JP2004324834A - 軸受装置およびそれを用いたモータ - Google Patents

軸受装置およびそれを用いたモータ Download PDF

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Michiaki Takizawa
道明 滝沢
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Sankyo Seiki Manufacturing Co Ltd
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Abstract

【課題】ラジアル軸受に回転軸を挿通する際の空気排出の機能を確保しながら、ラジアル軸受の外周面と軸受保持部材の内周面との間に構成される隙間に発生する異物のラジアル軸受面およびスラスト軸受面への侵入の大幅に低減して、モータの信頼性および特性を向上させることができる軸受装置を提供すること。
【解決手段】有底袋形状の軸受ホルダ15(軸受保持部材)にラジアル軸受11が嵌合保持され、ラジアル軸受11の下端面114に接触して対向する上端面195(対向面)を有するスペーサ19(対向部材)とを備えた軸受装置10において、ラジアル軸受11の下端面114、あるいはスペーサ19の上端面195の少なくともいずれか一方に、ラジアル軸受11の内周面から外周面に連通する連通溝20が1本のみ設けられている。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、軸受装置、およびそれを用いたモータに関するものであり、更に詳しくは、軸受装置の構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリゴンミラー駆動用、ODD用あるいはFDD用などに用いられるスピンドルモータや、ファン装置等に使用されるブラシレスモータに用いられる軸受装置として、上端側に開口部が設けられるとともに下端側に閉塞部が設けられた有底袋形状の軸受保持部材に、ラジアル軸受が嵌合保持された構成を備えたものが知られている。
【0003】
このような軸受装置では、有底袋形状の軸受保持部材の内周面にラジアル軸受が圧入等により嵌合保持され、軸受保持部材の閉塞部側である底部に設けられた保持部にスラスト軸受が嵌合保持されている。ラジアル軸受の下端面と対向する対向面を有する対向部材である軸受保持部材の環状底部には、ラジアル軸受の内周面から外周面に連通する周方向溝と径方向溝とから形成される連通溝が複数箇所に設けられている。また、ラジアル軸受の外周部が、軸受保持部材の内周面に設けられた膨出部において嵌合保持されているため、ラジアル軸受が嵌合保持される嵌合保持部にはラジアル軸受の下端面側から上端面側へ通じる空隙部が構成されている。なお、ラジアル軸受の下端面は、上記周方向溝及び径方向溝の部分を除いて、対向部材である軸受保持部材の環状底部に接している(例えば特許文献1参照。)。
【0004】
かかる軸受装置においては、上記の連通溝および空隙部を有することから、ラジアル軸受を軸受保持部材に嵌合する際、ラジアル軸受と軸受保持部材との間から排除される空気を外部へ排出することが可能になっている。また、回転軸をラジアル軸受に挿通する際のラジアル軸受の内部から排除される空気を外部へ排出することが可能になっている。
【0005】
ここで、上述のようにラジアル軸受の下端面が対向部材である軸受保持部材の環状底部に接しており、しかも、軸受保持部材の環状底部に連通溝が複数箇所設けられている軸受装置においては、回転体の回転作用によりラジアル軸受の外周面側と内周面側との間で空気の循環流れが生じる。図8(A)、(B)を用いて説明すると、回転体を構成する回転軸3が時計方向に回転する場合、回転軸3の回転動作により、例えば、同図の矢印で示されるように、ラジアル軸受11の外周面と軸受保持部材15の内周面との隙間から連通溝20を経由してラジアル軸受11の内周側に向かう空気の循環流れが生じる。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−176029号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の従来技術の構成においては、軸受保持部材15にラジアル軸受11を嵌合する際には、少なからず、ラジアル軸受11および/または軸受保持部材15が削られるため、ラジアル軸受11の外周面と軸受保持部材15の内周面との隙間には、異物(削りカス)21が発生する(図8(A)、(B)参照)。この場合において、上述のように回転軸3が回転すると、図8(A)、(B)の矢印で示されるような空気の循環流れが生じるため、上記の異物21がこの循環流れによりラジアル軸受11の内周面へ侵入し、さらにラジアル軸受面110およびスラスト軸受面120へ侵入することがありうる。
【0008】
異物21がラジアル軸受面110およびスラスト軸受面120へ侵入すると、ラジアル軸受面110やスラスト軸受面120が異常摩耗したり、回転軸3が損傷する。このように、異物21がラジアル軸受面110およびスラスト軸受面120へ侵入した状態で回転軸3が回転する場合には、上記の異常摩耗や損傷により、目論見通りの軸受寿命を得ることができず、信頼性が低下するという問題が生じる。たとえ、その後の循環流れによって異物21が取り除かれたとしても、上記の異常摩耗や損傷により、軸受装置の寿命の悪化につながる。また、最悪の場合には、異物21がラジアル軸受面110に焼付きを発生させ、この軸受装置を使用したモータが停止してしまうという問題が生じる。
【0009】
特に、上述した従来技術における構成を、ラジアル軸受面110またはこのラジアル軸受面110に対向する回転軸3の外周面に動圧発生溝を形成した動圧軸受装置に採用した場合には、上記の軸受装置の寿命やモータ停止の問題の他、異物21がラジアル軸受隙間に侵入すると、モータ特性が悪化するいう問題が生じる。すなわち、ラジアル軸受隙間において、回転軸3と異物21との接触により回転軸3の回転数の減少が生じたり、また、その後の循環流れにより異物21が取り除かれると急激な回転軸3の回転数の増加が生じる等、回転軸3に回転ムラが発生し、モータ特性の悪化をもたらす。
【0010】
また、軸受装置の寿命の向上を図る等の観点から、連通溝20やラジアル軸受11の外周面と軸受保持部材15の内周面との隙間に潤滑オイルが充填されることがある。その場合、その潤滑オイルの粘性の影響で、上記の循環流れにより、上記の異物21がラジアル軸受11の内周面に侵入する可能性が高くなる。従って、さらに軸受寿命の悪化やモータ特性の悪化を招きやすいという問題が生じる。
【0011】
以上の問題点に鑑みて、本発明は、軸受保持部材にラジアル軸受を嵌合する際に、ラジアル軸受の外周面と軸受保持部材の内周面との隙間に発生する異物の、ラジアル軸受面およびスラスト軸受面への侵入を大幅に低減して、モータの信頼性および特性を向上させることができる軸受装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1にかかる軸受装置では、回転軸の外周面に対向するラジアル軸受面を備えたラジアル軸受と、前記回転軸の下端を支持するスラスト軸受と、上端側に開口部が設けられるとともに下端側に閉塞部が設けられた有底袋形状の軸受保持部材と、前記ラジアル軸受の下端面に対向する対向面を有する対向部材とを備え、前記軸受保持部材には前記ラジアル軸受を嵌合保持する嵌合保持部が設けられるとともに、その嵌合保持部あるいはその嵌合保持部に対向する前記ラジアル軸受の少なくともいずれか一方には前記ラジアル軸受の上端面側から下端面側へ通じる空隙部が設けられ、前記ラジアル軸受の下端面と前記対向部材の対向面とが接触して対向した軸受装置において、前記ラジアル軸受の下端面あるいは前記対向部材の対向面の少なくともいずれか一方に、前記ラジアル軸受の内周面から外周面に連通する連通溝が1本のみ設けられていることを特徴とする。
【0013】
ラジアル軸受の下端面あるいは対向部材の対向面の少なくともいずれか一方に、ラジアル軸受の内周面から外周面に連通する連通溝が1本のみ設けられているため、回転軸の回転動作により生じる連通溝の循環流れを抑制することができる。従って、ラジアル軸受の嵌合の際にラジアル軸受の外周面と軸受保持部材の内周面との隙間に発生する異物のラジアル軸受面、スラスト軸受面への侵入を大幅に低減することができる。それ故、信頼性の高い軸受装置を得ることができる。また、連通溝自体をなくしてしまうわけではないため、ラジアル軸受を有底袋形状の軸受保持部材に嵌合保持した後に、回転軸をラジアル軸受に挿通する組立方法を採用したとしても、回転軸をラジアル軸受へ挿通する際の空気排出の機能は確保することができる。
【0014】
また、本発明の請求項2にかかる軸受装置では、請求項1に記載の構成要件に加え、前記連通溝に潤滑オイルが充填されていることを特徴とする。さらに、本発明の請求項3にかかる軸受装置では、請求項2に記載の構成要件に加え、前記ラジアル軸受の外周面と前記軸受保持部材の内周面との間に形成される隙間に潤滑オイルが充填されていることを特徴とする。
【0015】
連通溝に潤滑オイルが充填されている場合には、軸受部でより安定した潤滑性を確保することが可能になることから、軸受装置の寿命を向上させることができる一方で、潤滑オイルの粘性から連通溝に循環流れが生じると、異物がラジアル軸受面、スラスト軸受面へより侵入しやすくなる。しかし、連通溝を1本のみにする構成を採用することにより、連通溝での循環流れを抑制することができ、上述のように信頼性の高い軸受装置を得ることができる。
【0016】
さらにまた、軸受装置の寿命の向上を図る観点から、連通溝に加えてラジアルの軸受外周面と軸受保持部材の内周面との隙間に潤滑オイルが充填される場合もある。この場合においては、異物がラジアル軸受面、スラスト軸受面へ一層、侵入しやすくなるが、連通溝を1本のみにする構成を採用することで、上述のように信頼性の高い軸受装置を得ることができる。
【0017】
また、本発明の請求項4にかかる軸受装置では、請求項1に記載の構成要件に加え、前記ラジアル軸受面またはそのラジアル軸受面に対向する前記回転軸の外周面に動圧発生溝が形成されていることを特徴とする。さらに、本発明の請求項5にかかる軸受装置では、請求項4の構成要件に加え、前記回転軸と前記ラジアル軸受面の間に形成されるラジアル軸受隙間に、潤滑オイルを有することを特徴とする。
【0018】
上記請求項1かかる軸受装置を、ラジアル軸受面またはそのラジアル軸受面に対向する回転軸の外周面に動圧発生溝が形成されている動圧軸受装置として用いた場合には、信頼性の高い軸受装置を得ることができることに加え、異物の侵入により動圧軸受装置においては特に発生しやすい回転ムラを防止し、良好なモータ特性を得ることができる。
【0019】
また、本発明の請求項6にかかるモータは、請求項1ないし5のいずれかに記載の軸受装置を用いたことを特徴とする。上述のような信頼性の高い軸受装置を用いていることから、モータとしても高い信頼性が得られるとともに、良好な特性を得ることもできる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明を適用した軸受装置、およびそれを用いたポリゴンミラーモータを説明する。なお、図8を参照して説明した軸受装置と共通する部分には同一の符号を付して説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る軸受装置およびそれを用いたポリゴンミラーモータの縦断面図であり、図示の左端側がモータ上端側になっている。図2(A)、(B)は、それぞれ本発明の実施の形態に係る軸受装置の縦断面図、回転軸下端部分周辺X部の拡大縦断面図である。図3は、ラジアル軸受面部分の横断面図である。図4は、図2(A)のY−Y断面における軸受装置の横断面図である。図5は、嵌合保持部における軸受装置の横断面図である。
【0022】
図1において、本形態のモータ1は、モータフレーム2と、このモータフレーム2に取付けられた軸受装置10と、この軸受装置10により回転可能に支持された回転軸3と、回転軸3の上端部分に圧入固定されたロータハブ4とを有している。
【0023】
ロータハブ4の上端側外周面には段部4aが形成され、この段部4aにポリゴンミラー5が載置されている。ポリゴンミラー5は、回転軸3の上端部にネジなどで固定された押えバネ6によって、段部4aに押し付けられることでロータハブ4に固定されている。また、ロータハブ4の下面に設けられた突起部4bには、ロータケース41が固着されている。ロータケース41は、外周方向に広がって、その外周側から下方に折れ曲がった円筒状側面部41aを有している。この円筒状側面部41aの内側には、円筒状のロータマグネット42が接着等の固着手段により固着されている。
【0024】
一方、フレーム2には、コアホルダ80を介して、電磁鋼板等の積層体から構成される積層コア8が固着されている。この積層コア8の外周側に設けられた突極部分は、ロータマグネット42に対向配置されている。また、積層コア8にはコイル9が巻回されている。
【0025】
モータ1に用いられる軸受装置10は、図2(A)、(B)に示されるようにフレーム2に固定される軸受保持部材である軸受ホルダ15と、この軸受ホルダ15に圧入によって嵌合保持されるラジアル軸受11と、回転軸3の下端面38を支持するスラスト軸受12と、このスラスト軸受12を固着する軸受取付板17と、ラジアル軸受11の下端面114と対向する対向面である上端面195を有する対向部材であるスペーサ19とから構成されている。
【0026】
ラジアル軸受11は、銅合金(例えば銅50%、鉄50%)等で構成されるとともに、回転軸3の外周面に対してラジアル軸受隙間111を介して対向するラジアル軸受面110、110を軸方向に離間して2箇所備えている。本実施形態においては、図3に示されるように、ラジアル軸受面110に軸線方向に延びたテーパ溝112からなる動圧発生溝が形成されている。尚、動圧発生溝の形状はこれに限定されず、ラジアル軸受面110またはラジアル軸受面110に対向する回転軸3の外周面にへリングボーン状の動圧発生溝が形成されてもよい。また、ラジアル軸受隙間111には、潤滑オイルが充填されている。すなわち、本実施形態におけるラジアル軸受11はオイル動圧軸受であり、軸受装置10はオイル動圧軸受装置として構成されている。
【0027】
軸受ホルダ15は、上端側に開口部が設けられるとともに、下端側には円板状の閉塞板151が接着等の手段により固着された閉塞部が形成されている。すなわち、軸受ホルダ15は有底袋形状に構成されている。また、軸受ホルダ15には、ラジアル軸受11を嵌合保持する内周面として軸受装着穴150が形成されている。この軸受装着穴150の軸方向の略中間位置には、径方向内側に突き出してラジアル軸受11の外周面117を受ける凸部159が円周方向に形成され、嵌合保持部を構成している。また、軸受装着穴150には凸部159を軸方向に貫通するように縦溝113が形成されている。従って、図5に示されるように、上記凸部159により形成される嵌合保持部には、ラジアル軸受11の上端面から下端面へ通じる空隙部158が設けられている。尚、図1、図2(A)に示されるように、回転軸3は、凸部159が設けられた軸方向の範囲において、軸径が小径になるように形成されている。
【0028】
また、ラジアル軸受11の外周面117と軸受ホルダ15の軸受装着穴150との間に形成される第2の隙間155には、潤滑オイルが満たされている。
【0029】
一方、軸受ホルダ15の凹部内下面には、軸受取付板17によって、スラスト軸受12が固着されている。スラスト軸受12は回転軸3の下端面38を支持するスラスト軸受面120を備えている。
【0030】
回転軸3の下端面38は、回転軸3の回転時におけるスラスト軸受面120との接触抵抗を減少させるため、球面に仕上げられている。また、回転軸3の下端面38が球面で仕上げられている場合には、回転軸3をラジアル軸受11に挿入する際、ラジアル軸受11の内周面(ラジアル軸受面110)が損傷しないという利点もある。
【0031】
ここで、回転軸3の下端面38を球面にすると、回転軸3の下端部34には、球面と軸本体の丸棒部分との境界にエッジ部30が形成される。このエッジ部30がラジアル軸受11の内部に位置すると、回転時におけるエッジ部30との接触によりラジアル軸受面110を損傷させるおそれがあるため、エッジ部30がラジアル軸受11の外部に位置するように、回転軸3の下端部34については、所定の寸法だけ、ラジアル軸受11の下端面114から突き出させてある。
【0032】
このような構成を採用した場合には、回転軸3の下端部34の外周面と軸受保持部材15の軸受装着穴150との間には、大きな空間部分が発生する。ところが、オイル動圧軸受装置においては、回転軸3の下端部34の周りに大きな空間が存在すると、潤滑オイルの充填時にその空間に溜まっていた空気により邪魔されて、潤滑オイルが完全に充填されず、空気が留まった状態になりやすくなる。このような状態で、環境温度が変化すると空気が膨張あるいは収縮し、それにより、潤滑オイルがラジアル軸受隙間111から排出されてしまい、目論見通りの軸受寿命が得られなくなるという問題が生じる。
【0033】
また、回転軸3の下端部34の周りに空気が溜まっていると、回転軸3が回転したときに空気がラジアル軸受11の内部に入り込むおそれがある。このような状態になると、軸受ロストルクや軸受剛性が変化してジッター変化や軸振れが発生し、モータ特性が安定しなくなるという問題が生じる。特に、オイル動圧軸受装置においては、潤滑オイルの圧力でモータ特性を得ているため、上記の問題が発生しやすい。
【0034】
そこで、本実施形態においては、回転軸3の下端部34の外周面と軸受保持部材15の軸受装着穴150との間に発生する空間部分に略円筒状のスペーサ19を設け、上記の問題の解決を図っている。
【0035】
スペーサ19は対向部材を構成しており、その上端面195(対向面)がラジアル軸受11の下端面114と接触して対向するように配置、固定されている。ここで、本明細書においては、「接触して対向」するには、ラジアル軸受の下端面と対向部材の対向面が密着して対向する場合のほか、ラジアル軸受の下端面と対向部材の対向面との間に隙間が存在しても、回転軸の回転時において、その隙間では空気やオイル等の流体の循環が発生しない程度にラジアル軸受の下端面と対向部材の対向面とが近接して対向している場合も含むものとする。また、スペーサ19の内周面は、回転軸3の下端部34の外周面に対して所定の隙間(第1の隙間35)を介して対向している。第1の隙間35には潤滑オイルが満たされている。
【0036】
このように構成した軸受装置10においては、ラジアル軸受11の下端面114には、図2(B)、図4に示されるようにラジアル軸受11の内周面から外周面に連通する連通溝20が1本のみ設けられている。連通溝20は所定の深さで断面半円形状に形成されているが、断面形状はこれに限られるものではなく、例えば、断面矩形状や断面三角形状であってもよい。また、この連通溝20にも、潤滑オイルが満たされている。なお、本実施形態においては、ラジアル軸受隙間111、第1の隙間35、連通溝20、第2の隙間155における各毛細管力がこの順番で順次小さくなるように各隙間寸法が設計されている。
【0037】
一方、ラジアル軸受11の外周面117には、軸方向に下端面114から上端面に通じる軸方向溝116が等角度間隔で複数形成されている。本実施形態では、図4に示すように4個所形成されている。また、ラジアル軸受11の上端面には、潤滑オイルが回転軸3を伝わって軸受装置10の外部に漏出するのを防止する油切溝118が径方向に向かって1本形成されている。
【0038】
このような軸受装置10を備えたモータ1の組立は、以下の手順により行われる。まず、軸受装置10の組立について説明する。ラジアル軸受11が軸受ホルダ15の軸受装着穴150に形成された凸部159へ圧入により嵌合固定される。その状態で、スペーサ19が固定され、また、軸受取付板17によって、スラスト軸受12が固着される。その後、閉塞板151が軸受ホルダ15に固着され軸受装置10が形成される。このように形成された軸受装置10や積層コア8がフレーム2上に搭載され、ステータアッセンブリが形成される。一方、回転軸3にはロータハブ4が圧入等により固着され、ロータアッセンブリが形成される。
【0039】
上記のように形成されたステータアッセンブリにロータアッセンブリが組み込まれるが、回転軸3をラジアル軸受11へ挿通することでその組み込みは行われる。その際には、潤滑オイルが充填される。このとき、ラジアル軸受11の内部に溜まっていた排出されるべき空気は、連通溝20を経由して、第2の隙間155へ排出され、更に、空隙部158あるいは軸方向溝116を通って、軸受装置10の外部へ排出される。その結果、潤滑オイルは、ラジアル軸受隙間111、第1の隙間35、連通溝20および、第2の隙間155へ充填される。
【0040】
ここで、上記の組立工程において、ラジアル軸受11を軸受ホルダ15に嵌合する際には、少なからず、ラジアル軸受11および/あるいは軸受ホルダ15が削られるため、異物(削りカス)21がラジアル軸受11の外周面117と軸受ホルダ15の軸受装着穴150との間に形成される第2の隙間155に発生する。
【0041】
この状態で、回転軸3が回転すると、従来の構成においては連通溝20が複数設けられていたため、回転軸3の回転動作により、潤滑オイルに図8(A)、(B)の矢印に示されるような循環流れを生じて、異物21がラジアル軸受面110およびスラスト軸受面120へ侵入するおそれがある。本実施形態においては、回転軸3が時計方向に回転した場合、その回転動作によりラジアル軸受隙間111および第1の隙間35には、図6の矢印で示されるように時計方向に向かう円周方向の潤滑オイルの循環流れは生じる。しかし、連通溝20が1本のみで形成されており、第2の隙間155とラジアル軸受隙間111および第1の隙間35との間における潤滑オイルの流入・流出がこの1本の連通溝20のみでおこなわれることになるため、回転動作により連通溝20に発生する潤滑オイルの循環流れを抑制することができる。従って、第2の隙間155からラジアル軸受隙間111および第1の隙間35への循環流れが抑制されることとなり、第2の隙間155に存在する異物21が、ラジアル軸受面110およびスラスト軸受面120へ侵入する可能性を大幅に低減することができる。このように、ラジアル軸受11の下端面114に形成する連通溝20を1本のみにすると、ラジアル軸受11に回転軸3を挿通する際の空気排出の機能を確保しながら、連通溝20における潤滑オイルの循環流れを抑制し、異物21のラジアル軸受11の内周面まで侵入する可能性を大幅に低減することができる。尚、ラジアル軸受隙間111および第1の隙間35においては、潤滑オイルの循環流れが軸方向にも生じる。しかし、円周方向の循環流れに比べるとその循環流れは極わずかなものである。
【0042】
このため、軸受装置10の寿命の確保が可能になるとともに、モータ1が停止するという最悪の事態を回避することも可能となり、軸受装置の信頼性を高めることができる。また、特に動圧軸受装置において、異物21のラジアル軸受面110への侵入により問題となる回転ムラの発生を防止し、モータ特性の確保も可能になる。特に、連通溝20に潤滑オイルが満たされている状態で、連通溝20に循環流れが生じると、潤滑オイルの粘性により、異物21がラジアル軸受11の内周面まで侵入しやすくなるが、本実施形態における軸受装置10によれば、連通溝20の循環流れを抑制することができ、異物21の侵入を大幅に低減することができる。また、第2の隙間155にまで潤滑オイルが満たされている状態で、連通溝20に循環流れが生じた場合には、ラジアル軸受11の嵌合時に発生する異物21がラジアル軸受11の内周面まで一層侵入しやすくなるが、本実施形態における軸受装置によれば、異物21の侵入を大幅に低減することができる。
【0043】
なお、軸受寿命という長期的な観点からみると、ラジアル軸受面110では、回転軸3の回転により潤滑オイルが消費され、ラジアル軸受面110への補油が必要になる。この場合においても、連通溝20が1本設けられており、連通溝自体を無くしてしまうわけではないので、連通溝20に循環流れが発生しなくても上述のラジアル軸受隙間111、第1の隙間35、連通溝20、第2の隙間155における各毛細管力の関係から、ラジアル軸受面110への補油が可能となる。
【0044】
以上、本発明者によってなされた発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【0045】
すなわち、上述した実施形態では、ラジアル軸受11の下端面114に連通溝20を形成したが、図7に示されるようにスペーサ19の上端面195に連通溝20を1本形成してもよい。一般的に、ラジアル軸受11は焼結金属により形成されているため、ラジアル軸受11に連通溝20を形成した場合には、焼結密度に偏りを生じる場合があるが、スペーサ19に連通溝20を形成すると、焼結密度の偏りを防止し軸受精度を安定させることができる。また、ラジアル軸受11の下端面114とスペーサ19の上端面195との両方に連通溝20を設けて、組立時に連通溝20の位置を合せるようにしてもよい。
【0046】
一方で、ラジアル軸受11が焼結金属により形成される場合、本実施形態のように軸方向に2個所のラジアル軸受面110、110を設けた軸方向に長いラジアル軸受11は、一般的には焼結密度を均一にすることが難しい。そのため、ラジアル軸受11は焼結密度の偏りにより、軸方向に反りを生じる。この場合には、焼結密度が小さくなる側のラジアル軸受11の下端面114に連通溝20を設ける構成を採用すれば、圧縮成形時において、連通溝20の分だけ焼結密度を大きくすることができるため、焼結密度の偏りをなくし、ラジアル軸受11の軸方向の反りを解消することも可能になる。
【0047】
また、上述した実施形態における軸受装置10は、オイル動圧軸受装置であったが、本発明における軸受装置はエア動圧軸受装置であってもよい。この場合においても、連通溝に生じる空気の循環流れを抑制して、上述のような軸受装置の寿命確保、モータの停止という最悪の事態の回避および、回転ムラの発生防止が可能になる。
【0048】
また、本発明における軸受装置は動圧軸受装置でなくてもよい。すなわち、連通溝20に潤滑オイルが満たされている場合には、潤滑オイルの粘性から循環流れにより、異物21がラジアル軸受11の内周面へ侵入しやすくなるが、連通溝を1本にする構成を採用することにより、上記の問題が回避できる。さらに、ラジアル軸受11の外周面117と軸受保持部材15の軸受装着穴150との間に形成される第2の隙間155にまで潤滑オイルが満たされている場合には、異物21がラジアル軸受11の内周面までさらに侵入しやすくなるが、連通溝を1本のみにする構成を採用することにより、上記の問題が回避できる。
【0049】
さらにいえば、本発明における軸受装置は、ラジアル軸受の下端面と対向部材の対向面とが接触して対向し、ラジアル軸受の下端面、あるいは対向部材の対向面の少なくともいずれか一方に、連通溝が1本のみ設けられている軸受装置であればよい。このような軸受装置であれば、連通溝の空気または潤滑オイル等の流体の循環流れを抑制して、上述のような軸受装置の寿命確保、モータの停止という最悪の事態の回避が可能になる。
【0050】
また、本実施形態においては、2個所のラジアル軸受面110を一体のラジアル軸受11により構成したが、ラジアル軸受11を別体に構成して各々に1個所ラジアル軸受面110を構成するようにしてもよい。
【0051】
さらにまた、本実施形態においては、対向部材としてスペーサ19を設けたが、スペーサ19を設けず、軸受ホルダ15の凹部内下面あるいは、軸受取付板17を対向部材としてもよい。また、スラスト軸受12を対向部材としてもよい。
【0052】
また、本実施形態においては嵌合保持部に空隙部158が設けられているが、空隙部158がなくても、ラジアル軸受11の外周面117に軸方向溝116が設けられていれば、軸方向溝116が空隙部158と同様の機能を果たすことができる。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明にかかる軸受装置はラジアル軸受の下端面あるいは対向部材の対向面の少なくともいずれか一方にラジアル軸受の内周面から外周面に連通する連通溝が1本のみ設けられている。従って、回転軸の回転動作により生じる連通溝の循環流れを抑制することができ、ラジアル軸受の嵌合の際にラジアル軸受の外周面に発生する異物のラジアル軸受面、スラスト軸受面への侵入を大幅に低減することができる。それ故、信頼性が高くしかも特性の良い軸受装置およびそれを用いたモータを得ることができる。また、連通溝自体をなくしてしまうわけではないため、ラジアル軸受を有底袋形状の軸受保持部材に嵌合保持した後に、回転軸をラジアル軸受に挿通する組立方法を採用したとしても、回転軸の挿通時における空気排出の機能を確保することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる軸受装置およびそれを用いたモータの縦断面図である。
【図2】(A)、(B)は、本発明の実施の形態にかかる軸受装置の縦断面図、回転軸の下端部分周辺の拡大断面図である。
【図3】ラジアル軸受面部分の横断面図である。
【図4】図2(A)のY−Y断面における軸受装置の横断面図である。
【図5】嵌合保持部における軸受装置の横断面図である。
【図6】図2に示した軸受装置において、回転軸を回転させた際に生じる潤滑オイルの循環状態を表した説明図である。
【図7】本発明の他の実施の形態にかかる対向部材であるスペーサの斜視図である。
【図8】(A)、(B)は、それぞれ従来技術にかかる軸受装置において回転軸の回転させた際に生じる空気の循環状態を表した縦断面説明図、横断面説明図である。
【符号の説明】
1 モータ
3 回転軸
10 軸受装置
11 ラジアル軸受
12 スラスト軸受
15 軸受ホルダ(軸受保持部材)
19 スペーサ(対向部材)
20 連通溝
35 第1の隙間
38 回転軸の下端面
110 ラジアル軸受面
111 ラジアル軸受隙間
112 テーパ溝(動圧発生溝)
114 ラジアル軸受の下端面
117 ラジアル軸受の外周面
120 スラスト軸受面
150 軸受装着穴
151 閉塞板
155 第2の隙間
158 空隙部
159 凸部(嵌合保持部)
195 スペーサの上端面(対向面)

Claims (6)

  1. 回転軸の外周面に対向するラジアル軸受面を備えたラジアル軸受と、前記回転軸の下端を支持するスラスト軸受と、上端側に開口部が設けられるとともに下端側に閉塞部が設けられた有底袋形状の軸受保持部材と、前記ラジアル軸受の下端面に対向する対向面を有する対向部材とを備え、
    前記軸受保持部材には前記ラジアル軸受を嵌合保持する嵌合保持部が設けられるとともに、その嵌合保持部あるいはその嵌合保持部に対向する前記ラジアル軸受の少なくともいずれか一方には前記ラジアル軸受の上端面側から下端面側へ通じる空隙部が設けられ、前記ラジアル軸受の下端面と前記対向部材の対向面とが接触して対向した軸受装置において、
    前記ラジアル軸受の下端面あるいは前記対向部材の対向面の少なくともいずれか一方に、前記ラジアル軸受の内周面から外周面に連通する連通溝が1本のみ設けられていることを特徴とする軸受装置。
  2. 前記連通溝に潤滑オイルが充填されていることを特徴とする請求項1記載の軸受装置。
  3. 前記ラジアル軸受の外周面と前記軸受保持部材の内周面との間に形成される隙間に潤滑オイルが充填されていることを特徴とする請求項2記載の軸受装置。
  4. 前記ラジアル軸受面またはそのラジアル軸受面に対向する前記回転軸の外周面に動圧発生溝が形成されていることを特徴とする請求項1記載の軸受装置。
  5. 前記回転軸と前記ラジアル軸受面の間に形成されるラジアル軸受隙間に充填された潤滑オイルを有することを特徴とする請求項4記載の軸受装置。
  6. 請求項1ないし5のいずれかに記載の軸受装置を用いたことを特徴とするモータ。
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