JP2001271130A - 水素貯蔵合金 - Google Patents

水素貯蔵合金

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JP2001271130A
JP2001271130A JP2000084135A JP2000084135A JP2001271130A JP 2001271130 A JP2001271130 A JP 2001271130A JP 2000084135 A JP2000084135 A JP 2000084135A JP 2000084135 A JP2000084135 A JP 2000084135A JP 2001271130 A JP2001271130 A JP 2001271130A
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hydrogen
hydrogen storage
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hydride
pressure
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JP2000084135A
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English (en)
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Yumiko Nakamura
優美子 中村
Etsuo Akiba
悦男 秋葉
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National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST
Original Assignee
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST
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Abstract

(57)【要約】 【課題】高い水素吸蔵能を有すると共に水素放出特性に
優れ、エネルギーキャリアとして有効に利用できる水素
貯蔵量が著しく高められた、体心立方構造を有する水素
吸蔵合金を提供する 。 【解決手段】水素吸蔵前は体心立方構造を有する固溶体
合金であって、水素吸蔵時には少なくとも体心平方構造
の金属格子を有する水素化物相を形成すると共に温度範
囲約 0〜100℃、圧力範囲約0.01〜5MPaの条件下におけ
る圧力−組成等温線において2つのプラトー領域を示す
水素吸蔵合金。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、体心立方構造を有
する水素吸蔵合金に関し、特に常温常圧付近で体心正方
構造または歪んだ面心立方構造をもつ水素化物を形成
し、水素含有量の少ない領域での水素放出特性に優れ、
有効に利用できる水素貯蔵量の大きい水素吸蔵合金に関
する。
【0002】
【従来の技術】地球環境問題の観点から、化石燃料に替
わる新しいエネルギーとして、太陽光、水力、風力など
の自然エネルギーの利用が提案されている。しかし、そ
れらの利用に際しては、そのエネルギーの貯蔵・輸送媒
体が必要不可欠である。自然エネルギーを利用して発電
した電気によって水を電気分解し、得られた水素をエネ
ルギー媒体として用いるシステムは、生成物が水である
という点でクリーンエネルギーとして注目されている。
また、近年、自動車や中規模集合住宅用の高効率な発電
装置として燃料電池システムの実用化研究が急ピッチで
進められており、その燃料としても水素は不可欠なエネ
ルギー媒体である。
【0003】近年、水素吸蔵合金は、合金自身の体積の
約1000倍以上の水素ガスを吸蔵し貯蔵することが可能で
あることから、水素の貯蔵・輸送手段の有力な候補の1
つに挙げられている。この合金中に貯蔵された水素の体
積密度は、液体水素あるいは固体水素とほぼ同等かある
いはそれ以上にも相当する。特に、V、 Nb、 TaやTi-V
合金などの体心立方構造(以下BCC構造と呼称する)の
金属材料では、最も多く水素を吸蔵したときの水素吸蔵
量が水素原子数と金属原子数の比(H/M)で約2 H/Mに達
し、すでに実用化されているLaNi5などのAB5型合金や
TiMn2などのAB2型合金の最大水素吸蔵量約1 H/Mに比
べて2倍近く大きい。この水素吸蔵量は、原子量50程度
のTiやVなどを構成元素とする合金では約4重量%に相
当するため、重量密度で見ても大きな吸蔵量を示すもの
として、貯蔵材料への応用が期待されている。
【0004】しかしながら、これらのBCC構造をもつ純
金属或いは合金はその水素吸蔵能に優れてはいるが、常
温常圧下における水素放出能に劣るという問題を包含し
ている。例えば、純V金属は、常温、数気圧の水素下で
約2 H/Mの水素を吸収するが、その約半分は常温常圧下
で放出するものの、残り半分は金属中に残存してしま
う。この特性は同じ周期表の5A族の元素のNbやTaにおい
ても同様である。また、Ti-V系などのBCC構造を有する
成分範囲の合金についても、基本的にこの特性を変える
ものは見い出されていない。
【0005】すなわち、これらのBCC純金属およびBCC合
金は、吸蔵量は多いものの、その放出が少なく、残存す
る水素量が多いため、実用上、利用できる水素貯蔵量が
少ないという欠点をもっている。また、利用できる貯蔵
量が少ないことに加え、例えば特開平09−31585
号公報でも指摘されているように、反応速度が遅く、活
性化が困難であるという問題点から、実用化に適さない
とされてきた。
【0006】これらの問題点を解決するため、同公報で
は、スピノーダル分解という現象を利用して、ナノメー
トルスケールの周期構造をもつ微細な金属組織を作り上
げることにより、実用に耐えるBCC合金を作製可能であ
ることを開示している。しかしながら、上記公報で提案
されたBCC合金は、従来公知の合金に比べその水素吸蔵
能、水素放出能、反応速度などの諸特性が著しく改善さ
れたものであるが、依然として水素放出能が不十分であ
り、その更なる改善が求められるものであった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、高い水素吸
蔵能を有すると共に水素放出特性に優れ、エネルギーキ
ャリアとして有効に利用できる水素貯蔵量が著しく高め
られた、体心立方構造を有する水素吸蔵合金を提供する
ことを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、水素吸蔵
合金の特性を改善すべく様々な実験とその推敲を重ねた
結果、水素吸蔵前の結晶構造が同じBCC合金であっても
その水素吸蔵・放出特性に著しく異なるものがあること
を見出し、更なる研究を進めた結果、その特性の違いは
意外にも水素吸蔵時に形成する水素化物の結晶構造の相
違に帰因することを知見し、本発明を完成するに至っ
た。すなわち、本発明によれば、少なくとも二種以上の
合金成分からなり、水素吸蔵前は体心立方構造を有する
固溶体合金であって、水素吸蔵時には少なくとも体心平
方構造の金属格子を有する水素化物相を形成すると共に
約0〜100℃及び約0.01〜5MPaの条件下にお
ける圧力−組成等温線において、2つのプラトー領域を
示すことを特徴とする水素吸蔵合金が提供される。
【0009】本発明の水素吸蔵合金は、水素吸蔵前は体
心立方構造を有する固溶体合金であって、水素吸蔵時に
は少なくとも体心平方構造の金属格子を有する水素化物
相を形成すると共に0〜100℃及び0.01〜5MP
aの条件下における圧力−組成等温線において2つのプ
ラトー領域を示すことを特徴としている。
【0010】なお、本発明でいう、体心平方構造(以
下、BCT構造ともいう)の金属格子を有する水素化物相
とは、金属原子のつくる結晶格子の最小単位である単位
胞が直方体形であり、その3辺のうち2辺の長さが等し
く、他の1辺の長さが異なるもので、その直方体の8つ
の角の位置および体対角線の中点の位置に金属原子が配
置された構造をもつ水素化物相と定義される。この結晶
格子の大きさは、上記2辺の長さに相当する格子定数a
と残り1辺の長さに相当する格子定数cにより定めるこ
とができる。格子定数aとcの間に、c=(√2) a の関係
が成り立つとき、この構造は、1辺が(√2)aの面心立
方構造(以下、FCC構造ともいう)と同等になる。すな
わち、FCC構造は、c=(√2) a を満たすBCT構造とし
て、BCT構造に含まれる。また、BCT構造においてcの値
が(√2)aに近くなると、結晶格子はFCC構造に近づくた
め、これをFCC構造の格子が一方向(c軸方向)に短くな
った構造(以下、歪んだFCC構造と呼称する)とみなす
ことも可能である。 よって、本発明においては、BCT
構造は、歪んだFCC構造をも包含する。また、上記BCT構
造は、定義上は各軸のなす角度が直角である直方体形の
構造を指すが、水素吸蔵により、それらの角度が直角か
ら若干ずれて歪む場合がある。本発明は、このような若
干の歪みを伴うBCT構造をも含めるものとする。
【0011】また、圧力―組成等温線は、水素吸蔵合金
の水素吸蔵特性を示すものであり、プラトー領域とは、
圧力―組成等温線において、その領域の外側の部分に比
べて曲線の勾配が明らかに平坦になっている部分を指
す。本発明の合金は、常温常圧付近に2つのプラトー領
域をもつことを特徴とする。
【0012】本発明でいう、圧力―組成等温線とは、常
温常圧付近において通常の装置で圧力―組成等温線が測
定できる条件、すなわち、温度範囲約 0〜100℃、圧力
範囲約0.01〜5MPaの条件下において、測定されるものを
意味する。その理由は、水素吸蔵合金を水素貯蔵材料と
して利用する場合、水素吸蔵・放出条件が少なくとも上
記範囲にあることが要求されるためである。
【0013】本発明者らは、公知の水素吸蔵合金の特性
データを検討するとともに自ら研究を重ねた結果、BCC
構造を有する純金属または合金の場合、水素化前の構造
が同じBCC構造を有するものであっても、水素吸蔵時に
形成される水素化物の構造は必ずしも同じでないことを
突き止めた。更に、これらの検証結果と、水素化物の構
造が異なると水素化物の安定性及び圧力−組成等温線の
形が異なるという事実を踏まえ、更に検討を進めた結
果、水素吸蔵前はたとえ同じBCC構造を有する合金であ
っても、水素吸蔵時には異なる構造の水素化物を形成す
る合金は、それぞれ異なる水素吸蔵・放出特性を示すは
ずとの知見を得た。更なる検討を進めた結果、BCC構造
を有する水素吸蔵合金の中でも、水素吸蔵時に少なくと
もBCT構造の金属格子を有する水素化物相を形成すると
共に温度範囲約 0〜100℃、圧力範囲約0.01〜5MPaの条
件下における圧力−組成等温線において2つのプラトー
領域を示す、特有な合金が、特に高い水素吸蔵能を有す
ると共に水素含有量の少ない領域での水素放出特性に優
れ、有効に利用できる水素貯蔵量が大きい、との結論に
達したのである。
【0014】本発明に係る水素吸蔵合金の水素吸蔵時の
圧力−組成等温線は典型的には図2に示される。図2に
おいて、I、II及びIIIは3種の異なる水素化物領域を表
し、X及びYは二つの異なるプラトー領域を表している。
通常、圧力―組成等温線において、勾配の大きい部分は
ある1つの水素化物が存在し、その水素化物中の水素固
溶量(水素含有量)のみが変化する。一方、平坦なプラ
トー領域は、その両端の2つの水素化物相の共存状態を
示し、各水素化物中の水素固溶量は変化せずに2つの水
素化物相の相分率が変化する。よって、1つの合金相が
プラトー領域を2つ示すという上記の測定結果は、本合
金は、通常の測定可能範囲において、3種類の異なる水
素化物(I、II、III)を形成することを示しており、ま
た本発明者らの実験によっても裏付けられている。
【0015】すなわち、本発明者らが、プラトー領域を
挟む3つの状態の水素化物(I、II、III)をそれぞれ作
製し、その結晶構造をX線回折プロファイルにより調べ
たところ、これら3つの状態はいずれも単相の水素化物
を形成しており、水素化物の金属原子のつくる結晶格子
の構造は、それぞれ、I;BCC(体心立方構造)、II; B
CT(体心正方構造)、III; FCC (面心立方構造) であ
ることが明らかとなった。
【0016】本発明の水素吸蔵合金は、前述したよう
に、水素吸蔵前は体心立方構造を有する固溶体合金であ
って、水素吸蔵時には少なくとも体心平方構造の金属格
子を有する水素化物相を形成すると共に温度範囲約 0〜
100℃、圧力範囲約0.01〜5MPaの条件下における圧力−
組成等温線において2つのプラトー領域を示す事によっ
て特徴づけられるものである。
【0017】この場合、固溶体合金は、少なくとも二種
以上の合金成分からなり、水素吸蔵前は体心立方構造を
有するもので、合金成分に特別な制約はないが、TiとV
を含むものが好ましく使用され、更に好ましくは、合金
組成が一般式、Tix Vy Mnz (但し、0.3<x<
2.6、0.3<y<2.6、0.1<z<2.4、x
+y+z=3.0、x、yおよびzはモル分率)で表さ
れるものが望ましい。また、本発明において、好ましい
体心平方構造(BCT構造)の金属格子を有する水素化物
相は、格子定数cが、0.35nm以上、0.41nm以下 のもので
ある。
【0018】本発明の合金が、温度範囲約 0〜100℃、
圧力範囲約0.01〜5MPaの条件下における圧力−組成等温
線において2カ所のプラトー領域を示すという特徴を有
するのは、新規なBCT構造の水素化物の形成に起因す
る。これまでに報告されているBCT構造の水素化物は、
純V金属あるいはVを主成分とする固溶体合金の水素化物
であり、例えば、図6に示す純V金属の場合の水素化物
(II)に相当する。その格子定数は、a=0.30nm程度、c=0.
33nm程度であり、水素化前の合金に比べ、a軸方向には
ほとんど膨張せず、c軸方向に10%程度膨張したものであ
る。このようなBCT構造の水素化物は、常温では水素を
放出しないため、通常条件下での圧力−組成等温線では
1つのプラトー領域しか示さず、本発明のような有効水
素貯蔵量を高める効果は発揮しない。
【0019】これに対して、図2における、本発明の水
素化物(II)のBCT構造は、格子定数がa=0.29nm、 c=0.39
nmであり、水素化前に比べ、a軸方向には縮小すると共
にc軸方向に30%近く膨張している。この場合の金属格子
は、格子定数が(√2)aのFCC構造がc軸方向に5%程度縮
小した構造に相当することから、歪んだFCC構造とみな
すこともできる。この歪んだFCC構造は、水素化物(III)
のFCC構造に比べ、格子定数が0.02nm小さいものであ
る。本発明のような構造の水素化物は、これまでに報告
例がない。
【0020】また、X線回折測定では、金属格子の構造
は決定できるものの、格子中に存在する水素の位置を判
別することはできないので、本発明のBCT構造をもつ水
素化物(II)の水素の存在状態を中性子線の散乱測定によ
り調べた。その結果、水素化物(II)の振動励起エネルギ
ーのスペクトルは、100meV付近にピークを示した。この
値は、純V金属またはVを主成分とする合金のつくるBCT
構造の水素化物の報告値(30-50meV付近;水素原子の位
置は金属原子のつくる8面体の中心)と、FCC構造の水
素化物の報告値(140-150meV付近;水素原子の位置は金
属原子のつくる4面体の中心)の中間の値である。よっ
て、本発明の水素化物(II)の水素原子の存在状態は、
既知のBCT構造の水素化物および既知のFCC構造の水素化
物とは明確に区別されるものである。
【0021】従って、本発明に係るBCT構造を有する水
素化物は、格子定数および水素原子の存在状態に関して
既知の水素化物と区別される新規な水素化物であり、こ
の新規な構造の水素化物を形成することが、圧力−組成
等温線すなわち水素吸蔵・放出特性に特有の効果をもた
らすものである。
【0022】本発明に係る水素吸蔵合金は、水素吸蔵時
に少なくとも体心平方構造の金属格子を有する水素化物
相を形成し、かつ温度範囲約 0〜100℃、圧力範囲約0.0
1〜5MPaの条件下における圧力−組成等温線において2
つのプラトー領域を示す、特性が保持される作製条件す
なわちその成分組成や反応条件等を適宜選定することに
より例えば以下のように作製すればよい。合金成分の純
金属の粉末または小片を、所望とする合金組成の比に従
って秤量し、よく混合して成形する。溶解時に揮発しや
すい元素成分を含む場合は、金属原料の秤量時に、揮発
による減少分を見込む必要がある。またこの減少分は、
溶解の金属の量や炉の大きさ等に依存するので、個々の
作製条件に応じて適宜選定しておくことが好ましい。次
に得られた成形物を、水冷式銅るつぼを備えたアーク溶
解炉に導入し、炉内を10-5Torrまで真空引きした後、高
純度のアルゴンガスを1.0MPaの圧力まで導入する。この
場合、試料に酸素が混入するのを防止するために、試料
の溶解に先立ち、Ti金属などの酸素捕捉剤を十分、添加
・溶解させておき、炉内に残存する微量の酸素を除去し
ておくことが望ましい。その後、試料をなるべく短時間
で十分に溶解させ、試料が固化したら裏返し、さらに2
〜3回溶解を繰り返すことによって、所望とする水素吸
蔵合金を得ることができる。また、本発明の合金の作製
にあっては、上記アーク溶解法の他に高周波誘導溶解法
なども適用でき、更に合金組成によっては溶解法のみな
らず焼結法を採用することもできる。また、本発明にお
いては、これらの方法で合金を製造した後、さらに数10
0℃〜約1300℃の間の温度で熱処理を行うことも効果的
である。更に、合金を溶解させた後の固化・冷却速度あ
るいは焼結・熱処理時の温度、時間条件、冷却速度など
が固溶体合金の特性に影響を及ぼすことから、これらの
諸条件と合金を構成する元素、組成を適宜選定すること
が好ましい。
【0023】次に、本発明に係る水素吸蔵合金の特性に
ついて説明する。まず、従来公知の純金属・合金につい
ての問題点を検討してみる。周知のように、水素化前の
構造がBCCである純金属は、常温付近において、ごく低
圧の水素を多量に吸蔵する性質をもつ。たとえば、Vの
場合、図5の圧力−組成等温線に示されるように、常温
では、常圧下で約1 H/Mの水素を吸蔵量する。この低圧
で生成した水素化物中の水素は非常に安定なため、数百
℃まで昇温しないと放出されない。したがって、低圧で
吸蔵された分の水素は、一旦吸蔵された後は実質的に水
素の吸蔵・放出に寄与しないため、水素貯蔵には利用で
きないものである。この利用できない水素量(残存水素
量)は、圧力−組成等温線中では、図5中の矢印Aの部
分に相当し、約0.8H/Mである。Vの場合、もっとも多く
水素を吸蔵した状態では、吸蔵量2.0H/Mであるから、有
効水素貯蔵量(B)は2.0 H/M−0.8H/M=1.2 H/M、有効
水素貯蔵率(%)はB/(A+B)×100=1.2/2.0×1
00=60%となる。また、他のBCC構造をもつ純金属や固
溶体合金の場合も、低圧で多量の水素を吸蔵する性質は
Vの場合に類似しており、やはり、約 1 H/M相当の水素
は、一度吸蔵されると常温付近では放出されない。すな
わち、従来既知のこれらの金属または合金は、実質的に
水素の吸蔵・放出に寄与しない、低圧で吸蔵される水素
量が多く、利用可能な水素貯蔵量(有効水素貯蔵量)が
小さく、また有効水素貯蔵率が低いのである。
【0024】これに対して、本発明の合金は、上述した
既知のBCC構造の純金属やBCC構造の固溶体合金に比べ、
上記の残存水素量(A)を小さくすることができ、有効
水素貯蔵量(B)及び有効水素貯蔵率[B/(A+
B)]を著しく高めることができる。因みに、後記する
本発明の実施例に係る合金の残存水素量(A)は0.4H/
M、有効水素貯蔵量(B)は1.2H/M、有効水素貯蔵率
[B/(A+B)]は75%となり、従来の合金に比べそ
の残存水素量が小さく、有効水素貯蔵率が大幅に高めら
れていることが確認されている。
【0025】本発明の奏するこのような作用効果は、現
時点では定かではないが、水素吸蔵時に形成されるBCC
構造の水素化物(図2における水素化物(I))およびBCT
構造の水素化物(図2における水素化物(II))の安定性
に関連するものと推定される。これまでに報告されてい
るBCC合金の水素化に伴う結晶構造変化は大きく2つの
種類に分けられる。
【0026】1つは、前述の純V金属と同じように、ご
く低い水素圧力下でBCC構造からBCT構造に変化し、常圧
以上の水素圧力下でBCT構造からFCC構造に変化するもの
で、これはVを主成分とする固溶体合金にみられる。こ
の場合は、3種類の水素化物を形成するのであるから本
来2つのプラトー領域が示されるはずであるが、BCT構
造の水素化物(図6中 水素化物(I’’))が非常に安
定であり、これを形成する水素圧力が通常の測定範囲よ
りずっと低いところ(特殊な方法での測定によれば、純
V金属の場合で約1Pa (10-6MPa))にあるため、通常の
圧力−組成等温線では、1つのプラトー領域しか示さな
い。結果として、BCT構造の水素化物を形成しても、残
存水素量を低減する効果は生じない。
【0027】もう1つは、水素圧力が常圧付近に達する
までは、BCC構造を維持したまま水素固溶量だけが増
え、常圧以上の水素圧力下でBCC構造から直接FCC構造へ
と変化するものである(例えば、後述の比較例1(図
4))。2種類の水素化物しか形成しないため、圧力−
組成等温線において1つのプラトー領域しか示さない。
この場合は、BCC構造の水素化物(I’)が多くの水素を固
溶しても安定に存在するため、圧力―組成等温線におい
てBCC構造の領域(図4中水素化物(I’)の領域)が広
く、残存水素量が大きくなってしまうのである。
【0028】これに対し、本発明の合金は、格子定数と
水素原子の存在状態に関して既知のものとは異なるBCT
構造の水素化物を形成し、この水素化物は常温常圧付近
でBCC構造の水素化物と同程度の安定性をもつと考えら
れる。そのため、BCT構造の水素化物を形成する水素圧
力が常圧近くにまで高まり、図2のようにBCC構造の水
素化物相(I)とBCT構造の水素化物相(II)が共存するプラ
トー領域(水素化物(I+II)の領域)が圧力−組成等温線
上に現れ、この領域も水素の吸蔵・放出に利用可能とな
る。すなわち、本発明では、常圧に近い水素圧力で、BC
C構造の水素化物(I)と同程度の安定性をもつBCT構造の
水素化物(II)を形成させることができたために、水素固
溶量の少ない領域に2つ目のプラトー領域をつくること
ができ、この領域を水素の吸蔵・放出に利用可能とし
た。その結果として、残存水素量が少なく有効な水素貯
蔵量の多い水素吸蔵合金が実現できたものである。
【0029】
【実施例】以下、本発明を実施例により更に詳細に説明
する。
【0030】実施例1 組成Ti1.00V1.10Mn0.94に相当する各金属
材料20gを秤量し、混合し、アーク炉内に導入した、ア
ルゴン雰囲気中、常時水冷された銅製るつぼ上で、アー
ク放電により溶解した。アーク溶解は、金属がすべて溶
けて攪拌されるために必要充分な短時間で行い、その
後、素早く冷却・固化させた。固化した試料を裏返して
再び溶解する操作を3回繰り返した。鋳造した合金イン
ゴットを空気中で粉砕し、水素化前の構造解析用試料と
した。水素化試験は、次のように行った。活性化処理と
して、80℃、約1Paまでの真空引きと50atmの水素加圧
を3回繰返し行った後、容積法による圧力組成等温線測
定法(JIS H7201)に規定されている真空原点
法で、合金の水素吸蔵放出特性の測定を行った。真空原
点は、500℃、1Paの状態とした。吸蔵曲線は25℃、放出
曲線は100℃で測定した。その結果を図1に示す。吸蔵
・放出曲線とも、測定圧力範囲で明瞭な2ヶ所のプラト
ー領域を示した。100℃、0.01MPaまで放出させたときの
残存水素量(図1中A)は0.4H/Mで、有効水素吸蔵量
(図1中B)は1.2H/Mであった(有効水素貯蔵率75
%)。また、圧力組成等温線上の各点(図2中I、 II、
III)の状態の水素化物を別途作製し、構造解析に供し
た。合金および水素化物の構造を調べるために、主に粉
末X線回折測定データをもとに結晶構造解析を行った。
その結果、各水素化物の金属格子の構造は、水素化物
(I)は歪んだBCC構造、水素化物(II)はBCT構造(歪んだF
CC構造)、水素化物(III)はFCC構造をとることがわかっ
た。水素化物(II)の格子定数は、a=0.288nm、 c=0.389n
mであり、歪んだFCC構造とみなした場合の格子定数は、
0.408nmであった。
【0031】比較例1 組成Ti1.20V1.65Mn0.15に相当する各種金
属材料を秤量し、真空中、高周波誘導溶解により約1k
gの合金インゴットを得た。鋳造した合金インゴットを
空気中で粉砕し、水素化前の構造解析用試料とした。実
施例1と同様の方法で水素化試験および圧力組成等温線
の測定(吸蔵:25℃、放出:100℃)を行った。その結
果を図3に示す。水素吸蔵・放出曲線は、測定圧力範囲
では、1ヶ所のプラトー領域しか示さなかった。100
℃、0.01MPaまで放出させたときの残存水素量(図3中
A)は0.9H/Mで、有効水素吸蔵量(図3中B)は0.9H/M
であった(有効貯蔵水素貯蔵率50%)。また、圧力組成
等温線上の各点(図4中I’、 II’)の状態の水素化物
を別途作製し、構造解析に供した。合金および水素化物
の構造を調べるために、粉末X線回折測定データをもと
に結晶構造解析を行った。その結果、各水素化物の金属
格子の構造は、水素化物(I’)は歪んだBCC構造、水素化
物(II’)はFCC構造をとることがわかった。
【0032】
【発明の効果】本発明の水素吸蔵合金は、特に常温常圧
付近で体心正方構造または歪んだ面心立方構造をもつ水
素化物を形成し、水素含有量の少ない領域での水素放出
特性に優れ、エネルギーキャリアとして有効に利用でき
る水素貯蔵量の大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1で得られる合金の水素吸蔵時
の水素吸蔵・放出特性の説明図。
【図2】本発明の実施例1で得られる合金の結晶構造の
説明図。
【図3】比較例1で得られる合金の水素吸蔵・放出特性
の説明図。
【図4】比較例1で得られる合金の水素吸蔵時の結晶構
造の説明図。
【図5】純V金属の水素吸蔵時の水素吸蔵・放出特性の
説明図。
【図6】純V金属の結晶構造の説明図。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】少なくとも二種以上の合金成分からなり、
    水素吸蔵前は体心立方構造を有する固溶体合金であっ
    て、水素吸蔵時には少なくとも体心平方構造の金属格子
    を有する水素化物相を形成すると共に0〜100℃及び
    0.01〜5MPaの条件下における圧力−組成等温線
    において2つのプラトー領域を示すことを特徴とする水
    素吸蔵合金。
  2. 【請求項2】合金成分にTiとVを含むことを特徴とす
    る請求項1の水素吸蔵合金。
  3. 【請求項3】合金組成が一般式、Tix Vy Mnz (但
    し、0.3<x<2.6、0.3<y<2.6、0.1
    <z<2.4、x+y+z=3.0、x、yおよびzは
    モル分率)で表されることを特徴とする請求項1又は2
    の水素吸蔵合金。
  4. 【請求項4】体心平方構造(BCT構造)の金属格子を有
    する水素化物相の格子定数cが、0.35nm以上、0.41nm以
    下 のものであることを特徴とする請求項1乃至3何れ
    か記載の水素貯蔵合金。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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