JP2004317128A - マイクロチャンネル構造体とマイクロチップデバイス - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基板(1)に形成された微細流路チャンネル(2)の一部に多孔質構造部、たとえばフィルター部(5)を構築する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、マイクロチャンネル構造体とマイクロチップデバイスに関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、微量成分の分析や生化学反応、有機合成反応のための新しい展開を可能とする、新しいマイクロチャンネル構造体とその製造方法並びにこれを用いたマイクロチップデバイスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、ガラスやシリコン等を基板として、その表面部に微細な溝(チャンネル)を形成し、このチャンネルを流路として化学反応や、抽出等の分離、そして分析等を行うことを可能としたマイクロチャンネル構造と、この構造を利用したマイクロチップデバイスが注目されている。
【0003】
このようなマイクロチャンネル構造体については、その機能を高めるための工夫、改良が様々に進められてきており、たとえば、分離フィルターとして、ドライエッチング技術を用いてピラー構造を形成し、物質のフィルタリングを行うこと(文献1)や、触媒成分、酵素、抗体、抗原等を微小ビーズに固定化し、このビーズを微細流路チャンネル内に導入すること、あるいはビーズに代えてチャンネル壁面を利用すること(文献2)等が試みられている。
【0004】
しかしながら、微細流路としてのチャンネルにたとえば以上のような構造を簡便に、安価に形成することは、容易ではない。実際、マイクロチップ内にフィルターを作製することは困難であって、たとえば、マイクロチップ内にフィルター機能を有した培養槽を作製することは難しい。
【0005】
そして、従来報告されているビーズを固相に利用したシステムでは、マイクロチャンネル内の圧力損失の問題から、比界面積を上げるためにビーズサイズを小さくすることは困難である。
【0006】
このように、あらかじめ形成されているマイクロチャンネル内に構造物を作製することは困難である。このため、たとえばマイクロチャンネル内部に多孔質構造物(例えば、フィルター、触媒や抗体などを効率よく固定化するための土台など)をマイクロチャンネル内の任意の場所に任意の形状で作製することができれば、様々なアプリケーションを実現することができるが、現状においてはこれを可能とする方策は確立されていないのが実情である。
【0007】
【文献】
1:H.Andersson et al., Sensors and Actuators B, 67. 203(2000).
2:K.Sato et al., Anal. Chem., 72, 1144(2000).
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、この出願の発明は、上記のとおりの従来の問題点を解消し、あらかじめ形成されているマイクロチャンネルにおいても、その内部の任意の場所に機能性の構造を任意の形状で簡便に形成することを可能とし、この構造によって、分離、反応、分析等を高度に制御されたものとして行うことを可能とする、新しいマイクロチャンネル構造体とその製造方法、並びにこれを利用したマイクロチップデバイスを提供することを課題としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、基板に形成された微細流路チャンネル内の一部に多孔質構造部が構築されていることを特徴とするマイクロチャンネル構造体を提供し、第2には、多孔質構造部は、高分子により構築されていることを特徴とするマイクロチャンネル構造体を、第3には、多孔質構造部は、高分子の光硬化により構築されていることを特徴とするマイクロチャンネル構造体を提供する。
【0010】
そして、第4には、多孔質構造部は、微細流路チャンネルを横断して構築されいることを特徴とするマイクロチャンネル構造体を、第5には、多孔質構造部は、微細流路チャンネルの壁部および底部の少くともいずれかに構築されていることを特徴とするマイクロチャンネル構造体を、第6には、多孔質構造部は、液体が通過可能に細孔制御されていることを特徴とするマイクロチャンネル構造体を、第7には、多孔質構造体は、気体が通過可能に細孔制御されていることを特徴とするマイクロチャンネル構造体を、第8には、多孔質構造部は、細胞または微生物が通過しないように細孔制御されていることを特徴とするマイクロチャンネル構造体を、第9には、多孔質構造部は、親水化表面処理または疎水化表面処理されていることを特徴とするマイクロチャンネル構造体を、第10には、多孔質構造部には、触媒成分、酵素、抗体または抗原が固定化されていることを特徴とするマイクロチャンネル構造体を、第11には、基板は、ガラス、セラミックス、シリコン、樹脂またはこれらの1種以上の複合体のうちから選択されたものであることを特徴とするマイクロチャンネル構造体を提供する。
【0011】
また、この出願の発明は、第12には、上記いずれかのマイクロチャンネル構造体を少くともその一部として構成されていることを特徴とするマイクロチップデバイスを提供する。
【0012】
さらに、この出願の発明は、第13には、基板に形成された微細流路チャンネル内の一部に多孔質構造部を構築することを特徴とするマイクロチャンネル構造体の製造方法を提供する。
【0013】
第14には、多孔質構造部を高分子により構築することを特徴とするマイクロチャンネル構造体の製造方法を提供し、第15には、多孔質構造部を高分子の光硬化により構築することを特徴とするマイクロチャンネル構造体の製造方法を、第16には、ゾルゲル反応により構築することを特徴とするマイクロチャンネル構造体の製造方法を、第17には、マスクパターンをもっての光照射により構築することを特徴とするマイクロチャンネル構造体の製造方法を提供する。
【0014】
第18には、多孔質構造部は、液体が通過可能に細孔制御して構築することを特徴とするマイクロチャンネル構造体の製造方法を、第19には、多孔質構造体は、気体が通過可能に細孔制御して構築することを特徴とするマイクロチャンネル構造体の製造方法を、第20には、多孔質構造部は、細胞または微生物が通過しないように細孔制御して構築することを特徴とするマイクロチャンネル構造体の製造方法を、第21には、多孔質構造部を親水化表面処理または疎水化表面処理することを特徴とするマイクロチャンネル構造体の製造方法を、第22には、多孔質構造部は、触媒成分、酵素、抗体または抗原を固定化することを特徴とするマイクロチャンネル構造体の製造方法を提供する。
【0015】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0016】
なによりも基本とされることは、この出願の発明のマイクロチップ構造体においては、基板に形成された微細流路チャンネル内の一部に多孔質構造部が構築されていることである。
【0017】
ここで、多孔質構造部は、あらかじめ基板に形成されている微細流路チャンネルの内部に構築されるものであって、構築される場所やその形態(つまり、形状、大きさ等)は任意とされている。つまり、多孔質構造部は、微細流路チャンネルの形成加工時に、もしくはその前段階に構築されるものではない。そして、多孔質であることを必須としている。
【0018】
このような多孔質部は、通常は幅500μm以下、深さ300μm以下の微細流路としてのチャンネル(溝)の少くとも一部に構築されており、その素材、組成については各種であってよい。なかでも、この出願の発明においては、多孔質部は、合成あるいは天然のものを利用した高分子により構築されていることが好適な形態の一つとして例示される。
【0019】
特に、この多孔質構造部は、高分子の光照射にともなうゾルゲル反応、架橋反応等による光硬化によって構築されたものであることが好ましい。
【0020】
たとえば添付した図面の図1は、多孔質構造部によって微細チャンネル内にフィルター部を構築して細胞培養を可能とした例を示したものであるが、この図1の例に沿って説明すると、たとえば、ガラスや、セラミックス、シリコン、樹脂、もしくはこれらの複合体、さらに場合によっては金属等からなる基板(1)の表面部に、微細加工によりエッチングによって微細チャンネル(2)を形成し、基板(1)上に、透明カバー板(3)を接合した後に、微細チャンネル(2)内に光硬化性の有機高分子の溶液、あるいは分散液を入れ、外部より、たとえばレーザー光(4)等の光を照射して、所定の微細チャンネル(2)内の位置のみにおいて有機高分子を硬化させて多孔質構造部としてのフィルター部(5)を構築する。また、このフィルター部(5)の構築にともなって、細部培養部(6)も微細チャンネル(2)において構成されることになる。
【0021】
これまでにも、マイクロチップ内に接着性細胞を培養して、細胞応答を利用したアッセイなどの報告があるが、非接着性細胞や微生物(サイズ:1μm以下)を利用したシステムを構築する場合、液体は流れるが細胞や微生物をトラップできる空間(培養槽)を構築する必要があるが、従来、このことは容易ではなかった。これに対し、この出願の発明においては、たとえば、光硬化性の高分子のゾルゲル反応を利用してチャンネル内に多孔質の隔壁を作製することで簡便、かつ容易に培養槽を作製することができる。しかも、この出願の発明においては、たとえばゾルゲル反応等において、多孔質隔壁のポアサイズは原料の高分子の組成を変えることで任意に選択することができるため、培養する細胞や微生物のサイズによって最適化することができる。
【0022】
細孔径(ポアサイズ)の制御が可能とされることで、たとえば液体のみを通過可能とすることや、特定の分子サイズ以下の成分のみ通過可能とすること等が可能となる。
【0023】
多孔質構造部の配設の形態には特に限定はなく、たとえば図1の例のように、フィルター部(5)を構築するために、多孔質構造部は、微細流路チャンネル(2)を横断して構築してもよいし、多孔質構造部を微細流路チャンネル(2)の壁部および底部の少くともいずれかに構築されているようにしてもよい。
【0024】
このような多孔質構造部については、たとえば図2にも例示したように、フォトマスク(7)のパターン(8)形状で任意の形状のものをフィルター部(5)等として微細チャンネル(2)内に構築することができる。この図2の例の形状では、フィルター部(5)の上流での細胞、微生物、ごみ等のつまりを抑制し、微細チャンネル(2)内の液体の流れができるだけ、阻害されないようにしている。
【0025】
また、この出願の発明のマイクロチャンネル構造体では、多孔質構造部が親水化表面処理または疎水化表面処理されているものとすることができる。
【0026】
図3は、このような表面処理の一例を示したものであって、気液分離を可能とするこの出願の発明の実施の形態を例示している。マイクロチップ内で気液分離を行いたいというニーズは非常に大きいにも関わらず(反応の際に発生したガスや試料導入の際に混入した空気などの除去など)、これまでは実現するには至っていない。この出願の発明においては、多孔質構造と部分的疎水処理技術を利用して、チップ内気液分離が実現できる。もちろん、表面処理剤については各種のものが考慮されてよいことは言うまでもない。
【0027】
そして、この出願の発明においては、多孔質構造部には、触媒成分、酵素、抗体または抗原が固定化されているものとすることもできる。
【0028】
マイクロチャンネル内に作製した多孔質構造の細孔内に触媒・酵素や抗原・抗体などを固定化することで、従来用いられているビーズやチャンネル壁面に固定化した場合よりも、桁違いに大量に固定化することができる。それによりさらに高効率なマイクロデバイスを実現できる。
【0029】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例によって発明が限定されることはない。
【0030】
【実施例】
図4に模式的に例示したように、ガラス製の基板(1)の表面部に微細チャンネル(2)を形成し、その内部に多孔質構造部としてのフィルター部(5)を構築し、その上流を細胞培養部(6)とした。
【0031】
多孔質構造部としてのフィルター部(5)は、光照射によるゾルゲル反応による高分子の光硬化によって構築した。この場合の高分子としては、次式
【0032】
【化1】
【0033】
に示した3−(トリメトキシシリル)−プロピルメタクリレートのゾルゲル光硬化を利用した。また、光開始剤としては、次式
【0034】
【化2】
【0035】
のビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドを用い,HCl、水およびトルエンの存在下にゾルゲル光硬化反応を行った。光照射は、紫外レーザー光により行った。
【0036】
生成された多孔質構造部としてのフィルター部(5)は、図5に示したように、微細チャンネルを横断する厚み20μmのものとして構築され、このものは、図6の断面図およびその拡大図としてのSEM像のようにミクロ多孔質体であることが確認された。
【0037】
そこで、以上のフィルター部(5)および細胞培養部(6)を有するマイクロチャンネル構造体において、前記の図1のように、細胞培養部(6)にマイクロシリンジにより培養液を供給して、大腸菌の培養を用い、大腸菌のインドール試験用のマイクロチップデバイスとし、フィルター部(5)下流において、熱レンズ顕微鏡(TLM)で観察してその性能を評価した。このようなデバイスは、簡易環境リスク評価デバイスのモデルとして考えられるものである。
【0038】
図7は、フィルター部(5)上流の細胞培養部(6)での大腸菌の培養状態を示した顕微鏡写真である。
【0039】
インドール試験においては、Ehrlich試薬を用いての発色(ピーク波長、約550〜575nm)により大腸菌の培養を確認した。この発色を熱レンズ顕微鏡(TLM)で観察した結果を、流れの経過時間と信号強度との関係で示したものが図8である。条件は次のとおりである。
【0040】
【表1】
【0041】
以上の結果から、大腸菌の培養がこの実施例でのデバイスにおいて実現されていることが確認された。
【0042】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、従来の問題点を解消し、あらかじめ形成されているマイクロチャンネルにおいても、その内部の任意の場所に、機能性の構造を任意の形態で簡便に形成することを可能とし、この構造によって、分離、反応、分析等を高度に制御されたものとして行うことを可能とする、新しいマイクロチャンネル構造体とその製造方法、並びにこれを利用したマイクロチップデバイスが提供される。
【0043】
より具体的にも、たとえば、
▲1▼ マイクロチップ内の任意の場所に任意の形状で非常に安価に多孔質フィルターを作製できる。
【0044】
▲2▼ 高効率なマイクロ(免疫分析や化学合成など)デバイスが構築できる。
【0045】
▲3▼ マイクロ化学プロセスの重要な要素技術であるチップ内気液分離が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明のフィルター部を構築した実施の形態の一例を示した模式図である。
【図2】別の実施の形態としてのフォトマスクを用いて構築した例を示した模式図である。
【図3】さらに別の実施の形態として多孔質構造部を表面処理した気液分離の例を示した模式図である。
【図4】細胞培養に係わる実施例のデバイスを模式的に示した図である。
【図5】構築したフィルター部を示した顕微鏡写真である。
【図6】フィルター部の断面を示したSEM写真とその拡大写真である。
【図7】大腸菌の培養状態を示した顕微鏡写真である。
【図8】TLMによるインドール試験の結果を示した図である。
【符号の説明】
1 基板
2 微細チャンネル
3 透明カバー板
4 レーザー光
5 フィルター部
6 細胞培養部
7 フォトマスク
8 パターン
Claims (22)
- 基板に形成された微細流路チャンネル内の一部に多孔質構造部が構築されていることを特徴とするマイクロチャンネル構造体。
- 多孔質構造部は、高分子により構築されていることを特徴とする請求項1のマイクロチャンネル構造体。
- 多孔質構造部は、高分子の光硬化により構築されていることを特徴とする請求項2のマイクロチャンネル構造体。
- 多孔質構造部は、微細流路チャンネルを横断して構築されいることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかのマイクロチャンネル構造体。
- 多孔質構造部は、微細流路チャンネルの壁部および底部の少くともいずれかに構築されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかのマイクロチャンネル構造体。
- 多孔質構造部は、液体が通過可能に細孔制御されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかのマイクロチャンネル構造体。
- 多孔質構造体は、気体が通過可能に細孔制御されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかのマイクロチャンネル構造体。
- 多孔質構造部は、細胞または微生物が通過しないように細孔制御されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかのマイクロチャンネル構造体。
- 多孔質構造部は、親水化表面処理または疎水化表面処理されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかのマイクロチャンネル構造体。
- 多孔質構造部には、触媒成分、酵素、抗体または抗原が固定化されていることを特徴とする請求項1ないし9のうちのいずれかのマイクロチャンネル構造体。
- 基板は、ガラス、セラミックス、シリコン、樹脂またはこれらの1種以上の複合体のうちから選択されたものであることを特徴とする請求項1ないし10のうちのいずれかのマイクロチャンネル構造体。
- 請求項1ないし11のいずれかのマイクロチャンネル構造体を少くともその一部として構成されていることを特徴とするマイクロチップデバイス。
- 基板に形成された微細流路チャンネル内の一部に多孔質構造部を構築することを特徴とするマイクロチャンネル構造体の製造方法。
- 多孔質構造部を高分子により構築することを特徴とする請求項13のマイクロチャンネル構造体の製造方法。
- 多孔質構造部を高分子の光硬化により構築することを特徴とする請求項14のマイクロチャンネル構造体の製造方法。
- ゾルゲル反応により構築することを特徴とする請求項15のマイクロチャンネル構造体の製造方法。
- マスクパターンをもっての光照射により構築することを特徴とする請求項15または16のマイクロチャンネル構造体の製造方法。
- 多孔質構造部は、液体が通過可能に細孔制御して構築することを特徴とする請求項13ないし17のいずれかのマイクロチャンネル構造体の製造方法。
- 多孔質構造体は、気体が通過可能に細孔制御して構築することを特徴とする請求項13ないし17のいずれかのマイクロチャンネル構造体の製造方法。
- 多孔質構造部は、細胞または微生物が通過しないように細孔制御して構築することを特徴とする請求項13ないし19のいずれかのマイクロチャンネル構造体の製造方法。
- 多孔質構造部を親水化表面処理または疎水化表面処理することを特徴とする請求項13ないし20のいずれかのマイクロチャンネル構造体の製造方法。
- 多孔質構造部は、触媒成分、酵素、抗体または抗原を固定化することを特徴とする請求項13ないし21のいずれかのマイクロチャンネル構造体の製造方法。
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