JP2004338186A - 平版印刷版用支持体および平版印刷版原版 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】酸またはアルカリ処理した金属基板表面上に、金属酸化物の粒子が金属原子とリン原子を含む化合物によって結着してなる多孔質層を有する平版印刷版用支持体。
【選択図】なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、平版印刷版用支持体および平版印刷版原版に関し、特に断熱性が高い多孔質層を有し、デジタル信号に基づいた走査露光による製版が可能であり、耐キズ性、優れた感度、耐汚れ性および耐刷性を有し、かつ多孔質層と基板との密着性に優れるので耐摩耗性に優れる平版印刷版用支持体および平版印刷版原版に関する。
【0002】
【従来の技術】
平版印刷の分野において、平版印刷版を作製するための平版印刷版原版に用いられる平版印刷版用支持体の基体として金属基板が広く使用されている。中でも、アルミニウムは、酸性溶液中で陽極にして直流電気を流されることにより酸化皮膜を生成させることが知られており、一般にアルマイト処理として知られている処理が可能な上、軽量、安価という様々の利点を有する。アルミニウム表面にアルマイト処理を行うと、アルミナ酸化皮膜は金属アルミニウムに比べ、耐酸性や硬度が高い上に、皮膜構造にポアと呼ばれる細孔が規則的に多数生成し、BET法(気体吸着法)による表面積が大幅に増大するので、該アルマイト処理は、平版印刷版用支持体における親水性を向上でき、また塗膜を形成する際の密着力を向上できる等の改良が可能であり、これにより、平版印刷版としたときの優れた耐汚れ性(本発明において、「汚れにくさ」をいう。)および耐刷性を両立できるという利点を有する。
【0003】
また、近年、近赤外〜赤外線領域による露光で画像形成が可能で、特に該領域に発光領域を有するレーザを用いて光照射の際に発生する発熱を利用して、画像を記録することによりコンピュータ等のデジタルデータから直接製版が可能な、いわゆるヒートモード型CTP用平版印刷版用原版(以下単に、「ヒートモード型平版印刷版原版」ともいう。)が注目されている。
この平版印刷版原版においては、描画用の照射レーザ光を感光層中に含まれる光熱変換材料等により熱に変換し、発生した熱で現像液に対する感光層の溶解性を変えたり、感光層を熱分解もしくは、急激な加熱により爆発的膨張除去(アブレーション)したりする。これらのヒートモード型平版印刷版用原版の支持体として、アルミニウム等の金属基板を使用すると、該金属基板の熱伝導率が高いため、上記発生した熱が急速に支持体側に放熱されてしまって該発生した熱をロスし、平版印刷版原版の感度が低下する原因の一つになっている。逆に言えば、平版印刷版用支持体表面の断熱性を向上させ、感光層中で発生した熱の放熱現象を最小限に抑えることができれば、平版印刷版原版の感度が向上することが可能となると予想される。
【0004】
一方で、PET等、熱伝導率が低い有機素材を支持体にして、高感度化させる手法も試みられているが、金属素材に比べ、親水性が低く、印刷中に水分を吸湿して寸法精度が悪化するので、カラー印刷、高精細印刷等の高度な印刷には使用できないのが現状である。
したがって、ヒートモード型平版印刷版原版に用いる支持体として、金属基板の各種表面処理の簡便さや、親水性、寸法精度安定性等優れた点を活かしながら、金属基板の高い熱伝導率に起因する低断熱性を改善することが求められている。
【0005】
一方、平版印刷版用支持体上に形成される陽極酸化被膜は、熱伝導率が低い被膜であるが、これに代わる被膜として、例えば、アルミナ粒子を含有する親水性層を有し、該親水性層をケイ酸を含む液で処理してなることを特徴とする平版印刷版用親水性層が提案されている(特許文献1参照)。また、少なくとも無機非金属粒子と一塩基性リン酸塩を含むスラリーをアルミニウム表面を有する基板上に塗布し、少なくとも230℃以上の温度で十分脱水乾燥させて親水性セラミック層を形成させる工程と、該親水性セラミック層上に有機感光性層を形成させる工程とを含む感光性物質の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
しかし、上記平版印刷版用親水性層は、アルミナゾルの自己造膜性を利用して形成される層でありやはり皮膜強度が弱い。そのため、該親水性層およびそれを設けた平版印刷版用支持体は耐キズ性に劣り、また、平版印刷版としたときの耐刷性にも劣る場合がある。一方、上記親水性セラミック層を設けた平版印刷版は、十分満足できる耐汚れ性が得られない場合がある。また、上記親水性セラミック層は、230℃を超える高温での乾燥工程を行うものであり、このような高温乾燥を可能にする乾燥設備は一般に高価である。さらには、あまりに高温(例えば、260℃以上)で乾燥すると、該親水性セラミック層が設けられるアルミニウム板が軟化して、アルミニウム板が有する優れた寸法精度安定性等を損い、特に印刷時に版伸びを起こし該基板と画像とがずれてしまうという不具合を起こす場合がある。
【0007】
【特許文献1】
特開2000−169758号公報
【特許文献2】
米国特許第4,542,089号明細書
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記技術の欠点を克服し、特定の断熱性の高い多孔質層で、耐キズ性を持つ皮膜を有し、平版印刷版原板としたときの感度、および、平版印刷版としたときの耐汚れ性と耐刷性のいずれにも優れ、かつ多孔質層と基板との密着性に優れるので耐摩耗性に優れる平版印刷版用支持体ならびにこれを用いる平版印刷版原版を提供することを目的とする。
本発明において、感度とあるのは、平版印刷版原版としたときの感度であり、耐汚れ性および耐刷性とあるのは、平版印刷版としたときの耐汚れ性および耐刷性である。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討の結果、基板上に、金属酸化物の粒子を金属原子とリン原子を含む化合物によって結着させると、好適量の空気をとり込んだ多孔質層を形成でき該多孔質層が優れた断熱性および強い皮膜強度を有することを知見し、また、金属基板に特定の前処理をすると多孔質層と基板との密着性が向上し耐摩耗性に優れる平版印刷版用支持体が得られ、感度、優れた耐汚れ性および耐刷性を発揮することを知見した。
即ち、本発明は、上記知見を基になされたものであり、以下の(1)〜(10)を提供する。
【0010】
(1)酸またはアルカリ処理した金属基板表面上に、金属酸化物の粒子が金属原子とリン原子を含む化合物によって結着してなる多孔質層を有する平版印刷版用支持体。
(2)金属基板表面を酸またはアルカリ処理し、その上に金属酸化物の粒子が金属原子とリン原子を含む化合物によって結着してなる多孔質層を設けることを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。
【0011】
(3)酸またはアルカリ処理、および・または陽極酸化処理した金属基板表面上に、金属酸化物の粒子が金属原子とリン原子を含む化合物によって結着してなる多孔質層を有する平版印刷版用支持体。
(4)金属基板表面を予め酸またはアルカリ処理、および・または陽極酸化処理を施し、その上に金属酸化物の粒子が金属原子とリン原子を含む化合物によって結着してなる多孔質層を設けることを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。
【0012】
(5)前記金属酸化物が、ケイ素、マグネシウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選択される少なくとも1種以上の金属の酸化物または複合酸化物である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体またはその製造方法。
(6)前記多孔質層の上に、さらに封孔層を設けることを特徴とする上記(2)、(4)、(5)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【0013】
(7)前記多孔質層の上に、さらに封孔層を有する上記(1)、(3)、(5)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体。
(8)前記多孔質層の空隙率が20%以上であり、および・または前記封孔層の空隙率が該多孔質層の空隙率以下である上記(1)または(7)に記載の平版印刷版用支持体またはその製造方法。
【0014】
(9)前記多孔質層の膜厚が0.5〜20μmであり、および・または前記封孔層の膜厚が0.01〜0.5μmである上記(1)〜(8)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体またはその製造方法。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体またはその製造方法によって得られる支持体上に、画像記録層を有する平版印刷版原版。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の平版印刷版用支持体および平版印刷版原版について、詳細に説明する。
【0016】
[平版印刷版用支持体]
前処理
本発明の平版印刷版用支持体は、後述する基板上に、以下で説明する<酸またはアルカリ処理>および・または<陽極酸化処理>の前処理が行われる。それぞれの処理は複数回行ってもよいし、任意の組合せで行ってもよい。
この前処理を行うことにより本発明の平版印刷版用支持体は、後に説明する多孔質層と基板との密着性に優れるので、多孔質層の特性を有効に活用することができ、さらに耐摩耗性に優れる。
また本発明の前処理の前に、必要な場合は予め金属基板をアルコールやメチルエチルケトン等の溶媒で表面の防錆油を除去する脱脂処理を行ってもよい。
【0017】
<酸またはアルカリ処理>
(アルカリ処理)
アルカリ処理は、金属基板をアルカリ溶液に接触させることにより、表層を溶解する処理である。
【0018】
金属基板の表層には、自然酸化被膜等が存在するのでそれらを溶解させ、上層に設けられる多孔質層との密着性を改善する目的で行われる。
【0019】
アルカリ溶解量の範囲は、好ましくは0.5〜10g/m2、更に好ましくは1〜5g/m2、特に好ましくは1〜3g/m2である。
溶解量が少なすぎると、基板と多孔質層との間の密着性が改善できない場合がある。また、印刷時に汚れが劣化する場合がある。一方、溶解量が20g/m2 を超えると、経済的でない場合がある。
【0020】
アルカリ溶液に用いられるアルカリとしては、例えば、カセイアルカリ、アルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、カセイアルカリとしては、例えば、カセイソーダ、カセイカリが挙げられる。また、アルカリ金属塩としては、例えば、メタケイ酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、メタケイ酸カリ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩;炭酸ソーダ、炭酸カリ等のアルカリ金属炭酸塩;アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ等のアルカリ金属アルミン酸塩;グルコン酸ソーダ、グルコン酸カリ等のアルカリ金属アルドン酸塩;第二リン酸ソーダ、第二リン酸カリ、第三リン酸ソーダ、第三リン酸カリ等のアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。中でも、エッチング速度が速い点および安価である点から、カセイアルカリの溶液、および、カセイアルカリとアルカリ金属アルミン酸塩との両者を含有する溶液が好ましい。特に、カセイソーダの水溶液が好ましい。
【0021】
アルカリ溶液の濃度は、金属基板で必要な溶解量に応じて決定することができるが、1〜50質量%であるのが好ましく、10〜35質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液中にアルミニウムイオン等の金属基板イオンが溶解している場合には、イオンの濃度は、0.01〜10質量%であるのが好ましく、3〜8質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液の温度は20〜90℃であるのが好ましい。処理時間は1〜20秒であるのが好ましい。
【0022】
アルミニウム板等の金属基板をアルカリ溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム板をアルカリ溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム板をアルカリ溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、アルカリ溶液をアルミニウム板の表面に噴きかける方法が挙げられる。
【0023】
(酸処理)
金属基板表面にある自然酸化被膜や汚れを除去するために酸処理(酸洗い処理)され、上層に設けられる多孔質層との密着性が改善される。上記のアルカリ処理と酸処理をそれぞれ単独で行ってもよいし、組合せて行ってもよい。各処理を複数回行ってもよいし、任意の組合せで行ってもよい。
用いられる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸が挙げられる。
上記酸処理は、例えば、アルミニウム板等の金属基板を塩酸、硝酸、硫酸等の濃度0.5〜30質量%の酸性溶液(アルミニウムイオン等の金属イオン0.01〜5質量%を含有する。)に接触させることにより行う。アルミニウム板を酸性溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム板を酸性溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム板を酸性溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、酸性溶液をアルミニウム板の表面に噴きかける方法が挙げられる。
酸処理においては、酸性溶液として、公知の電解粗面化処理において排出される硝酸を含有する水溶液もしくは塩酸を含有する水溶液の廃液、または、後述する陽極酸化処理において排出される硫酸を含有する水溶液の廃液を用いることができる。
酸処理の液温は、50〜90℃であるのが好ましい。また、処理時間は、1〜180秒であるのが好ましく、2〜30秒であるのがより好ましい。酸処理に用いられる酸性溶液には、アルミニウムおよびアルミニウム合金等の金属基板成分が溶け込んでいてもよい。
【0024】
<陽極酸化処理>
本発明に用いるアルミニウム板等の金属基板の前処理は、<酸またはアルカリ処理>単独でもよく、以下に説明する<陽極酸化処理>を単独で行っても良好な密着性( 耐刷性、耐傷性)を持つ平版印刷版用支持体が得られる。各処理は複数回行ってもよく、両方を組合せて行ってもよい。陽極酸化被膜によって形成されるアルミナが後述する多孔質層中のリン成分と反応して密着性が高まると考えられる。陽極酸化処理はこの分野で従来行われている方法で行うことができる。この場合、例えば、硫酸濃度50〜300g/Lで、アルミニウム濃度5質量%以下の溶液中で、アルミニウム板を陽極として通電して陽極酸化皮膜を形成させることができる。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
この際、少なくともアルミニウム等の金属板、電極、水道水、地下水等に通常含まれる成分が電解液中に含まれていても構わない。更には、第2、第3の成分が添加されていても構わない。ここでいう第2、第3の成分としては、例えば、Na、K、Mg、Li、Ca、Ti、Al、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の金属のイオン;アンモニウムイオン等の陽イオン;硝酸イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、亜硫酸イオン、チタン酸イオン、ケイ酸イオン、ホウ酸イオン等の陰イオンが挙げられ、0〜10000ppm程度の濃度で含まれていてもよい。
【0026】
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.5〜60A/dm2 、電圧1〜100V、電解時間1秒〜50分であるのが適当であり、所望の陽極酸化皮膜量となるように調整される。
【0027】
また、特開昭54−81133号、特開昭57−47894号、特開昭57−51289号、特開昭57−51290号、特開昭57−54300号、特開昭57−136596号、特開昭58−107498号、特開昭60−200256号、特開昭62−136596号、特開昭63−176494号、特開平4−176897号、特開平4−280997号、特開平6−207299号、特開平5−24377号、特開平5−32083号、特開平5−125597号、特開平5−195291号の各公報等に記載されている方法を使用することもできる。
【0028】
中でも、特開昭54−12853号公報および特開昭48−45303号公報に記載されているように、電解液として硫酸溶液を用いるのが好ましい。電解液中の硫酸濃度は、10〜300g/L(1〜30質量%)であるのが好ましく、50〜200g/L(5〜20質量%)であるのがより好ましく、また、アルミニウムイオン濃度は、1〜25g/L(0.1〜2.5質量%)であるのが好ましく、2〜10g/L(0.2〜1質量%)であるのがより好ましい。このような電解液は、例えば、硫酸濃度が50〜200g/Lである希硫酸に硫酸アルミニウム等を添加することにより調製することができる。
電解液の液温は、25〜55℃であるのが好ましく、30〜50であるのがより好ましい。
【0029】
硫酸を含有する電解液中で陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム板と対極との間に直流を印加してもよく、交流を印加してもよい。
アルミニウム板に直流を印加する場合においては、電流密度は、1〜60A/dm2 であるのが好ましく、3〜40A/dm2 であるのがより好ましい。
連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム板の一部に電流が集中していわゆる「焼け」が生じないように、陽極酸化処理の開始当初は、5〜10A/m2 の低電流密度で電流を流し、陽極酸化処理が進行するにつれ、30〜50A/dm2 またはそれ以上に電流密度を増加させるのが好ましい。
連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム板に、電解液を介して給電する液給電方式により行うのが好ましい。
このような条件で陽極酸化処理を行うことによりポア(マイクロポア)と呼ばれる孔を多数有する多孔質皮膜が得られるが、通常、その平均ポア径は5〜50nm程度であり、平均ポア密度は300〜800個/μm2 程度である。
【0030】
陽極酸化皮膜の量は0.3〜15μmであるのが好ましい。1g/m2 未満であると版に傷が入りやすくなり、一方、5g/m2 を超えると製造に多大な電力が必要となり、経済的に不利となる。陽極酸化皮膜の量は、1.5〜4g/m2 であるのがより好ましい。また、アルミニウム板の中央部と縁部近傍との間の陽極酸化皮膜量の差が1g/m2 以下になるように行うのが好ましい。
【0031】
陽極酸化処理に用いられる電解装置としては、特開昭48−26638号、特開昭47−18739号、特公昭58−24517号、特開2001−11698号の各公報等に記載されているものを用いることができる。
中でも、図1に示す装置が好適に用いられる。図1は、アルミニウム板の表面を陽極酸化処理する装置の一例を示す概略図である。
【0032】
図1に示される陽極酸化処理装置410では、アルミニウム板416に電解液を経由して通電するために、アルミニウム板416の進行方向の上流側に給電槽412、下流側に陽極酸化処理槽414を設置してある。アルミニウム板416は、パスローラ422および428により、図1中矢印で示すように搬送される。アルミニウム板416が最初に導入される給電槽412においては、直流電源434の正極に接続された陽極420が設置されており、アルミニウム板416は陰極となる。したがって、アルミニウム板416においてはカソード反応が起こる。
【0033】
アルミニウム板416が引き続き導入される陽極酸化処理槽414においては、直流電源434の負極に接続された陰極430が設置されており、アルミニウム板416は陽極となる。したがって、アルミニウム板416においてはアノード反応が起こり、アルミニウム板416の表面に陽極酸化皮膜が形成される。
アルミニウム板416と陰極430の間隔は50〜200mmであるのが好ましい。陰極430としてはアルミニウムが用いられる。陰極430としては、アノード反応により発生する水素ガスが系から抜けやすくなるようにするために、広い面積を有する電極でなく、アルミニウム板416の進行方向に複数個に分割した電極であるのが好ましい。
【0034】
給電槽412と陽極酸化処理槽414との間には、図1に示されるように、中間槽413と呼ばれる電解液が溜まらない槽を設けるのが好ましい。中間槽413を設けることにより、電流がアルミニウム板416を経由せず陽極420から陰極430にバイパスすることを抑止することができる。中間槽413にはニップローラ424を設置して液切りを行うことにより、バイパス電流を極力少なくするようにするのが好ましい。液切りにより出た電解液は、排液口442から陽極酸化処理装置410の外に排出される。
【0035】
給電槽412に貯留される電解液418は、電圧ロスを少なくするために、陽極酸化処理槽414に貯留される電解液426よりも高温および/または高濃度とする。また、電解液418および426は、陽極酸化皮膜の形成効率、陽極酸化皮膜のマイクロポアの形状、陽極酸化皮膜の硬さ、電圧、電解液のコスト等から、組成、温度等が決定される。
【0036】
給電槽412および陽極酸化処理槽414には、給液ノズル436および438から電解液を噴出させて給液する。電解液の分布を一定にし、陽極酸化処理槽414でのアルミニウム板416の局所的な電流集中を防ぐ目的で、給液ノズル436および438にはスリットが設けられ、噴出する液流を幅方向で一定にする構造となっている。
【0037】
陽極酸化処理槽414においては、陽極430からみてアルミニウム板416を挟んだ反対側にはしゃへい板440が設けられ、電流がアルミニウム板416の陽極酸化皮膜を形成させたい面の反対側に流れるのを抑止する。アルミニウム板416としゃへい板440の間隔は5〜30mmであるのが好ましい。直流電源434は複数個用いて、正極側を共通に接続して用いるのが好ましい。これによって、陽極酸化処理槽414中の電流分布を制御することができる。
【0038】
陽極酸化皮膜は、それ自体の熱伝導率が低いので平版印刷版用支持体の熱伝導率をさらに下げることができるとともに金属基板と多孔質層との密着性も向上させることができる。さらに必要な場合は、陽極酸化皮膜の膜厚を厚くしたり、陽極酸化皮膜形成後酸水溶液やアルカリ水溶液に浸漬して、該皮膜中に存在するポアの径を拡大し、該皮膜の空隙率を上げてもよい。
【0039】
<多孔質層>
本発明の平版印刷版用支持体は、上記の前処理後の基板上に、金属酸化物の粒子が金属原子とリン原子を含む化合物によって結着してなる多孔質層(以下、「本発明の多孔質層」という。)を有する平版印刷版用支持体である。
【0040】
基板上に設けられる本発明の多孔質層は、多数の金属酸化物の粒子が、金属原子とリン原子を含む化合物を介して結着してなる層であり、個々の金属酸化物の粒子の表面を部分的に、好ましくは全体的に該金属原子とリン原子を含む化合物が覆い、該金属原子とリン原子を含む化合物が固化し、これに覆われた複数の金属酸化物の粒子が凝集した状態で、該金属原子とリン原子を含む化合物を介して結着してなる層であると考えられる。
該結着された複数の粒子間には空隙部分が形成され、この空隙は空気をとり込むことができ、該多孔質層の空隙率が高くなって断熱性が向上する。また、該金属原子とリン原子を含む化合物等を介して結着しているため、該多孔質層は皮膜強度が強く耐キズ性に優れ、耐刷性にも優れる。
【0041】
該多孔質層を形成する結着された金属酸化物の粒子は、後述する金属酸化物の(表面の)一部がリン酸系化合物と反応して残存した金属酸化物の粒子であり、特に、その粒径を大きく減じることなく残存していると考えられる。
つまり、本発明の特徴の1つは、上記金属酸化物の粒子の表面を溶解させる(全体を溶解させない)ことにある。
該表面を溶解させる方法としては、例えば、後述する塗布液(スラリー)の状態では該金属酸化物の粒子とリン酸系化合物との反応が起こりにくい条件(温度、pH等)であるが、該塗布液の塗布中または乾燥中にpHが低下すると共に高温状態となって反応が起こる条件となるように設定する方法が挙げられる。
具体的には、後述する乾燥工程における乾燥温度を特定する方法(好ましくは、さらに乾燥時間を特定する方法)、後述するリン酸系化合物と反応する該金属酸化物量を特定する方法、触媒・反応促進剤等を添加する方法、および、これらを適宜組み合わせる方法等が挙げられる。
該多孔質層を形成する金属酸化物の粒子の平均粒径等は、特に限定されず、後述する塗布液に用いる金属酸化物の粒径により異なる。
また、該金属酸化物およびその粒子に関しては、後述する塗布液で説明するものと基本的に同様である。
【0042】
多孔質層を形成する金属原子とリン原子を含む化合物は、後述するリン酸系化合物と金属酸化物との反応生成物または該リン酸系化合物と後述する反応促進剤との反応生成物等であり、上記金属酸化物の粒子同士を結着させる結着剤として機能する。
該化合物は、用いる金属酸化物、リン酸系化合物および任意に用いられる反応促進剤により異なるため、一概には決定できないが、他の原子、例えば、酸素原子等を含んでいてもよい。該化合物として、例えば、金属酸化物としてMgOを用いる場合には、Mg2 P2 O7 、Mg3 (PO)4 等が挙げられる。他の例としては、「化学」、日本化学協会、第31巻第11号、p.895〜897に記載されている。
【0043】
該金属原子とリン原子を含む化合物は、上記のような化合物に限定されず、金属酸化物の粒子同士を結合する「金属原子とリン原子を含む結合基」であってもよく、該結合基は高分子量であってもよい。
上記金属原子とリン原子を含む化合物および金属原子とリン原子を含む結合基の組成は特に限定されない。
【0044】
本発明の多孔質層の形成には、後述するように、上記金属酸化物の金属原子と異なる金属原子を含む反応促進剤等を用いることができる。そのため、該金属原子とリン原子を含む化合物中の金属原子が、該反応促進剤に由来する金属原子であってもよい。
好ましくは、金属原子とリン原子を含む化合物の金属原子は、金属酸化物の金属原子と同種の金属原子であり、より好ましくは、該金属酸化物に由来する金属原子である。
【0045】
該多孔質層において、上記金属酸化物の粒子と金属原子とリン原子を含む化合物との存在比等は、特に限定されず、該金属原子とリン原子を含む化合物量は、少なくとも上記金属酸化物の粒子を結着できる量以上で、該粒子間の空隙を完全に埋めてしまう量未満であり、例えば、後述する塗布液の組成により決定される。
【0046】
本発明の多孔質層には、上記した金属酸化物の粒子と金属原子とリン原子を含む化合物以外に、他の化合物を含有してもよい。
他の化合物としては、例えば、後述する分散剤、反応促進剤等が挙げられ、また、これらと、上記金属酸化物または金属原子とリン原子を含む化合物との反応生成等も挙げられる。
【0047】
上記本発明の多孔質層は、その空隙率が、20%以上であるのが好ましく、40%以上であるのがより好ましく、45%以上であるのがさらに好ましい。該空隙率を20%以上とすると、該多孔質層に好適量の空気をとり込めるため断熱性に優れ、感度が高くなる。
また、該多孔質層の強い皮膜強度を維持しつつ耐刷性に優れる点で、70%以下とするのが好ましく、60%以下とするのがより好ましい。
【0048】
該多孔質層の空隙率の測定方法は、後述する該多孔質層の膜厚と乾燥後の該多孔質層の質量とから求められる。
具体的には、まず、該多孔質層の密度を下記式により算出する。これには、該多孔質層の乾燥後の質量を測定し単位面積当たりの皮膜質量を求め、後述する方法により該多孔質層の膜厚を測定する。
密度(g/cm3 )=(単位面積当たりの皮膜質量/膜厚)
次に、該多孔質層の空隙率は、上記で算出された密度を基に以下の式により求められる。
空隙率(%)={1−(多孔質層の密度/D)}×100
ここで、Dは、該多孔質層の形成に用いる金属酸化物の化学便覧による密度(g/cm3 )である。
【0049】
上記本発明の多孔質層は、その膜厚が、0.5〜20μmであるのが好ましく、1〜10μmであるのがより好ましく、3〜7μmであるのがさらに好ましい。膜厚が0.5μm以上であれば、該多孔質層の皮膜強度が強く耐キズ性と耐刷性に優れ、また該多孔質層の断熱性が高く感度に優れる。
また、膜厚の上限は、それ以上の効果が得られないためコスト上の理由で20μmとしたが、これに限られず20μm以上であってもよい。
【0050】
該多孔質層の膜厚の測定方法は、まず、該多孔質層を設けた平版印刷版用支持体を折り曲げて作成した破断面を、超高分解能走査型電子顕微鏡(例えば、S−900、日立製作所社製)によって観察して撮影する。なお、観察倍率は、膜厚等により適宜調整して行う。具体的には、倍率100〜10000倍であるのが好ましい。
次に、得られた画像データ(写真)の該多孔質層部分の厚さを測定し、換算して求めることができる。
【0051】
なお、本発明の多孔質層は、1層としてもよく、または、2層以上を重畳させた複数層としてもよい。
複数層とする場合には、同一の多孔質層を一旦塗布乾燥した後、重畳させてもよく、また、異なる組成の多孔質層を重畳させてもよい。各層の膜厚も特に限定されず、各層の膜厚を一定としてもよく、異なる膜厚としてもよい。
複数の層を形成させるには、例えば、後述する塗布液を塗布する塗布工程と該塗布液を乾燥する乾燥工程を繰り返し交互に行えばよい。
【0052】
上記多孔質層は、例えば、粒状の金属酸化物およびリン酸系化合物を含有する塗布液を基板に塗布する塗布工程と、該基板に塗布された塗布液を180〜500℃で加熱乾燥する乾燥工程とを含む方法により、基板上に形成させることができる。
即ち、本発明の平版印刷版用支持体は、粒子状の金属酸化物およびリン酸系化合物を含有する塗布液を基板に塗布し、該塗布液を180〜500℃で乾燥して得られる多孔質層を、該基板上に有する平版印刷版用支持体である。
【0053】
多孔質層が形成される反応メカニズムは、詳細には分からないが、本発明者らは、以下のように考えている。マグネシア(MgO)を例にして説明する。
マグネシアとリン酸との反応は、以下の式(1)および(2)が起こり、生成するMg2 P2 O7 等により上記金属酸化物の粒子が結着されていると考えられる。また、上記塗布液を完全に乾燥すると、式(1)で生成するMgHPO4 も結着剤として機能する場合があると考えている。
【0054】
【化1】
【0055】
即ち、上記粒状の金属酸化物およびリン酸系化合物を含有する塗布液のpHが後述する好適範囲にあると、該酸性条件下において上記金属酸化物の粒子の表面がわずかに溶解し、該表面を溶解された金属酸化物および溶出した金属酸化物が共にリン酸系化合物と反応しやすい状態になる。また、該酸性条件化では、基板の表面もリン酸系化合物と反応し活性化される。
該塗布液の塗布後、好ましくは乾燥工程において、該塗布液の水が除去されリン酸系化合物の濃度が増大すると共に該塗布液および基板の温度が上昇する。そうすると、基板、表面を溶解された金属酸化物および溶出した金属酸化物とが、リン酸系化合物と反応し、次第に水に難溶の金属原子とリン原子を含む化合物を生成させる。この水に難溶の化合物が金属酸化物の粒子同士を結着する結着剤として機能し、複数の金属酸化物の粒子が結着した、好適量の空気をとり込んだ多孔質層が形成される。
上記水に難溶の化合物で結着された多孔質層は、好適量の空気をとり込んでいるため断熱性に優れ、また、該化合物により結着しているため該多孔質層の皮膜強度が強くなる。
【0056】
このようなメカニズムにおいて、反応促進剤を用いると、上記した反応がより低温で起こり、結着剤として機能するMg2 P2 O7 等がより容易にかつより低温で生成すると考えられる。これは、高温乾燥に不利であるアルミニウム板を基板として用いた場合に特に有効であり、上記した高温によるアルミニウム板の軟化を抑制でき、優れた特性を持つ平版印刷版を得ることができる。
【0057】
なお、このようなリン酸系化合物と金属酸化物との反応は、「化学」、日本化学協会、第31巻第11号、p.895〜897に詳細に記載されている。
【0058】
上記粒状の金属酸化物およびリン酸系化合物を含有する塗布液を基板に塗布する塗布工程に用いられる塗布液について説明する。
本発明の多孔質層を形成するために用いられる塗布液に含有される金属酸化物は、後述するリン酸系化合物と反応して皮膜を形成するものであれば、特に限定されない。例えば、「Zhurnal Prikladnoi Khimii」、Vo.38、No.7、p.1466−1472、July 1965に記載されている各金属の酸化物が挙げられる。具体的には、Al、Si、Ti、Zr、Y、Nd、La、Mg、Ca、Sr、Ba、Cr、Co、Fe、Ni、Sn、Pb、Cu、Zn、Cd、Mn等の酸化物が挙げられ、これらの中でも、Si、Mg、ZrおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種以上の金属の酸化物または複合酸化物であるのが好ましい。
【0059】
上記本発明の多孔質層を形成するために用いられる金属酸化物として、より具体的には、例えば、SiO2 、TiO2 、Al2 O3 、ZrO2 、Y2 O3 、Nd2 O3 、La2 O3 、MgO、CaO、SrO、BaO、MnO2 、CrO2 、Co2 O3 、Fe2 O3 、Mn2 O3 、NiO、FeO、MnO、SnO2 、PbO2 、CuO、ZnO、CdO等の金属酸化物が挙げられる。また、例えば、SiO2 /Al2 O3 、MgO/Al2 O等の上記した金属酸化物の混合酸化物が挙げられる。
さらに、複合酸化物としては、例えば、2SiO2 ・3Al2 O3 (ムライト)等が挙げられる。
【0060】
上記金属酸化物の粒子として、具体的には、AKPシリーズ、AKP−Gシリーズ、HITシリーズ、AMシリーズ(住友化学工業(株)製)、ナノテック シリーズ(一般呼称:超微粒子、シーアイ化成(株))等各種アルミナ微粒子の市販品が利用可能である。
【0061】
より具体的には、以下のものが挙げられる。
Al2 O3 (AKP−50、平均粒径0.3μm、住友化学工業製)、SiO2 (トワナライトFTB、平均粒径12μm、豊和直(株)製;ケイ砂SP−80、平均粒径5.5μm、三栄シリカ(株)製;SI−0010、平均粒径10μm、添川理化学(株)製試薬;商品名SO−C1、粒径0.2〜0.3μm、( 株)アドマテックス製)、MgO(宇部マテリアルズ2000A、平均粒径0.2μm、宇部興産(株)製;MG−0076、平均粒径2mm、添川理化学(株)製試薬)、ZrO2 (商品名ジルコニア被覆球状シリカ、平均粒径0.7μm、( 株)アドマテックス製;ナノテック シリーズ(一般呼称:超微粒子)ZrO2 、平均粒径0.03μm、シーアイ化成(株)製;ZR−0049、平均粒径8μm、添川理化学(株)製試薬)、TiO2 (ルチル、TI−0057、平均粒径1〜2μm、添川理化学(株)製試薬)、SiO2 /Al2 O3 (ナノテック シリーズ(一般呼称:超微粒子)SiO2 /Al2 O3 、平均粒径0.03μm、シーアイ化成(株)製)、MgO/Al2 O3 (ナノテック シリーズ(一般呼称:超微粒子)MgO/Al2 O3 、平均粒径0.05μm、シーアイ化成(株)製)、2SiO2 ・3Al2 O3 (混合酸化物ムライト(粉末)、平均粒径0.8μm、共立マテリアル(株)製;AL−0111、平均粒径5mm、添川理化学(株)製試薬;商品名アルミナ−シリカ複合酸化物、平均粒径0.6μm、( 株)アドマテックス製)等が挙げられる。
また、これら上記した他にも、一般的に市販されているものであれば、特に制限なく使用することができる。
これらの粒子は、所望により粉砕等により平均粒径を調整して用いる。
【0062】
また、上記金属酸化物以外に他の金属の酸化物を含有していてもよい。他の金属の酸化物としては、例えば、上記例示した以外の金属等の酸化物が挙げられる。
上記本発明の多孔質層を形成するために用いられる金属酸化物の含量は、特に限定されないが、上記他の金属の酸化物を含めた全金属酸化物の10〜100質量%であるのが好ましく、40〜100質量%であるのがより好ましい。
【0063】
本発明においては、上記金属酸化物は、好適量の空気をとり込んで断熱性を向上させるため粒子状とするが、本発明の効果を奏する限り、その形状は、球状、多面体状(例えば、20面体状、12面体状等)、立方体状、4面体状、いわゆるコンペイトウ形状、板状、針状等いずれであってもよく、後述する金属酸化物または金属原子とリン原子を含む化合物との反応により球状になりやすく、断熱性に優れる点で、球状、多面体状、立方体状、4面体状、コンペイトウ形状が好ましく、入手が容易で断熱性により優れる点で、球状であるのが好ましい。
また、これらの形状の混合物であってもよく、これらの形状を持つ中空状であってもよい。
【0064】
該粒子の平均粒径は、特に限定されないが、0.01〜5μmであるのが好ましく、0.03〜3μmであるのがより好ましく、0.03〜1.5μmであるのがさらに好ましい。この範囲であると、皮膜強度が強く、上記好適な空隙率に調整が容易である。
なお、画像記録層との密着性が不足する場合等には、表面粗さを上げるために、異なる平均粒子を持つ金属酸化物の粒子を2種以上混合してもよい。その場合、第1の金属酸化物の粒子の平均粒径は、0.01〜5μmであるのが好ましく、0.03〜3μmであるのがより好ましく、0.03〜1.5μmであるのがさらに好ましい。第2の金属酸化物の粒子の平均粒径は、第1の金属酸化物の粒子の平均粒径の2〜50倍が好ましく、3〜20倍が好ましく、4〜10倍であるのがさらに好ましい。
第1の金属酸化物の粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径を持つ第2の金属酸化物の粒子を混合して用いることで、表面粗さを望みの粗さにすることが可能になる。
【0065】
塗布液における上記金属酸化物の含有量は、所望とする多孔質層の空隙率、膜厚によって適宜調整されるものであるが、一般的には、5〜60質量%であるのが好ましい。
また、該金属酸化物の表面を溶解させるように、後述するリン酸系化合物との反応量(即ち、金属原子とリン原子を含む化合物の生成量)を計算して、上記含有量を調整することもできる。該金属原子とリン原子を含む化合物の生成量の調整は、例えば、用いる金属酸化物の表面積を一定にすることにより可能になると考えられる。
【0066】
即ち、平均粒径の異なる金属酸化物を用いて別の基板に多孔質層を形成させる場合、金属原子とリン原子を含む化合物の生成量を一定にするには、以下の方法により金属酸化物の表面積を一定にする。
例えば、粒子A:平均粒子半径r1 、密度d1 、質量W1
粒子B:平均粒子半径r2 、密度d2 、質量W2 のとき、
粒子Aの表面積S1 は、3W1 /(r1 ×d1 )、粒子Bの表面積S2 は、3W2 /(r2 ×d2 )であるから、これらの表面積S1 およびS2 を一定とすると、粒子Bの使用量W2 は、下記式で求められる。
W2 =[(r2 ×d2 )/(r1 ×d1 )]×W1
【0067】
本発明の多孔質層を形成するために用いられる塗布液に含有されるリン酸系化合物としては、特に限定されず、例えば、ホスフィン酸、亜リン酸、二亜リン酸、次リン酸、リン酸(オルトリン酸等)、二リン酸、三リン酸、メタリン酸、ペルオキソリン酸、オルトリン酸、縮合リン酸等のオキソ酸、これらの酸の水素原子の1〜3個をナトリウム、カリウム塩等の金属原子で置換した塩等が好適に挙げられる。
これらの中でも、リン酸(オルトリン酸等)、これらの酸の水素原子の1〜3個をナトリウム、カリウム塩等の金属原子で置換した塩等をより好適に挙げられる。
【0068】
これらの酸濃度等は特に限定されず、一般的なもの(例えば、市販されているもの)を用いることができる。
塗布液における該リン酸系化合物の含有量としては、特に限定されないが、0.05〜12質量%であるのが好ましく、0.1〜10質量%であるのがより好ましく、0.3〜8質量%であるのがさらに好ましい。
リン酸系化合物の含有量が、0.05質量%未満であると多孔質層の皮膜強度が弱い場合があり、12質量%超であると多孔質層の空隙率が低くなる場合がある。
【0069】
上記金属酸化物とリン酸系化合物の好ましい組み合わせは、例えば、SiO2 、MgO、ZrO2 、TiO2 等の金属酸化物、SiO2 /Al2 O3 、MgO/Al2 O3 等の混合酸化物、および2SiO2 ・3Al2 O3 (ムライト)等の複合酸化物の場合、リン酸、リン酸二水素ナトリウム(NaH2 PO4 )等である。
【0070】
上記塗布液には、金属酸化物を均一に分散させるための分散剤、金属酸化物と金属原子とリン原子を含む化合物との反応を促進する反応促進剤等を含有させるのが好ましい。
分散剤としては、特に限定されないが、一般的に金属酸化物等の分散剤として知られている、クエン酸、ヘキサメタリン酸ソーダ等が使用できる。塗布液中の含有量は特に限定されないが、0.05〜1質量%、好ましくは0.2〜0.8質量%、さらに好ましくは0.2〜0.5質量%の範囲である。
【0071】
反応促進剤としては、特に限定されないが、例えば、用いる金属酸化物によって、以下の反応促進剤を用いるのが好ましい。また、該促進剤の含有量(使用量)も、特に限定されず、所望する多孔質層の膜厚、空隙率等により適宜変更できる。後述する含有量であると、より低温で金属原子とリン原子を含む化合物を生成させられ、基板にアルミニウム板を用いる場合でもアルミニウム板の軟化を抑制でき、優れた特性を持つ平版印刷版を得ることができる。
金属酸化物としてSiO2 を用いる場合にはフッ化ナトリウムが好ましく、その含有量は、SiO2 に対して1〜5質量%であるのが好ましい。
金属酸化物としてMgOを用いる場合にはリン酸ジルコニウムが好ましく、その含有量は、MgOに対して3〜30質量%であるのが好ましい。
金属酸化物としてZrO 2を用いる場合にはリン酸アルミニウムが好ましく、その含有量は、ZrO 2に対して3〜30質量%であるのが好ましい。
金属酸化物として、SiO2 /Al2 O3 、MgO/Al2 O3 等の混合酸化物および2SiO2 ・3Al2 O3 (ムライト)等の複合酸化物のアルミナを含有する酸化物またはTiO2 を用いる場合には塩化アルミニウムが好ましく、その含有量は、Al2 O3 またはTiO2 に対して5〜100質量%であるのが好ましく、10〜80質量%であるのがより好ましい。
【0072】
該塗布液の溶剤は、水であるのが好ましい。
【0073】
上記塗布液は、上記した粒子状の金属酸化物、リン酸系化合物、必要により分散剤、反応促進剤等を水に分散または溶解させて調製する。
好ましくは、分散剤を含む水溶液に、粒子状の金属酸化物を投入して分散させ、均一に分散した後に該水溶液にリン系化合物および必要により反応促進剤を投入して撹拌して調製する。
【0074】
このようにして調製した塗布液を、後述する基板に、塗布して塗布工程が完了する。
塗布方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
【0075】
次に、該基板に塗布された塗布液を、180〜500℃で加熱乾燥する乾燥工程を行う。
該乾燥方法は、特に限定されず、一般的に用いられる方法を選択できる。また乾燥温度は、180〜500℃であるのが好ましい。基板にアルミニウム板を用いる場合には、該乾燥温度は、180〜220℃であるのが好ましい。この温度範囲であれば、アルミニウム板の軟化を抑制でき、優れた特性を持つ平版印刷版を得ることができる。また、基板にアルミニウム板以外の金属板を用いる場合には、該金属板の軟化という問題がないため、乾燥温度は特に限定されず、180〜500℃であるのが好ましい。例えば、ステンレス鋼板等の鉄系基板の場合には、200〜400℃であるのがより好ましい。
上記乾燥工程を行うことにより、上記粒子状金属酸化物の表面をリン酸系化合物と反応させることができ、該粒子状の金属酸化物をその径を大きく減じさせることなく残存させることができる。
乾燥時間は、塗布液の水を除去できる程度であれば、特に限定されないが、一般的には、10〜300秒であるのが好ましく、30〜180秒であるのがより好ましい。
【0076】
上記工程を行うことにより、本発明の多孔質層を基板上に形成させることができるが、上記工程の他に他の工程を行ってもよい。
【0077】
上記したように本発明の多孔質層は、粒子状の金属酸化物およびリン酸系化合物を含有する塗布液を基板に塗布し、該塗布液を乾燥して形成できるため、製造工程が簡易であり、コストの削減ができる。
【0078】
<封孔層>
上記本発明の多孔質層は、空隙率が高く、その表面に多数の細孔を有している。したがって、空隙率を最適範囲に調整して基板に設けた該多孔質層上に直接、画像記録層を設けて平版印刷版原版としてもよい。また、空隙率によっては、該多孔質層の細孔に画像記録層成分である染料が入り込んで現像後も残ってしまう残色現象や、同じく画像記録層成分であるバインダーが現像後も残ってしまう残膜現象の原因となってしまう場合もある。
そのような場合は、画像記録層を設ける前に、該高空隙の多孔質層の細孔を封じる封孔処理を行ってもよい。封孔処理としては、封孔層(本発明において、「親水性層」ともいう。)を設ける処理であるのが好ましい。
つまり、本発明の平版印刷版用支持体として、上記本発明の多孔質層の上に、封孔層を設けてなる平版印刷版用支持体であるのが好ましい。
【0079】
該封孔層としては、特に限定されないが、ケイ酸塩化合物および親水性樹脂を含有する封孔層が好ましい。
この封孔層は、高空隙の多孔質層上に親水性組成物からなる親水性被膜を形成することで作成できる。封孔層の膜厚は、所望の親水性や強度等の特性により適宜決定できるが、一般的には0.01〜0.5μmの範囲にあるのが好ましく、0.05〜0.3μmの範囲にあるのがさらに好ましい。膜厚が0.01μm未満であると必要な親水性を得にくい場合があり、膜厚が0.5μmを超えると印刷等の際の少しの湾曲で、親水性皮膜が剥離したり、割れやすくなる場合がある。
本発明の多孔質層と封孔層とを有する平版印刷版用支持体において、該多孔質層の膜厚が0.5〜20μmであり、該封孔層の膜厚が0.01〜0.5μmであるのがより好ましい。これらの膜厚の好ましい範囲は、上記したとおりである。
【0080】
該封孔層の膜厚の測定は、該封孔層を設けた平版印刷版用支持体を折り曲げて作成した破断面を、超高分解能走査型電子顕微鏡(S−900、日立製作所社製)によって、観察することにより測定できる。なお、観察倍率は、膜厚等により適宜調整して行う。具体的には、倍率100〜10000倍であるのが好ましい。
【0081】
また、例えば、封孔層中にシラスバルーン等の比較的大径の中空粒子を用いた場合には、膜厚と共にさらなる性能の向上も可能であり、また、上記比較的大径の粉体と、小径の粉体粒子とを混合して用いることで、断熱性、親水性、さらには、強度を合わせ持った皮膜の形成が可能で、感熱性の画像記録層を設ける平版印刷版原版用の平版印刷版用支持体として特に好ましい態様となる。
【0082】
封孔層の最適な被覆量は、上記多孔質層の膜厚、画像記録層中に含まれる光熱変換剤の量や分布、画像記録層の厚み、使用する露光装置のレーザ走査速度、レーザ出力、露光ビーム形状等によって異なるが、0.01〜0.5μmの範囲で、最適被覆量を実験的に決めることが可能である。封孔層の被膜量や、上記多孔質層が均一に封孔されているかどうかは、高倍率の電子顕微鏡により観察することができる。
上記封孔層に好ましく使用されるケイ酸塩化合物としては、ケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウム、リチウムシリケート等のケイ酸アルカリ系水ガラスが挙げられる。ケイ酸塩化合物の含有量は、共に使用される親水性樹脂の種類にもよるが、一般的には、封孔層を構成する全固形分中、SiO2 として30〜45質量%、Na2 Oとして30〜45質量%の範囲であるのが好ましい。
【0083】
上記ケイ酸塩化合物、中でも好ましく用いられる水ガラス等は特に親水性が高いので、親水化剤としての機能を有するが、水ガラスだけでは、乾燥過程で、脱水収縮を起こし微細なひび割れが発生する上、皮膜が不均一になってしまう等の懸念があり、皮膜形成性に劣るため、単独で使用すると耐刷性が悪化する場合がある。本発明では、親水性樹脂を併用しているため、乾燥過程における水ガラスと親水性樹脂の硬化挙動が異なるため、相補的作用によって、ひび割れのない均一な皮膜が形成可能となる。
また、ケイ酸塩化合物には、添加剤として、キャスやPC−500等の商品名で知られる(いずれも、日産化学工業(株)製)ケイ酸アルカリ用硬化剤等を適量加えてもよい。
【0084】
本発明の平版印刷版用支持体の封孔層において、好ましく使用される親水性樹脂には、特に制限はなく、親水性に優れた公知の合成樹脂、例えば、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルホスホン酸等、さらには、アルカリ可溶性樹脂として知られるノボラック樹脂、フェノール−アルデヒド樹脂、m−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、p−クレゾールホルムアルデヒド樹脂等の各種親水性樹脂化合物等が挙げられる。なお、ケイ酸塩化合物として水ガラスを用いる場合には、酸性の親水性樹脂化合物は、水ガラスが一般にアルカリ性のゾル状で存在するため、両者を混合するとゲル化して、通常の塗布法によっては均一な被膜形成が困難となるので、好ましくなく、この場合には、中性かアルカリ性の水溶媒に可溶な親水性樹脂を用いることが製造適性の観点から好ましい。
ただし、水ガラスと酸性の親水性樹脂とを混合して得られたゲル状物を、乳鉢や高速剪断型ミキサー等を用いて、1μm以下程度に粉砕して微細ゲルとし、これを十分に水洗して、アルカリ性水溶媒もしくは、水ガラスに再度分散させて用いることも可能であり、このように使用した場合には、所定の親水性と皮膜特性が得られるため必ずしも中性、アルカリ性の親水性樹脂に限定されるものではない。
【0085】
親水性樹脂の含有量は、所望の親水性や膜強度等の特性、共に使用されるケイ酸塩化合物の種類や量にもよるが、一般的には、封孔層を構成する全固形分中、4〜40質量%の範囲であるのが好ましい。
水ガラスを用いずに親水性樹脂を単独で使用すると、親水性が不十分のため、耐汚れ性、インキ払い性能が悪化する場合がある。
封孔層中におけるケイ酸塩化合物〔SiO2 +Na2 O(質量%)〕と親水性樹脂〔質量%〕の含有比率〔(SiO2 +Na2 O)(質量%)/親水性樹脂(質量%)〕は10〜99の範囲であるのが好ましく、ケイ酸塩化合物の比率が増えすぎると膜性が低下し、被膜に微細なひび割れが生じたり、耐汚れ性や耐刷性が低下する傾向があり、反対に親水性樹脂の比率が増えすぎると親水性が低下し、非画像部に汚れが発生しやすくなる傾向がある。
【0086】
封孔層を構成する親水性組成物には、ハンドリング性や皮膜特性を向上させる目的で、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、界面活性剤、溶剤等の添加剤を併用することができる。特に、親水性樹脂として汎用のポリビニルアルコール(PVA)等を用いる場合には、その耐水性を向上する目的で、エテストロンBN−69(第一工業製薬(株)製)等の熱反応型架橋剤を適量添加することが好ましい。
上記多孔質層上に封孔層を形成する方法としては、上記成分や所望により併用される添加剤を配合してなる親水性組成物を、スプレー法、バー塗布法等によって上記多孔質層上に塗布して液膜を形成し、100〜180℃の熱風によって乾燥させ、固化させる方法を挙げることができる。
【0087】
このようにして形成される封孔層の空隙率は、特に限定されない。好ましくは、本発明の多孔質層と封孔層とを有する平版印刷版用支持体において、該多孔質層の空隙率が20%以上であり、該封孔層の空隙率が該多孔質層の空隙率以下である。封孔層の空隙率を多孔質層のそれ以下にすると、該多孔質層の表面にある多数の細孔を効果的に封孔でき、該細孔に画像記録層が入り込むことにより生じる残色現象や残膜現象を抑えることができる。該多孔質層の空隙率の好ましい範囲は、上記したとおりである。
【0088】
該封孔層の空隙率の測定は、該封孔層を設けた平版印刷版用支持体該を折り曲げて作成した破断面を、超高分解能走査型電子顕微鏡(S−900、日立製作所社製)によって観察して撮影する。得られた画像データ(写真)の3cm×3cmの範囲において、空隙部分の面積割合を測定する。この作業を5〜10箇所で行い、これらの算術平均を空隙率とする。
なお、観察倍率は、観測する封孔層の膜厚等により適宜調整して行う。
【0089】
上記多孔質層上に、上記封孔層を形成させることで本発明の平版印刷版用支持体として、より好ましいものが得られる。該支持体は、上記多孔質層の特性、好ましくは上記多孔質層と封孔層の特性により、優れた表面親水性と断熱性とを発現し、かつ基板と多孔質層との密着性に優れている。さらに皮膜特性が良好で画像記録層やその他の中間層等との密着性に優れている。このため、該支持体を用いて平版印刷版を作製すると、露光により発生した熱が効率よく画像形成に使用され感度に優れ、表面親水性に優れた非画像部は撥インク性に優れて汚れの発生もなく、耐刷性と耐キズ性にも優れ、耐摩耗性が向上する。
【0090】
上記多孔質層および封孔層を有する支持体上に、感熱型の画像記録層を設けることで、平版印刷版原版を得ることができる。この構成によれば、露光による光エネルギー、例えば、書込みに使用されるレーザ光が効率よく画像形成に必要な熱エネルギーとして利用される、高感度、高解像度の画像形成が可能で、印刷適性に優れる平版印刷版原版を得ることができる。
【0091】
<金属基板>
本発明の平版印刷版用支持体に用いられる金属基板としては、特に限定されず、例えば、純アルミニウム板、アルミニウムを主成分として微量の異元素を含む合金板、アルミ缶のリサイクル材、アルミニウム以外の鋼板、Mg,Zr,Si,Ti等の金属元素を主成分とする各種金属板、これらの合金板または金属板をアルミめっき、またはアルミ箔等で被覆したもの、アルミニウム等の金属がラミネートまたは蒸着されたPET等のプラスチックフィルム等が挙げられる。
アルミニウムを主成分として微量の異元素を含む合金板としては、後述するアルミニウム合金板が好ましく挙げられ、アルミニウム以外の金属元素を主成分とする各種金属板としては、可撓性を有し高強度で安価であるステンレス鋼板、ニッケル板、銅板、マグネシウム合金板等が好ましく挙げられる。
合金板または金属板を被覆したものとしては、上記合金板および各種金属板を金属原子または金属酸化物等をスパッタリング、ラミネート等の方法により薄層にして被覆したものが好ましく挙げられる。より好ましくは、該金属原子または金属酸化物が、上記多孔質層の形成に用いられる金属酸化物またはその金属原子と同種のものである。
【0092】
これらの中でも、本発明に用いる基板として、加熱による軟化の問題がない上記各種金属板を、上記多孔質層の形成に用いられる金属酸化物またはその金属原子と同種の金属原子または金属酸化物をスパッタリング、ラミネート等の方法により薄層にして被覆したものが好ましく、また、防錆性に優れ、リサイクル性が高く、比重が小さいく取扱性に優れ、安価なアルミニウム板も好ましい。
【0093】
上記各種金属板を被覆した基板は、上記したステンレス鋼板、ニッケル板等を、通常行われる条件で、スパッタリング処理して被覆すればよく、また、ラミネート処理等して被覆すればよい。
該被覆の膜厚は、特に制限されないが、一般的には、約10nm以上であればよい。好ましくは10〜100nmであり、より好ましくは25〜50nmである。一般的に、被覆の膜厚が薄いと該各種金属板を十分に被覆できず本発明の多孔質層との密着性に劣る場合があり、一方、膜厚が厚いと高価になる。したがって、本発明においては、これらの観点から、適宜膜厚を選択する。
本発明に用いる各種金属板、これらを被覆した基板等は、市販品を用いてもよい。
【0094】
次に、本発明に用いる基板として好ましいアルミニウム板について説明する。本発明に用いられるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、例えば、アルミニウムハンドブック第4版(1990年、軽金属協会発行)に記載されている従来公知の素材、例えば、JIS A1050、JIS A1100、JIS A1070、Mnを含むJIS A3004、国際登録合金 3103A等のAl−Mn系アルミニウム板を適宜利用することができる。また、引張強度を増す目的で、これらのアルミニウム合金に0.1質量%以上のマグネシウムを添加したAl−Mg系合金、Al−Mn−Mg系合金(JIS A3005)を用いることもできる。更に、ZrやSiを含むAl−Zr系合金やAl−Si系合金を用いることもできる。更に、Al−Mg−Si系合金を用いることもできる。
【0095】
JIS1050材に関しては、本願出願人によって提案された技術が、特開昭59−153861号、特開昭61−51395号、特開昭62−146694号、特開昭60−215725号、特開昭60−215726号、特開昭60−215727号、特開昭60−216728号、特開昭61−272367号、特開昭58−11759号、特開昭58−42493号、特開昭58−221254号、特開昭62−148295号、特開平4−254545号、特開平4−165041号、特公平3−68939号、特開平3−234594号、特公平1−47545号および特開昭62−140894号の各公報に記載されている。また、特公平1−35910号公報、特公昭55−28874号公報等に記載された技術も知られている。
【0096】
JIS1070材に関しては、本願出願人によって提案された技術が、特開平7−81264号、特開平7−305133号、特開平8−49034号、特開平8−73974号、特開平8−108659号および特開平8−92679号の各公報に記載されている。
【0097】
Al−Mg系合金に関しては、本願出願人によって提案された技術が、特公昭62−5080号、特公昭63−60823号、特公平3−61753号、特開昭60−203496号、特開昭60−203497号、特公平3−11635号、特開昭61−274993号、特開昭62−23794号、特開昭63−47347号、特開昭63−47348号、特開昭63−47349号、特開昭64−1293号、特開昭63−135294号、特開昭63−87288号、特公平4−73392号、特公平7−100844号、特開昭62−149856号、特公平4−73394号、特開昭62−181191号、特公平5−76530号、特開昭63−30294号および特公平6−37116号の各公報に記載されている。また、特開平2−215599号公報、特開昭61−201747号公報等にも記載されている。
【0098】
Al−Mn系合金に関しては、本願出願人によって提案された技術が、特開昭60−230951号、特開平1−306288号および特開平2−293189号の各公報に記載されている。また、特公昭54−42284号、特公平4−19290号、特公平4−19291号、特公平4−19292号、特開昭61−35995号、特開昭64−51992号、特開平4−226394号の各公報、米国特許第5,009,722号明細書、同第5,028,276号明細書等にも記載されている。
【0099】
Al−Mn−Mg系合金に関しては、本願出願人によって提案された技術が、特開昭62−86143号公報および特開平3−222796号公報に記載されている。また、特公昭63−60824号、特開昭60−63346号、特開昭60−63347号、特開平1−293350号の各公報、欧州特許第223,737号、米国特許第4,818,300号、英国特許第1,222,777号の各明細書等にも記載されている。
【0100】
Al−Zr系合金に関しては、本願出願人によって提案された技術が、特公昭63−15978号公報および特開昭61−51395号公報に記載されている。また、特開昭63−143234号、特開昭63−143235号の各公報等にも記載されている。
【0101】
Al−Mg−Si系合金に関しては、英国特許第1,421,710号明細書等に記載されている。
【0102】
アルミニウム合金を板材とするには、例えば、下記の方法を採用することができる。まず、所定の合金成分含有量に調整したアルミニウム合金溶湯に、常法に従い、清浄化処理を行い、鋳造する。清浄化処理には、溶湯中の水素等の不要ガスを除去するために、フラックス処理、アルゴンガス、塩素ガス等を用いる脱ガス処理、セラミックチューブフィルタ、セラミックフォームフィルタ等のいわゆるリジッドメディアフィルタや、アルミナフレーク、アルミナボール等をろ材とするフィルタや、グラスクロスフィルタ等を用いるフィルタリング処理、あるいは、脱ガス処理とフィルタリング処理を組み合わせた処理が行われる。
【0103】
これらの清浄化処理は、溶湯中の非金属介在物、酸化物等の異物による欠陥や、溶湯に溶け込んだガスによる欠陥を防ぐために実施されることが好ましい。溶湯のフィルタリングに関しては、特開平6−57432号、特開平3−162530号、特開平5−140659号、特開平4−231425号、特開平4−276031号、特開平5−311261号、特開平6−136466号の各公報等に記載されている。また、溶湯の脱ガスに関しては、特開平5−51659号公報、実開平5−49148号公報等に記載されている。本願出願人も、特開平7−40017号公報において、溶湯の脱ガスに関する技術を提案している。
【0104】
ついで、上述したように清浄化処理を施された溶湯を用いて鋳造を行う。鋳造方法に関しては、DC鋳造法に代表される固体鋳型を用いる方法と、連続鋳造法に代表される駆動鋳型を用いる方法がある。
DC鋳造においては、冷却速度が0.5〜30℃/秒の範囲で凝固する。1℃未満であると粗大な金属間化合物が多数形成されることがある。DC鋳造を行った場合、板厚300〜800mmの鋳塊を製造することができる。その鋳塊を、常法に従い、必要に応じて面削を行い、通常、表層の1〜30mm、好ましくは1〜10mmを切削する。その前後において、必要に応じて、均熱化処理を行う。均熱化処理を行う場合、金属間化合物が粗大化しないように、450〜620℃で1〜48時間の熱処理を行う。熱処理が1時間より短い場合には、均熱化処理の効果が不十分となることがある。
【0105】
その後、熱間圧延、冷間圧延を行ってアルミニウム板の圧延板とする。熱間圧延の開始温度は350〜500℃が適当である。熱間圧延の前もしくは後、またはその途中において、中間焼鈍処理を行ってもよい。中間焼鈍処理の条件は、バッチ式焼鈍炉を用いて280〜600℃で2〜20時間、好ましくは350〜500℃で2〜10時間加熱するか、連続焼鈍炉を用いて400〜600℃で6分以下、好ましくは450〜550℃で2分以下加熱するかである。連続焼鈍炉を用いて10〜200℃/秒の昇温速度で加熱して、結晶組織を細かくすることもできる。
【0106】
以上の工程によって、所定の厚さ、例えば、0.1〜0.6mmに仕上げられたアルミニウム板は、更にローラレベラ、テンションレベラ等の矯正装置によって平面性を改善してもよい。平面性の改善は、アルミニウム板をシート状にカットした後に行ってもよいが、生産性を向上させるためには、連続したコイルの状態で行うことが好ましい。また、所定の板幅に加工するため、スリッタラインを通してもよい。また、アルミニウム板同士の摩擦による傷の発生を防止するために、アルミニウム板の表面に薄い油膜を設けてもよい。油膜には、必要に応じて、揮発性のものや、不揮発性のものが適宜用いられる。
【0107】
一方、連続鋳造法としては、双ロール法(ハンター法)、3C法に代表される冷却ロールを用いる方法、双ベルト法(ハズレー法)、アルスイスキャスターII型に代表される冷却ベルトや冷却ブロックを用いる方法が、工業的に行われている。連続鋳造法を用いる場合には、冷却速度が100〜1000℃/秒の範囲で凝固する。連続鋳造法は、一般的には、DC鋳造法に比べて冷却速度が速いため、アルミマトリックスに対する合金成分固溶度を高くすることができるという特徴を有する。連続鋳造法に関しては、本願出願人によって提案された技術が、特開平3−79798号、特開平5−201166号、特開平5−156414号、特開平6−262203号、特開平6−122949号、特開平6−210406号、特開平6−26308号の各公報等に記載されている。
【0108】
連続鋳造を行った場合において、例えば、ハンター法等の冷却ロールを用いる方法を用いると、板厚1〜10mmの鋳造板を直接、連続鋳造することができ、熱間圧延の工程を省略することができるというメリットが得られる。また、ハズレー法等の冷却ベルトを用いる方法を用いると、板厚10〜50mmの鋳造板を鋳造することができ、一般的に、鋳造直後に熱間圧延ロールを配置し連続的に圧延することで、板厚1〜10mmの連続鋳造圧延板が得られる。
【0109】
これらの連続鋳造圧延板は、DC鋳造について説明したのと同様に、冷間圧延、中間焼鈍、平面性の改善、スリット等の工程を経て、所定の厚さ、例えば、0.1〜0.6mmの板厚に仕上げられる。連続鋳造法を用いた場合の中間焼鈍条件および冷間圧延条件については、本願出願人によって提案された技術が、特開平6−220593号、特開平6−210308号、特開平7−54111号、特開平8−92709号の各公報等に記載されている。
【0110】
このようにして製造されるアルミニウム板には、以下に述べる種々の特性が望まれる。
アルミニウム板の強度は、平版印刷版用支持体として必要な腰の強さを得るため、0.2%耐力が140MPa以上であるのが好ましい。また、バーニング処理を行った場合にもある程度の腰の強さを得るためには、270℃で3〜10分間加熱処理した後の0.2%耐力が80MPa以上であるのが好ましく、100MPa以上であるのがより好ましい。特に、アルミニウム板に腰の強さを求める場合は、MgやMnを添加したアルミニウム材料を採用することができるが、腰を強くすると印刷機の版胴へのフィットしやすさが劣ってくるため、用途に応じて、材質および微量成分の添加量が適宜選択される。これらに関して、本願出願人によって提案された技術が、特開平7−126820号公報、特開昭62−140894号公報等に記載されている。
【0111】
アルミニウム板の結晶組織は、化学的粗面化処理や電気化学的粗面化処理を行った場合、アルミニウム板の表面の結晶組織が面質不良の発生の原因となることがあるので、表面においてあまり粗大でないことが好ましい。アルミニウム板の表面の結晶組織は、幅が200μm以下であるのが好ましく、100μm以下であるのがより好ましく、50μm以下であるのが更に好ましく、また、結晶組織の長さが5000μm以下であるのが好ましく、1000μm以下であるのがより好ましく、500μm以下であるのが更に好ましい。これらに関して、本願出願人によって提案された技術が、特開平6−218495号、特開平7−39906号、特開平7−124609号の各公報等に記載されている。
【0112】
アルミニウム板の合金成分分布は、化学的粗面化処理や電気化学的粗面化処理を行った場合、アルミニウム板の表面の合金成分の不均一な分布に起因して面質不良が発生することがあるので、表面においてあまり不均一でないことが好ましい。これらに関して、本願出願人によって提案された技術が、特開平6−48058号、特開平5−301478号、特開平7−132689号の各公報等に記載されている。
【0113】
アルミニウム板の金属間化合物は、その金属間化合物のサイズや密度が、化学的粗面化処理や電気化学的粗面化処理に影響を与える場合がある。これらに関して、本願出願人によって提案された技術が、特開平7−138687号、特開平4−254545号の各公報等に記載されている。
【0114】
本発明においては、上記に示されるようなアルミニウム板をその最終圧延工程において、積層圧延、転写等により凹凸を付けて用いることもできる。
【0115】
本発明に用いられるアルミニウム板は、連続した帯状のシート材または板材である。即ち、アルミニウムウェブであってもよく、製品として出荷される平版印刷版原版に対応する大きさ等に裁断された枚葉状シートであってもよい。
アルミニウム板の表面のキズは平版印刷版用支持体に加工した場合に欠陥となる可能性があるため、平版印刷版用支持体とする表面処理工程の前の段階でのキズの発生は可能な限り抑制する必要がある。そのためには安定した形態で運搬時に傷付きにくい荷姿であることが好ましい。
アルミニウムウェブの場合、アルミニウムの荷姿としては、例えば、鉄製パレットにハードボードとフェルトとを敷き、製品両端に段ボールドーナツ板を当て、ポリチュ−ブで全体を包み、コイル内径部に木製ドーナツを挿入し、コイル外周部にフェルトを当て、帯鉄で絞め、その外周部に表示を行う。また、包装材としては、ポリエチレンフィルム、緩衝材としては、ニードルフェルト、ハードボードを用いることができる。この他にもいろいろな形態があるが、安定して、キズも付かず運送等が可能であればこの方法に限るものではない。
【0116】
本発明に用いる基板の板厚は、特に限定されないが、約0.1〜0.6mmであるのが好ましく、0.15〜0.4mmであるのがより好ましく、0.2〜0.3mmであるのがさらに好ましい。
【0117】
<表面処理>
本発明の前処理された金属基板上に多孔質層を設けることにより、平版印刷版としたときの耐汚れ性および耐刷性を両立でき、多孔質層と基板との密着性に優れ印刷性能に優れる平版印刷版が得られるが、必要により、平版印刷版の製造に一般的に行われる基板の表面処理(例えば、公知の各種粗面化処理等)を行うこともできる。
【0118】
本発明の平版印刷版用支持体は、表面処理を施さなくても、塗布液の塗布、乾燥という簡易な工程で作製でき、感度、耐汚れ性および耐刷性に優れるため、粗面化処理を施されてなる従来の平版印刷版用支持体に対して、製造コストの削減ができる。
【0119】
[平版印刷版原版]
上記した本発明の平版印刷版用支持体には、以下に例示する感光層、感熱層等の画像記録層を設けて本発明の平版印刷版原版とすることができる。
<画像記録層>
本発明に用いられる画像記録層には、感光性組成物が用いられる。
本発明に好適に用いられる感光性組成物としては、例えば、アルカリ可溶性高分子化合物と光熱変換物質とを含有するサーマルポジ型感光性組成物(以下、この組成物およびこれを用いた画像記録層について、「サーマルポジタイプ」という。)、硬化性化合物と光熱変換物質とを含有するサーマルネガ型感光性組成物(以下、同様に「サーマルネガタイプ」という。)、特別な現像工程を必要としない感光性組成物(以下、同様に「無処理タイプ」という。)が挙げられる。以下、これらの好適な感光性組成物について説明する。
【0120】
<サーマルポジタイプ>
<感光層>
サーマルポジタイプの感光性組成物は、水不溶性かつアルカリ可溶性の高分子化合物(本発明において、「アルカリ可溶性高分子化合物」という。)と光熱変換物質とを含有する。サーマルポジタイプの画像記録層においては、光熱変換物質が赤外線レーザ等の光のエネルギーを熱に変換し、その熱がアルカリ可溶性高分子化合物のアルカリ溶解性を低下させている相互作用を効率よく解除する。
【0121】
アルカリ可溶性高分子化合物としては、例えば、分子中に酸性基を含有する樹脂およびその2種以上の混合物が挙げられる。特に、フェノール性ヒドロキシ基、スルホンアミド基(−SO2 NH−R(式中、Rは炭化水素基を表す。))、活性イミノ基(−SO2 NHCOR、−SO2 NHSO2 R、−CONHSO2 R(各式中、Rは上記と同様の意味である。))等の酸性基を有する樹脂がアルカリ現像液に対する溶解性の点で好ましい。
とりわけ、赤外線レーザ等の光による露光での画像形成性に優れる点で、フェノール性ヒドロキシ基を有する樹脂が好ましく、例えば、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、m−クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、p−クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、m−/p−混合クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール/クレゾール(m−、p−およびm−/p−混合のいずれでもよい)混合−ホルムアルデヒド樹脂(フェノール−クレゾール−ホルムアルデヒド共縮合樹脂)等のノボラック樹脂が好適に挙げられる。
更に、特開2001−305722号公報(特に[0023]〜[0042])に記載されている高分子化合物、特開2001−215693号公報に記載されている一般式(1)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物、特開2002−311570号公報(特に[0107])に記載されている高分子化合物も好適に挙げられる。
【0122】
光熱変換物質としては、記録感度の点で、波長700〜1200nmの赤外域に光吸収域がある顔料または染料が好適に挙げられる。染料としては、例えば、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体(例えば、ニッケルチオレート錯体)が挙げられる。中でも、シアニン染料が好ましく、とりわけ特開2001−305722号公報に記載されている一般式(I)で表されるシアニン染料が好ましい。
【0123】
サーマルポジタイプの感光性組成物中には、溶解阻止剤を含有させることができる。溶解阻止剤としては、例えば、特開2001−305722号公報の[0053]〜[0055]に記載されているような溶解阻止剤が好適に挙げられる。
また、サーマルポジタイプの感光性組成物中には、添加剤として、感度調節剤、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼出し剤、画像着色剤としての染料等の化合物、塗布性および処理安定性を向上させるための界面活性剤を含有させるのが好ましい。これらについては、特開2001−305722号公報の[0056]〜[0060]に記載されているような化合物が好ましい。
上記以外の点でも、特開2001−305722号公報に詳細に記載されている感光性組成物が好ましく用いられる。
【0124】
また、サーマルポジタイプの画像記録層は、単層に限らず、2層構造であってもよい。
2層構造の画像記録層(重層系の画像記録層)としては、支持体に近い側に耐刷性および耐溶剤性に優れる下層(以下「A層」という。)を設け、その上にポジ画像形成性に優れる層(以下「B層」という。)を設けたタイプが好適に挙げられる。このタイプは感度が高く、広い現像ラチチュードを実現することができる。B層は、一般に、光熱変換物質を含有する。光熱変換物質としては、上述した染料が好適に挙げられる。
A層に用いられる樹脂としては、スルホンアミド基、活性イミノ基、フェノール性ヒドロキシ基等を有するモノマーを共重合成分として有するポリマーが耐刷性および耐溶剤性に優れている点で好適に挙げられる。B層に用いられる樹脂としては、フェノール性ヒドロキシ基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂が好適に挙げられる。
A層およびB層に用いられる組成物には、上記樹脂のほかに、必要に応じて、種々の添加剤を含有させることができる。具体的には、特開2002−3233769号公報の[0062]〜[0085]に記載されているような種々の添加剤が好適に用いられる。また、上述した特開2001−305722号公報の[0053]〜[0060]に記載されている添加剤も好適に用いられる。
A層およびB層を構成する各成分およびその含有量については、特開平11−218914号公報に記載されているようにするのが好ましい。
【0125】
<中間層>
サーマルポジタイプの画像記録層と支持体との間には、中間層を設けるのが好ましい。中間層に含有される成分としては、特開2001−305722号公報の[0068]に記載されている種々の有機化合物が好適に挙げられる。
【0126】
<その他>
サーマルポジタイプの画像記録層の製造方法および製版方法については、特開2001−305722号公報に詳細に記載されている方法を用いることができる。
【0127】
<サーマルネガタイプ>
サーマルネガタイプの感光性組成物は、硬化性化合物と光熱変換物質とを含有する。サーマルネガタイプの画像記録層は、赤外線レーザ等の光で照射された部分が硬化して画像部を形成するネガ型の感光層である。
<重合層>
サーマルネガタイプの画像記録層の一つとして、重合型の画像記録層(重合層)が好適に挙げられる。重合層は、光熱変換物質と、ラジカル発生剤と、硬化性化合物であるラジカル重合性化合物と、バインダーポリマーとを含有する。重合層においては、光熱変換物質が吸収した赤外線を熱に変換し、この熱によりラジカル発生剤が分解してラジカルが発生し、発生したラジカルによりラジカル重合性化合物が連鎖的に重合し、硬化する。
【0128】
光熱変換物質としては、例えば、上述したサーマルポジタイプに用いられる光熱変換物質が挙げられる。特に好ましいシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の[0017]〜[0019]に記載されているものが挙げられる。
ラジカル発生剤としては、オニウム塩が好適に挙げられる。特に、特開2001−133969号公報の[0030]〜[0033]に記載されているオニウム塩が好ましい。
ラジカル重合性化合物としては、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物が挙げられる。
バインダーポリマーとしては、線状有機ポリマーが好適に挙げられる。水または弱アルカリ水に対して可溶性または膨潤性である線状有機ポリマーが好適に挙げられる。中でも、アリル基、アクリロイル基等の不飽和基またはベンジル基と、カルボキシ基とを側鎖に有する(メタ)アクリル樹脂が、膜強度、感度および現像性のバランスに優れている点で好適である。
ラジカル重合性化合物およびバインダーポリマーについては、特開2001−133969号公報の[0036]〜[0060]に詳細に記載されているものを用いることができる。
【0129】
サーマルネガタイプの感光性組成物中には、特開2001−133969号公報の[0061]〜[0068]に記載されている添加剤(例えば、塗布性を向上させるための界面活性剤)を含有させるのが好ましい。
【0130】
重合層の製造方法および製版方法については、特開2001−133969号公報に詳細に記載されている方法を用いることができる。
【0131】
<酸架橋層>
また、サーマルネガタイプの画像記録層の一つとして、酸架橋型の画像記録層(酸架橋層)も好適に挙げられる。酸架橋層は、光熱変換物質と、熱酸発生剤と、硬化性化合物である酸により架橋する化合物(架橋剤)と、酸の存在下で架橋剤と反応しうるアルカリ可溶性高分子化合物とを含有する。酸架橋層においては、光熱変換物質が吸収した赤外線を熱に変換し、この熱により熱酸発生剤が分解して酸が発生し、発生した酸により架橋剤とアルカリ可溶性高分子化合物とが反応し、硬化する。
【0132】
光熱変換物質としては、重合層に用いられるのと同様のものが挙げられる。
熱酸発生剤としては、例えば、光重合の光開始剤、色素類の光変色剤、マイクロレジスト等に使用されている酸発生剤等の熱分解化合物が挙げられる。
架橋剤としては、例えば、ヒドロキシメチル基またはアルコキシメチル基で置換された芳香族化合物;N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基またはN−アシルオキシメチル基を有する化合物;エポキシ化合物が挙げられる。
アルカリ可溶性高分子化合物としては、例えば、ノボラック樹脂、側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマーが挙げられる。
【0133】
<無処理タイプ>
無処理タイプの感光性組成物には、熱可塑性微粒子ポリマー型、マイクロカプセル型、スルホン酸発生ポリマー含有型等が挙げられる。これらはいずれも光熱変換物質を含有する感熱型である。光熱変換物質は、上述したサーマルポジタイプに用いられるのと同様の染料が好ましい。
【0134】
熱可塑性微粒子ポリマー型の感光性組成物は、疎水性かつ熱溶融性の微粒子ポリマーが親水性高分子マトリックス中に分散されたものである。熱可塑性微粒子ポリマー型の画像記録層においては、露光により発生する熱により疎水性の微粒子ポリマーが溶融し、互いに融着して疎水性領域、即ち、画像部を形成する。
微粒子ポリマーとしては、微粒子同士が熱により溶融合体するものが好ましく、表面が親水性で、湿し水等の親水性成分に分散しうるものがより好ましい。具体的には、Reseach Disclosure No.33303(1992年1月)、特開平9−123387号、同9−131850号、同9−171249号および同9−171250号の各公報、欧州特許出願公開第931,647号明細書等に記載されている熱可塑性微粒子ポリマーが好適に挙げられる。中でも、ポリスチレンおよびポリメタクリル酸メチルが好ましい。親水性表面を有する微粒子ポリマーとしては、例えば、ポリマー自体が親水性であるもの;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の親水性化合物を微粒子ポリマー表面に吸着させて表面を親水性化したものが挙げられる。
微粒子ポリマーは、反応性官能基を有するのが好ましい。
【0135】
マイクロカプセル型の感光性組成物としては、特開2000−118160号公報に記載されているもの、特開2001−277740号公報に記載されているような熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセル型が好適に挙げられる。
【0136】
スルホン酸発生ポリマー含有型の感光性組成物に用いられるスルホン酸発生ポリマーとしては、例えば、特開平10−282672号公報に記載されているスルホン酸エステル基、ジスルホン基またはsec−もしくはtert−スルホンアミド基を側鎖に有するポリマーが挙げられる。
【0137】
無処理タイプの感光性組成物に、親水性樹脂を含有させることにより、機上現像性が良好となるばかりか、感光層自体の皮膜強度も向上する。親水性樹脂としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基、カルボキシメチル基等の親水基を有するもの、親水性のゾルゲル変換系結着樹脂が好ましい。
【0138】
無処理タイプの画像記録層は、特別な現像工程を必要とせず、印刷機上で現像することができる。無処理タイプの画像記録層の製造方法および製版印刷方法については、特開2002−178655号公報に詳細に記載されている方法を用いることができる。
【0139】
<オーバーコート層>
本発明の平版印刷版原版においては、親油性物質による感熱層表面の汚染防止のため、上記画像記録層上に、水溶性のオーバーコート層を設けることができる。本発明に使用される水溶性オーバーコート層は印刷時容易に除去できるものが好ましく、水溶性の有機高分子化合物から選ばれた樹脂を含有する。
水溶性の有機高分子化合物としては、塗布乾燥によってできた被膜がフィルム形成能を有するもので、具体的には、例えば、ポリ酢酸ビニル(ただし、加水分解率65%以上のもの)、ポリアクリル酸およびそのアルカリ金属塩あるいはアミン塩、ポリアクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩またはアミン塩、ポリメタクリル酸およびそのアルカリ金属塩またはアミン塩、ポリメタクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩またはアミン塩、ポリアクリルアミドおよびその共重合体、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルピロリドンおよびその共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩またはアミン塩、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸共重合体およびそのアルカリ金属塩あるいはアミン塩、アラビアガム、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルローズ、カルボキシエチルセルローズ、メチルセルローズ等)およびその変性体、ホワイトデキストリン、プルラン、酵素分解エーテル化デキストリン等を挙げることができる。また、目的に応じて、これらの樹脂を二種以上混合して用いることもできる。
【0140】
また、オーバーコート層には、上記した光熱変換剤のうち水溶性のものを添加してもよい。さらに、オーバーコート層には塗布の均一性を確保する目的で、水溶液塗布の場合には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル等の非イオン系界面活性剤を添加することができる。オーバーコート層の乾燥塗布量は、0.1〜2.0g/m2 であるのが好ましい。この範囲内で、機上現像性を損なわず、指紋付着汚れ等の親油性物質による感熱層表面の良好な汚染防止ができる。
【0141】
<バックコート>
このようにして、本発明の平版印刷版用支持体上に各種の画像記録層を設けて得られる本発明の平版印刷版原版の裏面には、必要に応じて、重ねた場合における画像記録層の傷付きを防止するために、有機高分子化合物からなる被覆層を設けることができる。
【0142】
<平版印刷版原版の製造方法>
画像記録層等の各層は、通常、上記各成分を溶媒に溶かして得られる塗布液を、平版印刷版用支持体上に塗布することにより製造することができる。
ここで使用する溶媒としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン、水等を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。これらの溶剤は単独でまたは混合して使用される。
溶媒中の上記成分(全固形分)の濃度は、1〜50質量%であるのが好ましい。
【0143】
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
【0144】
[製版方法(平版印刷版の製造方法)]
本発明の平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版原版は、画像記録層に応じた種々の処理方法により、平版印刷版とされる。
像露光に用いられる活性光線の光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプが挙げられる。レーザビームとしては、例えば、ヘリウム−ネオンレーザ(He−Neレーザ)、アルゴンレーザ、クリプトンレーザ、ヘリウム−カドミウムレーザ、KrFエキシマーレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、YAG−SHGレーザが挙げられる。
【0145】
上記露光の後、画像記録層がサーマルポジタイプまたはサーマルネガタイプである場合は、露光した後、現像液を用いて現像して平版印刷版を得るのが好ましい。
現像液は、アルカリ現像液であるのが好ましく、有機溶剤を実質的に含有しないアルカリ性の水溶液であるのがより好ましい。
また、アルカリ金属ケイ酸塩を実質的に含有せずかつ糖類を含有する現像液(アルカリ金属ケイ酸塩を実質的に含有しない現像液)も好ましい。アルカリ金属ケイ酸塩を実質的に含有しない現像液を用いて現像する方法としては、特開平11−109637号公報に詳細に記載されている方法を用いることができる。
また、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する現像液を用いることもできる。
【0146】
実質的にアルカリ金属ケイ酸塩を含有しない現像液を用いて現像する平版印刷版原版の処理方法を用いると、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する現像液を用いて現像する場合における問題、即ち、SiO2 に起因する固形物が析出しやすいこと、現像液の廃液を処理する際の中和処理においてSiO2 に起因するゲルが生成すること等の問題の発生を防止することができる。
【0147】
本発明の平版印刷版原版は、金属基板に特定の前処理をした後、皮膜強度が強く耐キズ性と断熱性に優れる多孔質層を設けた平版印刷版用支持体上に、上記画像記録層を設けてなる平版印刷版原版であるため、感度に優れ、また、平版印刷版としたときの優れた耐汚れ性および耐刷性に優れ、金属基板と多孔質層との密着性に優れる。
【0148】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
1.平版印刷版用支持体の作製
[実施例1〜22]
<多孔質層塗布液の調製>
第1表に示す組成の各塗布液C−1〜C−8を以下の方法により調製した。
即ち、適当量の水に分散剤としてクエン酸を0.1g投入し、しばらく攪拌した後、第1表に示す金属酸化物を該表に示す使用量(g)に従って添加し、超音波分散装置(超音波ホモジナイザ、VC−130、SONICS(株)製)およびホモジナイザ(オートセルマスタ、CM−200、アズワン(株)製)を使用して10分程度で該金属酸化物を均一に分散させた。
その後、第1表に示すリン酸系化合物および反応促進剤を該表に示す使用量に従ってそれぞれ添加し、さらに水を投入して、塗布液全体の質量を100gに調整し、各塗布液C−1〜C−8を得た。第1表には膜厚(μm)として、各塗布液を希釈なしで同一バーで塗布し乾燥後の膜厚と空隙率を参考として示した。
【0149】
第1表に示す金属酸化物は、市販品をそのまま、または粉砕し平均粒径を調整して用いた。
具体的には、塗布液C−1に用いる「Al2 O3 」は、AKP−50(平均粒径0.3μm、住友化学工業(株)製)を用いた。
塗布液C−2に用いる「MgO」は、宇部マテリアルズ2000A(平均粒径0.2μm、宇部興産(株)製)を用いた。
塗布液C−3の「ZrO2 」は、商品名ジルコニア被覆球状シリカ(平均粒径0.7μm、( 株)アドマテックス製)を用いた。
塗布液C−4の「SiO2 」は、商品名SO−C1(粒径0.2〜0.3μm(平均粒径0.25μm)、( 株)アドマテックス製)を用いた。
塗布液C−5の「SiO2 /Al2 O3 」は、ナノテック シリーズ(一般呼称:超微粒子)SiO2 /Al2 O3 (平均粒径0.03μmの混合酸化物、シーアイ化成(株)製)を用いた。
塗布液C−6の「MgO/Al2 O3 」は、ナノテック シリーズ(一般呼称:超微粒子)MgO/Al2 O3 (平均粒径0.05μmの混合酸化物、シーアイ化成(株)製)を用いた。
塗布液C−7に用いる「ムライト(粉末)」は、商品名アルミナ−シリカ複合酸化物(平均粒径0.6μm、( 株)アドマテックス製)を使用した。
塗布液C−8に用いる「TiO2 」(アモルファス、平均粒径0.05μm、和光純薬工業(株)製)試薬を用いた。
リン酸、クエン酸、フッ化ナトリウム、リン酸ジルコニウムおよび塩化アルミニウムは、いずれも関東化学(株)製試薬を用いた。
【0150】
粉砕物は、HD A−5ポットミル(YTZ−0.2、ニッカトー(株)製)等のミルを用いて、100rpm程度の回転数で粉砕時間を1〜100時間に変更して平均粒径を調整した。
【0151】
なお、各塗布液の金属酸化物の使用量は、リン酸系化合物との反応量(即ち、金属原子とリン原子を含む化合物の生成量)を一定になる量に下記式により算出し調整した。
塗布液C−2のMgO粒子の平均粒子半径をr1 密度をd1 、質量をW1 とし、塗布液C−2以外の別の金属酸化物粒子の平均粒子半径をr2 、密度をd2 、質量をW2 とし、下記式から塗布液C−2以外の金属酸化物粒子の使用量を算出した。なお、実際の粒子の添加量(第1表中の金属酸化物の使用量)は、例示した下記式から算出される値を基に、実際の塗布画質、皮膜強度等を考慮して決定した。
W2 =[(r2 ×d2 )/(r1 ×d1 )]×W1
【0152】
【表1】
【0153】
<基板の作製>
厚さ0.24mmの以下に示す各種基板を用いて、以下に示す前処理を第2表に示すように行い基板とした。
【0154】
金属基板−1:アルミニウム板(JIS1050材(住友軽金属社製))
金属基板−2:アルミニウム板(JIS3005材(住友軽金属社製))
金属基板−3:アルミ缶のリサイクル材(Al純度87wt%のもの)
金属基板−4:アルミめっき鋼板(アルスター鋼板(日新製鋼社製)、Alめっき量 120g/m2 、67μm(両面共通)MSA−T−BM−120)
金属基板−5:アルミニウム箔をラミネートしたポリエチレンテレフタレート樹脂( 商品名アルペット1025(コスモ化成工業(株)製))ラミネート量:10μm
金属基板−6:マグネシウム板(Mg純度99.99%材(株)ニラコ社製)
金属基板−7:ジルコニウム板(Zr材、純度99.7%(株)ニラコ社製)
金属基板−8:シリコン板(Siウエファー材、純度99.999%(株)ニラコ社製)
金属基板−9:チタニウム板(Ti材、純度99.5%(株)ニラコ社製)
1)酸処理−1:金属基板を、濃度360g/Lの硫酸水溶液に浸漬処理した。処理条件は、温度60℃、時間60秒とした。その後水洗乾燥した。
2)アルカリ−酸処理:金属基板を、濃度360g/LのNaOH水溶液に、温度70℃、時間10秒間浸漬処理した後、水洗乾燥し、濃度360g/Lの硫酸水溶液に温度60℃、時間60秒浸漬処理した。
3)陽極酸化処理: 電解液濃度170g/Lの硫酸水溶液中で、液温33℃、電流密度5A/dm2 、電圧15V、電解時間10秒で行った(定電流)。この場合の陽極酸化被膜厚は、約0.1μmであった。
【0155】
<平版印刷版用支持体の作製>
第2表に示す基板と塗布液の組み合わせで、該基板に、第1表に示す各塗布液を水で母液を希釈し、さらに市販のワイヤーバーの番手を調整して、乾燥膜厚が第2表に示す膜厚になるように塗布し、第1表に示す乾燥温度で乾燥して、多孔質層を形成させた。
【0156】
なお、該多孔質層の膜厚の調整は、市販のワイヤーバーのワイヤー太さを1.6番(塗布量約3cc/m2 )から28番(塗布量約53cc/m2 )まで変化させ、所望の膜厚が得られるワイヤー太さを選択して行った。
また、乾燥時間は、多孔質層の膜厚(μm)によっても異なるが、目安として、30秒+20秒×(膜厚−1)により算出した時間とした。具体的には、膜厚が5.5μmのときは、30+20×(5.5−1)=120秒であった。
【0157】
封孔層を塗布する場合は、上記で形成された多孔質層の上に、以下の組成を有する封孔層塗布液を、市販のワイヤーバーで、乾燥膜厚が第2表に示す膜厚になるように塗布し、乾燥(温度120℃、2分間)して、封孔層を形成させ、本発明の平版印刷版用支持体を得た。
(封孔層塗布液の組成)
・シリケートとして3号ケイ酸ソーダ(関東化学(株)製試薬) 10g
・親水性樹脂としてアルマテックスE269(エマルジョン樹脂、三井化学(株) 0.4g
・水 50g
【0158】
[比較例1〜3]
<平版印刷版用支持体の作製>
上記実施例で用いた金属基板−1のアルミニウム板に、本発明の前処理を行わずに、実施例で用いた塗布液−1を実施例と同様に塗布して乾燥し、第2表に示す膜厚の多孔質層を形成した。
なお、第2表中、各表題の処理を行わなかった場合の欄を「−」で示した。
【0159】
2.多孔質層および封孔層の評価
<多孔質層の空隙率>
該多孔質層の空隙率の測定は、第2表に示した該多孔質層の膜厚と乾燥後の該多孔質層の質量とから求め結果を第1表に示した。
具体的には、該多孔質層の膜厚と単位面積当たりの皮膜質量とから、以下の式により密度を算出した。
密度(g/cm3 )=(単位面積当たりの皮膜質量/膜厚)
該算出された密度を用いて以下の式に空隙率を求めた。
空隙率(%)={1−(多孔質層の密度/D)}×100
ここで、Dは、該多孔質層の形成に用いる金属酸化物の化学便覧による密度(g/cm3 )である。
なお、該多孔質層の単位面積当たりの皮膜質量は通称メイソン法により測定した。第2表に示した該多孔質層の膜厚は、超高分解能走査型電子顕微鏡によってその膜厚により以下に示す倍率で観察して測定した値である。
膜厚が1μm以下のときは倍率10000倍、膜厚が1〜5μmのときは倍率3000倍、膜厚が5μm以上のときは倍率100〜3000倍とした。
【0160】
<封孔層の空隙率>
該封孔層の空隙率の測定は、上記実施例で得られた各平版印刷版用支持体該を折り曲げて作成した破断面を、超高分解能走査型電子顕微鏡(S−900、日立製作所社製)によって倍率5万倍で観察して撮影した。得られた画像データ(写真)の3cm×3cmの範囲において、いずれの平版印刷版用支持体においても空隙部分が認められなかったため、空隙率を「0%」とし、第2表に示した。
【0161】
<密着性>
上記実施例1〜18および比較例1〜3で得られた各平版印刷版用支持体の多孔質層について、以下の方法で密着性を評価した。その結果を第2表に示す。
密着性評価方法は、連続加重式引っ掻き強度試験器SB62 TYPE18(新東科学(株)製)を用いて、サファイヤ針0.4mmφ、針の移動速度1m/分の条件下、加重1.5kgで試験した。評価は、摩耗部分を目視して、摩耗跡の状態で評価した。
摩耗跡の状態が、変化がない場合を「◎」、僅かに表面に摩耗跡がある場合を「○」、明瞭な摩耗跡が見られる場合を「△」、基板表面が露出した場合を「×」で示した。
【0162】
<耐界面剥離性>
上記実施例1〜18および比較例1〜3で得られた各平版印刷版用支持体の多孔質層の耐剥離性を、得られた支持体サンプルを折り曲げて、その折り曲げた部分を超高分解能走査型電子顕微鏡(S−900、日立製作所社製)にて観察し、金属基板と多孔質層との界面の剥離状態で評価をした。
界面で剥離がほとんどない状態を「◎」、僅かに剥離する状態を「○」、所々剥離が見られる状態を「△」、折り曲げる際に剥離した状態を「×」で示した。
【0163】
2.平版印刷版原版の作製
上記実施例1〜22および比較例1〜3で得られた、各平版印刷版用支持体上に、以下の組成を有する感光液塗布液を乾燥後の皮膜量が1.0g/m2 になるように塗布したのち、TABAI社製、PERFECT OVEN PH200にてWind Controlを7に設定して140℃で50秒間乾燥し、平版印刷版原版を得た。
【0164】
【0165】
(シロキサン構造含有アルカリ可溶性樹脂(F−1)の合成)
クレゾールノボラック(m/p比=6/4、重量平均分子量=5200)120gをメタノール400mLに溶解し、ナトリウムメトキシド5.4gを加え、30分間攪拌した。メタノールを減圧留去し、テトラヒドロフラン400mLを加え、溶媒を置換した。エポキシ型末端反応性シリコーンMCR−E11((株)チッソ製)17gを加え、6時間、加熱、還流した。反応液を室温まで冷却し、水8000mLに注ぎ込み、分離物をろ取、水洗、乾燥することによりシロキサン構造含有アルカリ可溶性樹脂(F−1)132gを得た。
【0166】
【化2】
【0167】
3.平版印刷版原版および平版印刷版の評価
<耐刷性>
上記で得られた各平版印刷版原版を、水冷式40W赤外線半導体レーザを搭載したクレオ社製トレンドセッター3244VFSを用いて、解像度2400dpiの条件で出力して露光した。
【0168】
上記画像露光後、富士写真フイルム(株)製現像液DT−1(1:8で希釈したもの)および富士写真フイルム(株)製フィニッシャーFP2W(1:1で希釈したもの)を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサー900Hを用い、液温30℃、現像時間12秒にて現像した(このときの現像液の電導度は45mS/cmであった。)。
次に、三菱ダイヤ型F2印刷機(三菱重工業社製)で、DIC−GEOS(s)紅のインキを用いて印刷し、50枚印刷後、残色、残膜、汚れのない印刷物が何枚得られるかを計測した。即ち、残色、残膜、汚れのいずれかが、印刷物許容レベル以下のなった時点で、刷了とし、その時点の枚数を印刷枚数を刷了枚数とし結果を第2表に示した。
第2表では、5万枚以上を「◎」、5万枚未満〜3万枚以上を「○」、3万枚未満〜1万枚以上を「△」、1万枚未満を「×」で示した。
【0169】
【表2】
【0170】
【表3】
第2表の結果から、多孔質層と金属基板との間に特定の前処理層を有し、特定の多孔質層を設けた本発明の平版印刷版用支持体および平版印刷版原版は、基板と多孔質層との密着性に優れるので耐刷性に優れていることがわかる。
また、基板としてアルミニウム基板を用いた場合でも、比較的低温(アルミニウムの軟化温度未満)で該多孔質層を形成できるので、軟化による印刷性能の低下(特に基板と画像とのずれ)が見られない。
さらに、本発明の多孔質層を設けた平版印刷版用支持体は、各種基板を用いて作製したものであっても、耐キズ、感度、耐汚れ性、密着性、耐界面箔理性および耐刷性のいずれにも優れることがわかる。
【0171】
【発明の効果】
本発明の平版印刷版用支持体および平版印刷版原版は、特に断熱性が高い多孔質層を有し、デジタル信号に基づいた走査露光による製版が可能であり、耐キズ性、優れた感度、耐汚れ性および耐刷性を有し、かつ多孔質層と基板との密着性が高く耐摩耗性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の平版印刷版用支持体の陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【符号の説明】
410 陽極酸化処理装置
412 給電槽
413 中間槽
414 陽極酸化処理槽
416 アルミニウム板
418、426 電解液
420 陽極
422、428 パスローラ
424 ニップローラ
430 陰極
434 直流電源
436、438 給液ノズル
440 しゃへい板
442 排液口
Claims (7)
- 酸またはアルカリ処理した金属基板表面上に、金属酸化物の粒子が金属原子とリン原子を含む化合物によって結着してなる多孔質層を有する平版印刷版用支持体。
- 陽極酸化処理した金属基板表面上に、金属酸化物の粒子が金属原子とリン原子を含む化合物によって結着してなる多孔質層を有する平版印刷版用支持体。
- 前記金属酸化物が、ケイ素、マグネシウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選択される少なくとも1種以上の金属の酸化物または複合酸化物である請求項1または2に記載の平版印刷版用支持体。
- 前記多孔質層の上に、さらに封孔層を有する請求項1〜3のいずれかに記載の平版印刷版用支持体。
- 前記多孔質層の空隙率が20%以上であり、前記封孔層の空隙率が該多孔質層の空隙率以下である請求項4に記載の平版印刷版用支持体。
- 前記多孔質層の膜厚が0.5〜20μmである請求項4または5に記載の平版印刷版用支持体。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の平版印刷版用支持体上に、画像記録層を有する平版印刷版原版。
Priority Applications (4)
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