JP2004300036A - β−アラニン誘導体およびその製造方法 - Google Patents

β−アラニン誘導体およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】β−アラニン誘導体およびその塩を実用的手段を用いて、高収率で提供する。
【解決手段】一般式(I):
【化34】
Figure 2004300036

(式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;*は不斉炭素原子を表す。)、
で示されるコハク酸エステル誘導体を、ハロゲン化、アミド化、脱カルボニル化と一連の化学反応に供し、生成したβ−アラニン誘導体の塩から、所望により、β−アラニン誘導体を遊離させるか、或いは他の塩に転化する。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コハク酸エステル誘導体ならびにそれから誘導されるβ−アラニン誘導体およびその塩の製造法に関する。より詳しくは、本発明は、光学活性医薬品、光学活性農薬などの製造中間体として有用なコハク酸アミドエステル誘導体、その製造方法、さらにそれから誘導されるβ−アラニン誘導体もしくはその塩およびそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
β−アラニン化合物類は、例えばWO 02/8222(特許文献1参照)に示されるAIDS治療薬の重要な中間体であり、また薬理学的に活性なペプチドに於いてはそのペプチドの活性を向上させ、酵素による分解の抵抗性を増加させるためのα−アミノ酸置換物質としても重要である。
【0003】
従来、β−アラニン化合物の合成法としては、1)コハク酸誘導体をトリエチルアミンの存在下、アルコール中でジフェノキシホスホリルアジドと反応させ、生成するカルバメート化合物を加水分解して光学活性β−アラニン化合物を得る方法(特許文献2参照)、2)β−アラニンエノラート化合物をハロゲン化アルキルと反応させる方法(非特許文献1参照)、3)光学活性オキサゾリジノンエノラート化合物とハロゲン化アルキルを反応させる方法(非特許文献2参照)、4)シアノアクリル酸化合物を接触還元して、ラセミ体のβ−アラニン化合物を得る方法(非特許文献3参照)、5)アクリル酸誘導体を不斉還元する方法(特許文献3参照)等が報告されてきた。しかしながら、1)においては非常に高価なジフェノキシホスホリルアジドを使用し、商業的観点から重大な問題がある。また2)、3)においては有機リチウム化合物を−75℃の低温で使用しなければならず、発火の危険性や特殊な設備を要するという問題がある。4)においては、ラセミ化合物しか得られないため光学分割する必要があり、工業的に不利である。また5)においては、光学純度51%eeの選択性しかなく、更なる光学分割等が必要であり、実用性は低い。
【0004】
【特許文献1】
国際公開WO 02/8222号パンフレット
【特許文献2】
特開平02−306947号公報
【特許文献3】
国際公開WO 02/40492号パンフレット
【非特許文献1】
J.Org.Chem. 56, 2553−2557 (1991)
【非特許文献2】
Tetrahedron Lett. 43,1417−1419 (2002)
【非特許文献3】
J.Org.Chem.,64,3060−3065 (1999)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、従来から公知であるβ−アラニン化合物の製造方法には、様々な問題があり、簡便かつ工業的規模で実施できる製造方法の開発が望まれていた。
【0006】
したがって、本発明の目的は、β−アラニン化合物を実用的手段で高収率に製造する方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の別の目的は、上記製造方法で使用するコハク酸アミドエステル誘導体などの製造中間体、並びに生成物であるβ−アラニン誘導体およびその塩類を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記一般式(I)で示されるコハク酸エステル誘導体を原料として用い、ハロゲン化して一般式(II)で示される酸ハロゲン化物とし、さらにアミド化して一般式(III)で示されるコハク酸アミドエステル誘導体、次いで脱カルボニル化反応を行うことにより、一般式(IV)で示されるラセミ体または光学活性体のβ−アラニン骨格を有する化合物の塩が高収率で得られることを見いだした。さらに、一般式(IV)で示されるこのβ−アラニン誘導体の塩は、必要に応じて一般式(V)に示される遊離アミノ基を有するβ−アラニン誘導体、或いは一般式(VI)で示される、前記β−アラニン誘導体の塩(IV)とは異なるβ−アラニン誘導体の塩に変換することもできた。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明が目的とするβ−アラニン化合物は、一般式(V)で示されるβ−アラニン誘導体、一般式(IV)で示されるβ−アラニン誘導体の塩、さらに一般式(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩であり、それぞれ下記の構造を有する。
【0010】
一般式(V)で示されるβ−アラニン誘導体:
【化20】
Figure 2004300036
【0011】
(式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;*は不斉炭素原子を表す。)。
【0012】
一般式(IV)で示されるβ−アラニン誘導体の塩:
【化21】
Figure 2004300036
【0013】
(式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Yはアニオン原子またはアニオン基を表す。)。
【0014】
一般式(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩:
【化22】
Figure 2004300036
【0015】
(式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Zはアニオン原子またはアニオン基であるが、前記Yとは異なる。)。
【0016】
さらに、本発明が目的とするコハク酸アミドエステル誘導体は、上記の一般式(V)で示されるβ−アラニン誘導体、一般式(IV)で示されるβ−アラニン誘導体の塩、さらに一般式(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩等の製造のための中間体であり、下記の一般式(III)で示される構造を有する。
【0017】
【化23】
Figure 2004300036
【0018】
(式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりである。)。
【0019】
以上の目的化合物は、次の一連の合成工程によって製造できる。
【0020】
[第1工程]
一般式(I):
【化24】
Figure 2004300036
【0021】
(式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;*は不斉炭素原子を表す。)、
で示されるコハク酸エステル誘導体またはその塩を、ハロゲン化剤と反応させて、一般式(II):
【0022】
【化25】
Figure 2004300036
【0023】
(式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Xはハロゲン原子を表す。)、
で表される酸ハロゲン化物を生成させる。
【0024】
[第2工程]
一般式(II):
【化26】
Figure 2004300036
【0025】
(式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;Xはハロゲン原子を表し;*は不斉炭素原子を表す。)、
で示される酸ハロゲン化物とアンモニアを反応させて、一般式(III):
【化27】
Figure 2004300036
【0026】
(式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりである。)、
で示されるコハク酸アミドエステル誘導体を生成させる。
【0027】
[第3工程]
一般式(III):
【化28】
Figure 2004300036
【0028】
(式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;*は不斉炭素原子を表す。)、
で示されるコハク酸アミドエステル誘導体を脱カルボニル反応し、一般式(IV):
【化29】
Figure 2004300036
【0029】
(式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Yはアニオン原子またはアニオン基を表す)、
で示されるβ−アラニン誘導体の塩を生成させる。
【0030】
[第4工程]
一般式(IV):
【化30】
Figure 2004300036
【0031】
(式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;Yはアニオン原子またはアニオン基を表し;*は不斉炭素原子を表す。)、
で示されるβ−アラニン誘導体の塩を、塩基で処理して、一般式(V):
【化31】
Figure 2004300036
【0032】
(式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりである)、
で示されるβ−アラニン誘導体を生成させる。
【0033】
[第5工程]
一般式(V):
【化32】
Figure 2004300036
【0034】
(式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;*は不斉炭素原子を表す。)、
で示されるβ−アラニン誘導体を、酸で処理して、一般式(VI):
【化33】
Figure 2004300036
【0035】
(式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Zはアニオン原子またはアニオン基を表すが、上記Yとは異なる。)、
で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩を生成させる。
【0036】
本発明は、以上の工程の全て、またはいずれかを組み合わせて含むことを特徴とするβ−アラニン誘導体またはその塩の製造方法を提供する。
【0037】
また、本発明は、前記β−アラニン誘導体またはその塩の製造方法における各種中間体である、上記酸ハロゲン化物およびコハク酸アミドエステル誘導体などの製造方法をも提供する。
【0038】
これら本発明の製造方法において、好ましい態様としては、第1工程でハロゲン化剤として二塩化オキサリルを用いる前記の方法、また、第3工程で脱カルボニル化反応剤として、ヨードシルアリール化合物を用いる方法である。特に、好ましくは、前記ヨードシルアリール化合物が(ヒドロキシ−p−トルエンスルホキシ)ヨードベンゼンである。
【0039】
さらに、上記の製造方法において、一般式(IV)で示されるβ−アラニン誘導体の塩がp−トルエンスルホン酸塩であることが好ましい。また、一般式(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩が塩酸塩であることが好ましい。
【0040】
くわえて、本発明に従えば、新規物質である、一般式(III)で示されるコハク酸アミドエステル誘導体、一般式(IV)で示されるβ−アラニン誘導体の塩、および一般式(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩が提供される。これらの化合物中では、上記と同様に、好ましい特定の化合物群は、一般式(IV)で示されるβ−アラニン誘導体の塩がp−トルエンスルホン酸塩であるもの、および一般式(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩が塩酸塩であるものである。
【0041】
上記一般式(I)〜(VI)で示される化合物は、すべてその分子内に1個の不斉炭素原子を有するので、各一般式で示される個別の化合物は、R体、S体およびラセミ体の形態で存在することが可能である。本発明の製造方法によれば、光学活性体(R体もしくはS体)或いはラセミ体のいずれかの所望の形態のβ−アラニン誘導体またはその塩を製造することができる。本発明において、特に、好適には、光学活性体(R体もしくはS体)である、一般式(III)で示されるコハク酸アミドエステル誘導体、一般式(IV)で示されるβ−アラニン誘導体の塩、または一般式(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩である。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0043】
本発明の要旨は、上記β−アラニン誘導体の塩(IV)を製造するにあたり、コハク酸エステル誘導体(I)またはその塩を、酸ハロゲン化物(II)に変換して、さらにアンモニアと反応させ、コハク酸アミドエステル誘導体(III)とし、次に脱カルボニル化反応を行うことを特徴としている。
【0044】
本明細書中で使用する、種々の用語の定義の好適な例は、下記のとおりである。
【0045】
前記の一般式(I)〜(VI)において、R、R、Rで表される「アルキル基」としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、シクロヘキシル基などの鎖状、分枝鎖状、環状、およびこれらを組み合わせたものが挙げられる。本明細書で言及する他のアルキル基、またはアルキル部分を有する他の置換基における該アルキル部分(例えば、アルコキシル基)についても同様である、アルキル基が置換基を有する場合、置換基の種類、個数、および置換位置は特に限定されないが、置換基として、例えば、水酸基、保護された水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アリール基(例えば、フェニル基)等が挙げられる。
【0046】
、R、Rで表される「アリール基」としては、単環性または多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。本明細書で言及するアリール部分を有する置換基における該アリール部分についても同様である。アリール基が置換基を有する場合、置換基の種類、個数、および置換位置は特に限定されないが、置換基として、例えば、水酸基、保護された水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアリール基(例えば、フェニル基)等が挙げられる。
【0047】
、R、Rで表される「複素環基」とは、例えば、酸素原子、窒素原子、および硫黄原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を少なくとも1つ含む複素環を意味する。その環は、単環性または多環性のいずれでもよく、また芳香族、部分飽和、または飽和のいずれであってもよい。好適には、フリル基、ピロリル基、チアゾリル基、チエニル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基等が挙げられる。複素環基が置換基を有する場合、置換基の種類、個数、および置換位置は特に限定されないが、置換基として、例えば、水酸基、保護された水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、アリール基(例えば、フェニル基)等が挙げられる。
【0048】
、R、Rで表される「アラルキル基」とは、上記のアルキル基に上記のアリール基が1個以上置換した基を意味する。好適には、ベンジル基、2−フェニルエチル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。アラルキル基が置換基を有する場合、置換基の種類、個数、および置換位置は特に限定されないが、置換基として、例えば、水酸基、保護された水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、フェニル基などのアリール基(例えば、フェニル基)等が挙げられる。本明細書中で使用する「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれでもよい。
【0049】
とRが環を形成している場合、具体的にはシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0050】
また、前記の一般式(IV)および一般式(VI)において、YおよびZによって表される「アニオン原子」とは、ハロゲンイオンを指す。該ハロゲンイオンは、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ素化物イオンのいずれでもよい。YおよびZによって表される「アニオン基」とは、無機酸、有機酸の陰イオン(共役塩基)を意味する。例えば、硫酸イオン、硫酸水素イオン、燐酸イオン、燐酸1水素イオン、燐酸2水素イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、臭素酸イオン、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ホウフッ酸イオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
本発明の製造方法で使用される出発化合物である、コハク酸エステル誘導体(I)は、既知の化合物から、この技術分野での常法により、或いは本明細書において、後述する製造例で開示した方法で調製できる。すなわち、1)アルデヒドまたはケトンとコハク酸エステルのStobbe縮合により容易に得られるイタコン酸化合物の接触還元によるラセミ体の合成、2)国際公開WO 99/31041号パンフレットに開示される光学活性ホスフィン配位子−ロジウム錯体での不斉水素化による光学活性体の合成および光学分割、3)マロン酸エステルと光学活性α−ハロゲン化カルボン酸化合物との縮合法等の方法を用いて、収率良く製造することができる。コハク酸エステル誘導体(I)の塩は、特に限定されず、任意の塩基付加塩を用いることができる。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩などの有機アミン塩が例示される。
【0052】
[第1工程]
この工程では、コハク酸エステル誘導体(I)またはその塩を、ハロゲン化剤と反応させて、酸ハロゲン化物(II)を生成させる。ここで使用されるハロゲン化剤としては、特に限定されず、各種のハロゲン化剤を用いることができる。塩化チオニル、臭化チオニル、三塩化リン、五塩化リン、三臭化リン、五臭化リン、三ヨウ化リン、二塩化オキサリル、二臭化オキサリル、フッ化シアヌル酸、四フッ化セレン等が挙げられる。好ましくは、二塩化オキサリルであるが、これに限定されることはない。
【0053】
本発明の製造方法における、前記ハロゲン化剤の使用量は特に限定されない。反応温度、反応基質である選択されたコハク酸エステル誘導体に基づいて、適宜選択可能であるが、例えば、コハク酸エステル誘導体(I)に対するモル比として、通常1〜100倍量程度用いることができ、好ましくは1.0〜5.0倍量程度である。反応温度は、通常−78℃から150℃程度の温度範囲で行うことができるが、反応性と経済性を考慮して、−30℃から80℃程度、好ましくは0℃から40℃の範囲で行う。反応時間は、通常10分から48時間程度で、反応基質が消費される時間を目安にする。
【0054】
前記ハロゲン化反応は、通常、無溶媒または溶媒中で行うことができ、必要に応じて触媒の存在下で行ってもよい。その触媒の種類は特に限定されないが、塩化亜鉛、ヨウ素、トリエチルアミン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等が挙げられる。好ましくは、トリエチルアミンである。
【0055】
溶媒の種類も限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等のヘテロ原子を含む有機溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン含有炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、または混合溶媒として用いることもできる。好ましくは、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフランを用いるか、或いは無溶媒である。溶媒の使用量は特に限定されず、反応基質の溶解度、反応性、安定性、経済性等により適宜選択できる。
【0056】
ハロゲン化反応終了後は、反応液を必要に応じて濃縮するか、或いは、そのまま処理せずに、次の工程に使用する。
【0057】
[第2工程]
この工程では、酸ハロゲン化物(II)とアンモニアを反応させて、コハク酸アミドエステル誘導体(III)を生成させる。このアミド化反応は、酸ハロゲン化物を無溶媒で、または新たな溶媒に溶解して、アンモニア水、或いは反応不活性溶媒のアンモニア溶液に加えることによって行われる。反応不活性溶媒のアンモニア溶液またはアンモニア水の濃度は、特に限定されない。アンモニア水の場合、市販の28〜30%品をそのまま、または適宜希釈して使用することができる。反応温度は、通常0℃から100℃の範囲であるが、反応性と経済性を考慮して、0℃から40℃の範囲が好ましい。反応時間は、数分から24時間程度で、反応基質が消費される時間を目安にする。
【0058】
溶媒の種類も限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等のヘテロ原子を含む有機溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン含有炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、または混合溶媒として用いることもできる。好ましくは、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフランを用いるか、或いは無溶媒である。溶媒の使用量は特に限定されず、反応基質の溶解度、反応性、安定性、経済性などにより適宜選択できる。
【0059】
アミド化反応終了後は、有機層をそのまま分液するか、水と混ざらない溶媒で抽出し、濃縮して特に精製を行わず、次の工程に使用する。
【0060】
[第3工程]
コハク酸アミドエステル誘導体(III)を脱カルボニル反応し、β−アラニン誘導体の塩(IV)を生成させる。ここで使用される脱カルボニル化剤として、ヨードシルベンゼン、ジアセトキシヨードベンゼン、ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼン、ヒドロキシ−p−トルエンスルホキシヨードベンゼン等のヨードシルアリール化合物が例示されるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。好ましくは、ヒドロキシ−p−トルエンスルホキシヨードベンゼンである。
【0061】
前記脱カルボニル化反応は、古くからホフマン転位として知られており、種々の方法が採用されてきた。例えば、臭素と水酸化ナトリウムを用いる方法、臭素とナトリムアルコラートを用いる方法、四酢酸鉛とアルコールを用いる方法、ヨードシルベンゼンとギ酸を用いる方法、ジアセトキシヨードベンゼンと水酸化カリウムを用いる方法、ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼンを用いる方法、ヒドロキシ−p−トルエンスルホキシヨードベンゼンを用いる方法等である。しかしながら、水酸化ナトリウム或いはナトリウムアルコラートと臭素を用いる方法は、イミド化合物を生じやすく、収率および純度が著しく悪くなることがある。また、四酢酸鉛を用いる方法は、重金属の処理問題がある。ヨードシルベンゼン等のヨードシルアリール化合物を用いる方法は、これらの問題点が無く、生じるヨードアリールを再利用することができる点で優れている。本発明では、このような理由からヨードシルアリール化合物(特に、ヒドロキシ−p−トルエンスルホキシヨードベンゼン)を使用する。
【0062】
本発明の製造方法における、前記脱カルボニル化剤の使用量は特に限定されない。反応温度、反応基質であるコハク酸アミドエステル誘導体(III)に基づいて適宜選択可能であるが、例えば、コハク酸アミドエステル誘導体に対するモル比として、通常1〜100倍量程度用いることができ、好ましくは1.0〜5.0倍量程度である。反応温度は、通常0℃から200℃程度の温度範囲でおこなうことができるが、反応性と経済性を考慮して、0℃から150℃程度、好ましくは40℃から100℃の範囲で行う。反応時間は、通常10分から48時間程度で、反応基質が消費される時間を目安にする。
【0063】
前記脱カルボニル化反応は、無溶媒または溶媒中で行なうことができ、その溶媒の種類も限定されない。例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等のヘテロ原子を含む有機溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン含有炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、または混合溶媒として用いることもできる。好ましくは、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフランである。溶媒の使用量は特に限定されず、反応基質の溶解度、反応性、安定性、経済性等により適宜選択できる。
【0064】
脱カルボニル化反応後に、生成した固体を濾過して取得するか、反応液を濃縮してから、適当な溶媒を加えて固体を析出させ濾過して取得する。この際に使用する溶媒の種類は特に限定されないが、上記で列挙した溶媒のなかから選択できる。
【0065】
得られた固体は、必要に応じて適宜、精製を行うことによって、β−アラニン誘導体の塩(IV)が得られる。この精製の手段は特に限定されず、有機化学の分野において通常用いられる精製手段を適宜選択することができ、また2つ以上の手段を組み合わせることもできる。例えば、水、メタノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル等のヘテロ原子を含む有機溶媒、ヘキサン、トルエン等の炭化水素溶媒を単独で用いて、または2種以上の溶媒を含む混合溶媒を用いて再結晶を行うことにより、生成物の純度および光学純度を高めることができる。しかし、精製が必要でない場合、前記反応液をそのまま、次の工程で使用することもできる。
【0066】
[第4工程]
この工程では、β−アラニン誘導体の塩(IV)を、塩基で処理して、β−アラニン誘導体(V)を生成させる。精製したβ−アラニン誘導体の塩の代わりに、第3工程で得られた反応液を塩基で処理してもよい。ここで使用される塩基としては、特に限定されず、各種の塩基を用いることができる。適当な塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物、炭酸ナトリム、炭酸水素ナトリム、炭酸カリウム等の金属炭酸塩、ナトリウムメトキシド、ナトリム−t−ブトキシド、カリウム−t−ブトキシド等の金属アルコラート、アンモア水、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の含窒素化合物が挙げられる。好ましくは、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、トリエチルアミンであるが、より好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムである。
【0067】
塩基の水溶液をβ−アラニン誘導体の塩(IV)に加えた後、適当な溶媒で抽出し、得られた有機層を濃縮することにより遊離のアミノ基を有するβ−アラニン誘導体(V)が得られる。ここで使用する抽出溶媒の種類は、限定されないが、例えば、ブタノール、シクロヘキサノール、オクタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、酢酸エチル等のエステル系有機溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン含有炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、または混合溶媒として用いることもできる。好ましくは、トルエン、ジクロロメタン、酢酸エチルである。溶媒の使用量は特に限定されず、反応基質の溶解度、反応性、安定性、経済性などにより適宜選択できる。
【0068】
[第5工程]
この工程では、β−アラニン誘導体(V)を、酸で処理して、β−アラニン誘導体の別の塩(VI)を生成させる。この酸処理は、β−アラニン誘導体(V)を適当な溶媒中、酸と混合することによって行われる。β−アラニン誘導体の塩(VI)は、第3工程で得られた、β−アラニン誘導体の塩(IV)が他の塩の形態に転化されたものであり、両者のアニオン部分(すなわち、共役塩基)が異なる。塩の種類としては、特に限定されないが、収率、得られる塩の物性、経済性を考慮して適宜選択することができる。
【0069】
前記酸処理で使用される酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、フッ酸、硫酸、リン酸、硝酸、ホウフッ酸等の鉱酸類、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。好ましく、塩酸、硫酸、燐酸、メタンスルホン酸であり、より好ましくは塩酸、硫酸である。
【0070】
前記適当な溶媒の種類も限定されないが、例えば、ブタノール、シクロヘキサノール、オクタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等のヘテロ原子を含む有機溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン含有炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、または混合溶媒として用いることもできる。好ましくは、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチルである。溶媒の使用量は特に限定されず、反応基質の溶解度、反応性、安定性、経済性等により適宜選択できる。
【0071】
酸処理後に、生成した固体を濾過して取得するか、或いは反応液を濃縮してから、適当な溶媒を加えて固体を析出させ濾過して生成物を取得する。この際に使用する溶媒の種類は特に限定されないが、上記で列挙した溶媒のなかから選択できる。
【0072】
得られた固体は、必要に応じて適宜、精製を行うことによって、β−アラニン誘導体の別の塩(VI)が得られる。この精製の手段は特に限定されず、有機化学の分野において通常用いられる精製手段を適宜選択することができ、また2つ以上の手段を組み合わせることもできる。例えば、水、メタノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル等のヘテロ原子を含む有機溶媒、ヘキサン、トルエン等の炭化水素溶媒を単独で用いて、または2種以上の溶媒を含む混合溶媒を用いて再結晶をおこなうことにより、生成物の純度および光学純度を高めることができる。
【0073】
以上、コハク酸エステル誘導体(I)またはその塩を、酸ハロゲン化物(II)に変換して、さらにアミド化して、コハク酸アミドエステル誘導体(III)とし、次いで脱カルボニル化反応を行うことによって得られる一般式(IV)および(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の塩を構成する化合物の具体例を以下の表1〜8に挙げる。しかしながら、本発明の目的化合物は、これらの例示化合物に限定されるものではない。なお、表1〜8に例示する化合物に対応するβ−アラニン誘導体(V)、ならびにその前駆体であるコハク酸アミドエステル誘導体(III)も本発明の範囲に含まれる。表中のOTsは、いずれの場合もp−トルエンスルホン酸(イオン)を表す。
【0074】
【表1】
Figure 2004300036
【0075】
【表2】
Figure 2004300036
【0076】
【表3】
Figure 2004300036
【0077】
【表4】
Figure 2004300036
【0078】
【表5】
Figure 2004300036
【0079】
【表6】
Figure 2004300036
【0080】
【表7】
Figure 2004300036
【0081】
【表8】
Figure 2004300036
【0082】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
(製造例1) (R)−3−メトキシカルボニル−4−フェニル酪酸の合成
2−ベンジリデンコハク酸−1−メチルエステル20g(90.8mmol)、トリエチルアミン0.92g (9.1mmol)および脱気したメタノール100mlをオートクレーブに入れ、装置内を窒素で数回置換した。これとは別に、(2R,4R)−N−フェニルカルバモイル−2−ジフェニルホスフィノメチル−4−ジフェニルホスフィノピロリジン2.9mg (5.0μmol)とμ−ジクロロビスシクロオクタジエニルロジウム(I)ダイマー1.1mg (2.3μmol)をメタノールに溶解した触媒溶液を調製し、先のオートクレーブに加えた。十分に水素置換した後に、0.3MPaの水素圧をかけて、40℃で撹拌した。3時間後、積算流量計により水素の吸収量が定量に達したことを確認してオートクレーブを常圧に戻し、装置中の反応液を減圧濃縮した。濃縮残分は水酸化ナトリウム3.7g(92mmol)と水50mlを加えて溶解し、クロロホルム50mlで洗浄した。水層を分取し、6M−塩酸でpH2とし、生じた油状物をクロロホルム100mlで抽出した。溶媒を減圧留去して、(R)−3−メトキシカルボニル−4−フェニル酪酸19.8g(収率98%)を得た。光学活性HPLCで分析すると、光学純度(R)98%eeであった。分析は、特開2001−139524号公報に記載の条件(使用カラム:キラルセルOD(ダイセル化学工業)、溶出溶媒:n−ヘキサン/イソプロパノール=98/2(v/v)、流速:1.0ml/分、カラム温度:室温検出波長:220nm)を使用して行った。
【0084】
(製造例2) (S)−3−メトキシカルボニル−5−メチルカプロン酸の合成
2−イソブチリデンコハク酸−1−メチルエステル 20g(107mmol)、(−)−1,2−ビス((2R,5R)−ジエチルホスホラノ)ベンゼン(シクロオクタジエン)ロジウム(I)トリフルオロメタンスルホネート77mg (0.11mmol)、ナトリムメチラート3.5g (64mmol)および脱気したメタノール100mlをオートクレーブに入れ、装置内を窒素で数回置換した。十分に水素置換した後に0.5MPaの水素圧をかけて、40℃で撹拌した。8時間後、積算流量計により水素の吸収量が定量に達したことを確認してオートクレーブを常圧に戻し、装置中の反応液を減圧濃縮した。濃縮残分は水酸化ナトリウム1.7g (43mmol)と水50mlを加えて溶解し、ジクロロメタン50mlで洗浄した。水層を分取し、6M−塩酸でpH2とし、生じた油状物をクロロホルム100mlで抽出した。溶媒を減圧留去して、(S)−3−メトキシカルボニル−5−メチルヘキサン酸19.8g(収率98%)を得た。光学活性GCで分析すると、光学純度(S)97%eeであった。分析は、国際公開WO 99/31041号パンフレットに記載の条件を使用して行った。
【0085】
(製造例3) 3−メトキシカルボニル−4−メチル吉草酸の合成
2−イソプロピリデンコハク酸−1−メチルエステル10g (58mmol)および5%パラジウム炭素(50%含水)1gをメタノール100mlと共に、オートクレーブに入れ、装置内を窒素で数回置換した。十分に水素置換した後に、0.1MPaの水素圧をかけて、30℃で撹拌した。3時間後、積算流量計により水素の吸収量が定量に達したことを確認してオートクレーブを常圧に戻し、触媒を濾別した後、減圧濃縮して、3−メトキシカルボニル−4−メチル吉草酸9.8g(収率97%)を得た。
【0086】
上記のように、製造例1〜3に記載したいずれかの方法を用いると、本発明の製造法の出発物質である、コハク酸エステル誘導体をR体、S体またはラセミ体と所望の形態で得ることができる。また、得られた粗生成物は、そのまま特に精製することなく以下の実施例における、原料として用いることができる。
【0087】
(実施例1) (R)−3−メトキシカルボニル−4−フェニル酪酸アミドの合成
製造例1で調製した(R)−3−メトキシカルボニル−4−フェニル酪酸 5g (23mmol)をトルエン50mlに溶解し、氷水で5℃以下に冷却した。この溶液に二塩化オキサリル5.8g (46mmol)を加えて、12時間撹拌した。得られた反応液を減圧下で濃縮して、(R)−3−メトキシカルボニル−4−フェニル酪酸クロライドを得た。得られた酸クロライドは、特に精製せず次の工程に用いた。すなわち、この(R)−3−メトキシカルボニル−4−フェニル酪酸クロライドを再びトルエン50mlに溶解した。そのトルエン溶液を、5℃に冷却した28%アンモニア水50mlに滴下し、1時間撹拌した。反応後、トルエン層を分液し、水層をジエチルエーテル50mlで抽出した。ジエチルエーテル層と先のトルエン層を合わせて濃縮し、オイル状の(R)−3−メトキシカルボニル−4−フェニル酪酸アミドを4.3g(収率85%)得た。生成物のNMRデータを以下に示す。
【0088】
H−NMR(300MHz); (CDCl,δppm TMS基準,J=Hz) 2.29(dd,J1=15.6,J2=4.80,1H), 2.54(dd,J1=15.3,J2=9.31,1H), 2.81(dd,J1=13.5,J2=8.11,1H), 3.03(dd,J1=13.5,J2=6.31,1H), 3.17−3.28(m,1H), 3.66(s,3H),5.52(brs,2H), 7.14−7.31(m,5H)。
【0089】
(実施例2〜29) コハク酸アミドエステル誘導体(III)の合成
適当なコハク酸エステル誘導体(I)を出発物質として用いた以外は、実施例1に記載の方法にしたがって、様々な置換基を有する、一般式(III)で示されるコハク酸アミドエステル誘導体(III)を合成した。このようにして得られた各コハク酸アミドエステル誘導体の構造と、そのNMRデータを表9〜表11に示す。表中の置換基R、R、Rは一般式(III)中で定義されている置換基に対応する。
【0090】
【表9】
Figure 2004300036
【0091】
【表10】
Figure 2004300036
【0092】
【表11】
Figure 2004300036
【0093】
(実施例30) p−トルエンスルホン酸・(R)−2−メトキシカルボニル−3−フェニルプロピルアミンの合成
実施例1で調製した(R)−3−メトキシカルボニル−4−フェニル酪酸アミド 4g(18mmol)とヒドロキシ−p−トルエンスルホキシヨードベンゼン7.1g (18mmol)をアセトニトリル40mlに溶解し、80℃で30分加熱撹拌した。反応後、減圧で溶媒を留去し、トルエン40mlを加えて撹拌晶出を行った。晶出した固体を濾別し、乾燥して、p−トルエンスルホン酸・(R)−2−メトキシカルボニル−3−フェニルプロピルアミン5.6g(収率85%)を得た。生成物の物性データを以下に示す。
【0094】
mp:143−145 ℃,H−NMR(300MHz); (CDCl,δppm DSS基準,J=Hz)2.38(s,3H), 2.93−3.07(m,2H), 3.13−3.31(m,3H), 3.70(s,3H), 7.24(d,J=8.08,2H), 7.32−7.40(m,5H), 7.68(d,J=8.26,2H)。
【0095】
得られたp−トルエンスルホン酸・(R)−2−メトキシカルボニル−3−フェニルプロピルアミンの光学純度(%ee)は、下記のように光学活性イソシアネートと反応させてジアステレオマーに誘導し、H−NMRの積分強度により決定した。
【0096】
p−トルエンスルホン酸・(R)−2−メトキシカルボニル−3−フェニルプロピルアミン26mg (71.5μmol)を計り取り、ジクロロメタン1mlに溶解し、撹拌しながらトリエチルアミン10μlを加え、続けて(S)−メチルベンジルイソシアネート10μlを加えて1時間撹拌した。反応液に1M−塩酸10mlを加えて抽出し、有機層を分取して無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤を濾別し、濃縮乾固して得られた残渣をCDClに溶解して、H−NMRを測定した。その結果、δ3.53ppmにMe基のピークが1本のみ観測された。同様にラセミ体を観測すると、δ3.53ppmとδ3.58ppmに2本同強度で観測されることから、上記で合成した(R)−2−メトキシカルボニル−3−フェニルプロピルアミンは、光学純度>99%eeと決定した。
【0097】
(実施例31〜52) β−アラニン誘導体の塩(IV)の合成
適当なコハク酸アミドエステル誘導体(III)を出発物質として用いた以外は、実施例34に記載の方法にしたがって、様々な置換基を有する、β−アラニン誘導体の塩(IV)を合成した。このようにして得られたβ−アラニン誘導体の塩の構造と、そのNMRデータを含む物性データを表12〜表14に示す。表中の置換基R、R、Rは一般式(IV)中で定義されている置換基に対応する。表中には記載していないが、表中の化合物のYは、いずれの場合もp−トルエンスルホン酸(イオン)(OTs)を表す。
【0098】
【表12】
Figure 2004300036
【0099】
【表13】
Figure 2004300036
【0100】
【表14】
Figure 2004300036
【0101】
(実施例53) 塩酸・(S)−2−メトキシカルボニル−3−(4−メトキシフェニル)プロピルアミンの合成
(S)−3−メトキシカルボニル−4−(4−メトキシフェニル)酪酸(88%ee)から実質的に実施例1に記載の方法にしたがって調製し、特に精製を行っていない(S)−3−メトキシカルボニル−4−(4−メトキシフェニル)酪酸アミド 1.52g (6.0mmol)とヒドロキシ−p−トルエンスルホキシヨードベンゼン 2.35g (6.0mmol)をアセトニトリル10mlに溶解し、80℃で30分加熱撹拌した。反応後、減圧で溶媒を留去した。残渣に、水10mlと酢酸エチル10mlを加え、抽出した。水層を分取し、1M−炭酸ナトリウム溶液を加えてpH 9とし、生じた油状物をEtOAc20mlで抽出した。有機層を再び、6M−HCl 10mlで3回抽出した。塩酸層を濃縮乾固し、固体NaOH上で減圧乾燥して、塩酸・(S)−2−メトキシカルボニル−3−(4−メトキシフェニル)プロピルアミン0.50g(収率32%)を得た。生成物の物性データを以下に示す。
【0102】
mp: >120℃(分解),H−NMR(300MHz); (CDCl,δppm DSS基準,J=Hz)2.93−3.00(m,2H), 3.08−3.31(m,3H), 3.71 (s,3H), 3.83(s,3H), 6.97(d,J=8.71,2H), 7.19(d,J=8.71,2H)。
【0103】
得られた塩酸・(S)−2−メトキシカルボニル−3−(4−メトキシフェニル)プロピルアミンの光学純度は、実施例34に記載した方法と同様に決定した。その際、ラセミ体は、δ3.51ppmとδ3.55ppmに2本のMe基のピークを示したが、上記で合成した(S)体はδ3.55ppmのピーク強度が58、δ3.51ppmのピーク強度が4であった。したがって得られた(S)−2−メトキシカルボニル−3−(4−メトキシフェニル)プロピルアミンは、光学純度87%eeであると決定した。
【0104】
(実施例54〜58) β−アラニン誘導体の別の塩(VI)の合成
適当なコハク酸アミドエステル誘導体(III)を出発物質として用いた以外は、実施例61に記載の方法にしたがって、様々な置換基を有する、β−アラニン誘導体の別の塩(VI)を合成した。このようにして得られたβ−アラニン誘導体の別の塩の構造と、そのNMRデータを含む物性データを表15に示す。表中の置換基R、R、Rは一般式(VI)中で定義されている置換基に対応する。表中には記載していないが、表中の化合物のYは、いずれの場合も塩化物(イオン)を表す。
【0105】
【表15】
Figure 2004300036
【0106】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、光学活性医薬品、光学活性農薬などの製造中間体として有用なβ−アラニン化合物を高収率かつ安価に大量に製造することができ、工業的規模での製造に好適である。また、得られる光学活性β−アラニン化合物の光学純度も高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るβ−アラニン誘導体およびその塩の製造方法に含まれる各工程をまとめて示した概略反応式図である。

Claims (20)

  1. 第1工程として、一般式(I):
    Figure 2004300036
    (式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;*は不斉炭素原子を表す。)、
    で示されるコハク酸エステル誘導体またはその塩を、ハロゲン化剤と反応させて、一般式(II):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Xはハロゲン原子を表す。)、
    で示される酸ハロゲン化物を生成させる工程、
    第2工程として、得られた一般式(II)で示される酸ハロゲン化物をアンモニアと反応させて、一般式(III):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりである。)、
    で示されるコハク酸アミドエステル誘導体を生成させる工程、
    第3工程として、得られた一般式(III)で示されるコハク酸アミドエステル誘導体を脱カルボニル化し、一般式(IV):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Yはアニオン原子またはアニオン基を表す。)、
    で示されるβ−アラニン誘導体の塩を生成させる工程、
    第4工程として、得られた一般式(IV)で示されるβ−アラニン誘導体の塩を、塩基で処理して、一般式(V):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりである。)、
    で示されるβ−アラニン誘導体を生成させる工程、
    第5工程として、得られた一般式(V)で示されるβ−アラニン誘導体を、酸で処理して、一般式(VI):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Zはアニオン原子またはアニオン基を表すが、上記Yとは異なる)、
    で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩を生成させる工程、
    以上の第1工程〜第5工程を含むことを特徴とする、一般式(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩を製造する方法。
  2. 一般式(I):
    Figure 2004300036
    (式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;*は不斉炭素原子を表す。)、
    で示されるコハク酸エステル誘導体またはその塩を、ハロゲン化剤と反応させることを特徴とする、
    一般式(II):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Xはハロゲン原子を表す。)、
    で示される酸ハロゲン化物の製造方法。
  3. 上記ハロゲン化剤が二塩化オキサリルである請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 一般式(I)で示されるコハク酸エステル誘導体またはその塩がR体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 一般式(I)で示されるコハク酸エステル誘導体またはその塩がS体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 一般式(II):
    Figure 2004300036
    (式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;Xは、ハロゲン原子を表し;*は不斉炭素原子を表す。)
    で示される酸ハロゲン化物をアンモニアと反応させることを特徴とする、一般式(III):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりである。)、
    で示されるコハク酸アミドエステル誘導体の製造方法。
  7. 一般式(III):
    Figure 2004300036
    (式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;*は不斉炭素原子を表す。)
    で示されるコハク酸アミドエステル誘導体を脱カルボニル化することを特徴とする、
    一般式(IV):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Yはアニオン原子またはアニオン基を表す。)、
    で示されるβ−アラニン誘導体の塩の製造方法。
  8. 一般式(III):
    Figure 2004300036
    (式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;*は不斉炭素原子を表す。)
    で示されるコハク酸アミドエステル誘導体を脱カルボニル化し、
    一般式(IV):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Yはアニオン原子またはアニオン基を表す。)、
    で示されるβ−アラニン誘導体の塩を生成させる工程、
    前記工程で得られた一般式(IV)で示されるβ−アラニン誘導体の塩を、塩基で処理して、一般式(V):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりである。)、
    で示されるβ−アラニン誘導体を生成させる工程、
    前記工程で得られた一般式(V)で示されるβ−アラニン誘導体を、酸で処理して、一般式(VI):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Zはアニオン原子またはアニオン基を表すが、上記Yとは異なる)、
    で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩を生成させる工程、
    以上の工程を含むことを特徴とする、一般式(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩を製造する方法。
  9. 上記脱カルボニル化にヨードシルアリール化合物を用いる請求項7または8に記載の製造方法。
  10. 前記ヨードシルアリール化合物が(ヒドロキシ−p−トルエンスルホキシ)ヨードベンゼンである請求項9に記載の製造方法。
  11. 一般式(IV)で示されるβ−アラニン誘導体の塩がp−トルエンスルホン酸塩である請求項7〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
  12. 一般式(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩が塩酸塩である請求項7〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
  13. 一般式(III):
    Figure 2004300036
    (式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;*は不斉炭素原子を表す。)、
    で示されるコハク酸アミドエステル誘導体。
  14. R体である請求項13に記載のコハク酸アミドエステル誘導体。
  15. S体である請求項13に記載のコハク酸アミドエステル誘導体。
  16. 一般式(IV):
    Figure 2004300036
    (式中、RおよびRは、同一または異なり、互いに独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であり;Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいアラルキル基であるか、或いはRと共に環を形成しており;Yはアニオン原子またアニオン基を表し;*は不斉炭素原子を表す。)、
    で示されるβ−アラニン誘導体の塩、または
    一般式(VI):
    Figure 2004300036
    (式中、R、R、R、*は前記に定義したとおりであり、Zはアニオン原子またはアニオン基を表すが、上記Yとは異なる)、
    で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩から選択されるβ−アラニン化合物。
  17. Yがp−トルエンスルホン酸である、一般式(IV)で示されるβ−アラニン誘導体の塩が選択される請求項16に記載のβ−アラニン化合物。
  18. Zが塩素原子である、一般式(VI)で示されるβ−アラニン誘導体の別の塩が選択される請求項16に記載のβ−アラニン化合物。
  19. R体である請求項16〜18のいずれか1項に記載のβ−アラニン化合物。
  20. S体である請求項16〜18のいずれか1項に記載のβ−アラニン化合物。
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