JP2004288714A - Ptc素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】85℃トリップタイプのPTC素子における定常使用範囲の上限である温度60℃において、室温域と殆ど変わることのない導通性を有し、使用装置への電流供給が十分に可能で、また温度85℃付近におけるトリップを十分に発現することのできるPTC素子を提供すること。
【解決手段】本発明に係る高分子組成物のシート体の表裏に金属箔が貼着されてなるPTC素子は、温度20℃における該素子の抵抗値R20[Ω]、温度60℃における該素子の抵抗値R60[Ω]、温度85℃における該素子の抵抗値R85[Ω]、及び温度130℃における該素子の抵抗値R130[Ω]とすると、これらの抵抗値が互いに特定の関係を満たすことを特徴とする。
【数1】
【選択図】 図1
【解決手段】本発明に係る高分子組成物のシート体の表裏に金属箔が貼着されてなるPTC素子は、温度20℃における該素子の抵抗値R20[Ω]、温度60℃における該素子の抵抗値R60[Ω]、温度85℃における該素子の抵抗値R85[Ω]、及び温度130℃における該素子の抵抗値R130[Ω]とすると、これらの抵抗値が互いに特定の関係を満たすことを特徴とする。
【数1】
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、温度に依存して電気抵抗が増加する特性( 以下、PTC特性、という。PTCはポジテイブテンプレチャーコエフィシェント(Positive Temperature Coefficient)の略である。)を有するPTC素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
PTC素子は、セラミック系と高分子系に大別される。後者の高分子系材料を用いてなる素子は、高分子材料にカーボンなどの導電性微粒子が分散してなるPTC組成物のシート状物の表裏に、ニッケルなどの金属電極が貼られているといった形態をしている。PTC組成物は、正常な電流が供給されている時には低抵抗であり、突発的な過電流の発生時には高抵抗になって導通を遮断することで回路を保護する働きをする。また、長時間の使用時に回路などから発生する熱が電池を暖め、これが原因で電池が破裂するといった事故が起こりうるが、電池が耐久する限界の温度にまで達する以前に、導通を遮断して電池を保護する働きをする。
そして、このようなPTC素子は、小型化及び低抵抗化が可能で、耐電圧特性、復帰性(繰り返し性)に優れた、特に、携帯電話やパソコン等の各種電子情報機器等用の電池を過熱及び/又は異常電流(過電流、事故電流)の流入、発生等による誤動作、故障、破壊、爆発等から有効に保護するためのリセッタブルヒューズ用として好適に使用されている(特許文献1等を参照)。
【0003】
PTC素子の遮断機能は、過負荷による発熱もしくは周囲の温度上昇によって、PTC組成物を構成する高分子の軟化点もしくは融点に達すると、PTC組成物の体積が急激に膨張し、該組成物を介して対になっている電極間の距離が大きくなる結果により、急激に抵抗値を上昇させることにある。一般に、この急激な抵抗値の上昇を、トリップと呼称している。そして、トリップの挙動は、1.トリップを開始する温度、2.抵抗上昇の勾配、3.最終的に到達する抵抗値( 以下、最大0抵抗値)が特性に関する要素となっていて、保護対象や保護方針によって、これらの特性要素の設定がなされている。
【0004】
高分子系PTC素子におけるPTC組成物は、一般に、DBP吸油量が120[cm3/100g]以下のカーボン粉末を導電性微粒子として使用している。このカーボン粉末は30〜40[体積%]の範囲で配合されている。そして、高分子系PTC素子は、温度120℃付近でトリップを開始するタイプ(以下、120℃トリップタイプ)と温度85℃付近でトリップを開始するタイプ(以下、85℃トリップタイプ)がある。筒型リチウムイオン電池においては、過電流保護の目的で前者の温度120℃でトリップを開始するタイプが使用され、特に角型リチウムイオン電池は、電池セルの温度が90℃以上になると暴発の危険性があるので、トリップを開始する温度が80〜90℃であるPTC素子が使用されている。
【0005】
図1に示すように、従来の市販品における85℃トリップタイプにおける周囲温度−素子抵抗の挙動を示したが、室温域から80℃付近までの抵抗上昇は、緩慢な比例関数的増加をするが、85℃を超えたあたりからトリップして指数関数的に抵抗上昇を呈し、130℃では1000[Ω]といった絶縁域にまで到達する。なお、厳密に換言すると、比例関数的抵抗上昇から指数関数的な抵抗上昇に移行する変曲点がトリップ開始温度であるが、この分野の技術的な慣例としては、室温における素子抵抗値の3倍になる温度をトリップ開始温度として扱っている。
【0006】
高分子系PTC素子はこのようにトリップ開始温度の異なったタイプがあり、トリップ開始温度はその高分子材料の熱的特性によって決定される。従来の120℃トリップタイプのPTC組成物は、ポリエチレンを主成分とする配合組成を採り、周囲温度がポリエチレンの結晶が溶融を開始する温度120℃に至ると、その組成物の体積膨張によってトリップを呈している。一方、従来の85℃トリップタイプのPTC組成物は、軟化点が85℃付近であるエラストマーを主成分とし、周囲温度が軟化点に至ると、該組成物の体積膨張によってトリップを呈している。
【0007】
【特許文献1】
特開2002−170701号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記120℃トリップタイプのPTC素子は、PTC組成物の結晶の溶融によってトリップを呈するが、室温域からトリップを開始温度に至るまでは、タイ分子の運動が結晶によって拘束されるので、PTC組成物の体積膨張に起因する電極間距離の増大が抑制され、具体的には、温度60℃のときの抵抗値は、室温域の抵抗値に対して1.3〜1.5倍程度の抵抗上昇に収まる。
【0009】
一方、上記85℃トリップタイプにおけるPTC素子は、エラストマーの軟化点で、つまり、エラストマーを構成するソフトセグメントがハードセグメントによる拘束が解かれる温度でトリップを開始する。また、エラストマーのTg点は室温域よりも低いので、室温域からトリップ開始温度に至る間も、ソフトセグメントのミクロブラウン運動を起こしており、このミクロブラウン運動は温度依存性がある。このようなエラストマーを使用する素子にあっては、その抵抗値を決定する電極間距離がミクロブラウン運動の影響を受けるため、上記120℃トリップタイプに比較すると、室温域から温度60℃に至るまでの抵抗上昇が大きくなる。上記120℃トリップタイプのPTC素子の温度60℃における抵抗値は、室温域の1.3〜1.5倍程度の抵抗上昇であるのに対して、従来の上記85℃トリップタイプのPTC素子は、1.7〜2.0倍程度にまで抵抗上昇を起こす。
【0010】
このようなことから、PTC素子は電池、その他の多種多様な電源とメイン回路の間によく装着されるが、従来の上記85℃トリップタイプのPTC素子は、定常使用範囲の上限である温度60℃になると、室温域で定められた供給電流に対して半分程度しか供給されない。最近まで、このような重大な欠点については全く問題視されていなかったが、装着装置の多様化によりこのような不具合の解消が望まれている。
【0011】
従って、本発明は、85℃トリップタイプのPTC素子における定常使用範囲の上限である温度60℃において、室温域と殆ど変わることのない導通性を有し、使用装置への電流供給が十分に可能で、また温度85℃付近におけるトリップを十分に発現することのできるPTC素子を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記従来技術の課題及び要望に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、85℃トリップタイプのPTC素子について定常使用温度の上限である温度60℃においても、通電流を著しく低減しないためには、PTC組成物を構成するエラストマーのミクロブラウン運動を抑制させれば良いことを推測し、ミクロブラウン運動を抑制する構成について鋭意研究したところ、導電性微粒子などのフィラーによる拘束が有効であることがわかり、本発明に至ったものである。
【0013】
即ち、本発明に係る高分子組成物のシート体の表裏に金属が貼着されてなるPTC素子は、以下の構成或いは構造を有することにより、上記課題を解決したものである。
本発明に係るPTC素子は、温度20℃における該素子の抵抗値R20[Ω]、温度60℃における該素子の抵抗値R60[Ω]、温度85℃における該素子の抵抗値R85[Ω]、及び温度130℃における該素子の抵抗値R130[Ω]とすると、これらの抵抗値が以下の式(1)乃至(3)の全てを満たす関係にあることを特徴とする。
【数2】
【0014】
また、本発明に係るPTC素子において、上記シート体は、DBP吸油量(ASTM D2414−93の測定法に準拠する。)が120[cm3/100g]以下のカーボン粉末が30乃至40[体積%](真比重で換算した体積%を示す。)の範囲で含む混練物で、且つ混練における比エネルギーが0.05乃至0.50[kW・hr/kg]の範囲とされる混練物をシート化したものであることが望ましい。
ここで、混練における比エネルギーとは、単位kg当たりの混練によって消費されるエネルギー量を示すものであり、かかる比エネルギーはいわゆる、混練履歴の状態を特定し、或いは示すものとして有効なパラメータとなるものである。
【0015】
PTC組成物は、高分子および導電性微粒子などのフィラーを混練して得ているが、上記混練履歴によるモルフォルジーの推移は、当初、組成物内では粒子同士が網目状の凝集体をなしている。混練履歴を強めて行くにつれて凝集体が崩されて、粒子の個々が離れてゆく現象に着目し、混練履歴の状態による抵抗値の温度依存性とトリップ挙動への影響について検討したところ、以下のことを見出した。
【0016】
PTC組成物は、DBP吸油量が120[cm3/100g]以下であるカーボン粉末が30〜40[体積%]配合されている。従来のPTC素子は、混練を十分に行って混練履歴を強めたものをPTC組成物として用いてきた。混練履歴を強めたものでは、トリップ勾配が鋭敏で、最大抵抗値が高くて絶縁による遮断機能が優れている。しかし、組成物内におけるフィラーの粒子の独立性が高くなるため、ソフトセグメントのミクロブラウン運動が拘束されなくなり、上述で指摘したように、室温域から温度60℃までの抵抗上昇が顕著になるといった欠点を有する。
【0017】
一方、上記カーボン粉末を30〜40[体積%]配合してなるPTC組成物において混練履歴を弱めた場合は、トリップ勾配が緩慢となり、最大抵抗値が低くなり絶縁による遮断機能が低下してしまうといった欠点がある。その一方で、網目状のフィラー凝集体がソフトセグメントのミクロブラウン運動を拘束するので、室温域から温度60℃までの抵抗上昇が1.5倍以下に抑制することができる。このため、トリップ勾配や最大抵抗値に関する不具合を解消するためには、混練履歴が弱い状態から強い状態への移行期を限定した混練履歴において改善することが見出された。
【0018】
このため、混練履歴の状態は上記比エネルギーによって特定するのが有効であることから、このパラメータを用いて上記に述べた好適挙動を与える移行期を特定したところ、比エネルギーは上記したように0.05〜0.50[kW・hr/kg]の範囲条件であることが判明した。
従って、本発明に係るPTC素子を得るためには、その素子を構成するPTC組成物のシート体は、DBP吸油量(ASTM D2414−93の測定方法に定める。)が120[cm3/100g]以下のカーボン粉末 が30〜40[体積%]の範囲で含む混練物で、且つ混練における比エネルギーが0.05乃至0.50[kW・hr/kg]の範囲とされる混練物をシート化したものであることが望ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明のPTC素子および従来のPTC素子において、周囲温度による抵抗値の挙動をしめす特性線図である。
【0020】
本発明に係るPTC素子は、高分子組成物のシート体の表裏に金属を貼着したものである。
上記金属は電極であり、電極の材質については特に限定されず、たとえば、金、銀、チタン、パラジウム、ニッケルなど高性能金属に限らず、鉛、亜鉛、アルミニウム、ステンレスなど鉄系合金、ジュラルミンなどアルミ系合金など安価な金属を選択してもよい。
【0021】
上記電極は、金属板もしくは金属箔から成形して得られることが好ましい。そして、金属板もしくは金属箔の厚さは、本発明において得に限定は無く任意に選択できる。また、銅箔、鉄箔、銅系合金箔、鉄系合金箔などの酸化しやすい金属には、金、パラジウム、亜鉛、錫、ニッケルから選択される金属によってメッキ処理して表面保護層を施すことが好ましい。さらに、金属部品に対して、ソーダ塩類、燐酸塩類、アンモニア塩類等から選択される化合物の水溶液、無機酸、有機酸から選択される化合物またはこれら化合物の水溶液に浸漬して、酸化物と金属の一部を溶解させて洗浄しても良い。
【0022】
上記シート体の高分子組成物は、特に、後述の式(2)の要件を満たすために、即ち温度85℃でのトリップを開始する特性を有する素子を得るために、温度85℃付近に軟化点を有するエラストマー系高分子であることが望ましい。
具体的には、エチレン−酢酸ビニルを代表とするカルボン酸ビニルとエチレン、エチレン−メチルアクリレートやエチレン−エチルアクリレートおよびエチレン−ブチルアクリレートなどのアクリル酸エステルとエチレンとの共重合体、エチレン−メチルメタクリレートやエチレン−エチルメタクリルレートなどのメタクリル酸エステルとエチレンの共重合体が挙げられ、本発明においては任意に選択することができる。
【0023】
上記高分子組成物においては、ポリエチレン、ホモタイプのポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンなど結晶性を配合することによって、トリップ挙動を調整することもできる。
また、上記高分子組成物には、金属との接着性を付与することが望ましく、金属との接着性を有するエラストマーを配合するのが好適である。金属との接着性を有するエラストマーとしては、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)などのエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体、スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体などのスチレン系ゴム、ポリエステル系ゴム、アクリル系ゴム、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、天然ゴムなどの未架橋のゴムに、カルボン酸もしくはその無水化物などの酸性を呈する官能基、水酸基、エポキシ基など金属との親和性を有する官能基をもつエラストマーが挙げられる。一般に、PTC素子は耐熱性を付与するために、放射線や電子線が照射により架橋を施しているが、上記の接着成分は、放射線や電子線の照射により、金属との接着強度(剥離強度)が 50〜500%程度にまで向上させることができる。
【0024】
上記高分子組成物には、導電性粒子が分散して配合され、導電性を有する粒子である限り使用可能であるが、特に、カーボンなどの導電性微粒子の粉末を配合することが好ましい。
本好適形態に使用するカーボン粉末は、その一次平均粒径が10〜200nmの範囲にあるカーボン粒子の集合体であることが好ましい。カーボンの一次粒子は、空隙を抱いて凝集粒子(二次粒子)を形成して、その空隙は、液体や気体を取り込むセルとして作用するからである。
また、本発明においては上記カーボン粉末のDBP吸油量(ある一定の条件下で、100gの粉末が吸収できるジブチルテレフタレートの体積。)は120[cm3/100g]以下であることが好ましい。DBP吸油量はカーボン粒子の凝集程度を知るためのパラメータであるが、通常、カーボン粉末の場合、凝集が発達しているものはDBP吸油量が高く、凝集が発達していないものは低い。
【0025】
本発明においては、ケッチェンブラックなどのDBP吸油量が120[cm3/100g]を上回るカーボン粉末を使用した場合、その凝集性が高すぎるので所望とする抵抗挙動を得ることが難しく、特に、周囲の温度が130℃のときに素子抵抗値を1000[Ω]以上に至らしめることができず好ましくない。一方、DBP吸油量が120[cm3/100g]以下である場合は、混練履歴、及び/又はその配合量によって本発明が所望する素子の抵抗要件を得ることができる。また、DBP吸油量が30[cm3/100g]を下回ると、カーボン粒子の独立性が高すぎるので、素子としての抵抗値が高くなる傾向が現れてくる。
従って、30〜120[cm3/100g]の範囲が好ましく、特に50〜100[cm3/100g]の範囲がより好ましい。
【0026】
このようなことから本発明において好ましいカーボン粉末は、平均粒径が10〜200nm程度のカーボン粒子(一次粒子)の集合体であって、一次粒子の平均粒径や凝集してなる塊状粒子(二次粒子)の粒径、PHなど粒子の表面における化学的特性などが異なる多種のグレードを使用することができる。普通、PTC素子の用途におけるカーボン粉末は、平均粒径が10〜200nm 程度のカーボン粒子(一次粒子 )の集合体を使用していが、本発明においても上記の粒径のものを使用すると良い。また、本発明において、粒子の表面におけるPHなどは特に限定はしておらず、任意に選択することができる。
【0027】
上記カーボンの組成物への添加量は、素子として適正な抵抗値を与える添加量によって決まり、本発明においてはその添加量の範囲は30〜40[体積%]の範囲が好ましい。なお、カーボンの添加量によってソフトセグメントミクロブラウン運動に関する拘束、つまり、室温域から温度60℃における抵抗上昇挙動についても影響を与え、添加量が30[体積%]を下回ると上記抵抗上昇を1.5倍以下にするのは困難であり、40[体積%]以上だとトリップ後の体積膨張を抑制してしまって抵抗遮断特性が低下してしまう。従って、抵抗率やカーボン粒子の拘束による諸特性への影響を考慮すると、本発明においても、30〜40[体積%]で添加され、33〜37[体積%]であればより望ましい。
【0028】
本発明においては所望とする抵抗率を得るために非導電性の他のフィラーを添加することができる。たとえば、所望する抵抗率が、30〜35[体積%]の範囲と低い添加量でカーボンを配合する場合において、37〜40[体積%]の範囲で添加した配合と同様に、室温域から温度60℃における抵抗上昇をより低くしたい場合には、非導電性である他のフィラーでその添加量を補足することもできる。その際、補足するフィラーとしては平均粒径が1μm以下のものが望まれるが、シリカなど10〜100nm程度のものがより望ましく、添加するカーボンと同等のPHを有するシリカでありば、さらに良い。
【0029】
本発明に使用するシート体は上記高分子組成物を混練してシート化して金属板に貼着される。上記高分子組成物の混練方法は特に制限はないが、後述する式(1)の素子における抵抗値要件を満たすためには、混合履歴を加味させたシート体とすることが好ましい。上述したように、混合履歴の状態は、混練における比エネルギーで特定される。混練における比エネルギーは、単位kg当たりの混練によって消費されるエネルギー量を示す有効なパラメータとなる。上記シート体の比エネルギーは0.05乃至0.50[kW・hr/kg]の範囲、特に、0.10乃至0.40[kW・hr/kg]の範囲にあることが好ましい。このような範囲であれば、後述する素子抵抗値要件である式(1)を満たすことが容易にできる。
【0030】
上記シート体の成形装置は特に制限されないが、カレンダー成形装置などを使用することができる。シート体の厚みは、100乃至500μmの範囲、特に、150乃至350μmの範囲にあることが好ましい。
シート体が上記範囲を上回ると、素子の抵抗値要件に支障が出てくる。シート体の厚みが上記範囲を下回ると、カレンダー成形装置等のニップ部を構成するロール同士が触れる程度にクリアランスを狭めても、高分子組成物の樹脂圧でロールが軋むので好ましくない。
【0031】
本発明に係るPTC素子においては、温度20℃における該素子の抵抗値R20[Ω]、温度60℃における該素子の抵抗値R60[Ω]、温度85℃における該素子の抵抗値R85[Ω]、及び温度130℃における該素子の抵抗値R130[Ω]とすると、これらの抵抗値が以下の式(1)乃至(3)の全てを満たす関係にある。
【0032】
【数3】
【0033】
即ち、本発明のPTC素子は、その素子抵抗値における温度挙動によって決まり、図1に示す特性線図のAに示すように、室温域から温度60℃までの抵抗上昇が1.5倍以下であり、温度60℃の導通特性についても遜色がないといった特性を有することを特徴としている。
具体的には、下記素子抵抗値要件を満たすものであり、基本的には、下記3つの素子抵抗値要件を満たすものである。また、本発明のPTC素子は、下記要件を満たす限り、その材料、構造、及び形態に関して何らの制限を受けないが、上述したように、PTC素子を構成しているシート組成物中の導電性微粒子の種類、その添加量、および該PTC組成物のシート体を得る際におけるその組成物の混練履歴を設定することが望ましい。
【0034】
素子抵抗要件式(1):周囲の温度が60℃の時における素子の抵抗値R60は、温度20℃の時における素子の抵抗値R20の1.5倍以下であること。
素子抵抗要件式(2):周囲の温度が85℃の時における素子の抵抗値R85はR20の3倍以上であること。
素子抵抗要件式(3):周囲の温度が130℃の時における素子の抵抗値R130は1000[Ω]以上であること。
【0035】
上記素子抵抗要件式(1)を満たす本発明に係るPTC素子は、図1の特性線Aに示すように室温域から温度60℃までの抵抗上昇が1.5倍以下である。本発明において、特に実用的には、1.5乃至1.3倍の範囲が好ましい。
本発明に係るPTC素子にあって、理想的には限りなく1.0倍に近づくことであり、このような要件を満たすPTC素子を用いた電池又は装置等にあっては、周囲の温度が60℃に達する作業現場においても誤作動を起こすことなく稼働させることができる。一方、PTC素子が1.5倍を超える場合には、温度60℃の導通性が悪くなり、その素子を用いた電池又は装置等にあっては、周囲の温度が60℃に達する環境では本来の機能を発揮できなくなる。
【0036】
上記素子抵抗要件式(2)を満たす本発明に係るPTC素子は、図1の特性線Aに示すように室温における抵抗値に対して温度80℃における抵抗値が3倍以上である。本発明において、特に実用的には、3乃至10倍の範囲が好ましい。
これは、本発明に係るPTC素子が85℃トリップタイプであることを示したものである。即ち、R85がR20の3倍以上であれば、PTC素子を用いた電池又は装置等の危険温度が85℃にある場合、PTC素子は電池又は装置等における危険温度での電流の遮断ができる。一方、R85がR20の3倍未満であれば、PTC素子は電池又は装置等における危険温度での電流の遮断が遅れ、装置等に支障を来すおそれがある。
【0037】
このようなトリップ開始温度は、図1に示すように、温度−抵抗値曲線における変曲点を参考とすることができる。R85がR20に対して100倍、又は1000倍のように極端に大きい場合、PTC素子の上記抵抗値要件式(1)を満たす限り、かかる変曲点で考慮したトリップ開始温度が85℃よりも低い温度へとずれていてもよく、100倍、1000倍又は100000倍といったような倍率であっても、実使用において問題がない。一方、R85がR20に対して3倍以下である場合は、危険温度での遮断が遅れてしまうので、本発明のPTC素子は、R85はR20に対して3倍以上で上限がない。尚、PTC素子が85℃トリップタイプと呼称するにふさわしいためには、3〜10倍の範囲であることが望ましい。
【0038】
上記素子抵抗要件式(3)を満たす本発明に係るPTC素子は、図1の特性線Aに示さないが、温度130℃における抵抗値が1000[Ω]以上である。
上記R130の抵抗値が1000[Ω]以上であることは、PTC素子の絶縁特性が従来品と比較して遜色がないことを示すものである。
具体的には、周囲の温度が130℃になった時に、PTC素子の抵抗値が1000[Ω]以上であれば、絶縁域に達して電流を確実に遮断できるといった特性を示すものである。
【0039】
通常、PTC素子は、10〜100Aの電流、10〜20Vの電圧に耐久することが要求されている。R130が1000[Ω]未満であると、10Aに対して電流を遮断する機能を果たせずに、発熱により素子が破壊されてしまう不都合があり、上記素子抵抗要件式(2)を満たしている限り、R130が高ければ高いほうが、遮断機能が優れているので本発明においては上限を設ける必要はない。
なお、100A、20Vの通電に対して耐えうるためには、10000[Ω]以上であることが要求されるので、本発明においては、R130が10000[Ω]以上であることが望ましい。
【0040】
本発明によるPTC素子と、従来の85℃トリップタイプのPTC素子における温度−抵抗値の挙動の比較を、図1の特性線A、及びBに示したが、従来のPTC素子(B)は、上記素子抵抗要件式(2)および(3)については満たしているが、式(1)については満たしておらず、この上記素子抵抗要件式(1)を満たしていることが、本発明のPTC素子における最大の特徴である。
【0041】
次に、本発明に係るPTC素子の製造方法を簡単に説明する。
本発明に係る高分子系PTC素子は、1.PTC組成物の混練工程、2.PTC組成物のシート化工程、3.金属電極とPTC組成物シートの貼着工程、4.後処理工程に大別され、これらの工程を経て製造される。
【0042】
本発明のPTC素子の製造において、混練装置の選定については特には制限されないが、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機など剪断力を利用した混練装置が望ましい。そして、混練時の温度設定は、樹脂等の種類に合わせて好ましい温度を選択することができる。また、バンバリーミキサーや加圧ニーダーなどにおいては、上述した混練履歴に応じて、混練物の温度が上昇して、払い出しの時が最高温度に達するが、混練装置や条件を特定すれば、この払い出し時の混練物温度と比エネルギーとは相関があるので、この温度を混練条件の管理基準として利用することができる。
【0043】
得られた混練物は、ペレット状、ベール状など保存または加工しやすい形状に成形されて、一時保存がなされる。あるいは、直接下記に述べるシート化装置に直接投じて、一期にシート化してしまうこともできる。
そして、混練物として得られたPTC組成物は、シート体へと加工されるが、本発明においては、シート化方法について特に限定はなく、Tダイを用いた押出成形やカレンダーなどによって成形することを好適とする。なお、このシート化工程でも、剪断による混練が履歴されるので、この工程での混練に関するエネルギーを本発明の混練履歴の状態を示す比エネルギーに含められる。
【0044】
ここで、本発明では上述の混練履歴の状態を示す比エネルギーは以下の如く決定される。
混練履歴は、上述したように上記1および2工程においてPTC組成物に施される際に加えられるエネルギーを指す。つまり、混練装置に原料を投じでから、混練物が排出されるまでに与えられるエネルギーと、混練物が再加熱されてシート体へと塑性変形がなされるまでに与えられるエネルギーの和を指す。
そして、上記比エネルギーは、混練に要する消費電力における時間に関する積分値( 積算エネルギー)を、混練物の重量で割ったものである。一般に、比エネルギーは、混練機に混練物もしくはその原料を投じてから排出されるまでの間に費やされたエネルギーを観測してなされるが、本発明においては、混練に関するエネルギーであって、本発明の場合、比エネルギーは混練機からの運動エネルギーが、混練物もしくはその減量の熱エネルギーに置換されていることが確認できるときのエネルギーとしている。
【0045】
このように構成される本発明に係るPTC素子によれば、特に一次電池や二次電池の保護、自動車などのモーターの保護、スピーカーの保護、携帯電話などでの充電電池の保護、コンピューター回路の保護などの用途で使用される。そして、これらの機器について周囲の温度が60℃に達した場合でも誤作動を起こすことなく正確に稼働させることができる。また、温度85℃等の危険温度に達したときは速やかに電流を遮断してその機器の安全性を高めることができる。尚、本発明に係るPTC素子は上記に示す機器の使用に制限されるものではない。
【0046】
【実施例】
以下、実施例に基いて更に本発明のPTC素子用シート体、PCT素子及びその製造方法について説明する。尚、本発明は以下の実施例に限るものではない。
下記表1に示す配合組成の材料(1−1、1−2、1−3、1−4、1−5及び1−6)を4バッチ分用意した。
【0047】
【表1】
【0048】
なお、表1中の材料は、下記のとおりである。
・高密度ポリエチレン: 三井化学(株)製製品 ハイゼックス5000
・エチレン−メタクリル酸: 三井デュポンポリケミカル(株)製製品ニュクレル9032
・マレイン酸変性EPR: 日本合成ゴム(株)製製品 T7761P
・カーボン粉末A: コロンビア カーボン(株)製製品 410
【0049】
次に、温度160℃に調節した加圧式ニーダーにて、各材料はそれぞれ10分間、15分間、30分間、50分間、及び60分間混練した。混練後に、各混練物を取り出したら直ぐに一対の圧延ロールに投入してシート化し、厚さがほぼ220μmのシート状物を得た。なお、加圧式ニーダーおよび圧延ロールには、電流計および電圧計が設置されており、この記録と混練処理量および経過時間から、比エネルギーを算出した。その値を下記表2に示した。
尚、1−4材料の10分混練、1−5材料の10分混練および15分混練、1−6材料の10分混練および15分混練は、混練物としてのまとまりが悪かったので、シート化しなかった。そのため、これ以降の実施例及び比較例に使用できないものであった。
【0050】
【表2】
【0051】
得られた26種類のシート状物を、ビク歯で5×12mmのカットシートに調整した。一方、厚さ125μmに圧延して得たニッケル板を、ワイヤカットによって5×25mmの金属部品にカットした。そして、それぞれ26種類のカットシートの表裏に金属部品を重ねるようにして、固定用冶具に100セット分固定して、そのまま、温度180℃に調節したプレス装置に挿入して、100[kgf/cm2]に加圧し、5分後に加圧したままプレス装置に冷却水を循環すると、10分後には温度50℃になり、これを取り出だして26種類のPTC素子を得た。そして、得られたPTC素子を、種類ごとに1つの袋に入れて、電子線照射装置電にて、加速電圧3.0[MeV]、10[MRad]の線量になる条件で照射した。
【0052】
これにより得た26種類のPTC素子(実施例1乃至5及び比較例1乃至21)について、周囲の温度による抵抗値挙動を確認したところ、表3に示す結果であった。
尚、周囲温度による抵抗値挙動の評価方法は以下の通りである。
PTC素子の金属電極に、ハンダにより電線を接合し、電線を抵抗測定器に接続して素子の抵抗を測定する。測定の環境温度は20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、100℃、110℃、120℃、及び130℃であり、素子をオーブンに入れて測定を開始する。そして、測定の方法は、温度20℃から順次に昇温して行き、測定する温度に達したら5分間その温度を保持して、その時(5分間保持した時)に抵抗値をプロットする。プロットし終えたら、つぎの測定温度に昇温して測定を行う。
【0053】
【表3】
【0054】
なお、表3でのR20は、周囲温度が20℃の時の素子抵抗を示し、R60は周囲温度が60℃の時の素子抵抗を示し、R130は周囲温度が130℃の時の素子抵抗を示す。そして、()内の数値は、R60/R20を示す。
【0055】
この結果、1−1材料の素子は全ての混練時間において、{温度60℃の素子抵抗値}を{温度20℃の素子抵抗値}で割った値(R60/R20)が1.5倍を超えた(比較例1乃至5)。かかる素子は従来と同様に周囲の温度が60℃に達したときに装置に悪影響を与えた。 従って、1−1材料はカーボンが28[体積%]添加されてなるが、この添加量ではソフトセグメントのミクロブラウン運動を拘束するには不十分であることがわかった。なお、周囲温度による抵抗値挙動の評価方法は下記に述べるとおりである。
また、1−2材料以降においても、混練履歴が強すぎる場合(比較例7乃至9、比較例11、12、比較例14、15、及び比較例17、18)には、上記と同様に温度60℃に達したときに使用装置に悪影響を与えるものであった。
【0056】
また1−6材料では、上述したように混練時間が10分および15分では混練物がまとまらず、時間不足な状態であった。この配合において、混練物が得られた30、50、及び60分の素子(比較例19乃至21)では、いずれも、温度130℃における抵抗値が1000[Ω]に至らず、本発明における上記抵抗値要件式(3)を満たしていなかった。このことから、1−6材料ではカーボンが42[体積%]添加されてなるが、この添加量ではカーボンの量が多すぎてトリップにおける体積膨張が抑制されてしまうことが判る。
また、1−2乃至1−5の材料における混練履歴の弱い状態のものを用いた素子(比較例6、10、13、及び16)においても温度130℃における抵抗値が小さいことが判った。このようなPTC素子は通電流が10Aに対して電流を遮断する機能を果たせずに、発熱により破壊するものが見られる。
【0057】
更に、実施例1乃至5に見られるように、1−2材料では、15分間の混練で、比エネルギーが0.06[kW・hr/kg]であった。この混練履歴において本発明の要件を全て満たす素子が得られた。1−3材料では、15分間の混練で比エネルギーが0.10[kW・hr/kg]および、30分間の混練で比エネルギーが0.18[kW・hr/kg]といった混練履歴であり、1−4材料では、30分間の混練で比エネルギーが0.31[kW・hr/kg]といった混練履歴、1−5材料は、30分間の混練で比エネルギーが0.35[kW・hr/kg]といった混練履歴で、本発明の要件を全て満たす素子が得られた。このことから、本発明のPTC素子は、カーボンの添加量が30〜40[体積%]の範囲、混練における比エネルギーは0.05〜0.50[kW・hr/kg ]の範囲に、本発明のPTC素子を得られる要件として好ましいことが判った。
そして、このようなPTC素子を装置に使用した場合には、周囲の温度60℃に達した場合でも装置に対する誤作動等が殆ど見られない。
【0058】
【発明の効果】
本発明に係る高分子組成物のシート体の表裏に金属が貼着されてなるPTC素子によれば、温度20℃における該素子の抵抗値R20[Ω]、温度60℃における該素子の抵抗値R60[Ω]、温度85℃における該素子の抵抗値R85[Ω]、及び温度130℃における該素子の抵抗値R130[Ω]とし、上述の式1乃至式3を満たすので、定常使用範囲の上限である温度60℃においても、室温域での導通性と殆ど変わりなく、使用装置への電流供給が十分に可能である。また温度85℃付近におけるトリップを十分に発現することができると共に、大電流の遮断機能も十分に有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のPTC素子および従来のPTC素子において、周囲温度による抵抗値の挙動をしめす特性線図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、温度に依存して電気抵抗が増加する特性( 以下、PTC特性、という。PTCはポジテイブテンプレチャーコエフィシェント(Positive Temperature Coefficient)の略である。)を有するPTC素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
PTC素子は、セラミック系と高分子系に大別される。後者の高分子系材料を用いてなる素子は、高分子材料にカーボンなどの導電性微粒子が分散してなるPTC組成物のシート状物の表裏に、ニッケルなどの金属電極が貼られているといった形態をしている。PTC組成物は、正常な電流が供給されている時には低抵抗であり、突発的な過電流の発生時には高抵抗になって導通を遮断することで回路を保護する働きをする。また、長時間の使用時に回路などから発生する熱が電池を暖め、これが原因で電池が破裂するといった事故が起こりうるが、電池が耐久する限界の温度にまで達する以前に、導通を遮断して電池を保護する働きをする。
そして、このようなPTC素子は、小型化及び低抵抗化が可能で、耐電圧特性、復帰性(繰り返し性)に優れた、特に、携帯電話やパソコン等の各種電子情報機器等用の電池を過熱及び/又は異常電流(過電流、事故電流)の流入、発生等による誤動作、故障、破壊、爆発等から有効に保護するためのリセッタブルヒューズ用として好適に使用されている(特許文献1等を参照)。
【0003】
PTC素子の遮断機能は、過負荷による発熱もしくは周囲の温度上昇によって、PTC組成物を構成する高分子の軟化点もしくは融点に達すると、PTC組成物の体積が急激に膨張し、該組成物を介して対になっている電極間の距離が大きくなる結果により、急激に抵抗値を上昇させることにある。一般に、この急激な抵抗値の上昇を、トリップと呼称している。そして、トリップの挙動は、1.トリップを開始する温度、2.抵抗上昇の勾配、3.最終的に到達する抵抗値( 以下、最大0抵抗値)が特性に関する要素となっていて、保護対象や保護方針によって、これらの特性要素の設定がなされている。
【0004】
高分子系PTC素子におけるPTC組成物は、一般に、DBP吸油量が120[cm3/100g]以下のカーボン粉末を導電性微粒子として使用している。このカーボン粉末は30〜40[体積%]の範囲で配合されている。そして、高分子系PTC素子は、温度120℃付近でトリップを開始するタイプ(以下、120℃トリップタイプ)と温度85℃付近でトリップを開始するタイプ(以下、85℃トリップタイプ)がある。筒型リチウムイオン電池においては、過電流保護の目的で前者の温度120℃でトリップを開始するタイプが使用され、特に角型リチウムイオン電池は、電池セルの温度が90℃以上になると暴発の危険性があるので、トリップを開始する温度が80〜90℃であるPTC素子が使用されている。
【0005】
図1に示すように、従来の市販品における85℃トリップタイプにおける周囲温度−素子抵抗の挙動を示したが、室温域から80℃付近までの抵抗上昇は、緩慢な比例関数的増加をするが、85℃を超えたあたりからトリップして指数関数的に抵抗上昇を呈し、130℃では1000[Ω]といった絶縁域にまで到達する。なお、厳密に換言すると、比例関数的抵抗上昇から指数関数的な抵抗上昇に移行する変曲点がトリップ開始温度であるが、この分野の技術的な慣例としては、室温における素子抵抗値の3倍になる温度をトリップ開始温度として扱っている。
【0006】
高分子系PTC素子はこのようにトリップ開始温度の異なったタイプがあり、トリップ開始温度はその高分子材料の熱的特性によって決定される。従来の120℃トリップタイプのPTC組成物は、ポリエチレンを主成分とする配合組成を採り、周囲温度がポリエチレンの結晶が溶融を開始する温度120℃に至ると、その組成物の体積膨張によってトリップを呈している。一方、従来の85℃トリップタイプのPTC組成物は、軟化点が85℃付近であるエラストマーを主成分とし、周囲温度が軟化点に至ると、該組成物の体積膨張によってトリップを呈している。
【0007】
【特許文献1】
特開2002−170701号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記120℃トリップタイプのPTC素子は、PTC組成物の結晶の溶融によってトリップを呈するが、室温域からトリップを開始温度に至るまでは、タイ分子の運動が結晶によって拘束されるので、PTC組成物の体積膨張に起因する電極間距離の増大が抑制され、具体的には、温度60℃のときの抵抗値は、室温域の抵抗値に対して1.3〜1.5倍程度の抵抗上昇に収まる。
【0009】
一方、上記85℃トリップタイプにおけるPTC素子は、エラストマーの軟化点で、つまり、エラストマーを構成するソフトセグメントがハードセグメントによる拘束が解かれる温度でトリップを開始する。また、エラストマーのTg点は室温域よりも低いので、室温域からトリップ開始温度に至る間も、ソフトセグメントのミクロブラウン運動を起こしており、このミクロブラウン運動は温度依存性がある。このようなエラストマーを使用する素子にあっては、その抵抗値を決定する電極間距離がミクロブラウン運動の影響を受けるため、上記120℃トリップタイプに比較すると、室温域から温度60℃に至るまでの抵抗上昇が大きくなる。上記120℃トリップタイプのPTC素子の温度60℃における抵抗値は、室温域の1.3〜1.5倍程度の抵抗上昇であるのに対して、従来の上記85℃トリップタイプのPTC素子は、1.7〜2.0倍程度にまで抵抗上昇を起こす。
【0010】
このようなことから、PTC素子は電池、その他の多種多様な電源とメイン回路の間によく装着されるが、従来の上記85℃トリップタイプのPTC素子は、定常使用範囲の上限である温度60℃になると、室温域で定められた供給電流に対して半分程度しか供給されない。最近まで、このような重大な欠点については全く問題視されていなかったが、装着装置の多様化によりこのような不具合の解消が望まれている。
【0011】
従って、本発明は、85℃トリップタイプのPTC素子における定常使用範囲の上限である温度60℃において、室温域と殆ど変わることのない導通性を有し、使用装置への電流供給が十分に可能で、また温度85℃付近におけるトリップを十分に発現することのできるPTC素子を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記従来技術の課題及び要望に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、85℃トリップタイプのPTC素子について定常使用温度の上限である温度60℃においても、通電流を著しく低減しないためには、PTC組成物を構成するエラストマーのミクロブラウン運動を抑制させれば良いことを推測し、ミクロブラウン運動を抑制する構成について鋭意研究したところ、導電性微粒子などのフィラーによる拘束が有効であることがわかり、本発明に至ったものである。
【0013】
即ち、本発明に係る高分子組成物のシート体の表裏に金属が貼着されてなるPTC素子は、以下の構成或いは構造を有することにより、上記課題を解決したものである。
本発明に係るPTC素子は、温度20℃における該素子の抵抗値R20[Ω]、温度60℃における該素子の抵抗値R60[Ω]、温度85℃における該素子の抵抗値R85[Ω]、及び温度130℃における該素子の抵抗値R130[Ω]とすると、これらの抵抗値が以下の式(1)乃至(3)の全てを満たす関係にあることを特徴とする。
【数2】
【0014】
また、本発明に係るPTC素子において、上記シート体は、DBP吸油量(ASTM D2414−93の測定法に準拠する。)が120[cm3/100g]以下のカーボン粉末が30乃至40[体積%](真比重で換算した体積%を示す。)の範囲で含む混練物で、且つ混練における比エネルギーが0.05乃至0.50[kW・hr/kg]の範囲とされる混練物をシート化したものであることが望ましい。
ここで、混練における比エネルギーとは、単位kg当たりの混練によって消費されるエネルギー量を示すものであり、かかる比エネルギーはいわゆる、混練履歴の状態を特定し、或いは示すものとして有効なパラメータとなるものである。
【0015】
PTC組成物は、高分子および導電性微粒子などのフィラーを混練して得ているが、上記混練履歴によるモルフォルジーの推移は、当初、組成物内では粒子同士が網目状の凝集体をなしている。混練履歴を強めて行くにつれて凝集体が崩されて、粒子の個々が離れてゆく現象に着目し、混練履歴の状態による抵抗値の温度依存性とトリップ挙動への影響について検討したところ、以下のことを見出した。
【0016】
PTC組成物は、DBP吸油量が120[cm3/100g]以下であるカーボン粉末が30〜40[体積%]配合されている。従来のPTC素子は、混練を十分に行って混練履歴を強めたものをPTC組成物として用いてきた。混練履歴を強めたものでは、トリップ勾配が鋭敏で、最大抵抗値が高くて絶縁による遮断機能が優れている。しかし、組成物内におけるフィラーの粒子の独立性が高くなるため、ソフトセグメントのミクロブラウン運動が拘束されなくなり、上述で指摘したように、室温域から温度60℃までの抵抗上昇が顕著になるといった欠点を有する。
【0017】
一方、上記カーボン粉末を30〜40[体積%]配合してなるPTC組成物において混練履歴を弱めた場合は、トリップ勾配が緩慢となり、最大抵抗値が低くなり絶縁による遮断機能が低下してしまうといった欠点がある。その一方で、網目状のフィラー凝集体がソフトセグメントのミクロブラウン運動を拘束するので、室温域から温度60℃までの抵抗上昇が1.5倍以下に抑制することができる。このため、トリップ勾配や最大抵抗値に関する不具合を解消するためには、混練履歴が弱い状態から強い状態への移行期を限定した混練履歴において改善することが見出された。
【0018】
このため、混練履歴の状態は上記比エネルギーによって特定するのが有効であることから、このパラメータを用いて上記に述べた好適挙動を与える移行期を特定したところ、比エネルギーは上記したように0.05〜0.50[kW・hr/kg]の範囲条件であることが判明した。
従って、本発明に係るPTC素子を得るためには、その素子を構成するPTC組成物のシート体は、DBP吸油量(ASTM D2414−93の測定方法に定める。)が120[cm3/100g]以下のカーボン粉末 が30〜40[体積%]の範囲で含む混練物で、且つ混練における比エネルギーが0.05乃至0.50[kW・hr/kg]の範囲とされる混練物をシート化したものであることが望ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明のPTC素子および従来のPTC素子において、周囲温度による抵抗値の挙動をしめす特性線図である。
【0020】
本発明に係るPTC素子は、高分子組成物のシート体の表裏に金属を貼着したものである。
上記金属は電極であり、電極の材質については特に限定されず、たとえば、金、銀、チタン、パラジウム、ニッケルなど高性能金属に限らず、鉛、亜鉛、アルミニウム、ステンレスなど鉄系合金、ジュラルミンなどアルミ系合金など安価な金属を選択してもよい。
【0021】
上記電極は、金属板もしくは金属箔から成形して得られることが好ましい。そして、金属板もしくは金属箔の厚さは、本発明において得に限定は無く任意に選択できる。また、銅箔、鉄箔、銅系合金箔、鉄系合金箔などの酸化しやすい金属には、金、パラジウム、亜鉛、錫、ニッケルから選択される金属によってメッキ処理して表面保護層を施すことが好ましい。さらに、金属部品に対して、ソーダ塩類、燐酸塩類、アンモニア塩類等から選択される化合物の水溶液、無機酸、有機酸から選択される化合物またはこれら化合物の水溶液に浸漬して、酸化物と金属の一部を溶解させて洗浄しても良い。
【0022】
上記シート体の高分子組成物は、特に、後述の式(2)の要件を満たすために、即ち温度85℃でのトリップを開始する特性を有する素子を得るために、温度85℃付近に軟化点を有するエラストマー系高分子であることが望ましい。
具体的には、エチレン−酢酸ビニルを代表とするカルボン酸ビニルとエチレン、エチレン−メチルアクリレートやエチレン−エチルアクリレートおよびエチレン−ブチルアクリレートなどのアクリル酸エステルとエチレンとの共重合体、エチレン−メチルメタクリレートやエチレン−エチルメタクリルレートなどのメタクリル酸エステルとエチレンの共重合体が挙げられ、本発明においては任意に選択することができる。
【0023】
上記高分子組成物においては、ポリエチレン、ホモタイプのポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンなど結晶性を配合することによって、トリップ挙動を調整することもできる。
また、上記高分子組成物には、金属との接着性を付与することが望ましく、金属との接着性を有するエラストマーを配合するのが好適である。金属との接着性を有するエラストマーとしては、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)などのエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体、スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体などのスチレン系ゴム、ポリエステル系ゴム、アクリル系ゴム、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、天然ゴムなどの未架橋のゴムに、カルボン酸もしくはその無水化物などの酸性を呈する官能基、水酸基、エポキシ基など金属との親和性を有する官能基をもつエラストマーが挙げられる。一般に、PTC素子は耐熱性を付与するために、放射線や電子線が照射により架橋を施しているが、上記の接着成分は、放射線や電子線の照射により、金属との接着強度(剥離強度)が 50〜500%程度にまで向上させることができる。
【0024】
上記高分子組成物には、導電性粒子が分散して配合され、導電性を有する粒子である限り使用可能であるが、特に、カーボンなどの導電性微粒子の粉末を配合することが好ましい。
本好適形態に使用するカーボン粉末は、その一次平均粒径が10〜200nmの範囲にあるカーボン粒子の集合体であることが好ましい。カーボンの一次粒子は、空隙を抱いて凝集粒子(二次粒子)を形成して、その空隙は、液体や気体を取り込むセルとして作用するからである。
また、本発明においては上記カーボン粉末のDBP吸油量(ある一定の条件下で、100gの粉末が吸収できるジブチルテレフタレートの体積。)は120[cm3/100g]以下であることが好ましい。DBP吸油量はカーボン粒子の凝集程度を知るためのパラメータであるが、通常、カーボン粉末の場合、凝集が発達しているものはDBP吸油量が高く、凝集が発達していないものは低い。
【0025】
本発明においては、ケッチェンブラックなどのDBP吸油量が120[cm3/100g]を上回るカーボン粉末を使用した場合、その凝集性が高すぎるので所望とする抵抗挙動を得ることが難しく、特に、周囲の温度が130℃のときに素子抵抗値を1000[Ω]以上に至らしめることができず好ましくない。一方、DBP吸油量が120[cm3/100g]以下である場合は、混練履歴、及び/又はその配合量によって本発明が所望する素子の抵抗要件を得ることができる。また、DBP吸油量が30[cm3/100g]を下回ると、カーボン粒子の独立性が高すぎるので、素子としての抵抗値が高くなる傾向が現れてくる。
従って、30〜120[cm3/100g]の範囲が好ましく、特に50〜100[cm3/100g]の範囲がより好ましい。
【0026】
このようなことから本発明において好ましいカーボン粉末は、平均粒径が10〜200nm程度のカーボン粒子(一次粒子)の集合体であって、一次粒子の平均粒径や凝集してなる塊状粒子(二次粒子)の粒径、PHなど粒子の表面における化学的特性などが異なる多種のグレードを使用することができる。普通、PTC素子の用途におけるカーボン粉末は、平均粒径が10〜200nm 程度のカーボン粒子(一次粒子 )の集合体を使用していが、本発明においても上記の粒径のものを使用すると良い。また、本発明において、粒子の表面におけるPHなどは特に限定はしておらず、任意に選択することができる。
【0027】
上記カーボンの組成物への添加量は、素子として適正な抵抗値を与える添加量によって決まり、本発明においてはその添加量の範囲は30〜40[体積%]の範囲が好ましい。なお、カーボンの添加量によってソフトセグメントミクロブラウン運動に関する拘束、つまり、室温域から温度60℃における抵抗上昇挙動についても影響を与え、添加量が30[体積%]を下回ると上記抵抗上昇を1.5倍以下にするのは困難であり、40[体積%]以上だとトリップ後の体積膨張を抑制してしまって抵抗遮断特性が低下してしまう。従って、抵抗率やカーボン粒子の拘束による諸特性への影響を考慮すると、本発明においても、30〜40[体積%]で添加され、33〜37[体積%]であればより望ましい。
【0028】
本発明においては所望とする抵抗率を得るために非導電性の他のフィラーを添加することができる。たとえば、所望する抵抗率が、30〜35[体積%]の範囲と低い添加量でカーボンを配合する場合において、37〜40[体積%]の範囲で添加した配合と同様に、室温域から温度60℃における抵抗上昇をより低くしたい場合には、非導電性である他のフィラーでその添加量を補足することもできる。その際、補足するフィラーとしては平均粒径が1μm以下のものが望まれるが、シリカなど10〜100nm程度のものがより望ましく、添加するカーボンと同等のPHを有するシリカでありば、さらに良い。
【0029】
本発明に使用するシート体は上記高分子組成物を混練してシート化して金属板に貼着される。上記高分子組成物の混練方法は特に制限はないが、後述する式(1)の素子における抵抗値要件を満たすためには、混合履歴を加味させたシート体とすることが好ましい。上述したように、混合履歴の状態は、混練における比エネルギーで特定される。混練における比エネルギーは、単位kg当たりの混練によって消費されるエネルギー量を示す有効なパラメータとなる。上記シート体の比エネルギーは0.05乃至0.50[kW・hr/kg]の範囲、特に、0.10乃至0.40[kW・hr/kg]の範囲にあることが好ましい。このような範囲であれば、後述する素子抵抗値要件である式(1)を満たすことが容易にできる。
【0030】
上記シート体の成形装置は特に制限されないが、カレンダー成形装置などを使用することができる。シート体の厚みは、100乃至500μmの範囲、特に、150乃至350μmの範囲にあることが好ましい。
シート体が上記範囲を上回ると、素子の抵抗値要件に支障が出てくる。シート体の厚みが上記範囲を下回ると、カレンダー成形装置等のニップ部を構成するロール同士が触れる程度にクリアランスを狭めても、高分子組成物の樹脂圧でロールが軋むので好ましくない。
【0031】
本発明に係るPTC素子においては、温度20℃における該素子の抵抗値R20[Ω]、温度60℃における該素子の抵抗値R60[Ω]、温度85℃における該素子の抵抗値R85[Ω]、及び温度130℃における該素子の抵抗値R130[Ω]とすると、これらの抵抗値が以下の式(1)乃至(3)の全てを満たす関係にある。
【0032】
【数3】
【0033】
即ち、本発明のPTC素子は、その素子抵抗値における温度挙動によって決まり、図1に示す特性線図のAに示すように、室温域から温度60℃までの抵抗上昇が1.5倍以下であり、温度60℃の導通特性についても遜色がないといった特性を有することを特徴としている。
具体的には、下記素子抵抗値要件を満たすものであり、基本的には、下記3つの素子抵抗値要件を満たすものである。また、本発明のPTC素子は、下記要件を満たす限り、その材料、構造、及び形態に関して何らの制限を受けないが、上述したように、PTC素子を構成しているシート組成物中の導電性微粒子の種類、その添加量、および該PTC組成物のシート体を得る際におけるその組成物の混練履歴を設定することが望ましい。
【0034】
素子抵抗要件式(1):周囲の温度が60℃の時における素子の抵抗値R60は、温度20℃の時における素子の抵抗値R20の1.5倍以下であること。
素子抵抗要件式(2):周囲の温度が85℃の時における素子の抵抗値R85はR20の3倍以上であること。
素子抵抗要件式(3):周囲の温度が130℃の時における素子の抵抗値R130は1000[Ω]以上であること。
【0035】
上記素子抵抗要件式(1)を満たす本発明に係るPTC素子は、図1の特性線Aに示すように室温域から温度60℃までの抵抗上昇が1.5倍以下である。本発明において、特に実用的には、1.5乃至1.3倍の範囲が好ましい。
本発明に係るPTC素子にあって、理想的には限りなく1.0倍に近づくことであり、このような要件を満たすPTC素子を用いた電池又は装置等にあっては、周囲の温度が60℃に達する作業現場においても誤作動を起こすことなく稼働させることができる。一方、PTC素子が1.5倍を超える場合には、温度60℃の導通性が悪くなり、その素子を用いた電池又は装置等にあっては、周囲の温度が60℃に達する環境では本来の機能を発揮できなくなる。
【0036】
上記素子抵抗要件式(2)を満たす本発明に係るPTC素子は、図1の特性線Aに示すように室温における抵抗値に対して温度80℃における抵抗値が3倍以上である。本発明において、特に実用的には、3乃至10倍の範囲が好ましい。
これは、本発明に係るPTC素子が85℃トリップタイプであることを示したものである。即ち、R85がR20の3倍以上であれば、PTC素子を用いた電池又は装置等の危険温度が85℃にある場合、PTC素子は電池又は装置等における危険温度での電流の遮断ができる。一方、R85がR20の3倍未満であれば、PTC素子は電池又は装置等における危険温度での電流の遮断が遅れ、装置等に支障を来すおそれがある。
【0037】
このようなトリップ開始温度は、図1に示すように、温度−抵抗値曲線における変曲点を参考とすることができる。R85がR20に対して100倍、又は1000倍のように極端に大きい場合、PTC素子の上記抵抗値要件式(1)を満たす限り、かかる変曲点で考慮したトリップ開始温度が85℃よりも低い温度へとずれていてもよく、100倍、1000倍又は100000倍といったような倍率であっても、実使用において問題がない。一方、R85がR20に対して3倍以下である場合は、危険温度での遮断が遅れてしまうので、本発明のPTC素子は、R85はR20に対して3倍以上で上限がない。尚、PTC素子が85℃トリップタイプと呼称するにふさわしいためには、3〜10倍の範囲であることが望ましい。
【0038】
上記素子抵抗要件式(3)を満たす本発明に係るPTC素子は、図1の特性線Aに示さないが、温度130℃における抵抗値が1000[Ω]以上である。
上記R130の抵抗値が1000[Ω]以上であることは、PTC素子の絶縁特性が従来品と比較して遜色がないことを示すものである。
具体的には、周囲の温度が130℃になった時に、PTC素子の抵抗値が1000[Ω]以上であれば、絶縁域に達して電流を確実に遮断できるといった特性を示すものである。
【0039】
通常、PTC素子は、10〜100Aの電流、10〜20Vの電圧に耐久することが要求されている。R130が1000[Ω]未満であると、10Aに対して電流を遮断する機能を果たせずに、発熱により素子が破壊されてしまう不都合があり、上記素子抵抗要件式(2)を満たしている限り、R130が高ければ高いほうが、遮断機能が優れているので本発明においては上限を設ける必要はない。
なお、100A、20Vの通電に対して耐えうるためには、10000[Ω]以上であることが要求されるので、本発明においては、R130が10000[Ω]以上であることが望ましい。
【0040】
本発明によるPTC素子と、従来の85℃トリップタイプのPTC素子における温度−抵抗値の挙動の比較を、図1の特性線A、及びBに示したが、従来のPTC素子(B)は、上記素子抵抗要件式(2)および(3)については満たしているが、式(1)については満たしておらず、この上記素子抵抗要件式(1)を満たしていることが、本発明のPTC素子における最大の特徴である。
【0041】
次に、本発明に係るPTC素子の製造方法を簡単に説明する。
本発明に係る高分子系PTC素子は、1.PTC組成物の混練工程、2.PTC組成物のシート化工程、3.金属電極とPTC組成物シートの貼着工程、4.後処理工程に大別され、これらの工程を経て製造される。
【0042】
本発明のPTC素子の製造において、混練装置の選定については特には制限されないが、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機など剪断力を利用した混練装置が望ましい。そして、混練時の温度設定は、樹脂等の種類に合わせて好ましい温度を選択することができる。また、バンバリーミキサーや加圧ニーダーなどにおいては、上述した混練履歴に応じて、混練物の温度が上昇して、払い出しの時が最高温度に達するが、混練装置や条件を特定すれば、この払い出し時の混練物温度と比エネルギーとは相関があるので、この温度を混練条件の管理基準として利用することができる。
【0043】
得られた混練物は、ペレット状、ベール状など保存または加工しやすい形状に成形されて、一時保存がなされる。あるいは、直接下記に述べるシート化装置に直接投じて、一期にシート化してしまうこともできる。
そして、混練物として得られたPTC組成物は、シート体へと加工されるが、本発明においては、シート化方法について特に限定はなく、Tダイを用いた押出成形やカレンダーなどによって成形することを好適とする。なお、このシート化工程でも、剪断による混練が履歴されるので、この工程での混練に関するエネルギーを本発明の混練履歴の状態を示す比エネルギーに含められる。
【0044】
ここで、本発明では上述の混練履歴の状態を示す比エネルギーは以下の如く決定される。
混練履歴は、上述したように上記1および2工程においてPTC組成物に施される際に加えられるエネルギーを指す。つまり、混練装置に原料を投じでから、混練物が排出されるまでに与えられるエネルギーと、混練物が再加熱されてシート体へと塑性変形がなされるまでに与えられるエネルギーの和を指す。
そして、上記比エネルギーは、混練に要する消費電力における時間に関する積分値( 積算エネルギー)を、混練物の重量で割ったものである。一般に、比エネルギーは、混練機に混練物もしくはその原料を投じてから排出されるまでの間に費やされたエネルギーを観測してなされるが、本発明においては、混練に関するエネルギーであって、本発明の場合、比エネルギーは混練機からの運動エネルギーが、混練物もしくはその減量の熱エネルギーに置換されていることが確認できるときのエネルギーとしている。
【0045】
このように構成される本発明に係るPTC素子によれば、特に一次電池や二次電池の保護、自動車などのモーターの保護、スピーカーの保護、携帯電話などでの充電電池の保護、コンピューター回路の保護などの用途で使用される。そして、これらの機器について周囲の温度が60℃に達した場合でも誤作動を起こすことなく正確に稼働させることができる。また、温度85℃等の危険温度に達したときは速やかに電流を遮断してその機器の安全性を高めることができる。尚、本発明に係るPTC素子は上記に示す機器の使用に制限されるものではない。
【0046】
【実施例】
以下、実施例に基いて更に本発明のPTC素子用シート体、PCT素子及びその製造方法について説明する。尚、本発明は以下の実施例に限るものではない。
下記表1に示す配合組成の材料(1−1、1−2、1−3、1−4、1−5及び1−6)を4バッチ分用意した。
【0047】
【表1】
【0048】
なお、表1中の材料は、下記のとおりである。
・高密度ポリエチレン: 三井化学(株)製製品 ハイゼックス5000
・エチレン−メタクリル酸: 三井デュポンポリケミカル(株)製製品ニュクレル9032
・マレイン酸変性EPR: 日本合成ゴム(株)製製品 T7761P
・カーボン粉末A: コロンビア カーボン(株)製製品 410
【0049】
次に、温度160℃に調節した加圧式ニーダーにて、各材料はそれぞれ10分間、15分間、30分間、50分間、及び60分間混練した。混練後に、各混練物を取り出したら直ぐに一対の圧延ロールに投入してシート化し、厚さがほぼ220μmのシート状物を得た。なお、加圧式ニーダーおよび圧延ロールには、電流計および電圧計が設置されており、この記録と混練処理量および経過時間から、比エネルギーを算出した。その値を下記表2に示した。
尚、1−4材料の10分混練、1−5材料の10分混練および15分混練、1−6材料の10分混練および15分混練は、混練物としてのまとまりが悪かったので、シート化しなかった。そのため、これ以降の実施例及び比較例に使用できないものであった。
【0050】
【表2】
【0051】
得られた26種類のシート状物を、ビク歯で5×12mmのカットシートに調整した。一方、厚さ125μmに圧延して得たニッケル板を、ワイヤカットによって5×25mmの金属部品にカットした。そして、それぞれ26種類のカットシートの表裏に金属部品を重ねるようにして、固定用冶具に100セット分固定して、そのまま、温度180℃に調節したプレス装置に挿入して、100[kgf/cm2]に加圧し、5分後に加圧したままプレス装置に冷却水を循環すると、10分後には温度50℃になり、これを取り出だして26種類のPTC素子を得た。そして、得られたPTC素子を、種類ごとに1つの袋に入れて、電子線照射装置電にて、加速電圧3.0[MeV]、10[MRad]の線量になる条件で照射した。
【0052】
これにより得た26種類のPTC素子(実施例1乃至5及び比較例1乃至21)について、周囲の温度による抵抗値挙動を確認したところ、表3に示す結果であった。
尚、周囲温度による抵抗値挙動の評価方法は以下の通りである。
PTC素子の金属電極に、ハンダにより電線を接合し、電線を抵抗測定器に接続して素子の抵抗を測定する。測定の環境温度は20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、100℃、110℃、120℃、及び130℃であり、素子をオーブンに入れて測定を開始する。そして、測定の方法は、温度20℃から順次に昇温して行き、測定する温度に達したら5分間その温度を保持して、その時(5分間保持した時)に抵抗値をプロットする。プロットし終えたら、つぎの測定温度に昇温して測定を行う。
【0053】
【表3】
【0054】
なお、表3でのR20は、周囲温度が20℃の時の素子抵抗を示し、R60は周囲温度が60℃の時の素子抵抗を示し、R130は周囲温度が130℃の時の素子抵抗を示す。そして、()内の数値は、R60/R20を示す。
【0055】
この結果、1−1材料の素子は全ての混練時間において、{温度60℃の素子抵抗値}を{温度20℃の素子抵抗値}で割った値(R60/R20)が1.5倍を超えた(比較例1乃至5)。かかる素子は従来と同様に周囲の温度が60℃に達したときに装置に悪影響を与えた。 従って、1−1材料はカーボンが28[体積%]添加されてなるが、この添加量ではソフトセグメントのミクロブラウン運動を拘束するには不十分であることがわかった。なお、周囲温度による抵抗値挙動の評価方法は下記に述べるとおりである。
また、1−2材料以降においても、混練履歴が強すぎる場合(比較例7乃至9、比較例11、12、比較例14、15、及び比較例17、18)には、上記と同様に温度60℃に達したときに使用装置に悪影響を与えるものであった。
【0056】
また1−6材料では、上述したように混練時間が10分および15分では混練物がまとまらず、時間不足な状態であった。この配合において、混練物が得られた30、50、及び60分の素子(比較例19乃至21)では、いずれも、温度130℃における抵抗値が1000[Ω]に至らず、本発明における上記抵抗値要件式(3)を満たしていなかった。このことから、1−6材料ではカーボンが42[体積%]添加されてなるが、この添加量ではカーボンの量が多すぎてトリップにおける体積膨張が抑制されてしまうことが判る。
また、1−2乃至1−5の材料における混練履歴の弱い状態のものを用いた素子(比較例6、10、13、及び16)においても温度130℃における抵抗値が小さいことが判った。このようなPTC素子は通電流が10Aに対して電流を遮断する機能を果たせずに、発熱により破壊するものが見られる。
【0057】
更に、実施例1乃至5に見られるように、1−2材料では、15分間の混練で、比エネルギーが0.06[kW・hr/kg]であった。この混練履歴において本発明の要件を全て満たす素子が得られた。1−3材料では、15分間の混練で比エネルギーが0.10[kW・hr/kg]および、30分間の混練で比エネルギーが0.18[kW・hr/kg]といった混練履歴であり、1−4材料では、30分間の混練で比エネルギーが0.31[kW・hr/kg]といった混練履歴、1−5材料は、30分間の混練で比エネルギーが0.35[kW・hr/kg]といった混練履歴で、本発明の要件を全て満たす素子が得られた。このことから、本発明のPTC素子は、カーボンの添加量が30〜40[体積%]の範囲、混練における比エネルギーは0.05〜0.50[kW・hr/kg ]の範囲に、本発明のPTC素子を得られる要件として好ましいことが判った。
そして、このようなPTC素子を装置に使用した場合には、周囲の温度60℃に達した場合でも装置に対する誤作動等が殆ど見られない。
【0058】
【発明の効果】
本発明に係る高分子組成物のシート体の表裏に金属が貼着されてなるPTC素子によれば、温度20℃における該素子の抵抗値R20[Ω]、温度60℃における該素子の抵抗値R60[Ω]、温度85℃における該素子の抵抗値R85[Ω]、及び温度130℃における該素子の抵抗値R130[Ω]とし、上述の式1乃至式3を満たすので、定常使用範囲の上限である温度60℃においても、室温域での導通性と殆ど変わりなく、使用装置への電流供給が十分に可能である。また温度85℃付近におけるトリップを十分に発現することができると共に、大電流の遮断機能も十分に有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のPTC素子および従来のPTC素子において、周囲温度による抵抗値の挙動をしめす特性線図である。
Claims (2)
- 上記シート体は、DBP吸油量(ASTM D2414−93の測定法に準拠する。)が120[cm3/100g]以下のカーボン粉末が30乃至40[体積%](真比重で換算した体積%を示す。)の範囲で含む混練物で、且つ混練における比エネルギーが0.05乃至0.50[kW・hr/kg]の範囲とされる混練物をシート化したものであることを特徴とする請求項1記載のPTC素子。
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JP2003076051A JP2004288714A (ja) | 2003-03-19 | 2003-03-19 | Ptc素子 |
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