JP2004273072A - 熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を使用した磁気記録媒体用基板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】表面の欠陥や微小うねり等が少なく表面精度に優れ、また機械強度に優れ、さらに形状安定性等の信頼性に優れた磁気記録媒体用基板、その基板を用いた磁気記録媒体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】機械強度の異なる材料からなる少なくとも二層以上の構造を有する磁気記録媒体用基板であって、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度が大きい材料からなる基板上に熱可塑性樹脂層を有し、該熱可塑性樹脂が
【化1】
一般式1および2(式中m,nは1以上の整数を表す)で示されるいずれか一方の構造単位あるいは両構造単位を有する熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂である磁気記録媒体用基板。
【選択図】 図1
【解決手段】機械強度の異なる材料からなる少なくとも二層以上の構造を有する磁気記録媒体用基板であって、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度が大きい材料からなる基板上に熱可塑性樹脂層を有し、該熱可塑性樹脂が
【化1】
一般式1および2(式中m,nは1以上の整数を表す)で示されるいずれか一方の構造単位あるいは両構造単位を有する熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂である磁気記録媒体用基板。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス基板上に熱可塑性樹脂を配してなる磁気記録用基板、および該基板を使用した磁気記録媒体および該磁気記録媒体の製造方法に関する。さらに本発明は、コンピュータ外部記憶装置およびその他のデジタルデータの各種磁気記録装置に搭載される、ガラス基板上に熱可塑性樹脂を配してなる磁気記録媒体用基板、並びに、該基板を使用した磁気記録媒体およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録媒体を使用する記録装置の大容量化に伴って、記録密度の向上のために磁気ヘッド浮上量の低減が図られている。この磁気ヘッド浮上量を低減するためには、平滑性に優れた磁気記録媒体、即ち高い表面精度を有する磁気記録媒体が要求される。
【0003】
例えば、従来の非磁性金属基板(Al等)を使用する場合には高度な精密加工が要求されており、非磁性金属基板を使用した磁気記録媒体用基板および磁気記録媒体の製造方法の一例を示すと以下の通りである。
【0004】
非磁性金属基板には一般的に、加熱溶融した金属材料を圧延、加熱焼鈍したのち、規定の寸法に加工が行われたブランク材が用いられる。このブランク材は内外径処理を施され、表面精度向上のためのラッピング加工が行われる。この後、該ブランク材には、表面硬度を向上させるなどの目的で13μmのNi−Pメッキ層が形成される。このNi−Pメッキ層の表面は、ポリッシュで表面粗さがRa=1nmになるように研磨され、次いで研磨表面にダイアモンドスラリーを使用して、最終ラッピング加工が行われる。得られた基板には、コンタクトスタートストップ(CSS)ゾーンに、例えばバンプハイトが19nm、バンプ密度が30×30になるようにレーザーゾーンテクスチャーが施される。次に、この基板を精密洗浄することにより、磁気記録媒体用基板が得られる。
【0005】
この磁気記録媒体用基板に、DCスパッタ法により50nmの下地Cr層、30nmのCo−14−Cr−4Ta磁性層、および8nmのカーボン保護層を順次形成する。さらにスパッタ後の表面にテープバニッシュを行い、次にディップコート法またはスピンコート法によりフッ素系潤滑層を2nm形成し、磁気記録媒体を得ることができる。
【0006】
上記のような、従来の非磁性金属基板を用いた磁気記録媒体用基板および磁気記録媒体の製造方法は、近年の高密度化の要求とともに一層複雑化しているのが現状である。さらに高機能を維持したままで、従来以上に安価な磁気記録媒体を提供することも要求されている。この相反する要求を解決する新規な磁気記録媒体として、熱可塑性樹脂を磁気記録媒体用基板に用いた磁気記録媒体が提案されている。
【0007】
プラスチック製磁気記録媒体用基板を成形技術によって作製し、CSSゾーンや磁気ディスクにサーボマークをプリフオームする凹凸パターンを成形時に同時に形成する方法は、生産性に優れ工業的にも有利であり、その結果、安価な磁気記録媒体を提供することが可能である。
【0008】
しかし、プラスチック製磁気記録媒体用基板は、例えば合成樹脂ペレットを射出成形して製造されるが、金属性基板およびガラス等のセラミック基板と比較し、一般に引張り強度や引張り・曲げ弾性率等の機械的強度が低いため、成形時や基板離型時の応力により基板の平坦度が低下したり、数μmレベルの凹凸状の欠陥が発生したり、微小うねりが大きくなるという問題がある。さらに熱膨張係数の大きいプラスチック製磁気記録媒体用基板は、高温環境下では形状変化が発生し、さらに吸湿性の高い基板ではさらに形状変化が助長される。これは高い表面精度が要求される磁気記録媒体用基板において問題となる。
【0009】
このような表面欠陥が存在し、平坦度が低下し且つ微小うねりを有する磁気記録媒体用基板を使用して磁気記録密度を製造することは、ヘッドとの読み書きが行えないことや、特に、低フライングハイトヘッドを用いての連続・高速シーク時には、ヘッドの走行性が安定されず、最終的にはヘッドクラッシュを引き起こすことになり、耐久性を低下させることに繋がる。
【0010】
また、所定の形状特性や表面精度を保持したプラスチック製磁気記録媒体用基板だったとしても高温高湿環境下(例えば80℃80%RH500時間)では基板の形状変化が増大し、前述の耐環境安定性低下に基づく不具合を発生させることになる。
【0011】
このようなプラスチック製磁気記録媒体用基板の欠点を解消するため、基板構成材料の酸化劣化物を除去することにより、高温・高湿環境下および低温環境下に長時間放置しても、基板表面のフクレを最小限に抑えることのできるプラスチック製磁気記録媒体用基板の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0012】
一方、プラスチック製磁気記録媒体用基板の材料としては、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂のようなものが使用されるが、これら以外にも、熱可塑性ノルボルネン系樹脂を使用することができる(例えば、特許文献2参照)。
【0013】
しかし、光ディスク基板に使用されているポリカーボネート樹脂やポリメチルメタアクリレート樹脂は吸湿による変形や熱による変形が発生し不適当である。また、熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、耐熱性、低吸湿性、形状安定性の点で比較的優れた特性を有し、優れた磁気記録媒体用基板を提供できるが、この樹脂も上述のような問題を有している。さらにプラスチック製磁気記録媒体用基板は一般的にヤング率が3Gpa程度しかなく、機械的強度が低いため磁気記録媒体を製造したときに高速で回転させると振動してしまうという問題も有している。
【0014】
これに対し、ガラス基板の両主面に樹脂板を配置し、一対のプレス成形金型で挟み込み、樹脂のガラス転移温度以上に加熱して、加圧成形することによって、金型形状を精密に転写した樹脂層を形成することにより磁気記録媒体用基板を得る発明が開示されている(特許文献3参照)が、用いる樹脂の耐熱性が低いために、磁気記録媒体を製造する場合、基板の表面の温度が高くなるために、所望の表面性を維持することが難しい。
【0015】
【特許文献1】
特開2002−117523号公報
【0016】
【特許文献2】
特開2001−56927号公報
【0017】
【特許文献3】
特開2000−315315号公報
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上述の種々の問題点を解消し、磁気記録媒体用基板表面の欠陥や微小うねりが少なく、表面精度に優れ、また機械強度に優れ、形状安定性等の信頼性に優れた磁気記録媒体用基板を提供することにある。
【0019】
また、本発明の別の目的は、上記磁気記録媒体用基板を用いた磁気記録媒体を提供することにある。特に、本発明は、表面欠陥や微小うねりが極めて少ない、高精度な表面を保持し、且つ高温高湿環境下での形状安定性に優れた高環境信頼性を保持した非磁性磁気記録媒体用基板を用いた磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【0020】
また、本発明の別の目的は上記磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するためには、既存のプラスチック材料を用いたのでは完全に満足させるのは不可能であり、本発明者は、鋭意検討を進めた結果、新規なプラスチック材料である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を機械強度の大きい材料上に配置し、プレス成形することにより得られる磁気記録媒体用基板、磁気記録媒体により前記目的を達成できることを見出し、以下に示す本発明を完成するに至った。
【0022】
本発明の第1の形態は、機械強度の異なる材料からなる少なくとも二層以上の構造を有する磁気記録媒体用基板であって、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料からなる基板上に熱可塑性樹脂層を有し、前記熱可塑性樹脂が
【0023】
【化3】
【0024】
一般式1および2(式中m,nは1以上の整数を表す)で示されるいずれか一方の構造単位あるいは両構造単位を有する熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂であることを特徴とする。
【0025】
本発明の第2の形態は、前記磁気記録媒体用基板において、前記機械強度の大きい材料からなる基板がガラス基板であることを特徴とする。
【0026】
本発明の第3の形態は、前記磁気記録媒体用基板において、前記機械強度の大きい材料からなる基板がヤング率50GPa以上のガラス基板であることを特徴とする。
【0027】
本発明の第4の形態は、前記磁気記録媒体用基板において、前記熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率が90%以上であり、ガラス転移点(Tg)がTg180℃以上であり、さらに加熱分解点が360℃以上であり、その水分含有率が0.01%以下であることを特徴とする。
【0028】
本発明の第5の形態は、前記磁気記録媒体用基板において、基板表面半径方向の平坦度が1μm以下、うねりWaが1nm以下であり、平均粗さRaが0.5nm以下であることを特徴とする。
【0029】
本発明の第6の形態は、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料からなる基板上に熱可塑性樹脂を配置する工程と、平坦な表面を有するプレス成形用金型を樹脂の配置された基板に対向配置し、前記樹脂の配置された基板および前記プレス成形用金型を熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱する工程と、前記プレス成形用金型を加圧することにより加熱された基板を加圧成形する工程と、前記加圧成形された基板および前記プレス成形用金型を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に冷却する工程と、前記加圧成形後冷却された基板を前記プレス成形用金型から離型する工程とを備える磁気記録媒体用基板を製造する方法であって、前記熱可塑性樹脂が
【0030】
【化4】
【0031】
一般式1および2(式中m,nは1以上の整数を表す)で示されるいずれか一方の構造単位あるいは両構造単位を有する熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂であることを特徴とする。
【0032】
本発明の第7の形態は、前記磁気記録媒体用基板の製造方法において、前記機械強度の大きい材料からなる基板が、ガラス基板であることを特徴とする。
【0033】
本発明の第8の形態は、前記磁気記録媒体用基板の製造方法において、前記機械強度の大きい材料からなる基板が、ヤング率50GPa以上のガラス基板であることを特徴とする。
【0034】
本発明の第9の形態は、前記磁気記録媒体用基板の製造方法において、前記熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率が90%以上であり、ガラス転移点(Tg)がTg180℃以上であり、さらに加熱分解点が360℃以上であり、その水分含有率が0.01%以下であることを特徴とする。
【0035】
本発明の第10の形態は、前記磁気記録媒体用基板の製造方法において、基板表面半径方向の平坦度が1μm以下、うねりWaが1nm以下であり、平均粗さRaが0.5nm以下であることを特徴とする。
【0036】
本発明の第11の形態は、磁気記録媒体の製造方法であって、本発明の第1〜5の形態の磁気記録媒体用基板上に少なくとも磁性層、保護層および潤滑層を順次形成する成膜工程とを具備することを特徴とする。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0038】
まず、本発明に用いる、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料からなる基板の例としてガラス基板について説明する。ガラス基板の材料については、特に限定されないが、汎用ガラスであるソーダライムガラスのほかに、磁気記録ディスク用として用いられているアルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス等が使用可能であり機械強度が優れたガラスが望ましい。その表面性については、特に限定するものでなく、表面粗さ(Ra)10nm以上の汎用ガラス基板も使用できる。
【0039】
次に、本発明の熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の概要について説明する。
【0040】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂とは、一般式1および2(式中m,nは1以上の整数を表す)で示されるいずれか一方の構造単位あるいは両構造単位を有する樹脂をいう。
【0041】
【化5】
【0042】
フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の合成方法として、フェニルアリロキシメチルスチレンモノマーを合成し、該モノマーを重合させて合成する方法について説明する。
【0043】
フェニルアリロキシメチルスチレンモノマーは、α−ヒドロキシメチルスチレン2重量部とα−ブロモメチルスチレン1重量部に、例えば相間移動触媒としてテトラノルマルブチルアンモニウムブロマイドを混合し、塩基性下一定温度で50時間以上反応させることで得ることができる。ここで得られた生成物からフェニルアリロキシメチルスチレンモノマーを分離精製する。
【0044】
続いて、重合管に上記方法により得られた所定量のフェニルアリロキシメチルスチレンモノマーと例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリルやクメンヒドロペルオキシド等の重合開始剤を混合し、窒素雰囲気下で封管後あるいは凍結−脱気−融解の操作を所定時間数回繰り返し、真空下で封管後、所定温度で数時間静置して重合を行い、その後急冷することで熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を得る。
【0045】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率は合成時における重合開始剤の種類や添加量、さらに重合温度や重合時間によって制御可能であるが、熱可塑性樹脂としての所定のガラス転移点(Tg)や耐熱安定性を保持するためには、得られた熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率は90%以上が必要である。
【0046】
ここで環化率とはNMR(核磁気共鳴分析)測定で得られるポリマーの環状フェニルアリロキシメチルスチレンユニットとペンダントオレフイン構造の比によって求められる。
【0047】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率が低いと、ポリマーの共重合繰り返しユニット中に環化されていないペンダントオレフイン構造単位を多く含むことになり、その結果、分子量の低分子化と同様に、熱可塑性樹脂としてのガラス転移点(Tg)や耐熱安定性が低下し、プレス成形された成形品としての機械強度や耐熱安定性、形状安定性さらには所定の表面精度が得られないという不具合が発生する。
【0048】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂のガラス転移点(Tg)は、熱機械分析(TMA)や示差熱分析(DSC)によって得られるが、例えばDSCでは昇温速度5℃/minで、−50℃から300℃までの温度範囲で測定される。
【0049】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂のガラス転移点(Tg)は分子量や環化率等によって変形するが、環化率が90%以上に制御された熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂においては、180℃≦Tg<270℃であり、この範囲のガラス転移点を保持した熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂をガラス基板に配置しプレス成形して得られた磁気記録媒体用基板は十分な機械強度や耐熱安定性、形状安定さらには所定の表面精度を保持することが出来る。
【0050】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の耐熱安定性は、熱重量分析(TG)によって得られるが、測定装置として熱重量分析装置(セイコーインスツルメント(株)製「TG/DTA220」)を用い、試料量5mg±0.5、N2流量200ml/分、測定温度30〜600℃、昇温速度10℃/分で測定する0.5%熱重量減温度を加熱分解点として求める。
【0051】
また熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の加熱分解点も前述の環化率等によって変化するが、環化率が90%以上に制御された熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂においては加熱分解点が360℃以上であり、プレス成形時の高温溶融下でも耐熱安定性に劣る低分子量成分の変質が発生せず、その結果、プレス成形後の成形品の表面に数μm〜数十μmサイズの欠陥も発生しないため十分な表面精度を保持することが出来る。
【0052】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の水分含有量は、カールフイッシャー分析または昇温脱離質量分析(TDS)等によって得られるが、例えば昇温脱離質量分析では昇温速度5℃/minで真空下30℃〜400℃の樹脂溶融下で発生するH2Oガス(M/Z=18)を四重極質量分析計で測定することにより求めることが出来る。
【0053】
また熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の水分含有量は、主に当該樹脂の化学構造に由来する要因が大きく、構造ユニット中に極性官能基が無く且つ環状フェニルアリロキシメチルスチレン構造のような立体的構造が重合されてなる低吸湿構造に起因するものであり、上述の環化率や熱分解温度に構造・組成・物性が制御された熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂においては水分含有量0.01%以下を保持することが出来る。その結果、プレス成形で得られた成形品は、例えば高温・高湿下放置の耐環境安定性試験において、吸湿に伴う形状変化や高温高湿条件から低温低湿条件に移すことによる結露による成形品表面の欠陥発生が認められない耐環境信頼性の高い成形品を得ることができる。
【0054】
本発明の熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂組成物には、所望により、フェノール系やリン系などの老化防止剤、フェノール系などの熱劣化防止剤、ベンゾフェノン系やヒンダードアミン系などの紫外線安定剤、アミン系などの帯電防止剤、脂肪族アルコールのエステルなど滑剤等の各種添加剤を添加してもよい。また本発明の目的を損なわない範囲で、他の樹脂などを混合して用いることもできる。
【0055】
上述の添加剤が配合された熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂組成物は、磁気記録媒体用基板として必要とされる耐熱性、耐湿性、強度剛性、耐環境安定性などの物性・特性は、配合添加剤の添加量が少ないため、添加しない熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂と実質的に同じである。
【0056】
次に本発明の磁気記録媒体用基板について説明する。本発明の磁気記録媒体用基板は、機械強度の異なる材料からなる少なくとも二層以上の構造を有する磁気記録媒体用基板であって、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度が大きい材料からなる基板上に熱可塑性樹脂層を有するものである。
【0057】
また、二層以上の構造における最上層の表面層には熱可塑性樹脂を用い、下層には前記表面層熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度が大きい材料を用いることができる。ここで、最上層の表面層と下層との間には密着層としての中間層が存在しても良い。
【0058】
本発明の磁気記録媒体用基板の製造方法は、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料からなる基板上に熱可塑性樹脂を配置する工程と、平坦な表面を有するプレス成形用金型を樹脂の配置された基板に対向配置し、前記樹脂の配置された基板および前記プレス成形用金型を熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱する工程と、前記プレス成形用金型を加圧することにより加熱された基板を加圧成形する工程と、前記加圧成形された基板および前記プレス成形用金型を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に冷却する工程と、前記加圧成形後冷却された基板を前記プレス成形用金型から離型する工程とを有する。
【0059】
熱可塑性樹脂を配置する方法としては、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料からなる基板であるガラス基板等(以下、ガラス基板等という。)の表面の片面または両面に、熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂をアルコール系または芳香族系の溶剤に混合させて、この混合物をガラス基板等上にスピンコーティング法、ディッピング法、ロールコーティング法などで塗布することができる。熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を溶解させるアルコール系または芳香族系の溶剤は、有機物が主成分なので成型基板を侵食するという悪影響を与えることなく本発明の所望の特性を有する薄膜を得ることができる。このときに、熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂は、用いるガラス基板の表面性に寄らずに〜1μm程度の膜厚で、金型表面の表面粗さRa、うねりWaを転写することができる。ここで、ガラス基板等上に熱可塑性樹脂を配置するとは、ガラス基板等の直上に熱可塑性樹脂を配置する場合に限られない。
【0060】
プレス成形時の加熱温度は、使用する熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂のガラス転移温度以上熱分解温度以下であればよい。加熱手段は、ヒーター等の慣用の手段を用いることができる。
【0061】
プレス成形時の圧力は、50〜1000kg/cm2であり、好ましくは100〜200kg/cm2である。
【0062】
基板およびプレス成形用金型の冷却は、水冷または空冷等の手段により行う。冷却温度は、ガラス転移温度以下であり、常温が好ましい。
【0063】
このようにプレス成形で得られた磁気記録媒体用基板の表面精度は非常に高く、基板表面半径方向の平坦度が1μm以下、うねりWaが1nm以下であり平均粗さRaが0.5nm以下の十分な表面精度を保持した磁気記録媒体用基板を得ることができる。
【0064】
次に本発明の磁気記録媒体について図面を参照しながら説明する。
【0065】
図1は、本発明の一態様を示す磁気記録媒体を半円状に等分割した際の断面を含む斜視図であり、ガラス基板1の片面のみに層構成を有するものを示したものである。このように片面のみに層構成を有するものであっても良いが、他面側にも同様な層構成を設けることができ、ガラス基板1の両面に層構成を有することもできる。
【0066】
本発明の磁気記録媒体は、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料、例えばガラスからなる基板1の上に熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂2を配置してプレス成形により製造された磁気記録媒体用基板を使用する。その基板上に中間層3、非磁性下地層4、磁性層5、保護層6および液体潤滑層7を順次形成し、磁気記録媒体とする。前記中間層3、非磁性下地層4、磁性層5、保護層6および液体潤滑層7は、従来から使用されている材料を使用することができる。具体的には、中間層3は、例えばTiよりなる金属層であり、非磁性下地層4は、例えばCrよりなる下地層であり、磁性層5はCo合金、例えば強磁性合金であるCo−Cr−Pt,Co−Cr−Taなどであり、保護層6は、例えばカーボン保護層などであり、更に液体潤滑層7はパーフルオロポリエーテル系潤滑剤のようなフッ素系潤滑剤等である。
【0067】
本発明の磁気記録媒体を図1により説明したが、この構造は一例であり、磁気記録媒体の目的に応じて種々の変更が可能である。例えば、本発明では、中間層3を設けなくてもよい。
【0068】
また、形状は本発明の磁気記録媒体を使用する機器に合わせることができ、特に限定されない。例えば、HDDに使用されるような円盤状の磁気記録媒体であれば良い。
【0069】
このようにガラス基板などの基板上に前記熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を配置してプレス成形により製造された磁気記録媒体用基板を用いた磁気記録媒体は、他の熱可塑性樹脂を用いて得られたプラスチック基板を用いた磁気記録媒体では実現不可能な高い耐熱形状安定性を保持している。
【0070】
【実施例】
以下実施例にそって、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の変更が当業者にとって可能であることは容易に理解される。
【0071】
A.熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の調製
調製例1(フェニルアリロキシメチルスチレンモノマーの合成)
α−ブロモメチルスチレンを193g(1mol)、α−ヒドロキシメチルスチレンを262g(2mol)、ジクロロメタン1000ml、テトラノルマルブチルアンモニウムブロマイド15gを混合し氷浴で冷却しながら、そこに水酸化ナトリウム140g(3.5mol)を水1000mlに溶かしたものを滴下し、活発に攪拌しながら50時間反応させた後、水層をジクロロメタンで洗浄した。ジクロロメタンを取り除き、140℃0.4mmHg減圧蒸留により100gの生成物Aを得た。得られた生成物は混合物であるため、ヘキサン/ジクロロメタン展開液を用いてカラムクロマトグラフイーにて分離精製し、フェニルアリロキシメチルスチレンモノマーを得た。
【0072】
調製例2(熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1の合成)
パイレックス(登録商標)ガラス製の重合管に調製例1で得たフェニルアリロキシメチルスチレンモノマー100mlと重合開始剤(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.006mol)を取り、窒素雰囲気下で封管後あるいは凍結−脱気−溶解の操作を30分、40分、50分の3回行い、真空下で封管後、恒温槽で60℃24時間静置して重合を行い、重合の停止は重合管を氷で急冷した。その後沈殿剤のメタノールに投入し、白色粉末状のポリマーを得た。沈殿したポリマーをガラスフイルターで濾別し、メタノールを除去し、真空乾燥機で48時間以上乾燥してフェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1を得た。得られたポリマーのH−NMRスペクトルで検出されるフェニルプロトンの吸収強度とペンダントオレフインの吸収強度の比より環化率は90%であった。また、DSC分析から求めたガラス転移点(Tg)は180℃であり、TG分析より求めた加熱分解点は360℃であった。さらにTDS分析より本ポリマーの含有水分量は0.008%であった。数平均分子量(Mn)は14000であった。
【0073】
調製例3(熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂2の合成)
フェニルアリロキシメチルスチレンモノマー100mlと重合開始剤としてクメンヒドロペルオキシド(CHP)0.006molを取り、重合温度と重合時間を120℃24時間とする以外は調製例2と同様にし、フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂2を得た。得られたポリマーのH−NMRスペクトルから得られた環化率は96%であった。また、DSC分析から求めたガラス転移点(Tg)は250℃であり、TG分析より求めた加熱分解点は380℃であった。さらにTDS分析より本ポリマーの含有水分量は0.008%であった。数平均分子量(Mn)は18100であった。
【0074】
調製例4(熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂3の合成)
フェニルアリロキシメチルスチレンモノマー100mlと重合開始剤としてクメンヒドロペルオキシド(CHP)0.006molを取り、重合温度と重合時間を140℃9時間とする以外は実施例2と同様にし、フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂3を得た。得られたポリマーのH−NMRスペクトルから得られた環化率は99%であった。また、DSC分析から求めたガラス転移点(Tg)は265℃であり、TG分析より求めた加熱分解点は400℃であった。さらにTDS分析より本ポリマーの含有水分量は0.008%であった。数平均分子量(Mn)は12700であった。
【0075】
B.磁気記録媒体用基板の作製
実施例1
上記調製例2より得られた、環化率90%、ガラス転移温度(Tg)180℃、熱分解開始温度360℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1をトルエンに約2wt%溶解させた。
【0076】
洗浄した外径65mm、内径20mm、厚さ0.6mm、平坦度1μmの円盤状のガラス基板(ヤング率53Gpa)に、前記トルエン溶液をガラス基板に1ml滴下してスピンコート法により均一な膜形成した。スピンコートしたガラス基板を150℃の真空クリーンオープンにおいて乾燥させた磁気記録媒体用基板を得た。
【0077】
ついで、表面を表面粗さ0.3nmまで研磨した直径80mmのSUS金型の表面に、スパッタ法にて、NiP1μmからなる保護膜を形成し、表面粗さRa0.3nm、うねりWa0.51nmのプレス成形面を持つ一対の金型を用意した。この金型の上に前記磁気記録媒体用基板を配置して、20kgの加重をかけた。次に金型温度をTgである180℃まで加熱し、100kg/cm2の圧力で加圧して、プレス成形を行った。常温まで冷却を行い取り出し、磁気記録媒体用基板1を得た。
【0078】
実施例2
上記調製例3より得られた、環化率96%、ガラス転移温度(Tg)250℃、熱分解開始温度380℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂2を用いたこと以外は実施例1と同様な方法を用いて、磁気記録媒体用基板2を得た。
【0079】
実施例3
上記調製例4より得られた、環化率99%、ガラス転移温度(Tg)265℃、熱分解開始温度400℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂3を用いたこと以外は実施例1と同様な方法を用いて、磁気記録媒体用基板3を得た。
【0080】
比較例1
上記調製例2より得られた、環化率90%、ガラス転移温度(Tg)180℃、熱分解開始温度360℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1を、20Pa以下の減圧下で140℃真空乾燥24時間行い、引き続きN2パージ下120℃常圧乾燥15時間行い、樹脂中に含有する大気ガス成分が、N2:20ppm以下、O2:20ppm以下、H2O:1ppm以下となり、さらに低分子フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂組成物や合成不純物等の揮発組成成分の和が1ppm以下となる乾燥済フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を得た。
【0081】
次に前記の十分に乾燥した樹脂を使用し、市販されている最大射出成形圧力70tの射出成形装置を用いて射出成形して略φ65mm×1.27mmtの磁気記録媒体用基板4を得た。この基板のヤング率は3.6Gpaだった。
【0082】
射出成形は、前記射出形成装置にスタンパを固定した金型を用い、射出成形の条件として樹脂温度を360℃、射出速度を170mm/s、型締圧力を70kg/cm2、金型表面粗さRa0.3nm、金型表面うねりWa0.5nm、金型温度:固定側/可動側=150℃/150℃で行った。
【0083】
比較例2
上記調製例3より得られた、環化率96%、ガラス転移温度(Tg)250℃、熱分解開始温度380℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂2を用いたこと以外は比較例1と同様な方法で射出成形を行い、磁気記録媒体用基板5を得た。この基板のヤング率は3.6GPaだった。
【0084】
比較例3
上記調製例4より得られた、環化率99%、ガラス転移温度(Tg)265℃、熱分解開始温度400℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂3を用いたこと以外は比較例1と同様な方法で射出成形を行い、磁気記録媒体用基板6を得た。この基板のヤング率は3.6GPaだった。
【0085】
比較例4
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1の代りに市販の熱可塑性ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン株式会社製「ZEONEX280」)を使用した以外は、実施例1と同様な方法を用いて、磁気記録媒体用基板7を得た。この基板のヤング率は2.1GPaだった。
【0086】
比較例5
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1の代りに市販の熱可塑性ボリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製「パンライトAD5503」)を使用した以外は、実施例1と同様な方法を用いて、磁気記録媒体用基板8を得た。この基板のヤング率は2.4GPaだった。
【0087】
実施例1〜3および比較例1〜5で作製された磁気記録媒体用基板の平坦度およびうねり(Wa)と表面粗さ(Ra)を評価した。
【0088】
尚、平坦度はフラットネステスター「FT−12(Nidec製)」で求め、うねり・表面粗さは非接触光学式表面粗さ計「Chapman Chapan社製」により求めた。
【0089】
結果を実施例1〜3で用いた熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率、ガラス転移点(Tg)、熱分解温度、水分含有率と併せて表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
この結果より、実施例1〜3の製造方法で作製される本発明のガラス基板表面に配置した熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂をプレス成形することにより作製される磁気記録媒体用基板は、比較例1〜3のフェニルアリロキシメチルスチレン熱可塑性樹脂で射出成形して得られた磁気記録媒体用基板と比較し、平坦度が高く、表面粗さ・うねり等の表面精度に優れた実施例1〜3の磁気記録媒体用基板を得ることができることがわかる。
【0092】
C.磁気記録媒体の作製
実施例4
前記実施例1で得た磁気記録媒体用基板1上にDCスパッタ法により下地Cr層50nm、Co−14Cr−4Ta磁性層を30nm、カーボン保護層を8nmと順次形成し、さらにスパッタ後の表面にテープパニッシュを行い、フッ素計潤滑剤(アウジモント製FOMBLINZ−DOL等)をスピンコート法で2nm形成し、磁気記録媒体1を得た。
【0093】
実施例5
前記実施例2で得た磁気記録媒体用基板2を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体2を得た。
【0094】
実施例6
前記実施例3で得た磁気記録媒体用基板3を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体3を得た。
【0095】
比較例6
前記比較例1で得た磁気記録媒体用基板4を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体4を得た。
【0096】
比較例7
前記比較例2で得た磁気記録媒体用基板5を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体5を得た。
【0097】
比較例8
前記比較例3で得た磁気記録媒体用基板6を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体6を得た。
【0098】
比較例9
前記比較例4で得た磁気記録媒体用基板7を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体7を得た。
【0099】
比較例10
前記比較例5で得た磁気記録媒体用基板8を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体8を得た。
【0100】
また、次に実施例4〜6、比較例6〜10で得られた磁気記録媒体の表面粗さRaおよびうねりWa、また、80℃80%RH環境中に500時間放置し、その前後での平坦度及びその変化率を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
この結果より、本発明のガラス基板の表面に熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を配置しプレス成形した磁気記録媒体用基板から得られた実施例4〜6の磁気記録媒体は、磁性層の成膜後も表面粗さ、うねり、平坦度をほとんど変化させることなく得られた。
【0103】
比較例6〜8の熱可塑性樹脂を射出成形して得られた磁気記録媒体は、磁性層成膜前後で表面粗さ、うねりに変化はなかった。しかしながら、平坦度が低く、また80℃80%RH500時間放置において、放置前と比較して放置後は、平坦度が変化してしまった。
【0104】
ガラス基板の表面に一般的にディスク基板に用いられる熱可塑性樹脂を配置しプレス成形した磁気記録媒体用基板から得られた比較例9および10の磁気記録媒体は、耐熱性が低いために磁性層の成膜後表面粗さRa、うねりWaが大きく変化してしまった。
【0105】
実施例4〜6の磁気記録媒体は、比較例6〜10と比較して、平坦度が1μm以下と高く、うねりが1nm以下と低く、高温高湿下での形状変化が非常に小さい、耐環境形状安定性に優れた磁気記録媒体であることがわかる。
【0106】
これは、実施例4〜6の熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂は材料物性として、ガラス転移点が180℃以上と非常に高く且つ、加熱分解温度も360℃以上と高い、高耐熱樹脂であるため、高温放置下でも形状安定性に優れているためと考えられる。磁性層成膜というと高温条件下でも十分な表面精度や形状安定性を具備した磁気記録媒体用基板及び磁気記録媒体を得ることができるからである。
【0107】
さらに、実施例4〜6で用いた熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂は、吸水量も極めて低い材料であるため、薄膜で用いた場合高湿放置下であっても吸湿による基板膨潤形状変化も極めて少ない磁気記録媒体用基板及び磁気記録媒体となる。
【0108】
実施例4〜6で製造した磁気記録媒体を磁気記録ドライブに組み込み、低フライングハイトヘッドを用いて連続・高速シークを行ったが、ヘッドクラッシュを引き起こすことなく安定稼動した。
【0109】
同様に比較例6〜8で製造した磁気記録媒体を磁気記録ドライブに組み込み、低フライングハイトヘッドを用いて連続・高速シークを行ったが、ヘッドの走行性が安定されずにヘッドクラッシュを引き起こし、安定稼動できなかった。これは比較例6〜8で製造した磁気記録媒体は機械強度が弱いために、媒体の高速回転で振動してしまい、媒体とヘッドが接触してしまった結果である。
【0110】
【発明の効果】
本発明の磁気記録媒体用基板は、基板表面上の凹凸の欠陥が極めて少なく、さらに基板表面のうねり、表面粗さが極めて小さい高精度な表面を有し、また優れた機械強度を有する。
【0111】
さらに、本発明の磁気記録媒体は、80℃80%RH500Hの高温・高湿環境放置下でも形状変化のない耐環境安定性に優れた高い信頼性を保持している。
【0112】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、上述のような高精度で高信頼性である磁気記録媒体を、大量且つ安価に生産することが可能となるので、工業的な価値が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一態様を示す磁気記録媒体を半円状に等分割した際の断面を含む斜視図である。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂
3 中間層
4 非磁性下地層
5 磁性層
6 保護層
7 潤滑層
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス基板上に熱可塑性樹脂を配してなる磁気記録用基板、および該基板を使用した磁気記録媒体および該磁気記録媒体の製造方法に関する。さらに本発明は、コンピュータ外部記憶装置およびその他のデジタルデータの各種磁気記録装置に搭載される、ガラス基板上に熱可塑性樹脂を配してなる磁気記録媒体用基板、並びに、該基板を使用した磁気記録媒体およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録媒体を使用する記録装置の大容量化に伴って、記録密度の向上のために磁気ヘッド浮上量の低減が図られている。この磁気ヘッド浮上量を低減するためには、平滑性に優れた磁気記録媒体、即ち高い表面精度を有する磁気記録媒体が要求される。
【0003】
例えば、従来の非磁性金属基板(Al等)を使用する場合には高度な精密加工が要求されており、非磁性金属基板を使用した磁気記録媒体用基板および磁気記録媒体の製造方法の一例を示すと以下の通りである。
【0004】
非磁性金属基板には一般的に、加熱溶融した金属材料を圧延、加熱焼鈍したのち、規定の寸法に加工が行われたブランク材が用いられる。このブランク材は内外径処理を施され、表面精度向上のためのラッピング加工が行われる。この後、該ブランク材には、表面硬度を向上させるなどの目的で13μmのNi−Pメッキ層が形成される。このNi−Pメッキ層の表面は、ポリッシュで表面粗さがRa=1nmになるように研磨され、次いで研磨表面にダイアモンドスラリーを使用して、最終ラッピング加工が行われる。得られた基板には、コンタクトスタートストップ(CSS)ゾーンに、例えばバンプハイトが19nm、バンプ密度が30×30になるようにレーザーゾーンテクスチャーが施される。次に、この基板を精密洗浄することにより、磁気記録媒体用基板が得られる。
【0005】
この磁気記録媒体用基板に、DCスパッタ法により50nmの下地Cr層、30nmのCo−14−Cr−4Ta磁性層、および8nmのカーボン保護層を順次形成する。さらにスパッタ後の表面にテープバニッシュを行い、次にディップコート法またはスピンコート法によりフッ素系潤滑層を2nm形成し、磁気記録媒体を得ることができる。
【0006】
上記のような、従来の非磁性金属基板を用いた磁気記録媒体用基板および磁気記録媒体の製造方法は、近年の高密度化の要求とともに一層複雑化しているのが現状である。さらに高機能を維持したままで、従来以上に安価な磁気記録媒体を提供することも要求されている。この相反する要求を解決する新規な磁気記録媒体として、熱可塑性樹脂を磁気記録媒体用基板に用いた磁気記録媒体が提案されている。
【0007】
プラスチック製磁気記録媒体用基板を成形技術によって作製し、CSSゾーンや磁気ディスクにサーボマークをプリフオームする凹凸パターンを成形時に同時に形成する方法は、生産性に優れ工業的にも有利であり、その結果、安価な磁気記録媒体を提供することが可能である。
【0008】
しかし、プラスチック製磁気記録媒体用基板は、例えば合成樹脂ペレットを射出成形して製造されるが、金属性基板およびガラス等のセラミック基板と比較し、一般に引張り強度や引張り・曲げ弾性率等の機械的強度が低いため、成形時や基板離型時の応力により基板の平坦度が低下したり、数μmレベルの凹凸状の欠陥が発生したり、微小うねりが大きくなるという問題がある。さらに熱膨張係数の大きいプラスチック製磁気記録媒体用基板は、高温環境下では形状変化が発生し、さらに吸湿性の高い基板ではさらに形状変化が助長される。これは高い表面精度が要求される磁気記録媒体用基板において問題となる。
【0009】
このような表面欠陥が存在し、平坦度が低下し且つ微小うねりを有する磁気記録媒体用基板を使用して磁気記録密度を製造することは、ヘッドとの読み書きが行えないことや、特に、低フライングハイトヘッドを用いての連続・高速シーク時には、ヘッドの走行性が安定されず、最終的にはヘッドクラッシュを引き起こすことになり、耐久性を低下させることに繋がる。
【0010】
また、所定の形状特性や表面精度を保持したプラスチック製磁気記録媒体用基板だったとしても高温高湿環境下(例えば80℃80%RH500時間)では基板の形状変化が増大し、前述の耐環境安定性低下に基づく不具合を発生させることになる。
【0011】
このようなプラスチック製磁気記録媒体用基板の欠点を解消するため、基板構成材料の酸化劣化物を除去することにより、高温・高湿環境下および低温環境下に長時間放置しても、基板表面のフクレを最小限に抑えることのできるプラスチック製磁気記録媒体用基板の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0012】
一方、プラスチック製磁気記録媒体用基板の材料としては、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂のようなものが使用されるが、これら以外にも、熱可塑性ノルボルネン系樹脂を使用することができる(例えば、特許文献2参照)。
【0013】
しかし、光ディスク基板に使用されているポリカーボネート樹脂やポリメチルメタアクリレート樹脂は吸湿による変形や熱による変形が発生し不適当である。また、熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、耐熱性、低吸湿性、形状安定性の点で比較的優れた特性を有し、優れた磁気記録媒体用基板を提供できるが、この樹脂も上述のような問題を有している。さらにプラスチック製磁気記録媒体用基板は一般的にヤング率が3Gpa程度しかなく、機械的強度が低いため磁気記録媒体を製造したときに高速で回転させると振動してしまうという問題も有している。
【0014】
これに対し、ガラス基板の両主面に樹脂板を配置し、一対のプレス成形金型で挟み込み、樹脂のガラス転移温度以上に加熱して、加圧成形することによって、金型形状を精密に転写した樹脂層を形成することにより磁気記録媒体用基板を得る発明が開示されている(特許文献3参照)が、用いる樹脂の耐熱性が低いために、磁気記録媒体を製造する場合、基板の表面の温度が高くなるために、所望の表面性を維持することが難しい。
【0015】
【特許文献1】
特開2002−117523号公報
【0016】
【特許文献2】
特開2001−56927号公報
【0017】
【特許文献3】
特開2000−315315号公報
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上述の種々の問題点を解消し、磁気記録媒体用基板表面の欠陥や微小うねりが少なく、表面精度に優れ、また機械強度に優れ、形状安定性等の信頼性に優れた磁気記録媒体用基板を提供することにある。
【0019】
また、本発明の別の目的は、上記磁気記録媒体用基板を用いた磁気記録媒体を提供することにある。特に、本発明は、表面欠陥や微小うねりが極めて少ない、高精度な表面を保持し、且つ高温高湿環境下での形状安定性に優れた高環境信頼性を保持した非磁性磁気記録媒体用基板を用いた磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【0020】
また、本発明の別の目的は上記磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するためには、既存のプラスチック材料を用いたのでは完全に満足させるのは不可能であり、本発明者は、鋭意検討を進めた結果、新規なプラスチック材料である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を機械強度の大きい材料上に配置し、プレス成形することにより得られる磁気記録媒体用基板、磁気記録媒体により前記目的を達成できることを見出し、以下に示す本発明を完成するに至った。
【0022】
本発明の第1の形態は、機械強度の異なる材料からなる少なくとも二層以上の構造を有する磁気記録媒体用基板であって、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料からなる基板上に熱可塑性樹脂層を有し、前記熱可塑性樹脂が
【0023】
【化3】
【0024】
一般式1および2(式中m,nは1以上の整数を表す)で示されるいずれか一方の構造単位あるいは両構造単位を有する熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂であることを特徴とする。
【0025】
本発明の第2の形態は、前記磁気記録媒体用基板において、前記機械強度の大きい材料からなる基板がガラス基板であることを特徴とする。
【0026】
本発明の第3の形態は、前記磁気記録媒体用基板において、前記機械強度の大きい材料からなる基板がヤング率50GPa以上のガラス基板であることを特徴とする。
【0027】
本発明の第4の形態は、前記磁気記録媒体用基板において、前記熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率が90%以上であり、ガラス転移点(Tg)がTg180℃以上であり、さらに加熱分解点が360℃以上であり、その水分含有率が0.01%以下であることを特徴とする。
【0028】
本発明の第5の形態は、前記磁気記録媒体用基板において、基板表面半径方向の平坦度が1μm以下、うねりWaが1nm以下であり、平均粗さRaが0.5nm以下であることを特徴とする。
【0029】
本発明の第6の形態は、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料からなる基板上に熱可塑性樹脂を配置する工程と、平坦な表面を有するプレス成形用金型を樹脂の配置された基板に対向配置し、前記樹脂の配置された基板および前記プレス成形用金型を熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱する工程と、前記プレス成形用金型を加圧することにより加熱された基板を加圧成形する工程と、前記加圧成形された基板および前記プレス成形用金型を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に冷却する工程と、前記加圧成形後冷却された基板を前記プレス成形用金型から離型する工程とを備える磁気記録媒体用基板を製造する方法であって、前記熱可塑性樹脂が
【0030】
【化4】
【0031】
一般式1および2(式中m,nは1以上の整数を表す)で示されるいずれか一方の構造単位あるいは両構造単位を有する熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂であることを特徴とする。
【0032】
本発明の第7の形態は、前記磁気記録媒体用基板の製造方法において、前記機械強度の大きい材料からなる基板が、ガラス基板であることを特徴とする。
【0033】
本発明の第8の形態は、前記磁気記録媒体用基板の製造方法において、前記機械強度の大きい材料からなる基板が、ヤング率50GPa以上のガラス基板であることを特徴とする。
【0034】
本発明の第9の形態は、前記磁気記録媒体用基板の製造方法において、前記熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率が90%以上であり、ガラス転移点(Tg)がTg180℃以上であり、さらに加熱分解点が360℃以上であり、その水分含有率が0.01%以下であることを特徴とする。
【0035】
本発明の第10の形態は、前記磁気記録媒体用基板の製造方法において、基板表面半径方向の平坦度が1μm以下、うねりWaが1nm以下であり、平均粗さRaが0.5nm以下であることを特徴とする。
【0036】
本発明の第11の形態は、磁気記録媒体の製造方法であって、本発明の第1〜5の形態の磁気記録媒体用基板上に少なくとも磁性層、保護層および潤滑層を順次形成する成膜工程とを具備することを特徴とする。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0038】
まず、本発明に用いる、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料からなる基板の例としてガラス基板について説明する。ガラス基板の材料については、特に限定されないが、汎用ガラスであるソーダライムガラスのほかに、磁気記録ディスク用として用いられているアルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス等が使用可能であり機械強度が優れたガラスが望ましい。その表面性については、特に限定するものでなく、表面粗さ(Ra)10nm以上の汎用ガラス基板も使用できる。
【0039】
次に、本発明の熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の概要について説明する。
【0040】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂とは、一般式1および2(式中m,nは1以上の整数を表す)で示されるいずれか一方の構造単位あるいは両構造単位を有する樹脂をいう。
【0041】
【化5】
【0042】
フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の合成方法として、フェニルアリロキシメチルスチレンモノマーを合成し、該モノマーを重合させて合成する方法について説明する。
【0043】
フェニルアリロキシメチルスチレンモノマーは、α−ヒドロキシメチルスチレン2重量部とα−ブロモメチルスチレン1重量部に、例えば相間移動触媒としてテトラノルマルブチルアンモニウムブロマイドを混合し、塩基性下一定温度で50時間以上反応させることで得ることができる。ここで得られた生成物からフェニルアリロキシメチルスチレンモノマーを分離精製する。
【0044】
続いて、重合管に上記方法により得られた所定量のフェニルアリロキシメチルスチレンモノマーと例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリルやクメンヒドロペルオキシド等の重合開始剤を混合し、窒素雰囲気下で封管後あるいは凍結−脱気−融解の操作を所定時間数回繰り返し、真空下で封管後、所定温度で数時間静置して重合を行い、その後急冷することで熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を得る。
【0045】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率は合成時における重合開始剤の種類や添加量、さらに重合温度や重合時間によって制御可能であるが、熱可塑性樹脂としての所定のガラス転移点(Tg)や耐熱安定性を保持するためには、得られた熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率は90%以上が必要である。
【0046】
ここで環化率とはNMR(核磁気共鳴分析)測定で得られるポリマーの環状フェニルアリロキシメチルスチレンユニットとペンダントオレフイン構造の比によって求められる。
【0047】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率が低いと、ポリマーの共重合繰り返しユニット中に環化されていないペンダントオレフイン構造単位を多く含むことになり、その結果、分子量の低分子化と同様に、熱可塑性樹脂としてのガラス転移点(Tg)や耐熱安定性が低下し、プレス成形された成形品としての機械強度や耐熱安定性、形状安定性さらには所定の表面精度が得られないという不具合が発生する。
【0048】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂のガラス転移点(Tg)は、熱機械分析(TMA)や示差熱分析(DSC)によって得られるが、例えばDSCでは昇温速度5℃/minで、−50℃から300℃までの温度範囲で測定される。
【0049】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂のガラス転移点(Tg)は分子量や環化率等によって変形するが、環化率が90%以上に制御された熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂においては、180℃≦Tg<270℃であり、この範囲のガラス転移点を保持した熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂をガラス基板に配置しプレス成形して得られた磁気記録媒体用基板は十分な機械強度や耐熱安定性、形状安定さらには所定の表面精度を保持することが出来る。
【0050】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の耐熱安定性は、熱重量分析(TG)によって得られるが、測定装置として熱重量分析装置(セイコーインスツルメント(株)製「TG/DTA220」)を用い、試料量5mg±0.5、N2流量200ml/分、測定温度30〜600℃、昇温速度10℃/分で測定する0.5%熱重量減温度を加熱分解点として求める。
【0051】
また熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の加熱分解点も前述の環化率等によって変化するが、環化率が90%以上に制御された熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂においては加熱分解点が360℃以上であり、プレス成形時の高温溶融下でも耐熱安定性に劣る低分子量成分の変質が発生せず、その結果、プレス成形後の成形品の表面に数μm〜数十μmサイズの欠陥も発生しないため十分な表面精度を保持することが出来る。
【0052】
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の水分含有量は、カールフイッシャー分析または昇温脱離質量分析(TDS)等によって得られるが、例えば昇温脱離質量分析では昇温速度5℃/minで真空下30℃〜400℃の樹脂溶融下で発生するH2Oガス(M/Z=18)を四重極質量分析計で測定することにより求めることが出来る。
【0053】
また熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の水分含有量は、主に当該樹脂の化学構造に由来する要因が大きく、構造ユニット中に極性官能基が無く且つ環状フェニルアリロキシメチルスチレン構造のような立体的構造が重合されてなる低吸湿構造に起因するものであり、上述の環化率や熱分解温度に構造・組成・物性が制御された熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂においては水分含有量0.01%以下を保持することが出来る。その結果、プレス成形で得られた成形品は、例えば高温・高湿下放置の耐環境安定性試験において、吸湿に伴う形状変化や高温高湿条件から低温低湿条件に移すことによる結露による成形品表面の欠陥発生が認められない耐環境信頼性の高い成形品を得ることができる。
【0054】
本発明の熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂組成物には、所望により、フェノール系やリン系などの老化防止剤、フェノール系などの熱劣化防止剤、ベンゾフェノン系やヒンダードアミン系などの紫外線安定剤、アミン系などの帯電防止剤、脂肪族アルコールのエステルなど滑剤等の各種添加剤を添加してもよい。また本発明の目的を損なわない範囲で、他の樹脂などを混合して用いることもできる。
【0055】
上述の添加剤が配合された熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂組成物は、磁気記録媒体用基板として必要とされる耐熱性、耐湿性、強度剛性、耐環境安定性などの物性・特性は、配合添加剤の添加量が少ないため、添加しない熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂と実質的に同じである。
【0056】
次に本発明の磁気記録媒体用基板について説明する。本発明の磁気記録媒体用基板は、機械強度の異なる材料からなる少なくとも二層以上の構造を有する磁気記録媒体用基板であって、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度が大きい材料からなる基板上に熱可塑性樹脂層を有するものである。
【0057】
また、二層以上の構造における最上層の表面層には熱可塑性樹脂を用い、下層には前記表面層熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度が大きい材料を用いることができる。ここで、最上層の表面層と下層との間には密着層としての中間層が存在しても良い。
【0058】
本発明の磁気記録媒体用基板の製造方法は、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料からなる基板上に熱可塑性樹脂を配置する工程と、平坦な表面を有するプレス成形用金型を樹脂の配置された基板に対向配置し、前記樹脂の配置された基板および前記プレス成形用金型を熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱する工程と、前記プレス成形用金型を加圧することにより加熱された基板を加圧成形する工程と、前記加圧成形された基板および前記プレス成形用金型を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に冷却する工程と、前記加圧成形後冷却された基板を前記プレス成形用金型から離型する工程とを有する。
【0059】
熱可塑性樹脂を配置する方法としては、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料からなる基板であるガラス基板等(以下、ガラス基板等という。)の表面の片面または両面に、熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂をアルコール系または芳香族系の溶剤に混合させて、この混合物をガラス基板等上にスピンコーティング法、ディッピング法、ロールコーティング法などで塗布することができる。熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を溶解させるアルコール系または芳香族系の溶剤は、有機物が主成分なので成型基板を侵食するという悪影響を与えることなく本発明の所望の特性を有する薄膜を得ることができる。このときに、熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂は、用いるガラス基板の表面性に寄らずに〜1μm程度の膜厚で、金型表面の表面粗さRa、うねりWaを転写することができる。ここで、ガラス基板等上に熱可塑性樹脂を配置するとは、ガラス基板等の直上に熱可塑性樹脂を配置する場合に限られない。
【0060】
プレス成形時の加熱温度は、使用する熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂のガラス転移温度以上熱分解温度以下であればよい。加熱手段は、ヒーター等の慣用の手段を用いることができる。
【0061】
プレス成形時の圧力は、50〜1000kg/cm2であり、好ましくは100〜200kg/cm2である。
【0062】
基板およびプレス成形用金型の冷却は、水冷または空冷等の手段により行う。冷却温度は、ガラス転移温度以下であり、常温が好ましい。
【0063】
このようにプレス成形で得られた磁気記録媒体用基板の表面精度は非常に高く、基板表面半径方向の平坦度が1μm以下、うねりWaが1nm以下であり平均粗さRaが0.5nm以下の十分な表面精度を保持した磁気記録媒体用基板を得ることができる。
【0064】
次に本発明の磁気記録媒体について図面を参照しながら説明する。
【0065】
図1は、本発明の一態様を示す磁気記録媒体を半円状に等分割した際の断面を含む斜視図であり、ガラス基板1の片面のみに層構成を有するものを示したものである。このように片面のみに層構成を有するものであっても良いが、他面側にも同様な層構成を設けることができ、ガラス基板1の両面に層構成を有することもできる。
【0066】
本発明の磁気記録媒体は、熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料、例えばガラスからなる基板1の上に熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂2を配置してプレス成形により製造された磁気記録媒体用基板を使用する。その基板上に中間層3、非磁性下地層4、磁性層5、保護層6および液体潤滑層7を順次形成し、磁気記録媒体とする。前記中間層3、非磁性下地層4、磁性層5、保護層6および液体潤滑層7は、従来から使用されている材料を使用することができる。具体的には、中間層3は、例えばTiよりなる金属層であり、非磁性下地層4は、例えばCrよりなる下地層であり、磁性層5はCo合金、例えば強磁性合金であるCo−Cr−Pt,Co−Cr−Taなどであり、保護層6は、例えばカーボン保護層などであり、更に液体潤滑層7はパーフルオロポリエーテル系潤滑剤のようなフッ素系潤滑剤等である。
【0067】
本発明の磁気記録媒体を図1により説明したが、この構造は一例であり、磁気記録媒体の目的に応じて種々の変更が可能である。例えば、本発明では、中間層3を設けなくてもよい。
【0068】
また、形状は本発明の磁気記録媒体を使用する機器に合わせることができ、特に限定されない。例えば、HDDに使用されるような円盤状の磁気記録媒体であれば良い。
【0069】
このようにガラス基板などの基板上に前記熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を配置してプレス成形により製造された磁気記録媒体用基板を用いた磁気記録媒体は、他の熱可塑性樹脂を用いて得られたプラスチック基板を用いた磁気記録媒体では実現不可能な高い耐熱形状安定性を保持している。
【0070】
【実施例】
以下実施例にそって、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の変更が当業者にとって可能であることは容易に理解される。
【0071】
A.熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の調製
調製例1(フェニルアリロキシメチルスチレンモノマーの合成)
α−ブロモメチルスチレンを193g(1mol)、α−ヒドロキシメチルスチレンを262g(2mol)、ジクロロメタン1000ml、テトラノルマルブチルアンモニウムブロマイド15gを混合し氷浴で冷却しながら、そこに水酸化ナトリウム140g(3.5mol)を水1000mlに溶かしたものを滴下し、活発に攪拌しながら50時間反応させた後、水層をジクロロメタンで洗浄した。ジクロロメタンを取り除き、140℃0.4mmHg減圧蒸留により100gの生成物Aを得た。得られた生成物は混合物であるため、ヘキサン/ジクロロメタン展開液を用いてカラムクロマトグラフイーにて分離精製し、フェニルアリロキシメチルスチレンモノマーを得た。
【0072】
調製例2(熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1の合成)
パイレックス(登録商標)ガラス製の重合管に調製例1で得たフェニルアリロキシメチルスチレンモノマー100mlと重合開始剤(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.006mol)を取り、窒素雰囲気下で封管後あるいは凍結−脱気−溶解の操作を30分、40分、50分の3回行い、真空下で封管後、恒温槽で60℃24時間静置して重合を行い、重合の停止は重合管を氷で急冷した。その後沈殿剤のメタノールに投入し、白色粉末状のポリマーを得た。沈殿したポリマーをガラスフイルターで濾別し、メタノールを除去し、真空乾燥機で48時間以上乾燥してフェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1を得た。得られたポリマーのH−NMRスペクトルで検出されるフェニルプロトンの吸収強度とペンダントオレフインの吸収強度の比より環化率は90%であった。また、DSC分析から求めたガラス転移点(Tg)は180℃であり、TG分析より求めた加熱分解点は360℃であった。さらにTDS分析より本ポリマーの含有水分量は0.008%であった。数平均分子量(Mn)は14000であった。
【0073】
調製例3(熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂2の合成)
フェニルアリロキシメチルスチレンモノマー100mlと重合開始剤としてクメンヒドロペルオキシド(CHP)0.006molを取り、重合温度と重合時間を120℃24時間とする以外は調製例2と同様にし、フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂2を得た。得られたポリマーのH−NMRスペクトルから得られた環化率は96%であった。また、DSC分析から求めたガラス転移点(Tg)は250℃であり、TG分析より求めた加熱分解点は380℃であった。さらにTDS分析より本ポリマーの含有水分量は0.008%であった。数平均分子量(Mn)は18100であった。
【0074】
調製例4(熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂3の合成)
フェニルアリロキシメチルスチレンモノマー100mlと重合開始剤としてクメンヒドロペルオキシド(CHP)0.006molを取り、重合温度と重合時間を140℃9時間とする以外は実施例2と同様にし、フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂3を得た。得られたポリマーのH−NMRスペクトルから得られた環化率は99%であった。また、DSC分析から求めたガラス転移点(Tg)は265℃であり、TG分析より求めた加熱分解点は400℃であった。さらにTDS分析より本ポリマーの含有水分量は0.008%であった。数平均分子量(Mn)は12700であった。
【0075】
B.磁気記録媒体用基板の作製
実施例1
上記調製例2より得られた、環化率90%、ガラス転移温度(Tg)180℃、熱分解開始温度360℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1をトルエンに約2wt%溶解させた。
【0076】
洗浄した外径65mm、内径20mm、厚さ0.6mm、平坦度1μmの円盤状のガラス基板(ヤング率53Gpa)に、前記トルエン溶液をガラス基板に1ml滴下してスピンコート法により均一な膜形成した。スピンコートしたガラス基板を150℃の真空クリーンオープンにおいて乾燥させた磁気記録媒体用基板を得た。
【0077】
ついで、表面を表面粗さ0.3nmまで研磨した直径80mmのSUS金型の表面に、スパッタ法にて、NiP1μmからなる保護膜を形成し、表面粗さRa0.3nm、うねりWa0.51nmのプレス成形面を持つ一対の金型を用意した。この金型の上に前記磁気記録媒体用基板を配置して、20kgの加重をかけた。次に金型温度をTgである180℃まで加熱し、100kg/cm2の圧力で加圧して、プレス成形を行った。常温まで冷却を行い取り出し、磁気記録媒体用基板1を得た。
【0078】
実施例2
上記調製例3より得られた、環化率96%、ガラス転移温度(Tg)250℃、熱分解開始温度380℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂2を用いたこと以外は実施例1と同様な方法を用いて、磁気記録媒体用基板2を得た。
【0079】
実施例3
上記調製例4より得られた、環化率99%、ガラス転移温度(Tg)265℃、熱分解開始温度400℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂3を用いたこと以外は実施例1と同様な方法を用いて、磁気記録媒体用基板3を得た。
【0080】
比較例1
上記調製例2より得られた、環化率90%、ガラス転移温度(Tg)180℃、熱分解開始温度360℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1を、20Pa以下の減圧下で140℃真空乾燥24時間行い、引き続きN2パージ下120℃常圧乾燥15時間行い、樹脂中に含有する大気ガス成分が、N2:20ppm以下、O2:20ppm以下、H2O:1ppm以下となり、さらに低分子フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂組成物や合成不純物等の揮発組成成分の和が1ppm以下となる乾燥済フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を得た。
【0081】
次に前記の十分に乾燥した樹脂を使用し、市販されている最大射出成形圧力70tの射出成形装置を用いて射出成形して略φ65mm×1.27mmtの磁気記録媒体用基板4を得た。この基板のヤング率は3.6Gpaだった。
【0082】
射出成形は、前記射出形成装置にスタンパを固定した金型を用い、射出成形の条件として樹脂温度を360℃、射出速度を170mm/s、型締圧力を70kg/cm2、金型表面粗さRa0.3nm、金型表面うねりWa0.5nm、金型温度:固定側/可動側=150℃/150℃で行った。
【0083】
比較例2
上記調製例3より得られた、環化率96%、ガラス転移温度(Tg)250℃、熱分解開始温度380℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂2を用いたこと以外は比較例1と同様な方法で射出成形を行い、磁気記録媒体用基板5を得た。この基板のヤング率は3.6GPaだった。
【0084】
比較例3
上記調製例4より得られた、環化率99%、ガラス転移温度(Tg)265℃、熱分解開始温度400℃である熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂3を用いたこと以外は比較例1と同様な方法で射出成形を行い、磁気記録媒体用基板6を得た。この基板のヤング率は3.6GPaだった。
【0085】
比較例4
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1の代りに市販の熱可塑性ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン株式会社製「ZEONEX280」)を使用した以外は、実施例1と同様な方法を用いて、磁気記録媒体用基板7を得た。この基板のヤング率は2.1GPaだった。
【0086】
比較例5
熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂1の代りに市販の熱可塑性ボリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製「パンライトAD5503」)を使用した以外は、実施例1と同様な方法を用いて、磁気記録媒体用基板8を得た。この基板のヤング率は2.4GPaだった。
【0087】
実施例1〜3および比較例1〜5で作製された磁気記録媒体用基板の平坦度およびうねり(Wa)と表面粗さ(Ra)を評価した。
【0088】
尚、平坦度はフラットネステスター「FT−12(Nidec製)」で求め、うねり・表面粗さは非接触光学式表面粗さ計「Chapman Chapan社製」により求めた。
【0089】
結果を実施例1〜3で用いた熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率、ガラス転移点(Tg)、熱分解温度、水分含有率と併せて表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
この結果より、実施例1〜3の製造方法で作製される本発明のガラス基板表面に配置した熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂をプレス成形することにより作製される磁気記録媒体用基板は、比較例1〜3のフェニルアリロキシメチルスチレン熱可塑性樹脂で射出成形して得られた磁気記録媒体用基板と比較し、平坦度が高く、表面粗さ・うねり等の表面精度に優れた実施例1〜3の磁気記録媒体用基板を得ることができることがわかる。
【0092】
C.磁気記録媒体の作製
実施例4
前記実施例1で得た磁気記録媒体用基板1上にDCスパッタ法により下地Cr層50nm、Co−14Cr−4Ta磁性層を30nm、カーボン保護層を8nmと順次形成し、さらにスパッタ後の表面にテープパニッシュを行い、フッ素計潤滑剤(アウジモント製FOMBLINZ−DOL等)をスピンコート法で2nm形成し、磁気記録媒体1を得た。
【0093】
実施例5
前記実施例2で得た磁気記録媒体用基板2を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体2を得た。
【0094】
実施例6
前記実施例3で得た磁気記録媒体用基板3を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体3を得た。
【0095】
比較例6
前記比較例1で得た磁気記録媒体用基板4を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体4を得た。
【0096】
比較例7
前記比較例2で得た磁気記録媒体用基板5を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体5を得た。
【0097】
比較例8
前記比較例3で得た磁気記録媒体用基板6を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体6を得た。
【0098】
比較例9
前記比較例4で得た磁気記録媒体用基板7を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体7を得た。
【0099】
比較例10
前記比較例5で得た磁気記録媒体用基板8を用いたこと以外は実施例4と同様にし、磁気記録媒体8を得た。
【0100】
また、次に実施例4〜6、比較例6〜10で得られた磁気記録媒体の表面粗さRaおよびうねりWa、また、80℃80%RH環境中に500時間放置し、その前後での平坦度及びその変化率を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
この結果より、本発明のガラス基板の表面に熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を配置しプレス成形した磁気記録媒体用基板から得られた実施例4〜6の磁気記録媒体は、磁性層の成膜後も表面粗さ、うねり、平坦度をほとんど変化させることなく得られた。
【0103】
比較例6〜8の熱可塑性樹脂を射出成形して得られた磁気記録媒体は、磁性層成膜前後で表面粗さ、うねりに変化はなかった。しかしながら、平坦度が低く、また80℃80%RH500時間放置において、放置前と比較して放置後は、平坦度が変化してしまった。
【0104】
ガラス基板の表面に一般的にディスク基板に用いられる熱可塑性樹脂を配置しプレス成形した磁気記録媒体用基板から得られた比較例9および10の磁気記録媒体は、耐熱性が低いために磁性層の成膜後表面粗さRa、うねりWaが大きく変化してしまった。
【0105】
実施例4〜6の磁気記録媒体は、比較例6〜10と比較して、平坦度が1μm以下と高く、うねりが1nm以下と低く、高温高湿下での形状変化が非常に小さい、耐環境形状安定性に優れた磁気記録媒体であることがわかる。
【0106】
これは、実施例4〜6の熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂は材料物性として、ガラス転移点が180℃以上と非常に高く且つ、加熱分解温度も360℃以上と高い、高耐熱樹脂であるため、高温放置下でも形状安定性に優れているためと考えられる。磁性層成膜というと高温条件下でも十分な表面精度や形状安定性を具備した磁気記録媒体用基板及び磁気記録媒体を得ることができるからである。
【0107】
さらに、実施例4〜6で用いた熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂は、吸水量も極めて低い材料であるため、薄膜で用いた場合高湿放置下であっても吸湿による基板膨潤形状変化も極めて少ない磁気記録媒体用基板及び磁気記録媒体となる。
【0108】
実施例4〜6で製造した磁気記録媒体を磁気記録ドライブに組み込み、低フライングハイトヘッドを用いて連続・高速シークを行ったが、ヘッドクラッシュを引き起こすことなく安定稼動した。
【0109】
同様に比較例6〜8で製造した磁気記録媒体を磁気記録ドライブに組み込み、低フライングハイトヘッドを用いて連続・高速シークを行ったが、ヘッドの走行性が安定されずにヘッドクラッシュを引き起こし、安定稼動できなかった。これは比較例6〜8で製造した磁気記録媒体は機械強度が弱いために、媒体の高速回転で振動してしまい、媒体とヘッドが接触してしまった結果である。
【0110】
【発明の効果】
本発明の磁気記録媒体用基板は、基板表面上の凹凸の欠陥が極めて少なく、さらに基板表面のうねり、表面粗さが極めて小さい高精度な表面を有し、また優れた機械強度を有する。
【0111】
さらに、本発明の磁気記録媒体は、80℃80%RH500Hの高温・高湿環境放置下でも形状変化のない耐環境安定性に優れた高い信頼性を保持している。
【0112】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、上述のような高精度で高信頼性である磁気記録媒体を、大量且つ安価に生産することが可能となるので、工業的な価値が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一態様を示す磁気記録媒体を半円状に等分割した際の断面を含む斜視図である。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂
3 中間層
4 非磁性下地層
5 磁性層
6 保護層
7 潤滑層
Claims (11)
- 前記機械強度の大きい材料からなる基板が、ガラス基板であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用基板。
- 前記機械強度の大きい材料からなる基板が、ヤング率50GPa以上のガラス基板であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用基板。
- 前記熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率が90%以上であり、ガラス転移点(Tg)がTg180℃以上であり、さらに加熱分解点が360℃以上であり、その水分含有率が0.01%以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用基板。
- 基板表面半径方向の平坦度が1μm以下、うねりWaが1nm以下であり、平均粗さRaが0.5nm以下であることを特徴とする請求項1〜4に記載の磁気記録媒体用基板。
- 熱可塑性樹脂よりもガラス転移点及び機械強度の大きい材料からなる基板上に熱可塑性樹脂を配置する工程と、
平坦な表面を有するプレス成形用金型を樹脂の配置された基板に対向配置し、前記樹脂の配置された基板および前記プレス成形用金型を熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に加熱する工程と、
前記プレス成形用金型を加圧することにより加熱された基板を加圧成形する工程と、
前記加圧成形された基板および前記プレス成形用金型を前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に冷却する工程と、
前記加圧成形後冷却された基板を前記プレス成形用金型から離型する工程とを備える磁気記録媒体用基板を製造する方法であって、
前記熱可塑性樹脂が
- 前記機械強度の大きい材料からなる基板が、ガラス基板であることを特徴とする請求項6に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
- 前記機械強度の大きい材料からなる基板が、ヤング率50GPa以上のガラス基板であることを特徴とする請求項6に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
- 前記熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂の環化率が90%以上であり、ガラス転移点(Tg)がTg180℃以上であり、さらに加熱分解点が360℃以上であり、その水分含有率が0.01%以下であることを特徴とする請求項6に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
- 基板表面半径方向の平坦度が1μm以下、うねりWaが1nm以下であり、平均粗さRaが0.5nm以下であることを特徴とする請求項6〜9に記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。
- 請求項1〜5に記載の磁気記録媒体用基板上に少なくとも磁性層、保護層および潤滑層を順次形成する成膜工程とを具備することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
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JP2003065588A JP2004273072A (ja) | 2003-03-11 | 2003-03-11 | 熱可塑性フェニルアリロキシメチルスチレン樹脂を使用した磁気記録媒体用基板およびその製造方法 |
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Cited By (1)
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WO2022097541A1 (ja) * | 2020-11-09 | 2022-05-12 | ソニーグループ株式会社 | 磁気記録媒体、磁気記録カートリッジおよび記録再生装置 |
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2003
- 2003-03-11 JP JP2003065588A patent/JP2004273072A/ja active Pending
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