JP2004313191A - メグシントランスジェニックラット - Google Patents

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Toshio Miyata
敏男 宮田
Hirohiko Ueda
裕彦 上田
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Abstract

【課題】
腎不全あるいは糖尿病のモデル動物として有用な疾患モデル動物の提供。
【解決手段】
次の特徴を有する疾患モデル動物が提供された。
(a)メグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)次の表現型a)-d)から選択されるいずれかの表現型を呈する
a)血中クレアチニン値の上昇
b)高血糖症状
c)発育不全、
d)蛋白尿、および
e)神経変性
本発明の疾患モデル動物は、血中クレアチニンの上昇、あるいは蛋白尿を伴う腎機能障害モデル動物として有用である。メグシン遺伝子によるトランスジェニックラットは、血中クレアチニン値の上昇あるいは蛋白尿を呈し、特徴的な病理像として、糸球体上皮細胞、近位尿細管〜遠位尿細管〜集合管にかけての障害を示した。また本発明により、高血糖を伴う疾患モデル動物が提供された。本発明の疾患モデル動物は、腎不全や糖尿病の病態解析や治療薬スクリーニングに有用である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、疾患モデル動物に関する。
腎不全(renal failure)は、腎機能の低下と高窒素血症(azotemia)を主徴候とする症候群である。腎不全は、急性腎不全(acute renal failure)と慢性腎不全(chronic renal failure)に大別される。ヒトにおいては、クレアチニン値(男性正常値:0.8〜1.2mg/dL)が3mg/dL以上に上昇した場合に腎不全と判定される。急性腎不全は、急激に発症する腎機能の低下あるいは停止の結果生じる高窒素血症を主徴候とする病態をいう。たとえば、循環障害、腎毒性物質、アレルギー反応などによる腎機能の低下が、急性腎不全の原因となる。急性腎不全は、しばしば乏尿を伴う。一般に急性腎不全の経過は可逆的で、原因を取り除くことによって腎不全からの回復が期待できる。
一方、糖尿病性腎症、糸球体腎炎、腎硬化症、膠原病、閉塞性尿路疾患などにより、腎機能が慢性的に低下して腎不全へと進行する病態は、慢性腎不全と呼ばれる。慢性腎不全の経過は不可逆的であり、病態を回復させることは難しい。慢性腎不全による尿毒症症状が出現すれば透析療法が開始される。日本において何らかの腎機能不全を原因とする透析患者は、2000年には20万人を超え、2001年12月末には21万9000人に達している。
腎不全の治療薬の開発や腎機能の障害機構の解明には、腎不全の病態モデル動物が有用である。腎不全のモデル動物は、腎機能の障害機構の解明や、腎不全の治療薬の開発において有用である。現在までにいくつかの腎不全モデル動物が公知である。公知の腎不全モデル動物は、腎臓機能を人為的に障害することによって得られる他、自然発症性のモデルも一部検討されている。腎障害を有するモデルとして、たとえば以下のようなモデル動物が公知である。腎不全の病態モデルでは、近位尿細管に壊死が起こるものが少なくなく、同時に貧血の病態モデルとなることも多い。
(1)急性腎不全モデル
虚血性急性腎不全モデル:出血、水・電解質喪失、ショックなどにより循環不全を生じ、腎虚血を起こした状態を虚血性急性腎不全という。虚血性モデルは、腎動脈主幹を一定時間閉塞し、腎血流を完全に遮断するか、または腎動脈にノルエピネフリンを持続注入して、一定時間腎血流量を完全に止めることにより作製される。腎不全の症状、回復の経過は、虚血時間によって異なる。場合により、対側正常腎の摘出も行われる(非特許文献1参照)。
腎毒性急性腎不全モデル:腎毒性を有する薬物を投与することにより、急性腎不全が惹起される。一般には、次のような化合物が急性腎不全のモデルの作製に利用されている。
重金属
塩化第二水銀(非特許文献2参照)
硝酸(または酢酸)ウラニウム(非特許文献3参照)
薬剤
ゲンタマイシン(非特許文献4参照)
シスプラチン(非特許文献5参照)
その他
ストレプトゾトシンとメチルグアニジンの併用(特許文献1参照)
(2)自然発症腎不全モデル
進行性腎障害モデル:ネフローゼ症候群をきたし、進行性に憎悪する腎炎のモデルがラットとマウスで報告されている(非特許文献6参照)。
多発性嚢胞腎モデル:常染色体優性遺伝する多発性嚢胞腎をきたすモデル動物として、C57BL/6cpkマウスやKKcy/cyマウス(非特許文献7参照)、Han:SPRDラット(非特許文献8参照)等が知られている
間質性腎炎:CBA/Caマウスは、kdkdの遺伝子の系統を有し、自己免疫疾患が原因で慢性間質性腎炎を発症し、腎不全に至る(非特許文献9参照)。
(3)生殖細胞遺伝子操作による腎不全モデル
生殖細胞の遺伝子操作による腎不全モデル動物も作製されている。糸球体硬化自然発症モデルとして、次のようなモデル動物が知られている。
SV40トランスジェニックマウス(非特許文献10参照)
Fawn-Hoodedラット(非特許文献11参照)
BUF/Mnaラット(非特許文献12参照)
Mpv17トランスジェニックマウス(非特許文献13参照)
シクロオキシゲナーゼ2(COX2)ノックアウトマウス(非特許文献14参照)
TGF-βトランスジェニックマウス(非特許文献15参照)
HIV-1トランスジェニックマウス(非特許文献16参照)
(4)後天性慢性進行性腎不全モデル
本来ヒトの糸球体腎炎は後天的な疾患である。中でも特に臨床的に問題となるのは進行性に憎悪する腎炎である。進行性腎障害により毎年20,000人以上が透析導入に至っている。したがって、進行性腎障害の病態生理の研究、治療法の開発のために、腎炎から腎不全に至るモデル動物の提供が望まれている。
柴田腎炎:糸球体基底膜に微量含まれている糖化蛋白であるnephritogenosideを腎炎惹起物質として投与する(非特許文献17参照)。
抗メサンギウム抗体腎炎(抗Thy1.1.抗体頻回投与):ラットに抗Thy1.1.抗体を経静脈投与するとメサンギウム増殖腎炎を生じる。しかし、この症状は約4週間で自然治癒し、進行性に憎悪するヒトの腎炎とは異なる。そこで、抗Thy1.1.抗体を頻回に投与することで腎炎を遷延させ、進行性腎障害をきたすモデルが作製されている(非特許文献18参照)。
他に、薬剤性慢性腎不全モデルとして、アドリアマイシン(非特許文献19参照)、ピュロマイシン(非特許文献20参照)、ダウノマイシン(非特許文献21参照)などの薬剤投与腎不全モデルが知られている。
部分腎摘モデル:慢性腎不全においては、腎障害を進行させる要因として、機能ネフロン数の減少が重要と考えられている。この観点から、その病態モデルとしては腎摘除を施した動物を用いることが多い。例えば、3/4、5/6、7/8腎摘出ラットが知られている(非特許文献22および23参照)。病態モデル動物の腎障害は、術後徐々に進行して蛋白尿を生じ、糸球体濾過値(GFR)は進行性に低下し、尿毒症に発展する。
以上のような病態モデルが腎不全モデル動物として知られている。腎摘出により作製されるモデル動物は、作製に煩雑な専門的手技が要求され、人為的な個体差も生じやすい(非特許文献24参照)。5/6や7/8腎摘のような高度腎摘除モデルは、腎動脈分枝の未発達な若齢でもモデルを作製できる利点がある反面、切り方により腎皮質の残存率が異なる場合が存在し、実験結果のばらつきの原因となる。また、手術の影響を避けるためには、術後1〜2週間程度の安静期を設ける必要がある。
一方、薬剤投与による腎不全モデル動物は、外科的モデルに比べて糸球体硬化の発現頻度は低く、長期間の試験期間を必要とする。例えば、アドリアマイシンモデルにおいては、糸球体硬化の発生が認められるのは16週経過後で、広範囲に確認できるのは24週以降である(非特許文献25参照)。また、発症率も6匹中1匹であった(非特許文献19参照)。さらに薬剤による腎不全モデルでは、過剰投与(over dose)による多臓器不全を生じる可能性がある。したがって薬剤の投与による腎不全モデルは、再現性よく高度の病変を高頻度に発生させることが困難である。
また、遺伝子操作による腎不全モデル動物の場合、発症時期が遅く、発現率も低い。雄SV40マウスの19週齢における発現率は20%に過ぎず、雌マウスはさらに低い(非特許文献10参照)。Fawn-Hoodedラットも発現率は低く、病態も軽い(非特許文献11参照)。BUFラットも同様に病態の進行は緩やかである(非特許文献12参照)。
一方、慢性腎不全の原因の一つである糖尿病についても、疾患モデル動物の作製が試みられている。糖尿病モデル動物は腎不全モデルと同様に薬物投与や自然発症の他、外因性のものが知られている。糖尿病の自然発症モデル動物としては、次のような報告がある。
WBN/Kobラット(非特許文献26参照)、
BBラット(非特許文献27参照)、
LETLラット(非特許文献28参照)、
NOD/Shi Jicマウス(非特許文献29参照)等
しかし、自然発症モデル動物には、次のような問題点がある。
発症率が低い場合が多い
均一な病態を有する動物を得ることが難しい
実験に供するまでに長期間が必要
例えば、WBN/Kobラットの発症は9ヶ月齢前後であり、BBラットの発症は9週齢以降で、発症率は40〜80%である。また、LETLラットの発症率は約30%に過ぎず、NOD/Shi Jicマウスにおいては、雌個体の発症率は70〜80%と比較的高いものの、雄の発症率は20〜30%に止まり、性差が認められる。また、発症時期も雌90日齢、雄150日齢と遅い。
またアロキサン(ALX:非特許文献30参照)やストレプトゾトシン(STZ:非特許文献31参照)の投与によって糖尿病モデル動物を得られることが知られている。しかし、薬剤の使用量や使用時期によって糖尿病の発症機序が異なるという問題点がある。
以上のように、適切な腎不全病態モデル動物は知られていない。その結果、腎機能改善作用についての薬物評価法も確立していない。従って、慢性腎不全を治療するための薬剤を開発する途は閉ざされているのが現状である。
一方、人口の高齢化とともに、神経変性疾患の増加が大きな社会問題となっている。このような疾患は、成人における発症、慢性進行性経緯、明瞭な臨床表現型、ニューロンのサブセットに関与する特異的細胞異常、および最終的に致命的な結果を特徴とするものとして定義されている(非特許文献32)。神経変性疾患の例として、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン舞踏病などが挙げられる。このような神経変性疾患では完全な治癒を期待することはできず、治療は専ら疾患の管理に限定せざるを得ない。病態の解明と治療薬の開発には疾患モデル動物が必須である。種々の神経変性疾患について以下のようなモデル動物が樹立されている。
遺伝子導入によるアルツハイマー病(非特許文献33)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(非特許文献34)、ハンチントン舞踏病(非特許文献35)およびプリオン病(非特許文献36)マウス。相同組換えによるテイサックス病およびサンドホフ病(非特許文献37)マウス。代謝経路についての突然変異による小児セロイド脂褐素症モデルマウス(非特許文献38)。
しかし、これらのモデル動物、あるいは神経細胞の物理的破壊や薬物投与により作製されたモデル動物は、いずれも再現性や病理所見の点において満足できるものではなかった。それゆえ、神経変性疾患の研究は困難となっている。したがって、モデル動物の獲得は、神経系の疾患の病態生理学を理解する上で極めて重要である。
特許第2948669号公報(第1頁[特許請求の範囲]) ニヘイ,エイチ(Nihei, H.)ら著,「ジャパニーズ・ハート・ジャーナル(Jpn. Heart J.)」,(日本),1975年,第16巻,p.44-56 ベーラー,アール,ダブリュ(Baehler, R. W.)ら著,「ジャーナル・オブ・ラボラトリー・アンド・クリニカル・メディスン(J. Lab. Clin. Med.)」,(アメリカ),1977年,第90巻,p.330-340 スドウ,エム(Sudo, M.)ら著,「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」,(アメリカ),1977年,第11巻,p.35-43 ホウトン,ディー,シー(Houghton, D. C.)ら著,「アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(Am. J. Pathol.)」,1976年,第82巻,p.589-612 サフィルステイン,アール(Safirstein, R.)ら著,「アメリカン・ジャーナル・オブ・フィジオロジー(Am. J. Physiol.)」,1981年,第241巻,p.F175-F185 オグラ,エイ(Ogura, A.)ら著,「ラボラトリー・アニマルズ(Lab. Anim.)」,(イギリス),1989年,第23巻,p.169-174 タカハシ,エイチ(Takahashi, H.)ら著,「ジャーナル・オブ・ウロロジー(J. Urol.)」,(アメリカ),1986年,第135巻,p.1280-1283 コウレイ,ジェイ,ビー(Cowley, J. B.)ら著,「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」,(アメリカ),1993年,第43巻,p.522-534 リオン,エム(Lyon, M.)ら著,「ジャーナル・オブ・メディカル・ジェネティックス(J. Med. Genet.)」,(イギリス),1971年,第8巻,p.47-48 マッカイ,ケー(Mackay, K.)ら著,「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」,(アメリカ),1990年,第37巻,p.741-748 クライスバーグ,ジェイ,アイ(Kreisberg, J. I.)ら著,「アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(Am. J. Pathol.)」,1978年,第92巻,p.637-652 カワイ,エム(Kawai, M.)ら著,「ネフロン(Nephron)」,(スイス),1990年,第54巻,p.334-337 ベイアー,エイチ(Weiher, H.)ら著,「セル(Cell)」,(アメリカ),1990年,第62巻,p.425-434 ケスター,エム(Kester, M.)ら著,「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)」,(アメリカ),1994年,第269巻,p.22574-22580 イサカ,ワイ(Isaka, Y.)ら著,「ジャーナル・オブ・クリニカル・インヴェスティゲイション(J. Clin. Invest.)」,(アメリカ),1993年,第92巻,p.2597-2601 コップ,ジェイ(Kopp, J.)ら著,「プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.)」,(アメリカ),1992年,第89巻,p.1557-1581 アオツカ,エス(Aotsuka, S.)ら著,「ネフロン(Nephron)」,(スイス),1987年,第47巻,p.95-100 イシザキ,エム(Ishizaki, M.)ら著,「アクタ・パソロジカ・ジャポニカ(Acta pathol. Jpn.)」,(日本),1986年,第36巻,p.1191 オドネル,エム,ピー(O’donnell, M. P.)ら著,「ジャーナル・オブ・ラボラトリー・アンド・クリニカル・メディスン(J. Lab. Clin. Med.)」,(アメリカ),1985年,第106巻,p.62-67 マリニデス,ジー,エヌ(Marinides, G. N.)ら著,「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」,(アメリカ),1990年,第37巻,p.749-757 清水 潔ら著,「日本腎臓学会誌」,(日本),1989年,第31巻,p.345-351 タカハシ,エス(Takahashi, S.)ら著,「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・ネフロロジー(Jpn. J. Nephrol.)」,(日本),1991年,第33巻,p.27-31 オームロッド,ディー(Ormrod, D.)ら著,「ネフロン(Nephron)」,(スイス),1980年,第26巻,p.249-254 シマムラ,ティー(Shimamura, T.)ら著,「アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(Am. J. Pathol.)」,(アメリカ),1975年,第79巻,p.95-106 オクダ,エス(Okuda, S.)ら著,「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」,(アメリカ),1986年,第29巻,p.502-510 後藤由夫編,「糖尿病動物第2巻」,(日本:医薬ジャーナル社),1988年,p.182-189 マーリス,エス,ビー(Marliss, S. B.)ら著,「ダイアベトロジア(Diabetologia)」,(ドイツ),1982年,第22巻,p.225 カワノ,ケイ(Kawano, K.)ら著,「ラット・ニューズ・レター(Rat News Letter)」,(日本),1989年,第22巻,p.14-15 マキノ,エス(Makino, S.)ら著,「エクスペリメンタル・アニマルズ(Exp. Anim.)」,(日本),1980年,第29巻,p.1-13 ビヴェリッジ,ジェイ,エム,アール(Beveridge, J. M. R.)ら著,「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・パソロジー(Br. J. Exp. Pathol.)」,(イギリス),1950年,第31巻,p.285 マウアー,エス,エム(Mauer, S. M.)ら著,「ラボラトリー・インヴェスティゲイション(Lab. Invest.)」,(アメリカ),1972年,第25巻,p.488 プライス(Price)ら著,「サイエンス(Science)」,(アメリカ),1998年,第282巻,p.1079-1083 ジョンソン−ウッド(Johnson-Wood)ら著,「プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.)」,(アメリカ),1997年,第94巻,p.1550-1555 ガーニー(Gurney)ら著,「ジャーナル・オブ・ニューロロジー(J. Neurol.)」,(ドイツ),1997年,第244巻,S15-S20 デイビス(Davies)ら著,「セル(Cell)」,(イギリス),1997年,第90巻,p.537 ムーア(Moore)ら著,「モレキュラー・ヒューマン・リプロダクション(Mol. Hum. Reprod.),1997年,第3巻,p.529-544 サンゴ(Sango)ら著,「ネイチャー・ジェネティックス(Nat. Genet.)」,(アメリカ),1996年,第14巻,p.348-352 ヴァンス(Vance)ら著,「バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochim. Biophys. Acta)」,(オランダ),1997年,第1344号,p.286-299
本発明の課題は、腎不全あるいは糖尿病のモデルとして有用な疾患モデル動物の提供である。また本発明は、腎不全あるいは糖尿病の治療に有用な化合物のスクリーニング方法の提供を課題とする。
さらに本発明の課題は、神経変性疾患のモデルとして有用な疾患モデル動物の提供である。また本発明は、神経変性疾患の治療に有用な化合物のスクリーニング方法の提供を課題とする。
本発明者らは、メサンギウム細胞に特異的に発現する遺伝子としてメグシンを単離した(国際公開番号WO99/15652号公報([発明の開示]))。そして、メグシンを導入したトランスジェニックマウスが、メサンギウム増殖性糸球体腎炎のモデル動物として有用であることを明らかにした。すなわち、約35〜40週齢を迎えたメグシントランスジェニックマウスの腎糸球体組織では、メサンギウム細胞を主体とする著明な細胞増殖、メサンギウム基質の増生、並びに補体、免疫グロブリンから成る免疫複合体の沈着が認められ、分節性の硬化(segmental sclerosis)が観察される。このトランスジェニックマウスは、メサンギウム増殖性の病理所見を示す点でメサンギウム増殖性糸球体腎炎のモデル動物として有用である。しかしメグシントランスジェニックマウスには、尿蛋白等の所見は認められず、腎機能は正常であった。また、メサンギウム増殖性腎炎の発症まで35〜40週齢という長期間を要する(国際公開番号WO01/24628号公報([発明の開示]、図4、5、6、7、8、9、10)、ミヤタ,ティー(Miyata, T.)ら著,「ジャーナル・オブ・クリニカル・インヴェスティゲイション(J. Clin. Invest.)」,(アメリカ),2002年,第109巻,p.585-593参照)。
糸球体におけるメグシンの強制発現が、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の原因となることが本発明者らによって既に明らかにされた。この知見に基づいて本発明者らは、メグシンによる腎機能障害の発症機序について更に研究を進めた。そしてある種の動物では、腎臓におけるメグシン遺伝子の発現増強によって、早期に血中クレアチニン値の上昇、蛋白尿、あるいは高血糖が観察されることを見出した。更にこれらの症状を示す動物が、腎不全や糖尿病の疾患モデル動物として有用であることを見出して本発明を完成した。本発明の疾患モデル動物は、腎不全の病態を呈する他に、若齢で高頻度に糖尿病を発症することから、糖尿病モデル動物としても有用である。
さらに、本発明の疾患モデル動物は、神経組織においてメグシンを発現させた場合、若齢で高頻度に進行性の行動障害を発症することから、神経変性疾患モデル動物としても有用である。そして神経組織においてメグシンを発現した動物が、神経変性疾患の治療薬のスクリーニングに用いうることを確認して本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の疾患モデル動物、およびその作製方法、並びに用途に関する。
〔1〕次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物。
(a)メグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)次の表現型a)-e)から選択される少なくとも1つの表現型を呈する
a)血中クレアチニン値の上昇
b)高血糖症状
c)発育不全、
d)蛋白尿、および
e)神経変性
〔2〕腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強しており、血中クレアチニン値の上昇および蛋白尿を呈する〔1〕に記載の疾患モデル動物。
〔3〕膵臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強しており、高血糖症状を呈する〔1〕に記載の疾患モデル動物。
〔4〕神経組織におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強しており、神経変性を呈する〔1〕に記載の疾患モデル動物。
〔5〕腎臓、膵臓、および神経組織におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強しており、表現型a)-e)の全てを呈する〔1〕に記載の疾患モデル動物。
〔6〕メグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子が、ヒト・メグシンである〔1〕に記載の疾患モデル動物。
〔7〕ヒト・メグシン遺伝子を導入されたトランスジェニック動物である〔6〕に記載の疾患モデル動物。
〔8〕動物がラットである〔1〕に記載の疾患モデル動物。
〔9〕以下の工程を含む、次の表現型a)-e)から選択されるいずれかの表現型を呈する疾患モデル動物の製造方法。
a)血中クレアチニン値の上昇
b)高血糖症状
c)発育不全、
d)蛋白尿、および
e)神経変性
(a)ラットの受精卵にヒトメグシン、またはメグシンと機能的に同等な組換え遺伝子を導入する工程
(b)工程(a)の受精卵から発生した個体のうち導入した外来性遺伝子を保持した個体を選択する工程
〔10〕更に次の工程(c)および(d)を含む〔9〕に記載の疾患モデル動物の製造方法。
(c)工程(b)で選択した個体と、前記外来性遺伝子を保持していないラットを交配させて外来性遺伝子をヘテロで保有するF1ラットを得る工程
(d)工程(c)で得たF1ラット同士を交配させて外来性遺伝子をホモで保有するF2ラットを得る工程
〔11〕次の工程を含む、被験化合物の血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害に対する治療効果を評価する方法。
(1)次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物に被験化合物を投与する工程、および
(a)腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)血中クレアチニン値の上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を呈する
(2)被験化合物を投与した疾患モデル動物の血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害を緩和する作用を検出する工程
〔12〕次の工程を含む、血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害に対する治療効果を有する化合物のスクリーニング方法。
(1)〔11〕に記載の方法によって被験化合物の血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害に対する治療効果を評価する工程
(2)対照と比較して、血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害に対する治療効果の高い被験化合物を選択する工程
〔13〕〔12〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を主成分として含む、血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害の治療、および/または予防用医薬組成物。
〔14〕次の工程を含む、被験化合物の高血糖に対する治療効果を評価する方法。
(1)次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物に被験化合物を投与する工程、および
(a)膵臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)高血糖症状を呈する
(2)被験化合物を投与した疾患モデル動物の高血糖を緩和する作用を検出する工程
〔15〕次の工程を含む、高血糖に対する治療効果を有する化合物のスクリーニング方法。
(1)〔14〕に記載の方法によって被験化合物の高血糖に対する治療効果を評価する工程
(2)対照と比較して、高血糖に対する治療効果の高い被験化合物を選択する工程
〔16〕〔15〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を主成分として含む、高血糖の治療、および/または予防用医薬組成物。
〔17〕次の工程を含む、被験化合物の神経変性疾患に対する治療効果を評価する方法。
(1)次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物に被験化合物を投与する工程、および
(a)神経組織におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)神経変性症状を呈する
(2)被験化合物を投与した疾患モデル動物の神経変性症状を緩和する作用を検出する工程
〔18〕次の工程を含む、神経変性疾患に対する治療効果を有する化合物のスクリーニング方法。
(1)〔17〕に記載の方法によって被験化合物の神経変性疾患に対する治療効果を評価する工程
(2)対照と比較して、神経変性疾患に対する治療効果の高い被験化合物を選択する工程
〔19〕〔18〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を主成分として含む、神経変性疾患の治療、および/または予防用医薬組成物。
本発明の疾患モデル動物は、トランスジェニック動物を利用して作製することができる。トランスジェニック動物は、均一性の高いモデル動物を容易に、しかも多量に供給できることから、精度の高い実験を可能とするものである。しかも、本発明の疾患モデル動物には、糸球体上皮細胞、尿細管に障害を認め、尿蛋白を呈し、典型的な腎不全の所見が認められた。また、神経変性疾患の所見も観察された。このように実際の病態に忠実なモデル動物が提供された意義は、非常に大きい。
本発明において、腎臓におけるメグシン類の発現を増強した動物は、たとえばメサンギウム細胞において当該遺伝子を導入し強制発現することによって得ることができる。その他、その動物の内因性(endogenous)のメグシン遺伝子のプロモーターに作用して、メグシン遺伝子の発現を促進する化合物の投与によって、メグシン遺伝子の発現を増強することもできる。メグシン遺伝子のプロモーターや、このプロモーターに作用する薬剤の取得方法は公知である(国際公開番号WO00/43528号公報([発明の開示]))。
腎臓においてメグシンの発現を増強した動物は、公知のトランスジェニック動物の作製方法によって得ることができる(例えば、勝木元也編,「発生工学実験マニュアル」,(日本:講談社),1989年、日本生化学会編,「新 生化学実験講座・動物実験法」(日本:東京化学同人),1991年参照)。以下に、一般的なトランスジェニック動物の作製プロトコールに従って述べる。
ヒト・メグシンは、配列番号:1に示す塩基配列を持つDNAによってコードされる蛋白質である。その推定アミノ酸配列を、配列番号:2に示す。本発明においては、トランスジェニック動物として、ヒト・メグシンのみならず、ヒト・メグシンと機能的に同等な機能を有する蛋白質をコードするDNAを導入した動物を用いることができる。本発明において機能的に同等とは、ある種の動物の腎臓における発現を増強したときに、当該動物に腎不全をもたらす作用を有していることを言う。本発明において、腎不全を呈する動物は、メグシン類の腎臓における発現の増強によって目的とする症状を発現する動物であれば制限されない。本発明における望ましい動物は、ラットである。
このような蛋白質としては、たとえば他の種におけるメグシンのホモログを示すことができる。メグシンのホモログには、たとえばラット・メグシン、そしてマウス・メグシンの構造が本発明者によって明らかにされている(国際公開番号WO99/15652号公報参照)。ラットメグシンの塩基配列、並びにアミノ酸配列を配列番号:3、および配列番号:4に、そしてマウス・メグシンの塩基配列、並びにアミノ酸配列を配列番号:5、および配列番号:6に示す。
また、一般に、真核生物の遺伝子はヒトインターフェロン遺伝子で知られているように多形現象を示すことが多い。この多形現象によって、アミノ酸配列に1個あるいはそれ以上のアミノ酸の置換を生じても、通常蛋白質の活性は維持される。また一般に、1個または数個のアミノ酸の改変では、蛋白質の活性は維持される場合が多いことが知られている。従って、配列番号:2、配列番号:4、および配列番号:6のいずれかに示されるアミノ酸配列を人工的に改変したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子は、該蛋白質が腎機能あるいは神経機能に障害をもたらす限り、すべて本発明に利用することができる。
蛋白質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、その機能が保持される限り制限されない。変異数は、一般に30%以内、または20%以内、たとえば10%以内である。より好ましい変異数は、全アミノ酸の5%以内、または3%以内である。特に好ましい変異数としては、全アミノ酸の2%以内、あるいは全アミノ酸の1%以内を示すことができる。本発明の機能的に同等な蛋白質には、複数のアミノ酸として数個のアミノ酸の変異を置換する場合が含まれる。数個とは、たとえば5、更には4または3、あるいは2、更には1のアミノ酸を言う。
蛋白質の機能を維持するために、置換されるアミノ酸は、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、以下に示すような各グループに属するアミノ酸は、そのグループ内で互いに似た性質を有するアミノ酸である。これらのアミノ酸をグループ内の他のアミノ酸に置換しても、蛋白質の本質的な機能は損なわれないことが多い。このようなアミノ酸の置換は、保存的置換と呼ばれ、蛋白質の機能を保持しつつアミノ酸配列を変換するための手法として公知である。
非極性アミノ酸:Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、およびTrp
非荷電性アミノ酸:Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、およびGln
酸性アミノ酸:Asp、およびGlu
塩基性アミノ酸:Lys、Arg、およびHis
以下、ヒト、ラット、あるいはマウスに由来するメグシンと、その機能的に同等な機能を有する蛋白質を総称してメグシン類と記載する。なおメグシン類としてマウスに由来するメグシンをコードするDNAをラットに導入する場合であっても、人為的に導入したラットに由来するDNAは外来性のDNAである。しかしながら、このトランスジェニック動物を血中クレアチニンの上昇または高血糖を伴う腎機能障害の疾患モデル動物として、ヒトにおける治療剤に有用な化合物のスクリーニングを行うには、ヒト・メグシンのDNAを用いるのが有利である。トランスジェニック動物の体内でヒト・メグシンに対する影響を、より忠実に反映できる可能性が期待できるためである。
また、アミノ酸に対するコドンはそれ自体公知であり、その選択は任意である。例えば利用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、常法に従いコドンを決定できる(グランタム,アール(Grantham, R.)ら著,「ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res.)」,(イギリス),1981年,第9巻,p.r43参照)。従って、コドンの縮重を考慮して、塩基配列を適宜改変したDNAもまた本発明のDNAに含まれる。DNAの塩基配列は、常法に従い、所望の改変をコードする合成オリゴヌクレオチドからなるプライマーを利用した部位特異的変位導入法(sitespecific mutagenesis)によって改変することができる(マーク,ディー,エフ(Mark, D.F.)ら著,「プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.)」,(アメリカ),1984年,第81巻,p.5662参照)。
更に、配列番号:1、配列番号:3、および配列番号:5のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAとハイブリダイズすることができ、かつそのDNAによってコードされる蛋白質が腎機能の障害をもたらす限り、そのDNAは本発明によるDNAに含まれる。ストリンジェントな条件下で特定配列にハイブリダイズすることができる配列は、特定配列がコードする蛋白質と類似した活性を持つものが多いと考えられる。ストリンジェントな条件とは、洗浄のための条件として通常「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度、さらに厳しい条件として「0.1xSSC、0.1% SDS、55℃」程度を示すことができる。加えて、本発明におけるメグシン類をコードするDNAは、トランスジェニック動物の腎機能に障害をもたらす限り、その断片を利用することもできる。
本発明においてトランスジェニック動物の作製に用いられるメグシン類をコードするDNAは、本明細書に開示した塩基配列に基づいて公知の方法により得ることができる。たとえば、メサンギウム細胞のcDNAライブラリーを配列番号:1、配列番号:3、あるいは配列番号:5に示した塩基配列からなるDNAをプローブとしてスクリーニングすることにより、メグシン類をコードするcDNAの単離が可能である。またこのcDNAライブラリーを鋳型として、配列番号:1、配列番号:3、あるいは配列番号:5に示した塩基配列に基づいて設定したプライマーを用いてPCRを行うことによって、メグシン類をコードするDNAを増幅することができる。増幅生成物は、公知の方法に基づいてクローニングする。
メグシン類をコードするDNAは、この遺伝子を導入すべき動物の細胞において発現可能なプロモーターに連結した組み換え遺伝子コンストラクトとするのが有利である。本発明の組み換え遺伝子コンストラクトは、適当な宿主を利用してクローニング可能なベクターに、前記メグシン類をコードするDNAと、その上流にプロモーターとを挿入し、クローニングすることによって構築することができる。本発明に利用することができるプロモーターとしては、マウスやラットなど、幅広い脊椎動物で外来遺伝子の発現を誘導できるニワトリβアクチン・プロモーターを示すことができる。
また、外来遺伝子の発現を増強するために、エンハンサーを組み合わせることができる。たとえば、CMVに由来するエンハンサーは、哺乳動物における外来遺伝子の発現を増強することが知られている。
これらの遺伝子から構成される組み換え遺伝子コンストラクトの構築にあたり、エンハンサーとプロモーターを備え、更にその下流に外来遺伝子挿入用のマルチクローニングサイトを配置したベクターを用いることができる。このような構造を持つベクターは、例えばpCAGGS等をもとに実施例に示すような方法によって構築することができる(例えば、ニワ,エイチ(Niwa, H.)ら著,「ジーン(Gene)」,(アメリカ),1991年,第108巻,p.193-200参照)。このベクターは、マルチクローニングサイトの下流にウサギβグロビン・ターミネーターが配置されており、挿入された外来遺伝子の発現効率の向上に貢献する。
適当な制限酵素によって前記ベクターから切り出した組み換え遺伝子コンストラクトは、十分に精製されトランスジェニック動物の作製に用いられる。トランスジェニック動物は、未受精卵、受精卵、精子およびその始原細胞を含む胚芽細胞などに、前記コンストラクトを導入することによって作製される。コンストラクトを導入する細胞としては、非ヒト哺乳動物の発生における胚発生の段階、より具体的には単細胞あるいは受精卵細胞の段階で、通常8細胞期以前のものが利用される。コンストラクトの導入方法としては、リン酸カルシウム法、電気パルス法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法等が公知である。さらに、こうして得られた形質転換細胞を上述の胚芽細胞と融合させることによりトランスジェニック動物を作製することもできる。
コンストラクトを導入する細胞は、トランスジェニック動物の作製が可能なあらゆる非ヒト脊椎動物に由来する細胞であることができる。具体的には、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、イヌ、あるいはネコ等の細胞を利用することができる。たとえばラットにおいては、排卵誘発剤を投与したメスのラットに正常なオスのラットを交配させることにより、コンストラクトの導入が可能な受精卵を回収することができる。ラット受精卵では、一般に雄性前核へのマイクロインジェクションによりコンストラクトが導入される。コンストラクトを導入した細胞は、体外での一晩程度の培養の後、導入に成功したと思われるものが代理母の卵管に移植され、トランスジェニックキメラ動物が誕生する。代理母には、精管を切断したオスと交配させて偽妊娠状態としたメスが利用される。
生まれたトランスジェニックキメラ動物は、その体細胞の遺伝子を解析することによって、ゲノムに外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)が組み込まれていることを確認した上で、F1動物の誕生のために正常な動物と交配させる。このとき、望ましくは、より多くのコピー数を持つ個体を選択するようにする。一般にコンストラクトとして導入した外来性のDNAは、ゲノムの同一の部分に複数コピーが直列に組み込まれる。通常はこの組み込みコピー数が多いほど、多量の遺伝子発現につながり、より明瞭な発現型が期待できるためである。体細胞ゲノムにおいて、外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)が正しい方向で組み込まれていることは、コンストラクトに特異的なプライマーを用いたPCRによって確認することができる。また、ドットブロット法によって、コピー数の相対的な比較が可能である。
この交配の結果誕生するF1動物の中で、体細胞に外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)を備えるものは、ヘテロザイゴート(heterozygote)ながら生殖細胞に外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)を伝えることができるトランスジェニック動物である。したがって、F1動物の中から体細胞に外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)を保持するものを選び、これらを両親とするF2動物を誕生させることができれば、外来遺伝子(メグシン類をコードするDNA)をホモで保持するホモザイゴート動物(homozygote animal)がF2動物として得られる。
本発明の血中クレアチニンの上昇、および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害モデル動物には、腎臓で外来性のメグシン類のDNAを発現するものである限り、これらトランスジェニック動物のいずれの世代であっても、利用することができる。たとえば、メグシン類のDNAをヘテロで保持するトランスジェニック動物であっても、この外来性のメグシン類が腎臓で発現すれば、血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害モデル動物として有用である。すなわち本発明は、腎臓において外来性のメグシン類のDNAを発現させる工程を含む、血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害モデル動物の製造方法を提供する。
また本発明の高血糖モデル動物には、膵臓で外来性のメグシン類のDNAを発現するものである限り、これらトランスジェニック動物のいずれの世代であっても、利用することができる。たとえば、メグシン類のDNAをヘテロで保持するトランスジェニック動物であっても、この外来性のメグシン類が膵臓で発現すれば、高血糖症状を呈する疾患モデル動物として有用である。すなわち本発明は、膵臓において外来性のメグシン類のDNAを発現させる工程を含む、高血糖症状を呈するモデル動物の製造方法を提供する。
なお本発明においては、外来性のメグシン類のDNAを、少なくとも腎臓または膵臓で発現させることができれば、本発明の血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害モデル動物、あるいは高血糖を伴う疾患モデル動物とすることができる。したがって、外来性のメグシン類のDNAを、必ずしも腎特異的あるいは膵特異的に発現させなくてもよい。
トランスジェニック動物が腎機能に障害を有することは、糸球体に異常を有しない状態にある動物に、糸球体の損傷を与え、対照と比較することによって確認することができる。対照には、腎機能に障害を持たないことが明らかな動物を用いる。たとえば、野生型のラットは、対照として好ましい。
一般に、腎機能の損傷は、腎機能のマーカーを測定することにより知ることができる。たとえば、血清クレアチニン値、あるいは尿中のアルブミン等の一般的な腎機能マーカーが利用できる。これらの腎機能マーカーの測定方法は公知である。この他、糸球体組織の形態学的な変化を、損傷の指標とすることもできる。たとえば、腎臓組織のPAS染色により、メサンギウム細胞数やメサンギウム基質の面積を観察し、増殖性糸球体腎炎の程度をスコア−化することができる。
本発明の疾患モデル動物は、腎臓および膵臓におけるメグシン類の発現が増強していることに加え、血中クレアチニン値の上昇、蛋白尿および高血糖症状を呈することを特徴とする。このような特徴を有する疾患モデル動物は、腎不全や糖尿病のモデル動物として有用である。すなわち本発明は、腎臓および膵臓におけるメグシン類の発現を増強する工程を含む、腎不全、あるいは糖尿病のモデル動物の製造方法を提供する。
血中クレアチニン値の上昇とは、血中におけるクレアチニンの値がその動物の正常なクレアチニン値よりも有意に高まることを言う。たとえば正常なラットの血中クレアチニンは、0.2〜0.3mg/dLである。したがって、この範囲を越える血中クレアチニン濃度を示すラットは、血中クレアチニン値の上昇を呈している。
正常な動物においては、血中のクレアチニンは腎糸球体によってろ過され尿中に排泄される。そのため、正常な動物の血中クレアチニンの値は、常に一定の範囲に調節されている。糸球体の機能の低下に伴い、クレアチニンは血中に蓄積されるようになり、その結果、血中クレアチニン値は上昇する。クレアチニンは腎機能マーカーとしてさまざまな方法によって測定されている。
具体的には、クレアチニンデアミナーゼまたはクレアチニンアミドヒドラーゼなどの酵素を利用した酵素的な測定方法は、現在血中のクレアチニンの測定方法として広く利用されている。酵素的な反応の利用により、クレアチニンを特異的に測定することができる。またヤッフェ反応を利用した化学的な測定方法も公知である。ヤッフェ法は、クレアチニンがアルカリ溶液中でピクリン酸と反応して橙赤色の色素化合物となる現象を利用している。
本発明の疾患モデル動物は、高血糖によっても特徴付けることができる。ある動物が高血糖であることは、血糖値が正常範囲を越えていることによって証明される。血糖値は、空腹時と食後では大きく変動するため、通常は空腹時と食後のそれぞれについて正常値が設定されている。ラットの場合には、空腹時の血糖値は99〜180mg/dLが正常値とされている。したがって、空腹時の血糖値がこの範囲を越える個体は、高血糖を有すると判断される。
高血糖は、血中蛋白質の糖化のレベルを測定することによって推測できることも知られている。たとえば血中の糖化アルブミンや糖化ヘモグロビンは、より長期にわたる血中の血糖レベルを反映するマーカーとして知られている。すなわち、血糖値が食事によって大きく変動するのに対して、これらのマーカーは、より長期間の血糖値の平均的なレベルを反映する。したがって、糖化蛋白質を指標として、動物の高血糖を確認することもできる。
本発明の疾患モデル動物は、血中クレアチニン値の上昇および高血糖に加えて、好ましくは蛋白尿が観察される。蛋白尿とは、尿中の蛋白質レベルが当該動物の正常値を越えて排泄される症状を言う。尿中の蛋白質を測定する方法は公知である。たとえば、蛋白誤差法や色素結合法などの生化学的な手法は、尿蛋白質の判定量的な測定方法として広く普及している。これらのこれらの測定原理に基づく尿試験紙が市販されている。また、より高感度かつ特異的な尿蛋白質の測定方法として免疫学的な原理に基づく測定方法が実用化されている。免疫学的な測定方法においては、たとえば血清アルブミンに対する抗体によって、尿中に排泄されたアルブミンが検出される。
通常、尿中に排泄される蛋白質は微量である。たとえば、正常なラットの尿中蛋白質レベルは、0〜40mg/dLとされている。したがって、ラットにおいては、尿中蛋白質がこの値を超えて恒常的に排泄されるときに蛋白尿であると判定される。本発明において、尿中に排泄される蛋白質の種類は限定されない。通常、尿蛋白質は血中蛋白質の主要蛋白質であるアルブミンやグロブリンで占められる。
また本発明の疾患モデル動物は、好ましくは発育不全を呈する。発育不全とは、正常な個体と比べて、体重の増加、成熟、あるいは器官の形成などにおいて、発育の不全が観察されることを言う。
本発明に基づく疾患モデル動物は、メグシン類の腎臓および膵臓における発現が増強し、かつ血中クレアチニン値の上昇、蛋白尿、および高血糖を呈する。このような特徴を有する疾患モデル動物は、腎不全や糖尿病のモデル動物として有用である。これらの病態は、1型糖尿病の患者と一致する。したがって、本発明の疾患モデル動物は、1型糖尿病のモデルとして有用である。1型糖尿病は、インスリン依存型糖尿病(Insulin dependent diabetic desease;IDDM)とも呼ばれ、膵β細胞の破壊性病変でインスリンの欠乏が生じることによって起こる糖尿病であるが、多くの場合、膵ランゲルハンス島に対する自己免疫反応による、インスリンの分泌の障害が関与していることが示されている。
本発明において腎不全とは、腎臓の排泄機能が低下し、血中クレアチニン値が正常以上に上昇し、蛋白尿が見られる状態をいう。腎不全の原因は腎前性、腎性、腎後性の三種類がある。腎前性は腎臓の血流低下による腎不全である。腎性は、糸球体硬化や尿細管障害による腎不全であり、腎後性は、尿は生成されるがその排泄ができなくなり、その結果、圧により糸球体から尿を濾し出すことができなくなることによる腎不全である。本発明においては、成因にかかわりなく、すべての腎不全が包含される。
本発明の疾患モデル動物は腎機能の障害によって腎不全を呈する。腎不全状態をもたらした原因には関わらず、腎不全となった動物は腎不全状態のモデルとして有用である。具体的には、腎不全によって生体にもたらされる様々な障害を観察することができる。また腎不全による障害を緩和するための治療方法も、モデル動物を用いて研究することができる。
本発明のモデル動物は、短期間で高頻度に腎不全状態を再現できることから、腎不全の発生機序、腎不全の予防または治療についての研究に貢献する。具体的には、本発明のモデル動物によって、腎機能の障害機構の解明や、腎不全の治療薬開発のための大規模な薬剤スクリーニングを実現することができる。
本発明の疾患モデル動物を利用して、腎不全や糖尿病の病態である血中クレアチニン値の上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害に対する被験化合物の治療効果を評価することができる。本発明による評価方法は、次の工程を含む、被験化合物の血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害に対する治療効果を評価する方法に関する。
(1)次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物に被験化合物を投与する工程、および
(a)腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)血中クレアチニン値の上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を呈する
(2)被験化合物を投与した疾患モデル動物の血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害を緩和する作用を検出する工程
また本発明の腎不全モデル動物を利用して、血中クレアチニン値の上昇や蛋白尿を伴う腎機能障害のための治療用化合物のスクリーニングを実施することができる。本発明のスクリーニング方法は、前記評価方法によって被験化合物の血中クレアチニン値の上昇や蛋白尿を伴う腎機能障害を修復する活性を測定し、被験化合物を投与しない対照と比較して、前記活性が大きい化合物を選択することによって実施することができる。
本発明の評価方法、あるいはスクリーニング方法において、腎機能障害の回復の程度は、腎機能マーカーを指標として評価することができる。たとえば次のような腎機能マーカーが知られている。これらの腎機能マーカーを測定するための方法も公知である。
血中のクレアチニン値
血中の尿素窒素
尿中ヘモグロビン
尿中アルブミン
尿中β2−マイクログロブリン
尿中α1−酸性糖蛋白
加えて本発明のモデル動物は、高血糖が観察されることから、高血糖の発生機序、糖尿病の予防または治療についての研究に貢献する。具体的には、本発明のモデル動物によって、高血糖症状や糖尿病の治療薬開発のための薬剤スクリーニングを実現することができる。
本発明の疾患モデル動物を利用して、糖尿病の病態である高血糖症状に対する被験化合物の治療効果を評価することができる。本発明による評価方法は、次の工程を含む、被験化合物の高血糖症状に対する治療効果を評価する方法に関する。
(1)次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物に被験化合物を投与する工程、および
(a)膵臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)高血糖症状を呈する
(2)被験化合物を投与した疾患モデル動物の高血糖を緩和する作用を検出する工程
また本発明の高血糖症状を呈する疾患モデル動物を利用して、高血糖症状のための治療用化合物のスクリーニングを実施することができる。本発明のスクリーニング方法は、前記評価方法によって被験化合物の高血糖症状を改善する活性を測定し、被験化合物を投与しない対照と比較して、前記活性が大きい化合物を選択することによって実施することができる。
また本発明の評価方法、あるいはスクリーニング方法において、糖尿病の治療効果の程度は、糖尿病マーカーを指標として評価することができる。より具体的には、血糖値や尿糖のレベルなどを指標として、糖尿病に対する治療効果を知ることができる。さらに糖尿病症状に対する治療効果を知るための指標としては、ヘモグロビンHc1、糖化アルブミン、フルクトサミン、尿ケトン体などが挙げられる。これらの診断指標の経時的変化を観察することによって、糖尿病に対する治療効果を評価することができる。
したがって、被験化合物を投与する前後で、これらの指標の観察結果を比較することにより、被験化合物の治療薬としての有効性を評価することができる。あるいは、同系のトランスジェニック動物を用いれば、動物の間でこれらの指標の観察結果を比較することによって、被験化合物間の有効性を比較することもできる。
また本発明は、神経組織におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強しており、神経変性を呈する疾患モデル動物に関する。あるいは本発明は、神経組織におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現を増強させる工程を含む、神経変性を呈する疾患モデル動物の製造方法を提供する。本発明におけるメグシンと機能的に同等な遺伝子には、ある種の動物の神経組織における発現を増強したときに、当該動物に神経変性をもたらす作用を有していることを言う。メグシンと機能的に同等な蛋白質としては、先に例示したとおりの構造を有する蛋白質を示すことができる。本発明において、神経変性を呈する動物は、メグシン類の神経組織における発現の増強によって目的とする症状を発現する動物であれば制限されない。本発明における望ましい動物は、ラットである。本発明の疾患モデル動物は、神経変性症状を呈する。すなわち、本発明の疾患モデル動物は、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病などの神経変性疾患を特徴付ける1つまたはそれ以上の表現型特徴を示し、該特徴には、全身的協調の進行的退化、歩行運動の進行的退化などの運動能力障害、および認識能力障害、食欲減退などが含まれる。
本発明の疾患モデル動物の使用により、神経変性疾患の治療用化合物のスクリーニングアッセイを実施することができる。すなわち本発明は、次の工程を含む、被験化合物の神経変性疾患に対する治療効果を評価する方法に関する。
(1)次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物に被験化合物を投与する工程、および
(a)神経組織におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
(b)神経変性症状を呈する
(2)被験化合物を投与した疾患モデル動物の神経変性を緩和する作用を検出する工程
本発明の評価方法に基づいて、神経変性疾患の治療用化合物のスクリーニング方法を実施することができる。すなわち本発明は、次の工程を含む、神経変性疾患の治療用化合物のスクリーニング方法を提供する。
(1)前記評価方法によって被験化合物の神経変性疾患に対する治療効果を評価する工程
(2)対照と比較して、神経変性疾患に対する治療効果の高い被験化合物を選択する工程
被験化合物が、神経変性疾患を特徴付ける食欲不振、運動協調欠失などの少なくとも1つのパラメータまたは症状を調節するか、またはそれに対する効果を有する場合に、神経変性疾患に関する活性を有すると判断される。本発明において神経変性疾患に関する活性とは、神経変性疾患の症状の程度を減少または増強することをいう。従って、本発明のスクリーニング法を使用すれば、例えば、神経変性疾患の進行に関与するタンパク質またはペプチドに結合してその活性を調節、増強または抑制することにより、神経変性疾患の進行を調節する化合物、および/または、疾患の表現型症状を寛解、軽減またはさらには除去する化合物を同定することができる。さらに、本発明のスクリーニング法は、神経変性状態に対する効果の欠如している薬物を決定するためのスクリーニングとしても実施することができる。
本発明のスクリーニングに用いる被験化合物としては、例えば、天然または合成化合物、各種有機化合物、天然または合成された糖類、蛋白質、ペプチド、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、あるいは菌体成分などを挙げることができる。この他、メグシン類の発現を制御するアンチセンス核酸や、メグシン類の活性抑制が期待される抗メグシン類抗体を被験化合物とすることもできる。これらの被験化合物は、本発明の疾患モデル動物に、経口的に、あるいは非経口的に投与される。
被験化合物は、血中クレアチニン値の上昇、あるいは蛋白尿を伴う腎機能障害の発症前および/または発症後に疾患モデル動物に投与することができる。高血糖症状においても同様に、表現形が観察される前および/または後に疾患モデル動物に投与することができる。しかし、各疾患に対してより特異的に作用する化合物を見出すためには、これらの症状を呈した後に被験化合物を投与するのが好ましい。被験化合物の投与のタイミングを変えて、腎機能障害あるいは高血糖に対する作用を比較することにより、より効果的な投与時期を明らかにすることもできる。
神経変性疾患の治療効果を評価する場合にも、本発明の疾患モデル動物が神経変性症状を発症する前または後に、被験化合物を投与することができる。投与のタイミングを変えて、効果的な投与時期を検討することができることも同様である。
本発明のスクリーニング方法によって選択された被験化合物は、更に安全性や安定性などを試験したうえで、血中クレアチニン値の上昇あるいは蛋白尿を伴う腎機能障害の修復のための治療用医薬組成物の有効成分とすることができる。また本発明のスクリーニング方法によって得ることができる化合物は、高血糖症状の治療、および/または予防用医薬組成物の有効成分とすることができる。あるいは本発明のスクリーニング方法によって得ることができる化合物は、神経変性疾患の治療、および/または予防用医薬組成物の有効成分とすることができる。
本発明の医薬組成物は、公知の製剤学的製造法により製剤化して投与することができる。また有効成分である化合物自体を直接投与することもできる。製剤化する場合は、例えば、薬剤として一般的に用いられる媒体または担体と適宜組み合わせて投与することができる。
また、該化合物がDNAによりコードされうるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組み込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、鼻腔内投与、気管支内投与、筋肉内投与、皮下投与、経口投与、患部への直接投与などの方法で行うことができる。投与量は、患者の体重、年齢、健康度、あるいは投与方法などの条件によって変動するが、当業者であれば適宜適当な投与量を選択することができる。
すなわち、たとえば本発明の疾患モデル動物において、腎機能障害に対する治療効果を、様々な投与量の間で比較することにより有効濃度が決定される。そして、上記のような各投与ルートによって、腎における投与化合物の濃度がその有効濃度に達するような投与量を経験的に決定する。一般的な投与形態においては、有効成分が全身に分布するものとして、体重1kg当たりの投与量を決定する。実験動物における薬物動態の解析結果に基づいて腎移行性が高いと考えられる化合物であれば、投与量をより低く設定することができる。
本発明の医薬組成物は、決定された投与量と投与形態とを考慮して、媒体や担体と配合される。必要な投与量を達成することができるように有効成分を配合することは、当業者が通常行っている。本発明による医薬組成物の投与量は、体重1kgあたり通常1μgから20g、より一般的には10μg〜500mgとすることができる。また、注射剤の場合は経口投与の10分の1〜100分の1程度を投与量の目安とすることができる。さらに特殊な製剤設計を施すことにより、投与量を調整することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、適当な担体に保持することによって徐放化製剤とすることもできるが、このような製剤においては、高い血中濃度を維持することができるので、配合量を低く設定することができる。
以下本発明を実施例として更に具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
[実施例1]組み換え遺伝子コンストラクト
CMVのエンハンサーとニワトリβアクチン・プロモーターのハイブリッドであるCAGプロモーターの制御下にヒト・メグシン cDNAを発現する発現ベクターを以下のように構築した。まず、ヒト・メグシンの開始コドンの直前の塩基配列をKozak配列(GCCGCC)に置換するため、センスプライマー(B44F:5'-ATGGATCCGCCGCCATGGCCTCCCTTGCTGCAGCAAATGCAGAG-3'/配列番号:7)およびアンチセンスプライマー(H30-R:5'-TATCCTGAGGCAGTGTTAACATGAAG-3'/配列番号:8)を用いて、ヒト・メグシン cDNAを含むプラスミド(pUC-MEGSIN)(特許文献2参照)を鋳型にPCRを行い、開始コドン直前が Kozak配列に置換されたヒト・メグシン cDNAの5'断片を増幅した。pUC-MEGSINを制限酵素 BamHIおよびHpaIで切断し、メグシンcDNA の開始コドンを含む約180bpの断片を取り除き、PCRで得られた断片を挿入して、Kozak配列に置換されたヒト・メグシン cDNAを持つプラスミドを構築した。
大腸菌JM109に形質転換しクローニングした後、プラスミドを制限酵素 BamHIおよびHindIIIで切断し、得られたメグシン全長を含む1.2kbの断片を精製し、TaKaRa Blunting Kit(宝酒造製)を用いて平滑末端化した。pBsCAG-2(Kawarabayashi T, Shoji M, Sato M, Sasaki A, Ho L, Eckman CB, Prada C-M,Younkin SG, Kobayashi T, Tada N, Matsubara E, Iizuka T, Harigaya Y, Kasai K and Hirai S (1996) Accumulation of β-amyloid fibrils in pancreas of transgenic mice. Neurobiol. Aging 17, 215-222)をEcoRIにより切断して直鎖にした後、同様に末端を平滑化し、アルカリフォスファターゼ(宝酒造)により脱リン酸化処理を行った。このプラスミドに上記の1.2kbの断片をライゲーションして組換えプラスミドを作製し、大腸菌JM109に形質転換しクローニングした。挿入されたヒトMEGSIN cDNAの方向性がchicken beta-actin promoterと同じクローンをシークエンシングにより選抜し、この組換えプラスミドをpBsCAG/Megsinとした(図1B)。なお、pBsCAG-2は、pCAGGS(Niwa H, Yamamura K and Miyazaki J (1991) Efficient selection for high-expression transfectants with a novel eukaryotic vector. Gene 108,193-200、CMVエンハンサーおよびニワトリβアクチン・プロモーターおよびウサギβグロビン・ターミネーターを持つ)のSalI-PstI断片を pBluescript II SK(-)(Invitrogene社)のSalI-PstI部位に組込んで作製された(図1A)。
pBsCAG/Megsinを制限酵素 ScaI、SalI、およびNotIで切断し、アガロースゲル電気泳動後、メグシンcDNA を含む約3.4kbの断片を切り出して回収し、トランスジェニックラットの作製に使用した(図1B)。
[実施例2]トランスジェニックラットの作製
インジェクションの3日前の夕方にPMSG(妊馬血清ゴナトロピン)を8〜20週齡の雌ラット(Wistar)に腹腔投与し、その2日後の夕方にhCG(ヒト胎盤性ゴナトロピン)を腹腔投与した。これに続き、8〜20週齡の雄ラット(Wistar)を1匹ずつゲージに入れ交配を開始した。交配の翌日の午前中に膣栓の検査を行い、膣栓が確認できた雌ラットを頚椎脱臼により屠殺後、輸卵管を単離し、ヒアルロニターゼ添加したWhitten培養液に移した。輸卵管から卵を排出させ、実体顕微鏡下で受精卵を分離し、洗浄した。
微分干渉装置(ノマルスキー装置)付きの倒立顕微鏡に、マニピュレータを組み合わせたシステムを用い、穴あきスライドグラス上の培養液滴に5〜30個の受精卵を移動し、一つの受精卵あたり約2,000コピーの上記で調製したDNA断片を含む2pLのDNA溶液を雄性前核にマイクロインジェクションした。DNA注入が終了した卵は、卵管に移植するまで培養した。移植部位は胚の発生段階で異なり、1〜2細胞期の胚は卵管内へ、8細胞期〜胚盤胞期の胚は子宮内へ移植した。
胚移植操作に先立ち、レシピエントメスの黄体の活性化処理を行い、偽妊娠を誘起させた。すなわち、発情前期のメスを精管結紮したオスと不妊交尾させた。移植胚の出産予定日は、レシピエントメスの膣栓のついた日を第1日とし、第20日目として計算した。卵管内へ移植する場合は、1細胞期および2細胞期の胚とも、ネンブタール麻酔下で偽妊娠一日目のレシピエントラットの卵管内に実体顕微鏡下で移植した。片側卵管あたり10個程度の胚を移植した。子宮内に移植する場合は、体外培養によって桑実胚期から胚盤胞期まで発生させた胚を、ネンブタール麻酔下の偽妊娠を誘起しておいたレシピエントラットの子宮内に移植した。レシピエントラットの偽妊娠日齢は胚の日齢よりも1日若く計算した。外見から胎仔の数を判断し、胎仔の数が5匹以上と予想された場合は自然分娩、4匹以下ならば帝王切開を行った。生まれたラットは、生後3〜4週の間に親から離し、雌雄を分けて飼育した。
[実施例3]トランスジェニックラットの選択
生後4週齡以降に尾の一部を切断し、キット(Qiagen tissue kit; Qiagen社)を用いてゲノムDNAを抽出した。これを鋳型にして、導入遺伝子断片のPCRによる増幅を行った。増幅には、CMV-F1プライマー(5'-GTC GAC ATT GAT TAT TGA CTA G-3'/配列番号:9)と CMV-R1プライマー(5'-CCA TAA GGT CAT GTA CTG-3'/配列番号:10)、β-gl-3プライマー(5'-CTT CTG GCG TGT GAC CGG CG-3'/配列番号:11)とhM2-2プライマー(5'-ATC GAA TTC TGA GAT CAT AAT CCC TGT GGG ATG C-3'/配列番号:12)、およびhM8-1プライマー(5'-TTA TTC AGT GGC AAA GTT TCT TGC CCT TGA-3'/配列番号:13)とβ-globinRプライマー(5'-TCG AGG GAT CTT CAT AAG AGA AGA G-3'/配列番号:14)の3対のプライマーを用い、3対のプライマーによるPCRの全てで増幅産物が得られる個体を選別した。得られたF0世代を、正常個体(Wistar)と交配させF1世代を得、さらにヘテロのF1同士を掛け合わせてF2を得た。
[実施例4]ヒト・メグシン遺伝子の発現解析
ヒト・メグシン遺伝子のノーザンブロット解析を以下のようにして行った。ヒト・メグシン遺伝子をインサートとして含むpBsCAG-2のBgl II/BamH I断片をランダムDNAラベリングによってRI標識し、プローブとした。この断片はベクターのpoly Aシグナル近辺に相当する。ラットの腎メサンギウム細胞から抽出した全RNA(10μg)を2.2 Mホルムアルデヒドを含む1%アガロースゲルで分離し、ニトロセルロースフィルターへ転写した。フィルターをハイブリ溶液中でハイブリダイズさせた。ハイブリダイズ後に、55℃で0.1×SSC/0.1%SDSの最終ストリンジェンシーで洗浄した。
実験用に用いたラットは、トランスジェニックラットと同腹の正常ラット(非トランスジェニックラット)である。
得られた結果を図2〜図4に示した。図2は臓器別の発現比較、図3および4は腎臓と肝臓でのヘテロとホモの発現比較の結果を示したものである。トランスジェニックラットにおいて、外来遺伝子であるヒト・メグシン遺伝子が強く発現していることが確認できた(図2)。また、ホモ個体はヘテロ個体に比べ発現量が増加していることが確認でき、また、腎臓での発現が肝臓よりも強いことが明らかになった(図3および図4)。
[実施例5]ウェスタンブロット解析
トランスジェニックラットのヒトメグシン発現は、ウサギ抗ヒトメグシンペプチド抗体を用いた組織抽出液のウェスタンブロット分析により確認した。
組織試料(10μg)を、10%のSDS、36%のグリセロール、5%のβ-メルカプトエタノール、および0.012%のブロムフェノールブルーを含有する0.35Mのトリス塩酸(pH6.8)100μLでホモジナイズし、15,000gで10分間、遠心分離した。一次抗体としてウサギ抗ヒトメグシンペプチドIgG(5μg/mL)、二次抗体としてアルカリフォスファターゼ結合ヤギ抗ウサギIgG(Cappel)を用いてメグシンタンパク質を検出した。陽性対照として、CHO細胞で発現した精製組換えメグシンを用いた。陰性対照として抗アクチン抗体(シグマ)を用いた。
メグシン蛋白質の発現は、腎臓、心臓、膵臓で比較的高く、脳と肝臓では低かった(図5)。
[実施例6]抗メグシン抗体の作製
ウサギ抗ヒトメグシンポリクローナル抗体は、従来の方法により作製した。免疫組織染色用のメグシンに対するモノクロナール抗体は、下記の方法により作製した。CHO細胞由来の組換えメグシンをBalb/cマウスに免疫した。免疫したマウスの脾臓細胞とSP2/0細胞(マウス骨髄腫細胞株)を細胞融合し、得られたハイブリドーマの上清につき、酵素免疫測定法(ELISA)を用いてメグシン抗体のスクリーニングを行った。すなわち、96ウェルのポリスチレンELISAプレート(Nalge Nunc International)をメグシン(100 ng/well)でコートし、室温で1時間、25%のブロックエース(大日本製薬)含有ダルベッコのPBS(D-PBS)の存在下でインキュベートした。0.05%のTween20含有D-PBS(D-PBST)で、ウェルを洗浄した後、各ハイブリドーマの上清100μLを各ウェルに添加した。ウェルをD-PBSTで洗浄後、2時間室温でペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Chemicon)を加え、室温で2時間インキュベートした。Mckvaineバッファ(pH5.0)に0.006%のH2O2(和光純薬工業)および0.4mg/mLのo-フェニレンジアミン(Nacalai Tesque)を含有する溶液をウェルに添加後、インキュベートし発色させた。492nmでの吸光度をマイクロプレートリーダー(V-max:Molecular Device)を用いて測定した。ELISAで陽性であったハイブリドーマについては、限外希釈法によりクローニングした。
[実施例7]メグシンペプチド抗体を利用した腎臓組織に対する免疫組織染色(イムノヒストケミスト)
メグシンペプチド−2抗体は、公知の方法(Inagi,R. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun., 286, 1098-106, 2001)により調製した。
メグシントランスジェニックラットから腎臓組織を採取した。腎臓組織は、常法に従い、凍結組織包埋剤(OCT compound)を用いて包埋した。この凍結包埋組織からフリオスタットを用いて4μmの凍結切片を作製した。この凍結切片を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(シグマ製)でコートしたスライド上にマウントした(4%パラホルムアルデヒド固定、15分)。
凍結切片を0.5%のTween20を含有するPBSで洗浄し、4%のスキムミルクでブロッキング後、4℃の加湿チャンバー内で抗メグシンペプチド-2抗体と1晩インキュベートした。組織切片を洗浄し、1:100に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(DAKO製)を用いて室温で2時間インキュベートした。ペルオキシダーゼの検出には、0.003%の過酸化水素水を含有する3,3'-ジアミノベンジジン溶液を用いた。細胞核は、ヘマトキシリンで染色した。ヘマトキシリン/エオシン染色は、公知の方法により実施した。
メグシントランスジェニックラットの腎臓組織に対して組織免疫染色した顕微鏡写真(ニコン製ECLIPSE E400)を図6〜図8に示す。図から明らかなように、トランスジェニックラットの腎臓は、全領域でヒトメグシン抗体と反応し、特に糸球体上皮細胞および尿細管上皮細胞の一部(遠位尿細管)に認められるPAS陽性物質が著明な陽性染色を呈した。
[実施例8]血清中および尿中生化学データの測定
本発明のメグシントランスジェニックラットは、既に知られているメグシントランスジェニックマウス(特許文献3参照)とは、全く異なる表現型を呈する。そのことを実験的に確認した。野生型ラット、メグシントランスジェニックラット(ホモ)およびメグシントランスジェニックマウスにつき、以下の項目を測定した。
血清:総蛋白(TP:Biuret法)、総コレステロール(Tcho:酵素法)、尿素窒素(BUN:ウレアーゼUV法)、クレアチニン(Cr:アルカリピクリン酸法)、メグシン(ELISA法)。
尿(24時間蓄尿):総蛋白(TP:ピロガロールレッド法)、尿素窒素(BUN:ウレアーゼUV法)、クレアチニン(Cr:アルカリピクリン酸法)、ナトリウム(Na:電極法)、メグシン(ELISA法)。
なお、血清中メグシンの測定は、次のようにして行った。メグシントランスジェニックラットからヘパリン採血を行い、遠心後血清を分離した。固相用抗体であるウサギポリクローナル抗メグシン抗体(IgG画分)を2μg/mlに希釈し、96穴ELISA用プレート(F96 MAXSOPRP NUNC-IMMUNOPLATE: NUNC)の各ウェルに100μL/wellづつ添加して4℃で一夜放置した。洗浄緩衝液:0.05%(w/v)Tween20含有PBS(-)(Tween-PBS)で洗浄し、ブロックエース(大日本製薬)を350μl/well加えて室温1時間ブロッキングした。洗浄緩衝液で洗浄後、段階希釈したヒトリコンビナント精製メグシン又は血清検体を100μL /well分注し、室温2時間反応させた。洗浄緩衝液で洗浄後、次に、検出用抗体であるマウスモノクローナル抗メグシン抗体(IgG画分)を1μg/mlに希釈し100μL/wellずつ添加後、室温2時間反応させた。洗浄後、ALP標識抗マウスIgG抗体(chemicon)を100μL/well加え、室温で2時間放置した。洗浄後、p-Nitrophenyl phosphate発色基質溶液(SIGMA)を100μL/wellずつ加え、室温で30分間反応させた後、3NのNaOHを100μL/wellずつ加えて反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(日本モレキュラーデバイス製、SPECTRAmax250)で吸光度(405nm)を測定し、標準液の検量線から血清中のメグシン濃度を求めた。
測定結果を表1および表2に示す。
メグシントランスジェニックマウスではメサンギウム増殖性糸球体腎炎(腎機能正常)を自然発症することが知られている(WO 01/24628)。一方、メグシントランスジェニックラットでは、血清中および尿中生化学データから、若年で腎不全様病変(蛋白尿)を呈することが明らかになった。特に血清クレアチニン/体重が野生型のラットに比較してホモでは7.3倍上昇しており、腎不全状態を呈した。また、マウスは正常発育する(WO 01/24628)のに対し、ラット(特にホモ)では発育不全が認められた。
[実施例9]メグシントランスジェニックラット腎臓のPAS染色:図9〜図11
ラットから腎臓を摘出しカルノア固定後、腎糸球体のPAS染色(periodic acid-Schiff stain)を行った。野生型の個体では異常は認められなかった。ヘテロの個体では、糸球体上皮細胞、近位尿細管〜遠位尿細管〜集合管にかけて、PAS 陽性物質の沈着を認めた。一方、ホモの個体ではヘテロと同様のPAS 陽性物質の沈着が、ヘテロより重度かつ広範囲にみられた。しかしながら、糸球体硬化や間質の線維化等の糸球体障害を示す所見は認められなかった。
[実施例10]血漿中および尿中グルコースの測定
9週齢のラット血漿および尿について、グルコースCII・テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い測定した。ラットの血漿または尿を水で4倍希釈した試料20μLに、発色試薬150μLを添加し、室温で15分間反応させ、505nmにおける吸光度をプレートリーダーで測定し、グルコース濃度を標準曲線から算出した。
結果を表3に示す。メグシントランスジェニックラットは高血糖を呈し、糖尿病モデル動物として有用であることが確認された。
〔表3〕
血漿中および尿中グルコース濃度(平均±標準偏差)
週齢 血漿中グルコース 尿中グルコース
(週) (mg/dL) (ng/mL)
野生型(n=14) 7.4±1.2 139±31 11±4
ホモ (n=12) 6.9±0.8 676±175 566±110
[実施例11]メグシントランスジェニックラット膵臓のHE染色
常法により、ラット膵臓のHE染色を行った。その結果、メグシントランスジェニックラット(ホモ)では、多くのランゲルハンス島で空包変性を来たしたが、炎症細胞の浸潤は殆ど認められなかった。一部の部位では、膵実質を残し間質の萎縮が目立っており、ラ氏島細胞が減少し、新生血管や繊維芽細胞の浸潤が見られた。さらに進行すると、線維性結合組織や硝子様物で占められ、ラ氏島細胞は消失した(図12)。
[実施例12]血漿中インスリンの測定
9週齢のラット血漿5μLを、ELISA法のモリナガ超高感度ラットインスリン測定キット(森永生科学研究所)を用い測定した。プレート上の固相化抗ラットインスリンモノクローナル抗体にラット血漿5μLと検体希釈液95μLを反応させ、次に酵素標識モルモット抗ラットインスリン抗体100μlを反応させ、酵素基質溶液100μLで発色させ、停止液100μLを加え、プレートリーダーの450nmの波長から得られた吸光度に対するラットインスリン濃度を標準曲線から算出した。
結果を表4に示す。メグシントランスジェニックラットの血漿中インスリン濃度は野生型に比べ有意に低いことが確認された。
〔表4〕
血漿中インスリン濃度(ng/mL、平均±標準偏差)
週齢 インスリン濃度
(週) (ng/mL)
野生型(n=14) 7.4±1.2 3.6±2.8
ホモ (n=12) 6.9±0.8 < 0.1
以下に各測定値における、本発明のモデルラットとメグシントランスジェニックマウス(特許文献2、3および非特許文献26参照)の比較を示す。
[実施例13]行動試験
9週齢のメグシントランスジェニックラットは、顕著な非認知性行動変化を示した。半囲い昇降台試験では、非トランスジェニック同腹子に比較して、明確な失調性の歩行が観察された。
[実施例14]海馬領域のMAP2およびCaspase3免疫組織染色
メグシントランスジェニックラットから海馬領域の組織を採取した。組織は、常法に従い、凍結組織包埋剤(OCT compound)を用いて包埋した。この凍結包埋組織からフリオスタットを用いて4μmの凍結切片を作製した。この凍結切片を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(シグマ製)でコートしたスライド上にマウントした(4%パラホルムアルデヒド固定、15分)。
凍結切片を0.5%のTween20を含有するPBSで洗浄し、4%のスキムミルクでブロッキング後、4℃の加湿チャンバー内で抗MAP2抗体または抗Caspase3抗体と1晩インキュベートし、常法により染色した。
メグシントランスジェニックラットの海馬領域の組織に対して免疫組織染色した顕微鏡写真(ニコン製ECLIPSE E400)を図13に示す。図から明らかなように、メグシントランスジェニックラットの海馬の全領域で微小管関連蛋白質の1つであるMAP2がほとんど消失しており、海馬領域の神経細胞の機能消失が示唆された。また、Caspase3の染色は、著しく亢進していた。これらのことより、メグシントランスジェニックラットでは、海馬領域においてアポトーシスによる神経細胞死が亢進していることが明らかとなった。
[実施例15]学習試験
(1)使用動物
8週齢のメグシントランスジェニックラット(ホモタイプ)(雄2匹、雌4匹)、および野生型ラット(雄2匹、雌4匹)を使用した。各ラットは室温20〜26℃、湿度35〜75%、照明時間12時間/日(7時〜19時)に設定した飼育室で飼育し、固型飼料F-2(船橋農場)と水道水を自由摂取させた。
(2)受動回避試験(明暗Box)
明室と暗室に分かれたstep-through型受動的回避反応実験装置(明暗Boxおよびタイマー:ラボサポート、ショックジェネレーター:メディカル・エイジェント)を用いた。獲得試行として動物を明室にいれ、暗室に移行した時には、100V、6mA、60Hz(設定値)の電気刺激を与えた。獲得試行は1日とし、潜時が300秒に達するまで行った(0 day)。一方、保持試行として翌日(1 day)に電気刺激を与えずに同様の処置を行い、暗室に移行するまでの時間を反応潜時(秒)として測定した。反応潜時は最長300秒とした。獲得試行並びに保持試行の反応潜時、獲得試行における試行回数(被刺激回数)を比較した。
(3)統計学的処理方法
試験結果は平均±標準誤差(Mean±S.E.)で表示した。群間の有意差検定は、体重、受動回避試験における獲得試行並びに保持試行の反応潜時についてはStudentのt検定を、獲得試行における試行回数(被刺激回数)についてはχ2検定を行った。検定にはThe SAS System Release 8.2(TS2MO)for Windows(TM)(SAS Institute社)およびその連動システム(EXSAS, Ver.6.10、アーム)を用いた。
(4)受動回避試験結果(明暗Box)
試験結果を表6に示す。獲得試行において、トランスジェニックラット群は野生群に比べて潜時300秒獲得までの試行回数(被刺激回数)が有意に増加した。また、獲得試行2回目の反応潜時にも有意な延長が認められた。再生試行においては、1日目の反応潜時に有意な短縮が認められた。以上の結果から、メグシントランスジェニックラット(ホモタイプ)は、野生型に比べ学習における獲得並びにその保持能が劣っており、学習記憶障害を有すると判断される。
本発明により、メグシン遺伝子の導入による疾患モデル動物が提供された。腎臓におけるメグシン類の発現を増強したある種の動物は、血中クレアチニン値の上昇と蛋白尿を呈する。更にこの動物は、特徴的な病理像として、糸球体上皮細胞、近位尿細管〜遠位尿細管〜集合管にかけての障害を示す。このような所見は、本発明の疾患モデル動物がよりヒトの腎不全に近い病態を呈していることを裏付けている。したがって、腎不全の原因解明に役立つものと考えられる。
本発明のモデル動物を用いて、腎不全の発症メカニズムや病態の解析が可能になる。また、本発明のモデル動物は、腎不全の治療薬の開発やスクリーニング、さらには薬剤の検定などのために有用である。
更に本発明は、高血糖症状を伴う疾患モデル動物の提供を実現した。高血糖を伴うモデル動物は知られているが、本発明の疾患モデル動物のように、短期間で確実に高血糖状態をもたらすことができる動物は知られていない。本発明の疾患モデル動物は、高血糖に起因する様々な病態の解析や治療方法の探索、高血糖の治療方法の解明に有用である。高血糖は、様々な障害を引き起こす原因となっていることが明らかにされている。したがって、高血糖によってもたらされる様々な病的変化を観察することができるモデル動物は、その病態解析において有用である。
本発明の疾患モデル動物が呈する病態は、1型糖尿病に見られる症状と一致する。したがって、本発明の疾患モデル動物は、インスリン依存性糖尿病のモデル動物として有用である。
また本発明は、神経変性疾患のモデル動物を提供した。本発明により、高い再現性で安定した神経変性を呈する神経変性疾患モデル動物の提供が可能となった。本発明によって提供される神経変性疾患モデル動物は、神経系の疾患の病態生理学を理解する上で極めて重要である。
組み換え遺伝子コンストラクトの構築図を示す図である。AはpBsCAG-2の構造を示す。BはpBsCAG2/Megsin、および卵へのマイクロインジェクションに用いたDNA断片の構造を示す。 野生型ラットおよび本発明のモデルラット(ヘテロ)のノーザンブロットによる各種臓器におけるメグシンmRNAの検出を示す写真。 ラット腎臓におけるヒト・メグシン遺伝子の発現を解析したノーザンブロットの結果を示す写真。レーン1および2は野生型、レーン3および4がヘテロ、レーン5および6がホモのものである。 ラット肝臓におけるヒト・メグシン遺伝子の発現を解析したノーザンブロットの結果を示す写真。レーン1および2は野生型、レーン3および4がヘテロ、レーン5がホモのものである。 ラット(野生型、ホモ)のヒトメグシン発現を解析したウェスタンブロットの結果を示す写真。 ラット(野生型)腎組織におけるメグシンに対する免疫組織染色を示す写真(100倍)。 ラット(ヘテロ)腎組織におけるメグシンに対する免疫組織染色を示す写真(25倍)。 ラット(ヘテロ)腎組織におけるメグシンに対する免疫組織染色を示す写真(50倍)。 ラット(野生型、9週齢)腎組織のPAS染色を示す写真(400倍)。 ラット(ヘテロ、9週齢)腎組織のPAS染色を示す写真(400倍)。 ラット(ホモ、9週齢)腎組織のPAS染色を示す写真(400倍)。 ラット(野生型、ホモ、9週齢)腎組織のHE染色を示す写真(400倍)。 メグシントランスジェニックラットの海馬領域の組織に対して免疫組織染色した結果を示す顕微鏡写真(400倍)。

Claims (19)

  1. 次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物。
    (a)メグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
    (b)次の表現型a)-e)から選択される少なくとも1つの表現型を呈する
    a)血中クレアチニン値の上昇
    b)高血糖症状
    c)発育不全、
    d)蛋白尿、および
    e)神経変性
  2. 腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強しており、血中クレアチニン値の上昇および蛋白尿を呈する請求項1に記載の疾患モデル動物。
  3. 膵臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強しており、高血糖症状を呈する請求項1に記載の疾患モデル動物。
  4. 神経組織におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強しており、神経変性を呈する請求項1に記載の疾患モデル動物。
  5. 腎臓、膵臓、および神経組織におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強しており、表現型a)-e)の全てを呈する請求項1に記載の疾患モデル動物。
  6. メグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子が、ヒト・メグシンである請求項1に記載の疾患モデル動物。
  7. ヒト・メグシン遺伝子を導入されたトランスジェニック動物である請求項6に記載の疾患モデル動物。
  8. 動物がラットである請求項1に記載の疾患モデル動物。
  9. 以下の工程を含む、次の表現型a)-e)から選択されるいずれかの表現型を呈する疾患モデル動物の製造方法。
    a)血中クレアチニン値の上昇
    b)高血糖症状
    c)発育不全、
    d)蛋白尿、および
    e)神経変性
    (a)ラットの受精卵にヒトメグシン、またはメグシンと機能的に同等な組換え遺伝子を導入する工程
    (b)工程(a)の受精卵から発生した個体のうち導入した外来性遺伝子を保持した個体を選択する工程
  10. 更に次の工程(c)および(d)を含む請求項9に記載の疾患モデル動物の製造方法。
    (c)工程(b)で選択した個体と、前記外来性遺伝子を保持していないラットを交配させて外来性遺伝子をヘテロで保有するF1ラットを得る工程
    (d)工程(c)で得たF1ラット同士を交配させて外来性遺伝子をホモで保有するF2ラットを得る工程
  11. 次の工程を含む、被験化合物の血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害に対する治療効果を評価する方法。
    (1)次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物に被験化合物を投与する工程、および
    (a)腎臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
    (b)血中クレアチニン値の上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を呈する
    (2)被験化合物を投与した疾患モデル動物の血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害を緩和する作用を検出する工程
  12. 次の工程を含む、血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害に対する治療効果を有する化合物のスクリーニング方法。
    (1)請求項11に記載の方法によって被験化合物の血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害に対する治療効果を評価する工程
    (2)対照と比較して、血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害に対する治療効果の高い被験化合物を選択する工程
  13. 請求項12に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を主成分として含む、血中クレアチニンの上昇および蛋白尿のいずれかまたは両方を伴う腎機能障害の治療、および/または予防用医薬組成物。
  14. 次の工程を含む、被験化合物の高血糖に対する治療効果を評価する方法。
    (1)次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物に被験化合物を投与する工程、および
    (a)膵臓におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
    (b)高血糖症状を呈する
    (2)被験化合物を投与した疾患モデル動物の高血糖を緩和する作用を検出する工程
  15. 次の工程を含む、高血糖に対する治療効果を有する化合物のスクリーニング方法。
    (1)請求項14に記載の方法によって被験化合物の高血糖に対する治療効果を評価する工程
    (2)対照と比較して、高血糖に対する治療効果の高い被験化合物を選択する工程
  16. 請求項15に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を主成分として含む、高血糖の治療、および/または予防用医薬組成物。
  17. 次の工程を含む、被験化合物の神経変性疾患に対する治療効果を評価する方法。
    (1)次の特徴(a)、および(b)を有する非ヒト哺乳動物からなる、疾患モデル動物に被験化合物を投与する工程、および
    (a)神経組織におけるメグシン、またはメグシンと機能的に同等な遺伝子の発現が増強している、および
    (b)神経変性症状を呈する
    (2)被験化合物を投与した疾患モデル動物の神経変性症状を緩和する作用を検出する工程
  18. 次の工程を含む、神経変性疾患に対する治療効果を有する化合物のスクリーニング方法。
    (1)請求項17に記載の方法によって被験化合物の神経変性疾患に対する治療効果を評価する工程
    (2)対照と比較して、神経変性疾患に対する治療効果の高い被験化合物を選択する工程
  19. 請求項18に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を主成分として含む、神経変性疾患の治療、および/または予防用医薬組成物。
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