JP2004300142A - 絹タンパク由来機能性ポリペプチドの製造と利用 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 家蚕又は天蚕由来の絹タンパク原料であって、該絹タンパク原料の平均分子量が20万以上であり、家蚕由来の絹タンパク原料の場合には、絹フィブロインのH鎖、L鎖及びセリシンaの少なくとも一部又は全部が分解しないで残存している絹タンパク原料を、中性塩水溶液に溶解し、次いで、ペプチド結合切断物質を用いて処理し、絹タンパクの特異的アミノ酸残基間のペプチド結合を切断することを特徴とする、平均分子量が1万以上20万未満であり、細胞生育促進性、展延性等にすぐれた絹タンパク由来の機能性ポリペプチド組成物の製造方法。
【選択図】 図1
Description
例えば、利用分野としては、絹糸を溶解して絹タンパク水溶液とした後に、これを凝固・乾燥・粉砕等により粉末化することにより、化粧用添加材として、また絹タンパク水溶液を平板上でキャスト等によりフィルム状物することにより、細胞培養床や創傷被覆材及びコーティング材として、また絹タンパク水溶液をゲル状物とし、食品や化粧品として利用するための開発が進められている(特許文献1−11参照)。
これら絹素材の加工においては、絹糸を溶解するのに、主に中性塩が用いられているが、絹糸タンパクの中性塩水溶液がヒトの細胞生育促進性を有することについては言及されていない。
さらに絹新素材開発が進む過程で、絹タンパクは細胞生育性、抗酸化性、抗菌性、アルコール消化性、抗血液凝固性等、多様な機能を有すると言われるようになってきた。
それらは、細胞生育過程において、細胞接着性に特に優れている。
フィブロインのH鎖とL鎖がSS結合した分子量37万及び分子量40万のセリシンaを未分解絹タンパクという。
最近、このような繭や生糸の加工工程で絹タンパクの分子量は低下することが分かってきた。
また、繭糸や絹糸を粉末、フィルム、ゲル等に変える加工工程(特に繭糸や絹糸の溶解工程)においても絹タンパクの分子量は低下することが分かってきた(特許文献18、19参照)。
分子量約5,000程度以下の絹タンパク分解物は透析等の工程で除外されるため、加工工程における分子量低下はアミノ酸やペプチド程度にまで低下していると考えられる。
ここでポリペプチドとはアミノ酸残基数30程度以上、ペプチドとはそれ未満を言う。
絹フィブロイン、セリシンの細胞生育率は未分解の状態が最高の値を示し、平均分子量が20万程度に低下すると、細胞生育率は未分解時の約半分になり、分子量が2〜4万に低下すると細胞生育促進性はほとんど示さなくなる。
このことは、分子量低下と共に細胞生育阻害物質が生成しているものと考えられる。
したがって、絹タンパクの細胞生育促進機能を利用するためには未分解の絹フィブロイン、セリシンあるいはフィブロインのH鎖(分子量約35万)、L鎖またはセリシンa(分子量約40万)等を利用することが好ましい。
繊維化物は水不溶性の塊状物となる。
中性塩で溶解した分子量20万以上の絹タンパク溶液は、脱塩途中にゲル化する。
ゲル化物も除々に固くなり、また、ゲル化物を攪拌するとさらに固くなる。
このように僅かなずり(shear)によって容易に微細な繊維化が起きるので、軟膏や化粧料(クリーム、乳液、化粧水等)としての使用感(手触り、展延性)を低下させる原因となり、スキンケア素材には使えない。
ところが、絹タンパクは分子量が低下するとともに、摩擦等による繊維化は起きなくなる。
しかし、従来の繭加工で得られる絹織物等の絹糸においては、フィブロインのH鎖は確認できないし、L鎖はほとんど確認できない程度に分解している。
絹タンパクの細胞生育性に関する機能は未分解絹タンパクの1/ 2以下と、非常に低下してしまうが、フィブロインやセリシンは絹加工工程等で分子量が低下したまま使われてきたのである。
つまり、従来の絹フィブロインやセリシンの利用は、細胞生育性の観点よりも使いやすさ、使用感を主眼にして、分子量20万未満、主に分子量10万以下のものを使用してきたといえる。
特に、上記の優れた特性を有する絹タンパク由来ポリペプチド水溶液を、医薬品、医薬部外品、化粧品などの素材や食品用素材等として利用することを目的とする。
この知見から、上記細胞生育促進機能を有する特定のアミノ酸配列を有するペプチド鎖が残存してさえいれば、たとえ絹タンパクの分子量を20万未満に低下させても、細胞生育促進機能があまり低下することがないことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
本願の第5の発明は、ペプチド結合切断物質が、ヒドロキシルアミンであること特徴とする、請求項1記載の絹タンパク由来の機能性ポリペプチド組成物の製造方法に存する。
しかも、その水溶液は未分解絹タンパクと異なり、摩擦等のずりを加えても塊状物が現れず、優れた展延性を有している。
また乳化剤としても使用することができる。
そのために、この絹フィブロイン由来ポリペプチドから得られるフィルム、粉末、水溶液、ゲル及びその乳化物はスキンケア素材として医薬品、医薬部外品、化粧品などに極めて有用である。
(1)家蚕又は天蚕由来の未分解絹タンパク、又は平均分子量が20万以上であり、家蚕由来の絹フィブロインのH鎖、L鎖及びセリシンaの少なくとも一部又は全部が分解しないで残存している絹タンパク原料を、中性塩水溶液に溶解する。
(2)次いで、上記絹タンパクの中性塩水溶液にペプチド結合切断物質(酵素、ヒドロキシルアミン及び希酸)を添加して処理し、絹タンパクの特異的アミノ酸残基間のペプチド結合(Asn−Gly結合)を切断して平均分子量が1万以上20万未満のポリペプチドに低分子化する。
(3)平均分子量が1万以上20万未満に低分子化したポリペプチドの中性塩水溶液を、脱塩処理に付して精製する。
得られたポリペプチド水溶液は、使用目的に応じ、フィルム状或いは粉末状に成形し、あるいはゲル状または乳化状等にして使用する。
絹タンパクの細胞生育促進性を利用するため、フィブロインのH鎖、L鎖及びセリシンa成分が残っている絹タンパクを原料とする。
このような絹タンパクをその特異的なアミノ酸残基間で切断して、絹タンパクの分子量を低下する。
つまり、このことは、絹タンパクにおけるペプチド結合の複雑な切断を起こさないこと、またはできるだけ起こさないことにある。
一般に、タンパク分解酵素によるタンパクの切断は、穏和な条件下でおこなわれるため、アミノ酸残基側鎖の修飾が起こらないと言われている。
また、非特異的切断による断片の複雑化をさけることもできる。
したがって、アミノ酸あるいはそれに近い状態にまで分解することはほとんどない。
リジルエンドペプチターゼ、セリンプロテアーゼ、メタロエンドペプチターゼ、アルギニルエンドペプチターゼ、メタロプロテアーゼ、キモトリプシン、パパイン、アルカラーゼ、ペプシン、レンニン、パンクレアチン、エラスターゼ、カルボキシペプチターゼ、アミノペプチターゼ、ジペプチターゼ等がある。
特異性の高い化学的切断法に使われる化学物質としては臭化シアン、N−ブロモスクシンイミド、BNPS−スカトール(2−(2−ニトロフェニルスルフェニル)−3−メチル−3−ブロモインドール)、ジメチルスルホキシド、O−ヨードソ安息香酸、ヒドロキシルアミン、希酸等がある。
好ましくはシャープなバンドが複数以上確認できる。
このようにして低分子化した絹タンパクは未分解絹タンパクの細胞生育性がほとんど維持される。
つまり、電気泳動像では、通常の繭加工工程で絹タンパクの分子量が低下した場合のようにスメアーでブロードなバンドのみが現れるのでなく、H鎖やL鎖と同程度にシャープなバンドとして1本、好ましくは複数(2本以上)現れることが重要である。
一般に、酵素の分子量は 10,000程度以上である。
一方、ペプチド切断に特異性のある化学物質の分子量は10,000程度以下である。
例えば透析により絹タンパクと切断物質を分離する場合、切断された絹タンパク由来ポリペプチドの分子量は主に10,000程度以上であることから、切断物質の分子量が10,000程度以下であることは切断物質と切断された絹タンパク由来ポリペプチドとを分子量で容易に分離できる。
ヒドロキシルアミン(NH2OH)や希酸は特に好ましい。
酵素は分子量約10,000以上であるが、酵素でペプチド結合切断後は、酵素を変性して、失活させればよい。
酵素はタンパク質であることから、例えば高温(90℃程度)で処理して変性させる。
その方法は各酵素によって多少異なるが、失活した酵素が絹タンパク由来ポリペプチドに含まれていても、スキンケア素材としての機能には問題ない。
15〜20万ではゆるやかなずりでは塊状物はほとんど現れない。さらに好ましくは15万以下がよい。
分子量1〜15万では強いずりでもほとんど塊状物は現れない。
また、これを粉末化、フィルム化、ゲル化等を行い、また乳化を行い創傷被覆剤、化粧用素材として提供する。
絹タンパクが溶解状態(溶液中で絹タンパクは非結晶性、あるいはアモルファス状態)であるときに、ペプチド結合切断物質を作用させることが好ましい。
また、切断物質は複数作用させてもよい。
切断物質として酵素を使う場合は切断後に酵素を失活する事が好ましい。
以上の方法を以下に詳しく述べる。
一般に蚕は体内の絹糸腺腔に絹を分泌し、この絹は液状絹と言われる。
家蚕の液状絹はフィブロインとセリシンから成り(これらを絹タンパクという。)、家蚕の液状フィブロインは分子量約37万である[(Tasiro Yutaka and Otsuki Eiichi, Journal of Cell Biology, Vol,46,P1(1970)]。
これを未分解フィブロインという。
また、分子量約37万のフィブロインは分子量約35万(H鎖)と約2.5万(L鎖)に分けられる。
この分子量のセリシンを未分解セリシンという。
また、セリシンを主に、あるいは99%以上セリシンから成る繭を作るセリシン蚕(例えばセリシンホープ)の繭糸も原料とできる。
セリシン蚕は家蚕の突然変異体であるが、正常体と突然変異体のセリシンタンパクには差がない。
野蚕としてはクリクラ蚕、エリ蚕、サク蚕(インドサク蚕等も含む)、天蚕等、Antheraea に属するものは同様の絹タンパク成分から成っている。
例えばクリクラ蚕の絹タンパク[H. Yamada and K. Tsubouchi, International Journal of wild Silkmoth & Silk, Vol.6, P.47-51(2001)]はフィブロインは約18万の分子量のものがS−S結合し、35万の分子量としての物性を示す。
蚕は営繭時に液状絹を吐糸して繭(繭糸と蛹で構成)を作る。
繭糸には中心部にフィブロイン、周囲にセリシンが存在し、存在比は70〜80%(フィブロイン):20〜30%(セリシン)であることが知られている。
生糸で織った織物を生織という。
本発明の原料物質は繭糸、生糸、絹糸織編物、絹糸(フィブロイン繊維)、それらの残糸またはそれらの未精練物、半精練物、精練物、及びそれらを原料とした繊維、粉末、フィルム等、家蚕及び野蚕等の絹糸虫類が吐糸する蛋白質繊維すべてを対象とすることができる。
H鎖やa成分の確認は電気泳動像で、それぞれに相当するバンドの存在を確認することで行う。
そのため原料絹タンパクの分子量(重量平均)は、20万以上のものを使用する。
ただし、セリシン蚕繭の精練は行わない。
絹糸は、まず、養蚕農家で生産された繭を乾繭、煮繭後に繰糸して生糸を作製し、次いで、生糸又は生織の精練を行い、絹糸また絹織物とする。
これらの工程で生じる屑が残糸である。
煮繭では100〜105℃の水蒸気及び熱水で約10分間処理され、繭を熱水で満たす。
このような従来の生糸生産工程(繭加工)を経るとフィブロインのH鎖の半分程度以上は分解されてしまう。
精練は原料からセリシンを除くために行い、その方法としては、アルカリ性ナトリウム塩や石鹸を含む水溶液中で煮沸する場合(アルカリセッケン精練)が最も一般的な方法である。
その他、アルカリ性ナトリウム塩のみで精練する場合(アルカリ精練)、加圧熱水(例えば120℃の熱水)に浸漬して精練する場合(高圧精練)、酵素で精練する場合(酵素精練)等がある。
しかし、生糸を一般的なアルカリセッケン精練する場合(例えば炭酸ナトリウム0.05%水溶液、95〜99℃で2時間)、フィブロインのH鎖、L鎖はほとんど分解され、分子量は約5〜10万に低下している。
精練を行っていない場合は未精練、精練が完全でない場合は半精練といわれる。半精練で得られた物も通常は絹糸というが、フィブロイン繊維とはいわない。
ここでは99%以上フィブロインである場合をフィブロイン繊維という。
これらも繭加工工程の一部である。
アルカリ精練の場合、炭酸ナトリウム水溶液は適度なバッファー効果があるため、好ましい。
これは半精練や未精練に相当する。
また、セリシンの比率を増加するためにセリシン蚕繭糸を溶解の時に加えてもよい。
重要なことはフィブロインのH鎖やセリシンのa成分が原料に残っていることである。
したがって、セリシンの残留している原料を得るためにはセリシンのa成分が残るような温和な精練を行う(特許文献17参照)。
例えば、炭酸ナトリウムを使う場合は濃度を0.05%程度とし、10分程度よく攪拌しながら煮沸する。
一方、セリシンをほとんど除く場合(99%以上フィブロイン)は、フィブロインのH鎖ができるだけ分解しないで残るような精練を行う(特許文献15参照)。
例えば、繭糸を0.05%炭酸ソーダ水溶液で煮沸精練する場合は、精練時間は30分程度以内、好ましくは約10分以内で行う。
他の場合は、これに相当する条件で行う。
本発明の絹タンパク由来ポリペプチドは上記の原料を以下のように溶解して得る。
原料絹糸の溶解剤である中性塩としては、例えば塩化カルシウム、銅エチレンジアミン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸リチウム、臭化リチウム、硝酸マグネシウム等の中性塩が挙げられる。
当該中性塩においても飽和水溶液又は50%〔重量(g) /容量(mL)〕飽和以上の濃度が好ましい。
フィブロインとセリシンが含まれている場合、例えば繭糸や未精練物、半精練物等は上記中性塩で絹糸と同様に溶解する。
あるいは7M以上の濃度の臭化リチウムで45℃の場合は20分程度以内で溶解する。
原料を中性塩溶液に溶解する工程では、中性塩にメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルコールを添加してもよい。
臭化リチウムを使う場合は50℃程度以下の温度で原料を溶解する等、中性塩によって溶解条件は異なるが、フィブロインのH鎖、セリシンのa成分が残るような、または分子量が20万以上となるような溶解方法を行う。
1)攪拌することにより溶解を促進することができる。
2)溶解温度が低いと溶解しにくい。
3)溶解温度が高いと溶解し易いが、分子量低下が激しく起きる。
この溶解液から、まず不溶物を除去し、次いで透析膜や透析装置を用いて分子量約1万以下を除外する。
ただし、分子量約1万で分離する透析膜を用いても、分子の形にもよるが、分子量5,000前後のものも分離されないで残る場合がある。
このような透析によって絹タンパク水溶液を得る。
この絹タンパク水溶液には、中性塩が0.001〜0.2M程度残されていてもよい。
中性塩等の溶解剤で絹タンパクが溶解している溶解液に、ペプチド結合を特異的に切断する物質を添加することでペプチド結合の切断を行う。
この場合、複数の切断物質を使ってもよい。
切断物質としては酵素、希酸やヒドロキシルアミン等の化学物質を使う。
希酸としては2N以下の塩酸や硫酸でもよいが、ギ酸が好ましい。
ヒドロキシルアミンを使う場合は、0.1〜3Mとなるように添加する。
この場合、ヒドロキシルアミンが希薄であると、ペプチド結合の切断が起きる場合や起きない場合があり、切断が均一にならない。
高濃度であるとペプチド結合切断の特異性が乱れる。
切断処理後は反応を止めるため、希酸(例えばギ酸)でpH2〜3とする。
以上によって、絹タンパクのAsn−Gly間で特異的に切断されたいくつかのポリペプチド断片が得られる。
H鎖に占める結晶部の領域は非常に大きく、結晶部を比較的結晶性の高い部分と比較的結晶性の低い部分に分けている場合もあるが、いづれも(G−X) の繰り返しが主であるので(この場合のXは主にAla、Ser、Tyr、Valが主である)、ここでは区別しないで結晶部と考えている。
したがって、前駆体のフィブロインが正確に8ケ所のAsn−Gly結合で切断されれば、計算上はアミノ酸残基数が688,1259,985,644,539,391,347,607,378の9断片の集合となる。
また、C末端側の断片のアミノ酸残基数116はL鎖とS−S結合している。
したがって、Asn−Glyで100%切断されたとしても、切断された9残基の内の688の残基数はさらに少ない残基数となり、116の残基数はさらに多くの残基数となる。
しかし、すべてのAsn−Gly結合が100%切断しなくても、50%あるいはそれ以上切断された結果、絹タンパクを構成する各成分以外に構成成分と同程度にシャープなバンドが電気泳動像で1本以上あり、平均分子量が1〜20万未満となればよい。
リジルエンドペプチターゼ(LysylEndopeptidase) の場合はリジン残基のカルボキシル基側のペプチド結合を特異的に切断する。
絹タンパクは水溶液の状態、あるいは4M以下のウレア水溶液に溶解中に酵素処理する。
また、この酵素(リシルエンドペプチターゼ)は50℃以上でかなり不安定となり、70℃以上では失活する。
1)切断された絹タンパク断片が未分解絹タンパクの優れた細胞生育促進性を残していること、つまり、絹フィブロイン、セリシン由来のポリペプチドの細胞生育率はそれぞれ未分解フィブロイン、未分解セリシンの細胞生育率の50%以上であること、
2)その水溶液は摩擦等のずりによっても塊状物が生じないこと、
である。
更に好ましくは、
3)その水溶液を静置しておくと数日(1〜7日間)以内でゲル化すること、
である。
ペプチド結合の切断処理後、この溶解液から絹タンパク由来ポリペプチド以外の物を脱塩等で除外する。
酵素でペプチド結合を切断した場合は、脱塩後の絹タンパク由来ポリペプチド水溶液を70〜90℃にすることで失活させる。
水で透析する場合、透析は溶解液の約50倍量の水を透析外液として2〜4時間毎に、水を4回以上変えるか、これに相当する方法を用いて透析する。
このようにして、絹タンパクが低分子化されても未分解絹タンパクの優れた細胞生育促進性を残し、しかもそのポリペプチド水溶液はずりによっても容易に塊状物を生じない、絹タンパク由来のポリペプチド水溶液が得られる。
また、脱塩後の絹タンパク水溶液に切断物質を添加してもよい。
切断方法は切断物質によって異なるが、いづれにしても切断後に、塩や切断物質(希酸やNH2OH)等を透析等で除く必要がある。酵素切断の場合は酵素を失活させたほうが好ましい。
脱塩の判定は中性塩として塩化カルシウムを用いた場合は、透析外液の一部に硝酸銀を一滴加え、滴下部分がほとんど白色にならなくなった時点で脱塩されたとした。
また、透析外液の導電性測定で判定してもよい。
非結晶性状態で溶解している絹タンパク由来のポリペプチド水溶液からフィルム、粉末、ゲル等を作る。
得られたフィルム、粉末、ゲル等はスキンケア用の素材として使用する。
ペプチド結合切断物質で絹タンパクの特異的なペプチド結合が切断された前記E.のポリペプチド水溶液を平板上に流し、送風しながら乾燥すればフィルムとして得られる。
ポリペプチド水溶液の濃度、または平板状に流す時の単位面積当たりのポリペプチド水溶液量等を変えることでフィルムの厚さを変えることができる。
非結晶性のフィルムとするにはフィルムの厚さが100μm、好ましくは60μm程度以下となるようにする。
厚くなると乾燥に時間がかかり結晶化する。
一方、結晶化してもよいが、結晶化したフィルムは創傷被覆材としては使えない。
このようにして得た非結晶性フィルムや結晶化したフィルムを粉砕すれば、絹タンパク由来ポリペプチドの非結晶性粉末や結晶性粉末となる。
前記F.1)のフィルムを粉砕するだけでなく、前記E.のポリペプチド水溶液をスプレードライ、凍結乾燥後に粉砕、攪拌やアルコール添加、凍結処理等で沈澱させた後に乾燥、粉砕等によって非結晶性の粉末が得られる。
ゲル化は、絹タンパク由来ポリペプチド水溶液をそのまま放置(静置)して行うことが好ましい。
ポリペプチドの水性ゲルは、ポリペプチド濃度が一定以上になると、ポリペプチド鎖と近隣の他のポリペプチド鎖との間で水素結合をつくり、水を含有し、緩く絡み合って三次元網目状を形成することにより出現するものと推定される。
ゲル化は多くの水を含んだポリペプチドの結晶(β) 化であり、水性ゲルと考えられる。
このようなゲルの一部は攪拌によって、一部は水に溶解する性質があり、これを水性ゲルという。
水性ゲルを作るため、絹タンパク由来ポリペプチド水溶液をそのまま静置する場合、室温(30℃程度以下)より温度を高くするとゲル化は促進されるが、100℃以上では分子量低下が起きやすい。
また、沸騰させることはポリペプチドにずりが加わるために避けた方がよい。
また、絹タンパク由来ポリペプチド水溶液の濃度が高いほどゲル化は早いので、0.1%以上、好ましくは3%以上がよい。
一方、濃度は25%以上にはできない。
ポリペプチド水溶液の濃度は0.1〜15%、好ましくは3〜10%がよい。
絹タンパク由来ポリペプチド水溶液の水性ゲルは、例えば等電点法やポリペプチド水溶液のポリペプチドの結晶化をわずかに促進する方法等によっても得ることができるが、スキンケア素材として利用するには、そのまま静置でゲル化することが好ましい。
上記ポリペプチド水溶液及びその水性ゲルの乳化は、それらの油成分を加えて攪拌することで可能となる。
乳化に用いる油性分としてはオリーブ油、椿油、アボガド油、カカオ油、サンフラワー油、パーシック油、パーム油、ヒマシ油等の植物性油やその他動物性油、さらにホホバ油、ミツロウ等のロウ類等、化粧品原料基準に収載されている油やロウ等の油性分を使用する。
油性分の種類によって乳化物の性状に大差はない。
絹タンパク由来ポリペプチド水溶液は乳化剤として使えることが分かった。
その乳化においては、ポリペプチド水溶液の濃度と量に対する油性分の割合を適宜調製することにより目的とする乳化物を作成する。
ポリペプチド水溶液と油性分を混合し、乳化させる方法としては攪拌法、すりまぜ法等があるが、いづれでもよい。
乳化物の粘性は絹タンパク由来ポリペプチド水溶液の濃度によって変わる。
ポリペプチド水溶液の濃度が薄いとポリペプチドによる細胞生育性が低い。
したがって、乳化のためのポリペプチド水溶液の濃度は0.1%以上、好ましくは0.5%以上である。
一方、ポリペプチド水溶液の濃度が高いと皮膚上での伸び(延展性)が低下し、使用感が低下する。
従って、その濃度は15%以下、好ましくは10%以下がよい。
ポリペプチド水溶液の濃度が高くなる(3%程度以上)に従って、粘性を帯びクリームや軟膏として使える。
ポリペプチド水溶液の濃度が低いと細胞生育率が低いこと、ポリペプチド水溶液の濃度が高いと伸びが低下することなどは、次に述べる水性ゲルの乳化の場合にも同様である。
絹タンパク由来のポリペプチド水性ゲルは油性分と混合するとき、乳化剤として作用することが分かった。
ゲルにおけるポリペプチドの濃度が6%程度以上になると、ゲルと油性分を混合し、これを攪拌することは難しくなる。
濃度が濃くなるにつれて、攪拌時に水を添加すると攪拌しやすく、乳化は容易となる。
水はポリペプチドと等量から2倍程度の量が必要である。
つまり、濃度10%のゲル100gには5〜20gの水を添加して攪拌するとよい。
しかし、ポリペプチドの水性ゲルを乳化する場合には、ポリペプチド水溶液の場合より油性分の割合が少なくても乳化することができるという利点がある。
すなわち、同じ含水率の場合、ポリペプチドの水溶液より水性ゲルを用いた方が油性分とポリペプチドの割合を広範囲に変えることができるため、性質の違う乳化物を得ることができるという利点がある。
この理由は、ポリペプチド水溶液のゲル化によってポリペプチドはすでに分子間でゆるく結合しているため、すべてのポリペプチド鎖が油性分と結合しなくてもよいことによるものと推定される。
未分解絹タンパクの優れた細胞生育促進性を残した絹タンパク由来のポリペプチドが、上記の方法で水溶液、フィルム、粉末、ゲル及び乳化物の状態で得られる。
これらは皮膚細胞を生き生きとし、生育を促進することから、特に次のような利用に効果的である。
細胞生育促進性の低下した絹(例えばアルカリ処理で得られる結晶性絹粉末)、及びその他の素材(例えばタルク等の体質粉体、及びセラミック粉末等の有機、無機粉体、さらに眼鏡、時計、指輪、ピアス、注射針など、生体に接触する部分や生体に接触する手術用器具などの医療器具)のコーティング材として使用できる。
このようにして得た改質粉末はボディパウダーやファンデーションとしても優れている。
またピアス、注射針などでは皮膚など生体の炎症を抑えることができる。
非結晶性フィルムは水や消毒液等を吸収して、溶解あるいは一部溶解することから、単独で、あるいは布帛やフィルムと複合し、スキンケア素材として、あるいは皮膚に付着させたり溶液として塗布、あるいは創傷被覆剤として利用できる。
また、皮膚上で水分を吸収した非結晶性フィルムは体温等で水分を放散して10〜30分程度で乾燥する。
乾燥したフィルムには皮膚表面上の不要な油、ゴミ等を含んでいるので、フェースマスク等に利用すると皮膚表面のミクロな不要物まで除去できる。
また、皮膚上に薄く残り、摩擦でも剥離しないような場合はそのままにしておく。
前記の改質粉末やフィルムを粉砕して得られた粉末はスキンケア用粉末として、創傷治療用や化粧用に単独で、また、他の創傷治癒剤や化粧料に添加して用いる。
食品に添加して、またはゲル化剤やゲル状食品に添加して用いる。
スキンケア用の創傷治癒剤や化粧用に単独であるいは添加剤として用いる。
特に、軟膏やクリーム、乳液、化粧水用の素材として、本発明の絹タンパク由来ポリペプチドの乳化物は皮膚細胞の生育促進に、また手触りや付着性、伸びに優れている。
その他の割合はこれらの配合率から適宜決めることができる。
これらの配合割合は特願2001−364489(特許文献14参照)とほぼ同様である。
一方、先述の特願2001−364489の細胞生育率は未分解フィブロインの50%未満であり、本発明は細胞生育性に優れている。
また、医薬品としては軟膏のような創傷被覆剤として使用できる。
また、本発明の絹タンパク由来ポリペプチドによる水溶液、フィルム、粉末、ゲル、及び乳化物は皮膚細胞を生き生きさせるため、従来のスキンケア素材に添加すると効果的である。
本発明の作用・効果を損なわない範囲で、必要に応じて、油やロウ等の油成分、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、保湿剤、殺菌剤、抗炎症剤、色素、香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ビタミン、有機もしくは無機の粉体、アルコール、糖類等、軟膏や化粧料等にスキンケア用として通常に使用される成分を適宜配合することができるこというまでもない。
家蚕が営繭して1週間後の生繭を原料とした。これを「試料1」とする。
また、この生繭の繭層(100g) を4,000gの8M尿素、80℃に7分浸漬、精練した。
この間よく攪拌してセリシンを除いた。
この間の重量減(練減)は24.7%であった。
セリシン残留程度を調べるため、この精練繭層を炭酸ソーダ0.05%の水溶液4,000g中で60分煮沸したところ練減は0.7%であった。
その結果8M尿素で精練して得た繭層は99%以上がフィブロイン繊維(絹糸)と考えられる。
これを「試料2」とする。
この溶解液に50%ヒドロキシルアミン約30mlを入れ、次いで1N NaOHを約6mlをいれてpH9とし、溶解液を45℃に上げ、4時間置いた。
その後、溶解液に99%ギ酸16mlを加え、溶解液をpH2にしてヒドロキシルアミンによるAsn−Gly結合切断を止め、この溶解液を水(室温)で透析した。
透析膜はUC36−32−100(三光純薬株式会社製)を用い、溶解液の100倍量の水を透析外液とし、3時間ごとに5回水を変えて透析した。
この間水をよく攪拌した。
得られたフィブロイン由来ポリペプチドを「試料3」とする。
この溶解液を透析膜に入れ水で透析した。得られたフィブロイン水溶液に、前記と同様に50%ヒドロキシルアミン約30mlを入れ、次いで1N NaOHでpH9とした。
この溶解液を45℃に4時間置き、ギ酸でpH2とした後に水で透析した。
ここで得られたフィブロイン由来ポリペプチドを「試料4」とする。
絹タンパクのAsn−Gly結合が切断された断片の分子量は次のように電気泳動像とゲルクロマトグラフィーカラムを用いて測定した。
電気泳動用のゲルは2−15%のアクリルアミドグラジェンドゲルを用い、電気泳動後のゲルはCBB(染色液)で染色し、電気泳動像におけるバンドを、対照のマーカーの分子量と比較しながら観察した。
図1の試料2にはフィブロインのH鎖、L鎖のバンドが明確に認められる。試料3にはH鎖、L鎖のバンドが認められず、H鎖やL鎖と異なる分子量の部分で、H鎖やL鎖と同程度にシャープないくつかのバンドが認められる。
通常の繭加工工程、例えば絹糸を炭酸ソーダ等で精練した場合、また絹糸を塩化カルシウムのような中性塩で溶解した場合等の電気泳動像はスメアーでブロードなバンドのみで、試料3の電気泳動像とは異なる。
その他に分子量20万以下にスメアーでブロードなバンドがわずかに認められるが、試料3の電気泳動像から、フィブロインにおけるAsn−Glyの結合はほぼ切断されている。
試料3と試料4の電気泳動像からAsn−Gly結合のヒドロキシルアミンによる切断は、絹糸の溶解剤としてLiSCNを使う場合、絹タンパクがLiSCNで溶解中に行う方がより均一に切断されることがわかる。
分子量測定はゲルクロマトグラフィーカラム(Superdex200Prepgradeファルマシア)を用い、試料を8M尿素/40mMTris−H2SO4(pH8)で溶出し(0.6ml/min)、275nmでモニターした。
その重量平均分子量の結果を表1に示す。
[実施例1] の試料1〜試料4の細胞生育性を次のように測定した。
まず、各試料を細胞培養容器へ次のようにコートした。
各試料0.01gを9M LiSCN 1mlに溶解し、溶解液を50倍量の水で4回透析し、各試料の水溶液とした。
各試料の水溶液の0.0025%溶液1mlを細胞培養用のシャーレ(35mmφ、ファルコン)に入れ、風乾し、PBS2mlで3回洗ったのち再度風乾し、70%エタノールで浸漬して滅菌した。
培地は、皮膚線維芽細胞増殖用低血清培地(クラボウ株式会社製, Medium106S 500mlにLSGS 10mlを添加)を使用した。
培養は試料をコートしたシャーレ1枚につき培地2mlを入れ、7万の細胞を接種して3日間培養した。
細胞数の測定はシャーレ1枚につき培地2ml、アラマブルー(IWAKI )0.1mlを入れ、37℃で2時間培養後に570nm、600nmの吸光度から計算した色素の還元量を細胞生育数とした。
表2において、試料1、試料2、試料3はともにほとんど同じ程度の極めて優れた細胞生育促進性を示している。
試料4の細胞生育率は他の試料と比べてわずかに低いが、試料1、試料2、試料3に近い値を示し、いづれも細胞生育促進性に優れている。
実施例1における試料2、試料3、試料4の各水溶液の一部について、濃度を5%に調整した後に、70℃に置いた。
試料2の水溶液は、透析修了時にはゲル化していた。
一方、試料3、試料4の各水溶液は、70℃に置いた状態で2〜3日後にゲル化した。
そこで、試料3、試料4の各ゲル70gにオリーブ油20gを加え、コーヒーミキサー[パーソナルミルSCM−40A(柴田科学器械工業株式会社製)]で30秒間攪拌したところ、試料3と試料4のいづれもクリーム状の乳化物となった。
これらの乳化物を皮膚上に強く摩擦しながら塗っても玉状の塊状物は現れず、伸び、付着性、手触り等に極めて優れていた。
家蚕が吐糸後の生繭層200gを炭酸ソーダ4g、水8kgの混合した煮沸液(約100℃)に10分間浸漬し、精練した(「試料5」)。
この間、よく攪拌した。
絹糸(試料5)の内の50gを約80℃の塩化カルシウム160g、エタノール133g、水207gの混合液に浸漬し、よく攪拌した。
絹糸は20分間で溶解した。
この溶解液を透析膜に入れ水で透析した。
この時点は透析の途中で、脱塩は約1/2程度終えた段階である。
この透析中のフィブロイン溶液(濃度約6%)100g(45℃) に50%NH2OHを10cc加え、さらに1N NaOHを加えてpH9にした。
そのまま4時間置いた後に、ギ酸を加えpH2とし、透析膜に入れこの液を水で透析した。
試料5と試料6について、[実施例1]と同じ方法で分子量を電気泳動で調べた。
試料5にはフィブロインのH鎖とL鎖が[実施例1]の試料2と同程度に明確に確認された。
試料6の電気泳動像には85,75,9kDaのバンドが確認できた。
また、試料6の水溶液を70℃に置いて、ゲル化した。
ゲル化物にオリーブ油と水を加え[実施例3]と同様の乳化を行ったところ、手触り、伸び、付着性等に優れた乳化物が得られた。
[実施例4]の絹糸の50gを45℃の8M LiBr 400gに浸漬し、よく攪拌したところ、約10分で絹糸は溶解した。
溶解液を透析膜に入れ、水で透析し、フィブロイン水溶液とした。このフィブロイン水溶液を45℃にし、50% NH2OH50mlを加え、さらに1NNaOHで溶解液をpH9にして、4時間置いた。
その後、ギ酸でpH2とし、透析膜に入れ水で透析した。
透析後に得られた絹フィブロイン由来ポリペプチドの分子量を[実施例1]と同じように電気泳動で調べた。
また、透析終了後に、この水溶液の一部を濃度5%に調整し、70℃に置いたところ、2日後にゲル化した。
ゲル化物50gにオリーブ油15gを加えて、コーヒーミキサーで攪拌したところ、クリーム状の乳化物が得られ、手触り、伸び、付着性に優れていた。
また透析後に、この水溶液の一部をアクリル板上に流し、室温で風乾して製膜した。
得られたフィルム(厚さ約40μm)は水溶性(96%重量以上が室温の水に溶解した)を示し、非結晶性のフィブロイン由来ポリペプチドのフィルムとなった。
〔参考例1〕
絹セリシンの不均一なペプチド結合切断による分子量低下と細胞生育性
家蚕の繭(生繭)繭層20gを80℃の8M尿素100ccに15分間浸漬し、この間よく攪拌して繭セリシンを溶解した。
繭層の練減は21.2%であった。
繭セリシン溶解液を透析膜にいれ、40倍量の水(60℃) を透析外液として透析した。
透析は2日間で水を8回変えて行った。
透析後のセリシン水溶液を煮沸(100℃) し、炭酸ソーダ(Na2CO3)の濃度が0.05%となるように添加した。
また、細胞培養試料とした。
分子量及び細胞生育率は実施例1及び実施例2と同様に行って得た。
絹タンパクの成分無添加の場合を対照区(100%)とした。
結果を表3に示す。
セリシン蚕(セリシンホープ)繭層4gを9M LiBr 200ccに入れ、約45℃でよく攪拌して約15分で溶解した。
溶解液は非常に粘性がある。
この溶解液の1/3を透析膜に入れ水で透析した。
この溶解液は透析開始後1日以内で透析中にゲル化した。
このゲル化したものを「試料7」とした。
45℃に置いてから1時間後と4時間後に、ギ酸でそれぞれの液をpH2とし、これを透析膜に入れ、水で透析し(室温)、脱塩した。
1時間後にギ酸でpH2とした場合は透析修了時にはゲル化していた。
このゲル化したものを「試料8」とした。
この溶解液中のポリペプチドを「試料9」とした。
電気泳動像は実施例1と同様にして得た。
試料7の電気泳動像にはセリシンのa、d、b、cの各成分が確認できる。
試料8にはセリシンa、d、bの各成分は確認できないが、その外にもシャープなバンドが見えない。
試料9には36,14,6kDaに相当する部分にシャープなバンドが確認される。
機能性ポリペプチドとして利用可能な試料9の細胞生育性を[実施例2]と同様の方法で測定したところ、細胞生育率(%)は対照区を100%とした時、247%を示し、優れた線維芽細胞の生育促進性を示す絹セリシン由来ポリペプチドが得られた。
また、試料9の水溶液30gにオリーブ油10gを入れコーヒーミキサーで30秒攪拌したところ柔らかなクリーム状を示し、手触り、皮膚への伸び、付着性に優れていた。
結晶性絹超微粉末を次のように製造した。
家蚕の生糸を生糸の50倍量の0.1%炭酸ナトリウム水溶液で1時間煮沸精練し、絹糸とした。
この絹糸100gを炭酸ナトリウム50g、水2,500g、ハイドロサルファイトナトリウム5gの液に浸漬し、110℃(1.46気圧)に5時間おいた。
その後、水洗、乾燥して粉砕した。
粉砕は回転式衝撃粉砕器(不二電気工業株式会社製サンプルミルKI−1)に1mmφのフィルターを取り付けて粉砕し、さらに0.1mm間隔の金網をフィルターに取り付けて粉砕した。
次に、攪拌擂潰装置(石川式)で摩砕した後、気流式粉砕器(日清製粉株式会社製カレントジェットCJ−10)で粉砕したところ、平均粒子径2.2μmの結晶性絹超微粉末を得た。
この結晶性絹超微粉末50gと前記[実施例1]のフィブロイン由来ペプチド(試料3)の水溶液(濃度4%)50gを混合し、乾燥し、粉砕した。
粉砕は回転式衝撃粉砕機[サンプルミルKI−1(不二電気工業社製)]に1mmφのフィルターを取り付ケて粉砕し、次いで摩砕(攪拌擂潰装置)し、さらに0.1mm間隔の金網をフィルターに取り付けて粉砕した。
得られた粉末の平均粒子径は2.9μmであり、手触り、付着性、成形性に優れていた。
(1)絹タンパクを酵素で分解、分離、分収
家蚕の繭を切開して蛹を除き、繭層(20g)を30倍量の8M尿素、90℃に10分浸漬し、セリシンを除外した。
抽出残さは水洗、乾燥し、これをフィブロインとした。
上清液を50倍量の水に対して透析した。
透析は半透膜を用い30分ごとに水をかえて4回行った。
透析後に液を再び遠沈し、上清液に0.1Mリン酸水素二ナトリウム(pH8.5)を加え、pHを7から8に調整した。
そこにフィブロイン量の100分の1量のキモトリプシンを入れ、40℃で1時間置いた。
このときの上清液のタンパクを「試料10」とした。
上清液はそのままタンパク量を測定した。
試料10の水溶液を0.025%の濃度になるように70%エタノールを加えて調整し、それをポリスチレンのシャーレ(35mmφ、ファルコン)に1ml入れて風乾した。
対照区用シャーレは70%エタノールのみを1ml入れて風乾した。
細胞は、成人由来の凍結ヒト皮膚線維芽細胞(三光純薬株式会社製)を使用した。
培地は、ヒト皮膚線維芽細胞増殖用低血清培地(クラボウ株式会社製)を使用した。
シャーレ1枚に付き培地2mlを入れ、8万ケの細胞を接種し、3日間培養した。
シャーレ1枚に付き培地2ml、アラマーブルー(IWAKI)0.1mlの割合で入れ、37℃、2時間培養したのち、570nm、600nmの吸光度から計算したアラマーブルー色素の還元量を生細胞数とした。
以上の細胞生育率に関する測定は、実施例1と同様に行った。
試料10の分子量は実施例1と同様にして測定した。
絹タンパクの成分無添加の場合を対照区(100%) とした、試料10をコートしたシャーレでのヒト皮膚線維芽細胞の生育率と分子量を表4に示す。
上記(1)、試料10の上清液のタンパク濃度を3.5%に調整し、80℃に置いたところ、3日後にゲル化した。
一方、この上清液(濃度3.5%) に試料9の液を30%(重量)混合し、室温に置いたところ、2日後にゲル化した。
これらのゲル化物、各50gにオリーブ油12gを加えて攪拌したところ、玉状物はできず、手触りのよいクリーム状物が得られた。
生糸(150g)を炭酸ソーダ(20g)、漂白剤(ハイドロサルファイト:1.5g)、金属封鎖剤(クレワットK、帝国化学産業株式会社:2g)、及び水(6,000g)の煮沸液(約100℃)で1時間処理し、水洗乾燥し絹糸(A)とした。
この絹糸(A:50g)を塩化カルシウム(131g)、水(170g)、エチルアルコール(108g)の溶解液(約80℃)に1時間で溶解し、次いで水による透析で脱塩を行い、フィブロイン水溶液(試料11)とした。
この絹糸(B:20g)を9M臭化リチウム(200ml)に45℃で30分間で溶解し、50%ヒドロキシルアミン(5ml)を添加し、ついで1規定苛性ソーダを加えてpH9とした。
これを45℃に4時間置いた後、ギ酸でpH2とした後、半透膜に入れ水中で透析し、フィブロイン水溶液(試料12)とした。
試料12は本発明の絹タンパク由来機能性ポリペプチドである。
得られたフィルムは水溶性である。
このフィルムを水に溶解した液は皮膚上で優れた伸びと泡立ちを示した。
絹糸BではフィブロインのH鎖、L鎖、共に確認でき、平均分子量は25万程度であった。
試料12ではフィブロインのH鎖は確認できず、L鎖は僅かに確認できるが、それ以外には、約5万、2.2万、1.5万、9千等に新たなバンドが確認できた。
カイコが吐糸した後、5日以内の加熱等の処理をしていない繭の繭糸30gを炭酸ソーダ0.5g、水1、000ml(約100℃)で10分間煮沸して、繭糸を精練した。
精練液を半透膜に入れ水中で透析し、セリシン水溶液(試料14)とした。
セリシンを保湿剤として利用するため、このセリシン水溶液(試料14)2gを、フィブロイン水溶液(試料12)10gに添加し、混合した後、プラスチック平板上で風乾した。
得られたフィルムは水溶性を示した。
また、スクワラン1gをフィブロイン水溶液(試料12)20gに添加し、それらを混合した後、プラスチック平板上で風乾した。
得られたフィルムは水溶性を示した。
この場合も混合液及びフィルムを水に溶解した液は皮膚上で優れた伸びと泡立ちを示すと共に、しっとり感に優れていた。
Claims (10)
- 家蚕又は天蚕由来の絹タンパク原料であって、該絹タンパク原料の平均分子量が20万以上であり、家蚕由来の絹タンパク原料の場合には、絹フィブロインのH鎖、L鎖及びセリシンaの少なくとも一部又は全部が分解しないで残存している絹タンパク原料を、中性塩水溶液に溶解し、次いで、ペプチド結合切断物質を用いて処理し、絹タンパクの特異的アミノ酸残基間のペプチド結合を切断することを特徴とする、平均分子量が1万以上20万未満であり、細胞生育促進性、展延性等にすぐれた絹タンパク由来の機能性ポリペプチド組成物の製造方法。
- 絹タンパク原料が、家蚕又は天蚕の吐糸した繭糸、繭糸の加工物である生糸もしくは絹糸、絹織編物の未精練物、半精練物もしくは精練物から選ばれる1種以上からなる絹タンパク原料であることを特徴とする、請求項1記載の絹タンパク由来の機能性ポリペプチド組成物の製造方法。
- 絹タンパク原料の中性塩水溶液を、ペプチド結合切断物質を用いて処理した後、得られたポリペプチド組成物を脱塩処理に付すことを特徴とする、請求項1記載の絹タンパク由来の機能性ポリペプチド組成物の製造方法。
- ペプチド結合切断物質が、酵素、ヒドロキシルアミン及び希酸であること特徴とする、請求項1記載の絹タンパク由来の機能性ポリペプチド組成物の製造方法。
- ペプチド結合切断物質が、ヒドロキシルアミンであること特徴とする、請求項1記載の絹タンパク由来の機能性ポリペプチド組成物の製造方法。
- ペプチド結合切断物質が、リジルエンドペプチターゼ、キモトリプシン、パパイン、ペプシン、トリプシン及びサーモリシンから選ばれる酵素であることを特徴とする、請求項1記載の絹タンパク由来の機能性ポリペプチド組成物の製造方法。
- 特異的アミノ酸残基間のペプチド結合がAsn−Gly結合であることを特徴とする、請求項1記載の絹タンパク由来の機能性ポリペプチド組成物の製造方法。
- 平均分子量が1万以上20万未満であり、細胞生育促進性、展延性等にすぐれた絹タンパク由来の機能性ポリペプチド組成物が、水溶液の形態であることを特徴とする、請求項1記載の機能性ポリペプチド組成物の製造方法。
- 家蚕又は天蚕由来の絹タンパク原料であって、該絹タンパク原料の平均分子量が20万以上であり、家蚕由来の絹タンパク原料の場合には、絹フィブロインのH鎖、L鎖及びセリシンaの少なくとも一部又は全部が分解しないで残存している絹タンパク原料を、中性塩水溶液に溶解し、次いで、ペプチド結合切断物質を用いて処理し、絹タンパクの特異的アミノ酸残基間のペプチド結合を切断した後、脱塩処理に付すことにより得られる平均分子量が1万以上20万未満であり、細胞生育促進性、展延性等にすぐれた絹タンパク由来の機能性ポリペプチド水溶液。
- 家蚕又は天蚕由来の絹タンパク原料であって、該絹タンパク原料の平均分子量が20万以上であり、家蚕由来の絹タンパク原料の場合には、絹フィブロインのH鎖、L鎖及びセリシンaの少なくとも一部又は全部が分解しないで残存している絹タンパク原料を、中性塩水溶液に溶解し、次いで、ペプチド結合切断物質を用いて処理し、絹タンパクの特異的アミノ酸残基間のペプチド結合を切断した後、脱塩処理に付すことにより得られる平均分子量が1万以上20万未満であり、細胞生育促進性、展延性等にすぐれた絹タンパク由来の機能性ポリペプチド水溶液を、フィルム化、粉末化、ゲル化または乳化することにより、スキンケアのための医薬品、医薬部外品、化粧品素材として使用する方法。
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