JP2004307738A - ポリエステル組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】新規な無機・有機複合化合物をポリエステル中でナノサイズに微分散させることによって、ガラス転移点や融点の上昇による耐熱性向上、剛性・破壊強度や寸法安定性等の熱的・機械的特性を飛躍的に改善されたポリエステル組成物を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸を主とする二官能性酸成分と少なくとも一種のグリコール成分よりなるポリエステルに、ポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(POSS)が分散してなり、かつポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(POSS)の平均分散径が500nm以下であることを特徴とするポリエステル組成物。
【選択図】 なし
【解決手段】ジカルボン酸を主とする二官能性酸成分と少なくとも一種のグリコール成分よりなるポリエステルに、ポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(POSS)が分散してなり、かつポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(POSS)の平均分散径が500nm以下であることを特徴とするポリエステル組成物。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(Polyhedral Origometric SilSesquioxane、別名籠状シルセスキオキサン、以下POSSという)を含有するポリエステル組成物に関する。さらに詳しくは、融点・ガラス転移点温度などの熱的特性が改善され、かつ剛性、破壊強度、寸法安定性などの機械的特性が優れたポリエステル組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
今日工業的に製造されているポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(以下PETという)を主成分とするポリエステルは優れた物理的、化学的特性を有しており、繊維、フィルム、およびその他の成型品として広く使用されている。このポリエステルの優れた各種特性を生かして、繊維、フィルム、およびその他の成型品の特性を更に向上させることが望まれている。
【0003】
ポリエステルに無機微粒子を配合・分散させることによって、フィルム用途における易滑性、耐摩耗性、耐スクラッチ性等の向上、また、繊維用途での艶消し・透け防止や発色性の向上、耐摩耗性や力学特性の改善、さらには複合材料用途等においてもマトリックス中に混合して圧縮強さや引っ張り強さ等の物性を改良することが行われている。例えば、直鎖状又は分岐の形状を有するコロイダルシリカ粒子をポリエステルに分散させて滑り性、耐摩耗性、耐スクラッチ性に優れたフィルム、繊維を得るのに適したポリエステル樹脂(特許文献1)、粒径が0.3μm以下の四窒化ケイ素粒子又は炭化ケイ素粒子をポリエステルに添加して力学的特性(寸法安定性、耐熱性)を改善し産業用途に適したポリエステル繊維を得る方法(特許文献2)、さらには繊維中に平均粒径0.002μm以上0.50μm以下の固体(シリカ)微粒子を特定量含有させるこによって、高タフネスでかつ、耐屈曲摩耗性および耐屈曲疲労性に優れた繊維(特許文献3)等を得る試みも行われている。
【0004】
これら以外にもポリエステルに各種無機微粒子を配合して、特に力学的特性を改善しようという試みが多数なされてきたものの、工業的に十分に満足のいくものは未だ得られていない状況にある。この原因としては使用する粒子そのものの分散性が不十分であったり、ポリエステル製造時に凝集したりして結果的にポリエステル中に存在する粒子サイズが大きいために、分子レベルでポリマーに作用することが困難であると考えられる。
【0005】
近年、POSSを適用して各種ポリマーの耐熱性や粘弾性特性を向上させる試みが行われている。例えば、ポリメタメチルアクリレート(PMMA)やポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)などのポリマーにPOSSを配合して、それぞれのポリマーにおける耐熱性や粘弾性特性を向上させることが可能である等の報告がなされている(非特許文献1)。また、POSSのポリエステルへの適用についても試みられている(非特許文献2)が、ポリエステル中におけるPOSSの分散径は数ミクロン以上であり、ヤング率などの物理的特性の改善は全く見られない。
【0006】
このような背景から、本発明はポリエステル中にナノサイズレベルで分散可能な物質として、新たに分子レベルのサイズを有するPOSSを見出すと共に、該POSSをポリエステル中でナノサイズに微分散させることによって、熱的特性、物理的特性が従来よりも著しく改善されたポリエステルを得ることができたものである。
【0007】
【特許文献1】
特開平05−078557号公報
【0008】
【特許文献2】
特開平07−138812号公報
【0009】
【特許文献3】
特開平07−11512号公報
【0010】
【非特許文献1】
Macromolecules vol.29 p7302
【0011】
【非特許文献2】
第224回米国化学会国際会議予稿集POLY191(2002)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、新規な無機・有機複合化合物をポリエステル中でナノサイズに微分散させることによって、ガラス転移点や融点の上昇による耐熱性向上、剛性・破壊強度や寸法安定性等の熱的・機械的特性を飛躍的に改善されたポリエステル組成物を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、ジカルボン酸を主とする二官能性酸成分と少なくとも一種のグリコール成分よりなるポリエステルに、下記一般式(A)または(B)式で表されるPOSSが分散してなり、かつPOSSの平均分散径が500nm以下であることを特徴とするポリエステル組成物によって達成できる。
(RSiO1.5)n (A)
(RSiO1.5)l(RXSiO)k (B)
[一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、Rは全て同一でも複数の基で構成されていても良い。一般式(B)においてXはOR1(R1は水素原子、アルキル基、アリール基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rの中から選ばれる少なくとも一つの官能基であり、(RXSiO)k中のXは全て同じでも異なっていても良い。又(RXSiO)k中の2個のXが互いに連結して下記一般式(C)で表される連結構造を形成しても良い。nは6から14の整数、lは2から12の整数、kは2又は3である。
【0014】
【化2】
【0015】
(ここでY及びZは、Xと同じ基の群の中から選ばれ、YとZは同じでも異なっていても良い。)
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明でいうポリエステルとは、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体であり、ジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホソホニウムイソフタル酸等の芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらの誘導体を挙げることができる。またジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのような芳香族、脂肪族、脂環族のジオール化合物を挙げることができる。
【0017】
本発明で好ましく用いることのできるポリエステルとしては、PET、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(以下2,6−PENという)、ポリプロピレンテレフタレート(以下PPTという)、ポリブチレンテレフタレート(以下PBTという)であり、より好ましくはPETである。
【0018】
また、本発明で用いるポリエステルは、発明の主旨を損ねない範囲で他の第3成分が共重合されていても良い。さらに、本発明のポリエステルは艶消剤、難燃剤、滑剤等の添加剤を少量含有しても良い。
【0019】
本発明のポリエステルの固有粘度(以下IVという)は、0.55以上であることが好ましい。IVを0.55以上とすることによって、十分な強度の各種成形体を得られるだけでなく、ポリエステル中のオリゴマー含有量が少ないため、成型時の工程安定性が良好となる。
【0020】
一方、IVの上限は特になく、必要に応じて固相重合を用いて高分子量化してもよいが、成形加工性の観点から、IVは1.5未満であることが好ましい。
【0021】
次に、本発明におけるPOSSについて説明する。シルセスキオキサンとはTレジンとも呼ばれるもので、通常のシリカが(SiO2)の一般式で表されるのに対し、シルセスキオキサンは(RSiO1.5)で表される化合物であり、通常はテトラエトキシシランのようなテトラアルコキシシランの1つのアルコキシ基をアルキル基またはアリール基に置き換えた化合物の加水分解−重縮合で合成されるポリシロキサンであり、分子配列の形状として、代表的には無定形、ラダー状、籠状(完全縮合ケージ状)や完全縮合ケージ状からケイ素原子が一原子少ないタイプや一部ケイ素−酸素結合が切断されたタイプが知られている。
【0022】
本発明に用いられるPOSSは前記分子配列形状のうち、籠状のもの、またはその部分開裂構造体であるが、籠が閉じた構造のシルセスキオキサンでも、籠の一部が開いた構造のシルセスキオキサンでもよい。したがって、本発明には多様な構造の籠状シルセスキオキサン、またはその部分開裂構造体が使用可能であり、その具体例としては、例えば以下の一般式(A)及び一般式(B)で示される化合物が挙げられる。
(RSiO1.5)n (A)
(RSiO1.5)l(RXSiO)k (B)
[一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、Rは全て同一でも複数の基で構成されていても良い。一般式(B)においてXはOR1(R1は水素原子、アルキル基、アリール基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rの中から選ばれる少なくとも一つの官能基であり、(RXSiO)k中のXは全て同じでも異なっていても良い。又(RXSiO)k中の2個のXが互いに連結して一般式(C)で表される連結構造を形成しても良い。
【0023】
【化3】
【0024】
Y及びZはXと同じ基の群の中から選ばれ、YとZは同じでも異なっていても良い。nは6から14の整数、lは2から12の整数、kは2又は3である。]
一般式(A)で表される籠状シルセスキオキサンの具体例としては、(RSiO1.5)6の化学式で表されるタイプ(下記式(D))、(RSiO1.5)8の化学式で表されるタイプ(下記式(E))、(RSiO1.5)10の化学式で表されるタイプ(下記式(F))、(RSiO1.5)12の化学式で表されるタイプ(下記式(G))がある。
【0025】
【化4】
【0026】
【化5】
【0027】
また、一般式(B)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体の具体例としては、以下の構造が例示される。例えば、一般式(D)の一部が脱離した構造であるトリシラノール体あるいはそれから誘導される(RSiO1.5)4(RXSiO)3の化学式で表されるタイプ(下記一般式(H):前記トリシラノール体はX=OHの場合)、一般式(H)で示される3個のXのうち2個のXが一般式(C)で示される構造で連結される部分開裂構造体(RSiO1.5)4(RXSiO)3の化学式で表されるタイプ、一般式(D)の一部が開裂したジシラノール体あるいはそれから誘導される(RSiO1.5)6(RXSiO)2の化学式で表されるタイプ(下記一般式(I):前記ジシラノール体は一般式(H)においてX=OHの場合)等が挙げられる。一般式(H)及び(I)中の同一ケイ素原子に結合しているRとXあるいはYとZはお互いの位置を交換したものでもよい。
【0028】
【化6】
【0029】
(D)〜(I)中のRとしては1種類で籠状シルセスキオキサンを構成しても良いし、2種類以上の置換基で構成しても良い。具体的なRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、トリフルオロプロピル基、フェニル基、トリメチルシロキシ基の他、1,2−プロパンジオールなどのジオール、アミノプロピル基などのアミノ基、グリシジル基などのエポキシ基、メチルプロピオネート基などのエステル基、アクリル基、メタクリル基、イソシアネート基、ビニル基、ノルボネニルエチル基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。 本発明で用いられるPOSSはポリエステルの融点をTm(℃)としたとき、Tp=Tm+30(℃)で定義される温度での熱重量分析法における重量減少率が、5重量%以下であることが好ましい。また、一般にポリエステルは融点+30℃程度の高温で成形されるため、含有されるPOSSがこの温度で十分な耐熱性を持つことが好ましい。
【0030】
TpにおけるPOSSの重量減少率が5重量%以下であるとポリマーの重合時、あるいは混練、溶融成形時でのPOSSの飛散や劣化が少なく、所望の割合でPETに導入することが容易となる。また、最終製品に熱劣化物の残存がなく、製品諸特性の低下を抑制できる。
【0031】
このような観点から、1分子のPOSSを構成するRの平均分子量が60以上であるPOSSが好ましく、例えば、1つのPOSS分子を構成するRの70%以上がペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、フェニル基、トリメチルシロキシ基、ノルボネニルエチル基のうちの1つまたは2つ以上から構成されるPOSSが好ましく用いられる。
【0032】
具体的なPOSSとしては、オクタシクロペンチルPOSS、オクタシクロヘキシルPOSS、オクタフェニルPOSS、オクタトリメチルシロキシPOSS、トリスノルボネニルエチルシクロヘキシルPOSS、トリスノルボネニルエチルシクロペンチルPOSS(以下TNCP−POSSという)、トリスノルボネニルエチルシクロイソブチルPOSS、グリシジルイソオクチルPOSS(以下GIO−POSSという)、メタクリルイソオクチルPOSSなどが挙げられる。 また、ポリエステル中にPOSSを分子レベルで分散するためには、本発明のPOSSの融点は、Tp以下であることが好ましく、さらにポリマーの成形温度でPOSSが液体であることがより好ましい。具体的には、構成するSiの数が異なるPOSS分子の混合体であるケージミクスチャーを挙げることができる。ケージミクスチャーの場合には、POSSが結晶構造を作りにくく、分子同士のパッキング性が低下するために融点が低くなりやすく、好ましい。
【0033】
また、1つのPOSS分子が複数の種類のRを有するPOSSの集合体や、Rの種類が異なるPOSS分子の集合体の場合にもPOSS同士のパッキング性が低下するため、結晶化が阻害されることから融点が低下しやすく、好ましい。具体的なPOSSとしては、イソオクチルPOSSのケージミクスチャー(以下IOCG−POSSという)、フェネチルPOSSのケージミクスチャー(以下PECG−POSSという)等を挙げることができる。
【0034】
しかしながら、本発明はPOSSの融点がTp以下である場合に限定されるものではない。POSSがTpで固体であってもその粒子径が十分細かく、ポリマー中の分散粒子径が500nm以下であれば熱的・機械的特性の向上は可能である。この場合にはポリエステルにPOSSを添加する前に粒子径を細かくするための特別の工程を必要とする。
【0035】
本発明のPOSSはポリエステル中で微分散し、その平均分散径が500nm以下であることが必要である。この平均分散径が500nm以下であると、ガラス転移点温度や融点の上昇、さらにヤング率の向上など、熱的・機械的特性の改善を達成することができる。
【0036】
また、POSSの平均粒径はPOSSを構成する分子の種類や量に依存するが、ポリエステル中での分散性は、微細であるほど好ましく、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。下限は特にないが、POSS分子の径より細かくすることは実質的に不可能である。
【0037】
なお、ポリエステルが有する熱的・機械的特性を改善・向上させる理由は明らかではないが、分子レベルまで微細化したPOSS粒子がポリエステル分子鎖の分子運動を抑制しているものと考えられる。すなわち、POSSがポリエステル分子鎖を可逆的に吸脱着する、いわゆる物理的架橋剤として作用するが、この作用は可逆的な架橋であるため、共有結合による架橋と異なってゲル化のような成形加工性を阻害するような問題を引き起こすことなく分子鎖の運動性を低下させることが可能であり、分子の運動性が低下するために融解時の緩和が阻害される。その結果、エントロピー変化の低下によって融点の上昇、また、分子運動の阻害による自由体積の減少のためにガラス転移点の上昇やヤング率の向上に寄与しているものと推定される。また、物理的架橋効果は収縮率の低下に貢献し、材料の寸法安定性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0038】
POSSの分散性は、詳しく後述するように、TEM(透過型電子顕微鏡写真)で評価することが可能である。
【0039】
本発明のポリエステル中でのPOSS含有量は20重量%以下であることが好ましい。20重量%以下であるとポリエステル中でのPOSS自体の凝集発生がなく、分散性が良好であり、所望の熱・機械的特性をもつポリエステルを得ることが可能となる。
【0040】
一方、POSS含有量が1重量%以上であるとポリマー分子鎖に物理架橋剤として作用するPOSS分子の量が十分となり、熱的・機械的特性が向上するので好ましく、POSS含有量が3重量%以上であるとさらに好ましい。
【0041】
なお、POSSの合成法としては例えばBrownらのJ.Am.Chem.Soc.1965,87,4313や、FeherらのJ.Am.Chem.Soc.1989,111,1741あるいはOrganometallics 1991,10,2526などが報告されている。例えばシクロヘキシルトリエトキシシランを水/メチルイソブチルケトン中で触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキサイドを加えて反応させることにより結晶として得られる。
【0042】
また、一般式化6、または化7で表されるトリシラノール体及びジシラノール体は、完全縮合型のPOSSを製造する際に同時に生成するか、完全縮合型のPOSSからトリフルオロ酸やテトラエチルアンモニウムヒドロキサイドによって部分切断することにより合成できることが、FeherらのChem.Commun.,1998,1279によって報告されている。
【0043】
一方、POSSの構造解析としては、例えば、LarssonらのAlkivKemi,16,209(1960)によってX線構造解析が行われ、構造の同定が行われている。また、これらのPOSSは、簡易的に赤外吸収スペクトルやNMRを用いて同定を行うことができ、例えばVogtらのInnorag.Chem.2,189(1963)によって示されている。
【0044】
本発明のポリエステル中でのPOSSの形態は、実質的に化学反応を伴わずに分散している状態でもよいし、または化学反応によってポリエステル分子鎖に共重合されていてもよい。
【0045】
なお、共重合による場合にはRの少なくとも1つがポリエステルのカルボン酸または水酸基と反応しうるものを有するPOSSを使用する。例えば、化2におけるRで表されている残基のうちPOSSのSiと反対側の末端に反応性官能基を有することが好ましく、具体的にはRの末端に水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボン酸基などが存在するPOSSを使用することが好ましい。なお、エステル交換による重合反応でPOSSをポリエステル分子鎖に導入する場合には、メトキシやエトキシなどのエステル基を有するPOSSを用いることも可能である。R末端の官能基の数はポリエステル分子鎖の末端にPOSSを導入するか分子鎖の途中に導入するかによって適宜選ぶことが可能であるが、反応効率の観点からは二官能性のRを持つPOSSが好ましい。また、エポキシ末端を有するPOSSが反応効率や副生成物を生じないなどの観点から、好ましく用いられる。
【0046】
なお、反応に関わるRの数の制限はないが、POSS1分子あたりの官能基数は、1つまたは2つであることが好ましい。例えば、Rの末端が1官能性の場合には、反応に関わる可能性があるRは1つまたは2つが好ましく、Rの末端が2官能性の場合には反応に関わるRは1つであることが好ましい。エポキシ基の場合はこれを2官能性基とみなし、POSS1分子あたりエポキシ基一つを有するPOSSが好ましい。
【0047】
本発明においてPOSSをポリエステルに導入する方法としては、(1)重合反応が完結するまでにPOSSをポリエステル反応物中に添加する方法、(2)ポリエステル溶融ポリマー中へ添加し、混練する方法、(3)所定割合のポリエステルとPOSSを共溶媒に25〜50℃の温度条件下で溶解し、得られた溶液を両者の貧溶媒中に投入し、沈殿物を得る。得られた沈殿物の溶媒を除去した後、例えば、2軸押出機に供給して樹脂ペレットを得るなどの方法が挙げられる。
【0048】
POSSをポリエステル中に化学反応を伴わずに分散する場合には、(3)による方法が好ましく、また、化学反応を伴って共重合体として導入する場合には、(1)による方法が好ましい。
【0049】
本発明のポリエステル組成物の好ましい製造法としては、先ず所定割合のポリエステルとPOSSを共溶媒に25〜50℃の温度条件下で溶解し、得られた溶液を両者の貧溶媒中に投入し、沈殿物を得る。得られた沈殿物の溶媒を除去した後、2軸押出機に供給して、樹脂ペレットを得る。
【0050】
なお、ポリエステルとしてPETを用いた場合を例として具体的な製造方法を記述するが、以下の記述に限定されないことは無論である。
【0051】
通常の方法により得られたPETペレットとPOSSを共に、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム混合溶媒に45℃の条件で溶解する。その後、アセトン中に投入して沈殿を得る。得られた沈殿物を不活性ガス下で溶媒除去した後、270〜300℃に加熱されたベント式の2軸混練押出機に供給して溶融押出ししてチップ化し、POSSを含有するポリエステル樹脂ペレットを得る。この時の剪断速度は50〜300sec−1が好ましく、より好ましくは100〜200sec−1 である。また、滞留時間は0.5〜10分が好ましく、より好ましくは1〜5分の条件である。
【0052】
【実施例】
実施例中のPOSSの物性、およびポリエステルの物性は以下に述べる方法で測定した。
【0053】
(1)POSSの熱重量(TGA)重量減少率
下記装置を用いて、室温より450℃まで昇温しつつ重量の変化を測定し、 200℃および300℃でのそれぞれの重量減少率の差を求めた。
【0054】
(2)POSSの平均分散径
<透過型電子顕微鏡観察>
装置 :透過型電子顕微鏡(日立製H−7100FA型)
条件 :加速電圧 100kV
試料調製:超薄切片法
試料厚み:50nm
<画像解析>
各試料の透過型電子顕微鏡写真をスキャナーにてコンピューターに取り込んだ。その後、専用ソフト(プラネトロン社製 Image Pro Plus Ver. 4.0)にて画像解析を行った。トーンカーブを操作することにより、明るさとコントラストを調整し、その後ガウスフィルターを用いて得た画像の高コントラスト成分の円相当径のうちをランダムに100点観察し、その平均値を平均分散径とした。
【0055】
画像処理の手順及びパラメータ:
(1)平坦化1回
(2)コントラスト+30
(3)ガウス1回
(4)コントラスト+30、輝度−10
(5)ガウス1回
平面化フィルター:背景(黒)、オブジェクト幅(20pix)
ガウスフィルター:サイズ(7)、強さ(10)
(3)ポリエステル中のPOSS含有量測定
ポリエステルとPOSSとの両者を溶解する溶媒(ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム混合溶液)に溶解し、1H核のNMRスペクトルを測定する。得られたスペクトルで、ポリエステル、POSSに特有の吸収のピーク面積強度をもとめ、その比率とプロトン数よりブレンドのモル比を算出する。さらに各々のポリマーの単位ユニットに相当する式量より重量比を算出する。
【0056】
(4)ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)
下記装置および条件で比熱測定を行い、JIS K7121に従って決定した。
【0057】
装置 :TA Instrument社製温度変調DSC
測定条件:
加熱温度 :270〜600K(RCS冷却法)
温度校正 :高純度インジウムおよびスズの融点
温度変調振幅:±1K
温度変調周期:60秒
昇温ステップ:5K
試料重量 :5mg
試料容器 :アルミニウム製開放型容器(22mg)
参照容器 :アルミニウム製開放型容器(18mg)
なお、ガラス転移温度は下記式により算出した。
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2
(5)固有粘度[η]
25℃で、オルトクロロフェノール中0.1g/ml濃度で測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いた。単位は[dl/g]で示す。
【0058】
ηsp/C=[η]+K[η]2・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量(g/100ml、通常1.2)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。単位は[dl/g]で示す。
(6)曲げ特性
本発明のポリエステル樹脂組成物を乾燥(140℃、5時間)した後、型締圧80tの射出成形機を用い、シリンダー温度270〜300℃にて、厚み約6.4mm、幅約12.7mm、長さ約127mmの試験片を作製した。得られた試験片の曲げ特性を、ASTM D−790に従って測定した。
(7)反り
本発明のポリエステル樹脂組成物を乾燥(140℃、5時間)した後、型締圧80tの射出成形機を用い、金型温度120℃、シリンダー温度270〜300℃にて、寸法約120×120×1mmの平板状試験片を作製した。平面上に上記の平板状試験片を置き、試験片の4隅の内の1カ所を押さえ、残り3隅の内、平面からの距離が最も大きい値を隙間ゲージやノギス等を用いて測定した。4隅それぞれを押さえ、得られた反り値の平均値を求めた。反り値は小さいほど優れている。
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0059】
実施例1
PET(固有粘度0.75)チップ(95重量%)とPECG−POSS(5重量%)を共に、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム混合溶媒に10重量%(PETおよびPOSS合計の重量/混合溶媒の重量)の濃度で溶解し、その後、アセトン中に投入して沈殿を得る。得られた沈殿物を180℃窒素雰囲気下で3時間静置することにより溶媒を除去する。次に、280℃に加熱されたベント式2軸混練押出機(東芝機械(株)製、TEM35)に供給して、剪断速度100−1、滞留時間3分にて溶融押出し、PECG−POSSを含有したPET樹脂ペレットを得た。固有粘度は0.69、POSS含有量は4.8重量%であり、平均分散径は28nmであった。
【0060】
このPOSS含有樹脂ペレットを用いて試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。ガラス転移温度87℃、融点260℃であり、曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに優れた性能を有していた。
【0061】
実施例2〜5
PECG−POSSの添加量を変えて、PET/PECG−POSSの比率を変更した以外は実施例1と同様に行った。平均分散径は本発明の範囲を満足しており、また、IVは0.66〜0.70であった。試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。いずれも熱的特性が向しており、また、曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに優れた性能を有していた。
【0062】
実施例6および実施例7
PETチップのIVを変更(実施例6でのIV=0.63、実施例7でのIVは1.27を使用)した以外は、実施例1と同様に行った。平均分散径はいずれも本発明の範囲を満足しており、また、PET/PECG−POSSのIVは0.57、1.15であった。それぞれ試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。いずれも熱的特性が向上しており、曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに優れた性能を有していた。
【0063】
実施例8〜10
POSSの種類を変更した以外は、実施例1と同様に行ったが、いずれの水準も平均分散径は本発明の範囲を満足していた。試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。いずれも熱的特性が向上しており、また、曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに優れた性能を有していた
比較例1〜4
150℃で6時間乾燥したPET(固有粘度0.75)チップ(95重量%)に各種POSS(5重量%)を添加混合した後、そのまま280℃に加熱されたベント式2軸混練押出機に供給して、剪断速度100−1、滞留時間3分にて溶融押出し、POSSを含有したPET樹脂ペレットを得た。平均分散径はいずれも本発明の範囲外であった。
【0064】
このPOSS含有PET樹脂ペレットを用いて試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。ガラス転移温度および融点ともに熱的特性向上はみられず、また、いずれも曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに劣っていた。
【0065】
実施例11〜13
使用するポリエステルチップの種類(各々の固有粘度は、2,6−PEN0.72、PBT0.83、PPT0.97を使用)を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルチップ(95重量%)とPECG−POSS(5重量%)を共に、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム混合溶媒に10重量%(ポリエステルチップおよびPOSS合計の重量/混合溶媒の重量)の濃度で溶解する。その後、アセトン中に投入して沈殿を得る。得られた沈殿物を180℃窒素雰囲気下で3時間静置することにより溶媒を除去したものを混練し、POSS含有ポリエステル樹脂ペレットを得た。このペレットを用いて試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した。結果を表1に示す。いずれもガラス転移温度の上昇がみられた。また、試験片の曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに優れた性能を有していた。
【0066】
比較例5
150℃で6時間乾燥したPET(固有粘度0.75)チップを、280℃に加熱されたベント式2軸混練押出機に供給して、剪断速度100−1、滞留時間3分にて溶融押出し、PETチップ(POSS未含有)を得た。このPETチップを用いて試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。曲げ弾性率、曲げ強度ともに劣っていた。なお、そりは成型品が変形しているため測定不可であった。
【0067】
比較例6〜8
使用するポリエステルチップの種類(各々の固有粘度は、2,6−PEN0.72、PBT0.83、PPT0.97を使用)を変更した以外は、比較例5と同様にして乾燥したチップを用いて混練した(POSS未含有)。曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。いずれのポリエステルとも曲げ弾性率、曲げ強度に劣っていた。なお、そりは成型品が変形しているため測定不可であった。
【0068】
実施例14および実施例15
使用するPOSSの添加量を変更した以外は、実施例1と同様に行った。平均分散径はいずれも本発明の範囲を満たしていた。それぞれ試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。いずれもガラス転移温度の上昇がみられ、曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに良好な性能を有していた。
【0069】
比較例9
150℃で6時間乾燥したPET(固有粘度0.87)チップに四窒化ケイ素粒子(粒子径0.1±0.05μm)を添加混合し、比較例5と同様にベント式2軸混練押出機に供給して溶融押出し、四窒化ケイ素粒子含有PETチップ(粒子含有量1.5重量%)を得た。このPETチップを用いて試験片を作成し、曲げ特性、そりを評価した。結果を表1に示す。曲げ弾性率、曲げ強度ともに劣っており、そりは成型品が変形しているため測定不可であった。
【0070】
【表1】
【0071】
【発明の効果】
新規な無機・有機複合化合物をポリエステル中でナノサイズに微分散させることによって、ガラス転移点や融点の上昇による耐熱性向上、剛性・破壊強度や寸法安定性等の熱的・機械的特性を飛躍的に改善されたポリエステル組成物を得ることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明はポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(Polyhedral Origometric SilSesquioxane、別名籠状シルセスキオキサン、以下POSSという)を含有するポリエステル組成物に関する。さらに詳しくは、融点・ガラス転移点温度などの熱的特性が改善され、かつ剛性、破壊強度、寸法安定性などの機械的特性が優れたポリエステル組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
今日工業的に製造されているポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(以下PETという)を主成分とするポリエステルは優れた物理的、化学的特性を有しており、繊維、フィルム、およびその他の成型品として広く使用されている。このポリエステルの優れた各種特性を生かして、繊維、フィルム、およびその他の成型品の特性を更に向上させることが望まれている。
【0003】
ポリエステルに無機微粒子を配合・分散させることによって、フィルム用途における易滑性、耐摩耗性、耐スクラッチ性等の向上、また、繊維用途での艶消し・透け防止や発色性の向上、耐摩耗性や力学特性の改善、さらには複合材料用途等においてもマトリックス中に混合して圧縮強さや引っ張り強さ等の物性を改良することが行われている。例えば、直鎖状又は分岐の形状を有するコロイダルシリカ粒子をポリエステルに分散させて滑り性、耐摩耗性、耐スクラッチ性に優れたフィルム、繊維を得るのに適したポリエステル樹脂(特許文献1)、粒径が0.3μm以下の四窒化ケイ素粒子又は炭化ケイ素粒子をポリエステルに添加して力学的特性(寸法安定性、耐熱性)を改善し産業用途に適したポリエステル繊維を得る方法(特許文献2)、さらには繊維中に平均粒径0.002μm以上0.50μm以下の固体(シリカ)微粒子を特定量含有させるこによって、高タフネスでかつ、耐屈曲摩耗性および耐屈曲疲労性に優れた繊維(特許文献3)等を得る試みも行われている。
【0004】
これら以外にもポリエステルに各種無機微粒子を配合して、特に力学的特性を改善しようという試みが多数なされてきたものの、工業的に十分に満足のいくものは未だ得られていない状況にある。この原因としては使用する粒子そのものの分散性が不十分であったり、ポリエステル製造時に凝集したりして結果的にポリエステル中に存在する粒子サイズが大きいために、分子レベルでポリマーに作用することが困難であると考えられる。
【0005】
近年、POSSを適用して各種ポリマーの耐熱性や粘弾性特性を向上させる試みが行われている。例えば、ポリメタメチルアクリレート(PMMA)やポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)などのポリマーにPOSSを配合して、それぞれのポリマーにおける耐熱性や粘弾性特性を向上させることが可能である等の報告がなされている(非特許文献1)。また、POSSのポリエステルへの適用についても試みられている(非特許文献2)が、ポリエステル中におけるPOSSの分散径は数ミクロン以上であり、ヤング率などの物理的特性の改善は全く見られない。
【0006】
このような背景から、本発明はポリエステル中にナノサイズレベルで分散可能な物質として、新たに分子レベルのサイズを有するPOSSを見出すと共に、該POSSをポリエステル中でナノサイズに微分散させることによって、熱的特性、物理的特性が従来よりも著しく改善されたポリエステルを得ることができたものである。
【0007】
【特許文献1】
特開平05−078557号公報
【0008】
【特許文献2】
特開平07−138812号公報
【0009】
【特許文献3】
特開平07−11512号公報
【0010】
【非特許文献1】
Macromolecules vol.29 p7302
【0011】
【非特許文献2】
第224回米国化学会国際会議予稿集POLY191(2002)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、新規な無機・有機複合化合物をポリエステル中でナノサイズに微分散させることによって、ガラス転移点や融点の上昇による耐熱性向上、剛性・破壊強度や寸法安定性等の熱的・機械的特性を飛躍的に改善されたポリエステル組成物を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、ジカルボン酸を主とする二官能性酸成分と少なくとも一種のグリコール成分よりなるポリエステルに、下記一般式(A)または(B)式で表されるPOSSが分散してなり、かつPOSSの平均分散径が500nm以下であることを特徴とするポリエステル組成物によって達成できる。
(RSiO1.5)n (A)
(RSiO1.5)l(RXSiO)k (B)
[一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、Rは全て同一でも複数の基で構成されていても良い。一般式(B)においてXはOR1(R1は水素原子、アルキル基、アリール基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rの中から選ばれる少なくとも一つの官能基であり、(RXSiO)k中のXは全て同じでも異なっていても良い。又(RXSiO)k中の2個のXが互いに連結して下記一般式(C)で表される連結構造を形成しても良い。nは6から14の整数、lは2から12の整数、kは2又は3である。
【0014】
【化2】
【0015】
(ここでY及びZは、Xと同じ基の群の中から選ばれ、YとZは同じでも異なっていても良い。)
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明でいうポリエステルとは、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体であり、ジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホソホニウムイソフタル酸等の芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらの誘導体を挙げることができる。またジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのような芳香族、脂肪族、脂環族のジオール化合物を挙げることができる。
【0017】
本発明で好ましく用いることのできるポリエステルとしては、PET、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(以下2,6−PENという)、ポリプロピレンテレフタレート(以下PPTという)、ポリブチレンテレフタレート(以下PBTという)であり、より好ましくはPETである。
【0018】
また、本発明で用いるポリエステルは、発明の主旨を損ねない範囲で他の第3成分が共重合されていても良い。さらに、本発明のポリエステルは艶消剤、難燃剤、滑剤等の添加剤を少量含有しても良い。
【0019】
本発明のポリエステルの固有粘度(以下IVという)は、0.55以上であることが好ましい。IVを0.55以上とすることによって、十分な強度の各種成形体を得られるだけでなく、ポリエステル中のオリゴマー含有量が少ないため、成型時の工程安定性が良好となる。
【0020】
一方、IVの上限は特になく、必要に応じて固相重合を用いて高分子量化してもよいが、成形加工性の観点から、IVは1.5未満であることが好ましい。
【0021】
次に、本発明におけるPOSSについて説明する。シルセスキオキサンとはTレジンとも呼ばれるもので、通常のシリカが(SiO2)の一般式で表されるのに対し、シルセスキオキサンは(RSiO1.5)で表される化合物であり、通常はテトラエトキシシランのようなテトラアルコキシシランの1つのアルコキシ基をアルキル基またはアリール基に置き換えた化合物の加水分解−重縮合で合成されるポリシロキサンであり、分子配列の形状として、代表的には無定形、ラダー状、籠状(完全縮合ケージ状)や完全縮合ケージ状からケイ素原子が一原子少ないタイプや一部ケイ素−酸素結合が切断されたタイプが知られている。
【0022】
本発明に用いられるPOSSは前記分子配列形状のうち、籠状のもの、またはその部分開裂構造体であるが、籠が閉じた構造のシルセスキオキサンでも、籠の一部が開いた構造のシルセスキオキサンでもよい。したがって、本発明には多様な構造の籠状シルセスキオキサン、またはその部分開裂構造体が使用可能であり、その具体例としては、例えば以下の一般式(A)及び一般式(B)で示される化合物が挙げられる。
(RSiO1.5)n (A)
(RSiO1.5)l(RXSiO)k (B)
[一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、Rは全て同一でも複数の基で構成されていても良い。一般式(B)においてXはOR1(R1は水素原子、アルキル基、アリール基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rの中から選ばれる少なくとも一つの官能基であり、(RXSiO)k中のXは全て同じでも異なっていても良い。又(RXSiO)k中の2個のXが互いに連結して一般式(C)で表される連結構造を形成しても良い。
【0023】
【化3】
【0024】
Y及びZはXと同じ基の群の中から選ばれ、YとZは同じでも異なっていても良い。nは6から14の整数、lは2から12の整数、kは2又は3である。]
一般式(A)で表される籠状シルセスキオキサンの具体例としては、(RSiO1.5)6の化学式で表されるタイプ(下記式(D))、(RSiO1.5)8の化学式で表されるタイプ(下記式(E))、(RSiO1.5)10の化学式で表されるタイプ(下記式(F))、(RSiO1.5)12の化学式で表されるタイプ(下記式(G))がある。
【0025】
【化4】
【0026】
【化5】
【0027】
また、一般式(B)で表される籠状シルセスキオキサンの部分開裂構造体の具体例としては、以下の構造が例示される。例えば、一般式(D)の一部が脱離した構造であるトリシラノール体あるいはそれから誘導される(RSiO1.5)4(RXSiO)3の化学式で表されるタイプ(下記一般式(H):前記トリシラノール体はX=OHの場合)、一般式(H)で示される3個のXのうち2個のXが一般式(C)で示される構造で連結される部分開裂構造体(RSiO1.5)4(RXSiO)3の化学式で表されるタイプ、一般式(D)の一部が開裂したジシラノール体あるいはそれから誘導される(RSiO1.5)6(RXSiO)2の化学式で表されるタイプ(下記一般式(I):前記ジシラノール体は一般式(H)においてX=OHの場合)等が挙げられる。一般式(H)及び(I)中の同一ケイ素原子に結合しているRとXあるいはYとZはお互いの位置を交換したものでもよい。
【0028】
【化6】
【0029】
(D)〜(I)中のRとしては1種類で籠状シルセスキオキサンを構成しても良いし、2種類以上の置換基で構成しても良い。具体的なRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、トリフルオロプロピル基、フェニル基、トリメチルシロキシ基の他、1,2−プロパンジオールなどのジオール、アミノプロピル基などのアミノ基、グリシジル基などのエポキシ基、メチルプロピオネート基などのエステル基、アクリル基、メタクリル基、イソシアネート基、ビニル基、ノルボネニルエチル基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。 本発明で用いられるPOSSはポリエステルの融点をTm(℃)としたとき、Tp=Tm+30(℃)で定義される温度での熱重量分析法における重量減少率が、5重量%以下であることが好ましい。また、一般にポリエステルは融点+30℃程度の高温で成形されるため、含有されるPOSSがこの温度で十分な耐熱性を持つことが好ましい。
【0030】
TpにおけるPOSSの重量減少率が5重量%以下であるとポリマーの重合時、あるいは混練、溶融成形時でのPOSSの飛散や劣化が少なく、所望の割合でPETに導入することが容易となる。また、最終製品に熱劣化物の残存がなく、製品諸特性の低下を抑制できる。
【0031】
このような観点から、1分子のPOSSを構成するRの平均分子量が60以上であるPOSSが好ましく、例えば、1つのPOSS分子を構成するRの70%以上がペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、フェニル基、トリメチルシロキシ基、ノルボネニルエチル基のうちの1つまたは2つ以上から構成されるPOSSが好ましく用いられる。
【0032】
具体的なPOSSとしては、オクタシクロペンチルPOSS、オクタシクロヘキシルPOSS、オクタフェニルPOSS、オクタトリメチルシロキシPOSS、トリスノルボネニルエチルシクロヘキシルPOSS、トリスノルボネニルエチルシクロペンチルPOSS(以下TNCP−POSSという)、トリスノルボネニルエチルシクロイソブチルPOSS、グリシジルイソオクチルPOSS(以下GIO−POSSという)、メタクリルイソオクチルPOSSなどが挙げられる。 また、ポリエステル中にPOSSを分子レベルで分散するためには、本発明のPOSSの融点は、Tp以下であることが好ましく、さらにポリマーの成形温度でPOSSが液体であることがより好ましい。具体的には、構成するSiの数が異なるPOSS分子の混合体であるケージミクスチャーを挙げることができる。ケージミクスチャーの場合には、POSSが結晶構造を作りにくく、分子同士のパッキング性が低下するために融点が低くなりやすく、好ましい。
【0033】
また、1つのPOSS分子が複数の種類のRを有するPOSSの集合体や、Rの種類が異なるPOSS分子の集合体の場合にもPOSS同士のパッキング性が低下するため、結晶化が阻害されることから融点が低下しやすく、好ましい。具体的なPOSSとしては、イソオクチルPOSSのケージミクスチャー(以下IOCG−POSSという)、フェネチルPOSSのケージミクスチャー(以下PECG−POSSという)等を挙げることができる。
【0034】
しかしながら、本発明はPOSSの融点がTp以下である場合に限定されるものではない。POSSがTpで固体であってもその粒子径が十分細かく、ポリマー中の分散粒子径が500nm以下であれば熱的・機械的特性の向上は可能である。この場合にはポリエステルにPOSSを添加する前に粒子径を細かくするための特別の工程を必要とする。
【0035】
本発明のPOSSはポリエステル中で微分散し、その平均分散径が500nm以下であることが必要である。この平均分散径が500nm以下であると、ガラス転移点温度や融点の上昇、さらにヤング率の向上など、熱的・機械的特性の改善を達成することができる。
【0036】
また、POSSの平均粒径はPOSSを構成する分子の種類や量に依存するが、ポリエステル中での分散性は、微細であるほど好ましく、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。下限は特にないが、POSS分子の径より細かくすることは実質的に不可能である。
【0037】
なお、ポリエステルが有する熱的・機械的特性を改善・向上させる理由は明らかではないが、分子レベルまで微細化したPOSS粒子がポリエステル分子鎖の分子運動を抑制しているものと考えられる。すなわち、POSSがポリエステル分子鎖を可逆的に吸脱着する、いわゆる物理的架橋剤として作用するが、この作用は可逆的な架橋であるため、共有結合による架橋と異なってゲル化のような成形加工性を阻害するような問題を引き起こすことなく分子鎖の運動性を低下させることが可能であり、分子の運動性が低下するために融解時の緩和が阻害される。その結果、エントロピー変化の低下によって融点の上昇、また、分子運動の阻害による自由体積の減少のためにガラス転移点の上昇やヤング率の向上に寄与しているものと推定される。また、物理的架橋効果は収縮率の低下に貢献し、材料の寸法安定性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0038】
POSSの分散性は、詳しく後述するように、TEM(透過型電子顕微鏡写真)で評価することが可能である。
【0039】
本発明のポリエステル中でのPOSS含有量は20重量%以下であることが好ましい。20重量%以下であるとポリエステル中でのPOSS自体の凝集発生がなく、分散性が良好であり、所望の熱・機械的特性をもつポリエステルを得ることが可能となる。
【0040】
一方、POSS含有量が1重量%以上であるとポリマー分子鎖に物理架橋剤として作用するPOSS分子の量が十分となり、熱的・機械的特性が向上するので好ましく、POSS含有量が3重量%以上であるとさらに好ましい。
【0041】
なお、POSSの合成法としては例えばBrownらのJ.Am.Chem.Soc.1965,87,4313や、FeherらのJ.Am.Chem.Soc.1989,111,1741あるいはOrganometallics 1991,10,2526などが報告されている。例えばシクロヘキシルトリエトキシシランを水/メチルイソブチルケトン中で触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキサイドを加えて反応させることにより結晶として得られる。
【0042】
また、一般式化6、または化7で表されるトリシラノール体及びジシラノール体は、完全縮合型のPOSSを製造する際に同時に生成するか、完全縮合型のPOSSからトリフルオロ酸やテトラエチルアンモニウムヒドロキサイドによって部分切断することにより合成できることが、FeherらのChem.Commun.,1998,1279によって報告されている。
【0043】
一方、POSSの構造解析としては、例えば、LarssonらのAlkivKemi,16,209(1960)によってX線構造解析が行われ、構造の同定が行われている。また、これらのPOSSは、簡易的に赤外吸収スペクトルやNMRを用いて同定を行うことができ、例えばVogtらのInnorag.Chem.2,189(1963)によって示されている。
【0044】
本発明のポリエステル中でのPOSSの形態は、実質的に化学反応を伴わずに分散している状態でもよいし、または化学反応によってポリエステル分子鎖に共重合されていてもよい。
【0045】
なお、共重合による場合にはRの少なくとも1つがポリエステルのカルボン酸または水酸基と反応しうるものを有するPOSSを使用する。例えば、化2におけるRで表されている残基のうちPOSSのSiと反対側の末端に反応性官能基を有することが好ましく、具体的にはRの末端に水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボン酸基などが存在するPOSSを使用することが好ましい。なお、エステル交換による重合反応でPOSSをポリエステル分子鎖に導入する場合には、メトキシやエトキシなどのエステル基を有するPOSSを用いることも可能である。R末端の官能基の数はポリエステル分子鎖の末端にPOSSを導入するか分子鎖の途中に導入するかによって適宜選ぶことが可能であるが、反応効率の観点からは二官能性のRを持つPOSSが好ましい。また、エポキシ末端を有するPOSSが反応効率や副生成物を生じないなどの観点から、好ましく用いられる。
【0046】
なお、反応に関わるRの数の制限はないが、POSS1分子あたりの官能基数は、1つまたは2つであることが好ましい。例えば、Rの末端が1官能性の場合には、反応に関わる可能性があるRは1つまたは2つが好ましく、Rの末端が2官能性の場合には反応に関わるRは1つであることが好ましい。エポキシ基の場合はこれを2官能性基とみなし、POSS1分子あたりエポキシ基一つを有するPOSSが好ましい。
【0047】
本発明においてPOSSをポリエステルに導入する方法としては、(1)重合反応が完結するまでにPOSSをポリエステル反応物中に添加する方法、(2)ポリエステル溶融ポリマー中へ添加し、混練する方法、(3)所定割合のポリエステルとPOSSを共溶媒に25〜50℃の温度条件下で溶解し、得られた溶液を両者の貧溶媒中に投入し、沈殿物を得る。得られた沈殿物の溶媒を除去した後、例えば、2軸押出機に供給して樹脂ペレットを得るなどの方法が挙げられる。
【0048】
POSSをポリエステル中に化学反応を伴わずに分散する場合には、(3)による方法が好ましく、また、化学反応を伴って共重合体として導入する場合には、(1)による方法が好ましい。
【0049】
本発明のポリエステル組成物の好ましい製造法としては、先ず所定割合のポリエステルとPOSSを共溶媒に25〜50℃の温度条件下で溶解し、得られた溶液を両者の貧溶媒中に投入し、沈殿物を得る。得られた沈殿物の溶媒を除去した後、2軸押出機に供給して、樹脂ペレットを得る。
【0050】
なお、ポリエステルとしてPETを用いた場合を例として具体的な製造方法を記述するが、以下の記述に限定されないことは無論である。
【0051】
通常の方法により得られたPETペレットとPOSSを共に、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム混合溶媒に45℃の条件で溶解する。その後、アセトン中に投入して沈殿を得る。得られた沈殿物を不活性ガス下で溶媒除去した後、270〜300℃に加熱されたベント式の2軸混練押出機に供給して溶融押出ししてチップ化し、POSSを含有するポリエステル樹脂ペレットを得る。この時の剪断速度は50〜300sec−1が好ましく、より好ましくは100〜200sec−1 である。また、滞留時間は0.5〜10分が好ましく、より好ましくは1〜5分の条件である。
【0052】
【実施例】
実施例中のPOSSの物性、およびポリエステルの物性は以下に述べる方法で測定した。
【0053】
(1)POSSの熱重量(TGA)重量減少率
下記装置を用いて、室温より450℃まで昇温しつつ重量の変化を測定し、 200℃および300℃でのそれぞれの重量減少率の差を求めた。
【0054】
(2)POSSの平均分散径
<透過型電子顕微鏡観察>
装置 :透過型電子顕微鏡(日立製H−7100FA型)
条件 :加速電圧 100kV
試料調製:超薄切片法
試料厚み:50nm
<画像解析>
各試料の透過型電子顕微鏡写真をスキャナーにてコンピューターに取り込んだ。その後、専用ソフト(プラネトロン社製 Image Pro Plus Ver. 4.0)にて画像解析を行った。トーンカーブを操作することにより、明るさとコントラストを調整し、その後ガウスフィルターを用いて得た画像の高コントラスト成分の円相当径のうちをランダムに100点観察し、その平均値を平均分散径とした。
【0055】
画像処理の手順及びパラメータ:
(1)平坦化1回
(2)コントラスト+30
(3)ガウス1回
(4)コントラスト+30、輝度−10
(5)ガウス1回
平面化フィルター:背景(黒)、オブジェクト幅(20pix)
ガウスフィルター:サイズ(7)、強さ(10)
(3)ポリエステル中のPOSS含有量測定
ポリエステルとPOSSとの両者を溶解する溶媒(ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム混合溶液)に溶解し、1H核のNMRスペクトルを測定する。得られたスペクトルで、ポリエステル、POSSに特有の吸収のピーク面積強度をもとめ、その比率とプロトン数よりブレンドのモル比を算出する。さらに各々のポリマーの単位ユニットに相当する式量より重量比を算出する。
【0056】
(4)ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)
下記装置および条件で比熱測定を行い、JIS K7121に従って決定した。
【0057】
装置 :TA Instrument社製温度変調DSC
測定条件:
加熱温度 :270〜600K(RCS冷却法)
温度校正 :高純度インジウムおよびスズの融点
温度変調振幅:±1K
温度変調周期:60秒
昇温ステップ:5K
試料重量 :5mg
試料容器 :アルミニウム製開放型容器(22mg)
参照容器 :アルミニウム製開放型容器(18mg)
なお、ガラス転移温度は下記式により算出した。
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2
(5)固有粘度[η]
25℃で、オルトクロロフェノール中0.1g/ml濃度で測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いた。単位は[dl/g]で示す。
【0058】
ηsp/C=[η]+K[η]2・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量(g/100ml、通常1.2)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。単位は[dl/g]で示す。
(6)曲げ特性
本発明のポリエステル樹脂組成物を乾燥(140℃、5時間)した後、型締圧80tの射出成形機を用い、シリンダー温度270〜300℃にて、厚み約6.4mm、幅約12.7mm、長さ約127mmの試験片を作製した。得られた試験片の曲げ特性を、ASTM D−790に従って測定した。
(7)反り
本発明のポリエステル樹脂組成物を乾燥(140℃、5時間)した後、型締圧80tの射出成形機を用い、金型温度120℃、シリンダー温度270〜300℃にて、寸法約120×120×1mmの平板状試験片を作製した。平面上に上記の平板状試験片を置き、試験片の4隅の内の1カ所を押さえ、残り3隅の内、平面からの距離が最も大きい値を隙間ゲージやノギス等を用いて測定した。4隅それぞれを押さえ、得られた反り値の平均値を求めた。反り値は小さいほど優れている。
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0059】
実施例1
PET(固有粘度0.75)チップ(95重量%)とPECG−POSS(5重量%)を共に、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム混合溶媒に10重量%(PETおよびPOSS合計の重量/混合溶媒の重量)の濃度で溶解し、その後、アセトン中に投入して沈殿を得る。得られた沈殿物を180℃窒素雰囲気下で3時間静置することにより溶媒を除去する。次に、280℃に加熱されたベント式2軸混練押出機(東芝機械(株)製、TEM35)に供給して、剪断速度100−1、滞留時間3分にて溶融押出し、PECG−POSSを含有したPET樹脂ペレットを得た。固有粘度は0.69、POSS含有量は4.8重量%であり、平均分散径は28nmであった。
【0060】
このPOSS含有樹脂ペレットを用いて試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。ガラス転移温度87℃、融点260℃であり、曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに優れた性能を有していた。
【0061】
実施例2〜5
PECG−POSSの添加量を変えて、PET/PECG−POSSの比率を変更した以外は実施例1と同様に行った。平均分散径は本発明の範囲を満足しており、また、IVは0.66〜0.70であった。試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。いずれも熱的特性が向しており、また、曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに優れた性能を有していた。
【0062】
実施例6および実施例7
PETチップのIVを変更(実施例6でのIV=0.63、実施例7でのIVは1.27を使用)した以外は、実施例1と同様に行った。平均分散径はいずれも本発明の範囲を満足しており、また、PET/PECG−POSSのIVは0.57、1.15であった。それぞれ試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。いずれも熱的特性が向上しており、曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに優れた性能を有していた。
【0063】
実施例8〜10
POSSの種類を変更した以外は、実施例1と同様に行ったが、いずれの水準も平均分散径は本発明の範囲を満足していた。試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。いずれも熱的特性が向上しており、また、曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに優れた性能を有していた
比較例1〜4
150℃で6時間乾燥したPET(固有粘度0.75)チップ(95重量%)に各種POSS(5重量%)を添加混合した後、そのまま280℃に加熱されたベント式2軸混練押出機に供給して、剪断速度100−1、滞留時間3分にて溶融押出し、POSSを含有したPET樹脂ペレットを得た。平均分散径はいずれも本発明の範囲外であった。
【0064】
このPOSS含有PET樹脂ペレットを用いて試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。ガラス転移温度および融点ともに熱的特性向上はみられず、また、いずれも曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに劣っていた。
【0065】
実施例11〜13
使用するポリエステルチップの種類(各々の固有粘度は、2,6−PEN0.72、PBT0.83、PPT0.97を使用)を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルチップ(95重量%)とPECG−POSS(5重量%)を共に、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム混合溶媒に10重量%(ポリエステルチップおよびPOSS合計の重量/混合溶媒の重量)の濃度で溶解する。その後、アセトン中に投入して沈殿を得る。得られた沈殿物を180℃窒素雰囲気下で3時間静置することにより溶媒を除去したものを混練し、POSS含有ポリエステル樹脂ペレットを得た。このペレットを用いて試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した。結果を表1に示す。いずれもガラス転移温度の上昇がみられた。また、試験片の曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに優れた性能を有していた。
【0066】
比較例5
150℃で6時間乾燥したPET(固有粘度0.75)チップを、280℃に加熱されたベント式2軸混練押出機に供給して、剪断速度100−1、滞留時間3分にて溶融押出し、PETチップ(POSS未含有)を得た。このPETチップを用いて試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。曲げ弾性率、曲げ強度ともに劣っていた。なお、そりは成型品が変形しているため測定不可であった。
【0067】
比較例6〜8
使用するポリエステルチップの種類(各々の固有粘度は、2,6−PEN0.72、PBT0.83、PPT0.97を使用)を変更した以外は、比較例5と同様にして乾燥したチップを用いて混練した(POSS未含有)。曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。いずれのポリエステルとも曲げ弾性率、曲げ強度に劣っていた。なお、そりは成型品が変形しているため測定不可であった。
【0068】
実施例14および実施例15
使用するPOSSの添加量を変更した以外は、実施例1と同様に行った。平均分散径はいずれも本発明の範囲を満たしていた。それぞれ試験片を作成し、曲げ特性およびそりについて評価した結果を表1に示す。いずれもガラス転移温度の上昇がみられ、曲げ弾性率、曲げ強度およびそり特性ともに良好な性能を有していた。
【0069】
比較例9
150℃で6時間乾燥したPET(固有粘度0.87)チップに四窒化ケイ素粒子(粒子径0.1±0.05μm)を添加混合し、比較例5と同様にベント式2軸混練押出機に供給して溶融押出し、四窒化ケイ素粒子含有PETチップ(粒子含有量1.5重量%)を得た。このPETチップを用いて試験片を作成し、曲げ特性、そりを評価した。結果を表1に示す。曲げ弾性率、曲げ強度ともに劣っており、そりは成型品が変形しているため測定不可であった。
【0070】
【表1】
【0071】
【発明の効果】
新規な無機・有機複合化合物をポリエステル中でナノサイズに微分散させることによって、ガラス転移点や融点の上昇による耐熱性向上、剛性・破壊強度や寸法安定性等の熱的・機械的特性を飛躍的に改善されたポリエステル組成物を得ることができる。
Claims (6)
- ジカルボン酸を主とする二官能性酸成分と少なくとも一種のグリコール成分よりなるポリエステルに、下記一般式(A)または(B)式で表されるポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(POSS)が分散してなり、かつポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(POSS)の平均分散径が500nm以下であることを特徴とするポリエステル組成物。
(RSiO1.5)n (A)
(RSiO1.5)l(RXSiO)k (B)
[一般式(A)、(B)において、Rは水素原子、炭素原子数1から20の置換又は非置換の炭化水素基又はケイ素原子数1から10のケイ素原子含有基から選ばれ、Rは全て同一でも複数の基で構成されていても良い。一般式(B)においてXはOR1(R1は水素原子、アルキル基、アリール基、第4級アンモニウムラジカル)、ハロゲン原子及び上記Rの中から選ばれる少なくとも一つの官能基であり、(RXSiO)k中のXは全て同じでも異なっていても良い。又(RXSiO)k中の2個のXが互いに連結して下記一般式(C)で表される連結構造を形成しても良い。
- ポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(POSS)が(1)および(2)を満たすものであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル組成物。
(1)熱重量分析法によるTpでの重量減少率が5重量%以下
(2)融点がTp以下
ただし、Tp=Tm+30℃
Tm=ポリエステルの融点(℃) - ポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(POSS)の一般式(A)または(B)におけるRの平均分子量が60以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリエステル組成物。
- ポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(POSS)の一般式(A)または(B)におけるRの70%以上がペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、フェニル基、トリメチルシロキシ基、ノルボネニルエチル基のうちの1つまたは2つ以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステル組成物。
- ポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(POSS)が、Siの数が異なるPOSS分子の混合体であるケージミクスチャーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステル組成物。
- ポリヘドラルオリゴメトリックシルセスキオキサン(POSS)の含有量が20重量%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエステル組成物。
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2003
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