JP2004302390A - 定着ベルト - Google Patents

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Abstract

【課題】オンデマンドタイプの像加熱装置に用いられる定着ベルトに要求される端部強度の向上を図る。
【解決手段】少なくとも電鋳からなる金属層と離型層とを有する逆クラウン形状の定着ベルトであって、かつ、該金属層の中央部の肉厚が均一であり、肉厚を中央部から両端部に向けて連続的に増加させる。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電子写真装置、静電記録装置等の画像形成装置に用いられる定着ベルトに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、複写機やプリンタやファクシミリ等における像加熱装置では、均一なニップ幅で圧接したり、記録材を高精度に搬送する等の要求から、長手方向に沿ってクラウン形状(太鼓形状)や逆クラウン形状(鼓形状)となるように外形を変化させた非直円筒形状の定着ベルトが用いられている。
【0003】
例えば、クラウン形状のベルトは加圧ローラとの圧接力が高く、ベルトが撓んで中央部のニップ幅が両端部と比べて減少することを防ぐために用いられることが多く、一方、逆クラウン形状のベルトは加圧ローラとの圧接力は小さいが、記録材のシワ防止対策として有効であり、更には記録材を搬送する際にもベルト端部のガイド効果で、部材間の僅かな傾斜や局部的な摩擦による蛇行を防ぎ、高度な搬送を可能とする。
【0004】
一方、前記像加熱装置の加熱方式としては、低熱容量の金属ベルト或いは樹脂ベルト等をセラミックヒータにより加熱する方式が広く提案、実施されている。一般にこの加熱方式では加熱体となるセラミックヒータと、加圧部材となる加圧ローラとの間に、耐熱性の定着ベルトを挟ませてニップ部を形成させ、前記ニップ部を持つ定着ベルトと加圧ローラとの間に画像定着すべき未定着トナー画像を形成担持させた記録材を導入して定着ベルトと一緒に狭持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータの熱を、定着ベルトを介して記録材に与え、この熱とニップ部の加圧力で未定着トナー画像を記録材面に熱圧定着させる。
【0005】
この定着方式では、定着ベルトとして低熱容量の部材を用いることでオンデマンドタイプの装置を構成することが出来る。すなわち、画像形成装置の画像形成実行時のみ、熱源となるセラミックヒータに通電して所定の定着温度に昇温させた状態にすれば良く、画像形成装置の電源オンから画像形成実行可能状態までの待ち時間が短く(クイックスタート性)、スタンバイ時の消費電力も大幅に小さい(省電力)等の利点が挙げられる。図6に加熱定着方式の像加熱装置の概略構成の一例を示した概略図を示す。この加熱方式では一般に、加熱体としてのセラミックヒータ12と加圧部材としての加圧ローラ30との間に耐熱性ベルト(定着ベルト10)を挟ませてニップ部を形成させ、前記ニップ部の定着ベルトと加圧ローラとの間に画像定着すべき未定着トナー画像tを形成担持させた記録材Pを導入してベルトと一緒に挟持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータ12の熱を、ベルト10を介して記録材Pに与え、この熱とニップ部の加圧力とで未定着トナー画像を記録材Pに熱圧定着させる。
ベルト10を介して記録材Pに与え、この熱とニップ部の加圧力とで未定着トナー画像tを記録材P面に熱圧定着させる。
【0006】
このようなベルト加熱方式におけるベルトとしては耐熱樹脂等が用いられ、特に耐熱性、強度に優れたポリイミド樹脂が用いられている。しかしながら、さらに機械を高速化、高耐久化した場合、一般的にこれらの耐熱性樹脂フィルムでは強度が不十分である。このことから、強度に優れ、熱伝導率の高い金属、例えばSUS、ニッケル、銅、アルミニウム等を基層とするベルトを用いることが提案されている。
【0007】
また、特許文献1では金属ベルトを利用して、これを電磁誘導による渦電流で自己発熱させる誘導加熱方式も開示されている。すなわち、磁束によりベルト自身あるいはベルトに近接させた導電性部材に渦電流を発生させ、ジュール熱によって発熱させる加熱装置が提案されている。この電磁誘導加熱方式は、発熱域をより被加熱体に近くすることができるため、消費エネルギーの効率アップが達成できる。
【0008】
図7に一構成例を示す。磁性コア17a、17b及び17cは高透磁率の部材であり、励磁コイル18は励磁回路(不図示)から供給される交番電流(高周波電流)によって交番磁束を発生する。金属層1にこの交番磁束が作用することで渦電流が発生し、金属層1が発熱する。その熱が弾性層2及び離型層3を介して定着ベルト10を加熱し、定着ニップ部Nに通紙される記録材Pを加熱してトナー画像の加熱定着がなされる。
【0009】
また、図8に図7の像加熱装置の磁場発生手段模型図を示す。図8の磁場発生手段は、磁性コア17a、励磁回路27に接続した給電部18a及び18b並びに励磁コイル18からなる。励磁コイル18は励磁回路27から給電部18a及び18bを通して供給される交番電流(高周波電流)によって交番磁束を発生する。
【0010】
ベルト加熱方式の定着装置の定着ベルトの駆動方法としては、ベルト内面を案内するフィルムガイドと加圧ローラとで圧接されたフィルムを加圧ローラの回転駆動によって従動回転させる方法(加圧ローラ駆動方式)や、逆に駆動ローラとテンションローラによって張架された無端ベルト状のベルトの駆動によって加圧ローラを従動回転させる方法等がある。
【0011】
一方、図10に示すように、前記ベルト加熱方式の定着装置において金属製等のシームレスベルト部材を用いる場合には、回転駆動される前記シームレスベルト部材10の定着ニップNを形成する加圧ローラ30及びセラミックヒータ12の部品精度のバラツキや、セラミックヒータの長手方向の温度分布が生じることによって、前記シームレスベルト部材にスラスト方向への寄り移動力が生じる。これを規制するために前記シームレスベルト部材の端面を従来のフィルム加熱方式の定着装置のように固定型の端部規制用フランジ部材15で受け止める構造が提案されているが、シームレスベルト部材は定着ニップ部での屈曲を繰り返しながら、かつ端面に密着した状態で「駆動/停止」を繰り返し行う断続回転駆動を行うことになり、シームレスベルト部材の端部とフランジ部材との摺擦により、シームレスベルト部材の端部は負荷を絶えず受け疲労し易くなり、折れ・シワ及び亀裂等が発生して長期間の耐熱耐久性を維持することが難しかった。
【0012】
そのため例えば、特許文献2では、定着フィルムの形状及び物性等を規定した対策を取っている。
また、特許文献3では金属スリーブの両端部の保護する部材の構造について、特許文献4では金属スリーブの両端部の保護する部材の材料について開示されているが、例えば、主に電磁誘導加熱方式の定着装置では図12に構成例を示すように、前記シームレスベルト部材の端部とフランジ部材との摺擦を避けるためにシームレスベルト部材に従動型の端部規制用フランジ部材、いわゆる連れ回りタイプが提案されている。これは、シームレスベルト部材と端部規制用フランジ部材との接触領域での摩擦力により従動する構造であるが、画像形成装置の高速印字化が進む中、まだ充分に対応出来ているとは言いがたい。
【0013】
【特許文献1】
特開平7−114276号公報
【特許文献2】
特開平6−314043号公報
【特許文献3】
特開2002−323821号公報
【特許文献4】
特開2002−246151号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであり、像加熱装置に用いられる定着ベルトに要求される端部強度の向上を図るために、逆クラウン形状を有する電鋳からなる基材を用いた定着ベルトを提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
前記課題は、以下の本発明により達成される。
(1)少なくとも、電鋳からなる金属層と、該金属層上に設けられた離型層と、を有する定着ベルトであって、
これらの層が、該ベルトの長手方向に直行する方向における一方の端部から中央部を経て他方の端部まで連続層を形成し、
該金属層は、中央部の肉厚が均一であり、該肉厚を中央部から両端部に向けて連続的に増加させた逆クラウン形状を有することを特徴とする定着ベルト。
(2)前記金属層の中央部の肉厚が10〜100μmであり、該金属層の中央部と両端部の肉厚差が2〜100μmであることを特徴とする上記(1)に記載の定着ベルト。
(3)前記金属層と離型層の間に少なくとも弾性層を有する上記(1)又は(2)に記載の定着ベルト。
(4)前記弾性層がシリコーンゴム、フッ素ゴム及びフルオロシリコーンゴムからなる群から選択された少なくとも1種を含む上記(3)に記載の定着ベルト。
【0016】
ここで、「中央部」とは定着ベルトの長手方向の中心を中心とし、定着ベルトの長手方向長さの80〜90%を構成する部分を表す。また、「中央部が均一」とは、ハイデンハインの方法で評価し、(肉厚の最大値―肉厚の最小値)/(肉厚の平均値)が0.1以下の範囲にあることを表す。図10は逆クラウン形状の金属層の概略図を表しており、5が中央部、6が端部を表している。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の定着ベルトは、該金属層が逆クラウン形状を有し、かつ、該金属層の中央部の肉厚が均一であり、肉厚を中央部から両端部に向けて連続的に増加させたものである。
【0018】
本発明の定着ベルトは金属層両端部の肉厚を厚くすることによって、従来の逆クラウン形状の定着ベルトよりも更に優れた端部強度を確保し、耐熱耐久性も満足することが出来る。また、中央部の摩耗を防ぎ、記録材の搬送時の紙シワの発生を防止することができる。また、金属層の中央部の肉厚が10〜100μmであり、肉厚の最も薄い金属層の中央部と肉厚の最も厚い金属層の両端部の肉厚差が2〜100μmであることが好ましい。
【0019】
(1)定着ベルト
次に本発明の定着ベルトについて説明する。図1は、本発明における定着ベルトの一部の層構成模型図の一例である。本発明の定着ベルト10は、逆クラウン形状を有する電鋳からなる金属層1と、その外周面上に積層した弾性層2と、更にその外周面上に積層した離型層3と、金属層1の内周面に積層した摺動層4との複合構造を有する。定着ベルト10において、摺動層4が内周面側(ベルトガイド面側)であり、離型層3が外周面側(加圧ローラ面側)である。金属層1と弾性層2との間、弾性層2と離型層3との間、或いは金属層1と摺動層4との間には、接着のためにプライマー層(不図示)を設けても良い。プライマー層はシリコーン系、エポキシ系、ポリアミドイミド系等の公知の物を使用すれば良く、その厚さは、通常、1〜10μm程度が好ましい。
【0020】
また、特に記録材上のトナーのり量が少なく、トナー層の凹凸が比較的小さいモノクロ画像の加熱定着用の場合は、金属層1上に弾性層2を形成せず、金属層1上に直接、離型層3を形成しても良く、図1の弾性層2を省略した構造とすることも出来る。
【0021】
本発明の定着ベルト10は、主にセラミックヒータを熱源としたベルト加熱方式に用いられるが、この定着ベルト10を電磁誘導加熱方式に用いても良い。金属層1に交番磁束が作用することで金属層1に渦電流が発生し、金属層1が発熱する。その熱が弾性層2及び離型層3を介して定着ベルト10を加熱し、定着ニップ部Nに通紙される記録材Pを加熱して、トナー画像の加熱定着がなされる。
【0022】
a.金属層1
金属層1はステンレス鋼等の直円筒形状の母型を電鋳浴に浸漬させ、通常、母型を陰極部とし、一方に陽極部を設けて、母型の外周面上に電鋳プロセスにより薄膜状に成長させた金属からなる。前記金属層1の材質としては、ニッケル、またはニッケル−鉄、ニッケル−コバルト、ニッケル−マンガン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−タングステン等のニッケル合金が好ましい。ここで直円筒形状とは、長手方向に垂直な横断面が全て同一円形である筒形状をいう。
【0023】
金属層1は端部における割れ対策として、金属層の中央部の肉厚が均一であり、かつ最も薄く、金属層の肉厚が中央部から両端部に向けて連続的に増加した逆クラウン形状(鼓形状)の外形を有している。
このような肉厚分布を有する逆クラウン形状は電鋳条件である(1)陰極と陽極の電極間距離、或いは遮蔽板の開口幅の調整により金属層の膜厚分布を変化させることによって得ることができる。図2は、電極間距離を変化させた時の電鋳(金属層)の長手方向の肉厚分布を表している。また、図3は、遮蔽板の開口幅を変化させた時の電鋳(金属層)の長手方向の肉厚分布を表している。図2より電極間距離は、母型の両端部で肉厚分布が対称となり、成膜レートも速い100mmに設定し、更に電鋳(金属層)の長さ380mmに対しては、図3より遮蔽板の開口幅は、母型の中央部において肉厚分布が均一となり、かつ平坦化する290mmに設定することで、逆クラウン形状の金属層1を得ることができる。
【0024】
また、遮蔽板に関しては所望の膜厚分布に応じて、例えば図4及び5の開口幅調整板52のような形状のものを用いる事が出来る。図4及び5では電鋳母型50を陰極、53をアノードとして電鋳浴中に電気を流し、電鋳母型の外周上に金属層を形成する。この際、電鋳母型50とアノード53の間に遮蔽板51を設ける事によって、逆クラウン形状の電鋳が得られるような肉厚分布を得ることができる。なお、遮蔽板51の開口部の大きさは開口部調整板52によって調節できるようになっている。
【0025】
また、上記逆クラウン形状は、上記遮蔽板を使用せずに50電鋳母型と53アノードの電極間の配置によって得ることもできる。図13に配置関係を示す。50電鋳母型の幅Aに対して、53アノードの幅BはAより短い53aから、Aより長い53cに代えるにつれ、端部の膜厚を厚くすることができ、(B−A)/2を電極間距離に応じて適切に設定することにより、逆クラウン形状の金属層1を得ることができる。
【0026】
前記金属層1において、肉厚の最も薄い中央部では肉厚が10〜100μmであり、金属層の中央部と両端部との肉厚差が2〜100μmであることが好ましい。
金属層の中央部の肉厚が10μm以上であると、定着ベルトとして充分な強度を確保でき、像加熱装置に用いられる定着ベルトとしての耐久性も十分となる。逆に中央部の肉厚が100μm以下であると、容易に電鋳を行なうことができる上、ベルト脱型等にも支障が生じない。更に、金属層の中央部の肉厚は、50μm以下であることがより好ましい。
【0027】
更に、肉厚の最も薄い金属層の中央部の肉厚と、肉厚の最も厚い金属層の両端部の肉厚差が2μm以上であると、目的とする端部強度が充分に得られ、肉厚差が100μm以下であると、加圧ローラとの圧接力の低下や空隙が発生せず、定着ベルトに撓みが生じないため、定着性を維持することができる。更に、金属層の中央部と両端部の肉厚差は、2〜50μm以下であることがより好ましい。
また、金属層の両端部の肉厚は12〜200μmであることが好ましく、12〜150μmであることがより好ましい。
【0028】
前記したが本発明の金属層1は、例えばステンレス鋼製等の直円筒形状の母型を陰極として、電鋳プロセスにより製造される。この場合の電鋳浴としては、スルファミン酸ニッケル浴、ワット浴、或いはニッケル合金浴等の公知の電鋳浴を用いることができ、ピット防止剤、光沢剤、pH調整剤等の添加剤を適宜加えても良い。例えば、以下に示すニッケル電鋳浴組成並びに電鋳条件が挙げられる。
【0029】
[ニッケル電鋳浴組成]
(1)スルファミン酸ニッケル四水塩 :300〜450g/l
(2)塩化ニッケル :0〜30g/l
(3)ホウ酸 :30〜45g/l
(4)ピット防止剤、光沢剤、pH調整剤 :適量
(5)ニッケル電鋳浴温度 :50±10℃
(6)陰極電流密度 :1〜20A/dm
ニッケル電鋳の機械的耐久性及び適度な圧縮応力を得るために電鋳浴に添加する光沢剤としては、サッカリン、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレントリスルホン酸ナトリウム等を含む応力減少剤)と、2−ブチン−1,4−ジオール(以下、ブチンジオール)、クマリン、ジエチルトリアミン等を含むレベリング剤(平滑剤)が挙げられる。
【0030】
その中で本発明では、ニッケル電鋳浴にサッカリンを0.1g/l以下、ブチンジオールを1g/l以下、添加することが好ましい。より好ましくは、ニッケル電鋳浴にサッカリンを0.05g/l以下、ブチンジオールを0.5g/l以下添加するのが良い。また、定着ベルトに要求される耐熱性の劣化や強度不足による耐久性低下が起こる恐れがあるため、光沢剤濃度はサッカリンを0.005g/l以上、ブチンジオールを0.05g/l以上にすることが好ましい。
【0031】
金属層1の厚みは、次式で表される表皮深さよりも厚く、1μm以上にすることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。また、200μm以下にすることが好ましく、100μm以下にすることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。表皮深さσ[m]は、励磁回路の周波数f[Hz]と透磁率μと固有抵抗ρ[Ωm]で
【0032】
【数1】
Figure 2004302390
と表される。これは電磁誘導で使われる電磁波の吸収の深さを示しており、これより深い所では電磁波の強度は1/e以下になっており、逆に言うと殆どのエネルギーはこの深さまでの間に吸収されている。金属層1があまりに薄いと、殆どの電磁エネルギーが金属層1中に吸収しきれなくなり、電磁誘導加熱の効率が悪くなってくることがある。また、金属層1があまりに厚いと、剛性が高くなり、屈曲性が悪くなって回転体として使用し難くなることがある。従って、セラミックヒータを熱源としたベルト加熱方式に用いる場合では、熱容量を小さくしてクイックスタート性を向上させるために、金属層の膜厚は上記範囲にあることが好ましい。
【0033】
b.弾性層2
弾性層2は設けても設けなくても良い。弾性層2を設ける事により、ニップ部において被加熱像を覆って熱の伝達を確実にするとともに、金属層1の復元力を補って回転及び屈曲による疲労を緩和することが出来る。また、弾性層2を付与することにより、定着ベルト離型層表面の未定着トナー像表面への密着性が増し、熱を効率よく伝達させることが可能になる。弾性層2を設けた定着ベルトは、特に、未定着トナーのり量が多いカラー画像の加熱定着に適している。
弾性層2の材質としては、特に限定されず、耐熱性が良く、熱伝導率の良い物を選べば良い。弾性層2としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム及びフルオロシリコーンゴムからなる群から選択された少なくとも一種を含むことが好ましく、特にシリコーンゴムが好ましい。
【0034】
弾性層2に使用される前記シリコーンゴムとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリトリフルオロプロピルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリフェニルビニルシロキサン、これらポリシロキサンの共重合体等を例示することが出来る。
【0035】
なお、必要に応じて、弾性層2には乾式シリカ、湿式シリカ等の補強性充填剤、炭酸カルシウム、石英粉、珪酸ジルコニウム、クレー(珪酸アルミニウム)、タルク(含水珪酸マグネシウム)、アルミナ(酸化アルミニウム)、ベンガラ(酸化鉄)等を含有させても良い。
【0036】
弾性層2の厚みは、良好な定着画像品質が得られるので、10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。また、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。カラー画像を印刷する場合、特に写真画像等では記録材P上で大きな面積に渡ってベタ画像が形成される。この場合、記録材の凹凸或いはトナー層の凹凸面に沿って加熱面(離型層3)が変形できないと加熱ムラが発生し、伝熱量が多い部分と少ない部分とで画像に光沢ムラが発生する。
【0037】
つまり、伝熱量が多い部分は光沢度が高くなり、伝熱量が少ない部分では光沢度が低くなる。弾性層2があまりに薄いと、記録材或いはトナー層の凹凸形状に、加熱面が変形できず画像光沢ムラが発生してしまうことがある。また、弾性層2があまりに厚いと、弾性層の熱抵抗が大きくなりクイックスタートを実現するのが難しくなることがある。
【0038】
弾性層2の硬度(JIS K 6301)は、画像光沢ムラの発生が十分抑制され、良好な定着画像品質が得られるので、60○以下が好ましく、45○以下がより好ましい。
弾性層2の熱伝導率λは2.5×10−1[W/m・K]以上が好ましく、3.3×10−1[W/m・K]以上がより好ましい。また、8.4×10−1[W/m・K]以下が好ましく、6.3×10−1[W/m・K]以下がより好ましい。熱伝導率λがあまりに小さい場合には熱抵抗が大きくなり、定着フィルムの表層(離型層3)における温度上昇が遅くなることがある。熱伝導率λがあまりに大きい場合には、硬度が高くなったり、圧縮永久歪みが悪化したりすることがある。
【0039】
この様な弾性層2は公知の方法、例えば、液状のシリコーンゴム等の材料をブレードコート法等の手段によって金属層1上にコートし加熱硬化する方法、液状のシリコーンゴムとの材料を成形型に注入し加硫硬化する方法、押出成形後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すれば良い。
【0040】
c.離型層3
本発明の定着ベルトは離型層を有することによって、記録材からの定着ベルトの良好な離型性を確保することができる。離型層3の材料としては特に限定されず、離型性、耐熱性の良い物を選べば良い。離型層3としては、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂、シリコーン樹脂、フルオロシリコーンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムが好ましく、特にPFAが好ましい。なお、必要に応じて、離型層3にはカーボン、酸化すず等の導電剤等を離型層の10質量%以下で含有させても良い。
【0041】
離型層3の厚さは1μm以上100μm以下が好ましい。離型層3があまりに薄いと、塗膜の塗りムラで離型性の悪い部分ができたり、耐久性が不足したりすることがある。また、離型層3があまりに厚いと、熱伝導が悪化することがあり、特に樹脂系の離型層の場合は硬度が高くなって弾性層2の効果を抑制してしまうことがある。
【0042】
このような離型層3は公知の方法、例えば、フッ素樹脂系の場合、フッ素樹脂粉末を分散塗料化した物をコート、乾燥及び焼成により、或いは予めチューブ化した物を被覆及び接着する方法で形成すれば良く、ゴム系の場合、液状の材料を成形型に注入し加硫硬化する方法、押出成形後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すれば良い。
【0043】
d.摺動層4
摺動層4は本発明の必須成分ではないが、本発明の像加熱定着装置を作動させる際の駆動トルクの低減を図る上で設けることが好ましい。摺動層4を設けると、定着ベルトの熱容量を大きくしすぎることなく、金属層1に発生した熱が定着ベルトの内側に向かわないように断熱できるので、摺動層4が無い場合と比較して記録材P側への熱供給効率が良くなり、消費電力も抑えることが出来る。また、立ち上がり時間の短縮を図ることが出来る。
【0044】
摺動層4の材質としては、高耐熱性で強度が高く、耐摩耗性に優れ、表面が滑らかに出来る物を選べば良い。特にポリイミド樹脂等が好ましい。なお、必要に応じて摺動層4には摺動剤としてフッ素樹脂粉末、グラファイト、二硫化モリブデン等を含有させても良い。
摺動層4の厚さとしては5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また、100μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましい。摺動層4があまりに薄いと耐久性が不足することがある。摺動層4があまりに厚いと定着ベルトの熱容量が大きくなり、立ち上がり時間が長くなることがある。
この様な摺動層4は公知の方法、例えば、液状の材料をコート、乾燥及び硬化等の方法、或いは予めチューブ化した物を貼り付ける方法等で形成すれば良い。
【0045】
【実施例】
[実験例1]
(実施例1)
金属層1として長さ250mm、内径34mm、中央部(長手方向中心を中心とする長さ210mmの部分)肉厚50μm、中央部から両端部に向けて肉厚が連続的に増加し、逆クラウン形状の最大肉厚差(両端部の肉厚−中心部の肉厚)20μmのニッケル電鋳無端ベルトを以降の手段で作製した。ニッケル電鋳ベルト基材の作製条件として、電鋳浴組成と電鋳条件を次に示す。
【0046】
[電鋳浴組成]
(1)スルファミン酸ニッケル四水塩 :450g/l
(2)塩化ニッケル :10g/l
(3)ホウ酸 :40g/l
(4)ピット防止剤(ピットレスS(商品名)、日本化学産業 社製) :適量
(5)サッカリン :0.05〜0.005g/l
(6)2−ブチン−1,4−ジオール :0.5〜0.05g/l
[電鋳条件]
(7)陰極電流密度 :10A/dm
(8)pH :4.0±0.5
(9)電鋳浴温度 :50±1℃
(10)母型の面粗さ(Rz) :0.95μm
(11)電極間距離 :100mm
(12)遮蔽板の設定 :開口幅170mm、図4の形状を使用
前記ニッケル電鋳浴にステンレス鋼製の直円筒形状の母型を陰極として浸漬し、この母型上に内周側から外周側に向かって前記電鋳条件によりニッケル電鋳を成膜した。そして、このニッケル電鋳を母型から取り外し、金属層1とした。そして、弾性層2として300μmのシリコーンゴム層(GE東芝シリコーン社製)、更に離型層3として20μmのPFAチューブ(グンゼ社製)を各々プライマー(東レダウコーニング社製)を介して金属層1外周面上に順次積層し、摺動層4として15μmのポリイミド樹脂層(U−ワニス−S(商品名)、宇部興産社製)を金属層1内周面に積層し、定着ベルト10を作製した。
作製した前記金属層1に対して引き裂き強度試験を行った。また、作製した前記定着ベルト10を図6の様な像加熱定着装置100に装着し、空回転耐久テストを行った。
【0047】
(1)引き裂き強度試験は、測定機としてテンシロン万能試験機RTM−100(株式会社 オリエンテック社製)を用い、金属層1に幅5mm×長さ10mmの切りかき部を入れ、速度5mm/secで前記切りかき部を引き上げた際の最大荷重を金属層の中央部と端部における長手方向、回転方向について測定した。
(2)空回転耐久テストは、220℃に温度調節しながら所定の加圧力で加圧ローラを定着ベルトに押し付け、従動回転させた。加圧ローラは肉厚3mmのシリコーンゴム(GE東芝シリコーン社製)層に30μmのPFAチューブ(グンゼ社製)を被覆した外径30mmのゴムローラを用いた。本実験例1では、加圧力は200N、定着ニップは8mm×230mmであり、定着ベルトの表面速度は100mm/secとなる条件に定め、ベルトの亀裂及び破断が発生するまでの時間を耐久時間とした。
【0048】
(実施例2)
実施例1で作製した定着ベルト10を図7の様な電磁誘導加熱方式の像加熱定着装置100’に装着し、実施例1と同様に空回転耐久テストを行った。
【0049】
(比較例1)
金属層として長さ250mm、内径34mm、肉厚が50μmで均一の直円筒形状のニッケル電鋳無端ベルトを作製した。ニッケル電鋳ベルト基材の作製条件は、本比較例において遮蔽板の開口幅を290mmとした以外は実施例1及び2に準ずる。
【0050】
前記ニッケル電鋳浴にステンレス鋼製の直円筒形状の母型を陰極として浸漬し、前記電鋳条件によりニッケル電鋳を成膜した。そして、このニッケル電鋳を母型から取り外し、金属層とした。そして、弾性層として300μmのシリコーンゴム層、離型層として20μmのPFAチューブを、各々プライマーを介して金属層外周面に積層し、摺動層として15μmのポリイミド樹脂層を金属層内周面に積層し、定着ベルトを作製した。
【0051】
実施例1及び2と同様に、作製した前記金属層に対して引き裂き強度試験を行った。また、作製した前記定着ベルトについて、図6の様な像加熱定着装置100に装着し、空回転耐久テストを行った。
【0052】
実施例1、2及び比較例1で作製した定着ベルトの引き裂き強度試験結果を表1に、空回転耐久テストの結果を表2に示す。
【0053】
【表1】
Figure 2004302390
【0054】
【表2】
Figure 2004302390
表1より実施例1で作製した逆クラウン形状の金属層1を有する定着ベルトでは、引き裂き強度が中央部よりも端部の方で著しく強くなり、一方、比較例1の定着ベルトでは中央部と端部で引き裂き強度が殆ど変わらず、実施例1の定着ベルトよりも端部での引き裂き強度が小さいことが判る。更に、この結果を受ける様に空回転耐久テストでは、実施例1の本発明の定着ベルトを用いた場合に、耐久時間が全て500時間を超えた。また、実施例2においては全て600時間を超え、更に良好であった。しかし、比較例1として用いた定着ベルトでは、400時間未満でベルト端部から亀裂が生じた。
【0055】
[実験例2]
実施例1及び2に用いた前記定着ベルト10をキヤノン製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2040」に搭載し、画出し耐久テストを行った。以下にテスト条件を示す。
・加圧力 :200N
・定着ニップ :8mm×230mm
・定着温度 :200℃
・プロセススピード :100mm/sec
本実施例の定着ベルト10を用いた場合において10万枚の画出し耐久テストを行ったが、定着性に問題なく良好であった。
【0056】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明により、逆クラウン形状を有する電鋳ベルト基材を用いることにより、断続的な加熱駆動時において充分な端部強度が確保できる。更にこれにより、耐熱耐久性も良好に満足することの出来る高品質な定着ベルトを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の定着ベルトの層構成の一例を示した概略図である。
【図2】電極間距離の変化に伴う電鋳ベルトの長手方向の肉厚分布の変化を示した図である。
【図3】遮蔽板の開口幅の変化に伴う電鋳ベルトの長手方向の肉厚分布の変化を示した図である。
【図4】本発明の遮蔽板の形状の一例を示した模式図である。
【図5】本発明の遮蔽板の形状の一例を示した模式図である。
【図6】加熱定着方式の像加熱装置の概略構成の一例を示した概略図である。
【図7】電磁誘導加熱方式の像加熱装置の概略構成の一例を示した概略図である。
【図8】図7像加熱装置の磁場発生手段模型図である。
【図9】定着装置の分解斜視図である。
【図10】定着ベルトの端部規制部分の詳細図である。
【図11】定着ベルトの端部割れの説明図である。
【図12】定着ベルトと従動型の端部規制用フランジ部材の概略構成図である。
【図13】逆クラウン形状を得る電鋳母型とアノードの配置説明図である。
【符号の説明】
1 金属層
2 弾性層
3 離型層
4 摺動層
5 金属層の中央部
6 金属層の端部
10 定着ベルト
12 セラミックヒータ
12a ヒータ基板
12b 発熱層
12c ガラスやフッ素樹脂等の保護層
15、15a フランジ部材
16、16’ ベルトガイド
16a、16b、16e ベルトガイド部材
16c ベルトガイド
17 磁性コア
17a、17b、17c 磁性コア
18 励磁コイル
18a、18b 給電部
19 絶縁部材
22 加圧用剛性ステイ
26 温度検知素子(サーミスタ)
27 励磁回路
30 加圧部材(加圧ローラ)
30a、30b シリコーンゴム等の弾性層
40 摺動板
50 電鋳母型
51 遮蔽板
52 開口部調整板
53 アノード
M 駆動手段
N 定着ニップ部
t トナー画像
P 記録材
100、100’ 像加熱定着装置

Claims (4)

  1. 少なくとも、電鋳からなる金属層と、該金属層上に設けられた離型層と、を有する定着ベルトであって、
    これらの層が、該ベルトの長手方向に直行する方向における一方の端部から中央部を経て他方の端部まで連続層を形成し、
    該金属層は、中央部の肉厚が均一であり、該肉厚を中央部から両端部に向けて連続的に増加させた逆クラウン形状を有することを特徴とする定着ベルト。
  2. 前記金属層の中央部の肉厚が10〜100μmであり、該金属層の中央部と両端部の肉厚差が2〜100μmである事を特徴とする請求項1に記載の定着ベルト。
  3. 前記金属層と離型層の間に少なくとも弾性層を有する請求項1又は2に記載の定着ベルト。
  4. 前記弾性層がシリコーンゴム、フッ素ゴム及びフルオロシリコーンゴムからなる群から選択された少なくとも1種を含む請求項3に記載の定着ベルト。
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