JP2004319418A - 高効率電子式ヒートパイプ - Google Patents

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Abstract

【課題】加熱効率を大幅に向上させた電子式直接加熱方式のヒートパイプを提供する。
【解決手段】電子式ヒートパイプであって中空で10−3Pa以下の低圧を維持しているパイプの内部にパイプ側面と物理的に接触しない電子源を備えている。電子源はコールドカソードであり、パイプの被加熱面を電子源に対して正電位にバイアスすることにより、電子源からの電界放出電子をヒートパイプの側面に到達させることにより直接加熱する。
【選択図】図1

Description

【産業上の利用分野】本発明は複写機、プリンター等のトナー定着加熱ロールで使用される電子式ヒートパイプに関する。
【従来の技術】
複写機やプリンターの加熱定着ロール(ヒートパイプ)としては、主としてランプ加熱方式を利用しているが、一般的にランプに流れる電流がフィラメント温度によって変動することにより、瞬時加熱が困難であり、そのため連続印刷に問題が発生しやすい。また、レーザープリンター等の消費電力の主要因がこのヒートパイプの加熱に要する電力であるために、プリンター、複写機の技術開発もこの部分に集中している。
例えば、特開2001−282032(発明の名称:定着装置及び定着方法、出願人:大日本スクリーン製造株式会社)では、ハロゲンランプを加熱ロールの中に2本入れ、予備加熱用と定着加熱用の2本の加熱源を入れ、定着に必要な熱量を計算して加熱時間、加熱量を制御する装置及び方法を開示している。特開平11−249491(発明の名称:定着装置の温度制御方法、出願人:セイコーエプソン株式会社)では、ランプによる高速加熱と温度の安定化する制御方法を開示している。また、特開平5−216366(発明の名称:定着器、出願人:日本電気株式会社)では、ランプへの電源投入時の過電流を小さくする定着器を開示している。いずれも、ハロゲンランプがヒーター及び石英管を有することによって生じるランプ加熱の問題点・課題へ対処した発明である。
また最近では交流磁場により加熱する方法も提案されている。特開2003−5577(発明の名称:加熱装置及び画像形成装置、出願人:キヤノン)では、記録紙上に転写されたトナーに導電性物質を入れ、直接トナーを誘導加熱する画像形成装置を開示している。また、特開2002−351239(発明の名称:電子写真装置、出願人:キヤノン)及び特開平9−274403(発明の名称:加熱装置及び画像形成装置、出願人:キヤノン)では、ローラーを高透磁率磁性体で構成し、高周波磁界を印加して加熱する定着装置を開示している。これらの発明においては、ランプを使うことはない為省電力化が可能となっている。
また感光ドラムのヒートパイプについては如何に短時間に均一に加熱するかという課題に対して、以下のような発明が公開されている。
特開2001−27865(発明の名称:画像形成装置、画像形成制御方法及び記憶媒体、出願人:キヤノン株式会社)では、詳細な説明において内容は複写機等における感光ドラムの役割について詳しく述べられている。感光ドラムはトナーを定着させるために加熱する必要があるが、節電のためには複写機を使用していない間は加熱を停止しておきたいが、この場合には、いざ使用しようという時には感光ドラムが均一に温まるまで待たなければならず不便である。特開2000−47445(発明の名称:画像形成装置、出願人:シャープ株式会社)においては、感光ドラムおよびその周辺の換気を制御することで使用する場合に最適な温度状態を短時間に作り出すものである。特開平5−289589(発明の名称:面状ヒーター装着部品および装着方法、出願人:菱有工業株式会社)では、乾式電子写真方式複写機、半導体レーザー乾式電子写真方式によるプリンターなどの感光ドラムまたは露光ドラムなどの加熱面に温度むらが出ないよう管状物の内壁に面状ヒーターを全面が密着する状態で装着するための部品および装着方法を得ることを目的として金属または合成樹脂などを用いたL形片とS形片とを一対とする装着部品でこれを面状ヒーターの裏面の相対する周辺に固定して発熱面を外側として筒状に巻いて感光ドラムなどの管状物に挿入して装着するものであり、感光ドラムを短時間に均一に加熱するために面状ヒーターを用いる技術を開示している。特開2000−241996(発明の名称:感光ドラム素管、及び感光ドラムの製造方泡並びに感光ドラム素管の把持装置、出願人:新潟日本電気株式会社)では、感光ドラム素管の内側を把持する際に生ずるアルミ粉の発生をなくし、感光ドラム素管の内側のエアーを一部抜いてから密閉することにより、クリーンルームのクリーン度を保ち、塗料内へのアルミ粉の浸入を防ぎ、感光ドラム素管の表面の異物不良を軽減して歩留まりの向上を図るための感光ドラム素管の把持方法及びその把持装置、並びに感光ドラム素管を開示している。以上紹介した通り、従来は感光ドラムのヒートパイプについては如何に短時間に均一に加熱するかという課題に対して電熱ヒーターの形状の工夫(特開平5−289589)や周辺温度制御のための換気(特開2000−47445)が行われている。アルミ粉塵が装置組み上がり後に悪影響しないように製造工程で感光ドラム内部のエアー抜きする提案もなされている(特開2000−241996)。以上に述べたように、本発明の特徴である、「電界放出による電子を直接加熱に利用する」技術的思想に基づくヒートパイプの特許出願は特開2002−260540(発明の名称;電子式ヒートパイプおよびその製造方法、出願人;武蔵野精機株式会社)によるもの以外はないが、電極をワイア状のものとしているため、加熱動作のためには極めて高い電圧を要し、加熱効率の点で問題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献1】特開2001−282032
【特許文献2】特開平11−249491
【特許文献3】特開平5−216366
【特許文献4】特開2003−5577
【特許文献5】特開2002−351239
【特許文献6】特開平9−274403
【特許文献7】特開2001−27865
【特許文献8】特開2000−47445
【特許文献9】特開平5−289589
【特許文献10】特開2000−241996
【特許文献11】特開平5−289589
【特許文献12】特開2000−47445
【特許文献13】特開2000−241996
【特許文献14】特開2002−260540
【発明が解決しようとする課題】従来のヒートパイプでは短時間に均一にヒートパイプを昇温するために例えば面状加熱ヒーターを用いる等の工夫をしているが、面状ヒーターを用いる場合にはヒートパイプ表面(アルミニウムまたはアルミニウム合金製)を温めるために前記アルミニウム等の円筒素材に加えて面状ヒーターも加熱しなければならない。加熱昇温するべき材料が多くなる分だけ加熱に時間を要するし、加熱に必要な電力消費も多くなる。他に実際に使用している短時間昇温の方法としてはランプ加熱がある。円筒素材の板厚を薄くして加熱材料の量を減らしておいてそれをランプを使って加熱・昇温する方法である。この方法では均一に昇温するための光を均一に照射することが難しい。ランプからは昇温に有効な赤外線よりも加熱に寄与しない可視光も多く放射されるのでランプ加熱によるヒートパイプ昇温の消費電力効率が悪い、またハロゲンランプでは発熱体であるフィラメントと被加熱体のヒートパイプの間に石英管があるためヒートパイプを昇温する前に石英ガラス自体を加熱しなければならず、クイックヒーティングと省電力化の点で課題を抱えている。ランプに流れる電流がフィラメント温度によって変動することにより、瞬時加熱が困難であり、そのため連続印刷に問題が発生しやすく、レーザープリンター等の消費電力の主要因がこのヒートパイプの加熱に要する電力となっている。一方、ランプを使用しないヒートパイプの提案としては、コールドカソードを用いたものがあるが、カソードにワイア状のものを用いており、加熱効率の点で問題が残る。
本発明は、上述した点に鑑みなされたもので、ランプ加熱に付随する石英管やフィラメントを使うことなく、電子源を構成する電極からの電界放出電子により、ヒートパイプを直接加熱する電子式ヒートパイプであって、電界放出用の電子源とパイプとの距離を考慮し、加熱効率を大幅に向上させた電子式直接加熱方式のヒートパイプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1記載の本発明は電子式ヒートパイプであって中空で10−3Pa以下の低圧を維持しているパイプの内部にパイプ側面と物理的に接触しない電子源を備えていることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の本発明は、請求項1の特徴に加えて前記電子源がコールドカソードであって、前記パイプの被加熱面を前記電子源に対して正電位にバイアスすることにより、電子源からの電界放出電子をヒートパイプの側面に到達させることにより直接当該パイプを直接加熱することを特徴とする。つまり、加熱に際しては石英ガラスの熱容量の制限やフィラメントへの通電の必要がなくヒートパイプを電界放出電子により直接加熱する方式を採っている。
請求項1及び請求項2記載の発明の電子式ヒートパイプにあっては、第1に円筒形状のヒートパイプである特徴に加えて、その側面が加熱面となることに加えて、中空で真空状態を維持している前記パイプの内部に前記側面と物理的に接触しない電子源を備えており、中空で低圧状態を維持していることで電界放出による電子が真空中を飛行することができる。ここで言う真空状態とはこの電子が飛行するのを妨げない程度に残留ガスが除去されている状態を言い、具体的には10−3Pa以下の所謂高真空である。この真空状態の円筒容器の内部に電子源が配置されている。この電子源は円筒容器側面とは物理的に接触していない。この状態にしておくことで電子源に印加された電圧が前記側面に加わることがなく、前記側面には電子源と独立に電位を与えられる。請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の特徴に加えて、前記加熱面が前記電子源に対して正電位にバイアスされていることを特徴とする場合には、前記電子源から放出された電子が正電位の加熱面すなわち正電位の側面に飛び込む。尚、電子は負電位の粒子であるので真空状態の中を正電位電極に向けて飛行する。バイアスで加速されて側面に飛び込んだ電子はそれ自身の運動エネルギーをヒートパイプ側面に熱エネルギーとして与えることで側面が加熱される。電界放出の性質により、電子源とヒートパイプの内壁との距離が小さくなるほど、またパイプ側面(加熱面)に対する電子源の負のバイアスが大きくなるほど、電界放出される電子の数が多くなり、急速に加熱される。前記バイアスは電子源と加熱面との相対的な電位差のことであるので側面が接地電位で電子源が負電位の場合も含まれる。以上のような構成においては、フィラメントやフィラメントを封入する石英管がなく、電子源からの電子放出により円筒容器が直接加熱されるため、ヒートパイプに要求される急速加熱、省電力化を達成することができる。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の本発明は、請求項1または請求項2の特徴に加えて、前記電子源が下地電極よりも低仕事関数の物質からなるコーティング層をその表面に有し、当該低仕事関数の物質からの電界放出電子によりヒートパイプを直接加熱することを特徴とする。請求項3記載の発明の電子式ヒートパイプにあっては、電子を電界放出する層の仕事関数が下地の金属電極の仕事関数よりも低い物質であるため、電界放出のための電圧を低く設定することができ、ヒートパイプを所定の温度に保つために必要な電力を抑制することできる。
上記目的を達成するために、請求項4に記載の本発明は、請求項1または2の特徴に加えて、前記電子源のコーティング層が微小突起構造からなり、当該微小突起先端部で強い電界集中を起こさせることによって、微小突起先端部から電子放出を起こさせ、この電子放出によってヒートパイプを直接加熱することを特徴とする。請求項4記載の発明の電子式ヒートパイプにあっては、電子を電界放出する層が微小突起構造を備えており、微小突起の鋭利な先端部に強い電界集中が起こることによって、より低い電圧の印加で電界放出が起こり、効率よく加熱される。
上記目的を達成するために、請求項5に記載の本発明は、請求項4に係る微小突起構造がカーボンナノチューブからなることを特徴としている。請求項5記載の発明の電子式ヒートパイプにあっては、電子を電界放出する層が微小突起構造のカーボンナノチューブからなり、突起の先端サイズはナノスケールとなるため、カーボンナノチューブ先端部おいて強い電界集中が起こることによって、より一層低い電圧の印加で電子放出が起こり、高効率の加熱が達成される。
上記目的を達成するために、請求項6記載の本発明は、エミッション電流を一定にするため、アノードである円筒状のヒートパイプ内に円柱状のカソードを挿入し、カソードとアノード間の距離を小さくかつ一定に保つことを特徴としている。請求項6記載の発明の電子式ヒートパイプにあっては、円筒状のヒートパイプに円柱状の電子源つまりコールドカソードを入れることによって、ヒートパイプの円筒側面と当該コールドカソードの距離が一定に保たれるため、電界放出の量が当該円筒ヒートパイプの側面の全ての部分で一定になっていることから、定着加熱を行う範囲においては温度分布がなく均熱性に優れたヒートパイプを提供することができる。
上記目的を達成するために、請求項7記載の本発明は、電子放出層を前記円柱状の金属電極にパターン化してコーティングし、ヒートパイプ端部における電子放出部分を中央部よりも実質的に多くすることによって、ヒートパイプの端部の温度の低下を補償することを特徴としている。請求項7記載の発明の電子式ヒートパイプにあっては、前記ヒートパイプの長手方向の温度の均一性を確保するため、電子放出面を細分化し、実質的に電子源の端部の電子放出面を中央部よりも多くすることによって端部における急激な温度低下を補償できる。
上記目的を達成するために、請求項8記載の本発明は、請求項3から請求項5に係るヒートパイプにおいて、電子源を構成している電極が円柱状の回転体であって、当該回転体の中心線に沿った長手方向の位置によってその断面である円の直径を変化させていることを特徴とする。電界放出による電流Iは、I∝exp(−kV/d)で表され、カソード(電子源)とアノード(ヒートパイプ)間の電圧Vと距離dに依存する(kは定数)。電子源電極の形状を円柱状から少し変えておく、つまり電極の長手方向の位置により、カソードとヒートパイプ間の距離を変えておくことにより、ヒートパイプの各部分における電子放出の量を制御できる。基本的にはカソード(電子源)とアノード(ヒートパイプ内壁)間の距離を短くした部分でより多くの電子放出が得られるので電極形状により長手方向のヒートパイプの均熱性をコントロールできる。
上記目的を達成するために、請求項9記載の本発明は、請求項8に係るヒートパイプにおいて、電子源である円柱状の回転体の電極の直径が電極の中央部で小さくなっていることを特徴とする。つまり電子源電極を本発明のごとく作製しておくことにより、ヒートパイプ端部では、距離dが小さいため電子放出が多くなり結果としてより加熱され、中央部は、カソード(電子源)とアノード(ヒートパイプ内壁)間の距離dが少し大きくなっているため電子放出は端部より少なめになり、全体としてヒートパイプの温度を均一にできる。また、もう一つの効果として、こうした状態で被定着体であるトナーの付着した紙が加圧ロールによりヒートパイプに密着したときに、ヒートパイプ中央部が僅かに変形しカソード(電子源)とアノード(ヒートパイプ内壁)間の距離が小さくなり、電子放出がその瞬間に増えて温度が上がり、ヒートパイプに紙が接触したことによる温度の低下を半ば自動的に補償することが可能となる。また、複数枚の紙を加圧ローラとヒートパイプ間に挿入しまうというエラー動作によってカソード・アノード間が接触するといった事故の防止にもつながる。
上記目的を達成するために、請求項10記載の本発明は、請求項3から請求項9に係るヒートパイプにおいて、電子源を構成している電極がその中心線もしくは当該中心線に平行な直線に沿って中空状態であり、かつ当該中空状態が電極の両端を貫通していることを特徴とする。すなわち、円柱電極の中に当該中空貫通孔を設けることにより、又は中心部が中空の円筒状電極を用いることにより、ヒートパイプに電極を封入、密閉する製作工程で、パイプ内の所定の圧力状態を短時間で実現することができ、ヒートパイプの信頼性と生産性を向上させることができる。
上記目的を達成するために、請求項11記載の本発明は、請求項3から請求項5に係るヒートパイプにおいて、電子源を構成している電極がパンチングメタルまたは金属メッシュからなる円筒状であって、パンチングメタル又はメッシュの孔を塞ぐことなく当該パンチングメタル又はメッシュ上に電子放出層が形成されていることを特徴とする。下地電極をパンチングメタルまたは金属メッシュからなる円筒状にすることにより、ヒートパイプに電極を封入、真空排気後、密閉する際、所定の圧力状態をより短時間で実現することができ、ヒートパイプの信頼性と生産性を向上させることができる。また、印加電圧に対する電界放出電子電流の変化の急峻さが緩和されるため、当該電流の制御すなわちヒートパイプの温度の制御性が向上する。
上記目的を達成するために、請求項12記載の本発明は、請求項11に係るヒートパイプにおいて、当該円筒電極の直径が電極中央部で小さくなっていることを特徴とする。つまり電子源電極を本発明のごとく作製しておくことにより、ヒートパイプ端部では、距離dが小さいため電子放出が多くなり結果としてより加熱され、中央部は、カソード(電子源)とアノード(ヒートパイプ内壁)間の距離dが少し大きくなっているため電子放出は端部より少なめになり、全体としてヒートパイプの温度を均一にできる。また、もう一つの効果として、こうした状態で被定着体であるトナーの付着した紙が加圧ロールによりヒートパイプに密着したときに、ヒートパイプ中央部が僅かに変形しカソード(電子源)とアノード(ヒートパイプ内壁)間の距離が小さくなり、電子放出がその瞬間に増えて温度が上がり、ヒートパイプに紙が接触したことによる温度の低下を半ば自動的に補償することが可能となる。また、複数枚の紙を加圧ローラとヒートパイプ間に挿入しまうというエラー動作によってカソード・アノード間が接触するといった事故の防止にもつながる。
上記目的を達成するために、請求項13記載の本発明は、請求項6から請求項12に係るヒートパイプにおいて、当該パイプ内において電極がその両端で支持されていることを特徴とする。本発明によってカソード(電子源)とアノード(ヒートパイプ内壁)間の距離を精度良く設定して組み立てることができ、製品の信頼性と長期に渡る安定性を得ることができる。
上記目的を達成するために、請求項14記載の本発明は、請求項10に係るヒートパイプにおいて、複数の円柱又は円柱状の回転体から構成される電極であって個々の円柱又は円柱状の回転体の中心線が同一直線上にある構成をとり、個々の円柱又は円柱状の回転体電極が互いに電気的に絶縁されていることによって独立に電圧を印加できることを特徴とする。つまり、電子源をいくつかに電気的に絶縁された中空の円柱電極から構成することによって、各中空円柱電極に独立に電圧を印加することにより、ヒートパイプの各部の加熱の程度を独立に制御することによって、つまり電子源を部分に分けて電界放出による電流I∝exp(−kV/d)を電圧Vとカソード・アノード間距離dによって制御することにより、使用の態様(紙の厚さ、熱容量等の違い)に制限されることなく全体の温度の均一性をより精度良く確保できる。つまり、ヒートパイプの寸法、定着動作時の紙の接触による温度の低下やヒートパイプの僅かな変形による電子放出の変動に対処しうる。
上記目的を達成するために、請求項15記載の本発明は、請求項1から請求項14に係るヒートパイプにおいて、当該パイプの内部に活性な金属材料からなるゲッターを備えていることを特徴とする。本発明によって、ヒートパイプ内の圧力を、密封後も常に、10−3Pa以下の低い圧力に維持することが可能である。活性な金属は加熱されることによりヒートパイプ内の残留ガスを吸着し、ヒートパイプの信頼性、長寿命化を確保できる。
上記目的を達成するために、請求項16記載の本発明は、請求項1から請求項15に係るヒートパイプにおいて、電極に負の電圧を印加するための電圧源が電界放出電子の急増を抑制又は遮断するリレー機能を備えていることを特徴とする。つまり、本発明は、コールドカソードからの電子放出による電子式加熱方式に特有な高電圧印加において、カソード/アノード間の不測の放電や電気的短絡による大電流の発生を未然に防止するものであり、複写機・プリンタ等の本方式になる定着エンジンの安全性と信頼性を担保するものである。
【発明の実施の形態】本発明の第一の実施例について図1を用いて説明する。複写機の感光ドラムに用いる電子式ヒートパイプの例である。アルミニウム合金製のヒートパイプ円筒側面1と円筒底板6、14で囲まれた空間5は10−3Pa以下の真空となっている。アルミ合金製のヒートパイプ円筒は外形が30mmの直径で、円筒側面1の肉厚は0.6mmである。それぞれの円筒底板には直径26.8mmの銅円柱状の電子源電極4が絶縁支持棒12と高電圧導入電極8によって電極4がヒートパイプ円筒内の中心部に固定されていて表面には起毛処理したカーボンナノチューブ3からなる電子放出層2がコーティングされている。導入電極は絶縁シール7によってヒートパイプ円筒1と電気的に絶縁されている。前記ヒートパイプの円筒側面の内壁と電子源との距離は1mmとしてある。ここで、カーボンナノチューブと呼ぶ材料は正確には、カーボンナノチューブを含有した煤で、その成分は、カーボンナノチューブと、無定形炭素、グラフェンの小片および、カーボンナノチューブ生成のためお触媒金属であるニッケルやイットリウムといった金属からなる。このカーボンナノチューブ含有煤をミキサーで粉砕して、粉砕したカーボンナノチューブ含有煤をエタノール液中に入れて懸濁液を作る。カーボンナノチューブ含有煤エタノール懸濁液はハンドスプレー(エアーで霧状に液体を噴霧する器具)を用いて、カソード電極に噴霧塗布する。この塗布後、粘着テープを塗布面に接着し、剥がすことによって、カーボンナノチューブを塗布面に対しておよそ垂直に配向させる起毛処理を施す。又は、前記銅円筒の表面にNiをコーティングした後、低圧のアルゴンガス雰囲気中で、カーボン電極のグロー放電により銅円筒電極にカーボンナノチューブを含む電子放出層を形成しても良い。ヒートパイプの内部は排気口10から、例えば銅管9を通して10−3Pa以下の圧力に排気した後銅管9を機械的に変形し、10−3Pa以下の圧力を保ったまま密封する。排気の際には電極内部を貫通する排気孔11によりパイプ内部が速やかに排気される。また、円筒底板14にはチタンワイアのゲッター13が通電電極16につながり、この電極は絶縁シール15により円筒底板から電気的に絶縁されている。密封後、電極16からチタンワイアに通電加熱することにより、ゲッター作用が発揮され、空間5の残留ガス圧さらに下げることができる。このヒートパイプの電子放出特性を図2に示す。横軸は電子源2とアルミ製パイプ1の間に印加された電圧Vを電子源2とパイプ1の間の距離d(1000μm)で除した値であり、縦軸は電子源2からアルミ製パイプ1へ流れた電流Iを電子源2の円柱側面の面積で除した値を表している。この特性は、図1の電極8にマイナス1.2kVからマイナス2kVの範囲の電圧Vを印加し、図1の電子源2からアルミ製パイプ1へ放出された電子を電流密度で表したものである。電流密度(Current Density)はほぼexp(−kV/d)に比例しており、印加電圧をコントロールすることによって、ヒートパイプの加熱に消費される電力は、電子源2からアルミ製パイプ1へ流れる電流をIとすると、V・Iであり、Vを前記範囲内で変化させるだけで加熱の電力は3〜4桁程度変化し、効率の良い加熱ができる。図3に図1のヒートパイプ円筒側面1の中央部における加熱特性の一例を示す。横軸は加熱開始からの時間(秒)を表し、縦軸は図1のヒートパイプ中央部に熱電対を取り付けて測定したパイプ表面の温度を表している。10秒以内で定着に必要な180℃の温度に容易に到達できる。
本発明の第2の実施例を図4に示す。ヒートパイプ円筒内の円筒状電極を銅のメッシュ4’で構成したものであり、このメッシュを構成する銅のワイア2’それぞれの上にカーボンナノチューブから構成される電子放出層が塗布されている。そしてこの電極がヒートパイプ円筒内に絶縁支持棒11’と高圧導入電極8’によって設置される。この第2の実施例に係るヒートパイプでは、密封前のパイプ内の排気が容易で十分にできること、放出電子電流の印加電圧Vに対する変化が緩やかであるためヒートパイプの温度制御が容易となる。この実施例においては、端部、つまり絶縁支持棒12’と高圧導入電極8’付近の円筒を構成するメッシュの程度をより密にすることによって端部における電子放出を増やしヒートパイプ端部における温度の低下を容易に補償できる。
本発明の第3の実施例を図5にしめす。電子源電極を銅製で内部が中空の円筒で構成し、中央部の円筒の直径を端部の直径より小さくしたものである。また中空円筒状電子源を支持するため、8’と12’の先端には空気抜き孔11’を有する支持用の円盤18及び19が据え付けられており、それぞれ導電性、絶縁性の材料から構成されている。この実施例では端部におけるヒートパイプ円筒内壁と電極表面の距離dが中央部に比べて小さくしてあり、すなわち端部において電子源電極がよりヒートパイプ内壁に接近しているため、導入電極8”にマイナス電圧を印加した場合、端部の電極からの電子放出が実効的に多くなり、端部22および24が中央部23よりもより多く加熱されることによって端部での温度の低下を防止し、ヒートパイプ全体の均熱性を大幅に改善できる。また、図の電極中央部の幅を紙(印画紙)のサイズに対応させることにより、紙がヒートパイプと加圧ロールに挿入され、紙の熱容量によりヒートパイプの温度が瞬間的に低下するが、同時にヒートパイプのアルミ円筒2が僅かに変形し、円筒内壁と電極との距離dが縮小するためアルミ円筒が変形した瞬間的に電子放出が増えることによって、紙の熱容量による前記の温度の低下を自動的に補償できる。またエラー動作により複数枚の紙がヒートパイプと加圧ロールに挿入された場合にも、カソード/アノードの接触といったアクシデントの防止にもつながる。さらに本実施例に於いて、中央部23と端部22、24を分離して作製し、組み立て時に3つの電子源の接触面20と21に絶縁性のフィルム(ポリミドフィルム等)を入れることによって、22,23,24の部分に独立に電圧を印可することができ、その結果より精度の高い温度制御が可能である。
【発明の効果】本発明の電子式ヒートパイプを用いると短時間に均一かつ直接的に円筒側面を加熱できる。このヒートパイプを用いた複写機や印刷機は待機時に加熱定着ロールを加熱保持せずにしかも使用時に瞬時に使用できる加熱状態に移行できるため、機器の省電力化にも資する。
【産業上の利用分野】本発明は複写機、プリンター等で使用される加熱定着ロールの中の電子式ヒートパイプおよびその製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例を示す模式図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係るヒートパイプの電子放出特性を示す図であ
る。
【図3】本発明の第1の実施例に係るヒートパイプの加熱特性を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施例を示す模式図である。
【図5】本発明の第3の実施例を示す模式図である。
【符号の説明】
1は円筒側面、2は電子源の電子放出層、3は電子放出層の拡大図、4は電子源銅製下地、5は密閉された真空部分、6は円筒底板、7は絶縁シール、8は高圧導入電極、9は真空引き後密封した銅パイプ、10は真空引き用排気口、11は排気時の空気抜き孔、12は絶縁支持棒、13はチタンワイアのゲッター、14は円筒底板、15は絶縁シール、16はチタンワイア加熱用電極、2’はメッシュ状電子源を構成する金属で表面に電子放出層を塗布したもの、4’はメッシュ状電子源、8’は高圧導入電極、12’は絶縁性支持棒、2”は円筒状電子源を構成する金属で表面に電子放出層を塗布したもの、4”は円筒状電子源、8”は高圧導入電極、11”は排気時の空気抜き孔、12”は絶縁性支持棒、18は金属製の支持円盤、19は絶縁性の支持円盤、20及び21は円筒電極の段差又は絶縁部、22及び24は直径がやや大きい円筒状電子源の部分、23は直径がやや小さい円筒状電子源の部分である。

Claims (16)

  1. 円筒状のヒートパイプにおいて、その側面が加熱面となることに加えて、中空で10−3Pa以下の低圧状態を維持している前記パイプの内側の側面と物理的に接触しない電子源を備えていることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  2. 請求項1の電子式ヒートパイプにおいて、前記加熱面が前記電子源に対して正電位にバイアスされていることにより、電子源からの電界放出による電子を含む電子がヒートパイプの側面に到達することにより直接加熱されることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  3. 請求項1または2に係るヒートパイプにおいて、前記電子源が下地電極とその表面のコーティング層とで構成されていることに加えて、前記コーティング層が前記電極材料よりも低い仕事関数の物質であることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  4. 請求項1または2に係るヒートパイプにおいて、前記電子源が電極とその表面のコーティング層とで構成されていることに加えて、前記コーティング層が微小突起構造を備えていることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  5. 請求項4に係るヒートパイプにおいて、微小突起構造がカーボンナノチューブからなることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  6. 請求項3から請求項5に係るヒートパイプにおいて、電子源を構成している電極形状が円柱であることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  7. 請求項6に係るヒートパイプにおいて、電子放出層が前記円柱電極上にパターン化されてコーティングされていることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  8. 請求項3から請求項5に係るヒートパイプにおいて、電子源を構成している電極が円柱状の回転体であって、当該回転体の中心線に沿った長手方向の位置によってその断面である円の直径が変化していることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  9. 請求項8に係るヒートパイプにおいて、電子源である円柱状の回転体の電極の直径が電極の中央部で小さくなっていることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  10. 請求項3から請求項9に係るヒートパイプにおいて、電極がその中心線もしくは当該中心線に平行な直線に沿って中空状態である、又は当該中空状態が電極の両端を貫通していることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  11. 請求項3から請求項5に係るヒートパイプにおいて、電子源を構成している電極がパンチングメタルまたは金属メッシュからなる円筒状であって、パンチングメタル又はメッシュの孔を塞ぐことなく当該パンチングメタル又はメッシュ上に電子放出層が形成されていることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  12. 請求項11係るヒートパイプにおいて、パンチングメタルまたは金属メッシュからなる円筒状電極であって、当該円筒電極の直径が電極中央部で小さくなっていることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  13. 請求項6から請求項12に係るヒートパイプにおいて、当該パイプ内において電極がその両端で支持されていることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  14. 請求項10に係るヒートパイプにおいて、複数の円柱又は円柱状の回転体から構成される電極であって、個々の円柱又は円柱状の回転体の中心線が同一直線上にある構成をとり、個々の円柱又は円柱状の回転体電極が互いに電気的に絶縁されていることによって独立に電圧を印加できることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  15. 請求項1から請求項14に係るヒートパイプにおいて、当該パイプの内部に活性な金属材料からなるゲッターを備えていることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
  16. 請求項1から請求項15に係るヒートパイプにおいて、電極に負の電圧を印加するための電圧源が電界放出電子の急増を抑制又は遮断するリレー機能を備えていることを特徴とする電子式ヒートパイプ。
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