JP3817638B2 - トランスジェニック非ヒト哺乳動物 - Google Patents
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Description
本発明は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物に関する。より詳細には、本発明は、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)をコードする遺伝子が導入されている躁うつ病モデルのトランスジェニック非ヒト哺乳動物、並びにその利用方法に関する。
躁うつ病(双極性障害)(躁うつ病という言葉は、うつ病を含めるか否かが曖昧であるため、最近では、アメリカ精神医学会の診断基準に従って、双極性障害と呼ばれることが多い。)は、成人期に発症し、うつ状態、躁状態という、2つの病相の再発を繰り返す精神疾患である。躁うつ病患者の約20%が自殺で死亡する上、躁状態における社会的問題行動によって、社会的生命を失う場合も少なくない。一方、うつ病の多くはストレスで誘発され、単一のエピソードで終わるが、一部にはストレスと関係なく反復する場合があり、躁うつ病の家系内で見られることから、このような反復性うつ病も、躁うつ病近縁の疾患と考えられている。
躁うつ病では、気分安定薬(気分安定薬には、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンの3つが含まれる。)と呼ばれる薬が予防効果を持つことが知られているが、これらの薬剤が無効な患者も多く、新規薬剤の開発が求められている。新規薬剤の開発のための手段としては、動物モデルの使用が挙げられる。行動学的、薬理学的負荷によるうつ状態のモデル、薬理学的負荷による躁状態のモデルとしては以下のモデルが知られている。
(1)抗うつ薬の効果判定のためのモデル
齧歯類(ネズミ)を用いた、抗うつ薬の効果検定に使われている行動学的検査は、尾懸垂試験、強制水泳試験の二つである。尾懸垂試験では、ネズミの尾をつまんでぶら下げる。強制水泳では、円筒型の水槽にネズミを投入する。懸垂、強制水泳を負荷された場合、動物は次第に絶望して無動となる。しかし、既存の抗うつ薬を投与すると、この無動時間が延長する。このため、新規の抗うつ薬が開発されると、この試験により、効果の有無を検定することが多い。しかしながら、これは健康なマウスにストレスをかけて、ストレス負荷中の行動を見ているだけで、うつ状態のモデルとは言えない。
齧歯類(ネズミ)を用いた、抗うつ薬の効果検定に使われている行動学的検査は、尾懸垂試験、強制水泳試験の二つである。尾懸垂試験では、ネズミの尾をつまんでぶら下げる。強制水泳では、円筒型の水槽にネズミを投入する。懸垂、強制水泳を負荷された場合、動物は次第に絶望して無動となる。しかし、既存の抗うつ薬を投与すると、この無動時間が延長する。このため、新規の抗うつ薬が開発されると、この試験により、効果の有無を検定することが多い。しかしながら、これは健康なマウスにストレスをかけて、ストレス負荷中の行動を見ているだけで、うつ状態のモデルとは言えない。
(2)うつ病モデル
代表的なうつ病モデルである学習性無力モデルでは、まずラットを2つの区画がトンネルでつながれた箱に入れる。最初は、両方の箱に電気ショックを加える。するとラットは、もう一つの箱に逃げるが、そちらでも電気ショックがかかっていることを知る。翌日、今度は片方の区画だけに電気ショックを加える。こうすると、多くのラットは、(反対の箱も電気ショックがかかっていると知りつつ?)、とにかく反対の区画に逃げる。ところが一部のラットは、(反対の箱も電気ショックがかかっていると知っていて、最初からあきらめてしまい)、全く逃げようとしない。2回目の実験で逃げようとしないラットを、学習性無力ラットと呼び、これがうつ病モデルとされる。この学習性無力ラットに抗うつ薬を投与すると、再び回避するようになる。このモデルでは、ストレス後の長期の行動変化を見ているため、うつ病モデルであると言うことができる。その他にも、強制走行を長期間行ったモデル、薬物投与で無動になったモデルなど、うつ状態のモデルはいくつか存在する。
代表的なうつ病モデルである学習性無力モデルでは、まずラットを2つの区画がトンネルでつながれた箱に入れる。最初は、両方の箱に電気ショックを加える。するとラットは、もう一つの箱に逃げるが、そちらでも電気ショックがかかっていることを知る。翌日、今度は片方の区画だけに電気ショックを加える。こうすると、多くのラットは、(反対の箱も電気ショックがかかっていると知りつつ?)、とにかく反対の区画に逃げる。ところが一部のラットは、(反対の箱も電気ショックがかかっていると知っていて、最初からあきらめてしまい)、全く逃げようとしない。2回目の実験で逃げようとしないラットを、学習性無力ラットと呼び、これがうつ病モデルとされる。この学習性無力ラットに抗うつ薬を投与すると、再び回避するようになる。このモデルでは、ストレス後の長期の行動変化を見ているため、うつ病モデルであると言うことができる。その他にも、強制走行を長期間行ったモデル、薬物投与で無動になったモデルなど、うつ状態のモデルはいくつか存在する。
(3)躁状態のモデル
アンフェタミン、コカインなどの精神刺激薬を投与すると、動物は過活動になる。そのため、これを躁状態の動物モデルとする考え方もある。しかしながら、アンフェタミンやコカインを長期に投与しているうちに、次第に常同行動などの異常行動が出現し、これは統合失調症(精神分裂病)の動物モデルともされている。従って、特異的なモデルとは言えない。
アンフェタミン、コカインなどの精神刺激薬を投与すると、動物は過活動になる。そのため、これを躁状態の動物モデルとする考え方もある。しかしながら、アンフェタミンやコカインを長期に投与しているうちに、次第に常同行動などの異常行動が出現し、これは統合失調症(精神分裂病)の動物モデルともされている。従って、特異的なモデルとは言えない。
上記の通り、行動学的、薬理学的負荷によるうつ状態のモデル、薬理学的負荷による躁状態のモデルは存在する。しかしながら、自発的にうつ状態や躁状態が出現するモデルの報告はなく、躁うつ病の動物モデルが存在しないことが、躁うつ病の病態研究、新規薬剤の開発を妨げてきた。
本発明は上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、自発的にうつ状態や躁状態が出現する躁うつ病の動物モデルを提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、上記動物モデルを利用して躁うつ病の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)をコードする遺伝子を導入することにより該遺伝子を脳特異的に発現するトランスジェニックマウスを作製することに成功し、さらに作製したトランスジェニックマウスの活動量を長期記録するとともに、行動学的解析を行った結果、該トランスジェニックマウスは、躁うつ病の動物モデルとして有用であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
即ち、本発明によれば、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)をコードする遺伝子が導入されていることにより該遺伝子を脳特異的に発現することを特徴とするトランスジェニック非ヒト哺乳動物またはその一部が提供される。
好ましくは、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物においては、欠失した短いmtDNAが脳内に蓄積している。好ましくは、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、自発的に周期的な行動変化を呈することができる。好ましくは、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物には、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)をコードする遺伝子を脳特異的な発現を可能とするプロモーターの制御下に組み込んだ組み換えDNAが導入されている。好ましくは、脳特異的な発現を可能とするプロモーターは、calmodulin kinase II α(CAMKIIα)のプロモーターまたは神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーターである。好ましくは、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)をコードする遺伝子は、マウスmtDNA合成酵素をコードする遺伝子において181番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸がアラニンに置換されている遺伝子である。好ましくは、非ヒト哺乳動物はマウスである。
本発明の別の側面によれば、上記した本発明の非ヒト哺乳動物またはその一部を用いることを特徴とする、躁うつ病の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、上記したスクリーニング方法により得られる物質が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、上記したスクリーニング方法により得られる物質を有効成分として含有する、躁うつ病の治療剤及び/又は予防剤が提供される。
本発明においては、うつ病を呈する神経筋疾患adCPEOの原因遺伝子に変異を導入し、これを神経特異的に発現させたトランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製した。本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物においては、躁うつ病と関連していると考えられている脳内のmtDNA欠失体の蓄積が確認された。また、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、自発的に周期的な行動変化を呈していた。従って、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、反復性うつ病または躁うつ病の動物モデルとして有用である。本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、躁うつ病・うつ病の治療薬(気分安定薬、抗うつ薬)の開発研究、躁うつ病・うつ病の病態研究、診断法研究に利用可能である。
先ず、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の開発の経緯とその結果について説明する。
(i)ミトコンドリア仮説とその検証
本発明者らは、躁うつ病患者の脳内でエネルギー代謝低下を見出し、ミトコンドリア病の一種で、全身にミトコンドリアDNA(mtDNA)の多重欠失が蓄積する2つの疾患、「常染色体優性遺伝慢性進行性外眼筋麻痺(adCPEO)」およびWolfram病で、いずれも反復性うつ病や躁うつ病を呈すること、躁うつ病では、母方が罹患している場合が多いことなどの既報の事実と考え合わせ、躁うつ病の病因にミトコンドリアDNA(mtDNA)の異常による、ミトコンドリア機能の障害が関与するとの仮説を立てて、検討を行ってきた。その結果、躁うつ病患者の死後脳では、mtDNAの欠失が多いこと、躁うつ病と特定のmtDNA多型が関係していることなどを報告し、mtDNA異常が躁うつ病を起こすことについて、多くの証拠を得た。
(i)ミトコンドリア仮説とその検証
本発明者らは、躁うつ病患者の脳内でエネルギー代謝低下を見出し、ミトコンドリア病の一種で、全身にミトコンドリアDNA(mtDNA)の多重欠失が蓄積する2つの疾患、「常染色体優性遺伝慢性進行性外眼筋麻痺(adCPEO)」およびWolfram病で、いずれも反復性うつ病や躁うつ病を呈すること、躁うつ病では、母方が罹患している場合が多いことなどの既報の事実と考え合わせ、躁うつ病の病因にミトコンドリアDNA(mtDNA)の異常による、ミトコンドリア機能の障害が関与するとの仮説を立てて、検討を行ってきた。その結果、躁うつ病患者の死後脳では、mtDNAの欠失が多いこと、躁うつ病と特定のmtDNA多型が関係していることなどを報告し、mtDNA異常が躁うつ病を起こすことについて、多くの証拠を得た。
(ii)モデル動物の作製
adCPEOには3つの原因遺伝子が存在し、各々mtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)、Twinkle (mtDNAへリカーゼ)、ANT1(アデニン-クヌレオチドトランスロケーター1)であるが、いずれもが反復性うつ病または双極性障害を呈することが判明している。そこで、マウスのmtDNA合成酵素の遺伝子に点変異を導入し、異常なmtDNAを合成してしまうような変異を持つmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)をコードする変異型遺伝子を作成した。ポリメラーゼγの変異を用いたのは、同じ戦略で心臓特異的に異常mtDNAを蓄積させて、心筋症の動物モデルを作製した研究(Zhang D, et al: Construction of transgenic mice with tissue-specific acceleration of mitochondrial DNA mutagenesis. Genomics. 2000 Oct 15;69(2):151-61)が報告されており、同様の戦略により、脳特異的にmtDNA欠失が蓄積する動物モデルを作製可能と考えたからである。
adCPEOには3つの原因遺伝子が存在し、各々mtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)、Twinkle (mtDNAへリカーゼ)、ANT1(アデニン-クヌレオチドトランスロケーター1)であるが、いずれもが反復性うつ病または双極性障害を呈することが判明している。そこで、マウスのmtDNA合成酵素の遺伝子に点変異を導入し、異常なmtDNAを合成してしまうような変異を持つmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)をコードする変異型遺伝子を作成した。ポリメラーゼγの変異を用いたのは、同じ戦略で心臓特異的に異常mtDNAを蓄積させて、心筋症の動物モデルを作製した研究(Zhang D, et al: Construction of transgenic mice with tissue-specific acceleration of mitochondrial DNA mutagenesis. Genomics. 2000 Oct 15;69(2):151-61)が報告されており、同様の戦略により、脳特異的にmtDNA欠失が蓄積する動物モデルを作製可能と考えたからである。
adCPEOでは、うつ状態が出現するとはいえ、筋肉症状が出現した場合、うつ病かどうかの判断が難しくなるため、この変異遺伝子を脳特異的に発現させるため、calmodulin kinase II α(CAMKIIα)のプロモーター(このプロモーター領域をクローニングし、特徴づけたMark Mayford氏の許可を得て使用した。Mayford M, et al: The 3'-untranslated region of CaMKII alpha is a cis-acting signal for the localization and translation of mRNA in dendrites. Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 Nov 12;93(23):13250-5)、または神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーター(このプロモーター領域をクローニングし、特徴づけた崎村健司教授(新潟大学脳研究所)の許可を得て使用した。Sakimura K, et al: Upstream and intron regulatory regions for expression of the rat neuron-specific enolase gene. Brain Res Mol Brain Res. 1995 Jan;28(1):19-28)と連結することで、この遺伝子が脳特異的に発現するようにした(図1)。その結果、CAMKIIαが3ライン、NSEが7ライン確立できた。そのうち、CAMKIIαの2ラインで、脳内に変異型のポリメラーゼγが発現していることが確認できた(図2)。更に、これらのうち、CAMKIIαの2ラインでは、脳内に欠失型mtDNAが蓄積していることを、PCR-サザンブロット法により確認した(図3)。
(iii)行動解析
上記の通り作製した動物が、躁うつ病類似の行動異常を呈するかどうかについて、検討を行った。まず、長期間、行動量を輪回し数により測定したところ、これらのマウスは、約5日の周期で、周期的に行動量が変化することがわかった(図4)。これだけだと、概日リズムが延長し、定常的な明暗周期とのうねりにより出現するパターンとも考えられたが、この行動リズムパターンは、定常暗条件でも維持されたことから、単なる概日リズム障害ではなく、やはり5日周期の行動リズムであると考えられた。オープンフィールド試験では、広い新規な環境に置かれた時の行動量が、野生型マウスに比べて低いことが判明した。高架式十字迷路では、closed armに滞在する時間が延長していたことから、このマウスは不安が強いと考えられた。一方、強制水泳試験では、予想に反し、無動時間が短縮していた。以上の結果から、本発明のトランスジェニック動物は、既存のうつ病モデルとは異なる特性を有していると考えられた。以下、本発明の実施の形態についてさらに具体的に説明する。
上記の通り作製した動物が、躁うつ病類似の行動異常を呈するかどうかについて、検討を行った。まず、長期間、行動量を輪回し数により測定したところ、これらのマウスは、約5日の周期で、周期的に行動量が変化することがわかった(図4)。これだけだと、概日リズムが延長し、定常的な明暗周期とのうねりにより出現するパターンとも考えられたが、この行動リズムパターンは、定常暗条件でも維持されたことから、単なる概日リズム障害ではなく、やはり5日周期の行動リズムであると考えられた。オープンフィールド試験では、広い新規な環境に置かれた時の行動量が、野生型マウスに比べて低いことが判明した。高架式十字迷路では、closed armに滞在する時間が延長していたことから、このマウスは不安が強いと考えられた。一方、強制水泳試験では、予想に反し、無動時間が短縮していた。以上の結果から、本発明のトランスジェニック動物は、既存のうつ病モデルとは異なる特性を有していると考えられた。以下、本発明の実施の形態についてさらに具体的に説明する。
(1)本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の特徴
上記した通り、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)をコードする遺伝子が導入されていることにより該遺伝子を脳特異的に発現することを特徴とするトランスジェニック動物である。さらに好ましくは、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、欠失した短いmtDNAが脳内に蓄積しているか、及び/又は自発的に周期的な行動変化を呈することを特徴とする。
上記した通り、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)をコードする遺伝子が導入されていることにより該遺伝子を脳特異的に発現することを特徴とするトランスジェニック動物である。さらに好ましくは、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、欠失した短いmtDNAが脳内に蓄積しているか、及び/又は自発的に周期的な行動変化を呈することを特徴とする。
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物において、変異型のmtDNA合成酵素の発現量は、ノーザンブロット、RT−PCR又は免疫組織染色などにより測定又は分析することができる。また、欠失したミトコンドリアDNAの蓄積については、PCR-サザンブロット法(具体例としては、本願明細書の実施例3に記載)などにより検出することができる。さらに、自発的な周期的な行動変化(即ち、双極性障害様の異常)については、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の活動量の長期記録や行動学的解析(具体例としては、本願明細書の実施例4及び5に記載)などにより分析することができる。
本明細書で言う「変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)をコードする遺伝子」は公知の遺伝子であるmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子に変異を導入した遺伝子である。公知のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、GeneBankにヒト(NM_002693)、マウス(NM_017462、又はAB121698、BAC98463)、ラット(NM_053528)、出芽酵母(NC_001147)として登録されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/clust.cgi?ORG=Mm&CID=3616)。また、マウスゲノム配列からコンピューターが予測したポリメラーゼγ遺伝子については、Mm7_39468_30_112_1として登録されている。
本発明で言う変異型の遺伝子とは、mtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子のDNA配列に変異(例えば、突然変異など)が生じたものを意味し、具体的には、該遺伝子中の塩基配列の一部が欠損した遺伝子、該遺伝子の塩基配列の一部が他の塩基配列で置換された遺伝子、該遺伝子の一部に他の塩基配列が挿入された遺伝子などを用いることができる。欠損、置換または付加される塩基の数は、特に限定されないが、一般的には1から50個程度、好ましくは1から15個程度、より好ましくは1から6個程度である。このような塩基配列の欠損、置換または付加によって、mtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)のアミノ酸配列において、好ましくは1ないし5個程度、より好ましくは1または2個程度のアミノ酸の欠損、置換または付加が生ずることになる。
本発明で用いる変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子の具体例としては、マウスmtDNA合成酵素をコードする遺伝子において181番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸がアラニンに置換されている遺伝子を挙げることができる。このような変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子のDNAは、例えば、公知のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子をコードするゲノムDNAを鋳型とし、変異部位の塩基を他のアミノ酸をコードするように置換したミスセンス変異導入プライマーを用いたPCR等によって取得することができる。なお、PCR、プライマーの作製、ゲノムDNAの調製、クローニング、酵素処理等の方法は、当業者に周知の常法により行うことができる。
(2)本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製方法は特に限定されないが、例えば、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子をプロモーターの制御下に組み込んだ発現ベクターを受精卵などに導入することにより作製することができる、以下、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子の導入により該遺伝子を、特に脳で特異的に発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製方法について説明する。
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製方法は特に限定されないが、例えば、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子をプロモーターの制御下に組み込んだ発現ベクターを受精卵などに導入することにより作製することができる、以下、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子の導入により該遺伝子を、特に脳で特異的に発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製方法について説明する。
トランスジェニック非ヒト哺乳動物の作製のために用いる導入遺伝子としては、上記した変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子を適当な哺乳動物用プロモーターの下流に連結した組換え遺伝子を使用することが好ましい。当該変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子の下流には、所望により、ポリAシグナルを連結することができる。
導入遺伝子の構築に用いる哺乳動物用プロモーターの種類は特に制限されないが、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子を脳(特に、脳の神経細胞)において発現させることができるプロモーターを用いることが好ましい。このようなプロモーターの具体例としては、calmodulin kinase II α(CAMKIIα)のプロモーターまたは神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。その他にも、目的遺伝子を神経細胞で発現させることができるプロモーターであれば、各種哺乳動物(例えば、ヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)由来遺伝子のプロモーターを適宜使用することができる。
さらに、本発明で用いる組換え遺伝子には、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子の発現に必要なターミネーターを連結してもよい。該ターミネーターは、トランスジェニック動物において、目的とするメッセンジャーRNAの転写を終結する配列(いわゆるポリA)として使用され、ウィルス由来、各種哺乳動物または鳥類由来の各遺伝子の配列が用いることができる。具体的には、シミアンウィルスのSV40ターミネーターなどを用いることができる。その他、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子をさらに高発現させる目的で、既知の遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域を連結することができる。さらには、真核生物遺伝子のイントロンの一部をプロモーター領域の5'上流に、プロモーター領域と翻訳領域間あるいは翻訳領域の3'下流に連結することも可能である。
上記導入遺伝子に組み込まれた変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子が細胞内で発現すると、細胞内に変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)が産生されるようになる。
変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子の導入により変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)を発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、例えば、非ヒト哺乳動物の受精卵に変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子を導入し、当該受精卵を偽妊娠雌性非ヒト哺乳動物に移植し、当該非ヒト哺乳動物から変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子が導入された非ヒト哺乳動物を分娩させることにより作製することができる。
非ヒト哺乳動物としては、例えば、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ等のげっ歯類の他、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、サル等を使用することができるが、作製、育成及び使用の簡便さなどの観点から見て、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ等のげっ歯類が好ましく、そのなかでもマウスが最も好ましい。
本発明で用いるトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、胚芽細胞と、生殖細胞あるいは体細胞とが、非ヒト哺乳動物またはこの動物の先祖に胚発生の段階(好ましくは、単細胞または受精卵細胞の段階でかつ一般に8細胞期以前)において外来性の変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子を含む組み換え遺伝子を導入することによって作出される。変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子の構築は上記した通りである。
受精卵細胞段階における変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子の導入は、対象哺乳動物の胚芽細胞および体細胞のすべてに存在するように維持されるように行うことができる。遺伝子導入後の作出動物の胚芽細胞において、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子が存在することは、作出動物の後代がすべてその胚芽細胞および体細胞のすべてに変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子が存在することを意味する。遺伝子を受け継いだこの種の動物の子孫はその胚芽細胞および体細胞のすべてに変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子を有する。
本発明のトランスジェニック動物は、交配により遺伝子を安定に保持することを確認した後、当該遺伝子保有動物として通常の飼育環境で継代飼育することができる。導入遺伝子を相同染色体の両方に持つホモザイゴート動物を取得し、この雌雄の動物を交配することによりすべての子孫が該遺伝子を過剰に有するように繁殖継代することができる。変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子の発現部位を同定するためには変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子の発現を個体、臓器、組織、細胞の各レベルで観察することができる。また、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)に対する抗体を用いた酵素免疫検定法によりその発現の程度を測定することも可能である。
以下、トランスジェニック非ヒト哺乳動物がトランスジェニックマウスの場合を例に挙げて具体的に説明する。変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子をコードするcDNAをプロモーターの下流に含有する導入遺伝子を構築し、該導入遺伝子をマウス受精卵の雄性前核にマイクロインジェクションし、得られた卵細胞を培養した後、偽妊娠雌性マウスの輸卵管に移植し、その後被移植動物を飼育し、産まれた仔マウスから前記cDNAを有する仔マウスを選択することにより、本発明のトランスジェニックマウスを作製することができる。上記マウスの受精卵としては、例えば、129/sv、C57BL/6、BALB/c、C3H、SJL/Wt等に由来するマウスの交配により得られるものなら任意のものを使用できる。
また、注入する導入遺伝子の数は受精卵1個当たり100〜3000分子が適当である。そしてまた、cDNAを有する仔マウスの選択は、マウスの尻尾等よりDNAを抽出し、導入した変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子をプローブとするドットハイブリダイゼーション法や、特異的プライマーを用いたPCR法等により行うことができる。
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)遺伝子を過剰発現することを特徴とするものであり、躁うつ病の治療薬又は予防薬のスクリーニング試験に利用可能なモデルであり、さらに躁うつ病の発生機構の解明などの研究分野においても有用である。
また、上記した本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の一部としては、非ヒト哺乳動物の細胞、細胞内小器官、組織および臓器のほか、頭部、指、手、足、腹部、尾などが挙げられ、これらも全て本発明の範囲内に属する。
(3)躁うつ病の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング
本発明による躁うつ病の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法は、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)を過剰発現する本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いて行うことができる。即ち、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物(例えば、トランスジェニックマウスなど)に、被検物質を投与し、該トランスジェニック非ヒト哺乳動物の生理学的データや運動能力などを評価・検討することにより、該被検物質の躁うつ病に対する治療効果や予防効果を評価することができる。
本発明による躁うつ病の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法は、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)を過剰発現する本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いて行うことができる。即ち、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物(例えば、トランスジェニックマウスなど)に、被検物質を投与し、該トランスジェニック非ヒト哺乳動物の生理学的データや運動能力などを評価・検討することにより、該被検物質の躁うつ病に対する治療効果や予防効果を評価することができる。
あるいはまた、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に被験物質を投与し、投与後における変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)の発現状態、欠失した短いmtDNAの脳内における蓄積状態、並びに、投与した被験物質の生体内における動態を分析することなどにより、該被検物質の躁うつ病に対する治療効果や予防効果を評価することもできる。
すなわち、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を利用することにより、躁うつ病の治療効果及び予防効果を評価することが可能であり、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、躁うつ病の病態評価モデル動物として利用することができる。例えば、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いて、これらの病態回復および重篤程度を判定し、この疾患の治療方法の検討を行うことも可能である。
さらにまた、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いることによって、変異型のmtDNA合成酵素(ポリメラーゼγ)の発現と、上記疾病の進行度などを分析することにより、該疾患の発症・進行のメカニズムを解明することができる。
本発明のスクリーニング方法に供される被験物質としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。またペプチドライブラリーや化合物ライブラリーなど、多数の分子を含むライブラリーを被験物質として使用することもできる。
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物に被験物質を投与する方法としては、例えば、経口投与、静脈注射などが用いられる。また、被験物質の投与量は、投与方法、被験物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる物質は、上記した被験物質から選ばれた物質であり、躁うつ病に対して予防・治療効果を有するので、躁うつ病に対する安全で低毒性な治療・予防剤などの医薬として使用することができる。さらに、上記スクリーニングで得られた物質から誘導される化合物も同様に医薬として用いることができる。該スクリーニング方法で得られた物質は塩を形成していてもよく、該物質の塩としては、生理学的に許容される酸(例えば、無機酸、有機酸)または塩基(例えば、アルカリ金属)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。
塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
該スクリーニング方法で得られた物質は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。
例えば、該物質を生理学的に許容される担体、香味剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などと一緒に混和することによって製剤を製造することができる。錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ,ゼラチン,アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖,乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント,アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなビヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを、溶解または懸濁させるなど常法に従って処方することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水,ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール,塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80TM,HCO−50)などを併用することもできる。油性液としては、例えば、ゴマ油,大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル,ベンジルアルコールなどを併用してもよい。
また、上記の躁うつ病の治療剤及び/又は予防剤には、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン,ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール,フェノールなど)、酸化防止剤などを配合してもよい。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや哺乳動物に対して投与することができる。該物質の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はあるが、例えば、経口投与する場合、一般的に成人においては、一日につき該化合物を約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg投与する。非経口的に投与する場合は、該化合物の1回投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、注射剤の形で通常成人に投与する場合、一日につき該化合物を約0.01〜100mg程度、好ましくは約0.1〜50mg程度を静脈注射により投与する。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
実施例1:トランスジェニックマウスの作出
神経特異的にミトコンドリアDNA(mtDNA)の異常を持つマウスを作るために、遺伝子工学的に変異を導入したmtDNAの合成酵素(DNA合成酵素γ)を利用することにした。変異を導入することによって、DNA合成酵素γの校正能を失わせることができる、すなわち、mtDNAを複製する際に高頻度でエラーを起こす(間違った塩基を取り込む)ようになる[Zhang D. et al., Genomics 69, 151-161 (2000)]。そのまま複製反応が進めば、エラーの部分は点変異としてmtDNAに残る。また、多くの場合、エラーを起こすと同時に、複製反応はストップしてしまう。複製が途中で止まってしまったmtDNAが再び環状になれば、短いmtDNA、すなわち欠失したmtDNAになる。このように、エラーを起こしやすいDNA合成酵素γを神経細胞に発現させることによって、神経特異的に異常なmtDNAを蓄積させることができる。そこで、神経細胞に発現を誘導するプロモーターを利用して、変異DNA合成酵素γを発現するようなトランスジェニックマウス(Tgマウス)を作製した。
神経特異的にミトコンドリアDNA(mtDNA)の異常を持つマウスを作るために、遺伝子工学的に変異を導入したmtDNAの合成酵素(DNA合成酵素γ)を利用することにした。変異を導入することによって、DNA合成酵素γの校正能を失わせることができる、すなわち、mtDNAを複製する際に高頻度でエラーを起こす(間違った塩基を取り込む)ようになる[Zhang D. et al., Genomics 69, 151-161 (2000)]。そのまま複製反応が進めば、エラーの部分は点変異としてmtDNAに残る。また、多くの場合、エラーを起こすと同時に、複製反応はストップしてしまう。複製が途中で止まってしまったmtDNAが再び環状になれば、短いmtDNA、すなわち欠失したmtDNAになる。このように、エラーを起こしやすいDNA合成酵素γを神経細胞に発現させることによって、神経特異的に異常なmtDNAを蓄積させることができる。そこで、神経細胞に発現を誘導するプロモーターを利用して、変異DNA合成酵素γを発現するようなトランスジェニックマウス(Tgマウス)を作製した。
まず、マウスDNA合成酵素γ(mPolγ)のcDNAを、マウス全脳mRNAからクローニングした。ダイデオキシヌクレオチド法によって両鎖ともシークエンスしたところ、データベースに登録されている標準配列(NM_017462)との間に、塩基配列においても、推測されるアミノ酸配列においても違いが認められた。そこで、他の種のPolγcDNAと比較解析し、上記でクローニングしたcDNAの配列が正しいmPolγの配列であると結論した。
Stratagene社のQuikChange site-directed mutagenesisキットを用いて181番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸をアラニンに変化させた。このアスパラギン酸はMg2+を結合するために必須の残基で、アラニンに変異させると校正能が著しく低下することが報告されている[Zhang D. et al., Genomics 69, 151-161 (2000)]。このとき使用したプライマーの配列は以下の通りである。
mut-mPolg-F, 5'-GCCCTGGTGTTCGCCGTGGAGGTCTGC-3'(配列番号1)
mut-mPolg-R, 5'-GCAGACCTCCACGGCGAACACCAGGGC-3'(配列番号2)
mut-mPolg-R, 5'-GCAGACCTCCACGGCGAACACCAGGGC-3'(配列番号2)
また、プロモーターを付加する実験操作の都合上、コード領域内に存在する2ヶ所のNot I制限酵素サイト(開始コドンから数えて115番目と407番目の塩基の直後がNot Iで切断される)の配列を変化させ、Not Iサイトをすべて消滅させた。その際、アミノ酸配列は変化させないように注意した。この操作もQuikChange site-directed mutagenesisキットを用い、そのとき使用したプライマーの配列は以下の通りである。
mPolg-xNotI1-F, 5'-GTCCCCAGCGACGGTCGGCCGCCGTC-3'(配列番号3)
mPolg-xNotI1-R, 5'-GACGGCGGCCGACCGTCGCTGGGGAC-3'(配列番号4)
mPolg-xNotI2-F, 5'-CCTTACTTGGAGGCTGCCGCCTCG-3'(配列番号5)
mPolg-xNotI2-R, 5'-CGAGGCGGCAGCCTCCAAGTAAGG-3'(配列番号6)
mPolg-xNotI1-R, 5'-GACGGCGGCCGACCGTCGCTGGGGAC-3'(配列番号4)
mPolg-xNotI2-F, 5'-CCTTACTTGGAGGCTGCCGCCTCG-3'(配列番号5)
mPolg-xNotI2-R, 5'-CGAGGCGGCAGCCTCCAAGTAAGG-3'(配列番号6)
変異mPolγcDNAのコード領域部分のみを次のプライマーを用いたPCRで取り出し、いったんpCR Blunt II-TOPOベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。
XhoI-mPolg-F, 5'-CTCGAGCCATGAGCCGCCTGCTCTGGAAGAAG-3'(配列番号7)
SfiI-mPolg-R, 5'-GGCCAATTGGGCCTTCCGTTAGGAGGAC-3'(配列番号8)
XhoI-mPolg-F, 5'-CTCGAGCCATGAGCCGCCTGCTCTGGAAGAAG-3'(配列番号7)
SfiI-mPolg-R, 5'-GGCCAATTGGGCCTTCCGTTAGGAGGAC-3'(配列番号8)
シークエンスをチェックした後、マウスCaMKIIα(カルシウム・カルモジュリン依存性蛋白キナーゼIIα)遺伝子のプロモーターおよび5'-と3'-イントロン領域を連結させた。具体的には、変異mPolγのコード領域を制限酵素Xho IとSfi Iで切り出し、平滑末端化したのちに、pNN265ベクター[Choi T. et al., Mol. Cell. Biol. 11, 3070-3074 (1991)]のEco RVサイトに挿入した(この操作でXho I、Sfi I、Eco RVのいずれのサイトも消滅する)。そこから、Not Iフラグメント(5'-イントロン・変異mPolγのコード領域・3'-イントロン・ポリA付加配列が連結した構造)を切り出し、pMM403ベクター[Mayford M. et al., Science 274, 1678-1683 (1996)]のNot Iサイトに挿入した。このコンストラクト(図1)は、通常の分子生物学的実験に用いられている大腸菌(XLI Blue-MRF'、TOP10、SUREなど)内では極めて不安定であることが判明し、STBL2株(Invitrogen)を30℃で培養して初めてコンストラクトを作製することができた。
完成したコンストラクトから制限酵素Sfi Iでベクター部分を削除したのち、C57BL/6Jマウスの受精卵前核にインジェクションして仮親の卵管に移植した。合計894の受精卵にインジェクションし、そのうち431個の胚を移植した。40匹の産仔が得られ、離乳まで生育したのは27匹であった。そのうち、3匹がトランスジーンを持っていた。ジェノタイプの判定は、マウスの尻尾の一部から抽出したゲノムDNAを用いたPCRで行った。このとき使用したプライマーは以下の通りである。
mPolgTg-F, 5'-TTGAGGTTTTCCAGCAGCAG-3'(配列番号9)
mPolgTg-R, 5'-AAGGACTCGATGGCTCTGTAGG-3'(配列番号10)
mPolgTg-R, 5'-AAGGACTCGATGGCTCTGTAGG-3'(配列番号10)
ただし、得られたTgマウスの3ライン(A, B, C)のうち、ラインAはほとんどTgマウスが生まれない(約70匹の産仔のうち2匹のみがTg)ため、以降の解析は行わなかった。
実施例2:遺伝子導入した変異Polγの発現
残りの2系統(ラインBとC)に関して、各組織におけるmPolγの遺伝子発現を調べた。全RNAをTrizol試薬(Invitrogen)を用いて抽出し、逆転写反応を行ってcDNAを作製した。変異型あるいは(元から持っている内在性の)正常型のmPolγcDNAをそれぞれ特異的に増幅するプライマーセットを用い、リアルタイム定量的PCRを行った(SYBR Greenマスターミックス試薬・SDS7000; Applied Biosystems)。同時に測定したGAPDH mRNA量を用いて正規化した。
残りの2系統(ラインBとC)に関して、各組織におけるmPolγの遺伝子発現を調べた。全RNAをTrizol試薬(Invitrogen)を用いて抽出し、逆転写反応を行ってcDNAを作製した。変異型あるいは(元から持っている内在性の)正常型のmPolγcDNAをそれぞれ特異的に増幅するプライマーセットを用い、リアルタイム定量的PCRを行った(SYBR Greenマスターミックス試薬・SDS7000; Applied Biosystems)。同時に測定したGAPDH mRNA量を用いて正規化した。
変異型mPolγ cDNAのみを増幅するプライマーセットは以下の通り。
mutPolg-TMF, 5'-CTGCCTTACTTGGAGGCT-3'(配列番号11)
mutPolg-TMR, 5'-CAAGCAGACCTCCACGG-3'(配列番号12)
mutPolg-TMF, 5'-CTGCCTTACTTGGAGGCT-3'(配列番号11)
mutPolg-TMR, 5'-CAAGCAGACCTCCACGG-3'(配列番号12)
正常型mPolγ cDNAのみを増幅するプライマーセットは以下の通り。
wtPolg-TMF, 5'-CTGCCTTACTTGGAGGCG-3'(配列番号13)
wtPolg-TMF, 5'-CAAGCAGACCTCCACGT-3'(配列番号14)
wtPolg-TMF, 5'-CTGCCTTACTTGGAGGCG-3'(配列番号13)
wtPolg-TMF, 5'-CAAGCAGACCTCCACGT-3'(配列番号14)
その結果、変異mPolγmRNAは、ラインBの神経組織に強い発現が見られたが、それ以外の組織やラインCのマウスにおいては発現量が少ないことが判明した(図2)。
実施例3:欠失したミトコンドリアDNAの蓄積
ラインBとCの、それぞれ同腹のトランスジェニック(Tg)マウスと野生型(non-Tg)マウスに関して、各組織における短い異常なミトコンドリアDNA(mtDNA)をPCR-サザンブロット法によって検出した。ラインBのマウスは12週齢、ラインCのマウスは8週齢であった。具体的には、まず、DNA精製機(クラボウ)を用いて各組織からDNA(核とミトコンドリアのDNAを含む)を抽出した。次に、もしPCRの伸長時間が十分に長ければmtDNAの全長(16.6kbp)を増幅できるプライマーセットを用い、「短い伸長反応時間」のPCRを行った。欠失を含むために短くなったmtDNAのみが増幅され、そのPCR産物(3〜8kbp)をサザンブロットによって検出した。mtDNAの複製に重要なために欠失mtDNAでも必ず含んでいるはずのmtDNAのDループ部分を、サザンブロット解析のプローブとして用いた。「短い伸長反応時間」のPCRの条件は、以下の通りである。
ラインBとCの、それぞれ同腹のトランスジェニック(Tg)マウスと野生型(non-Tg)マウスに関して、各組織における短い異常なミトコンドリアDNA(mtDNA)をPCR-サザンブロット法によって検出した。ラインBのマウスは12週齢、ラインCのマウスは8週齢であった。具体的には、まず、DNA精製機(クラボウ)を用いて各組織からDNA(核とミトコンドリアのDNAを含む)を抽出した。次に、もしPCRの伸長時間が十分に長ければmtDNAの全長(16.6kbp)を増幅できるプライマーセットを用い、「短い伸長反応時間」のPCRを行った。欠失を含むために短くなったmtDNAのみが増幅され、そのPCR産物(3〜8kbp)をサザンブロットによって検出した。mtDNAの複製に重要なために欠失mtDNAでも必ず含んでいるはずのmtDNAのDループ部分を、サザンブロット解析のプローブとして用いた。「短い伸長反応時間」のPCRの条件は、以下の通りである。
反応液(25μL)の組成:DNA 0.1μg、0.8mM dNTP、1×Ex Taqバッファー、各0.4μM プライマー、Ex Taq 0.03U。
温度と時間:94℃×1分−(94℃×20秒−65℃×30秒−72℃×2.5分)×33サイクル。
mmtDNAdel-F, 5'-GAGGTGATGTTTTTGGTAAACAGGCGGGGT-3'(配列番号15)
mmtDNAdel-R, 5'-GGTTCGTTTGTTCAACGATTAAAGTCCTACGTG-3'(配列番号16)
温度と時間:94℃×1分−(94℃×20秒−65℃×30秒−72℃×2.5分)×33サイクル。
mmtDNAdel-F, 5'-GAGGTGATGTTTTTGGTAAACAGGCGGGGT-3'(配列番号15)
mmtDNAdel-R, 5'-GGTTCGTTTGTTCAACGATTAAAGTCCTACGTG-3'(配列番号16)
その結果、ラインBのTgマウスの神経組織において、欠失したmtDNAがより蓄積していることが判明した。ラインCのTgマウスにおいては、明らかな欠失mtDNAの蓄積は認めることができなかった。この結果は、遺伝子導入した変異Polγの発現量を反映していると考えられた(図3)。
実施例4:Tgマウスの活動量の長期記録
双極性障害(もちろんヒトの場合)の基本的な特徴は、1回以上の躁病エピソードであり、しばしば1回以上の大うつ病エピソードを伴う。すなわち、躁病エピソードと大うつ病エピソードを反復する。躁病および大うつエピソードの診断基準は、それぞれ明確に存在するが、いずれも生化学的なデータ(例えば、何らかの物質の血中濃度)ではない。「気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的...」といった基準[DSM-IV 精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書院 (1996)]であるために、そのままマウスに応用することはできない。そこで、躁病エピソードと大うつ病エピソードを反復する基本的病態をもとに、マウスの活動量が反復的に増減するかどうかを調べ、マウスが双極性障害様の異常を呈しているかどうかを判断することにした。
双極性障害(もちろんヒトの場合)の基本的な特徴は、1回以上の躁病エピソードであり、しばしば1回以上の大うつ病エピソードを伴う。すなわち、躁病エピソードと大うつ病エピソードを反復する。躁病および大うつエピソードの診断基準は、それぞれ明確に存在するが、いずれも生化学的なデータ(例えば、何らかの物質の血中濃度)ではない。「気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的...」といった基準[DSM-IV 精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書院 (1996)]であるために、そのままマウスに応用することはできない。そこで、躁病エピソードと大うつ病エピソードを反復する基本的病態をもとに、マウスの活動量が反復的に増減するかどうかを調べ、マウスが双極性障害様の異常を呈しているかどうかを判断することにした。
ラインBのTgマウスとその同腹の野生型マウス(non-Tgマウス)の各5匹(13〜14週齢)を、輪回し装置付きケージ(小原医科産業)に1匹ずつ入れ、輪回し行動量を測定した。12時間:12時間の明暗周期下で、摂餌や飲水は自由にできるようにした。
その結果、Tgマウス、non-Tgマウスとも、明暗周期に同調した24時間周期の活動リズムを示したが、この1日周期のリズム(いわゆるサーカディアンリズム)に加えてTgマウスには非常に長周期のリズムを示すことがわかった。図4に示すように、活発に動いた夜の、次の夜は余り動かなく、そのあと数日間(の夜)は活動量が低かった。しかし、その後、再び活発に動くようになる。図5に、1日ごとの輪回し回数をプロットした。このように、Tgマウスの活動量の増減が約5日おきに反復することが判明した。この周期の長さを正確に求めるために、Lomb-Scargle周期解析法を用いて輪回し量の周期性を求めたところ、110〜130時間周期であることがわかった(図6)。この結果から、このTgマウスは、自発的に活動の増減を繰り返すマウスであり、ヒトの双極性障害のモデル動物になりうると考えられた。
実施例5:常套的な行動学的解析
通常行われる行動学的な解析として、オープンフィールド・高架式十字迷路・強制水泳の各テストを、ラインBのTgマウスとその同腹のnon-Tgマウスに対して行った(図7)。新規環境における活動性を調べるオープンフィールドテストでは、Tgマウスの活動量は低く、1ヶ所に長時間とどまって動かないことがしばしば観察された。恐怖や不安の感じやすさを調べる高架式十字迷路テストでは、Tgマウスはクローズドアーム(壁があって下に落ちる心配がない)により長時間とどまっていた。このことから、Tgマウスは不安が強いと推測された。
通常行われる行動学的な解析として、オープンフィールド・高架式十字迷路・強制水泳の各テストを、ラインBのTgマウスとその同腹のnon-Tgマウスに対して行った(図7)。新規環境における活動性を調べるオープンフィールドテストでは、Tgマウスの活動量は低く、1ヶ所に長時間とどまって動かないことがしばしば観察された。恐怖や不安の感じやすさを調べる高架式十字迷路テストでは、Tgマウスはクローズドアーム(壁があって下に落ちる心配がない)により長時間とどまっていた。このことから、Tgマウスは不安が強いと推測された。
抗うつ薬のスクリーニングとして広く用いられている強制水泳テストを行った。つかまる所がないプールにマウスを入れると必死に泳ぐが、やがて(おそらく)絶望状態のため泳ぐのをやめて浮かぶにまかせて無動となる。その様子を測定した結果、Tgマウスは、non-Tgよりも無動になるまでに時間を要した。この結果は、うつ病モデル通常言われている他の動物モデルがより早く無動になる傾向とは反対であり、本Tgマウスがユニークなマウスであることがわかった。ヒトの場合、抗うつ薬は双極性障害のうつ状態を(対症療法的に)改善するが、抗うつ薬投与によって躁とうつの反復性を増強することが知られている。
Claims (7)
- mtDNA合成酵素をコードする遺伝子において181番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸がアラニンに置換されている遺伝子が導入されていることにより該遺伝子を脳特異的に発現することを特徴とするトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
- 欠失した短いmtDNAが脳内に蓄積している、請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
- 自発的に周期的な行動変化を呈する、請求項1又は2に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
- mtDNA合成酵素をコードする遺伝子において181番目のアミノ酸残基であるアスパラギン酸がアラニンに置換されている遺伝子を、脳特異的な発現を可能とするプロモーターの制御下に組み込んだ組み換えDNAが導入されている、請求項1から3の何れかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
- 脳特異的な発現を可能とするプロモーターが、calmodulin kinase II α(CAMKIIα)のプロモーターまたは神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーターである、請求項1から4の何れかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
- 非ヒト哺乳動物がマウスである、請求項1から5の何れかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
- 請求項1から6の何れかに記載の非ヒト哺乳動物を用いることを特徴とする、躁うつ病の治療剤及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
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