JP2004286840A - 定着ベルト - Google Patents
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Abstract
【課題】小熱容量の加熱体を利用し、低エネルギー加熱を可能とした像加熱装置において、高耐久性の定着ベルト、および高耐久性で信頼性の高い像加熱装置を提供する。
【解決手段】本発明の定着ベルトは、少なくとも離型層とニッケル電鋳からなる金属層と、摺動層と、を有する定着ベルトであって、該金属層の内周面に5〜70質量%の固体潤滑剤を含む摺動層を有すること特徴とする。
【選択図】 図1
【解決手段】本発明の定着ベルトは、少なくとも離型層とニッケル電鋳からなる金属層と、摺動層と、を有する定着ベルトであって、該金属層の内周面に5〜70質量%の固体潤滑剤を含む摺動層を有すること特徴とする。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子写真装置及び静電記録装置等の画像形成装置に用いられる定着ベルトに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、画像形成装置において電子写真プロセス、静電記録プロセス及び磁気記録プロセス等の画像形成プロセス手段部で、記録材(転写材シート、エレクトロファックスシート、静電記録紙、OHPシート、印刷用紙、フォーマット紙等)に転写方式あるいは直接方式で形成担持させた目的の画像情報の未定着画像(トナー画像)を記録材面に加熱定着させる定着装置としては、熱ローラ方式の装置が広く用いられていた。この方式では一般的に、ローラ内周部にハロゲンヒータ等の熱源を取り付け、この熱源によってローラを加熱していた。
【0003】
一方、近年、加熱方式としてセラミックヒータを熱源として小熱容量の樹脂ベルトあるいは金属ベルトを加熱するものが広く提案、実施されている。すなわち、この加熱方式では一般に、加熱体としてのセラミックヒータと加圧部材としての加圧ローラとの間に耐熱性ベルト(定着ベルト)を挟ませてニップ部を形成し、前記ニップ部の定着ベルトと加圧ローラとの間に画像定着すべき未定着トナー画像を形成担持させた記録材を導入してベルトと一緒に挟持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータの熱を、ベルトを介して記録材に与え、この熱とニップ部の加圧力とで未定着トナー画像を記録材面に熱圧定着させる。
【0004】
このベルト加熱方式の定着装置は、ベルトとして低熱容量の部材を用いてオンデマンドタイプの装置を構成することができる。すなわち、画像形成装置の画像形成実行時のみ熱源としてのセラミックヒータに通電して所定の定着温度に発熱させた状態にすれば良く、画像形成装置の電源オンから画像形成実行可能な状態までの待ち時間が短く(クイックスタート性)、スタンバイ時の消費電力も大幅に小さい(省電力)等の利点がある。図2にこのベルト加熱方式の定着装置の一構成例を示す。この加熱方式では加熱体としてのセラミックヒータ12と加圧部材としての加圧ローラ30との間に耐熱性ベルト(定着ベルト10)を挟ませてニップ部を形成させ、前記ニップ部の定着ベルト10と加圧ローラ30との間に画像定着すべき未定着トナー画像tを形成担持させた記録材Pを導入してベルトと一緒に挟持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータ12の熱を、ベルト10を介して記録材Pに与え、この熱とニップ部の加圧力とで未定着トナー画像tを記録材P面に熱圧定着させる。
【0005】
このようなベルト加熱方式におけるベルトとしては耐熱樹脂等が用いられ、特に耐熱性、強度に優れたポリイミド樹脂が用いられている。しかしながら、さらに機械を高速化、高耐久化した場合、一般的にこれらの耐熱性樹脂フィルムでは強度が不十分である。このことから、強度に優れた金属、例えばSUS、ニッケル、銅、アルミニウム等を基層とするベルトを用いることが提案されている。
【0006】
また、特許文献1では金属ベルトを利用して、これを電磁誘導による渦電流で自己発熱させる誘導加熱方式も開示されている。すなわち、磁束によりベルト自身あるいはベルトに近接させた導電性部材に渦電流を発生させ、ジュール熱によって発熱させる加熱装置が提案されている。この電磁誘導加熱方式は、発熱域をより被加熱体に近くすることができるため、消費エネルギーの効率アップが達成できる。
【0007】
図3に一構成例を示す。磁性コア17a、17b及び17cは高透磁率の部材であり、励磁コイル18は励磁回路(不図示)から供給される交番電流(高周波電流)によって交番磁束を発生する。金属層1にこの交番磁束が作用することで渦電流が発生し、金属層1が発熱する。その熱が弾性層2及び離型層3を介して定着ベルト10を加熱し、定着ニップ部Nに通紙される記録材Pを加熱してトナー画像の加熱定着がなされる。
【0008】
また、図4に図3の像加熱装置の磁場発生手段模型図を示す。図4の磁場発生手段は、磁性コア17a、励磁回路27に接続した給電部18a及び18b並びに励磁コイル18からなる。励磁コイル18は励磁回路27から給電部18a及び18bを通して供給される交番電流(高周波電流)によって交番磁束を発生する。
【0009】
ベルト加熱方式の定着装置の定着ベルトの駆動方法としては、ベルト内面を案内するフィルムガイドと加圧ローラとで圧接されたフィルムを加圧ローラの回転駆動によって従動回転させる方法(加圧ローラ駆動方式)や、逆に駆動ローラとテンションローラによって張架された無端ベルト状のベルトの駆動によって加圧ローラを従動回転させる方法等がある。
【0010】
特許文献2には、金属ベルトを用いた定着ベルトとしてヒータ面接触部の表面粗さが0.5μm未満で、40μm前後の厚みのニッケル製定着ベルトを用いたものが開示されている。また、特許文献3には外周面に離型性を含むコーティング層を有し、内周面には樹脂層を有する10〜35μm厚みのニッケル製定着ベルトが例示されている。この定着ベルトは、図2及び図3においてベルトガイド(16a、16b、16c、16e)や摺動層板40と定着ベルトが接触した場合にも良好な絶縁性を確保するために設けられている。
【0011】
【特許文献1】
特開平7−114276号公報
【特許文献2】
特開平7−13448号公報
【特許文献3】
特開平6−222695号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
近年、画像形成装置における印字速度の高速化に伴い、定着ベルトには高速回転に耐え得るすべりの良い摺動層が必要とされている。しかし、現状では一般的に耐摩耗性及びすべり性に優れた摺動層が得られておらず、この要求を十分満足できていない。
本発明は、このような従来技術の問題点を解決する為になされたものであり、金属材料からなるシームレスべルト内周面の耐摩耗性及びすべり性の向上並びにその製造の際のコストダウンを図ることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上本発明は、上記課題を達成するために、
(1)少なくとも、離型層と、該離型層上に設けられた金属層と、該金属層上に設けられ、摺動面を形成する摺動層と、を有し、該摺動層が、樹脂と固体潤滑剤とを含み、該固体潤滑剤の該摺動層中での含有量が5〜70質量%であることを特徴とする定着ベルト。
(2)前記固体潤滑剤が二硫化モリブデン及びグラファイトの少なくとも一方を含むことを特徴とする上記(1)に記載の定着ベルト。
(3)前記樹脂が、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂の少なくとも一種からなることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の定着ベルト。
(4)前記離型層と金属層との間に少なくとも弾性層を有する上記(1)〜(3)の何れかに記載の定着ベルト。
(5)前記弾性層がシリコーンゴム、フッ素ゴム及びフルオロシリコーンゴムからなる群から選択された少なくとも一種を含む上記(1)〜(4)の何れかに記載の定着ベルト。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の定着ベルトは、金属層の内周面に固体潤滑剤と樹脂とを含む摺動層を有することに特徴がある。摺動層としては、画像定着の際の加熱により脆くならず、すべり性が良いことが望まれる。ここで、金属層とは鉄を主体とする金属、例えば、ステンレス鋼、低炭素鋼や、ニッケル、銅、アルミニウムなど絞りなどの塑性加工法や電鋳法などで作製される金属スリーブ等を言う。本発明による定着ベルトを像加熱装置に用いることによって、金属スリーブ基材が相対する構造物と接触しても削れず、摺動性も良好で十分な耐久性、耐摩耗性及び良好なすべり性を有することができる。以下、本発明の詳細を説明する。
【0015】
(1)定着ベルト
本発明の定着ベルトについて説明する。図1は本発明における定着ベルト10の層構成模型図の一例である。本発明の定着ベルト10は、基層となる金属層1と、その外周面に積層した弾性層2と、さらにその外周面に積層した離型層3と、金属層1の内周面に積層した摺動面を構成する摺動層4との複合構造を有する。定着ベルト10において、摺動層4が内周面側(ベルトガイド面側)であり、離型層3が外周面側(加圧ローラ面側)である。また、金属層1と弾性層2との間、弾性層2と離型層3との間、あるいは金属層1と摺動層4との間には、接着のためにプライマー層(不図示)を設けても良い。プライマー層としてはシリコーン系、エポキシ系、ポリアミドイミド系等の公知のものを使用すれば良く、その厚さは、通常、1〜10μm程度である。また、金属層1の外周面に弾性層2を形成せず、金属層1に離型層3を直接、形成しても良い。特に、記録材上のトナーのり量が少なく、トナー層の凹凸が比較的小さいモノクロ画像の加熱定着用の場合は、このような弾性層を省略した形態のものとすることができる。
【0016】
これらの層を積層する順序は、摺動層4を金属層1の内周面側に形成した後、弾性層2、更にその上に離型層3を形成しても良い。または、金属層1の外周面に弾性層2、更にその外周面上に離型層3を形成した後、摺動層4を形成しても良い。摺動層4は樹脂材料を含むため一般的な塗装法、ディップ法で形成することができる。
【0017】
この定着ベルトを電磁誘導加熱方式に用いた場合、金属層1としては電鋳法で作製したニッケル基材が使用されている。ニッケル電鋳無端ベルトからなる金属層1が電磁誘導発熱性を示す発熱層として機能する。後述するが、金属層1に交番磁束が作用することで金属層1に渦電流が発生し、金属層1が発熱する。その熱が弾性層2及び離型層3を介して定着ベルト10を加熱し、定着ニップ部Nに通紙される記録材Pを加熱してトナー画像の加熱定着がなされる。また、本発明の定着ベルト10は、セラミックヒータを用いたベルト加熱方式に用いても良い。
【0018】
a.金属層1
金属層1が、電磁誘導加熱方式に用いられるニッケル電鋳ベルトにより形成される場合、例えばステンレス鋼製などの母型を陰極として、電鋳プロセスにより製造される。この場合の電解浴としては、例えばスルファミン酸系などの公知のニッケル電解浴を用いることができ、更にpH調整剤、ピット防止剤、光沢剤などの添加剤を適宜加えても良い。
【0019】
例えば、スルファミン酸ニッケルを300〜450g/l、塩化ニッケルを0〜30g/l、およびホウ酸を30〜45g/l含むニッケル電解液が挙げられる。そして、添加する光沢剤濃度、電解浴温度、陰極電流密度などを制御することによって、所望の表面粗さを有したニッケル電鋳ベルトまたはニッケル−鉄合金やニッケル−コバルト合金などのニッケル合金からなる電鋳ベルトが得られる。電鋳プロセスに用いる電解浴によっても異なるが、通常、電解浴温度45〜60℃程度、陰極電流密度1〜20A/dm2程度で行なうことが好ましい。光沢剤としてはサッカリン、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム等を含む応力減少剤及び一次光沢剤、2−ブチン−1,4−ジオール、クマリン、ジエチルトリアミン等を含む二次光沢剤と呼ばれる添加剤等が加えられる。上記電鋳法で作製した金属層は、電磁誘導加熱方式に限らず、セラミックスヒーターを用いた加熱方式にも使用できる。また、電鋳法に限らず例えば、絞りなどの塑性加工法で得たニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼、低炭素鋼、銅、アルミニウムなども用いることができる。
【0020】
金属層1の厚みは、次の式で表される表皮深さより厚い方が良く、例えば、1μm以上にすることが好ましく、20μm以上にすることがより好ましい。また、200μm以下にすることが好ましく、100μm以下にすることがより好ましく、50μm以下にすることが更に好ましい。表皮深さσ[m]は、励磁回路の周波数f[Hz]と透磁率μと固有抵抗ρ[Ωm]で
【0021】
【数1】
【0022】
と表される。これは電磁誘導で使われる電磁波の吸収の深さを示しており、これより深いところでは電磁波の強度は1/e以下になっており、逆にいうとほとんどのエネルギーはこの深さまでで吸収されている。金属層1があまりに薄いと、ほとんどの電磁エネルギーが吸収しきれなくなってきて誘導加熱の効率が悪くなってくることがある。また、金属層1があまりに厚いと、剛性が高くなると共に屈曲性が悪くなって回転体として使用しにくくなることがある。また、セラミックヒータを使用するベルト加熱方式に金属層を用いる場合、金属層の厚みを上記範囲内とすることによって、熱容量を小さくしてクイックスタート性を向上させることができる。
【0023】
b.弾性層2
弾性層2は設けても設けなくても良い。弾性層を設けることにより、ニップ部において被加熱像を覆って熱の伝達を確実にするとともに、金属層1を形成するニッケル電鋳ベルトの復元力を補って回転・屈曲による疲労を緩和することができる。また、弾性層を付与することにより、定着ベルト離型層表面と記録材上の未定着トナー像の凹凸との密着性が増し、効率よくトナー画像へ熱伝達を行なうことが可能となる。弾性層2を設けた定着ベルトは、特に、未定着トナーののり量が多いカラー画像の加熱定着に適している。
【0024】
弾性層2の材質としては、特に限定されず耐熱性の良いものが良く、熱伝導率が良いものを選べば良い。弾性層2としてはシリコーンゴム、フッ素ゴム及びフルオロシリコーンゴムからなる群から選択された少なくとも一種を含むことが好ましく、シリコーンゴムがより好ましい。
弾性体層に使用されるシリコーンゴムとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリトリフルオロプロピルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリフェニルビニルシロキサン及びこれらポリシロキサンの共重合体等を例示することができる。
【0025】
なお、必要に応じて、弾性体層には乾式シリカ、湿式シリカ等補強性充填材、炭酸カルシウム、石英紛、珪酸ジルコニウム、クレー(珪酸アルミニウム)、タルク(含水珪酸マグネシウム)、アルミナ(酸化アルミニウム)、ベンガラ(酸化鉄)等を含有させても良い。
【0026】
弾性層2の厚さは、良好な定着画像品質を得るために10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。また、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。カラー画像を印刷する場合、特に写真画像等では記録材P上で大きな面積に渡ってベタ画像が形成される。この場合、定着ベルトの加熱面(離型層3)が、記録材の凹凸あるいはトナー層の凹凸の形状に変形できないと加熱ムラが発生し、伝熱量が多い部分と少ない部分とで画像に光沢ムラが発生する。つまり、伝熱量が多い部分では光沢度が高くなり、伝熱量が少ない部分では光沢度が低くなる。ここで、弾性層2があまりに薄いと、定着ベルトが記録材あるいはトナー層の凹凸形状に変形することができず、画像光沢ムラが発生してしまうことがある。また、弾性層2があまりに厚いと、弾性層の熱抵抗が大きくなり、クイックスタートを実現することが難しくなることがある。
【0027】
弾性層2の硬度(硬度 JIS K 6253)は、画像光沢ムラの発生が十分抑制され、良好な定着画像品質が得られるため、60°以下が好ましく、45°以下がより好ましい。
【0028】
弾性層2の熱伝導率λは2.5×10−1[W/m・K]以上が好ましく、3.3×10−1[W/m・K]以上がより好ましい。また、8.4×10−1[W/m・K]以下が好ましく、6.3×10−1[W/m・K]以下がより好ましい。熱伝導率λがあまりに小さい場合には熱抵抗が大きくなり、定着フィルムの表層(離型層3)における温度上昇が遅くなることがある。熱伝導率λがあまりに大きい場合には、硬度が高くなったり、圧縮永久歪みが悪化したりすることがある。
【0029】
このような弾性層は公知の方法、例えば、液状のシリコーンゴム等の材料をブレードコート法等の手段によって金属層上に均一な厚みでコート、加熱硬化する方法、液状のシリコーンゴム等の材料を成形型に注入し加硫硬化する方法、押出成形後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すれば良い。
【0030】
c.離型層3
離型層3の材料としては特に限定されず、離型性、耐熱性の良いものを選べば良い。離型層3としてはPFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂、シリコーン樹脂、フルオロシリコーンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムが好ましく、PFAがより好ましい。
なお、必要に応じて、離型層にはカーボン、酸化すず等導電剤等を離型層の構成成分の10質量%以下、含有させても良い。
【0031】
離型層3の厚さは1μm以上が好ましい。また、100μm以下が好ましい。離型層3があまりに薄いと、塗膜の塗りムラで離型性の悪い部分ができたり、耐久性が不足したりすることがある。また、離型層があまりに厚いと、熱伝導が悪化することがあり、特に樹脂系の離型層の場合は硬度が高くなって、良好な熱伝達性や回転・屈曲による疲労の緩和性などの弾性層2の効果がなくなってしまうことがある。
【0032】
このような離型層は公知の方法、例えば、フッ素樹脂系の場合、フッ素樹脂粉末を分散塗料化したものをコート、乾燥及び焼成により、あるいは予めチューブ化したものを被覆、接着する方法で形成すれば良く、ゴム系の場合、液状の材料を成形型に注入し加硫硬化する方法、押出成形後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すれば良い。
【0033】
また、予め内周面をプライマー処理したチューブ、予め外周面をプライマー処理したニッケル電鋳ベルトを円筒金型内に装着し、チューブとニッケル電鋳ベルト間隙間に液状シリコーンゴムを注入、加熱することでゴムの硬化及び接着を行う手法を用いれば、弾性層、離型層を同時に形成することも可能である。
【0034】
d.摺動層4
次に本発明の摺動層4について説明する。摺動層4は、本発明の像加熱定着装置を作動させる際の駆動トルクの低減を図るうえで重要な役割を果たす。特に最近、定着速度の高速化に伴い、定着ベルト内周面にすべりの良く、耐磨耗性の良好な摺動層が必要となってきている。耐磨耗性を向上させるためには動摩擦係数が小さいほうが良い。特に定着時の温度である200℃前後での動摩擦係数が小さいことが要求される。このため、摺動層中に5〜70質量%の固体潤滑剤を含む必要がある。摺動層の厚みとしては金属層の屈曲性を阻害しない程度の厚みが良く、3〜20μmが好ましい。
【0035】
定着ベルトは加圧ローラーに押さえつけられるため、絶えず屈曲、回転しており、固体潤滑剤の含量が70質量%を超えると、摺動層と金属層の密着力が低下し、摺動層が容易に金属層から剥離し、摺動層として機能しなくなる。また、多量の固体潤滑剤を用いるのはコストが高くなるため現実的でない。一方、固体潤滑剤の含量が5質量%未満であると摺動層の動摩擦係数が高くなってしまう。固体潤滑剤の含量は、より低コストで良好なすべり性が得られるため5〜50質量%が好ましく、更に好ましくは8〜30質量%であるのが良い。
【0036】
また、固体潤滑剤としては、炭化珪素、ボロンナイトライド、フッ素、二硫化モリブデン、グラファイトおよびこれらの混合物からなる群から選択された少なくとも一種を用いることが好ましく、より低い動摩擦係数が得られる二硫化モリブデン及びグラファイトの少なくとも一方を用いることがより好ましい。二硫化モリブデン、グラファイトの粒子径としては0.1〜20μmが好ましい。この大きさだと樹脂の表面に適当に固体潤滑剤を露出させることができる。
【0037】
次に、摺動層構成用の樹脂は、摺動層に必要とされる耐久性や耐熱性などを付与でき、また、固体潤滑剤のバインダーとしても機能できるものが利用され、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂及び液晶ポリマーなどの耐熱性樹脂が挙げられるが、定着ベルトの回転時の屈曲で割れや剥離が生じるものであってはならない。
【0038】
また、摺動層は定着ベルトの内周面に形成するため、高い耐熱温度が要求され、耐熱温度として240℃以上が必要とされる。一方、定着ベルトと接するベルトガイド及びベルトガイド部材(図2の16c、図3の16a及び16b)は、耐熱性や薄肉形状であることが必要なため、これらを満たす好適な方法として一般的には射出成型を行なう必要がある。また、この射出成型に好適なベルトガイド部材としてポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマーが用いられる。従って、ベルト内周面の摺動層をベルトガイドと同じ材料とした時、ベルトガイド部材との接触時に摩耗を招きやすいため、これらは良い組合せとは言えない。これらの点を考えると摺動層は、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂の少なくとも一種を含むことが好ましいと言える。ポリアミドイミド樹脂としては、例えばデフリックコート(商品名)、バイロマックス(商品名)等を使用することができる。また、ポリイミド樹脂としては、例えばU−ワニスーA(商品名)、U―ワニスーS(商品名)等を使用することができる。また、摺動層には難燃性向上の目的で酸化アンチモン、ホウ素系の無機化合物、リン系化合物及びチッソ系化合物等を含有することもできる。
【0039】
摺動層は、ブレードコート法等の手段によって金属層上に均一な厚みでコート、加熱硬化する方法、材料を成形型に注入し加硫硬化する方法、押出成形後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すれば良い。
【0040】
【実施例】
(参考例1)
まず、摩耗試験を行ない、動摩擦係数と磨耗体積について測定を行なった。はじめに金属層であるニッケル電鋳品、塑性加工(圧延)により得たステンレス合金(SUS304)のそれぞれ厚み50μmのものについて評価した。
【0041】
摩耗試験は、φ2mmのアルミナボールを金属層に押し付け、荷重300gで行なった。アルミナボールを用いたのは図2及び図3の摺動板40にアルミナなどのセラミックスが用いられるためである。摩耗試験は室温と200℃に加熱した場合について行なった。表1に結果を示す。ここで、磨耗体積(単位:mm3)とは摩擦痕の平均断面積と摩擦距離との積である。摩擦痕の断面積はZygo社製New View 5000型三次元表面構造解析装置を用い、断面のプロファイルを作成することにより求めた。
【0042】
【表1】
【0043】
ニッケル電鋳、ステンレス合金ベルトとも200℃では室温に比較して動摩擦係数が大きくなり、また、摩耗体積は2倍以上に大きくなる。このように、200℃での摩耗体積が大きくなるのは、加熱により金属層表面には酸化物が形成されるが、これらの酸化物は脆いため摩耗により剥離し、その剥離した酸化物が素地金属を削るためと思われる。
【0044】
(参考例2)
50μmのニッケル電鋳の板上にポリアミドイミド樹脂(U−ワニス−S(商品名)、宇部興産(株)製)を10μm形成したサンプルとポリイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)を10μm形成したサンプルをそれぞれ作製し、参考例1と同様の方法でこれらの樹脂の動摩擦係数と摩耗体積を評価した。ポリアミドイミド樹脂は、金属層に塗布後80℃で30分、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成した。ポリイミド樹脂は、塗布後220℃で1時間、焼成した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2の結果より、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂は、ニッケル電鋳やステンレス鋼(SUS304)と比べて動摩擦係数や摩耗量が小さいことが分かる。
また、ステンレス鋼を金属層として上記と同様にポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂を形成し実験を行なったが、表2と同じ動摩擦係数と摩耗体積の結果が得られた。すなわち、動摩擦係数と摩耗体積は、金属層を構成する金属材料の種類には関係しないことが確認できた。また、樹脂層の動摩擦係数、摩耗量の値は室温より200℃の方が悪くなることが分かった。
【0047】
[実施例1]
金属層1として長さ250mm、内径34mm、厚み50μmの無端ニッケル電鋳ベルトを下記のように作製した。金属層となるニッケル電鋳ベルト基材を作製するためにスルファミン酸ニッケル四水塩450g/l、塩化ニッケル10g/l、硼酸40g/lからなる水溶液浴を作り、次に必要量のピット防止剤(ピットレスS(商品名)、日本化学産業製)を加えた後、第一光沢剤としてサッカリン、第二光沢剤として2−ブチン−1,4−ジオールを適時の組み合わせ(第一光沢剤:第二光沢剤=1:10)で添加した浴を作製した。そして、ステンレス鋼製の母型を陰極として、浴温50℃、電流密度7A/dm2の条件で母型の表面にニッケルを電析させベルトを作製した。そして、弾性層2として300μmシリコーンゴム(GE東芝シリコーン製)をベルトの外周上に、離型層3として30μmPFAチューブ(グンゼ製)を弾性層の外周上に、各々プライマー(東レダウコーニング製)を介して積層し、ニッケル電鋳ベルト基材を作製した。
【0048】
次に、ポリアミドイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)95質量%に二硫化モリブデンを5質量%添加し、上記のベルト基材内周面に塗装し、80℃で30分間、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、図1の定着ベルトを得た。ベルト内周面の摺動層の膜厚は8μmであった。このようにして作製した定着ベルトを図3の像加熱装置に装着し、空回転耐久テストを行なった。空回転耐久テストは、220℃に温度調節しながら、所定の加圧力で加圧ローラーを定着ベルトに押し付け、定着ベルトを加圧ローラーに従動回転させた。加圧ローラーは、肉厚3mmシリコーン層に30μmのPFAチューブ(グンゼ製)を被覆した外径30mmのゴムローラーを用いた。本実験では、加圧力は200N、定着ニップは幅7mm×長さ230mm、定着ベルトの表面速度は高速印字速度である120mm/secの条件で試験を行なった。また、ベルトガイドの摺動板(図3の40)のすべり性を良くするためにダウコーニング社製のHP3000を摺動板上に0.5g塗布し、試験を行なった。定着ベルトを従動回転させるために要した加圧ローラーの負荷トルクを測定して、定着ベルトのすべり性を評価した。耐久時間5時間、100時間、500時間後のトルク変化を表3に示す。
【0049】
本実施例で作製した定着ベルトは、比較例の定着ベルトと比べてトルクが小さく、初期回転トルク(回転開始時のトルク)も耐久500時間後のトルクも変化せずに良好なことがわかった。また、上記定着装置をキヤノン製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2710」に搭載し、画出し耐久テストを行なった。10万枚画出し耐久テストを行なったが、定着性に問題はなく良好であった。
【0050】
[実施例2]
実施例1と同様なニッケル電鋳ベルトの外周面上に弾性層2及び離型層3を積層した定着ベルトを用いて、内周面にポリアミドイミド樹脂(デフリクコート(商品名)、川邑研究所製)30質量%にグラファイトを70質量%添加した樹脂組成物を塗装し、80℃で30分間、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は9μmであった。実施例1と同様な条件で空耐久試験を行なった。結果を表3に示す。本実施例の定着ベルトのトルクは比較例の定着ベルトのトルクよりも小さく、初期トルクも耐久500時間後のトルクも変化せず良好なことがわかった。また、上記定着装置をキヤノン製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2710」に搭載し、画出しして耐久テストを行なった。10万枚画出し耐久テストを行なったが定着性に問題はなく良好であった。
【0051】
[実施例3]
実施例1と同様なニッケル電鋳ベルトの外周面上に弾性層2及び離型層3を積層した定着ベルトを用いて、内周面にポリアミドイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)94質量%に二硫化モリブデン3質量%、グラファイト3質量%添加した樹脂組成物をベルト内周面に塗装し、80℃で30分間、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は8μmであった。本実施例で作製した定着ベルトを実施例1と同様な条件で空耐久試験を行なった。結果を表3に示す。本実施例の定着ベルトのトルクは比較例の定着ベルトのトルクよりも小さく、初期トルクも耐久500時間後のトルクも変化せず良好なことがわかった。また、上記定着装置をキヤノン製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2710」に搭載し、画出しして耐久テストを行なった。10万枚画出し耐久テストを行なったが定着性に問題はなく良好であった。
【0052】
[実施例4]
実施例1と同様なニッケル電鋳ベルトの外周面上に弾性層2及び離型層3を積層した定着ベルトを用いて、内周面にポリアミドイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)30質量%に二硫化モリブデンを35質量%、グラファイトを35質量%添加した樹脂組成物をベルト内周面に塗装し、80℃で30分、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は10μmであった。本実施例で作製した定着ベルトを実施例1と同様な条件で空耐久試験を行なった。結果を表3に示す。本実施例の定着ベルトのトルクは比較例の定着ベルトのトルクよりも小さく、初期トルクも耐久500時間後のトルクも変化せず良好なことがわかった。また、上記定着装置をキヤノン製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2710」に搭載し、画出しして耐久テストを行なった。10万枚画出し耐久テストを行なったが定着性に問題はなく良好であった。
【0053】
[比較例1]
実施例1と同様にしてニッケル電鋳ベルトを作製し、ポリアミドイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)をベルト内周面に塗装し、80℃で30分間、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は8μmであった。本比較例で作製した定着ベルトを実施例1と同様な条件で空耐久試験を行なった。結果を表3に示す。実施例1〜6とは異なり、初期トルクは高く、耐久後トルクは時間の経過と共に少しづつ大きくなり、耐久200時間後で定着ベルトと加圧ローラーとの間にスリップが生じ始め、目的の回転を行なうことができなくなった。また、耐久1時間後に画出した際に、実施例1〜6には見られなかった画像の乱れが生じた。これは、ベルトとベルトガイドとの間でビビリが発生したためと思われる。
【0054】
[比較例2]
実施例1と同様にしてニッケル電鋳ベルトを作製し、ポリイミド樹脂(U−ワニスーS(商品名)、宇部興産製)をベルト内周面に塗装し、220℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は8μmであった。本比較例で作製した定着ベルトを実施例1と同様な条件で空耐久試験を行なった。結果を表3に示す。実施例1〜6とは異なり初期トルクは高く、耐久後トルクは時間の経過と共に少しづつ大きくなり、耐久200時間後で定着ベルトと加圧ローラーとの間にスリップが生じ始め、目的の回転を行なうことができなくなった。また、耐久1時間後に画出しした際に、実施例1〜6には見られなかった画像の乱れが生じた。これは、ベルトとベルトガイドとの間で生じるビビリが発生したためと考えられる。
【0055】
【表3】
【0056】
[実施例5]、[比較例3]
実施例1と同様なニッケル電鋳ベルトの外周面上に弾性層2及び離型層3を積層した定着ベルトを用いて、ポリアミドイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)99質量%、95質量%、80質量%、50質量%、30質量%、20質量%にボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ1質量%、5質量%、20質量%、50質量%、70質量%、80質量%添加した樹脂組成物をベルト内周面に塗装し、80℃で30分、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は10μmであった。この定着ベルトを参考例1と同様の方法で動摩擦係数と摩耗体積の評価を行なった。ここで、ポリアミドイミド樹脂95質量%、80質量%、50質量%、30質量%に対してボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ5質量%、20質量%、50質量%、70質量%添加した樹脂組成物を積層した定着ベルトの測定結果を実施例5とした。また、ポリアミドイミド樹脂99質量%、20質量%に対してボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ1質量%、80質量%添加した樹脂組成物を積層した定着ベルトの測定結果を比較例3とした。結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
[実施例6]、[比較例4]
実施例1と同様なニッケル電鋳ベルトの外周面上に弾性層2及び離型層3を積層した定着ベルトを用いて、ポリイミド樹脂(U―ワニスーS(商品名)、宇部興産製)99質量%、95質量%、80質量%、50質量%、30質量%、20質量%にボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ1質量%、5質量%、20質量%、50質量%、70質量%、80質量%添加した樹脂組成物をベルト内周面に塗装し、220℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は10μmであった。この定着ベルトを参考例1と同様の方法で動摩擦係数と摩耗体積の評価を行なった。ここで、ポリイミド樹脂95質量%、80質量%、50質量%、30質量%に対してボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ5質量%、20質量%、50質量%、70質量%添加した樹脂組成物を積層した定着ベルトの測定結果を実施例6とした。また、ポリイミド樹脂99質量%、20質量%に対してボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ1質量%、80質量%添加した樹脂組成物を積層した定着ベルトの測定結果を比較例4とした。結果を表5に示す。
【0059】
【表5】
【0060】
表4、5の結果において、室温と比較して200℃の方が動摩擦係数、摩耗体積とも大きくなるのは参考例2の試験結果と同様であった。また、固体潤滑剤を用いた場合、室温、200℃において固体潤滑剤を添加していない場合と比べて、動摩擦係数、摩耗体積とも低くなることが分かった。また、二硫化モリブデン又はグラファイトを固体潤滑剤として用いた場合、室温、200℃において、他の固体潤滑剤(ボロンナイトライド、炭化珪素、フッ素)を用いた場合と比較して更に動摩擦係数、摩耗体積が小さくなることが分かった。この理由は、ボロンナイトライド、炭化珪素、フッ素は硬いため、摩耗試験中に摺動層から剥離した部分が表れると、その剥離部分に含まれる固体潤滑剤がへき壊せず、摺動層の剥離部以外の部分を削るためと考えられる。一方、二硫化モリブデンとグラファイトは軟らかいため、摺動層から剥離した際に、剥離部分の固体潤滑剤が細かくへき壊し、摺動層の他の部分を傷つけないことが分かっている。表4、5の結果より、低い動摩擦係数及び摩耗体積とするためには、樹脂への固体潤滑剤の添加量は5質量%以上であることが必要であることが分かる。
【0061】
また、摺動層中の固体潤滑剤の含量が5〜70質量%までは動摩擦係数及び摩耗体積が低い同様の良好な結果が得られるが、固体潤滑剤の含量が80質量%になると動摩擦係数は小さいが、摩耗体積が大きくなることが分かる。これは、固体潤滑剤の添加量が多すぎたため、摺動層から多量の固体潤滑剤が剥離したためである。このように固体潤滑剤の添加量が多すぎると、摺動層と金属層の密着力が低下する。
【0062】
また、表4、5の結果より二硫化モリブデン又はグラファイトを固体潤滑剤として用いた場合の定着ベルトのすべり性は同程度であり、この2種類を適当な組成比で摺動層中に5〜70質量%以内で混合添加しても表4、表5と同様にすべり性に対して十分な効果が得られることが分かった。
【0063】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明により金属基材の内周面に適正な固体潤滑剤を含有する摺動層を形成することで、良好な耐久性、定着性を持つ高品質な定着ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の定着ベルトの層構成模型図の一例である。
【図2】像加熱装置の概略構成図の一例である。
【図3】像加熱装置の概略構成図の一例である。
【図4】誘導加熱方式の磁場発生手段の模型図である。
【符号の説明】
1 金属層
2 弾性層
3 離型層
4 摺動層
10 定着ベルト
12 セラミックヒータ
12b 発熱層
12c ガラスやフッ素樹脂等の保護層
16a、16b、16e ベルトガイド部材
16c ベルトガイド
17a、17b、17c 磁性コア
18 励磁コイル
18a、18b 給電部
19 絶縁部材
22 加圧用剛性ステイ
26 温度検知素子(サーミスタ)
27 励磁回路
30 加圧部材(加圧ローラ)
30a、30b シリコーンゴム等の弾性層
40 摺動板
M 駆動手段
N 定着ニップ部
t トナー画像
P 記録材
100 像加熱定着装置
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子写真装置及び静電記録装置等の画像形成装置に用いられる定着ベルトに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、画像形成装置において電子写真プロセス、静電記録プロセス及び磁気記録プロセス等の画像形成プロセス手段部で、記録材(転写材シート、エレクトロファックスシート、静電記録紙、OHPシート、印刷用紙、フォーマット紙等)に転写方式あるいは直接方式で形成担持させた目的の画像情報の未定着画像(トナー画像)を記録材面に加熱定着させる定着装置としては、熱ローラ方式の装置が広く用いられていた。この方式では一般的に、ローラ内周部にハロゲンヒータ等の熱源を取り付け、この熱源によってローラを加熱していた。
【0003】
一方、近年、加熱方式としてセラミックヒータを熱源として小熱容量の樹脂ベルトあるいは金属ベルトを加熱するものが広く提案、実施されている。すなわち、この加熱方式では一般に、加熱体としてのセラミックヒータと加圧部材としての加圧ローラとの間に耐熱性ベルト(定着ベルト)を挟ませてニップ部を形成し、前記ニップ部の定着ベルトと加圧ローラとの間に画像定着すべき未定着トナー画像を形成担持させた記録材を導入してベルトと一緒に挟持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータの熱を、ベルトを介して記録材に与え、この熱とニップ部の加圧力とで未定着トナー画像を記録材面に熱圧定着させる。
【0004】
このベルト加熱方式の定着装置は、ベルトとして低熱容量の部材を用いてオンデマンドタイプの装置を構成することができる。すなわち、画像形成装置の画像形成実行時のみ熱源としてのセラミックヒータに通電して所定の定着温度に発熱させた状態にすれば良く、画像形成装置の電源オンから画像形成実行可能な状態までの待ち時間が短く(クイックスタート性)、スタンバイ時の消費電力も大幅に小さい(省電力)等の利点がある。図2にこのベルト加熱方式の定着装置の一構成例を示す。この加熱方式では加熱体としてのセラミックヒータ12と加圧部材としての加圧ローラ30との間に耐熱性ベルト(定着ベルト10)を挟ませてニップ部を形成させ、前記ニップ部の定着ベルト10と加圧ローラ30との間に画像定着すべき未定着トナー画像tを形成担持させた記録材Pを導入してベルトと一緒に挟持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータ12の熱を、ベルト10を介して記録材Pに与え、この熱とニップ部の加圧力とで未定着トナー画像tを記録材P面に熱圧定着させる。
【0005】
このようなベルト加熱方式におけるベルトとしては耐熱樹脂等が用いられ、特に耐熱性、強度に優れたポリイミド樹脂が用いられている。しかしながら、さらに機械を高速化、高耐久化した場合、一般的にこれらの耐熱性樹脂フィルムでは強度が不十分である。このことから、強度に優れた金属、例えばSUS、ニッケル、銅、アルミニウム等を基層とするベルトを用いることが提案されている。
【0006】
また、特許文献1では金属ベルトを利用して、これを電磁誘導による渦電流で自己発熱させる誘導加熱方式も開示されている。すなわち、磁束によりベルト自身あるいはベルトに近接させた導電性部材に渦電流を発生させ、ジュール熱によって発熱させる加熱装置が提案されている。この電磁誘導加熱方式は、発熱域をより被加熱体に近くすることができるため、消費エネルギーの効率アップが達成できる。
【0007】
図3に一構成例を示す。磁性コア17a、17b及び17cは高透磁率の部材であり、励磁コイル18は励磁回路(不図示)から供給される交番電流(高周波電流)によって交番磁束を発生する。金属層1にこの交番磁束が作用することで渦電流が発生し、金属層1が発熱する。その熱が弾性層2及び離型層3を介して定着ベルト10を加熱し、定着ニップ部Nに通紙される記録材Pを加熱してトナー画像の加熱定着がなされる。
【0008】
また、図4に図3の像加熱装置の磁場発生手段模型図を示す。図4の磁場発生手段は、磁性コア17a、励磁回路27に接続した給電部18a及び18b並びに励磁コイル18からなる。励磁コイル18は励磁回路27から給電部18a及び18bを通して供給される交番電流(高周波電流)によって交番磁束を発生する。
【0009】
ベルト加熱方式の定着装置の定着ベルトの駆動方法としては、ベルト内面を案内するフィルムガイドと加圧ローラとで圧接されたフィルムを加圧ローラの回転駆動によって従動回転させる方法(加圧ローラ駆動方式)や、逆に駆動ローラとテンションローラによって張架された無端ベルト状のベルトの駆動によって加圧ローラを従動回転させる方法等がある。
【0010】
特許文献2には、金属ベルトを用いた定着ベルトとしてヒータ面接触部の表面粗さが0.5μm未満で、40μm前後の厚みのニッケル製定着ベルトを用いたものが開示されている。また、特許文献3には外周面に離型性を含むコーティング層を有し、内周面には樹脂層を有する10〜35μm厚みのニッケル製定着ベルトが例示されている。この定着ベルトは、図2及び図3においてベルトガイド(16a、16b、16c、16e)や摺動層板40と定着ベルトが接触した場合にも良好な絶縁性を確保するために設けられている。
【0011】
【特許文献1】
特開平7−114276号公報
【特許文献2】
特開平7−13448号公報
【特許文献3】
特開平6−222695号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
近年、画像形成装置における印字速度の高速化に伴い、定着ベルトには高速回転に耐え得るすべりの良い摺動層が必要とされている。しかし、現状では一般的に耐摩耗性及びすべり性に優れた摺動層が得られておらず、この要求を十分満足できていない。
本発明は、このような従来技術の問題点を解決する為になされたものであり、金属材料からなるシームレスべルト内周面の耐摩耗性及びすべり性の向上並びにその製造の際のコストダウンを図ることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上本発明は、上記課題を達成するために、
(1)少なくとも、離型層と、該離型層上に設けられた金属層と、該金属層上に設けられ、摺動面を形成する摺動層と、を有し、該摺動層が、樹脂と固体潤滑剤とを含み、該固体潤滑剤の該摺動層中での含有量が5〜70質量%であることを特徴とする定着ベルト。
(2)前記固体潤滑剤が二硫化モリブデン及びグラファイトの少なくとも一方を含むことを特徴とする上記(1)に記載の定着ベルト。
(3)前記樹脂が、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂の少なくとも一種からなることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の定着ベルト。
(4)前記離型層と金属層との間に少なくとも弾性層を有する上記(1)〜(3)の何れかに記載の定着ベルト。
(5)前記弾性層がシリコーンゴム、フッ素ゴム及びフルオロシリコーンゴムからなる群から選択された少なくとも一種を含む上記(1)〜(4)の何れかに記載の定着ベルト。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の定着ベルトは、金属層の内周面に固体潤滑剤と樹脂とを含む摺動層を有することに特徴がある。摺動層としては、画像定着の際の加熱により脆くならず、すべり性が良いことが望まれる。ここで、金属層とは鉄を主体とする金属、例えば、ステンレス鋼、低炭素鋼や、ニッケル、銅、アルミニウムなど絞りなどの塑性加工法や電鋳法などで作製される金属スリーブ等を言う。本発明による定着ベルトを像加熱装置に用いることによって、金属スリーブ基材が相対する構造物と接触しても削れず、摺動性も良好で十分な耐久性、耐摩耗性及び良好なすべり性を有することができる。以下、本発明の詳細を説明する。
【0015】
(1)定着ベルト
本発明の定着ベルトについて説明する。図1は本発明における定着ベルト10の層構成模型図の一例である。本発明の定着ベルト10は、基層となる金属層1と、その外周面に積層した弾性層2と、さらにその外周面に積層した離型層3と、金属層1の内周面に積層した摺動面を構成する摺動層4との複合構造を有する。定着ベルト10において、摺動層4が内周面側(ベルトガイド面側)であり、離型層3が外周面側(加圧ローラ面側)である。また、金属層1と弾性層2との間、弾性層2と離型層3との間、あるいは金属層1と摺動層4との間には、接着のためにプライマー層(不図示)を設けても良い。プライマー層としてはシリコーン系、エポキシ系、ポリアミドイミド系等の公知のものを使用すれば良く、その厚さは、通常、1〜10μm程度である。また、金属層1の外周面に弾性層2を形成せず、金属層1に離型層3を直接、形成しても良い。特に、記録材上のトナーのり量が少なく、トナー層の凹凸が比較的小さいモノクロ画像の加熱定着用の場合は、このような弾性層を省略した形態のものとすることができる。
【0016】
これらの層を積層する順序は、摺動層4を金属層1の内周面側に形成した後、弾性層2、更にその上に離型層3を形成しても良い。または、金属層1の外周面に弾性層2、更にその外周面上に離型層3を形成した後、摺動層4を形成しても良い。摺動層4は樹脂材料を含むため一般的な塗装法、ディップ法で形成することができる。
【0017】
この定着ベルトを電磁誘導加熱方式に用いた場合、金属層1としては電鋳法で作製したニッケル基材が使用されている。ニッケル電鋳無端ベルトからなる金属層1が電磁誘導発熱性を示す発熱層として機能する。後述するが、金属層1に交番磁束が作用することで金属層1に渦電流が発生し、金属層1が発熱する。その熱が弾性層2及び離型層3を介して定着ベルト10を加熱し、定着ニップ部Nに通紙される記録材Pを加熱してトナー画像の加熱定着がなされる。また、本発明の定着ベルト10は、セラミックヒータを用いたベルト加熱方式に用いても良い。
【0018】
a.金属層1
金属層1が、電磁誘導加熱方式に用いられるニッケル電鋳ベルトにより形成される場合、例えばステンレス鋼製などの母型を陰極として、電鋳プロセスにより製造される。この場合の電解浴としては、例えばスルファミン酸系などの公知のニッケル電解浴を用いることができ、更にpH調整剤、ピット防止剤、光沢剤などの添加剤を適宜加えても良い。
【0019】
例えば、スルファミン酸ニッケルを300〜450g/l、塩化ニッケルを0〜30g/l、およびホウ酸を30〜45g/l含むニッケル電解液が挙げられる。そして、添加する光沢剤濃度、電解浴温度、陰極電流密度などを制御することによって、所望の表面粗さを有したニッケル電鋳ベルトまたはニッケル−鉄合金やニッケル−コバルト合金などのニッケル合金からなる電鋳ベルトが得られる。電鋳プロセスに用いる電解浴によっても異なるが、通常、電解浴温度45〜60℃程度、陰極電流密度1〜20A/dm2程度で行なうことが好ましい。光沢剤としてはサッカリン、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム等を含む応力減少剤及び一次光沢剤、2−ブチン−1,4−ジオール、クマリン、ジエチルトリアミン等を含む二次光沢剤と呼ばれる添加剤等が加えられる。上記電鋳法で作製した金属層は、電磁誘導加熱方式に限らず、セラミックスヒーターを用いた加熱方式にも使用できる。また、電鋳法に限らず例えば、絞りなどの塑性加工法で得たニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼、低炭素鋼、銅、アルミニウムなども用いることができる。
【0020】
金属層1の厚みは、次の式で表される表皮深さより厚い方が良く、例えば、1μm以上にすることが好ましく、20μm以上にすることがより好ましい。また、200μm以下にすることが好ましく、100μm以下にすることがより好ましく、50μm以下にすることが更に好ましい。表皮深さσ[m]は、励磁回路の周波数f[Hz]と透磁率μと固有抵抗ρ[Ωm]で
【0021】
【数1】
【0022】
と表される。これは電磁誘導で使われる電磁波の吸収の深さを示しており、これより深いところでは電磁波の強度は1/e以下になっており、逆にいうとほとんどのエネルギーはこの深さまでで吸収されている。金属層1があまりに薄いと、ほとんどの電磁エネルギーが吸収しきれなくなってきて誘導加熱の効率が悪くなってくることがある。また、金属層1があまりに厚いと、剛性が高くなると共に屈曲性が悪くなって回転体として使用しにくくなることがある。また、セラミックヒータを使用するベルト加熱方式に金属層を用いる場合、金属層の厚みを上記範囲内とすることによって、熱容量を小さくしてクイックスタート性を向上させることができる。
【0023】
b.弾性層2
弾性層2は設けても設けなくても良い。弾性層を設けることにより、ニップ部において被加熱像を覆って熱の伝達を確実にするとともに、金属層1を形成するニッケル電鋳ベルトの復元力を補って回転・屈曲による疲労を緩和することができる。また、弾性層を付与することにより、定着ベルト離型層表面と記録材上の未定着トナー像の凹凸との密着性が増し、効率よくトナー画像へ熱伝達を行なうことが可能となる。弾性層2を設けた定着ベルトは、特に、未定着トナーののり量が多いカラー画像の加熱定着に適している。
【0024】
弾性層2の材質としては、特に限定されず耐熱性の良いものが良く、熱伝導率が良いものを選べば良い。弾性層2としてはシリコーンゴム、フッ素ゴム及びフルオロシリコーンゴムからなる群から選択された少なくとも一種を含むことが好ましく、シリコーンゴムがより好ましい。
弾性体層に使用されるシリコーンゴムとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリトリフルオロプロピルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリフェニルビニルシロキサン及びこれらポリシロキサンの共重合体等を例示することができる。
【0025】
なお、必要に応じて、弾性体層には乾式シリカ、湿式シリカ等補強性充填材、炭酸カルシウム、石英紛、珪酸ジルコニウム、クレー(珪酸アルミニウム)、タルク(含水珪酸マグネシウム)、アルミナ(酸化アルミニウム)、ベンガラ(酸化鉄)等を含有させても良い。
【0026】
弾性層2の厚さは、良好な定着画像品質を得るために10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。また、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。カラー画像を印刷する場合、特に写真画像等では記録材P上で大きな面積に渡ってベタ画像が形成される。この場合、定着ベルトの加熱面(離型層3)が、記録材の凹凸あるいはトナー層の凹凸の形状に変形できないと加熱ムラが発生し、伝熱量が多い部分と少ない部分とで画像に光沢ムラが発生する。つまり、伝熱量が多い部分では光沢度が高くなり、伝熱量が少ない部分では光沢度が低くなる。ここで、弾性層2があまりに薄いと、定着ベルトが記録材あるいはトナー層の凹凸形状に変形することができず、画像光沢ムラが発生してしまうことがある。また、弾性層2があまりに厚いと、弾性層の熱抵抗が大きくなり、クイックスタートを実現することが難しくなることがある。
【0027】
弾性層2の硬度(硬度 JIS K 6253)は、画像光沢ムラの発生が十分抑制され、良好な定着画像品質が得られるため、60°以下が好ましく、45°以下がより好ましい。
【0028】
弾性層2の熱伝導率λは2.5×10−1[W/m・K]以上が好ましく、3.3×10−1[W/m・K]以上がより好ましい。また、8.4×10−1[W/m・K]以下が好ましく、6.3×10−1[W/m・K]以下がより好ましい。熱伝導率λがあまりに小さい場合には熱抵抗が大きくなり、定着フィルムの表層(離型層3)における温度上昇が遅くなることがある。熱伝導率λがあまりに大きい場合には、硬度が高くなったり、圧縮永久歪みが悪化したりすることがある。
【0029】
このような弾性層は公知の方法、例えば、液状のシリコーンゴム等の材料をブレードコート法等の手段によって金属層上に均一な厚みでコート、加熱硬化する方法、液状のシリコーンゴム等の材料を成形型に注入し加硫硬化する方法、押出成形後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すれば良い。
【0030】
c.離型層3
離型層3の材料としては特に限定されず、離型性、耐熱性の良いものを選べば良い。離型層3としてはPFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂、シリコーン樹脂、フルオロシリコーンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムが好ましく、PFAがより好ましい。
なお、必要に応じて、離型層にはカーボン、酸化すず等導電剤等を離型層の構成成分の10質量%以下、含有させても良い。
【0031】
離型層3の厚さは1μm以上が好ましい。また、100μm以下が好ましい。離型層3があまりに薄いと、塗膜の塗りムラで離型性の悪い部分ができたり、耐久性が不足したりすることがある。また、離型層があまりに厚いと、熱伝導が悪化することがあり、特に樹脂系の離型層の場合は硬度が高くなって、良好な熱伝達性や回転・屈曲による疲労の緩和性などの弾性層2の効果がなくなってしまうことがある。
【0032】
このような離型層は公知の方法、例えば、フッ素樹脂系の場合、フッ素樹脂粉末を分散塗料化したものをコート、乾燥及び焼成により、あるいは予めチューブ化したものを被覆、接着する方法で形成すれば良く、ゴム系の場合、液状の材料を成形型に注入し加硫硬化する方法、押出成形後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すれば良い。
【0033】
また、予め内周面をプライマー処理したチューブ、予め外周面をプライマー処理したニッケル電鋳ベルトを円筒金型内に装着し、チューブとニッケル電鋳ベルト間隙間に液状シリコーンゴムを注入、加熱することでゴムの硬化及び接着を行う手法を用いれば、弾性層、離型層を同時に形成することも可能である。
【0034】
d.摺動層4
次に本発明の摺動層4について説明する。摺動層4は、本発明の像加熱定着装置を作動させる際の駆動トルクの低減を図るうえで重要な役割を果たす。特に最近、定着速度の高速化に伴い、定着ベルト内周面にすべりの良く、耐磨耗性の良好な摺動層が必要となってきている。耐磨耗性を向上させるためには動摩擦係数が小さいほうが良い。特に定着時の温度である200℃前後での動摩擦係数が小さいことが要求される。このため、摺動層中に5〜70質量%の固体潤滑剤を含む必要がある。摺動層の厚みとしては金属層の屈曲性を阻害しない程度の厚みが良く、3〜20μmが好ましい。
【0035】
定着ベルトは加圧ローラーに押さえつけられるため、絶えず屈曲、回転しており、固体潤滑剤の含量が70質量%を超えると、摺動層と金属層の密着力が低下し、摺動層が容易に金属層から剥離し、摺動層として機能しなくなる。また、多量の固体潤滑剤を用いるのはコストが高くなるため現実的でない。一方、固体潤滑剤の含量が5質量%未満であると摺動層の動摩擦係数が高くなってしまう。固体潤滑剤の含量は、より低コストで良好なすべり性が得られるため5〜50質量%が好ましく、更に好ましくは8〜30質量%であるのが良い。
【0036】
また、固体潤滑剤としては、炭化珪素、ボロンナイトライド、フッ素、二硫化モリブデン、グラファイトおよびこれらの混合物からなる群から選択された少なくとも一種を用いることが好ましく、より低い動摩擦係数が得られる二硫化モリブデン及びグラファイトの少なくとも一方を用いることがより好ましい。二硫化モリブデン、グラファイトの粒子径としては0.1〜20μmが好ましい。この大きさだと樹脂の表面に適当に固体潤滑剤を露出させることができる。
【0037】
次に、摺動層構成用の樹脂は、摺動層に必要とされる耐久性や耐熱性などを付与でき、また、固体潤滑剤のバインダーとしても機能できるものが利用され、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂及び液晶ポリマーなどの耐熱性樹脂が挙げられるが、定着ベルトの回転時の屈曲で割れや剥離が生じるものであってはならない。
【0038】
また、摺動層は定着ベルトの内周面に形成するため、高い耐熱温度が要求され、耐熱温度として240℃以上が必要とされる。一方、定着ベルトと接するベルトガイド及びベルトガイド部材(図2の16c、図3の16a及び16b)は、耐熱性や薄肉形状であることが必要なため、これらを満たす好適な方法として一般的には射出成型を行なう必要がある。また、この射出成型に好適なベルトガイド部材としてポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマーが用いられる。従って、ベルト内周面の摺動層をベルトガイドと同じ材料とした時、ベルトガイド部材との接触時に摩耗を招きやすいため、これらは良い組合せとは言えない。これらの点を考えると摺動層は、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂の少なくとも一種を含むことが好ましいと言える。ポリアミドイミド樹脂としては、例えばデフリックコート(商品名)、バイロマックス(商品名)等を使用することができる。また、ポリイミド樹脂としては、例えばU−ワニスーA(商品名)、U―ワニスーS(商品名)等を使用することができる。また、摺動層には難燃性向上の目的で酸化アンチモン、ホウ素系の無機化合物、リン系化合物及びチッソ系化合物等を含有することもできる。
【0039】
摺動層は、ブレードコート法等の手段によって金属層上に均一な厚みでコート、加熱硬化する方法、材料を成形型に注入し加硫硬化する方法、押出成形後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すれば良い。
【0040】
【実施例】
(参考例1)
まず、摩耗試験を行ない、動摩擦係数と磨耗体積について測定を行なった。はじめに金属層であるニッケル電鋳品、塑性加工(圧延)により得たステンレス合金(SUS304)のそれぞれ厚み50μmのものについて評価した。
【0041】
摩耗試験は、φ2mmのアルミナボールを金属層に押し付け、荷重300gで行なった。アルミナボールを用いたのは図2及び図3の摺動板40にアルミナなどのセラミックスが用いられるためである。摩耗試験は室温と200℃に加熱した場合について行なった。表1に結果を示す。ここで、磨耗体積(単位:mm3)とは摩擦痕の平均断面積と摩擦距離との積である。摩擦痕の断面積はZygo社製New View 5000型三次元表面構造解析装置を用い、断面のプロファイルを作成することにより求めた。
【0042】
【表1】
【0043】
ニッケル電鋳、ステンレス合金ベルトとも200℃では室温に比較して動摩擦係数が大きくなり、また、摩耗体積は2倍以上に大きくなる。このように、200℃での摩耗体積が大きくなるのは、加熱により金属層表面には酸化物が形成されるが、これらの酸化物は脆いため摩耗により剥離し、その剥離した酸化物が素地金属を削るためと思われる。
【0044】
(参考例2)
50μmのニッケル電鋳の板上にポリアミドイミド樹脂(U−ワニス−S(商品名)、宇部興産(株)製)を10μm形成したサンプルとポリイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)を10μm形成したサンプルをそれぞれ作製し、参考例1と同様の方法でこれらの樹脂の動摩擦係数と摩耗体積を評価した。ポリアミドイミド樹脂は、金属層に塗布後80℃で30分、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成した。ポリイミド樹脂は、塗布後220℃で1時間、焼成した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2の結果より、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂は、ニッケル電鋳やステンレス鋼(SUS304)と比べて動摩擦係数や摩耗量が小さいことが分かる。
また、ステンレス鋼を金属層として上記と同様にポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂を形成し実験を行なったが、表2と同じ動摩擦係数と摩耗体積の結果が得られた。すなわち、動摩擦係数と摩耗体積は、金属層を構成する金属材料の種類には関係しないことが確認できた。また、樹脂層の動摩擦係数、摩耗量の値は室温より200℃の方が悪くなることが分かった。
【0047】
[実施例1]
金属層1として長さ250mm、内径34mm、厚み50μmの無端ニッケル電鋳ベルトを下記のように作製した。金属層となるニッケル電鋳ベルト基材を作製するためにスルファミン酸ニッケル四水塩450g/l、塩化ニッケル10g/l、硼酸40g/lからなる水溶液浴を作り、次に必要量のピット防止剤(ピットレスS(商品名)、日本化学産業製)を加えた後、第一光沢剤としてサッカリン、第二光沢剤として2−ブチン−1,4−ジオールを適時の組み合わせ(第一光沢剤:第二光沢剤=1:10)で添加した浴を作製した。そして、ステンレス鋼製の母型を陰極として、浴温50℃、電流密度7A/dm2の条件で母型の表面にニッケルを電析させベルトを作製した。そして、弾性層2として300μmシリコーンゴム(GE東芝シリコーン製)をベルトの外周上に、離型層3として30μmPFAチューブ(グンゼ製)を弾性層の外周上に、各々プライマー(東レダウコーニング製)を介して積層し、ニッケル電鋳ベルト基材を作製した。
【0048】
次に、ポリアミドイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)95質量%に二硫化モリブデンを5質量%添加し、上記のベルト基材内周面に塗装し、80℃で30分間、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、図1の定着ベルトを得た。ベルト内周面の摺動層の膜厚は8μmであった。このようにして作製した定着ベルトを図3の像加熱装置に装着し、空回転耐久テストを行なった。空回転耐久テストは、220℃に温度調節しながら、所定の加圧力で加圧ローラーを定着ベルトに押し付け、定着ベルトを加圧ローラーに従動回転させた。加圧ローラーは、肉厚3mmシリコーン層に30μmのPFAチューブ(グンゼ製)を被覆した外径30mmのゴムローラーを用いた。本実験では、加圧力は200N、定着ニップは幅7mm×長さ230mm、定着ベルトの表面速度は高速印字速度である120mm/secの条件で試験を行なった。また、ベルトガイドの摺動板(図3の40)のすべり性を良くするためにダウコーニング社製のHP3000を摺動板上に0.5g塗布し、試験を行なった。定着ベルトを従動回転させるために要した加圧ローラーの負荷トルクを測定して、定着ベルトのすべり性を評価した。耐久時間5時間、100時間、500時間後のトルク変化を表3に示す。
【0049】
本実施例で作製した定着ベルトは、比較例の定着ベルトと比べてトルクが小さく、初期回転トルク(回転開始時のトルク)も耐久500時間後のトルクも変化せずに良好なことがわかった。また、上記定着装置をキヤノン製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2710」に搭載し、画出し耐久テストを行なった。10万枚画出し耐久テストを行なったが、定着性に問題はなく良好であった。
【0050】
[実施例2]
実施例1と同様なニッケル電鋳ベルトの外周面上に弾性層2及び離型層3を積層した定着ベルトを用いて、内周面にポリアミドイミド樹脂(デフリクコート(商品名)、川邑研究所製)30質量%にグラファイトを70質量%添加した樹脂組成物を塗装し、80℃で30分間、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は9μmであった。実施例1と同様な条件で空耐久試験を行なった。結果を表3に示す。本実施例の定着ベルトのトルクは比較例の定着ベルトのトルクよりも小さく、初期トルクも耐久500時間後のトルクも変化せず良好なことがわかった。また、上記定着装置をキヤノン製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2710」に搭載し、画出しして耐久テストを行なった。10万枚画出し耐久テストを行なったが定着性に問題はなく良好であった。
【0051】
[実施例3]
実施例1と同様なニッケル電鋳ベルトの外周面上に弾性層2及び離型層3を積層した定着ベルトを用いて、内周面にポリアミドイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)94質量%に二硫化モリブデン3質量%、グラファイト3質量%添加した樹脂組成物をベルト内周面に塗装し、80℃で30分間、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は8μmであった。本実施例で作製した定着ベルトを実施例1と同様な条件で空耐久試験を行なった。結果を表3に示す。本実施例の定着ベルトのトルクは比較例の定着ベルトのトルクよりも小さく、初期トルクも耐久500時間後のトルクも変化せず良好なことがわかった。また、上記定着装置をキヤノン製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2710」に搭載し、画出しして耐久テストを行なった。10万枚画出し耐久テストを行なったが定着性に問題はなく良好であった。
【0052】
[実施例4]
実施例1と同様なニッケル電鋳ベルトの外周面上に弾性層2及び離型層3を積層した定着ベルトを用いて、内周面にポリアミドイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)30質量%に二硫化モリブデンを35質量%、グラファイトを35質量%添加した樹脂組成物をベルト内周面に塗装し、80℃で30分、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は10μmであった。本実施例で作製した定着ベルトを実施例1と同様な条件で空耐久試験を行なった。結果を表3に示す。本実施例の定着ベルトのトルクは比較例の定着ベルトのトルクよりも小さく、初期トルクも耐久500時間後のトルクも変化せず良好なことがわかった。また、上記定着装置をキヤノン製フルカラーLBP LASER SHOT「LBP−2710」に搭載し、画出しして耐久テストを行なった。10万枚画出し耐久テストを行なったが定着性に問題はなく良好であった。
【0053】
[比較例1]
実施例1と同様にしてニッケル電鋳ベルトを作製し、ポリアミドイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)をベルト内周面に塗装し、80℃で30分間、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は8μmであった。本比較例で作製した定着ベルトを実施例1と同様な条件で空耐久試験を行なった。結果を表3に示す。実施例1〜6とは異なり、初期トルクは高く、耐久後トルクは時間の経過と共に少しづつ大きくなり、耐久200時間後で定着ベルトと加圧ローラーとの間にスリップが生じ始め、目的の回転を行なうことができなくなった。また、耐久1時間後に画出した際に、実施例1〜6には見られなかった画像の乱れが生じた。これは、ベルトとベルトガイドとの間でビビリが発生したためと思われる。
【0054】
[比較例2]
実施例1と同様にしてニッケル電鋳ベルトを作製し、ポリイミド樹脂(U−ワニスーS(商品名)、宇部興産製)をベルト内周面に塗装し、220℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は8μmであった。本比較例で作製した定着ベルトを実施例1と同様な条件で空耐久試験を行なった。結果を表3に示す。実施例1〜6とは異なり初期トルクは高く、耐久後トルクは時間の経過と共に少しづつ大きくなり、耐久200時間後で定着ベルトと加圧ローラーとの間にスリップが生じ始め、目的の回転を行なうことができなくなった。また、耐久1時間後に画出しした際に、実施例1〜6には見られなかった画像の乱れが生じた。これは、ベルトとベルトガイドとの間で生じるビビリが発生したためと考えられる。
【0055】
【表3】
【0056】
[実施例5]、[比較例3]
実施例1と同様なニッケル電鋳ベルトの外周面上に弾性層2及び離型層3を積層した定着ベルトを用いて、ポリアミドイミド樹脂(デフリックコート(商品名)、川邑研究所製)99質量%、95質量%、80質量%、50質量%、30質量%、20質量%にボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ1質量%、5質量%、20質量%、50質量%、70質量%、80質量%添加した樹脂組成物をベルト内周面に塗装し、80℃で30分、仮硬化した後、190℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は10μmであった。この定着ベルトを参考例1と同様の方法で動摩擦係数と摩耗体積の評価を行なった。ここで、ポリアミドイミド樹脂95質量%、80質量%、50質量%、30質量%に対してボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ5質量%、20質量%、50質量%、70質量%添加した樹脂組成物を積層した定着ベルトの測定結果を実施例5とした。また、ポリアミドイミド樹脂99質量%、20質量%に対してボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ1質量%、80質量%添加した樹脂組成物を積層した定着ベルトの測定結果を比較例3とした。結果を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
[実施例6]、[比較例4]
実施例1と同様なニッケル電鋳ベルトの外周面上に弾性層2及び離型層3を積層した定着ベルトを用いて、ポリイミド樹脂(U―ワニスーS(商品名)、宇部興産製)99質量%、95質量%、80質量%、50質量%、30質量%、20質量%にボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ1質量%、5質量%、20質量%、50質量%、70質量%、80質量%添加した樹脂組成物をベルト内周面に塗装し、220℃で1時間、最終焼成を行い、定着ベルトを形成した。膜厚は10μmであった。この定着ベルトを参考例1と同様の方法で動摩擦係数と摩耗体積の評価を行なった。ここで、ポリイミド樹脂95質量%、80質量%、50質量%、30質量%に対してボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ5質量%、20質量%、50質量%、70質量%添加した樹脂組成物を積層した定着ベルトの測定結果を実施例6とした。また、ポリイミド樹脂99質量%、20質量%に対してボロンナイトライド、炭化珪素、グラファイト、二硫化モリブデン又はフッ素をそれぞれ1質量%、80質量%添加した樹脂組成物を積層した定着ベルトの測定結果を比較例4とした。結果を表5に示す。
【0059】
【表5】
【0060】
表4、5の結果において、室温と比較して200℃の方が動摩擦係数、摩耗体積とも大きくなるのは参考例2の試験結果と同様であった。また、固体潤滑剤を用いた場合、室温、200℃において固体潤滑剤を添加していない場合と比べて、動摩擦係数、摩耗体積とも低くなることが分かった。また、二硫化モリブデン又はグラファイトを固体潤滑剤として用いた場合、室温、200℃において、他の固体潤滑剤(ボロンナイトライド、炭化珪素、フッ素)を用いた場合と比較して更に動摩擦係数、摩耗体積が小さくなることが分かった。この理由は、ボロンナイトライド、炭化珪素、フッ素は硬いため、摩耗試験中に摺動層から剥離した部分が表れると、その剥離部分に含まれる固体潤滑剤がへき壊せず、摺動層の剥離部以外の部分を削るためと考えられる。一方、二硫化モリブデンとグラファイトは軟らかいため、摺動層から剥離した際に、剥離部分の固体潤滑剤が細かくへき壊し、摺動層の他の部分を傷つけないことが分かっている。表4、5の結果より、低い動摩擦係数及び摩耗体積とするためには、樹脂への固体潤滑剤の添加量は5質量%以上であることが必要であることが分かる。
【0061】
また、摺動層中の固体潤滑剤の含量が5〜70質量%までは動摩擦係数及び摩耗体積が低い同様の良好な結果が得られるが、固体潤滑剤の含量が80質量%になると動摩擦係数は小さいが、摩耗体積が大きくなることが分かる。これは、固体潤滑剤の添加量が多すぎたため、摺動層から多量の固体潤滑剤が剥離したためである。このように固体潤滑剤の添加量が多すぎると、摺動層と金属層の密着力が低下する。
【0062】
また、表4、5の結果より二硫化モリブデン又はグラファイトを固体潤滑剤として用いた場合の定着ベルトのすべり性は同程度であり、この2種類を適当な組成比で摺動層中に5〜70質量%以内で混合添加しても表4、表5と同様にすべり性に対して十分な効果が得られることが分かった。
【0063】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明により金属基材の内周面に適正な固体潤滑剤を含有する摺動層を形成することで、良好な耐久性、定着性を持つ高品質な定着ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の定着ベルトの層構成模型図の一例である。
【図2】像加熱装置の概略構成図の一例である。
【図3】像加熱装置の概略構成図の一例である。
【図4】誘導加熱方式の磁場発生手段の模型図である。
【符号の説明】
1 金属層
2 弾性層
3 離型層
4 摺動層
10 定着ベルト
12 セラミックヒータ
12b 発熱層
12c ガラスやフッ素樹脂等の保護層
16a、16b、16e ベルトガイド部材
16c ベルトガイド
17a、17b、17c 磁性コア
18 励磁コイル
18a、18b 給電部
19 絶縁部材
22 加圧用剛性ステイ
26 温度検知素子(サーミスタ)
27 励磁回路
30 加圧部材(加圧ローラ)
30a、30b シリコーンゴム等の弾性層
40 摺動板
M 駆動手段
N 定着ニップ部
t トナー画像
P 記録材
100 像加熱定着装置
Claims (5)
- 少なくとも、離型層と、該離型層上に設けられた金属層と、該金属層上に設けられ、摺動面を形成する摺動層と、を有し、
該摺動層が、樹脂と固体潤滑剤とを含み、該固体潤滑剤の該摺動層中での含有量が5〜70質量%であることを特徴とする定着ベルト。 - 前記固体潤滑剤が二硫化モリブデン及びグラファイトの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1に記載の定着ベルト。
- 前記樹脂が、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂の少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の定着ベルト。
- 前記離型層と金属層との間に少なくとも弾性層を有する請求項1〜3の何れかに記載の定着ベルト。
- 前記弾性層がシリコーンゴム、フッ素ゴム及びフルオロシリコーンゴムからなる群から選択された少なくとも一種を含む請求項1〜4の何れかに記載の定着ベルト。
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