JP2004339986A - ポンプの軸受装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】液体酸素や液体水素の昇圧ポンプの軸受の振動を効果的に抑制する。
【解決手段】ポンプの回転軸1を支持するころがり軸受2の外輪の外側、または、外輪を支持する環状のスリーブ11の外側に狭い環状の隙間Cを形成し、該隙間Cにポンプ出口側7から導入した高圧の液体を流すようにした。上記隙間Cに入口と出口で大きな差圧ΔPを有する流体膜12を形成して、流体膜12の作用で大きな減衰係数を得て、効果的に振動を抑制する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロケットエンジンなどに使用する流体水素や液体酸素の昇圧用ポンプの軸受装置に係り、特に軸振動低減のために軸受剛性を調整することのできる軸受装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ロケットエンジンの燃焼器に推進薬として液体水素や液体酸素を昇圧して送るターボポンプは、10,000〜100,000rpmの高速で回転しており、軸の振動を抑制することが必要である。
【0003】
図2(A)はポンプの回転軸を玉軸受で支持した状態を示す概念図であり、1は回転軸、2は玉軸受、3はハウジング、4はインペラである。
【0004】
図2(B)は減衰係数を大きくするため、玉軸受の外側に機械ダンパを取り付けた状態を示す概念図であり、5は機械ダンパである。機械ダンパ5は、薄い板を重ねたり、金網を挟み込んだりしてなるもので、摩擦力などによって振動を減衰させるものである。また、機械ダンパ5に替えて、流体膜ダンパを玉軸受の外側に形成したものが特許文献1に開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−44723号公報(第2〜3頁、図1)
【0006】
図2(C)は軸受そのものの減衰係数を上げるために流体軸受を使用した例を示す概念図であり、6は流体軸受である。流体軸受6で支持された回転軸の振動の減衰を目的とした減衰軸受の例としては、たとえば、特許文献2や特許文献3がある。
【0007】
【特許文献2】
特開平5−44722号公報(第3〜4頁、図1)
【特許文献3】
特開2000−145768号公報(第2〜3頁、図1)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
回転機械の回転軸の振動は、回転軸を支持する軸受のバネ定数や減衰係数によるところが多い。一般に減衰係数の大きい軸受を使用する方が、軸受振動の振幅は小さくなる。しかしながら、図2(A)に示す、玉軸受のような機械軸受では、その大きさによってバネ定数や減衰係数が決まってしまうので、軸受の振動を抑制するためには減衰係数を大きくする機構を付加することが必要である。
【0009】
その1例として、図2(B)に示すような機械ダンパは、構造は簡単であるが振動の減衰のため主に摩擦力を利用するものであるため、スティック・スリップ現象を伴ない、十分な性能を得られない場合がある。また、特許文献1に開示された技術は、電気粘性流体や液晶を使用し、それらに印加する電界の強度を変化させて流体の粘性を制御することにより回転軸の振動を低減させるものであるが、構造が複雑であり、使用する流体が高価であるなどの問題がある。
【0010】
さらに、図2(C)に図示された技術または特許文献2、特許文献3に開示された技術は、減衰作用のある流体軸受に関する技術であるが、流体軸受は流体の粘度に依存するものであるため、必ずしもあらゆる温度条件に適用することができない場合もあるし、振動が大きくなるとメタルコンタクトを惹き起し、軸受としての性能が低下してしまうなどの問題がある。
【0011】
本発明は、従来技術のかかる問題点に鑑み案出されたもので、非特許文献1に開示された気体軸受に関する技術を機械軸受の液体ダンパに応用することにより、簡単な構造でありながら、軸受剛性と減衰係数を調節することができるポンプの軸受装置を提供することを目的とする。
【0012】
【非特許文献1】
十合 晋一著、「気体軸受設計ガイドブック」、共立出版株式会社、2002年1月10日発行、 P25〜27
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本願請求項1記載発明のポンプの軸受装置は、ポンプの回転軸を支持するころがり軸受の外輪の外側または外輪を支持する環状のスリーブの外側に狭い環状の隙間を形成し、該隙間にポンプ出口側から導入した高圧の液体を流すようにしたものである。
【0014】
ポンプの出口側から上記隙間までの流体流路の途中に流量調節用のオリフィスを設けるのが好ましい。
【0015】
ポンプで流送される液体は、液体水素や液体酸素などの液化ガスであってもよい。
【0016】
上記隙間の寸法は、10〜1000μmであり、上記隙間に流入する液体の圧力は、その液化ガスの三重点圧力〜40MPaであるのが好ましい。なお、三重点とは、圧力と温度を縦軸と横軸にとった状態図において、気体と液体、気体と固体、液体と固体の各境界線が重なり合った交点のことであり、気体、液体、固体が共存する状態である。たとえば、液体酸素の三重点は54.359K、100Pa、液体水素の三重点は13.96K、7200Paである。
【0017】
次に本発明の作用を説明する。玉軸受など機械軸受の外輪の外側、または、機械軸受を支持する円環状のスリーブの外側に狭い環状の隙間を形成し、その隙間に高圧の流体を供給する。該隙間に高圧液体による流体膜がある場合、この部分は擬似的な構造部材として働き、流体膜固有のバネ定数と減衰係数を有している。流体膜部分のバネの定数をK、減衰係数をc、機械軸受部分のバネ定数をK’、減衰係数をc’とすると、それを直列に配置した場合の合成された軸受部の特性は、合成バネ定数をK、合成減衰係数をcとするとそれぞれ、
K=K’K/(K’+K) (1)
c=c’+c(2)
となる。
【0018】
したがって、Kが大きい程、KはK’に近づくし、cは単純に増加する。
【0019】
一方、バネの定数K供給圧力と下流側の圧力との差圧をΔP、隙間の寸法をcとすると
∝√(ΔP)/C (3)
となり、
流体膜の減衰係数c
∝√(ΔP)/C (4)
となる。
【0020】
したがって、小さな寸法Cの隙間に大きな差圧ΔPの流体膜を生成すると、合成バネ定数は機械軸受のバネ定数K’と同じであって変化せず、合成減衰係数だけを大きくすることができる。また、これによりバネ定数に対する減衰係数の割合、すなわち、c/Kが機械軸受のみの場合よりも大きくなり、より高い減衰効果が得られる。したがって、回転軸の振動を低減することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本発明のポンプの軸受装置の概念図であり、図1(A)は1つの実施形態を示す断面図であり、図1(B)は他の実施形態を示す断面図である。なお、これらの図において、図2を用いて説明した従来技術と共通する部分には同一の符号を付している。
【0022】
図1(A)において、1はポンプの回転軸、2は玉軸受、3はハウジング、4はインペラである。7はポンプ出口である。11は玉軸受2の外輪に外嵌され、玉軸受2を支持するスリーブである。スリーブ11はハウジング3にボルト等で固定されていてもよいし、固定されていなくてもよい。スリーブ11とハウジング3の内面との間には隙間Cが形成されている。ポンプ出口7と隙間Cとは液体流路8で連通しており、液体流路8の途中には流量調節用のオリフィス9が設けられている。10はハウジング3の内面に形成された環状の溝であり、該溝10の底部に液体流路8が連結されている。
【0023】
次に本実施形態の作用を説明する。玉軸受2を支持するスリーブ11の外側に形成された隙間Cとポンプ出口7との間は液体流路8で連結されており、ポンプ出口7から隙間Cに高圧の流体が流れる。ハウジング3には液体流路8と隙間Cに連通する環状の溝10が形成されているので、隙間Cには全周に一様な流れが生じ、隙間Cに高圧の液体による流体膜12が形成される。流体膜12の入口側(溝10)と出口側(スリーブ11の両端)の間には大きな差圧ΔPが生じている。
【0024】
オリフィス9および隙間Cの寸法を適当に選ぶことにより、ΔPの大きさを調節することができる。流体膜12は、擬似的な構造部材として働き、固有のバネ定数Kと減衰係数cを有している。機械軸受(玉軸受2)と流体膜12とは直列に配置されているので、機械軸受のバネ定数と減衰係数とを、それぞれK’とc’とすると、合成されたバネ係数Kと減衰係数cとは先に述べたが、数1に示す4つの式で与えられる。
【0025】
【数1】
Figure 2004339986
【0026】
数1の式(1)、(2)からわかるように、Kが大きい程KはK’に近づく。また、cは単純に増加する。さらに、小さな寸法の隙間Cに大きな差圧ΔPの流体膜12を生成すると、合成されたバネ定数Kは、機械軸受(玉軸受2)のバネ定数K’と同じであって変化せず、減衰係数cだけを大きくすることができる。また、これによりバネ定数Kに対する減衰係数cの割合、すなわち、c/Kが機械軸受のみの場合よりも大きくなり、より高い減衰効果が得られる。したがって、回転軸1の振動を低減することができる。
【0027】
数1の式(1)と(2)は、バネとダンパを直列に連結した場合の普通の式なので、説明を省略し、式(3)と(4)について導き方を説明する。非特許文献1のP26〜27に示される(2.38)、(2.39)より数2に示す2つの式が得られる。
【0028】
【数2】
Figure 2004339986
【0029】
ここで、M=Min−Mout、Min=Moutであり、流体膜12の流れは層流で、隙間Cは全て液体により満たされていると考える。また、流体がn個の孔から、圧力Psで供給される場合を考えると、数3が得られる。
【0030】
【数3】
Figure 2004339986
【0031】
また、円環状の流体膜12部を流れる流量は、数4で与えられる。
【0032】
【数4】
Figure 2004339986
【0033】
そして、M=Min−Moutに数3および数4の式を代入すると、α、β、θ、φ、s、qの特性は数5で与えられる。
【0034】
【数5】
Figure 2004339986
【0035】
以上より合成されたバネ定数Kと合成された減衰係数cの特性は、数6で与えられることがわかる。
【0036】
【数6】
Figure 2004339986
【0037】
【変形例】
図1(B)は本発明の他の実施形態(変形例)を示す図である。図1(B)が図1(A)と異なる点は、図1(A)にはスリーブ11があるのに対し、図1(B)にはスリーブ11がなく、隙間Cは玉軸受2の外輪の外側に直接形成されていることである。スリーブ11があれば、圧力のかかる面積が大きくなるので、流体膜12によって受けられる荷重を大きくとることができる。一方、スリーブ11がない場合、圧力のかかる面積が小さいので、流体膜によって受けられる荷重が小さくなるが、程度の問題であって、同様の効果が得られるし、構造が簡単になる。なお、軸受2の外輪には何らかの回り止めがあった方がよい。
【0038】
本発明は、以上述べた2つの実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。たとえば、隙間Cと液体流路8との間に円環状の溝10を介在させるようにした方が、溝10に替えて全周に亘って適当な間隔で穿設した多数の小孔を設け、該小孔に図示しないヘッダを介して液体流路8を接続してもよい。また、軸受は玉軸受でなくローラー軸受などでもよい。
【0039】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明のポンプの軸受装置は、ころがり軸受の外輪の外側に狭い隙間を形成し、その隙間にポンプで昇圧された高圧の液体の一部を導入するようにしたので、簡単な構造でありながら、ころがり軸受のバネ定数を変化させずに減衰係数を大きくすることができて、軸の振動を効果的に抑制することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のポンプの軸受装置の概念図である。
【図2】従来のポンプの軸受装置の概念図である。
【符号の説明】
1 回転軸
2 玉軸受(ころがり軸受)
7 ポンプ出口
8 液体流路
9 オリフィス
隙間

Claims (4)

  1. ポンプの回転軸を支持するころがり軸受の外輪の外側、または、外輪を支持する環状のスリーブの外側に狭い環状の隙間を形成し、該隙間にポンプ出口側から導入した高圧の液体を流すようにしたことを特徴とするポンプの軸受装置。
  2. ポンプの出口側から上記隙間までの流体流路の途中に流量調節用のオリフィスを設けた請求項1記載のポンプの軸受装置。
  3. ポンプで流送される液体は、液体水素や液体酸素などの液化ガスである請求項1または請求項2記載のポンプの軸受装置。
  4. 上記隙間の寸法は、10〜1000μmであり、上記隙間に流入する液体の圧力は、その液化ガスの三重点〜40MPaである請求項1ないし請求項2記載のポンプの軸受装置。
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