JP2004277829A - 水素吸蔵合金 - Google Patents
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Abstract
【課題】低温下であっても実用的な圧力範囲で水素を多量に吸蔵することができ、かつ、低温下、大気圧以上の圧力で、吸蔵した水素を多量に放出できる水素吸蔵合金を提供する。
【解決手段】水素吸蔵合金を、ABn型(A:TiおよびZrの少なくとも一種、B:Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種、1.5<n<2.5)の組成で表され、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなり、単位格子の体積を示すパラメータS{S=√3・a2・c/2(Å3)、a:a軸格子定数(Å)、c:c軸格子定数(Å)}が、163<S<174となるよう構成する。
【選択図】 なし
【解決手段】水素吸蔵合金を、ABn型(A:TiおよびZrの少なくとも一種、B:Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種、1.5<n<2.5)の組成で表され、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなり、単位格子の体積を示すパラメータS{S=√3・a2・c/2(Å3)、a:a軸格子定数(Å)、c:c軸格子定数(Å)}が、163<S<174となるよう構成する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、可逆的に水素を吸蔵・放出することのできる水素吸蔵合金に関し、詳しくは、低温下での水素吸蔵放出量の大きい水素吸蔵合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、二酸化炭素の排出による地球の温暖化等の環境問題や、石油資源の枯渇等のエネルギー問題から、クリーンな代替エネルギーとして水素エネルギーが注目されている。水素エネルギーは、例えば、電気自動車用電源等に利用される燃料電池を始めとして、様々な用途への利用が期待されている。水素エネルギーの実用化にむけて、水素を安全に貯蔵・輸送する技術の開発が重要となる。なかでも、水素吸蔵合金は、水素を金属水素化物という安全な固体の形で貯蔵できることから、輸送可能な新しい貯蔵媒体として期待されている。
【0003】
これまで、既に数多くの水素吸蔵合金が開発されてきた。例えば、組成式Zr1−xTixCr2−yFey(x:0.2〜0.9、y:0.1〜1.5)で表される水素吸蔵合金が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】
特開昭60−218458号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載の水素吸蔵合金は、常温にて水素を吸蔵・放出できるものの、−40℃程度の低温では、水素をほとんど吸蔵・放出することができない。これは、特許文献1に記載の水素吸蔵合金の結晶における格子定数(a、c)の値が大きいことからも明らかである。このように、従来は、常温、常圧下で水素を吸蔵・放出できる合金の開発が主流であった。そのため、−40℃程度の低温下にて多量の水素を吸蔵・放出できる合金の開発は、ほとんど行われていない。つまり、これまでの水素吸蔵合金では、低温下で水素を充分に取り出すことができない。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、低温下であっても、実用的な圧力範囲で水素を多量に吸蔵することができ、かつ、低温下、大気圧以上の圧力で、吸蔵した水素を多量に放出できる水素吸蔵合金を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の水素吸蔵合金は、ABn型(A:TiおよびZrの少なくとも一種、B:Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種、1.5<n<2.5)の組成で表され、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなり、単位格子の体積を示すパラメータS{S=√3・a2・c/2(Å3)、a:a軸格子定数(Å)、c:c軸格子定数(Å)}が、163<S<174であることを特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明の水素吸蔵合金は、ABn型の組成で表され、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなる。そのため、水素を吸蔵・放出する際の結晶の相転移が少なく、水素の吸蔵・放出速度が大きい。また、通常、水素吸蔵合金を使用する前には、水素吸蔵合金を所定の温度、高圧水素下で保持する、いわゆる活性化処理が行われる。しかし、上記結晶構造を有する本発明の水素吸蔵合金では、活性化処理は不要となる。また、例えば、Ti、Crを構成元素とした場合には、本発明の水素吸蔵合金は、水素化に対して活性となる。この理由は特定されていないが、水素分子の吸着および水素原子への解離を促進する、いわゆる活性点が、酸化等の被毒に対して強いためと考えられる。
【0009】
また、本発明者は、水素吸蔵合金の結晶における単位胞の大きさ、つまり単位格子の体積に着目した。例えば、合金の単位格子の体積が大きい場合には、単位格子を構成する金属原子間の隙間は大きくなる。隙間が大きいと金属格子中に水素が入り易くなり、安定な金属水素化物を形成する。よって、合金の単位格子の体積が大きいほど、平衡水素圧(解離圧)は低くなる。反対に、単位格子の体積が小さい場合には、単位格子を構成する金属原子間の隙間は小さくなる。つまり、金属原子は密に詰まった状態となっている。このため、水素は金属格子中に入り難くなり、形成された金属水素化物は不安定となる。よって、合金の単位格子の体積が小さいほど、平衡水素圧は高くなる。
【0010】
本発明の水素吸蔵合金では、単位格子の体積を示すパラメータS(Å3)を、163<S<174とした。ここで、Sの計算式中のaおよびcは格子定数(Å=10−1nm)である。つまり、単位格子の体積を上記範囲とすることで、金属原子間の隙間の大きさが調整され、上記組成で表される合金の低温における平衡水素圧が最適化される。そのため、本発明の水素吸蔵合金は、低温下であっても実用的な圧力範囲で水素を多量に吸蔵することができ、かつ、低温下、大気圧以上の圧力で水素を多量に放出できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の水素吸蔵合金について詳細に説明する。なお、本発明の水素吸蔵合金は、下記の実施形態に限定されるものではない。本発明の水素吸蔵合金は、下記実施形態を始めとして、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0012】
上述したように、本発明の水素吸蔵合金は、ABn型(A:TiおよびZrの少なくとも一種、B:Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種、1.5<n<2.5)の組成で表され、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなり、単位格子の体積を示すパラメータS{S=√3・a2・c/2(Å3)、a:a軸格子定数(Å)、c:c軸格子定数(Å)}が、163<S<174であることを特徴とする。
【0013】
本発明の水素吸蔵合金は、ABn型(1.5<n<2.5)の組成を有する。金属Aは、TiおよびZrのいずれか少なくとも一種である。金属Aは、Ti、Zrのいずれか一方であってもよく、TiおよびZrの両方を含んでいてもよい。特に、水素吸蔵量が多く、六方晶系C14型結晶構造の相を多く含むという理由から、TiおよびZrの両方を含むことが望ましい。
【0014】
また、金属Bは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種である。金属Bは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wのいずれか一種であってもよく、また、これらから選ばれる二種以上を含んでいてもよい。特に、単位格子を所定の大きさに制御し易いという理由から、CrおよびFeを含むことが望ましい。また、水素吸蔵量を確保しつつ、単位格子を所定の大きさに制御するという観点から、CrおよびFeに加えて、MoおよびVのいずれか一方を含むことが望ましい。さらにまた、Co、Ni、Cu、Nbを含む場合には、平衡水素圧の平坦性の確保や微粉化の抑制に効果的である。そのため、CrおよびFeに加えて、Co、Ni、Cu、Nbから選ばれるいずれか一種以上を含むことが望ましい。
【0015】
本発明の水素吸蔵合金として、例えば、組成式(Ti1−xZrx)(Cr1−y−zFeyMz)n{M:MoおよびVの少なくとも一種、0≦x<0.7、0.1≦y<0.8、0≦z≦0.3、1.5<n<2.5}で表される合金が好適である。本合金において、Zrの原子比xが0の場合には、Ti(Cr1−y−zFeyMz)nとなる。また、Mの原子比zが0の場合には、(Ti1−xZrx)(Cr1−yFey)nとなる。さらに、x、zがともに0の場合には、Ti(Cr1−yFey)nとなる。また、例えば、組成式(Ti1−xZrx)(Cr1−y−zFeyM’z)n{M’:Co、Ni、Cu、Nbから選ばれる少なくとも一種、0≦x<0.7、0.1≦y<0.8、0≦z≦0.1、1.5<n<2.5}で表される合金が好適である。
【0016】
本発明の水素吸蔵合金では、単位格子の体積を示すパラメータS{S=√3・a2・c/2(Å3)}が163<S<174となる。Sが174Å3以上では、合金の単位格子の体積が大きいため、単位格子を構成する金属原子間の隙間は大きくなる。そのため金属水素化物は安定化し、平衡水素圧は低くなる。したがって、Sが174Å3以上の場合、低温下では、大気圧以上の圧力下で水素を充分に取り出すことはできない。低温下でより多量の水素を放出させるという観点から、Sを173Å3未満とすることが望ましい。さらに、Sを170Å3未満とするとより好適である。一方、Sが163Å3以下では、合金の単位格子の体積が小さいため、単位格子を構成する金属原子間の隙間は小さくなる。そのため金属水素化物は不安定となり、平衡水素圧は高くなる。したがって、低温下では、0.1〜35MPa程度の実用的な圧力範囲で水素を吸蔵することができない。低温下でより多量の水素を吸蔵させるという観点から、Sを163.7Å3以上とすることが望ましい。さらに、Sを164Å3以上とするとより好適である。
【0017】
本発明の水素吸蔵合金の製造方法は、特に限定されるものではない。アーク溶解法等の通常の合金の製造方法に従えばよい。すなわち、原料となる各金属を目的の組成となるように混合、溶解した後、凝固させるというプロセスに従えばよい。
【0018】
【実施例】
上記実施形態に基づいて、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなる種々の水素吸蔵合金を製造した。そして、製造した水素吸蔵合金に対して−40℃での水素吸蔵放出試験を行い、各々の水素吸蔵合金の有効水素量を測定した。以下、製造した水素吸蔵合金、および有効水素量の測定結果について説明する。
【0019】
(1)水素吸蔵合金の製造
下記表1に示す21種類の組成の水素吸蔵合金を、アーク溶解法にて製造した。まず、各々の合金組成に応じて、Ti、Cr等の各金属原料を秤量、混合した後、アルゴンガス雰囲気中、加熱炉にて溶解した。金属原料には、純度99%以上のものを使用した。また、合金の組成の均一化を図るため、溶解−冷却操作を3回繰り返した。次いで、得られた合金を石英チューブに真空封入し、管状炉にて、1000℃の温度下、10時間保持することにより均質加熱処理を行った。得られた水素吸蔵合金を粉砕し、その1gをステンレス鋼製のチューブに封入し、以下の有効水素量の測定に用いた。また、各々の水素吸蔵合金について、CuΚα線を用いた粉末法によるX線回折測定を行った。そして、X線回折パターンにおける(110)面の回折角から格子定数a(Å)を求め、(004)面の回折角から格子定数c(Å)を求めた。さらに、それら格子定数の値から、式[S=√3・a2・c/2]により、単位格子の体積S(Å3)を求めた。
【0020】
(2)有効水素量の測定
はじめに、製造した水素吸蔵合金を充填した上記チューブを、−40℃の液中に浸漬し、その状態でチューブ内を真空排気した。その後、チューブ内を水素加圧した。このように、チューブ内の真空排気と水素加圧とを繰り返し、チューブ内の水素吸蔵合金に水素が吸蔵されることを確認した。次に、チューブ内を真空排気した後、水素圧が9.8MPaとなるまで段階的に水素を供給し、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた。その後、大気圧(0.1MPa)まで水素を排気して、水素吸蔵合金から水素を放出させた。そして、水素圧力に対する水素吸蔵量および水素放出量との関係から、各々の水素吸蔵合金における圧力−組成等温線(PCT曲線)を求めた。これより、上記0.1〜9.8MPaの圧力範囲で、各々の水素吸蔵合金に吸蔵された後、同合金から放出された水素の質量を求め、該放出量を水素吸蔵合金の質量で除することにより、有効水素量(mass%)を算出した。表1に、各々の水素吸蔵合金の組成、格子定数、単位格子体積S、および有効水素量の値を示す。また、図1に、単位格子体積Sと有効水素量との関係をグラフで示す。
【0021】
【表1】
【0022】
表1および図1に示すように、単位格子体積S(Å3)が163<S<174である本発明の水素吸蔵合金の多くで、有効水素量が大きくなった。特に、単位格子体積S(Å3)が163.7≦S<173の場合に、有効水素量が大きいことがわかる。これより、本発明の水素吸蔵合金は、−40℃という低温下であっても水素を吸蔵することができ、かつ、低温下、大気圧以上の圧力で、吸蔵した水素を放出できることがわかる。これに対して、単位格子体積Sが163Å3以下、あるいは174Å3以上の#1、#3、#6、#14の水素吸蔵合金では、有効水素量が0〜0.1(mass%)程度であった。つまり、これらの水素吸蔵合金は、−40℃の低温下では、ほとんど水素を吸蔵・放出できなかった。以上より、所定の組成および結晶構造を有し、単位格子体積S(Å3)が163<S<174である本発明の水素吸蔵合金は、低温下においても優れた水素吸蔵・放出能を発揮し、実用的であることが確認された。よって、本発明の水素吸蔵合金は、例えば、自動車に搭載される燃料電池等の水素源として有用である。
【0023】
【発明の効果】
本発明の水素吸蔵合金は、ABn型(A:TiおよびZrの少なくとも一種、B:Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種、1.5<n<2.5)の組成で表され、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなり、単位格子の体積を示すパラメータS(Å3)が163<S<174である。単位格子の体積S(Å3)を163<S<174とすることで、合金の低温における平衡水素圧が最適化される。そのため、本発明の水素吸蔵合金は、低温下であっても実用的な圧力範囲で水素を多量に吸蔵することができ、かつ、低温下、大気圧以上の圧力で水素を多量に放出できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】−40℃における単位格子体積Sと有効水素量との関係を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、可逆的に水素を吸蔵・放出することのできる水素吸蔵合金に関し、詳しくは、低温下での水素吸蔵放出量の大きい水素吸蔵合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、二酸化炭素の排出による地球の温暖化等の環境問題や、石油資源の枯渇等のエネルギー問題から、クリーンな代替エネルギーとして水素エネルギーが注目されている。水素エネルギーは、例えば、電気自動車用電源等に利用される燃料電池を始めとして、様々な用途への利用が期待されている。水素エネルギーの実用化にむけて、水素を安全に貯蔵・輸送する技術の開発が重要となる。なかでも、水素吸蔵合金は、水素を金属水素化物という安全な固体の形で貯蔵できることから、輸送可能な新しい貯蔵媒体として期待されている。
【0003】
これまで、既に数多くの水素吸蔵合金が開発されてきた。例えば、組成式Zr1−xTixCr2−yFey(x:0.2〜0.9、y:0.1〜1.5)で表される水素吸蔵合金が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】
特開昭60−218458号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載の水素吸蔵合金は、常温にて水素を吸蔵・放出できるものの、−40℃程度の低温では、水素をほとんど吸蔵・放出することができない。これは、特許文献1に記載の水素吸蔵合金の結晶における格子定数(a、c)の値が大きいことからも明らかである。このように、従来は、常温、常圧下で水素を吸蔵・放出できる合金の開発が主流であった。そのため、−40℃程度の低温下にて多量の水素を吸蔵・放出できる合金の開発は、ほとんど行われていない。つまり、これまでの水素吸蔵合金では、低温下で水素を充分に取り出すことができない。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、低温下であっても、実用的な圧力範囲で水素を多量に吸蔵することができ、かつ、低温下、大気圧以上の圧力で、吸蔵した水素を多量に放出できる水素吸蔵合金を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の水素吸蔵合金は、ABn型(A:TiおよびZrの少なくとも一種、B:Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種、1.5<n<2.5)の組成で表され、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなり、単位格子の体積を示すパラメータS{S=√3・a2・c/2(Å3)、a:a軸格子定数(Å)、c:c軸格子定数(Å)}が、163<S<174であることを特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明の水素吸蔵合金は、ABn型の組成で表され、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなる。そのため、水素を吸蔵・放出する際の結晶の相転移が少なく、水素の吸蔵・放出速度が大きい。また、通常、水素吸蔵合金を使用する前には、水素吸蔵合金を所定の温度、高圧水素下で保持する、いわゆる活性化処理が行われる。しかし、上記結晶構造を有する本発明の水素吸蔵合金では、活性化処理は不要となる。また、例えば、Ti、Crを構成元素とした場合には、本発明の水素吸蔵合金は、水素化に対して活性となる。この理由は特定されていないが、水素分子の吸着および水素原子への解離を促進する、いわゆる活性点が、酸化等の被毒に対して強いためと考えられる。
【0009】
また、本発明者は、水素吸蔵合金の結晶における単位胞の大きさ、つまり単位格子の体積に着目した。例えば、合金の単位格子の体積が大きい場合には、単位格子を構成する金属原子間の隙間は大きくなる。隙間が大きいと金属格子中に水素が入り易くなり、安定な金属水素化物を形成する。よって、合金の単位格子の体積が大きいほど、平衡水素圧(解離圧)は低くなる。反対に、単位格子の体積が小さい場合には、単位格子を構成する金属原子間の隙間は小さくなる。つまり、金属原子は密に詰まった状態となっている。このため、水素は金属格子中に入り難くなり、形成された金属水素化物は不安定となる。よって、合金の単位格子の体積が小さいほど、平衡水素圧は高くなる。
【0010】
本発明の水素吸蔵合金では、単位格子の体積を示すパラメータS(Å3)を、163<S<174とした。ここで、Sの計算式中のaおよびcは格子定数(Å=10−1nm)である。つまり、単位格子の体積を上記範囲とすることで、金属原子間の隙間の大きさが調整され、上記組成で表される合金の低温における平衡水素圧が最適化される。そのため、本発明の水素吸蔵合金は、低温下であっても実用的な圧力範囲で水素を多量に吸蔵することができ、かつ、低温下、大気圧以上の圧力で水素を多量に放出できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の水素吸蔵合金について詳細に説明する。なお、本発明の水素吸蔵合金は、下記の実施形態に限定されるものではない。本発明の水素吸蔵合金は、下記実施形態を始めとして、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0012】
上述したように、本発明の水素吸蔵合金は、ABn型(A:TiおよびZrの少なくとも一種、B:Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種、1.5<n<2.5)の組成で表され、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなり、単位格子の体積を示すパラメータS{S=√3・a2・c/2(Å3)、a:a軸格子定数(Å)、c:c軸格子定数(Å)}が、163<S<174であることを特徴とする。
【0013】
本発明の水素吸蔵合金は、ABn型(1.5<n<2.5)の組成を有する。金属Aは、TiおよびZrのいずれか少なくとも一種である。金属Aは、Ti、Zrのいずれか一方であってもよく、TiおよびZrの両方を含んでいてもよい。特に、水素吸蔵量が多く、六方晶系C14型結晶構造の相を多く含むという理由から、TiおよびZrの両方を含むことが望ましい。
【0014】
また、金属Bは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種である。金属Bは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wのいずれか一種であってもよく、また、これらから選ばれる二種以上を含んでいてもよい。特に、単位格子を所定の大きさに制御し易いという理由から、CrおよびFeを含むことが望ましい。また、水素吸蔵量を確保しつつ、単位格子を所定の大きさに制御するという観点から、CrおよびFeに加えて、MoおよびVのいずれか一方を含むことが望ましい。さらにまた、Co、Ni、Cu、Nbを含む場合には、平衡水素圧の平坦性の確保や微粉化の抑制に効果的である。そのため、CrおよびFeに加えて、Co、Ni、Cu、Nbから選ばれるいずれか一種以上を含むことが望ましい。
【0015】
本発明の水素吸蔵合金として、例えば、組成式(Ti1−xZrx)(Cr1−y−zFeyMz)n{M:MoおよびVの少なくとも一種、0≦x<0.7、0.1≦y<0.8、0≦z≦0.3、1.5<n<2.5}で表される合金が好適である。本合金において、Zrの原子比xが0の場合には、Ti(Cr1−y−zFeyMz)nとなる。また、Mの原子比zが0の場合には、(Ti1−xZrx)(Cr1−yFey)nとなる。さらに、x、zがともに0の場合には、Ti(Cr1−yFey)nとなる。また、例えば、組成式(Ti1−xZrx)(Cr1−y−zFeyM’z)n{M’:Co、Ni、Cu、Nbから選ばれる少なくとも一種、0≦x<0.7、0.1≦y<0.8、0≦z≦0.1、1.5<n<2.5}で表される合金が好適である。
【0016】
本発明の水素吸蔵合金では、単位格子の体積を示すパラメータS{S=√3・a2・c/2(Å3)}が163<S<174となる。Sが174Å3以上では、合金の単位格子の体積が大きいため、単位格子を構成する金属原子間の隙間は大きくなる。そのため金属水素化物は安定化し、平衡水素圧は低くなる。したがって、Sが174Å3以上の場合、低温下では、大気圧以上の圧力下で水素を充分に取り出すことはできない。低温下でより多量の水素を放出させるという観点から、Sを173Å3未満とすることが望ましい。さらに、Sを170Å3未満とするとより好適である。一方、Sが163Å3以下では、合金の単位格子の体積が小さいため、単位格子を構成する金属原子間の隙間は小さくなる。そのため金属水素化物は不安定となり、平衡水素圧は高くなる。したがって、低温下では、0.1〜35MPa程度の実用的な圧力範囲で水素を吸蔵することができない。低温下でより多量の水素を吸蔵させるという観点から、Sを163.7Å3以上とすることが望ましい。さらに、Sを164Å3以上とするとより好適である。
【0017】
本発明の水素吸蔵合金の製造方法は、特に限定されるものではない。アーク溶解法等の通常の合金の製造方法に従えばよい。すなわち、原料となる各金属を目的の組成となるように混合、溶解した後、凝固させるというプロセスに従えばよい。
【0018】
【実施例】
上記実施形態に基づいて、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなる種々の水素吸蔵合金を製造した。そして、製造した水素吸蔵合金に対して−40℃での水素吸蔵放出試験を行い、各々の水素吸蔵合金の有効水素量を測定した。以下、製造した水素吸蔵合金、および有効水素量の測定結果について説明する。
【0019】
(1)水素吸蔵合金の製造
下記表1に示す21種類の組成の水素吸蔵合金を、アーク溶解法にて製造した。まず、各々の合金組成に応じて、Ti、Cr等の各金属原料を秤量、混合した後、アルゴンガス雰囲気中、加熱炉にて溶解した。金属原料には、純度99%以上のものを使用した。また、合金の組成の均一化を図るため、溶解−冷却操作を3回繰り返した。次いで、得られた合金を石英チューブに真空封入し、管状炉にて、1000℃の温度下、10時間保持することにより均質加熱処理を行った。得られた水素吸蔵合金を粉砕し、その1gをステンレス鋼製のチューブに封入し、以下の有効水素量の測定に用いた。また、各々の水素吸蔵合金について、CuΚα線を用いた粉末法によるX線回折測定を行った。そして、X線回折パターンにおける(110)面の回折角から格子定数a(Å)を求め、(004)面の回折角から格子定数c(Å)を求めた。さらに、それら格子定数の値から、式[S=√3・a2・c/2]により、単位格子の体積S(Å3)を求めた。
【0020】
(2)有効水素量の測定
はじめに、製造した水素吸蔵合金を充填した上記チューブを、−40℃の液中に浸漬し、その状態でチューブ内を真空排気した。その後、チューブ内を水素加圧した。このように、チューブ内の真空排気と水素加圧とを繰り返し、チューブ内の水素吸蔵合金に水素が吸蔵されることを確認した。次に、チューブ内を真空排気した後、水素圧が9.8MPaとなるまで段階的に水素を供給し、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた。その後、大気圧(0.1MPa)まで水素を排気して、水素吸蔵合金から水素を放出させた。そして、水素圧力に対する水素吸蔵量および水素放出量との関係から、各々の水素吸蔵合金における圧力−組成等温線(PCT曲線)を求めた。これより、上記0.1〜9.8MPaの圧力範囲で、各々の水素吸蔵合金に吸蔵された後、同合金から放出された水素の質量を求め、該放出量を水素吸蔵合金の質量で除することにより、有効水素量(mass%)を算出した。表1に、各々の水素吸蔵合金の組成、格子定数、単位格子体積S、および有効水素量の値を示す。また、図1に、単位格子体積Sと有効水素量との関係をグラフで示す。
【0021】
【表1】
【0022】
表1および図1に示すように、単位格子体積S(Å3)が163<S<174である本発明の水素吸蔵合金の多くで、有効水素量が大きくなった。特に、単位格子体積S(Å3)が163.7≦S<173の場合に、有効水素量が大きいことがわかる。これより、本発明の水素吸蔵合金は、−40℃という低温下であっても水素を吸蔵することができ、かつ、低温下、大気圧以上の圧力で、吸蔵した水素を放出できることがわかる。これに対して、単位格子体積Sが163Å3以下、あるいは174Å3以上の#1、#3、#6、#14の水素吸蔵合金では、有効水素量が0〜0.1(mass%)程度であった。つまり、これらの水素吸蔵合金は、−40℃の低温下では、ほとんど水素を吸蔵・放出できなかった。以上より、所定の組成および結晶構造を有し、単位格子体積S(Å3)が163<S<174である本発明の水素吸蔵合金は、低温下においても優れた水素吸蔵・放出能を発揮し、実用的であることが確認された。よって、本発明の水素吸蔵合金は、例えば、自動車に搭載される燃料電池等の水素源として有用である。
【0023】
【発明の効果】
本発明の水素吸蔵合金は、ABn型(A:TiおよびZrの少なくとも一種、B:Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種、1.5<n<2.5)の組成で表され、六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなり、単位格子の体積を示すパラメータS(Å3)が163<S<174である。単位格子の体積S(Å3)を163<S<174とすることで、合金の低温における平衡水素圧が最適化される。そのため、本発明の水素吸蔵合金は、低温下であっても実用的な圧力範囲で水素を多量に吸蔵することができ、かつ、低温下、大気圧以上の圧力で水素を多量に放出できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】−40℃における単位格子体積Sと有効水素量との関係を示すグラフである。
Claims (2)
- ABn型(A:TiおよびZrの少なくとも一種、
B:Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、V、Mn、Wから選ばれる少なくとも一種、1.5<n<2.5)の組成で表され、
六方晶系C14型結晶構造を有するラーベス相からなり、
単位格子の体積を示すパラメータS{S=√3・a2・c/2(Å3)、a:a軸格子定数(Å)、c:c軸格子定数(Å)}が、163<S<174である水素吸蔵合金。 - 組成式(Ti1−xZrx)(Cr1−y−zFeyMz)n
{M:MoおよびVの少なくとも一種、0≦x<0.7、0.1≦y<0.8、0≦z≦0.3、1.5<n<2.5}で表される請求項1に記載の水素吸蔵合金。
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JP2016223921A (ja) * | 2015-05-29 | 2016-12-28 | 国立大学法人名古屋大学 | 水素吸蔵量測定方法および水素吸蔵量測定装置 |
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CN114645179A (zh) * | 2022-03-01 | 2022-06-21 | 江苏集萃安泰创明先进能源材料研究院有限公司 | 25MPa初级氢压缩机用储氢合金及制备方法 |
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2003
- 2003-03-17 JP JP2003072123A patent/JP2004277829A/ja active Pending
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