JP2004335345A - リチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法、並びに、それを用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池 - Google Patents

リチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法、並びに、それを用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】リチウム二次電池における高温サイクル特性等の高温特性を改善できる、優れたリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】イオンクロマトグラフィーによる炭酸イオン濃度c[重量%]が数式(I)を満たす、炭酸化したLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物粉末を用いる。
0.3<c≦50bx/[Mw(NI)+bx/2] ・・・数式(I)
(数式(I)において、Mw(NI)はリチウムニッケル系複合酸化物の分子量[g/mol]を表わし、bは炭酸イオンの分子量[g/mol]を表わし、xは化学量論比以上のLiのモル過剰量を表わす。)
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、層状リチウムニッケル系複合酸化物よりなるリチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法、並びに、それを用いたリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
リチウム二次電池は、エネルギー密度及び出力密度等に優れ、小型化・軽量化が可能なため、ノート型パソコン、携帯電話及びハンディビデオカメラ等の携帯機器の電源として、その使用量が急激な伸びを示している。また、電気自動車や電力のロードレベリング等の電源としても注目されている。
【0003】
リチウム二次電池用の正極活物質として、層状構造を有するリチウムコバルト系複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル系複合酸化物(LiNiO)、スピネル構造を有するリチウムマンガン系複合酸化物(LiMn)等のリチウム遷移金属複合化合物を用いると、4V級の高電圧が実現できるとともに、高いエネルギー密度が得られるため、優れた電池特性を有するリチウム二次電池が実現されることが知られている。
【0004】
また、リチウム遷移金属複合酸化物の熱安定性や構造安定性を改善し、電池のレート特性、サイクル特性、安全性、高温特性等の性能を向上させるために、遷移金属サイトの一部を他の金属(以下、このような遷移金属の置換のための金属を「置換金属」という場合がある)で置換したリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いることも知られている。
【0005】
その中でも、上記の置換金属としてアルミニウムを選択した場合には、特に熱安定性や構造安定性が改善され、サイクル特性が向上する等の優れた電池性能を発現することが知られており、電池特性の改良を目的とした研究が活発に行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、NiサイトをCoが5〜25原子%置換し、さらにAlが0〜20原子%置換したようなオキシ水酸化ニッケルを、水酸化リチウムと混合して焼成することで、高い初期放電容量、良好なサイクル特性、及び、熱的な安定性を有する正極活物質を合成できる、と記述されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−102054号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、昨今では、リチウム二次電池を使用する条件がより過酷化して来ており、多様な用途、環境下でも長期間に亘って高い性能を示すリチウム二次電池が要求されてきている。中でも、高温サイクル特性等の高温特性に優れたリチウム二次電池が要望されているが、上記特許文献1記載の技術を含め、未だ満足できる高温特性を有するリチウム二次電池は提供されていない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質であって、高温サイクル特性等の高温特性の改善されたリチウム二次電池を実現することができる、優れたリチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法を提供するとともに、それを用いたリチウム二次電池用正極、及びリチウム二次電池を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、Liを化学量論比以上に含有する層状リチウムニッケル系複合酸化物を炭酸化して正極活物質に用いるとともに、過剰Li量とその炭酸化の程度との関係に着目し、層状リチウムニッケル系複合酸化物の粉末表面が一定の程度で炭酸化されたものを用いることにより、高温サイクル特性の向上等、高温特性を改善する効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、炭酸化したLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物よりなるとともに、イオンクロマトグラフィーにより測定した該Li過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物の炭酸イオン濃度c[重量%]が下記数式(I)を満たすことを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質に存する(請求項1)。
0.3<c≦50bx/[Mw(NI)+bx/2] ・・・数式(I)
(数式(I)において、Mw(NI)は該リチウムニッケル系複合酸化物の分子量[g/mol]を表わし、bは炭酸イオンの分子量[g/mol]を表わし、xは化学量論比以上のLiのモル過剰量を表わす。)
【0012】
このとき、該Li過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物が下記化学式(1)で表わされる組成を有することが好ましい(請求項2)。
Li1+xNi1−y ・・・化学式(1)
(化学式(1)において、MはCo、Mn、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、及びZnからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属を表わし、xは0.01≦x≦0.2を満たす数を表わし、yは0≦y≦0.7を満たす数を表わす。)
【0013】
また、該Li過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物が下記化学式(2)で表わされる組成を有することが好ましい(請求項3)。
Li1+xNi1− α βCoαAlβ ・・・化学式(2)
(化学式(2)において、xは0.01≦x≦0.2を満たす数を表わし、αは0<α≦0.4を満たす数を表わし、βは0<β≦0.3を満たす数を表わす。)
【0014】
また、本発明のリチウム電池正極活物質は、BET比表面積が0.3m/g以上1.5m/g以下であることが好ましい(請求項4)。
【0015】
本発明の別の要旨は、炭酸ガスを含有する露点0℃以下の雰囲気ガス中で、温度が200℃よりも高く且つ600℃以下の条件でLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物を炭酸化することにより、上記のリチウム二次電池用正極活物質を製造することを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法に存する(請求項5)。
【0016】
このとき、該雰囲気ガス中の炭酸ガス濃度が0.01体積%以上100体積%以下であるとともに、該Li過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物を該雰囲気ガス中に0.5時間以上24時間以下保持することにより前記炭酸化を行なうことが好ましい(請求項6)。
【0017】
本発明の別の要旨は、上記のリチウム二次電池用正極活物質を含有することを特徴とする、リチウム二次電池用正極に存する(請求項7)。
【0018】
本発明の別の要旨は、上記のリチウム二次電池用正極と、負極と、電解質とを備えたことを特徴とする、リチウム二次電池に存する(請求項8)。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、好適な一実施の形態を用いて本発明を説明するが、その要旨を超えない限りにおいて、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
[I.リチウム二次電池用正極活物質]
I−1.リチウム二次電池用正極活物質の物性:
本発明のリチウム二次電池用正極活物質(以下、適宜「本発明の正極活物質」と略称する。)は、炭酸化したLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物よりなる。
【0021】
本発明の正極活物質として用いられるリチウムニッケル系複合酸化物(以下、適宜「本発明のリチウムニッケル系複合酸化物」と略称する。)は、Li/Ni比が1より大きな、即ちLiを過剰に含有する、層状のリチウムニッケル系複合酸化物の粉末である。
【0022】
そして、本発明のリチウムニッケル系複合酸化物は、炭酸イオンによって一定の程度、炭酸化されていることを特徴とする。
具体的には、イオンクロマトグラフィーによって求めた本発明のリチウムニッケル系複合酸化物の炭酸イオン濃度c[重量%]が、数式(I)で規定された範囲内にあることを特徴とする。
0.3<c≦50bx/[Mw(NI)+bx/2] ・・・数式(I)
【0023】
数式(I)において、Mw(NI)は、本発明のリチウムニッケル系複合酸化物の分子量[g/mol]を表わし、bは、炭酸イオン(CO 2−)の分子量(60.01[g/mol])を表わす。xは、本発明のリチウムニッケル系複合酸化物に含まれる化学量論比以上のLiのモル過剰量を表わす。
【0024】
数式(I)は以下のように導出した。
リチウムニッケル系複合酸化物の炭酸化により、化学量論比以上の過剰Liと炭酸ガスとの反応から炭酸リチウムが生成する。過剰Liがすべて炭酸化される場合には、本発明のリチウムニッケル系複合酸化物1mol中には、数式(II)で表わされる量の炭酸イオンが含まれることになる。
(x/2)×b=bx/2 ・・・数式(II)
【0025】
従って、炭酸イオン濃度の最大値cmaxは、数式(III)で表わされる値となる。
Figure 2004335345
【0026】
即ち、本発明のリチウムニッケル系複合酸化物が含有する炭酸イオン濃度cの上限値は、リチウムニッケル系複合酸化物に含有される化学量論比以上のLiモル過剰量xの値によって決まることになる。x値が大きければ、炭酸イオン濃度の規定範囲は広がり、逆にx値が小さければ、炭酸イオン濃度の規定範囲は狭くなる。
【0027】
炭酸イオン濃度cの上限は、通常は上記数式(I)の右辺の値(50bx/[Mw(NI)+bx/2])以下であるが、中でもこの値の98%(50bx/[Mw(NI)+bx/2]×0.98)以下であることがより好ましい。
【0028】
また、炭酸イオン濃度cの下限は、通常は数式(I)に表わしたように0.3重量%以上である。
なお、炭酸化されていない通常のLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物の炭酸イオン濃度は、高くても0.3重量%に満たない値である。したがって、後述するように、通常のLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物を原料として、本発明のリチウムニッケル系複合酸化物を得るためには、炭酸化などの処理を行なうことにより、炭酸イオン濃度を0.3重量%以上に調整する必要がある。
【0029】
なお、炭酸イオン濃度cは、イオンクロマトグラフィーによって測定することができる。イオンクロマトグラフィーの具体的手法に制限はないが、例えば、リチウムニッケル系複合酸化物30〜100mgに調製直後の脱塩水5mlを加え、30分超音波分散して炭酸イオンを抽出し、この抽出水相をイオンクロマトグラフ装置で分析することにより求めることができる。
【0030】
本発明のリチウムニッケル系複合酸化物の種類は、本発明の趣旨を逸脱するものでない限り、特に制限されない。例えば、多少の酸素欠損及び不定比性を有するものや、酸素サイトの一部が硫黄やハロゲン元素で置換されたものでもよい。ただし、これらの酸素欠損や不定比性、酸素サイトの置換は、できるだけ少ない方が好ましい。
【0031】
また、本発明のリチウムニッケル系複合酸化物の組成も、本発明の趣旨を逸脱するものでない限り、特に制限されない。但し、結晶構造の安定性を向上させる観点からは、そのニッケルサイトの一部が他の遷移金属で置換されていることが好ましい。
【0032】
具体的に、本発明のリチウムニッケル系複合酸化物は、化学式(1)で表わされる組成を有するものが好ましい。
Li1+xNi1−y ・・・化学式(1)
【0033】
化学式(1)において、Mは置換金属を表わす。置換金属Mは通常、Co、Mn、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、及びZnからなる群より選ばれる金属である。中でも、好ましくはCo、Mn、Al、Ti、Mgが挙げられ、より好ましくはCo、Mn、Alが挙げられる。なお、Mは1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0034】
xは、上述の様に、リチウムニッケル系複合酸化物に含まれる化学量論比以上のLiのモル過剰量を示す数であるが、化学式(1)においては0.01≦x≦0.2を満たす値を取る。具体的に、xの値は通常0.01以上、より好ましくは0.02以上、また、通常0.20以下、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.10以下の範囲である。xの値がこの範囲外となると、本発明の正極活物質を用いて電池を作製した際に、その電池の電池性能が低下する可能性がある。
【0035】
yは、リチウムニッケル系複合酸化物に含まれる置換金属の割合(モル比率)を示すもので、0≦y≦0.7を満たす数を表わす。具体的に、yの値は通常0以上、好ましくは0.0025以上、より好ましくは0.05以上であり、また、通常0.7以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下の範囲である。yの値が小さ過ぎると正極活物質の化学的安定性が不十分となる場合があり、大き過ぎると正極活物質が炭酸化されたことによる効果が発現し難くなったり、電池にした場合の容量が低下してしまう場合がある。
【0036】
中でも、リチウムニッケル系複合酸化物としては、化学式(2)で表わされる組成を有するものがより好ましい。
Li1+xNi1− α βCoαAlβ ・・・化学式(2)
【0037】
化学式(2)において、xは、化学式(1)と同様の数を表わし、αは、0<α≦0.4を満たす数を表わし、βは、0<β≦0.3を満たす数を表わす。
具体的に、αの値は、通常0より大きく、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、また、通常0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下の範囲である。また、βの値は、通常0以上、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.04以上、また、通常0.3以下、好ましくは0.25以下、より好ましくは0.2以下の範囲である。α、βが小さ過ぎると正極活物質の化学的安定性が不十分となる場合があり、大き過ぎると正極活物質が炭酸化されたことによる効果が発現しにくくなったり、電池にした場合の容量が低下してしまう場合がある。
【0038】
本発明のリチウムニッケル系複合酸化物のBET比表面積は任意であるが、通常0.1m/g以上、好ましくは0.3m/g以上、より好ましくは0.5m/g以上であり、また、通常10m/g以下、好ましくは5.0m/g以下、より好ましくは2.0m/g以下、特に好ましくは1.0m/g以下の範囲である。BET比表面積が小さ過ぎると、電池のレート特性や電池容量の低下を招く一方で、大き過ぎると、正極において電解液等と好ましくない反応を引き起こし、サイクル特性を低下させる虞がある。
【0039】
本発明のリチウムニッケル系複合酸化物の平均粒径についても特に制限はないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下の範囲である。平均粒径が小さ過ぎると、電池のサイクル劣化が大きくなったり、安全性に問題が生じたりする場合がある一方で、大き過ぎると、電池の内部抵抗が大きくなったり、出力が出難くなる場合がある。
【0040】
I−2.リチウム二次電池用正極活物質の製造方法:
本発明の正極活物質の製造方法は、上記物性を有する炭酸化Li過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物を製造できる方法であれば、特に制限はないが、具体例を挙げると、炭酸ガスを含んだ雰囲気ガス中に、原料となるLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物(以下、適宜「原料化合物」という。)を一定時間保持し、これを炭酸化することにより製造することができる。
【0041】
原料化合物としては、炭酸化されていないLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物の粉末を用いることができる。その種類や組成、性状等の物性は特に制限されない。これらの物性は基本的に、炭酸化の前後で大きく変化しないので、目的とする正極活物質の物性に合わせて、原料とするLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物の物性を適宜選択すれば良い。
【0042】
なお、Li過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物としては、各種のものが市販されており、また、その合成方法も多々知られているので、それらの中から所望の物性のものを入手し、或いは合成して用いればよい。
【0043】
炭酸化を行なう際には、原料化合物に対する水分子の吸着を極力防ぐために、炭酸化は乾燥雰囲気で行なうことが好ましい。乾燥雰囲気の環境としては、露点が通常0℃以下、好ましくは−30℃以下、より好ましくは−40℃以下である環境下で炭酸化を行なう。
【0044】
炭酸ガスを含んだ雰囲気ガス中に、原料化合物を一定時間保持することにより炭酸化を行なう場合、加熱温度や炭酸ガス濃度、処理時間といったパラメータを各々所定の範囲内に設定して炭酸化を行なうことが好ましい。これらパラメータは独立して設定することが可能であり、原料化合物の種類に応じて、所望の炭酸濃度とするための条件を任意に決定すればよい。
【0045】
炭酸化を行なう際の温度は、通常200℃より大きく、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上、また、通常600℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは450℃以下の範囲である。炭酸化の際の温度が上記範囲以下であると、処理に時間がかかり過ぎたり、適度に丈夫で安定な被膜が得にくくなる虞があり好ましくない。一方、温度が上記範囲を超えると、炭酸化の進行が著しくなり、本発明で規定の範囲内に炭酸化を制御することが困難となる虞がありやはり好ましくない。
【0046】
炭酸化を行なう際の雰囲気ガス中の炭酸ガス濃度としては、通常0.01体積%以上、好ましくは0.1体積%以上、より好ましくは1体積%以上であり、また、通常100体積%以下、好ましくは80体積%以下、より好ましくは60体積%以下の範囲である。なお、雰囲気ガスとして炭酸ガスとその他のガスとの混合ガスを用いる場合、炭酸ガスと混合するその他のガスの種類は、原料化合物に好ましくない影響を与えるものでなければ制限はないが、Li過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物相を安定に存在させ易くする点で、酸素ガスが好ましい。また、炭酸ガスと混合するその他のガスは、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0047】
炭酸化を行なう際の処理時間は、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、また、通常24時間以下、好ましくは18時間以下、より好ましくは12時間以下の範囲である。一般に、処理時間は、処理温度及び/又は炭酸ガス濃度が高い程短くすることができ、逆に処理温度及び/又は炭酸ガス濃度が低い程長くする必要がある。
【0048】
炭酸化の後、得られた本発明のリチウムニッケル系複合酸化物に含有される炭酸イオン濃度が、上記数式(I)の範囲内に存在することは、上述したイオンクロマトグラフィーによる手法で確認することができる。
【0049】
I−3.その他:
本発明の正極活物質によって、電池の高温サイクル特性の向上等、高温特性を改善する効果が得られる理由は定かではないが、次のように推測される。
炭酸化されたLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物の粉体の表面には、化学量論比以上に含有する過剰のLiが炭酸ガスと反応したことにより形成された炭酸リチウムの良好な被膜層が形成されている。この結果、炭酸化されたLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物の粉体からなる本発明の正極活物質は、電池特性の低下をきたすことなく、高温環境下での正極活物質の触媒活性の緩和・低減が図られることに加え、電解液と正極活物質との副反応が抑制されるため、本発明の正極活物質を用いて電池を製造した場合に、高温サイクル特性などの高温特性が改善されると考えられる。また、本発明の正極活物質を使用して電池を製造した場合、他の層状リチウム遷移金属酸化物を正極活物質に使用した場合に比べ、層状リチウムニッケル系複合酸化物においてとりわけ問題となっている電池内でのガス発生の問題も軽減されることが期待される。
【0050】
ここで、従来提案されているリチウムニッケル系複合酸化物からなる正極活物質を挙げ、これらと本発明とを対比しながら、本発明の正極活物質が効果を発揮するメカニズムを更に考察する。
特開平7−245105号公報には、LiNiOの表面を炭酸リチウムで被覆することによって電解液との接触面を減らし、電解液が分解してできる反応膜の形成をなくし、高温保存劣化を抑制することが記載されている。具体的には、Li/Ni比が化学量論組成(1/1)のLiNiOを炭酸ガス雰囲気中で150℃、2〜3分、もしくは空気中で200℃、10分放置することが記載されている。
しかしながら、本文献記載の技術の様に、化学量論組成のLiNiOを炭酸化して正極活物質に用いる場合、その層状構造中のLiが炭酸ガスとの反応に消費されてしまうため、充放電容量の低下や、結晶構造の崩壊に伴うLiの吸蔵・放出反応の可逆性の低下を引き起こす虞がある。
【0051】
また、特開平9−153360号公報には、ニッケル酸リチウム又は複合ニッケル酸リチウムを二酸化炭素ガスを含む雰囲気中で処理することにより、水中に分散した際のpH値を12.00以下とし、塗布電極とした時の電極密度を高めることができると記載している。
しかしながら、本文献記載の技術では、炭酸化の際の処理温度が低いため、丈夫な炭酸リチウムの被膜形成には至らず、高温サイクル特性等の高温特性の改善には不十分である。
【0052】
一方、本発明の正極活物質では、Li過剰の層状リチウムニッケル系複合酸化物を用い、高温条件下において炭酸化を行なうため、充分に炭酸リチウムの被膜層を形成することができ、そのため、従来の正極活物質よりも優れた高温特性を得ることが可能となったと推察される。
【0053】
なお、上記の被膜層が炭酸リチウム層であることは、炭酸イオン濃度の比較的高い試料についてX線回折測定を行うことで確認できる。又は、SEM(scanning electron microscope)、XPS(X−ray photoelectron spectroscopy)分析を行った際に、確認することができる。SEMでは、層状リチウムニッケル系複合酸化物の表面が実質的に炭酸リチウムの被膜で覆われている状況を観察することができ、XPS分析では層状リチウムニッケル系複合酸化物表面の炭酸リチウム層の存在や炭酸リチウム層の厚みを知ることができる。
【0054】
[II.リチウム二次電池用正極]
本発明の正極活物質は、リチウム二次電池の正極の材料として、好適に使用することができる。
本発明のリチウム二次電池用正極(以下、適宜「本発明の正極」と略称する。)は、上述した本発明の正極活物質を含有するものであれば、その種類には特に制限はないが、通常は、正極集電体と、正極活物質及びバインダーを含有する正極層とからなる。
【0055】
正極活物質層は、例えば、正極活物質、バインダー(結着剤)、及び、必要に応じて導電剤を溶媒でスラリー化したものを正極集電体に塗布し、乾燥することにより製造することができる。以下、この製造方法について説明する。
【0056】
正極活物質層は、上述した本発明の正極活物質を有していれば特に制限はない。また、正極活物質層中には、本発明の正極活物質に加えて、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、LiCoPO、LiFePO等のリチウムイオンを吸蔵・放出しうる他の正極活物質を更に含有していても良い。これら本発明の正極活物質以外の活物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0057】
正極中の正極活物質の割合は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上であり、通常99.9重量%以下、好ましくは99重量%以下である。
【0058】
本発明の正極に使用されるバインダーについて特に制限はないが、通常は、電極製造時に、スラリーを作製するために用いる溶媒(以下適宜、スラリー溶媒という)に対して安定なものを用いる。具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子、アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0059】
正極活物質層中のバインダーの割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。正極中のバインダーの割合が低すぎると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させることがあり、一方高すぎる電池容量や導電性を下げる虞がある。
【0060】
正極活物質層は、通常、導電性を高めるために導電剤を含有する。導電剤としては公知のものを任意に使用することが可能であるが、例えば、銅、ニッケル等の金属材料や、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛や、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料を挙げることができる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0061】
正極活物質層中の導電剤の割合は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上であり、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは15重量%以下である。導電剤の割合が低すぎると製造される電池の導電性が不十分になることがあり、逆に高すぎると電池容量が低下することがある。
【0062】
スラリーを作製するための溶媒としては、上述した本発明の正極活物質、バインダー、並びに必要に応じて使用される増粘剤及び導電剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いても良いが、通常は有機溶剤が使用される。有機系溶媒の具体例としては、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N−N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン、トルエン、アセトン、ジメチルエーテル、ヘキサメリルホスファルアミド、ジメチルスルフォキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等を挙げることができる。また、水系溶媒に分散剤、増粘剤等を加えてSBR等のラテックスで活物質をスラリー化することもできる。水系溶媒の例としては、水や、アルコールなどが挙げられる。
【0063】
また、正極活物質層の厚さは、通常10〜200μm程度である。
さらに、塗布・乾燥によって得られた正極層は、活物質の充填密度を上げるためローラープレス等により圧密されるのが好ましい。
【0064】
正極に使用する集電体の材質としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。中でも金属材料が好ましく、アルミニウムが特に好ましい。また、形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。中でも、金属薄膜が、現在工業化製品に使用されているため好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成しても良い。
【0065】
正極集電体として薄膜を使用する場合、その厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常100mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは50μm以下の範囲が好適である。上記範囲よりも薄いと、集電体として必要な強度が不足する虞がある一方で、上記範囲よりも厚いと、取り扱い性が損なわれる虞がある。
【0066】
[III.リチウム二次電池]
上述した本発明の正極を用いて、リチウム二次電池を製造することができる。本発明のリチウム二次電池は、上述した本発明の正極を用いて構成されるものであればその種類に特に制限はないが、通常は上記の本発明の正極と、負極と、電解質とを有して構成される。
【0067】
[負極]
負極は通常、正極の場合と同様に、負極集電体上に負極活物質層を設けて構成される。
負極活物質層は、負極活物質を含んで構成される。負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、その種類に他に制限はないが、通常は安全性の高さの面から、リチウムを吸蔵、放出できる炭素材料が用いられる。
【0068】
本発明のリチウム二次電池の負極に使用される負極活物質としては、通常は安全性の高さの面から、リチウムを吸蔵、放出できる炭素材料が用いられる。
炭素材料としては、その種類に特に制限はないが、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)や、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物が挙げられる。有機物の熱分解物としては、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチの炭化物、石油系ピッチの炭化物、或いはこれらピッチを酸化処理したものの炭化物、ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂、結晶セルロース等の炭化物等及びこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。中でも黒鉛が好ましく、特に好適には、種々の原料から得た易黒鉛性ピッチに高温熱処理を施すことによって製造された、人造黒鉛、精製天然黒鉛、又はこれらの黒鉛にピッチを含む黒鉛材料等であって、種々の表面処理を施したものが主として使用される。これらの炭素材料は、それぞれ1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0069】
負極活物質として黒鉛材料を用いる場合、学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)が、通常0.335nm以上、また、通常0.34nm以下、好ましくは0.337nm以下であるものが好ましい。
また、黒鉛材料の灰分が、黒鉛材料の重量に対して通常1重量%以下、中でも0.5重量%以下、特に0.1重量%以下であることが好ましい。
【0070】
更に、学振法によるX線回折で求めた黒鉛材料の結晶子サイズ(Lc)が、通常30nm以上、中でも50nm以上、特に100nm以上であることが好ましい。
また、レーザー回折・錯乱法により求めた黒鉛材料のメジアン径が、通常1μm以上、中でも3μm以上、更には5μm以上、特に7μm以上、また、通常100μm以下、中でも50μm以下、更には40μm以下、特に30μm以下であることが好ましい。
【0071】
また、黒鉛材料のBET法比表面積は、通常0.5m/g以上、好ましくは0.7m/g以上、より好ましくは1.0m/g以上、更に好ましくは1.5m/g以上、また、通常25.0m/g以下、好ましくは20.0m/g以下、より好ましくは15.0m/g以下、更に好ましくは10.0m/g以下である。
【0072】
更に、黒鉛材料についてアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析を行なった場合に、1580〜1620cm−1の範囲で検出されるピークPの強度Iと、1350〜1370cm−1の範囲で検出されるピークPの強度Iとの強度比I/Iが、0以上0.5以下であるものが好ましい。また、ピークPの半値幅は26cm−1以下が好ましく、25cm−1以下がより好ましい。
【0073】
なお、上述の各種の炭素材料の他に、リチウムの吸蔵及び放出が可能なその他の材料を負極活物質として用いることもできる。炭素材料以外の負極活物質の例としては、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、SnO、SnO、Sn1−p O(ここで、MはHg,P,B,Si,Ge又はSbを表わし、pは0≦p≦1を満たす数を表わす。)、Sn(OH)、Sn3−q (OH)(ここで、MはMg、P,B,Si、Ge、Sb又はMnを表わし、qは0≦q≦3を満たす数を表わす。)、LiSiO、SiO又はLiSnOなどの金属酸化物などが挙げられる。これらの炭素材料以外の材料は、それぞれ1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、上述の炭素材料と組み合わせて用いても良い。
【0074】
負極活物質層は、通常は正極活物質層の場合と同様に、上述の負極活物質と、バインダーと、必要に応じて増粘剤及び導電剤とを溶媒でスラリー化したものを負極集電体に塗布し、乾燥することにより製造することができる。スラリーを形成する溶媒やバインダー、増粘剤、導電剤等としては、正極活物質について上述したものと同様のものを使用することができる。
【0075】
負極集電体の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。中でも金属材料が好ましく、特に銅が好ましい。また、形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。中でも、金属薄膜が、現在工業化製品に使用されているため好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成しても良い。負極集電体として金属薄膜を使用する場合、その好適な厚さの範囲は、正極集電体について上述した範囲と同様である。
【0076】
[セパレータ]
正極と負極との間は、適宜、電極同士の短絡を防止するためにセパレータが介装される。セパレータの材質や形状は特に制限されないが、使用する有機電解液に対して安定で、保液性に優れ、且つ、電極同士の短絡を確実に防止できるものが好ましい。好ましい例としては、各種の高分子材料からなる微多孔性のフィルム、シート、不織布等が挙げられる。高分子材料の具体例としては、ナイロン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン高分子が用いられる。特に、セパレータの重要な因子である化学的及び電気化学的な安定性の観点からは、ポリオレフィン系高分子が好ましく、電池におけるセパレータの使用目的の一つである自己閉塞温度の点からは、ポリエチレンが特に望ましい。
【0077】
ポリエチレンからなるセパレータを用いる場合、高温形状維持性の点から、超高分子ポリエチレンを用いることが好ましく、その分子量の下限は好ましくは50万、より好ましくは100万、さらに好ましくは150万である。他方、分子量の上限は、好ましくは500万、より好ましくは400万、さらに好ましくは300万である。分子量が大き過ぎると流動性が低くなり過ぎてしまい、加熱された時にセパレータの孔が閉塞しない場合があるからである。
【0078】
[電解質]
また、本発明のリチウム二次電池における電解質には、例えば公知の有機電解液、高分子固体電解質、ゲル状電解質、無機固体電解質等を用いることができるが、中でも有機電解液が好ましい。有機電解液は、有機溶媒と溶質から構成される。
有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えばカーボネート類、エーテル類、ケトン類、スルホラン系化合物、ラクトン類、ニトリル類、塩素化炭化水素類、エーテル類、アミン類、エステル類、アミド類、リン酸エステル化合物等を使用することができる。これらの代表的なものを列挙すると、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、4−メチル−2−ペンタノン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、1,2−ジクロロエタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等の単独もしくは二種類以上の混合溶媒が使用できる。
【0079】
上述の有機溶媒には、電解質を解離させるために高誘電率溶媒が含まれることが好ましい。ここで、高誘電率溶媒とは、25℃における比誘電率が20以上の化合物を意味する。高誘電率溶媒の中で、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びそれらの水素原子をハロゲン等の他の元素又はアルキル基等で置換した化合物が電解液中に含まれることが好ましい。高誘電率化合物の、電解液に占める割合は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上である。該化合物の含有量が少ないと、所望の電池特性が得られない場合があるからである。
【0080】
またこの溶媒に溶解させる溶質の種類は特に限定されず、従来公知の任意の溶質を用いることができる。具体例としてはLiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiB(C、LiCl、LiBr、CHSOLi、CFSOLi、LiN(SOCF、LiN(SO、LiC(SOCF、LiN(SOCF、等が挙げられる。これらの溶質は任意の1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、CO、NO、CO、SO等のガスやポリサルファイドなど負極表面にリチウムイオンの効率良い充放電を可能にする良好な被膜を形成する添加剤を、任意の割合で上記単独又は混合溶媒に添加しても良い。
【0081】
高分子固体電解質を使用する場合にも、その種類は特に限定されず、固体電解質として公知の任意の高分子を用いることができる。特に、リチウムイオンに対するイオン導電性の高い高分子を使用することが好ましく、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン等が好ましく使用される。また、この高分子に対して、上記の溶質と共に上記の溶媒を加えて、ゲル状電解質として使用することも可能である。
【0082】
無機固体電解質を使用する場合にも、その種類は特に限定されず、固体電解質として公知の任意の結晶質・非晶質の無機物を用いることができる。結晶質の無機固体電解質としては、結晶質の固体電解質としては例えば、LiI、LiN、Li1+ χ χTi2− χ(PO(Mは、Al、Sc、Y又はLaを表わし、また、χは固体電解質により決まる数を表わす。)、Li0.5−3 χRE0.5+ χTiO(REは、La,Pr,Nd又はSmを表わし、また、χは固体電解質により決まる数を表わす。)等が挙げられ、非晶質の固体電解質としては例えば、4.9LiI−34.1LiO、61B、33.3LiO−66.7SiO等の酸化物ガラスや0.45LiI−0.37LiS−0.26B、0.30LiI−0.42LiS−0.28SiS等の硫化物ガラス等が挙げられる。これらは任意の1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いても良い。
【0083】
[電池の組立]
本発明のリチウム二次電池は、上述した本発明の正極と、負極と、電解質と、必要に応じて用いられるセパレータとを、適切な形状に組み立てることにより製造される。更に、必要に応じて外装ケース等の他の構成要素を用いることも可能である。
【0084】
電池の形状は特に制限されず、一般的に採用されている各種形状の中から、その用途に応じて適宜選択することができる。一般的に採用されている形状の例としては、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプなどが挙げられる。また、電池を組み立てる方法も特に制限されず、目的とする電池の形状に合わせて、通常用いられている各種方法の中から適宜選択することができる。
【0085】
[その他]
以上、本発明のリチウム二次電池の一般的な実施形態について説明したが、本発明のリチウム二次電池は上記実施形態に制限されるものではなく、その要旨を越えない限りにおいて、各種の変形を加えて実施することが可能である。
【0086】
本発明のリチウム二次電池の用途は特に限定されず、公知の各種の用途に用いることが可能である。具体例としては、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ等を挙げることができる。特に、本発明のリチウム二次電池は、高温環境下での特性(高温サイクル特性等)に優れていることから、高温環境下での用途に使用した場合に、とりわけ大きい効果が得られる。
【0087】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【0088】
<実施例1>
原料としてLi1.040Ni0.798Co0.152Al0.049なる組成(分子量:96.3332)の粉末状の層状リチウムニッケル系複合酸化物を用い、これを温度400℃の条件下で、5mol%−CO/95mol%−O混合ガスの雰囲気気流中に1時間保持することにより、粉末粒子の表面に炭酸化処理を施し、正極活物質を作製した。
【0089】
作製した正極活物質30mgに、調製直後の脱塩水5mlを加え、30分超音波分散抽出した。この抽出水相を、イオンクロマトグラフ装置で分析し、炭酸イオン濃度を求めた。イオンクロマトグラフィー装置としてはDionex社製DX−120を用い、カラムとしてはDionex社製 IonPac ICE−AS1を使用し、溶離剤としては水を用いた。測定の結果、炭酸イオン濃度は0.78重量%で、本発明の数式(I)による規定濃度の範囲内であった。
なお、原料として用いた層状リチウムニッケル系複合酸化物のBET比表面積は0.5m/g、メジアン径(超音波分散5分)は7.2μmであった。
【0090】
<実施例2>
実施例1と同様の層状リチウムニッケル系複合酸化物を原料として、実施例1と同様の混合ガス雰囲気気流中に、実施例1と同様の温度条件下で6時間保持した他は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
また、作製された正極活物質の炭酸イオン濃度を、実施例1と同様の手順で測定した。測定の結果、炭酸イオン濃度は1.23重量%で、本発明の数式(I)による規定濃度の範囲内であった。
【0091】
<実施例3>
原料としてLi1.074Ni0.799Co0.153Al0.048なる組成(分子量:96.6586)の粉末状の層状リチウムニッケル系複合酸化物を用い、実施例1と同様の混合ガス雰囲気気流中に、実施例1と同様の温度条件下で2時間保持した他は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
また、作製された正極活物質の炭酸イオン濃度を、実施例1と同様の手順で測定した。測定の結果、炭酸イオン濃度は1.77重量%で、本発明の数式(I)による規定濃度の範囲内であった。
なお、原料として用いた層状リチウムニッケル系複合酸化物のBET比表面積は0.4m/g、メジアン径(超音波分散5分)は7.7μmであった。
【0092】
<比較例1>
実施例1と同様の層状リチウムニッケル系複合酸化物を原料として、100%COガス雰囲気気流中で、実施例1と同様の温度条件下で6時間保持した他は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
また、作製された正極活物質の炭酸イオン濃度を、実施例1と同様の手順で測定した。測定の結果、炭酸イオン濃度は2.30重量%で、本発明の数式(I)による規定濃度の範囲を超えるものであった。
【0093】
<比較例2>
実施例3と同様の層状リチウムニッケル系複合酸化物を原料として、実施例1と同様の混合ガス雰囲気気流中で、実施例1と同様の温度条件下で24時間保持した他は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
また、作製された正極活物質の炭酸イオン濃度を、実施例1と同様の手順で測定した。測定の結果、炭酸イオン濃度は2.48重量%で、本発明の数式(I)による規定濃度の範囲を超えるものであった。
【0094】
<比較例3>
実施例1と同様の層状リチウムニッケル系複合酸化物を、表面炭酸化処理を行なわずに、そのまま正極活物質として用いた。
また、この正極活物質の炭酸イオン濃度を、実施例1と同様の手順で測定した。測定の結果、炭酸イオン濃度は0.25重量%で、本発明の数式(I)による規定濃度の範囲に満たないものであった。
【0095】
<比較例4>
実施例3と同様の層状リチウムニッケル系複合酸化物を、表面炭酸化処理を行なわずに、そのまま正極活物質として用いた。
また、この正極活物質の炭酸イオン濃度を、実施例1と同様の手順で測定した。測定の結果、炭酸イオン濃度は0.26重量%で、本発明の数式(I)による規定濃度の範囲に満たないものであった。
【0096】
<電池評価試験例>
実施例1〜3及び比較例1〜4で得た正極活物質をそれぞれ用いて、以下の方法で電池の作製及び評価を行った。
【0097】
A.正極の作製と容量確認:
実施例1〜3及び比較例1〜4で得た正極活物質を75重量%、アセチレンブラック20重量%、ポリエステルテトラフルオロエチレンパウダー5重量%の割合で秤量したものを乳鉢で十分混合し、薄くシート状にしたものを、直径が9mmφ、12mmφのポンチを用いてそれぞれ打ち抜いた。この際、打ち抜いたシートの全体重量が各々約8mg、約18mgになるように調整した。これをAlのエキスパンドメタルに圧着して正極とした。
【0098】
直径9mmφに打ち抜いた正極を試験極とし、Li金属を対極としてコインセルを組んだ。これに0.2mA/cmの定電流定電圧充電、即ち正極からリチウムイオンを放出させる反応を上限4.2Vで行なった。次いで、0.2mA/cmの定電流放電、即ち正極にリチウムイオンを吸蔵させる反応を下限3.0Vで行なった際の、正極活物質単位重量当たりの初期充電容量をQs(C)[mAh/g]、及び、初期放電容量Qs(D)[mAh/g]を測定した。
【0099】
B.負極の作製と容量確認:
負極活物質として平均粒径約8〜10μmの黒鉛粉末(d002=3.35Å)を、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンをそれぞれ用い、これらを重量比で92.5:7.5の割合で秤量し、これをN−メチルピロリドン溶液中で混合し、負極合剤スラリーとした。このスラリーを20μmの厚さの銅箔の片面に塗布し、乾燥して溶媒を蒸発させた後、12mmφに打ち抜き、0.5ton/cmでプレス処理をしたものを負極とした。
【0100】
なお、この負極を試験極とし、Li金属を対極として電池セルを組み、0.5mA/cmの定電流で負極にLiイオンを吸蔵させる試験を下限0Vで行った際の負極活物質単位重量当たりの初期吸蔵容量をQf[mAh/g]とした。
【0101】
C.電池の組立:
コインセルを使用して試験用電池を組み立てた。即ち、正極缶の上に、実施例1〜3及び比較例1〜4で得た正極活物質を用いて作製した上記の正極を置き、その上にセパレータとして厚さ25μmの多孔性ポリエチレンフィルムを置き、ポリプロピレン製ガスケットで押さえた後、その上に負極を置き、更に厚み調整用のスペーサーを置いた後、非水電解液として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積分率3:7の混合溶液に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度1mol/Lとなるように溶解させた溶液を用い、これを電池内に加えてセパレータに十分染み込ませた後、負極缶を載せて電池を封口し、コイン型のリチウム二次電池(実施例1〜3及び比較例1〜4の電池)を作製した。なお、この時、正極活物質の重量と負極活物質重量のバランスは、ほぼ、下記の式を満たすように設定した。
正極活物質重量[g]/負極活物質重量[g]=(Qf[mAh/g]/1.2)/Qs(C)[mAh/g]
【0102】
D.高温サイクル試験
この様に得られた実施例1〜3及び比較例1〜4の電池の高温特性を比較するため、電池の1時間率電流値、即ち1Cを下記の式のように設定し、以下の試験を行なった。
1C[mA]=Qs(D)×正極活物質量[g]/時間[h]
【0103】
まず、室温で定電流0.2C充放電2サイクル及び定電流1C充放電1サイクルを行なった。次に60℃の高温で定電流0.2C充放電1サイクル、ついで定電流1C充放電100サイクルの試験を行なった。なお、充電上限は4.1V、下限電圧は3.0Vとした。
【0104】
この時、60℃での1C充放電100サイクル試験における、1サイクル目の放電容量Qh(1)に対する100サイクル目の放電容量Qh(100)の割合を、下記の式で高温サイクル容量維持率Pとして算出し、この値で電池の高温特性を比較した。
P[%]={Qh(100)/Qh(1)}×100
【0105】
実施例1〜3、比較例1〜4の電池における、正極活物質の炭酸イオン濃度、上記数式(I)より規定される炭酸イオン濃度の上限値、及び、高温サイクル容量維持率Pを表−1に示す。なお、炭酸イオン濃度の上限値を数式(I)から算出する際、炭酸イオン(CO 2−)の分子量は60.01g/molとして計算した。
【0106】
【表1】
Figure 2004335345
【0107】
表−1から、炭酸イオン濃度が数式(I)の規定範囲内にある正極活物質を用いた実施例1〜3の電池は、炭酸イオン濃度が数式(I)の規定範囲を超える正極活物質を用いた比較例1,2の電池や、炭酸イオン濃度が数式(I)の規定範囲に満たない正極活物質を用いた比較例3,4の電池と比較すると、高温サイクル容量維持率が高く、高温特性により優れていることが分かる。
【0108】
【発明の効果】
本発明によれば、炭酸イオン濃度が数式(I)を満たすLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物を用いることにより、リチウム二次電池における高温サイクル特性等の高温特性を改善できる、優れた正極活物質を提供することができる。さらに、本発明の正極活物質を用いて正極を作製することにより、高温サイクル特性等の高温特性に優れたリチウム二次電池を実現できる。

Claims (8)

  1. 炭酸化したLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物よりなるとともに、イオンクロマトグラフィーにより測定した該Li過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物の炭酸イオン濃度c[重量%]が下記数式(I)を満たすことを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質。
    0.3<c≦50bx/[Mw(NI)+bx/2] ・・・数式(I)
    (数式(I)において、Mw(NI)は該リチウムニッケル系複合酸化物の分子量[g/mol]を表わし、bは炭酸イオンの分子量[g/mol]を表わし、xは化学量論比以上のLiのモル過剰量を表わす。)
  2. 該Li過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物が下記化学式(1)で表わされる組成を有することを特徴とする、請求項1記載のリチウム二次電池用正極活物質。
    Li1+xNi1−y ・・・化学式(1)
    (化学式(1)において、MはCo、Mn、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、及びZnからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属を表わし、xは0.01≦x≦0.2を満たす数を表わし、yは0≦y≦0.7を満たす数を表わす。)
  3. 該Li過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物が下記化学式(2)で表わされる組成を有することを特徴とする、請求項2記載のリチウム二次電池用正極活物質。
    Li1+xNi1− α βCoαAlβ ・・・化学式(2)
    (化学式(2)において、xは0.01≦x≦0.2を満たす数を表わし、αは0<α≦0.4を満たす数を表わし、βは0<β≦0.3を満たす数を表わす。)
  4. BET比表面積が0.3m/g以上1.5m/g以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム電池用正極活物質。
  5. 炭酸ガスを含有する露点0℃以下の雰囲気ガス中で、温度が200℃よりも高く且つ600℃以下の条件でLi過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物を炭酸化することにより、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を製造することを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
  6. 該雰囲気ガス中の炭酸ガス濃度が0.01体積%以上100体積%以下であるとともに、該Li過剰層状リチウムニッケル系複合酸化物を該雰囲気ガス中に0.5時間以上24時間以下保持することにより前記炭酸化を行なうことを特徴とする、請求項5記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
  7. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含有することを特徴とする、リチウム二次電池用正極。
  8. 請求項7記載のリチウム二次電池用正極と、負極と、電解質とを備えたことを特徴とする、リチウム二次電池。
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