JP2004296356A - 電池用セパレータ及び電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】電池製造時に短絡したり、ずれ(特に巻きずれ)を生じることなく、生産性良く電池を製造でき、しかも高出力を必要とする電池に対しても対応できる電池用セパレータ、及び電池を提供すること。
【解決手段】高密度ポリエチレンを融着成分とし、ポリプロピレンを芯成分とする、引張り強さが4.5cN/dtex以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維のみから構成され、前記複合高強度ポリプロピレン系繊維の融着のみによって固定された不織布からなり、前記複合高強度ポリプロピレン系繊維として、繊維径の点で相違する2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維を含み、かつ平均5%モジュラス強度が50〜130N/5cm幅の電池用セパレータである。本発明の電池は、前記電池用セパレータを備えている。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電池用セパレータ及び電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、電池の正極と負極とを分離して短絡を防止すると共に、電解液を保持して起電反応を円滑に行なうことができるように、正極と負極との間にセパレータが使用されている。
【0003】
近年、電子機器の小型軽量化に伴って、電池の占めるスペースも狭くなっているにもかかわらず、電池には従来と同程度以上の性能が必要とされるため、電池の高容量化が要求されている。そのためには、電極の活物質量を増やす必要があるため、必然的に前記セパレータの占める体積が小さくならざるを得ない。
【0004】
このような要求を満足するセパレータとして、本願出願人は「繊維径が4μm以下の極細繊維、ヤング率が50cN/dtex以上の高弾性繊維、及び融着繊維からなる、繊維総表面積の広いセパレータ」(特許文献1)、及び「繊維径が5μm以下の極細繊維、引張り強さが4.5cN/dtex以上の高強度ポリプロピレン系繊維、及び熱融着繊維からなり、繊維の融着のみによって形態を維持したセパレータ」(特許文献2)を提案した。また、これら出願においては、高弾性繊維又は高強度ポリプロピレン系繊維として、芯鞘構造を有し、鞘成分により融着できることも開示した。
【0005】
また、結晶性プロピレン系重合体を芯材とし、かつ前記結晶性プロピレン系重合体以外のオレフィン系重合体を鞘材とする溶融紡糸された複合未延伸糸を延伸処理してなるものであって、破断強度が5.74cN/dtexより高く、伸度が30%以下で、かつヤング率が43.1cN/dtex以上である延伸複合繊維を電池用セパレータの湿式不織布構成繊維として使用できることが公知(特許文献3)である。
【0006】
【特許文献1】
特開2002−124239号公報(特許請求の範囲、段落番号0013、実施例1〜実施例3など)
【特許文献2】
特開2002−231210号公報(特許請求の範囲、段落番号0022、実施例1〜4など)
【特許文献3】
特開2002−180330号公報(特許請求の範囲、段落番号0001など)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
これら特許文献に開示されている高弾性繊維又は高強度ポリプロピレン系繊維を含むセパレータは、極板群にセパレータを巻回するなど電池製造時に、極板によってセパレータが切断されたり、極板のバリがセパレータを突き抜けたりせず、短絡を効果的に防止できるため、生産性良く電池を製造できるものであった。
【0008】
そのため、このような高弾性繊維又は高強度ポリプロピレン系繊維をできるだけ多く含んでいるのが好ましい。そこで、本願発明者らは高弾性繊維又は高強度ポリプロピレン系繊維を100%使用してセパレータを製造した。このセパレータは確かに前記性能の優れるものであったが、電池製造時に、ずれ(例えば、巻きずれ)が発生してしまい、別の意味で電池の生産性を低下させるという新たな問題点が浮上した。
【0009】
また、前記のような高弾性繊維又は高強度ポリプロピレン系繊維を100%使用したセパレータを、高出力を必要とする電池(例えば、電動工具用電池)のセパレータとして適用しようとしたが、十分な出力を得ることができないという問題も発生した。
【0010】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたもので、電池製造時に短絡したり、ずれ(特に巻きずれ)を生じることなく、生産性良く電池を製造でき、しかも高出力を必要とする電池に対しても対応できる電池用セパレータ、及び電池を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討の結果、電池製造時にずれ(例えば巻きずれ)が発生するのは、繊維同士が強固に結合し過ぎていることによって、電池用セパレータに融通性がないことによることを見出した。また、高出力を必要とする電池に対して対応できないのは、過充電時に発生する酸素の透過性が悪いことに起因することを見出した。本発明はこのような知見に基くもので、本発明の請求項1にかかる発明は、「少なくとも繊維表面の一部に融着成分を備えた、引張り強さが4.5cN/dtex以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維のみから構成され、前記複合高強度ポリプロピレン系繊維が融着した不織布からなり、前記複合高強度ポリプロピレン系繊維として、繊維径の点で相違する2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維を含み、かつ平均5%モジュラス強度が50〜130N/5cm幅であることを特徴とする電池用セパレータ」である。このように引張り強さが4.5cN/dtex以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維のみから構成されていることによって、電池製造時(特に極板群に電池用セパレータを巻回した際)に、極板によって電池用セパレータが切断されたり、極板のバリが電池用セパレータを突き抜けたりせず、短絡を効果的に防止できるものである。また、平均5%モジュラス強度が50〜130N/cm幅であることによって、最低限の機械的強度は確保しつつ、ある程度の構造的柔軟性を備えていることによって、電池製造時にずれ(特に巻きずれ)が生じにくい電池用セパレータである。したがって、生産性良く電池を製造できる電池用セパレータである。また、複合高強度ポリプロピレンとして、繊維径の点で相違する2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維を含んでいることによって、適度な空隙を確保できるため、酸素の透過性に優れ、高出力を必要とする電池に対しても対応できる。
【0012】
本発明の請求項2にかかる発明は、「複合高強度ポリプロピレン系繊維として、繊維径が13μm以下の複合高強度ポリプロピレン系細繊維と、繊維径が13μmを超える複合高強度ポリプロピレン系太繊維を含んでいることを特徴とする、請求項1記載の電池用セパレータ」である。このような複合高強度ポリプロピレン系細繊維と複合高強度ポリプロピレン系太繊維を含んでいると、酸素の透過性に優れる空隙を確保できるため、高出力を必要とする電池用のセパレータとして好適である。
【0013】
本発明の請求項3にかかる発明は、「いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維の融着成分も、高密度ポリエチレンからなることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の電池用セパレータ」である。高密度ポリエチレンはある程度硬く、張りや腰のある電池用セパレータであることができるため、取り扱い性に優れる電池用セパレータであることができる。
【0014】
本発明の請求項4にかかる発明は、「電池用セパレータは複合高強度ポリプロピレン系繊維の融着のみによって固定されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の電池用セパレータ」である。融着のみによって固定されていると、地合いの優れる電池用セパレータであることができるため、短絡防止性に優れる電池用セパレータであることができる。
【0015】
本発明の請求項5にかかる発明は、「前記電池用セパレータの平均ニードル式耐貫通力が8.3N以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の電池用セパレータ」である。平均ニードル式耐貫通力が8.3N以上であると、電池製造時(例えば、極板群に電池用セパレータを巻回した際)に、極板によって電池用セパレータが切断されたり、極板のバリが電池用セパレータを突き抜けたりせず、短絡を効果的に防止できる。
【0016】
本発明の請求項6にかかる発明は、「前記電池用セパレータの空隙率が45%〜70%であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の電池用セパレータ」である。空隙率がこの範囲にあると、電解液の保持率が高く、電池の内部抵抗及び内圧を低く抑えることができ、充放電性能に優れる電池を製造できる電池用セパレータであることができる。
【0017】
本発明の請求項7にかかる発明は、「前記電池用セパレータの孔の最大孔径が50μm以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の電池用セパレータ」である。最大孔径がこの範囲にあると、短絡防止性に優れる電池用セパレータであることができる。
【0018】
本発明の請求項8にかかる発明は、「前記電池用セパレータの厚さ保持率が90%以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の電池用セパレータ」である。厚さ保持率がこの範囲にあると、電池使用時における電解液の保持性に優れているため、電池を長寿命化できる。
【0019】
本発明の請求項9にかかる発明は、「スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、放電処理、界面活性剤処理、或いは親水性樹脂付与処理の中から選ばれる親水化処理が施されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の電池用セパレータ」である。親水化処理が施されていると、電解液の保持性に優れているため、電池を長寿命化できる。
【0020】
本発明の請求項10にかかる発明は、「請求項1〜9のいずれかに記載の電池用セパレータを備えていることを特徴とする電池」である。そのため、電池製造時(例えば、極板群形成時)に短絡したり、ずれ(特に巻きずれ)を生じることなく、生産性良く製造できる電池である。また、出力の高い電池であることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」という)は、電池製造時(例えば、セパレータを極板群にセパレータを巻回した際)に、極板によってセパレータが切断されたり、極板のバリがセパレータを突き抜けたりせず、短絡を効果的に防止できるように、少なくとも繊維表面の一部に融着成分を備えた、引張り強さが4.5cN/dtex以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維のみから構成され、しかも適度な空隙を確保して酸素の透過性に優れるように、繊維径の点で相違する2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維を含んでいる。
【0022】
このいずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も、引張り強さが強ければ強いほど、短絡を効果的に防止できるため、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も引張り強さは5.0cN/dtex以上であるのが好ましく、5.5cN/dtex以上であるのが更に好ましく、6.0cN/dtex以上であるのが更に好ましく、6.2cN/dtex以上であるのが更に好ましい。いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も、引張り強さの上限は特に限定するものではないが、50cN/dtex程度が適当である。もちろん、種類の異なる複合高強度ポリプロピレン系繊維の引張り強さは同じでも異なっていても良い。本発明における引張り強さは、JIS L 1015(化学繊維ステープル試験法)によって測定される値を意味する。
【0023】
本発明のいずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も、ポリプロピレン系成分とこのポリプロピレン系成分とは異なる成分(「異成分」という)を含んでおり、少なくとも繊維表面の一部には融着成分を備えている。そのため、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も融着して不織布(セパレータ)を構成できるため、短絡を効果的に防止することが可能となった。
【0024】
いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維を構成するポリプロピレン系成分も、プロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレンとα−オレフィン(例えばエチレン、ブテン−1など)との共重合体であってもよい。より具体的には、結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、エチレン単位の含有量の少ないエチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン単独重合体からなるホモ部とエチレン単位の含有量の比較的多いエチレン−プロピレンランダム共重合体からなる共重合部とから構成されたプロピレンブロック共重合体、さらに前記プロピレンブロック共重合体における各ホモ部または共重合部が、さらにブテン−1などのα−オレフィンを共重合したものからなる結晶性プロピレン−エチレン−α−オレフィン共重合体などを挙げることができる。これらの中でも強度の点から、少なくとも1種類の複合高強度ポリプロピレン系繊維のポリプロピレン系成分はアイソタクチックポリプロピレン単独重合体からなるのが好ましく、特に、アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が90%以上、分子量分布の指標であるQ値(重量平均分子量/数平均分子量=Mw/Mn比)が6以下、メルトインデックスMI(温度230℃、荷重2.16kg)が3〜50g/10分であるのが好ましい。全ての複合高強度ポリプロピレン系繊維のポリプロピレン系成分がアイソタクチックポリプロピレン単独重合体からなり、前記アイソタクチックペンタッド分率(IPF)、Q値及びメルトインデックスを有するのが好ましい。このようなポリプロピレン系成分は、チーグラー・ナッタ型触媒、あるいはメタロセン系触媒などを用いて、プロピレンを単独重合又はプロピレンと他のα−オレフィンとを共重合させて得ることができる。もちろん、異なる種類の複合高強度ポリプロピレン系繊維は、同じポリプロピレン系成分から構成されていても良いし、異なるポリプロピレン系成分から構成されていても良い。
【0025】
他方、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も異成分として、例えば、高密度、中密度、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、具体的にはプロピレン−ブテン−1ランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1ランダム共重合体、あるいは軟質ポリプロピレンなどの非結晶性プロピレン系重合体、ポリ4−メチルペンテン−1などを挙げることができる。これらの中でも、高密度ポリエチレンはある程度硬く、張りや腰のある電池用セパレータとすることができ、取り扱い性に優れる電池用セパレータとすることができるため、少なくとも1種類の複合高強度ポリプロピレン系繊維は異成分として高密度ポリエチレンを含んでいるのが好ましく、全ての複合高強度ポリプロピレン系繊維が異成分として高密度ポリエチレンを含んでいるのがより好ましい。なお、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維においても、異成分を1種類又は2種類以上含んでいることができる。また、複合高強度ポリプロピレン系繊維によって、異成分の種類又は数が異なっていても良い。
【0026】
本発明のいずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維においても、前記異成分の中で最も融点の低い異成分が融着成分として作用する。この融着成分は融着する際にポリプロピレン系成分に影響を与えず、ポリプロピレン系成分によって繊維形態を維持できるように、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維においても、融着成分はポリプロピレン系成分よりも10℃以上融点が低いのが好ましく、20℃以上低いのがより好ましい。そのため、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維においても、融着成分はエチレン系重合体からなるのが好ましく、前述の通り、高密度ポリエチレンからなるのが好ましい。特に、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も、ホモポリプロピレンと高密度ポリエチレンとからなるのが好ましい。もちろん、複合高強度ポリプロピレンによって、融着成分の種類が異なっていても良い。
【0027】
本発明のいずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も融着成分を少なくとも繊維表面の一部に備えていれば良いが、融着成分の繊維表面を被覆している割合が高ければ高いほど、融着に関与できる融着成分が多く、機械的強度の優れるセパレータであることができるため、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も融着成分は繊維表面の50%以上を被覆している(両端部を除く)のが好ましく、70%以上を被覆している(両端部を除く)のがより好ましく、90%以上を被覆している(両端部を除く)のが更に好ましく、繊維表面全体を被覆している(両端部を除く)のが最も好ましい。そのため、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も横断面における各成分の配置状態は、芯鞘型、偏芯型、海島型であるのが好ましい。もちろん、複合高強度ポリプロピレン系繊維によって、融着成分の被覆割合又は配置状態が異なっていても良い。
【0028】
また、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維においても、ポリプロピレン系成分と融着成分との体積比率は特に限定するものではないが、(ポリプロピレン系成分):(融着成分)=15:85〜85:15であるのが好ましく、(ポリプロピレン系成分):(融着成分)=30:70〜70:30であるのがより好ましい。なお、複合高強度ポリプロピレン系繊維によって、ポリプロピレン系成分と融着成分との体積比率が異なっていても良い。
【0029】
本発明における「融点」は示差走査熱量計を用い、昇温温度10℃/分で、室温から昇温して得られる融解吸熱曲線の極大値を与える温度をいう。なお、極大値が2つ以上ある場合には、最も高温の極大値を融点とする。
【0030】
本発明のいずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も、圧力によっても変形しにくく、電解液の保持性に優れるセパレータであることができるように、ヤング率が30cN/dtex以上であるのが好ましく、35cN/dtex以上であるのがより好ましく、40cN/dtex以上であるのが更に好ましい。なお、ヤング率の上限は特に限定するものではないが、110cN/dtex以下であるのが好ましい。なお、複合高強度ポリプロピレン系繊維によって、ヤング率が異なっていても良い。この「ヤング率」はJIS L 1015:1999、8.11項に規定されている方法により測定した初期引張抵抗度から算出した見掛ヤング率の値をいう。なお、初期引張抵抗度は定速緊張形試験機によって測定した値をいう。
【0031】
本発明のいずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も、熱収縮率は10%以下であるのが好ましい。このような熱収縮率であると、複合高強度ポリプロピレン系繊維を融着させて不織布を形成する際に収縮しにくいため、繊維の均一分散性が維持されて、短絡防止性に優れているためである。より好ましい熱収縮率は9%以下である。なお、複合高強度ポリプロピレン系繊維によって、熱収縮率が異なっていても良い。この熱収縮率はJIS L 1013の熱収縮率(B法)に基づき、温度120℃のオーブン乾燥機を用い、30分間熱処理して測定した値をいう。
【0032】
本発明の複合高強度ポリプロピレン系繊維の繊維径は特に限定されるものではないが、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維の繊維径も4〜32μmであるのが好ましく、7〜22μmであるのがより好ましく、8〜17μmであるのが更に好ましい。繊維径が4μm未満の複合高強度ポリプロピレン系繊維を含んでいると、極板のバリが突き抜けたり、極板のエッジによって引き裂かれて短絡しやすい傾向があり、繊維径が32μmを越える複合高強度ポリプロピレン系繊維を含んでいると、複合高強度ポリプロピレン系繊維の分散状態がバラツキやすくなるためである。本発明における「繊維径」は、横断面形状が円形である場合にはその直径をいい、横断面形状が非円形である場合には、同じ面積を有する円に換算した時の円の直径をいう。
【0033】
本発明においては、複合高強度ポリプロピレン系繊維として、繊維径の点で相違する2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維を含んでいる。そのため、適度な空隙を確保し、酸素の透過性を向上させて、高出力を必要とする電池に対しても対応できるセパレータである。
【0034】
より具体的には、酸素の透過性に優れる空隙を確保しやすいように、繊維径が13μm以下の複合高強度ポリプロピレン系細繊維と、繊維径が13μmを超える複合高強度ポリプロピレン系太繊維を含んでいるのが好ましい。より好ましくは繊維径が12μm以下、更に好ましくは11μm以下(好ましくは4μm以上、より好ましくは7μm以上、更に好ましくは8μm以上)の複合高強度ポリプロピレン系細繊維と、繊維径が14μm以上、好ましくは14.5μm以上(好ましくは32μm以下、より好ましくは22μm以下、更に好ましくは17μm以下)の複合高強度ポリプロピレン系太繊維とを含んでいるのが好ましい。なお、複合高強度ポリプロピレン系細繊維として繊維径の異なる2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系細繊維、及び/又は複合高強度ポリプロピレン系太繊維として繊維径の異なる2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系太繊維を含んでいることができる。
【0035】
本発明においては、繊維径の点で相違する2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維を含んでいるが、その含有比率は酸素の透過性に優れ、電解液保持率を高くできる含有比率であれば良く、例えば、セパレータの平均孔径が10〜20μmの範囲内にあるような含有比率であれば良く、特に限定するものではない。しかしながら、好適である繊維径が13μm以下の複合高強度ポリプロピレン系細繊維と、繊維径が13μmを超える複合高強度ポリプロピレン系太繊維を含んでいる場合には、質量比で、(複合高強度ポリプロピレン系細繊維):(複合高強度ポリプロピレン系太繊維)=10〜80:90〜20とするのが好ましく、(複合高強度ポリプロピレン系細繊維):(複合高強度ポリプロピレン系太繊維)=20〜60:80〜40とするのがより好ましい。なお、前記質量比は複合高強度ポリプロピレン系細繊維又は複合高強度ポリプロピレン系太繊維として2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維からなる場合には、複合高強度ポリプロピレン系細繊維の総質量又は複合高強度ポリプロピレン系太繊維の総質量が前記質量比となるのが好ましい。
【0036】
本発明のいずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維の繊維長も特に限定されるものではないが、繊維長が短いほど繊維の自由度が高く、均一に分散することができ、より地合いの優れる不織布(セパレータ)であることができるため、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維の繊維長も0.1〜25mm(より好ましくは0.1〜20mm)であるのが好ましく、0.1〜25mm(より好ましくは0.1〜20mm)に切断されているのが好ましい。なお、繊維長はJIS L 1015(化学繊維ステープル試験法)B法(補正ステープルダイヤグラム法)により得られる長さをいう。
【0037】
このような本発明のいずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も、例えば特開2002−180330号公報に記載の方法により製造することができる。つまり、少なくとも繊維表面の一部に融着成分を備えた複合ポリプロピレン系未延伸糸を常法の溶融紡糸法により形成した後、100℃以上で、かつ融着成分の融点未満の温度を有する加圧飽和水蒸気中で、4〜15倍延伸することにより得ることができる。
【0038】
本発明のセパレータを構成する不織布は、電池製造時に、極板のバリがセパレータを突き抜けたり、極板のエッジにより引き裂かれないように、上述のような2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維のみから構成され、これら複合高強度ポリプロピレン系繊維のいずれの融着成分も融着して不織布形態をなしている。
【0039】
特に、本発明のセパレータを構成する不織布は、2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維の融着のみによって固定されているのが好ましい。このように2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維の融着のみによって固定されていると、地合いが優れており、短絡が生じにくく、しかも電解液が均一に分布することができ、内部抵抗の低いセパレータであることができるためである。例えば、融着以外に絡合によっても固定されていると、絡合させるための作用(例えば、水流などの流体流)によって、セパレータ(不織布)の表面から裏面への貫通孔が形成されてしまい、短絡が生じやすくなる傾向があるが、融着のみによって固定されていれば、融着する際に繊維の配置が乱れないため短絡が発生しにくくなる。なお、セパレータを構成する不織布を製造する際に、絡合処理を実施しなくても複合高強度ポリプロピレン系繊維同士が絡むことがある。例えば、乾式法又は湿式法により繊維ウエブを形成した場合に、繊維同士が絡合していることがある。しかしながら、この絡合は、前述の流体絡合のように、繊維の配置を乱す絡合ではないため、絡合していないものとみなす。このように、「複合高強度ポリプロピレン系繊維の融着のみ」とは、繊維ウエブを形成した後における複合高強度ポリプロピレン系繊維同士の固定が融着のみによってなされている状態をいう。
【0040】
本発明のセパレータは、平均5%モジュラス強度が50〜130N/5cm幅であることによって、最低限の機械的強度は確保しつつ、ある程度の構造的柔軟性を備えていることによって、電池製造時(特に極板群形成時)におけるずれ(特に巻きずれ)を生じにくくしている。このような平均5%モジュラス強度を有することによって、複合高強度ポリプロピレン系繊維のみを使用した場合の弊害をなくし、電池の生産性を向上させた。
【0041】
本発明のセパレータの平均5%モジュラス強度は、最低限の機械的強度を確保できるように、50N/5cm幅以上である必要があり、65N/5cm幅以上であるのがより好ましく、80N/5cm幅以上であるのが更に好ましい。また、ある程度の構造的柔軟性を備えていることによって、電池製造時にずれを生じにくいように、130N/5cm幅以下である必要があり、120N/5cm幅以下であるのがより好ましく、110N/5cm幅以下であるのが更に好ましい。
【0042】
本発明における「平均5%モジュラス強度」は、5cm幅のセパレータ試料を引張強伸度試験機((株)オリエンテック製)のチャック間(10cm)に挟み、引張速度300mm/min.で0.5cm(5%)引張った時の強度(5%モジュラス強度)を測定する。この5%モジュラス強度の測定を、任意に選んだセパレータ試料10点に関して行い、この10点の算術平均値を平均5%モジュラス強度とする。なお、セパレータ試料としては、セパレータの長手方向に20cm、この方向と直交する方向(幅方向)に5cmの長方形状に採取する。
【0043】
本発明のセパレータは、電池製造時(特に極板群に電池用セパレータを巻回した際)に、極板によって電池用セパレータが切断されたり、極板のバリが電池用セパレータを突き抜けたりせず、短絡を効果的に防止できるように、平均ニードル式耐貫通力が8.3N以上であるのが好ましい。この平均ニードル式耐貫通力は高ければ高いほど前記効果に優れているため、8.8N以上であるのがより好ましく、9.8N以上であるのが更に好ましい。本発明の「平均ニードル式耐貫通力」は、次の測定手順によって得られる値をいう。円筒状貫通孔(内径=11mm)を有する支持台の円筒状貫通孔を覆うようにセパレータ試料を1枚載置し、更にセパレータ試料上に、円筒状貫通孔(内径=11mm)を有する固定材を、固定材の中心が前記支持台の円筒状貫通孔の中心と一致するように載置してセパレータ試料を固定した後、このセパレータ試料に対して、ハンディー圧縮試験機(カトーテック製、KES−G5)に取り付けたニードル(先端部における曲率半径=0.5mm、直径=1mm、治具からの突出長さ=2cm)を、0.01cm/sec.の速度で垂直に突き刺し、ニードルがセパレータ試料を突き抜けるのに要する力を測定し、この力をニードル式耐貫通力とする。このニードル式耐貫通力の測定を、任意に選んだセパレータ試料10点に関して行い、この10点の算術平均値を平均ニードル式耐貫通力とする。
【0044】
本発明のセパレータは電解液の保持率が高く、電池の内部抵抗及び内圧を低く抑えることができるように、また酸素の透過性にも優れているように、セパレータの空隙率は45〜70%であるのが好ましく、47〜65%であるのがより好ましく、50〜63%であるのが更に好ましい。この「空隙率(P)」は次の式から得られる値をいう。
空隙率(P)={1−W/(T×d)}×100
ここで、Wはセパレータの目付(g/m)を意味し、Tはセパレータの厚さ(μm)を意味し、dはセパレータを構成する樹脂(例えば、繊維)の密度(g/cm)を意味する。なお、セパレータの目付及び厚さは後述の方法により得られる値をいう。また、2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維を含み、個々の複合高強度ポリプロピレン系繊維は2種類以上の樹脂からなるため、構成樹脂の密度は各構成樹脂の質量平均値をいう。例えば、密度dの樹脂Aがa(mass%)と、密度dの樹脂Bがb(mass%)存在している場合、構成樹脂の密度(d)は次の式により算出する。
密度(d)=d×a/100+d×b/100
【0045】
本発明のセパレータは、地合いが均一であり、また、極板へ強く圧迫されても脱落した電池活物質粉がセパレータの内部空隙へ侵入しにくく、短絡しにくいように、孔の最大孔径が50μm以下であるのが好ましく、48μm以下であるのがより好ましく、45μm以下であるのが更に好ましい。この「孔の最大孔径」は、ポロメータ(Polometer,コールター(Coulter)社製)を用いてバブルポイント法により測定される値をいう。
【0046】
本発明のセパレータは、圧力によって潰れ、保持していた電解液を遊離させて液枯れを発生させ、結果として電池寿命を短くしないように、圧力によっても潰れにくい、圧力に対して抗することのできるものであるのが好ましい。このような状態は「厚さ保持率」によって表現することができ、厚さ保持率が90%以上であるのが好ましく、92%以上であるのがより好ましく、93%以上であるのが更に好ましい。なお、上限は100%である。この「厚さ保持率(R:%)」は、マイクロメーターにより1000g荷重時の厚さ(T1000)の、500g荷重時の厚さ(T500)に対する百分率をいう。つまり、次の式により得られる値をいう。
R=(T1000/T500)×100
【0047】
本発明のセパレータは、電解液の保持性を付与又は向上するように、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、放電処理、界面活性剤処理、或いは親水性樹脂付与処理の中から選ばれる親水化処理が施されているのが好ましい。これらの中でも、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、或いは放電処理は、親水性の低下が少なく、長期にわたって電解液を保持できるため好適である。
【0048】
本発明のセパレータは、セパレータの厚さ方向における電解液の偏在が生じないように、一層構造からなるのが好ましい。この「一層構造」とは、同一の繊維配合から構成されていることを意味する。
【0049】
本発明のセパレータの目付は、電池の高容量化に寄与できるように、100g/m以下であるのが好ましく、85g/m以下であるのがより好ましく、70g/m以下であるのが更に好ましい。他方、セパレータの基本性能である絶縁性を維持できるように、10g/m以上であるのが好ましく、20g/m以上であるのがより好ましく、30g/m以上であるのが更に好ましい。なお、「目付」はJIS P 8124(紙及び板紙−坪量測定法)に規定されている方法に基づいて得られる坪量を意味する。
【0050】
また、本発明のセパレータの厚さは、電池の高容量化に対応できるように、0.25mm以下であるのが好ましく、0.21mm以下であるのがより好ましく、0.18mm以下であるのが更に好ましい。なお、厚さの下限は、絶縁性と電解液の保持性を満足する限り特に限定されないが、0.02mm以上であるのが好ましく、0.05mm以上であるのがより好ましく、0.08mm以上であるのが更に好ましい。この「厚さ」は、JIS B 7502:1994に規定されている外側マイクロメーター(0〜25mm)を用いて、JIS C2111
5.1(1)の測定法で、無作為に選んで測定した10点の平均値をいう。
【0051】
本発明のセパレータは地合いが優れており、短絡が生じにくく、電解液を均一に保持できるように、地合指数が0.15以下であるのが好ましく、0.10以下であるのがより好ましい。この地合指数は次に記載する測定方法から明らかなように、この値が小さければ小さい程、地合いが優れていることを意味する。この「地合指数」は、特開2001−50902号公報に記載されている方法、すなわち、次のようにして得られる値をいう。
(1)光源から被測定物(セパレータ試料)に対して光を照射し、照射された光のうち、被測定物の所定領域において反射された反射光を受光素子によって受光して輝度情報を取得する。
(2)被測定物の所定領域を画像サイズ3mm角、6mm角、12mm角、及び24mm角に等分割して、4つの分割パターンを取得する。
(3)得られた各分割パターン毎に等分割された各区画の輝度値を輝度情報に基づいて算出する。
(4)各区画の輝度値に基づいて、各分割パターン毎の輝度平均(X)を算出する。
(5)各分割パターン毎の標準偏差(σ)を求める。
(6)各分割パターン毎の変動係数(CV)を次の式により算出する。
変動係数(CV)=(σ/X)×100
ここで、σは各分割パターン毎の標準偏差を示し、Xは各分割パターン毎の輝度平均を示す。
(7)各画像サイズの対数をX座標、当該画像サイズに対応する変動係数をY座標とした結果得られる座標群を、最小二乗法により一次直線に回帰させ、その傾きを算出し、この傾きの絶対値を地合指数とする。
【0052】
本発明のセパレータは、例えば次のようにして製造することができる。
【0053】
まず、前述のような繊維径の点で異なる2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維を用意する。
【0054】
次いで、2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維のみ(100%)を用いて繊維ウエブを形成する。この繊維ウエブの形成方法は特に限定するものではないが、例えば、乾式法(例えば、カード法、エアレイ法など)や湿式法により形成することができる。これらの中でも複合高強度ポリプロピレン系繊維が均一に分散して電解液を均一に保持しやすい不織布(結果としてセパレータ)を製造しやすい湿式法により形成するのが好ましい。この湿式法としては、従来公知の方法、例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式により形成できる。なお、2層以上を抄き合わせる場合には、一層構造のセパレータを製造できるように、同一の繊維配合からなる繊維ウエブを抄き合わせるのが好ましい。
【0055】
次いで、この繊維ウエブを、平均5%モジュラス強度が50〜130N/5cm幅となるように、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維の融着成分も融着させて、本発明のセパレータを構成する不織布を得ることができる。なお、融着成分のみを融着させるのが好ましい。また、繊維の配置が乱れて地合いを損なわないように、絡合等を実施することなく、融着成分の融着処理のみを実施するのが好ましい。
【0056】
なお、繊維ウエブにおける複合高強度ポリプロピレン系繊維の融着温度を、融着成分の融点よりも5℃低い温度から融着成分の融点よりも20℃高い温度の範囲内とし、融着処理時間を3秒から20秒の範囲内とし、繊維ウエブに十分な量の熱風を通過させて無圧下で熱処理をすることによって、平均5%モジュラス強度を50〜130N/5cm幅としやすい。特に、平均5%モジュラス強度を80〜110N/5cm幅とするために、融着成分の融点よりも3℃以上高い温度から融着成分の融点よりも20℃高い温度の範囲内とし、融着処理時間を3秒から20秒の範囲内とし、繊維ウエブをコンベア等の支持体の下方から吸引して支持体と密着させた状態で、十分な量の熱風を通過させて無圧下で熱処理をするのが好ましい。なお、複合高強度ポリプロピレン系繊維の融着成分の融着温度が異なる場合には、最も高い融点をもつ融着成分を前記記載の融着成分とし、前記条件下で融着処理を実施するのが好ましい。
【0057】
本発明のセパレータが親水化処理を施されている場合には、続いて親水化処理を実施する。
【0058】
スルホン化処理としては、特に限定するものではないが、例えば、発煙硫酸、硫酸、三酸化イオウ、クロロ硫酸、又は塩化スルフリルからなる溶液中に前述のようにして製造した不織布を浸漬してスルホン酸基を導入する方法や、一酸化硫黄ガス、二酸化硫黄ガス或いは三酸化硫黄ガスなどの存在下で放電を作用させて不織布にスルホン酸基を導入する方法等がある。
【0059】
フッ素ガス処理についても、特に限定するものではないが、例えば、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガスなど)で希釈したフッ素ガスと、酸素ガス、二酸化炭素ガス、及び二酸化硫黄ガスなどの中から選んだ少なくとも1種類のガスとの混合ガスに、不織布をさらすことにより不織布の繊維表面を親水化することができる。なお、不織布に二酸化硫黄ガスをあらかじめ付着させた後に、フッ素ガスを接触させると、より効率的に恒久的な親水性を付与することができる。
【0060】
ビニルモノマーのグラフト重合としては、ビニルモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、或いはスチレンを使用することができる。なお、スチレンをグラフト重合した場合には、電解液との親和性を付与するために、スルホン化するのが好ましい。これらの中でも、アクリル酸は電解液との親和性に優れているため好適に使用できる。これらビニルモノマーの重合方法としては、例えば、ビニルモノマーと重合開始剤を含む溶液中に不織布を浸漬して加熱する方法、不織布にビニルモノマーを塗布した後に放射線を照射する方法、不織布に放射線を照射した後にビニルモノマーと接触させる方法、増感剤を含むビニルモノマー溶液を不織布に含浸した後に紫外線を照射する方法などがある。なお、ビニルモノマー溶液と不織布とを接触させる前に、紫外線照射、コロナ放電、又はプラズマ放電などにより、不織布表面を改質処理すると、ビニルモノマー溶液との親和性が高くなるため、効率的にグラフト重合を行うことができる。
【0061】
界面活性剤処理としては、例えば、アニオン系界面活性剤(例えば、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、アルキルスルホン酸塩、もしくはスルホコハク酸エステル塩など)、又はノニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、もしくはポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルなど)の溶液中に不織布を浸漬したり、この溶液を不織布に塗布又は散布して付着させることができる。
【0062】
放電処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、グロー放電処理、沿面放電処理又は電子線処理などがある。これら放電処理の中でも、空気中の大気圧下で、それぞれが誘電体を担持する一対の電極間に、これら両方の誘電体と接触するように不織布を配置し、これら両電極間に交流電圧を印加し、不織布内部空隙で放電を発生させる方法を利用すると、不織布の外側だけではなく、不織布の内部を構成する繊維表面も処理することができる。したがって、こうした方法で処理した不織布をセパレータとして用いると、その内部における電解液の保持性に優れている。
【0063】
親水性樹脂付与処理としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、架橋可能なポリビニルアルコール、又はポリアクリル酸などの親水性樹脂を付着させることができる。これらの親水性樹脂は適当な溶媒に溶解又は分散させた後、この溶媒中に不織布を浸漬したり、この溶媒を不織布に塗布又は散布し、乾燥して付着させることができる。なお、親水性樹脂の付着量は、通気性を損なわないように、セパレータ全体の0.3〜5mass%であるのが好ましい。この架橋可能なポリビニルアルコールとしては、例えば、水酸基の一部を感光性基で置換したポリビニルアルコールがあり、より具体的には、スチリルピリジニウム系感光性基、スチリルキノリニウム系感光性基、又はスチリルベンゾチアゾリウム系感光性基で置換したポリビニルアルコールがある。この架橋可能なポリビニルアルコールも他の親水性樹脂と同様にして不織布に付着させた後、光照射によって架橋させることができる。このような水酸基の一部を感光性基で置換したポリビニルアルコールは耐アルカリ性に優れ、しかもイオンとキレートを形成可能な水酸基を多く含んでおり、放電時及び/又は充電時に、極板上に樹枝状の金属が析出する前のイオンとキレートを形成し、電極間の短絡を生じにくいので好適に使用することができる。
【0064】
なお、セパレータの厚さが所望厚さでない場合には、適宜厚さを調整するのが好ましい。例えば、一対のロール間を通過させるなどの方法により、厚さを調整するのが好ましい。この厚さ調整は、1回である必要はなく、何回でも実施することができる。特に本発明の複合高強度ポリプロピレン系繊維は剛性が高く、厚さが不均一になりやすいため、2回以上実施するのが好ましい。例えば、融着処理後親水化処理前に1回、親水化処理後に1回実施することができる。
【0065】
平均ニードル式耐貫通力が8.3N以上のセパレータは、目付を10g/m以上(好ましくは20g/m以上、より好ましくは30g/m以上)とし、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維の繊維径も4〜32μm(好ましくは7〜22μm、より好ましは8〜17μm)のものを使用し、2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維の配合量を調整することによって製造しやすい。特に、平均ニードル式耐貫通力を9.8N以上のセパレータは、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も上記範囲内の繊維径のものを使用するとともに、いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維も引張り強さが6.2cN/dtex以上のものを使用し、目付を45〜65g/mとすると製造しやすい。
【0066】
空隙率が45〜70%であるセパレータは、目付を低くしたり、厚さを厚くするなどの手段を単独で、又は組み合わせて製造することができる。
【0067】
最大孔径が50μm以下であるセパレータや、地合指数が0.15以下であるセパレータは、いずれもフィブリル化していない複合高強度ポリプロピレン系繊維を使用したり、いずれも繊維長が1〜20mm程度の短い複合高強度ポリプロピレン系繊維を使用したり、湿式法により繊維ウエブを形成したり、いずれも繊維径が32μm以下の複合高強度ポリプロピレン系繊維を使用したり、いずれも熱収縮率が10%以下の複合高強度ポリプロピレン系繊維を使用するなどの手段を単独で、又は組み合わせて製造することができる。
【0068】
厚さ保持率が90%以上であるセパレータは、いずれもヤング率が30cN/dtex以上の複合高強度ポロプロピレン系繊維を使用したり、いずれも繊維径が4μm以上の複合高強度ポロプロピレン系繊維を使用するなどの手段を単独で、又は組み合わせて製造することができる。
【0069】
本発明の電池は、上述のようなセパレータを備えていること以外は、従来の電池と全く同様であることができる。
【0070】
例えば、円筒型ニッケル−水素電池は、ニッケル正極板と水素吸蔵合金負極板とを、前述のようなセパレータを介して渦巻き状に巻回した極板群を金属のケースに挿入した構造を有する。前記ニッケル正極板としては、例えば、スポンジ状ニッケル多孔体に水酸化ニッケル固溶体粉末からなる活物質を充填したものを使用することができ、水素吸蔵合金負極板としては、例えば、ニッケルメッキ穿孔鋼板、発泡ニッケル、或いはニッケルネットに、AB系(希土類系)合金、AB/AB系(Ti/Zr系)合金、或いはAB(Laves相)系合金を充填したものを使用することができる。なお、電解液として、例えば、水酸化カリウム/水酸化リチウムの二成分系のもの、或いは水酸化カリウム/水酸化ナトリウム/水酸化リチウムの三成分系のものを使用することができる。また、前記ケースは安全弁を備えた封口板により、絶縁ガスケットを介して封口されている。更に、正極集電体や絶縁板を備えており、必要であれば負極集電体を備えている。
【0071】
なお、本発明の電池は円筒形である必要はなく、角型、ボタン型などであっても良い。角型の場合には、正極板と負極板との間にセパレータが配置された積層構造を有する。また、密閉型でも開放型でもよい。
【0072】
本発明の電池は、例えば、アルカリマンガン電池、水銀電池、酸化銀電池、又は空気電池などの一次電池、或いはニッケル−カドミウム電池、銀−亜鉛電池、銀−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、ニッケル−水素電池又は鉛蓄電池などの二次電池であることができ、特にニッケル−カドミウム電池、ニッケル−水素電池であるのが好ましい。
【0073】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、電池製造時の不良率は、次の方法により算出した。つまり、電池の集電体として、水酸化ニッケルを発泡ニッケル支持体に充填した正極(33mm幅、182mm長)と、ペースト式水素吸蔵合金負極(メッシュメタル系合金NmNi型、33mm幅、247mm長)とを用意した。次いで、33mm幅、410mm長に裁断したセパレータを、正極と負極との間に挟んだ後に渦巻状に巻回して、SC型対応の極板群を作製した。この時に短絡してしまい、電池を製造することができなかった百分率を電池製造時の不良率とした。また、通気性はJIS L 1096(6.27.1 A法(フラジール法))に規定されている方法により測定して得られた値である。なお、通気性が16cm/s以上あれば、酸素の透過性に優れ、高出力を必要とする電池に対しても対応できることがわかっている。
【0074】
【実施例】
(実施例1)
ホモポリプロピレン(Q値:3.2、MI:14g/10分、融点:168℃)を芯成分とし、高密度ポリエチレン(Q値:6.7、MI:20g/10分、融点:135℃)を鞘成分とする、引張り強さが6.5cN/dtexの複合高強度ポリプロピレン系細繊維(両端部を除いて高密度ポリエチレンが繊維表面を被覆、芯成分と鞘成分の体積比率=50:50、ヤング率:45cN/dtex、熱収縮率:7%、繊度:0.8dtex、繊維径:10μm、切断繊維長:5mm)を用意した。
【0075】
ホモポリプロピレン(Q値:3.2、MI:14g/10分、融点:168℃)を芯成分とし、高密度ポリエチレン(Q値:6.7、MI:20g/10分、融点:135℃)を鞘成分とする、引張り強さが6.5cN/dtexの複合高強度ポリプロピレン系太繊維(両端部を除いて高密度ポリエチレンが繊維表面を被覆、芯成分と鞘成分の体積比率=50:50、ヤング率:45cN/dtex、熱収縮率:7%、繊度:1.7dtex、繊維径:15μm、切断繊維長:5mm)を用意した。
【0076】
次いで、前記複合高強度ポリプロピレン系細繊維を20mass%と前記複合高強度ポリプロピレン系太繊維80mass%とをスラリー中に分散させ、湿式法(水平長網方式)により繊維ウエブを形成した。次いで、この繊維ウエブをコンベアで支持し、コンベアの下方から吸引して繊維ウエブをコンベアと密着させて搬送しながら、繊維ウエブに対して温度137℃の熱風を10秒間吹きつけ、十分な量の熱風を通過させる無圧下での熱処理を実施し、繊維ウエブの乾燥と同時に複合高強度ポリプロピレン系細繊維及び複合高強度ポリプロピレン系太繊維の高密度ポリエチレン成分のみを融着させて、融着繊維ウエブを形成した。
【0077】
次いで、前記融着繊維ウエブを温度60℃の発煙硫酸溶液(15%SO溶液)中に2分間浸漬した後、十分に水洗し、乾燥によりスルホン化処理を実施して、目付が65g/mで、厚さが0.15mmの一層構造であるセパレータを製造した。このセパレータの物性は次の通りであった。
【0078】
平均5%モジュラス強度:95N/5cm幅
平均ニードル式耐貫通力:10.8N
空隙率:53%
孔の最大孔径:40μm
厚さ保持率:94%
地合指数:0.13
電池製造時の不良率:0.004%
通気性:22cm/s
【0079】
(実施例2)
実施例1と全く同様にして繊維ウエブを形成した。次いで、この繊維ウエブをコンベアで支持し、コンベアの下方から吸引して繊維ウエブをコンベアと密着させて搬送しながら、繊維ウエブに対して温度138℃の熱風を10秒間吹きつけ、十分な量の熱風を通過させる無圧下での熱処理を実施し、繊維ウエブの乾燥と同時に複合高強度ポリプロピレン系細繊維及び複合高強度ポリプロピレン系太繊維の高密度ポリエチレン成分のみを融着させて、融着繊維ウエブを形成した。
【0080】
次いで、前記融着繊維ウエブを実施例1と同様にスルホン化処理を実施して、目付が65g/mで、厚さが0.15mmの一層構造であるセパレータを製造した。このセパレータの物性は次の通りであった。
【0081】
平均5%モジュラス強度:110N/5cm幅
平均ニードル式耐貫通力:11.2N
空隙率:53%
孔の最大孔径:40μm
厚さ保持率:95%
地合指数:0.14
電池製造時の不良率:0.003%
通気性:23cm/s
【0082】
(実施例3)
実施例1と全く同様にして繊維ウエブを形成した。次いで、この繊維ウエブをコンベアで支持し、コンベアの下方から吸引して繊維ウエブをコンベアと密着させて搬送しながら、繊維ウエブに対して温度133℃の熱風を8秒間吹きつけ、十分な量の熱風を通過させる無圧下での熱処理を実施し、繊維ウエブの乾燥と同時に複合高強度ポリプロピレン系細繊維及び複合高強度ポリプロピレン系太繊維の高密度ポリエチレン成分のみを融着させて、融着繊維ウエブを形成した。
【0083】
次いで、前記融着繊維ウエブを実施例1と同様にスルホン化処理を実施して、目付が65g/mで、厚さが0.15mmの一層構造であるセパレータを製造した。このセパレータの物性は次の通りであった。
【0084】
平均5%モジュラス強度:70N/5cm幅
平均ニードル式耐貫通力:8.8N
空隙率:53%
孔の最大孔径:40μm
厚さ保持率:92%
地合指数:0.12
電池製造時の不良率:0.007%
通気性:21cm/s
【0085】
(比較例1)
実施例1と全く同様にして繊維ウエブを形成した。次いで、この繊維ウエブをコンベアで支持し、コンベアの下方から吸引して繊維ウエブをコンベアと密着させて搬送しながら、繊維ウエブに対して温度128℃の熱風を7秒間吹きつけ、熱風を通過させる無圧下での熱処理を実施し、繊維ウエブの乾燥と同時に複合高強度ポリプロピレン系細繊維及び複合高強度ポリプロピレン系太繊維の高密度ポリエチレン成分のみを融着させて、融着繊維ウエブを形成した。
【0086】
次いで、前記融着繊維ウエブを実施例1と同様にスルホン化処理を実施して、目付が65g/mで、厚さが0.15mmの一層構造であるセパレータを製造した。このセパレータの物性は次の通りであった。
【0087】
平均5%モジュラス強度:40N/5cm幅
平均ニードル式耐貫通力:8.0N
空隙率:53%
孔の最大孔径:40μm
厚さ保持率:92%
地合指数:0.13
電池製造時の不良率:0.015%
通気性:23cm/s
【0088】
(比較例2)
実施例1と全く同様にして繊維ウエブを形成した。次いで、この繊維ウエブを温度130℃で乾燥した。次いで、この乾燥繊維ウエブを、温度138℃に加熱された熱ロール間を通過させる熱処理を実施し、複合高強度ポリプロピレン系細繊維及び複合高強度ポリプロピレン系太繊維の高密度ポリエチレン成分のみを融着させて、融着繊維ウエブを形成した。
【0089】
次いで、前記融着繊維ウエブを実施例1と同様にスルホン化処理を実施して、目付が65g/mで、厚さが0.15mmの一層構造であるセパレータを製造した。このセパレータの物性は次の通りであった。
【0090】
平均5%モジュラス強度:135N/5cm幅
平均ニードル式耐貫通力:8.8N
空隙率:53%
孔の最大孔径:40μm
厚さ保持率:93%
地合指数:0.13
電池製造時の不良率:0.008%(特に、巻きずれにより極板の幅方向端部において短絡)
通気性:20cm/s
【0091】
(比較例3)
実施例1と同じ複合高強度ポリプロピレン系細繊維のみを用いて繊維ウエブを形成した。次いで、実施例1と全く同様に融着繊維ウエブを形成し、スルホン化処理を実施して、目付が65g/mで、厚さが0.15mmの一層構造であるセパレータを製造した。このセパレータの物性は次の通りであった。
【0092】
平均5%モジュラス強度:100N/5cm幅
平均ニードル式耐貫通力:11.5N
空隙率:53%
孔の最大孔径:38μm
厚さ保持率:90%
地合指数:0.11
電池製造時の不良率:0.002%
通気性:15cm/s
【0093】
【発明の効果】
本発明の電池用セパレータは、電池製造時に、極板によって電池用セパレータが切断されたり、極板のバリが電池用セパレータを突き抜けたりせず、短絡を効果的に防止できるものである。また、電池製造時にずれが生じにくいため、生産性良く電池を製造できる電池用セパレータである。更に、高出力を必要とする電池に対しても対応できる電池用セパレータである。
【0094】
本発明の電池は、電池製造時に短絡したり、ずれを生じることなく、生産性良く製造できる。出力の高い電池であることができる。

Claims (10)

  1. 少なくとも繊維表面の一部に融着成分を備えた、引張り強さが4.5cN/dtex以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維のみから構成され、前記複合高強度ポリプロピレン系繊維が融着した不織布からなり、前記複合高強度ポリプロピレン系繊維として、繊維径の点で相違する2種類以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維を含み、かつ平均5%モジュラス強度が50〜130N/5cm幅であることを特徴とする電池用セパレータ。
  2. 複合高強度ポリプロピレン系繊維として、繊維径が13μm以下の複合高強度ポリプロピレン系細繊維と、繊維径が13μmを超える複合高強度ポリプロピレン系太繊維を含んでいることを特徴とする、請求項1記載の電池用セパレータ。
  3. いずれの複合高強度ポリプロピレン系繊維の融着成分も、高密度ポリエチレンからなることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の電池用セパレータ。
  4. 電池用セパレータは複合高強度ポリプロピレン系繊維の融着のみによって固定されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の電池用セパレータ。
  5. 前記電池用セパレータの平均ニードル式耐貫通力が8.3N以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の電池用セパレータ。
  6. 前記電池用セパレータの空隙率が45%〜70%であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の電池用セパレータ。
  7. 前記電池用セパレータの孔の最大孔径が50μm以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の電池用セパレータ。
  8. 前記電池用セパレータの厚さ保持率が90%以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の電池用セパレータ。
  9. スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、放電処理、界面活性剤処理、或いは親水性樹脂付与処理の中から選ばれる親水化処理が施されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の電池用セパレータ。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の電池用セパレータを備えていることを特徴とする電池。
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