JP2004327755A - 高周波可変リアクタンス素子 - Google Patents

高周波可変リアクタンス素子 Download PDF

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Abstract

【課題】外部磁界制御によりリアクタンスを負から正まで制御することができるため、バラクタダイオードに比べはるかに広い可変域を有する高周波可変リアクタンス素子を提供する。
【解決手段】薄膜磁性体の強磁性共鳴現象を用いて、素子に印加する磁界を変化させることで、素子のリアクタンスを制御する。強磁性共鳴現象に伴い発生する、リアクタンスを正から負へと可変することができる。高周波電流を通電する方向から直角方向を幅方向とし、薄膜磁性体の磁化容易軸方向を幅方向から傾斜させることで、強磁性共鳴が発生する磁界強度を低下させ、素子駆動の消費電力を減少させることができる。
本特性を利用することで、外部磁界制御の可変周波数発信器の実現が可能である。この特性は、磁性体の高周波透磁率を利用するものであるため、リアクタンス的な周波数特性を有する。すなわち、周波数に比例した特性を有し、高い周波数でより大きな絶対値のリアクタンス(負のリアクタンスも含め)を実現する。
【選択図】 図4

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、外部磁界により制御可能で、かつその制御範囲が負から正までの範囲である、高周波可変リアクタンス素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高周波用可変リアクタンス素子で負のリアクタンスを有する素子は、可変容量素子と同等であり、このような素子は、マイクロマシン技術を用い機械的に電極間距離を変化させ容量を可変とする可変キャパシタ、あるいは半導体素子の空乏層幅を印加する逆電圧で制御するバラクタダイオードがある。
【0003】
これら素子の応用用途としては、VCO(Voltage Controlled Oscilator)に代表される発振周波数を制御できる高周波発信器が代表的である。そのような高周波用可変リアクタンス素子は、携帯電話、Bluetoothをはじめとするモバイル通信の発振素子として広く使用されている。
【0004】
他の応用用途として、位相器がある。この一手法として、可変リアクタンス素子を用いて、位相を変換する素子があるが、この可変リアクタンス素子にバラクタダイオードが用いられている。
【0005】
強磁性共鳴現象を利用した共振器、同調器には、YIG、フェライト等の磁性体を外部磁界で飽和させ、この磁性体をストリップライン等の伝送線路近傍に配置して電気的に結合させ、外部磁界で制御した強磁性共鳴を用いて、共振器、同調器を構成したものがある。
【0006】
図16はかかる従来の高周波可変リアクタンス素子の模式図である。
【0007】
この図において、101は高周波信号入力部、102はバラクタダイオード、103は電圧制御部、104は高周波信号出力部である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したバラクタダイオード等の従来素子は、
(1)容量の可変比(CMAX /Cmin )が3程度と小さく、周波数あるいは位相角の可変領域が狭い。
【0009】
(2)容量性素子は、リアクタンスの絶対値が、周波数が高くなるにつれ逆比例して減少する。
【0010】
といった問題があった。
【0011】
本発明は、上記状況に鑑みて、外部磁界制御によりリアクタンスを負から正まで制御することができ、バラクタダイオードに比べはるかに広い可変域を有する高周波可変リアクタンス素子を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高周波可変リアクタンス素子において、薄膜磁性体の強磁性共鳴に起因する、高周波複素透磁率の実部が負から正まで可変となる現象を利用して、負のリアクタンスを発生させる素子であって、薄膜面内方向の外部磁界によりリアクタンスが負から正まで変化可能にしたものである。
【0013】
〔2〕上記〔1〕記載の高周波可変リアクタンス素子において、面内一軸磁気異方性を有した薄膜磁性体に直接高周波電流を流し、薄膜磁性体における磁気異方性の磁化容易軸と異なる面内方向に外部磁界を印加することにより、強磁性共鳴現象に起因して生じる負から正まで変化可能であるリアクタンスを制御するようにしたものである。
【0014】
〔3〕上記〔1〕記載の高周波可変リアクタンス素子において、面内一軸磁気異方性を有した薄膜磁性体に直接高周波電流を流し、薄膜磁性体における磁気異方性の磁化容易軸と同じ方向に外部磁界を印加することにより、強磁性共鳴現象に起因して生じる負から正まで変化可能であるリアクタンスを制御するようにしたものである。
【0015】
〔4〕上記〔2〕記載の高周波可変リアクタンス素子において、高周波電流の通電方向に対し直角方向を幅方向とし、薄膜磁性体の磁化容易軸方向が幅方向から傾斜することに伴い生じる磁壁の傾斜角度を20度以上70度以下の角度方向とし、外部磁界を高周波電流の通電方向に印加することにより、強磁性共鳴現象に起因するリアクタンス変化を利用するための外部磁界強度を低下させるようにしたものである。
【0016】
〔5〕上記〔2〕又は〔3〕記載の高周波可変リアクタンス素子において、高周波電流の通電方向に対し直角方向を幅方向とし、薄膜磁性体の容易軸方向が幅方向から傾斜することに伴い生じる磁壁の傾斜角度を70度以上の角度方向とし、外部磁界を高周波電流の通電方向に印加することにより、外部磁界増加に対しリアクタンスが増加する領域を低バイアス化し、強磁性共鳴現象に起因するリアクタンス変化の外部磁界に対する直線性の高い領域を有するようにしたものである。
【0017】
〔6〕上記〔1〕から〔5〕の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子において、高周波信号源から見て素子前部の導電路のいずれか、あるいはこれら両方と、電磁気的に結合する位置に導電体からなる電極を形成した構造として、リアクタンス変化と同時に生じる素子の抵抗変化と、素子あるいは導電路に対向する電極との間に生じる電気容量の効果を利用することにより、素子自体のリアクタンス変化に伝送線路のリアクタンス変化を畳重させるようにしたものである。
【0018】
〔7〕上記〔6〕記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した上記〔1〕から〔5〕の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子の両側に、間隔をおいて並列的に電極を配置したコプレーナ形状を有するようにしたものである。
【0019】
〔8〕上記〔6〕記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した上記〔1〕から〔5〕の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子の両側に、間隔をおいて並列的に電極を配置したコプレーナ形状の素子において、高周波信号源から見て素子後側における端部を電極と短絡した構造を有するようにしたものである。
【0020】
〔9〕上記〔6〕記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した上記〔1〕から〔5〕の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子の片側に、間隔をおいて並列的に電極を配置したスロットライン形状を有するようにしたものである。
【0021】
〔10〕上記〔6〕記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した上記〔1〕から〔5〕の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子の片側に、間隔をおいて並列的に電極を配置したスロットライン形状の素子において、信号源から見て素子後側における端部を電極と短絡した構造を有するようにしたものである。
【0022】
〔11〕上記〔6〕記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した上記〔1〕から〔5〕の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子を信号線とし、上下少なくとも一方に絶縁層を中間層とした電極を配置したストリップライン形状あるいはマイクロストリップライン形状を有するようにしたものである。
【0023】
〔12〕上記〔6〕記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した上記〔1〕から〔5〕の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子を信号線とし、上下少なくとも一方に絶縁層を中間層とした電極を配置し、ストリップライン形状あるいはマイクロストリップライン形状を有した素子において高周波信号源から見て素子後側における端部を電極と短絡した構造を有するようにしたものである。
【0024】
〔13〕上記〔1〕から〔12〕の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子であって、素子外部磁界印加手段として、薄膜磁石を複合化してバイアス磁界を発生させるようにしたものである。
【0025】
〔14〕上記〔6〕から〔12〕の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子であって、上記〔1〕から〔5〕の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子と伝送線路を形成する電極として導電性磁石薄膜を使用し、バイアス磁界印加機能を複合化させるようにしたものである。
【0026】
本発明によれば、磁性体に高周波電流を通電し、外部磁場に応じたインピーダンス変化を利用した磁界検出素子を応用し、可変周波数型の高周波発振器に不可欠な可変リアクタンス素子を実現する。従来型のリアクタンス素子に比べて広い可変域を有し、しかも高周波での特性が劣化しない高周波可変リアクタンス素子を提供する。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
まず、以下に本発明の原理について説明する。
【0029】
ここでは、素子の高周波電流通電方向を長手方向、これと直交する方向を幅方向とする。磁性体は通電する高周波電流により励磁されるが、この際に重要なのは通電電流の発生する磁界方向である幅方向の高周波透磁率である。薄膜幅方向の高周波透磁率が外部磁界により変化する現象は、バイアス磁化現象と呼ばれ、面内一軸磁気異方性を有した薄膜磁性体についてのバイアス磁化率の理論で説明されている。本理論によると、薄膜磁性体の幅方向高周波複素透磁率は、外部磁界強度により大きく変化し、この際、外部磁界と周波数そして薄膜磁性体の異方性磁界の条件で発生する強磁性共鳴により特異な現象を発生させることが示されている。すなわち、強磁性共鳴周波数の前後の周波数において、複素透磁率の実部が正負別の極性を有する値となり、複素透磁率の虚部が共鳴周波数で最大値となる現象である。
【0030】
本発明の可変リアクタンス素子は、この高周波複素透磁率の強磁性共鳴周波数近傍に生じる現象を利用して、負から正までリアクタンスが可変する素子を提供するものである。
【0031】
図1は本発明の実施例を示す可変リアクタンス素子の斜視図である。
【0032】
この図において、1は可変リアクタンス素子、2は基板(例えばガラス)、3はその基板2上に形成される磁性膜、4はその両端に設けられる電極パッド、5は高周波電源、6は高周波電流の方向、7はリアクタンス制御磁界の方向である。なお、素子特性の制御磁界印加方向は図示の方向に限定されるものではない。
【0033】
図2は本発明における傾斜磁壁からなる素子面内の傾斜磁区構造の模式図である。磁壁は180°磁壁11と還流磁区12の磁壁13に分類されるが、本発明の請求項で規定する磁壁角度は、180°磁壁11の傾斜角度であり、磁壁種類の判別が困難な場合は、磁壁11,13の平均角度で定義する。磁化容易軸の傾斜角度も異方性分散等があるため実際は一意的に決定できないため、分散状態の平均値を磁壁(磁化容易軸)傾斜角度θと定義する。14は通電方向である。
【0034】
本発明の素子の有する磁化容易軸の傾斜角度θ、あるいは磁壁の平均傾斜角度は請求項に規定されるものとなる。
【0035】
傾斜磁区の形成方法には、実施の容易な方法として、以下の2通りの方法がある。
【0036】
(1)磁性膜に磁気異方性を誘導した後に、異方性の方向が傾斜する配置の磁界検出素子形状に加工する。
【0037】
(2)磁性体膜を磁界検出素子の形状に加工した後に、以下の製造方法で傾斜磁区を形成する。すなわち、磁界中熱処理を使用する際の磁壁傾斜角度の制御方法として、通電方向に対する素子断面形状のアスペクト比(すなわち、素子幅を膜厚で割った比)と静磁界中熱処理時に印加する磁界傾斜角度の関係により制御する。
【0038】
上記(2)の方法については、例えば、飽和磁束密度1TのCo85Nb12Zrアモルファス薄膜において、磁壁傾斜角度より小さな傾斜角である角度1度で静磁界中熱処理磁界を印加した場合の素子断面形状のアスペクト比と磁壁傾斜角度の関係を実験的に求めた図を図3に示す。この図において、横軸はアスペクト比W/T、縦軸は磁壁傾斜角度(度)を示している。
【0039】
Co85Nb12Zrアモルファス薄膜において、静磁界中熱処理磁界の傾斜角度1度、素子断面形状のアスペクト比を8とすることで、磁壁傾斜角度45度の傾斜磁区を有した素子の製造ができる。
【0040】
(実施例1)
素子の磁性体材料組成は、Co85Nb12Zrであり、RFスパッタ(Ar雰囲気)にてガラス基板上に成膜した。素子寸法は長さ2mm、幅50μm、膜厚2.2μmでありリフトオフ法あるいはイオンミリング法を用いてパターニングした。磁性膜はパターニング後に磁界中熱処理を施し、磁気異方性を付与した。
【0041】
磁界中熱処理条件は、(1)回転磁界中熱処理(40kA/m、400℃、2時間)、(2)静磁界中熱処理(40kA/m、400℃、1時間)である。磁界中熱処理は、真空中で行なった。静磁界中熱処理の磁界方向は、幅方向として静磁界中熱処理を行なった。電極はTi/Cuで形成され、素子両端に300μm□の電極を設置した。
【0042】
磁界強度による素子のリアクタンス特性評価は、ヘルムホルツコイルにより外部磁界Hexを通電方向に印加した際の素子インピーダンス変化を測定することにより行なった。測定はネットワークアナライザ(例えば、HP4396B)を用いて反射法により測定した。素子の接続は、一端を特性インピーダンス50Ωのマイクロストリップラインに、もう一端を接地面にワイヤボンディングして接続した。
【0043】
上記した素子特性の測定結果について説明する。図4は本発明の実施例を示す可変リアクタンス素子の外部磁界Hex(Oe)に対するリアクタンスX(Ω)の特性図である。ここでは、周波数800MHz(▽)と1GHz(◇)における特性を示している。図4に示すように、外部磁界5Oeから20Oeでリアクタンスが変化し、負から正の値まで変化する。
【0044】
このように、実施例1では、周波数が増加するにつれ負のリアクタンスのピークが大きくなり、より高い周波数で高い効果を有する容量性の素子を提供できる。実施例1の素子における磁区構造を図5に示す。この図において、21は磁性体素子、22は磁壁、23は磁壁傾斜角度であり、ここではほぼ90°である。24は通電方向を示している。
【0045】
(実施例2)
素子の磁性体材料組成は、Co85Nb12Zrであり、RFスパッタ(Ar雰囲気)にてガラス基板上に成膜した。素子寸法は長さ2mm、幅20μm、膜厚2.2μmでありリフトオフ法あるいはイオンミリング法を用いてパターニングした。磁性膜はパターニング後に磁界中熱処理を施し、磁気異方性を付与した。
【0046】
磁界中熱処理条件は、(1)回転磁界中熱処理(40kA/m、400℃、2時間)、(2)静磁界中熱処理(40kA/m、400℃、1時間)である。磁界中熱処理は真空中で行なった。静磁界中熱処理の磁界方向は、幅方向に対し角度1度の傾斜角度として静磁界中熱処理を行なった。電極はTi/Cuで形成され、ウエハプローブによりインピーダンス測定を可能とするために、磁性体素子を中心としたコプレーナ形状の電極を設置し、測定器から離れた側の磁性体端部と電極を短絡させた構造とした。
【0047】
磁界強度による、素子のリアクタンス特性評価は、ヘルムホルツコイルにより外部磁界Hexを通電方向に印加した際の素子インピーダンス変化を測定することにより行なった。測定はネットワークアナライザ(例えば、HP4396B)を用いて反射法により測定した。評価に使用したウエハプローブは、G−S−Gの3端子タイプ(端子間隔150μm)を使用した。
【0048】
上記した素子特性の測定結果について説明する。図6は本発明の実施例2を示す可変リアクタンス素子の外部磁界Hex(Oe)に対するリアクタンスX(Ω)の特性図である。ここでは、周波数800MHz(▽)と1GHz(◇)における特性を示している。図6に示すように、外部磁界2Oeから17Oeでリアクタンスが変化し、負から正の値まで変化する。
【0049】
本素子は、周波数が増加するにつれ負のリアクタンスのピークが大きくなり、より高い周波数で高い効果を有するキャパシティブ素子を提供できる点で実施例1と同じ効果を有する。但し、この実施例2における磁区構造は、図7に示すような傾斜磁区構造となっており、その傾斜角度は40°となっている。図7において、31は磁性体素子、32は磁壁、33は磁壁傾斜角度であり、ここでは40°である。34は通電方向を示している。
【0050】
実施例1の外部磁界Hex−リアクタンス特性図である図4と比較すると、本実施例では、リアクタンス変化が生じる外部磁界強度が1/2以下に低下していることが分かる。すなわち、リアクタンス制御に要する外部磁界発生の消費電力低下を実現できる。
【0051】
動作磁界減少に関しては、磁化容易軸の傾斜角が、磁性体物性によらないパラメータであることが、薄膜磁性体のバイアス磁化率の理論から導かれる。このことから、より普遍的で、磁性体組成等に影響されないデータとして、磁壁傾斜角度とリアクタンスが最小値となる外部磁界の関係図を図8に示す。この図において、横軸は磁壁傾斜角度(度)、縦軸は最小リアクタンスを有する磁界(Oe)を示している。
【0052】
この図は実験的に得られたものである。これより、磁壁傾斜角度20度以上でリアクタンス制御に要する動作磁界が減少し、この部分に消費される電力を減少させることが可能となる。この動作磁界を薄膜磁石等で発生させる場合も、少ない磁石膜厚で実現可能であり、有効である。
【0053】
(実施例3)
実施例2と同じ製法により作製した、素子長さ2mm、幅10μm、膜厚3.3μmのコプレーナ形状素子について、磁界強度による素子リアクタンスの特性を図9に示す。この図において、横軸は外部磁界Hex(Oe)、縦軸はリアクタンスX(Ω)、☆は600MHz、▽は800MHz、◇は1GHzを示している。評価方法も実施例2と同じである。
【0054】
本実施例における磁壁傾斜角度は、80度となり請求項5の範囲内となる。この条件では500MHzを超える高周波域におけるリアクタンス変化は、外部磁界零近傍から直線的に単調増加する特性曲線となる。この特性曲線は、実施例2に示す請求項4の特性曲線である、減少から増加に変化する特性曲線と異なり、外部磁界に対しリアクタンスが急峻に変化するのではなく、緩やかに直線的に変化する特性領域を、より少ない外部磁界で利用可能である。
【0055】
(実施例4)
素子長さ5mm、幅10μm、信号線と接地電極のギャップ間隔10μmの終端を短絡したコプレーナ形状素子について、信号線導電率とリアクタンスの関係を図10に示す。この図において、横軸は周波数(MHz)、縦軸はインピーダンス(Ω)、■はσ=4.10×10(S/m)、●はσ=3.16×10(S/m)、▲はσ=2.23×10(S/m)、▼はσ=1.29×10(S/m)、◆はσ=3.55×10(S/m)を示している。なお、ここで、インピーダンス(Ω)は、インピーダンスの虚部を示している。
【0056】
この図のデータは、信号線に非磁性体を使用したと仮定し、解析的に求められたものである。図10から明らかなように、コプレーナ形状素子において、信号線抵抗が高くなると、負のリアクタンスが大きくなることが分かる。
【0057】
この現象を模式図で説明すると、図11に示すようになる。図11(a)は電流分布の模式図(低抵抗の場合)、図11(b)は電流分布の模式図(高抵抗の場合)を示している。
【0058】
図11(a)に示すように、信号線が低抵抗の場合は、素子に流れる全電流に対する、ギャップ間を流れる変位電流の量は無視できるほど小さい。ところが、図11(b)に示すように、信号線の抵抗がおよそ200Ω以上に大きくなると、素子に流れる全電流に対する、ギャップ間を流れる変位電流の量は無視できない量となる。
【0059】
後者の場合には、素子のリアクタンス成分は、負の値を有するようになる。すなわち、信号線の抵抗値を可変制御できる素子で、接地電極間との間で容量成分を有する構造の伝送線路を形成することで、可変制御可能な負のリアクタンスを発生することができる。信号線の形状や流路長を機械的に変化させずに抵抗値を数十Ωから数百Ωに変化可能な素子として、磁気インピーダンス効果素子が知られているが、磁気インピーダンス効果素子のリアクタンス成分は、一般に正の値となるため、この効果を負のリアクタンス制御に使用することは有効ではない。しかし、本発明の負のリアクタンスを有する可変リアクタンス素子に、この現象を利用することは、負のリアクタンス成分を増加させるのに有効である。以下にその実施例を示す。
【0060】
実施例2と同じ製法により作製した、素子長さ3mm、幅20μm、膜厚2.2μmのコプレーナ形状素子について、磁界強度による素子リアクタンスの特性を図12に素子インピーダンスの実部である素子抵抗の磁界強度特性を図13に示す。
【0061】
図12において、横軸は外部磁界Hex(Oe)、縦軸はインピーダンス(Ω)、▽は800MHz、◇は1GHzを示している。また、図13において、横軸は外部磁界Hex(Oe)、縦軸は抵抗R(Ω)、▽は800MHz、◇は1GHzを示している。
【0062】
評価方法も実施例2と同じである。本実施例の素子における抵抗成分の変化は、周波数1GHzにおいて最小値150Ωから最大値260Ωと大きく変化する。この抵抗値変化に対する負の符号を有する素子リアクタンス絶対値の増加分を終端短絡の伝送線路の解析式より見積ると、およそ20Ωとなる。すなわち、本実施例の素子は、前述の抵抗成分変化に伴なう伝送線路の静電容量を利用した負のリアクタンス増加を有効利用した素子となっている。
【0063】
なお、この効果は、コプレーナ線路に限定されず、スロットライン、ストリップライン等の代表的な伝送線路でも発生する。
【0064】
(実施例5)
接地電極を導電性磁石薄膜で作製し、バイアス磁界を印加した実施例を示す。
【0065】
素子の磁性体材料組成は、Co85Nb12Zrであり、RFスパッタ(Ar雰囲気)にてガラス基板上に成膜した。素子寸法は長さ2mm、幅20μm、膜厚2.1μmでありリフトオフ法あるいはイオンミリング法を用いてパターニングした。磁性膜はパターニング後に磁界中熱処理を施し、磁気異方性を付与した。
【0066】
磁界中熱処理条件は、(1)回転磁界中熱処理(40kA/m、400℃、2時間)、(2)静磁界中熱処理(40kA/m、400℃、1時間)である。磁界中熱処理は、真空中で行なった。静磁界中熱処理の磁界方向は、幅方向に対し角度1度の傾斜角度として静磁界中熱処理を行なった。
【0067】
磁石薄膜の材料組成は、SmCoであり、磁界中RFスパッタ(Ar雰囲気)にて成膜した。成膜時の磁束密度は、350G以上とした。成膜磁界は磁石を磁化させたい方向である素子通電方向に印加した。磁石薄膜は、素子両側に間隔20μmあけて配置し、片側の寸法が長さ3mm、幅1.5mm、膜厚2.0μmとした。なお、SmCo薄膜の残留磁束密度は0.81Tであった。本実施例では、良好な導電体であるSmCo磁石を電極構造として用いていることで、コプレーナ線路を形成している。
【0068】
電極はTi/Cuで形成され、測定器から離れた側の素子端部と磁石薄膜を短絡させる接続部分と、ウエハプローブによりインピーダンス測定を可能とするためのパッド部分にのみ用いられた。
【0069】
素子構造の概略図を図14に示す。
【0070】
この図において、41は可変リアクタンス素子、42は接続線、43,44はSmCo薄膜磁石、45,46,47は電極パッドである。各部の寸法も表示されている。
【0071】
本実施例における磁界強度による素子リアクタンスの特性を図15に示す。この図において、横軸は外部磁界Hex(Oe)、縦軸はリアクタンスXを示しており、ここでは1GHzである。
【0072】
薄膜磁石の効果により特性の対称点となる磁界強度が、およそ3Oe右に移動しており、外部磁界0で素子リアクタンスが負の、外部磁界により大きく変化する位置となっている。なお、本実施例において、請求項6の伝送線路リアクタンスを利用した構造とするためには、素子抵抗を200Ω以上とすることが望ましい。
【0073】
また、上記した高周波可変リアクタンス素子を使用した同調器に用いることができる。
【0074】
更に、上記した高周波可変リアクタンス素子を用いた位相器に用いることができる。
【0075】
また、上記した周波可変リアクタンス素子を使用し、外部磁界により変化する共振特性を用いるようにした磁界検出装置に用いることもできる。
【0076】
本発明によれば、
(1)簡便な構成で、周波数あるいは位相角の広い可変域を有し、しかも高周波での特性が劣化しない高周波可変リアクタンス素子を得ることができる。
【0077】
(2)携帯無線機等の通信周波数の可変範囲を広げ、ブロードバンド化による情報量増加に対応することができる。
【0078】
(3)現在より、さらに高い周波数での可変発振器の実現により、高周波化に対応することができる。
【0079】
また、本発明によれば、
(A)リアクタンスを負から正の領域で制御することができる。
【0080】
(B)従来素子に比べはるかに広い可変域を有する。
【0081】
(C)リアクタンスの絶対値は、周波数に比例して増加する特性を有するため、とりわけ高周波領域で有利である。
【0082】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0083】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0084】
(A)薄膜磁性体の強磁性共鳴現象を用いて、素子に印加する磁界を変化させることで、素子のリアクタンスを制御することができる。強磁性共鳴現象に伴い発生するリアクタンスを、正から負へと可変にすることができる。
【0085】
(B)高周波電流を通電する方向から直角方向を幅方向とし、薄膜磁性体の磁化容易軸方向を幅方向から傾斜させることで、強磁性共鳴が発生する磁界強度を低下させ、素子駆動の消費電力を減少させることができる。
【0086】
(C)導電性の磁石薄膜を用いて、バイアス磁界を印加することで、素子駆動の消費電力を減少させる特徴を有する。
【0087】
(D)本発明の素子は、周波数に反比例したリアクタンスを有する容量性素子とは違い、周波数に比例した特性を有する負から正の極性を有するリアクタンスを発生させるため、1GHz以上の高周波において有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】可変リアクタンス素子の斜視図である。
【図2】素子面内の傾斜磁区構造の模式図である。
【図3】素子断面アスペクト比と磁壁傾斜角度の関係を示す図である。
【図4】実施例1の素子における外部磁界に対するリアクタンスの変化特性を示す図である。
【図5】実施例1の素子における磁区構造を示す図である。
【図6】実施例2の素子における外部磁界に対するリアクタンスの変化特性を示す図である。
【図7】実施例2の素子における磁区構造を示す図である。
【図8】磁壁傾斜角度とリアクタンスが最小値となる外部磁界の関係を示す図である。
【図9】実施例3の素子における外部磁界に対するリアクタンスの変化特性を示す図である。
【図10】コプレーナ形状素子における信号線導電率とリアクタンスの関係を示す図である。
【図11】コプレーナ形状素子における信号線導電率とリアクタンス変化の模式図である。
【図12】実施例4の素子における外部磁界に対するリアクタンスの変化特性を示す図である。
【図13】実施例4の素子における外部磁界に対する素子抵抗の変化特性を示す図である。
【図14】磁石薄膜を複合化した実施例5の素子構造を示す図である。
【図15】実施例4の素子における外部磁界に対するリアクタンスの変化特性を示す図である。
【図16】従来の高周波可変リアクタンス素子の模式図である。
【符号の説明】
1 可変リアクタンス素子
2 基板(例えばガラス)
3 磁性膜
4 電極パッド
5 高周波電源
6 高周波電流の方向
7 リアクタンス制御磁界の方向
11 180°磁壁
12 還流磁区
13,22,32 磁壁
14,24,34 通電方向
21,31 磁性体素子
23,33 磁壁傾斜角度
41 可変リアクタンス素子
42 接続線
43,44 SmCo薄膜磁石
45,46,47 電極パッド

Claims (14)

  1. 薄膜磁性体の強磁性共鳴に起因する、高周波複素透磁率の実部が負から正まで可変となる現象を利用して、負のリアクタンスを発生させる素子であって、薄膜面内方向の外部磁界によりリアクタンスが負から正まで変化可能であることを特徴とする高周波可変リアクタンス素子。
  2. 請求項1記載の高周波可変リアクタンス素子において、面内一軸磁気異方性を有した薄膜磁性体に直接高周波電流を流し、薄膜磁性体における磁気異方性の磁化容易軸と異なる面内方向に外部磁界を印加することにより、強磁性共鳴現象に起因して生じる負から正まで変化可能であるリアクタンスを制御することを特徴とする高周波可変リアクタンス素子。
  3. 請求項1記載の高周波可変リアクタンス素子において、面内一軸磁気異方性を有した薄膜磁性体に直接高周波電流を流し、薄膜磁性体における磁気異方性の磁化容易軸と同じ方向に外部磁界を印加することにより、強磁性共鳴現象に起因して生じる負から正まで変化可能であるリアクタンスを制御することを特徴とする高周波可変リアクタンス素子。
  4. 請求項2記載の高周波可変リアクタンス素子において、高周波電流の通電方向に対し直角方向を幅方向とし、薄膜磁性体の磁化容易軸方向が幅方向から傾斜することに伴い生じる磁壁の傾斜角度を20度以上70度以下の角度方向とし、外部磁界を高周波電流の通電方向に印加することにより、強磁性共鳴現象に起因するリアクタンス変化を利用するための外部磁界強度を低下させることを特徴とする高周波可変リアクタンス素子。
  5. 請求項2又は3記載の高周波可変リアクタンス素子において、高周波電流の通電方向に対し直角方向を幅方向とし、薄膜磁性体の容易軸方向が幅方向から傾斜することに伴い生じる磁壁の傾斜角度を70度以上の角度方向とし、外部磁界を高周波電流の通電方向に印加することにより、外部磁界増加に対しリアクタンスが増加する領域を低バイアス化し、強磁性共鳴現象に起因するリアクタンス変化の外部磁界に対する直線性の高い領域を用いる高周波可変リアクタンス素子。
  6. 請求項1から5の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子において、高周波信号源から見て素子前部の導電路のいずれか、あるいはこれら両方と、電磁気的に結合する位置に導電体からなる電極を形成した構造として、リアクタンス変化と同時に生じる素子の抵抗変化と、素子あるいは導電路に対向する電極との間に生じる電気容量の効果を利用することにより、素子自体のリアクタンス変化に伝送線路のリアクタンス変化を畳重させる高周波可変リアクタンス素子。
  7. 請求項6記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した請求項1から5の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子の両側に、間隔をおいて並列的に電極を配置したコプレーナ形状を有した高周波可変リアクタンス素子。
  8. 請求項6記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した請求項1から5の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子の両側に、間隔をおいて並列的に電極を配置したコプレーナ形状の素子において、高周波信号源から見て素子後側における端部を電極と短絡した構造を有する高周波可変リアクタンス素子。
  9. 請求項6記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した請求項1から5の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子の片側に、間隔をおいて並列的に電極を配置したスロットライン形状を有した高周波可変リアクタンス素子。
  10. 請求項6記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した請求項1から5の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子の片側に、間隔をおいて並列的に電極を配置したスロットライン形状の素子において、信号源から見て素子後側における端部を電極と短絡した構造を有する高周波可変リアクタンス素子。
  11. 請求項6記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した請求項1から5の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子を信号線とし、上下少なくとも一方に絶縁層を中間層とした電極を配置したストリップライン形状あるいはマイクロストリップライン形状を有した高周波可変リアクタンス素子。
  12. 請求項6記載の高周波可変リアクタンス素子であって、基板上に形成した請求項1から5の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子を信号線とし、上下少なくとも一方に絶縁層を中間層とした電極を配置し、ストリップライン形状あるいはマイクロストリップライン形状を有した素子において高周波信号源から見て素子後側における端部を電極と短絡した構造を有する高周波可変リアクタンス素子。
  13. 請求項1から12の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子であって、素子外部磁界印加手段として、薄膜磁石を複合化してバイアス磁界を発生させた高周波可変リアクタンス素子。
  14. 請求項6から12の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子であって、請求項1から5の何れか1項記載の高周波可変リアクタンス素子と伝送線路を形成する電極として導電性磁石薄膜を使用し、バイアス磁界印加機能を複合化させた高周波可変リアクタンス素子。
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