用組成物とした。
【0195】
次にこの光触媒処理層用組成物を先のソーダガラス基材のアンカー層面にスピンコーティング法で塗布し、その基材を150℃の温度で10分間乾燥することにより、光触媒処理層を有するパターン形成体用基材を得た。
【0196】
次に、イソプロピルアルコール3g、オルガノシランTSL8113(東芝シリコーン)0.4g、およびフルオロアルキルシランMF−160E(トーケムプロダクツ)0.04gを混合し、攪拌しながら20分間、100℃で加温した。
【0197】
この溶液を先の基材の光触媒処理層面にスピンコーティング法により塗布し、その基材を150℃の温度で10分間乾燥することにより、加水分解、重縮合反応を進行させ、細胞接着性変化材料層および光触媒処理層を有するパターン形成体用基材を得た。
【0198】
このパターン形成体用基材に対し実施例1と同様の方法で基材のパターニングと細胞の播種、培養を行った。
【0199】
この結果、細胞培養後の細胞培養基材を光学顕微鏡で観察したところ、細胞培養基材の紫外線処理部にのみ軟骨細胞が接着、培養され、未処理部には細胞が接着、培養していない事を確認した。
【0200】
<実施例5>
イソプロピルアルコール3g、オルガノシランTSL8113(東芝シリコーン)0.4g、およびフルオロアルキルシランMF−160E(トーケムプロダクツ)0.04gを混合し、攪拌しながら20分間、100℃で加温した。
【0201】
次に、この溶液をスピンコーティング法により予めアルカリ処理を施したソーダガラス基材に塗布し、その基材を150℃の温度で10分間乾燥することにより、加水分解、重縮合反応を進行させ、膜厚0.2μmの細胞接着性変化材料層が形成されたパターン形成体用基材を得た。
【0202】
次にトリメトキシメチルシランTSL8113(GE東芝シリコーン)5gと0.5規定塩酸2.5gとを混合し、8時間攪拌した。これをイソプロピルアルコールにより10倍に希釈し、アンカー層用組成物とした。
【0203】
上記アンカー層用組成物を直径50μmの網点が50μm間隔で配置されたネガ型フォトマスクのパターン面上にスピンコーティング法により塗布し、その基材を150℃の温度で10分間乾燥することにより、アンカー層を有するフォトマスクを得た。
【0204】
次に、イソプロピルアルコール30gとトリメトキシメチルシランTSL8113(GE東芝シリコーン)3gと光触媒無機コーティング剤ST−K03(石原産業)20gとを混合し、100℃で20分間攪拌した。これをイソプロピルアルコールにより3倍希釈し、光触媒含有層用組成物とした。
【0205】
前記光触媒含有層用組成物を、アンカー層が形成されたフォトマスク基材上にスピンコーターにより塗布し、150℃で10分間の乾燥処理を行うことにより、透明な光触媒含有層を有するフォトマスクを形成した。
【0206】
前記フォトマスクの光触媒含有層面と前記基材の細胞接着性変化材料層面とを10μmの間隙で配置し、フォトマスク側から水銀ランプ(波長365nm)により300mW/cm2の照度で900秒間紫外線露光を行い、細胞接着性変化パターンを有する細胞培養基材を得た。
【0207】
続いて、この細胞培養基材に対し実施例1と同様の方法で細胞の播種、培養を行った。
【0208】
この結果、細胞培養後の細胞培養基材を光学顕微鏡で観察したところ、細胞培養基材の紫外線処理部にのみ軟骨細胞が接着、培養され、未処理部には細胞が接着、培養していない事を確認した。
【0209】
【発明の効果】
本発明によればエネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を有する細胞接着性変化層を有するものであるので、エネルギーをパターン状に照射することにより、容易に細胞接着性変化層表面に、高精細な細胞接着性の良好な領域と悪い領域とのパターンである細胞接着性変化パターンを形成することができるといった効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の細胞培養基材の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の細胞培養基材の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図3】本発明の細胞培養基材の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図4】本発明における光触媒含有層側基板の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明における光触媒含有層側基板の他の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明における光触媒含有層側基板の他の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
1 … 基材
2 … 光触媒含有細胞接着性変化層
3 … パターン形成体用基材
4 … フォトマスク
5 … エネルギー
6 … 細胞接着性変化パターン
Claims (8)
- 基材と、前記基材上に形成され、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を有する細胞接着性変化層とを有し、前記細胞接着性変化層には、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンが形成されていることを特徴とする細胞培養基材。
- 前記細胞接着性変化層が、光触媒と前記細胞接着性変化材料とを有する光触媒含有細胞接着性変化層であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養基材。
- 前記細胞接着性変化層が、光触媒を有する光触媒処理層と、前記光触媒処理層上に形成され、前記細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層とを有することを特徴とする請求項1に記載の細胞培養基材。
- 前記細胞接着性変化層が、前記細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層であり、前記細胞接着性変化パターンが、光触媒を含有する光触媒含有層と前記細胞接着性変化材料層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギーを照射することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養基材。
- 前記細胞接着性変化パターンは、表面の細胞接着性が少なくとも3水準以上異なる領域を有する細胞接着性変化パターンであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の細胞培養基材。
- 基材と、前記基材上に形成され、かつ光触媒およびエネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する光触媒含有細胞接着性変化層とを有するパターン形成体用基材を形成するパターン形成体用基材形成工程と、
前記光触媒含有細胞接着性変化層にエネルギーを照射し、前記光触媒含有細胞接着性変化層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する細胞接着性変化パターン形成工程と
を有することを特徴とする細胞培養基材の製造方法。 - 基材と、前記基材上に形成された光触媒を含有する光触媒処理層と、前記光触媒処理層上に形成され、かつエネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層とを有するパターン形成体用基材を形成するパターン形成体用基材形成工程と、
前記細胞接着性変化材料層にエネルギーを照射し、前記細胞接着性変化材料層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する細胞接着性変化パターン形成工程と
を有することを特徴とする細胞培養基材の製造方法。 - 基材と、前記基材上に形成され、エネルギーの照射に伴う光触媒の作用により細胞の接着性が変化する細胞接着性変化材料を含有する細胞接着性変化材料層とを有するパターン形成体用基材を形成するパターン形成体用基材形成工程と、
前記パターン形成体用基材と、光触媒を含有する光触媒含有層および基体を有する光触媒含有層側基板とを、前記細胞接着性変化材料層と前記光触媒含有層とが対向するように配置した後、所定の方向からエネルギー照射し、前記細胞接着性変化材料層の、細胞の接着性が変化した細胞接着性変化パターンを形成する細胞接着性変化パターン形成工程と
を有することを特徴とする細胞培養基材の製造方法。
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