JP2004335491A - 強誘電体膜と強誘電体膜の製造方法および強誘電体キャパシタならびに強誘電体メモリ - Google Patents
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Abstract
【課題】角型性が良好なヒステリシス特性を有する強誘電体膜を形成することができる強誘電体膜の製造方法および強誘電体膜を提供する。
【解決手段】本発明の強誘電体膜の製造方法は、強誘電体材料膜に、結晶核を形成するための第1熱処理と、
前記強誘電体材料膜を結晶化させるための第2熱処理と、を含む。
【選択図】 図2
【解決手段】本発明の強誘電体膜の製造方法は、強誘電体材料膜に、結晶核を形成するための第1熱処理と、
前記強誘電体材料膜を結晶化させるための第2熱処理と、を含む。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、強誘電体膜とその製造方法、および強誘電体キャパシタならびに強誘電体メモリに関する。
【0002】
【背景技術】
現在、ICメモリとして強誘電体メモリが提案されている。強誘電体メモリは、強誘電体膜を有し、この強誘電体膜を1対の電極で挟んで構成されており、自発分極によりデータを保持するものである。そのような強誘電体メモリの一つにセルトランジスタを有せず、強誘電体キャパシタのみを用いた単純マトリクス型の強誘電体メモリがある。単純マトリクスが型の強誘電体メモリは、非常に簡単な構造を有し、高い集積度を得ることができることから、その開発が期待されている。
【0003】
このような単純マトリクス型の強誘電体メモリには、非選択メモリセルに動作電圧の1/2〜1/3の電圧を加えなければならないため、クロストークやディスターブなどの問題がある。このような問題を防ぐには、抗電圧以下では、残留分極をほとんどもたず、抗電圧以上の動作電圧ではなるべく低い電圧で残留分極が飽和するような、角型性の良好な強誘電体膜を適用することが好ましい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、角型性が良好なヒステリシス特性を有する強誘電体膜を形成することができる強誘電体膜の製造方法および強誘電体膜を提供することにある。本発明の他の目的は、前記強誘電体膜を有する強誘電体キャパシタならびに強誘電体メモリを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明の第1の強誘電体膜の製造方法は、強誘電体材料膜に、短時間の高速熱処理を施し結晶核を形成する第1熱処理と、前記強誘電体材料膜を結晶化させるための第2熱処理と、を含む。
【0006】
本発明によれば、強誘電体膜の結晶化の工程は、2段階の熱処理を経て行なうことができる。具体的には、第1熱処理により結晶核が形成され、第2熱処理により結晶化が行なわれる。ここで、高速熱処理とは、昇温レートが10℃/sec以上の熱処理を行なうことをいい、短時間とは、結晶配向を制御するために結晶核を形成できるだけの時間であればよく、たとえば、所望の温度に達した後に長くても約3分以内の加熱を行なうことをいう。
【0007】
通常、配向がそろった強誘電体膜を形成するために、昇温レートが高い熱処理で強誘電体膜の結晶化が行なわれることがある。しかし、この場合、昇温レートが高いために、強誘電体膜を組成する成分の一部が蒸発により脱離してしまうことがある。たとえば、PZT膜の場合であれば、Pbが脱離してしまう。このため、結晶配向が揃いかつ良好な組成の強誘電体膜を形成できないことがある。しかし、本発明によれば、第1熱処理で配向の制御が行なわれ、第2熱処理では結晶化が行なわれているため、配向が揃いかつ、良好な組成の強誘電体膜を形成することができる。その結果、角型性が向上し、強誘電体メモリに適した強誘電体膜を製造することができる。
【0008】
本発明は、下記の態様をとることができる。
【0009】
(A)本発明の第1の強誘電体膜の製造方法において、前記第1熱処理は、ラピッド・サーマル・アニール法により行なわれることができる。この態様によれは、昇温レートが高いため、配向が揃った結晶核の形成を行うことができる。
【0010】
(B)本発明の第1の強誘電体膜の製造方法において、前記第2熱処理は、2気圧以上に加圧された状態で、かつ酸素分圧が1気圧より低い状態で行なわれることができる。この態様によれば、2気圧以上に加圧されることにより、強誘電体材料膜に含まれる金属材料(例えば、Pb、Biなど)の蒸気発生を抑えることができる。また、雰囲気中に含まれる酸素分圧を1気圧より低くすることで、これらの金属材料と酸素との結合を抑制することができ、良好な結晶状態の強誘電体膜を得ることができる。
【0011】
(C)本発明の第1の強誘電体膜の製造方法において、さらに、第2熱処理の後に回復熱処理を行なうこと、を含むことができる。この態様によれば、本発明の強誘電体膜の製造方法を適用して強誘電体キャパシタを形成する場合に、強誘電体膜と電極との界面状態を改善することができ、強誘電体特性の回復を図ることができる。
【0012】
(2)また、本発明の第2の強誘電体膜の製造方法は、Pb(Zr、Ti)O3からなる強誘電体膜を製造するための方法であって、少なくともPb(Zr、Ti)O3を結晶化するための熱処理を行った後に、雰囲気中の酸素分圧を制御して他の熱処理を行うことを含み、前記他の熱処理では、Pb(Zr、Ti)O3の原料に含まれるPb、Zr、およびTiの組成比に関連付けて、前記雰囲気中の酸素分圧が決定される。
【0013】
本発明によれば、強誘電体であるPb(Zr、Ti)O3を結晶化するための熱処理とは個別に、かかる熱処理後に、いわゆるポストアニールとよばれる他の熱処理を行う。
【0014】
通常、Pb(Zr、Ti)O3からなる強誘電体膜を形成する際には、鉛が結晶化温度に比べて十分に低い温度から酸素と結合して脱離しやすいため、化学量論的組成に比して高い組成比で原料中に含まれている場合が多い。しかし、かかる鉛の過剰成分は、Pb(Zr、Ti)O3とは別に形成膜中において常誘電体性を示すPbOXとなって混在することがある。このような常誘電体性を有する物質が膜中に混在すると、強誘電体膜の特性に望ましからぬ影響を与えるおそれがあり、例えば、ヒステリシス特性における角型性が劣化することが考えられる。また、Pb(Zr、Ti)O3からなる強誘電体膜は、その上下に例えば、Ptなどの金属膜からなる電極を設けたキャパシタの状態でデバイスに用いることができるが、強誘電体膜の電極との界面において両者の格子整合性などが影響してキャパシタの特性の劣化をもたらすこともある。また、かかるキャパシタにエッチングなどによる加工を施せば、強誘電体膜が加工ダメージを受けてキャパシタの特性を劣化させることも考えられる。
【0015】
しかし、本発明では、Pb(Zr、Ti)O3の結晶化のための熱処理を行った後に、ポストアニールとして雰囲気中の酸素分圧を制御しながら他の熱処理を行うことで、強誘電体膜の界面特性の改善や結晶状態の回復を行うことができる。
【0016】
なお、酸素分圧は、雰囲気全体の圧力に酸素濃度を乗じた値として規定され、本発明において他の熱処理では、前記雰囲気全体の圧力に応じて酸素濃度を制御することにより酸素分圧を決定することができる。すなわち、他の熱処理を行う際の雰囲気全体の圧力がどのような状態であったとしても、雰囲気中の酸素濃度を制御することにより、酸素分圧を制御して熱処理を行うことができる。
【0017】
また、結晶化のための熱処理を行ったPb(Zr、Ti)O3にさらに熱処理を行うことは、その原料に含まれるPb、Zr、およびTiの組成比に関係して新たにPbOXが生成されることや、結晶中に酸素欠損が生じることがあり、これらは強誘電体膜の結晶状態に望ましからぬ影響を与えるおそれがある。しかし、本発明では、Pb、Zr、Tiの組成比に関連付けて決定された雰囲気中の酸素分圧で他の熱処理を行うことで、新たなPbOXの生成を抑制することや、結晶中の酸素欠損を補充することもできる。
【0018】
さらに、本発明では、下記の態様をとることができる。
【0019】
(A)本発明の第2の強誘電体膜の製造方法において、前記他の熱処理は、前記熱処理後の膜中に残存するPbOXを分解する処理であることができる。この態様によれば、他の熱処理によって膜中に残存するPbOXを分解することより、分解された構成元素が電荷中性条件を満たそうとして結晶中の酸素欠損などを回復させ、また分解されたPb成分によるPb(Zr、Ti)O3の再結晶化を促進することにより、Pb(Zr、Ti)O3の結晶性を向上させることができる。
【0020】
(B)本発明の第2の強誘電体膜の製造方法において、前記雰囲気中の酸素分圧を0.01[MPa]以上0.03[MPa]以下の範囲に制御して前記他の熱処理を行うことができる。この態様によれば、例えば、原料中に化学量論的組成に対して過剰な鉛成分が含まれている場合に有効である。一般に鉛は、強誘電体の結晶化温度に比べて十分に低い温度で酸素と結合してPbOXからなる常誘電体を構成しやすい。このため、例えば、他の熱処理が酸素分圧の高い雰囲気中で行われると、この過剰な鉛成分が熱処理の際に酸素と結合してしまい、PbOXからなる常誘電体結晶が膜中に混在して強誘電体膜の特性に望ましからぬ影響を与えるおそれがある。また、例えば、他の熱処理が酸素分圧の低い状態で行われると、Pb(Zr、Ti)O3の還元反応が進行して、結晶中に酸素欠損が生じるおそれがある。しかし、かかる態様に示されるように雰囲気中の酸素分圧を0.01[MPa]〜0.03[MPa]の範囲に制御して他の熱処理を行うと、Pb(Zr、Ti)O3の結晶性を向上させることができる。より詳細には、後述する実施例の中で説明する。なお、かかる態様においては、前記原料に含まれるPb、Zr、およびTiの組成比を、Pb:Zr:Ti=120:20:80とすることができる。
【0021】
本発明の強誘電体膜は、本発明の第1又は第2の強誘電体膜の製造方法により形成された強誘電体膜である。
【0022】
本発明の強誘電体キャパシタは、本発明の強誘電体膜を有する。
【0023】
本発明の強誘電体メモリは、本発明の強誘電体キャパシタを含む。
【0024】
【発明の実施の形態】
[第1の実施の形態]
本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、本発明の第1の強誘電体膜の製造方法を適用した強誘電体キャパシタの製造方法について説明する。
【0025】
まず、基体の上に第1電極を形成する。第1電極は、例えば、Pt、Ir、Al、Au、Ag、Ru、Sr等の金属や、酸化物導電体(例えば、IrOx等)や、窒化物導電体(例えば、TiN等)などを材料としてスパッタ法を用いて形成することができる。また、第1電極は、単層膜でもよいし、積層した多層膜でもよい。ここで、「基体」とは、半導体基板にトランジスタなどを有する構造をとることができる。
【0026】
次に、第1電極の上に、強誘電体膜を形成する。強誘電体膜の形成は、まず、強誘電体材料の原料液を用いて、スピンコート法、ディッピング法などの塗布法により強誘電体材料膜(以下「塗布膜」ということもある)を形成する。この原材液には、ゾルゲル原料とMOD原料とが含まれる。原料液としたのは、PZT(Lead Zirconate Titanate)や、SBTなどの強誘電体材料を含んだものを用いる。ついで、必要に応じて塗布膜を乾燥および仮焼成する。
【0027】
次に、第1熱処理を行なう。第1熱処理は、結晶核を形成するための工程であり、塗布膜に短時間の高速熱処理を施す。ここで、高速熱処理とは、昇温レートが10℃/sec以上の熱処理を行なうことをいい、短時間とは、結晶配向を制御するために結晶核を形成できるだけの時間であればよく、たとえば、所望の温度に達した後に長くても約3分以内の加熱を行なうことをいう。たとえば、ラピッド・サーマル・アニール法により行なうことができ、酸素、窒素、および希ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0028】
続いて、第2熱処理を行なう。第2熱処理は、結晶核が形成された塗布膜にさらに加熱を行ない結晶化をさせるための工程である。第2熱処理は、全体として2気圧以上に加圧され、かつ、酸素分圧が1気圧以下である条件下で処理を行なう。このようにして、強誘電体膜を形成することができる。
【0029】
次に、強誘電体膜の上に第2電極を形成する。第2電極は、第1電極と同様にして形成される。その後、一般的なリソグラフィおよびエッチング技術により第1電極、強誘電体膜および第2電極をパターニングする。このようにして、本実施の形態にかかる強誘電体キャパシタが形成される。
【0030】
また、本実施の形態に係る強誘電体キャパシタの製造方法では、強誘電体キャパシタが形成された後に、回復熱処理を行なってもよい。回復熱処理は、強誘電体特性を回復するための熱処理を行なわれ、エッチング工程でのプロセスダメージを回復させることができる。
【0031】
なお、回復熱処理は、FA(ファーネス)を用いてゆっくり加熱を行ってもよいし、ラピッド・サーマル・アニール法を用いて急速加熱を行ってもよい。
【0032】
なお、上述した各種熱処理は、強誘電体材料膜を構成する金属材料の蒸気発生に対して不活性な気体、例えば、窒素、アルゴン、キセノンなどの雰囲気中で行うことができる。かかる雰囲気中で熱処理を行うことにより、複合酸化物を構成する金属材料の蒸気発生の抑止効果がさらに高まる。
【0033】
また、上述した各種熱処理の昇温過程及び降温過程の少なくともいずれか一方において、複数段階の加圧を行うことができる。
【0034】
本実施の形態の強誘電体膜の製造方法によれば、強誘電体膜の結晶化は2段階の熱工程により行なわれる。配向がそろった強誘電体膜を形成するために、昇温レート高い熱処理で強誘電体膜の結晶化が行なわれることがある。しかし、この場合、昇温レートが高いために、強誘電体膜を組成する成分に一部が蒸発により脱離してしまうことがある。たとえば、PZT膜の場合であれば、Pbが脱離してしまう。このため、結晶配向が揃いかつ良好な組成の強誘電体膜を形成できないことがあった。しかし、本発明によれば、第1熱処理で配向の制御が行なわれ、第2熱処理では結晶化が行なわれているため、配向が揃いかつ、良好な組成の強誘電体膜を形成することができる。その結果、角型性が向上し、強誘電体メモリに適した強誘電体膜を製造することができる。
【0035】
また、本実施の形態に他の利点として、処理時間の短縮を挙げることができる。たとえば、ラピッド・サーマル・アニール法を用いて1段階の熱処理で結晶化を行なう場合、枚葉式の処理装置で熱処理が行なわれるため、ウエハの枚数に比例して処理時間が長くなってしまい、またコストもかかることとなる。しかし、本実施の形態によれば、第1熱処理は、たとえば、ラピッド・サーマル・アニール法により短時間の加熱処理を行ない、第2熱処理は、バッチ式の処理が行なえる炉を用いて処理ができる。そのため、全体の処理時間は、大幅に短縮でき、またコストの削減にも寄与する。
【0036】
以下に、本実施の形態の強誘電体膜の製造方法の実施例および比較例について説明し、本実施の形態の製造方法の効果について説明する。
【0037】
(実施例1)
実施例1では、Pt電極が形成された所与の基体上に、Pb(Zr0.2、Ti0.8)O3をスピンコート法を用いて成膜した。
【0038】
本実施例では、PZT(Zr/Ti=20/80)の化学量論的組成にそれぞれ調整されたゾルゲル溶液にモル比で10%過剰となるようにPbを添加した原材料溶液を用いた。ゾルゲル溶液において、Pbを過剰に含んでいるのは、結晶化などの化熱工程などでのPbの脱離を防ぐためである。
【0039】
そして、これらの原料溶液を、スピンコーティング(3000rpm、30秒)して400℃で5分間、原料溶液を仮焼成する工程を3回繰り返して、Pt電極上に150nmの塗布膜を形成した。次に、塗布膜を乾燥および仮焼成した。その後、結晶核を形成するために第1熱処理を行なった。第1熱処理の昇温レートは、50℃/secであり、650℃の温度に達した後、1.5minの加熱処理を行なった。ついで、結晶化された強誘電体膜を得るために第2熱処理を行なった。第2熱処理は、全体の気圧が2気圧であり、酸素の分圧が0.1気圧より小さい雰囲気下で行なった。このようにして、実施例1にかかる強誘電体膜が製造された。
【0040】
図1(a)は、このとき得られたPZT膜のX線回折パターンを示す図であり、図2の実線1は、本実施例の製造方法により得られた強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す図である。
【0041】
(実施例2)
実施例2では、2段階の熱処理により強誘電体膜の結晶化を行なった。具体的には、第1熱処理は、昇温レートは、50℃/secであり、650℃の温度に達した後、1.5minの加熱処理を行なった。第2熱処理は、常圧で酸素雰囲気下で行なった。
【0042】
図2の実線2は、実施例2の製造方法により得られた強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す図である。実施例2により得られたPZT膜のX線回折パターンは、実施例1と同様であったため、特に図示しない。
【0043】
(比較例)
比較例1では、1段階の熱処理により強誘電体膜の結晶化を行なった。具体的には、通常の炉を用いて全体の気圧が2気圧で、酸素分圧が0.1気圧より小さい雰囲気下で行ない、加熱温度は650℃であり、処理時間は60minの熱処理を行なった。
【0044】
図1(b)は、比較例1により得られたPZT膜のX線回折パターンを示す図であり、図2の破線は、比較例1の製造方法により得られた強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す図である。
【0045】
(評価)
図1(a)および(b)は、実施例1,2および比較例により得られたPZT膜のX線回折パターン示す図である。図1(a)より明らかなように、実施例1,2の強誘電体膜では38degにピークがみられる。これにより、(111)面配向に成長したPZT膜が形成されたことがわかる。一方、図1(b)より明らかなように、比較例1の強誘電体膜では広範囲わたりピークが見られ種々の面に配向成長した膜が形成されていることがわかる。すなわち、第1熱処理を行なうことにより、結晶の配向制御を良好に行なうことができた。
【0046】
図2は、実施例1,2および比較例の製造方法により得られた強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す図である。実線1および2は、実施例にかかる強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示し、破線は、比較例にかかる強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す。
【0047】
図2に示すように、実施例1,2の強誘電体キャパシタにおいては、比較例の強誘電体キャパシタと比して、2V以下の低電圧で飽和する角型性の良いヒステリシス形状が得られた。また、実施例の強誘電体キャパシタは、分極値Prが約30C/cm2となり、良好な分極特性を示すことが分かった。また、実施例1と2とを比較すると、実施例1の強誘電体キャパシタは、より低電圧で飽和する角型性のよいヒステリシス特性を有していることがわかった。これは、第2熱処理を加圧雰囲気下で行なうことにより、強誘電体材料膜に含まれるPbの蒸気発生を抑えることができ、また、雰囲気中に含まれる酸素分圧を1気圧より低くして行なったことで、これらの金属材料と酸素との結合を抑制することができたためと考えられる。
【0048】
[第2の実施の形態]
本発明の強誘電体メモリは、上記強誘電体キャパシタを含んで形成され、以下に示す各種の態様を取りうる。
【0049】
1.第1の強誘電体メモリ
図3は、第1の強誘電体メモリ1000を模式的に示す断面図である。この強誘電メモリ装置1000は、強誘電体メモリの制御を行うトランジスタ形成領域を有する。このトランジスタ形成領域が第1の実施の形態で述べた基体100に相当する。
【0050】
基体100は、半導体基板10にトランジスタ12を有する。トランジスタ12は、公知の構成を適用でき、薄膜トランジスタ(TFT)、あるいはMOSFETを用いることができる。図示の例ではMOSFETを用いており、トランジスタ12は、ドレインおよびソース14、16と、ゲート電極18とを有する。ドレインおよびソースの一方14には電極15が形成され、ドレインおよびソースの他方16にはプラグ電極26が形成されている。プラグ電極26は、必要に応じてバリア層を介して強誘電体キャパシタC100の第1電極20に接続されている。そして、各メモリセルは、LOCOSあるいはトレンチアイソレーションなどの素子分離領域17によって分離されている。トランジスタ12などが形成された半導体基板10上には、酸化シリコンなどの絶縁物からなる層間絶縁膜19が形成されている。
【0051】
以上の構成において、強誘電体キャパシタC100より下の構造体が基体100であるトランジスタ形成領域を構成している。このトランジスタ形成領域は、具体的には、半導体基板10に形成されたトランジスタ12、電極15,26、層間絶縁層19などを有する構造体からなる。このような基体100上に、第1の実施の形態の製造方法により製造された強誘電体キャパシタC100が形成されている。
【0052】
この強誘電体メモリ1000は、DRAMセルと同様に、蓄積容量に情報としての電荷をため込む構造を有する。すなわち、メモリセルは、図4および図5に示すように、トランジスタと強誘電体キャパシタにより構成される。
【0053】
図4は、メモリセルが1つのトランジスタ12と1つの強誘電体キャパシタC100とを有する、いわゆる1T1Cセル方式を示す。このメモリセルは、ワード線WLとビット線BLとの交点に位置し、強誘電体キャパシタC100の一端は、ビット線BLとの接続をオン・オフするトランジスタ12を介してビット線に接続される。また、強誘電体キャパシタC100の他端は、プレート線PLと接続されている。そして、トランジスタ12のゲートはワード線WLに接続されている。ビット線BLは、信号電荷を増幅するセンスアンプ200に接続されている。
【0054】
以下に、1T1Cセルにおける動作の例を簡単に説明する。
【0055】
読み出し動作においては、ビット線BLを0Vに固定した後、ワード線WLに電圧を印加し、トランジスタ12をオンする。その後、プレート線PLを0Vから電源電圧VCC程度まで印加することにより、強誘電体キャパシタC100に記憶した情報に対応した分極電荷量がビット線BLに伝達される。この分極電荷量によって生じた微少電位変化を差動式センスアンプ200で増幅することにより、記憶情報をVCCまたは0Vの2つの情報として読み出すことができる。
【0056】
書き込み動作においては、ワード線WLに電圧を印加し、トランジスタ12をオン状態にした後、ビット線BL−プレート線PL間に電圧を印加し、強誘電体キャパシタC100の分極状態を変更し決定する。
【0057】
図5は、2つのトランジスタ12と2つの強誘電体キャパシタC100とを有する、いわゆる2T2Cセルを示す図である。この2T2Cセルは、前述した1T1Cセルを2個組み合わせて、相補型の情報を保持する構造を有する。すなわち、2T2Cセルでは、センスアンプ200への2つの差動入力として、相補型にデータを書き込んだ2つのメモリセルから相補信号を入力し、データを検出する。このため、2T2Cセル内の2つの強誘電体キャパシタC100,C100は同じ回数の書き込みが行われるため、強誘電体キャパシタC100の強誘電体膜の劣化状態が等しくなり、安定な動作が可能となる。
【0058】
2.第2の強誘電体メモリ
図6および図7は、MISトランジスタ型メモリセルを有する強誘電体メモリ2000を示す。この強誘電体メモリ2000は、ゲート絶縁層13に強誘電体キャパシタC100を直接接続する構造を有する。具体的には、半導体基板10にソースおよびドレイン14,16が形成され、さらに、ゲート絶縁層13上には、フローティングゲート電極(第1電極)20、本発明に係る強誘電体膜30およびゲート電極(第2電極)22が積層された強誘電体キャパシタC100が接続されている。強誘電体膜30は、第1の実施の形態の製造方法を適用して形成されたものを用いる。この強誘電体メモリ2000においては、半導体基板10、ソース,ドレイン14,16およびゲート絶縁層13が、第1の実施の形態で述べた基体100に相当する。
【0059】
また、この強誘電体メモリ2000は、図7に示すように、ワード線WLは各セルのゲート電極22に接続され、ドレインはビット線BLに接続されている。この強誘電体メモリにおいては、データの書き込み動作は、選択するセルのワード線WLとウェル(ソース)間に電界を印加することによって行われる。また、読み出し動作は、選択セルに対応するワード線WLを選択し、選択セルのビット線BLに接続したセンスアンプ200によって各トランジスタを流れる電流量を検出することで行われる。
【0060】
3.第3の強誘電体メモリ
図8は、第3の強誘電体メモリを模式的に示す図であり、図9は、メモリセルアレイの一部を拡大して示す平面図であり、図10は、図8のA−A線に沿った断面図である。平面図において、( )内の数字は最上層より下の層を示す。
【0061】
この例の強誘電体メモリ3000は、図8に示すように、メモリセル120が単純マトリクス状に配列されたメモリセルアレイ100Aと、メモリセル(強誘電体キャパシタC100)120に対して選択的に情報の書き込みもしくは読み出しを行うための各種回路、例えば、第1信号電極(第1電極)20を選択的に制御するための第1駆動回路150と、第2信号電極(第2電極)22を選択的に制御するための第2駆動回路152と、センスアンプなどの信号検出回路(図示せず)とを含む。
【0062】
メモリセルアレイ100Aは、行選択のための第1信号電極(ワード線)20と、列選択のための第2信号電極(ビット線)22とが直交するように配列されている。すなわち、X方向に沿って第1信号電極20が所定ピッチで配列され、X方向と直交するY方向に沿って第2信号電極22が所定ピッチで配列されている。なお、信号電極は、上記の逆でもよく、第1信号電極がビット線、第2信号電極がワード線でもよい。
【0063】
本実施の形態に係るメモリセルアレイ100Aは、図9および図10に示すように、絶縁性の基体100上に、第1信号電極20、本発明に係る強誘電体膜30および第2信号電極22が積層され、第1信号電極20,第1の実施の形態の製造方法を適用して形成された強誘電体層30および第2信号電極22によって強誘電体キャパシタ120が構成される。すなわち、第1信号電極20と第2信号電極22との交差領域において、それぞれ強誘電体キャパシタ120からなるメモリセルが構成されている。
【0064】
また、強誘電体膜30と第2信号電極22とからなる積層体の相互には、基体100および第1信号電極20の露出面を覆うように、誘電体層38が形成されている。この誘電体層38は、強誘電体膜30に比べて小さい誘電率を有することが望ましい。このように強誘電体膜30および第2信号電極22からなる積層体の相互間に、強誘電体膜30より誘電率の小さい誘電体層38を介在させることにより、第1,第2信号電極20,22の浮遊容量を小さくすることができる。その結果、強誘電体メモリ3000における書き込みおよび読み出しの動作をより高速に行うことが可能となる。
【0065】
次に、強誘電体メモリ3000における書き込み,読み出し動作の一例について述べる。
【0066】
まず、読み出し動作においては、選択セルのキャパシタに読み出し電圧「V0」が印加される。これは、同時に‘0’の書き込み動作を兼ねている。このとき、選択されたビット線を流れる電流またはビット線をハイインピーダンスにしたときの電位をセンスアンプにて読み出す。さらにこのとき、非選択セルのキャパシタには、読み出し時のクロストークを防ぐため、所定の電圧が印加される。
【0067】
書き込み動作においては、‘1’の書き込みの場合は、選択セルのキャパシタに「−V0」の電圧が印加される。‘0’の書き込みの場合は、選択セルのキャパシタに、該選択セルの分極を反転させない電圧が印加され、読み出し動作時に書き込まれた‘0’状態を保持する。このとき、非選択セルのキャパシタには、書き込み時のクロストークを防ぐため、所定の電圧が印加される。
【0068】
以上、蓄積容量型、MISトランジスタ型および単純マトリクス型の強誘電体メモリの例について述べたが、本発明の強誘電体メモリはこれらに限定されず、他のタイプのメモリトランジスタにも適用できる。なお、本実施の形態の強誘電体キャパシタは、上述の強誘電体メモリの他に、焦電型センサー、バイモルフ型圧電アクチュエーターに適用することができる。
【0069】
[第3の実施形態]
本実施の形態では、本発明の第2の強誘電体膜の製造方法を適用して、Pb(Zr、Ti)O3(以下PZTと略す)系の強誘電体膜を有する強誘電体キャパシタの製造方法について説明する。
【0070】
まず、基体の上に第1電極を形成し、この第1電極の上に、強誘電体膜を形成する。強誘電体膜の形成は、まず、強誘電体材料の原料液を用いて、スピンコート法、ディッピング法などの塗布法により強誘電体材料膜(以下「塗布膜」ということもある)を形成する。この原材液には、ゾルゲル原料とMOD原料とが含まれる。原料液としては、PZTの構成元素であるPb、Zr、Tiを含んだものを用いる。ついで、必要に応じて塗布膜を乾燥および仮焼成し、その後結晶化のためのアニール(熱処理)を行う。ここまでの工程については、第1の実施形態の場合と同様の手法を用いることができる。
【0071】
次に、強誘電体膜の上に第2電極を形成する。第2電極は、第1電極と同様にして形成される。その後、一般的なリソグラフィおよびエッチング技術により第1電極、強誘電体膜および第2電極をパターニングする。このようにして、本実施の形態にかかる強誘電体キャパシタが形成される。
【0072】
ここで、本実施の形態では、PZTを結晶化した後で、かつ第2電極を形成した後あるいはその後のパターニング工程を行った後に、雰囲気中の酸素分圧を制御してポストアニール(他の熱処理)を行う。このときポストアニールでは、Pb(Zr、Ti)O3の原料に含まれるPb、Zr、およびTiの組成比に関連付けて、前記雰囲気中の酸素分圧が決定される。なお、酸素分圧は、雰囲気全体の圧力に酸素濃度を乗じた値として規定され、ポストアニールでは、雰囲気全体の圧力に応じて酸素濃度を制御することにより酸素分圧を決定することができる。すなわち、ポストアニールを行う際の雰囲気全体の圧力がどのような状態であったとしても、雰囲気中の酸素濃度を制御することにより、酸素分圧を制御して熱処理を行うことができる。
【0073】
また、本実施の形態において、結晶化アニールとポストアニールの際の処理温度は、以下の温度範囲を用いることが好ましい。結晶化アニールの温度をT1、ポストアニールの温度をT2としたとき、T1とT2が以下の関係を満たす場合に、ポストアニールの効果がよりよいものとなる。具体的には、450℃≦T1≦T2−50℃が好ましく、さらに好ましくは、450℃≦T1≦T2−100℃となる関係であるようにT1とT2とが決定される。言い換えれば、結晶化アニールの温度は、ポストアニールの温度から50℃以上低い温度、さらに好ましくは100℃以上低い温度であることができる。
【0074】
以下に、本実施の形態の強誘電体膜の製造方法の実施例について説明しながら、本実施の形態の製造方法の効果について説明する。
【0075】
(実施例)
従来、PZT系強誘電体を結晶化アニール(熱処理)あるいはポストアニール(他の熱処理)をする時は、酸素100%中あるいは窒素100%中にて大気圧力下にて行われる事が多い。しかしながら、アニールの際の酸素濃度(酸素分圧)およびアニール圧力(雰囲気全体の圧力)と、ヒステリシスカーブの角型性との関連性は明確になっていない。そこで、本実施例では、アニールの際の酸素濃度(または酸素分圧)およびアニール圧力がヒステリシスカーブの角型性に与える影響について検証した。
【0076】
本実施例では、例えば、スピンコート法を用いたPZT成膜の場合について説明する。かかる成膜手順の一例を図11に示す。まず、Pt/TiOx下部電極が形成されたSiウェハ上にPZT塗布溶液をスピンコートする。ついで、乾燥、脱脂工程を行う。この工程を所望の膜厚が得られるまで(例えば、3回)繰返した後、RTA処理(またはファーネスを用いてもよい)によりPZTを結晶化させる。ついで、Pt上部電極をスパッタ法により形成し、フォト/エッチングプロセスを経た後、ポストアニールを行う。このポストアニールは、少なくともPZTを結晶化させるアニールを行った後であればよく、上述のようにフォト/エッチングプロセスを行った後に限られず、例えば、Pt上部電極を形成した後に行ってもよい。
【0077】
ここで、Pb/Zr/Ti=120/20/80の組成比からなる原料を用いて形成したPZTからなる強誘電体膜の場合において、ポストアニール温度およびポストアニール時間を一定にし、アニール圧力および酸素濃度を変化させた時のヒステリシスカーブの形状の変化を図12に示す。図12によれば、酸素分圧PO2が0.01[MPa]〜0.03[MPa]となる範囲でポストアニールが行われた場合を中心としてヒステリシスカーブの角型性が徐々に劣化していることがわかる。これを定量的に検証するために、2種類の指標を用いて、雰囲気中の酸素分圧PO2がヒステリシスカーブの角型性に与える影響を評価した。なお、酸素分圧PO2は、一般に雰囲気全体の圧力に酸素濃度を乗じたもので表される。したがって、酸素分圧PO2は、線形軸上では、雰囲気全体の圧力に対して直角双曲線状に推移することになるが、図12では両対数となる軸上で表すことにより、酸素分圧PO2が一定の領域が直線状に表されることになる。
【0078】
(第1の指標による検証)
まず、図13に示すように、第1の指標として残留分極量Prと飽和分極量Psとの比Pr/Psを用いてヒステリシスカーブの角型性を検証した。このPr/Psの値は、1に近づくほど角型性がよいことになる。また、この第1の指標による検証では、アニール圧力を0.1[MPa]、0.2[MPa]、0.45[MPa]、1.0[MPa]として酸素濃度を変化させたときのヒステリシスカーブのPr/Psの変動を測定した。図14に、かかるPr/Psのアニール圧力および酸素濃度の依存性を示す。かかる図14によれば、アニール圧力が上記いずれの場合においても、Pr/Psの値が最大となる酸素濃度があることがわかる。具体的には、例えば、アニール圧力が0.1[MPa]の場合、酸素濃度が約1%のときが最大となり、このときの酸素分圧は、0.01[MPa]となる。このようにして、Pr/Psが最大となる酸素濃度を元に酸素分圧を求めていくと、酸素分圧PO2が0.01[MPa]〜0.03[MPa]の範囲内において、Pr/Psが最大となることが確認された。
【0079】
(第2の指標による検証)
次に、図15に示すように、第2の指標として抗電界Ecにおけるヒステリシスカーブの接線の傾きを示すε0×ε(Ec)と、残留分極量Prにおけるヒステリシスカーブの接線の傾きを示すε0×ε(Pr)との比であるε(Ec)/ε(Pr)を用いてヒステリシスカーブの角型性を検証した。このε(Ec)/ε(Pr)では、値が大きいほど角型性が良いことを意味し、角型性が良い場合には、ε0×ε(Pr)が90°に近づき、またはε0×ε(Pr)が0°に近づくため値が無限大に発散していき、角型性が悪い場合には、ε0×ε(Ec)とε0×ε(Pr)の値が近づいていくため最終的には1に収束していく。また、この第2の指標による検証においても、第1の指標による検証の場合と同様に、アニール圧力を0.1[MPa]、0.2[MPa]、0.45[MPa]、1.0[MPa]として酸素濃度を変化させたときのヒステリシスカーブのε(Ec)/ε(Pr)の変動を測定した。図16にε(Ec)/ε(Pr)のアニール圧力および酸素濃度の依存性を示す。すると、図16においても、第1の指標で検証した場合と同様な傾向を示し、酸素分圧PO2が0.01[MPa]〜0.03[MPa]の範囲内において、ε(Ec)/ε(Pr)が最大となることが確認された。
【0080】
(検証結果の考察)
まず、図14及び図16に示されるように、上記第1の指標および第2の指標による検証の結果、各アニール圧力においてヒステリシスカーブの角型性を最大にする最適酸素濃度が存在する事がわかる。また、この最適酸素濃度は、アニール圧力を増すにつれて、低酸素濃度側にシフトすることが分かった。
【0081】
図12に示される各ヒステリシスカーブの角型性を高めるための最適アニール条件を図17に示す。図17から分かるように、ヒステリシス角型性を高めるための最適アニール領域は、酸素分圧PO2が一定のラインにほぼ平行に存在している事が分かり、
0.01[MPa]<PO2<0.03[MPa]・・・(1)
の間に入る事がわかる。なおPO2が式(1)の領域に入っていれば、PZTのアニール圧力は加圧側でも減圧側でもどちらでもよいといえる。
【0082】
また、X線回折の結果(図示省略)によると実施例中に示された全てのPZT膜の配向性にはほとんど差はないことが分かった。すなわち、配向性はPZT溶液塗布後のRTA処理により決定されるので、ポストアニールは結晶配向性には直接影響を与えない。従って、実施例中のPZT膜において、ヒステリシスカーブの角型性を決定するのは、ポストアニールによって変動したPZTの組成比や、生成された諸格子欠陥や、生成あるいは分解された異相成分などであるといえる。
【0083】
また、本実施例中で確認された現象は、(1)酸素分圧PO2に応じて生じた酸素欠陥、(2)PZTそれ自身の結晶中に含まれるPbやPZT界面近傍や結晶粒界に僅かに析出しているであろうPbOXの酸化状態が酸素分圧PO2の値に応じて変化し、部分的に還元されたPbがPt電極と反応し合金を形成する過程、が実施例中のPZTのヒステリシス角型性に影響を与える因子であると考えられる。
【0084】
例えば、高い酸素分圧PO2下では、粒界や結晶界面層のPbOXは分解されにくく、粒界や結晶界面層に過剰のPbOXが残存した状態となる。むしろ、PbOX+(δ/2)O2→PbOX+δの反応により、より酸化度の高いPbOXが生成されてしまう可能性さえある。この場合PbOXの示す常誘電体性ゆえにヒステリシスの角型性は悪い。一方、最適化された(例えば、0.01[MPa]〜0.03[MPa]の範囲)酸素分圧PO2下では、結晶界面層のPbOXは部分的に還元分解され、これらのPbが(1−y)Pt+yPbOX→Pb1−yPty+(xy/2)O2によりPZT膜の上部や下部のPt電極と反応し合金化しやすい。この場合、良好な電極/強誘電体界面状態によりヒステリシスの角型性は良い。さらに、低酸素分圧PO2下では、むしろPb(Zr,Ti)O3→Pb(Zr、Ti)O3−δ+(δ/2)O2により還元的な反応が進み、PZT結晶中の酸素空位を生成しやすくPZTの強誘電体性を劣化させ、ヒステリシスカーブの角型性を落としてしまうと考えられる。
【0085】
以上のような理由で、実施例中のPZTにおいてリカバリーアニールにおける酸素分圧PO2に応じてヒステリシスの角型性が変わると考えられる。
【0086】
従って、本実施例におけるPZT膜のヒステリシス角型性を高めるための最適リカバリーアニール条件領域は、酸素分圧PO2が一定のラインにほぼ平行して存在し、Pb/Zr/Ti=120/20/80の場合、0.01[MPa]<PO2<0.03[MPa]・・・(1)の間にほぼ入る。この(1)式で表される酸素分圧PO2の領域でリカバリーアニールを行うと、PZTのヒステリシスカーブの角型性を向上させることができる。なお、PO2が(1)式で表される領域に入っていれば、アニールの際の圧力雰囲気は、大気圧に対して加圧側でも減圧側でもどちらでもよいことがわかる。
【0087】
以上、本発明に好適な実施の形態について述べたが、本発明は上記した実施の形態に限られるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変形態様により実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の強誘電体膜のX線回折パターンを示す図。
【図2】比較例の強誘電体膜のX線回折パターンを示す図。
【図3】実施例および比較例による強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す図。
【図4】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す断面図。
【図5】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す断面図。
【図6】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す断面図。
【図7】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す断面図。
【図8】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す平面図。
【図9】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す平面図。
【図10】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す断面図。
【図11】第3の実施形態の実施例に係る強誘電体キャパシタの製造工程の一例を示す図。
【図12】第3の実施形態の実施例に係る強誘電体キャパシタのヒステリシスカーブを説明するための図。
【図13】第3の実施形態の実施例に係るヒステリシスカーブの角型性の指標を説明するための図。
【図14】第3の実施形態の実施例に係るヒステリシスカーブの角型性とアニール雰囲気中の酸素濃度との関係を示す図。
【図15】第3の実施形態の実施例に係るヒステリシスカーブの角型性の指標を説明するための図。
【図16】第3の実施形態の実施例に係るヒステリシスカーブの角型性とアニール雰囲気中の酸素濃度との関係を示す図。
【図17】第3の実施形態の実施例に係る最適酸素分圧領域を説明するための図。
【符号の説明】
20…第1電極、22…第2電極、30…強誘電体膜、100…基体、C100(120)…強誘電体キャパシタ、 100A…メモリセルアレイ、 1000…第1の強誘電体メモリ、 2000…第2の強誘電体メモリ、 3000…第3の強誘電体メモリ
【発明の属する技術分野】
本発明は、強誘電体膜とその製造方法、および強誘電体キャパシタならびに強誘電体メモリに関する。
【0002】
【背景技術】
現在、ICメモリとして強誘電体メモリが提案されている。強誘電体メモリは、強誘電体膜を有し、この強誘電体膜を1対の電極で挟んで構成されており、自発分極によりデータを保持するものである。そのような強誘電体メモリの一つにセルトランジスタを有せず、強誘電体キャパシタのみを用いた単純マトリクス型の強誘電体メモリがある。単純マトリクスが型の強誘電体メモリは、非常に簡単な構造を有し、高い集積度を得ることができることから、その開発が期待されている。
【0003】
このような単純マトリクス型の強誘電体メモリには、非選択メモリセルに動作電圧の1/2〜1/3の電圧を加えなければならないため、クロストークやディスターブなどの問題がある。このような問題を防ぐには、抗電圧以下では、残留分極をほとんどもたず、抗電圧以上の動作電圧ではなるべく低い電圧で残留分極が飽和するような、角型性の良好な強誘電体膜を適用することが好ましい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、角型性が良好なヒステリシス特性を有する強誘電体膜を形成することができる強誘電体膜の製造方法および強誘電体膜を提供することにある。本発明の他の目的は、前記強誘電体膜を有する強誘電体キャパシタならびに強誘電体メモリを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明の第1の強誘電体膜の製造方法は、強誘電体材料膜に、短時間の高速熱処理を施し結晶核を形成する第1熱処理と、前記強誘電体材料膜を結晶化させるための第2熱処理と、を含む。
【0006】
本発明によれば、強誘電体膜の結晶化の工程は、2段階の熱処理を経て行なうことができる。具体的には、第1熱処理により結晶核が形成され、第2熱処理により結晶化が行なわれる。ここで、高速熱処理とは、昇温レートが10℃/sec以上の熱処理を行なうことをいい、短時間とは、結晶配向を制御するために結晶核を形成できるだけの時間であればよく、たとえば、所望の温度に達した後に長くても約3分以内の加熱を行なうことをいう。
【0007】
通常、配向がそろった強誘電体膜を形成するために、昇温レートが高い熱処理で強誘電体膜の結晶化が行なわれることがある。しかし、この場合、昇温レートが高いために、強誘電体膜を組成する成分の一部が蒸発により脱離してしまうことがある。たとえば、PZT膜の場合であれば、Pbが脱離してしまう。このため、結晶配向が揃いかつ良好な組成の強誘電体膜を形成できないことがある。しかし、本発明によれば、第1熱処理で配向の制御が行なわれ、第2熱処理では結晶化が行なわれているため、配向が揃いかつ、良好な組成の強誘電体膜を形成することができる。その結果、角型性が向上し、強誘電体メモリに適した強誘電体膜を製造することができる。
【0008】
本発明は、下記の態様をとることができる。
【0009】
(A)本発明の第1の強誘電体膜の製造方法において、前記第1熱処理は、ラピッド・サーマル・アニール法により行なわれることができる。この態様によれは、昇温レートが高いため、配向が揃った結晶核の形成を行うことができる。
【0010】
(B)本発明の第1の強誘電体膜の製造方法において、前記第2熱処理は、2気圧以上に加圧された状態で、かつ酸素分圧が1気圧より低い状態で行なわれることができる。この態様によれば、2気圧以上に加圧されることにより、強誘電体材料膜に含まれる金属材料(例えば、Pb、Biなど)の蒸気発生を抑えることができる。また、雰囲気中に含まれる酸素分圧を1気圧より低くすることで、これらの金属材料と酸素との結合を抑制することができ、良好な結晶状態の強誘電体膜を得ることができる。
【0011】
(C)本発明の第1の強誘電体膜の製造方法において、さらに、第2熱処理の後に回復熱処理を行なうこと、を含むことができる。この態様によれば、本発明の強誘電体膜の製造方法を適用して強誘電体キャパシタを形成する場合に、強誘電体膜と電極との界面状態を改善することができ、強誘電体特性の回復を図ることができる。
【0012】
(2)また、本発明の第2の強誘電体膜の製造方法は、Pb(Zr、Ti)O3からなる強誘電体膜を製造するための方法であって、少なくともPb(Zr、Ti)O3を結晶化するための熱処理を行った後に、雰囲気中の酸素分圧を制御して他の熱処理を行うことを含み、前記他の熱処理では、Pb(Zr、Ti)O3の原料に含まれるPb、Zr、およびTiの組成比に関連付けて、前記雰囲気中の酸素分圧が決定される。
【0013】
本発明によれば、強誘電体であるPb(Zr、Ti)O3を結晶化するための熱処理とは個別に、かかる熱処理後に、いわゆるポストアニールとよばれる他の熱処理を行う。
【0014】
通常、Pb(Zr、Ti)O3からなる強誘電体膜を形成する際には、鉛が結晶化温度に比べて十分に低い温度から酸素と結合して脱離しやすいため、化学量論的組成に比して高い組成比で原料中に含まれている場合が多い。しかし、かかる鉛の過剰成分は、Pb(Zr、Ti)O3とは別に形成膜中において常誘電体性を示すPbOXとなって混在することがある。このような常誘電体性を有する物質が膜中に混在すると、強誘電体膜の特性に望ましからぬ影響を与えるおそれがあり、例えば、ヒステリシス特性における角型性が劣化することが考えられる。また、Pb(Zr、Ti)O3からなる強誘電体膜は、その上下に例えば、Ptなどの金属膜からなる電極を設けたキャパシタの状態でデバイスに用いることができるが、強誘電体膜の電極との界面において両者の格子整合性などが影響してキャパシタの特性の劣化をもたらすこともある。また、かかるキャパシタにエッチングなどによる加工を施せば、強誘電体膜が加工ダメージを受けてキャパシタの特性を劣化させることも考えられる。
【0015】
しかし、本発明では、Pb(Zr、Ti)O3の結晶化のための熱処理を行った後に、ポストアニールとして雰囲気中の酸素分圧を制御しながら他の熱処理を行うことで、強誘電体膜の界面特性の改善や結晶状態の回復を行うことができる。
【0016】
なお、酸素分圧は、雰囲気全体の圧力に酸素濃度を乗じた値として規定され、本発明において他の熱処理では、前記雰囲気全体の圧力に応じて酸素濃度を制御することにより酸素分圧を決定することができる。すなわち、他の熱処理を行う際の雰囲気全体の圧力がどのような状態であったとしても、雰囲気中の酸素濃度を制御することにより、酸素分圧を制御して熱処理を行うことができる。
【0017】
また、結晶化のための熱処理を行ったPb(Zr、Ti)O3にさらに熱処理を行うことは、その原料に含まれるPb、Zr、およびTiの組成比に関係して新たにPbOXが生成されることや、結晶中に酸素欠損が生じることがあり、これらは強誘電体膜の結晶状態に望ましからぬ影響を与えるおそれがある。しかし、本発明では、Pb、Zr、Tiの組成比に関連付けて決定された雰囲気中の酸素分圧で他の熱処理を行うことで、新たなPbOXの生成を抑制することや、結晶中の酸素欠損を補充することもできる。
【0018】
さらに、本発明では、下記の態様をとることができる。
【0019】
(A)本発明の第2の強誘電体膜の製造方法において、前記他の熱処理は、前記熱処理後の膜中に残存するPbOXを分解する処理であることができる。この態様によれば、他の熱処理によって膜中に残存するPbOXを分解することより、分解された構成元素が電荷中性条件を満たそうとして結晶中の酸素欠損などを回復させ、また分解されたPb成分によるPb(Zr、Ti)O3の再結晶化を促進することにより、Pb(Zr、Ti)O3の結晶性を向上させることができる。
【0020】
(B)本発明の第2の強誘電体膜の製造方法において、前記雰囲気中の酸素分圧を0.01[MPa]以上0.03[MPa]以下の範囲に制御して前記他の熱処理を行うことができる。この態様によれば、例えば、原料中に化学量論的組成に対して過剰な鉛成分が含まれている場合に有効である。一般に鉛は、強誘電体の結晶化温度に比べて十分に低い温度で酸素と結合してPbOXからなる常誘電体を構成しやすい。このため、例えば、他の熱処理が酸素分圧の高い雰囲気中で行われると、この過剰な鉛成分が熱処理の際に酸素と結合してしまい、PbOXからなる常誘電体結晶が膜中に混在して強誘電体膜の特性に望ましからぬ影響を与えるおそれがある。また、例えば、他の熱処理が酸素分圧の低い状態で行われると、Pb(Zr、Ti)O3の還元反応が進行して、結晶中に酸素欠損が生じるおそれがある。しかし、かかる態様に示されるように雰囲気中の酸素分圧を0.01[MPa]〜0.03[MPa]の範囲に制御して他の熱処理を行うと、Pb(Zr、Ti)O3の結晶性を向上させることができる。より詳細には、後述する実施例の中で説明する。なお、かかる態様においては、前記原料に含まれるPb、Zr、およびTiの組成比を、Pb:Zr:Ti=120:20:80とすることができる。
【0021】
本発明の強誘電体膜は、本発明の第1又は第2の強誘電体膜の製造方法により形成された強誘電体膜である。
【0022】
本発明の強誘電体キャパシタは、本発明の強誘電体膜を有する。
【0023】
本発明の強誘電体メモリは、本発明の強誘電体キャパシタを含む。
【0024】
【発明の実施の形態】
[第1の実施の形態]
本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、本発明の第1の強誘電体膜の製造方法を適用した強誘電体キャパシタの製造方法について説明する。
【0025】
まず、基体の上に第1電極を形成する。第1電極は、例えば、Pt、Ir、Al、Au、Ag、Ru、Sr等の金属や、酸化物導電体(例えば、IrOx等)や、窒化物導電体(例えば、TiN等)などを材料としてスパッタ法を用いて形成することができる。また、第1電極は、単層膜でもよいし、積層した多層膜でもよい。ここで、「基体」とは、半導体基板にトランジスタなどを有する構造をとることができる。
【0026】
次に、第1電極の上に、強誘電体膜を形成する。強誘電体膜の形成は、まず、強誘電体材料の原料液を用いて、スピンコート法、ディッピング法などの塗布法により強誘電体材料膜(以下「塗布膜」ということもある)を形成する。この原材液には、ゾルゲル原料とMOD原料とが含まれる。原料液としたのは、PZT(Lead Zirconate Titanate)や、SBTなどの強誘電体材料を含んだものを用いる。ついで、必要に応じて塗布膜を乾燥および仮焼成する。
【0027】
次に、第1熱処理を行なう。第1熱処理は、結晶核を形成するための工程であり、塗布膜に短時間の高速熱処理を施す。ここで、高速熱処理とは、昇温レートが10℃/sec以上の熱処理を行なうことをいい、短時間とは、結晶配向を制御するために結晶核を形成できるだけの時間であればよく、たとえば、所望の温度に達した後に長くても約3分以内の加熱を行なうことをいう。たとえば、ラピッド・サーマル・アニール法により行なうことができ、酸素、窒素、および希ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0028】
続いて、第2熱処理を行なう。第2熱処理は、結晶核が形成された塗布膜にさらに加熱を行ない結晶化をさせるための工程である。第2熱処理は、全体として2気圧以上に加圧され、かつ、酸素分圧が1気圧以下である条件下で処理を行なう。このようにして、強誘電体膜を形成することができる。
【0029】
次に、強誘電体膜の上に第2電極を形成する。第2電極は、第1電極と同様にして形成される。その後、一般的なリソグラフィおよびエッチング技術により第1電極、強誘電体膜および第2電極をパターニングする。このようにして、本実施の形態にかかる強誘電体キャパシタが形成される。
【0030】
また、本実施の形態に係る強誘電体キャパシタの製造方法では、強誘電体キャパシタが形成された後に、回復熱処理を行なってもよい。回復熱処理は、強誘電体特性を回復するための熱処理を行なわれ、エッチング工程でのプロセスダメージを回復させることができる。
【0031】
なお、回復熱処理は、FA(ファーネス)を用いてゆっくり加熱を行ってもよいし、ラピッド・サーマル・アニール法を用いて急速加熱を行ってもよい。
【0032】
なお、上述した各種熱処理は、強誘電体材料膜を構成する金属材料の蒸気発生に対して不活性な気体、例えば、窒素、アルゴン、キセノンなどの雰囲気中で行うことができる。かかる雰囲気中で熱処理を行うことにより、複合酸化物を構成する金属材料の蒸気発生の抑止効果がさらに高まる。
【0033】
また、上述した各種熱処理の昇温過程及び降温過程の少なくともいずれか一方において、複数段階の加圧を行うことができる。
【0034】
本実施の形態の強誘電体膜の製造方法によれば、強誘電体膜の結晶化は2段階の熱工程により行なわれる。配向がそろった強誘電体膜を形成するために、昇温レート高い熱処理で強誘電体膜の結晶化が行なわれることがある。しかし、この場合、昇温レートが高いために、強誘電体膜を組成する成分に一部が蒸発により脱離してしまうことがある。たとえば、PZT膜の場合であれば、Pbが脱離してしまう。このため、結晶配向が揃いかつ良好な組成の強誘電体膜を形成できないことがあった。しかし、本発明によれば、第1熱処理で配向の制御が行なわれ、第2熱処理では結晶化が行なわれているため、配向が揃いかつ、良好な組成の強誘電体膜を形成することができる。その結果、角型性が向上し、強誘電体メモリに適した強誘電体膜を製造することができる。
【0035】
また、本実施の形態に他の利点として、処理時間の短縮を挙げることができる。たとえば、ラピッド・サーマル・アニール法を用いて1段階の熱処理で結晶化を行なう場合、枚葉式の処理装置で熱処理が行なわれるため、ウエハの枚数に比例して処理時間が長くなってしまい、またコストもかかることとなる。しかし、本実施の形態によれば、第1熱処理は、たとえば、ラピッド・サーマル・アニール法により短時間の加熱処理を行ない、第2熱処理は、バッチ式の処理が行なえる炉を用いて処理ができる。そのため、全体の処理時間は、大幅に短縮でき、またコストの削減にも寄与する。
【0036】
以下に、本実施の形態の強誘電体膜の製造方法の実施例および比較例について説明し、本実施の形態の製造方法の効果について説明する。
【0037】
(実施例1)
実施例1では、Pt電極が形成された所与の基体上に、Pb(Zr0.2、Ti0.8)O3をスピンコート法を用いて成膜した。
【0038】
本実施例では、PZT(Zr/Ti=20/80)の化学量論的組成にそれぞれ調整されたゾルゲル溶液にモル比で10%過剰となるようにPbを添加した原材料溶液を用いた。ゾルゲル溶液において、Pbを過剰に含んでいるのは、結晶化などの化熱工程などでのPbの脱離を防ぐためである。
【0039】
そして、これらの原料溶液を、スピンコーティング(3000rpm、30秒)して400℃で5分間、原料溶液を仮焼成する工程を3回繰り返して、Pt電極上に150nmの塗布膜を形成した。次に、塗布膜を乾燥および仮焼成した。その後、結晶核を形成するために第1熱処理を行なった。第1熱処理の昇温レートは、50℃/secであり、650℃の温度に達した後、1.5minの加熱処理を行なった。ついで、結晶化された強誘電体膜を得るために第2熱処理を行なった。第2熱処理は、全体の気圧が2気圧であり、酸素の分圧が0.1気圧より小さい雰囲気下で行なった。このようにして、実施例1にかかる強誘電体膜が製造された。
【0040】
図1(a)は、このとき得られたPZT膜のX線回折パターンを示す図であり、図2の実線1は、本実施例の製造方法により得られた強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す図である。
【0041】
(実施例2)
実施例2では、2段階の熱処理により強誘電体膜の結晶化を行なった。具体的には、第1熱処理は、昇温レートは、50℃/secであり、650℃の温度に達した後、1.5minの加熱処理を行なった。第2熱処理は、常圧で酸素雰囲気下で行なった。
【0042】
図2の実線2は、実施例2の製造方法により得られた強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す図である。実施例2により得られたPZT膜のX線回折パターンは、実施例1と同様であったため、特に図示しない。
【0043】
(比較例)
比較例1では、1段階の熱処理により強誘電体膜の結晶化を行なった。具体的には、通常の炉を用いて全体の気圧が2気圧で、酸素分圧が0.1気圧より小さい雰囲気下で行ない、加熱温度は650℃であり、処理時間は60minの熱処理を行なった。
【0044】
図1(b)は、比較例1により得られたPZT膜のX線回折パターンを示す図であり、図2の破線は、比較例1の製造方法により得られた強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す図である。
【0045】
(評価)
図1(a)および(b)は、実施例1,2および比較例により得られたPZT膜のX線回折パターン示す図である。図1(a)より明らかなように、実施例1,2の強誘電体膜では38degにピークがみられる。これにより、(111)面配向に成長したPZT膜が形成されたことがわかる。一方、図1(b)より明らかなように、比較例1の強誘電体膜では広範囲わたりピークが見られ種々の面に配向成長した膜が形成されていることがわかる。すなわち、第1熱処理を行なうことにより、結晶の配向制御を良好に行なうことができた。
【0046】
図2は、実施例1,2および比較例の製造方法により得られた強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す図である。実線1および2は、実施例にかかる強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示し、破線は、比較例にかかる強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す。
【0047】
図2に示すように、実施例1,2の強誘電体キャパシタにおいては、比較例の強誘電体キャパシタと比して、2V以下の低電圧で飽和する角型性の良いヒステリシス形状が得られた。また、実施例の強誘電体キャパシタは、分極値Prが約30C/cm2となり、良好な分極特性を示すことが分かった。また、実施例1と2とを比較すると、実施例1の強誘電体キャパシタは、より低電圧で飽和する角型性のよいヒステリシス特性を有していることがわかった。これは、第2熱処理を加圧雰囲気下で行なうことにより、強誘電体材料膜に含まれるPbの蒸気発生を抑えることができ、また、雰囲気中に含まれる酸素分圧を1気圧より低くして行なったことで、これらの金属材料と酸素との結合を抑制することができたためと考えられる。
【0048】
[第2の実施の形態]
本発明の強誘電体メモリは、上記強誘電体キャパシタを含んで形成され、以下に示す各種の態様を取りうる。
【0049】
1.第1の強誘電体メモリ
図3は、第1の強誘電体メモリ1000を模式的に示す断面図である。この強誘電メモリ装置1000は、強誘電体メモリの制御を行うトランジスタ形成領域を有する。このトランジスタ形成領域が第1の実施の形態で述べた基体100に相当する。
【0050】
基体100は、半導体基板10にトランジスタ12を有する。トランジスタ12は、公知の構成を適用でき、薄膜トランジスタ(TFT)、あるいはMOSFETを用いることができる。図示の例ではMOSFETを用いており、トランジスタ12は、ドレインおよびソース14、16と、ゲート電極18とを有する。ドレインおよびソースの一方14には電極15が形成され、ドレインおよびソースの他方16にはプラグ電極26が形成されている。プラグ電極26は、必要に応じてバリア層を介して強誘電体キャパシタC100の第1電極20に接続されている。そして、各メモリセルは、LOCOSあるいはトレンチアイソレーションなどの素子分離領域17によって分離されている。トランジスタ12などが形成された半導体基板10上には、酸化シリコンなどの絶縁物からなる層間絶縁膜19が形成されている。
【0051】
以上の構成において、強誘電体キャパシタC100より下の構造体が基体100であるトランジスタ形成領域を構成している。このトランジスタ形成領域は、具体的には、半導体基板10に形成されたトランジスタ12、電極15,26、層間絶縁層19などを有する構造体からなる。このような基体100上に、第1の実施の形態の製造方法により製造された強誘電体キャパシタC100が形成されている。
【0052】
この強誘電体メモリ1000は、DRAMセルと同様に、蓄積容量に情報としての電荷をため込む構造を有する。すなわち、メモリセルは、図4および図5に示すように、トランジスタと強誘電体キャパシタにより構成される。
【0053】
図4は、メモリセルが1つのトランジスタ12と1つの強誘電体キャパシタC100とを有する、いわゆる1T1Cセル方式を示す。このメモリセルは、ワード線WLとビット線BLとの交点に位置し、強誘電体キャパシタC100の一端は、ビット線BLとの接続をオン・オフするトランジスタ12を介してビット線に接続される。また、強誘電体キャパシタC100の他端は、プレート線PLと接続されている。そして、トランジスタ12のゲートはワード線WLに接続されている。ビット線BLは、信号電荷を増幅するセンスアンプ200に接続されている。
【0054】
以下に、1T1Cセルにおける動作の例を簡単に説明する。
【0055】
読み出し動作においては、ビット線BLを0Vに固定した後、ワード線WLに電圧を印加し、トランジスタ12をオンする。その後、プレート線PLを0Vから電源電圧VCC程度まで印加することにより、強誘電体キャパシタC100に記憶した情報に対応した分極電荷量がビット線BLに伝達される。この分極電荷量によって生じた微少電位変化を差動式センスアンプ200で増幅することにより、記憶情報をVCCまたは0Vの2つの情報として読み出すことができる。
【0056】
書き込み動作においては、ワード線WLに電圧を印加し、トランジスタ12をオン状態にした後、ビット線BL−プレート線PL間に電圧を印加し、強誘電体キャパシタC100の分極状態を変更し決定する。
【0057】
図5は、2つのトランジスタ12と2つの強誘電体キャパシタC100とを有する、いわゆる2T2Cセルを示す図である。この2T2Cセルは、前述した1T1Cセルを2個組み合わせて、相補型の情報を保持する構造を有する。すなわち、2T2Cセルでは、センスアンプ200への2つの差動入力として、相補型にデータを書き込んだ2つのメモリセルから相補信号を入力し、データを検出する。このため、2T2Cセル内の2つの強誘電体キャパシタC100,C100は同じ回数の書き込みが行われるため、強誘電体キャパシタC100の強誘電体膜の劣化状態が等しくなり、安定な動作が可能となる。
【0058】
2.第2の強誘電体メモリ
図6および図7は、MISトランジスタ型メモリセルを有する強誘電体メモリ2000を示す。この強誘電体メモリ2000は、ゲート絶縁層13に強誘電体キャパシタC100を直接接続する構造を有する。具体的には、半導体基板10にソースおよびドレイン14,16が形成され、さらに、ゲート絶縁層13上には、フローティングゲート電極(第1電極)20、本発明に係る強誘電体膜30およびゲート電極(第2電極)22が積層された強誘電体キャパシタC100が接続されている。強誘電体膜30は、第1の実施の形態の製造方法を適用して形成されたものを用いる。この強誘電体メモリ2000においては、半導体基板10、ソース,ドレイン14,16およびゲート絶縁層13が、第1の実施の形態で述べた基体100に相当する。
【0059】
また、この強誘電体メモリ2000は、図7に示すように、ワード線WLは各セルのゲート電極22に接続され、ドレインはビット線BLに接続されている。この強誘電体メモリにおいては、データの書き込み動作は、選択するセルのワード線WLとウェル(ソース)間に電界を印加することによって行われる。また、読み出し動作は、選択セルに対応するワード線WLを選択し、選択セルのビット線BLに接続したセンスアンプ200によって各トランジスタを流れる電流量を検出することで行われる。
【0060】
3.第3の強誘電体メモリ
図8は、第3の強誘電体メモリを模式的に示す図であり、図9は、メモリセルアレイの一部を拡大して示す平面図であり、図10は、図8のA−A線に沿った断面図である。平面図において、( )内の数字は最上層より下の層を示す。
【0061】
この例の強誘電体メモリ3000は、図8に示すように、メモリセル120が単純マトリクス状に配列されたメモリセルアレイ100Aと、メモリセル(強誘電体キャパシタC100)120に対して選択的に情報の書き込みもしくは読み出しを行うための各種回路、例えば、第1信号電極(第1電極)20を選択的に制御するための第1駆動回路150と、第2信号電極(第2電極)22を選択的に制御するための第2駆動回路152と、センスアンプなどの信号検出回路(図示せず)とを含む。
【0062】
メモリセルアレイ100Aは、行選択のための第1信号電極(ワード線)20と、列選択のための第2信号電極(ビット線)22とが直交するように配列されている。すなわち、X方向に沿って第1信号電極20が所定ピッチで配列され、X方向と直交するY方向に沿って第2信号電極22が所定ピッチで配列されている。なお、信号電極は、上記の逆でもよく、第1信号電極がビット線、第2信号電極がワード線でもよい。
【0063】
本実施の形態に係るメモリセルアレイ100Aは、図9および図10に示すように、絶縁性の基体100上に、第1信号電極20、本発明に係る強誘電体膜30および第2信号電極22が積層され、第1信号電極20,第1の実施の形態の製造方法を適用して形成された強誘電体層30および第2信号電極22によって強誘電体キャパシタ120が構成される。すなわち、第1信号電極20と第2信号電極22との交差領域において、それぞれ強誘電体キャパシタ120からなるメモリセルが構成されている。
【0064】
また、強誘電体膜30と第2信号電極22とからなる積層体の相互には、基体100および第1信号電極20の露出面を覆うように、誘電体層38が形成されている。この誘電体層38は、強誘電体膜30に比べて小さい誘電率を有することが望ましい。このように強誘電体膜30および第2信号電極22からなる積層体の相互間に、強誘電体膜30より誘電率の小さい誘電体層38を介在させることにより、第1,第2信号電極20,22の浮遊容量を小さくすることができる。その結果、強誘電体メモリ3000における書き込みおよび読み出しの動作をより高速に行うことが可能となる。
【0065】
次に、強誘電体メモリ3000における書き込み,読み出し動作の一例について述べる。
【0066】
まず、読み出し動作においては、選択セルのキャパシタに読み出し電圧「V0」が印加される。これは、同時に‘0’の書き込み動作を兼ねている。このとき、選択されたビット線を流れる電流またはビット線をハイインピーダンスにしたときの電位をセンスアンプにて読み出す。さらにこのとき、非選択セルのキャパシタには、読み出し時のクロストークを防ぐため、所定の電圧が印加される。
【0067】
書き込み動作においては、‘1’の書き込みの場合は、選択セルのキャパシタに「−V0」の電圧が印加される。‘0’の書き込みの場合は、選択セルのキャパシタに、該選択セルの分極を反転させない電圧が印加され、読み出し動作時に書き込まれた‘0’状態を保持する。このとき、非選択セルのキャパシタには、書き込み時のクロストークを防ぐため、所定の電圧が印加される。
【0068】
以上、蓄積容量型、MISトランジスタ型および単純マトリクス型の強誘電体メモリの例について述べたが、本発明の強誘電体メモリはこれらに限定されず、他のタイプのメモリトランジスタにも適用できる。なお、本実施の形態の強誘電体キャパシタは、上述の強誘電体メモリの他に、焦電型センサー、バイモルフ型圧電アクチュエーターに適用することができる。
【0069】
[第3の実施形態]
本実施の形態では、本発明の第2の強誘電体膜の製造方法を適用して、Pb(Zr、Ti)O3(以下PZTと略す)系の強誘電体膜を有する強誘電体キャパシタの製造方法について説明する。
【0070】
まず、基体の上に第1電極を形成し、この第1電極の上に、強誘電体膜を形成する。強誘電体膜の形成は、まず、強誘電体材料の原料液を用いて、スピンコート法、ディッピング法などの塗布法により強誘電体材料膜(以下「塗布膜」ということもある)を形成する。この原材液には、ゾルゲル原料とMOD原料とが含まれる。原料液としては、PZTの構成元素であるPb、Zr、Tiを含んだものを用いる。ついで、必要に応じて塗布膜を乾燥および仮焼成し、その後結晶化のためのアニール(熱処理)を行う。ここまでの工程については、第1の実施形態の場合と同様の手法を用いることができる。
【0071】
次に、強誘電体膜の上に第2電極を形成する。第2電極は、第1電極と同様にして形成される。その後、一般的なリソグラフィおよびエッチング技術により第1電極、強誘電体膜および第2電極をパターニングする。このようにして、本実施の形態にかかる強誘電体キャパシタが形成される。
【0072】
ここで、本実施の形態では、PZTを結晶化した後で、かつ第2電極を形成した後あるいはその後のパターニング工程を行った後に、雰囲気中の酸素分圧を制御してポストアニール(他の熱処理)を行う。このときポストアニールでは、Pb(Zr、Ti)O3の原料に含まれるPb、Zr、およびTiの組成比に関連付けて、前記雰囲気中の酸素分圧が決定される。なお、酸素分圧は、雰囲気全体の圧力に酸素濃度を乗じた値として規定され、ポストアニールでは、雰囲気全体の圧力に応じて酸素濃度を制御することにより酸素分圧を決定することができる。すなわち、ポストアニールを行う際の雰囲気全体の圧力がどのような状態であったとしても、雰囲気中の酸素濃度を制御することにより、酸素分圧を制御して熱処理を行うことができる。
【0073】
また、本実施の形態において、結晶化アニールとポストアニールの際の処理温度は、以下の温度範囲を用いることが好ましい。結晶化アニールの温度をT1、ポストアニールの温度をT2としたとき、T1とT2が以下の関係を満たす場合に、ポストアニールの効果がよりよいものとなる。具体的には、450℃≦T1≦T2−50℃が好ましく、さらに好ましくは、450℃≦T1≦T2−100℃となる関係であるようにT1とT2とが決定される。言い換えれば、結晶化アニールの温度は、ポストアニールの温度から50℃以上低い温度、さらに好ましくは100℃以上低い温度であることができる。
【0074】
以下に、本実施の形態の強誘電体膜の製造方法の実施例について説明しながら、本実施の形態の製造方法の効果について説明する。
【0075】
(実施例)
従来、PZT系強誘電体を結晶化アニール(熱処理)あるいはポストアニール(他の熱処理)をする時は、酸素100%中あるいは窒素100%中にて大気圧力下にて行われる事が多い。しかしながら、アニールの際の酸素濃度(酸素分圧)およびアニール圧力(雰囲気全体の圧力)と、ヒステリシスカーブの角型性との関連性は明確になっていない。そこで、本実施例では、アニールの際の酸素濃度(または酸素分圧)およびアニール圧力がヒステリシスカーブの角型性に与える影響について検証した。
【0076】
本実施例では、例えば、スピンコート法を用いたPZT成膜の場合について説明する。かかる成膜手順の一例を図11に示す。まず、Pt/TiOx下部電極が形成されたSiウェハ上にPZT塗布溶液をスピンコートする。ついで、乾燥、脱脂工程を行う。この工程を所望の膜厚が得られるまで(例えば、3回)繰返した後、RTA処理(またはファーネスを用いてもよい)によりPZTを結晶化させる。ついで、Pt上部電極をスパッタ法により形成し、フォト/エッチングプロセスを経た後、ポストアニールを行う。このポストアニールは、少なくともPZTを結晶化させるアニールを行った後であればよく、上述のようにフォト/エッチングプロセスを行った後に限られず、例えば、Pt上部電極を形成した後に行ってもよい。
【0077】
ここで、Pb/Zr/Ti=120/20/80の組成比からなる原料を用いて形成したPZTからなる強誘電体膜の場合において、ポストアニール温度およびポストアニール時間を一定にし、アニール圧力および酸素濃度を変化させた時のヒステリシスカーブの形状の変化を図12に示す。図12によれば、酸素分圧PO2が0.01[MPa]〜0.03[MPa]となる範囲でポストアニールが行われた場合を中心としてヒステリシスカーブの角型性が徐々に劣化していることがわかる。これを定量的に検証するために、2種類の指標を用いて、雰囲気中の酸素分圧PO2がヒステリシスカーブの角型性に与える影響を評価した。なお、酸素分圧PO2は、一般に雰囲気全体の圧力に酸素濃度を乗じたもので表される。したがって、酸素分圧PO2は、線形軸上では、雰囲気全体の圧力に対して直角双曲線状に推移することになるが、図12では両対数となる軸上で表すことにより、酸素分圧PO2が一定の領域が直線状に表されることになる。
【0078】
(第1の指標による検証)
まず、図13に示すように、第1の指標として残留分極量Prと飽和分極量Psとの比Pr/Psを用いてヒステリシスカーブの角型性を検証した。このPr/Psの値は、1に近づくほど角型性がよいことになる。また、この第1の指標による検証では、アニール圧力を0.1[MPa]、0.2[MPa]、0.45[MPa]、1.0[MPa]として酸素濃度を変化させたときのヒステリシスカーブのPr/Psの変動を測定した。図14に、かかるPr/Psのアニール圧力および酸素濃度の依存性を示す。かかる図14によれば、アニール圧力が上記いずれの場合においても、Pr/Psの値が最大となる酸素濃度があることがわかる。具体的には、例えば、アニール圧力が0.1[MPa]の場合、酸素濃度が約1%のときが最大となり、このときの酸素分圧は、0.01[MPa]となる。このようにして、Pr/Psが最大となる酸素濃度を元に酸素分圧を求めていくと、酸素分圧PO2が0.01[MPa]〜0.03[MPa]の範囲内において、Pr/Psが最大となることが確認された。
【0079】
(第2の指標による検証)
次に、図15に示すように、第2の指標として抗電界Ecにおけるヒステリシスカーブの接線の傾きを示すε0×ε(Ec)と、残留分極量Prにおけるヒステリシスカーブの接線の傾きを示すε0×ε(Pr)との比であるε(Ec)/ε(Pr)を用いてヒステリシスカーブの角型性を検証した。このε(Ec)/ε(Pr)では、値が大きいほど角型性が良いことを意味し、角型性が良い場合には、ε0×ε(Pr)が90°に近づき、またはε0×ε(Pr)が0°に近づくため値が無限大に発散していき、角型性が悪い場合には、ε0×ε(Ec)とε0×ε(Pr)の値が近づいていくため最終的には1に収束していく。また、この第2の指標による検証においても、第1の指標による検証の場合と同様に、アニール圧力を0.1[MPa]、0.2[MPa]、0.45[MPa]、1.0[MPa]として酸素濃度を変化させたときのヒステリシスカーブのε(Ec)/ε(Pr)の変動を測定した。図16にε(Ec)/ε(Pr)のアニール圧力および酸素濃度の依存性を示す。すると、図16においても、第1の指標で検証した場合と同様な傾向を示し、酸素分圧PO2が0.01[MPa]〜0.03[MPa]の範囲内において、ε(Ec)/ε(Pr)が最大となることが確認された。
【0080】
(検証結果の考察)
まず、図14及び図16に示されるように、上記第1の指標および第2の指標による検証の結果、各アニール圧力においてヒステリシスカーブの角型性を最大にする最適酸素濃度が存在する事がわかる。また、この最適酸素濃度は、アニール圧力を増すにつれて、低酸素濃度側にシフトすることが分かった。
【0081】
図12に示される各ヒステリシスカーブの角型性を高めるための最適アニール条件を図17に示す。図17から分かるように、ヒステリシス角型性を高めるための最適アニール領域は、酸素分圧PO2が一定のラインにほぼ平行に存在している事が分かり、
0.01[MPa]<PO2<0.03[MPa]・・・(1)
の間に入る事がわかる。なおPO2が式(1)の領域に入っていれば、PZTのアニール圧力は加圧側でも減圧側でもどちらでもよいといえる。
【0082】
また、X線回折の結果(図示省略)によると実施例中に示された全てのPZT膜の配向性にはほとんど差はないことが分かった。すなわち、配向性はPZT溶液塗布後のRTA処理により決定されるので、ポストアニールは結晶配向性には直接影響を与えない。従って、実施例中のPZT膜において、ヒステリシスカーブの角型性を決定するのは、ポストアニールによって変動したPZTの組成比や、生成された諸格子欠陥や、生成あるいは分解された異相成分などであるといえる。
【0083】
また、本実施例中で確認された現象は、(1)酸素分圧PO2に応じて生じた酸素欠陥、(2)PZTそれ自身の結晶中に含まれるPbやPZT界面近傍や結晶粒界に僅かに析出しているであろうPbOXの酸化状態が酸素分圧PO2の値に応じて変化し、部分的に還元されたPbがPt電極と反応し合金を形成する過程、が実施例中のPZTのヒステリシス角型性に影響を与える因子であると考えられる。
【0084】
例えば、高い酸素分圧PO2下では、粒界や結晶界面層のPbOXは分解されにくく、粒界や結晶界面層に過剰のPbOXが残存した状態となる。むしろ、PbOX+(δ/2)O2→PbOX+δの反応により、より酸化度の高いPbOXが生成されてしまう可能性さえある。この場合PbOXの示す常誘電体性ゆえにヒステリシスの角型性は悪い。一方、最適化された(例えば、0.01[MPa]〜0.03[MPa]の範囲)酸素分圧PO2下では、結晶界面層のPbOXは部分的に還元分解され、これらのPbが(1−y)Pt+yPbOX→Pb1−yPty+(xy/2)O2によりPZT膜の上部や下部のPt電極と反応し合金化しやすい。この場合、良好な電極/強誘電体界面状態によりヒステリシスの角型性は良い。さらに、低酸素分圧PO2下では、むしろPb(Zr,Ti)O3→Pb(Zr、Ti)O3−δ+(δ/2)O2により還元的な反応が進み、PZT結晶中の酸素空位を生成しやすくPZTの強誘電体性を劣化させ、ヒステリシスカーブの角型性を落としてしまうと考えられる。
【0085】
以上のような理由で、実施例中のPZTにおいてリカバリーアニールにおける酸素分圧PO2に応じてヒステリシスの角型性が変わると考えられる。
【0086】
従って、本実施例におけるPZT膜のヒステリシス角型性を高めるための最適リカバリーアニール条件領域は、酸素分圧PO2が一定のラインにほぼ平行して存在し、Pb/Zr/Ti=120/20/80の場合、0.01[MPa]<PO2<0.03[MPa]・・・(1)の間にほぼ入る。この(1)式で表される酸素分圧PO2の領域でリカバリーアニールを行うと、PZTのヒステリシスカーブの角型性を向上させることができる。なお、PO2が(1)式で表される領域に入っていれば、アニールの際の圧力雰囲気は、大気圧に対して加圧側でも減圧側でもどちらでもよいことがわかる。
【0087】
以上、本発明に好適な実施の形態について述べたが、本発明は上記した実施の形態に限られるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変形態様により実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の強誘電体膜のX線回折パターンを示す図。
【図2】比較例の強誘電体膜のX線回折パターンを示す図。
【図3】実施例および比較例による強誘電体キャパシタのヒステリシス特性を示す図。
【図4】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す断面図。
【図5】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す断面図。
【図6】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す断面図。
【図7】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す断面図。
【図8】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す平面図。
【図9】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す平面図。
【図10】第2の実施の形態にかかる強誘電体メモリを示す断面図。
【図11】第3の実施形態の実施例に係る強誘電体キャパシタの製造工程の一例を示す図。
【図12】第3の実施形態の実施例に係る強誘電体キャパシタのヒステリシスカーブを説明するための図。
【図13】第3の実施形態の実施例に係るヒステリシスカーブの角型性の指標を説明するための図。
【図14】第3の実施形態の実施例に係るヒステリシスカーブの角型性とアニール雰囲気中の酸素濃度との関係を示す図。
【図15】第3の実施形態の実施例に係るヒステリシスカーブの角型性の指標を説明するための図。
【図16】第3の実施形態の実施例に係るヒステリシスカーブの角型性とアニール雰囲気中の酸素濃度との関係を示す図。
【図17】第3の実施形態の実施例に係る最適酸素分圧領域を説明するための図。
【符号の説明】
20…第1電極、22…第2電極、30…強誘電体膜、100…基体、C100(120)…強誘電体キャパシタ、 100A…メモリセルアレイ、 1000…第1の強誘電体メモリ、 2000…第2の強誘電体メモリ、 3000…第3の強誘電体メモリ
Claims (12)
- 強誘電体材料膜に、短時間の高速熱処理を施し結晶核を形成する第1熱処理と、
前記強誘電体材料膜を結晶化させるための第2熱処理と、を含む、強誘電体膜の製造方法。 - 請求項1において、
前記第1熱処理は、ラピッド・サーマル・アニール法により行なわれる、強誘電体膜の製造方法。 - 請求項1または2において、
前記第2熱処理は、2気圧以上加圧された状態で、かつ酸素分圧が1気圧より低い状態で行なわれる、強誘電体膜の製造方法。 - 請求項1〜3のいずれかにおいて、
さらに、第2熱処理の後に回復熱処理を行なうこと、を含む、強誘電体膜の製造方法。 - 請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記強誘電体材料膜は、Pb(Zr、Ti)O3を成分として含む、強誘電体膜の製造方法。 - Pb(Zr、Ti)O3からなる強誘電体膜を製造するための方法であって、
少なくともPb(Zr、Ti)O3を結晶化するための熱処理を行った後に、雰囲気中の酸素分圧を制御して他の熱処理を行うことを含み、
前記他の熱処理では、Pb(Zr、Ti)O3の原料に含まれるPb、Zr、およびTiの組成比に関連付けて、前記雰囲気中の酸素分圧が決定される、強誘電体膜の製造方法。 - 請求項6において、
前記他の熱処理は、前記熱処理後の膜中に残存するPbOXを分解する処理である、強誘電体膜の製造方法。 - 請求項6または7において、
前記雰囲気中の酸素分圧を0.01[MPa]以上0.03[MPa]以下の範囲に制御して前記他の熱処理を行う、強誘電体膜の製造方法。 - 請求項8において、
前記Pb、Zr、およびTiの組成比が、Pb:Zr:Ti=120:20:80である、強誘電体膜の製造方法。 - 請求項1〜9のいずれかに記載の強誘電体膜の製造方法により形成された強誘電体膜。
- 請求項10に記載の強誘電体膜を有する強誘電体キャパシタ。
- 請求項11に記載の強誘電体キャパシタを含む、強誘電体メモリ。
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-
2003
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