JP2004311257A - バッテリの内部インピーダンス推定装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】内部インピーダンス推定装置は、バッテリ電流及びバッテリ電圧をそれぞれ検出する電流センサ(21)及び電圧センサ(23)と電子制御ユニット(11)とから構成され、電子制御ユニットは、バッテリの充電状態を検出するSOC検出部(11b)と、バッテリ電流の変化度合いからバッテリ電流の過渡状態および定常状態を判定する電流状態判定部(11d)と、電流過渡状態でのバッテリ内部インピーダンスをバッテリ電圧及びバッテリ電流に基づき推定する第1推定部(11e)と、電流定常状態での内部インピーダンスをバッテリ電圧、バッテリ電流及びバッテリの充電状態に基づき推定する第2推定部(11f)とを備える。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、バッテリの内部インピーダンス推定装置に関し、特に、ハイブリッド車両などに搭載されたバッテリの内部インピーダンスを車両走行中に精度良く推定する内部インピーダンス推定装置に関する。
【0002】
【関連する背景技術】
モータ単独またはモータ及びエンジンの双方を駆動源とするハイブリッド車両では、車載バッテリやエンジン駆動の発電機からモータへ電力を供給して車両走行を行う一方、バッテリの充電状態(SOC)の低下時に発電機からバッテリへ電力を供給することによりバッテリを充電し、好適なバッテリの充電状態を維持するようにしている。
【0003】
しかしながら、バッテリ寿命には限界があり、バッテリ性能が過度に低下した場合にはバッテリを交換する必要がある。そのため、一般には、車両走行を停止させた状態で、専用の計測器を用いてバッテリの内部インピーダンスを計測し、この計測値に基づいてバッテリ交換の要否を判定するが、車両走行中に計測したデータに基づいて内部抵抗を検出する方法も知られている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の内部抵抗検出方法では、バッテリ放電時のバッテリの端子電圧Vd及び電流Idを計測し、その後のバッテリ充電中にバッテリの充電状態(SOC)が前回放電時のSOCと同一になったときに、バッテリの端子電圧Vc及び電流Icを再び測定し、演算式R=(Vd−Vc)/(Id−Ic)からバッテリの内部抵抗Rを算出するようにしている。
【0005】
【特許文献1】
特開2000−21455号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
図8は充電時のバッテリの等価回路であり、図8中、記号V、Vc及びVzは、バッテリ端子電圧(V)、セル起電力(V)及び内部インピーダンスZ(Ω)の両端電圧(V)をそれぞれ表し、ここで、セル起電力Vcはバッテリの充電状態(SOC)によって変化する。内部インピーダンスZに関し、記号r1、r2及びCは、バッテリ素材の抵抗(Ω)、化学反応により生じる抵抗(Ω)及び電気二重層容量(F)をそれぞれ表す。記号Iはバッテリ電流(A)である。
【0007】
図8の等価回路において、バッテリの内部インピーダンスZは下式で表される。
Z=r1+[1/{(1/r2)+(1/Xc)}]
ここで、Xc=−j×(1/2πfC)と複素数(j)表示でき、Xcはコンデンサ素子のインピーダンス、fはバッテリ電流の周波数(Hz)である。
【0008】
上式にf=0すなわち|Xc|=∞を代入すると|Z|=r1+r2になり、f=∞すなわち|Xc|=0を代入すると|Z|=r1になる。この様に、バッテリの内部インピーダンスZはバッテリ電流の周波数fによって変化する。
特許文献1に記載の内部抵抗検出方法により求まる内部抵抗は、図9に示す直線の傾きで表され、この傾き(内部抵抗)は、たとえば定速走行時のようにバッテリ電流が一定である電流定常状態と、たとえばエンジン始動時のようにバッテリ電流が変化する電流過渡状態とで異なる。図9中、電流定常状態での傾きは、充電時のバッテリの電流値Isc及び端子電圧Vscで決まる黒丸と放電時の電流値Isd及び端子電圧Vsdで決まる黒丸とを結ぶ実線の傾きZsに対応する一方、電流過渡状態での内部抵抗は、充電時の電流値Itc及び端子電圧Vtcで決まる白丸と放電時の電流値Itd及び端子電圧Vtdで決まる白丸とを結ぶ破線の傾きZtに対応している。
【0009】
この様に、バッテリの内部抵抗(傾き)は、バッテリ電流が定常状態であるか過渡状態であるかによって変化するが、特許文献1の内部抵抗検出方法によれば、内部抵抗の検出にあたってバッテリ電流が定常状態または過渡状態のいずれであるのか(すなわち電流周波数f)が考慮されず、このため、傾きZs、Ztの差異が示すように検出誤差が大きくなるという問題がある。
【0010】
また、特許文献1に記載の内部抵抗検出方法は、車両走行中のバッテリの充放電に伴ってバッテリの充電状態(SOC)が前回値と同一になったときにのみ内部抵抗を測定するので、図10に示すように内部抵抗の測定時間間隔が長くなる。
そこで、本発明は、バッテリの内部インピーダンスを車両走行中に精度良く推定することができる内部インピーダンス推定装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載のバッテリの内部インピーダンス推定装置は、バッテリの電流、電圧および充電状態をそれぞれ検出する電流検出手段、電圧検出手段およびSOC検出手段と、バッテリ電流の変化度合いからバッテリ電流の過渡状態を判定した場合にバッテリの電圧及び電流に基づき過渡状態でのバッテリの内部インピーダンスを推定する第1推定手段と、バッテリ電流の変化度合いからバッテリ電流の定常状態を判定した場合にバッテリの電圧、電流及び充電状態に基づき定常状態での内部インピーダンスを推定する第2推定手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
図8を参照して説明したように、バッテリの内部インピーダンスZは電気二重層容量Cを含むのでバッテリ電流の周波数fによって変化し、従って、電流周波数fを考慮せずに内部インピーダンスZを算出すると算出誤差が生じるが、本発明は、電流周波数fに対応するバッテリ電流の変化度合いの大小に応じて、バッテリの電圧、電流あるいはバッテリの電流、電流および充電状態から内部インピーダンスを推定するものとなっており、この様にバッテリ電流が過渡状態であるか定常状態であるかに応じて推定方法を変えることにより、複雑な演算を行うことなしにバッテリの内部インピーダンスを精度よく推定するようにしている。
【0013】
請求項2に記載の発明では、第1推定手段は、バッテリ電流の変化度合いが、定常状態での変化度合いより大きい下限値からこれより大きい上限値までの所定範囲内に入っている場合に、過渡状態を判定する。
この発明では、バッテリ電流の変化度合いが所定範囲内に入ると過渡状態が判定され、過渡状態の判定中に検出したバッテリの電圧及び電流に基づいて内部インピーダンスが推定される。この様に電流変化度合いの所定範囲を設けて電流周波数fの帯域を制限することにより、電気二重層容量Cに起因した内部インピーダンス変化が推定精度に及ぼす影響が抑制されて推定精度が向上する。また、電流周波数帯域を制限することにより、推定演算上の負担を軽減することができる。
【0014】
すなわち、電流周波数帯域に制限を設けない場合には、例えば電流周波数成分ごとの内部インピーダンスをフーリエ演算により求める必要があるので演算上の負担が増大すると共に演算に時間を要するが、本発明によれば、演算上の負担が少ないので、第1推定手段に対して要求される演算能力が緩和され、その分コスト低減が図られる。例えば、第1推定手段を車載コンピュータで構成した場合にも、精度良く短時間内に内部インピーダンスの推定を行うことができる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、第1推定手段は、過渡状態が判定されている間に複数組のバッテリ電圧値及びバッテリ電流値をサンプリングし、複数組のサンプリング値から定まるバッテリ電圧とバッテリ電流との関係(図4を参照)に基づき過渡状態での内部インピーダンスを推定することを特徴とする。
この発明によれば、簡易な演算により内部インピーダンスを精度良く推定することができ、従って、第1推定手段に対して要求される演算性能が緩和され、コスト低減が図られる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、第2推定手段は、定常状態が判定されている間に複数組のバッテリ電圧値、バッテリ電流値およびバッテリの充電状態をサンプリングし、前記複数組のサンプリング値を用いた重回帰分析によって定常状態での内部インピーダンスを推定することを特徴とする。
この発明によれば、バッテリの充放電に伴って時々刻々変化するバッテリの充電状態を考慮して内部インピーダンスが推定される。すなわち、バッテリの充電状態が、前回のバッテリ充電時または放電時でのバッテリの充電状態と同一になるのを待つことなく、定常状態が判定される度に推定が行われる。このため、バッテリの充電状態が同一になるまで待機する場合に比べ、推定実行時間間隔が短くなって推定実行頻度が高まり、その分推定精度が向上する。重回帰分析では、複数組のサンプリング値に基づいて回帰式中の未知数の値を求めることができ、内部インピーダンスの推定値が求まる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態によるバッテリの内部インピーダンス推定装置を説明する。
本実施形態の内部インピーダンス推定装置は、例えば、駆動源としての走行モータと発電専用のエンジンとを備えたハイブリッド車両に搭載される。
【0018】
図1に示すように、ハイブリッド車両は、変速機2及び差動装置3を介して左右の駆動輪4に連結された走行モータ1を備え、この走行モータ1にはインバータ回路6を介してニッケル水素バッテリなどからなるバッテリ5が接続されている。また、バッテリ5には、インバータ回路7を介して発電機8が接続され、この発電機8はエンジン9の出力軸9aに連結されている。
【0019】
ハイブリッド車両は電子制御ユニット(ECU)11を備え、ECU11の入力側は、アクセル操作量を検出するアクセルセンサ12、シフトレバー(図示略)のシフト位置を検出するシフト位置センサ13、車速を検出する車速センサ14、バッテリの充放電電流を検出する電流センサ21、バッテリ電圧を検出する電圧センサ23などのセンサ類に接続されている。一方、ECU11の出力側は、バッテリ5、インバータ回路6、7および発電機8ならびにエンジン9の燃料噴射弁や点火コイルなどに接続されている。
【0020】
ECU11は、アクセル操作量、車速、エンジン回転数等から算出した要求モータトルクに従ってバッテリ5から走行モータ1への電力供給を制御し、また、車速から車両の減速走行を判別すると、走行モータ1により回生された電力によるバッテリ5の充電を制御するようになっている。
更に、ECU11は、現在のバッテリ充電状態(バッテリ容量)を検出するSOC検出部11bを含み、バッテリ容量が所定値以下まで低下したときに、エンジン9を始動して発電機8を作動させ、発電機8の発電電力によるバッテリ5の充電を制御するものになっている。
【0021】
そして、ECU11は、バッテリ電流検出手段としての電流センサ21及びバッテリ電圧検出手段としての電圧センサ23と共に、内部インピーダンス推定装置を構成している。すなわち、ECU11は、バッテリの内部インピーダンスを推定する推定部11cを含む。
本発明の内部インピーダンス推定装置は、バッテリ電流の変化度合いに基づきバッテリ電流が過渡状態にあるか或いは定常状態にあるのかを判定し、判定結果に応じた推定手法で内部インピーダンスを推定する点に特徴がある。
【0022】
この特徴に関連して、ECU11の推定部11cは、電流センサ21が検出したバッテリ電流の変化度合いからバッテリ電流が過渡状態にあると判定したときに過渡状態信号Stを出力する電流状態判定部11dを有し、この判定部11dは、バッテリ電流の変化度合いからバッテリ電流の定常状態を判定したときに定常状態信号Ssを出力するようになっている。また、推定部11cには、電流状態判定部11dから過渡状態信号Stおよび定常状態信号Ssをそれぞれ入力する第1及び第2推定部11e、11fが設けられている。
【0023】
過渡状態信号Stに応じて、第1推定部11eは、電流センサ21が検出したバッテリ電流および電圧センサ23が検出したバッテリ電圧から、過渡状態におけるバッテリ5の内部インピーダンスを推定するものであり、電流状態判定部11dと共に第1推定手段を構成している。
本実施形態の第1推定部11eは、バッテリ電流の変化率(変化度合い)が所定範囲内に入っている場合に過渡状態を判定するようになっており、この所定範囲は、定常状態の変化度合いの上限値KSHよりも大きい下限値KTLとこれよりも大きい上限値KTHとにより定められる。この様に、電流変化度合いの所定範囲を設けることによりバッテリ電流の周波数帯域が制限され、バッテリ5の電気二重層容量Cに起因した内部インピーダンス変化の影響が抑制される。この結果、第1推定部11eによれば、バッテリ電流の過渡状態におけるバッテリ5の内部インピーダンスZの推定を精度良く行える。
【0024】
より具体的には、第1推定部11eは、過渡状態信号Stを入力している間に複数組のバッテリ電流値及びバッテリ電圧値をサンプリングし、複数組のサンプリング値から定まるバッテリ電圧とバッテリ電流との関係(図4)に基づいて過渡状態における内部インピーダンスZを推定する。
この様な推定を行うため、第1推定手段としてのECU11は、図2に示した内部インピーダンス推定ルーチンを実施する。
【0025】
図2の推定ルーチンでは、今回周期を含む2以上の制御周期でそれぞれ検出されたバッテリ電流値に基づき電流変化率KTが算出され、この算出値KTが許容下限値KTL以上かつ許容上限値KTH以下であるか否かが判別される(ステップS12)。そして、この判別結果が肯定(Yes)すなわち電流変化率KTが所定範囲内に入っていれば(図3を参照)、バッテリ電流が過渡状態にあると判別される。
【0026】
この場合、過渡状態への突入時点(ステップS12での判別結果が最初に肯定になったとき)に起動されたタイマ(図示略)による計時時間に基づき、過渡状態への突入時点から所定時間TTが経過したか否かが判別され(ステップS14)、この判別結果が否定(No)すなわち所定時間TTが未だ経過していなければ、バッテリ端子電圧Vとバッテリ電流Iを計測して記憶し(ステップS16)、制御フローはステップS12に戻る。
【0027】
その後、所定時間TTが経過すると、過渡状態への突入時点以後に図2の推定ルーチンとは別の計測ルーチンで周期的に計測されたバッテリの充電状態SOCに基づき、過渡状態への突入時点以降のSOC変化量が所定値(例えば0.3%)以下であるか否かが判定される(ステップS18)。この判定は、内部インピーダンスの推定に影響を及ぼすような過大なSOC変化があった場合に、その様なSOC変化を伴う車両走行中に得たサンプリング値に基づく推定を禁止するために行われる。
【0028】
通常の車両走行状態であればステップS18の判別結果は肯定になるので、過渡状態への突入時点以後にステップS16で順次サンプリングされたバッテリ電流の最大値及び最小値を調べ、次に、最大電流値と最小電流値との差が所定値以上であるか否かが判別される(ステップS20)。そして、ステップS20での判別結果が肯定、すなわちサンプリング中に規定以上の電流変化が呈されてバッテリ電流が過渡状態にあったことが判断されると、ステップS16でのサンプリング回数がn回以上であるか否かが判定される(ステップS22)。
【0029】
そして、ステップS22での判別結果が肯定、すなわちバッテリ電圧及び電流のサンプリングデータ数がn組例えば10組以上であれば、過渡状態での内部インピーダンスを推定するのに充分なデータが取得されたとの判定の下で、n組以上のバッテリ電圧及び電流のサンプリング値に基づき最小二乗法によりバッテリ電圧とバッテリ電流との関係を表す直線を求め(図4を参照)、この直線の傾きを過渡状態での内部インピーダンスの推定値Ztとして求める(ステップS24)。
【0030】
図2の推定ルーチンにおいて、ステップS12またはS20での判別結果が否定であるとバッテリ電流が過渡状態にないと判定され、また、ステップS18での判別結果が否定であるとSOC変化量が過大であって推定誤差を生じるおそれがあると判別され、ステップS22での判別結果が否定になるとサンプルデータ数が不足していると判別され、いずれの場合にも制御フローはステップS12に戻る。なお、必要であれば、ステップS12に戻る前にサンプルデータが破棄される。
【0031】
以上のようにして、フーリエ演算などの複雑な演算を行うことなく、簡易な演算により過渡状態での内部インピーダンスZtを精度良く推定することができる。なお、バッテリ電流の変化度合いの所定範囲を狭くすると推定精度が向上し、また、この所定範囲を広くすると過渡状態が判定される頻度が高まって推定をより頻繁に行える。
【0032】
一方、第2推定部11fは、電流センサ21が検出したバッテリ電流、電圧センサ23が検出したバッテリ電圧およびSOC検出部11bが検出したバッテリの充電状態(SOC)から、定常状態におけるバッテリ5の内部インピーダンスZsを定常状態信号Ssに応じて推定するもので、電流状態判定部11dと共に第2推定手段を構成している。
【0033】
本実施形態の第2推定部11fは、定常状態信号Ssを入力している間に複数組のバッテリ電流値、バッテリ電圧値およびバッテリ容量値(充電状態)をサンプリングし、複数組のサンプリング値を用いた重回帰分析によって、バッテリ電流が定常状態にあるときのバッテリ5の内部インピーダンスを推定する。
この様な推定を行うため、第2推定手段としてのECU11は、図5に示した内部インピーダンス推定ルーチンを実施する。
【0034】
図5の推定ルーチンでは、今回周期を含む2以上の制御周期でそれぞれ検出されたバッテリ電流値に基づき電流変化率KSが算出され、この算出値KSが許容上限値KSH(例えば単位時間あたり0.5A)以下であるか否かが判別され(ステップS32)、この判別結果が肯定すなわちバッテリ電流が定常状態にあれば、バッテリの電流、電圧および容量(充電状態)のデータがサンプリングされる(ステップS34)。図6中、記号I0、V0及びS0は電流定常状態でサンプリングされた電流、電圧および充電状態の一組のサンプリング値を表し、記号I1、V1及びS1は次の定常状態での一組のサンプリング値を表す。記号I2、V2及びS2ならびにI3、V3及びS3についても同様である。
【0035】
そして、ステップS36では、n組(例えば10組)のサンプリングデータの取得が完了したか否かを判定し、この判定結果が肯定すなわち電流定常状態でのバッテリ5の内部インピーダンスを推定するのに足るデータの取得が完了すれば、重回帰分析による内部インピーダンスの推定が行われる(ステップS38)。
本実施形態の重回帰分析では、重回帰式V=Vc0+Kv・SOC+Z・Iが用いられる。この重回帰式は、バッテリ端子電圧Vを目標変数とし、初期セル起電力Vc0とバッテリ電流Iとバッテリの充電状態SOCとを説明変数とし、また、起電力係数Kv及びバッテリ内部インピーダンスZを編回帰係数とするものになっている。
【0036】
上記の重回帰式は、セル起電力Vcとバッテリの充電状態SOCとの間に線形関係(図7を参照)が成立するような走行条件下で得られる関係式(セル起電力Vc=初期起電力Vc0+起電力係数Kv×SOC)を、バッテリの等価回路から導かれる式V=Vc+Z・Iに代入することにより得ることができる。
重回帰分析では、n組のサンプリング値V、I及びSOCに基づいて初期セル起電力Vc0、起電力係数Kv及び内部インピーダンスの推定値Zを求める。
【0037】
以上説明したように、バッテリの充電状態SOCを考慮して電流定常状態でのバッテリ内部インピーダンスZsを推定するので、バッテリの充電状態が、前回のバッテリ充電時または放電時でのバッテリの充電状態と同一になるのを待つことなく推定を行うことができる。すなわち、電流定常状態でのバッテリ内部インピーダンスZsの推定を、バッテリの充電状態の変化が大きくなるような条件を含む種々の車両運転条件の下で実施することができる。この結果、推定実行時間間隔が短くなって推定実行頻度が高まり、その分推定精度が向上する。
【0038】
なお、上記の重回帰分析による推定精度は、重回帰分析によって求めた初期セル起電力Vc0、起電力係数Kv及び内部インピーダンスZと実測値SOC、Iとを重回帰式に代入することにより求まる算出値Vを実測値Vと比較することにより検証することができる。
さて、上述のようにして得た電流過渡状態におけるバッテリ内部インピーダンスの推定値Zt及び電流定常状態での内部インピーダンスの推定値Zsは、ECU11の劣化判定部11gに供給され、劣化判定部11gでは、推定値Ztと電流過渡状態用の劣化判定値とが比較される一方、推定値Zsと電流定常状態用の劣化判定値とが比較される。そして、比較結果に基づきバッテリ5が劣化したことを判定すると、劣化判定部11gは、車両のインストルメントパネルなどに設置された表示ランプなどからなる表示部15にバッテリ劣化信号Sbを送出し、表示部15はバッテリ劣化表示により、運転者にバッテリ5の性能が劣化したことを知らせる。
【0039】
以上で本発明の一実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態のものに限定されず、種々に変形可能である。
例えば、上記実施形態では、本発明をハイブリッド車両に搭載されたバッテリの内部インピーダンスの推定に適用した場合について説明したが、本発明は、ハイブリッド車両に限らず、例えばエンジンを駆動源とする通常の車両に搭載されたバッテリの内部インピーダンスの推定にも適用可能である。また、ハイブリッド車両の構成も図1に示したものに限定されるものではない。
【0040】
また、図2や図5に示した推定ルーチンの判定手順や判定値などは例示であって、バッテリの仕様などに応じて適宜変更可能である。
【0041】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明は、バッテリの電流、電圧および充電状態をそれぞれ検出する電流検出手段、電圧検出手段およびSOC検出手段と、バッテリ電流の変化度合いからバッテリ電流の過渡状態を判定した場合にバッテリの電圧及び電流に基づき過渡状態でのバッテリの内部インピーダンスを推定する第1推定手段と、バッテリ電流の変化度合いからバッテリ電流の定常状態を判定した場合にバッテリの電圧、電流及び充電状態に基づき定常状態での内部インピーダンスを推定する第2推定手段とを備えるので、バッテリ電流が過渡状態であるか定常状態であるかに応じて推定方法を変えることにより、複雑な演算を行うことなしにバッテリの内部インピーダンスを精度よく推定することができる。
【0042】
請求項2に記載の発明では、第1推定手段は、バッテリ電流の変化度合いが、定常状態での変化度合いより大きい下限値からこれより大きい上限値までの所定範囲内に入っている場合に、過渡状態を判定するので、内部インピーダンスの推定に供されるバッテリ電流の周波数帯域を制限することができ、これによりバッテリの充電状態に起因した内部インピーダンス変化が推定精度に及ぼす影響を抑制して推定精度を向上させることができ、また、推定演算上の負担が軽減されるので、第1推定手段に対して要求される演算能力が緩和され、その分コスト低減が図られる。
【0043】
請求項3に記載の発明では、第1推定手段は、過渡状態が判定されている間に複数組のバッテリ電圧値及びバッテリ電流値をサンプリングし、複数組のサンプリング値から定まるバッテリ電圧とバッテリ電流との関係に基づき過渡状態での内部インピーダンスを推定するので、簡易な演算により内部インピーダンスを精度良く推定することができ、第1推定手段に対して要求される演算性能を緩和してコストを低減することができる。
【0044】
請求項4に記載の発明では、第2推定手段は、定常状態が判定されている間に複数組のバッテリ電圧値、バッテリ電流値およびバッテリの充電状態をサンプリングし、前記複数組のサンプリング値を用いた重回帰分析によって定常状態での内部インピーダンスを推定するので、バッテリ内部インピーダンスの推定に際してバッテリの充放電に伴って変化するバッテリの充電状態が考慮され、従って、バッテリの充電状態が、前回のバッテリ充電時または放電時でのバッテリの充電状態(バッテリ容量)と同一になるのを待つことなく、定常状態が判定される度に推定を行うことができ、推定実行時間間隔が短くなって推定実行頻度が高まり、その分推定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態によるバッテリの内部インピーダンス推定装置を、同装置が搭載されるハイブリッド車両の関連要素と共に示す概略ブロック図である。
【図2】電流過渡状態において、図1に示したECUにより実行される内部インピーダンス推定ルーチンのフローチャートである。
【図3】電流過渡状態におけるバッテリ電流の時間的変化の一例を、電流変化率の所定範囲と共に示す図である。
【図4】電流過渡状態でのバッテリ内部インピーダンスの推定に用いられる最小二乗直線を例示する図である。
【図5】電流定常状態において、図1のECUが実行する内部インピーダンス推定ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】電流定常状態を含む、バッテリの電流、電圧および充電状態(バッテリ容量)の時間的変化の一例を示す図である。
【図7】セル起電力Vcとバッテリの充電状態SOCとの関係を示す図である。
【図8】充電時のバッテリの等価回路を示す図である。
【図9】従来の内部抵抗検出方法における、電流定常状態および電流過渡状態のそれぞれでのバッテリ電流とバッテリ端子電圧との関係を示す図である。
【図10】従来の内部抵抗検出方法における測定時間間隔を示す図である。
【符号の説明】
1 走行モータ
5 バッテリ
8 発電機
9 エンジン
11 電子制御ユニット(ECU)
11b SOC検出部(SOC検出手段)
11c 推定部
11d 電流状態判定部
11e 第1推定部
11f 第2推定部
21 電流センサ(バッテリ電流検出手段)
23 電圧センサ(バッテリ電圧検出手段)
Claims (4)
- バッテリ電流を検出する電流検出手段と、
バッテリ電圧を検出する電圧検出手段と、
バッテリの充電状態を検出するSOC検出手段と、
前記バッテリ電流の変化度合いから前記バッテリ電流の過渡状態を判定した場合に前記バッテリ電圧及び前記バッテリ電流に基づき前記過渡状態でのバッテリの内部インピーダンスを推定する第1推定手段と、
前記バッテリ電流の変化度合いから前記バッテリ電流の定常状態を判定した場合に前記バッテリ電圧、前記バッテリ電流及び前記バッテリの充電状態に基づき前記定常状態での前記内部インピーダンスを推定する第2推定手段と
を備えることを特徴とするバッテリの内部インピーダンス推定装置。 - 前記第1推定手段は、前記バッテリ電流の変化度合いが、前記定常状態での変化度合いより大きい下限値からこれより大きい上限値までの所定範囲内に入っている場合に、前記過渡状態を判定することを特徴とする請求項1に記載のバッテリの内部インピーダンス推定装置。
- 前記第1推定手段は、前記過渡状態が判定されている間に複数組のバッテリ電圧値及びバッテリ電流値をサンプリングし、前記複数組のサンプリング値から定まるバッテリ電圧とバッテリ電流との関係に基づき前記過渡状態での前記内部インピーダンスを推定することを特徴とする請求項2に記載のバッテリの内部インピーダンス推定装置。
- 前記第2推定手段は、前記定常状態が判定されている間に複数組のバッテリ電圧値、バッテリ電流値およびバッテリの充電状態をサンプリングし、前記複数組のサンプリング値を用いた重回帰分析によって前記定常状態での前記内部インピーダンスを推定することを特徴とすることを特徴とする請求項1、2または3に記載のバッテリの内部インピーダンス推定装置。
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